GPS受信機
【課題】アベイラビリティの低下を招くことなく、擬似距離誤差を低減して、測位精度を高めることができるGPS受信機を得ることを目的とする。
【解決手段】信号処理手段により今回計測された擬似距離変化率を用いて、その擬似距離を平滑化し、前回計測された擬似距離と今回計測された擬似距離の差分と、今回計測された擬似距離変化率との差異が、所定値より小さいかまたは該所定値と等しい場合、信号処理手段により前回計測された擬似距離、今回計測された擬似距離および今回計測された擬似距離変化率から重み係数を求め、その重み係数に応じた今回計測された擬似距離と今回計測された擬似距離変化率の重み加算を用いた平滑化を実施する平滑化手段と、
平滑化手段により平滑化された擬似距離と衛星位置特定手段により特定されたGPS衛星の位置から現在位置を測位する。
【解決手段】信号処理手段により今回計測された擬似距離変化率を用いて、その擬似距離を平滑化し、前回計測された擬似距離と今回計測された擬似距離の差分と、今回計測された擬似距離変化率との差異が、所定値より小さいかまたは該所定値と等しい場合、信号処理手段により前回計測された擬似距離、今回計測された擬似距離および今回計測された擬似距離変化率から重み係数を求め、その重み係数に応じた今回計測された擬似距離と今回計測された擬似距離変化率の重み加算を用いた平滑化を実施する平滑化手段と、
平滑化手段により平滑化された擬似距離と衛星位置特定手段により特定されたGPS衛星の位置から現在位置を測位する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GPS衛星を利用して、自動車等の位置を測位するGPS受信機に関するものであり、特にGPS衛星と自動車等間の距離(擬似距離)を補正して、自動車等の位置を測位するGPS受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPSは、GPS衛星の位置を三角測量して、地上のGPS受信機の位置を計測する米国の測位システムである。
三角測量を行うには、3つ以上のGPS衛星の位置と、個々のGPS衛星とGPS受信機間の距離(以下、擬似距離と呼ぶ)とが必要になる。
GPS衛星の位置については、GPS受信機がGPS衛星から放送される航法メッセージを受信すれば、その航法メッセージに含まれている軌道情報から時々刻々の位置を把握することができる。
一方、擬似距離については、GPS衛星から放射された電波が地上に届く伝播時間τから算出することができる。
ただし、GPS受信機が伝播時間τを算出するには、GPS受信機の内蔵時計をGPSの時系である“GPS Time”に同期させる必要がある。
なお、測位計算に使用するGPS衛星の数が3つであれば、GPS受信機の3次元位置を計測することができる。また、GPS衛星の数が4つ以上になれば、さらにGPS受信機の内蔵時計を“GPS Time”に同期させることができる。
【0003】
擬似距離ρCτには、GPS衛星から放射された電波が電離層・対流圏を通過する際に生じる伝播遅延誤差δρion,δρtroと、地上のビル等に電波が反射することにより生じる誤差δρmp(以下、マルチパスと呼ぶ)と、GPS衛星が搭載している時計の誤差dTSATCとが含まれている。
これらの誤差が未補正な状態で擬似距離ρCτを測位計算に使用すると、測位結果である位置に誤差を生じるほか、GPS受信機の内蔵時計を“GPS Time”に上手く同期させることができなくなるので、電波伝搬遅延誤差とGPS衛星搭載時計誤差を除去する必要がある。
ρ=ρCτ+dTSATC−δρion−δρtro−δρmp [m] (1)
ただし、Cは光速である。
【0004】
ここで、GPS衛星が搭載している時計の誤差dTSATCと、電離層・対流圏を通過する際に生じる伝播遅延誤差δρion,δρtroについては、GPS衛星から放送される航法メッセージの中に補正モデルのパラメータが含まれており、また、地上のDGPS基準局が電離層・対流圏の通過時の伝搬遅延誤差補正データを観測し、DGPS基準局が伝搬遅延誤差補正データを放送するので、GPS受信機が補正モデルのパラメータや伝搬遅延誤差補正データを受信すれば、時計の誤差dTSATCや、電離層・対流圏を通過する際に生じる伝播遅延誤差δρion,δρtroを除去することができる。
【0005】
しかし、マルチパス誤差δρmpについては、GPS基準局において検出することが不可能であり、GPS受信機でも検出が困難である。このため、マルチパス誤差δρmpが位置精度を劣化させる最大の要因になる。
マルチパスなどの擬似距離誤差を低減して、測位精度を高めているGPS受信機が以下の特許文献1〜3に開示されている。
【0006】
以下の特許文献1では、GPS衛星と自動車の相対運動によるドップラー効果で搬送波周波数fL1[Hz]が偏位した周波数(以下、ドップラー偏位周波数fdopと呼ぶ)は、電波伝搬時間から求めていないために、擬似距離と比べて、マルチパスの影響(誤差)が少ないことを利用している。
即ち、特許文献1では、GPS衛星と自動車の相対運動によるドップラー偏位周波数fdop-estを算出する。式(2)において、V0はGPS衛星の進行方向に対する速度[m/s]、θ1はGPS衛星と自動車とを結ぶ線と、GPS衛星の進行方向とがなす角度[rad]である。
fdop-est=fL1V0cosθ1/(C−V0cosθ1) (2)
そして、GPS受信機により計測されたドップラー偏位周波数fdopと、GPS衛星と自動車の相対運動によるドップラー偏位周波数fdop-estとの差異が所定値以上になると、そのGPS衛星の擬似距離ρCτに大きなマルチパス誤差が含まれていると判断し、この擬似距離ρCτを測位計算に使用しないようにしている。
【0007】
以下の特許文献2では、DGPS基準局により観測された電離層・対流圏通過時の伝搬遅延誤差補正データがなくても、擬似距離の誤差を推定して、測位精度を高めるようにしている。
即ち、特許文献2では、下記の式(3)を用いて、GPS衛星と自動車の相対運動によるドップラー偏位周波数fdop-estを算出する。
fdop-est={LOSx(VSxi−VCxi)+LOSy(VSyi−VCyi)
+LOSz(VSzi−VCzi)}fL1/C [Hz] (3)
LOSx=(PSxi−PCxi)/R
LOSy=(PSyi−PCyi)/R
LOSz=(PSzi−PCzi)/R
R={(PSxi−PCxi)2+(PSyi−PCyi)2+(PSzi−PCzi)2}1/2
ただし、(PSxi,PSyi,PSzi)はGPS衛星の位置のxyz成分、(VSxi,VSyi,VSzi)はGPS衛星の速度のxyz成分、(PCxi,PCyi,PCzi)は自動車の位置のxyz成分、(VCxi,VCyi,VCzi)は自動車の速度のxyz成分である。
LOSは地上の自動車から上空のGPS衛星を見る視線方向ベクトル(line−of−site vector;LOS)である。
【0008】
そして、下記の式(4)(5)を用いて、GPS受信機により計測されたドップラー偏位周波数fdopと、GPS衛星と自動車の相対運動によるドップラー偏位周波数fdop-estとの差異から擬似距離ρCτiの誤差オフセット成分δρOFiと、擬似距離誤差δρiを算出する。
そして、下記の式(6)のように、擬似距離ρCτiから擬似距離誤差δρiを除去し、擬似距離誤差除去後の擬似距離ρiを測位計算に使用するようにする。
ρi=ρCτi−δρi (6)
【0009】
以下の特許文献3では、電離層誤差による影響を考慮したキャリアスムージングを実施することにより、測位精度を高めるようにしている。
具体的には、下記の通りである。
まず、キャリアスムージングは、下記の式(7)に示すように、搬送波位相(ドップラー偏位周波数fdopi)の積算値φiの差分(φi−φi-1)を用いて、電波伝播時間から計測された擬似距離ρCτiを平滑化(重み付け平均)する方法であり、このキャリアスムージングは、擬似距離の誤差が周期的に変動する場合に有効である。
ρSi=ρCτi/N+(N−1)/N{ρSi-1+(φi−φi-1)λΔT} [m]
(7)
ただし、Nはスムージングのサンプル数であり、通常100に設定される。λは搬送波の波長[m]、ΔTは測位インターバル時間[s]である。
【0010】
これに対して、特許文献3では、電離層誤差による影響を考慮したキャリアスムージングを実施することにより、測位精度を高めるようにしている。これは、電離層内では、搬送波が位相速度で伝搬し、真空中より位相が進む特性があることから、これを補正するために、DGPS補正データから電離層誤差による搬送波位相の変化量を求め、搬送波位相の積算値φiの差分を補正するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−118903号公報(段落番号[0022]から[0027]、図1)
【特許文献2】特開2000−186936号公報(段落番号[0018]から[0035]、図1)
【特許文献3】特開2002−196060号公報(段落番号[0012]から[0021]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のGPS受信機は以上のように構成されているので、特許文献1では、マルチパス誤差を含んでいる擬似距離を測位計算に使用しないようにしている。そのため、電波受信可能なGPS衛星数が不足して、アベイラビリティが下がる課題があった。即ち、マルチパスが発生し易い市街地では、多くのビルなどが建設されているため、自動車上空の視界が狭められ、電波受信可能なGPS衛星数がもともと少ない。そのため、マルチパス誤差を含んでいる擬似距離を測位計算から除外すれば、最悪の場合、GPS衛星数が不足して位置を測位することができなくなることがある。
【0013】
また、特許文献2では、DGPS基準局により観測された電離層・対流圏通過時の伝搬遅延誤差補正データがなくても、擬似距離の誤差を推定するようにしているが、ドップラー偏位周波数に関するGPS受信機の計測値と推定値の差異は、マルチパスのように周期や大きさが不規則な誤差を反映するものでないため、大きなマルチパス誤差が発生したときには、擬似距離の誤差を除去することができず、大きな測位誤差が発生する課題があった。
【0014】
さらに、特許文献3では、電離層誤差による影響を考慮したキャリアスムージングを実施するが、マルチパス誤差を含む擬似距離を固定係数(1/N)分だけ用いる重み付け平均をしたところで、マルチパス誤差の1/Nが大きくなると、このマルチパス誤差が平滑化された擬似距離に残留して、擬似距離誤差が有色化する課題があった。なお、擬似距離誤差が有色化すると、測位位置に偏った誤差を生じる(位置の平均を求めても、偏った誤差が残る)。また、搬送波位相を長時間積算すると、搬送波位相の誤差が累積して、擬似距離誤差が有色化する。なお、搬送波位相の累積誤差を小さくしようとすれば、搬送波位相を高精度に計測することが可能な高価な回路が必要となる(安価なGPS受信機は精度が悪い)。
【0015】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、アベイラビリティの低下を招くことなく、擬似距離誤差を低減して、測位精度を高めることができるGPS受信機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
複数のGPS衛星から放射された電波を受信する電波受信手段と、電波受信手段により受信された電波の放射元であるGPS衛星を識別して、そのGPS衛星の擬似距離と擬似距離変化率を計測するとともに、その電波に含まれている航法メッセージを抽出する信号処理手段と、信号処理手段により抽出された航法メッセージからGPS衛星の位置を特定する衛星位置特定手段と、信号処理手段が計測した擬似距離変化率により、該擬似距離変化率とともに計測した擬似距離を平滑化する平滑化手段と、該平滑化手段により平滑化された擬似距離と衛星位置特定手段により特定されたGPS衛星の位置から現在位置を測位する位置測位手段とを備え、平滑化手段は、信号処理手段が計測した第一の擬似距離と、該第一の擬似距離を計測する前に該信号処理手段が計測した第二の擬似距離との差分を求め、第一の擬似距離とともに信号処理手段が計測した第一の擬似距離変化率と差分との差異が、所定値より小さいかまたは該所定値と等しい場合、第二の擬似距離、第一の擬似距離および第一の擬似距離変化率から重み係数を求め、その重み係数に応じた擬似距離と擬似距離変化率の重み加算を用いて、第一の擬似距離を平滑化するものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、擬似距離の誤差が過大であると判断すると、信号処理部により今回計測された擬似距離を使用しないで、擬似距離の平滑化を実施するように構成したので、平滑化した擬似距離に大きな誤差が残留しなくなり、測位精度の劣化を防止することができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態1によるGPS受信機を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
