説明

FeFe2O4粉末材料及びその製造方法

【課題】 発熱特性を向上させる。
【解決手段】 生体10a内に留置して交流磁場で発熱させ患部10bを焼灼する生体加熱材料として用いられ、FeFeをビーズミルで粉砕して得られるFeFe粉末材料1である。さらに、粉砕後のFeFe粉末材料1を不活性ガス中で焼成することによって、発熱特性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流磁場で発熱させるフェライト材料のFeFe粉末材料に関し、特に癌治療などの焼灼療法で用いることができ、結晶子サイズを減少させることにより発熱特性を向上させたFeFe粉末材料の製造方法及びこの製造方法により得られたFeFe粉末材料に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、フェライト材料を生体内に留置し、留置した生体加熱材料のフェライト材料を交流磁場で加熱し、癌等を焼灼する治療方法が記載されている。この方法は、ラジオ波焼灼療法やマイクロ波凝固療法に比べ、広範な焼灼が可能であること、点在する癌等に対応できること、焼灼範囲を厳密に制御できること等の点で有利である。
【0003】
フェライト材料の中でもMgFeは、非特許文献1〜3に記載されているように、交流磁場中で良好な発熱を有する。このMgFeは、生体適合性が良いと考えられるMgと3価のFeのみを含んでいるため、様々なフェライトの中では最も医療への応用が期待できる。
【0004】
さらには、特許文献2では、MgFeをビーズミルにより粉砕して、結晶子径が7nmよりも小さいナノ微粒子にすると、発熱特性及び液中での分散性が向上することが記載されている。
【0005】
フェライト材料の中でも、最も応用が期待されているのは、マグネタイト(FeFe)である。非特許文献3〜4には、マグネタイトが交流磁場中で良好な発熱を示すことが記載されている。このマグネタイトに関しては、液中の化学的合成法により容易に微粒子化が可能であることが知られており、多くの研究者はこのマグネタイトを発熱材料として応用することを検討してきている。
【0006】
しかしながら、化学的合成法では、作製できるマグネタイトの粒子径の範囲が限定されるため、最も優れた発熱能力を得ることは困難である。
【0007】
また、このような生体加熱材料は、生体内に留置する量は少量であることが好ましい。生体内に留置する量を少量にするには、単位質量当たりの発熱特性がいっそう優れた生体加熱材料とする製造方法の開発が必要である。
【0008】
さらに、カテーテルを用いて血流により腫瘍に生体加熱材料を到達させるためには、血管に詰まらないようにするため、微粒子化が必須であり、発熱特性の優れた微粒子材料が求められている。さらにまた、生体加熱材料としては、液中で凝集しにくい微粒子材料が望ましく、液中での分散性が優れているという点も重要となる。
【0009】
一般的にフェライトは、ABで表すことができる(A及びBはそれぞれ2価と3価の金属元素である)。非特許文献3〜4によれば、A=Fe2+のマグネタイトFeFeについて、化学的な手法を用いれば焼成することなく微粒子材料を作製することができ、非常に高い発熱特性をもつ材料を作製することができる。微粒子材料は、磁性体粒子(フェライト)のサイズが減少すると保磁力は磁性体粒子のサイズの減少とともに増加し、粒径が単磁区粒子サイズになると、個々の強磁性粒子が単磁区粒となり、保磁力が最大となる。従って、磁性体粒子は、最もヒステリシス損失が大きくなるため発熱特性が向上する。さらに磁性体粒子のサイズを減少させると、磁化反転が熱擾乱により起こりはじめて保磁力が減少し、最終的に保磁力、すなわちヒステリシス損失による発熱が発生しない超常磁性状態となる。従って、磁性体粒子の結晶子径を適度に減少させることは、発熱特性の優れた材料を得ることに繋がる。
【0010】
しかしながら、FeFeにおいては、化学的手法で作製した場合、結晶子径や粒子径を制御することは非常に困難である。FeFeのサイズを小さくするためには、物理的に粉砕することが必要である。粉砕方法として一般的な手法であるボールミル等では、ナノレベルまで粉砕することは不可能であるため、これまでFeFeの物理的粉砕による微粒子粉体の発熱効果については報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−089704号公報
【特許文献2】特開2009−120459号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Jpn.J.Appl.Phys., Vol.41(3), pp.1620-1620 (2002).
【非特許文献2】J. Mater. Sci., 40(1), pp.135-138 (2005).
【非特許文献3】Mat. Res. Bull., 40, pp.1126-1135 (2005).
