説明

Fe−Ni系合金粉末

【課題】高周波域において低損失な圧粉コア等の作製に好適な低保磁力かつ微細であり、しかも、生産性及び経済性に優れるFe−Ni系合金粉末を提供すること。
【解決手段】FeとNiとを含む酸化物、及び/又はFe系酸化物とNi系酸化物とを含む混合物を還元性ガス中で還元することにより作製されるFe−Ni系合金粉末であり、平均粒径が0.1〜5μmであり、前記Fe−Ni系合金粉末に対してFe及びNiを合計で90wt%以上含有し、Fe及びNiの総量に対するNiの重量比が0.35〜0.90である、Fe−Ni系合金粉末。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe−Ni系合金粉末に関する。より詳しくは、チョークコイルやインダクタ等の電子部品の材料として用いられるFe−Ni系合金粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョークコイルやインダクタ等の電子部品に備えられる磁芯として、圧粉コア(圧粉磁芯)が用いられている。軟磁性粉末を絶縁処理した後に圧縮成形することにより得られる圧粉コアは、大電流下においても高透磁率を保つことが可能であり、また、数kH以上の高周波領域においても低損失であるという利点を有するため、小型化或いは高周波化が求められる用途において実用化が進んでいる。
【0003】
かかる圧粉コアの材料としては、軟磁性金属であるFe−Si−Al合金、Fe−Si合金、Fe−Ni合金等が用いられている。特に、Fe−Ni系合金粉末の一種であるパーマロイは透磁率が高い材料として汎用されている。パーマロイは、Ni−Fe系二元合金、及び、これにMo、Cu、Cr等を配合した多元系合金等の総称である。
【0004】
パーマロイを数MHz程度の高周波域において使用する圧粉磁心の材料として用いるには、損失低減(低ヒステリシス損失かつ低渦電流損失)の観点から、低保磁力かつ平均粒径が微細な合金粉末であることが好ましい。
【0005】
そのような微細なFe−Ni系合金粉末に関する技術として、例えば、特許文献1には、塩化鉄と塩化ニッケルを気相化学反応装置に装入して加熱した後、塩化物蒸気と水素ガスを接触・混合させて水素還元(気相還元)することにより合金粉末を製造する技術が開示されている。また、特許文献2には、鉄を含む無機酸塩又は有機酸塩、及びニッケルを含む無機酸塩又は有機酸塩の混合物を溶液として、これを水素還元(液相還元)することにより合金粉末を製造する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−193160号公報
【特許文献2】特開2010−053372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、塩化物蒸気の制御(炉内温度勾配による対流等)が難しいため、得られる合金粉末の組成や粒径が安定しないという問題がある。また、塩化水素等の副生成物(副生ガス)を処理するための高価な装置を用いる必要があり、さらには、使用する原料が高価なため、製造コストが高いという問題がある。その上さらに、発生する塩化水素等によって炉や材料の腐食が生じ得るので、得られる合金粉末の特性への悪影響も懸念される。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術では、出発原料の融液の制御(炉内温度勾配による対流等)が難しいため、得られる合金粉末の組成や粒径が安定しないという問題がある。また、原料として硝酸鉄や硝酸ニッケルを用いる場合、アンモニア等の副生成物(副生ガス)を処理するための高価な装置を用いる必要があり、さらには、原料として用いる硝酸鉄や硝酸ニッケル自体が高価なため、製造コストが高いという問題がある。
【0009】
本発明は、かかる実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高周波域において低損失な圧粉コア作製に好適な低保磁力かつ微細であり、しかも、生産性及び経済性に優れるFe−Ni系合金粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、FeとNiとを含む酸化物、及び/又はFe系酸化物とNi系酸化物とを含む混合物を還元性ガス中で還元することにより、高周波域において低損失な圧粉コア作製に好適な低保磁力かつ微細なFe−Ni系合金粉末が得られ、しかも、生産性及び経済性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明のFe−Ni系合金粉末は、FeとNiとを含む酸化物、及び/又はFe系酸化物とNi系酸化物とを含む混合物を還元性ガス中で還元することにより作製されるFe−Ni系合金粉末であり、平均粒径が0.1〜5μmであり、前記Fe−Ni系合金粉末に対してFe及びNiを合計で90wt%以上含有し、Fe及びNiの総量に対するNiの重量比(Ni/(Fe+Ni))が0.35〜0.90である。