【図3】GPS衛星を利用した三角測量の原理を示す説明図である。
【図4】GPS衛星から放射された電波の誤差要因を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
【図6】この発明の実施の形態3によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
【図7】この発明の実施の形態4によるGPS受信機を示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態4によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
【図9】市街地を自動車で走行した際に安価なGPS受信機が計測した擬似距離の一例を示す説明図である。
【図10】市街地を自動車で走行した際に安価なGPS受信機が計測した擬似距離の差分と擬似距離変化率の一例を示す説明図である。
【図11】この発明の実施の形態4によるGPS受信機において、市街地を自動車で走行した際の擬似距離変化率を自動車が停車していると仮定して推定した結果の一例を示す説明図である。
【図12】この発明の実施の形態4によるGPS受信機において、市街地を自動車で走行した際の擬似距離変化率を自動車が走行していると仮定して推定した結果の一例を示す説明図である。
【図13】この発明の実施の形態4によるGPS受信機において、擬似距離を平滑化したことにより、安価なGPS受信機が計測した擬似距離の異常が修復された結果を示す説明図である。
【図14】この発明の実施の形態4によるGPS受信機において、擬似距離を平滑化したことにより、安価なGPS受信機が計測した擬似距離の誤差が低減した結果を示す説明図である。
【図15】この発明の実施の形態4によるGPS受信機において、GPS受信機が計測した擬似距離と擬似距離平滑化部により平滑化された擬似距離の差異を示す説明図である。
【図16】この発明の実施の形態4によるGPS受信機において、擬似距離を平滑化したことにより、各衛星の不均等な擬似距離の誤差が均等になった結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるGPS受信機を示す構成図であり、図において、GPSアンテナ1は例えば自動車に取り付けられるGPS受信機のアンテナであり、例えば、自動車の上空に位置する複数個のGPS衛星から放射された電波を受信する。なお、GPSアンテナ1は電波受信手段を構成している。
信号処理部2はGPSアンテナ1により受信された電波に含まれているGPS衛星のコードを参照して電波の放射元であるGPS衛星を識別し、GPS衛星毎にGPS衛星の擬似距離と擬似距離変化率を計測する処理を実施する。また、GPSアンテナ1により受信された電波からGPS衛星の軌道情報などが記述されている航法メッセージを抽出し、その航法メッセージや電波の受信時刻を出力する処理を実施する。なお、信号処理部2は信号処理手段を構成している。
【0020】
衛星位置算出部3は信号処理部2から出力された電波の受信時刻と航法メッセージ中の軌道情報(エフェメリスなど)を用いて、各GPS衛星の時々刻々の位置を算出する処理を実施する。なお、衛星位置算出部3は衛星位置特定手段を構成している。
擬似距離誤差算出部4は信号処理部2から出力された電波の受信時刻と航法メッセージ中の補正パラメータ(電離層通過時の擬似距離誤差の補正パラメータと、GPS衛星に搭載されている時計の誤差の補正パラメータ)などを用いて、各GPS衛星から放射された電波が大気中(電離層、対流圏)を通過する際に生じる擬似距離誤差と衛星搭載時計誤差を算出する処理を実施する。なお、擬似距離誤差算出部4は擬似距離誤差算出手段を構成している。
【0021】
擬似距離平滑化部5は信号処理部2により計測された擬似距離と擬似距離変化率から重み係数を求め、その重み係数に応じた擬似距離と擬似距離変化率の重み加算を実施して、各GPS衛星の擬似距離を平滑化する処理を実施する。なお、擬似距離平滑化部5は平滑化手段を構成している。
擬似距離誤差評価部6は信号処理部2により計測された擬似距離と擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離の誤差分散を算出する処理を実施する。なお、擬似距離誤差評価部6は誤差分散算出手段を構成している。
【0022】
位置算出部7は擬似距離誤差算出部4により算出された擬似距離誤差と擬似距離誤差評価部6により算出された擬似距離の誤差分散を用いて、擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離を補正し、補正後の擬似距離と衛星位置算出部3により算出されたGPS衛星の位置から自動車の現在位置を測位するとともに、擬似距離誤差算出部4により算出された衛星搭載時計誤差を用いて、GPS受信機が内蔵している時計誤差を算出する処理を実施する。なお、位置算出部7は位置測位手段を構成している。
図2はこの発明の実施の形態1によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
【0023】
次に動作について説明する。
信号処理部2は、GPSアンテナ1が自動車の上空に位置するGPS衛星から放射された電波を受信すると、例えば所定の測位周期(1Hz)毎に、GPSアンテナ1により受信された電波に含まれているGPS衛星のコードを参照して電波の放射元であるGPS衛星を識別する(図3、図4を参照)。
信号処理部2は、電波の放射元であるGPS衛星を識別すると、そのGPS衛星の擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiを計測し、その擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiを擬似距離平滑化部5及び擬似距離誤差評価部6に出力する。
また、信号処理部2は、GPSアンテナ1により受信された電波からGPS衛星の軌道情報などが記述されている航法メッセージを抽出し、その航法メッセージや電波の受信時刻を衛星位置算出部3及び擬似距離誤差算出部4に出力する。
【0024】
衛星位置算出部3は、信号処理部2から電波の受信時刻と航法メッセージを受けると、その電波の受信時刻と航法メッセージ中の軌道情報(エフェメリスなど)を用いて、各GPS衛星の時々刻々の位置を算出する(ステップST1)。
擬似距離誤差算出部4は、信号処理部2から電波の受信時刻と航法メッセージを受けると、電波の受信時刻と航法メッセージ中の補正パラメータ(電離層通過時の擬似距離誤差の補正パラメータ)などを用いて、各GPS衛星から放射された電波が大気中(電離層、対流圏)を通過する際に生じる擬似距離誤差を算出する(ステップST2)。
また、擬似距離誤差算出部4は、電波の受信時刻と航法メッセージ中の補正パラメータ(GPS衛星に搭載されている時計誤差の補正パラメータ)などを用いて、衛星搭載時計誤差を算出する(ステップST2)。
【0025】
擬似距離平滑化部5は、信号処理部2から擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiを受けると、下記の式(8)〜(10)を用いて、その擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの重み係数kを求める。
Δρratei=fdopiC/fL1 [m/s] (8)
ΔρCτi=(ρCτi−ρCτi-1)/Δt (9)
k=1/|ΔρCτi−Δρratei| (10)
ただし、fL1は搬送波周波数、fdopはドップラー偏位周波数、Cは光速、Δtは測位インターバル時間(例えば、1秒)である。
【0026】
擬似距離平滑化部5は、擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの重み係数kを求めると、下記の式(11)に示すように、その重み係数kに応じた擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの重み加算を実施して、各GPS衛星の擬似距離ρSiを平滑化する(ステップST3)。
ρSi=ρCτik+{ρSi-1+ΔρrateiΔt}(1−k) (11)
なお、擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの双方に誤差が含まれていない場合、擬似距離の差分ΔρCτiと擬似距離変化率Δρrateiは同じ値になる。
【0027】
擬似距離誤差評価部6は、擬似距離平滑化部5が各GPS衛星の擬似距離ρSiを平滑化すると、下記の式(12)に示すように、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiと、擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離ρSiの差分ΔδρCτiを求め、その差分ΔδρCτiの分散を擬似距離の誤差分散として計算する(ステップST4)。
ΔδρCτi=|ρCτi−ρSi| (12)
【0028】
位置算出部7は、自動車の位置を測位するのに必要なGPS衛星数だけ電波を受信できているか否かを確認(例えば、4衛星以上の電波を受信できているか否かを確認)するとともに、自動車の位置の収束計算の回数を確認する(ステップST5)。
【0029】
位置算出部7は、電波を受信できているGPS衛星の個数が4衛星以上であり、かつ、収束計算の回数が所定回数未満であれば、擬似距離誤差算出部4により算出された擬似距離誤差と擬似距離誤差評価部6により算出された擬似距離の誤差分散を用いて、擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離ρSiを補正し、補正後の擬似距離ρSiと衛星位置算出部3により算出されたGPS衛星の位置から自動車の現在位置PCを測位すると同時に、擬似距離誤差算出部4により算出された衛星搭載時計誤差を用いて、GPS受信機が内蔵している時計誤差を算出し、その時計誤差を信号処理部2に出力する(ステップST6)。
補正後のρSi=ρSi+dTSATC−δρion−δρtro [m] (13)
【0030】
即ち、位置算出部7は、下記の式(14)を用いて、自動車の現在位置PCを計算する。
ただし、(PCxi,PCyi,PCzi)は自動車の位置のxyz成分、(PSxi,PSyi,PSzi)はGPS衛星の位置のxyz成分、Aは航法行列、Wは擬似距離誤差の重み付き行列である。
【0031】
なお、信号処理部2は、位置算出部7により算出された時計誤差を受けると、電波の受信時刻を衛星位置算出部3や擬似距離誤差算出部4に出力する際、その時計誤差を考慮して、電波の受信時刻を補正することになる。
【0032】
位置算出部7は、上記のようにして、自動車の現在位置PCを測位すると、自動車の現在位置PCが収束しているか否かを判定し(ステップST7)、収束していれば、測位周期毎の動作を終了する。
一方、収束していなければ、ステップST1〜ST6の処理を繰り返し実施させる制御信号を衛星位置算出部3や擬似距離平滑化部5などに出力する。
なお、位置算出部7は、電波を受信できているGPS衛星の個数が4衛星未満、または、収束計算の回数が所定回数以上であれば、自動車の位置を測位することができないと判断して、測位周期毎の動作を終了する。
【0033】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiから重み係数kを求め、その重み係数kに応じた擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの重み加算を実施して、その擬似距離ρCτiを平滑化する擬似距離平滑化部5を設け、その擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離ρSiと衛星位置算出部3により算出されたGPS衛星の位置から自動車の現在位置PCを測位するように構成したので、アベイラビリティの低下を招くことなく、擬似距離誤差を低減して、測位精度を高めることができる効果を奏する。
【0034】
即ち、この実施の形態1によれば、誤差の小さい擬似距離変化率Δρrateiを基準にして、擬似距離の差分ΔρCτiとの差異から擬似距離の誤差を求め、擬似距離の誤差に応じた重み係数kにしたがって、擬似距離変化率Δρrateiを用いて擬似距離ρCτiを平滑化するようにしたので、マルチパスが発生しても、平滑化した擬似距離ρSiにマルチパス誤差が残留することがなくなり(有色化しなくなる)、擬似距離誤差を低減することができる。このことは、測位誤差の低減につながる。
また、電波伝搬時間τから計測した擬似距離の誤差が小さい場合、この擬似距離を多く使うような重み係数kとなるため、擬似距離変化率Δρrateiを不必要に多用しなくなり、安価なGPS受信機を使用しても、精度の高い測位結果を得ることができる。
【0035】
