説明

FPDの製造方法

【課題】従来の製造工程を大きく変更することなく、FPD製造の歩留まり率を向上させるFPDの製造方法を提供する。
【解決手段】板状に成形された初期状態のガラス基板の全体を、フッ酸を含有するエッチング液に浸漬して、板厚方向に0.8μm以上8μm未満だけ研磨する予備研磨工程と、前記予備研磨工程を経たガラス基板に、表示セルに対応するスイッチング素子を配置して第1ガラス基板を生成する第1基板生成工程と、前記予備研磨工程を経た別のガラス基板に、前記表示セルに必要部材を配置して第2ガラス基板を生成する第2基板生成工程と、完成状態の第1基板と第2基板とを貼合せて、前記表示セルを内包する貼合せガラス基板を完成させる貼合せ工程と、前記貼合せガラス基板を、フッ酸を含有するエッチング液に浸漬して薄肉化する薄肉工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどフラットパネルディスプレイ(以下FPDと称す)の製造方法に関し、特に、ガラスメーカから搬入されたガラス基板に、パネルメーカが初期処理を施すことを特徴とする製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FPD(Flat Panel Display)は、CRTディスプレイのブラウン管のように膨らみを持った表示装置と対比される用語であり、奥行きが少なく省スペースで、且つ、表示パネルに膨らみがない点に大きな特徴がある。このようなFPDのうち、特に、液晶ディスプレイは、テレビ受像機だけでなく、携帯電話機やコンピュータ機器などの表示装置としても広く普及している。
【0003】
一般に、液晶ディスプレイは、画素に対応して薄膜トランジスタ(TFT: thin film transistor)が配置されるトランジスタ側ガラス基板と、RGBのフィルタが配置されるフィルタ側ガラス基板とが貼合せて構成されている。ガラス基板の素材としては、例えば、アルミノ珪酸ガラスが使用され、フロート法又はフュージョン法によって1mm程度か、又はそれ以下の板厚のガラス基板が成形され、ガラスメーカから液晶パネルメーカに提供される。なお、大型のガラス基板の場合には、溶融したガラスを水平方向に取り出すフロート法より、溶融したガラスを垂直下方に取り出すフュージョン法の方が、ガラスの受けるダメージが少ない分だけ優れていると考えられている。
【0004】
いずれにしても、フロート法又はフュージョン法によって平坦に成形されたガラスは、徐冷工程を経た上で、所望の寸法に分断され、液晶パネルメーカ向けに箱詰される。このとき、ガラス基板に汚れやキズを付けぬよう、専用装置(パッカー)が用いられるが、運送時の破損を考慮して、各ガラス基板が垂直に箱詰されるのが通例である。
【0005】
箱詰めされたガラス基板は、液晶パネルメーカに搬送された後、専用装置(アンパッカー)を用いて、梱包箱から取り出され、取り出されたガラス基板は、専用容器に収容されて製造ラインに供給される。そして、トランジスタ側ガラス基板と、フィルタ側ガラス基板とを貼合せた貼合せガラス基板が製造されるが、生産性向上のため、一枚の貼合せガラス基板の中に、複数の液晶セルが内包されることも多い。
【0006】
また、貼合せガラス基板は、昨今、さらに大型化の傾向にあり、第5世代では、1100mm×1250mm、第6世代では、1500mm×1850mm程度であったガラス基板が、第8世代では、2160mm×2460mm程度に大型化されるとも言われている。また、液晶ディスプレイの極限的な軽量化を実現するため、大型の貼合せガラス基板が、エッチング液に浸漬されて薄肉化され、その後、液晶セル毎に分断されて液晶ディスプレイが完成される場合も多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
先に説明した通り、FPD用のガラス基板は、溶融したガラスをフロート法又はフュージョン法によって平坦化し、これを徐冷して構成されるので、ガラス基板の表裏面には、不可避的に、加工変質層が発生する。具体的には、ガラス基板の深さ方向に、酸化皮膜、非晶質層、繊維層、微粒子層などが発生する。
【0008】
これらの加工変質層は、ガラス基板の内部の無変質母材に比べて脆いところ、ガラス基板は、パネルメーカの製造ラインに載るまでに、ガラス箱詰め作業と、搬送作業と、取出し作業などを経るので、如何に慎重に作業しても、ガラス基板へのストレスを避けることはできない。そして、本発明者の研究によれば、ストレスを受けたガラス基板に、目視不能な軽微なキズが発生することが判明した。そして、この目視不能なキズは、その後の製造工程でガラス基板が受けるストレスによって成長傾向となるので、最終的な液晶パネルの歩留まり率を劣化させる大きな原因であると考えられる。