【非特許文献4】J.Magn.Magn.Mater, Vol.268, pp.33-39 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、このような従来の実情に鑑みて提案されたものであり、単位質量当たりの発熱特性が優れたFeFe粉末材料の製造方法及びこの製造方法よって得られたFeFe粉末材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した目的を達成する本発明に係るFeFe粉末材料の製造方法は、生体内に留置して交流磁場で発熱させ患部を焼灼する生体加熱材料として用いられるFeFe粉末材料の製造方法であり、FeFeをビーズミルを用いて粉砕し、FeFe粉末材料を得る。
【0015】
上述した目的を達成する本発明に係るFeFe粉末材料は、以上のようなFeFe粉末材料の製造方法により得ることができる。
【0016】
また、上述した目的を達成する本発明に係るFeFe粉末材料の製造方法は、生体内に留置して交流磁場で発熱させ患部を焼灼する生体加熱材料として用いられるFeFe粉末の製造方法であり、FeFeをビーズミルを用いて粉砕し、さらに不活性ガス中で加熱することによりFeFe粉末材料を得る。
【0017】
上述した目的を達成する本発明に係るFeFe粉末材料は、以上のようなFeFe粉末材料の製造方法により得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、FeFeをビーズミルで粉砕したり、又は粉砕後に更に焼成を行うことによって、単位質量当たりの交流磁場中での発熱量がきわめて大きいFeFe粉末材料を提供することができる。これにより、本発明では、生体内にFeFe粉末材料を留置して治療する場合に、FeFe粉末材料の投与量を減ずることができる。また、本発明では、FeFeを粉砕して微粒子化したことにより分散性が良くなり、血流中への投与が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のFeFeの使用例を説明する図である。
【図2】Cu−Kα線を用いて、未粉砕の試料(サンプル1)と、FeFeを0.30mmのジルコニア製ビーズを用いてビーズミルによる粉砕を2、4、6、8、10時間行った試料(サンプル2〜サンプル6)におけるX線回折の測定結果を示す図である。
【図3】0.30mm、0.10mm、0.05mmビーズを用いたときのビーズミルにおける粉砕時間と結晶子径との関係を示した図である。
【図4】未粉砕の試料(サンプル1)と、0.10mmビーズで6h粉砕した試料(サンプル9)における、FeFe粉末1gを交流磁場(370kHz、磁場強度1.77kA/m)内に20分間置いたときの上昇温度ΔTの時間的変化を示す図である。
【図5】0.30mm、0.10mm、0.05mmビーズを用いたときの粉砕時間と、FeFe粉末1gを交流磁場(370kHz、磁場強度1.77kA/m)内に20分間置いたときの上昇温度ΔTとの関係を示す図である。
【図6】0.30mm、0.10mm、0.05mmビーズを用いて粉砕した後のFeFe粉末の結晶子径(nm)と、FeFe粉末1gを交流磁場(370kHz、磁場強度1.77kA/m)内に20分間置いたときの上昇温度ΔTとの関係を近似曲線で示した図である。
【図7】0.30mm、0.10mm、0.05mmビーズを用いて粉砕した後のFeFe粉末の粒子径(nm)と、FeFe粉末1gを交流磁場(370kHz、磁場強度1.77kA/m)内に20分間置いたときの上昇温度ΔTとの関係を近似曲線で示した図である。
【図8】0.1mmビーズで6h粉砕した試料(サンプル9)について、Ar雰囲気中1hの焼成温度と、焼成したFeFe粉末1gを交流磁場(370kHz、磁場強度1.77kA/m)内に20分間置いたときの上昇温度ΔTとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るFeFe粉末材料及びこのFeFe粉末材料の製造方法について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
先ず、FeFe粉末材料の用法について説明する。本発明のFeFe粉末材料1は、生体10a内に留置して交流磁場で発熱させ患部10bを焼灼する生体加熱材料として用いられる。FeFe粉末材料1は、例えば粉体又は粒状体の状態のものであり、次のように使用することができる。FeFe粉末材料1の使用方法としては、FeFe粉末材料1を患部10b表面に付着させ、及び/又は、FeFe粉末材料1を患部10b内部に分散又は取り込ませる。また、患部10bが癌細胞の塊であるときには、カテーテルを用いて血管を介してFeFe粉末材料1を送り込み、患部10b内に取り込ませる。そして、生体10aを交流磁場内に配置してFeFe粉末材料1を発熱させる。
