説明

EL蛍光体の製造方法

【課題】高輝度のエレクトロルミネッセンス素子を製造するのに適した小粒径のエレクトロルミネッセンス用蛍光体粒子を製造するための方法を提供すること。
【解決手段】本発明者は、II-VI族化合物半導体を母体とする蛍光体前駆体とハロゲン含有融剤とを含む混合物を焼成する際に、焼成温度では融解するが、蛍光体前駆体とは反応しない化合物を粒子成長抑制剤として該混合物に添加することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロルミネッセンス特性を示す蛍光体(以下「EL蛍光体」という)の製造方法に関する。より詳細には、本発明は、高輝度のエレクトロルミネッセンス素子(以下「EL素子」という)の製造原料として有用なII-VI族化合物半導体系EL蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に蛍光体は、母体となる無機固体化合物に、発光中心として機能し得る微量の金属元素(付活剤)を添加(ドーピング)し、これを更に焼成することによって製造される。例えば、代表的なII-VI族化合物半導体の母体材料である硫化亜鉛は、ドーパントとして銅などの付活剤とハロゲンなどの共付活剤を添加して焼成すると、EL蛍光体が得られる。しかしながら、従来の製造方法により得られるEL蛍光体は、EL素子に加工した場合に様々な用途への実用化が期待できるほどの高いEL輝度を示さないことから、高輝度のEL素子の開発が求められている。
【0003】
粒径サイズの小さな蛍光体粒子を用いることによって、発光層への蛍光体粒子の充填密度の向上と、発光層の膜厚の薄膜化が可能で、発光層内の電界を高めて輝度を上げることができると考えられている。
【0004】
ところで、付活金属として銅がドープされた硫化亜鉛EL蛍光体は、面状の積層欠陥を高密度に有しており、EL発光が、主に積層欠陥に析出した硫化銅の寄与によるものであることが知られている。また、硫化亜鉛系蛍光体中の緻密な積層欠陥は、硫化亜鉛系蛍光体前駆体を焼成して、その結晶構造を立方晶から六方晶に転移させてから、該蛍光体に衝撃を付与し、その後、再度、焼成を行って立方晶への転移を促すという処理手順を経ることにより、形成されることが知られている(特許文献1)。そのため、高輝度のEL蛍光体を得る目的で高密度の積層欠陥を形成するためには、硫化亜鉛系蛍光体前駆体を、立方晶から六方晶への転移温度(1020℃)を超える温度で焼成する必要があるが、反面、このような高温での焼成は蛍光体粒子の成長を促進することになるため、銅がドープされた硫化亜鉛EL蛍光体を小粒径の粒子として得ることは困難であった。
【0005】
他方、これまでに小粒径の蛍光体粒子を得るために種々の方法が試みられてきた。小粒径の蛍光体粒子を得るための一般的な手法としては、低い焼成温度で焼成を行う方法、融剤の使用量を減らして焼成を行う方法、蛍光体粒子を粉砕する方法、蛍光体粒子を分級する方法などがあるが、硫化亜鉛系蛍光体の場合、低い焼成温度で焼成を行うと六方晶への転移が起こらないために積層欠陥が緻密にならず、EL輝度が低下するという問題がある。また、融剤の使用量を減らして焼成を行うと共付活剤の供給が不足してEL輝度が低下するという問題がある。さらにまた、蛍光体の粉砕はEL輝度の低下や形状の悪化を招くため好ましくなく、分級では収率が低下するため、小粒径の蛍光体の製造方法としては好ましくない。
【0006】
そこで、焼成温度や融剤使用量の調整を行わずに蛍光体粒子の粒径を小さくするための試みとして、粒子成長抑制剤として酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなどの固体酸化物を添加することにより、小粒径蛍光体を得る方法が報告されている(例えば特許文献2、3参照)。
【0007】
また、蛍光体の母体となる無機固体化合物の結晶構造を低温相から高温相に転移させるための高温焼成を実施する前に、600℃〜900℃での低温焼成を実施することで、蛍光体の粒径を小さくすることができることが報告されている(例えば特許文献1、4参照)。
【0008】
さらに別の技術的なアプローチとして、使用するハロゲン含有融剤を増量することで、蛍光体を小粒径化できることが報告されている(例えば特許文献5参照)。
