説明

EGR通路、EGR通路の製造方法、及び、EGR通路内蔵シリンダヘッド

【課題】複数の偏平管を積層して構成したEGR通路において、偏平管を積層した際の厚みにばらつきが生じた場合でも、この積層体の端部をジョイント部材とのシール性を確保しつつ接続するために別途加工を行う必要がなく、作業コストを抑制することの可能な、EGR通路、EGR通路の製造方法、及び、EGR通路内蔵シリンダヘッドを提供する。
【解決手段】EGR通路内蔵シリンダヘッド11は、被挿入部52における上面部は、被挿入部本体53に対して分割されるとともに対向する側面部との距離を調整可能な調整板54として構成され、偏平管41・41・・・が積層されてその端部が被挿入部52に挿入された状態で、調整板54が偏平管41・41・・・の積層方向である下方向に押圧されることにより、それぞれの偏平管41・41・・・の端部が密着され、調整板54が被挿入部本体53に接合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGR通路、EGR通路の製造方法、及び、EGR通路内蔵シリンダヘッドに関し、詳しくは、EGR通路を内蔵するシリンダヘッドの製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジン等の内燃機関において、燃焼時に発生する窒素酸化物(NOx)の低減化や燃費向上を達成するために、排気再循環装置(EGR(Exhaust Gas Recirculation)装置)が用いられている。
窒素酸化物は、エンジン燃焼室の燃焼温度が高くなることによって、空気中の窒素が酸化して発生する。排気再循環装置は、不活性な(酸素量の少ない)気体となった排気ガスの一部(EGRガス)を、シリンダヘッドの排気側から吸気側に再び環流して吸入空気と混合させ、燃焼室内の燃焼温度を低下させることにより、発生する窒素酸化物の低減を図るものである。
【0003】
上記の排気再循環装置では、熱交換器用の伝熱管(EGR通路)をシリンダヘッドのウォータージャケットの内部に配設し、EGRガスをEGR通路が備える中空管の内部で流通させることにより、EGRガスを効率的に冷却する技術が用いられている。そして、そのような排気再循環装置の中空管として複数の偏平管を積層してEGR通路を構成し、この偏平管の間に冷却水を流通させることにより、EGRガスを効率的に冷却する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−232355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記従来技術においては、図7(a)に示す如く、筒状部材であるジョイント部材に偏平管の積層体の端部を挿入した状態で、ナットを用いてジョイント部材をシリンダヘッドに固定することにより、EGR通路をシリンダヘッドに組付けることがある。この場合、EGR通路において偏平管を積層した際の厚みにばらつきが生じた場合は、この積層体の端部をジョイント部材と接続するために別途加工が必要な場合があった。
【0006】
具体的には、図7(b)に示す如く、偏平管の積層体の厚みがジョイント部材の挿入口よりも大きい(図7(b)中の幅L1)場合は、そのままでは積層体をジョイント部材に挿入できないため、積層体の厚みを小さくする加工が必要であった。また、図7(c)に示す如く、偏平管の積層体の厚みがジョイント部材の挿入口より小さい(図7(c)中の幅L2)場合は接続部分のシール性及び溶接時の加工精度を確保するためにその隙間を埋める加工が必要であった。つまり、偏平管の積層体とジョイント部材とのシール性を確保しつつ接続するために、余分な工数が必要な場合があり、作業コストの増加の原因となっていたのである。
【0007】
そこで本発明は、上記現状に鑑み、複数の偏平管を積層して構成したEGR通路において、偏平管を積層した際の厚みにばらつきが生じた場合でも、この積層体の端部をジョイント部材とのシール性を確保しつつ接続するために別途加工を行う必要がなく、作業コストを抑制することの可能な、EGR通路、EGR通路の製造方法、及び、EGR通路内蔵シリンダヘッドを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、軸心方向の中途部における厚みが両端部よりも薄く形成された複数の偏平管と、前記複数の偏平管の端部が挿入される筒状の被挿入部と該被挿入部を支持する支持部とを有するカップ部材と、を備えるEGR通路であって、前記被挿入部における少なくとも一つの側面部は、被挿入部本体に対して分割されるとともに対向する側面部との距離を調整可能な調整板として構成され、前記偏平管が積層されてその端部が前記被挿入部に挿入された状態で、前記調整板が前記偏平管の積層方向、又は/及び、前記偏平管の積層方向と直交する方向に押圧されることにより、それぞれの前記偏平管の端部が密着され、前記調整板及び前記偏平管が前記被挿入部本体に接合されるものである。
