説明

FMCWレーダ装置

【課題】 検出すべき物標が複数存在しても、全ての物標との距離及び相対速度を正しく検出できるFMCWレーダ装置を提供する。
【解決手段】 2つの受信チャネルCH1,CH2を備えたFMCWレーダ装置において、送信信号と受信信号とを混合してなるビート信号を、各受信チャネルCH1,CH2毎、及び送信信号の周波数が増大する上昇部、周波数が減少する下降部毎にフーリエ変換し、夫々についてパワーのスペクトルがピークとなる全てのピーク周波数成分を検出する。そして、上昇部及び下降部毎に、受信チャネルCH1,CH2間で同じ周波数となるピーク周波数成分の位相差△φu(i),△φd(j)を算出(310,320) する。上昇部及び下降部から夫々一つずつピーク周波数成分を適宜選択し、その位相差の差の絶対値|△φu(i)−△φd(j)|が所定値εより小さければ、これらピーク周波数成分をペアとして特定(330,340) する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、移動体の衝突防止や一定距離追従走行等に使用され、レーダ波の送受信により移動体の外部に存在する物標との相対速度や距離を検出するFMCWレーダ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、FM−CWレーダ装置は、三角波状の変調信号により周波数変調され、周波数が漸次増減する送信信号をレーダ波として送信し、物標により反射されたレーダ波を受信すると共に、受信信号を送信信号とミキシングすることによりビート信号を発生させ、このビート信号の周波数(ビート周波数)を、信号処理器等を用いて送信信号の周波数が増加する上昇部及び周波数が減少する下降部の各区間毎に特定し、この特定された上昇部のビート周波数fb1及び下降部のビート周波数fb2に基づいて物標との距離Dや相対速度Vを次の(1)(2)式に基づいて算出するように構成されている。
【0003】
【数1】


【0004】
【数2】


【0005】なお、△Fは送信信号の周波数変位幅、f0は送信信号の中心周波数、1/fmは1周期の変調に要する時間、Cは光速を表す。ここで、図13は、送信信号T及び受信信号Rの周波数の変化を表すグラフである。
【0006】図13(a)に示すように、レーダ装置を取り付けた移動体と、レーダ波を反射する物標との移動速度が等しい(相対速度V=0)場合、物標に反射したレーダ波は、物標との間の往復に要する時間だけ遅延するため、受信信号Rのグラフは、送信信号Tのグラフを時間軸に沿ってシフトしたものとなり、上昇部のビート周波数fb1と下降部のビート周波数fb2とは等しく(fb1=fb2)なる。
【0007】一方、図13(b)に示すように、物標との移動速度が異なる(相対速度V≠0)場合、物標に反射したレーダ波は、更に物標との相対速度Vに応じたドップラシフトを受けるため、受信信号Rのグラフは、送信信号Tのグラフを相対速度Vによるドップラシフトの分だけ、周波数軸に沿ってシフトしたものとなり、上昇部のビート周波数fb1と下降部のビート周波数fb2とは異なったもの(fb1≠fb2)となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで、検出すべき物標が一つの場合は、ビート信号から検出される周波数成分は、上昇部及び下降部共に一つずつであるため、これを単純に上記(1)(2)式に当てはめればよいのであるが、検出すべき物標が複数存在する場合、上昇部及び下降部の各ビート信号に、夫々物標の数だけ周波数成分が含まれるため、同一物標からの反射波に基づくビート周波数成分を上昇部と下降部とで正しく組み合せなければならない。
【0009】しかし、同一物標からの反射波に基づくビート周波数成分が、上昇部と下降部とで必ずしも同じ順序で並ぶとは限らず、例えば、上昇部と下降部とで、単純に周波数の大きい順にビート周波数成分を組み合わせた場合、必ずしも正しい組み合わせとはならないため、各物標との距離Dや相対速度Vを正しく検出できないという問題があった。
【0010】即ち図14に示すように、検出すべき物標が二つ存在し、これら物標とレーダ装置を搭載した移動体との相対速度Vがいずれも略ゼロである場合、距離の近い物標からの反射波に基づく受信信号はR1,距離の遠い物標からの反射波に基づく受信信号はR2のように表され、同一の物標からの反射波に基づくビート周波数成分は、上昇部と下降部とで同じ順序(fb1(R1)<fb1(R2),fb2(R1)<fb2(R2))に並ぶ。
【0011】ところが、例えば、距離の遠い側の物標が相対速度Vを有している場合、ドップラシフトの影響を受けた受信信号R2′は、受信信号R2を周波数軸に沿ってシフトさせたものとなり、その結果、同一物標からの反射波に基づくビート周波数成分の順序は、上昇部と下降部とでは、異なったもの(fb1(R1)>fb1(R2'),fb2(R1)<fb2(R2'))となる。このように、各物標の状態により、ビート周波数成分の大きさは様々に変化するため、同一物標からの反射波に基づくビート周波数成分の並ぶ順序が、上昇部と下降部とで一致するとは限らず、単純にはこれらを組み合わせることができないのである。
【0012】本発明は、上記問題点を解決するために、検出すべき物標が複数存在しても、全ての物標との距離及び相対速度を正しく検出できるFMCWレーダ装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記問題を解決するためになされた請求項1に記載の発明においては、送信手段が、三角波変調信号によって周波数変調され、周波数が漸次増減する送信信号を発生してレーダ波として送信し、受信手段が、物標により反射されたレーダ波を受信して受信信号を発生すると共に、この受信信号を送信信号と混合してビート信号を発生する。そして、信号処理手段が、受信手段からのビート信号に基づき、物標との距離及び相対速度を求める。
【0014】ところで、信号処理手段では、解析手段が、送信信号の周波数が上昇する上り変調時及び周波数が下降する下り変調時毎にビート信号をフーリエ変換し、夫々の区間内における周波数成分毎の複素ベクトルを算出する。なお、所定の信号R(t)をフーリエ変換した結果は、次の(3)式にて表され、これを複素表示した場合、(4)式にて表される。
【0015】
【数3】


