説明

GlcNAcMan5Man3GlcNAc2グリコフォームを支配的に含む免疫グロブリン

本発明は、特定エフェクター機能を与える、免疫グロブリン糖タンパク質の支配的グリコフォーム構造を有する免疫グロブリン糖タンパク質組成物に関する。加えて、本発明は、特定の富化N−グリカン構造を有する抗体を含み、前記N−グリカン構造がGlcNAcMan5GlcNAc2である医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2004年7月21日出願の米国特許仮出願第60/589,988号及び2004年7月21日出願の米国特許仮出願第60/589,981号の優先権を主張するものであり、及び2000年6月28日出願の米国特許仮出願第60/214,358号、2000年6月30日出願の米国特許仮出願第60/215,638号及び2001年3月30日出願の米国特許仮出願第60/279,997号の優先権を主張する、2001年6月27日出願の米国特許出願第09/892,591号の一部継続出願である、2003年2月20日出願の米国特許出願第10/371,877号の一部継続出願である。上記で引用する特許出願の各々は、その全体が参照してここに組み込まれる。
【0002】
本発明は、特異的N結合グリコシル化パターンを有する糖タンパク質を生産するための組成物及び方法に関する。特に、本発明は、特異的N−グリカン構造を有する複数のN−グリカンを含む免疫グロブリン糖タンパク質の組成物に関し、より特定すると、複数のN−グリカン内に、特定エフェクター機能を調節する、例えば促進する、免疫グロブリン上の1又はそれ以上の支配的グリコフォーム構造が存在する免疫グロブリン糖タンパク質を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
糖タンパク質は、触媒作用、シグナル伝達、細胞間連絡、及び分子認識と会合を含む、ヒト及び他の哺乳動物における多くの重要な機能を媒介する。糖タンパク質は真核生物における非サイトゾルタンパク質の大部分を構成する(Lis and Sharon, 1993, Eur. J. Biochem. 218:1-27)。多くの糖タンパク質が治療目的に利用されており、この20年間、天然に生じる糖タンパク質の組換え型がバイオテクノロジー産業の主要部分となってきた。治療薬として使用される組換えグリコシル化タンパク質の例は、エリスロポエチン(EPO)、治療用モノクローナル抗体(mAb)、組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)、インターフェロン−β(IFN−β)、顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、及びヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCH)(Cumming et al., 1991, Glycobiology 1:115-130)を含む。潜在的予防薬及び治療薬として生産された組換えタンパク質が臨床段階に近づいているので、組換え生産された糖タンパク質のグリコシル化パターンの変動性は近年科学界で注目の対象となっている。
【0004】
抗体又は免疫グロブリン(Ig)は、体液性免疫応答において中心的役割を果たす糖タンパク質である。抗体は、体液と細胞の防御機構の間の連結をもたらすアダプター分子とみなし得る。抗体による抗原特異的認識は、多数のエフェクター機構を活性化し得る免疫複合体の形成をもたらし、複合体の除去と破壊を生じさせる。免疫グロブリンの一般的クラスの中で、5つのクラスの抗体−IgM、IgD、IgG、IgA及びIgE−が生化学的並びに機能的に区別でき、可変領域に限定されるより微妙な差異が抗原結合の特異性の原因となる。これら5つのクラスのIgの中で、ラムダ(λ)及びカッパ(κ)と称される2種類だけの軽鎖が存在する。λ鎖又はκ鎖を有する抗体の間で機能的な相違は認められず、2種類の軽鎖の比は種によって異なる。5つの重鎖クラス又はアイソタイプが存在し、これらは抗体分子の機能的活性を決定する。免疫グロブリンの5つの機能的クラスは:免疫グロブリンM(IgM)、免疫グロブリンD(IgD)、免疫グロブリンG(IgG)、免疫グロブリンA(IgA)及び免疫グロブリンE(IgE)である。各々のアイソタイプは免疫応答において特定の機能を有し、それらの独特の機能的性質は、軽鎖と結合していない、重鎖のカルボキシ末端部分によって付与される。IgGは血漿中で最も豊富な免疫グロブリンアイソタイプである(例えばImmunobiology, Janeway et al, 6th Edition, 2004, Garland Publishing, New York参照)。
【0005】
免疫グロブリンG(IgG)分子は、定常及び可変領域を有するFab(抗原結合フラグメント)ドメイン及びFc(結晶化フラグメント)ドメインを含む。各々の重鎖のCH2ドメインは、N−グリカンをIg分子に連結するアスパラギン残基、通常は残基Asn−297にN結合グリコシル化のための単一部位を含む(Kabat et al., Sequences of proteins of immunological interest, Fifth Ed., U.S. Department of Health and Human Services, NIH Publication No. 91- 3242)。
【0006】
N結合オリゴ糖の構造及び機能的態様の分析は、3つの主たる理由から生物学的関心の対象である:(1)CH2ドメインのグリコシル化は進化を通じて保存されており、前記オリゴ糖の重要な役割を示唆する;(2)免疫グロブリン分子はオリゴ糖の異質性の分析のためのモデル系として役立つ(Rademacher and Dwek, 1984; Rademacher et al., 1982);及び(3)抗体は、2個のオリゴ糖単位を互いに直接接触させて位置づける2本の重鎖の二量体会合を含むので、免疫グロブリン分子は特異的タンパク質−炭水化物及び炭水化物−炭水化物相互作用の両方を含む。
【0007】
Igの異なるグリコシル化パターンは異なる生物学的性質に結びつくことが示された (Jefferis and Lund, 1997, Antibody Eng. Chem. Immunol., 65: 111-128; Wright and Morrison, 1997, Trends Biotechnol, 15: 26-32)。しかし、ほんのわずかな特定グリコフォームだけが所望の生物学的機能を付与することが知られている。例えばN結合グリカンの低いフコシル化を有する免疫グロブリン組成物は、ヒトFcγRIIIへの高い結合を有し、それ故高い抗体依存性細胞傷害(ADCC)を有することが報告されている (Shields et al, 2002, J. Biol Chem, 277: 26733-26740; Shinkawa et al, 2003, J. Biol. Chem. 278: 3466-3473)。また、CHO細胞中で作られるフコシル化G2(Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2)IgGの組成物は、報告によれば、異種抗体の組成物よりも大きな度合で補体依存性細胞傷害(CDC)活性を上昇させる(Raju、2004年、米国特許出願第2004/0136986号)。また、腫瘍に対する最適抗体は、Fc受容体(FcγRI、FcγRIIa、FcγRIII)に選択的に結合して活性化し、阻害性FcγRIIb受容体に最小限に結合するものであることが示唆されてきた(Clynes et al, 2000, Nature, 6:443-446)。それ故、Ig糖タンパク質の特定グリコフォームを富化する能力は極めて望ましい。
