説明

EGFRエクソン19多型検出試験用オリゴヌクレオチド及びその用途

【課題】EGFRエクソン19の多型を簡便且つ高感度に検出可能な多型検出試験用オリゴヌクレオチド及びその用途を提供する。
【解決手段】下記(P1)又は(P1’)であるEGFRエクソン19遺伝子多型検出試験用オリゴヌクレオチド:(P1)3’末端側が伸長阻害処理され、特定の塩基配列の少なくとも115番目〜123番目の塩基を含む塩基長9〜80の塩基配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド;(P1’)3’末端側が伸長阻害処理され、特定の塩基配列の少なくとも115番目〜123番目の塩基を含む塩基長9〜80の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチド;及び、その用途。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGFRエクソン19多型検出試験用オリゴヌクレオチド及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮増殖因子レセプター(EGFR)は、肺癌において重要な役割を果たすと考えられており、EGFRの機能抑制を目的とする薬剤が、肺癌治療の分野で用いられている。このような薬剤としては、非小細胞肺癌患者の治療に用いられているゲフィチニブ又はエルロチニブ等のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤が知られており、これらの薬剤については、肺癌の他に腺癌への適用が試みられている。しかしながら、ある範囲の患者では、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の効果が充分に得られないことがある。また別の範囲の患者では、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤に対して初期には反応があるものの、次第に薬剤の効果が期待された以上に上がらなくなることがある。
このため、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤を使用するに際して、その効果を予測するために予測因子の探索が試みられ、EGFR遺伝子変異が重要な因子であることが見出されてきた(非特許文献1、2)。
【0003】
薬剤の感受性に関連する変異としては、例えば、EGFRの790番目および858番目における置換変異、EGFR遺伝子のエクソン19における欠失変異等が知られている(非特許文献1、2)。特に、前記EGFR遺伝子のエクソン19における欠失変異は、前記エクソン19において、連続した数塩基〜十数塩基が欠失した複数の変異型が知られている。
【0004】
一方、近年、遺伝子多型を検出する検出試験として、融解曲線分析(Tm分析)を利用した検出が行われている。この方法では、変異を含む領域をPCR法で増幅した後、蛍光色素で標識された核酸プローブを用いて融解曲線分析を行い、融解曲線分析の結果に基づいて塩基配列の変異を解析する(例えば、特許文献1参照)。
また、簡便に且つ、感度と信頼性に優れた多型検出方法としては、変異型プライマーと野生型(正常型)プライマーとを同一の反応系で用いて、変異型塩基を有する核酸配列を優先的に増幅させることを含む多型検出方法が知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−119291号公報
【特許文献2】国際公開第2010/001969号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】PLoS Medicine、2005年、Vol.2、No.3、p.225−235
【非特許文献2】Journal of Clinical Oncology、2005年、Vol.23、No.11、p.2513−2520
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、EGFRエクソン19の変異には、上述の通り種々の変異が存在している。このため、それぞれの変異に対するプライマーを使用する検出試験では、変異型特異的なプライマーを反応液中に多数含める必要がある。多数のプライマーを作製することは、設計が複雑化する可能性があり、また、複数のプライマーを同時に使用することはPCR反応そのもの進行しなくなる可能性がある。また、複数の変異が存在する場合には、充分な比率で変異が含まれていないと検出できない場合がある。
従って本発明は、EGFRエクソン19遺伝子の多型を検出する検出試験において当該多型を簡便で感度よく検出するために有用な多型検出試験用オリゴヌクレオチド及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下のとおりである。
[1] 下記(P1)及び(P’)からなる群より選択された少なくとも1種であるEGFRエクソン19遺伝子多型検出試験用オリゴヌクレオチド:
(P1)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示される塩基配列の少なくとも115番目〜123番目の塩基を含む塩基長9〜80の塩基配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド;
(P1’)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示される塩基配列の少なくとも115番目〜123番目の塩基を含む塩基長9〜80の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチド。
[2] EGFRエクソン19遺伝子の塩基配列にハイブリダイズ可能な下記(P2)及び(P2’)からなる群より選択された少なくとも1種である[1]に記載の多型検出試験用オリゴヌクレオチド:
(P2)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示す塩基配列の少なくとも104番目〜123番目の塩基を含む塩基長20〜80の塩基配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有する多型検出用試験用オリゴヌクレオチド;
(P2’)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示す塩基配列の少なくとも104番目〜123番目の塩基を含む塩基長20〜80の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチド。
[3]前記(P2)又は(P2’)のオリゴヌクレオチドは、前記104番目の塩基に対応する塩基を5’末端から数えて1〜3番目の位置に有する[2]に記載の多型検出用試験用オリゴヌクレオチド。
[4] 前記(P2)又は(P2’)のオリゴヌクレオチドは、前記104番目の塩基に対応する塩基を5’末端に有する[2]記載の多型検出用試験用オリゴヌクレオチド。
[5] 前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基長が25〜50である[1]〜[4]のいずれかに記載の多型検出用試験用オリゴヌクレオチド。
[6] 前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基長が26〜42である[1]〜[4]のいずれかに記載の多型検出用試験用オリゴヌクレオチド。
[7] 前記3’末端側の伸長阻害処理がリン酸基の付加である[1]〜[6]のいずれかに記載の多型検出試験用オリゴヌクレオチド。
[8] 前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基配列上の塩基が、蛍光色素により標識されている[1]〜[7]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチド。
[9] [1]〜[8]のいずれかに記載の多型検出試験用オリゴヌクレオチドを少なくとも1種用いてEGFRエクソン19遺伝子の多型を検出することを含むEGFRエクソン19遺伝子の多型を検出する多型検出方法。
[10] 配列番号1で示される塩基配列を有する一本鎖核酸を含み得る核酸試料を用意すること、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドと前記一本鎖核酸とを接触させて、該多型検出試験用オリゴヌクレオチド及び該一本鎖核酸を含み且つ該一本鎖核酸の核酸増幅が抑制されるハイブリッドを得ること、該多型検出試験用オリゴヌクレオチドと該一本核酸との接触時又は接触後の前記核酸試料に対して核酸増幅を行うこと、を含む[9]に記載の多型検出方法。
[11] 前記核酸増幅を、標的とするEGFRエクソン19遺伝子の多型部位を含む核酸にハイブリダイズ可能なプローブの存在下で行う[10]に記載の多型検出方法。
[12] 前記プローブが、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基配列に対して45%以上の同一性を有する[11]記載の多型検出方法。
[13] 前記プローブが、標的配列にハイブリダイズしていないときに蛍光を発し、該標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少するプローブである[11]又は[12]記載の多型検出方法。
[14] [9]〜[13]のいずれかに記載の多型検出方法によりEGFRエクソン19遺伝子における多型を検出すること、及び、前記検出結果に基づいてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性又はEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の薬効を判定すること、を含むEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の薬効判定方法。
[15] 少なくとも1種の[1]〜[8]のいずれかに記載の多型検出試験用オリゴヌクレオチド、を含むEGFR多型検出試験用試薬キット。
[16] 更に、標的とするEGFRエクソン19遺伝子の多型部位を含む核酸配列にハイブリダイズ可能なプローブを含む[15]に記載のEGFR多型検出試験用試薬キット。
[17] 前記プローブが、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基配列に対して45%以上の同一性を有する[16]に記載のEGFR多型検出試験用試薬キット。
[18] 更に、前記標的とするECGRエクソン19遺伝子多型部位を含む核酸配列を増幅可能なプライマーセットを含む[15]〜[17]のいずれか記載のEGFR多型検出試験用試薬キット。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、EGFRエクソン19遺伝子の多型を検出する検出試験において当該多型を簡便で感度よく検出するために有用な多型検出試験用オリゴヌクレオチド及びその用途を提供すること提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】(A)は、核酸混合物の融解曲線の一例であり、(B)は微分融解曲線の一例である。