【0016】つまり、基本周波数f(=ω/2π)のn倍の周波数を有する周波数成分毎に、実数成分bn ,虚数成分an の複素ベクトルが算出される。なお、(5)式にて算出される複素ベクトルの絶対値Pn は、その周波数成分の振幅、即ちパワーを表しており、また、(6)式にて算出される複素ベクトルの実数軸に対する角度は、その周波数成分の位相φn を表している。
【0017】
【数4】


【0018】
【数5】


【0019】このように、複素ベクトルは、周波数成分の振幅及び位相に関する情報を含んでいる。そして、ピーク検出手段が、複素ベクトルから、(5)式を用いてその振幅を算出することにより、周波数スペクトル上でピークとなる全ての周波数成分を検出し、ピークペア特定手段が、複素ベクトルから得られる情報、即ちピーク周波数成分の振幅及び位相に基づき、上り変調時の各ピーク周波数成分と下り変調時の各周波数成分とを夫々比較することにより、同一物標からの反射波に基づくピーク周波数成分のペアを特定する。
【0020】即ち、物標からの反射波、延いては反射波に基づき生成されるピーク周波数成分の振幅や位相は、物標との距離や物標が存在する方向の影響を受けて変化するため、この振幅や位相を検出し比較することにより、同一物標からの反射波に基づくピーク周波数成分のペアを特定できるのである。
【0021】そして、このようにして特定されたピーク周波数成分のペア毎に、その周波数から(1)(2)式に基づいて各物標との距離及び相対速度が求められる。従って、本発明のFMCWレーダ装置によれば、検出すべき物標が複数存在する場合であっても、上り変調時と下り変調時とで、ピーク周波数成分のペアを正しく特定でき、延いては、各物標との距離及び相対速度を正しく検出できる。
【0022】次に、請求項2に記載された発明のFMCWレーダ装置においては、振幅算出手段が、解析手段により算出される複素ベクトルに基づき、ピーク検出手段にて検出される各ピーク周波数成分の振幅を算出し、比較手段が、上り変調時の各ピーク周波数成分の振幅と下り変調時の各ピーク周波数成分と振幅とを夫々比較し、同一振幅を有するピーク周波数成分をペアとして特定する。
【0023】即ち、ピーク周波数成分の振幅は、物標との距離や物標の材質等によってきまり、一方、物標との間に相対速度があったとしても、物標の位置は、上り変調時と下り変調時とでは殆ど変化しないため、同一物標からの反射波に基づくピーク周波数成分の振幅は、上り変調時と下り変調時とで略等しいものとなる。このため、ピーク周波数成分の振幅を比較することでペアを特定できるのである。
【0024】従って、本発明のFMCWレーダ装置によれば、検出すべき複数の物標が夫々異なる距離に位置している場合、上り変調時と下り変調時とで同一物標からの反射波に基づくピーク周波数成分のペアを正しく特定でき、延いては、各物標との距離及び相対速度を正しく検出できる。
【0025】なお、ピーク周波数成分の振幅は、ピーク検出の際に算出されるため、特別に振幅算出手段を設けることなく、ピーク検出手段の算出結果を利用するようにしてもよい。次に、請求項3に記載された発明のFMCWレーダ装置においては、受信手段を少なくとも2つ設けると共に、信号処理手段に、解析手段及びピーク検出手段を各受信手段毎に対応させて設けている。
【0026】そして、比較値算出手段が、各解析手段により算出される複素ベクトルに基づき、各ピーク検出手段にて各ビート信号毎に検出される同一周波数のピーク周波数成分毎に、該ピーク周波数成分の複素ベクトル間の相関を比較値として算出し、第1の比較手段が、上り変調時の各ピーク周波数成分の比較値と下り変調時の各ピーク周波数成分の比較値とを夫々比較し、該比較値が同一値となるピーク周波数成分をペアとして特定する。
【0027】即ち、複素ベクトルは、先の(3)(4)式で示したように、絶対値が振幅に対応し、実数軸に対する角度が位相情報に対応するため、複素ベクトルの相関は、二つの受信手段にて同時に受信される同一物標からの反射波に基づくピーク周波数成分の振幅差及び位相差に対応して変化する。
【0028】ところで、二つの受信手段は、夫々異なった位置に配置されるため、各受信手段からの受信信号は、同一物標からの反射波に基づくものであっても、反射波の到来方向に応じて、振幅や位相が異なったものとなり、各受信手段間で振幅差及び位相差を生じる。
【0029】一方、物標との間に相対速度があったとしても、物標の位置は上り変調時と下り変調時とでは殆ど変化せず、即ち、信号が到来する方向が大きく変化することがないので、二つの受信手段からの受信信号の振幅差及び位相差は、上昇部と下降部とで略等しいものとなる。このため、ピーク周波数成分の複素ベクトル間の相関を比較することでペアを特定できるのである。
【0030】従って、本発明のFMCWレーダ装置によれば、検出すべき複数の物標が夫々異なる方向に位置している場合、上り変調時と下り変調時とで、同一物標からの反射波に基づくピーク周波数成分のペアを正しく特定でき、延いては、各物標との距離及び相対速度を正しく検出できる。
【0031】次に、請求項4に記載された発明のFMCWレーダ装置においては、振幅算出手段が、解析手段により算出される複素ベクトルに基づき、ピーク検出手段にて検出される各ピーク周波数成分の振幅を算出し、第2の比較手段が、上り変調時の各ピーク周波数成分の振幅と、下り変調時の各ピーク周波数成分の振幅とを夫々比較し、同一振幅を有するピーク周波数成分をペアとして特定する。なお、第2の比較手段は、請求項2にて説明した比較手段と全く同様のものである。
【0032】従って、本実施例のFMCWレーダ装置によれば、検出すべき複数の物標が夫々異なる距離に位置している複数の物標や、夫々異なる方向に位置している複数の物標を同時に検出することができ、即ち、例え略同じ方向や、略同じ距離に複数の検出すべき物標があったとしても、上り変調時と下り変調時とで、同一物標からの反射波に基づくピーク周波数成分のペアをより正しく特定でき、延いては、各物標との距離及び相対速度を正しく検出できる。
【0033】次に、請求項5に記載された発明のFMCWレーダ装置においては、比較値算出手段が比較値として算出する複素ベクトルの相関は、複素ベクトル間の絶対値の差,即ち振幅あるいは位相差のうち少なくともいずれか一方であることを特徴とする。