平均粒径、Fe及びNiの含有割合が上記のように制御されたFe−Ni系合金粉末を用いることにより、ヒステリシス損失及び渦電流損失が低減され、更には、得られる成形体が高密度化される等して、磁束密度が高められ、その結果、低損失かつ高飽和磁束密度な圧粉コアの実現が期待される。また、FeとNiとを含む酸化物、又はFe系酸化物とNi系酸化物とを含む混合物を還元性ガス中で還元することにより作製されるFe−Ni系合金粉末は、従来技術のものに比して、安定的に製造可能であり、しかも、原料が低コストで高コストな製造設備が必須とされないため、生産性及び経済性が高められたものとなる。
【0012】
上記のFe−Ni系合金粉末は、少なくともγFe−Ni相を有し、前記Fe−Ni系合金粉末に対して前記γFe−Ni相を80%以上含有することが好ましい。合金粉末の相状態をこのように制御されたFe−Ni系合金粉末を用いることにより、ヒステリシス損失及び渦電流損失が一層低減され、更には、得られる成形体が一層高密度化される等して、磁束密度が一層高められ、その結果、より低損失かつ高飽和磁束密度な圧粉コアの実現が期待される。
【0013】
上記のFe−Ni系合金粉末において、塩素含有量は、0.5wt%以下であることが好ましい。塩素含有量が0.5wt%以下であることにより、Fe−Ni系合金粉末の腐食や、これを用いて得られる圧粉コアの磁気特性への悪影響が効果的に抑制される。
【0014】
また、上記のFe−Ni系合金粉末は、粒子表面に酸化被膜が形成されており、この酸化被膜の厚さが、100nm以下であることが好ましい。酸化被膜の厚さが100nm以下であると、材料粉末中に占める酸素原子の割合が少なく、高飽和磁束密度な圧粉磁心が得やすくなる。また、変形しにくい酸化物の表皮が薄いため、成形体が高密度化しやすくなり、高飽和磁束密度な圧粉磁心が得やすくなる。なお、ここでいう酸化被膜とは、FeとNiとを含む酸化物、Fe系酸化物、及びNi系酸化物の少なくともいずれかを含む被膜をいう。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高周波域において低損失な圧粉コア作製に好適な低保磁力かつ微細であり、しかも、生産性及び経済性に優れるFe−Ni系合金粉末が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例3の合金粉末のXRDパターンである。
【図2】比較例5の合金粉末のXRDパターンである。
【図3】実施例3の合金粉末のTEM写真である。
【図4】実施例3の合金粉末のEELSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されるものではない。
【0018】
本実施形態のFe−Ni系合金粉末(以下単に「合金粉末」という場合がある。)は、FeとNiとを含む酸化物、及び/又はFe系酸化物とNi系酸化物とを含む混合物を還元性ガス中で還元することにより作製され、平均粒径が0.1〜5μmであり、合金粉末に対してFe及びNiを合計で90wt%以上含有し、Fe及びNiの総量に対するNiの重量比が0.35〜0.90であるものである。
【0019】
本実施形態の合金粉末は、合金粉末に対してFe及びNiを合計で90wt%以上含有する。Fe及びNiの含有割合の合計が90wt%未満であると、圧粉コア等とした際に磁束密度や透磁率に劣る。Fe及びNiの含有割合の合計は、好ましくは95wt%以上であり、より好ましくは98wt%以上である。
【0020】
本実施形態の合金粉末において、Fe及びNiの総量に対するNiの重量比(Ni/(Fe+Ni))は0.35〜0.90である。Fe及びNiの総量に対するNiの重量比が0.35未満であると、合金粉末の保磁力が大きくなりすぎてしまう。また、Fe及びNiの総量に対するNiの重量比が0.90を越えると、やはり合金粉末の保磁力が大きくなりすぎてしまい、圧粉コア等とした際のヒステリシス損失が大きくなってしまう。Fe及びNiの総量に対するNiの重量比は、好ましくは0.40〜0.85であり、より好ましくは0.43〜0.80である。
【0021】
