説明

FCガンマ受容体−IgG複合体の解離、ならびにIgGの精製および検出のための方法およびキット

本発明は、Fcγ受容体−IgG複合体を解離するための方法およびキット、IgGならびにIgGのFcおよびFab断片を単離するための方法およびキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞集団の単離、IgGを単離し評価する方法、IgGのFabまたはFc断片を単離する方法、およびこのような方法を実施するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
イムノグロブリンG(IgG)クラスの抗体は、病原体に対するヒト宿主の適応免疫防御において重要な役割を果たす。IgGは、2本の同一な重鎖および2本の同一な軽鎖からなり、これらの鎖は可変ドメインおよび定常ドメインから構成される。IgG分子をパパイン処理することによって、抗原を認識するFab断片、および宿主受容体の認識部位であり、いくつかのエフェクター分子と相互作用する部位であるFc断片を得ることができる。
【0003】
IgGのFc部分はまた、各重鎖のC2ドメインのアスパラギン297残基に結合した保存された複合炭水化物またはグリカンを含有する。これらのグリカンは、IgGが天然型(native form)のとき、C2ドメイン間の境界面に位置する。これらのグリカンは、N−アセチルグルコサミン、フコース、シアル酸およびガラクトースなどの末端および分岐炭水化物が付加したN−アセチルグルコサミンおよびマンノースの二分岐コアからなる。この炭水化物の存在は、適切な抗体構造ならびに細胞性イムノグロブリンG Fcγ受容体(FcγR)および補体系との相互作用に極めて重大である。
【0004】
エンドグリコシダーゼS(EndoS)は、ストレプトコッカス ピオゲネス(Streptococcus pyogenes)によって分泌され、IgGの重鎖のアスパラギン297残基に結合した保存されたグリカンを加水分解することによって、天然IgGに対して特異的にエンドグリコシダーゼ活性を有する。EndoSは天然のIgGに特有の特異性を有することが初めて知られた細菌酵素である。対照的に、その他の公知のエンドグリコシダーゼの活性は、糖タンパク質基質の変性を必要とし、それによって増強される。
【0005】
IgGなどの抗体は、基礎研究ならびに診断薬および薬剤の開発において多く適用されている。これらの適用のいくつか、例えば、免疫組織化学、免疫測定法、腫瘍検出、放射線療法、抗体結合部位の結晶学的研究および免疫標的化において、IgG分子全体よりもFab断片を使用した方が便利である。Fab断片を使用する利点のいくつかは、細胞または沈殿した抗原上のFc受容体によって影響を受けないこと、免疫原性が低下していること、食作用の影響を受けにくいこと、放射標識Fab断片が完全なIgG分子よりも組織から迅速に排除されることである。その他の適用では、IgGのFc断片を使用することが望ましい。
【0006】
FabおよびFc断片を大規模に生成する場合、組換えタンパク質として生成してもよい。精製のために、組換えIgGおよび血清から生成したIgGは、完全な分子として生成されることが多く、その後、FabまたはFc断片を得るために化学的に加工される。
【0007】
IgGのFabおよびFc断片への切断は、ペプシンまたはパパインなどのタンパク質分解酵素を使用して実施することが最も多い。これらの酵素は、その他のタンパク質を切断することが多く、そのため切断反応は一般的に精製IgG画分で実施しなければならない。さらに、ペプシンおよびパパインは一般的に、複数の部位でIgGを切断する。これは、得られた断片が完全なFabまたはFc断片に対応しないことが多く、切断によってFabおよびFc断片が生じても、より小さい断片に切断されやすいことを意味する。Fab断片からのFc断片の単離は、細菌のプロテインAおよびGのFc結合特性を利用したプロテインAまたはGアフィニティー分離カラムを使用して実施されることが最も多い。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、細胞とEndoSの接触が、既にFcγRに結合したIgGを除去するという驚くべき発見をした。本発明によれば、Fcγ受容体−IgG複合体を解離するインビトロの方法であって、複合体をEndoSポリペプチドと接触させ、それによってIgGに結合していないFcγ受容体を得ることを含み、所望によりFcγ受容体−IgG複合体が細胞含有試料中に存在する方法を提供する。本発明はまた、Fcγ受容体結合IgG分子を実質的に含まない細胞集団を単離する方法であって、
(a)細胞含有試料をEndoSポリペプチドと接触させるステップと、
(b)細胞を接触試料(contacted sample)から分離するステップと
を含み、それによって前記細胞集団を得る方法を提供する。
【0009】
本発明者らはまた、IgGを単離するための改善された方法を同定した。この方法は、エンドグリコシダーゼ活性を欠如した改変EndoSポリペプチドを使用する。本発明者らは、このような改変EndoSポリペプチドが天然の機能的に活性のある形態のIgG糖タンパク質に特有の特異性を有することを初めて示した。したがって、この方法は、グリコシル化された、かつ/または機能的に活性のあるIgGを単離するのに特に有用である。このような改変EndoSポリペプチドを、変性し、かつ/または脱グリコシル化したIgGに結合できる代替のIgG結合試薬と併用することによって、本発明者らはまた、IgG含有試料のグリコシル化状態または機能的品質を評価する方法を同定した。
【0010】
本発明によれば、IgG含有試料からIgGを単離する方法であって、
(a)前記IgG含有試料を、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如した改変EndoSポリペプチドと接触させるステップと、
(b)接触試料から前記EndoSを分離するステップと
を含み、それによって単離IgGを得る方法を提供する。
【0011】
さらに、IgG含有試料のグリコシル化状態または機能的品質を評価する方法であって、IgG含有試料の第1および第2の部分試料を採取することを含み、前記方法によるステップ(a)および(b)を第1の部分試料に適用し、EndoSポリペプチドが、変性し、かつ/または脱グリコシル化したIgGに結合できる代替のIgG結合試薬で置換されていることを除いて、前記のステップ(a)および(b)を第2の部分試料に適用し、さらに
(c)第1の部分試料におけるEndoSポリペプチドに結合したIgGの量および第2の部分試料における代替のIgG結合試薬に結合したIgGの量を定量するステップと、
(d)(c)で決定した結合IgGの量の両方を比較するステップと
を含み、それによってIgG含有試料のグリコシル化状態または機能的品質を評価する方法を提供する。
【0012】
本発明者らはまた、IgGのFabまたはFc断片を単離する改善された方法を同定した。本発明の方法は、S.ピオゲネスの特異性の高いIgG切断酵素、IdeS(S.ピオゲネスのイムノグロブリンG分解酵素、Immunoglobulin G-degrading enzymes of S. pyogenes)およびFc結合タンパク質を使用する。したがって、本発明の方法には、背景の部分で記載したような従来の方法、例えば、ペプシンおよびパパインを使用する方法のような限界はない。これは、IdeSがIgG分子のヒンジ領域内に唯一限定された切断部分を有し、FabおよびFc断片がさらに切断される可能性がないためである。
【0013】
本発明の一方法では、IgG含有試料をIdeSおよびFc結合タンパク質と接触させる。好ましいFc結合タンパク質は、前述のようなエンドグリコシダーゼ活性を欠如した改変EndoSポリペプチドである。改変EndoSタンパク質は、広く使用されている他のFc結合タンパク質、例えば、プロテインAおよびプロテインGよりも好ましい。これは、改変EndoSタンパク質がFcのみに結合し、一方、本発明者らはプロテインAおよびプロテインGはまた、Fab断片に結合できることを発見したためである。したがって、これらのタンパク質でFc断片からFab断片を単離することはより困難である。その他の好ましいFc結合タンパク質には、プロテインHが含まれる。
【0014】
本発明の方法では、一般的に、IdeSはIgGをFabおよびFc断片に切断し、Fc結合タンパク質はFc断片に結合する。その後、Fc断片を、Fab断片から分離する。
【0015】
この方法は、精製したIgGを含む試料からFabまたはFc断片を単離するのに特に有用である。より具体的には、本発明の改変EndoSポリペプチドを使用して、精製したIgGを含む試料からFabまたはFc断片を単離するのに有用である。しかし、この方法はまた、未精製IgG、例えば、血清、細胞溶解物または細胞培養培地を含有する試料に使用するために適合させることができる。
【0016】
本発明の方法を実施するためのキットおよび本発明による方法によって単離された細胞集団も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、EndoSが4種類のヒトIgGサブクラス全てに対してグリコシダーゼ活性を有することを示した図である。パネルA:ヒトIgGのグリカン構造。IgGのγ鎖上のグリカンは、アスパラギン297に結合した。GlcNAc、N−アセチルグルコサミン;Fuc、フコース;Man、マンノース;Gal、ガラクトース;NeuAc、シアル酸。EndoSの切断部位およびレンズマメアグルチニンレクチン(LCA)の認識部位を示す。パネルB:精製IgG1〜4をEndoSとインキュベートして、SDS−PAGEによって分析し、染色した。パネルC:IgG1〜4をEndoSとインキュベートして、LCAレクチンブロットを使用して分析した。
【図2】図2は、血漿環境におけるEndoSによるヒトIgGサブクラス類の加水分解を示した図である。ヒト血漿をEndoSまたはPBSで処理し、その後、精製IgG画分のLCAレクチンELISAを行った。IgGグリカン加水分解は、LCAレクチンELISAを使用して検出した。結果は、未処理血漿のシグナルと比較した各サブクラスの加水分解のパーセントとして表す。
【図3】図3は、EndoS(E235Q)がIgGサブクラス全てに結合することを示した図である。パネルA:ニトロセルロース膜に3、1.5および0.75μgの量で固定された各IgGサブクラスに対するEndoSおよびEndoS(E235Q)の結合を示したスロットブロット。結合は、EndoSに対する抗血清を使用して検出した。パネルB:BIAcore技術を使用した固定IgGクラスに対するEndoS(E235Q)の結合。選択したプロットは、IgG1へのEndoS(E235Q)の結合を示し、参考(バルク変化を差し引いてある)として加水分解IgG1を使用している。結合反応速度定数は、該当するならば表に示す。Nbは、その組み合わせについて調べてはいるが、BIAcore技術を使用しても結合が認められないことを示す。
【図4】図4は、IgGサブクラスのEndoS処理がFcγRIIに対するIgGの結合を阻害することを示した図である。パネルA:EndoS処理した、またはしていない精製IgGサブクラスのマイクロタイタープレートに固定したFcγRIIaおよびFcγRIIbへの結合。HRP標識プロテインGは、結合したIgGサブクラスの検出のために使用した。(+)は、完全な(intact)IgGを示し、(−)はEndoS加水分解IgGを示す。パネルB:BIAcore表面プラズモン共鳴を使用して視覚化した固定受容体に対するIgGサブクラスの結合。プロットは、一般的なセンサーグラム、本明細書ではFcγRIIaへのIgG1の結合を示す。空のフローセルを参考(差し引く)として使用する。表2で示したデータは、結合するIgGサブクラスの速度定数である。Nbは、そのIgG受容体の組み合わせをこの技術を使用して観察しているが、本明細書では相互作用が認められないことを示している。
【図5】図5は、EndoS処理IgGがK562細胞上のFcγRIIaに結合しないことを示す図である。パネルA:EndoSで処理した、または処理していない放射活性IgGのK562細胞に対する相対的結合。細胞は、125ヨウ素標識IgG(完全またはEndoS処理)でインキュベートした。洗浄した細胞ペレットの放射活性を検出した。ここで100%として示した125I−IgG(完全)のK562細胞への結合は、冷却IgGを添加することによって阻害され得るK562細胞への特異的IgG結合を表す。パネルB:K562細胞は、EndoSまたはPBSで処理したヒト血漿でインキュベートした。細胞は、溶解緩衝液に再懸濁し、SDS−PAGEおよびヒトIgGに対する抗血清を使用したウェスタンブロットによって分析した。
【図6】図6は、EndoS処理IgGが単球に結合しないことを示す図である。パネルA:単球は、125ヨウ素標識IgG(完全またはEndoS処理)でインキュベートした。室温で30分間インキュベートした後、細胞溶解物のタンパク質、全タンパク質10μgを10%SDS−PAGEによって分離した。ゲルを乾燥させ、リン光イメージング(phosphorimaging)によって分析した。パネルB:EndoSで処理した血液中の活性化単球に対するIgGの結合減少を示したフローサイトメトリー分析。ヒト血液は、白血球活性化剤fMLPを添加する前にEndoSで処理した。単球へのIgG結合は、マウス抗ヒトIgGおよび2次抗体としてFITC標識ヤギ抗マウスIgGを使用して検出した。
【図7】図7は、EndoSで処理したときのFcγRIIからのIgGの解離を示した図である。パネルA:K562細胞に結合したIgGは、EndoSでインキュベートするとFcγIIRaから解離するが、EndoS(E235Q)でインキュベートしても解離しない。K562細胞は、血漿でインキュベートし、その後EndoS、EndoS(E235Q)またはPBSでインキュベートした。細胞溶解物、全タンパク質10μgは、SDS−PAGEおよびヒトIgGに対する抗血清を使用したブロットを使用して、IgGについて分析した。パネルB:単球に結合したIgGは、EndoSで処理した後FcγRから解離する。単球は、血漿でインキュベートし、その後EndoSまたはPBSでインキュベートした。再懸濁した細胞ペレットは、ヒトIgGに対する抗血清を使用したブロットによってIgGについて分析した。IgGのグリカンは、ブロットおよびLCAレクチンに対する反応性によって検出した。パネルC:BIAcore装置は、EndoSが固定した受容体FcγRIIaからのIgG1の解離に影響を及ぼすことを示している。2種類の併行した実験では、EndoSの注入(黒い曲線)をIgG1−FcγRIIa相互作用の解離相における同時点の緩衝液(バッファー)の注入(波線)と比較する。
【図8】図8は、様々なS.ピオゲネス血清型、S.エクイおよびS.ズーエピデミカスのEndoS相同体のClustalWアミノ酸配列比較を示した図である。株名、種、およびM血清型は左に示す。アミノ酸同一性および類似性は、灰色で示し、コンセンサス配列はアラインメントの下に示す。保存されたキチナーゼモチーフは四角で囲い、活性に必須のグルタミン酸は配列の下にアスタリスクの印を付けてある。
【図9】図9は、Elizabethkingia meningosepticaのEndoFのEndoS αドメインおよびヒツジ偽結核菌(Corynebacterium pseudotuberculosis)のCP40のClustalWアミノ酸配列比較を示した図である。タンパク質名は左に示す。アミノ酸同一性および類似性は、灰色で示し、コンセンサス配列はアラインメントの下に示す。保存されたキチナーゼモチーフは四角で囲い、活性に必須のグルタミン酸は配列の下にアスタリスクの印を付けてある。
【発明を実施するための形態】
【0018】
一般的なポリペプチド特性
本発明は、細菌タンパク質EndoSおよびIdeSならびにその他のタンパク質を利用する様々な方法を提供する。タンパク質、ペプチドおよびポリペプチドという用語は、本明細書では同義に使用する。本発明の特定の方法は、IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するEndoSポリペプチドを必要とし、一方、本発明の他の方法は、前記活性を欠如した改変EndoSポリペプチドを必要とする。
【0019】
以下の部分は、本発明のポリペプチド全ての一般的な特性、特に、本発明のポリペプチドに含まれるアミノ酸配列の変化、改変、修飾または誘導体化に関する。本明細書に記載するようなポリペプチドの変化、改変、修飾または誘導体化は、ポリペプチドが本開示の以後の部分で詳述されるように、さらに必要な活性または特性を保持する必要があることを理解されたい。
【0020】
本発明のポリペプチドの変異体は、本開示のその後の部分でさらに詳細を説明する特定のレベルのアミノ酸同一性によって定義され得る。アミノ酸同一性は、適切なアルゴリズムを使用して計算することができる。例えば、PILEUPおよびBLASTアルゴリズムを使用して、例えば、Altschul S.F.(1993)J Mol Evol 36:290〜300;Altschul,S,Fら(1990)J Mol Biol 215:403〜10で記載されたように、相同性または整列配列を計算することができる(例えば、(通常、初期設定において)同等もしくは対応する配列を同定する)。BLAST解析を実施するためのソフトウェアは、国立バイオテクノロジー情報センター(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を介して公的に入手可能である。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードと整列させたときに、あるポジティブに評価された閾値スコアTと合致するか、または満足させる問い合わせ配列中の長さWの短いワードを同定することによって、ハイスコアリングシーケンスペア(high scoring sequence pair)(HSP)を最初に同定することを含む。Tは、文字列スコア閾値(neighbourhood word score threshold)と称される(Altschulら、前述)。これらの最初の文字列ヒットは、これらを含有するHSPを見出すための検索を開始するための種(seed)として働く。文字列ヒットは、累積アラインメントスコアが増加し得る限り、各配列に沿って両方向に延長される。各方向における文字列ヒットの延長は、以下の場合停止される。累積アラインメントスコアがその最大限に達成された値から量Xだけ低下する場合、1またはそれ以上のネガティブのスコアリング残基アラインメントの累積によって累積スコアが0以下になる場合、またはいずれかの配列の末端に達する場合。BLASTアルゴリズムのパラメーターW、TおよびXはアラインメントの感度および速度を決定する。BLASTプログラムは、初期設定として、ワード長(W)11、BLOSUM62スコアリングマトリクス(HenikoffおよびHenikoff(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915〜10919を参照)アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=4および両鎖の比較を用いる。
【0021】