【図2】(A)〜(D)は、本発明の実施例1にかかる試料の融解曲線である。
【図3】(A)〜(D)は、本発明の実施例2にかかる試料の融解曲線である。
【図4】(A)〜(D)は、本発明の実施例3にかかる試料の融解曲線である。
【図5】(A)〜(D)は、本発明の比較例1にかかる試料の融解曲線である。
【図6】(A)及び(B)は、本発明の比較例2にかかる試料の融解曲線である。
【図7】(A)〜(D)は、本発明の比較例3にかかる試料の融解曲線である。
【図8】(A)及び(B)は、本発明の比較例4にかかる試料の融解曲線である。
【図9】(A)〜(E)は、本発明の実施例4にかかる試料A〜Eの融解曲線である。
【図10】(A)〜(E)は、本発明の実施例4にかかる試料F〜Jの融解曲線である。
【図11】(A)〜(E)は、本発明の実施例5及び比較例5にかかる試料5−1〜5−5の融解曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にかかるEGFRエクソン19遺伝子多型検出試験用オリゴヌクレオチド(以下、単に「多型検出試験用オリゴヌクレオチド」ということがある)は、3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示される塩基配列の少なくとも115番目〜123番目の塩基を含む塩基長9〜80の塩基配列と同一塩基長であり且つ相同的な配列であるオリゴヌクレオチド、即ち、下記(P1)及び(P’)からなる群より選択された少なくとも1種であるEGFRエクソン19遺伝子多型検出試験用オリゴヌクレオチドである。
(P1)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示される塩基配列の少なくとも115番目〜123番目の塩基を含む塩基長9〜80の塩基配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド;
(P1’)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示される塩基配列の少なくとも115番目〜123番目の塩基を含む塩基長9〜80の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチド。
本発明にかかる多型検出試験用試薬セットは、前記EGFRエクソン19遺伝子多型検出試験用オリゴヌクレオチドを含むものである。
【0012】
本発明にかかるEGFR遺伝子多型検出方法は、前記EGFRエクソン19遺伝子多型検出試験用オリゴヌクレオチドを少なくとも1種用いてEGFRエクソン19の遺伝子多型を検出することを含む方法である。
本発明にかかるEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の薬効判定方法は、前記EGFRエクソン19遺伝子多型検出方法によりEGFR遺伝子における多型を検出すること、及び前記検出結果に基づいてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性又はEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の薬効を判定することを含む方法である。
【0013】
本発明によれば、配列番号1で示されるEGFR遺伝子の特定の一部と同一の塩基長であり、且つ相同的な塩基配列、即ち、少なくとも80%以上の同一性を有する及び/又は当該特定の一部の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェンな条件でハイブリダイズ可能な配列を有し、3’末端側が伸長阻害処理されたオリゴヌクレオチドが、多型を含み得る野生型EGFRエクソン19の塩基配列の当該一部分に高い親和性を有するので、変異型EGFRエクソン19の核酸よりも野生型EGFRエクソン19の核酸に優先的に且つ強固にハイブリダイズする。また、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドは、3’末端側が伸長阻害処理されているので、野生型EGFR遺伝子の核酸にハイブリダイズした後で、DNAポリメラーゼを適用しても伸長しない。
【0014】
前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドは、EGFRエクソン19遺伝子多型検出試験に好ましく用いられるオリゴヌクレオチドである。前記多型検出用試験用オリゴヌクレオチドをEGFR遺伝子多型検出試験に用いた場合、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドは、その類似性の高さから野生型EGFR遺伝子核酸にハイブリダイズする。ハイブリダイズした野生型EGFR遺伝子核酸と、当該ハイブリダイズした領域に対応する領域内に欠損や一塩基多型を含む変異型(多型)EGFR遺伝子核酸とが混在する環境下で、核酸増幅等の処理を行った場合に、野生型遺伝子の核酸配列の増幅は、多型検出試験用オリゴヌクレオチドの存在によって抑制される。一方、変異型EGFR遺伝子の核酸配列には、多型検出用試験用オリゴヌクレオチドがハイブリダイズしていないため、変異型EGFR遺伝子の核酸増幅が抑制されず、変異型EGFR遺伝子の核酸配列が優位に増幅する。この結果、試料中に、変異型EGFR遺伝子の核酸配列が野生型EGFR遺伝子の核酸配列よりも多く存在することになり、EGFRエクソン19遺伝子多型を感度よく検出することができる。なお、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドがハイブリダイズ可能な野生型EGFR遺伝子核酸は、配列番号1で示される塩基配列の相補的な配列を有する核酸である。
【0015】
また、本発明によれば、このようにEGFRエクソン19遺伝子多型を簡便に且つ感度よく検出することができるので、EGFRエクソン19遺伝子多型に基づくEGFRチロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性又はEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の薬効を簡便かつ感度よく判定することができる。
【0016】
本発明における「EGFR遺伝子」とは、具体的にはEGFRエクソン19を意味する。本発明におけるEGFRエクソン19は、既に公知であり、その塩基配列は、NCBIアクセッションNo.NT_033968(バージョン:NT_033968.6)の4831717〜4832003の配列を意味する。配列番号1の塩基配列は、EGFRエクソン19遺伝子の核酸の塩基配列の一部に相当する。
本明細書では、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドがハイブリダイズし得る野生型EGFR遺伝子の塩基配列の領域を、特に「増幅抑制標的領域」という。
【0017】
本明細書において、検出対象となるEGFR遺伝子の多型には、野生型EGFR遺伝子の対応する配列において、複数の連続した塩基で構成される領域が欠損する多型を含み、検出可能である限り、塩基が1つ欠損する多型、塩基が1つ又は2つ以上連続して他の塩基に置換する多型も包含してもよい。なお、本発明における検出対象となるEGFR遺伝子の多型は、増幅抑制標的領域をその一部に含む限り、同時に2つ以上の多型を含むものであってもよい。
【0018】
本発明において、「多型検出試験」とは、特定の遺伝子多型を検出するために用いられる試験を意味し、試験、アッセイ、検出方法、評価方法、判定方法などの表現に拘わらず、核酸試料中の核酸に、多型を有する変異型が含まれているか否かを判定することを含むあらゆる行為を意味する。
【0019】
本発明において、検出対象となる試料中の試料核酸、多型検出試験用オリゴヌクレオチド、プライマー又はプローブの個々の配列に関して、これら互いの相補的な関係に基づいて記述された事項は、特に断らない限り、それぞれの配列と、各配列に対して相補的な配列とについても適用される。各配列に対して相補的な当該配列について本発明の事項を適用する際には、当該相補的な配列が認識する配列は、当業者にとっての技術常識の範囲内で、対応する本明細書に記載された配列に相補的な配列に、明細書全体を読み替えるものとする。
本明細書において「鋳型核酸配列」とは、核酸増幅を行う際にプライマーが鋳型として認識してアニーリングする塩基配列を意味する。
【0020】
本発明において、「Tm値」とは、二本鎖核酸が解離する温度(解離温度:Tm)であって、一般に、260nmにおける吸光度が、吸光度全上昇分の50%に達した時の温度と定義される。即ち、二本鎖核酸、例えば、二本鎖DNAを含む溶液を加熱していくと、260nmにおける吸光度が上昇する。これは、二本鎖DNAにおける両鎖間の水素結合が加熱によってほどけ、一本鎖DNAに解離(DNAの融解)することが原因である。そして、全ての二本鎖DNAが解離して一本鎖DNAになると、その吸光度は加熱開始時の吸光度(二本鎖DNAのみの吸光度)の約1.5倍程度を示し、これによって融解が完了したと判断できる。Tm値は、この現象に基づき設定される。本発明におけるTm値は、特に断らない限り、吸光度が、吸光度全上昇分の50%に達した時の温度をいう。
本発明において、オリゴヌクレオチドの配列に関して「3’末端から数えて1〜3番目」という場合は、オリゴヌクレオチド鎖の3’末端を1番目として数える。同様に「5’末端から数えて1〜3番目」という場合は、オリゴヌクレオチド鎖の5’末端を1番目として数える。
【0021】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
また、本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
また、本発明において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
以下、本発明について説明する。
【0022】
<多型検出試験用オリゴヌクレオチド>
前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドは、下記(P1)及び(P’)からなる群より選択された少なくとも1種であるEGFR遺伝子多型検出試験用オリゴヌクレオチド:
(P1)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示される塩基配列の少なくとも115番目〜123番目の塩基を含む塩基長9〜80の塩基配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド;
(P1’)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示される塩基配列の少なくとも115番目〜123番目の塩基を含む塩基長9〜80の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチド。
【0023】
前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドは、配列番号1で示される塩基配列の少なくとも115〜123番目の塩基を含む所定領域の塩基配列と少なくとも80%以上の同一性を有する、又は当該所定領域の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列であることを要する。115番目〜123番目の塩基を含むことにより、例えば、配列番号1で示される塩基配列の115番目以降に1又は複数の塩基の欠失を有する多型を感度よく検出可能にすることができる。なお配列番号1で示される115番目の塩基は、EGFRエクソン19の744番目のコドンの3’側の塩基に該当する。