【0034】このように、ピーク周波数成分のペアを特定する際に、ピーク周波数成分の振幅や位相差を使用すれば、ピーク検出の際に算出される振幅を利用したり、位相差を求めて方位を算出するような場合は、この処理と算出する位相差を共用することができる。
【0035】従って、本発明のFMCWレーダ装置によれば、ピーク周波数のペアを特定する処理を行うことによる処理量の増加を最小限に抑えることができる。
【0036】
【発明の実施の形態】以下に本発明の実施例を図面と共に説明する。図1は、本発明が適用された実施例の障害物検出用レーダ装置の全体構成を表すブロック図である。
【0037】図1に示すように、本実施例のレーダ装置2は、変調信号Smに応じて所定の周波数に変調されたレーダ波を送信する送信器12、送信器12から放射され、障害物に反射されたレーダ波を受信する一対の受信器14,16からなる送受信部10と、送信器12に変調信号Smを供給すると共に、受信器14,16から出力される中間周波のビート信号B1,B2に基づき、障害物を検出するための処理を実行する信号処理部20とにより構成されている。
【0038】ここで、送信器12が本発明の送信手段、受信器14,16が受信手段、信号処理部20が信号処理手段に相当する。そして、本実施例では、当該レーダ装置2により自動車前方の障害物を検出するために、送受信部10が自動車の前面に取り付けられ、信号処理部20が、車室内又は車室近傍の所定位置に取り付けられている。
【0039】ここで、まず送信器12は、送信信号として、ミリ波帯の高周波信号を生成する電圧制御発振器(VCO)12bと、変調信号Smを電圧制御発振器12bの調整レベルに変換して電圧制御発振器12bに供給する変調器(MOD)12aと、電圧制御発振器12bからの送信信号を電力分配して各受信器14,16に供給されるローカル信号を生成する電力分配器(COUP)12c,12dと、送信信号に応じてレーダ波を放射する送信アンテナ12eとにより構成されている。
【0040】また、受信器14は、レーダ波を受信する受信アンテナ14aと、受信アンテナ14aからの受信信号に電力分配器12dからのローカル信号を混合するミキサ14bと、ミキサ14bの出力を増幅する前置増幅器14cと、前置増幅器14cの出力から不要な高周波成分を除去し、送信信号及び受信信号の周波数の差成分であるビート信号B1を抽出するローパスフィルタ14dと、ビート信号B1を必要な信号レベルに増幅する後置増幅器14eと、により構成されている。なお、受信器16は、受信器14と全く同様の構成(14a〜14eが16a〜16eに対応)をしており、電力分配器12cからローカル信号の供給を受け、ビート信号B2を出力する。そして、受信器14を受信チャネルCH1、受信器16を受信チャネルCH2と呼ぶ。
【0041】一方、信号処理部20は、起動信号C1により起動され、三角波状の変調信号Smを発生する三角波発生器22と、起動信号C2により起動され、受信器14,16からのビート信号B1,B2をデジタルデータD1,D2に変換するA/D変換器24a,24bと、CPU26a,ROM26b,RAM26cを中心に構成され、起動信号C1,C2を送出して三角波発生器22及びA/D変換器24a,24bを動作させると共に、A/D変換器24a,24bを介して得られるデジタルデータD1,D2に基づき障害物との距離、相対速度、及び障害物の方位の検出を行う障害物検出処理(後述する)を実行する周知のマイクロコンピュータ26と、マイクロコンピュータ26の指令に基づき高速フーリエ変換(FFT)の演算を実行する演算処理装置28と、により構成されている。ここで、演算処理装置28が本発明の解析手段に相当する。
【0042】なお、A/D変換器24a,24bは、起動信号C2により動作を開始すると、所定時間間隔毎にビート信号B1,B2をA/D変換して、RAM26cの所定領域に書き込むと共に、所定回数のA/D変換を終了すると、RAM26c上に設定された終了フラグ(図示せず)をセットして、動作を停止するように構成されている。
【0043】そして、起動信号C1により、三角波発生器22が起動され、変調器12aを介して電圧制御発振器12bに変調信号Smが入力されると、電圧制御発振器12bは、変調信号Smの三角波状の波形の上り勾配に応じて所定の割合で周波数が増大(以後、この区間を上昇部と呼ぶ)し、それに引き続く下り勾配に応じて周波数が減少(以後、この区間を下降部と呼ぶ)するように変調された送信信号を出力する。
【0044】図2は、送信信号の変調状態を表す説明図である。図2に示すように、変調信号Smにより、送信信号の周波数は、1/fmの期間に△Fだけ増減するように変調され、その変化の中心周波数はf0である。なお、100ms間隔で周波数が変調されているのは、後述する障害物検出処理が100ms周期で実行され、その処理の中で起動信号C1が生成されるからである。
【0045】この送信信号に応じたレーダ波が送信器12から送出され、障害物に反射したレーダ波が、受信器14,16にて受信される。そして、受信器14,16では、受信アンテナ14a,16aから出力される受信信号と、送信器12からの送信信号とが混合されることにより、ビート信号B1,B2が生成される。なお、受信信号は、レーダ波が障害物まで間を往復する時間だけ送信信号に対して遅延し、且つ、障害物との間に相対速度がある場合には、これに応じてドップラシフトを受ける。このため、ビート信号B1,B2は、この遅延成分frとドップラ成分fdとを含んだもの(図13参照)となる。
【0046】そして、図3に示すように、A/D変換器24aによりビート信号B1をA/D変換してなるデジタルデータD1は、RAM26c上のデータブロックDB1,DB2に順次格納され、一方、A/D変換器24bによりビート信号B2をA/D変換してなるデジタルデータD2は、同様に、データブロックDB3,DB4に格納される。ところで、A/D変換器24a,24bは、三角波発生器22の起動と共に起動され、変調信号Smが出力されている間に、所定回数のA/D変換を行うようにされているため、前半数のデータが格納されるデータブロックDB1,DB3には、送信信号の上昇部に対応した上昇部データが格納され、後半数のデータが格納されるデータブロックDB2,DB4には、送信信号の下降部に対応した下降部データが格納されることになる。
