説明

EGRクーラの冷却効率算出装置、およびこれを利用した内燃機関の制御装置

【課題】EGRクーラの冷却効率算出装置、およびこれを利用した内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】EGRクーラ32の入口におけるEGRガスの温度Tex1から、EGRクーラ32によるEGRガスの温度低下分を差し引くことにより、EGRクーラ32の出口におけるEGRガスの温度Tex2を求めることができる。このEGRガスの温度低下分は、EGRクーラ32の実熱伝達率hEGRから求めたEGRクーラ効率ηEGRに基づいて算出する。実熱伝達率hEGRは、EGRクーラ32から冷却水への移動熱量QEGRから算出する。移動熱量QEGRは、冷却水の受熱総量Qと、気筒10から冷却水が受ける熱量である受熱量Qcylとから算出する。受熱総量Qは、サーモスタット42の開弁率rから求める。受熱量Qcylは、筒内圧から求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、EGRクーラの冷却効率算出装置、およびこれを利用した内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開2009−114871号公報に開示されているように、外部EGRシステムを備える内燃機関において、EGRクーラの放熱量(冷却効率)を求め、その冷却効率の値に基づいて各種制御を行う内燃機関の制御装置が知られている。
【0003】
上記従来の技術においては、内燃機関の外部EGRガス通路に、2つの温度センサが取り付けられる。これら2つの温度センサのうち、1つは外部EGRガス通路内のEGRクーラ上流側に設けられ、他の1つは外部EGRガス通路内のEGRクーラ下流側に設けられる。この構成によれば、2つの温度センサの出力に基づいて、EGRクーラの通過前後のEGRガス温度を検出することができる。2つの温度センサの出力に基づいて得たEGRクーラの通過前後のEGRガス温度に基づいて、EGRクーラの冷却効率を求めることができる。
【0004】
EGRクーラの冷却効率は、気筒に還流されるEGRガスの温度に影響を与える。よって、EGRクーラの冷却効率の実際の値を把握することは、EGR制御を行う上で重要な事項となる。この点、上記従来の技術によれば、EGRクーラの冷却効率をセンサ出力に基づいて算出することにより、EGRガスの温度に応じてEGR制御を的確に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−114871号公報
【特許文献2】特開2004−211560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来のEGRクーラ冷却効率算出技術は、EGRガス温度を温度センサを用いて直接に測定する手法に頼っている。
【0007】
ところで、内燃機関の冷却系には、冷却液が流れる冷却液通路、ラジエータ、この冷却液通路およびラジエータとの間に介在するサーモスタットといった各種機器が含まれている。冷却液通路は、内燃機関本体の内部を延びており、冷却液を流通させることによって内燃機関本体を冷却する。
【0008】
外部EGRシステムは、EGRガスを冷却するためのEGRクーラを有している。EGRクーラの冷却も、内燃機関の冷却系の機能を用いて内燃機関本体の冷却と共通に行われる。
【0009】
冷却液通路を流れる冷却液は、内燃機関本体およびEGRクーラから熱を受け取り、その熱はラジエータにおいて放熱される。つまり、冷却系内の冷却液の流通の過程において、サーモスタットを境にして、ラジエータ側と、内燃機関およびEGRクーラ側との間で熱が授受されている。そこで、本願発明者は、冷却液の熱収支の関係を解くことにより、上記従来技術にかかる温度センサによるEGRガス温度の直接測定とは異なる手法によって、EGRクーラ冷却効率を算出する手法を見出した。
【0010】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、内燃機関の冷却系における冷却液の熱収支に基づいて、EGRクーラの冷却効率を算出することができるEGRクーラの冷却効率算出装置、およびこれを利用した内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、EGRクーラの冷却効率算出装置において、
内燃機関の気筒内にEGRガスを還流する外部EGR通路と、前記外部EGR通路を流れるEGRガスを冷却するためのEGRクーラと、内部に冷却液が流通し、ラジエータと接続し、前記内燃機関の前記気筒の周囲に延び且つ前記EGRクーラと接続する冷却液通路と、前記冷却液通路と前記ラジエータとの間に介在するサーモスタットと、を備えた内燃機関における前記EGRクーラの冷却効率を算出する冷却効率算出装置であって、