【0010】
請求項2においては、軸心方向の中途部における厚みが両端部よりも薄く形成された複数の偏平管を積層する、積層工程と、筒状の被挿入部と該被挿入部を支持する支持部とを有するカップ部材において、少なくとも一つの側面部が被挿入部本体に対して分割されるとともに対向する側面部との距離を調整可能な調整板として構成された被挿入部に、前記偏平管の端部を挿入する、挿入工程と、前記調整板を前記偏平管の積層方向、又は/及び、前記偏平管の積層方向と直交する方向に押圧して、それぞれの前記偏平管の端部を密着させる、押圧工程と、前記調整板及び前記偏平管を前記被挿入部本体に接合する、接合工程と、を備えるものである。
【0011】
請求項3においては、前記カップ部材がヘッド部材に嵌合されることにより、請求項1に記載のEGR通路がウォータージャケットの内部に配設され、前記EGR通路の内部が前記カップ部材を介して、前記ウォータージャケットの外部である排気ポート側及び吸気ポート側と連通されるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0013】
本発明により、複数の偏平管を積層して構成したEGR通路において、偏平管を積層した際の厚みにばらつきが生じた場合でも、この積層体の端部をジョイント部材とのシール性を確保しつつ接続するために別途加工を行う必要がなく、作業コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第一実施形態に係るEGR通路を備えた内燃機関の概略図。
【図2】同じくEGR通路の組付け部分を示した断面図。
【図3】同じくEGR通路におけるカップ部材を示した斜視図。
【図4】(a)、(b)はそれぞれ偏平管の接合時の状態を示した図。
【図5】(a)から(e)はそれぞれの実施形態に係るEGR通路におけるカップ部材を示した断面図。
【図6】別実施形態に係るEGR通路の組付け部分を示した断面図。
【図7】(a)、(b)はそれぞれ従来技術に係るEGR通路の組付け部分を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0016】
[内燃機関10の構成]
まず始めに、本発明の一実施形態に係るEGR通路を内蔵するシリンダヘッド11を備えた内燃機関10の概略について、図1を用いて説明する。なお、本明細書においては説明の便宜上、図1における上側及び下側をそれぞれ内燃機関10の上方及び下方とし、同じく左側及び右側を内燃機関10の左側方及び右側方とし、同じく紙面手前側及び紙面奥行側を内燃機関10の前方及び後方として説明する。
【0017】
図1に示す如く、内燃機関10はシリンダブロック21の上面にシリンダヘッド11が配設されて構成される。そして、シリンダヘッド11には、スロットルバルブ22aを備える吸気管22、及び、排気管23が接続されている。
シリンダブロック21には、上面に開口部を有する円筒形状のシリンダ21aが形成されており、シリンダ21aの内部には図示しないピストンがシリンダ21aの軸心方向に往復して摺動可能に収容されている。
【0018】
シリンダヘッド11の内部には燃焼室14が形成されており、シリンダヘッド11がシリンダブロック21に配設された際には、燃焼室14はシリンダブロック21のシリンダ21aと連通される。また、燃焼室14には図示しない点火プラグが配設される。
シリンダヘッド11の内部には、吸気管22と燃焼室14とを連通する吸気ポート12が形成されており、吸気ポート12の燃焼室14を挟んだ反対側の位置には、排気管23と燃焼室14とを連通する排気ポート13が形成されている。吸気ポート12及び排気ポート13には、燃焼室14に対して開閉するための図示しない吸気弁及び排気弁がそれぞれ設けられる。
【0019】