【0009】
ここで、上記の問題を改善する各種の方策が考えられるが、製造メーカの製造工程に更なる管理負担を課したり、製造効率を大きく低下させたり、或いは、製造コストを大きく増加させたのでは意味がない。
【0010】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、従来の製造工程を大きく変更することなく、FPD製造の歩留まり率を向上させることのできるFPDの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明者は、FPDに使用されるガラス基板について、その製造歩留まり率を高めるべく種々検討した。
【0012】
その結果、先にも指摘したように、(a)パネルメーカに納入されるガラス基板のキズは極めて軽微であり、目視可能なキズは存在しないこと、(b)しかし、その軽微な潜在キズが、その後のパネル製造工程において拡大深化されること、(c)一方、初期状態の潜在キズは、極めて浅いエッチング処理によって容易に消失させることができること、(d)そして、一旦キズを消滅させると、ガラス基板の機械的強度が大幅に向上すること、(e)また、一旦キズを消滅させると、その後に発生する新規のキズは、潜在キズが拡大深化した場合より軽微であるので、貼合せガラス基板のエッチング処理によって容易に消滅させることができること、(g)一方、初期状態の潜在キズが拡大深化した場合には、例え、そのキズが貼合せガラス基板において顕在化していなくても、その後の貼合せガラス基板をエッチング処理で顕在化してFPD製造の歩留まり率を低下させること、を発見して本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、請求項1に係るFPDの製造方法は、板状に成形された初期状態のガラス基板の全体を、フッ酸を含有するエッチング液に浸漬して、板厚方向に0.8μm以上8μm未満だけ研磨する予備研磨工程と、前記予備研磨工程を経たガラス基板に、表示セルに対応するスイッチング素子を配置して第1ガラス基板を生成する第1基板生成工程と、前記予備研磨工程を経た別のガラス基板に、前記表示セルに必要部材を配置して第2ガラス基板を生成する第2基板生成工程と、完成状態の第1基板と第2基板とを貼合せて、前記表示セルを内包する貼合せガラス基板を完成させる貼合せ工程と、前記貼合せガラス基板を、フッ酸を含有するエッチング液に浸漬して薄肉化する薄肉工程と、を有して製造される。
【0014】
また、請求項2に係るFPDの製造方法は、板状に成形された初期状態のガラス基板の全体を、フッ酸を含有するエッチング液に浸漬して、板厚方向に0.8μm以上8μm未満だけ研磨する予備研磨工程と、前記予備研磨工程を経たガラス基板に、表示セルに対応するスイッチング素子を配置して第1ガラス基板を生成する第1基板生成工程と、完成状態の第1基板を互いに対向して貼合せて、前記表示セルを内包する貼合せガラス基板を完成させる貼合せ工程と、前記貼合せガラス基板を、フッ酸を含有するエッチング液に浸漬して薄肉化する薄肉工程と、を有して製造される。
【0015】
先に説明した通り、初期状態のガラス基板に潜在する微細なキズも、その後のPFDの製造工程で拡大深化し、最終的な薄肉工程を経て顕在化するおそれがある。しかし、本発明では、初期状態のガラス基板の全体を板厚方向に0.8μm以上8μm未満研磨する予備研磨工程を設けているので、その後の製造工程で新たなキズが発生しても、これを薄肉工程で消滅させることができる。なお、予備研磨工程における研磨量が0.8μm未満の場合には、潜在キズをとり切れないおそれがある。一方、予備研磨工程における研磨量を8μm以上としても良いが、製造効率を劣化させるだけであって、機械的強度のそれ以上の改善は望めない。
【0016】
ところで、初期状態のガラス基板に目視可能なキズが存在するような場合には、0.8μm以上8μm未満程度のエッチング量では、そのキズを消滅させることができず、エッチング処理によってキズがかえって拡大化する。そのため、初期状態のガラス基板について、目視可能なキズが存在しないよう管理するのが好ましい。このような管理をすることで、予備研磨工程におけるエッチング量を抑制することができるので、製造効率の製造コストの悪化を防止できる。