【0047】このようにして各データブロックDB1〜DB4に格納されたデータは、マイクロコンピュータ26及び演算処理装置28にて処理され、障害物の検出のために使用される。次に、マイクロコンピュータ26のCPU26aにて実行される障害物検出処理を、図4に示すフローチャートを参照して説明する。なお、この障害物検出処理は、前述したように100ms周期で起動される。
【0048】図4に示すように、本処理が起動されると、まず、ステップ110にて、起動信号C1を出力して三角波発生器22を起動し、続くステップ120にて、RAM26c上の終了フラグをクリアすると共に、起動信号C2を出力してA/D変換器24a,24bを起動する。
【0049】これにより、三角波発生器22からの変調信号Smを受けた送信器12により、周波数変調されたレーダ波が送信されると共に、障害物により反射したレーダ波を受信することにより受信器14,16から出力されるビート信号B1,B2が、A/D変換器24a,24bを介してデジタルデータD1,D2に変換されRAM26cに書き込まれる。
【0050】続くステップ130では、RAM26c上の終了フラグを調べることにより、A/D変換が終了したか否かを判断する。そして、終了フラグがセットされていなければ、A/D変換は終了していないものとして、同ステップ130を繰り返し実行することで待機し、一方、終了フラグがセットされていれば、A/D変換は終了したものとしてステップ140に移行する。
【0051】ステップ140では、RAM26c上のデータブロックDB1〜DB4のいずれか一つを順次選択し、そのデータブロックDBi(i=1〜4)のデータを演算処理装置28に入力してFFTの演算を実行させる。なお、演算処理装置28に入力されるデータは、FFTの演算により表れるサイドローブを抑制するために、ハニング窓や三角窓等を用いた周知のウィンドウ処理が施される。そして、この演算結果として、各周波数毎の複素ベクトルが得られる。
【0052】ステップ150では、複素ベクトルの絶対値、即ちその複素ベクトルが示す周波数成分の振幅に基づき、周波数スペクトル上でピークとなる全ての周波数成分(以下ピーク周波数成分と呼ぶ)を検出して、その周波数をピーク周波数として特定し、ステップ160に進む。なお、ピークの検出方法としては、例えば、周波数に対する振幅の変化量を順次求め、その前後にて変化量の符号が反転する周波数にピークがあるものとして、その周波数を特定すればよい。
【0053】ステップ160では、ステップ150にて特定されたピーク周波数成分の位相を算出する。この位相は、複素ベクトルが実数軸となす角度に等しく、(4)式を用いて複素ベクトルから求められる。続くステップ170では、未処理のデータブロックDBiがあるか否かを判断し、未処理のものがあれば、ステップ140に戻って、その未処理のデータブロックDBiについて、ステップ140〜160の処理を実行し、一方、未処理のものがなければ、ステップ180に移行する。
【0054】ここで、図6に、ステップ140での演算結果として得られる複素ベクトルに基づき、各周波数成分に対する振幅(即ちパワー)及び位相のスペクトルを、各データブロックDB1〜DB4毎、即ち、各受信チャネルCH1,CH2の上昇部データ及び下降部データ毎に算出してグラフ化したものを示す。この図では障害物が二つ存在する場合を表しており、各データブロックDB1〜DB4にて、ピーク周波数成分は二つずつ検出される。
【0055】そして、ステップ150及び160の処理の結果、受信チャネルCH1の上昇部におけるピーク周波数f1u(1),f1u(2)、同じく下降部におけるピーク周波数f1d(1),f1d(2)、受信チャネルCH2の上昇部におけるピーク周波数f2u(1),f2u(2)、同じく下降部におけるピーク周波数f2d(1),f2d(2)が求められると共に、これらピーク周波数成分の位相φ1u(1),φ1u(2),φ1d(1),φ1d(2),φ2u(1),φ2u(2),φ2d(1),φ2d(2)が求められることになる。
【0056】なお、上昇部及び下降部毎に各受信チャネルCH1,CH2間で同じ周波数を有するピーク周波数成分(f1u(1)=f2u(1),f1u(2)=f2u(2),f1d(1)=f2d(1),f1d(2)=f2d(2))が検出されるが、これらは、同一障害物からの反射波に基づくピーク周波数成分である。
【0057】次にステップ180では、上昇部と下降部とで、ピーク周波数成分のペアを特定するペアリング処理を実行する。このペアリング処理は、図5に示すように、まずステップ310では、上昇部において、受信チャネルCH1,CH2間でピーク周波数が等しい各ピーク周波数成分、即ち同一障害物からの反射波に基づくピーク周波数成分間の位相差△φu(i)を(7)式を用いて夫々算出し、続くステップ320では、下降部において、同様に受信チャネルCH1,CH2間でピーク周波数が等しい各周波数成分間の位相差△φd(j)を(8)式を用いて夫々算出する。
【0058】
△φu(i)=|φ1u(i)−φ2u(i)| ・・・(7)
△φd(j)=|φ1d(j)−φ2d(j)| ・・・(8)
但し、i,j=1〜Np、Npはステップ150にて検出されるピーク周波数成分の数である。
【0059】続くステップ330では、上昇部及び下降部から夫々一つずつピーク周波数成分を選択し、先のステップ310及び320にて算出された位相差△φu(i),△φd(j)の差の絶対値|△φu(i)−△φd(j)|を求め、これが所定値εより小さいか否かを判断し、所定値εより小さければ位相差△φu(i),△φd(j)は等しいとしてステップ340に移行し、所定値εより大きければ位相差△φu(i),△φd(j)は等しくないとしてステップ350に移行する。
【0060】ステップ340では、位相差△φu(i),△φd(j)が等しいとされたピーク周波数成分をペアとして決定し、RAM26cの所定エリアに格納し、ステップ350に進む。ステップ350では、全てのピーク周波数成分のペアが決定したか否かを判断し、ペアが未決定のピーク周波数成分があれば、ステップ330に戻って、ペアが未決定の周波数成分のみを対象として、ステップ330〜350の処理を繰り返し実行し、一方、ステップ350にて全てのペアが決定していると判断されれば本処理を終了する。
【0061】このペアリング処理の結果、図7(a)に示すように、上昇部及び下降部事に、各ピーク周波数成分に対応した位相差△φu(1),△φu(2),△φd(1),△φd(2)が算出される。そして、ここでは、△φu(1)≒△φd(2),△φu(2)≒△φd(1)となっているので、ピーク周波数fu(1),fd(2)の周波数成分が一方のペアとして特定され、ピーク周波数fu(2),fd(1)の周波数成分が他方のペアとして特定される。