また、シリンダヘッド11の内部には排気ポート13等を冷却するために、中空状のウォータージャケット15が形成されている。ウォータージャケット15の内部には図示しない冷却水が満たされており、シリンダヘッド11の外部において図示しない冷却ポンプやラジエータと接続されている。そして、冷却ポンプを駆動させることによって、ウォータージャケット15の内部を冷却水が流通し、シリンダヘッド11の内部を冷却するように構成されている。本実施形態においては、冷却水はウォータージャケット15の内部を前後方向に向かって流れるように構成されている。
【0020】
内燃機関10は、EGRパイプ31、EGRクーラーであるEGR通路40、及び、EGRバルブ32で構成されるシリンダヘッド11の排気再循環装置を備える。EGR通路40は、複数の偏平管41・41・・・と、偏平管41・41・・・の両端部に連結された、第一カップ部材49及び第二カップ部材50と、を備えている。そして、EGR通路40は、シリンダヘッド11におけるウォータージャケット15の内部に配設され、EGR通路40の内部(各偏平管41・41・・・の内部)はシリンダヘッド11に嵌合される第一カップ部材49及び第二カップ部材50を介して、ウォータージャケット15の外部と連通される。
【0021】
EGR通路40は、冷却装置に配設され、冷却対象を冷却するための部材であって、図1に示す如く、左右に長手方向を有する長尺部材である。EGR通路40には、例えば冷却される対象である高温のEGRガス等が流通する、複数の偏平管41・41・・・が軸心を左右方向に向けて配設されている。本実施形態において、それぞれの偏平管41・41・・・は、上下に平面を有する略平筒形状に形成され、軸心方向の中途部における厚みが両端部よりも薄く形成されている(図2及び図3を参照)。そして、各偏平管41・41・・・が上下方向に積層されてEGR通路40における冷却通路を構成しているのである。
【0022】
それぞれの偏平管41・41・・・の製造方法は、一枚の板状部材を管状にして閉じる方法や、二枚の板状部材の端部を接合する方法、円管状のパイプを押し潰して変形させる方法などがあるが、その方法は限定されるものではない。
【0023】
そして、それぞれの偏平管41・41・・・における軸心方向の中途部の間隙には、例えば冷却水が流通する、流通経路が形成されている。つまり、EGR通路40は、偏平管41・41・・・の間に形成された流通経路に冷却水を流通させながら、偏平管41・41・・・内において左右方向に冷却対象を流通させることにより、冷却対象を冷却する構成としている。
このように、EGR通路40においては、冷却対象の流通路である複数の偏平管41・41・・・が長手方向に形成されるとともに、各偏平管41・41・・・の間に冷却水が流通する流通経路が形成されている。
【0024】
EGRパイプ31は、シリンダヘッド11の排気ポート13の配設側、つまりEGR通路40における右側である第一カップ部材49の側に配設され、排気管23とEGR通路40における第一カップ部材49とを連通している。また、EGRバルブ32は、シリンダヘッド11の吸気ポート12の配設側、つまりEGR通路40における左側である第二カップ部材50の側に配設され、第二カップ部材50と吸気管22の間に介装されて両者を連通している。換言すれば、EGR通路40は、シリンダヘッド11の内部に配置されて、EGRパイプ31とEGRバルブ32とを連通するのである。
【0025】
上記の如く構成された内燃機関10においては、スロットルバルブ22aが開かれることにより、図1中の矢印Aに示す如く吸気管22に空気が流入する。そして、図1中の矢印Bの如く吸気ポート12を通じてシリンダヘッド11に空気が流入し、燃料とともに燃焼室14で燃焼する。その後、排気ガスが図1中の矢印Cの如くシリンダヘッド11から排気ポート13を通じて流出し、さらに図1中の矢印Dの如く排気管23を通じて外気に排出されるのである。
【0026】
内燃機関10の駆動中にEGRバルブ32が開かれると、排気ガスの一部(EGRガス)が図1中の矢印Eの如くEGRパイプ31に流入する。そして、EGRガスは図1中の矢印Fの如くEGR通路40へと導かれ、EGR通路40を流通する際にウォータージャケット15の内部を流れる冷却水によって冷却される。その後、EGRガスは図1中の矢印Gの如く、EGRバルブ32を介して吸気管22へと還流されるのである。
【0027】
内燃機関10においては上記の如く、本実施形態に係るシリンダヘッド11の排気再循環装置を駆動させることにより、不活性な(酸素量の少ない)気体となったEGRガスをシリンダヘッド11の排気管23から吸気管22に再び環流して吸入空気と混合させている。これにより、燃焼室14の内部の燃焼温度を低下させることで窒素酸化物の低減化を図っているのである。