また、この実施の形態1によれば、GPSアンテナ1により受信された電波の受信時刻と信号処理部2により抽出された航法メッセージから当該電波が大気中を通過する際に生じる擬似距離誤差を算出する擬似距離誤差算出部4を設け、位置算出部7が擬似距離誤差算出部4により算出された擬似距離誤差を用いて、擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離を補正し、補正後の擬似距離と衛星位置算出部3により算出されたGPS衛星の位置から自動車の現在位置PCを測位するように構成したので、電離層通過時の擬似距離誤差が大きくなっても、精度よく自動車の現在位置PCを測位することができる効果を奏する。
【0036】
また、この実施の形態1によれば、信号処理部2により計測された擬似距離と擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離の誤差分散を算出する擬似距離誤差評価部6を設け、その擬似距離誤差評価部6により算出された擬似距離の誤差分散を用いて、自動車の現在位置PCを測位するように構成したので、マルチパスが大きくなっても、精度よく自動車の現在位置PCを測位することができる効果を奏する。
【0037】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiから重み係数kを求め、その重み係数kに応じた擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの重み加算を実施して、その擬似距離ρCτiを平滑化するものについて示したが、信号処理部2により前回計測された擬似距離ρCτi-1(第二の擬似距離)と今回計測された擬似距離ρCτi(第一の擬似距離)の差分と、信号処理部2により今回計測された擬似距離変化率Δρratei(第一の擬似距離変化率)との差異が所定値より大きい場合、今回計測された擬似距離ρCτiを使用しないで、擬似距離の平滑化を実施するようにしてもよい。
【0038】
具体的には、以下の通りである。
図5はこの発明の実施の形態2によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
なお、この実施の形態2では、擬似距離平滑化部5の処理内容のみが、上記実施の形態1と異なるので、擬似距離平滑化部5の処理内容のみを説明する。
【0039】
擬似距離平滑化部5は、GPS衛星の電波受信状況に応じて、擬似距離の平滑化方法を切替えるものであり、すべてのGPS衛星について、GPS衛星毎に行うものである。
即ち、擬似距離平滑化部5は、GPSアンテナ1が所定のGPS衛星から放射された電波を受信しているか否かを判定する(ステップST11)。
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星から放射された電波を受信していれば、さらに、連続受信であるか否かを判定する(ステップST12)。即ち、電波を途切れ途切れに受信している状況であるか否かを判定する。
【0040】
擬似距離平滑化部5は、途切れ途切れの受信ではなく、連続受信であれば、擬似距離誤差評価部6により計算された擬似距離の誤差分散が所定値以上であるか否かを判定し、その擬似距離の誤差分散が所定値以上であれば、擬似距離の誤差が過大であると判断する(ステップST13)。
即ち、擬似距離平滑化部5は、信号処理部2により前回計測された擬似距離ρCτi-1と今回計測された擬似距離ρCτiの差分と、信号処理部2により今回計測された擬似距離変化率Δρrateiとの差異が所定値より大きい場合、擬似距離の誤差が過大であると判断する。
擬似距離平滑化部5は、擬似距離の誤差が過大であると判断すると、下記の式(15)に示すように、信号処理部2により今回計測された擬似距離ρCτiを使用しないで、擬似距離の平滑化を実施する(ステップST14)。
ρSi=ρSi-1+ΔρrateiΔt (15)
擬似距離平滑化部5は、擬似距離の誤差が過大でないと判断すると、上記実施の形態1と同様に、式(11)を用いて、擬似距離の平滑化を実施する(ステップST15)。
【0041】
擬似距離平滑化部5は、途切れ途切れの受信である場合、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tを計測し、非受信時間tが所定時間を超えているか否かを判定する(ステップST16)。
擬似距離平滑化部5は、非受信時間tが所定時間に満たない場合、下記の式(16)に示すように、電波が途絶える前の擬似距離変化率Δρratei-tを用いて擬似距離の平滑化を再開する(ステップST17)。
ρSi=ρSi-t+Δρratei-tt (16)
擬似距離平滑化部5は、非受信時間tが所定時間を超えた後、同じGPS衛星の電波を再受信した場合、下記の式(17)に示すように、擬似距離の平滑値を初期化する(ステップST18)。
ρSi=ρCτi (17)
【0042】
擬似距離平滑化部5は、上記のようにして、擬似距離を平滑化すると、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tをゼロにして、測位周期毎の擬似距離の平滑化処理を終了する(ステップST19)。
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星から放射された電波を受信していなければ、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tを計測し、測位周期毎の擬似距離の平滑化処理を終了する(ステップST20)。
【0043】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、擬似距離の誤差が過大であると判断すると、信号処理部2により今回計測された擬似距離ρCτiを使用しないで、擬似距離の平滑化を実施するように構成したので、平滑化した擬似距離に大きな誤差が残留しなくなり、測位精度の劣化を防止することができる効果を奏する。
【0044】
また、この実施の形態2によれば、GPSアンテナ1により受信されているGPS衛星の電波が途絶えたのち、同じGPS衛星から放射された電波が再受信された場合、その電波の遮断時間が所定時間より短ければ、電波が途絶える前の擬似距離変化率Δρratei-tを用いて擬似距離の平滑化を再開するように構成したので、再受信時に擬似距離の誤差が大きくなっても、平滑化した擬似距離の誤差が大きくならず、測位精度の劣化を防止することができる効果を奏する。
【0045】
また、この実施の形態2によれば、GPSアンテナ1により受信されているGPS衛星の電波が途絶えたのち、同じGPS衛星から放射された電波が再受信された場合、その電波の遮断時間が所定時間より長ければ、擬似距離の平滑値を初期化するように構成したので、擬似距離変化率を長時間積算することで、却って擬似距離誤差が大きくなることを未然に防止することができるようになり、その結果、電波受信が途切れがちとなり、従来のGPS受信機では、測位が間欠的又は測位精度が低下する場所でも、測位精度を高めることができる効果を奏する。
【0046】
実施の形態3.
上記実施の形態1では、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiから重み係数kを求め、その重み係数kに応じた擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの重み加算を実施して、その擬似距離ρCτiを平滑化するものについて示したが、GPSアンテナ1により受信されているGPS衛星の電波が途絶えても、その電波が途絶えてから所定時間を経過するまでは、電波が途絶える前の擬似距離変化率を用いて擬似距離の平滑化を継続するようにしてもよい。
【0047】
具体的には、以下の通りである。
図6はこの発明の実施の形態3によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
なお、この実施の形態3では、擬似距離平滑化部5の処理内容のみが、上記実施の形態1と異なるので、擬似距離平滑化部5の処理内容のみを説明する。
【0048】
擬似距離平滑化部5は、GPS衛星の電波受信状況に応じて、擬似距離の平滑化方法を切替えるものであり、すべてのGPS衛星について、GPS衛星毎に行うものである。
即ち、擬似距離平滑化部5は、GPSアンテナ1が所定のGPS衛星から放射された電波を受信しているか否かを判定する(ステップST21)。
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星から放射された電波を受信していれば、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tが所定時間に到達しているか否かを判定する(ステップST22)。
【0049】
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tが所定時間に到達していなければ、擬似距離誤差評価部6により計算された擬似距離の誤差分散が所定値以上であるか否かを判定し、その擬似距離の誤差分散が所定値以上であれば、擬似距離の誤差が過大であると判断する(ステップST23)。
即ち、擬似距離平滑化部5は、信号処理部2により前回計測された擬似距離ρCτi-1と今回計測された擬似距離ρCτiの差分と、信号処理部2により今回計測された擬似距離変化率Δρrateiとの差異が所定値より大きい場合、擬似距離の誤差が過大であると判断する。
擬似距離平滑化部5は、擬似距離の誤差が過大であると判断すると、上記実施の形態2と同様に、式(15)を用いて、信号処理部2により今回計測された擬似距離ρCτiを使用しないで、擬似距離の平滑化を実施する(ステップST24)。
擬似距離平滑化部5は、擬似距離の誤差が過大でないと判断すると、上記実施の形態1と同様に、式(11)を用いて、擬似距離の平滑化を実施する(ステップST25)。
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tが所定時間を超えていれば、上記実施の形態2と同様に、式(17)を用いて、擬似距離の平滑値を初期化する(ステップST26)。
擬似距離平滑化部5は、上記のようにして、擬似距離を平滑化すると、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tをゼロにして、測位周期毎の擬似距離の平滑化処理を終了する(ステップST27)。
【0050】
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星から放射された電波を受信していなければ、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tを計測する(ステップST28)。
そして、擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tが所定時間に到達しているか否かを判定する(ステップST29)。
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tが所定時間に到達していなければ、下記の式(18)に示すように、電波が途絶える前の擬似距離変化率Δρratei-tを用いて擬似距離の平滑化を継続する(ステップST30)。
ρSi=ρSi-1+Δρratei-tΔt (18)
【0051】
以上で明らかなように、この実施の形態3によれば、擬似距離の誤差が過大であると判断すると、信号処理部2により今回計測された擬似距離ρCτiを使用しないで、擬似距離の平滑化を実施するように構成したので、平滑化した擬似距離に大きな誤差が残留しなくなり、測位精度の劣化を防止することができる効果を奏する。
【0052】
また、この実施の形態3によれば、GPSアンテナ1により受信されているGPS衛星の電波が途絶えても、その電波が途絶えてから所定時間を経過するまでは、電波が途絶える前の擬似距離変化率を用いて擬似距離の平滑化を継続するように構成したので、再受信時に擬似距離の誤差が大きくなっても、平滑化した擬似距離の誤差が大きくならず、測位精度の劣化を防止することができる効果を奏する。
なお、自動車の上空のGPS衛星数が4衛星未満の場合に、電波が途絶える前の擬似距離変化率を用いて擬似距離の平滑化を継続するようにすれば、電波受信が途切れがちとなり、測位が間欠的になっていた場所(例えば、市街地、橋の下)でも、自動車の位置を連続的に測位して、アベイラビリティを高めることができる効果を奏する。
【0053】
また、この実施の形態3によれば、GPSアンテナ1からの電波受信が長時間途絶えた場合、同じGPS衛星の電波を再受信した直後に擬似距離の平滑値を初期化するように構成したので、擬似距離変化率を長時間積算することで、却って擬似距離誤差が大きくなることを未然に防止することができるようになり、その結果、電波受信が途切れがちとなり、従来のGPS受信機では、測位が間欠的又は測位精度が低下する場所でも、測位精度を高めることができる効果を奏する。
【0054】
実施の形態4.