【0017】
本発明に使用されるガラスは、特に限定されないが、仮に、ソーダ石灰ガラス、ほう珪酸ガラス、アルミノ珪酸ガラ、石英ガラスに分類した場合には、ソーダ石灰ガラスは、FPDの製造時にアルカリ金属の溶出が懸念されること、石英ガラスは、高価であることなどから、ほう珪酸ガラスやアルミノ珪酸ガラスが好適に使用される。
【0018】
ここで、ほう珪酸ガラスは、酸化ホウ素を含有するガラスであり、ソーダ石灰ガラスより耐熱性に優れる利点がある。なお、ほう珪酸ガラスは、酸化ホウ素に加えて、酸化バリウムを更に含有するバリウムほう珪酸ガラスを含む概念である。
【0019】
一方、アルミノ珪酸ガラスは、酸化アルミニウムを18〜28重量%含む珪酸ガラスであり、ほう珪酸ガラスより、耐熱性、熱的安定性、化学的耐久性に優れるので、本発明のガラス基板の材料として更に適している。このアルミノ珪酸ガラスには、酸化ホウ素と酸化アルミニウムとを含有するアルミノほう珪酸ガラスも含まれる。
【0020】
なお、ガラスをアルカリ成分によって分類した場合には、無アルカリガラスが好適に使用される。ここで、無アルカリガラスとは、アルカリ金属の含有量が1%以下の珪酸ガラスを意味し、ほう珪酸ガラスとアルミノ珪酸ガラスを含む概念である。
【0021】
最適なガラスとしては、SiO2が55〜60重量%、Al2O3が16〜18重量%、B2O3が7〜10重量%程度のアルミノ珪酸ガラスが使用される。
【発明の効果】
【0022】
以上の通り、本発明では、板状に成形された初期状態のガラス基板の全体を、フッ酸を含有するエッチング液に浸漬して、板厚方向に0.8μm以上8μm未満だけ研磨する予備研磨工程を設けるだけでガラス基板の強度を改善できるので、これまでの製造工程を大きく変更することなく、FPD製造の歩留まり率を大幅に向上させることができる。なお、1μmのエッチングに要する処理時間は、最適には20秒程度である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、特に本発明を限定するものではない。
【0024】
(1)ガラス種
ガラスメーカから購入した以下の組成を有するアルミノ珪酸ガラスを使用した。
SiO 59.3WT% Al 16.4WT%
8.3WT% SrO 5.6WT%
CaO 4.6WT% BaO 2.3WT%
Sb 1.6WT% ZrO 0.43WT%
ZnO 0.34WT% As 0.29WT%
NaO 0.2WT% KO 0.04WT%
MgO 0.03WT% Fe <0.01WT%
PbO <0.01WT% TiO 0.002WT%
【0025】
(2)予備研磨
上記のガラスを5cm×5cmのカットピースに分断した供試サンプルを、各々エッチング液に浸漬してエッチングした。なお、エッチングしないカットピースを対照サンプルとした。
【0026】
浸漬時間を調整することで、板厚方向の研磨量を片面で1μm、2μm、3μm、4μm、又は5μmとした。したがって、ガラス板全体では、2μm、4μm、6μm、8μm、又は10μm薄肉化される。
【0027】
(3)エッチング液
フッ酸15WT%、残り水のエッチング液を使用した。
【0028】
(4)圧痕の生成
FPDの製造ラインでガラス基板が受けるストレスを考慮して、供試サンプルと対照サンプルに各々10個の圧痕を生成した。
【0029】
具体的には、ビッカース硬度計を使用して、第1の供試サンプルに荷重1Kgの10個の圧痕を生成した。同様に、第2〜第5の供試サンプルについても、荷重500g、荷重300g、荷重200g、荷重100gの各10個の圧痕を生成した。
【0030】
(5)本研磨
供試サンプル及び対照サンプルについて、片面で150μmだけ研磨した。エッチング液の組成は、フッ酸15WT%、残り水である。
【0031】
(6)評価
研磨後の供試サンプル及び対照サンプルについて、顕微鏡観察して、圧痕が検出できるか否かを判定した。評価結果は、下表の通りである。
【0032】
【表1】

【0033】
上表では、元々存在した圧痕個数N(=10)に対して、本研磨後のサンプルから検出される圧痕個数Xである場合に、抑制率を(N−X)/N%と算出した。
【0034】
上表に示される通り、5μm程度の予備研磨を施すことで、その後に発生した荷重200g未満の圧痕であれば、片面150μmの研磨によって、その圧痕を消滅させることができる。なお、予備研磨を施さない対照サンプルについても、100g荷重の圧痕であれば、20%の圧痕(10個の圧痕のうち2個)を消滅させることができた。