特許文献2、3では、固体粉末状の粒子成長抑制剤が使用されているが、該粒子成長抑制剤が焼成温度内で融解したことを示唆する記載は存在しない。固体の粒子成長抑制剤は、焼成時に蛍光体の間を埋めることにより蛍光体の粒子同士が接触する機会を減少させて、粒子成長を抑制することができる。しかしながら、粒子成長抑制剤がその形状を維持したまま蛍光体粒子の表面に残存するため、蛍光体粒子表面から内部にかけて穴の空いたような不良な形状を呈する蛍光体粒子が生成する。このような蛍光体粒子を用いてEL素子を加工した場合、発光層中での蛍光体粒子の充填密度は向上せず、発光層の薄層化を達成できない上に、粒子内屈折により光が取り出せないという問題が生じる。
【0009】
特許文献1、4記載の方法では、焼成回数が増えることにより余分なエネルギーを必要とするため不利であることに加え、高温で結晶構造を六方晶に転移させる際に粒径の成長を抑制するための手段が存在しないため、粒径を小さくすることにも限界がある。
【0010】
特許文献5に記載された方法では、多量の融剤を使用するため、経済的に不利であるだけでなく、腐食性物質を多量に使用するため、耐腐食性の特殊な反応設備及び処理設備が必要であり、更に、粒径を小さくすることには限界があり、十分な高輝度化は達成できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−281380
【特許文献2】特開平11−193378
【特許文献3】特開2005−206821
【特許文献4】特開平6−310272
【特許文献5】特開2005−272798
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した理由で、小粒径の蛍光体粒子を製造し、これを用いて高輝度を示すEL素子を得ることは困難であった。本発明の目的は、高輝度のEL素子を製造するのに適した小粒径の蛍光体粒子を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、II-VI族化合物半導体を母体とする蛍光体前駆体とハロゲン含有融剤とを含む混合物を焼成する際に、焼成温度では融解するが、蛍光体前駆体とは反応しない化合物を粒子成長抑制剤として該混合物に添加することで、小粒径の蛍光体粒子が得られることを発見した。更に、該蛍光体粒子を使用してEL素子を作製すると高いEL輝度が得られることも見出し、本発明を完成させた。
【0014】
本発明の具体的な態様として、以下のものが提供される。
(1)II-VI族化合物半導体を母体とする蛍光体前駆体とハロゲン含有融剤を含む混合物を焼成することによるEL蛍光体の製造方法であって、該混合物中には更に粒子成長抑制剤が存在しており、該粒子成長抑制剤は、焼成温度で融解し且つ蛍光体前駆体とは反応しないことを特徴とするEL蛍光体の製造方法。
(2)前記蛍光体前駆体を構成する母体化合物が硫化亜鉛であることを特徴とする上記(1)に記載のEL蛍光体の製造方法。
(3)前記粒子成長抑制剤がホウ素酸化物であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のEL蛍光体の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、高輝度EL素子の製造材料として好適な小粒径のII-VI族化合物半導体系EL蛍光体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1で得られた蛍光体粒子のSEM写真である。
【図2】実施例2で得られた蛍光体粒子のSEM写真である。
【図3】比較例1で得られた蛍光体粒子のSEM写真である。
【図4】比較例2で得られた蛍光体粒子のSEM写真である。
【図5】比較例3で得られた蛍光体粒子のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本願明細書中に使用される「II-VI族化合物半導体」の用語は、II族元素(Be,Mg,Zn,Cd,Hg)及びVI族元素(O,S,Se,Te)から構成される二元化合物半導体並びにその混晶半導体の総称である。これらの化合物半導体は、母体化合物の結晶構造中に発光中心として機能し得る各種金属(付活剤)・非金属イオン(共付活剤)を取り込むことによってEL蛍光体または蛍光体前駆体となることが知られている。
【0018】