【0062】このようにしてペアリング処理が終了すると、図4に戻り、続くステップ190では、先のステップ310にて算出される位相差φ1u(i)−φ2u(i)から、次の(9)に示す関係式に基づいて、各ピーク周波数成分に対応する障害物が位置する方位θを夫々算出する。
【0063】
θ=(φ1u(i)−φ2u(i))・λ/(2π・W) ・・・(9)
なお、Wは受信器14,16間の距離、dは各受信器14,16にて受信される同一障害物からの反射波の経路差、λはレーダ波の波長である。また、位相差φ1u(i)−φ2u(i)の代わりに位相差φ1d(i)−φ2d(i)を用いてもよい。
【0064】続くステップ200では、先のステップ180にてペアとして特定された上昇部及び下降部のビート周波数fu(i),fd(j)から、(1)式を用いて各障害物との距離Dを夫々算出し、また、続くステップ210では、同様に(2)式を用いて障害物との相対速度Vを算出し、本処理を終了する。なお、ビート周波数fu(i)は(1)式のfb1に相当し、ビート周波数fd(j)は同様にfb2に相当する。
【0065】このようにして算出された障害物との距離D、相対速度V、及び障害物の方位θは、別途実行される判断処理において、危険の有無を判断するため等に使用され、危険ありと判断された場合には、例えば、図示しない警報機を鳴動させて運転者に危険を知らせるといった処理が行われる。
【0066】本実施例では、ステップ150が本発明(特に請求項3を参照)のピーク検出手段、ステップ160,310,320がピークペア特定手段の比較値算出手段、ステップ330〜350がピークペア特定手段の第1の比較手段に相当し、位相差△φu(i),△φd(j)が比較値に相当する。
【0067】以上説明したように、本実施例のレーダ装置2においては、ビート信号に含まれる複数のピーク周波数成分を、各受信チャネルCH1,CH2毎、及び上昇部,下降部毎に検出し、各受信チャネルCH1,CH2間で同一障害物からの反射波に基づくピーク周波数成分の位相差△φu(i),△φd(j)を求め、更にこれを上昇部と下降部とで比較し、位相差△φu(i),△φd(j)の等しいものを同一障害物からの反射波に基づくピーク周波数成分のペアであると特定するようにされている。
【0068】ところで、上昇部及び下降部毎に各受信チャネルCH1,CH2間で算出される、同一障害物からの反射波に基づくピーク周波数成分の位相差△φu(i),△φd(j)は、障害物の方位に対応して変化する。従って、本実施例のレーダ装置2によれば、異なる方向に複数の障害物が存在する場合、上昇部と下降部とで同一障害物からの反射波に基づくピーク周波数成分のペアを正しく特定でき、延いては、各障害物との距離Dや相対速度Vを正しく検出できる。
【0069】次に、第2実施例について説明する。本実施例は、第1実施例とは、障害物検出処理のペアリング処理と方位算出処理が異なる。なお、第1実施例では、ピーク周波数成分の位相差を用いてペアリング処理を行っているが、本実施例では、位相差の代わりに振幅から得られるパワー差を用いて同様のペアリング処理を実行するものである。
【0070】即ち、本実施例のペアリング処理においては、図8に示すように、まずステップ410では、上昇部において、受信チャネルCH1,CH2間でピーク周波数が等しい各ピーク周波数成分のパワー差△Pu(i)を(10)式を用いて夫々算出し、続くステップ420では、下降部において、同様に受信チャネルCH1,CH2間でピーク周波数が等しい各ピーク周波数成分のパワー差△Pd(j)を(11)式を用いて夫々算出する。
【0071】
△Pu(i)=P1u(i)−P2u(i) ・・・(10)
△Pd(j)=P1d(j)−P2d(j) ・・・(11)
但し、i,j=1〜Np、Npはステップ150にて検出されるピーク周波数成分の数である。
【0072】なお、各ピーク周波数成分のパワーP1u(i),P2u(i),P1d(j),P2d(j)は、ステップ150にてピーク検出を行う際に算出される値を使用する。続くステップ430では、上昇部及び下降部から夫々一つずつピーク周波数成分を選択し、先のステップ410及び420にて算出されたパワー差△Pu(i),△Pd(j)の差の絶対値|△Pu(i)−△Pd(j)|を求め、これが所定値εより小さいか否かを判断し、所定値εより小さければパワー差△Pu(i),△Pd(j)は等しいとしてステップ440に移行し、所定値εより大きければパワー差△Pu(i),△Pd(j)は等しくないとしてステップ450に移行する。
【0073】以下ステップ440,450の処理は、第1実施例にて説明したステップ340,350の処理と同様であるため説明を省略する。本実施例では、ステップ150,410,420が本発明(特に請求項3を参照)のピークペア特定手段の比較値算出手段、ステップ430〜450がピークペア特定手段の第1の比較手段に相当し、パワー差△Pu(i),△Pd(j)が比較値に相当する。
【0074】このペアリング処理により、図7(b)に示すように、各ピーク周波数成分に対応してパワー差△Pu(1),△Pu(2),△Pd(1),△Pd(2)が算出され、ここでは、△Pu(1)≒△Pd(2),△Pu(2)≒△Pd(1)となる。従って、第1実施例の場合と全く同様に、ピーク周波数fu(1),fd(2)の周波数成分が一方のペアとして特定され、ピーク周波数fu(2),fd(1)の周波数成分が他方のペアとして特定される。
【0075】ところで、上昇部及び下降部毎に各受信チャネルCH1,CH2間で算出される、同一障害物からの反射波に基づくピーク周波数成分のパワー差△Pu(i),△Pd(j)は、第1実施例にて説明した位相差△φu(i),△φd(j)と同様に障害物の方位に対応して変化する。
【0076】従って、本実施例のFMCWレーダ装置2においても、第1実施例と全く同様の効果を得ることができる。本実施例においてステップ190の方位算出処理は、ステップ160で求めた位相φ1u(i),φ2u(j)からその位相差φ1u(i)−φ2u(j)を算出する処理を追加したものとする。また、位相差から方位を求める代わりに、ステップ410または420にて得られるパワー差P1u(i)−P1d(i)を用いて求めたり、また、位相差とパワー差の両者から求めるように構成してもよい。