【0024】
前記P1オリゴヌクレオチドの前記所定領域の塩基配列に対する同一性は、少なくとも80%以上であることを要する。また、検出感度の観点より、85%以上とすることができ、90%以上とすることができ、95%以上とすることができ、また96%以上とすることができ、97%以上とすることができ、98%以上とすることができ、99%以上とすることができる。
【0025】
前記P1’オリゴヌクレオチドは、前記配列番号1で示される塩基配列のうち前記所定領域の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列である。
ハイブリダイゼーションは、公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、Molecular Cloning 3rd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001) に記載の方法等に従って行うことができる。この文献は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0026】
ストリンジェントな条件とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。典型的なストリンジェントな条件とは、例えば、カリウム濃度は約25mM〜約50mM、及びマグネシウム濃度は約1.0mM〜約5.0mM中において、ハイブリダイゼーションを行う条件があげられる。本発明の条件の1例としてTris−HCl(pH8.6)、25mMのKCl、及び1.5mMのMgCl中においてハイブリダイゼーションを行う条件が、挙げられるが、これに限定されるものではない。その他、ストリンジェントな条件としては、Molecular Cloning 3rd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)に記載されている。この文献は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。当業者は、ハイブリダイゼーション反応や、ハイブリダイゼーション反応液の塩濃度等を変化させることによって、このような条件を容易に選択することができる。
【0027】
更に、本発明における前記P1又は前記P1’のオリゴヌクレオチドには、前記P1又は前記P1’のオリゴヌクレオチドに1個又は2個以上の塩基が挿入、欠失又は置換したオリゴヌクレオチドも包含される。
当該塩基が挿入、欠失又は置換した多型検出試験用オリゴヌクレオチドは、前記P1又は前記P1’オリゴヌクレオチドと同等程度の作用を示せばよく、1個又は2個以上の塩基が挿入、欠失又は置換されている場合、その挿入、欠失又は置換の位置は、特に限定されない。挿入、欠失又は置換した塩基の数としては1塩基又は2塩基以上が挙げられ、蛍光標識オリゴヌクレオチド全体の長さによって異なるが、例えば1塩基〜10塩基、1塩基〜5塩基、又は1塩基〜3塩基とすることができる。
【0028】
前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドが有する塩基配列の第1番目の塩基の位置は、配列番号1の115番目の位置に限定されず、例えば、配列番号1で示される塩基配列の60番目〜115番目のいずれかの塩基としてもよく、100番目〜110番目のいずれかの塩基としてもよく、102番目〜106番目のいずれかの塩基としてもよい。
【0029】
前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基長は、前記配列番号1で示される塩基配列の少なくとも115番目〜123番目の塩基を含む塩基長9mer〜80merの塩基配列と同一となる9mer〜80merであることを要する。前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基長が8mer以下又は81mer以上では、目的とする検出の感度が期待できない。多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基長は、20mer〜80merとしてもよく、10mer〜70merとしてもよく、25mer〜50merとしてもよく、26mer〜42merとしてもよい。より短い塩基長の多型検出試験用オリゴヌクレオチドは、例えば、より確実に野生型核酸の核酸増幅を抑制し、検出感度が向上する傾向がある。
【0030】
このような多型検出試験用オリゴヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1で示される塩基配列の第60〜115番目のいずれかの塩基を第1番目の塩基とする10mer〜80merのオリゴヌクレオチドとすることができ、第100〜110番目のいずれかの塩基を第1番目の塩基とする25mer〜50merのオリゴヌクレオチドとしてもよく、第102〜106番目のいずれかの塩基を第1番目の塩基とする26mer〜42merのオリゴヌクレオチドとしてもよい。このようなオリゴヌクレオチドは、例えば、より確実に野生型核酸の核酸増幅を抑制し、検出感度が向上する傾向がある。
【0031】
このような多型検出試験用オリゴヌクレオチドとしては、例えば、下記の(P2)及び(P2’)からなる群より選択された少なくとも1種を挙げることができる。
(P2)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示す塩基配列の少なくとも第104〜123番目の塩基を含む塩基長20〜80の塩基配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド;
(P2’)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示す塩基配列の少なくとも、104番目〜123番目の塩基を含む塩基長20〜80の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチド。
【0032】
前記P2又はP2’オリゴヌクレオチドでは、配列番号1で示される塩基配列の第104番目〜第123番目の塩基を含む塩基長20mer〜80merの塩基配列であれば、P2又はP2’オリゴヌクレオチドの第1番目の塩基が配列番号1で示される塩基配列のいずれの塩基に対応する塩基であってもよい。例えば、P2又はP2’オリゴヌクレオチドは、前記104番目の塩基を、P2又はP2’オリゴヌクレオチドの5’末端から数えて1〜3番目の位置に有するものであってもよく、5’末端側、即ちP2又はP2’オリゴヌクレオチドの第1番目の塩基としてもよい。前記104番目の塩基を3’末端から1〜3番目、特に3’末端側に有するオリゴヌクレオチドは、例えば、野生型核酸に核酸増幅をより確実に抑制できる傾向がある。
【0033】
前記P2’オリゴヌクレオチドにおけるストリンジェントな条件については、前記P1’オリゴヌクレオチドについて記述した事項をそのまま適用する。
【0034】
更に、本発明における前記P2又は前記P2’のオリゴヌクレオチドには、前記P2又は前記P2’のオリゴヌクレオチドに1個又は数個塩基が挿入、欠失又は置換したオリゴヌクレオチドも包含される。
前記P2又は前記P2’のオリゴヌクレオチドの塩基配列に対して、挿入、欠失又は置換される1個又は2個以上の塩基については、前記P1及びP1’オリゴヌクレオチドの塩基配列に対して挿入、欠失又は置換される1個又は2個以上の塩基として記述した事項をそのまま適用する。
【0035】
前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドは、また、多型検出試験用オリゴヌクレオチド又はその相補鎖を検出するためなどを目的として、標識化されていてもよい。
多型検出試験用オリゴヌクレオチドに付される標識化物質としては、一般に蛍光色素及び蛍光団等を挙げることができる。標識化物質は、一般に、オリゴヌクレオチドの塩基に付されるが、これに限定されない。前記標識化物質が付された塩基は、多型検出試験用オリゴヌクレオチドのいずれかの塩基であればよく、いずれの位置であってよい。多型検出試験用オリゴヌクレオチドのいずれかの位置の塩基が蛍光色素により標識化された塩基とすることにより、多型検出試験用オリゴヌクレオチドがハイブリダイズした核酸の有無を有意に検出可能とするなどの利点を有する。
【0036】
前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの3’末端側は、伸長阻害処理されていることを要する。ここで、「伸長」とは、DNAポリメラーゼ又はRNAポリメラーゼ等の酵素を用いた核酸増幅処理によるヌクレオチド鎖の伸長を意味する。伸長阻害処理は、オリゴヌクレオチド鎖の5’末端から3’末端への伸長が阻害される処理であれば特に制限はなく、例えば、オリゴヌクレオチド鎖の3’末端側の核酸に対する置換基又は化合物の付加を挙げることができる。
【0037】
このような伸長阻害を目的として付加される置換基の例としては、リン酸基、ddNTP基等を挙げることができ、伸長阻害を目的として付加される化合物の例としては、蛍光色素、2’,3’ddA、2’,3’ddC、2’,3’ddG、2’,3’ddT等を挙げることができる。オリゴヌクレオチド鎖の伸長阻害処理としては、例えば、確実な伸長阻害などの観点から、3’末端側の核酸に対するリン酸基の付加としてもよい。なお、前記置換基又は化合物が付加される核酸の位置は、核酸の伸長に用いられる手段によって異なるが、DNAポリメラーゼ又はRNAポリメラーゼを用いる場合には、(デオキシ)リボースの3位とすればよいが、これに限定されない。
【0038】
また前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドは、塩基配列上の塩基として、蛍光色素により標識された塩基を含んでもよい。
前記蛍光色素としては、特に制限されないが、例えば、フルオレセイン、リン光体、ローダミン、ポリメチン色素誘導体等が挙げられ、市販の蛍光色素としては、例えば、BODIPY FL、Pacific Blue、FluorePrime、Fluoredite、FAM、Cy3およびCy5、TAMRA等が挙げられる。
【0039】
本発明にかかる多型検出試験用オリゴヌクレオチドの一例は、以下のとおりである。表中の「(P)」はリン酸基を表す。なお、配列番号1で示される塩基配列において、それぞれ、Cmp−1は第104番目の塩基から40merのオリゴヌクレオチド、Cmp−2は第104番目の塩基から29merのオリゴヌクレオチド、Cmp−3は第115番目の塩基から28merのオリゴヌクレオチド、Cmp−4は第89番目の塩基から49merのオリゴヌクレオチド、Cmp−5は第79番目の塩基から47merのオリゴヌクレオチド、Cmp−6は第107番目の塩基から36merのオリゴヌクレオチド、Cmp−7は第104番目の塩基から20merのオリゴヌクレオチド、Cmp−8は第104番目の塩基から80merのオリゴヌクレオチド、Cmp−9は第63番目の塩基から80merのオリゴヌクレオチド、Cmp−10は第105番目の塩基から39merのオリゴヌクレオチド、Cmp−11は第106番目の塩基から38mer長のオリゴヌクレオチド、Cmp−12は第111番目の塩基から33merのオリゴヌクレオチド、Cmp−13は第115番目の塩基から29merのオリゴヌクレオチド、Cmp−14は第115番目の塩基から10merのオリゴヌクレオチド、Cmp−15は第106番目の塩基から78merのオリゴヌクレオチドである。