BLASTアルゴリズムは、2つの配列間の類似性の統計学的分析を実施する、例えば、KarlinおよびAltschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873〜5787参照。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1測定値は、2つのポリヌクレオチド配列間またはアミノ酸配列間の一致が偶然に生じる確率の指標となる最小合計確率(P(N))である。例えば、第2の配列に対して第1の配列の比較した最小合計確率が約1未満、好ましくは約0.1未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満の場合、配列はもう1つの配列と類似であると見なされる。あるいは、UWGCGパッケージは、(例えば、初期設定で使用した)相同性の計算するために使用できるBESTFITプログラムを提供する(Devereuxら(1984)Nucleic Acids Research 12、387〜395)。
【0022】
本発明のポリペプチドの変異体はまた、置換変異体を含むことを理解されたい。置換変異体には、好ましくは、同数のアミノ酸による1個または複数のアミノ酸の置換および保存的アミノ酸置換の形成が含まれる。例えば、アミノ酸は、類似の特性を有する別のアミノ酸、例えば、別の塩基性アミノ酸、別の酸性アミノ酸、別の中性アミノ酸、別の荷電アミノ酸、別の親水性アミノ酸、別の疎水性アミノ酸、別の極性アミノ酸、別の芳香族アミノ酸または別の脂肪族アミノ酸で置換されてもよい。適切な置換を選択するために使用できる20個の主要なアミノ酸のいくつかの特性は以下の通りである。
【0023】
【表1】

【0024】
本発明で使用するためのポリペプチドは、実質的に単離された形態であってもよい。ポリペプチドは、ポリペプチドの企図した目的を妨害しない担体または希釈剤と混合することができ、それでも実質的に単離されていると考えられる。本発明で使用するためのポリペプチドはまた、実質的に精製された形態であってもよく、その場合、一般的にポリペプチドは調製物中に含まれ、調製物中のポリペプチドの50重量%超、例えば、80重量%超、90重量%超、95重量%超または99重量%超が本発明のポリペプチドである。
【0025】
本発明で使用するためのポリペプチドのアミノ酸配列は、天然に存在しないアミノ酸を含み、または化合物の安定性を増大させるように改変することができる。ポリペプチドが合成手段によって生成されるとき、このようなアミノ酸は生成中に導入してもよい。ポリペプチドはまた、合成的生成か、または組換えによる生成のいずれかの後に改変してもよい。
【0026】
本発明で使用するポリペプチドはまた、D−アミノ酸を使用して生成してもよい。このような場合、アミノ酸はCからN方向の逆配列に結合される。これは、このようなポリペプチドを生成するために当業界では一般的である。いくつかの側鎖改変が当業界では知られており、ポリペプチドの側鎖に行うことができ、本明細書で記載することができるような他の任意の必要な活性または特性を保持するポリペプチドに行うことができる。
【0027】
本発明で使用したポリペプチドは化学的に改変でき、例えば、翻訳後に改変できることも理解されたい。例えば、ポリペプチドはグリコシル化したり、リン酸化したりすることもでき、改変したアミノ酸残基を含むこともできる。細胞膜への挿入を促進するために、シグナル配列の添加によって改変することもできる。
【0028】
本発明のポリペプチドはまた、単離または精製を助けるために誘導体化するか、または改変することができる。したがって、本発明の一実施形態では、本発明で使用するためのポリペプチドは、分離手段に直接かつ特異的に結合することができるリガンドを添加することによって、誘導体化されるか、または改変される。あるいは、ポリペプチドは、結合対の1つの構成要素を添加することによって誘導体化されるか、または改変され、分離手段は結合対の他方の構成要素を添加することによって誘導体化されるか、または改変された試薬を含む。いかなる適切な結合対も使用できる。本発明で使用するためのポリペプチドが結合対の1つの構成要素を添加することによって誘導体化されるか、または改変される好ましい実施形態では、ポリペプチドはヒスチジンタグまたはビオチンタグを付けられることが好ましい。一般的に、ヒスチジンタグまたはビオチンタグの配列をコードするアミノ酸は、遺伝子レベルで含まれ、タンパク質は大腸菌において組換えによって発現される。ヒスチジンタグまたはビオチンタグは一般的に、ポリペプチドの1つの末端、N末端か、またはC末端のいずれかに存在する。ヒスチジンタグは一般的に、6個のヒスチジン残基からなるが、これよりも長く、一般的に、7、8、9、10または20個までのアミノ酸であってもよく、または短く、例えば、5、4、3、2または1個のアミノ酸であってもよい。さらに、ヒスチジンタグは、1個または複数のアミノ酸置換、好ましくは前記で定義したような保存的置換を含有してもよい。
【0029】
IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するEndoSポリペプチド
この場合のEndoSポリペプチドは、S.ピオゲネスEndoS、またはIgGエンドグリコシダーゼ活性を保持するS.ピオゲネスEndoSの変異体もしくは断片であることが好ましい。変異体は、別の生物、例えば、別の細菌由来のEndoSポリペプチドであってもよい。細菌は好ましくは、ストレプトコッカス、例えば、ストレプトコッカス エクイ、ストレプトコッカス ズーエピデミカス、または、好ましくはストレプトコッカス ピオゲネスである。あるいは、変異体は、ヒツジ偽結核菌由来、例えば、CP40タンパク質;エンテロコッカス フェカリス由来、例えば、EndoEタンパク質;またはエリザベトキンギア メニンゴセプティカ(以前は、フラボバクテリウム メニンゴセプティカム)由来、例えば、EndoF2タンパク質であってもよい。様々なS.ピオゲネス血清型由来およびS.エクイおよびS.ズーエピデミカス由来のEndoS変異体の配列を図8に示す。図9は、EndoSαドメインとエリザベトキンギア メニンゴセプティカ由来のEndoF2およびヒツジ偽結核菌(Corynebacterium pseudotuberculosis)由来のCP40との配列比較を示した図である。
【0030】
EndoSポリペプチドは、
(a)配列番号:1のアミノ酸配列、
(b)配列番号:1のアミノ酸配列と少なくとも50%の同一性を有し、IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するその変異体、または
(c)IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するそのいずれかの断片
を含むことができる。
【0031】
好ましくは、ポリペプチドは、配列番号:1の配列を含むか、またはそれからなる。配列番号:1は、シグナル配列を含まない、S.ピオゲネス由来のEndoSの成熟形態の配列である。本発明のEndoSポリペプチドは、シグナル配列をさらに含んでいてもよい。例えば、本発明のEndoSポリペプチドは、公的に入手可能で(NCBI Accession No:AAK00850)、配列番号:3として提供されるS.ピオゲネス由来のEndoSの未成熟形態のアミノ酸配列を含んでいてもよい。配列番号:1は、配列番号:3のアミノ酸37から995に対応する。
【0032】
この部分で記載した変異体ポリペプチドは、アミノ酸配列が配列番号:1または3のアミノ酸配列とは異なるが、EndoSのIgGエンドグリコシダーゼ活性を保持しているものである。このような変異体は、ペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を維持している限り、対立形質変異体およびタンパク質配列内の単一のアミノ酸またはアミノ酸の群の欠失、改変もしくは付加を含んでいてもよい。
【0033】
変異体配列は一般的に、少なくとも1、2、3、5、10、20、30、50、100個以上の変異(アミノ酸の置換、欠失または挿入であってもよい)によって異なる。例えば、改変したポリペプチドがIgG特異的エンドグリコシダーゼとしての活性を保持するならば、1個から100個、2個から50個、3個から30個または5個から20個のアミノ酸置換、欠失または挿入を行ってもよい。
【0034】
配列番号:1または3のアミノ酸配列の変異体は、好ましくは配列番号:1の残基191から199、すなわち、配列番号:1のLeu−191、Asp−192、Gly−193、Leu−194、Asp−195、Val−196、Asp−197、Val−198およびGlu−199(配列番号:3の残基227から235、すなわち、配列番号:3のLeu−227、Asp−228、Gly−229、Leu−230、Asp−231、Val−232、Asp−233、Val−234およびGlu−235)を含有する。これらのアミノ酸は、グルタミン酸で終わるキチナーゼファミリー18の活性部位を構成する。キチナーゼの活性部位のグルタミン酸は、酵素活性に不可欠である。最も好ましくは、配列番号:1または3の変異体は、配列番号:1の199位と同等の位置(配列番号:の235位)にグルタミン酸を含有する。配列番号:1の変異体が、配列番号:1の199位と同等の位置(配列番号:3の235位)にグルタミン酸を含有するならば、変異体は1個または複数の保存的置換を有する配列番号:1の残基191から199(配列番号:3の227から235)を含有してもよい。
【0035】
典型的には、EndoSのIgGエンドグリコシダーゼ活性を示し、配列番号:1または3のアミノ酸配列と約50%、55%もしくは65%の同一性、好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、少なくとも97%または少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドは、そのタンパク質の変異体と見なされる。配列番号:1または3の変異体の同一性は、配列番号:1で示された配列の少なくとも100個、少なくとも250個、少なくとも500個、少なくとも750個、少なくとも800個、少なくとも850個、少なくとも900個、少なくとも950個、少なくとも955個以上の連続したアミノ酸の領域にわたって、より好ましくは配列番号:1または3の完全長にわたって測定することができる。
【0036】
本発明で使用したEndoSポリペプチドの断片は一般的に、EndoSのIgGエンドグリコシダーゼ活性を保持している限り、少なくとも10個、例えば、少なくとも20、30、40、50個以上のアミノ酸長、100、200、250、300、500、750、800、850、900、950または955個のアミノ酸長である。好ましくは、本発明で使用したEndoSポリペプチドの断片は、配列番号:1の残基191から199、すなわち、配列番号:1のLeu−191、Asp−192、Gly−193、Leu−194、Asp−195、Val−196、Asp−197、Val−198およびGlu−199(配列番号:3の残基227から235、すなわち、配列番号:3のLeu−227、Asp−228、Gly−229、Leu−230、Asp−231、Val−232、Asp−233、Val−234およびGlu−235)を包含する。本発明の好ましい断片は、ストレプトコッカスのシステインプロテアーゼSpeBによる切断によって生じたEndoSの酵素的活性のあるαドメインに対応する、配列番号:1のアミノ酸1から409(配列番号:3のアミノ酸37から445)からなる。別の好ましい断片は、シグナル配列除去後のEndoSの分泌型に対応する、配列番号:3のアミノ酸37から995からなる。
【0037】
本発明で使用するためのポリペプチドは、EndoSポリペプチドまたはEndoSポリペプチドの変異体を発現する任意の適切な生物から単離することができる。一般的に、EndoSポリペプチドは、ストレプトコッカスの適切なEndoS発現株、好ましくはS.ピオゲネスの株から単離する。適切な生物および株は、いくつかの技術によって同定することができる。例えば、S.ピオゲネス株は最初、ndoS遺伝子の存在を試験することができる。ポリヌクレオチドプライマーまたはプローブは、例えば、配列番号:1または3に基づいて設計することができる。次に、ndoS遺伝子の存在は、このようなプライマーを使用してPCRによって、またはS.ピオゲネス株のゲノムDNAに対するプローブのハイブリダイゼーションによって、確認することができる。
【0038】
活性型EndoSまたはその変異体を発現するストレプトコッカス株は、培養上清中のIgGエンドグリコシダーゼ活性をアッセイすることによって、またはEndoSに特異的な抗体を使用した免疫検出によって同定することができる。活性EndoSを発現することが確認されたストレプトコッカス株は、S.ピオゲネスM1血清型AP1株およびSF370株、S.エクイ4047株およびS.ズーエピデミカスH70株である。さらに、ndoS遺伝子は、以下のS.ピオゲネス株、M1血清型SSI−1株およびMGAS5005株、M2血清型MGAS10270株、M3血清型MGAS315株、M4血清型MGAS10750株、M5血清型Manfredo株、M6血清型MGAS10394株、M12血清型MGAS9429株、M18血清型MGAS8232株、M28血清型MGAS6180株およびM49血清型591株に見出される。
【0039】
発現しているS.ピオゲネス培養物またはEndoSを発現しているその他の細胞の培養物からのEndoSの単離および精製は一般的に、IgGエンドグリコシダーゼ活性に基づいている。好ましくは、精製方法には、硫酸アンモニウム沈殿ステップおよびイオン交換クロマトグラフィーステップが関与する。一方法では、培養培地は、硫酸アンモニウムの量を漸増添加することによって分画する。硫酸アンモニウムの量は、10から80%であってもよい。好ましくは、培養培地は50%硫酸アンモニウムで分画し、得られた上清はさらに70%硫酸アンモニウムで沈殿させる。次に、ペレット化したポリペプチドはイオン交換クロマトグラフィー、例えば、Mono QカラムのFPLCを行うことができる。溶出した画分は、IgGエンドグリコシダーゼ活性を測定することができ、ピーク活性画分を収集することができる。画分は、SDS PAGEによって分析することができる。画分は、−80℃で保存してもよい。EndoSを精製する他の方法では、シグナル配列を含まないEndoS(すなわち、配列番号:1の配列を有する)は、GST遺伝子融合系(Amersham−Pharmacia Biotech、Uppsala、Sweden)を使用して大腸菌において発現させる。ndoS配列の塩基304から3232を対照とする2929塩基対PCR産物は、BamHI部位(下線部)を含むプライマー5’−ACT−GGG−ATC−CCG−GAG−GAG−AAG−ACT−3’およびXhoI部位(下線部)を含む5’−TTA−ATC−TCG−AGG−TTG−CTA−TCT−AAG−3’を使用してS.ピオゲネスゲノムDNAから増幅する。この断片をBamHIおよびXhoIで切断し、大腸菌BL21(DE3)pLysを形質転換するために使用するpGEX−5X−3生成プラスミドpGEXndoSに連結する。pGEXndoS/BL21(DE3)pLysは、イソプロピルβ−D−チオガラクトピラノシド0.1mMで誘導される。誘導後、細菌はBugBuster(商標)(Novagen)を使用して溶解し、GST−EndoS融合タンパク質はグルタチオン−セファロース(登録商標)で精製する。GSTタグは、プロトコール(Amersham−Pharmacia Biotech)にしたがって因子Xaを使用して除去し、残存する因子XaはXarrest(商標)−アガロース(Novagen)を使用して除去する。これによって、SDS−PAGEおよびEndoS特異的抗体を使用したWesternブロットによって評価した均一な組換えEndoS(rEndoS)の調製物が生じる。インビボ実験の前に、タンパク質試料を0.2μmフィルタ(Millipore)に通して滅菌濾過する。精製したEndoSタンパク質は、リン酸緩衝生理食塩水中で−80℃で保存する。
【0040】
本発明で使用するポリペプチドはまた、このように単離したポリペプチドの断片として調製することができる。さらに、EndoSポリペプチドはまた、合成的に、または組換え手段によって生成することができる。例えば、組換えEndoSポリペプチドは、培養した哺乳類細胞を、適切な対照配列に操作可能に結合したポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターで形質移入し、細胞を培養し、細胞によって産生されたEndoSポリペプチドを抽出し精製することによって生成することができる。
【0041】
この部分で記載した本発明のEndoSポリペプチドは、IgGエンドグリコシダーゼ活性を示す。好ましくは、このポリペプチドは、完全長IgG重鎖ポリペプチドの残基297に対応するアスパラギン残基に結合した保存されたグリカンを加水分解することによって、IgGまたはIgG Fc断片を加水分解する。好ましくは、このポリペプチドは、アスパラギン結合グリカンのβ−1,4−ジ−N−アセチルキトビオースコアを加水分解する。好ましくは、この活性はIgGに特異的である。
【0042】
エンドグリコシダーゼ活性は、適切なアッセイによって測定することができる。例えば、試験ポリペプチドは、適切な温度、例えば、37℃でIgGとインキュベートすることができる。開始物質および反応産物は、その後SDSPAGEによって分析することができる。一般的に、IgG重鎖の分子量は、試験ポリペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を有するならば、約3kDa減少する。試験ポリペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を有するかどうかを決定する別のアッセイは、レンズマメアグルチニンレクチン(LCA)を使用して、所望により、西洋ワサビペルオキシダーゼおよびペルオキシダーゼ基質を用いて、グリコシル化IgGを検出することによる。一般的に、試験ポリペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を有するならば、炭水化物シグナルは減少する。試験ポリペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を有するかどうかを決定する別のアッセイは、試験ポリペプチドを精製IgG Fc断片とインキュベートし、その後試料をジチオスレイトール10mMで還元し、質量分析(MALDI−TOF)で解析することによる。一般的に、試験ポリペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を有するならば、単量体IgG Fcの質量は、1417±14Da減少する。
【0043】
ポリペプチドのエンドグリコシダーゼ活性はさらに、阻害研究(inhibition studies)によって特徴付けることができる。
【0044】
ポリペプチドのエンドグリコシダーゼ活性は一般的にIgG特異的で、IgGの切断を可能にする条件下でその他の種類のIg、すなわち、IgM、IgA、IgDおよびIgEとインキュベートしたとき、ポリペプチドはこれらのイムノグロブリンを分解できない。EndoSポリペプチドは、対象から採取した試料に存在するIgG分子を加水分解することができる。したがって、対象がヒトである場合、EndoSポリペプチドは、ヒトIgGの重鎖のグリカンを加水分解することができる。EndoSは、ヒトIgGの4種のサブクラス(IgG1〜4)全てを加水分解することができる。好ましい実施形態では、EndoSポリペプチドは、ヒト、アカゲザル、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ヤギ、イヌおよびブタIgGを加水分解する能力を有する。
【0045】
IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如したEndoSポリペプチド
この場合のEndoSポリペプチドは、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如するように操作されているが、IgG結合活性を有する改変S.ピオゲネスEndoSであることが好ましい。IgG結合活性によって、改変EndoSは、IgGまたはその変異体もしくは断片、特に正常にグリコシル化されているそのFc断片に結合すると理解されたい。「正常にグリコシル化された(normally glycosylated)」とは、IgG分子またはその断片の変異体が、天然に存在するIgG分子に結合することが見出された少なくとも1種の炭水化物基が結合したIgGポリペプチド重鎖(またはその断片の変異体)を少なくとも含む糖タンパク質であることを理解されたい。特に、少なくとも1個の炭水化物基は、完全長IgG重鎖ポリペプチドの残基297に対応するアスパラギン残基に結合したグリカンである。好ましくは、アスパラギン結合グリカンは、β−1,4−ジ−N−アセチルキトビオースコアを有する。
【0046】
EndoSポリペプチドは、部位特異的変異誘発によって操作されることが好ましい。IgG結合活性によって、この部分で記載したEndoSポリペプチドはIgGサブクラス、IgG1〜4の少なくとも1種、好ましくは2種、3種または4種全てに結合すると理解されたい。好ましくは、少なくとも1種のIgGサブクラスは、高い親和性および/または高い特異性で結合する。
【0047】
高い親和性とは、改変EndoSとIgGサブクラスとの相互作用の結合親和定数(K)が、0.05μMを上回り、好ましくは0.06μM、0.07μMまたは0.08μMを上回ることを意味する。結合活性は測定することができ、結合親和性は任意の適切な手段によって評価することができる。例えば、表面プラズモン共鳴相互作用解析、平衡透析分析、または、例えば、スキャッチャード分析と併用した任意の標準的生化学的方法による。
【0048】
高い特異性とは、IgGへの結合を可能にする条件下でその他の種類のIg、すなわち、IgM、IgA、IgDおよびIgEとインキュベートしたとき、ポリペプチドがこれらのイムノグロブリンと結合できないことを意味する。
【0049】
この場合の変異体はIgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如しているが、IgG結合活性を有すことを除いて、前記の部分で記載されているように、変異体は、別の生物、例えば、別の細菌のEndoSポリペプチドから得ることができる。改変EndoSポリペプチドは、
(a)配列番号:2のアミノ酸配列、
(b)配列番号:2のアミノ酸配列と少なくとも50%の同一性を有し、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如したその変異体、または
(c)IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如したそのいずれかの断片
を含むことができる。好ましくは、ポリペプチドは、配列番号:2の配列を含むか、またはそれからなる。配列番号:2は、配列番号:1の配列から得られるが、配列番号:1の199位のグルタミン酸(E)をグルタミン(Q)に置換することによってIgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如するように操作されている。これは、配列番号:3(NCBI Accession No:AAK00850)の235位に対応しており、この特定の改変をE235Qと称する。このようなポリペプチドは一般的に、前述のようにIgG結合活性を有する。
【0050】
この部分で記載した変異体ポリペプチドは、アミノ酸配列が配列番号:2の配列とは異なるが、EndoSのIgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如し、IgG結合活性を保持しているものである。このような変異体は、ペプチドが前記の特性を保持している限り、対立形質変異体およびタンパク質配列内の単一のアミノ酸またはアミノ酸の群の欠失、改変もしくは添加を含むことができる。
【0051】
変異体配列は一般的に、少なくとも1、2、3、5、10、20、30、50または100個以上の変異(アミノ酸の置換、欠失または挿入であってもよい)によって異なる。例えば、改変ポリペプチドがIgG特異的エンドグリコシダーゼの活性を欠如し、IgG結合活性を保持するならば、1個から100個、2個から50個、3個から30個または5個から20個のアミノ酸置換、欠失または挿入を行ってもよい。
【0052】
配列番号:2のアミノ酸配列の変異体は、好ましくは配列番号:2の残基191から199、すなわち、配列番号:2のLeu−191、Asp−192、Gly−193、Leu−194、Asp−195、Val−196、Asp−197、Val−198およびGlu−199(配列番号:1の残基191から199と同等)を含有する。これらのアミノ酸は、C末端グルタミン酸がグルタミンで置換されていること以外は、配列番号:1におけるようにキチナーゼファミリー18活性部位を構成する。キチナーゼの活性部位のグルタミン酸は、酵素活性に不可欠である。したがって、最も好ましくは、配列番号:2の変異体は、配列番号:2の199位と同等の位置にグルタミンを含有する。変異体が、配列番号:2の199位と同等の位置にグルタミン酸を含有しないならば、配列番号:2の変異体は、1個または複数の保存的置換を有する配列番号:2の残基191から199を含有することができる。
【0053】
典型的には、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如し、IgG結合活性を保持し、配列番号:2のアミノ酸配列と約50%、55%もしくは65%の同一性、好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、少なくとも97%または少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドは、そのタンパク質の変異体と見なされる。配列番号:2の変異体の同一性は、配列番号:2で示された配列の少なくとも100個、少なくとも250個、少なくとも500個、少なくとも750個、少なくとも800個、少なくとも850個、少なくとも900個、少なくとも950個、少なくとも955個以上の連続したアミノ酸の領域にわたって、より好ましくは配列番号:2の完全長にわたって測定することができる。
【0054】
本発明で使用したEndoSポリペプチドの断片は一般的に、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如し、IgG結合活性を保持している限り、少なくとも10個、例えば、少なくとも20、30、40、50個以上のアミノ酸長、100、200、250、300、500、750、800、850、900、950または955個までのアミノ酸長である。好ましくは、この場合本発明で使用したEndoSポリペプチドの断片は、配列番号:2の残基191から199、すなわち、配列番号:2のLeu−191、Asp−192、Gly−193、Leu−194、Asp−195、Val−196、Asp−197、Val−198およびGln−199を包含する。本発明の好ましい断片は、配列番号:2のアミノ酸1から409(ストレプトコッカスのシステインプロテアーゼSpeBによる切断によって生じたEndoSの酵素活性のあるαドメインに対応するアミノ酸)からなる。
【0055】
EndoSを発現するストレプトコッカス株またはIgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如し、IgG結合活性を保持しているその変異体は、EndoSに特異的な抗体を使用した免疫検出、その後の前述したようなIgGエンドグリコシダーゼ活性およびIgG結合活性のアッセイによって同定することができる。活性型EndoSを発現することが確認されたストレプトコッカス株は、前記の部分で記載する。これらの株は、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如し、IgG結合活性を保持しているEndoSポリペプチドの発現が可能な良好な候補である。発現しているS.ピオゲネス培養物からのEndoSの単離および精製も前記に記載する。
【0056】
他の方法では、所望する特性を備えたEndoSタンパク質は、EndoSタンパク質をコードするヌクレオチドを改変し、次に適切な系で前記ヌクレオチドを発現することによって生成することができる。適切な方法には、タンパク質をコードするヌクレオチドの部位特異的変異誘発が含まれる、この技術は、タンパク質機能の研究で広く使用されてきた。この技術は一般的に、オリゴヌクレオチドをベースにしており、以下のステップを含む。
(1)プラスミドベクターに挿入する対象のタンパク質をコードするDNAをクローニングするステップ。
(2)1本鎖を生成するためにプラスミドDNAを変性させるステップ。
(3)合成オリゴヌクレオチドが標的領域にアニールするように、変性したDNAと、標的配列に相補的であるが所望する変異(複数可)(点突然変異、欠失または挿入)を組み込んだ合成オリゴヌクレオチド(またはオリゴヌクレオチド類)とを接触させる、ステップ。
(4)鋳型としてプラスミドDNA鎖を使用してDNAポリメラーゼによって変異した鎖を伸長するステップ。
(5)大腸菌での形質転換によってヘテロ2本鎖(変異/非変異鎖)を増殖させるステップ。
【0057】
増殖後、生成したヘテロ2本鎖の約50%は変異型で、その他の50%は「野生型」(変異なし)である。選択および濃縮方法は、変異型の生成に都合良いように使用される。例えば、未変異の親鎖は、メチル化DNAのみを消化する制限酵素(DpnI)で消化することができる。新たに合成された鎖がメチル化されておらず、一方、親鎖(正しい大腸菌バックグラウンドから精製されたならば)はメチル化されているので、これによって、大腸菌を形質転換する前に反応から親鎖を除去することが可能である。
【0058】
他の部位特異的変異誘発には、
(1)特異的変異誘発プライマーを使用したポリメラーゼ連鎖反応(PCR)をベースにした方法、または後でタンパク質機能の所望する変異もしくは欠如/獲得をスクリーニングするエラープローンPCR、
(2)対象とする遺伝子を有するプラスミドの大腸菌変異株(DNA校正系を欠如している)への導入およびその後の所望する変異またはタンパク質機能の欠如/獲得のスクリーニング、
(3)所望する変異を含有する部分的遺伝子または完全な遺伝子の化学的合成およびその後の適切なタンパク質発現系への導入が含まれる。
【0059】
あるいは、所望する特性を備えたEndoSタンパク質は、所望する変異を有するポリペプチドの一部の化学的合成を含むDNA依存的方法によって生成することができる。
【0060】
本発明で使用するためのポリペプチドはまた、このように単離したポリペプチドの断片として調製することができる。さらに、EndoSポリペプチドはまた、合成的に、または組換え手段によって生成することができる。例えば、組換えEndoSポリペプチドは、培養した哺乳類細胞を、適切な対照配列に操作可能に結合したポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターで形質移入し、細胞を培養し、細胞によって産生されたEndoSポリペプチドを抽出し精製することによって生成することができる。
【0061】
ポリペプチドのIgG結合活性は一般的にIgG特異的であり、結合相互作用を可能にする条件下でその他の種類のIg、すなわち、IgM、IgA、IgDおよびIgEとインキュベートしたとき、ポリペプチドがこれらのイムノグロブリンに結合できない。EndoSポリペプチドは、対象から採取した試料に存在するIgG分子に結合することができる。したがって、対象がヒトである場合、EndoSポリペプチドは、ヒトIgGに結合することができる。EndoSは、4種のサブクラス(IgG1〜4)全てのヒトIgGに結合することができる。好ましい実施形態では、EndoSポリペプチドは、ヒト、アカゲザル、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ヤギ、イヌおよびブタIgGに結合する能力を有する。
【0062】
IdeS
IdeSは、ヒト病原体S.ピオゲネスによって産生される細胞外システインプロテアーゼであり、WO03/051914に記載されている。IdeSは元々、血清型M1のA群ストレプトコッカス株から単離されたが、ides遺伝子は、今では試験されたA群ストレプトコッカス株全てで同定されている。IdeSは、基質特異性が極端に高く、唯一同定された基質はIgGである。IdeSは、ヒトIgGの低いヒンジ領域の単一のタンパク質分解切断を触媒する。このタンパク質分解は、A群ストレプトコッカスの殺滅を妨害するオプソニン化貪食作用の阻害を促進する。IdeSはまた、様々な動物のIgGのいくつかのサブクラスを切断し、IgGをFcおよびFab断片に効率よく変換する。ides遺伝子をクローニングし、GST融合タンパク質として大腸菌で発現させた。
【0063】
本発明の方法で使用するためのIdeSポリペプチドは、S.ピオゲネスIdeS、またはシステインプロテアーゼ活性を保持するS.ピオゲネスIdeSの変異体もしくは断片であることが好ましい。変異体は、別の生物、例えば、別の細菌のIdeSポリペプチドであってもよい。細菌はストレプトコッカスが好ましい。ストレプトコッカスは、A群ストレプトコッカス、C群ストレプトコッカスまたはG群ストレプトコッカスが好ましい。特に、変異体は、C群ストレプトコッカス、例えば、S.エクイまたはS.ズーエピデミカスのIdeSポリペプチドであってもよい。あるいは、変異体は、シュードモナス プチダ由来であってもよい。
【0064】
IdeSポリペプチドは、
(a)配列番号:8のアミノ酸配列、
(b)配列番号:8のアミノ酸配列と少なくとも50%の同一性を有し、IgGシステインプロテアーゼ活性を有するその変異体、または
(c)IgGシステインプロテアーゼ活性を有するそのいずれかの断片
を含むことができる。
【0065】
好ましくは、IdeSポリペプチドは、配列番号:8の配列を含むか、またはそれからなる。配列番号:8は、シグナル配列を含まないIdeSの成熟形態の配列であり、配列番号:9のアミノ酸30から339に対応する。
【0066】
変異体IdeSポリペプチドは、アミノ酸配列が配列番号:8のアミノ酸配列とは異なるが、IdeSと同様のIgGシステインプロテアーゼ活性を示すものである。一般的に、配列番号:8のアミノ酸と約50%、55%または65%を上回る同一性、好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、少なくとも97%または少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドは、タンパク質の変異体と見なされる。このような変異体には、ペプチドがIdeSの基本的機能を保持している限り、対立形質変異体およびタンパク質配列内の単一のアミノ酸またはアミノ酸の群の欠失、改変もしくは添加を含むことができる。配列番号:8の変異体の同一性は、配列番号:8で示された配列の少なくとも50個、少なくとも75個、少なくとも100個、少なくとも150個、少なくとも200個、少なくとも250個、少なくとも275個、少なくとも300個以上の連続したアミノ酸の領域にわたって、より好ましくは配列番号:8の完全長にわたって測定することができる。
【0067】
配列番号:8のアミノ酸配列の変異体は、配列番号:8の残基Lys−55および/またはCys−65および/またはHis−233および/またはAsp−255および/またはAsp−257を含有することが好ましい。配列番号:8の変異体は、配列番号:8の残基Lys−55、Cys−65、His−233、Asp−255およびAsp−257を含有することが最も好ましい。
【0068】
変異体配列は一般的に、少なくとも1、2、5、10、20、30、50個以上の変異(アミノ酸の置換、欠失または挿入であってもよい)によって異なる。例えば、1個から50個、2個から30個、3個から20個または5個から10個のアミノ酸置換、欠失または挿入を行ってもよい。改変ポリペプチドは、IgG特異的システインプロテアーゼとしての活性を保持する。好ましくは、変異体ポリペプチドは、システインプロテアーゼに一般的に見出された間隔でシステイン残基およびヒスチジン残基を含む。例えば、配列番号:8において、これらの残基は、通常、システインプロテアーゼに見出されるように、アミノ酸約130個の間隔で見出される。
【0069】
本発明で使用したIdeSポリペプチドの断片は一般的に、IdeSのIgGシステインプロテアーゼ活性を保持している限り、少なくとも10個、例えば、少なくとも15、20、25、30、40、50個以上のアミノ酸長、100、150、200、250または300個までのアミノ酸長である。好ましくは、本発明で使用したIdeSポリペプチドの断片は、配列番号:1の残基Lys−55および/またはCys−65および/またはHis−233および/またはAsp−255および/またはAsp−257を包含する。断片が配列番号:8の残基Lys−55、Cys−65、His−233、Asp−255およびAsp−257のそれぞれを包含することが最も好ましい。
【0070】
本発明にしたがって使用するためのIdeSポリペプチドは、イムノグロブリンシステインプロテアーゼ活性、特にIgGシステインプロテアーゼ活性を示す。好ましくは、このポリペプチドはIgGをヒンジ領域で、さらに詳細には重鎖のヒンジ領域で切断する。切断によって、IgGのFc断片およびFab断片の生成が生じる。好ましくは、活性はIgGに特異的である。システインプロテアーゼ活性は、適切なアッセイによって測定することができる。例えば、試験ポリペプチドは、適切な温度、例えば、37℃でIgGと一緒にインキュベートすることができる。開始物質および反応産物は、所望するIgG切断産物が存在するかどうかを決定するために、その後SDSPAGEによって分析することができる。一般的に、この切断産物は31kDa断片である。一般的に、この最初の切断の後、さらにIgGの分解は起こらない。切断産物は、切断がIgGのヒンジ領域で生じることを確認するために、N末端配列決定を行うことができる。好ましくは、N末端配列は配列GPSVFLFPを含む。
【0071】
ポリペプチドのシステインプロテアーゼ活性はさらに、阻害研究によって特徴付けることができる。好ましくは、活性は、いずれもプロテアーゼ阻害剤であるペプチド誘導体Z−LVG−CHNによって、および/またはヨード酢酸によって阻害される。しかし、活性は通常、E64によっては阻害されない。
【0072】
ポリペプチドのシステインプロテアーゼ活性は一般的にIgG特異的で、IgGの切断を可能にする条件下でその他の種類のIg、すなわち、IgM、IgA、IgDおよびIgEとインキュベートしたとき、ポリペプチドがこれらのイムノグロブリンを分解できない。IdeSポリペプチドは、ヒトIgGを切断することができる。好ましい実施形態では、このポリペプチドは、ヒト、ウサギ、マウスまたはヤギIgGを切断する能力を有する。
【0073】