前記サーモスタットの開弁率に基づいて、前記冷却液通路内の冷却液の受熱総量を算出する受熱総量算出手段と、
前記内燃機関の前記気筒での燃焼によって前記冷却液通路の前記冷却液が前記内燃機関から受けた熱量である燃焼受熱量を算出する燃焼受熱量算出手段と、
前記受熱総量と前記燃焼受熱量から、前記EGRクーラから前記冷却液通路の前記冷却液へ移動した熱量である移動熱量を算出する移動熱量算出手段と、
前記冷却液通路の前記EGRクーラ入口側における前記冷却液の温度を取得する入口冷却液温度取得手段と、
前記移動熱量算出手段で算出した前記移動熱量と、前記入口冷却液温度取得手段で取得した前記温度と、に基づいて、前記EGRクーラの冷却効率を算出する冷却効率算出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0012】
また、第2の発明は、上記第1の発明において、
前記冷却効率算出手段が、前記移動熱量算出手段で算出した前記移動熱量と前記EGRクーラ入口冷却液温度取得手段で取得した前記温度とに基づいて前記EGRクーラの実熱伝達率を算出する実熱伝達率算出手段を、含み、
さらに、
前記EGRクーラに流れ込むEGRガスの温度を取得する入口ガス温度取得手段と、
前記実熱伝達率算手段で算出した前記実熱伝達率に基づいて、前記EGRクーラを通過することによるEGRガスの温度低下量を算出する温度低下量算出手段と、
前記入口ガス温度取得手段で算出した前記温度と、前記温度低下量算出手段で算出した前記温度低下量と、に基づいて、前記EGRクーラ下流におけるEGRガスの温度を算出するEGRガス温度算出手段と、
を備えることを特徴とする。
【0013】
第3の発明は、内燃機関の制御装置において、
気筒内にEGRガスを還流する外部EGRシステムと、
前記外部EGRシステムを経由して還流されるEGRガスを冷却するためのEGRクーラと、
内部に冷却液が流通し、ラジエータと接続し、前記内燃機関の前記気筒の周囲に延び且つ前記EGRクーラと接続する冷却液通路と、
前記冷却液通路と前記ラジエータとの間に介在するサーモスタットと、
を備える内燃機関を制御する制御装置であって、
前記EGRクーラの冷却効率または前記EGRクーラ下流におけるEGRガスの温度を算出する、上記第1または2の発明にかかるEGRクーラの冷却効率算出装置と、
前記サーモスタットの開弁率を入力情報として前記EGRクーラの冷却効率算出装置が算出した前記EGRクーラの冷却効率または前記EGRガスの前記温度に基づいて、前記外部EGRシステムを制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、内燃機関の冷却系における冷却液の熱収支に基づいて、EGRクーラの冷却効率を算出することができる。すなわち、サーモスタットは、冷却液の温度調節の目的のために冷却液温度に応じて開弁率を変化させる。サーモスタットの開弁率から求めた冷却液の受熱総量と、気筒内の燃焼により冷却液が受けた熱量と、に基づき、EGRクーラから冷却液に移動した移動熱量を算出することができる。EGRクーラ入口側における冷却液の温度と、EGRクーラから冷却液への移動熱量とがわかれば、それらの関係からEGRクーラの冷却効率を算出することができる。
【0015】
第2の発明によれば、内燃機関の冷却系における冷却液の熱収支の関係を解いて得た熱伝達率を用いて、EGRクーラ下流におけるEGRガスの温度を算出することができる。
【0016】
第3の発明によれば、第1または第2の発明で得られたEGRクーラ冷却効率或いはEGRガス温度を用いて、外部EGRシステムを制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態にかかる、EGRクーラの冷却効率算出装置およびこれを備えた内燃機関の構成を示す。
【図2】本発明の実施の形態におけるEGRクーラの冷却効率算出手法を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態においてECUが実行するルーチンのフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態においてEGRクーラの入口におけるEGRガスの温度を算出するためのルーチンのフローチャートを示す。
【図5】本発明の実施の形態において用いられるマップの一例である。
【図6】本発明の実施の形態において用いられるマップの一例である。
【図7】本発明の実施の形態において用いられるマップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
実施の形態.