【0028】
[EGR通路40の構成]
次に、EGR通路40の構成について、図2及び図3を用いて説明する。なお、第一カップ部材49と第二カップ部材50との形状や構成については略同一のため、本実施形態においては第二カップ部材50のみを説明し、第一カップ部材49の詳細な説明は省略する。
【0029】
ヘッド部材であるシリンダヘッド11には、EGR通路40が組みつけられる。具体的には図2及び図3に示す如く、第二カップ部材50は、偏平管41の幅と略同一の内幅を有する角筒状の被挿入部52と、被挿入部52を支持する支持部51とを有している。支持部51は、短円筒形状の外周部51aと、外周部51aの一端側から外周部51aの内部を通って反対側に突出し、その先に被挿入部52が配設される内周部51bと、を備える。外周部51aの上下側のそれぞれには、第二カップ部材50をシリンダヘッド11に固定する際にシリンダヘッド11に当接する突起部55が上方及び下方に突出して形成されている。
【0030】
そして、偏平管41・41・・・が積層された積層体の端部が被挿入部52に挿入されて接合された状態で、第二カップ部材50がシリンダヘッド11に挿入されることにより、EGR通路40がシリンダヘッド11に組付けられるのである。なお、この際には、反対側の第一カップ部材49も同時にシリンダヘッド11に挿入されることになる。
【0031】
偏平管41・41・・・の積層体の端部を第二カップ部材50の被挿入部52に挿入してEGR通路40を構成する方法について、より詳細に説明する。
被挿入部52における一つの側面部である上面部は、右側方視で略U字状に形成された被挿入部本体53に対して分割されるとともに対向する側面部である下面部との距離を調整可能な調整板54として構成されている(図5(a)を参照)。そして、偏平管41・41・・・の積層体の端部を被挿入部本体53に挿入した状態で、図3中の矢印aに示す如く調整板54が偏平管41・41・・・の積層方向である下方向に押圧されるのである。これにより、それぞれの偏平管41・41・・・の端部が密着される。
【0032】
その後、調整板54及び偏平管41・41・・・が溶接等により被挿入部本体53に接合されるのである。
このように、偏平管41・41・・・の積層体の両端部に第一カップ部材49及び第二カップ部材50が接合されることにより、EGR通路40が形成されるのである。
【0033】
上記の如く、EGR通路40の製造方法は、積層工程と、挿入工程と、押圧工程と、接合工程と、を備える。
具体的には、積層工程においては、軸心方向の中途部における厚みが両端部よりも薄く形成された複数の偏平管41・41・・・を積層し、積層体を形成するのである。
次に、挿入工程においては、筒状の被挿入部52と被挿入部52を支持する支持部51とを有する第二カップ部材50において、一つの側面部が被挿入部本体53に対して分割されるとともに対向する側面部との距離を調整可能な調整板54として構成された被挿入部52に、偏平管41・41・・・の積層体の端部を挿入するのである。
次に、押圧工程においては、調整板54を偏平管41・41・・・の積層方向である下方に押圧して、それぞれの偏平管41・41・・・の端部を密着させるのである。
そして、接合工程においては、調整板54及び偏平管41・41・・・を溶接等により被挿入部本体53に接合するのである。
【0034】
本実施形態においては上記の如く構成することにより、偏平管41・41・・・を積層した際の積層体の厚みにばらつきが生じた場合でも、積層体の端部を第二カップ部材50とのシール性を確保しつつ接続するための加工を不要とすることが可能となる。具体的には、偏平管41・41・・・の積層体の厚みが異なった場合でも、図3に示す如く積層方向から調整板54で押圧する構成としているため、偏平管41・41・・・の積層体の端部を密着させることができる。
【0035】
また、偏平管41・41・・・の積層体の厚みが大きい場合でも調整板54を被挿入部本体53に対して分割する構成としているため、積層体の端部を被挿入部52に挿入することが可能となる。加えて、偏平管41・41・・・の積層体の厚みが小さい場合でも、積層方向から調整板54で押圧する構成としているため、被挿入部52との間に隙間が生じない。つまり、偏平管41・41・・・の積層体と第二カップ部材50とのシール性を確保しつつ接続するための余分な工数が不要となるため、作業コストを抑制できるのである。
【0036】