【0077】また、本実施例によれば、ペアリング処理において、ピーク検出の際に算出される値を使用しているので、方位算出を行う必要のないレーダ装置、またはパワー差から方位を算出するように構成されたレーダ装置等に適用した場合には、位相を求める必要が全くないので、装置全体としての処理量を大幅に削減できる。
【0078】次に第3実施例について説明する。本実施例は、第1実施例とは、障害物検出処理のペアリング処理と、方位算出処理が異なる。なお、本実施例では、位相差,パワー差の代わりに、複素ベクトル差の絶対値を用いて上記実施例と同様のペアリング処理を実行するものである。
【0079】即ち、本実施例のペアリング処理においては、図9に示すように、まずステップ510では、上昇部において、受信チャネルCH1,CH2間でピーク周波数が等しい各ピーク周波数成分の複素ベクトル差の絶対値△Xu(i)を(12)式を用いて夫々算出し、続くステップ520では、下降部において、同様に受信チャネルCH1,CH2間でピーク周波数が等しい各ピーク周波数成分間の複素ベクトル差の絶対値△Xd(j)を(13)式を用いて夫々算出する。
【0080】
△Xu(i)=|X1u(i)−X2U(i)| ・・・(12)
△Xd(j)=|X1d(j)−X2d(j)| ・・・(13)
但し、i,j=1〜Np、Npはステップ150にて検出されるピーク周波数成分の数である。
【0081】続くステップ530では、上昇部及び下降部から夫々一つずつピーク周波数成分を選択し、先のステップ510及び520にて算出された複素ベクトル差の絶対値△Xu(i),△Xd(j)の差の絶対値|△Xu(i)−△Xd(j)|を求め、これが所定値εより小さいか否かを判断し、所定値εより小さければ複素ベクトル差の絶対値△Xu(i),△Xd(j)は等しいとしてステップ540に移行し、所定値εより大きければ複素ベクトル差の絶対値△Xu(i),△Xd(j)は等しくないとしてステップ550に移行する。
【0082】以下ステップ540,550の処理は、第1実施例にて説明したステップ340,350の処理と同様であるため説明を省略する。本実施例では、ステップ510,520が本発明(特に請求項3を参照)のピークペア特定手段の比較値算出手段、ステップ530〜550がピークペア特定手段の第1の比較手段に相当し、複素ベクトル差の絶対値△Xu(i),△Xd(j)が比較値に相当する。
【0083】なお、図10に示すように、複素ベクトル差の絶対値△Xu(i)は、位相差△φu(i)及びパワー差△Pu(j)の両方の影響を受けて変化する。そして、上昇部と下降部とでは、同一障害物からの反射波に基づくピーク周波数成分の位相差△φu(i),△φd(j)及びパワー差△Pu(i),△Pd(j)は、等しいため、当然、複素ベクトル差の絶対値△Xu(i),△Xd(j)も、上昇部と下降部とで等しくなるのである。以上説明したように、本実施例のFMCWレーダ装置2によれば、位相差△φu(i),△φd(j)及びパワー差△Pu(i),△Pd(j)の情報をいずれも含んだ複素ベクトル差の絶対値△Xu(i),△Xd(j)を用いてペアリング処理を行っているので、第1実施例と全く同様の効果を得ることができ、しかも、位相差△φu(i),△φd(j)及びパワー差△Pu(i),△Pd(j)の2種類の情報に基づいて、ピーク周波数成分のペアを特定していることになるため、ペアリング処理の信頼性を向上させることができる。
【0084】本実施例においてステップ190の方位算出処理は、ステップ160で求めた位相φ1u(i),φ2u(j)からその位相差φ1u(i)−φ2u(j)を算出する処理を追加したものとする。また、位相差から方位を求める代わりに、ステップ150にて求められる振幅に基づいてパワーP1u(i),P2u(j)を求め、そのパワー差P1u(i)−P1d(i)を用いて方位を求めたり、また、位相差とパワー差の両者から方位を求めるように構成してもよい。
【0085】次に、第4実施例について説明する。本実施例は、第1実施例とは、障害物検出処理のペアリング処理と、方位算出処理が異なる。なお、本実施例では、位相差,パワー差,複素ベクトル差の絶対値の代わりに、ピーク周波数成分の振幅から求められるパワーを用いてペアリング処理を実行するものである。
【0086】即ち、本実施例のペアリング処理においては、図11に示すように、まず、ステップ610では、上昇部及び下降部から夫々一つずつピーク周波数成分を選択し、先のステップ150にてピーク検出を行う際に算出される各ピーク周波数成分の振幅に基づいて、パワーP1u(i),P1d(j)の差の絶対値|P1u(i)−P1d(j)|を求め、これが所定値εより小さいか否かを判断し、所定値εより小さければパワーP1u(i),P1d(j)は等しいとしてステップ620に移行し、所定値εより大きければパワーP1u(i),P1d(j)は等しくないとしてステップ630に移行する。
【0087】以下ステップ620,630の処理は、第1実施例にて説明したステップ340,350の処理と同様であるため説明を省略する。本実施例では、ステップ150が本発明(特に請求項2を参照)のピークぺア特定手段の振幅算出手段、ステップ610〜630がピークペア特定手段の比較手段に相当する。
【0088】なお、各ピーク周波数成分のパワーP1u(i),P1d(j)は、障害物までの距離に応じて変化するため、同一障害物からの反射波に基づくものであれば、上昇部と下降部とで略等しくなる。従って、本実施例のFMCWレーダ装置2によれば、異なる距離に複数の障害物が存在する場合、上昇部と下降部とで同一障害物からの反射波に基づくピーク周波数成分のペアを正しく特定でき、延いては、各障害物との距離Dや相対速度Vを正しく検出できる。
【0089】また、本実施例のペアリング処理は、受信チャネルCH1,CH2間で演算を行わないため、受信器が一つだけのFMCWレーダ装置にも適用することができる。なお、本実施例では、受信チャネルCH1に基づくピーク周波数成分のパワーP1u(i),P1d(j)を用いているが、受信チャネルCH2に基づくピーク周波数成分のパワーP2u(i),P2d(j)を用いてもよい。