本発明で使用するためのIdeSポリペプチドは、IdeSポリペプチドを発現する任意の適切な生物から単離することができる。一般的に、IdeSポリペプチドは、S.ピオゲネスの適切なIdeS発現株から単離する。適切な生物および株は、いくつかの技術によって同定することができる。例えば、S.ピオゲネス株は最初、ides遺伝子の存在を試験することができる。ポリヌクレオチドプライマーまたはプローブは、例えば、配列番号:8、9または10に基づいて設計することができる。次に、ides遺伝子の存在は、プライマーを使用したPCRによって、またはS.ピオゲネス株のゲノムDNAに対するプローブのハイブリダイゼーションによって、確認することができる。
【0074】
活性型IdeSを発現するS.ピオゲネス株は、培養上清中のIgGシステインプロテアーゼ活性をアッセイすることによって同定することができる。いかなるSpeBシステインプロテアーゼ活性も阻害するために、阻害剤E64を上清に添加することが好ましい。少なくとも5種類の株、AP1、AP12、AP55、KTL3およびSF370株は活性型IdeSを発現する。好ましくは、発現株は、AP1、AP12およびAP55から選択される。
【0075】
発現しているS.ピオゲネス培養物またはIdeSを発現しているその他の細胞の培養物からのIdeSの単離および精製は一般的に、IgGシステインプロテアーゼ活性に基づいている。好ましくは、精製方法は、硫酸アンモニウム沈殿ステップおよびイオン交換クロマトグラフィーステップを含む。一方法では、培養培地は、硫酸アンモニウムの量を漸増添加することによって分画する。硫酸アンモニウムの量は、10から80%であってもよい。好ましくは、培養培地は50%硫酸アンモニウムで分画し、得られた上清はさらに70%硫酸アンモニウムで沈殿させる。次に、ペレット化したポリペプチドはイオン交換クロマトグラフィー、例えば、Mono QカラムによるFPLCを行う。溶出した画分は、IgGシステインプロテアーゼ活性を測定することができ、ピーク活性画分を収集することができる。画分は、SDS PAGEによって分析することができる。例えば、N末端配列は、SDS PAGEタンパク質バンドから得ることができる。画分は、−20℃で保存してもよい。
【0076】
Fc結合タンパク質
本発明の方法で使用するために好ましいFc結合タンパク質は、前述の関連した部分で記載したようなエンドグリコシダーゼ活性を欠如した改変EndoSポリペプチドである。本発明の改変EndoSポリペプチドは、正常にグリコシル化されるならば、IgGサブクラス全てのFc断片に結合する。
【0077】
本発明の方法で使用するために好ましい別のFc結合タンパク質は、プロテインHである。プロテインHは、S.ピオゲネスによって発現し、EP−A−0371199およびWO91/10740に記載されている。プロテインHは、特徴的な一連のイムノグロブリン結合特性、例えば、IgGのFc部分への結合を有する。これはアルブミンに結合することもできる。プロテインH内ではいくつかの領域が同定されており、S、A、B、C1、C2、C3およびD領域と表されている。IgG Fc結合ドメインはAB領域に存在し、一方、C反復(C1、C2およびC3)は、アルブミン結合に関与する。プロテインHはまた、核を標的とし、細胞分裂停止効果を有することが見出された。
【0078】
本発明の方法で使用するためのプロテインHポリペプチドは、S.ピオゲネスプロテインH、またはIgG Fc結合活性を保持するS.ピオゲネスプロテインHの変異体もしくは断片であることが好ましい。変異体は、別の生物、例えば、別の細菌のプロテインHポリペプチドであってもよい。細菌はストレプトコッカスが好ましい。
【0079】
プロテインHポリペプチドは、
(a)配列番号:11のアミノ酸配列、
(b)配列番号:11のアミノ酸配列と少なくとも50%の同一性を有し、IgG Fc結合活性を有するその変異体、または
(c)IgG Fc結合活性を有するそのいずれかの断片
を含むことができる。
【0080】
好ましくは、プロテインHポリペプチドは、配列番号:11の配列を含むか、またはそれからなる。配列番号:11は、シグナル配列を含まないプロテインHの成熟形態の配列であり、配列番号:12のアミノ酸42から376に対応する。
【0081】
変異体ポリペプチドは、アミノ酸配列が配列番号:11のアミノ酸配列とは異なるが、プロテインHと同様のIgG Fc結合活性を保持しているものである。一般的に、配列番号:11のアミノ酸と約50%、55%または65%を上回る同一性、好ましくは少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも95%、少なくとも97%または少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドは、タンパク質の変異体と見なされる。このような変異体は、ペプチドがプロテインHの基本的機能を保持している限り、対立形質変異体およびタンパク質配列内の単一のアミノ酸またはアミノ酸の群の欠失、改変もしくは添加を含むことができる。配列番号:11の変異体の同一性は、配列番号:11で示された配列の少なくとも50個、少なくとも75個、少なくとも100個、少なくとも150個、少なくとも200個、少なくとも250個、少なくとも275個、少なくとも300個以上の連続したアミノ酸の領域にわたって、より好ましくは配列番号:11の完全長にわたって測定することができる。
【0082】
配列番号:4のアミノ酸配列の変異体は、IgG Fc結合に関与する残基を含有するプロテインHのN末端AB領域である配列番号:11のアミノ酸1から117を含有することが好ましい。このような変異体は、プロテインHのIgG Fc結合領域の一部である配列番号:11の残基84から108を含有することが最も好ましい。プロテインHの変異体は、プロテインHのC反復(C1、C2およびC3)、すなわち、配列番号:11のアミノ酸118から242を含有することが好ましい。
【0083】
変異体配列は一般的に、少なくとも1、2、5、10、20、30、50個以上の変異(アミノ酸の置換、欠失または挿入であってもよい)によって異なる。例えば、1個から50個、2個から30個、3個から20個または5個から10個のアミノ酸置換、欠失または挿入を行ってもよい。改変ポリペプチドは、IgG Fc結合活性を保持する。
【0084】
本発明で使用したプロテインHポリペプチドの断片は一般的に、プロテインHのIgG Fc結合活性を保持している限り、少なくとも10個、例えば、少なくとも15、20、25、30、40、50個以上のアミノ酸長、100、150、200、250、300または325個までのアミノ酸長である。好ましくは、本発明で使用したプロテインHポリペプチドの断片は、配列番号:11の残基84から108を包含する。配列番号:11の好ましい断片には、プロテインHのN末端AB領域であり、IgG Fc結合に関与する領域を含有する配列番号:11のアミノ酸1から117、配列番号:11のアミノ酸1から108、N末端A領域である配列番号:11のアミノ酸1から80、配列番号:11のアミノ酸1から77、プロテインHのB領域である配列番号:11のアミノ酸81から117、大腸菌において組換えによって産生されたプロテインHの形態である配列番号:11のアミノ酸1から305、ストレプトコッカスのシステインプロテアーゼの作用によってストレプトコッカスの細胞表面から切断されたプロテインHの形態である配列番号:11のアミノ酸1から285が含まれる。
【0085】
本発明にしたがって使用するためのポリペプチドは、IgG Fc結合活性を示す。IgG Fc結合活性は、適切なアッセイ、例えば、ウェスタンブロットもしくはプローブとして放射標識IgG Fcを使用したスロットブロット分析によって、またはELISAによって、例えば、Frickら(1994)、Molecular Microbiology 12:143〜151に記載されたように測定することができる。
【0086】
プロテインHポリペプチドのIgG Fc結合活性はさらに、阻害研究によって特徴付けることができる。例えば、放射標識プロテインHのポリアクリルアミドビーズに固定したIgG Fcへの結合は、例えば、Frickら(1994)、Molecular Microbiology 12:143〜151に記載されたように、プロテインHポリペプチドで阻害することができる。
【0087】
プロテインHポリペプチドのFc結合活性は一般的にIgG特異的で、IgGへの結合を可能にする条件下でその他の種類のIg、すなわち、IgM、IgA、IgDおよびIgEとインキュベートしたとき、ポリペプチドはこれらのイムノグロブリンに結合できない。プロテインHポリペプチドは、ヒトIgGに結合することができる。好ましい実施形態では、このポリペプチドは、ヒト、ウサギおよびヒヒIgGを切断する能力を有する。
【0088】
本発明で使用するためのプロテインHポリペプチドは、プロテインHを発現する任意の適切な生物から単離することができる。一般的に、プロテインHポリペプチドは、S.ピオゲネスの適切なプロテインH発現株から単離する。適切な生物および株は、いくつかの技術によって同定することができる。例えば、S.ピオゲネス株は最初、プロテインHをコードする遺伝子の存在を試験することができる。ポリヌクレオチドプライマーまたはプローブは、例えば、配列番号:11,12または13をベースにして設計することができる。次に、プロテインHをコードする遺伝子の存在は、プライマーを使用してPCRによって、またはS.ピオゲネス株のゲノムDNAに対するプローブのハイブリダイゼーションによって、確認することができる。
【0089】
活性型プロテインHを発現するS.ピオゲネス株は、培養上清中のIgG結合活性を測定することによって同定することができる。活性型プロテインHを発現するS.ピオゲネスの株は、M1血清型に属する株、例えば、AP1である。
【0090】
発現するS.ピオゲネス培養物からの、またはプロテインHを発現するその他の細胞の培養物からのプロテインHの単離および精製は一般的に、IgG結合活性をベースにしている。好ましくは、精製方法には、セファロースに結合させたIgGを使用したアフィニティークロマトグラフィーステップが含まれる。
【0091】
前記と類似の考察を、本発明の方法で使用することができるその他の適切なFc結合タンパク質に適用する。例えば、プロテインG(一般的に、ストレプトコッカス細菌由来)、プロテインA(一般的にスタフィロコッカス細菌由来)およびプロテインA/G(プロテインAおよびプロテインG両方のIgG結合ドメインを一緒にする組換え融合タンパク質)の1つまたは複数は、本発明の方法においてプロテインHの代わりに、またはプロテインHに加えて使用することができる。これらのタンパク質は、いずれも哺乳類のイムノグロブリンのFc領域に結合する能力を有する微生物由来の天然タンパク質および組換えタンパク質として良く特徴付けられている。様々なタンパク質とイムノグロブリンとの相互作用は、抗体サブクラス全てについて同等ではなく、IgG特異的Fc結合活性を備えたFc結合タンパク質が好ましいと理解されよう。
【0092】
FcγRに結合したIgG分子を実質的に含まない細胞集団の単離方法
4種類のサブクラス、IgG、IgG、IgGおよびIgGに分類されたIgGは、様々な活性化プロファイルをもたらす様々な種類のFcγRと相互作用することが記載されている。FcγRは、体液性および細胞性免疫応答の間の連携をもたらす。食細胞は、構造的および機能的相同性ならびにIgGのC2領域上の特異的認識部位を特徴とする、3種類のIgG−Fc受容体、FcγRI、FcγRIIおよびFcγRIIIの構成要素を発現する。病原体−IgG複合体のFcγRへの結合は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞障害(CDCC)、エンドサイトーシス、食作用、酸化的バースト、炎症媒介物の放出などを引き起こすシグナルのカスケードを開始することによって、病原体に対する宿主の重要な応答を媒介する。複合体化したIgG−FcγRは、補体のC1q成分の活性化の他に、その他のリガンド、例えば、マンナン結合レクチン(MBL)、新生児受容体FcRn、マンノース受容体(MR)なども活性化することができる。FcγRは、構造的に造血細胞上で発現することができ、サイトカインおよびその他の薬剤によって誘導または上方制御することができる。FcγRは、IgG媒介エフェクター刺激を活性化および阻害する両方の能力を備えた、免疫系の活性化シグナル(FcγRI、FcγRIIaおよびFcγRIIIa)と阻害シグナル(FcγRIIb)の均衡に関与する。
【0093】
したがって、FcγRによって媒介される効果は、免疫の研究において非常に興味深い。しかし、対象または個体から単離された細胞には一般的にFcγRに結合したIgGが予め負荷されているので、このような効果の評価は、インビトロでは複雑である。したがって、受容体はブロックされており、さらなる分析を妨げている。細胞にさらに損傷を与えることなく、FcγRから結合したIgGを取り除くための適切な試薬は当業界では存在しない。したがって、研究者らはやむをえず、IgGなしで培養することができるFcγR発現細胞系を使用してきた。これでは、対象から単離した天然細胞の近似しかもたらされず、したがって、この分野の研究は妨げられてきた。本発明者らは、IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するEndoSポリペプチドがIgGの全サブクラスを加水分解することができ、FcγRへの結合を防御することを示した。さらに、本発明者らは、細胞とEndoSとの接触がFcγRからの結合IgGの遊離を導くことを示した。したがって、以前細胞系に限定されてきた研究は、今では天然の細胞で実施することが可能である。これによって、例えば、IgG/受容体親和性、反応速度論および細胞当たりの受容体数の計算の研究が可能で、細胞系ではなく天然の細胞においてFc媒介シグナル伝達現象が解明されるだろう。
【0094】
したがって、本発明は、Fcγ受容体結合IgG分子を実質的に含まない細胞集団を単離する方法であって、細胞含有試料をEndoSポリペプチドと接触させるステップと、細胞を接触した試料から分離するステップとを含み、それによって前記細胞集団を得る方法を提供する。
【0095】
細胞含有試料は、対象または個体から採取した血液または血清試料であってもよく、あるいは細胞培養培地であってもよい。対象または個体は、ヒトであることが好ましいが、動物であってもよく、好ましくはアカゲザル、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ヤギ、イヌおよびブタから選択される。
【0096】
細胞含有試料は、ポリペプチドと細胞との間の相互作用を起こさせ、エンドグリコシダーゼ活性を生じさせるために適切な条件下でEndoSポリペプチドと接触させる。適切な条件には、EndoSを少なくとも1μg/ml、2μg/ml、4μg/ml、6μg/ml、8μg/ml、10μg/ml、12μg/ml、15μg/mlまたは20μg/mlの濃度、好ましくは少なくとも10μg/mlで使用することが含まれる。適切な条件にはまた、細胞含有試料とEndoSを少なくとも20分、30分、40分、50分、60分、70分、80分、90分または120分、好ましくは少なくとも90分インキュベートすることが含まれる。インキュベーションは、好ましくは室温で、より好ましくは、約20℃、25℃、30℃、35℃、40℃または45℃、最も好ましくは約37℃で行う。
【0097】
細胞は、任意の適切な手段によって接触した試料から分離する。適切な手段には、生細胞の分離を引き起こす手段が含まれる。したがって、これらの手段には、細胞に障害を与えず、細胞において炎症応答を誘導しない方法が含まれる。適切な手段には、例えば、細胞の穏やかな洗浄が含まれる。穏やかに洗浄することは、細胞含有試料を少なくとも1回約1000×gで約5分間遠心し、その後上清を吸引し、適切な新鮮な細胞培養培地にペレットを再懸濁することを包含するものとする。遠心、吸引および再懸濁のステップは、好ましくは少なくとも1、2、3、4回、または好ましくは5回繰り返す。
【0098】
他の手段には、EndoSポリペプチドを試料から除去するための方法、または切断したIgGを試料から除去する方法を含めてもよい。EndoSを試料から除去する好ましい方法には、前述のように誘導体化または改変EndoSの使用が含まれる。
【0099】
好ましい改変には、ヒスチジンタグの添加が含まれる。ヒスチジンタグの存在は、ポリペプチドが表面上にニッケル、銅または亜鉛イオンを有するキレート基を含有する試薬または分離手段に高い親和性で結合することを意味する。ヒスチジンタグは、これらの金属イオンに強力に結合する。したがって、このような試薬は、EndoSを試料から分離するために使用することができる。
【0100】
別の好ましい改変には、ビオチンタグの添加が含まれる。ビオチンタグの存在は、ポリペプチドがストレプトアビジンを含む試薬または分離手段に高い親和性で結合することを意味する。ビオチンタグは、ストレプトアビジンに強力に結合する。したがって、このような試薬は、EndoSを試料から分離するために使用することができる。
【0101】
好ましい試薬および分離手段は、EndoSポリペプチドを結合できる磁性粒子の集団である。例えば、EndoSポリペプチドがヒスチジンタグで誘導体化される場合、磁性粒子は表面上にニッケル、銅または亜鉛イオンを有するキレート基を含有する。あるいは、EndoSポリペプチドがビオチンタグで誘導体化される場合、磁性粒子は表面上にストレプトアビジンを含有する。
【0102】
したがって、試料からEndoSを除去する好ましい方法は、前述のような磁性粒子の集団を使用するステップと、試料上に磁場分離を実施するステップとを含む。磁性粒子は、磁性ナノ粒子であることが好ましく、磁場分離は、高勾配磁場分離であることが好ましい。
【0103】
いかなる適切な分離手段を使用してもよいことを理解されたい。例えば、超遠心および超音波をベースにした分離技術を使用してもよい。他の例として、一実施形態では、分離手段は、固体支持体を含む。好ましい固体支持体には、アフィニティークロマトグラフィーカラムにおいてマトリクスとして使用できる架橋アガロースビーズ、または類似物が含まれる。あるいは、固体支持体は、適切なシリカをベースにした物質またはポリスチレンを含むことができる。一実施形態では、固体支持体は、分離すべきポリペプチドを直接吸着できるプラスティック容器、例えば、マイクロタイタープレートまたは同等物を含むことができる。
【0104】
あるいは、分離手段には、当業界で標準の方法によって作製することができる、分離すべきポリペプチドに特異的な抗体を含む試薬が含まれる。この意味での抗体には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、1本鎖抗体、キメラ抗体、CDRグラフト抗体またはヒト化抗体が含まれる。抗体は、完全なイムノグロブリン分子またはその断片、例えば、Fab、F(ab’)またはFv断片であってもよい。複数の抗体が存在する場合、抗体は、ポリペプチドに同時に結合できるように様々な非重複決定因子を有することが好ましい。抗体は、固体支持体に結合することができるか、または分離もしくは単離を支援する他の化学基もしくは分子で標識するか、または結合させることができる。例えば、一般的な化学基には、蛍光標識、例えば、フルオレセイン(FITC)もしくはフィコエリスリン(PE)、またはタグ、例えば、ビオチンが含まれる。
【0105】