【0040】
【表1】

【0041】
上述した多型検出試験用オリゴヌクレオチドを用いることにより検出可能なEGFR遺伝子の変異(多型)は、配列番号1で示される塩基配列の115番〜123番目の塩基の領域に1つ又は複数の塩基が欠失している多型が挙げられる。このような変異型EGFR遺伝子としては、例えば、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない。なお、表2に中、「−」は欠損部、小文字は変異部、「WT」は野生型EGFRエクソン19(配列番号1の第104番目〜151番目)、野生型遺伝子の太字下線付きの「G」は、置換部をそれぞれ意味する。
【0042】
【表2】

【0043】
<EGFR多型検出プローブ>
後述するEGFR遺伝子多型検出方法では、検出対象となるEGFR遺伝子多型を検出するためのEGFR遺伝子多型検出プローブ(以下、単に多型検出プローブという)が用いられる。
前記多型検出プローブとしては、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの増幅抑制標的部位に対応する位置に変異を有する多型を検出可能な多型検出プローブであればよく、また、当該増幅抑制標的部位に対応する位置に欠失を有する多型を検出可能な多型検出プローブであればよい。
【0044】
このような多型検出プローブは、具体的には、配列番号1で示される塩基配列の第115番目〜第123番目の塩基を含む塩基配列に相補的な核酸に対してハイブリダイズ可能な配列であればよい。なお、配列番号1で示される塩基配列の第115番目〜第123番目の塩基を含む塩基配列に相補的な塩基配列であって、多型検出プローブがハイブリダイズ可能な配列を「標的配列」と称する場合がある。
プローブの長さとしては、特に制限はないが、5mer〜50merとしてもよく、10mer〜30merとしてもよい。プローブの長さがこのような範囲であれば、例えば検出感度を高めることができる。
【0045】
前記多型検出プローブは、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基配列に対して45%以上の同一性を有する塩基配列を有していてもよい。このように前記多型検出プローブを、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基配列に対して45%以上の同一性を有するプローブとすることにより、例えば、変異型のEGFR遺伝子を含む試料核酸に対する感度を向上させることができる。前記多型検出プローブの前記多型検出用試験用オリゴヌクレオチドに対する同一性は、55%以上としてもよく、65%以上としてもよく、80%以上としてもよい。
【0046】
また、多型検出プローブの配列には、検出対象となる変異(例えば、欠失)部位の5’末端側の塩基に対応する塩基が含まれていれば特に制限はない。多型検出プローブの塩基配列は、検出対象となる変異(欠失)部位に対応する塩基が、プローブの5’末端から数えて5番目以降に位置してもよく、10番目以降に位置してもよい。多型検出プローブにおける変異部位に対する塩基の位置がこのような位置であれば、例えば、検出感度を高めることができる。
【0047】
また、多型検出プローブの配列としては、野生型の配列に対応した塩基配列としてもよく、更に変異を含むものであってもよい。多型検出プローブとしては、配列番号1で示される塩基配列又はその相補的な配列に対して、70%〜100%の同一性を有するオリゴヌクレオチドであってもよく、80%〜100%の同一性を有するオリゴヌクレオチドであってもよい。多型検出プローブの配列を野生型の対応した塩基とすることによって、例えば、検出感度を高めることができる。
また、多型検出プローブとしては、配列番号1で示される塩基配列又はその相補的な配列に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドであってもよく、1個又は2個以上の塩基が挿入、欠失又は置換したオリゴヌクレオチドであってもよい。
なお、ストリンジェントな条件については、多型検出用試験用オリゴヌクレオチドの項に記載した条件と同様の条件を適用することができる。また、同一性や、挿入、欠失又は置換の範囲についても、多型検出用試験用オリゴヌクレオチドの項に記載したものと同様の範囲を適用することができる。
【0048】
また、多型検出プローブを増幅工程でプライマーと共に存在させて使用する場合には、DNAポリメラーゼの反応対象となってプローブ自体の伸長を予防するために、多型検出プローブは、3’末端側に後述する蛍光標識が付加されていてもよく、プローブの3’末端に更にリン酸基が付加されていてもよい。
【0049】
多型検出プローブには、検出の効率性の観点から、標識が付されている標識化プローブとしてもよい。
標識化プローブにおける標識物質の具体例としては、例えば、蛍光色素および蛍光団が挙げられる。
【0050】
前記多型検出プローブは、標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少(消光)するかまたは増加する蛍光標識プローブとすることができる。その中でも標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少する蛍光標識プローブとすることができる。
【0051】
このような蛍光消光現象(Quenching phenomenon)を利用したプローブは、一般的に、グアニン消光プローブと呼ばれており、いわゆるQ Probe(登録商標)として知られている。中でも、3’末端もしくは5’末端がシトシン(C)となるように設計され、その末端のCがグアニン(G)に近づくと発光が弱くなるように蛍光色素で標識化されたオリゴヌクレオチドであることが挙げられる。
このようなプローブを使用すれば、シグナルの変動により、ハイブリダイズと解離とを容易に確認することができる。
【0052】
なお、Q Probeを用いた検出方法以外にも、公知の検出様式を適用してもよい。このような検出様式としては、Taq−man Probe法、Hybridization Probe法、Moleculer Beacon法又はMGB Probe法などを挙げることができる。
【0053】
前記蛍光色素としては、特に制限されないが、例えば、フルオレセイン、リン光体、ローダミン、ポリメチン色素誘導体等が挙げられる。これらおn蛍光色素の市販品としては、例えば、Pacific Blue、BODIPY FL、FluorePrime、Fluoredite、FAM、Cy3およびCy5、TAMRA等が挙げられる。
蛍光標識オリゴヌクレオチドの検出条件は特に制限されず、使用する蛍光色素により適宜決定できる。例えば、Pacific Blueは、検出波長445nm〜480nm、TAMRAは、検出波長585nm〜700nm、BODIPY FLは、検出波長520nm〜555nmで検出できる。このような蛍光色素を有するプローブを使用すれば、それぞれの蛍光シグナルの変動により、ハイブリダイズと解離とを容易に確認することができる。蛍光色素のオリゴヌクレオチドへの結合は、通常の方法、例えば特開2002−119291号公報等に記載の方法に従って行うことができる。
【0054】
また、前記プローブが、蛍光色素等の標識化物質で標識化された標識化プローブである場合、例えば、検出する蛍光強度等のシグナル強度を調節するために、前記標識化プローブと同じ配列である未標識プローブを併用してもよい。この未標識プローブは、例えば、その3’末端にリン酸が付加されてもよい。
【0055】
<プライマー>
後述するEGFR遺伝子多型検出方法では、検出対象となるEGFR遺伝子多型を含む配列を増幅する場合には、プライマーが用いられる。
核酸増幅に適用するプライマーは、目的とする検出対象となるEGFR遺伝子多型の部位(例えば、欠失した塩基の領域に対応する配列番号1で示される配列)を含む核酸を増幅可能であれば特に制限されない。
このようなプライマーの設計については、配列番号1で示される塩基配列から、当業者であれば適宜設計することができる。
【0056】
プライマーの長さ及びTm値は、12mer〜40mer及び40℃〜70℃、又は16mer〜30mer及び55℃〜60℃にすることができる。
また、プライマーセットの各プライマーの長さは同一でなくてもよい。一方、両プライマーのTm値はほぼ同一(又は、Tm値の両プライマーでの差が5℃以内)であってもよい。
【0057】
<EGFR遺伝子多型検出方法>
本発明にかかるEGFR遺伝子多型検出方法は、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドを少なくとも1種用いてEGFR遺伝子の多型を検出することを含むEGFR遺伝子多型検出方法である。
本検出方法によれば、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドを少なくとも1種が野生型のEGFR遺伝子に優先的にハイブリダイズするので、野生型のEGFR遺伝子と、変異型のEGFR遺伝子とを簡便に区別し、感度よく変異型のEGFR遺伝子を検出可能にする。
【0058】
前記EGFR遺伝子多型検出方法は、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドが野生型EGFR遺伝子核酸に対して変異型EGFR遺伝子核酸よりも優先的にハイブリダイズすることを利用する方法であれば特に制限されない。
このような方法としては、例えば、核酸増幅を利用する方法が挙げられる。核酸増幅を利用した方法であれば、前記多型検出プローブの塩基配列が野生型EGFR遺伝子核酸に優先的にハイブリダイズした結果、野生型EGFR遺伝子核酸の増幅が抑制され、変異型EGFR遺伝子核酸を優先的に増幅させることができる。
【0059】
具体的には、前記EGFR遺伝子多型検出方法は、配列番号1で示される塩基配列を有する一本鎖核酸を含み得る核酸試料を用意すること(核酸試料準備工程)、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドと前記一本鎖核酸とを接触させて、該多型検出試験用オリゴヌクレオチド及び該一本鎖核酸を含み且つ該一本鎖核酸の核酸増幅が抑制されるハイブリッドを得ること(第一のハイブリダイゼーション工程)、該多型検出試験用オリゴヌクレオチドと該一本鎖核酸の接触時又は接触後の前記核酸試料に対して核酸増幅を行うこと(核酸増幅工程)を含む多型検出方法とすることができる。このような多型検出方法とすることにより、例えば、簡便に且つ感度よく、EGFR遺伝子多型を検出することができるなどの利点を有する。
【0060】