本実施形態の合金粉末は、Fe及びNi以外の成分として、Mo、Co、Cr、Cu、Mn等の他の金属や、その他の不可避不純物を含有していてもよい。特に、Mo、Co、Cr、Cu、Mn等を含有するものは、合金粉末の保磁力等に優れる傾向にある。なお、上記した合金粉末は、単一の粒子(コア片/一次粒子)からなるもの、或いは、複数のコア片が凝集或いは結合したもの(二次粒子)、又は、これらの混合物のいずれであっても構わない。
【0022】
本実施形態の合金粉末の平均粒径は、0.1〜5μmである。平均粒径が0.1μm未満である場合、合金粉末の表面活性が高くなりすぎてしまい、酸化性雰囲気下(空気等)での取り扱いが困難となる傾向にある。また、圧粉コア等にする際、成形体密度が低くなり、高飽和磁束密度のコアが得にくくなる。平均粒径が5μmを超える場合、圧粉コア等とした際に、MHz域での渦電流損失が大きくなる傾向にある。また、粒子内部の還元が不十分になることがある。合金粉末の平均粒径は、好ましくは0.3〜4μmであり、より好ましくは0.5〜3μmである。なお、ここでいう平均粒径とは、特に断りがない限り、比表面積の測定値を、粒子が真球であると仮定し理論計算した比表面積と粒子径の関係から換算したものである。かかる平均粒径は、BET法に準拠して測定する合金粉末の比表面積から求めることができる。なお、本実施形態では、合金粉末の平均粒径は、後述する還元時の処理温度や処理時間等により制御することが可能である。
【0023】
合金粉末の比表面積は、所望の性能に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。合金粉末の比表面積は、2.5〜0.19m2/gであることが好ましく、1.5〜0.25m2/gであることがより好ましい。なお、ここでいう比表面積は、BET法に準拠して測定することができる。
【0024】
本実施形態の合金粉末は、少なくともγFe−Ni相を有し、合計粉末に対してγFe−Ni相を80wt%以上含有することが好ましい。γFe−Ni相以外の相(例えば、αFe相、γNi相或いはその他の酸化物相等)を20%以上含むものは、合金粉末の保磁力が大きくなり、圧粉コア等とした際に損失が大きくなる傾向にある。なお、合金粉末の相状態は粉末X線回折により確認することができ、その相の比率(相比率)は、粉末X線回折により得られた回折強度からリートベルト法により算出することができる。
【0025】
本実施形態の合金粉末は、塩素含有量が0.5wt%以下であることが好ましく、0.01wt%以下であることがより好ましく、0.005wt%以下であることが更に好ましい。塩素含有量が上記範囲のものは、塩素に起因する腐食や磁気特性への悪影響が抑制されたものとなる。かかる塩素含有量は、イオンクロマト法により測定することができる。なお、合金粉末の塩素含有量は、例えば、塩素含有量が少ない原料を用いて合金粉末を製造することや、製造工程において塩素系ガスを使用しないこと等により、低減することができる。
【0026】
本実施形態の合金粉末は、その粒子表面に形成された酸化被膜を有することが好ましい。この場合、合金粉末は、Fe及びNiを主成分とする粒子(コア)と、その外周に形成された酸化被膜(シェル)とからなるコアシェル構造を有する粒子となる。合金粉末がかかる酸化被膜を有することにより、より高い絶縁性と大気中での安定性が付与される。合金粉末の酸化被膜を構成する材料は、合金粉末の表面に絶縁性や大気中での安定性を付与するものであればよく、特に限定されない。例えば、FeO等が挙げられる。なお、酸化被膜は、Fe及びNiを主成分とする粒子の全表面を被覆するものでもよいし、その一部を被覆するものであってもよい。
【0027】
本実施形態の合金粉末に形成する酸化被膜の厚さは、特に限定されないが、上限は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。また、酸化被膜の厚さの下限は、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましく、5nm以上であることが更に好ましい。酸化被膜の厚さを上記範囲とすることで、必要とされる絶縁性や大気中での安定性を担保しつつ、高飽和磁束密度な合金粉末及び圧粉磁心が得やすくなる傾向にある。
【0028】
本実施形態の合金粉末は、FeとNiとを含む酸化物、及び/又はFe系酸化物とNi系酸化物とを含む混合物を還元性ガス中で還元することにより製造される。ここではまず、出発原料として、FeとNiとを含む酸化物、及び/又はFe系酸化物とNi系酸化物とを含む混合物を準備し、これを熱処理する。
【0029】