【0008】
一般に、糖タンパク質のグリコシル化構造(オリゴ糖)は、発現宿主及び培養条件に依存して変化する。非ヒト宿主細胞において生産される治療タンパク質は、ヒトにおいて免疫原性応答を惹起し得る非ヒトグリコシル化、例えば酵母における高マンノシル化(Ballou, 1990, Methods Enzymol. 185:440-470);植物におけるα(1,3)−フコース及びβ(1,2)−キシロース(Cabanes-Macheteau et al., 1999, Glycobiology, 9: 365-372);チャイニーズハムスター卵巣細胞におけるN−グリコリルノイラミン酸(Noguchi et al., 1995. J. Biochem. 117: 5-62)及びマウスにおけるGalα−1,3Galグリコシル化 (Borrebaeck et al, 1993,Immun. Today, 14: 477-479)を含む可能性が高い。さらに、ガラクトシル化は細胞培養条件によって異なることがあり、一部の免疫グロブリン組成物を、それらの特定ガラクトースパターンに依存して免疫原性にし得る(Patel et al, 1992. Biochem J. 285: 839-845)。非ヒト哺乳動物細胞によって生産される糖タンパク質のオリゴ糖構造は、ヒト糖タンパク質のものとより密接に関連する傾向がある。それ故、大部分の市販の免疫グロブリンは哺乳動物細胞において生産される。しかし、哺乳動物細胞は、タンパク質生産のための宿主細胞としていくつかの重大な難点を有する。コストがかかることに加えて、哺乳動物細胞においてタンパク質を発現するための工程は、グリコフォームの不均一な個体群を生産し、容積力価が低く、継続的なウイルスの封じ込めと安定な細胞系を生成するための多大の時間の両方を必要とする。
【0009】
種々のグリコフォームが、薬物動態、薬力学、受容体相互作用及び組織特異的ターゲティングを含む、治療薬の性質に深く影響し得ることは了解されている(Graddis et al., 2002, Curr Pharm Biotechnol. 3: 285-297)。特に、抗体に関して、オリゴ糖構造は、プロテアーゼ耐性に関する性質、FcRn受容体によって媒介される抗体の血清半減期、補体依存性細胞傷害(CDC)を誘導する、補体複合体C1への結合、及び抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)経路、食作用及び抗体フィードバックを調節する役割を担うFcγR受容体への結合に影響を及ぼし得る(Nose and Wigzell, 1983; Leatherbarrow and Dwek, 1983; Leatherbarrow et al.,1985; Walker et al., 1989; Carter et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Set USA, 89: 4285-4289)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
異なるグリコフォームは異なる生物学的性質に結びつくので、1又はそれ以上の特定グリコフォームを富化する能力は、特定グリコフォームと特定生物学的機能の間の関係を明らかにするために使用できる。所望生物学的機能を特定グリコフォームパターンに結びつけた後、好都合なグリコフォーム構造を富化した糖タンパク質組成物を生産することができる。それ故、特定グリコフォームが富化された糖タンパク質組成物を生産できることは極めて望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、複数の免疫グロブリンを含む組成物であって、各々の免疫グロブリンがそれに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それによって組成物が、支配的N−グリカンが本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含む、前記組成物を提供する。好ましい実施形態では、前記複数のN−グリカンの50モルパーセント以上が本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る。より好ましくは、前記複数のN−グリカンの75モルパーセント以上が本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る。最も好ましくは、前記複数のN−グリカンの90パーセント以上が本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る。他の好ましい実施形態では、前記GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカン構造は、前記複数のN−グリカンのその次に最も支配的なN−グリカン構造よりも多い約5モルパーセントから約50モルパーセント多いレベルで存在する。
【0012】
本発明はまた、免疫グロブリンの特定グリコフォーム(例えばGlcNAcMan5GlcNAc2)を富化することによってFcγRIIIa及びFcγRIIIb受容体への結合を上昇させ、FcγRIIb受容体への結合を低下させるための方法を提供する。好ましい実施形態は、複数の免疫グロブリンを含む組成物を生産するための方法であって、各々の免疫グロブリンがそれに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、組成物が、支配的N−グリカンが本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含み、前記免疫グロブリン又はそのフラグメントを発現するように工作又は選択された宿主細胞を培養する工程を含む、前記方法を提供する。もう1つの好ましい実施形態は、複数の免疫グロブリンを含む組成物を生産するための方法であって、各々の免疫グロブリンがそれに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、組成物が、支配的N−グリカンが本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含み、前記免疫グロブリン又はそのフラグメントを発現するように工作又は選択された下等真核宿主細胞を培養する工程を含む、前記方法を提供する。