【0022】
具体的に、図1は、FeFe粉末材料1を患部10b内に分散又は取り込ませた状態を示している。
【0023】
交流磁場を発生させる加熱装置11は、患者等の生体10aの外部に配設され交流磁場を発生させる誘導コイル12を有している。この誘導コイル12は、電源装置に接続され、交流電流が供給されることによって、100kHz〜1MHz程度の低周波数の交流磁場を発生させる。この加熱装置11では、誘導コイル12で低周波数の交流磁場を発生させ、患部10bの表面又は内部にあるFeFe粉末材料1を発熱させることによって患部10bを焼灼する。
【0024】
FeFe粉末材料1は、交流磁場中のヒステリシス損失が熱に変わって発熱する。ここで、発生させる交流磁場は、100kHz〜1MHz程度の低周波数である。本発明では、FeFe粉末材料1が低周波数であっても発熱特性が良いため、低周波数を使用することができ、患部10b以外に対する誘導加熱による影響を小さくすることができる。
【0025】
次に、FeFe粉末材料1の製造方法及びこの製造方法によって得られたFeFe粉末材料1について説明する。
【0026】
FeFe粉末材料1は、フェリ磁性をもつ材料であり、交流磁場中のヒステリシス損失が熱に変わり発熱する材料である。このFeFe粉末材料1は、共沈法などの化学的作製法により得られることが知られている。
【0027】
FeFe粉末材料1は、微粒子化することにより発熱特性及び液中の分散性が向上する。FeFe粉末材料1の製造方法では、化学的作製法により作製されたFeFe粉末材料1をビーズミルを用いて物理的に粉砕し、化学的作製法ではできない微粒子化を行う。FeFeを物理的に粉砕してFeFe粉末材料1を得た場合には、化学的作製法により製造したFeFe粉末材料よりも、透過型の電子顕微鏡等を用いて観察するといびつな形状となっている。
【0028】
具体的なFeFe粉末材料1の製造方法は、先ず、共沈法などの化学的作製法、FeOとFeを高温で反応させて得る、いわゆる固相反応法等によりFeFeを作製する。なお、FeFeは、化学的作製法、固相反応法に限らず、他の方法により作製するようにしてもよい。
【0029】
次に、FeFeを、水やエチルアルコールなどを分散液として、0.05〜0.50mm程度のセラミックスビーズを用いたビーズミルで所定時間粉砕を行い、FeFeの結晶子径を減少させ、微粒子化し、FeFe粉末材料1を得ることができる。得られたFeFe粉末材料1は、結晶子径が数nm程度であり、粒子径が数nm〜数十nm程度である。このようにして得られたFeFe粉末材料1は、後述する実施例に示すように、交流磁場中における発熱特性及び液中の分散性が優れている。
【0030】
ビーズミルは、FeFeを粉砕媒体によって、微粉砕するものであり、例えば、シリカサンド、ガラスビーズ、セラミック媒体、鋼球を粉砕媒体として使用する粉砕機である。ビーズミルでは、ミル本体内に、FeFeとセラミックビーズなどの粉砕媒体とを入れ、所定の回転周速度、ビーズ充填率で、所定時間運転してFeFeを粉砕する。
【0031】
以上のように、FeFe粉末材料1は、FeFeをビーズミルで所定時間、物理的に粉砕して、微粒子化することによって得られたものであり、ヒステリシス損失が大きくなるため、発熱特性が著しく向上する共に、液中の分散性が向上する。FeFe粉末材料1は、低周波数の交流磁場による発熱が良好であり、生体内に留置して治療する場合に、投与量を減ずることができる。また、FeFe粉末材料1は、低周波数であっても発熱が良いため、患部10b以外に対する誘導加熱による影響を小さくすることができる。
【0032】
また、FeFe粉末材料1の製造方法では、ビーズミルによりFeFeを粉砕した後に、粉砕後のFeFe粉末材料1を不活性ガス中で加熱して焼成することで、FeFe粉末材料1の発熱特性を向上させることができる。ビーズミルによるFeFeの粉砕や過剰な粉砕により生成された超常磁性状態となったナノ微粒子が発生した場合には、粉砕後のFeFe粉末材料1を不活性ガス中で加熱することによって、ナノ微粒子を成長させ、発熱能力の優れた単磁区粒子とすることができ、発熱特性を向上させることができ、特に有効である。焼成は、アルゴン(Ar)等の不活性ガス中で、ビーズミルによる粉砕後のFeFe粉末材料1を350〜550℃程度の低温で焼成する。不純物を形成しない焼成条件であれば、更に焼成温度を高くして、FeFe粉末材料1の焼成を行ってもよい。