さらに他の手段はさらに、Fcγ−受容体から解離したIgGの除去方法を含むことができる。解離したIgGは、グリコシル化されていない、および/または変性形態のIgGを結合できる代替のIgG結合試薬を添加することによって、試料から除去できた。適切な作用物質には、プロテインAおよびプロテインGが含まれる。これらの作用物質は次に、試料から分離し、それによって解離したIgGを除去することができる。代替のIgG結合試薬は、分離を支援するために、EndoSについて前述したように誘導体化もしくは改変することができる。好ましい代替のIgG結合試薬は、前述した誘導体化または改変EndoSのように同様の分離手段と相互作用するように誘導体化または改変されるだろう。例えば、代替のIgG結合試薬は、誘導体化または改変EndoSのように同様の磁性粒子集団と相互作用するように誘導体化または改変することができた。EndoSポリペプチドおよび代替のIgG結合試薬はいずれもその後、磁場分離によって試料から除去することができる。
【0106】
試料中のIgGの有無を決定する方法またはIgG含有試料からIgGを単離する方法
IgGの単離および/または検出は一般的に、プロテインGまたはプロテインAのような薬剤を使用して当技術で実施される。これらの細菌タンパク質は、IgGと十分に相互作用する。しかし、プロテインAは、4種類のIgGサブクラス(IgG1〜4)全てと結合せず、プロテインAおよびプロテインGはどちらも、グリコシル化されておらず、かつ/または変性した不活性型IgGと、グリコシル化した、かつ/または天然の機能的に活性のあるIgGとを区別することができない。それに反して、本発明者らは、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如したEndoSポリペプチドは一般的に高い親和性で4種類のIgGサブクラス全てと結合し、正常にグリコシル化されたIgG、すなわち、天然の機能的に活性のある形態のIgGに選択的であることを同定した。
【0107】
したがって、本発明は、試料中のIgGの有無を決定する改善された方法であって、前記試料を、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如したEndoSポリペプチドと接触させるステップと、接触試料から前記EndoSを分離するステップと、それによってIgGの有無を決定するステップと、所望により、IgGが存在する場合、単離されたIgGを得るステップとを含む方法を提供する。したがって、本発明はまた、IgG含有試料からIgGを単離する方法であって、前記試料を、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如したEndoSポリペプチドと接触させるステップと、接触試料から前記EndoSを分離するステップとを含み、それによって単離されたIgGを得る方法を提供する。
【0108】
前記試料は、ポリペプチドと試料との間の相互作用を起こさせ、IgG結合活性を生じさせるため、すなわち、IgG−EndoSポリペプチド複合体の形成を可能にするために適切な条件下でEndoSポリペプチドと接触させる。適切な条件には、EndoSを少なくとも1μg/ml、2μg/ml、4μg/ml、6μg/ml、8μg/ml、10μg/ml、12μg/ml、15μg/mlまたは20μg/ml、好ましくは少なくとも10μg/mlの濃度で使用することが含まれる。適切な条件にはまた、試料とEndoSを少なくとも20分、30分、40分、50分、60分、70分、80分、90分または120分、好ましくは少なくとも60分インキュベートすることが含まれる。インキュベーションは、好ましくは室温で、より好ましくは、約20℃、25℃、30℃、35℃、40℃または45℃、最も好ましくは約37℃で行う。
【0109】
これらの方法におけるEndoSの特定の利点は、EndoSが正常なグリコシル化IgGに特異的に結合することである。その他のIgG結合剤のIgG結合活性は通常、IgG糖タンパク質の変性を必要とし、それによって増強される。これは一般的に、IgG含有試料を酸で処理することによって実施される。このような処理は、いくつかの抗体(酸感受性抗体)に損傷を与え、変性させ得る。本発明の方法はこのような処理を必要としないので、この方法は試料から天然の形態(native form)で酸感受性IgGを単離するために特に適している。
【0110】
EndoSは、任意の適切な手段によって接触した試料から分離することができる。EndoSを試料から除去するための好ましい方法には、前述のように誘導体化または改変したEndoSの使用が含まれる。
【0111】
好ましい改変には、ヒスチジンタグの添加が含まれる。ヒスチジンタグの存在は、ポリペプチドが表面上にニッケル、銅または亜鉛イオンを有するキレート基を含有する試薬または分離手段に高い親和性で結合することを意味する。ヒスチジンタグは、これらの金属イオンに強力に結合する。したがって、このような試薬は、EndoSを試料から分離するために使用することができる。
【0112】
別の好ましい改変には、ビオチンタグの添加が含まれる。ビオチンタグの存在は、ポリペプチドがストレプトアビジンを含む試薬または分離手段に高い親和性で結合することを意味する。ビオチンタグは、これらのストレプトアビジンに強力に結合する。したがって、このような試薬は、EndoSを試料から分離するために使用することができる。
【0113】
好ましい試薬および分離手段は、EndoSポリペプチドを結合できる磁性粒子の集団である。例えば、EndoSポリペプチドがヒスチジンタグで誘導体化される場合、磁性粒子は表面上にニッケル、銅または亜鉛イオンを有するキレート基を含有する。あるいは、EndoSポリペプチドがビオチンタグで誘導体化される場合、磁性粒子は表面上にストレプトアビジンを含有する。
【0114】
したがって、試料からEndoSを除去する好ましい方法は、前述のような磁性粒子の集団を使用するステップと、試料上において磁場分離を実施するステップとを含む。磁性粒子は、磁性ナノ粒子であることが好ましく、磁場分離は、高勾配磁場分離であることが好ましい。
【0115】
いかなる適切な分離手段も使用できることを理解されたい。例えば、他の手段は、前記の部分に記載されている。
【0116】
接触した試料のEndoSは、任意の適切な手段によって結合したIgGの有無のために評価することができる。
【0117】
例えば、EndoSの分子量を分析することができる。IgGに結合したEndoSは、IgGに結合していないEndoSよりも分子量が大きい。したがって、適切な方法には、重量によってタンパク質種を区別できる任意の方法、例えば、SDS−PAGEおよびウェスタンブロット、質量分析などが含まれる。あるいは、前記のウェスタンブロットは、IgG特異的抗体または特定のIgGサブクラスに特異的な抗体を使用することによってIgGの存在を直接分析することができる。このようにブロットでタンパク質を検出することは、当業界で広く使用される技術である。
【0118】
EndoSに結合したIgGの有無を検出するその他の適切な手段には、EndoSとIgGに対する抗体または酵素が結合したIgG結合タンパク質(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)とをインキュベートし、その後蛍光発生/発色性基質を添加することが含まれる。この場合、色素信号の発生は、IgGの存在を示し、IgGの量は信号の強度に比例する。このようにタンパク質を検出することは、当業界で広く使用される技術である。
【0119】
EndoSに結合したIgGの有無を検出するために適切な他の手段には、前記の方法のいずれかまたは任意の適切な方法によってEndoSを独立して分析/検出できるように、EndoSから結合したIgGを最初に分離することが含まれる。IgGは、任意の適切な手段によってEndoSから分離することができる。適切な手段には、接触した試料のEndoSと適切な溶出緩衝液を接触させることによってEndoSからIgGを溶出することが含まれる。溶出緩衝液の選択は一般的に、EndoSに結合したIgGが公知であるか、または酸感受性と考えられるかどうか、すなわち、酸との接触によって変性/不活性化されやすいかどうかに左右される。
【0120】
抗体が酸感受性ではない場合、低pH溶出緩衝液を使用した溶出プロトコールが通常使用され得る。この種の溶出プロトコールは当業界では周知である。このような溶出緩衝液のpHは、一般的に約3未満、最も好ましくは約2未満のpHである。好ましい例には、pH2のグリシン0.1Mが含まれる。さらに、または所望により、このような溶出緩衝液は一般的に、以下の
−好ましくは約0.5Mから約1Mの濃度のナトリウムもしくはカリウム塩、
−天然IgG上のAsn−297に結合したグリカンと類似した構造を有する単糖類、二糖類、もしくは多糖類、
または任意のその組み合わせの少なくとも1種を含む。
【0121】
しかし、前記に概略したように、本発明の方法は、酸感受性抗体の検出/単離に特に適している。したがって、EndoSに結合したIgGが公知であるか、または酸感受性と考えられる場合、低pHを必要としない溶出緩衝液およびプロトコールを使用することが好ましい。このようなプロトコールはまた当業界では公知で、EndoSへの結合を結合IgGと競合し、こうして結合IgGの遊離を導く分子を含む緩衝液を提供するという原理に基づいている。したがって、適切な競合溶出緩衝液には一般的に、1種または複数の、天然IgG上のAsn−297と結合したグリカンと類似した構造を有する単糖類、二糖類、もしくは多糖類が含まれる。特に好ましい溶出緩衝液には、好ましくはpHが約5.3から約8.3のスクロース約0.25Mから約0.5Mが含まれる。特に好ましい溶出緩衝液の例には、例えば、PBS pH7.4に溶かしたスクロース0.25M、PBS pH7.4に溶かしたスクロース0.5M、PBS pH5.3に溶かしたスクロース0.25M、PBS pH8.5に溶かしたスクロース0.25M、PBS pH7.4に溶かしたスクロース0.25M、マルトース0.25Mが含まれる。
【0122】
さらに、または所望により、このような競合溶出緩衝液は一般的に、約0.5から約1Mの濃度のナトリウム塩またはカリウム塩を含んでいてもよい。
【0123】
前述のようにEndoSから結合IgGを分離するための手段はまた、単離したIgGを得るために必要であり得る。
【0124】
IgG含有試料のグリコシル化状態および/または機能的品質(functional quality)を評価する方法
前述したように、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如し、IgG結合活性を有する本発明のEndoSポリペプチドは、グリコシル化された、かつ/または天然の機能的に活性のあるIgGに特異的である。したがって、前記EndoSポリペプチドを代替のIgG結合試薬と併用することによって、本発明は、IgG含有試料のグリコシル化状態または機能的品質を評価する方法であって、IgG含有試料から第1および第2の部分試料を採取し、第1の部分試料を前記部分で記載したようなEndoSポリペプチドと接触させ、第2の部分試料を、グリコシル化されておらず、かつ/または変性した、不活性型IgGを結合できる代替のIgG結合試薬と接触させるステップと、その後第1の部分試料中のEndoSポリペプチドに結合したIgGの量および第2の部分試料中の代替のIgG結合試薬に結合したIgGの量を定量するステップとを含む方法を提供する。最終的に、第1の部分試料および第2の部分試料中で測定された結合IgG量の両方を比較することによって、IgG含有試料のグリコシル化状態または機能的品質を評価することができる。
【0125】
代替のIgG結合試薬は通常、IgGの全形態(天然型または変性型)に結合するプロテインAまたはプロテインGである。したがって、この場合、前記試薬に結合したIgGの量は、第2の部分試料中に存在する全IgGを表す。EndoSポリペプチドは、グリコシル化された、かつ/または天然の機能的に活性のあるIgGにのみ結合し、したがって、EndoSに結合したIgGの量は第1の部分試料中に存在するグリコシル化された、かつ/または天然の機能的に活性のあるIgGのみを表す。第2の部分試料中の全IgGの濃度を第1の部分試料中の天然型IgGの濃度と比較することによって、元の試料中のグリコシル化された、かつ/または天然の機能的に活性のある形態であるIgGの比を反映する比が得られることを当業者は認識するだろう。
【0126】
別の実施形態では、代替のIgG結合試薬は、グリコシル化されておらず、かつ/または変性したIgGに特異的であり得る。このような試薬は、例えば、抗体であることができる。したがって、この実施形態では、元の試料中のグリコシル化された、かつ/または天然の機能的に活性のある形態で存在するIgGの比は、式、
【数1】


によって評価することができる。
【0127】
前記方法における試料は、ポリペプチドまたは試薬と試料との間に相互作用を起こさせ、IgG結合活性が生じるために適切な条件下で、EndoSポリペプチドまたは代替のIgG結合試薬と接触させる。適切な条件は、例えば、前記の部分で記載したものと同等である。
【0128】
IgG含有試料からIgG FabまたはFc断片を単離する方法
本発明の方法は、IgG含有試料からFab断片を単離するために使用することができる。一実施形態では、本発明は、IgG含有試料からFab断片を単離する方法であって、
(a)前記IgG含有試料をIdeSおよびFc結合タンパク質と接触させるステップと、
(b)接触試料から前記IdeSおよび前記Fc結合タンパク質を分離するステップと
を含み、それによってFab断片を単離する方法を提供する。
【0129】
試料からIdeSおよびFc結合タンパク質を分離する好ましい方法には、前述のように誘導体化または改変IdeSおよび/またはFc結合タンパク質の使用が含まれる。同一または異なる改変をIdeSおよびFc結合タンパク質のいずれかに使用することができる。
【0130】
好ましい改変には、ヒスチジンタグの添加が含まれる。ヒスチジンタグの存在は、ポリペプチドが表面上にニッケル、銅または亜鉛イオンを有するキレート基を含有する試薬または分離手段に高い親和性で結合することを意味する。ヒスチジンタグは、これらの金属イオンに強力に結合する。したがって、このような試薬は、IdeSおよび/またはFc結合タンパク質を試料から分離するために使用することができる。
【0131】
別の好ましい改変には、ビオチンタグの添加が含まれる。ビオチンタグの存在は、ポリペプチドがストレプトアビジンを含む試薬または分離手段に高い親和性で結合することを意味する。ビオチンタグは、ストレプトアビジンに強力に結合する。したがって、このような試薬は、IdeSおよび/またはFc結合タンパク質を試料から分離するために使用することができる。
【0132】
好ましい試薬または分離手段は、EndoSポリペプチドを結合できる磁性粒子の集団である。例えば、IdeSおよび/またはFc結合タンパク質ポリペプチドがヒスチジンタグで誘導体化される場合、磁性粒子はその表面にニッケル、銅または亜鉛イオンを有するキレート基を含有する。あるいは、IdeSおよび/またはFc結合タンパク質ポリペプチドがビオチンタグで誘導体化される場合、磁性粒子は表面上にストレプトアビジンを含有する。
【0133】
したがって、試料からEndoSを除去する好ましい方法は、前述のような磁性粒子の集団を使用するステップと、試料上において磁場分離を実施するステップとを含む。磁性粒子は、磁性ナノ粒子であることが好ましく、磁場分離は、高勾配磁場分離であることが好ましい。
【0134】
したがって、前記方法のステップ(a)は、好ましくはさらに、試料をIdeSおよびFc結合タンパク質に結合できる磁性ナノ粒子の集団と接触させることを含み、ステップ(b)は試料上で磁場分離を実施することを含む。
【0135】
任意の適切な分離手段を使用できることを理解されたい。例えば、FcγRに結合したIgG分子を実質的に含まない細胞集団を単離するための方法に関してこの部分で記載した他の手段は、IdeSおよび/またはFc結合タンパク質の分離に適応することができた。
【0136】
Fc結合タンパク質は、好ましくはプロテインHまたはエンドグリコシダーゼ活性を欠如した改変EndoSポリペプチドである。
【0137】
本発明の前記実施形態では、IgG含有試料は通常、精製された、または単離されたIgGを含む。「精製された、または単離されたIgG」とは、通常の商用等級の純度のIgG画分を意味する。IgGは通常、血清、または組換えIgGの場合は細胞溶解物などの試料から単離される。単離は、適切な方法にしたがって、好ましくは、エンドグリコシダーゼ活性を欠如した改変EndoSポリペプチドを使用したIgGの単離について前述した方法にしたがって実施することができる。したがって、本発明の一実施形態は、ステップ(a)の前に、
(i)前記IgG含有試料を、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如するEndoSポリペプチドと接触させ、それによってIgG−EndoSポリペプチド複合体の形成を可能にするステップと、
(ii)前記IgG−EndoSポリペプチド複合体を接触試料から分離するステップと、
(iii)IgG−EndoSポリペプチド複合体からIgGを溶出し、それによってIgG接触試料を得るステップと
を含み、ステップ(a)および(b)がステップ(iii)で得られたIgG含有試料で実施される、前述の方法を包含する。IgG−EndoSポリペプチド複合体の試料からの分離は、試料中のIgGの有無を決定する方法、またはIgG含有試料からIgGを単離する方法に関して前記部分で記載した方法にしたがって実施することが好ましい。
【0138】
本発明の他の実施形態では、この方法は、この方法を実施する前にIgGを精製する必要なくIgG含有試料からFab断片を単離するのに適合している。これらの方法は、未精製IgG、例えば、全血清、細胞溶解物または細胞培養培地を含有する試料で実施することができる。本発明のこの実施形態では、この方法は、
(a)前記IgG含有試料をFc結合タンパク質と接触させ、それによってIgG−Fc結合タンパク質複合体の形成を可能にするステップと、
(b)前記IgG−Fc結合タンパク質複合体を接触した試料から分離するステップと、
(c)ステップ(b)で得られたIgG−Fc結合タンパク質にIdeSを添加するステップと、
(d)(c)で得られた混合物から前記IdeSおよび前記Fc結合タンパク質を分離するステップと
を含み、それによってFab断片を単離する。
【0139】
試料/前記混合物からIdeSおよび/またはFc結合タンパク質を分離するための方法は、前述のように誘導体化または改変したIdeSおよび/またはFc結合タンパク質を使用することを含むことが好ましい。同じまたは異なる改変をIdeSおよびFc結合タンパク質のいずれかに使用することができる。好ましい試薬および分離手段は、IdeSおよび/またはFc結合タンパク質を結合できる磁性粒子の集団である。例えば、IdeSおよび/またはFc結合タンパク質ポリペプチドがヒスチジンタグで誘導体化される場合、磁性粒子はその表面にニッケル、銅または亜鉛イオンを有するキレート基を含有する。あるいは、IdeSおよび/またはFc結合タンパク質ポリペプチドがビオチンタグで誘導体化される場合、磁性粒子は表面上にストレプトアビジンを含有する。
【0140】
したがって、前記方法のステップ(a)は、好ましくはさらに、試料をFc結合タンパク質に結合できる磁性ナノ粒子の集団と接触させることを含み、ステップ(c)はさらに、ステップ(b)で得られたIgG−Fc結合タンパク質複合体とIdeSおよびFc結合タンパク質に結合できる磁性ナノ粒子の集団とを接触させることを含み、ステップ(b)および(d)はそれぞれ(a)の試料および(c)で得られた混合物において磁場分離を実施することを含む。
【0141】
いかなる適切な分離手段も使用できることを理解されたい。例えば、FcγRに結合したIgG分子を実質的に含まない細胞集団を単離するための方法に関してこの部分で記載した他の手段は、IdeSおよび/またはFc結合タンパク質の分離に適応させることができた。