本発明の他の実施形態では、宿主細胞は免疫グロブリン又はそのフラグメントをコードする外来性遺伝子を含み、前記宿主細胞は、前記免疫グロブリン又はそのフラグメントを発現するように工作又は選択されており、それによって複数の免疫グロブリンを含む組成物を生産し、各々の免疫グロブリンはそれに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、組成物は、支配的N−グリカンが本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含む。本発明のさらなる他の実施形態では、下等真核宿主細胞は、免疫グロブリン又はそのフラグメントをコードする外来性遺伝子を含み、前記宿主細胞は、前記免疫グロブリン又はそのフラグメントを発現するように工作又は選択されており、それによって複数の免疫グロブリンを含む組成物を生産し、各々の免疫グロブリンはそれに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、組成物は、支配的N−グリカンが本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含む。
【0013】
本発明の好ましい実施形態では、複数の免疫グロブリンを含む組成物であって、各々の免疫グロブリンがそれに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それによって組成物が、支配的N−グリカンが本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含み、前記免疫グロブリンがFcγRIIb受容体に対して低い結合親和性を示す、前記組成物。本発明の他の好ましい実施形態では、複数の免疫グロブリンを含む組成物であって、各々の免疫グロブリンがそれに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それによって組成物が、支配的N−グリカンが本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含み、前記免疫グロブリンがFcγRIIIa及びFcγRIIIb受容体に対して高い結合親和性を示す、前記組成物。本発明のさらにもう1つの好ましい実施形態では、複数の免疫グロブリンを含む組成物であって、各々の免疫グロブリンがそれに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それによって組成物が、支配的N−グリカンが本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含み、前記免疫グロブリンが高い抗体依存性細胞傷害(ADCC)を示す、前記組成物。
【0014】
1つの実施形態では、本発明の組成物は、本質的にフコースを含まない免疫グロブリンを含む。もう1つの実施形態では、本発明の組成物は、フコースを欠く免疫グロブリンを含む。本発明の組成物はまた、医薬組成物と製薬上許容される担体を含む。本発明の組成物はまた、精製され、診断キットに組み込まれた免疫グロブリンの医薬組成物を含む。
【0015】
従って、本発明は、あらかじめ定められたグリコシル化構造を有する糖タンパク質、特に、本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成るN−グリカンを有する免疫グロブリン又は抗体分子の組成物の生産のための材料及び方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本文中で異なる定義が為されない限り、本発明に関して使用する学術的及び技術的用語及び語句は、当業者によって一般的に理解されている意味を有するものとする。さらに、文脈から異なる要求がない限り、単数用語は複数用語を包含し、複数用語は単数用語を包含する。一般に、ここで述べる生化学、酵素学、分子及び細胞生物学、微生物学、遺伝学、及びタンパク質及び核酸化学及びハイブリダイゼーションに関して使用する命名法及び手法は、当技術分野において周知であり、一般的に使用されるものである。本発明のための方法及び手法は、異なる指示がない限り、一般に、当技術分野において周知の従来の方法に従って、及び本明細書を通じて引用し、論じる種々の一般的な及びより特定の参考文献において述べられているように実施される。例えばSambrook et al. Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y. (1989); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates (1992, and Supplements to 2002); Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y. (1990); Taylor and Drickamer, Introduction to Glycobiology, Oxford Univ. Press (2003); Worthington Enzyme Manual, Worthington Biochemical Corp., Freehold, NJ; Handbook of Biochemistry: Section A Protems, Vol I, CRC Press (1976); Handbook of Biochemistry: Section A Proteins, Vol II, CRC Press (1976); Essentials of Glycobiology, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1999); Immunobiology, Janeway et al, 6th Edition, 2004, Garland Publishing, New York参照。
【0017】
ここで言及する全ての刊行物、特許及び他の参考文献は、それらの全体が参照してここに組み込まれる。
【0018】
以下の用語は、異なる指示がない限り、以下の意味を有すると理解される:
【0019】
ここで使用する、「N−グリカン」、「グリカン」及び「グリコフォーム」という用語は、交換可能に使用され、N結合オリゴ糖、例えばタンパク質中のアスパラギン残基のアミド窒素に連結されたN−アセチルグルコサミン残基によって結合されている又は結合されていたものを指す。糖タンパク質上に認められる主要な糖は、グルコース、ガラクトース、マンノース、フコース、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)及びシアル酸(例えばN−アセチル−ノイラミン酸(NANA))である。糖群のプロセシングはERの管腔内で共翻訳的に起こり、N結合糖タンパク質についてはゴルジ装置で継続される。
【0020】