[実施の形態の構成]
図1は、本発明の実施の形態にかかる、EGRクーラの冷却効率算出装置およびこれを備えた内燃機関2の構成を示す図である。本実施形態にかかるEGRクーラの冷却効率算出装置、および内燃機関2は、車両用内燃機関として好適に用いることができる。
【0019】
本実施形態にかかる内燃機関2は、図1に示すように、気筒10を備えている。本実施形態では、便宜上、1つの気筒を図示して説明を行う。ただし、本発明が搭載される内燃機関の構成は本実施形態で例示するものに限られず、本発明が対象とする内燃機関の具体的構成(気筒数や気筒配列方式、ディーゼル、ガソリンの別、その他)について限定はない。
【0020】
気筒10には、ピストン12が備えられている。ピストン12は、クランクシャフト14と連結している。内燃機関2は、気筒10と吸気ポートの間に介在する吸気バルブ20と、気筒10と排気ポートとの間に介在する排気バルブ22を備えている。また、気筒10は、そのシリンダヘッドに、燃焼室内に突出するように、点火プラグ16および筒内圧センサ18を備えている。吸気バルブ20の上流側には、吸気ポート、サージタンク、スロットル24を含む吸気通路が備えられている。
【0021】
内燃機関2は、EGRガス通路30、EGRバルブ34、およびEGRクーラ32を含む外部EGRシステムを備えている。EGRガス通路30は、一端が排気ポートと、他端が吸気ポートと連通している。排気ガスが、EGRガス通路30を通って、EGRクーラ32で所定温度に低下させられた状態であって且つEGRバルブ34の開度に応じた流量で、気筒10へと再循環させられる。
【0022】
内燃機関2は、冷却液通路40を備えている。冷却液通路40は、図1に示すように、気筒10およびEGRクーラ32の周囲を延びることにより、冷却液(エンジン冷却水であり、以下、単に「冷却水」と称す)によってそれらを冷却することができる。冷却液通路40における気筒10下流側には、エンジン冷却水温センサ46が備えられている。エンジン冷却水温センサ46は、気筒10下流位置における冷却水の温度を検知する。冷却液通路40の途中には、ラジエータ44、サーモスタット42、およびウォーターポンプ(図示略)が備えられている。
【0023】
内燃機関2には、ECU(Electronic Control Unit)50が備えられている。ECU50は、筒内圧センサ18、点火プラグ16、EGRバルブ34、サーモスタット42およびエンジン冷却水温センサ46と接続している。ECU50は、エンジン冷却水温センサ46の出力に基づいて冷却水温度Tを、筒内圧センサ18の出力に基づいて筒内圧Pcylを、それぞれ取得できる。また、ECU50はサーモスタット42に制御信号を与えており、サーモスタット42の現在の開弁率rも取得できる。
【0024】
なお、図示しないが、ECU50は、内燃機関2に取り付けられた各種センサ(例えば、エアフローメータ、クランクポジションセンサ、空燃比センサや酸素センサなどの排気ガスセンサ)とも接続する。また、ECU50は、図示しないが、内燃機関2の運転に係る各種アクチュエータ(例えば燃料噴射弁(不図示)のアクチュエータ、吸排気バルブの駆動機構のアクチュエータなど)とも接続する。
【0025】
[実施の形態のEGRクーラ冷却効率算出]
以下、本発明の実施の形態にかかるEGRクーラの冷却効率算出の内容を説明する。
【0026】
EGRクーラの冷却効率は、一般に、部品の劣化やデポジット・汚れの付着により、経時的に劣化する。また、製品バラツキによる冷却効率のばらつきもある。EGRクーラの冷却効率は、EGRクーラの出口におけるEGRガスの温度(つまり、気筒に還流されるEGRガスの温度)に影響を与える。仮に、EGRクーラ出口におけるEGRガスの温度を精度良く把握できないままEGR制御を行ってしまうと、各種の問題(例えば筒内空気量推定精度の悪化)を招いてしまう。こういった背景があるため、EGRクーラの冷却効率の実際の値を把握することは、EGR制御を行う上で重要な事項となる。
【0027】