【0142】
前記実施形態におけるFc結合タンパク質は、好ましくはプロテインHまたはエンドグリコシダーゼ活性を欠如した改変EndoSポリペプチドを使用する。
【0143】
本発明の前記方法はまた、IgG含有試料からFc断片を単離するために使用することができる。本発明のこのような一実施形態では、この方法は、
(a)前記IgG含有試料をIdeSと接触させるステップと、
(b)ステップ(a)で得られた混合物からIdeSを分離し、それによってFabおよびFc断片を単離するステップと、
(c)前記FabおよびFc断片をFc断片結合タンパク質と接触させ、それによってFc断片−Fc結合タンパク質複合体の形成を可能にするステップと、
(d)ステップ(c)で得られた混合物からFc断片−Fc結合タンパク質複合体を分離するステップと、
(e)ステップ(d)で得られたFc断片−Fc結合タンパク質複合体からFc断片を単離するステップとを含む。
【0144】
いかなる適切な手段も前述のように使用することができるが、試料/前記混合物からIdeSおよび/またはFc結合タンパク質を分離するための方法は、前述のように誘導体化または改変したIdeSおよび/またはFc結合タンパク質を使用することを含むことが好ましいことを理解されたい。
【0145】
好ましくは、前記方法のステップ(a)はさらに、試料をIdeSに結合できる磁性ナノ粒子の集団と接触させることを含み、ステップ(c)はさらに、ステップ(b)で得られたFabおよびFc断片とFc結合タンパク質に結合できる磁性ナノ粒子の集団を接触させることを含み、ステップ(b)および(d)はそれぞれ(a)の試料および(c)で得られた混合物において磁場分離を実施することを含む。Fc結合タンパク質は、好ましくはプロテインHまたはエンドグリコシダーゼ活性を欠如した改変EndoSポリペプチドを使用する。
【0146】
他の実施形態では、
(a)前記IgG含有試料をIdeSおよびFc結合タンパク質と接触させるステップと、
(b)(a)で得られた混合物からFc結合タンパク質を分離するステップと
を含み、それによってFc断片を単離する方法によって、Fc断片はIgG含有試料から単離することができる。
【0147】
いかなる適切な分離手段も前述のように使用できることを理解されたい。しかし、前記方法のステップ(a)は、好ましくはさらに、試料をFc結合タンパク質に結合できるが、IdeSには結合できない磁性ナノ粒子の集団と接触させることを含み、ステップ(b)は(a)で得られた混合物上で磁場分離を実施することを含む。好ましくは、IdeSおよび/またはFc結合タンパク質は、前述のように誘導体化、または改変されるが、但し、様々な改変がそれぞれに適用される。例えば、ニッケル、銅または亜鉛イオンを有するキレート基をその表面に含有する磁性粒子の集団に結合するように、ヒスチジンタグの添加によってIdeSが改変される場合、Fc結合タンパク質は、表面上にストレプトアビジンを含有する磁性粒子の集団に結合タンパク質に結合するようにビオチンタグを添加することによって改変することができる。Fc結合タンパク質は、好ましくはプロテインHまたはエンドグリコシダーゼ活性を欠如した改変EndoSポリペプチドである。
【0148】
Fab断片の単離方法と同様に、Fc断片を分離する方法において、IgG含有試料は一般的に精製または単離IgGを含むことを理解されたい。IgGを単離する好ましい方法は、前記で記載したようにステップ(i)から(iii)に記載されている。
【0149】
キット
本発明は、
(a)エンドグリコシダーゼ活性を有する本発明によるEndoSポリペプチドと、所望により
(b)試料から細胞を分離するための手段および/または指示と
を含む、Fcγ受容体結合IgG分子を実質的に含まない細胞集団を単離するためのキット、

(a)エンドグリコシダーゼ活性を欠如した本発明によるEndoSポリペプチドと、所望により
(b)試料から前記EndoSポリペプチドを分離するための手段と
を含む、IgG含有試料からIgGを単離するためのキット、

(a)エンドグリコシダーゼ活性を欠如した本発明によるEndoSポリペプチドと、所望により
(b)試料から前記EndoSポリペプチドを分離するための手段と
を含む、試料中のIgGの有無を決定するためのキット、

(a)エンドグリコシダーゼ活性を欠如した本発明によるEndoSポリペプチドと、所望により
(b)変性し、かつ/または脱グリコシル化したIgGに結合できる代替のIgG結合試薬と、
(c)試料から前記EndoSポリペプチドを分離するための手段と、
(d)試料から前記代替のIgG結合試薬を分離するための手段と
を含む、IgG含有試料のグリコシル状態および/または機能的品質を評価するためのキットを提供する。代替のIgG結合試薬は、プロテインGおよび/またはプロテインAおよび/またはプロテインA/Gを含む。
【0150】
本発明はまた、
(a)IdeSと、
(b)Fc結合タンパク質と、
(c)前記IdeSおよび前記Fc結合タンパク質を試料から分離するための手段と
を含む、IgGのFabまたはFc断片を単離するためのキットを提供する。
【0151】
好ましい実施形態では、キットはさらに、エンドグリコシダーゼ活性を欠如した本発明によるEndoSポリペプチドおよび試料から前記EndoSポリペプチドを分離するための手段を含む。Fc結合タンパク質は、好ましくはプロテインHまたはエンドグリコシダーゼ活性を欠如した本発明によるEndoSポリペプチドである。
【0152】
前記のキットの好ましい実施形態はさらに、本発明の方法においてキットを使用する指示を含む。さらに好ましい実施形態には、EndoSポリペプチド、代替のIgG結合試薬、IdeSポリペプチドまたはFc結合タンパク質を試料から分離するための手段は磁性ナノ粒子の集団であり、各集団は、示されたポリペプチド/試薬/タンパク質の少なくとも1種に結合できる実施形態が含まれる。この実施形態では、キットは通常さらに、試料上において磁場分離を実施するための指示を含む。
【0153】
前記方法およびキットの好ましい実施形態では、使用されるポリペプチド/タンパク質/試薬は、前記ポリペプチドの分離を助けるため、アフィニティータグ、好ましくはヒスチジンタグで誘導体化する。
【実施例】
【0154】
以下の実施例は本発明を例示する。
【0155】
実施例1
本発明の研究において、EndoSのIgGサブクラスに対する効果(複数可)およびIgG−FcgR相互作用を明らかにする。結果によって、EndoSは、可溶性および血漿環境の両方の4種類のヒトIgGサブクラス(IgG1〜4)全ての重鎖を加水分解することが明らかになった。さらに、IgGグリカンのEndoS加水分解は、IgGの可溶性、固定化FcγRIIaおよびFcγRIIbならびにFcγR発現細胞への結合に劇的な影響を及ぼすことを発見した。さらに、これらの細胞に結合したIgGは、細胞をEndoSで処理することによって解離する。さらに、部位特異的変異誘発によって生じたEndoSの完全な形態は、高い親和性でIgG1〜4に結合し、一方、活性型はその基質と一時的に相互作用するにすぎない。これらの結果は、細菌による宿主免疫防御の酵素的調節機構についての新たな情報を提供し、IgGグリカン加水分解酵素とIgGの間の分子的相互作用についての新たな情報を提供し、正確な抗体エフェクター機能のためのIgGグリコシル化の重要性を強調する。
【0156】
材料および方法
タンパク質および試薬
血液は、健康な個体から採取し、ヘパリン含有試験管に収集した。融合物としてグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)を有する(GST−EndoS)または有さない完全長EndoSは、組換えによって発現し、プラスミドpGEXndoSを有する大腸菌から精製した。EndoSのグルタミン酸235のグルタミンへの変異は、以下の通りに実施した。グルタミン酸235(Glu−235)のグルタミン(E235Q)への変異は、QuickChangeII部位特異的変異誘発キット(Stratagene、La Jolla、CA)を使用して実施した。変異原性オリゴヌクレオチドプライマー(変異は下線を引いてある)5’−CCT TGA TGG CTT AGA TGT GGA TGT TA ACA TGA TAG TAT TCC−3’および前記配列のアンチセンスは、変性したプラスミドpGEXndoSにアニールすることができた。変異した鎖は、高忠実度DNAを使用して増幅し、メチル化された親鎖はDpnIで消化した。その後、ニック修復および複製のためにスーパーコンピテント大腸菌Xl−1 Blueに形質転換し、変異したプラスミドpGEXndoS(E235Q)を作製した。その後、組換えEndoS(E235Q)を発現させ、EndoSについて前述したように精製した。可溶性の精製Fc受容体は、pNT−neo−FcγRIIまたはpNT−neo−FcγRIIIプラスミドでCHO−K1(CHO)細胞を同時形質移入し、その後ジェネテシン1mg/mlで選択することによって作製した。IgGサブクラスは、記載されたように(参考文献)ヒト血漿から精製した。RPMI1640培地およびハンクス平衡塩溶液(HBSS)は、GIBCO、Paisley、U.K.製であった。その他の試薬は全て、特に指示しない限り、Sigma−Aldrichから購入した。
【0157】
ヒト血漿のEndoSによる処理およびIgGの精製
ヒト血漿2ml量をEndoSまたはPBS20μgと37℃で1.5時間インキュベートした。プロテインGセファロース(GE Healthcare Biosciences AB、Uppsala、Sweden)を使用してIgG画分を精製した。簡単に説明すると、PBS(リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝液10mM、pH7.4、NaCl 120mM、KCl 3mM)に1:1で懸濁したプロテインGセファロース200μlを血漿試料に添加し、4℃で2時間または一晩インキュベートした。8000×gで5分間遠心した後、上清を廃棄し、ペレットをPBSで3回洗浄した。IgGをグリシン0.1M pH2.0で溶出し、1M トリス−HCl、pH8.0を用いて中和した。IgG濃度は、Advanced Protein Assay(Cytoskeleton、Denver、USA)を使用して8mg/mlに決定した。
【0158】
細胞調製物
K562細胞系は、Glutamax−I、抗生物質(ペニシリンおよびストレプトマイシン)100μg/mlおよび牛胎児血清10%を補給したRPMI1640培地中で、37℃で、5%COを含有し、湿度95%の大気中で培養した。細胞培養用のNunclonフラスコを使用した(Nunc A/S、Roskilde、Denmark)。細胞は、実験に使用する前に無血清培地で20時間培養した。単球は、Polymorphprep調製用キット(AXIS−SHIELD、Oslo、Norway)またはFicoll−Paque Plus(Amersham Bioscience、Uppsala、Sweden)を使用して、製造者によって提供された指示にしたがってヒト全血から単離した。単離後、細胞を計数し、PBSまたはRPMI培地に再懸濁した。
【0159】
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)
グリカン検出のために、マイクロタイタープレート(NUNC、Roskilde、Denmark)を、NaCO 16mMおよびNaHCO 35mMを含有するコーティング緩衝液、pH9.6で最終濃度1.5〜0.5μg/mlまで希釈したマウス抗ヒトIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4モノクローナル抗体(SIGMA(登録商標)、Saint Louis、MO、USA)100μlでコーティングし、4℃で一晩維持した。次に、プレートを、HEPES 10mM、pH7.5、NaCl 0.15M、MnCl 0.01mM、CaCl 0.1mMおよび0.1% v/v Tween 20を含有するレクチン緩衝液で3回洗浄し、同緩衝液で室温で1時間ブロックした。次のステップで、精製したIgG画分(1:100に希釈)を添加し、37℃でさらに2時間インキュベートを続行した。レクチン緩衝液で3回洗浄した後、ビオチン化レンズマメアグルチニン(LCA)−レクチン(Vector Laboratories、Burlingame、CA、USA)1μg/mlを添加し、37℃で1時間インキュベートを続行した。さらに3回洗浄後、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン0.1μg/ml(Vector Laboratories)を添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートした。色反応は、0.012% v/v Hおよび2,2’−アジノ−ビス(3−エチルベンズチアゾリン−6−スルホン酸)(ABTS)1.7mAを含有するクエン酸1水和物 0.1M、NaHPO×2HO 0.1M緩衝液 pH4.5で発色させた。吸光度は、マイクロタイタープレートリーダーモデル550(BIO−RAD、Hercules、CA、USA)で415nmで読み取った。ヒトIgGサブクラスのFcγRへの結合を検出するために、プレートを可溶性FcγRIIaまたはFcγRIIbまたはFcγRIIIaで濃度5μg/mlで4℃で20時間コーティングした。翌日、プレートを、0.05%v/v Tween20(PBST)および2%w/v牛血清アルブミンを補給したPBSで室温で2時間ブロックした。このステップの後、精製したIgGサブクラスそれぞれ0.1μgを添加した。コーティングステップの後およびその後のインキュベーションステップそれぞれの間にプレートをPBSTで3回洗浄した。ペルオキシダーゼ結合プロテインG(BIO−RAD、Hercules、CA、USA)(1:5000に希釈)を検出用に使用した。色反応は前記の通り実施した。実験は全て3連(triplicates)で行った。
【0160】
放射活性標識
タンパク質は、0.2mCi Na125I(PerkinElmer、Upplands−Vasby、Sweden)で、IODE−BEADSヨウ素化試薬キット(PIERCE、Rockford、IL、USA)を使用して、製造者の指示書にしたがって標識した。未結合の放射活性は、PD−10セファロース(Pharmacia、Sweden)上のタンパク質を脱塩することによって除去した。標識したタンパク質の活性は、4μCi/μgタンパク質と推定した。
【0161】
細胞に結合したIgGの検出
IgGは、前述のようにEndoSまたはPBSで処理したヒト血漿から精製し、その後125ヨウ素(125I)で標識した。K562細胞に結合した125I−IgGを検出するために、細胞2×10個を125I−IgGまたは125I−脱グリコシル化IgG 0.5×10cpmと室温で30分インキュベートした。PBSで5回洗浄し、1000×gで3分間遠心した後、細胞ペレットの放射活性をWallac Wizard(商標)1470自動ガンマカウンター(PerkinElmer、Waltham、MA、USA)を使用して検出した。他の実験では、単球1×10個を125I−IgGまたは125I−EndoS処理IgG 0.5×10cpmと室温で30分間インキュベートした。細胞をPBSで5回繰り返して洗浄し、1000×gで5分間遠心して細胞を最終的にペレットにした後、Tris−HCl 20mM pH7.4、NaCl 0.150M、1% v/v Triton−100および0.25% v/v NP40を含有する溶解緩衝液に4℃で10分間再懸濁した。次に、試料を14000×gで10分間遠心し、上清をポリアクリルアミドゲルに添加した。分離後、ゲルを乾燥させ、試料をFujix BAS 2000バイオイメージング分析器(Fujifilm Sverige AB、Stockholm、Sweden)でホスホイメージングによって分析した。(前述の通り)IgGの細胞への結合をウェスタンブロットによって分析する実験では、細胞0.5〜10個をEndoSまたは緩衝液で処理した血漿と37℃で1時間インキュベートした。その後、細胞はPBSまたはRPMI培地で3回洗浄し、溶解緩衝液100μlに再懸濁し、細胞溶解物中の結合IgGはウェスタンブロットによって分析した。
【0162】
細胞とEndoSとのインキュベーション
K562細胞2×10個または単球8×10個をヒト血漿2mlと37℃で30分間インキュベートした。細胞は、PBSで5回洗浄し、各洗浄後、1000gで10分間遠心した。PBSに溶かしたEndoS40μgまたはPBSのみを細胞に添加し、その後37℃で1時間インキュベートした。細胞は、PBSで3回洗浄し、溶解緩衝液100μLに再懸濁した。試料を14000×gで5分間遠心し、ペレットを廃棄し、上清を分析のために保存した。上清は、SDS−PAGEおよびウェスタンブロットを使用してIgGおよびグリカンの含量を分析した。
【0163】
スロットブロッティング分析
PBS中のIgG1〜4それぞれ0.3、0.15、0.075μgをSchleicher and Schuell、Inc.、Kene、NH 03431、USA製のスロットブロット装置を使用してPVDF膜に添加した。この膜をPBST、5%脱脂乳で1時間インキュベートし、PBSTで洗浄し、PBSTおよび5%脱脂乳に溶かしたEndoSまたはEndoS(E235Q)0.05mg/mlで1時間インキュベートした。洗浄後、この膜をウサギEndoS抗血清でインキュベートし、その後ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギ抗体でインキュベートした。発色は、ペルオキシダーゼ基質としてABTSを使用して行った。インキュベートステップは全て室温で実施した。
【0164】
BIAcore表面プラズモン共鳴相互作用分析
受容体、IgGおよび脱グリコシル化IgGは、酢酸ナトリウム10mM pH4で希釈し、CM5センサーチップ(BIAcore、Uppsala、Sweden)の異なるフローセルにアミン結合によって固定した。固定レベルは、約8000〜10000レスポンスユニットに最適化した。EndoS(E235Q)が脱グリコシル化IgG変異体に対して非結合剤であることが決定された後、これらのフローセルはIgG1からIgG4にそれぞれ結合するEndoS(E235Q)のバルク屈折率変化の対照と見なされた。受容体FcγRIIa、FcγRIIbおよびFcγRIIIaに対するIgG1−IgG4の親和性を測定する実験では、固定方法は行うが、タンパク質を添加しないフローセルを対照として使用した。親和性を測定するために、結合および解離相をBIAcore2000装置でモニターした。可能性のある物質移動制限の対照実験において、IgGを受容体に、EndoS変異体はIgGサブクラスに様々な流速で注入した。5μl/分以上では初期の結合に差は認められず、いかなる組み合わせの制限も示されなかった。反応体を、様々な濃度(通常、10〜1.25μg/ml)で35μl/分で25℃で様々なコーティング表面(フローセル)に注射した(ランニング緩衝液:Hepes10mM、pH7.5、NaCl 150mM、サーファクタントP20 0.005%およびEDTA 3.4mM)。実験間には、表面はNaCl 2Mを含有するランニング緩衝液でパルスし、その後基準に到達した後徹底的に洗浄処置を行うことで再生した。予備固定したFcγRIIaに結合したIgGのEndoS消化のために、IgG1濃度(10μg/ml)は、IgG1注入を中断し、ランニング緩衝液に置換した時点で適切な定常状態解離相を与えるように選択した。この実験は対照と見なされ、それ自体、IgG1がFcγRIIaに結合した後の同時点でのEndoS注入と比較した。データをXおよびYで正規化した後、各注入濃度の対照フローセルの盲検曲線を差し引いた。適用可能ならば、結合定数(K)および解離速度定数(K)は、BIA評価4.1ソフトウェア(BIAcore)において1:1ラングミュア結合の式を使用して同時に測定した。結合曲線は、局所的に適合させ、平衡解離定数(K)は得られた速度定数の平均値から計算した。