N−グリカンは、Man3GlcNAc2(「Man」はマンノースを指し、「Glc」はグルコースを指し、「NAc」はN−アセチルを指し、GlcNAcはN−アセチルグルコサミンを指す)の共通五糖コアを有する。N−グリカンは、「トリマンノースコア」、「五糖コア」又は「少マンノースコア」とも称されるMan3GlcNAc2(「Man3」)コア構造に付加された末梢糖(peripheral sugars)(例えばGlcNAc、ガラクトース、フコース及びシアル酸)を含む分枝(アンテナ)の数に関して異なる。N−グリカンはそれらの分枝成分に従って分類される(例えば高マンノース型、複合型又は混成型)。「高マンノース」型N−グリカンは、5又はそれ以上のマンノース残基を有する。「複合」型N−グリカンは、典型的には「トリマンノース」コアの1,3マンノース腕に結合した少なくとも1個のGlcNAc及び1,6マンノース腕に結合した少なくとも1個のGlcNAcを有する。複合型N−グリカンはまた、場合によりシアル酸又は誘導体(例えば「NANA」又は「NeuAc」、「Neu」はノイラミン酸を指し、「Ac」はアセチルを指す)で修飾されたガラクトース(「Gal」)又はN−アセチルガラクトサミン(「GalNAc」)残基を有し得る。複合型N−グリカンはまた、「2分岐(バイセクティング)」GlcNAc及びコアフコース(「Fuc」)を含む鎖内置換を有し得る。複合型N−グリカンはまた、しばしば「多分枝グリカン」と称される、「トリマンノースコア」上に多数の分枝を有し得る。「混成型」N−グリカンは、トリマンノースコアの1,3−マンノース腕の末端に少なくとも1個のGlcNAc及びトリマンノースコアの1,6マンノース腕上にゼロ又はそれ以上のマンノースを有する。様々なN−グリカンは「グリコフォーム」とも称される。
【0021】
ここで使用する略語は当技術分野で一般的に使用されるものであり、例えば上記の糖の略語参照。他の一般的な略語は、全てペプチドN−グルコシダーゼF(EC3.2.2.18)を指す「PNGアーゼ」又は「グリカナーゼ」又は「グルコシダーゼ」を含む。
【0022】
「単離された」又は「実質的に純粋な」核酸又はポリヌクレオチド(例えばRNA、DNA又は混合ポリマー)は、その天然宿主細胞内の天然ポリヌクレオチドに天然に付随する他の細胞成分、例えばそれが天然に結合しているリボソーム、ポリメラーゼ及びゲノム配列から実質的に分離されているものである。この用語は、(1)その天然に生じる環境から取り出された、(2)「単離ポリヌクレオチド」が本来その中に存在するポリヌクレオチドの全部又は一部と結合していない、(3)天然では結合していないポリヌクレオチドに作動可能に連結されている、又は(4)天然では生じない、核酸又はポリヌクレオチドを包含する。「単離された」又は「実質的に純粋な」という用語はまた、組換え又はクローン化DNA単離物、化学合成ポリヌクレオチド類似体、又は異種系によって生物学的に合成されるポリヌクレオチド類似体に関しても使用できる。
【0023】
しかし、「単離された」は、必ずしも、そのように表わされる核酸又はポリヌクレオチドがそれ自体その天然環境から物理的に取り出されていることを必要としない。例えば生物のゲノム内の内在性核酸配列は、この内在性核酸配列の発現が変化するように、異種配列が内在性核酸配列に隣接して位置する場合、ここでは「単離された」とみなす。これに関して、異種配列は、その異種配列自体が内在性であるか(同じ宿主細胞又はその子孫を起源とする)又は外来性であるか(異なる宿主細胞又はその子孫を起源とする)否かに関わらず、天然ではその内在性核酸配列に隣接していない配列である。例として、宿主細胞のゲノム内の遺伝子の天然プロモーターに関して、この遺伝子が変化した発現パターンを有するように、プロモーター配列を置換することができる(例えば相同的組換えによって)。この遺伝子は、天然でそれに隣接する配列の少なくとも一部から分離されているので、今や「単離された」ことになる。
【0024】
核酸配列はまた、ゲノム内の対応する核酸に天然では生じない修飾を含む場合、「単離された」とみなされる。例えば内在性コード配列は、人為的に、例えばヒトの介入処置によって、導入された挿入、欠失又は点突然変異を含む場合、「単離された」とみなされる。「単離された核酸配列」はまた、異なる部位で宿主細胞染色体に組み込まれた核酸及びエピソームとして存在する核酸構築物を含む。さらに、「単離された核酸配列」は、他の細胞物質を実質的に含まない、又は組換え手法によって生産されるときは培地を実質的に含まない、又は化学合成されるときは化学的前駆物質又は他の化学物質を実質的に含まないものであり得る。
【0025】
ここで使用する、基準核酸配列の「縮重変異体」という語句は、標準遺伝暗号に従って、基準核酸配列から翻訳されるものと同一のアミノ酸配列を提供するように翻訳され得る核酸配列を包含する。「縮重オリゴヌクレオチド」又は「縮重プライマー」という用語は、配列においては必ずしも同一でないが、1又はそれ以上の特定セグメント内で互いに相同である、標的核酸配列とハイブリダイズすることができるオリゴヌクレオチドを表わすために使用される。
【0026】
核酸配列に関して「配列同一性パーセント」又は「同一」という用語は、一致が最大になるように整列したとき同じである2個の配列内の残基を指す。配列同一性比較の長さは、少なくとも約9ヌクレオチド、通常は少なくとも約20ヌクレオチド、より通常は少なくとも約24ヌクレオチド、典型的には少なくとも約28ヌクレオチド、より典型的には少なくとも約32ヌクレオチド、好ましくは少なくとも約36又はそれ以上のヌクレオチドの範囲にわたり得る。ヌクレオチド配列同一性を測定するために使用できる、当技術分野で公知の多くの異なるアルゴリズムが存在する。例えばポリヌクレオチド配列は、ウィスコンシンパッケージバージョン10.0、Genetics Computer Group(GCG),Madison,Wisconsinのプログラムである、FASTA、Gap又はBestfitを用いて比較することができる。FASTAは、問い合わせ配列と検索配列の間の最良重複の領域のアラインメントと配列同一性パーセントを提供する。Pearson, Methods Enzymol. 183:63-98 (1990)(その全体が参照してここに組み込まれる)。例えば核酸配列間の配列同一性パーセントは、そのデフォルトパラメータ(ワードサイズ6及びスコアリングマトリックスのためのNOPAM係数)と共にFASTAを使用して、又は参照してここに組み込まれる、GCGバージョン6.1において提供されるようなそのデフォルトパラメータでGapを使用して決定することができる。あるいは、コンピュータプログラム、BLAST (Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990); Gish and States, Nature Genet. 3:266-272 (1993); Madden et al., Meth. Enzymol. 266: 131-141 (1996); Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25:3389-3402 (1997); Zhang and Madden, Genome Res. 7:649-656 (1997))、特にblastp又はtblastn (Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25:3389-3402 (1997)) を使用して配列を比較することができる。