そこで、本実施形態では、下記の(i)〜(v)の方針に従って冷却水の熱収支の関係を解くことにより、EGRクーラ32の出口におけるEGRガスの温度、およびEGRクーラ32の冷却効率を算出することにした。
【0028】
(i)EGRクーラ32の入口におけるEGRガスの温度Tex1を、排気温度と等しいと仮定し、筒内圧から求めておく。筒内圧Pcylは、筒内圧センサ18の出力から求めることができる。温度Tex1から、EGRクーラ32によるEGRガスの温度低下分を差し引くことにより、EGRクーラ32の出口におけるEGRガスの温度Tex2を求めることができる。
【0029】
(ii)EGRガスの温度低下分は、EGRクーラ32の冷却効率ηEGRに基づいて算出する。EGRクーラ効率ηEGRは、EGRクーラ32の実熱伝達率hEGRから求めることができる。
(iii)実熱伝達率hEGRは、EGRクーラ32から冷却水への移動熱量QEGRから算出する。
(iv)移動熱量QEGRは、冷却水の受熱総量Qと、気筒10から冷却水が受ける熱量である受熱量Qcylとから算出する。
【0030】
(v)受熱総量Qは、サーモスタット42の開弁率rから求める。受熱量Qcylは、筒内圧から求める。
本実施形態では、受熱総量Qをサーモスタット42の開弁率rから求める。冷却液通路40を流れる冷却水は気筒10から熱を受け取り、その熱はラジエータ44において放熱される。サーモスタット42は、冷却水の温度調節を目的として備えられる構成であり、冷却水の温度に応じてラジエータ44を通過する冷却水流量を調節すべく開弁率rを変化させる。内燃機関2の運転中に、冷却水の受熱量が多ければ、それに応じて冷却水の温度も上昇し、サーモスタット42の開弁率rも大きくなる。このような関係が成立しているため、サーモスタット42の開弁率rから、冷却水の熱収支を把握することが可能である。
【0031】
図2は、本発明の実施の形態におけるEGRクーラの冷却効率算出手法を説明するためのフローチャートである。図2のフローチャートにおいて、ステップS104,S106が、上記(v)のステップに、ステップS108が、上記(iv)のステップに、ステップS112が、上記(iii)のステップに、ステップS112、S114が、上記(ii)のステップに、ステップS116が、上記(i)のステップに、それぞれ相当している。
【0032】
以上説明したように、本実施形態によれば、内燃機関2の冷却系における冷却水の熱収支に基づいて、EGRクーラ32の冷却効率ηEGRを算出することができる。すなわち、サーモスタット42は、冷却水の温度調節の目的のために冷却水温度に応じて開弁率rを変化させる。サーモスタット42の開弁率rから求めた冷却水の受熱総量Qと、気筒10内の燃焼により冷却水が受けた受熱量Qcylと、に基づき、EGRクーラ32から冷却水に移動した移動熱量QEGRを算出することができる。EGRクーラ32入口側における冷却水の温度と、EGRクーラ32から冷却水への移動熱量QEGRとがわかれば、それらの関係からEGRクーラの冷却効率ηEGRを算出することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、サーモスタット42の開弁率rから求めた受熱総量を用いて、冷却水の熱収支の関係を解くことにより、EGRクーラ32の冷却効率ηEGRを算出することができる。サーモスタットは内燃機関の冷却系に通常備えられる部品である。本実施形態によれば、EGRクーラの出入口付近に温度センサを設けるなどの専用部品を必要とせずに、EGRクーラの冷却効率を算出することができる。
【0034】
[実施の形態の具体的処理]
図3は、本発明の実施の形態においてECU50が実行するルーチンのフローチャートである。図3のルーチンは、上述した図2のフローチャートの内容を具体化したものである。
【0035】
図3に示すルーチンでは、先ず、筒内圧Pおよび筒内容積Vが検出される(ステップS100)。このステップでは、筒内圧センサ18の出力や、例えばクランク角センサ(不図示)の出力に基づいて、筒内圧Pおよび筒内容積Vが算定される。
【0036】