ここで使用するFeとNiとを含む酸化物の種類は、特に限定されない。例えば、Fe−Ni系酸化物を用いることができる。Fe−Ni系酸化物とは、Fe及びNiを主成分とする酸化物をいう。なお、ここでいう主成分とは酸素を除く構成元素の総量に対してFe及びNiが合計で90%以上含まれているものをいい、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上含まれているものをいう。Fe−Ni系酸化物の具体例としては、NiFe24等が挙げられる。
【0030】
また、ここで使用するFe系酸化物の種類についても、特に限定されない。Fe系酸化物とは、Feを主成分とする酸化物をいい、ここでいう主成分とは、酸素を除く構成元素の総量に対してFeが90%以上含まれているものをいい、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上含まれているものをいう。そして、ここで使用するNi系酸化物の種類についても、特に限定されない。Ni系酸化物とは、Niを主成分とする酸化物をいい、ここでいう主成分とは、酸素を除く構成元素の総量に対してNiが90%以上含まれているものをいい、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上含まれているものをいう。Fe系酸化物及びNi系酸化物の種類は、特に限定されない。例えば、Fe系酸化物の具体例としては、FeO、Fe23、Fe34等が挙げられ、Ni系酸化物の具体例としては、NiO、Ni23等が挙げられる。これらFe系酸化物及びNi系酸化物として、夫々上記した酸化物1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。さらには、上記したFeとNiとを含む酸化物だけでなく、上記したFe系酸化物又はNi系酸化物或いはその両方を併用してもよい。即ち、FeとNiとを含む酸化物と、Fe系酸化物又はNi系酸化物或いはその両方と、を含有する混合物を用いてもよい。
【0031】
そして、使用する酸化物原料の副成分として、例えば、SiやAl等が含まれていてもよい。特に、SiやAl等を副成分として含むことにより、還元処置時における金属粒子間の焼結を効果的に抑制でき、圧粉コアとした際に金属粒子間の電気的絶縁性を一層向上させることが期待できる。
【0032】
熱処理温度は、特に限定されないが、700〜1500℃であることが好ましい。熱処理温度を700℃以上とすることにより、Fe原子及びNi原子を十分に拡散することができるとともに、脱塩素等、出発原料から不純物を除去することができる。また、熱処理温度を1500℃以下とすることにより、炉のエネルギー消費を低減することができるため、経済的である。
【0033】
本実施形態では、熱処理された原料粉を粉砕することが好ましい。粉砕方法は、特に限定されず、例えば、ボールミル等を用いて行うことができる。粉砕によって原料粉の平均粒径を0.3〜4μmとすることが好ましく、0.4〜3μmとすることがより好ましい。
【0034】
本実施形態では、出発原料として上記したFeとNiを含む酸化物、及び/又はFe系酸化物及びNi系酸化物を用いている限り、その他の成分としてSiO2、Al23粉末等を配合してもよい。かかる副成分を配合することにより、還元時における金属粒子間の焼結抑制や粒子間の電気的絶縁の効果が期待できる。Fe系酸化物及びNi系酸化物以外の成分を配合する場合、原料粉におけるFeとNiを含む酸化物、Fe系酸化物及びNi系酸化物の合計の含有割合は、高飽和磁束密度化の観点から、90〜99wt%であることが好ましく、95〜99wt%であることがより好ましい。
【0035】
次に、熱処理された原料粉を還元処理する。本実施形態では、上記熱処理された原料粉を固相還元することにより、Ni−Fe系合金粉末を作製する。このように本実施形態では、固体状態の原料粉を還元性ガスにて還元処理するので、従来技術において説明した気相や液相での還元処理のように気体や液体の流れの影響を受けることがなく、制御が簡便である。特に、炉内温度勾配等による原料の対流等、流体であることに起因する現象が起こりえない。また、本実施形態では、塩化水素等の副生成物(副生ガス)の発生を抑制することができるため、安価な設備で製造することができる。
【0036】
熱処理された原料粉を還元処理する際の温度は、特に限定されないが、350〜750℃であることが好ましく、400〜700℃であることがより好ましく、500〜600℃であることが更に好ましい。上記温度範囲とすることにより、金属粒子間の焼結を抑制しつつ、異相の比率が少ない合金粉末を得ることができる。還元処理時間は、特に限定されないが、2〜10時間であることが好ましく、3〜7時間であることがより好ましく、4〜6時間であることが更に好ましい。上記処理時間とすることにより還元性ガスの使用量を必要十分に抑制することができ、優れた生産性を得ることができる。