図7はこの発明の実施の形態4によるGPS受信機を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
衛星位置・速度算出部11は信号処理部2から出力された電波の受信時刻と航法メッセージ中の軌道情報(エフェメリスなど)を用いて、各GPS衛星の時々刻々の位置と速度を算出する処理を実施する。なお、衛星位置・速度算出部11は衛星位置特定手段を構成している。
擬似距離変化推定部12はGPS衛星に対する相対運動のドップラー効果を考慮して、衛星位置・速度算出部11により算出されたGPS衛星の位置及び速度と、速度算出部13により算出された自動車の速度と、位置算出部7により算出された自動車の位置とから擬似距離変化率を推定する処理を実施する。
【0055】
速度算出部13は衛星位置・速度算出部11により算出されたGPS衛星の位置や、位置算出部7により算出された自動車の位置などから自動車の速度を算出する処理を実施する。
なお、衛星位置・速度算出部11、擬似距離変化推定部12及び速度算出部13から擬似距離変化率推定手段が構成されている。
擬似距離平滑化部14は信号処理部2により計測された擬似距離と擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率から重み係数を求め、その重み係数に応じた擬似距離と擬似距離変化率の重み加算を実施して、各GPS衛星の擬似距離を平滑化する処理を実施する。擬似距離平滑化部14は平滑化手段を構成している。
図8はこの発明の実施の形態4によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
【0056】
次に動作について説明する。
信号処理部2は、GPSアンテナ1が自動車の上空に位置するGPS衛星から放射された電波を受信すると、例えば所定の測位周期(1Hz)毎に、GPSアンテナ1により受信された電波に含まれているGPS衛星のコードを参照して電波の放射元であるGPS衛星を識別する(図3、図4を参照)。
信号処理部2は、電波の放射元であるGPS衛星を識別すると、そのGPS衛星の擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiを計測し、その擬似距離ρCτiを擬似距離平滑化部14及び擬似距離誤差評価部6に出力する。また、その擬似距離変化率Δρrateiを速度算出部13に出力する。
また、信号処理部2は、上記実施の形態1と同様に、GPSアンテナ1により受信された電波からGPS衛星の軌道情報などが記述されている航法メッセージを抽出し、その航法メッセージや電波の受信時刻を衛星位置算出部3及び擬似距離誤差算出部4に出力する。
【0057】
衛星位置・速度算出部11は、信号処理部2から電波の受信時刻と航法メッセージを受けると、その電波の受信時刻と航法メッセージ中の軌道情報(エフェメリスなど)を用いて、各GPS衛星の時々刻々の位置と速度を算出する(ステップST31)。
擬似距離誤差算出部4は、信号処理部2から電波の受信時刻と航法メッセージを受けると、上記実施の形態1と同様に、電波の受信時刻と航法メッセージ中の補正パラメータ(電離層通過時の擬似距離誤差の補正パラメータ)などを用いて、各GPS衛星から放射された電波が大気中(電離層、対流圏)を通過する際に生じる擬似距離誤差を算出する(ステップST32)。
また、擬似距離誤差算出部4は、電波の受信時刻と航法メッセージ中の補正パラメータ(GPS衛星に搭載されている時計の誤差の補正パラメータ)などを用いて、衛星搭載時計誤差を算出する(ステップST32)。
【0058】
速度算出部13は、下記の式(19)(20)に示すように、衛星位置・速度算出部11により算出されたGPS衛星の位置PSや、位置算出部7により算出された自動車の位置PCなどから自動車の速度VCを算出する。
【0059】
擬似距離変化推定部12は、速度算出部13が自動車の速度VCを算出すると、下記の式(21)に示すように、GPS衛星に対する相対運動のドップラー効果を考慮して、衛星位置・速度算出部11により算出されたGPS衛星の位置PS及び速度VSと、速度算出部13により算出された自動車の速度VCと、位置算出部7により算出された自動車の位置PCとから擬似距離変化率Δρratei-miを推定する(ステップST33)。
Δρratei-mi={LOSxi(VSxi−VCxi)+LOSyi(VSyi−VCyi)
+LOSzi(VSzi−VCzi)} [m/s] (21)
LOSxi=(PSxi−PCxi)/R
LOSyi=(PSyi−PCyi)/R
LOSzi=(PSzi−PCzi)/R
R={(PSxi−PCxi)2+(PSyi−PCyi)2+(PSzi−PCzi)2}1/2
【0060】
擬似距離平滑化部14は、信号処理部2から擬似距離ρCτiを受けて、擬似距離変化推定部12から擬似距離変化率Δρratei-miを受けると、下記の式(22)〜(24)を用いて、その擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρratei-miの重み係数kを求める。
Δρratei-mi=fdopiC/fL1 [m/s] (22)
ΔρCτi=(ρCτi−ρCτi-1)/Δt (23)
k=1/|ΔρCτi−Δρratei-mi| (24)
ただし、fL1は搬送波周波数、fdopはドップラー偏位周波数、Cは光速、Δtが測位インターバル時間(例えば、1秒)である。
【0061】
擬似距離平滑化部14は、擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρratei-miの重み係数kを求めると、下記の式(25)に示すように、その重み係数kに応じた擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρratei-miの重み加算を実施して、各GPS衛星の擬似距離ρSiを平滑化する(ステップST34)。
ρSi=ρCτik+{ρSi-1+Δρratei-miΔt}(1−k) (25)
なお、擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρratei-miの双方に誤差が含まれていない場合、擬似距離の差分ΔρCτiと擬似距離変化率Δρratei-miは同じ値になる。
【0062】
擬似距離誤差評価部6は、擬似距離平滑化部14が各GPS衛星の擬似距離ρSiを平滑化すると、上記実施の形態1と同様に、式(12)を用いて、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiと、擬似距離平滑化部14により平滑化された擬似距離ρSiの差分ΔδρCτiを求め、その差分ΔδρCτiの分散を擬似距離の誤差分散として計算する(ステップST35)。
【0063】
位置算出部7は、上記実施の形態1と同様に、自動車の位置を測位するのに必要なGPS衛星数だけ電波を受信できているか否かを確認(例えば、4衛星以上の電波を受信できているか否かを確認)するとともに、自動車の位置の収束計算の回数を確認する(ステップST36)。
【0064】
位置算出部7は、電波を受信できているGPS衛星の個数が4衛星以上であり、かつ、収束計算の回数が所定回数未満であれば、上記実施の形態1と同様に、擬似距離誤差算出部4により算出された擬似距離誤差と擬似距離誤差評価部6により算出された擬似距離の誤差分散を用いて、擬似距離平滑化部14により平滑化された擬似距離ρSiを補正し、補正後の擬似距離ρSiと衛星位置・速度算出部11により算出されたGPS衛星の位置から自動車の速度と現在位置PCを測位する(ステップST37,ST38)。
また、位置算出部7は、擬似距離誤差算出部4により算出された衛星搭載時計誤差を用いて、GPS受信機が内蔵している時計誤差を算出し、その時計誤差を信号処理部2に出力する。
これにより、信号処理部2は、電波の受信時刻を衛星位置・速度算出部11や擬似距離誤差算出部4に出力する際、位置算出部7により算出された時計誤差を考慮して、電波の受信時刻を補正することになる。
【0065】
位置算出部7は、上記のようにして、自動車の現在位置PCを測位すると、自動車の現在位置PCが収束しているか否かを判定し(ステップST39)、収束していれば、測位周期毎の動作を終了する。
一方、収束していなければ、ステップST31〜ST38の処理を繰り返し実施させる制御信号を衛星位置・速度算出部11や擬似距離平滑化部5などに出力する。
なお、位置算出部7は、電波を受信できているGPS衛星の個数が4衛星未満、または、収束計算の回数が所定回数以上であれば、自動車の位置を測位することができないと判断して、測位周期毎の動作を終了する。
【0066】
以上で明らかなように、この実施の形態4によれば、下記に示す効果が得られる。
即ち、この実施の形態4では、重み付き最小二乗法で自動車位置を収束計算する過程で、擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率と自動車速度が徐々に正確になり、自動車位置が収束した時点では、GPS衛星毎の擬似距離誤差変化率の誤差が均等になる。また、擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率を用いて平滑化された擬似距離も同様に、GPS衛星毎の擬似距離の誤差が均等になる。
このような擬似距離を用いて擬似距離誤差を求めるので、GPS受信機により計測された擬似距離の誤差をより正確に検出することができる。
このような擬似距離を用いて自動車の位置計算を行えば、擬似距離誤差の大きさが大幅に小さくなるだけでなく、三角測量の原理で算出した自動車位置の3次元空間の重心が、より正確な自動車の位置を示すようになる(測位精度が向上する)。
【0067】
なお、この実施の形態4では、擬似距離変化率又は自動車速度を用いて、自動車位置を算出していないが、拡張カルマンフィルタなどで、擬似距離変化率又は自動車速度を用いて、自動車位置を算出するようにしてもよい。
また、この実施の形態4では、式(19)又は式(21)で擬似距離変化率を推定する際に、GPS測位で算出した自動車位置と自動車速度を使用しているが、例えば、GPS受信機をカーナビなどに組み込んで使用する場合には、自律測位やマップマッチングで算出した位置や速度を適宜使うように切り替えることで、マルチパスの影響をさらに軽減したり、GPS衛星の電波受信状態が悪い場所でも、自動車の位置や速度を連続して計測したりすることができる。また、高い精度を安定して維持することができる効果があるなど、測位精度をさらに向上するための拡張性を有する。
【0068】
ここで、この実施の形態4の効果を実際の信号を用いて説明する。
安価なGPS受信機を自動車に搭載して市街地を走行する場合、GPSアンテナ1により受信された複数個のGPS衛星の電波の中には、異常を含む擬似距離ρCτがある(図9を参照)。同じGPS衛星の擬似距離変化率Δρrateについては、擬似距離ρCτが異常となった同じ時間帯に、程度は小さいが異常を生じる(図10を参照)。
図10には、擬似距離の差分ΔρCτを擬似距離変化率Δρrateと合わせてグラフ化しているが、擬似距離変化率Δρrateと比較すれば、擬似距離ρCτの変動が大きいことがわかる。このような擬似距離ρCτと擬似距離変化率ΔρrateがGPS受信機から出力された場合には、従来の方法では、次のような問題がある。
【0069】
上記の特許文献1では、この擬似距離ρCτが、マルチパス誤差が大きいと判断されて測位計算に使われないことが多発する。これは測位に使用できるGPS衛星数の低下、さらには測位できないことにつながる。
擬似距離変化率Δρrateには、擬似距離ρCτと同じ誤差が生じていないので、上記の特許文献2の方法では、擬似距離ρCτの大きな誤差を検出できない。これは測位精度の低下につながる。
上記の特許文献3であれば、平滑化した擬似距離にマルチパス誤差が残留して擬似距離誤差が有色化する。これは測位精度の低下につながる。
【0070】
これに対して、この実施の形態4では、次のような効果が得られる。
式(19)より、図10で擬似距離変化率が異常である時間帯を含めて、自動車が停車していた場合の擬似距離変化率Δρrate-siを高精度に推定することができる(図11を参照)。
また、擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率Δρrate-siは、複数個のGPS衛星と自動車の相対運動より算出したものなので、他のGPS衛星の擬似距離変化率についても、同様に推定することができる。
擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率Δρrate-siを用いれば、図示していないが、式(20)により、自動車速度も高精度に算出することができる。
【0071】
式(21)により、図10で擬似距離変化率が異常である時間帯を含めて、走行中の自動車の擬似距離変化率Δρrate-miを高精度に推定することができる(図12を参照)。
また、擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率Δρrate-miは、複数個のGPS衛星と自動車の相対運動より算出したものなので、他のGPS衛星の擬似距離変化率についても、同様に推定することができる。
擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率Δρrate-miを基準にすれば、下記の式(26)に示すように、信号処理部2により計測された擬似距離変化率Δρrateの誤差も検出することができる。
δΔρrate=|Δρrate−Δρrate-mi| [m/s] (26)
【0072】
式(21)による擬似距離変化率Δρrate-miを用いて、擬似距離平滑化部14が擬似距離を平滑化すると、その擬似距離の異常を修復することができる(図13を参照)。
擬似距離平滑化部14により平滑化された擬似距離ρsiの差分ΔρSiと、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiの差分ΔρCτiを比較すれば、図14より、平滑化された擬似距離ρSiの誤差が大幅に低減したことがわかる。
式(21)による擬似距離変化率Δρrate-miと比較すれば、平滑化された擬似距離ρSiに約10m以下で変動する誤差が残っているが、この誤差は、下記の式(27)により検出することができる。
δΔρSi=|ΔρSi−Δρrate-mi| [m/s] (27)
【0073】
擬似距離平滑化部14により平滑化された擬似距離ρSiと、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiとの差異(図15を参照)を見れば、図9の異常やマルチパスの影響で、両擬似距離の差異が大きく発生することがあるが、両擬似離の差異に偏向した誤差はない(有色化していない)。
自動車上空の複数個のGPS衛星(PRN:5,6,9,14,18,22,25,30)について、式(21)で推定した擬似距離変化率Δρrate-miを基準にして、擬似距離ρCτiの差分ΔρCτiとの差異、平滑化した擬似距離ρSiの差分ΔρSiとの差異のそれぞれの標準偏差を計算すれば、擬似距離平滑化部14により平滑化された擬似距離ρSiには、各GPS衛星の不均等な擬似距離誤差が均等になる改善効果があることがわかる。なお、図中において、平滑化なしの欄は、下記の式(28)、平滑化ありの欄は上記の式(27)の結果である。
δΔρCτi=|ΔρCτi−Δρrate-mi| [m/s] (28)
【符号の説明】
【0074】
1 GPSアンテナ(電波受信手段)、2 信号処理部(信号処理手段)、3 衛星位置算出部(衛星位置特定手段)、4 擬似距離誤差算出部(擬似距離誤差算出手段)、5 擬似距離平滑化部(平滑化手段)、6 擬似距離誤差評価部(誤差分散算出手段)、7 位置算出部(位置測位手段)、11 衛星位置・速度算出部(衛星位置特定手段、擬似距離変化率推定手段)、12 擬似距離変化推定部(擬似距離変化率推定手段)、13 速度算出部(擬似距離変化率推定手段)、14 擬似距離平滑化部(平滑化手段)。