続いて、燃焼による筒内増加熱量Qcombが算出される(ステップS120)。このステップでは、熱力学第1法則および気体の状態方程式に則り、下記の式に従って筒内増加熱量Qcombが算出される。
【数1】

ただし、上記の式において、SAは点火時期、EVOは排気バルブの開弁時期、κは比熱比である。
【0037】
次に、燃料の低位発熱量Qfuelが算出される(ステップS122)。燃料の低位発熱量は、噴射燃料種と質量とから一意に求めることができる。
【0038】
次に、受熱量Qcylが算出される(ステップS102)。受熱量Qcylは、気筒10から冷却水が受けた熱量である。このステップでは、下記の式に従って、受熱量Qcylが算出される。
【数2】

【0039】
一方、図3のルーチンでは、ステップS100〜S102の処理と並行して、サーモスタット42の開弁率rが算出される(ステップS104)。この開弁率rに基づいて、冷却水の受熱総量Qが算出される(ステップS106)。
開弁率rは、サーモスタット42への制御信号に基づいて、一定時間当たりにサーモスタット42が開かれている割合を求めることにより算定できる。具体的には、例えば過去60秒間の間に48秒開かれていればr=48(sec)/60(sec)=80%というように、求めることができる。また、時間以外にも、開度つまり流量断面積を考慮して開弁率rを求めても良い。
受熱総量Qについては、本実施形態では、図5に一例として示すようなマップを予め作成しておき、このマップをECU50に記憶させておく。例えば開弁率r=80%の場合には、図5において、横軸の0.8の値に対応するQが取得される。ECU50は、このマップを参照することにより、ステップS104で求めた開弁率rに応じた受熱総量Qを取得する。なお、変形例として、2次元マップとしてではなく、一次式として記憶しておいてもよい。
【0040】
次に、EGRクーラ32から冷却水への移動熱量QEGRが算出される(ステップS108)。このステップでは、下記の式に従い受熱総量Qから受熱量Qcylを減ずることにより、移動熱量QEGRが算出される。
【数3】

【0041】
また、EGRクーラ32の入口における冷却水温度TW,EGRの算出も行われる(ステップS110)。このステップでは、下記の式に従って、冷却水温度TW,EGRが産出される。
【数4】

上記の式において、Mは、冷却水流量[g/s]である。本実施形態では、Mとエンジン回転数とのマップ或いはそれらの一次式を予め作成してECU50に記憶しておくものとする。cは、定圧比熱[J/(g・K)]であり、定数或いはマップとして作成し、ECU50に記憶しておくものとする。
【0042】
次に、EGRクーラ32の実熱伝達率hEGRが算出される(ステップS112)。このステップでは、下記の式に従って、実熱伝達率hEGRが算出される。
【数5】

上記の式において、AEGRは、EGRクーラ32とEGRガス通路30との接触面積を示す。図1の構成図でも模式的に示しているように、接触面積AEGRは、EGRガス通路30を流れるEGRガスがEGRクーラ32と接する面積に相当する。接触面積AEGRは、例えば設計値や実験値から求めて事前にECU50に記憶しておく。
【0043】
ex1は、前述したようにEGRクーラ32の入口におけるEGRガスの温度であり、図4に示すルーチンに従って算出される。図4は、本実施形態においてEGRクーラ32の入口におけるEGRガスの温度Tex1を算出するためのルーチンのフローチャートを示す。図4のルーチンでは、先ず、下記の式に従って、筒内質量Mcylの算出が行われる(ステップS200)。
【数6】

上記の式において、筒内圧Pおよび容積Vのそれぞれの添え字のIVCは、吸気バルブ20の閉弁時の値を用いることを意味している。IVC時(吸気バルブ閉弁時)の筒内温度は、エンジン水温に等しいと仮定し、エンジン冷却水温センサ46から求める。Rは、気体定数である。
【0044】
次に、ステップS200で算出された筒内質量Mcylを用いて、下記の式に従って、温度Tex1が算出される(ステップS202)。
【数7】