【0035】
一方、予備研磨を施したとしても、荷重200g以上の圧痕は、その後の研磨によって消滅させることができない。
【0036】
以上の通り、ある程度の厚さ予備的に研磨しておくだけで、その後に発生した圧痕を、その後の本研磨によって消滅させることができることが判明した。なお、同種の実験は、他のガラス種についても繰り返したが、その結果、予備研磨量は、ガラス種に拘らずに0.8μm以上8μm未満が好ましいことが確認された。
【0037】
また、予備研磨を施しておくと、その後の圧痕がエッチングによって、それほどは拡大傾向にならないことも判明した。図1は、そのことを示す顕微鏡写真であり、供試サンプルと対照サンプルに、300g荷重の圧痕を設けた場合を示している。圧痕荷重が高いため、この(1)のガラス種では、何れの場合も圧痕を消滅させることができないが、予備研磨を施すか否かに応じて、本研磨による圧痕の成長度合いが顕著に異なる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】予備研磨の効果を示す顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状に成形された初期状態のガラス基板の全体を、フッ酸を含有するエッチング液に浸漬して、板厚方向に0.8μm以上8μm未満だけ研磨する予備研磨工程と、
前記予備研磨工程を経たガラス基板に、表示セルに対応するスイッチング素子を配置して第1ガラス基板を生成する第1基板生成工程と、
前記予備研磨工程を経た別のガラス基板に、前記表示セルに必要部材を配置して第2ガラス基板を生成する第2基板生成工程と、
完成状態の第1基板と第2基板とを貼合せて、前記表示セルを内包する貼合せガラス基板を完成させる貼合せ工程と、
前記貼合せガラス基板を、フッ酸を含有するエッチング液に浸漬して薄肉化する薄肉工程と、
を有して製造されることを特徴とするFPDの製造方法。
【請求項2】
板状に成形された初期状態のガラス基板の全体を、フッ酸を含有するエッチング液に浸漬して、板厚方向に0.8μm以上8μm未満だけ研磨する予備研磨工程と、
前記予備研磨工程を経たガラス基板に、表示セルに対応するスイッチング素子を配置して第1ガラス基板を生成する第1基板生成工程と、
完成状態の第1基板を互いに対向して貼合せて、前記表示セルを内包する貼合せガラス基板を完成させる貼合せ工程と、
前記貼合せガラス基板を、フッ酸を含有するエッチング液に浸漬して薄肉化する薄肉工程と、
を有して製造されることを特徴とするFPDの製造方法。
【請求項3】
前記貼合せガラスは、複数の表示セルを内包して構成され、
前記薄肉工程を経た前記貼合せガラスについて、個々の表示セル毎に分断する分断工程を更に有して構成されている請求項1又は2に記載のFPDの製造方法。
【請求項4】
前記第1ガラス基板には、前記スイッチング素子として薄膜トランジスタが配置される一方、前記第2ガラス基板には、必要部材としてカラーフィルタが配置されることで、
複数の液晶セルを内包する貼合せガラス基板が完成される請求項1に記載のFPDの製造方法。
【請求項5】
前記貼合せガラス基板は、その後に分断されることで、対面する2個の有機ELセルの基礎部材が完成される請求項2に記載のFPDの製造方法。
【請求項6】
前記初期状態のガラス基板には、目視可能なキズが存在しないよう管理されている請求項1〜5の何れかに記載のFPDの製造方法。
【請求項7】
前記ガラス基板は、ほう珪酸ガラス又はアルミノ珪酸ガラスで構成されている請求項1〜6の何れかに記載のFPDの製造方法。
【請求項8】
前記予備研磨工程におけるエッチング速度が、ガラス基板の板厚方向に1/15[μm/S]〜1/25[μm/S]となるようエッチング液が調製されている請求項1〜7の何れかに記載のFPDの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−265398(P2009−265398A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115650(P2008−115650)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000195937)西山ステンレスケミカル株式会社 (44)
【Fターム(参考)】