【技術分野】
【0001】
この発明は、GPS衛星を利用して、自動車等の位置を測位するGPS受信機に関するものであり、特にGPS衛星と自動車等間の距離(擬似距離)を補正して、自動車等の位置を測位するGPS受信機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPSは、GPS衛星の位置を三角測量して、地上のGPS受信機の位置を計測する米国の測位システムである。
三角測量を行うには、3つ以上のGPS衛星の位置と、個々のGPS衛星とGPS受信機間の距離(以下、擬似距離と呼ぶ)とが必要になる。
GPS衛星の位置については、GPS受信機がGPS衛星から放送される航法メッセージを受信すれば、その航法メッセージに含まれている軌道情報から時々刻々の位置を把握することができる。
一方、擬似距離については、GPS衛星から放射された電波が地上に届く伝播時間τから算出することができる。
ただし、GPS受信機が伝播時間τを算出するには、GPS受信機の内蔵時計をGPSの時系である“GPS Time”に同期させる必要がある。
なお、測位計算に使用するGPS衛星の数が3つであれば、GPS受信機の3次元位置を計測することができる。また、GPS衛星の数が4つ以上になれば、さらにGPS受信機の内蔵時計を“GPS Time”に同期させることができる。
【0003】
擬似距離ρCτには、GPS衛星から放射された電波が電離層・対流圏を通過する際に生じる伝播遅延誤差δρion,δρtroと、地上のビル等に電波が反射することにより生じる誤差δρmp(以下、マルチパスと呼ぶ)と、GPS衛星が搭載している時計の誤差dTSATCとが含まれている。
これらの誤差が未補正な状態で擬似距離ρCτを測位計算に使用すると、測位結果である位置に誤差を生じるほか、GPS受信機の内蔵時計を“GPS Time”に上手く同期させることができなくなるので、電波伝搬遅延誤差とGPS衛星搭載時計誤差を除去する必要がある。
ρ=ρCτ+dTSATC−δρion−δρtro−δρmp [m] (1)
ただし、Cは光速である。
【0004】
ここで、GPS衛星が搭載している時計の誤差dTSATCと、電離層・対流圏を通過する際に生じる伝播遅延誤差δρion,δρtroについては、GPS衛星から放送される航法メッセージの中に補正モデルのパラメータが含まれており、また、地上のDGPS基準局が電離層・対流圏の通過時の伝搬遅延誤差補正データを観測し、DGPS基準局が伝搬遅延誤差補正データを放送するので、GPS受信機が補正モデルのパラメータや伝搬遅延誤差補正データを受信すれば、時計の誤差dTSATCや、電離層・対流圏を通過する際に生じる伝播遅延誤差δρion,δρtroを除去することができる。
【0005】
しかし、マルチパス誤差δρmpについては、GPS基準局において検出することが不可能であり、GPS受信機でも検出が困難である。このため、マルチパス誤差δρmpが位置精度を劣化させる最大の要因になる。
マルチパスなどの擬似距離誤差を低減して、測位精度を高めているGPS受信機が以下の特許文献1〜3に開示されている。
【0006】
以下の特許文献1では、GPS衛星と自動車の相対運動によるドップラー効果で搬送波周波数fL1[Hz]が偏位した周波数(以下、ドップラー偏位周波数fdopと呼ぶ)は、電波伝搬時間から求めていないために、擬似距離と比べて、マルチパスの影響(誤差)が少ないことを利用している。
即ち、特許文献1では、GPS衛星と自動車の相対運動によるドップラー偏位周波数fdop-estを算出する。式(2)において、V0はGPS衛星の進行方向に対する速度[m/s]、θ1はGPS衛星と自動車とを結ぶ線と、GPS衛星の進行方向とがなす角度[rad]である。
fdop-est=fL1V0cosθ1/(C−V0cosθ1) (2)
そして、GPS受信機により計測されたドップラー偏位周波数fdopと、GPS衛星と自動車の相対運動によるドップラー偏位周波数fdop-estとの差異が所定値以上になると、そのGPS衛星の擬似距離ρCτに大きなマルチパス誤差が含まれていると判断し、この擬似距離ρCτを測位計算に使用しないようにしている。
【0007】
以下の特許文献2では、DGPS基準局により観測された電離層・対流圏通過時の伝搬遅延誤差補正データがなくても、擬似距離の誤差を推定して、測位精度を高めるようにしている。
即ち、特許文献2では、下記の式(3)を用いて、GPS衛星と自動車の相対運動によるドップラー偏位周波数fdop-estを算出する。
fdop-est={LOSx(VSxi−VCxi)+LOSy(VSyi−VCyi)
+LOSz(VSzi−VCzi)}fL1/C [Hz] (3)
LOSx=(PSxi−PCxi)/R
LOSy=(PSyi−PCyi)/R
LOSz=(PSzi−PCzi)/R
R={(PSxi−PCxi)2+(PSyi−PCyi)2+(PSzi−PCzi)2}1/2
ただし、(PSxi,PSyi,PSzi)はGPS衛星の位置のxyz成分、(VSxi,VSyi,VSzi)はGPS衛星の速度のxyz成分、(PCxi,PCyi,PCzi)は自動車の位置のxyz成分、(VCxi,VCyi,VCzi)は自動車の速度のxyz成分である。
LOSは地上の自動車から上空のGPS衛星を見る視線方向ベクトル(line−of−site vector;LOS)である。
【0008】
そして、下記の式(4)(5)を用いて、GPS受信機により計測されたドップラー偏位周波数fdopと、GPS衛星と自動車の相対運動によるドップラー偏位周波数fdop-estとの差異から擬似距離ρCτiの誤差オフセット成分δρOFiと、擬似距離誤差δρiを算出する。
そして、下記の式(6)のように、擬似距離ρCτiから擬似距離誤差δρiを除去し、擬似距離誤差除去後の擬似距離ρiを測位計算に使用するようにする。
ρi=ρCτi−δρi (6)
【0009】
以下の特許文献3では、電離層誤差による影響を考慮したキャリアスムージングを実施することにより、測位精度を高めるようにしている。
具体的には、下記の通りである。
まず、キャリアスムージングは、下記の式(7)に示すように、搬送波位相(ドップラー偏位周波数fdopi)の積算値φiの差分(φi−φi-1)を用いて、電波伝播時間から計測された擬似距離ρCτiを平滑化(重み付け平均)する方法であり、このキャリアスムージングは、擬似距離の誤差が周期的に変動する場合に有効である。
ρSi=ρCτi/N+(N−1)/N{ρSi-1+(φi−φi-1)λΔT} [m]
(7)
ただし、Nはスムージングのサンプル数であり、通常100に設定される。λは搬送波の波長[m]、ΔTは測位インターバル時間[s]である。
【0010】
これに対して、特許文献3では、電離層誤差による影響を考慮したキャリアスムージングを実施することにより、測位精度を高めるようにしている。これは、電離層内では、搬送波が位相速度で伝搬し、真空中より位相が進む特性があることから、これを補正するために、DGPS補正データから電離層誤差による搬送波位相の変化量を求め、搬送波位相の積算値φiの差分を補正するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−118903号公報(段落番号[0022]から[0027]、図1)
【特許文献2】特開2000−186936号公報(段落番号[0018]から[0035]、図1)
【特許文献3】特開2002−196060号公報(段落番号[0012]から[0021]、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のGPS受信機は以上のように構成されているので、特許文献1では、マルチパス誤差を含んでいる擬似距離を測位計算に使用しないようにしている。そのため、電波受信可能なGPS衛星数が不足して、アベイラビリティが下がる課題があった。即ち、マルチパスが発生し易い市街地では、多くのビルなどが建設されているため、自動車上空の視界が狭められ、電波受信可能なGPS衛星数がもともと少ない。そのため、マルチパス誤差を含んでいる擬似距離を測位計算から除外すれば、最悪の場合、GPS衛星数が不足して位置を測位することができなくなることがある。
【0013】
また、特許文献2では、DGPS基準局により観測された電離層・対流圏通過時の伝搬遅延誤差補正データがなくても、擬似距離の誤差を推定するようにしているが、ドップラー偏位周波数に関するGPS受信機の計測値と推定値の差異は、マルチパスのように周期や大きさが不規則な誤差を反映するものでないため、大きなマルチパス誤差が発生したときには、擬似距離の誤差を除去することができず、大きな測位誤差が発生する課題があった。
【0014】
さらに、特許文献3では、電離層誤差による影響を考慮したキャリアスムージングを実施するが、マルチパス誤差を含む擬似距離を固定係数(1/N)分だけ用いる重み付け平均をしたところで、マルチパス誤差の1/Nが大きくなると、このマルチパス誤差が平滑化された擬似距離に残留して、擬似距離誤差が有色化する課題があった。なお、擬似距離誤差が有色化すると、測位位置に偏った誤差を生じる(位置の平均を求めても、偏った誤差が残る)。また、搬送波位相を長時間積算すると、搬送波位相の誤差が累積して、擬似距離誤差が有色化する。なお、搬送波位相の累積誤差を小さくしようとすれば、搬送波位相を高精度に計測することが可能な高価な回路が必要となる(安価なGPS受信機は精度が悪い)。
【0015】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、アベイラビリティの低下を招くことなく、擬似距離誤差を低減して、測位精度を高めることができるGPS受信機を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
複数のGPS衛星から放射された電波を受信する電波受信手段と、電波受信手段により受信された電波の放射元であるGPS衛星を識別して、そのGPS衛星の擬似距離と擬似距離変化率を計測するとともに、その電波に含まれている航法メッセージを抽出する信号処理手段と、信号処理手段により抽出された航法メッセージからGPS衛星の位置を特定する衛星位置特定手段と、信号処理手段が計測した擬似距離変化率により、該擬似距離変化率とともに計測した擬似距離を平滑化する平滑化手段と、該平滑化手段により平滑化された擬似距離と衛星位置特定手段により特定されたGPS衛星の位置から現在位置を測位する位置測位手段とを備え、平滑化手段は、信号処理手段が計測した第一の擬似距離と、該第一の擬似距離を計測する前に該信号処理手段が計測した第二の擬似距離との差分を求め、第一の擬似距離とともに信号処理手段が計測した第一の擬似距離変化率と差分との差異が、所定値より小さいかまたは該所定値と等しい場合、第二の擬似距離、第一の擬似距離および第一の擬似距離変化率から重み係数を求め、その重み係数に応じた擬似距離と擬似距離変化率の重み加算を用いて、第一の擬似距離を平滑化するものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、擬似距離の誤差が過大であると判断すると、信号処理部により今回計測された擬似距離を使用しないで、擬似距離の平滑化を実施するように構成したので、平滑化した擬似距離に大きな誤差が残留しなくなり、測位精度の劣化を防止することができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態1によるGPS受信機を示す構成図である。
【図2】この発明の実施の形態1によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
【図3】GPS衛星を利用した三角測量の原理を示す説明図である。
【図4】GPS衛星から放射された電波の誤差要因を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態2によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
【図6】この発明の実施の形態3によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
【図7】この発明の実施の形態4によるGPS受信機を示す構成図である。
【図8】この発明の実施の形態4によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
【図9】市街地を自動車で走行した際に安価なGPS受信機が計測した擬似距離の一例を示す説明図である。
【図10】市街地を自動車で走行した際に安価なGPS受信機が計測した擬似距離の差分と擬似距離変化率の一例を示す説明図である。
【図11】この発明の実施の形態4によるGPS受信機において、市街地を自動車で走行した際の擬似距離変化率を自動車が停車していると仮定して推定した結果の一例を示す説明図である。
【図12】この発明の実施の形態4によるGPS受信機において、市街地を自動車で走行した際の擬似距離変化率を自動車が走行していると仮定して推定した結果の一例を示す説明図である。
【図13】この発明の実施の形態4によるGPS受信機において、擬似距離を平滑化したことにより、安価なGPS受信機が計測した擬似距離の異常が修復された結果を示す説明図である。
【図14】この発明の実施の形態4によるGPS受信機において、擬似距離を平滑化したことにより、安価なGPS受信機が計測した擬似距離の誤差が低減した結果を示す説明図である。
【図15】この発明の実施の形態4によるGPS受信機において、GPS受信機が計測した擬似距離と擬似距離平滑化部により平滑化された擬似距離の差異を示す説明図である。
【図16】この発明の実施の形態4によるGPS受信機において、擬似距離を平滑化したことにより、各衛星の不均等な擬似距離の誤差が均等になった結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1によるGPS受信機を示す構成図であり、図において、GPSアンテナ1は例えば自動車に取り付けられるGPS受信機のアンテナであり、例えば、自動車の上空に位置する複数個のGPS衛星から放射された電波を受信する。なお、GPSアンテナ1は電波受信手段を構成している。
信号処理部2はGPSアンテナ1により受信された電波に含まれているGPS衛星のコードを参照して電波の放射元であるGPS衛星を識別し、GPS衛星毎にGPS衛星の擬似距離と擬似距離変化率を計測する処理を実施する。また、GPSアンテナ1により受信された電波からGPS衛星の軌道情報などが記述されている航法メッセージを抽出し、その航法メッセージや電波の受信時刻を出力する処理を実施する。なお、信号処理部2は信号処理手段を構成している。
【0020】
衛星位置算出部3は信号処理部2から出力された電波の受信時刻と航法メッセージ中の軌道情報(エフェメリスなど)を用いて、各GPS衛星の時々刻々の位置を算出する処理を実施する。なお、衛星位置算出部3は衛星位置特定手段を構成している。
擬似距離誤差算出部4は信号処理部2から出力された電波の受信時刻と航法メッセージ中の補正パラメータ(電離層通過時の擬似距離誤差の補正パラメータと、GPS衛星に搭載されている時計の誤差の補正パラメータ)などを用いて、各GPS衛星から放射された電波が大気中(電離層、対流圏)を通過する際に生じる擬似距離誤差と衛星搭載時計誤差を算出する処理を実施する。なお、擬似距離誤差算出部4は擬似距離誤差算出手段を構成している。
【0021】
擬似距離平滑化部5は信号処理部2により計測された擬似距離と擬似距離変化率から重み係数を求め、その重み係数に応じた擬似距離と擬似距離変化率の重み加算を実施して、各GPS衛星の擬似距離を平滑化する処理を実施する。なお、擬似距離平滑化部5は平滑化手段を構成している。