被挿入部本体53における上側で、調整板54が配置される部分よりも左側には、偏平管41・41・・・の積層体の端部が当接するように、偏平管41・41・・・の軸心方向に対して直交する方向に受け面53aが形成されている。そして、受け面53aの高さ寸法hは以下の数式1で定められている。
【0037】
【数1】

【0038】
上記数式1において、hplは偏平管41・41・・・の積層体における厚みの最大値、hpsは偏平管41・41・・・の積層体における厚みの最小値、tは調整板54の厚みを示している。つまり、受け面53aの高さ寸法hは積層体の厚みにおける最大値と最小値の差に、調整板54の厚みを加えた長さに形成されているのである。
また、受け面53aの下辺は、偏平管41・41・・・の積層体における厚みが最小値hpsである場合の積層体の上辺よりもやや下側に位置するように配置されている。
【0039】
本実施形態に係る被挿入部52は上記の如く構成することにより、偏平管41・41・・・の積層体の厚みのばらつきを吸収する構成としている。つまり、積層体の厚みが最大となっても、最小となっても、調整板54の左側辺を受け面53aに当接させることができるため、偏平管41・41・・・の内部を外部と連通させずに接合することができるのである。
【0040】
上記の如く構成されたEGR通路40をシリンダヘッド11に組付ける際には、第一カップ部材49、偏平管41・41・・・、及び、第二カップ部材50の順に、シリンダヘッド11に開口された組付孔11aに挿入する。そして、第二カップ部材50の突起部55を組付孔11aに当接して、EGR通路40の位置決めを行う(この際、反対側の第一カップ部材49についても同様に組付孔(図1を参照)に挿入して位置決めを行う)。さらに、中空の円筒状に形成されたナット60の雄ねじ部61を、組付孔11aに形成された雌ねじ部11bに螺入することで、EGR通路40をシリンダヘッド11に固定するのである。
【0041】
なお、本実施形態においては上記の如くEGR通路40をナット60でシリンダヘッド11に固定する構成としたが、第一カップ部材49及び第二カップ部材50のそれぞれをシリンダヘッド11の固定孔に圧入するなど、異なる方法で組付ける構成とすることも可能である。
【0042】
[偏平管41の接合方法]
次に、偏平管41・41・・・の積層体を第二カップ部材50に接合する方法について、図4を用いて説明する。本実施形態においては、図4(a)及び(b)に示す如く、第二カップ部材50の内周部51bと被挿入部本体53との接続部分における内周側のうち、偏平管41・41・・・の積層方向と平行な辺に、二本の突起辺51c・51cが形成されている。
そして、EGR通路40を第二カップ部材50に溶接する際には、図示しないレーザー溶接機から突起辺51cにレーザーRを照射し、レーザーRを図4(a)に示す矢印rの如く突起辺51cに沿って走査するのである。
【0043】
本実施形態では上記の如く構成することにより、偏平管41・41・・・と被挿入部本体53との間に生じる隙間Sを、図4(b)に示す如く、レーザーRによって溶融した突起辺51cで埋めることができる。つまり、偏平管41・41・・・の曲線部と被挿入部本体53との間に発生する略三角形状の隙間Sを塞ぐことにより、EGR通路40を第二カップ部材50に組付ける際のシール性を確保する構成としているのである。
【0044】
[別実施形態]
次に、他の実施形態に係るEGR通路について、図5を用いて説明する。以下に記載するEGR通路については、第二カップ部材における被挿入部の構成のみが異なるため、当該部分のみを図示して説明することとする。
【0045】
前記第一実施形態に係る第二カップ部材50は、図5(a)に示す如く、一つの側面部である上面部が被挿入部本体53に対して分割された調整板54として構成されている。
一方、第二実施形態に係る第二カップ部材150は、図5(b)に示す如く、側面部である上面部及び下面部の二箇所が被挿入部本体153に対して分割された調整板154・155として構成されている。そして、偏平管41・41・・・の積層体の端部を被挿入部本体153に挿入し、その端面を受け面153aに当接させた状態で、図5(b)中の矢印bに示す如く調整板154・155を偏平管41・41・・・の積層方向である上下方向に押圧するのである。これにより、それぞれの偏平管41・41・・・の端部が密着される。その後、調整板154・155及び偏平管41・41・・・が被挿入部本体153に接合されるのである。
【0046】