前記核酸試料準備工程で用意される核酸試料は、特に制限されないが、例えば、生体試料由来の核酸を含む試料が挙げられる。前記生体試料としては、例えば、大腸や肺等の組織、白血球細胞等の血球、全血、血漿、喀痰、口腔粘膜等の口腔内細胞、爪および毛髪等の体細胞、生殖細胞、乳、腹水液、パラフィン包埋組織、胃液、胃洗浄液、尿、腹膜液、羊水、細胞培養などの任意の生物学的起源に由来する又は由来しうるものを挙げられる。なお、試料の採取方法、核酸を含む試料の調製方法等は、制限されず、いずれも従来公知の方法が採用できる。また、鋳型となる核酸は、該起源から得られたままで直接的に、あるいは該サンプルの特性を改変するために前処理した後で使用することができる。また、生体試料由来の核酸を鋳型として核酸増幅法を行った反応液を、本発明における核酸試料とし、前記反応液に含まれる増幅産物を鋳型核酸配列としてもよい。
例えば、全血を試料とする場合、全血からのゲノムDNAの単離は、従来公知の方法によって行うことができる。例えば、市販のゲノムDNA単離キット(商品名GFX Genomic Blood DNA Purification kit;GEヘルスケアバイオサイエンス社製)等が使用できる。
【0061】
なお、前記試料は、例えば、目的の塩基部位が変異型および正常型のいずれを示すか不明である核酸を含む試料、変異型を有する核酸と正常型を有する核酸とを含む試料、これらを含む可能性のある試料等のいずれであってもよい。試料中の核酸、例えば、DNAやRNA等の核酸の由来は、制限されず、例えば、各種癌細胞等の細胞、ウィルス、ミトコンドリア等が挙げられる。特に、変異型を示す核酸と正常型を示す核酸とを有する試料への適用が好ましく、例えば、肺癌等の各種癌細胞等の生体試料、具体例としては、血液中に遊離する細胞等に適用することが好ましい。血液中に含まれる癌化した細胞には、変異型が発生した核酸を有する細胞と、正常型を示す核酸を有する細胞とが含まれるため、このような細胞由来の核酸試料に対して、本多型検出方法を適用することは、要求される感度を実現できる点で、好ましい。なお、本発明において、試料の採取方法、核酸の調製方法等は、特に制限されず、従来公知の方法が採用できる。
【0062】
試料中の核酸は、一本鎖でもよいし、二本鎖でもよい。試料中の核酸配列としては、例えば、DNA、および、トータルRNA、mRNA等のRNA等が挙げられる。また、前記核酸配列は、例えば、生体試料等の試料に含まれる核酸が挙げられる。
試料中の核酸は、例えば、生体試料中に元来含まれている核酸でもよいが、例えば、多型検出の精度を向上できることから、前記生体試料中の核酸を鋳型として核酸増幅法により増幅させた増幅産物等が挙げられる。具体例としては、例えば、前記生体試料に元来含まれているDNAを鋳型として、核酸増幅法により増幅させた増幅産物や、前記生体試料に元来含まれているRNAから逆転写−PCR反応(RT−PCR:Reverse Transcription PCR)により生成させたcDNAを鋳型として、核酸増幅法により増幅させた増幅産物が挙げられる。これらの増幅産物を、本発明における鋳型核酸配列としてもよい。前記増幅産物の長さは、特に制限されないが、例えば、50〜1000塩基であり、好ましくは80〜200塩基である。
【0063】
第一のハイブリダイゼーション工程は、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドと前記一本鎖核酸とを接触させて、該多型検出試験用オリゴヌクレオチド及び該一本鎖核酸を含み且つ該一本鎖核酸の核酸増幅が抑制されるハイブリッドを得る。前記ハイブリッドは、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドと一本鎖核酸とのハイブリダイズ可能な条件でハイブリダイゼーションを行うことにより得られる。
第一のハイブリダイゼーション工程におけるハイブリダイズ可能な条件とは、一本鎖核酸同士をハイブリダイズするために通常適用される条件をそのまま適用すればよく、後述するプライマーと一本鎖核酸とのハイブリダイズする際に適用される条件をそのまま採用すればよい。これにより、多型検出試験用オリゴヌクレオチドと配列番号1で示される塩基配列を有する一本鎖核酸とにより、ハイブリッドが得られる。このハイブリッドは、試料中の一本鎖核酸が多型検出試験用オリゴヌクレオチドにより二本鎖核酸となっているため、ハイブリッドを構成する核酸配列に対する核酸増幅が抑制される。
【0064】
前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドは、核酸試料、例えば単離したゲノムDNAを含む液体試料に添加してもよいし、適当な溶媒中でゲノムDNAと混合してもよい。前記溶媒としては、特に制限されず、例えば、Tris−HCl等の緩衝液、KCl、MgCl、MgSO、グリセロール等を含む溶媒、PCR反応液等、従来公知のものが挙げられる。
また、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドと試料中の検査対象となる一本鎖核酸との接触には、特に制限はなく、所定の量比となるように、例えば、所定量の核酸を含む試料中に多型検出試験用オリゴヌクレオチドを添加すればよい。
【0065】
第一のハイブリダイゼーション工程において、検査対象となる試料は、好ましくは、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドと共に前記多型検出プローブを含む。これにより、簡便かつ感度よくEGFR遺伝子多型を検出することができるなどの利点を有する。
【0066】
本発明において、試料中の核酸における前記多型検出プローブの添加割合(モル比)は、検出対象核酸(検出対象配列を含む増幅産物)に対して10倍以下としてもよく、5倍以下としてもよく、3倍以下としてよい。また、その下限は特に制限されないが、例えば、0.0001倍以上としてもよく0.001倍以上としてもよく、0.01倍以上としてもよい。
ここで、試料中の核酸とは、例えば、検出目的の多型が発生している検出対象核酸と前記多型が発生していない非検出対象核酸との合計でもよいし、検出目的の多型が発生している検出対象配列を含む増幅産物と前記多型が発生していない非検出対象配列を含む増幅産物との合計でもよい。
なお、前記核酸に対する前記多型検出プローブの添加割合は、例えば、二本鎖核酸に対するモル比でもよいし、一本鎖核酸に対するモル比でもよい。
【0067】
反応系における多型検出プローブの添加割合は、特に制限されないが、例えば、前記プローブを10nmol/L〜400nmol/Lとしてもよく、20nmol/L〜200nmol/Lとしてもよい。
【0068】
核酸増幅工程における核酸増幅は、多型検出試験用オリゴヌクレオチドとの接触時又は接触後の核酸試料に対して行われる。なお、核酸増幅処理は、試料中に前記ハイブリッドが形成された後であれば、第一のハイブリダイゼーション工程の後であっても、ほぼ同時であってもよい。これにより、第一のハイブリダイゼーション工程によるハイブリッドを構成しなかった核酸試料中の一本鎖核酸について核酸増幅が行われる。
【0069】
増幅工程では、核酸試料とプライマー対とを接触させて、核酸試料中の核酸配列を鋳型核酸配列とした核酸の増幅を行う。このとき、各プライマーは、同一の試料(同一の反応液)中で、それぞれ鋳型核酸配列にアニールし、核酸の増幅が開始される。なお、本発明における鋳型核酸配列には、前記増幅抑制標的部位を含む野生型の鋳型核酸配列が含まれる。
【0070】
増幅工程において、増幅反応の反応系(例えば、反応液)における前記核酸試料の添加割合は、特に制限されない。具体例として、前記核酸試料が生体試料(例えば、全血試料)の場合、前記反応系における添加割合の下限が、例えば、0.01体積%以上としてもよく、0.05体積%以上としてもよく、0.1体積%以上としてもよい。また、前記添加割合の上限も、特に制限されないが、例えば、2体積%以下としてもよく、1体積%以下としてもよく、0.5体積%以下としてもよい。
【0071】
また、後述する変異の検出において、例えば、標識化プローブを用いた光学的検出を行う場合、前記反応系における全血試料等の生体試料の添加割合は、例えば、0.1〜0.5体積%としてもよい。この範囲であれば、例えば、変性による沈殿物等の発生による影響を十分に防止でき、光学的手法による測定精度を向上できる。また、全血試料中の夾雑物による核酸増幅PCRの阻害も十分に抑制されるため、増幅効率をより一層向上できることも期待される。
【0072】
また増幅反応の開始前に、反応系にさらにアルブミンを添加することが好ましい。このようなアルブミンの添加によって、例えば、沈殿物または濁りの発生による影響を、より一層低減でき、且つ、増幅効率もさらに向上することができる。
前記反応系におけるアルブミンの添加割合は、例えば、0.01質量%〜2質量%としてよく、0.1質量%〜1質量%としてよく、0.2質量%〜0.8質量%としてもよい。前記アルブミンとしては、特に制限されず、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒト血清アルブミン、ラット血清アルブミン、ウマ血清アルブミン等が挙げられ、これらはいずれか1種類でもよいし2種類以上を併用してもよい。
【0073】
増幅工程における核酸増幅法としては、例えばポリメラーゼを用いる方法等が挙げられる。その例としては、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、ICAN法、LAMP法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法等が挙げられる。なお、核酸増幅法の条件は、特に制限されず、従来公知の方法により行うことができる。
増幅工程における増幅について、PCR法を例に挙げて説明するが、本発明は、これに限定されない。PCRの条件は、特に制限されず、従来公知の方法により行うことができる。
【0074】
前記反応液における他の組成成分は、特に制限されず、従来公知の成分が挙げられ、その割合も特に制限されない。前記組成成分としては、例えば、DNAポリメラーゼ、ヌクレオシド三リン酸(dNTP)等のヌクレオチドおよび溶媒等が挙げられる。前記反応液において、各組成成分の添加順序は何ら制限されない。
【0075】
PCR法に用いるDNAポリメラーゼとしては、通常用いられるDNAポリメラーゼを特に制限なく用いることができる。例えば、GeneTaq(ニッポンジーン社製)、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(タカラバイオ社製)、Taq ポリメラーゼ等を挙げることができる。
【0076】
ポリメラーゼの使用量としては、当業界で通常用いられている濃度であれば特に制限はない。例えば、Taqポリメラーゼを用いる場合、例えば、反応溶液量10μLに対して0.01U〜10Uの濃度とすることができ、反応溶液量10μLに対して0.05U〜1Uとすることができる。これにより、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの野生型核酸親和性を高めることができるなどの傾向がある。
【0077】
PCRの方法は、一般的な工程を用い、温度やサイクル数等の条件は特に制限されない。各ステップの温度変化は、例えば、サーマルサイクラー等を用いて自動的に制御すればよい。
【0078】
本発明の多型検出方法は、更に多型評価工程を含んでもよく、多型評価工程は、以下の(I)〜(IV)の各工程を含むことができ、また下記工程(V)を含んでいてもよい。