擬似距離誤差評価部6は信号処理部2により計測された擬似距離と擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離の誤差分散を算出する処理を実施する。なお、擬似距離誤差評価部6は誤差分散算出手段を構成している。
【0022】
位置算出部7は擬似距離誤差算出部4により算出された擬似距離誤差と擬似距離誤差評価部6により算出された擬似距離の誤差分散を用いて、擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離を補正し、補正後の擬似距離と衛星位置算出部3により算出されたGPS衛星の位置から自動車の現在位置を測位するとともに、擬似距離誤差算出部4により算出された衛星搭載時計誤差を用いて、GPS受信機が内蔵している時計誤差を算出する処理を実施する。なお、位置算出部7は位置測位手段を構成している。
図2はこの発明の実施の形態1によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
【0023】
次に動作について説明する。
信号処理部2は、GPSアンテナ1が自動車の上空に位置するGPS衛星から放射された電波を受信すると、例えば所定の測位周期(1Hz)毎に、GPSアンテナ1により受信された電波に含まれているGPS衛星のコードを参照して電波の放射元であるGPS衛星を識別する(図3、図4を参照)。
信号処理部2は、電波の放射元であるGPS衛星を識別すると、そのGPS衛星の擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiを計測し、その擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiを擬似距離平滑化部5及び擬似距離誤差評価部6に出力する。
また、信号処理部2は、GPSアンテナ1により受信された電波からGPS衛星の軌道情報などが記述されている航法メッセージを抽出し、その航法メッセージや電波の受信時刻を衛星位置算出部3及び擬似距離誤差算出部4に出力する。
【0024】
衛星位置算出部3は、信号処理部2から電波の受信時刻と航法メッセージを受けると、その電波の受信時刻と航法メッセージ中の軌道情報(エフェメリスなど)を用いて、各GPS衛星の時々刻々の位置を算出する(ステップST1)。
擬似距離誤差算出部4は、信号処理部2から電波の受信時刻と航法メッセージを受けると、電波の受信時刻と航法メッセージ中の補正パラメータ(電離層通過時の擬似距離誤差の補正パラメータ)などを用いて、各GPS衛星から放射された電波が大気中(電離層、対流圏)を通過する際に生じる擬似距離誤差を算出する(ステップST2)。
また、擬似距離誤差算出部4は、電波の受信時刻と航法メッセージ中の補正パラメータ(GPS衛星に搭載されている時計誤差の補正パラメータ)などを用いて、衛星搭載時計誤差を算出する(ステップST2)。
【0025】
擬似距離平滑化部5は、信号処理部2から擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiを受けると、下記の式(8)〜(10)を用いて、その擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの重み係数kを求める。
Δρratei=fdopiC/fL1 [m/s] (8)
ΔρCτi=(ρCτi−ρCτi-1)/Δt (9)
k=1/|ΔρCτi−Δρratei| (10)
ただし、fL1は搬送波周波数、fdopはドップラー偏位周波数、Cは光速、Δtは測位インターバル時間(例えば、1秒)である。
【0026】
擬似距離平滑化部5は、擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの重み係数kを求めると、下記の式(11)に示すように、その重み係数kに応じた擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの重み加算を実施して、各GPS衛星の擬似距離ρSiを平滑化する(ステップST3)。
ρSi=ρCτik+{ρSi-1+ΔρrateiΔt}(1−k) (11)
なお、擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの双方に誤差が含まれていない場合、擬似距離の差分ΔρCτiと擬似距離変化率Δρrateiは同じ値になる。
【0027】
擬似距離誤差評価部6は、擬似距離平滑化部5が各GPS衛星の擬似距離ρSiを平滑化すると、下記の式(12)に示すように、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiと、擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離ρSiの差分ΔδρCτiを求め、その差分ΔδρCτiの分散を擬似距離の誤差分散として計算する(ステップST4)。
ΔδρCτi=|ρCτi−ρSi| (12)
【0028】
位置算出部7は、自動車の位置を測位するのに必要なGPS衛星数だけ電波を受信できているか否かを確認(例えば、4衛星以上の電波を受信できているか否かを確認)するとともに、自動車の位置の収束計算の回数を確認する(ステップST5)。
【0029】
位置算出部7は、電波を受信できているGPS衛星の個数が4衛星以上であり、かつ、収束計算の回数が所定回数未満であれば、擬似距離誤差算出部4により算出された擬似距離誤差と擬似距離誤差評価部6により算出された擬似距離の誤差分散を用いて、擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離ρSiを補正し、補正後の擬似距離ρSiと衛星位置算出部3により算出されたGPS衛星の位置から自動車の現在位置PCを測位すると同時に、擬似距離誤差算出部4により算出された衛星搭載時計誤差を用いて、GPS受信機が内蔵している時計誤差を算出し、その時計誤差を信号処理部2に出力する(ステップST6)。
補正後のρSi=ρSi+dTSATC−δρion−δρtro [m] (13)
【0030】
即ち、位置算出部7は、下記の式(14)を用いて、自動車の現在位置PCを計算する。
ただし、(PCxi,PCyi,PCzi)は自動車の位置のxyz成分、(PSxi,PSyi,PSzi)はGPS衛星の位置のxyz成分、Aは航法行列、Wは擬似距離誤差の重み付き行列である。
【0031】
なお、信号処理部2は、位置算出部7により算出された時計誤差を受けると、電波の受信時刻を衛星位置算出部3や擬似距離誤差算出部4に出力する際、その時計誤差を考慮して、電波の受信時刻を補正することになる。
【0032】
位置算出部7は、上記のようにして、自動車の現在位置PCを測位すると、自動車の現在位置PCが収束しているか否かを判定し(ステップST7)、収束していれば、測位周期毎の動作を終了する。
一方、収束していなければ、ステップST1〜ST6の処理を繰り返し実施させる制御信号を衛星位置算出部3や擬似距離平滑化部5などに出力する。
なお、位置算出部7は、電波を受信できているGPS衛星の個数が4衛星未満、または、収束計算の回数が所定回数以上であれば、自動車の位置を測位することができないと判断して、測位周期毎の動作を終了する。
【0033】
以上で明らかなように、この実施の形態1によれば、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiから重み係数kを求め、その重み係数kに応じた擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの重み加算を実施して、その擬似距離ρCτiを平滑化する擬似距離平滑化部5を設け、その擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離ρSiと衛星位置算出部3により算出されたGPS衛星の位置から自動車の現在位置PCを測位するように構成したので、アベイラビリティの低下を招くことなく、擬似距離誤差を低減して、測位精度を高めることができる効果を奏する。
【0034】
即ち、この実施の形態1によれば、誤差の小さい擬似距離変化率Δρrateiを基準にして、擬似距離の差分ΔρCτiとの差異から擬似距離の誤差を求め、擬似距離の誤差に応じた重み係数kにしたがって、擬似距離変化率Δρrateiを用いて擬似距離ρCτiを平滑化するようにしたので、マルチパスが発生しても、平滑化した擬似距離ρSiにマルチパス誤差が残留することがなくなり(有色化しなくなる)、擬似距離誤差を低減することができる。このことは、測位誤差の低減につながる。
また、電波伝搬時間τから計測した擬似距離の誤差が小さい場合、この擬似距離を多く使うような重み係数kとなるため、擬似距離変化率Δρrateiを不必要に多用しなくなり、安価なGPS受信機を使用しても、精度の高い測位結果を得ることができる。
【0035】
また、この実施の形態1によれば、GPSアンテナ1により受信された電波の受信時刻と信号処理部2により抽出された航法メッセージから当該電波が大気中を通過する際に生じる擬似距離誤差を算出する擬似距離誤差算出部4を設け、位置算出部7が擬似距離誤差算出部4により算出された擬似距離誤差を用いて、擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離を補正し、補正後の擬似距離と衛星位置算出部3により算出されたGPS衛星の位置から自動車の現在位置PCを測位するように構成したので、電離層通過時の擬似距離誤差が大きくなっても、精度よく自動車の現在位置PCを測位することができる効果を奏する。
【0036】
また、この実施の形態1によれば、信号処理部2により計測された擬似距離と擬似距離平滑化部5により平滑化された擬似距離の誤差分散を算出する擬似距離誤差評価部6を設け、その擬似距離誤差評価部6により算出された擬似距離の誤差分散を用いて、自動車の現在位置PCを測位するように構成したので、マルチパスが大きくなっても、精度よく自動車の現在位置PCを測位することができる効果を奏する。
【0037】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiから重み係数kを求め、その重み係数kに応じた擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの重み加算を実施して、その擬似距離ρCτiを平滑化するものについて示したが、信号処理部2により前回計測された擬似距離ρCτi-1(第二の擬似距離)と今回計測された擬似距離ρCτi(第一の擬似距離)の差分と、信号処理部2により今回計測された擬似距離変化率Δρratei(第一の擬似距離変化率)との差異が所定値より大きい場合、今回計測された擬似距離ρCτiを使用しないで、擬似距離の平滑化を実施するようにしてもよい。
【0038】
具体的には、以下の通りである。
図5はこの発明の実施の形態2によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
なお、この実施の形態2では、擬似距離平滑化部5の処理内容のみが、上記実施の形態1と異なるので、擬似距離平滑化部5の処理内容のみを説明する。
【0039】
擬似距離平滑化部5は、GPS衛星の電波受信状況に応じて、擬似距離の平滑化方法を切替えるものであり、すべてのGPS衛星について、GPS衛星毎に行うものである。
即ち、擬似距離平滑化部5は、GPSアンテナ1が所定のGPS衛星から放射された電波を受信しているか否かを判定する(ステップST11)。
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星から放射された電波を受信していれば、さらに、連続受信であるか否かを判定する(ステップST12)。即ち、電波を途切れ途切れに受信している状況であるか否かを判定する。
【0040】
擬似距離平滑化部5は、途切れ途切れの受信ではなく、連続受信であれば、擬似距離誤差評価部6により計算された擬似距離の誤差分散が所定値以上であるか否かを判定し、その擬似距離の誤差分散が所定値以上であれば、擬似距離の誤差が過大であると判断する(ステップST13)。
即ち、擬似距離平滑化部5は、信号処理部2により前回計測された擬似距離ρCτi-1と今回計測された擬似距離ρCτiの差分と、信号処理部2により今回計測された擬似距離変化率Δρrateiとの差異が所定値より大きい場合、擬似距離の誤差が過大であると判断する。
擬似距離平滑化部5は、擬似距離の誤差が過大であると判断すると、下記の式(15)に示すように、信号処理部2により今回計測された擬似距離ρCτiを使用しないで、擬似距離の平滑化を実施する(ステップST14)。
ρSi=ρSi-1+ΔρrateiΔt (15)
擬似距離平滑化部5は、擬似距離の誤差が過大でないと判断すると、上記実施の形態1と同様に、式(11)を用いて、擬似距離の平滑化を実施する(ステップST15)。
【0041】
擬似距離平滑化部5は、途切れ途切れの受信である場合、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tを計測し、非受信時間tが所定時間を超えているか否かを判定する(ステップST16)。
擬似距離平滑化部5は、非受信時間tが所定時間に満たない場合、下記の式(16)に示すように、電波が途絶える前の擬似距離変化率Δρratei-tを用いて擬似距離の平滑化を再開する(ステップST17)。
ρSi=ρSi-t+Δρratei-tt (16)
擬似距離平滑化部5は、非受信時間tが所定時間を超えた後、同じGPS衛星の電波を再受信した場合、下記の式(17)に示すように、擬似距離の平滑値を初期化する(ステップST18)。
ρSi=ρCτi (17)
【0042】
擬似距離平滑化部5は、上記のようにして、擬似距離を平滑化すると、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tをゼロにして、測位周期毎の擬似距離の平滑化処理を終了する(ステップST19)。
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星から放射された電波を受信していなければ、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tを計測し、測位周期毎の擬似距離の平滑化処理を終了する(ステップST20)。
【0043】
以上で明らかなように、この実施の形態2によれば、擬似距離の誤差が過大であると判断すると、信号処理部2により今回計測された擬似距離ρCτiを使用しないで、擬似距離の平滑化を実施するように構成したので、平滑化した擬似距離に大きな誤差が残留しなくなり、測位精度の劣化を防止することができる効果を奏する。
【0044】
また、この実施の形態2によれば、GPSアンテナ1により受信されているGPS衛星の電波が途絶えたのち、同じGPS衛星から放射された電波が再受信された場合、その電波の遮断時間が所定時間より短ければ、電波が途絶える前の擬似距離変化率Δρratei-tを用いて擬似距離の平滑化を再開するように構成したので、再受信時に擬似距離の誤差が大きくなっても、平滑化した擬似距離の誤差が大きくならず、測位精度の劣化を防止することができる効果を奏する。
【0045】
また、この実施の形態2によれば、GPSアンテナ1により受信されているGPS衛星の電波が途絶えたのち、同じGPS衛星から放射された電波が再受信された場合、その電波の遮断時間が所定時間より長ければ、擬似距離の平滑値を初期化するように構成したので、擬似距離変化率を長時間積算することで、却って擬似距離誤差が大きくなることを未然に防止することができるようになり、その結果、電波受信が途切れがちとなり、従来のGPS受信機では、測位が間欠的又は測位精度が低下する場所でも、測位精度を高めることができる効果を奏する。
【0046】
実施の形態3.