【0033】
更に、FeFe粉末材料1の製造方法では、低温焼成によりわずかに焼結した微粒子状のFeFe粉末材料1を液中に分散させるため、ビーズミルにより短時間粉砕し、発熱能力を維持した高分散性のFeFe粉末材料1を作製してもよい。再度粉砕する場合には、焼結した微粒子の状態に合わせて、分散性が良好となる粒子径となるように、粉砕条件を適宜決定する。
【0034】
以上より、FeFe粉末材料1の製造方法では、FeFeのビーズミルにより物理的に粉砕し、更に、粉砕したFeFe粉末を焼成することによって、発熱特性を著しく優れたものにできる。これにより、このFeFe粉末材料1の製造方法により得られた発熱特性の優れたFeFe粉末材料1を生体10a内に留置して治療する場合には、FeFe粉末材料1の投与量を減ずることができる。また、FeFe粉末材料1は、発熱特性が良好であるため、低周波数の交流磁場により発熱させることができ、患部10b以外に対する誘導加熱による影響を小さくすることができる。FeFe粉末材料1の製造方法では、更に、焼成後のFeFe粉末材料1を再度粉砕することによって、良好な発熱特性を維持しながら、液中の分散性を向上させることができ、血流中への投与を可能にできる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、実験結果をもとに詳細に説明する。
【0036】
実施例では、ビーズミルによる粉砕前のFeFeとして、高純度化学研究所製(純度99.9%、製品番号FeO09PB)のFeFe粉末(平均粒子径数μm)を購入し粉砕を行った。粉砕は、エチルアルコールを分散液とし、ビーズミル(スターミル・ナノゲッターDM65(アシザワファインテック株式会社製))を用い、最初0.30mmのジルコニア製ビーズを用いて最大10時間粉砕を行った。そして、さらに小さい結晶粒を得るために0.3mmビーズで1時間粉砕した試料を0.10mmビーズにて最大10時間の粉砕を行った。さらに小さい結晶粒を得るために、0.3mmビーズで1時間粉砕した後0.1mmビーズで2時間粉砕した試料を0.05mmビーズにより最大10時間の粉砕を行い、微粒子化したFeFe粉末試料を得た。その他の粉砕条件としては、ビーズミルの回転周速度3500rpm、ビーズ充填率35%である。なお、具体的には、以下のサンプル1〜サンプル16である。
【0037】
<サンプル1>
サンプル1では、粉砕処理を一切行っていない高純度化学研究所製(純度99.9%、製品番号FeO09PB)のFeFeを用いた。
【0038】
<サンプル2〜サンプル6>
サンプル2〜サンプル6は、径が0.30mmのジルコニア製ビーズを用い、サンプル1のFeFeを2時間(サンプル2)、4時間(サンプル3)、6時間(サンプル4)、8時間(サンプル5)、10時間(サンプル6)粉砕を行って、FeFe粉末試料を作製した。
【0039】
<サンプル7〜サンプル11>
サンプル7〜サンプル11は、径が0.30mmのジルコニア製ビーズで1時間粉砕した試料を、径が0.10mmのジルコニア製ビーズを用いて2時間(サンプル7)、4時間(サンプル8)、6時間(サンプル9)、8時間(サンプル10)、10時間(サンプル11)粉砕を行って、FeFe粉末試料を作製した。
【0040】
<サンプル12〜サンプル16>
サンプル12〜サンプル16は、径が0.30mmのジルコニア製ビーズで1時間粉砕後、0.1mmビーズで2時間粉砕した試料を、径が0.05mmのジルコニア製ビーズを用いて2時間(サンプル12)、4時間(サンプル13)、6時間(サンプル14)、8時間(サンプル15)、10時間(サンプル16)粉砕してFeFe粉末試料を作製した。
【0041】
サンプル1〜サンプル16で得られたFeFe粉末試料について、十分乳鉢で混合した後、Cu−Kα線を用いたX線回折(リートベルト法)による結晶の同定を行い、その測定結果からシェラー法により(440)面のピークの半値幅により結晶子径を決定した。また、粒子径については、BET法による表面積測定から計算により求めた。粉砕条件や時間に対する結晶子径及び粒子径については、表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
X線回析結果を図2に示す。図2中、0hは、サンプル1のX線回析結果であり、2h〜10hは、サンプル2〜サンプル6のX線回析結果である。図2から、サンプル1は、ピークが非常にシャープであることがわかる。これは、粉砕していないFeFeでは、結晶子径がきわめて大きいことを示している。サンプル2〜サンプル6については、粉砕時間の増加に伴いピークが幅広くなっており、結晶子径が粉砕時間と共に小さくなっていることを示している。なお、図示はしないが、本件発明者らは、0.1mmビーズを用いたサンプル7〜サンプル11、0.05mmビーズを用いたサンプル12〜サンプル16では、さらにピーク幅が増大し、結晶子径が小さくなっていることを確認している。