本発明に使用されるEL蛍光体(及び蛍光体前駆体)の母体を構成するII-VI族化合物半導体は、特に制限されるものではなく、例えば、硫化亜鉛、硫化カドミウム、硫化ストロンチウム、セレン化亜鉛、セレン化カドミウムなどいずれのものを使用してもかまわない。これらのII-VI族化合物半導体は、単独で使用してよく、あるいは、複数種類を混合して又は混合せずに使用してよい。II-VI族化合物半導体の結晶構造は、特に制限されるものではなく、立方晶又は六方晶のいずれか一方のみで構成されていてよく、あるいは両方を含む結晶多形混合物であってよい。本願明細書中では、硫化亜鉛を母体とする化合物半導体(「硫化亜鉛化合物半導体」ともいう)を例に挙げて説明することがあるが、本発明に使用可能なII-VI族化合物半導体は硫化亜鉛化合物半導体に限定されるわけではない。
【0019】
本願明細書中、「蛍光体前駆体」の用語は、特に断りのない限り、「蛍光体」とは区別して使用されるものとする。すなわち、「蛍光体前駆体」は、発光中心金属(「付活剤」ともいう)、共付活剤などが母体化合物中に一応ドーピングされてはいるものの、光吸収による励起では蛍光を示さないか、又は、実用上の観点から不十分な蛍光しか放出できず、所望の蛍光特性を得るために更なる処理工程(例えば焼成工程)にかけることを要する前駆物質を意味する。
【0020】
本発明において、II-VI族化合物半導体を母体とする蛍光体前駆体とハロゲン含有融剤の混合物を焼成する際に、該混合物に更に粒子成長剤が添加される。本発明に使用する粒子成長剤は、焼成温度では融解するが、蛍光体前駆体とは反応しない化合物である。このため、焼成時に結晶構造の転移は促進されるが、蛍光体粒子の成長は抑制されるために、焼成後に得られる蛍光体を小粒径の粒状物の形状に保つことができる。さらに、この蛍光体粒子をEL素子に加工することにより、高いEL輝度を得ることができる。
【0021】
本発明に使用する蛍光体前駆体は、母体物質の結晶構造中に、発光中心として機能する微量の金属成分(付活剤)をドーピングすることにより製造することができる。ドーピングは、当業界で公知の様々な方法によって実施することができる。例えば、焼成などの熱処理によるドーピング方法や、液相反応により化合物半導体を生成させる際に、液相中に共存させた該金属成分を該生成物中に取り込ませるドーピング方法、噴霧熱分解を利用したドーピング方法などが知られている。単に蛍光体の母体物質となる化合物に、ドーピングすべき金属元素を含有する化合物を混合するだけの単純な方法によっても、本発明に使用可能な蛍光体前駆体を提供することができる。ドーピングされる金属の種類には特に制限はない。例えば、母材化合物が硫化亜鉛である場合、典型的な金属ドーパントとして、銅、銀、金、マンガン、イリジウム及び希土類元素などを挙げることができるが、これらの元素に限定されるわけではない。
【0022】
本発明に使用するハロゲン含有融剤は特に制限はなく、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化バリウム、塩化ストロンチウム、塩化亜鉛、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化バリウム、臭化ストロンチウム、臭化亜鉛、臭化アンモニウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化バリウム、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アンモニウムなどのハロゲン化物塩を使用することができる。融剤に含有され得る好ましいハロゲンは塩素、臭素である。これらは、単独で使用してよく、あるいは、複数種類を混合して使用してよい。
【0023】
蛍光体前駆体がハロゲンを含有している場合、焼成時に該ハロゲンが融剤として作用し得ることから、該蛍光前駆体に別途ハロゲン含有融剤を添加しなくてもよい。例えば、液相反応による蛍光体前駆体の合成の際に原料としてハロゲン化物塩を使用する場合、あるいは、噴霧熱分解法による蛍光体前駆体の合成の際にハロゲン含有融剤を添加する場合に、ハロゲンを含有する蛍光体前駆体が得られることがある。
【0024】