上記実施の形態1では、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiから重み係数kを求め、その重み係数kに応じた擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiの重み加算を実施して、その擬似距離ρCτiを平滑化するものについて示したが、GPSアンテナ1により受信されているGPS衛星の電波が途絶えても、その電波が途絶えてから所定時間を経過するまでは、電波が途絶える前の擬似距離変化率を用いて擬似距離の平滑化を継続するようにしてもよい。
【0047】
具体的には、以下の通りである。
図6はこの発明の実施の形態3によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
なお、この実施の形態3では、擬似距離平滑化部5の処理内容のみが、上記実施の形態1と異なるので、擬似距離平滑化部5の処理内容のみを説明する。
【0048】
擬似距離平滑化部5は、GPS衛星の電波受信状況に応じて、擬似距離の平滑化方法を切替えるものであり、すべてのGPS衛星について、GPS衛星毎に行うものである。
即ち、擬似距離平滑化部5は、GPSアンテナ1が所定のGPS衛星から放射された電波を受信しているか否かを判定する(ステップST21)。
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星から放射された電波を受信していれば、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tが所定時間に到達しているか否かを判定する(ステップST22)。
【0049】
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tが所定時間に到達していなければ、擬似距離誤差評価部6により計算された擬似距離の誤差分散が所定値以上であるか否かを判定し、その擬似距離の誤差分散が所定値以上であれば、擬似距離の誤差が過大であると判断する(ステップST23)。
即ち、擬似距離平滑化部5は、信号処理部2により前回計測された擬似距離ρCτi-1と今回計測された擬似距離ρCτiの差分と、信号処理部2により今回計測された擬似距離変化率Δρrateiとの差異が所定値より大きい場合、擬似距離の誤差が過大であると判断する。
擬似距離平滑化部5は、擬似距離の誤差が過大であると判断すると、上記実施の形態2と同様に、式(15)を用いて、信号処理部2により今回計測された擬似距離ρCτiを使用しないで、擬似距離の平滑化を実施する(ステップST24)。
擬似距離平滑化部5は、擬似距離の誤差が過大でないと判断すると、上記実施の形態1と同様に、式(11)を用いて、擬似距離の平滑化を実施する(ステップST25)。
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tが所定時間を超えていれば、上記実施の形態2と同様に、式(17)を用いて、擬似距離の平滑値を初期化する(ステップST26)。
擬似距離平滑化部5は、上記のようにして、擬似距離を平滑化すると、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tをゼロにして、測位周期毎の擬似距離の平滑化処理を終了する(ステップST27)。
【0050】
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星から放射された電波を受信していなければ、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tを計測する(ステップST28)。
そして、擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tが所定時間に到達しているか否かを判定する(ステップST29)。
擬似距離平滑化部5は、所定のGPS衛星の電波が連続して非受信となっている時間tが所定時間に到達していなければ、下記の式(18)に示すように、電波が途絶える前の擬似距離変化率Δρratei-tを用いて擬似距離の平滑化を継続する(ステップST30)。
ρSi=ρSi-1+Δρratei-tΔt (18)
【0051】
以上で明らかなように、この実施の形態3によれば、擬似距離の誤差が過大であると判断すると、信号処理部2により今回計測された擬似距離ρCτiを使用しないで、擬似距離の平滑化を実施するように構成したので、平滑化した擬似距離に大きな誤差が残留しなくなり、測位精度の劣化を防止することができる効果を奏する。
【0052】
また、この実施の形態3によれば、GPSアンテナ1により受信されているGPS衛星の電波が途絶えても、その電波が途絶えてから所定時間を経過するまでは、電波が途絶える前の擬似距離変化率を用いて擬似距離の平滑化を継続するように構成したので、再受信時に擬似距離の誤差が大きくなっても、平滑化した擬似距離の誤差が大きくならず、測位精度の劣化を防止することができる効果を奏する。
なお、自動車の上空のGPS衛星数が4衛星未満の場合に、電波が途絶える前の擬似距離変化率を用いて擬似距離の平滑化を継続するようにすれば、電波受信が途切れがちとなり、測位が間欠的になっていた場所(例えば、市街地、橋の下)でも、自動車の位置を連続的に測位して、アベイラビリティを高めることができる効果を奏する。
【0053】
また、この実施の形態3によれば、GPSアンテナ1からの電波受信が長時間途絶えた場合、同じGPS衛星の電波を再受信した直後に擬似距離の平滑値を初期化するように構成したので、擬似距離変化率を長時間積算することで、却って擬似距離誤差が大きくなることを未然に防止することができるようになり、その結果、電波受信が途切れがちとなり、従来のGPS受信機では、測位が間欠的又は測位精度が低下する場所でも、測位精度を高めることができる効果を奏する。
【0054】
実施の形態4.
図7はこの発明の実施の形態4によるGPS受信機を示す構成図であり、図において、図1と同一符号は同一または相当部分を示すので説明を省略する。
衛星位置・速度算出部11は信号処理部2から出力された電波の受信時刻と航法メッセージ中の軌道情報(エフェメリスなど)を用いて、各GPS衛星の時々刻々の位置と速度を算出する処理を実施する。なお、衛星位置・速度算出部11は衛星位置特定手段を構成している。
擬似距離変化推定部12はGPS衛星に対する相対運動のドップラー効果を考慮して、衛星位置・速度算出部11により算出されたGPS衛星の位置及び速度と、速度算出部13により算出された自動車の速度と、位置算出部7により算出された自動車の位置とから擬似距離変化率を推定する処理を実施する。
【0055】
速度算出部13は衛星位置・速度算出部11により算出されたGPS衛星の位置や、位置算出部7により算出された自動車の位置などから自動車の速度を算出する処理を実施する。
なお、衛星位置・速度算出部11、擬似距離変化推定部12及び速度算出部13から擬似距離変化率推定手段が構成されている。
擬似距離平滑化部14は信号処理部2により計測された擬似距離と擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率から重み係数を求め、その重み係数に応じた擬似距離と擬似距離変化率の重み加算を実施して、各GPS衛星の擬似距離を平滑化する処理を実施する。擬似距離平滑化部14は平滑化手段を構成している。
図8はこの発明の実施の形態4によるGPS受信機の処理内容を示すフローチャートある。
【0056】
次に動作について説明する。
信号処理部2は、GPSアンテナ1が自動車の上空に位置するGPS衛星から放射された電波を受信すると、例えば所定の測位周期(1Hz)毎に、GPSアンテナ1により受信された電波に含まれているGPS衛星のコードを参照して電波の放射元であるGPS衛星を識別する(図3、図4を参照)。
信号処理部2は、電波の放射元であるGPS衛星を識別すると、そのGPS衛星の擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρrateiを計測し、その擬似距離ρCτiを擬似距離平滑化部14及び擬似距離誤差評価部6に出力する。また、その擬似距離変化率Δρrateiを速度算出部13に出力する。
また、信号処理部2は、上記実施の形態1と同様に、GPSアンテナ1により受信された電波からGPS衛星の軌道情報などが記述されている航法メッセージを抽出し、その航法メッセージや電波の受信時刻を衛星位置算出部3及び擬似距離誤差算出部4に出力する。
【0057】
衛星位置・速度算出部11は、信号処理部2から電波の受信時刻と航法メッセージを受けると、その電波の受信時刻と航法メッセージ中の軌道情報(エフェメリスなど)を用いて、各GPS衛星の時々刻々の位置と速度を算出する(ステップST31)。
擬似距離誤差算出部4は、信号処理部2から電波の受信時刻と航法メッセージを受けると、上記実施の形態1と同様に、電波の受信時刻と航法メッセージ中の補正パラメータ(電離層通過時の擬似距離誤差の補正パラメータ)などを用いて、各GPS衛星から放射された電波が大気中(電離層、対流圏)を通過する際に生じる擬似距離誤差を算出する(ステップST32)。
また、擬似距離誤差算出部4は、電波の受信時刻と航法メッセージ中の補正パラメータ(GPS衛星に搭載されている時計の誤差の補正パラメータ)などを用いて、衛星搭載時計誤差を算出する(ステップST32)。
【0058】
速度算出部13は、下記の式(19)(20)に示すように、衛星位置・速度算出部11により算出されたGPS衛星の位置PSや、位置算出部7により算出された自動車の位置PCなどから自動車の速度VCを算出する。
【0059】
擬似距離変化推定部12は、速度算出部13が自動車の速度VCを算出すると、下記の式(21)に示すように、GPS衛星に対する相対運動のドップラー効果を考慮して、衛星位置・速度算出部11により算出されたGPS衛星の位置PS及び速度VSと、速度算出部13により算出された自動車の速度VCと、位置算出部7により算出された自動車の位置PCとから擬似距離変化率Δρratei-miを推定する(ステップST33)。
Δρratei-mi={LOSxi(VSxi−VCxi)+LOSyi(VSyi−VCyi)
+LOSzi(VSzi−VCzi)} [m/s] (21)
LOSxi=(PSxi−PCxi)/R
LOSyi=(PSyi−PCyi)/R
LOSzi=(PSzi−PCzi)/R
R={(PSxi−PCxi)2+(PSyi−PCyi)2+(PSzi−PCzi)2}1/2
【0060】
擬似距離平滑化部14は、信号処理部2から擬似距離ρCτiを受けて、擬似距離変化推定部12から擬似距離変化率Δρratei-miを受けると、下記の式(22)〜(24)を用いて、その擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρratei-miの重み係数kを求める。
Δρratei-mi=fdopiC/fL1 [m/s] (22)
ΔρCτi=(ρCτi−ρCτi-1)/Δt (23)
k=1/|ΔρCτi−Δρratei-mi| (24)
ただし、fL1は搬送波周波数、fdopはドップラー偏位周波数、Cは光速、Δtが測位インターバル時間(例えば、1秒)である。
【0061】
擬似距離平滑化部14は、擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρratei-miの重み係数kを求めると、下記の式(25)に示すように、その重み係数kに応じた擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρratei-miの重み加算を実施して、各GPS衛星の擬似距離ρSiを平滑化する(ステップST34)。
ρSi=ρCτik+{ρSi-1+Δρratei-miΔt}(1−k) (25)
なお、擬似距離ρCτiと擬似距離変化率Δρratei-miの双方に誤差が含まれていない場合、擬似距離の差分ΔρCτiと擬似距離変化率Δρratei-miは同じ値になる。
【0062】
擬似距離誤差評価部6は、擬似距離平滑化部14が各GPS衛星の擬似距離ρSiを平滑化すると、上記実施の形態1と同様に、式(12)を用いて、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiと、擬似距離平滑化部14により平滑化された擬似距離ρSiの差分ΔδρCτiを求め、その差分ΔδρCτiの分散を擬似距離の誤差分散として計算する(ステップST35)。
【0063】