【0165】
全血のフローサイトメトリー分析
血液15ml量をEndoS 0.4mgまたはPBSと37℃で35分間インキュベートした。次に、白血球の活性化剤、ホルミル−メチオニン−ロイシン−フェニルアラニン(fMLP)(1:10000に希釈)(SIGMA、Saint Louise、MO、USA)を添加し、インキュベーションを37℃で10分間続行した。次に、血液試料を1000gで5分間遠心した。血漿およびバフィーコートを別の管に移し、1000gで5分間遠心した。その後、細胞を、30%v/vRPMIを含有するHBSSで3回洗浄し、最終的に同媒体100mlに再懸濁した。マウス抗ヒトIgGモノクローナル抗体は、等量のマウス抗ヒトIgG1(51mg/ml)、IgG2(22mg/ml)、IgG3(16mg/ml)およびIgG4(24mg/ml)と混合することによって調製し、この混合物5μlを添加し、試料は室温で10分間インキュベートした。次のステップでは、DakoCytomation Uti−Lyse赤血球キット(Carpinteria、CA)を使用して赤血球を溶解する前に、FITC結合ヤギ抗マウスIgG(DakoCytomation、Glostrup、Denmark)5μlを添加した。シグナルは、FACSCaliburフローサイトメータ(Becton Dickinson、Franklin Lakes、NJ、USA)で分析した。単球は、前方散乱光および側方散乱光の特徴によって同定した(FSC/SSC)。
【0166】
SDS−PAGEおよびウェスタンブロット分析
ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)は、BIO−RAD(Hercules、CA、USA)製のMini Protean II装置またはLKB prudukter(Bromma、Sweden)製の装置を使用して、Laemmli(17)によって記載された緩衝系を使用して実施した。試料は5%メルカプトエタノールを補給した試料緩衝液と1:1(v/v)で混合し、10%ポリアクリルアミドゲルに添加する前に5分間煮沸した。PageRuler(商標)Protein Ladder Plus(Fermentas、Burlington、Canada)は、高分子質量標準物質として使用した。ポリアクリルアミドゲルは、Coomassie Brilliant Blue R−250で染色し、場合によっては乾燥させた。イムノブロッティングのため、Matsudaira(18)によって記載されたようにゲルをポリビニリデンフルオリド(PVDF)膜(Immobilon P、Millipre、Bedford、MA)に移した。ブロッティング後、膜を、0.05%v/v Tween20(PBST)および5%w/v脱脂乳(DIFCO、Detroit、MI)を補給したPBSで室温で20分間ブロックした。IgGを検出するために、ブロットをその後PBSTで洗浄し、ウサギ抗ヒトIgG(1:3000に希釈)(BIO−RAD、Hercules、CA)で37℃で1時間インキュベートした。洗浄ステップの後、膜を西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ヤギ抗ウサギIgG(BIO−RAD)(1:1000に希釈)とインキュベートした。レクチンブロット分析のために、膜をレクチン緩衝液、HEPES 10mM、pH7.5、NaCl 0.15M、MnCl 0.01mM、CaCl 0.1mMおよび0.1%v/v Tween20で20分間室温でブロックし、ビオチン化LCAレクチン(Vector Laboratories)(1:5000に希釈)とインキュベートした。レクチン緩衝液で繰り返し洗浄した後、膜をペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジン(Vector Laboratories)(1:10000に希釈)とインキュベートした。膜は全て、Chemidoc XRSイメージングシステムおよびQuantity One画像分析ソフトウェア(BIO−RAD)によって分析する前に、SuperSignal West Pico(PIERCE、Rockford、IL)を使用して、製造者の指示にしたがって発色させた。
【0167】
結果
EndoSは4種類のヒトIgGサブクラス全てに対してグリコシダーゼ活性を有する
EndoSがヒトポリクローナルIgGのγ鎖の保存されたN結合グリカンのキトビオースコア(chitobiose core)を加水分解することが以前に示されている(図1A)。したがって、EndoSがヒトIgGの4種類のサブクラス(IgG1〜4)全てに対して活性を有するかどうかを解明することに関心が持たれた。精製した組換えEndoSを精製したヒトIgG1〜4とインキュベートした。SDS−PAGE分析によって、全サブクラスのEndoS処理IgGは未処理IgGよりも約3kDa低い見かけ上の分子量に移動したことが明らかになり(図1B)、これはIgGグリカンのキトビオースコアの加水分解と一致する。グリカンの加水分解を確認するために、試料はまた、α結合マンノース残基を認識するレンズマメアグルチニン(LCA)レクチンを使用したレクチンブロットによって分析した(図1A)。試料のレクチンブロット分析によって、全IgGサブクラスは全て、EndoSとインキュベート後、LCAとの反応性を欠如することが明らかになり、グリカンの完全な、またはほぼ完全な加水分解と一致する(図1C)。さらに、血漿環境中においてIgG1〜4に対するEndoSのグリコシダーゼ活性を調べた。この実験では、ヒト血漿を、精製したEndoSまたは緩衝液とインキュベートし、その後IgG画分の親和性精製を行った。その後、これらの画分に、IgGを捕捉するためにIgG1〜4に対する固定化モノクローナル抗体を使用したLCA ELISAを行った。これによって、血漿を緩衝液(対照)とインキュベートすると4種類のIgGサブクラス全てはレクチンと反応し、グリカンが存在することが明らかになった。対照的に、血漿をEndoSで処理すると、IgG1〜4とLCAレクチンとの反応性の著しい減少が認められ、IgG1〜4上のグリカンが加水分解されていることが示された(図2)。考え合わせると、これらの結果は、EndoSが精製型(purified form)ならびに全血漿中のヒトIgGの全サブクラスを加水分解する能力を有することを明らかに示している。
【0168】
EndoSの不活性型はIgGに結合する
以前に、IgGのEndoS加水分解の分子的な必要性を部分的に解明した。触媒トンネルの提示された入り口の配列番号:1のグルタミン酸199(配列番号:3の235位)のグルタミンへの部位特異的変異誘発(EndoS(E235Q))によって酵素的活性が消失する。さらに、トリプトファンの化学的ブロックによって、これらのアミノ酸残基は活性に重要であることが明らかになった。酵素と基質の間の物理的相互作用をさらに調べるために、EndoSおよびEndoS(E235Q)の固定化ポリクローナルIgGおよびIgG1〜4サブクラスへの結合は、EndoSおよびEndoS(E235Q)で探査された固定化IgGによるスロット結合実験を使用して研究した。精製した、可溶性IgGサブクラス1〜4は、それぞれニトロセルロース膜に固定し、EndoSおよびEndoS(E235Q)で探査し、その後EndoSに対する抗体とインキュベーションした。この実験によって、ポリクローナルIgG、IgG1およびIgG2へのEndoS(E235Q)の強力な結合(binding)、およびIgG3およびIgG4への弱い会合(association)が明らかになり、一方、活性EndoSと全サブクラスの間には非常に弱い相互作用のみが認められた(図3A)。EndoSと固定化IgG1〜4の間の親和定数を計算するために、表面プラズモン共鳴を使用した。スロット結合結果と同様に、これらによって、EndoS(E235Q)はIgGサブクラス全てに高い親和性で結合し、一方、EndoSのIgGに対する結合は検出できないことが示された(図3B、表1)。固定化IgGサブクラスに対するEndoS(E235Q)結合の動力学的変数は、類似の指標を示し、最も強い相互作用は、IgG1とEndoS(E235Q)の間で示され、結合親和定数(K)は0.42μMであった。EndoSまたはEndoS(E235Q)はいずれも、固定前(immobilized)にEndoSによって加水分解されたIgG1〜4サブクラスには結合しないことが検出された。これらの発見は、完全な(intact)IgGグリカンはEndoSとIgGの間の相互作用に必要であることを示している。さらに、EndoS、EndoS(E235Q)およびIgGの間の相互作用を比較する実験によって、EndoSは高い親和性でIgGに結合するが、活性型酵素は、グリカンがグリカン加水分解後直ちに「touch and go」方式で遊離されることを示している。
【0169】
EndoSはIgG1〜4のFcγRへの結合に影響を及ぼす
FcγRとIgGのFcドメインの間の相互作用の性質はIgGグリコシル化状態に強く左右されるので、IgGのFcγRとの相互作用に対するEndoS活性の影響を調査した。したがって、ELISA実験において、可溶性FcγRIIa、FcγRIIbおよびFcγRIIIaを固定し、精製したIgG1〜4サブクラスで探査した。その他の観察と一致して、本明細書ではFcγRIIaおよびFcγIIbはIgG1に結合することがわかった。この結合は、IgG1をEndoSで処理した後ほとんど消失した。その他のIgGサブクラスのこれらの受容体に対する結合は弱く、EndoSで処理した後、さらに減少した。一般に、ELISA研究では、IgGサブクラスの結合親和性パターンは、FcγIIaではIgG1>IgG3>IgG4>IgG2であり、FcγRIIbではIgG1>IgG4>IgG3>IgG2であることが明らかになった(図4A)。さらに、EndoSで加水分解されたIgGは、FcγIIa/FcγRIIbへの結合に関していえば、未処理IgG2と比較して、より広範な結合能力で異なる結果を有することが認められた。FcγRIIIaは全IgGサブクラスの結合では否定的であった(データは示さず)。EndoSで処理した、または処理していないIgG1〜4とFcγRとの相互作用はさらに、表面プラズモン共鳴によって分析した。IgGサブクラスそれぞれは、FcγRIIa、FcγRIIbまたはFcγRIIIaを固定した表面に捕捉された。ELISAデータと一致して、この結果は、IgGがFcγRIIaおよびFcγIIbの両方に最強の親和性を有し、結合親和定数は類似しており、それぞれ97nMおよび17nMであることを示した(図4B、表2)。以前の発見と一致して、EndoS処理IgG1を使用したとき、これらの受容体へのIgGの結合は検出できなかった。FcγRIIa/FcγRIIbとIgG2またはIgG3の間、あるいはIgG4とFcγRIIaの間には相互作用は検出されなかった(表2)。可溶性IgG1〜4サブクラスの固定化FcRIIIaへの結合は検出できなかった。これらの結果は、EndoS加水分解がIgGのFcγRへの親和性を劇的に減少させることを示している。
【0170】
EndoSはIgGの血液細胞への結合を減少させる
ELISAおよび表面プラズモン共鳴の結果に基づいて、EndoSグリコシダーゼ活性のFcγRとIgGの間の相互作用に対する効果(複数可)の分析を続行した。この目的のため、FcγRIIaを広範に発現する赤白血病細胞系(K562)を使用した。可溶性FcγRIは入手できなかったので、FcγRIによってIgGに主に結合するヒト単球も調べた。したがって、IgGはEndoSまたはPBSで処理した血漿から精製し、125Iで標識し、K562細胞とインキュベートした。細胞ペレットの放射活性を測定した。これらの細胞への特異的なIgG結合は、放射活性IgGの結合を阻害した冷却ヒトIgGを添加することによって計算した。これによって、EndoSで処理した血漿から元々精製した放射活性IgGの結合は、完全に消失することが示された(図5A)。細胞をヒト血漿とインキュベーションした後、IgGのK562細胞への強力な結合は、ウェスタンブロットおよび細胞溶解物とヒトIgGに対する抗体との反応性によって確認された。対照的に、EndoSで予め処理した血漿でインキュベートしたK562細胞に対するIgGの結合は明らかに減少した(図5B)。同様に、SDS−PAGEによって分析した125I−IgGの単球への結合は、IgGをEndoSで処理したとき、完全に阻害された(図6A)。単球上のFcγRとIgGの間の相互作用に対するEndoSの影響をさらに分析するために、全血のフローサイトメトリー分析を実施した。ヒト血液は、血液を白血球活性化剤fMLPで予めインキュベートした後EndoSとインキュベートした。単球は、前方散乱光および側方散乱光をベースにしてゲートし、単球の抗ヒトIgGモノクローナル抗体との反応性を評価した。この結果によって、単球の87%がIgG結合について陽性であり、一方EndoSとインキュベートした血液中の単球は43%のみが陽性であることが(図6B)明らかになった。これらの結果は、EndoS加水分解IgGが、FcγRの様々な組を発現するヒト細胞の結合能力を著しく減少させることを示した。
【0171】
EndoSで処理するとIgGはFcγRIIaから解離する
ここまでの実験によって、IgGのEndoS加水分解は細胞および表面上のFcγRへの結合を阻害するが、EndoSが既にFcγRに結合したIgGに活性を有するかどうか、このような活性がFcγRに結合したIgGを遊離させ得るかどうかは不明なままであった。したがって、ヒト血漿に曝露し、その後EndoSで処理したK562細胞に結合したIgGに対するEndoSの効果を調べた。細胞溶解物は、SDS−PAGEおよびヒトIgGに対する抗体を使用したウェスタンブロットによって分析した。図7Aに提示した結果によって判断されるように、K562細胞に対するIgGの著しい結合が存在した。興味深いことに、細胞をEndoSで処理したとき、ブロット上にはIgGのバンドは認められず、IgGは全て細胞から解離していることが示唆された(図7A)。EndoS(E235Q)を使用した対照実験では、K562細胞の表面上のIgGシグナルは未処理細胞と同程度であることが明らかになった。これらの結果は、EndoSによるN−グリカンの加水分解によって、IgGが細胞表面から解離することを強く示唆する。同様に、単球に結合したIgGに対するEndoSの効果を分析した。これによって、単球結合IgGのほとんどは、未処理細胞と比較されるように、EndoSによる処理によって細胞から解離したことが示された(図7B)。予測通り、対照細胞とは対照的に、EndoSで処理した単球は、LCAレクチンとの反応は示さず、IgGブロットで検出されたように細胞上に残存するわずかな量のIgGはEndoSによって加水分解される可能性が高いことが示された(図7B)。前記に示した結果はさらに、表面プラズモン共鳴実験によって確認された。IgG1がFcγRIIの最強の結合剤であることが以前観察されたため、可溶性IgG1およびFcγRII受容体を選択した。IgG1が予め固定したFcγIIaに結合し、定常状態の解離相に達した後、IgG1注入を中断し、EndoS注入またはランニング緩衝液に置換した。これによって、EndoS注入は、固定されたFcγRIIa受容体からのIgG1の解離を引き起こし、一方、FcγRIIaからのIgG1解離は、ランニング緩衝液を添加しても影響を受けないことが明らかになった(図7C)。これらを考え合わせると、これらの結果は、IgGグリカン加水分解によってEndoSは細胞および表面上のFcγRに結合したIgGを遊離することができることを明らかに示している。
【0172】
考察
本実施例では、EndoSとIgGの間の物理的相互作用およびIgG−FcγR相互作用に対するEndoSのIgG N−グリカン加水分解活性の生理学的関連を解明する。EndoSが、精製された形態および血漿環境の両方においてヒトIgGサブクラス全てに対してエンドグリコシダーゼとして特異的に作用することを初めて提示する。予測通り、酵素と全IgGサブクラスの間には物理的相互作用があることを酵素的に不活性なEndoSの変異型を使用して示すことに成功した。この研究では、EndoSで加水分解したIgGは単球に結合せず、EndoSによる加水分解によって単球からIgGがほとんど完全に解離することを認めた。単球はFcRIを発現し、この受容体はIgGに最高の親和性を有するので、EndoSはFcRIに結合しているIgGであっても影響を及ぼすと結論づけた。なぜならば、観察したEndoSの効果は主にFcIIの関与によるものに違いないからである。興味深いことに、EndoSはFcγRII受容体の両イソタイプに対して効果を有するものと考えられ、したがって、IgGが媒介するエフェクター刺激の活性化および阻害の両方に影響を及ぼす。
【0173】
前記のデータは、EndoSポリペプチドを利用する本発明の方法を支持する。IgGエンドグリコシダーゼ活性を有するEndoSポリペプチドは、これらの細胞上の様々なFcγRに既に結合しているIgGを除去するために、全血または精製した血球細胞などの試料のインビトロ処理に使用することができた。これによって、予め結合したIgGの妨害を受けることなく、受容体結合および細胞活性化に関して、細胞に添加された特異的IgG調製物の効果を分析することが容易になるだろう。IgGエンドグリコシダーゼ活性は欠如するが、IgG結合活性は有するEndoSポリペプチド、例えば、EndoS(E235Q)は、特異的IgGの精製および検出手段として非常に有望である。本研究では、EndoS(E235Q)がIgGの全サブクラスと同等に十分相互作用することを示した。これは、IgGの調製および検出のために最近使用された主要な分子の1つ、プロテインGで認め得るものと同程度であるが、利点はIgG3に結合しないプロテインAと同程度である。さらに、プロテインAはまた、IgMおよびIgAにある程度結合する。EndoSとIgGまたはIgAの間には相互作用はないことを以前示した。さらに、本明細書では、EndoS(E235Q)は重鎖グリカンを欠如したIgGと相互作用しないことを示すことができた。これは、グリコシル化状態に関わりなくIgGに結合するプロテインGおよびプロテインAの両方とは対照的である。これは、機能的エフェクター領域を有する完全なIgGのみが必要とされる場合、特に重要となり得る。プロテインGのような現在利用可能な試薬を使用するとき、例えば、レクチンカラムを使用した第2の精製ステップがIgGのグリコシル化画分のみを得るために必要である。EndoS(E235Q)のこの特性は、IgG調製物のグリコシル化/機能的品質を評価するために、例えばプロテインGと組み合わせて使用することができた。
【0174】
実施例2:ヒスチジンタグをつけたプロテインHの構築
クローニング
プロテインHをコードする構造遺伝子のヌクレオチド124から1048は、制限部位NotIおよびBamHIを使用して、pET21bベクターにクローニングした。構造遺伝子は、鋳型としてベクターpHD389を用いてPCRを使用して得られた。
【0175】
使用したPCRプライマーは以下の通りであった。
5’−TCG GAT CCG GCG CCG GAA GGG GCT AAA ATT GAT TGG C−3’(37mer)