本発明では、蛍光体前駆体とハロゲン含有融剤を含有する混合物に、粒子成長抑制剤を添加して焼成することで小粒径の蛍光体が得られる。粒子成長抑制剤は、焼成時に蛍光体粒子間に入り込み、粒子間接触を低減することにより粒子成長を抑制すると考えられている。
【0025】
本願出願人は、本発明が如何なる特定の仮説や理論によって束縛されることも望むものではないが、本発明に使用される粒子成長抑制剤は、蛍光体粒子成長の過程において以下のような作用をもたらすものと推測する。すなわち、該粒子成長抑制剤は、焼成時に融解して流動状態となるために、蛍光体の形状を悪化させることなく粒子成長を抑制することができるが、同時に、融解状態の粒子成長抑制剤は、蛍光体表面を覆うことによって、蛍光体の低輝度化の原因と考えられる、粒子成長中の蛍光体表面からの亜鉛や硫黄、ハロゲンなどの成分元素の揮発を抑制し、蛍光体の元素組成比を維持するように作用するものと推測される。したがって、本発明に使用される粒子成長抑制剤は、蛍光体粒子の小粒径化と高輝度化の両方の実現に寄与するものと考えられる。
【0026】
粒子成長抑制剤が焼成中に蛍光体前駆体と反応すると、発光の阻害要因となる可能性のある元素が蛍光体中に導入される可能性があるため、好ましくない。また、粒子成長抑制剤が、焼成時に揮発又は分解してしまうと、蛍光体の表面が覆われない状態となり、成分元素の揮発が起こって蛍光体の元素組成の比率が崩れるため、好ましくない。
【0027】
本発明に用いる粒子成長抑制剤としては、上記のような条件を満たす物質であれば、特に制限はなく、酸化物、酸窒化物、窒化物、硫化物、硫酸塩、炭酸塩などが考えられる。これらは単独で用いても、複数を同時に使用してもかまわない。硫化亜鉛系蛍光体とハロゲン含有融剤を混合して焼成する場合、特にホウ酸、酸化ホウ素などのホウ素酸化物が好ましい。
【0028】
本発明に使用するハロゲン含有融剤及び粒子成長抑制剤の量には特に制限はない。生成する蛍光体の粒径は、使用するハロゲン含有融剤の量と粒子成長剤の量により調整することができる。ハロゲン含有融剤の使用量が多くなれば粒径は大きくなり、粒子成長抑制剤の使用量が多くなれば粒径は小さくなる。使用するハロゲン含有融剤の量の目安は、蛍光体前駆体の重量に対して0.1〜50重量%、より好ましくは0.5〜20重量%である。使用する粒子成長抑制剤の量の目安は、蛍光体前駆体の重量に対して1〜100重量%、より好ましくは5〜50重量%である。
【0029】
焼成の方法には特に制限はなく、静置炉、回転炉、連続炉などの、無機固体化合物の製造技術の分野で焼成のために使用される公知の加熱手段(装置)のいずれを用いてもよい。
【0030】
焼成の際に導入する気体の種類には、特に制限はなく、窒素、アルゴン、ヘリウム、硫化水素、空気などを用いることができる。これらの気体は一種類のみを選択して使用してよく、あるいは複数種類の気体を混合して用いることもできる。
【0031】
焼成温度は、蛍光体前駆体の結晶が成長する温度である限り特に制限されないが、100〜1500℃が好ましい。硫化亜鉛系蛍光体の場合、立方晶から六方晶への転移を促すため、転移温度である1020℃を上回ることが好ましい。ただし、焼成温度が高すぎると粒子が成長し過ぎることがあるため、1020〜1100℃の焼成温度がより好ましい。蛍光体前駆体を融剤及び粒子成長抑制剤とともに加熱焼成する時間は、短すぎると粒子成長とドーパントの拡散が十分進行せず、長すぎるとエネルギーロスが大きいため、通常1分〜10時間程度が好ましく、更に好ましくは30分〜5時間程度である。
【0032】
焼成により得られた蛍光体は、酸や塩基により洗浄し、余分なハロゲン含有融剤、粒子成長抑制剤、副生成物(硫化亜鉛系蛍光体の場合には酸化亜鉛など)を除去してよい。洗浄剤としては、使用したハロゲン含有融剤と粒子成長抑制剤を除去できるものであれば、特に制限はない。
【0033】
硫化亜鉛系蛍光体の場合、高輝度化を実現するために、必要に応じて、洗浄して得られたEL蛍光体に対して衝撃を付与し、更に、立方晶への転移を促す焼成を行うことにより、積層欠陥を緻密化させることができる。蛍光体への衝撃付与の方法は特に制限されるものではなく、ボールミルによる粉砕や超音波処理、飛翔体の衝突、冷間等方圧加圧、高温等方圧加圧などの各種加圧手段を用いた加圧処理などがある。
【0034】
衝撃を付与したEL蛍光体を、更に500〜900℃の温度で焼成し、立方晶への転移を促進する。その結果、積層欠陥が緻密に(すなわち高密度で)形成された蛍光体を得ることができる。