【0044】
サンプル1〜サンプル12の粉砕時間と結晶子径との関係を図3に示す。結晶子径は、計算により得られたものである。結晶子径とは、粒子に含まれる結晶の大きさの平均を示すものであり、粒子径ではない。0.3mmビーズを用いた場合には、2hの粉砕で10nm以下の結晶子径を達成することができ、粉砕時間の増加に伴い結晶子径が低下している。さらに、ビーズ径を0.1mmとした場合(サンプル7〜サンプル11)では、0.3mmのビーズを用いたときよりも小さい結晶子径のFeFe粉末が得られ、0.05mmのビーズを用いた場合(サンプル12〜サンプル16)ではさらに小さい結晶子径のFeFe粉末が得られた。
【0045】
サンプル9のFeFe粉末試料1gを、交流磁場(370kHz、磁場強度1.77kA/m)中で20分間保持して、上昇温度ΔTを調べた。図4に、上昇温度ΔTの時間的変化を示す。なお、上昇温度ΔTは、20分後のFeFe粉末試料の温度から、実験を開始したときのFeFe粉末試料の温度を差し引いたものである。市販品の粉末(サンプル1)そのままでは、上昇温度ΔTは2.0℃であった。一方、サンプル9では、時間の増大と共に上昇温度ΔTが増大した。このことから、ビーズミルで物理的に粉砕したFeFe粉末試料は、時間の増加と共に上昇温度ΔTが増大することがわかる。
【0046】
サンプル1〜サンプル16の上昇温度ΔTと粉砕時間との関係を図5に示す。図5に示す結果から、0.3mmのビーズを用いたサンプル2〜サンプル6よりも、0.1mmや0.05mmのビーズを用いたサンプル7〜サンプル16の方が、FeFeの粉砕によって発熱能力が増大していることがわかる。この結果は、FeFeの発熱能力を向上させるのに、物理的粉砕がきわめて効果的であることを示している。図5に示すように、0.1mmビーズを用いて6時間粉砕したときに(サンプル9)、最大の発熱となった。
【0047】
また、結晶子径と上昇温度ΔTとの関係を図6に示し、粒子径と上昇温度ΔTとの関係を図7に示す。図6から、結晶子径約4nmで上昇温度ΔTが20℃程度となり、図7から粒子径約12nmで上昇温度ΔTが20℃程度となり、最大の発熱を示し、結晶子径が4nm、粒子径が12nmよりも小さいサイズではこれらの温度よりも低下した。これは、過剰な粉砕により発熱に寄与しない超常磁性状態のナノ微粒子が多く生成したためと考えられる。
【0048】
以上のように、FeFe粉末材料では、未粉砕のサンプル1と比べて、ビーズを使用して粉砕したサンプル2〜サンプル16では、上昇温度ΔTが大きいことから、FeFeを物理的に粉砕することによって、発熱特性を向上させることができることがわかる。また、サンプル2〜サンプル16では、粉砕しているため、液中の分散性も良好である。
【0049】
次に、ビーズミルによる粉砕後のFeFe粉末試料の発熱特性を更に良好にさせる実施例について説明する。
【0050】
<サンプル17〜サンプル21>
サンプル17〜サンプル21では、表1中のサンプル9で得られたFeFe粉末試料をアルゴン(Ar)雰囲気中、1時間低温焼成を行った。サンプル17〜サンプル21の焼成温度は、表2に示すように、350℃〜550℃の範囲である。アルゴン雰囲気中で焼成するのは、マグネタイト中のFe2+をFe3+に酸化させないためのものであり、窒素やヘリウムなど、酸素や水蒸気を含まないものならば代用できる。
【0051】
サンプル17〜サンプル21の焼成後のFeFe粉末試料の結晶子径及び粒子径、FeFe粉末1gを交流磁場(370kHz、磁場強度1.77kA/m)に20分間置いたときの上昇温度ΔTを表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
FeFe粉末試料の焼成温度に対する上昇温度ΔTの関係を図8に示す。表2及び図8から、ビーズミルによる粉砕のみで最も発熱した0.1mmビーズ6時間粉砕のもの、即ちサンプル9は、表2に示すように、上昇温度ΔT=26℃であったが、それを焼成したサンプル17〜サンプル21では、著しく上昇温度ΔTが増大していることがわかる。サンプル19〜サンプル21では、焼成温度が450℃〜550℃で、上昇温度ΔTが50℃以上となり、500℃で焼成したサンプル20が最も発熱能力の大きく、上昇温度ΔTが59℃となった。
【0054】