上記の式において、筒内圧Pおよび容積Vのそれぞれの添え字のEVOは、排気バルブ22の開弁時の値を用いることを意味している。本実施形態では、EGRクーラ32の入口におけるEGRガスの温度Tex1は、EVO時(排気バルブ閉弁時)の筒内温度に等しいと仮定している。以上説明した図4のルーチン(サブルーチン)によって、EGRクーラ32の入口におけるEGRガスの温度Tex1を算出することができる。
【0045】
図3のステップS112において実熱伝達率hEGRが算出された後、図6のマップが参照されることにより、EGRクーラ冷却効率ηEGRが算出される(ステップS114)。図6に示すマップは一例として示すものであり、予めhEGRとηEGRの関係を実験等により定めてマップ化したものをECU50に記憶しておく。2次元マップに代えて、一次式として記憶させてもよい。
【0046】
以上の処理により、EGRクーラ32の冷却効率を算出することができる。
【0047】
図3のルーチンでは、続いて、EGRガス温度計数kが算出される(ステップS124)。このステップでは、図7のマップが参照されることにより、EGRクーラ冷却効率ηEGRの値に応じたEGRガス温度計数kが算出される。図7に示すマップは一例として示すものであり、予めηEGRとkの関係を実験等により定めてマップ化したものをECU50に記憶しておく。2次元マップに代えて、一次式として記憶させてもよい。
【0048】
続いて、下記の式に従って、EGRクーラ32の出口におけるEGRガスの温度Tex2が算出される(ステップS116)。
【数8】

【0049】
上記の式のうち、MEGRは、EGRガスの質量流量である。具体的には、図1の構成図においては、EGRバルブ34を通過する矢印位置のEGRガスの質量流量である。MEGRは、下記の式に従って算出される。但し、下記の式で、PinはPIVCつまり吸気バルブ閉弁時の筒内圧とし、PexはPIVOつまり吸気バルブ開弁時の筒内圧とする。Tex2は、前回値を使用する。
【数9】

上記の式の右辺において、SはEGRバルブ34の開口面積に相当し、φ(Pin/Pex)は流速に、Pex/(RTex21/2は密度に相当している。φ(Pin/Pex)の値は、下記の式で求められる。
【数10】

【0050】
以上の処理により、EGRクーラ32の出口におけるEGRガスの温度Tex2を求めることができる。
【0051】
なお、上述した実施の形態においては、ECU50が、図3のフローチャートにおける、上記ステップS104およびS106の処理を実行することにより前記第1の発明における「受熱総量算出手段」が、上記ステップS100、S120、S122およびS102の処理を実行することにより前記第1の発明における「燃焼受熱量算出手段」が、上記ステップS108の処理を実行することにより前記第1の発明における「移動熱量算出手段」が、上記ステップS110の処理を実行することにより前記第1の発明における「入口冷却液温度取得手段」が、上記ステップS114の処理を実行することにより前記第1の発明における「冷却効率算出手段」が、それぞれ実現されている。
【0052】
[実施の形態の変形例]
実施の形態では、EGRクーラ32の冷却効率ηEGRを求め、これを利用してEGRガスのEGRクーラ出口温度Tex2を算出した。この温度Tex2を用いて、EGRバルブ34の制御内容を補正するなど、EGRシステムの各種制御を行ってもよい。また、冷却効率ηEGRの算出値を、内燃機関2の制御に利用してもよい。実施の形態のEGRクーラ冷却効率算出の欄で述べたように、EGRクーラの冷却効率には、経時的な劣化やばらつきがある。EGRクーラの冷却効率はEGRガスの温度に影響を与えるので、EGRクーラの冷却効率の変化は、筒内空気量推定精度の悪化をはじめ内燃機関の各種制御に影響を及ぼす。この点に関し、本実施の形態で求めたEGRクーラ32の冷却効率ηEGRを、内燃機関2の各種制御(例えば筒内空気量推定に関する制御)に活用してもよい。或いは、EGRクーラ32の異常診断(異常判定)に用いても良い。具体的には、例えば、現在の冷却効率ηEGRの値が所定の目標値(基準値)に対して所定量以上大きく乖離しているか否かに基づいて、EGRクーラ32の異常判定を行うことができる。