【0035】
このようにして得られたEL蛍光体は、酸または塩基で洗浄して副生成物を除去する。蛍光体表面に金属(硫化亜鉛系蛍光体の場合には銅など)が析出している場合には、上記洗浄の後、更に、洗浄剤を用いて該金属を除去する。例えば、銅を除去する洗浄剤としては、シアン化化合物やキレート剤などを用いることができる。
【0036】
本発明の方法により得られる蛍光体粒子は、メジアン径(D50)で15μm以下であり、好ましくは12μm以下、より好ましくは10μm以下となる。なお、本明細書中、「メジアン径」の用語は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定された体積基準の粒度分布に基づいて決定される累積体積平均メジアン径(D50)を意味するものとする。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明による硫化亜鉛系蛍光体の製造例を実施例として示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の実施例では、EL蛍光体の粒度分布を求めるために、堀場製作所製のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−950を使用した。また、蛍光体の形状の観察にはキーエンス製の走査型電子顕微鏡VE−8800を使用した。EL輝度の測定にはトプコン社製の輝度計BM−9を使用し、比較例1のEL素子のEL輝度を基準として相対輝度として評価した。
【0038】
実施例1
塩化亜鉛(和光純薬社製、特級試薬)98.2g、硫酸銅五水和物(和光純薬社製、特級試薬)0.083g、濃塩酸(和光純薬社製、特級試薬)2gを、攪拌器、コンデンサー、温度計を装着した2Lセパラブルフラスコ内で水1Lに溶解させた。攪拌しながら原料混合物の温度を90℃まで上昇させた後、チオアセトアミド108gを添加した。反応を90℃で2時間行ったのち、生成した粒子を取り出してイオン交換水で洗浄し、銅がドーピングされた硫化亜鉛系蛍光体前駆体55gを得た。
【0039】
この蛍光体前駆体30gに、ハロゲン含有融剤として塩化ナトリウム0.66g、塩化カリウム0.57g、塩化マグネシウム1.8g(いずれも和光純薬社製、特級試薬)、粒子成長抑制剤として酸化ホウ素(B、三津和化学社製、特級試薬、融点577℃)6.0gを混合し、アルミナるつぼに詰めて1050℃で1.5時間焼成した。焼成後の蛍光体を5%水酸化ナトリウム水溶液と2%塩酸で洗浄し乾燥した後、50mLの水に懸濁させ、超音波発生装置(ブランソン社製SONIFIERII450D)を使用して20kHz、140Wの出力で30分超音波を照射した。
【0040】
こうして得られた中間蛍光体10gに、硫酸銅五水和物0.25g、硫酸亜鉛七水和物(和光純薬社製、特級試薬)0.5gを混合し、アルミナるつぼに詰めて800℃で3時間焼成した。焼成後の蛍光体を2%塩酸で洗浄し、3%過酸化水素水溶液(和光純薬社製、特級試薬)、1%EDTA水溶液(和光純薬社製、特級試薬)で順次洗浄した後、80℃で乾燥してEL蛍光体を得た。得られたEL蛍光体の粒子の形状をSEMで観察した(図1)。また、蛍光体粒子の粒径分布を堀場製作所製の粒度分布測定装置LA−950により測定し、同装置に付属のソフトウェア(LA950for Windows(登録商標))を用いて累積体積平均メジアン径(D50)を算出した。結果を表1に示す。
【0041】
得られたEL蛍光体0.75gを高誘電バインダー(デュポン社製7155)0.5gに分散させ、混合、脱泡して発光層ペーストを作製した。ITO/PETフィルム上に20mm角でスクリーン版(200メッシュ、25μm)を用い、膜厚40μmで製版し、更にチタン酸バリウムペースト(デュポン社製7153)をスクリーン版(150メッシュ、25μm)を用いて製版、100℃で10分間乾燥の後、再度製版し、100℃で10分間乾燥して20μmの誘電層を製膜した。その上面に、電極として、銀ペースト(アチソン社製461SS)をスクリーン版(150メッシュ、25μm)を用いて製版し、100℃で10分間乾燥して電極を製膜し、印刷型EL素子を構成した。得られた素子について、200V、1kHzでEL輝度を測定し、EL材料としての評価を行った。結果を表1に示す。