また、第三実施形態に係る第二カップ部材250は、図5(c)に示す如く、側面部である上面部、前側面部、及び後側面部の三箇所が被挿入部本体253に対して分割された調整板254・255・256として構成されている。そして、偏平管41・41・・・の積層体の端部を被挿入部本体253の上に載置し、その端面を受け面253aに当接させた状態で、図5(c)中の矢印c1・c2に示す如く調整板254・255・256を偏平管41・41・・・の積層方向である上下方向、及び、前後方向に押圧するのである。これにより、それぞれの偏平管41・41・・・の端部が密着される。その後、調整板254・255・256及び偏平管41・41・・・が被挿入部本体253に接合されるのである。
【0047】
また、第四実施形態に係る第二カップ部材350は、図5(d)に示す如く、側面部である上面部、下面部、及び後側面部の三箇所が被挿入部本体353に対して分割された調整板354・355・356として構成されている。そして、偏平管41・41・・・の積層体の端部を被挿入部本体353に隣接させ、その端面を受け面353aに当接させた状態で、図5(d)中の矢印d1・d2に示す如く調整板254・255・256を偏平管41・41・・・の積層方向である上下方向、及び、前後方向に押圧するのである。これにより、それぞれの偏平管41・41・・・の端部が密着される。その後、調整板354・355・356及び偏平管41・41・・・が被挿入部本体353に接合されるのである。
【0048】
また、第五実施形態に係る第二カップ部材450は、図5(e)に示す如く、側面部である上面部、下面部、前側面部、及び後側面部の四箇所全てが被挿入部本体453に対して分割された調整板454・455・456・457として構成されている。そして、偏平管41・41・・・の積層体の端面を被挿入部本体の受け面453aに当接させた状態で、図5(e)中の矢印e1・e2に示す如く調整板454・455・456・457を偏平管41・41・・・の積層方向である上下方向、及び、前後方向に押圧するのである。これにより、それぞれの偏平管41・41・・・の端部が密着される。その後、調整板454・455・456・457及び偏平管41・41・・・が被挿入部本体に接合されるのである。
【0049】
上記の如く、第二カップ部材における被挿入部は、少なくとも一つの側面部が被挿入部本体に対して分割されるとともに対向する側面部との距離を調整可能な調整板として構成されれば良く、調整板の枚数は一枚に限定されるものではない。また、調整板による押圧方向は、偏平管41・41・・・の積層方向に限定されるものではなく、上記の如く積層方向と直交する方向に押圧する構成としたり、積層方向及び直交方向の双方に押圧する構成としたりすることも可能である。これにより、偏平管41・41・・・を積層する際に、偏平管41・41・・・が積層方向と直交する方向にずれた場合でも、その位置ずれを吸収することが可能となる。
【0050】
[第六実施形態]
次に、第六実施形態に係るEGR通路について、図6を用いて説明する。以下に記載するEGR通路については、第二カップ部材550をシリンダヘッド11に組み付ける構成のみが異なるため、当該部分のみを図示して説明することとする。また、前記第一実施形態と略同一の構成には同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0051】
第六実施形態に係る第二カップ部材550は、図6に示す如く、前記第一実施形態に係る第二カップ部材50と同様に被挿入部552と支持部551とを有している。支持部551は、短円筒形状の外周部551aと、外周部551aの一端側から外周部551aの内部を通って反対側に突出し、その先に被挿入部552が配設される内周部551bと、を備える。また、外周部551aと内周部551bとの接続部分には、図6に示す如く左側方に突出する突出部551dが輪状に形成されている。
【0052】
そして、中空の円筒状に形成されたナット560の雄ねじ部561を、組付孔11aに形成された雌ねじ部11bに螺入することで、EGR通路の第二カップ部材550をシリンダヘッド11に固定する。ナット560の内周面560aは、内側に突出して形成されている。そして、ナット560が螺入された際に内周面560aの右側で直交する右端面が外周部551aの左端面と当接することにより、第二カップ部材550が押圧され、固定されるのである。
【0053】