(I)前記多型検出プローブ及び試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記多型検出プローブと前記一本鎖核酸とをハイブリダイズさせたハイブリッドを得ること(第二のハイブリダイゼーション工程という)。
(II)前記ハイブリッドを含む試料の温度を変化させるにより、前記ハイブリッドを解離させ、前記ハイブリッドの解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定すること(測定工程という)。
(III)前記蛍光シグナルの変動に基づいてハイブリッドの解離温度であるTm値を測定すること(Tm値測定工程)。
(IV)前記Tm値に基づいて、前記試料中の一本鎖核酸における、EGFR遺伝子における多型の存在を検出すること(多型検出工程)。
(V)前記多型の存在に基づいて、前記試料中の一本鎖核酸における、多型を有する一本鎖核酸の存在比を検出すること(多型存在比検出工程)。
このような多型検出方法とすることにより、EGFR遺伝子多型を簡便に且つ感度よく検出し、評価することができる。
【0079】
第二のハイブリダイゼーション工程において適用されるハイブリダイゼーションの手法及び条件としては、特に制限はなく、二本鎖核酸配列を変性して一本鎖核酸配列にすること、一本鎖核酸配列同士をハイブリダイズすることを目的として当業界で既知の条件をそのまま適用すればよい。
例えば、解離における加熱温度は、前記増幅産物が解離できる温度であれば特に制限されないが、例えば、85℃〜95℃である。加熱時間も特に制限されないが、通常、1秒〜10分であり、1秒〜5分としてもよい。また、解離した一本鎖核酸配列と多型検出プローブとのハイブリダイズは、例えば、解離後、解離における加熱温度を降下させることによって行うことができる。温度条件としては、例えば、40℃〜50℃である。
なお、本明細書において、増幅産物における「一本鎖核酸配列」の用語には、試験対象となっている当初の核酸試料における一本鎖核酸配列も包含する。
【0080】
測定工程では、ハイブリッドを含む試料の温度を変化させて、前記ハイブリッドを解離させ、前記ハイブリッドの解離に基づくシグナルの変動を測定する。
前記増幅一本鎖核酸と多型検出プローブとのハイブリッドの融解状態を示すシグナル値の測定は、260nmの吸光度測定でもよいが、前記多型検出用プローブに付加した標識のシグナルに基づくシグナルであって、一本鎖DNAと前記多型検出用プローブとのハイブリッド形成の状態に応じて変動するシグナルの測定であってもよい。標識物質のシグナル測定とすることによって、例えば検出感度を高めることができる。
【0081】
標識化ブローブとしては、例えば、標的配列(相補配列)にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が減少(消光)する蛍光標識オリゴヌクレオチド、または標的配列にハイブリダイズしていないときの蛍光強度に比べて、標的配列にハイブリダイズしているときの蛍光強度が増加する蛍光標識オリゴヌクレオチドが挙げられる。
【0082】
前者のようなプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(例えば、二本鎖DNA)を形成している際にはシグナルを示さないか、シグナルが弱いが、加熱によりプローブが解離するとシグナルを示すようになるか、シグナルが増加する。
また、後者のプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(例えば、二本鎖DNA)を形成することによって蛍光シグナルを示し、加熱によりプローブが解離するとシグナルが減少(消失)する。したがって、この標識に基づくシグナルの変化をシグナル特有の条件(吸収波長等)で検出することによって、前記260nmの吸光度測定と同様に、融解の進行ならびにTm値の決定等を行うことができる。
【0083】
ハイブリッドの解離に基づくシグナルの変動は、反応液の温度を変化させて行う。例えば、前記反応液を加熱し、すなわち、前記一本鎖DNAと前記標識化プローブとのハイブリッドを徐々に加熱し、温度上昇に伴うシグナルの変動を測定する。例えば、Q Probeを使用した場合、一本鎖DNAとハイブリダイズした状態では、解離した状態に比べて蛍光強度が減少(または消光)する。したがって、例えば、蛍光が減少(または消光)しているハイブリッドを徐々に加熱し、温度上昇に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。なお、前記標識化プローブを使用する場合、前記シグナル値は、例えば、前記標識化プローブの標識物質に応じた条件で測定することができる。
【0084】
蛍光強度の変動を測定する際の温度範囲は、特に制限されないが、例えば、開始温度が室温〜85℃としてもよく、または25℃〜70℃としてもよい。終了温度は、例えば、40〜105℃としうる。また、温度の上昇速度は、特に制限されないが、例えば、0.1℃〜20℃/秒、又は0.3〜5℃/秒としうる。
【0085】
Tm値測定工程では、前記測定工程で得られたシグナルの変動を解析してTm値を決定する。具体的には、得られた蛍光強度から各温度における微分値(−d蛍光強度/dt)を算出し、最も低い値を示す温度をTm値として決定できる。あるいは、例えば、各温度における単位時間当たりの蛍光強度変化量を算出し、その変化量を(−d蛍光強度増加量/dt)とする場合は、例えば、最も低い値を示す温度をTm値として決定できる。また、変化量を(d蛍光強度増加量/dt)とする場合は、例えば、最も高い点をTm値として決定することもできる。なお、標識化プローブとして、消光プローブではなく、単独でシグナルを示さず且つハイブリッド形成によりシグナルを示すプローブを使用した場合には、反対に、蛍光強度の減少量を測定すればよい。
【0086】
Tm値は、例えば、従来公知のMELTCALCソフトウエア(http:/www.meltcalc.com/)等により算出でき、また、隣接法(Nearest Neighbor Method)によって決定することもできる。
【0087】
多型検出工程では、決定されたTm値に基づいて、EGFRエクソン19の多型の存在を検出する。また、任意の多型存在比検出工程では、決定されたTm値に基づいて、EGFRエクソン19の多型を有する一本鎖核酸の存在比を検出する。
なお、ハイブリッドの解離温度を評価することだけでなく、ハイブリットの融解時に温度に応じて変動する蛍光シグナルの微分値の大きさを評価することを含む。微分値の大きさにより、多型を有する塩基配列(DNA)の存在比を評価することができる。
【0088】
本発明においては、前述のように、ハイブリッドを加熱して、温度上昇に伴うシグナル変動(好ましくは蛍光強度の増加)を測定するが、この方法に代えて、例えば、ハイブリッド形成時におけるシグナル変動の測定を行ってもよい。すなわち、前記プローブを含む反応液の温度を降下させてハイブリッドを形成する際の前記温度降下に伴うシグナル変動を測定してもよい。
【0089】
具体例として、単独でシグナルを示し且つハイブリッド形成によりシグナルを示さない標識化プローブ(例えば、Q Probe)を使用した場合、一本鎖核酸配列と標識化プローブとが解離している状態では蛍光を発しているが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、前記蛍光が減少(または消光)する。したがって、例えば、前記反応液の温度を徐々に降下させて、温度下降に伴う蛍光強度の減少を測定すればよい。他方、単独でシグナルを示さず且つハイブリッド形成によりシグナルを示す標識化プローブを使用した場合、一本鎖核酸配列と標識化プローブとが解離している状態では蛍光を発していないが、温度の降下によりハイブリッドを形成すると、蛍光を発するようになる。したがって、例えば、前記反応液の温度を徐々に降下させて、温度下降に伴う蛍光強度の増加を測定すればよい。
【0090】
EGFRエクソン19における変異型及び野生型の核酸配列に存在比を定量的に測定するには、予め、変異型及び野生型それぞれの核酸配列を作製して得られた検量線を作成し、それに基づいてそれぞれの存在比を検出することが好ましい。
検量線の作成の一例について以下に説明する。
【0091】
まず、例えば、野生型の核酸Wtと変異型の核酸Mtとの2種類の核酸の存在比を各々異ならせた複数の核酸混合物を作製し、複数の核酸混合物の各々について、融解曲線解析装置を用いて融解曲線を得る。
図1Aに、ある1つの核酸混合物の温度と吸光度または蛍光強度等の検出信号との関係で表された融解曲線、及び同図1Bに温度と検出信号の微分値との関係で表された融解曲線(微分融解曲線ともいう)を示す。この微分融解曲線からピークを検出することにより、核酸Wtの融解温度Tm及び核酸Mtの融解温度Tmを検出して、Tm及びTmを含む温度範囲の各々を設定する。
【0092】
Tmを含む温度範囲ΔTとしては、例えば、TmとTmとの間で検出信号の微分値が最小となる温度を下限、検出信号のピークの裾野に対応する温度を上限とする温度範囲を設定することができる。また、Tmを含む温度範囲ΔTとしては、例えば、TmとTmとの間で検出信号の微分値が最小となる温度を上限、検出信号のピークの裾野に対応する温度を下限とする温度範囲を設定することができる。
なお、温度範囲ΔT及び温度範囲ΔTは、同一の幅(例えば、10℃)または異なる幅(例えば、温度範囲ΔTが10℃、温度範囲ΔTが7℃)となるように設定してもよい。また、温度範囲ΔT及び温度範囲ΔTは、それぞれの融解温度TmからプラスX℃、マイナスX℃の幅(X℃は例えば15℃以内、望ましくは10℃以内)というように設定してもよい。
【0093】
次に、温度範囲ΔT及び温度範囲ΔTの各々について、微分融解曲線の温度範囲の下限に対応する点と上限に対応する点とを通る直線と微分融解曲線とで囲まれた面積(図1Bの斜線部分)を求める。面積の求め方の一例として、具体的に以下のように求めることができる。温度Tにおける検出信号の微分値をf(T)とし、温度Tにおけるベース値をB(T)として、下記(1)式により求める。
【0094】
面積S={f(Ts+1)−B(Ts+1)}+{f(Ts+2)−B(Ts+2)}
+・・・+{f(Te−1)−B(Te−1)} ・・・(1)
ただし、Tは各温度範囲における下限値、Tは上限値である。また、各温度Tにおけるベース値B(T)は、下記(2)式により求まる値であり、検出信号に含まれるバックグラウンドレベルを表すものである。このベース値を検出信号の微分値から減算することにより、検出信号に含まれるバックグラウンドの影響を除去する。
【0095】
B(T)=a×(T−T)+f(T) ・・・(2)
ただし、a={f(T)−f(T)}/(T−T) である。
【0096】
上記(1)式及び(2)式に従って、各核酸混合物について、温度範囲ΔTにおける面積S及び温度範囲ΔTにおける面積Sを求め、面積比と各核酸混合物の存在比との関係を表す検量線を作成する。例えば、横軸に存在比(核酸混合物の総量に対する核酸Mtの割合)をとり、縦軸に面積比(S/S)をとった検量線とすることができる。なお、面積比はS/Sで定めてもよい。
実際の試料を用いて得られた融解曲線と微分融解曲線から面積比を算出し、上記のようにしてあらかじめ作成した検量線に基づいて、実際の試料中に含まれる多型を有する塩基配列の存在比を決定することができる。
【0097】
また、野生型及び変異型の各ピークの存在に従って存在比を計算することができるが、単にピークの存在を確認することによって、EGFR遺伝子における多型の存在(有無)を検出してもよい。