【0037】
還元処理に用いる還元性ガスの種類は、特に限定されず、公知のものを用いることができる。例えば、水素ガス(H2)、一酸化炭素ガス(CO)、二酸化硫黄ガス(SO2)、硫化水素ガス(H2S)等が挙げられる。これらの中でも、取り扱い容易性や環境面の観点から、水素ガス及び一酸化炭素ガスが好ましく、水素ガスがより好ましい。
【0038】
還元処理において上記還元性ガスをフローする場合、その流量は、使用する炉や炉内の流通路等の製造条件等を考慮して適宜好適な流量を選択することができ、特に限定されないが、一般的には、0.5〜2L/分であることが好ましく、0.7〜1.5L/分であることがより好ましく、0.8〜1.2L/分であることが更に好ましい。上記範囲の流量とすることにより、還元性ガスの使用量を必要十分に抑制することができ、優れた経済性を得ることができる。
【0039】
通常、合金作製の際は、元素の拡散を促し、熱力学的平衡状態に短時間で到達させるという観点から、高温で熱処理することが好ましい。しかし、高温で熱処理を行うと焼結により微細な合金粉末を得るのが困難となる。逆に低温で熱処理を行うと焼結が抑制され、微細な粉末が得やすくなるが、元素の拡散が不十分で合金化が不完全、すなわち合金相比率の低い粉末となる。しかし、上記の方法により、意外にも、γFe−Ni相の合金相比率が高く、かつ微細なFe−Ni系合金粉末が得られる。かくして得られた合金粉末は、低保磁力かつ微細な粒子であり、高周波域において低損失な圧粉コア作製に好適である。また、その製造においては、従来から用いられている気相還元や液相還元に比較して、炉内の気体や液体の流れの影響を受けないため、制御が非常に簡便であるという利点を有する。また、安価な酸化物を出発物質とすることができ、塩化水素等の副生成物(副生ガス)が発生しないので環境への負担が少なく、安価な製造設備で製造することができるため、生産性及び経済性に優れるという利点を有する。かかる合金粉末は、数MHzオーダーの高周波域で使用されるチョークコイル、インダクタ、各種トランス等の電磁気デバイスの圧粉コアの材料等として好適に用いることができる。なお、上述した材料の成分組成や製造条件等を適宜選択すること等により、所望の合金粉末を得ることができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
[実施例1]
Ni/(Fe+Ni)の含有割合が45wt%となるように秤量した、Fe23(ケミライト工業社製、「CSR−900」)とNiO(純正化学社製、「酸化ニッケル(II)」)の混合粉末を円筒状容器に入れ、ボールミル架台で100rpmの回転数で8時間撹拌した。その後、Fe23とNiOの混合粉末をアルミナの坩堝に入れ1200℃で10時間の熱処理を行った。熱処理後、ボールミル粉砕を行った。粉砕後、流量1L/分の水素気流中で、400℃で5時間の還元処理を行い、Fe−Ni粉末を得た。
【0042】
[実施例2]
還元処理を500℃で行った点以外は実施例1と同様にして行った。
【0043】
[実施例3]
還元処理を600℃で行った点以外は実施例1と同様にして行った。
【0044】
[実施例4]
還元処理を700℃で行った点以外は実施例1と同様にして行った。
【0045】
[比較例1]
還元処理を300℃で行った点以外は実施例1と同様にして行った。
【0046】
[比較例2]
還元処理を800℃で行った点以外は実施例1と同様にして行った。
【0047】
[比較例3]
還元処理を900℃で行った点以外は実施例1と同様にして行った。
【0048】
[比較例4]
還元処理を1000℃で行った点以外は実施例1と同様にして行った。
【0049】
[比較例5]
原料粉の熱処理を行わなかった点以外は実施例2と同様にして行った。
【0050】
[比較例6]
原料粉の熱処理を行わなかった点以外は実施例3と同様にして行った。
【0051】
[評価方法]
以下に示すように、得られた合金粉末の物性等を評価した。その結果を表1に示す。
(1)合金粉末中のFe+Niの含有量、及びFe+Niに対するNiの含有比の測定
XRF(RIGAKU社製、装置名「ZXS−100E」により測定した。
(2)X線回折(生成相の同定、相比率の算出)