【0027】
核酸又はそのフラグメントに言及するとき、「実質的相同性」又は「実質的類似性」という用語は、もう1つ別の核酸(又はその相補鎖)と適切なヌクレオチド挿入又は欠失で最適整列したとき、上述したような配列同一性の周知のアルゴリズム、例えばFASTA、BLAST又はGapによって測定される、ヌクレオチド塩基の少なくとも約50%、より好ましくは60%、通常は少なくとも約70%、より通常は少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約90%、より好ましくはヌクレオチド塩基の少なくとも約95%、96%、97%、98%又は99%のヌクレオチド配列同一性が存在することを指示する。
【0028】
あるいは、核酸又はそのフラグメントが、ストリンジェントハイブリダイゼーション条件下でもう1つ別の核酸、もう1つ別の核酸の鎖又はその相補鎖にハイブリダイズするとき、実質的相同性又は類似性が存在する。核酸ハイブリダイゼーション実験に関して「ストリンジェントハイブリダイゼーション条件」及び「ストリンジェント洗浄条件」は、多くの異なる物理的パラメータに依存する。核酸ハイブリダイゼーションは、当業者には容易に認識されるように、塩濃度、温度、溶媒、ハイブリダイズする種の塩基組成、相補領域の長さ、及びハイブリダイズする核酸の間のヌクレオチド塩基ミスマッチの数などの条件によって影響される。当業者は、特定ストリンジェンシーのハイブリダイゼーションを達成するためにこれらのパラメータをどのように変化させるかを熟知する。
【0029】
一般に、「ストリンジェントハイブリダイゼーション」は、特定の組み合わせの条件下で特定DNAハイブリッドについての融解温度(Tm)より約25℃低い温度で実施される。「ストリンジェント洗浄」は、特定の組み合わせの条件下で特定DNAハイブリッドについてのTmより約5℃低い温度で実施される。Tmは、標的配列の50%が完全にマッチするプローブにハイブリダイズする温度である。参照してここに組み込まれる、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y. (1989), page 9.51参照。ここでの目的のために、「ストリンジェント条件」は、液相ハイブリダイゼーション、例えば6X SSC(20X SSCは3.0M NaCl及び0.3Mクエン酸ナトリウムを含む)、1%SDS中65℃で8−12時間の水溶液ハイブリダイゼーション(すなわちホルムアミドを含まない)、続いて0.2X SSC、0.1%SDS中65℃で20分間ずつ2回の洗浄、について定義される。65℃でのハイブリダイゼーションが、ハイブリダイズする配列の長さ及び同一性パーセントを含む多くの因子に依存して異なる速度で起こることは当業者に認識される。
【0030】
核酸配列に適用するとき「突然変異した」という用語は、基準核酸配列と比較して核酸配列内のヌクレオチドが挿入、欠失又は変化し得ることを意味する。単一変化を1つの遺伝子座で作製し得るか(点突然変異)又は多数のヌクレオチドを単一遺伝子座で挿入、欠失又は変更し得る。加えて、1又はそれ以上の変化を核酸配列内のいかなる数の遺伝子座においても作製し得る。核酸配列は、突然変異誘発手法、例えば「エラープローンPCR」(高い割合の点突然変異がPCR産物の長さ全体にわたって得られるように、DNAポリメラーゼの複製信頼度が低い条件下でPCRを実施するための方法;例えばLeung et al., Technique, 1:11-15 (1989) and Caldwell and Joyce, PCR Methods Applic. 2:28-33 (1992)参照;及び「オリゴヌクレオチド指定突然変異誘発」(何らかのクローン化された対象DNAセグメントにおける部位特異的突然変異の生成を可能にする方法;例えばReidhaar-Olson and Sauer, Science 241 :53-57 (1988)参照)を含むが、これらに限定されない、当技術分野で公知の何らかの方法によって突然変異させ得る。
【0031】
ここで使用する「ベクター」という用語は、それが連結されているもう1つ別の核酸を輸送することができる核酸分子を指すことが意図されている。1つの種類のベクターは、その中に付加的なDNAセグメントを連結し得る環状二本鎖DNAループを指す、「プラスミド」である。他のベクターは、コスミド、細菌人工染色体(BAC)及び酵母人工染色体(YAC)を含む。もう1つの種類のベクターは、付加的なDNAセグメントをウイルスゲノム内に連結し得る、ウイルスベクターである(以下でより詳細に論じる)。ある種のベクターは、それらが導入された宿主細胞において自律複製することができる(例えば宿主細胞において機能する複製起点を有するベクター)。他のベクターは、宿主細胞への導入時に宿主細胞のゲノムに組み込まれることができ、それによって宿主ゲノムと共に複製される。さらに、ある種の好ましいベクターは、それらが作動可能に連結されている遺伝子の発現を指令することができる。そのようなベクターをここでは「組換え発現ベクター」(又は単に「発現ベクター」)と称する。
【0032】
ここで使用する、「対象配列」又は「対象遺伝子」という用語は、宿主細胞において通常は生産されない、典型的にはタンパク質をコードする、核酸配列を指す。ここで開示する方法は、1又はそれ以上の対象配列又は対象遺伝子を宿主細胞ゲノムに安定に組み込むことを可能にする。対象配列の非限定的な例は、酵素活性を有する1又はそれ以上のポリペプチド、例えば宿主におけるN−グリカン合成に影響を及ぼす酵素、例えばマンノシルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ、UDP−N−アセチルグルコサミン輸送体、ガラクトシルトランスフェラーゼ、UDP−N−アセチルガラクトシルトランスフェラーゼ、シアリルトランスフェラーゼ及びフコシルトランスフェラーゼをコードする配列を含む。
【0033】
「マーカー配列」又は「マーカー遺伝子」という用語は、宿主細胞内の配列の存在又は不在についての陽性又は陰性選択を可能にする活性を発現することができる核酸配列を指す。例えばピキア・パストリス(P. pastoris)URA5遺伝子は、この遺伝子を含む細胞がウラシルの不在下で増殖する能力によってその存在を選択することができるので、マーカー遺伝子である。その存在はまた、この遺伝子を含む細胞が5−FOAの存在下で増殖することができないことによって選択できる。マーカー配列又は遺伝子は、必ずしも陽性と陰性の両方の選択可能性を示す必要はない。P.パストリスからのマーカー配列又は遺伝子の非限定的な例は、ADE1、ARG4、HIS4及びURA3を含む。抗生物質耐性マーカー遺伝子に関しては、カナマイシン、ネオマイシン、ゲネチシン(又はG418)、パロモマイシン及びハイグロマイシン耐性遺伝子が、これらの抗生物質の存在下での増殖を可能にするために一般的に使用される。
【0034】