5’−CTC TGC GGC CGC TGC TGT TTC ACC TGT TGA AGG TAA −3’(36mer)
【0176】
PCR断片およびベクターpET21bは、BamHIおよびNotIで消化した。消化した断片は、0.8%アガロースゲル(Eゲル、Invitroge)で分離し、QIAquickゲル抽出キットで精製した。PCR断片は、Invitrogen製のリガーゼを使用してベクターpET21bに連結した。
【0177】
DNA構築物を調べるために、連結混合物を大腸菌EH10B細胞にエレクトロポレートした。プラスミド精製を使用し、その後BamHIおよびNotIで消化して、5個のクローンを試験した。陽性コロニーを選出し、プラスミド精製のために増殖させた。プラスミドは、効果的なタンパク質発現のために大腸菌BL21に挿入した。
【0178】
タンパク質発現および精製
タンパク質発現は、pET21bベクターを使用する発現のための標準的方法および指示を使用して実施した。細胞を収集し、緩衝液に再懸濁し、超音波処理した。細胞残渣は、遠心を使用して廃棄し、透明な溶解物をAmersham BIoSciences製の1ml HisTrapカラムに標準的方法を使用して添加した。カラムから溶出したタンパク質は、NuPage4〜12%BisTrisゲル(Invitrogen)を使用して還元条件下でエレクトロポレーションを使用して分析した。タンパク質の分子量は約35kDaであった。HisプロテインHの理論的分子量は36kDaである。
【0179】
IgG結合活性は、ヒトIgGとHisプロテインHを混合し、次いで複合体をHisTrap(GE Healthcare)カラム上に捕捉させ、その後NuPage4〜12%Bis Trisゲル(Invitrogen)で分析することによって示した。溶出液はIgG断片を含有しておらず、IgGがカラムにプロテインHと一緒に捕捉されたことを示した。
【0180】
実施例3:ヒスチジンタグIdeSの構築
クローニング
IdeSをコードする構造遺伝子のヌクレオチド79から1020は、制限部位XhoIおよびBamHIを使用して、pET21bベクターにクローニングした。構造遺伝子は、pGEX:IdeSベクター上でPCRを使用して得られた。
【0181】
使用したPCRプライマーは以下の通りであった。
5’−CCG GAT CCG CTA GCA GAT AGT TTT TC−3’ (26mer)
5’−GGC CTC GAG GGA ATT GGT CTG ATT CC −3’(26mer)
【0182】
PCR断片およびベクターpET21bは、BamHIおよびXhoIで消化した。消化した断片は、0.8%アガロースゲル(Eゲル、Invitrogen)で分離し、QIAquickゲル抽出キットで精製した。PCR断片は、Invitrogen製のリガーゼを使用してベクターpET21bに連結した。
【0183】
DNA構築物を調べるために、連結混合物を大腸菌DH10B細胞にエレクトロポレートした。プラスミド精製を使用し、その後BamHIおよびXhoIで消化して、5個のクローンを試験した。陽性コロニーを選出し、プラスミド精製のために増殖させた。プラスミドは、効果的なタンパク質発現のために大腸菌BL21に挿入した。
【0184】
タンパク質発現および精製
タンパク質発現は、pET21bベクターを使用する発現のための標準的方法および指示を使用して実施した。細胞を収集し、緩衝液に再懸濁し、超音波処理した。細胞残渣は、遠心を使用して廃棄し、透明な溶解物をAmersham BioSciences製の1mlHisTrapカラムに標準的方法を使用して添加した。カラムから溶出したタンパク質は、NuPage4〜12%BisTrisゲル(Invitrogen)を用いて還元条件下でエレクトロポレーションを使用して分析した。発現し、精製したタンパク質は、NuPage4〜12%BisTrisゲル(Invitrogen)を使用してエレクトロポレーションを使用して分析した。タンパク質の分子量は、約34kDaであった。
【0185】
IdeS活性は、ヒトIgGとIdeSを37℃で1時間混合することによって試験した。結果は、還元条件下でNuPage4〜12%BisTrisゲル(Invitrogen)を使用したエレクトロポレーションで評価した。純粋なHisIdeSおよび純粋なIgGは、参照として使用した。このゲルによって、IgG分子が消化され、その結果、以前に記載されたように(Vincentsら、2004、Biochemistry 43:15540〜15549)、IgG切断産物に対応する約31kDaのバンドがゲル上にさらに出現することが明らかになった。
【0186】
実施例4:プロテインH存在下でのヒスチジンタグIdeSの活性
以下の反応は、エッペンドルフ管内で設定し、結果はNuPage4〜12%BisTrisゲル(Invitrogen)を使用したエレクトロポレーションで分析した。
【0187】
【表2】

【0188】
前記の結果は、ヒスチジンタグIdeSは、タグを付けていない、およびヒスチジンタグプロテインHの存在下でIgG画分を切断することを示した。
【0189】
実施例5
溶出緩衝液
以下の方法は、IgGセファロースからのEndoS(E235Q)の溶出において使用するための様々な溶出緩衝液を試験するために使用した。試験した緩衝液は、酸感受性抗体に特異的な本発明の方法で使用するために特に適しているだろう。試験した様々な緩衝液は、
1.PBS pH7.4に溶かしたスクロース0.25M
2.PBS pH7.4に溶かしたスクロース0.5M
3.PBS pH5.3に溶かしたスクロース0.25M
4.PBS pH8.5に溶かしたスクロース0.25M
5.PBS pH7.4に溶かしたスクロース0.25M、マルトース0.25M
6.PBS、pH7.4
【0190】
IgGセファロースゲルは、標準的方法にしたがって作製し、PBS pH7.4を使用して洗浄した。試験した溶出緩衝液それぞれについて、GSTタグEndoS(E235Q)0.3mgを試験試料としてゲルに添加した。試料は、振動台上で1時間インキュベートして、上清は500gで3分間遠心することによって除去した。試料は、PBS、pH7.4、4×1.0mlで洗浄した。次に、GSTタグEndoS(E235Q)は、前記の1〜6から選択した溶出緩衝液1.0mlを使用して溶出した。1〜6のそれぞれは、別々の試料について試験した。試料は全て、振動台上で1.5時間インキュベートした。次に、第1の溶出液(溶出液1)を500gで3分間遠心することによって除去した。それぞれの溶出緩衝液1.0mlをさらに各試料に添加し、試料を振動台上で約30分間インキュベートした。第2の溶出液(溶出液2)を前述のように遠心によって除去した。最後に、それぞれの溶出緩衝液1.0mlをさらに各試料に添加し、試料を振動台上で約50分間インキュベートした。最後の溶出液(溶出液3)を前述のように遠心によって除去した。
【0191】
各試料からの溶出液全ておよび元の上清は、その後、ゲル電気泳動(示さず)によって分析する前に、PBS300μlで希釈した。
【0192】
ゲル分析によって、GSTタグEndoS(E235Q)は、溶出液として様々な濃度および様々な種類の糖を使用してIgGから溶出することができた。スクロースを0.25Mおよび0.5M含む溶出緩衝液が最も効果的であった。
【配列表フリーテキスト】
【0193】
配列の簡単な説明
配列番号:1は、S.ピオゲネスAP1から単離したEndoSポリペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号:2は、配列番号:1の配列から得られた改変EndoSポリペプチド(E235Q)のアミノ酸配列である。
配列番号:3は、シグナル配列を含む、S.ピオゲネスAP1から単離したEndoSポリペプチドのアミノ酸配列である。この配列は、NCBI Accession No:AAK00850に対応する。
配列番号:4は、シグナル配列を含む、S.ピオゲネスAP1から単離したEndoSをコードする核酸配列である。
配列番号:5から7は、プライマー配列である。
配列番号:8は、S.ピオゲネスAP1から単離したIdeSのアミノ酸配列である。
配列番号:9は、推定シグナル配列を含む、S.ピオゲネスAP1から単離したIdeSのアミノ酸配列である。
配列番号:10は、シグナル配列を含む、S.ピオゲネスAP1から単離したIdeSをコードする核酸配列である。
配列番号:11は、成熟プロテインHのアミノ酸配列である。
配列番号:12は、シグナル配列を含む、プロテインHのアミノ酸配列である。
配列番号:13は、シグナル配列を含む、プロテインHをコードする核酸配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fcγ受容体−IgG複合体を解離するインビトロの方法であって、前記複合体をEndoSポリペプチドと接触させ、それによってIgGが結合していないFcγ受容体を得ることを含み、所望によりFcγ受容体−IgG複合体が細胞含有試料中に存在する方法。
【請求項2】
Fcγ受容体結合IgG分子を含まない細胞集団を単離または調製するために実施する請求項1に記載の方法であって、
(a)細胞含有試料をEndoSポリペプチドと接触させるステップと、
(b)所望により、細胞を接触試料から分離するステップと
を含み、それによって前記細胞集団を得る方法。
【請求項3】
前記EndoSポリペプチドがIgGエンドグリコシダーゼ活性を有し、
(a)配列番号:1のアミノ酸配列、または
(b)配列番号:1のアミノ酸と少なくとも50%の同一性を有するその変異体、または
(c)そのいずれかの断片
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリペプチドが、配列番号:1に示した配列からなるか、または本質的になる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記Fcγ受容体−IgG複合体が血液、血清または細胞培養培地中に存在する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記Fcγ受容体−IgG複合体が単球上に存在し、かつ/または前記細胞集団がIgGサブクラスIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4の少なくとも1種、好ましくは2種、3種または4種全てを実質的に含まない、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の方法によって得られた細胞集団。
【請求項8】
IgG含有試料からIgGを単離する方法であって、
(a)前記IgG含有試料を、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如したEndoSポリペプチドと接触させ、それによってIgG−EndoSポリペプチド複合体の形成を可能にするステップと、
(b)接触試料から前記EndoSを分離するステップと
を含み、それによって単離IgGを得る方法。
【請求項9】
試料中のIgGの有無を決定する方法であって、
(a)前記試料を、IgGエンドグリコシダーゼ活性を欠如したEndoSポリペプチドと接触させ、それによってIgG−EndoSポリペプチド複合体の形成を可能にするステップと、
(b)所望により、前記EndoSを接触試料から分離するステップと、
(c)前記分離したEndoSがIgGに結合しているかどうかを決定するステップと
を含み、それによって前記試料中のIgGの有無を決定する方法。
【請求項10】
前記EndoSポリペプチドが、
(a)配列番号:2のアミノ酸配列、
(b)配列番号:2のアミノ酸配列と少なくとも50%の同一性を有し、IgG結合活性を有するその変異体、または
(c)IgG結合活性を有するそのいずれかの断片
を含む、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
単離された、または検出されたIgGが天然の機能的に活性のある形態である、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
単離された、または検出されたIgGが、IgGサブクラスIgG、IgG、IgGおよびIgGの少なくとも1種、好ましくは2種、3種または4種全てを含む、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(a)がさらに、試料を、EndoSポリペプチドに結合できる磁性ナノ粒子の集団と接触させることを含み、ステップ(b)が、接触試料上で磁場分離を実施することを含む、請求項8から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
IgG含有試料のグリコシル化状態または機能的品質を評価する方法であって、IgG含有試料の第1および第2の部分試料を採取することを含み、請求項8または10から12のいずれか一項に記載のステップ(a)および(b)を第1の部分試料に適用し、EndoSポリペプチドが、グリコシル化されておらず、かつ/または変性した不活性なIgGに結合できる代替のIgG結合試薬で置換されていることを除いて、請求項8または10から12のいずれか一項に記載のステップ(a)および(b)を第2の部分試料に適用し、さらに、
(c)第1の部分試料におけるEndoSポリペプチドに結合したIgGの量および第2の部分試料における代替のIgG結合試薬に結合したIgGの量を定量するステップと、
(d)(c)において決定した結合IgGの量の両方を比較するステップと
を含み、それによってIgG含有試料のグリコシル化状態または機能的品質を評価する方法。
【請求項15】
代替のIgG結合試薬がプロテインGおよび/またはプロテインAを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
IgG含有試料からFab断片を単離するための方法であって、
(a)前記IgG含有試料をIdeSおよびFc結合タンパク質と接触させるステップと、
(b)前記IdeSおよび前記Fc結合タンパク質を接触試料から分離するステップと
を含み、それによってFab断片を単離する方法。
【請求項17】
ステップ(a)がさらに、試料を、IdeSポリペプチドおよびFc結合タンパク質に結合できる磁性ナノ粒子の集団と接触させることを含み、ステップ(b)が、接触試料上で磁場分離を実施することを含み、かつ/または前記Fc結合タンパク質がプロテインHまたは請求項10に記載のEndoSポリペプチドである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
IgG含有試料からFc断片を単離する方法であって、
(a)前記IgG含有試料をIdeSと接触させるステップと、
(b)ステップ(a)で得られた混合物からIdeSを分離し、それによってFabおよびFc断片を単離するステップと、
(c)前記FabおよびFc断片をFc結合タンパク質と接触させ、それによってFc断片−Fc結合タンパク質複合体の形成を可能にするステップと、
(d)ステップ(c)で得られた混合物からFc断片−Fc結合タンパク質複合体を分離するステップと、
(e)ステップ(d)で得られたFc断片−Fc結合タンパク質複合体からFc断片を単離するステップと
を含む方法。
【請求項19】
ステップ(a)がさらに、試料を、IdeSに結合できる磁性ナノ粒子の集団と接触させることを含み、ステップ(c)がさらに、ステップ(b)で得られた単離FabおよびFc断片を、前記Fc結合タンパク質に結合できる磁性ナノ粒子の集団と接触させることを含み、ステップ(b)および(d)が、それぞれ接触試料または単離されたFabおよびFc断片上で磁場分離を実施することを含み、かつ/またはFc結合タンパク質がプロテインHまたは請求項10に記載のEndoSポリペプチドである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ステップ(a)の前に、
(i)前記IgG含有試料を請求項10に記載のEndoSポリペプチドと接触させ、それによってIgG−EndoSポリペプチド複合体の形成を可能にするステップと、
(ii)前記IgG−EndoSポリペプチド複合体を接触試料から分離するステップと、
(iii)IgG−EndoSポリペプチド複合体からIgGを溶出し、それによってIgG含有試料を得るステップと
を含み、ステップ(a)および(b)がステップ(iii)で得られたIgG含有試料で実施される、請求項16から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
Fcγ受容体結合IgG分子を実質的に含まない細胞集団を単離するためのキットであって、
(a)請求項3に記載のEndoSポリペプチドと、所望により
(b)試料から細胞を分離するための手段および/または指示と
を含むキット。
【請求項22】
IgG含有試料からIgGを単離するためのキットであって、
(a)請求項10に記載のEndoSポリペプチドと、所望により
(b)試料から前記EndoSポリペプチドを分離するための手段と
を含むキット。
【請求項23】
試料中のIgGの有無を決定するためのキットであって、
(a)請求項10に記載のEndoSポリペプチドと、所望により
(b)試料から前記EndoSポリペプチドを分離するための手段と
を含むキット。
【請求項24】
IgG含有試料のグリコシル状態または機能的品質を評価するためのキットであって、
(a)請求項10に記載のEndoSポリペプチドと、
(b)変性し、かつ/または脱グリコシル化されたIgGに結合できる代替のIgG結合試薬と、
(c)前記EndoSポリペプチドおよび前記代替のIgG結合試薬を試料から分離するための手段と
を含むキット。
【請求項25】
代替のIgG結合試薬がプロテインGおよび/またはプロテインAおよび/またはプロテインA/Gを含む、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
IgGのFabまたはFc断片を単離するためのキットであって、
(a)IdeSと、
(b)Fc結合タンパク質と、
(c)試料から前記IdeSおよび前記Fc結合タンパク質を分離するための手段と
を含むキット。
【請求項27】
請求項10に記載のEndoSポリペプチドおよび試料から前記EndoSポリペプチドを分離するための手段をさらに含み、かつ/またはFc結合タンパク質がプロテインHまたは請求項10に記載の前記EndoSポリペプチドである、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
前記EndoSポリペプチド、前記代替のIgG結合試薬、前記IdeSまたは前記Fc結合タンパク質を試料から分離するための手段が、磁性ナノ粒子の集団であり、各集団が、示されたポリペプチド/試薬/タンパク質の少なくとも1種に結合することができ、所望により、試料上で磁場分離を実施するための指示をさらに含む、請求項21から27のいずれか一項に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−538623(P2010−538623A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524397(P2010−524397)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際出願番号】PCT/EP2008/007457
【国際公開番号】WO2009/033670
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(510069917)ジェノビス エービー (1)
【Fターム(参考)】