【0098】
<EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の判定方法>
本発明のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の判定方法は、上述した多型検出方法によりEGFR遺伝子における多型を検出すること(遺伝子多型検出工程)、及び、前記検出結果に基づいてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性又はEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の薬効を判定すること(薬効判定工程)、を含む。
上述した多型検出方法では、本発明における多型検出試験用オリゴヌクレオチドを用いて、感度よく且つ簡便にEGFRエクソン19遺伝子多型を検出するので、EGFRエクソン19におけるこの多型に基づいてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の判定を感度よく且つ簡便に行うことができる。
【0099】
EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の判定方法における遺伝子多型検出工程については、上述したEGFR遺伝子における多型検出方法において記述した内容をそのまま適用することができる。
EGFRチロシンキナーゼは、EGFRエクソン19における多型によって反応性が異なることが知られている。具体的には、EGFR遺伝子が変異型である場合には、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤による腫瘍縮小効果が期待できると判定することができる。
本発明のEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の判定方法により、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤の効果に対する予測を、信頼性高く且つ簡便に行うことができる。
【0100】
薬効判定対象となりうるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬としては、EGFRチロシンキナーゼを特異的に阻害すればよく、例えば、ゲフィチニブ、エルロチニブ等を挙げることができる。
EGFRエクソン19遺伝子多型の薬効判定の具体的な方法としては、既に知られており、例えば、Journal of Thoracic Oncology: March 2006 - Volume 1 - Issue 3 - pp 260-267(EGFR Mutation of Tumor and Serum in Gefitinib-Treated Patients with Chemotherapy-Naive Non-small Cell Lung Cancer)
に記載されている。
【0101】
<試薬キット>
本発明のEGFR遺伝子における多型を検出するためのEGFR多型検出試験用試薬キットは、上述した多型検出試験用オリゴヌクレオチドを含む。
この試薬キットには、EGFRエクソン19における多型を簡便にかつ感度よく検出するために使用可能な上述した増幅抑制標的領域に対してハイブリダイズ可能な既述の多型検出試験用オリゴヌクレオチドが含まれるので、EGFR遺伝子における多型の検出をより簡便に行うことができる。
【0102】
また、本試薬キットには、標的とするEGFR遺伝子の多型部位を含む領域にハイブリダイズ可能な前記プローブを更に含んでもよく、更に、前記標的とするEGFR遺伝子多型部位を含む核酸を増幅可能な前記プライマーセットを含んでいてもよい。これにより、本発明における多型検出試験用試薬キットは、より簡便に且つ精度よくEGFR遺伝子における多型の検出を行うことができる。なお、本試薬セットに含まれ得るプローブ及びプライマーについては、前述した事項をそのまま適用することができる。
【0103】
前記試薬キットに含まれる各試薬は、異なる容器に含まれていてもよく、同一の容器に含まれていてもよい。なお、本明細書における「異なる容器」とは、各試薬が非接触状態を維持できるように区分けされたものであればよく、必ずしも、独立して取扱い可能な個別の容器でなくてもよい。
【0104】
本試薬キットには、上記の他に、増幅に必要なポリメラーゼ等の試薬又は緩衝液、ハイブリダイズのために必要な試薬又は緩衝液、検体試料を希釈するための希釈剤等を含んでもよい。更に、本試薬キットには、前述した多型検出方法を記載した説明書、キットに含まれる若しくは追加的に含むことが可能な各種の試薬に関する使用説明書等を含むことが好ましい。
【実施例】
【0105】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかしながら、本発明はそれらに何ら限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」又は「%」は質量基準である。
【0106】
[実施例1〜3]
サーマルサイクラー(商品名Mastercycler ep gradient S、eppendorf社製)と全自動SNPs検査装置(商品名i−densy(商標)、アークレイ社製)と、下記表3〜5に記載した処方の検査用試薬を用いて、PCRおよびTm解析を行った。なお、使用したポリラーゼは、Taqポリメラーゼである。
PCRは、95℃で60秒処理した後、95℃で1秒及び54℃で15秒を1サイクルとして、50サイクル繰り返した。
またTm解析は、PCRの後、95℃で1秒、40℃で60秒処理し、続けて温度の上昇速度1℃/3秒で、40℃から75℃まで温度を上昇させ、その間の経時的な蛍光強度の変化を測定した。励起波長を420nm〜485nmとし、測定波長を520〜555nmとして、蛍光標識プローブに由来する蛍光強度の変化をそれぞれ測定した。野生型の遺伝子の場合には66℃付近、変異型の遺伝子の場合には、51℃付近及び66℃付近にそれぞれピークが認められることがわかっている。
【0107】
試料中の一本鎖核酸の核酸増幅を抑制するために使用した本発明にかかる多型検出試験用オリゴヌクレオチド(以下、WI核酸という)は、配列番号1の104番目〜143番目と同一の配列を有するCmp−1(配列番号2、実施例1)、配列番号1の104番目〜132番目と同一の配列を有するCmp−2(配列番号3、実施例2)又は配列番号1の115番目〜142番目と同一の配列を有するCmp−3(配列番号4、実施例3)とし、それぞれ0.2μM又は0.4μMで使用した。
野生型のEGFRエクソン19遺伝子の配列は配列番号1のとおりである。
変異型のEGFRエクソン19遺伝子としてはE746_A750delを使用した(表2、No.2)。
【0108】
プローブには、配列番号1の104〜136番目の配列を認識し、5’末端に標識を有する5FP−EGFR−EX19−WT−FW−3(5'-(FL)-CCCGTCGCTATCAAGTAATTAAGAGAAGCAACA:配列番号35)を用いた。Fプライマー(フォワードプライマー)としては、配列番号1の54〜73番目の配列に対応するEGFR−EX19−F2(TCTCTCTGTCATAGGGACTC:配列番号33)を使用し、Rプライマー(リバースプライマー)としては、配列番号1の155〜175番目の塩基に対応するEGFR−EX19−R1(GAAACTCACATCGAGGATTTC:配列番号34)を使用した。鋳型核酸配列としては、1×10copy/μLの精製ヒトゲノム(Roche社製)及び、野生型の遺伝子配列(配列番号1)と変異型の遺伝子配列(配列番号36、表2のNo.2に相当)とを10:990の割合(変異型混合比1%)で混合した1×10copy/μLのプラスミド(Genescript社製)を用いた。
なお、各配列は表6に記載の通りである。
【0109】
Tm解析によって、プローブの蛍光値の変化量を示すグラフを得た。
結果を図2〜図4に示す。なお、図2(A),図3(A)及び図4(A)、並びに図2(C)、3(C)及び図4(C)はゲノムDNAのみを鋳型核酸配列として用いた場合(野生型100%)を示し、図2(B),図3(B)及び図4(B)、並びに図2(D)、3(D)及び図4(D)は野生型の遺伝子配列と変異型の遺伝子配列を所定割合で混合したプラスミドDNAを鋳型核酸配列として用いた場合を示す。また、各図において、図2(A),図3(A)及び図4(A)、並びに図2(B),図3(B)及び図4(B)はWI核酸濃度0.2μMの場合を示し、図2(C)、3(C)及び図4(C)、並びに図2(D)、3(D)及び図4(D)は、WI核酸濃度0.4μMの場合を示す。図中、横軸が温度(℃)、縦軸が蛍光値の変化量を示す。
【0110】
【表3】



【0111】
【表4】



【0112】
【表5】



【0113】
【表6】



【0114】
図2及び図3に示されるように、ゲノムDNAのみの核酸試料(野生型100%)では66℃付近にしかピークが認められず、プラスミドDNAを含む核酸試料(変異型1%)では51℃付近のピークを明瞭に確認できた。この傾向は、WI核酸の濃度を変更しても同様であり、WI核酸の濃度を増やすことにより、変異型核酸配列をより感度よく検出できることがわかった。
【0115】
また、図4に示されるように、DNAポリメラーゼの濃度を、実施例1及び2に対して5割以下である0.16Uとした実施例3では、変異型核酸のピークが実施例1及び実施例2の場合よりもより明瞭となることがわかった。
【0116】
以上の実施例から、使用したプローブとWI核酸配列との重複塩基配列数がそれぞれ、33mer(Cmp−1、100%)、29mer(Cmp−2、87.9%)、22mer(Cmp−2、66.7%)であった。この結果から、プローブとWI核酸配列との重複する塩基数の割合が66.7%(22mer/33mer)以上である場合には、変異型核酸を感度よく検出できることがわかった。
【0117】
[比較例1〜比較例4]
比較例1では、WI核酸配列として、配列番号1の123番目〜151番目と同一の配列を有するCmp−C1(配列番号32、表6参照)を用いた以外は、実施例1と同様にして多型検出を行った。結果を図5に示す。
比較例2では、WI核酸配列及びプローブを含まない反応液を使用し、PCR反応後にプローブを1μMの終濃度となるように各試料に添加した以外は、実施例1と同様にして多型検出を行った。PCR反応用試薬の各成分を表7に示す。結果を図6に示す。
【0118】
比較例3では、WI核酸配列として、配列番号1の123番目〜151番目と同一の配列を有するCmp−C1を使用し、DNAポリメラーゼを0.16Uに変更した以外は実施例1と同様にして多型検出を行った。結果を図7に示す。
比較例4では、DNAポリメラーゼを0.16Uで使用した以外は、比較例2と同様にして多型検出を行った。結果を図8に示す。
【0119】