「作動可能に連結された」発現制御配列は、発現制御配列が対象遺伝子を制御するために対象遺伝子に隣接する結合、並びにイントランスで又は離れて対象遺伝子を制御するように働く発現制御配列を指す。
【0035】
ここで使用する「発現制御配列」という用語は、それらが作動可能に連結されているコード配列の発現に影響を及ぼすために必要なポリヌクレオチド配列を指す。発現制御配列は、核酸配列の転写、転写後事象及び翻訳を制御する配列である。発現制御配列は、適切な転写開始、終結、プロモーター及びエンハンサー配列;効率的なRNAプロセシングシグナル、例えばスプライシング及びポリアデニル化シグナル;細胞質mRNAを安定化する配列;翻訳効率を高める配列(例えばリボソーム結合部位);タンパク質の安定性を高める配列;及び所望するときは、タンパク質分泌を上昇させる配列を含む。そのような制御配列の性質は宿主生物に依存して異なる:原核生物では、そのような制御配列は一般に、プロモーター、リボソーム結合部位及び転写終結配列を含む。「制御配列」という用語は、最小限で、その存在が発現のために必須である全ての成分を含むことが意図されており、その存在が好都合である付加的な成分、例えばリーダー配列及び融合パートナー配列も含み得る。
【0036】
ここで使用する、「組換え宿主細胞」(「発現宿主細胞」、「発現宿主系」、「発現系」又は単に「宿主細胞」)という用語は、組換えベクターが導入された細胞を指すことが意図されている。そのような用語は、特定被験細胞だけでなく、そのような細胞の子孫も表わすことが意図されていることは了解されるべきである。突然変異又は環境影響のために連続する世代の中である種の修飾が起こり得るので、そのような子孫は、実際には、親細胞と同じでないことがあり得るが、やはりここで使用する「宿主細胞」の用語の範囲内に包含される。組換え宿主細胞は、単離細胞又は培養中で増殖する細胞系統であり得るか、又は生体組織又は生物内に存する細胞であり得る。
【0037】
「真核」という用語は、有核細胞又は生物を指し、昆虫細胞、植物細胞、哺乳動物細胞、動物細胞及び下等真核細胞を含む。
【0038】
「下等真核細胞」という用語は、酵母、真菌、襟鞭毛虫、微胞子虫、アルベオラータ(例えば渦鞭毛虫)、ストラメノパイル(例えば褐藻類、原生動物)、紅藻植物(例えば紅藻類)、植物(例えば緑藻類、植物細胞、苔)及び他の原生生物を含む。酵母及び真菌は、ピキア属(Pichia sp.)、例えばピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ピキア・フィンランディカ(Pichia finlandica)、ピキア・トレハロフィラ(Pichia trehalophila)、ピキア・コクラメー(Pichia koclamae)、ピキア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)、ピキア・ミヌータ(Pichia minuta)(メタノール資化性酵母(オガテー・ミヌータ)(Ogataea minuta)、ピキア・リンデネリ(Pichia lindneri))、ピキア・オパンティエー(Pichia opuntiae)、ピキア・サーモトレランス(Pichia thermotolerans)、ピキア・サリクタリア(Pichia salictaria)、ピキア・グエルカム(Pichia guercuum)、ピキア・ピジュペリ(Pichia pijperi)、ピキア・スチプチス(Pichia stiptis)及びピキア・メタノリカ(Pichia methanolica);サッカロミセス属(Saccharomyces sp)、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae);ハンセヌラ・ポリモーファ(Hansenula polymorpha)、クルイヴェロミセス属(Kluyveromyces sp)、例えばクルイヴェロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis);カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、アスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、トリコデルマ・レエセイ(Trichoderma reesei)、クリソスポリウム・ルクノヴェンス(Chrysosporium lucknowense)、フザリウム属(Fusarium sp)、例えばフザリウム・グラミネウム(Fusarium gramineum)、フザリウム・ヴェネナタム(Fusarium venenatum);フィスコミトレラ・パテンス(Physcomitrella patens)及びアカパンカビ(ニューロスポラ・クラッサ(Neurospora crassa))を含むが、これらに限定されない。
【0039】
ここで使用する「ペプチド」という用語は、短いポリペプチド、例えば典型的には約50アミノ酸長未満、より典型的には約30アミノ酸長未満であるものを指す。ここで使用するこの用語は、構造、及びそれ故生物学的機能を模倣する類似体及びミメティックを包含する。
【0040】
「ポリペプチド」という用語は、天然に生じるタンパク質と非天然に生じるタンパク質の両方、及びそれらのフラグメント、突然変異体、誘導体及び類似体を包含する。ポリペプチドは単量体又は多量体であり得る。さらに、ポリペプチドは、各々が1又はそれ以上の別個の活性を有する多くの異なるドメインを含み得る。
【0041】
「単離タンパク質」又は「単離ポリペプチド」という用語は、その起源又は誘導のソースによって(1)天然の状態でそれに付随する天然結合成分と結合していない、(2)天然では認められない純度で存在する、純度は他の細胞物質の存在に関して判定され得る(例えば同じ種からの他のタンパク質を含まない)、(3)異なる種からの細胞によって発現される、又は(4)天然では生じない(例えば天然に認められるポリペプチドのフラグメントである、又は天然では認められないアミノ酸類似体又は誘導体あるいは標準ペプチド結合以外の結合を含む)、タンパク質又はポリペプチドである。それ故、化学合成される又はそれが天然に由来する細胞とは異なる細胞系で合成されるポリペプチドは、その天然結合成分から「単離」されている。ポリペプチド又はタンパク質はまた、当技術分野で周知のタンパク質精製手法を用いて、単離によって天然結合成分を実質的に含まないようにし得る。そのように定義される「単離」は、そのように表わされるタンパク質、ポリペプチド、ペプチド又はオリゴペプチドがその天然環境から物理的に取り出されていることを必ずしも必要としない。
【0042】
ここで使用する「ポリペプチドフラグメント」という用語は、完全長ポリペプチドと比較して欠失、例えばアミノ末端及び/又はカルボキシ末端欠失を有するポリペプチドを指す。好ましい実施形態では、ポリペプチドフラグメントは、フラグメントのアミノ酸配列が天然に生じる配列内の対応する位置と同一である隣接配列である。フラグメントは、典型的には少なくとも5、6、7、8、9又は10アミノ酸長、好ましくは少なくとも12、14、16又は18アミノ酸長、より好ましくは少なくとも20アミノ酸長、より好ましくは少なくとも25、30、35、40又は45アミノ酸長、さらに一層好ましくは少なくとも50又は60アミノ酸長、さらに一層好ましくは少なくとも70アミノ酸長である。