以上より、FeFe粉末材料では、FeFeをビーズミルで粉砕した後に低温焼成することによって、優れた発熱特性が得られる。また、ビーズミルで過剰にFeFeを粉砕してしまった場合であっても、粉砕により生成した超常磁性状態のナノ微粒子を低温焼成することによって、FeFe粉末粒子を成長させ、発熱能力の優れた単磁区粒子とすることができ、発熱する粒子とすることができる。したがって、超常磁性状態のナノ微粒子であっても発熱特性を向上させることができる。
【0055】
次に、更に、上述のように焼成したFeFe粉末試料をビーズミルで再度粉砕して分散性を向上させる実施例について説明する。
【0056】
<サンプル22>
サンプル22では、径が0.30mmのジルコニア製ビーズを用い、サンプル20のFeFe粉末試料をビーズミルで1時間粉砕した。
【0057】
<サンプル23>
サンプル23では、径が0.30mmのジルコニア製ビーズを用い、サンプル20のFeFe粉末をビーズミルで2時間粉砕した。
【0058】
表3に、サンプル22及びサンプル23の再度粉砕後のFeFe粉末試料の結晶子径、粒子径、FeFe粉末1gを交流磁場(370kHz、磁場強度1.77kA/m)に置いたときの上昇温度ΔTを示す。
【0059】
【表3】

【0060】
表3に示すように、焼成後のFeFe粉末試料(サンプル20)を再度粉砕することによって、上昇温度ΔTは、40℃以上であり、高い状態を維持しながら、粉砕により粒子径が小さくなっているため、液中の分散性が向上する。
【0061】
以上より、フェライト材料のFeFeをビーズミルにより物理的に粉砕することによって、サンプル2〜サンプル16に示すように、未粉砕のサンプル1と比べて、上昇温度ΔTが高く、発熱特性を向上させることができ、粉砕されたことによって、液中の分散性が良好となる。
【0062】
また、ビーズミルで粉砕したFeFe粉末を低温で焼成することによって、サンプル17〜サンプル18に示すように、40℃以上の上昇温度となり、優れた発熱特性が得られる。
【0063】
更に、焼成後のFeFe粉末を再度粉砕することによって、サンプル22及びサンプル23に示すように、高い上昇温度を維持しながら、分散性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0064】
1 FeFe粉末材料、10a 生体、10b 患部、11 加熱装置、12 誘導コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内に留置して交流磁場で発熱させ患部を焼灼する生体加熱材料として用いられるFeFe粉末の製造方法において、
FeFeをビーズミルを用いて粉砕し、さらに不活性ガス中で焼成することによりFeFe粉末を得ることを特徴とするFeFe粉末材料の製造方法。
【請求項2】
上記焼成は、350℃以上、550℃以下の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1記載のFeFe粉末材料の製造方法。
【請求項3】
上記焼成後のFeFeをビーズミルで再度粉砕を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のFeFe粉末材料の製造方法。
【請求項4】
上記請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の製造方法により製造されたことを特徴とするFeFe粉末材料。
【請求項5】
生体内に留置して交流磁場で発熱させ患部を焼灼する生体加熱材料として用いられるFeFe粉末材料の製造方法において、
FeFeをビーズミルを用いて粉砕し、FeFe粉末を得ることを特徴とするFeFe粉末材料の製造方法。
【請求項6】
上記請求項5の製造方法により製造されたことを特徴とするFeFe粉末材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−63454(P2011−63454A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−213495(P2009−213495)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2009年3月16日 社団法人日本セラミックス協会 2009年年会 Annual Meeting of The Ceramic Society of Japan,2009 講演予稿集 第119ページ
【出願人】(504352755)
【出願人】(509259460)
【出願人】(502297999)
【Fターム(参考)】