上記の構成において、ナット560の内周面560aはその内径Rが、第二カップ部材50の突出部551dにおける外径rよりも大きく形成されている。具体的には、図6に示す如く、内周面560aと突出部551dの外周面との間に所定の距離Dだけ離れた隙間が形成されているのである。換言すれば、突出部551dは、内周面560a内周面560aと直交する右端面と外周部551aの左端面との間の隙間Cを覆うようにして左側方に突出して形成されているのである。この隙間の距離Dは、水の表面張力による毛細管現象が生じない程度の間隔が確保されている。
【0054】
一方、EGR通路40の偏平管41・41・・・でEGRガスが冷却されると、EGRガスが偏平管41・41・・・の内部で液化して凝縮水が発生する場合がある。EGR通路40はシリンダヘッド11において、吸気ポート12の側に傾斜して配設されている(図1を参照)。このため、偏平管41・41・・・の内部で発生した凝縮水は吸気ポート側(図1における左側)に流れることになる。
【0055】
本実施形態においては上記の如く構成することにより、偏平管41・41・・・の内部で凝縮水が発生しても、凝縮水は図6中に示す矢印fの如く第二カップ部材550からナット560の側に流れることとなる。即ち、内周面560aと直交する右端面と外周部551aの左端面との間の隙間Cへの凝縮水の浸入を防ぐ構成としているのである。つまり、距離Dだけ離れた隙間には、毛細管現象によって凝縮水が入り込まない。また、上記の如く突出部551dが隙間Cを覆うように形成されており、さらにEGR通路40はシリンダヘッド11において左側に傾斜しているため、凝縮水が隙間Cの近傍に流れ込むことを防止できるのである。
【0056】
上記の如く、本実施形態においては凝縮水が内周面560aと直交する右端面と外周部551aの左端面との間の隙間Cへ入り込むのを防止している。これにより、凝縮水が滞留することによる第二カップ部材550やナット560の腐食を防止し、いわゆるすきま孔食が発生することを防いでいるのである。
【符号の説明】
【0057】
11 シリンダヘッド
40 EGR通路
41 偏平管
50 第二カップ部材
52 被挿入部
53 被挿入部本体
54 調整板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心方向の中途部における厚みが両端部よりも薄く形成された複数の偏平管と、前記複数の偏平管の端部が挿入される筒状の被挿入部と該被挿入部を支持する支持部とを有するカップ部材と、を備えるEGR通路であって、
前記被挿入部における少なくとも一つの側面部は、被挿入部本体に対して分割されるとともに対向する側面部との距離を調整可能な調整板として構成され、
前記偏平管が積層されてその端部が前記被挿入部に挿入された状態で、前記調整板が前記偏平管の積層方向、又は/及び、前記偏平管の積層方向と直交する方向に押圧されることにより、それぞれの前記偏平管の端部が密着され、
前記調整板及び前記偏平管が前記被挿入部本体に接合される、
ことを特徴とする、EGR通路。
【請求項2】
軸心方向の中途部における厚みが両端部よりも薄く形成された複数の偏平管を積層する、積層工程と、
筒状の被挿入部と該被挿入部を支持する支持部とを有するカップ部材において、少なくとも一つの側面部が被挿入部本体に対して分割されるとともに対向する側面部との距離を調整可能な調整板として構成された被挿入部に、前記偏平管の端部を挿入する、挿入工程と、
前記調整板を前記偏平管の積層方向、又は/及び、前記偏平管の積層方向と直交する方向に押圧して、それぞれの前記偏平管の端部を密着させる、押圧工程と、
前記調整板及び前記偏平管を前記被挿入部本体に接合する、接合工程と、を備える、
ことを特徴とする、EGR通路の製造方法。
【請求項3】
前記カップ部材がヘッド部材に嵌合されることにより、請求項1に記載のEGR通路がウォータージャケットの内部に配設され、
前記EGR通路の内部が前記カップ部材を介して、前記ウォータージャケットの外部である排気ポート側及び吸気ポート側と連通される、
ことを特徴とする、EGR通路内蔵シリンダヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−241595(P2012−241595A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111509(P2011−111509)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】