粉末X線回折(PANalytical社製、装置名「X’Pert PRO MPD」)により生成相の状態を確認した。一例として、図1に実施例3の合金粉末のX線回折パターンを示し、図2に比較例5のX線回折パターンを示す。実施例3の合金粉末ではγFe−Ni相に由来する回折線のみ観測され、十分に合金化されていることが確認された。一方、比較例5の合金粉末では、αFe相やγNi相に由来する回折線も観測され、合金化が不十分であることが確認された。また、粉末X線回折により得られた回折強度についてリートベルト法で解析を行うことにより相比率を算出した。なお、他の実施例及び比較例についても同様の方法で生成相の同定及び相比率の算出を行った。
(3)透過電子顕微鏡(TEM)と電子エネルギー損失分光法(EELS)による表面状態の評価
電子エネルギー損失分光法(EELS)を組み合わせたTEM−EELS(日本電子社製、装置名「JEM−2200FS」;測定条件、加速電圧:200kV)を用いて、合金粉末の表面状態を分析した。一例として、図3に実施例3の合金粉末のTEM写真を示し、図4に実施例3の合金粉末のEELSスペクトルを示す。EELSでは、合金粒子の表面近傍において電子線を2nm間隔で移動させ、EELSスペクトルを測定した。図4から明らかなように、実施例3の合金粉末において酸素由来のピークが確認されるのは合金粒子(Fe−Ni系合金粉末)の表面から10nm程度の領域であることが確認された。なお、他の実施例及び比較例においても同様にして表面状態の評価を行った。
(4)Clの含有量の測定
イオンクロマト法により測定した。
(5)比表面積(SSA;m2/g)の測定(粒径の測定)
BET法に準拠して比表面積を測定し、粒子が真球であると仮定し理論計算した比表面積と粒子径の関係から換算した。
(6)保磁力(Hc)
上記合金粉末を、プラスチックのケースに入れ、パラフィンで固定することによって、測定試料を作製した。そして、試料振動型磁力計(Hc meter、装置名「東北特殊鋼 K−HC1000」)を用いて測定することにより、測定試料の保磁力を測定した。
【0052】
各実施例及び各比較例の結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から明らかなように、実施例1〜4のFe−Ni粉末は、保磁力Hcが小さく磁気特性に優れるとともに、粒径が十分に小さいため、高周波域において低損失な圧粉コア等の作製に好適な粉末であることが確認された。一方、比較例1、5及び6のFe−Ni粉末は、X線回折において、αFe相やγNi相といった、母相であるγFe−Ni相と異なる相の存在が確認され、測定器の測定範囲外(オーバーレンジ)である程度に保磁力Hcが大きいことが確認された。また、比較例2、3及び4のFe−Ni粉末は、X線回折においてγFe−Ni相の回折線のみが観測され、保磁力Hcが低く磁気特性は良好であったが、粒径が大きすぎるため、MHz域で動作する圧粉コア等の材料としては、渦電流損失の抑制の観点から不適であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のFe−Ni系合金粉末は、チョークコイル、インダクタ、各種トランス等の電磁気デバイスに用いられる圧粉コアの材料等として幅広く且つ有効に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FeとNiとを含む酸化物、及び/又はFe系酸化物とNi系酸化物とを含む混合物を、還元性ガス中で還元することにより作製されるFe−Ni系合金粉末であり、
平均粒径が0.1〜5μmであり、
前記Fe−Ni系合金粉末に対してFe及びNiを合計で90wt%以上含有し、
Fe及びNiの総量に対するNiの重量比が0.35〜0.90である、
Fe−Ni系合金粉末。
【請求項2】
少なくともγFe−Ni相を有し、
前記合金粉末に対して前記γFe−Ni相を80%以上含有する、
請求項1に記載のFe−Ni系合金粉末。
【請求項3】
塩素含有量が、0.5wt%以下である、
請求項2に記載のFe−Ni系合金粉末。
【請求項4】
粒子表面に酸化被膜が形成されており、
前記酸化被膜の厚さが、100nm以下である、
請求項3に記載のFe−Ni系合金粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−197474(P2012−197474A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61387(P2011−61387)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】