【0042】
実施例2
ハロゲン含有融剤として、塩化ナトリウム0.66g、塩化カリウム0.57g、塩化マグネシウム1.8g(いずれも和光純薬社製、特級試薬)、粒子成長抑制剤として酸化ホウ素12gを混合した以外は、実施例1と同様の処理を行い、EL蛍光体を合成した。得られたEL蛍光体の粒子の形状をSEMで観察した(図2)。また、蛍光体粒子の粒径分布を実施例1と同様の方法で測定し、累積体積平均メジアン径(D50)を算出した。さらに、実施例1と同様の方法で印刷型EL素子を作製し、EL輝度を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
比較例1
酸化ホウ素を添加せずに焼成した以外は、実施例1の場合と同様の処理を行い、EL蛍光体を合成した。得られたEL蛍光体の粒子の形状をSEMで観察した(図3)。また、蛍光体粒子の粒径分布を実施例1と同様の方法で測定し、累積体積平均メジアン径(D50)を算出した。さらに、実施例1と同様の方法で印刷型EL素子を作製し、EL輝度を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
比較例2
粒子成長抑制剤である酸化ホウ素を酸化マグネシウム(和光純薬社製、特級試薬、融点2850℃)6.0gに変えた以外は、実施例1の場合と同様の処理を行い、EL蛍光体を合成した。得られたEL蛍光体の粒子の形状をSEMで観察した(図4)。また、蛍光体粒子の粒径分布を実施例1と同様の方法で測定し、累積体積平均メジアン径(D50)を算出した。さらに、実施例1と同様の方法で印刷型EL素子を作製し、EL輝度を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
比較例3
粒子成長抑制剤である酸化ホウ素を酸化アルミニウム(和光純薬社製、特級試薬、融点2055℃)6.0gに変えた以外は実施例1の場合と同様の処理を行い、EL蛍光体を合成した。得られたEL蛍光体の粒子の形状をSEMで観察した(図5)。また、蛍光体粒子の粒径分布を実施例1と同様の方法で測定し、累積体積平均メジアン径(D50)を算出した。さらに、実施例1と同様の方法で印刷型EL素子を作製し、EL輝度を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
上記実施例と比較例の結果の比較から明らかなように、粒子成長抑制剤として酸化ホウ素を使用した本発明の実施例で得られた蛍光体は外観上非常に細かな粒状物であり、粒径分析からも小粒径であることが裏付けられている。また、本発明の実施例で得られた小粒径の蛍光体粒子を使用して作製された印刷型EL素子は相対的に高いEL輝度を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の製造方法によれば、高輝度のEL素子の製造原料として好適な小粒径の蛍光体を提供することが可能となり、産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
II-VI族化合物半導体を母体とする蛍光体前駆体とハロゲン含有融剤を含む混合物を焼成することによるEL蛍光体の製造方法であって、該混合物中には更に粒子成長抑制剤が存在しており、該粒子成長抑制剤は、焼成温度で融解し且つ蛍光体前駆体とは反応しないことを特徴とするEL蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記蛍光体前駆体を構成する母体化合物が硫化亜鉛であることを特徴とする請求項1に記載のEL蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記粒子成長抑制剤がホウ素酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のEL蛍光体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−52169(P2011−52169A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204548(P2009−204548)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】