【0090】本実施例においてステップ190の方位算出処理は、ステップ160で求めた位相φ1u(i),φ2u(j)からその位相差φ1u(i)−φ2u(j)を算出する処理を追加したものとする。また、位相差から方位を求める代わりに、ステップ150にて求められる振幅に基づいてパワーP1u(i),P2u(j)を求め、そのパワー差P1u(i)−P1d(i)を用いて方位を求めたり、また、位相差とパワー差の両者から方位を求めるように構成してもよい。
【0091】次に、第5実施例について説明する。上記実施例では、位相差,パワー差,複素ベクトル差の絶対値,パワーのいずれかを単独で使用しているが、本実施例では、これらを組み合わせてペアリング処理を実行するものである。
【0092】即ち、本実施例のペアリング処理においては、図12に示すように、まず、ステップ710では、上昇部において、受信チャネルCH1,CH2間でピーク周波数が等しい各ピーク周波数成分の位相差△φu(i)を(8)式を用いて夫々算出し、続くステップ720では、下降部において、受信チャネルCH1,CH2間でピーク周波数が等しい各ピーク周波数成分の位相差△φd(j)を(9)式を用いて夫々算出する。
【0093】続くステップ730では、上昇部及び下降部から夫々一つずつピーク周波数成分を適宜選択し、先のステップ710及び720にて算出された位相差△φu(i),△φd(j)の差の絶対値|△φu(i)−△φd(j)|を、全ての組み合せについて求める。
【0094】続くステップ740では、ステップ730での算出値が予め設定された所定値より小さい場合に、組み合わされたピーク周波数成分の位相差△φu(i),△φd(j)は等しいものとし、しかも位相差が等しくなるピーク周波数成分の相手が互いにただ一つである場合に、これらピーク周波数成分をペアとして決定する。そして、全てのピーク周波数成分のペアが決定したか否かを判断し、全てのペアが決定しているのであれば、そのペアをRAM26cの所定エリアに記憶して本処理を終了し、一方、ペアが未決定のピーク周波数成分があればステップ750に移行する。
【0095】ステップ750では、ペアが未決定のピーク周波数成分を、RAM26cの所定の作業エリアに記憶する。そして、ステップ760では、先のステップ750にて記憶されたピーク周波数成分について、上昇部において、受信チャネルCH1,CH2間でピーク周波数が等しい各ピーク周波数成分のパワー差△Pu(i)を(10)式を用いて夫々算出し、続くステップ770では、同様に、下降部において、受信チャネルCH1,CH2間でピーク周波数が等しい各ピーク周波数成分のパワー差△Pd(j)を(11)式を用いて夫々算出する。
【0096】続くステップ780では、上昇部及び下降部から夫々一つずつピーク周波数成分を適宜選択し、先のステップ760及び770にて算出されたパワー差△Pu(i),△Pd(j)の差の絶対値|△Pu(i)−△Pd(j)|を、全ての組み合せについて求める。
【0097】続くステップ790では、ステップ780での算出値が予め設定された所定値より小さい場合に、組み合わされたピーク周波数成分のパワー差△Pu(i),△Pd(j)が等しいものとし、しかもパワー差が等しくなるピーク周波数成分の相手が互いにただ一つである場合に、これらピーク周波数成分をペアとして決定する。そして、全てのピーク周波数成分のペアが決定したか否かを判断し、全てのペアが決定しているのであれば、そのペアをRAM26cの所定エリアに記憶して本処理を終了し、一方、ペアが未決定のピーク周波数成分があればステップ800に移行する。
【0098】ステップ800では、ペアが未決定のピーク周波数成分を、再度RAM26cの所定の作業エリアに記憶する。そして、ステップ810では、先のステップ800にて記憶されたピーク周波数成分について、上昇部及び下降部から夫々一つずつピーク周波数成分を適宜選択し、パワーP1u(i),P1d(j)の差の絶対値|P1u(i)−P1d(j)|を、全ての組み合せについて求める。
【0099】続くステップ820では、ステップ810での算出値が予め設定された所定値より小さい場合に、組み合わされたピーク周波数成分のパワーP1u(i),P1d(j)が等しいものとし、しかもパワーが等しくなるピーク周波数成分の相手が互いにただ一つである場合に、これらピーク周波数成分をペアとして決定する。そして、全てのピーク周波数成分のペアが決定したか否かを判断し、全てのペアが決定しているのであれば、そのペアをRAM26c上の所定エリアに記憶して本処理を終了し、一方、ペアが未決定のピーク周波数成分があればステップ830に移行してエラー処理を実行後、本処理を終了する。
【0100】なお、エラー処理としては、例えば、ペアが未決定のピーク周波数成分を単に無視してもよいし、エラーが発生した旨をフロントパネルに表示する等して、運転者に通知するようにしてもよい。本実施例では、ステップ150が本発明(特に請求項3,4を参照)の振幅算出手段、ステップ810,820が第2の比較手段、ステップ160,710,720、及びステップ150,760,770が比較値算出手段、ステップ720〜740,及びステップ770〜790が第1の比較手段に相当する。
【0101】このように、ステップ710〜740では、位相差△φu(i),△φd(j)を用いて用いてペアリングを行い、ペアを決定することのできないピーク周波数成分については、引続きステップ750〜790にて、パワー差△Pu(i),△Pd(j)を用いてペアリングを行い、それでもペアを決定できないピーク周波数成分については、更にステップ800〜820にて、パワーP1u(i),P1d(j)を用いてペアリングを行うという3段階の処理を行っている。
【0102】つまり、位相差及びパワー差を用いたペアリングにより、異なる方向に位置する複数の障害物を確実に識別でき、また略同一方向に位置する障害物があったとしても、パワーを用いたペアリングにより、これを確実に識別できる。従って、本実施例のレーダ装置2によれば、例え略同一方向或は略同一距離に複数の障害物が存在していても、上昇部と下降部とで同一障害物からの反射波に基づくピーク周波数成分のペアを正しく特定でき、延いては、各障害物のの距離Dや相対速度Vを正しく検出できる。
【0103】なお、本実施例では、位相差△φu(i),△φd(j)を用いたペアリング、パワー差△Pu(i),△Pd(j)を用いたペアリング、パワーP1u(i),P1d(j)によるペアリングの順に行っているが、最初にパワーP1u(i),P1d(j)によるペアリングを行う等、その順番は任意に設定してよい。