図5〜図8において、図5(A),図6(A)、図7(A)及び図8(A)、並びに図5(C)、図6(C)、図7(C)及び図8(C)はゲノムDNAのみを鋳型核酸配列として用いた場合(野生型100%)を示し、図5(B),図6(B)、図7(B)及び図8(B)、並びに図5(D)、図6(D)、図7(D)及び図8(D)は野生型の遺伝子配列と変異型の遺伝子配列を所定割合で混合したプラスミドDNAを鋳型核酸配列として用いた場合を示す。また、各図において、図5(A),図6(A)、図7(A)及び図8(A)、並びに図5(B),図6(B)、図7(B)及び図8(B)はWI核酸濃度0.2μMの場合を示し、図5(C)、図6(C)、図7(C)及び図8(C)、並びに図5(D)、図6(D)、図7(D)及び図8(D)は、WI核酸濃度0.4μMの場合を示す。図中、横軸が温度(℃)、縦軸が蛍光値の変化量を示す。
【0120】
【表7】



【0121】
図5に示されるように、配列番号1の第115番目〜第123番目の増幅抑制標的核酸に対応する配列を含まないWI核酸配列を用いた場合には、鋳型核酸配列としてゲノムDNAの場合とプラスミドDNAの場合の双方で変異型を示す61℃のピークが認められ、判定不可能であった。
【0122】
また、比較例1で用いられた比較用WI核酸配列Cmp−C1と、多型検出プローブとの重複塩基配列数が14merであり、多型検出プローブとWI核酸配列との重複する塩基数の割合が42.4%(14mer/33mer)であった。この結果から、WI核酸配列と多型検出プローブとの重複塩基配列数の割合が、42.4%(14mer/33mer)である場合には、野生型を示すピークが認められないことがわかった。
【0123】
また、図6に示されるように、WI核酸を存在させないでPCR反応を行った場合には、変異型を示すピークが認められず、変異型の検出ができなかった。
このような傾向は、DNAポリメラーゼの量を減らした場合でも同様であった(図7及び図8参照)。
【0124】
[実施例4]
全自動SNPs検査装置(商品名i−densy(商標)、アークレイ社製)を使用してPCR反応及びTm解析を行うと共に、鋳型核酸配列の種類を表8に示すように変更した試料A〜J(変異型プラスミドの配列は表8参照、野生型プラスミドの配列は配列番号1)を使用し、PCR反応液の各成分を表9に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、多型検出を行った。なお、使用したポリラーゼは、Taqポリメラーゼである。
なお、各試料中の鋳型核酸配列は、野生型の遺伝子配列(配列番号1)と表8に示す変異型の各遺伝子配列を、表8に示す混合比となるように混合した1×10copy/μLのプラスミド(Genescript社製)を使用した。表8に記載の変異種類については、No.2及びNo.3はE746_A750del、No.4はL747_E749del,A750P、No.6はL747_S752del,P753Sを示す(表2参照)。
【0125】
野生型の遺伝子の場合には66℃付近、変異型の遺伝子の場合には、変異型の種類に応じて51℃付近及び66℃付近にそれぞれピークが認められることがわかっている。
結果を図9及び図10に示す。
【0126】
【表8】

【0127】
【表9】

【0128】
図9に示されるように、野生型のみを含む試料Aについては66℃付近のピークのみが認められ(図9(A)参照)、一方、各変異型を含む試料B〜E(図9(B)〜図9(E))については、66℃付近のピークに加えて各変異型を示す51〜54℃の明瞭なピークが認められ、変異型の種類に拘わらず、WI核酸配列を用いることにより変異型を検出できることが分かった。
また、図10に示されるように、変異の混合比を0.1%、1%、5%、10%及び50%と変更しても、混合比に応じた大きさのピークとして、変異型を混合比依存的に検出できることがわかった(図10(A)〜図10(E)参照)。
【0129】
[実施例5及び比較例5]
全自動SNPs検査装置(商品名i−densy(商標)、アークレイ社製)を使用してPCR反応及びTm解析を行うと共に、WI核酸の濃度を0.03μM、0.06μM、0.12μM又は0.18μMに変更したPCR反応液(試料5−1〜5−4、実施例5)又は、WI核酸を含まないPCR反応液(試料5−5、比較例5)を使用し、PCR反応後にプローブを試料あたり1μMの終濃度となるように添加した以外は、実施例1と同様にして多型検出を行った。なお、試料核酸としては、変異型(No.2)と野生型を、1%の変異型混合率として含むプラスミドDNAを用いた。各試料の処方は、表10に示す。
結果を図11に示す。図11(A)はWI核酸の濃度が0.03μMの試料5−1、図11(B)はWI核酸の濃度が0.06μMの試料5−2、図11(C)はWI核酸の濃度が0.12μMの試料5−3、図11(D)はWI核酸の濃度が0.18μMの試料5−4、図11(E)はWI核酸の濃度が0の試料5−5の結果を示す。
【0130】
【表10】

【0131】
図11(A)〜(D)に示されるように、異なる濃度のWI核酸を含む試料5−1〜5−4では、野生型の66℃付近のピークと変異型の51℃付近のピークの双方が認められる。変異型のピークは、WI核酸の濃度に応じて大きくなっていることがわかる。
これに対して、図11(E)に示されるように、WI核酸を含まない試料5−5では、変異型を示す51℃付近のピークは明瞭でなかった。
【0132】
このように本発明によれば、簡便に且つ高感度にEGFRエクソン19における多型を簡便にかつ感度よく検出することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(P1)及び(P’)からなる群より選択された少なくとも1種であるEGFRエクソン19遺伝子多型検出試験用オリゴヌクレオチド:
(P1)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示される塩基配列の少なくとも115番目〜123番目の塩基を含む塩基長9〜80の塩基配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド;
(P1’)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示される塩基配列の少なくとも115番目〜123番目の塩基を含む塩基長9〜80の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチド。
【請求項2】
下記(P2)及び(P2’)からなる群より選択された少なくとも1種である請求項1記載の多型検出試験用オリゴヌクレオチド:
(P2)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示す塩基配列の少なくとも104番目〜123番目の塩基を含む塩基長20〜80の塩基配列に対して少なくとも80%以上の同一性を有するオリゴヌクレオチド。
(P2’)3’末端側が伸長阻害処理され、配列番号1で示す塩基配列の少なくとも104番目〜123番目の塩基を含む塩基長20〜80の塩基配列の相補鎖に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするオリゴヌクレオチド。
【請求項3】
前記(P2)又は(P2’)のオリゴヌクレオチドは、前記104番目の塩基に対応する塩基を5’末端から数えて1〜3番目の位置に有する、請求項2に記載の多型検出用試験用オリゴヌクレオチド
【請求項4】
前記(P2)又は(P2’)のオリゴヌクレオチドは、前記104番目の塩基に対応する塩基を5’末端に有する請求項2に記載の多型検出用試験用オリゴヌクレオチド
【請求項5】
前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基長が25〜50である請求項1〜4のいずれか一項記載の多型検出用試験用オリゴヌクレオチド。
【請求項6】
前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基長が26〜42である請求項1〜4のいずれか一項記載の多型検出用試験用オリゴヌクレオチド。
【請求項7】
前記3’末端側の伸長阻害処理がリン酸基の付加である請求項1〜請求項6のいずれか一項記載の多型検出試験用オリゴヌクレオチド。
【請求項8】
前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基配列上の塩基が、蛍光色素により標識されている請求項1〜請求項7のいずれか一項記載の多型検出試験用オリゴヌクレオチド。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか一項記載の多型検出試験用オリゴヌクレオチドを少なくとも1種用いてEGFRエクソン19遺伝子の多型を検出すること
を含むEGFRエクソン19遺伝子の多型を検出する多型検出方法。
【請求項10】
配列番号1で示される塩基配列を有する一本鎖核酸を含み得る試料核酸を用意すること、
前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドと前記一本鎖核酸とを接触させて、該多型検出試験用オリゴヌクレオチド及び該一本鎖核酸を含み且つ該一本鎖核酸の核酸増幅が抑制されるハイブリッドを得ること、
該多型検出試験用オリゴヌクレオチドと該一本鎖核酸との接触時又は接触後の前記核酸試料に対して核酸増幅を行うこと、
を含む請求項9記載の多型検出方法。
【請求項11】
前記核酸増幅を、標的とするEGFRエクソン19遺伝子の多型部位を含む核酸にハイブリダイズ可能なプローブの存在下で行う請求項10記載の多型検出方法。
【請求項12】
前記プローブが、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基配列に対して45%以上の同一性を有する請求項11記載の多型検出方法。
【請求項13】
前記プローブが、標的配列にハイブリダイズしていないときに蛍光を発し、該標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少するプローブである請求項11又は請求項12記載の多型検出方法。
【請求項14】
請求項9〜請求項13のいずれか一項記載の多型検出方法によりEGFRエクソン19遺伝子における多型を検出すること、及び、
前記検出結果に基づいてEGFRチロシンキナーゼ阻害剤に対する耐性又はEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の薬効を判定すること、
を含むEGFRチロシンキナーゼ阻害剤の薬効判定方法。
【請求項15】
少なくとも1種の請求項1〜請求項8のいずれか一項記載の多型検出試験用オリゴヌクレオチド、
を含むEGFR多型検出試験用試薬キット。
【請求項16】
更に、標的とするEGFRエクソン19遺伝子の多型部位を含む核酸配列にハイブリダイズ可能なプローブを含む請求項15記載のEGFR多型検出試験用試薬キット。
【請求項17】
前記プローブが、前記多型検出試験用オリゴヌクレオチドの塩基配列に対して45%以上の同一性を有する請求項16記載のEGFR多型検出試験用試薬キット。
【請求項18】
更に、前記標的とするECGRエクソン19遺伝子多型部位を含む核酸配列を増幅可能なプライマーセットを含む請求項15〜請求項17のいずれか一項記載のEGFR多型検出試験用試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−249630(P2012−249630A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−94081(P2012−94081)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】