【0053】
なお、本実施形態では、サーモスタット42として、ECU50からの電気信号により制御可能なタイプのサーモスタットを用いた。しかしながら本発明はこれに限られない。サーモスタットの具体的構成に特に限定は無く、サーモスタットの開弁率rを知るための構成が備えられていれば良い。
【符号の説明】
【0054】
2 内燃機関
10 気筒
12 ピストン
14 クランクシャフト
16 点火プラグ
18 筒内圧センサ
20 吸気バルブ
22 排気バルブ
24 スロットル
30 EGRガス通路
32 EGRクーラ
34 EGRバルブ
40 冷却液通路
42 サーモスタット
44 ラジエータ
46 エンジン水温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒内にEGRガスを還流する外部EGR通路と、前記外部EGR通路を流れるEGRガスを冷却するためのEGRクーラと、内部に冷却液が流通し、ラジエータと接続し、前記内燃機関の前記気筒の周囲に延び且つ前記EGRクーラと接続する冷却液通路と、前記冷却液通路と前記ラジエータとの間に介在するサーモスタットと、を備えた内燃機関における前記EGRクーラの冷却効率を算出する冷却効率算出装置であって、
前記サーモスタットの開弁率に基づいて、前記冷却液通路内の冷却液の受熱総量を算出する受熱総量算出手段と、
前記内燃機関の前記気筒での燃焼によって前記冷却液通路の前記冷却液が前記内燃機関から受けた熱量である燃焼受熱量を算出する燃焼受熱量算出手段と、
前記受熱総量と前記燃焼受熱量から、前記EGRクーラから前記冷却液通路の前記冷却液へ移動した熱量である移動熱量を算出する移動熱量算出手段と、
前記冷却液通路の前記EGRクーラ入口側における前記冷却液の温度を取得する入口冷却液温度取得手段と、
前記移動熱量算出手段で算出した前記移動熱量と、前記入口冷却液温度取得手段で取得した前記温度と、に基づいて、前記EGRクーラの冷却効率を算出する冷却効率算出手段と、
を備えることを特徴とするEGRクーラの冷却効率算出装置。
【請求項2】
前記冷却効率算出手段が、前記移動熱量算出手段で算出した前記移動熱量と前記EGRクーラ入口冷却液温度取得手段で取得した前記温度とに基づいて前記EGRクーラの実熱伝達率を算出する実熱伝達率算出手段を、含み、
さらに、
前記EGRクーラに流れ込むEGRガスの温度を取得する入口ガス温度取得手段と、
前記実熱伝達率算出手段で算出した前記実熱伝達率に基づいて、前記EGRクーラを通過することによるEGRガスの温度低下量を算出する温度低下量算出手段と、
前記入口ガス温度取得手段で算出した前記温度と、前記温度低下量算出手段で算出した前記温度低下量と、に基づいて、前記EGRクーラ下流におけるEGRガスの温度を算出するEGRガス温度算出手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のEGRクーラの冷却効率算出装置。
【請求項3】
気筒内にEGRガスを還流する外部EGRシステムと、
前記外部EGRシステムを経由して還流されるEGRガスを冷却するためのEGRクーラと、
内部に冷却液が流通し、ラジエータと接続し、前記内燃機関の前記気筒の周囲に延び且つ前記EGRクーラと接続する冷却液通路と、
前記冷却液通路と前記ラジエータとの間に介在するサーモスタットと、
を備える内燃機関を制御する制御装置であって、
前記EGRクーラの冷却効率または前記EGRクーラ下流におけるEGRガスの温度を算出する、請求項1または2に記載のEGRクーラの冷却効率算出装置と、
前記サーモスタットの開弁率を入力情報として前記EGRクーラの冷却効率算出装置が算出した前記EGRクーラの冷却効率または前記EGRガスの前記温度に基づいて、前記外部EGRシステムを制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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