【0043】
「修飾誘導体」は、一次構造配列において実質的に相同であるが、例えばインビボ又はインビトロでの化学及び生化学的修飾を含む又は天然ポリペプチドでは認められないアミノ酸が組み込まれているポリペプチド又はそのフラグメントを指す。そのような修飾は、当業者には容易に認識されるように、例えばアセチル化、カルボキシル化、リン酸化、グリコシル化、ユビキチン化、例えば放射性核種による、標識、及び様々な酵素修飾を含む。ポリペプチドを修飾するための様々な方法及びそのような目的のために有用な様々な置換基又は標識は当技術分野において周知であり、放射性同位体、例えば125I、32P、35S及び3H、標識抗リガンド(例えば抗体)に結合するリガンド、発蛍光団、化学発光物質、酵素、及び標識リガンドのための特異的結合対成員として使用できる抗リガンドを含む。標識の選択は、求められる感受性、プライマーとの複合の容易さ、安定性必要条件、及び使用可能な機器に依存する。ポリペプチドを標識するための方法は当技術分野において周知である。例えばAusubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates (1992, and Supplements to 2002)(参照してここに組み込まれる)参照。
【0044】
「融合タンパク質」という用語は、異種アミノ酸配列に結合したポリペプチド又はフラグメントを含むポリペプチドを指す。融合タンパク質は、2又はそれ以上の異なるタンパク質からの2又はそれ以上の所望機能エレメントを含むように構築することができるので、有用である。融合タンパク質は、対象ポリペプチドからの少なくとも10隣接アミノ酸、より好ましくは少なくとも20又は30アミノ酸、さらに一層好ましくは少なくとも40、50又は60アミノ酸、さらにより好ましくは少なくとも75、100又は125アミノ酸を含む。本発明のタンパク質の全体を含む融合物は特に有用である。本発明の融合タンパク質内に含まれる異種ポリペプチドは、少なくとも6アミノ酸長、しばしば少なくとも8アミノ酸長、有用には少なくとも15、20及び25アミノ酸長である。より大きなポリペプチド、例えば免疫グロブリンFcフラグメント又は免疫グロブリンFabフラグメント、さらにはタンパク質全体、例えばグリーン蛍光タンパク質(「GFP」)発色団含有タンパク質又は特に有用な完全長免疫グロブリンを含む融合物。融合タンパク質は、異なるタンパク質又はペプチドをコードする核酸配列と共にポリペプチド又はそのフラグメントをインフレームでコードする核酸配列を構築し、次にこの融合タンパク質を発現することによって組換え生産することができる。あるいは、融合タンパク質は、ポリペプチド又はそのフラグメントをもう1つ別のタンパク質に架橋することによって化学的に生産することができる。
【0045】
ここで使用する、「抗体」、「免疫グロブリン」、「Ig」及び「Ig分子」という用語は交換可能に用いられる。各々の抗体分子は、その特異性抗原に結合することを可能にする独自の構造を有するが、全ての抗体/免疫グロブリンはここで述べるような同じ全体的構造を有する。基本的抗体構造単位は、サブユニットの四量体を含むことが知られている。各々の四量体は2つの同一のポリペプチド鎖の対を有し、各々の対は1本の「軽」鎖(約25kDa)と1本の「重」鎖(約50−70kDa)を有する。各々の鎖のアミノ末端部分は、主として抗原認識の役割を担う約100−110又はそれ以上のアミノ酸の可変領域を含む。各々の鎖のカルボキシ末端部分は、主としてエフェクター機能の役割を担う定常領域を規定する。軽鎖はκ又はλと分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ又はεと分類され、それぞれ抗体のアイソタイプをIgG、IgM、IgA、IgD及びIgEと規定する。軽鎖と重鎖は可変領域と定常領域に細分される(一般に、Fundamental Immunology (Paul, W., ed., 2nd ed. Raven Press, N. Y., 1989), Ch. 7(全ての目的のためにその全体が参照してここに組み込まれる)参照)。各々の軽/重鎖対の可変領域は抗体結合部位を形成する。それ故、無傷抗体は2つの結合部位を有する。二元機能性又は二重特異性抗体(bifunctional or bispecific antibodies)を除き、2つの結合部位は同じである。鎖は全て、相補性決定領域又はCDRとも呼ばれる、3つの超可変領域によって接合される比較的保存されたフレームワーク領域(FR)の同じ一般構造を示す。各々の対の2本の鎖からのCDRはフレームワーク領域によって並列され、特定エピトープへの結合を可能にする。前記用語は、天然に生じる形態、並びにフラグメント及び誘導体を含む。Igのクラス、すなわちIgG、IgA、IgE、IgM及びIgDは前記用語の範囲内に含まれる。IgGのサブタイプ、すなわちIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4も用語の範囲内に含まれる。この用語は最も広い意味で使用され、単一モノクローナル抗体(アゴニスト及びアンタゴニスト抗体を含む)並びに多数のエピトープ又は抗原に結合する抗体組成物を含む。前記用語は特に、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)、及びCH2ドメインのN結合グリコシル化部位を含む重鎖免疫グロブリン定常領域のCH2ドメインの少なくとも一部を含むか又は含むように修飾される限り、抗体フラグメント、又はその変異体をカバーする。Fc領域を含む分子、例えばイムノアドヘシン(米国特許出願第2004/0136986号)、Fc融合物及び抗体様分子は前記用語に包含される。あるいは、これらの用語は、少なくともN結合グリコシル化部位を含む、少なくともFab領域の抗体フラグメントを表わし得る。
【0046】
「Fc」フラグメントという用語は、CH2及びCH3ドメインを含む抗体の「結晶化フラグメント」C末端領域を指す(図1)。「Fab」フラグメントという用語は、VH、CH1、VL及びCLドメインを含む抗体の「抗原結合フラグメント」領域を指す(図1)。
【0047】
ここで使用する「モノクローナル抗体」(mAb)という用語は、実質的に均一な抗体の個体群から得られる抗体、すなわち個体群を構成する個々の抗体は、少量存在し得る、天然に生じる可能性のある突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度特異性であり、単一抗原部位を標的とする。さらに、典型的には種々の決定基(エピトープ)を標的とする種々の抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体製剤と異なり、各々のmAbは抗原上の単一決定基を標的する。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンによって汚染されない、ハイブリドーマ培養によって合成できるという点で好都合である。「モノクローナル」という用語は、抗体の実質的に均一な個体群から得られるという抗体の性質を指示し、何らかの特定方法による抗体の生産を必要とすると解釈されるべきではない。例えば本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、Kohler et al., (1975) Nature, 256:495によって最初に記述されたハイブリドーマ法によって作製し得るか、又は組換えDNA法(例えばCabillyらへの米国特許第4,816,567号参照)によって作製し得る。