位置算出部7は、上記実施の形態1と同様に、自動車の位置を測位するのに必要なGPS衛星数だけ電波を受信できているか否かを確認(例えば、4衛星以上の電波を受信できているか否かを確認)するとともに、自動車の位置の収束計算の回数を確認する(ステップST36)。
【0064】
位置算出部7は、電波を受信できているGPS衛星の個数が4衛星以上であり、かつ、収束計算の回数が所定回数未満であれば、上記実施の形態1と同様に、擬似距離誤差算出部4により算出された擬似距離誤差と擬似距離誤差評価部6により算出された擬似距離の誤差分散を用いて、擬似距離平滑化部14により平滑化された擬似距離ρSiを補正し、補正後の擬似距離ρSiと衛星位置・速度算出部11により算出されたGPS衛星の位置から自動車の速度と現在位置PCを測位する(ステップST37,ST38)。
また、位置算出部7は、擬似距離誤差算出部4により算出された衛星搭載時計誤差を用いて、GPS受信機が内蔵している時計誤差を算出し、その時計誤差を信号処理部2に出力する。
これにより、信号処理部2は、電波の受信時刻を衛星位置・速度算出部11や擬似距離誤差算出部4に出力する際、位置算出部7により算出された時計誤差を考慮して、電波の受信時刻を補正することになる。
【0065】
位置算出部7は、上記のようにして、自動車の現在位置PCを測位すると、自動車の現在位置PCが収束しているか否かを判定し(ステップST39)、収束していれば、測位周期毎の動作を終了する。
一方、収束していなければ、ステップST31〜ST38の処理を繰り返し実施させる制御信号を衛星位置・速度算出部11や擬似距離平滑化部5などに出力する。
なお、位置算出部7は、電波を受信できているGPS衛星の個数が4衛星未満、または、収束計算の回数が所定回数以上であれば、自動車の位置を測位することができないと判断して、測位周期毎の動作を終了する。
【0066】
以上で明らかなように、この実施の形態4によれば、下記に示す効果が得られる。
即ち、この実施の形態4では、重み付き最小二乗法で自動車位置を収束計算する過程で、擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率と自動車速度が徐々に正確になり、自動車位置が収束した時点では、GPS衛星毎の擬似距離誤差変化率の誤差が均等になる。また、擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率を用いて平滑化された擬似距離も同様に、GPS衛星毎の擬似距離の誤差が均等になる。
このような擬似距離を用いて擬似距離誤差を求めるので、GPS受信機により計測された擬似距離の誤差をより正確に検出することができる。
このような擬似距離を用いて自動車の位置計算を行えば、擬似距離誤差の大きさが大幅に小さくなるだけでなく、三角測量の原理で算出した自動車位置の3次元空間の重心が、より正確な自動車の位置を示すようになる(測位精度が向上する)。
【0067】
なお、この実施の形態4では、擬似距離変化率又は自動車速度を用いて、自動車位置を算出していないが、拡張カルマンフィルタなどで、擬似距離変化率又は自動車速度を用いて、自動車位置を算出するようにしてもよい。
また、この実施の形態4では、式(19)又は式(21)で擬似距離変化率を推定する際に、GPS測位で算出した自動車位置と自動車速度を使用しているが、例えば、GPS受信機をカーナビなどに組み込んで使用する場合には、自律測位やマップマッチングで算出した位置や速度を適宜使うように切り替えることで、マルチパスの影響をさらに軽減したり、GPS衛星の電波受信状態が悪い場所でも、自動車の位置や速度を連続して計測したりすることができる。また、高い精度を安定して維持することができる効果があるなど、測位精度をさらに向上するための拡張性を有する。
【0068】
ここで、この実施の形態4の効果を実際の信号を用いて説明する。
安価なGPS受信機を自動車に搭載して市街地を走行する場合、GPSアンテナ1により受信された複数個のGPS衛星の電波の中には、異常を含む擬似距離ρCτがある(図9を参照)。同じGPS衛星の擬似距離変化率Δρrateについては、擬似距離ρCτが異常となった同じ時間帯に、程度は小さいが異常を生じる(図10を参照)。
図10には、擬似距離の差分ΔρCτを擬似距離変化率Δρrateと合わせてグラフ化しているが、擬似距離変化率Δρrateと比較すれば、擬似距離ρCτの変動が大きいことがわかる。このような擬似距離ρCτと擬似距離変化率ΔρrateがGPS受信機から出力された場合には、従来の方法では、次のような問題がある。
【0069】
上記の特許文献1では、この擬似距離ρCτが、マルチパス誤差が大きいと判断されて測位計算に使われないことが多発する。これは測位に使用できるGPS衛星数の低下、さらには測位できないことにつながる。
擬似距離変化率Δρrateには、擬似距離ρCτと同じ誤差が生じていないので、上記の特許文献2の方法では、擬似距離ρCτの大きな誤差を検出できない。これは測位精度の低下につながる。
上記の特許文献3であれば、平滑化した擬似距離にマルチパス誤差が残留して擬似距離誤差が有色化する。これは測位精度の低下につながる。
【0070】
これに対して、この実施の形態4では、次のような効果が得られる。
式(19)より、図10で擬似距離変化率が異常である時間帯を含めて、自動車が停車していた場合の擬似距離変化率Δρrate-siを高精度に推定することができる(図11を参照)。
また、擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率Δρrate-siは、複数個のGPS衛星と自動車の相対運動より算出したものなので、他のGPS衛星の擬似距離変化率についても、同様に推定することができる。
擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率Δρrate-siを用いれば、図示していないが、式(20)により、自動車速度も高精度に算出することができる。
【0071】
式(21)により、図10で擬似距離変化率が異常である時間帯を含めて、走行中の自動車の擬似距離変化率Δρrate-miを高精度に推定することができる(図12を参照)。
また、擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率Δρrate-miは、複数個のGPS衛星と自動車の相対運動より算出したものなので、他のGPS衛星の擬似距離変化率についても、同様に推定することができる。
擬似距離変化推定部12により推定された擬似距離変化率Δρrate-miを基準にすれば、下記の式(26)に示すように、信号処理部2により計測された擬似距離変化率Δρrateの誤差も検出することができる。
δΔρrate=|Δρrate−Δρrate-mi| [m/s] (26)
【0072】
式(21)による擬似距離変化率Δρrate-miを用いて、擬似距離平滑化部14が擬似距離を平滑化すると、その擬似距離の異常を修復することができる(図13を参照)。
擬似距離平滑化部14により平滑化された擬似距離ρsiの差分ΔρSiと、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiの差分ΔρCτiを比較すれば、図14より、平滑化された擬似距離ρSiの誤差が大幅に低減したことがわかる。
式(21)による擬似距離変化率Δρrate-miと比較すれば、平滑化された擬似距離ρSiに約10m以下で変動する誤差が残っているが、この誤差は、下記の式(27)により検出することができる。
δΔρSi=|ΔρSi−Δρrate-mi| [m/s] (27)
【0073】
擬似距離平滑化部14により平滑化された擬似距離ρSiと、信号処理部2により計測された擬似距離ρCτiとの差異(図15を参照)を見れば、図9の異常やマルチパスの影響で、両擬似距離の差異が大きく発生することがあるが、両擬似離の差異に偏向した誤差はない(有色化していない)。
自動車上空の複数個のGPS衛星(PRN:5,6,9,14,18,22,25,30)について、式(21)で推定した擬似距離変化率Δρrate-miを基準にして、擬似距離ρCτiの差分ΔρCτiとの差異、平滑化した擬似距離ρSiの差分ΔρSiとの差異のそれぞれの標準偏差を計算すれば、擬似距離平滑化部14により平滑化された擬似距離ρSiには、各GPS衛星の不均等な擬似距離誤差が均等になる改善効果があることがわかる。なお、図中において、平滑化なしの欄は、下記の式(28)、平滑化ありの欄は上記の式(27)の結果である。
δΔρCτi=|ΔρCτi−Δρrate-mi| [m/s] (28)
【符号の説明】
【0074】
1 GPSアンテナ(電波受信手段)、2 信号処理部(信号処理手段)、3 衛星位置算出部(衛星位置特定手段)、4 擬似距離誤差算出部(擬似距離誤差算出手段)、5 擬似距離平滑化部(平滑化手段)、6 擬似距離誤差評価部(誤差分散算出手段)、7 位置算出部(位置測位手段)、11 衛星位置・速度算出部(衛星位置特定手段、擬似距離変化率推定手段)、12 擬似距離変化推定部(擬似距離変化率推定手段)、13 速度算出部(擬似距離変化率推定手段)、14 擬似距離平滑化部(平滑化手段)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のGPS衛星から放射された電波を受信する電波受信手段と、
上記電波受信手段により受信された電波の放射元であるGPS衛星を識別して、そのGPS衛星の擬似距離と擬似距離変化率を計測するとともに、その電波に含まれている航法メッセージを抽出する信号処理手段と、
上記信号処理手段により抽出された航法メッセージからGPS衛星の位置を特定する衛星位置特定手段と、
上記信号処理手段が計測した擬似距離変化率により、該擬似距離変化率とともに計測した擬似距離を平滑化する平滑化手段と、
該平滑化手段により平滑化された擬似距離と上記衛星位置特定手段により特定されたGPS衛星の位置から現在位置を測位する位置測位手段とを備え、
上記平滑化手段は、上記信号処理手段が計測した第一の擬似距離と、該第一の擬似距離を計測する前に該信号処理手段が計測した第二の擬似距離との差分を求め、上記第一の擬似距離とともに上記信号処理手段が計測した第一の擬似距離変化率と上記差分との差異が、所定値より小さいかまたは該所定値と等しい場合、上記第二の擬似距離、上記第一の擬似距離および上記第一の擬似距離変化率から重み係数を求め、その重み係数に応じた擬似距離と擬似距離変化率の重み加算を用いて、上記第一の擬似距離を平滑化するGPS受信機。
【請求項1】
複数のGPS衛星から放射された電波を受信する電波受信手段と、
上記電波受信手段により受信された電波の放射元であるGPS衛星を識別して、そのGPS衛星の擬似距離と擬似距離変化率を計測するとともに、その電波に含まれている航法メッセージを抽出する信号処理手段と、
上記信号処理手段により抽出された航法メッセージからGPS衛星の位置を特定する衛星位置特定手段と、
上記信号処理手段が計測した擬似距離変化率により、該擬似距離変化率とともに計測した擬似距離を平滑化する平滑化手段と、
該平滑化手段により平滑化された擬似距離と上記衛星位置特定手段により特定されたGPS衛星の位置から現在位置を測位する位置測位手段とを備え、
上記平滑化手段は、上記信号処理手段が計測した第一の擬似距離と、該第一の擬似距離を計測する前に該信号処理手段が計測した第二の擬似距離との差分を求め、上記第一の擬似距離とともに上記信号処理手段が計測した第一の擬似距離変化率と上記差分との差異が、所定値より小さいかまたは該所定値と等しい場合、上記第二の擬似距離、上記第一の擬似距離および上記第一の擬似距離変化率から重み係数を求め、その重み係数に応じた擬似距離と擬似距離変化率の重み加算を用いて、上記第一の擬似距離を平滑化するGPS受信機。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−53223(P2011−53223A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−258962(P2010−258962)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【分割の表示】特願2005−147083(P2005−147083)の分割
【原出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【分割の表示】特願2005−147083(P2005−147083)の分割
【原出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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