【0104】また、位相差△φu(i),△φd(j)及びパワー差△Pu(i),△Pd(j)を用いたペアリングはいずれか一方のみを実行するようにしてもよく、位相差△φu(i),△φd(j)及びパワー差△Pu(i),△Pd(j)の代わりに複素ベクトル差の絶対値△Xu(i),△Xd(j)を用いたペアリングを行ってもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本実施例のレーダ装置の全体構成を表すブロック図である。
【図2】 送信信号の周波数の変化を表すグラフである。
【図3】 RAMに格納されるデータを表す説明図である。
【図4】 障害物検出処理を表すフローチャートである。
【図5】 ペアリング処理を表すフローチャートである。
【図6】 FFTの結果から算出されるビート信号のスペクトルを表すグラフである。
【図7】 図6に表されたスペクトルに基づき算出される位相差、パワー差を表すグラフである。
【図8】 第2実施例でのペアリング処理を表すフローチャートである。
【図9】 第3実施例でのペアリング処理を表すフローチャートである。
【図10】 複素ベクトル差の絶対値を表す説明図である。
【図11】 第4実施例でのペアリング処理を表すフローチャートである。
【図12】 第5実施例でのペアリング処理を表すフローチャートである。
【図13】 FMCWレーダの原理を表す説明図である。
【図14】 FMCWレーダによる物標検出の問題点を表す説明図である。
【符号の説明】
2…レーダ装置 10…送受信部 12…送信器 12a…変調器
12b…電圧制御発振器 12c,12d…電力分配器
12e…送信アンテナ 14,16…受信器
14a,16a…受信アンテナ 14b,16b…ミキサ
14c,16c…前置増幅器 14d,16d…ローパスフィルタ
14e,16e…後置増幅器 20…信号処理部 22…三角波発生器
24a,24b…A/D変換器 26…マイクロコンピュータ
26a…CPU 26b…ROM 26c…RAM 28…演算処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】 三角波変調信号によって周波数変調され、周波数が漸次増減する送信信号を発生し、レーダ波として送信する送信手段と、物標により反射された上記レーダ波を受信して受信信号を発生すると共に、該受信信号を、上記送信信号と混合してビート信号を発生する受信手段と、該受信手段からのビート信号に基づき、上記物標との距離および相対速度を求める信号処理手段と、を備えたFMCWレーダ装置において、上記信号処理手段は、上記送信信号の周波数が上昇する上り変調時および周波数が下降する下り変調時毎に上記ビート信号をフーリエ変換し、夫々、周波数成分毎の複素ベクトルを算出する解析手段と、該解析手段により算出される複素ベクトルに基づき、周波数スペクトル上でピークとなる全ての周波数成分を検出するピーク検出手段と、上記複素ベクトルから得られる情報に基づき、上記ピーク検出手段にて検出される上り変調時の各ピーク周波数成分と下り変調時の各ピーク周波数成分とを夫々比較することにより、同一物標からの反射波に基づくピーク周波数成分のペアを特定するピークペア特定手段と、を備え、上記ピークペア特定手段により特定されたピーク周波数成分のペア毎に、該ピーク周波数成分の周波数から物標との距離および相対速度を求めることにより、複数物標を同時に検出することを特徴とするFMCWレーダ装置。
【請求項2】 上記ピークペア特定手段は、上記解析手段により算出される複素ベクトルに基づき、上記ピーク検出手段にて検出される各ピーク周波数成分の振幅を算出する振幅算出手段と、上り変調時の各ピーク周波数成分の振幅と下り変調時の各ピーク周波数成分の振幅とを夫々比較し、同一振幅を有するピーク周波数成分をペアとして特定する比較手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載のFMCWレーダ装置。
【請求項3】 請求項1に記載のFMCWレーダ装置において、上記受信手段を少なくとも2つ設けると共に、上記信号処理手段に、上記解析手段および上記ピーク検出手段を上記各受信手段毎に対応させて設け、更に、上記ピークペア特定手段は、上記各解析手段により算出される複素ベクトルに基づき、上記各ピーク検出手段にて各ビート信号毎に検出される同一周波数のピーク周波数成分毎に、該ピーク周波数成分の複素ベクトル間の相関を比較値として算出する比較値算出手段と、上り変調時の各ピーク周波数成分の比較値と下り変調時の各ピーク周波数成分の比較値とを夫々比較し、該比較値が同一値となるピーク周波数成分をペアとして特定する第1の比較手段と、を備えることを特徴とするFMCWレーダ装置。
【請求項4】 請求項3に記載のFMCWレーダ装置において、上記ピークペア特定手段は、更に、上記解析手段により算出される複素ベクトルに基づき、上記ピーク検出手段にて検出される各ピーク周波数成分の振幅を算出する振幅算出手段と、上り変調時の各ピーク周波数成分の振幅と下り変調時の各ピーク周波数成分の振幅とを夫々比較し、同一振幅を有するピーク周波数成分をペアとして特定する第2の比較手段と、を備えることを特徴とするFMCWレーダ装置。
【請求項5】 請求項3または請求項4に記載のFMCWレーダ装置において、上記比較値算出手段が比較値として算出する複素ベクトルの相関は、該複素ベクトル間の絶対値の差あるいは方位差のうち少なくともいずれか一方であることを特徴とするFMCWレーダ装置。

【図2】
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【図3】
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【図10】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開平9−152477
【公開日】平成9年(1997)6月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−314305
【出願日】平成7年(1995)12月1日
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)