【0048】
モノクローナル抗体は、ここでは、起源の種又は免疫グロブリンクラス又はサブクラス指定に関わりなく、抗体の可変(超可変を含む)ドメインを定常ドメインで(例えば「ヒト化」抗体)、又は軽鎖を重鎖で、又はある種からの鎖をもう1つ別の種からの鎖で、又は融合物を異種タンパク質で、スプライシングすることによって生産されるハイブリッド及び組換え抗体を含む(例えばCabillyらへの米国特許第4,816,567号; Mage and Lamoyi, in Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 79-97 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987)参照)。モノクローナル抗体は、ここでは特に、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、最初の種に由来する又は特定抗体クラス又はサブクラスに属する抗体内の対応配列と同一又は相同であり、鎖の残りの部分が、異なる種に由来する又は異なる抗体クラス又はサブクラスに属する抗体内の対応配列と同一又は相同である、「キメラ」抗体(免疫グロブリン)、並びにそれらが少なくとも1つのCH2を含むか又は含むように修飾される限り、そのような抗体のフラグメントを含む。非ヒト(例えばマウス)抗体の「ヒト化」形態は、ヒト免疫グロブリンに由来する配列を含む特異的キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖又はそのフラグメント(例えばFv、Fab、Fab’、F(ab’)2、又は抗体の他の抗原結合サブ配列)である。抗体のFvフラグメントは、全体分子の結合特性及び特異性を保持する抗体の最小単位である。Fvフラグメントは、抗体重鎖及び軽鎖の可変ドメインの非共有結合ヘテロ二量体である。F(ab’)2フラグメントは、ジスルフィド架橋によって結合されたFabフラグメントの両方の腕を含むフラグメントである。
【0049】
最も一般的な形態のヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)からの残基が、所望特異性、親和性及び能力を有する非ヒト種(ドナー抗体)、例えばマウス、ラット又はウサギのCDRからの残基によって置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。一部の場合は、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク残基が対応する非ヒト残基によって置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又は導入されるCDR又はフレームワーク配列のいずれにおいても認められない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体性能をさらに洗練し、最大化するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域の全部又は実質的に全部が非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、及びCDR領域の全部又は実質的に全部がヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のものである、少なくとも1、典型的には2個の可変ドメインの実質的に全部を含む。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部を含む。さらなる詳細については、Jones et al., 1986, Nature 321:522-524; Reichmann et al., 1988, Nature 332:323-327, and Presta, 1992, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596参照。
【0050】
抗体又は免疫グロブリンの用語の範囲内の「フラグメント」は、フラグメントが依然として標的分子に特異結合することができる限り、様々なプロテアーゼでの消化によって生産されるもの、化学的切断及び/又は化学的解離によって生産されるもの、及び組換え生産されるものを含む。そのようなフラグメントには、Fc、Fab、Fab’、Fv、F(ab’)2、及び一本鎖Fv(scFv)フラグメントがある。
【0051】
本発明の抗体の対象標的は、増殖因子受容体(例えばFGFR、PDGFR、EGFR、NGFR及びVEGF)及びそれらのリガンドを含む。他の標的はGタンパク質受容体であり、サブスタンスK受容体、アンギオテンシン受容体、α及びβアドレナリン受容体、セロトニン受容体及びPAF受容体を含む。例えばGilman, Ann. Rev.Biochem. 56:625-649 (1987)参照。他の標的は、イオンチャネル(例えばカルシウム、ナトリウム、カリウムチャネル)、ムスカリン受容体、アセチルコリン受容体、GABA受容体、グルタミン酸受容体及びドーパミン受容体を含む(Harpold、米国特許第5,401,629号及び米国特許第5,436,128号参照)。他の標的は、接着タンパク質、例えばインテグリン、セレクチン及び免疫グロブリンスーパーファミリー成員である(Springer, Nature 346:425-433 (1990). Osborn, Cell 62:3 (1990); Hynes, Cell 69:11 (1992)参照)。他の標的は、サイトカイン、例えばインターロイキンIL−1からIL−13、腫瘍壊死因子α及びβ、インターフェロンα、β及びγ、腫瘍増殖因子β(TGF−β)、コロニー刺激因子(CSF)及び顆粒球単球コロニー刺激因子(GMCSF)である。Human Cytokines: Handbook for Basic & Clinical Research (Aggrawal et al. eds., Blackwell Scientific, Boston, MA 1991)参照。他の標的は、ホルモン、酵素、及び細胞内及び細胞間メッセンジャー、例えばアデニルシクラーゼ、グアニルシクラーゼ及びホスホリパーゼCである。他の対象標的は、白血球抗原、例えばCD20及びCD33である。薬剤も対象標的であり得る。標的分子は、ヒト、哺乳動物又は細菌性であり得る。他の標的は、抗原、例えばウイルス及び細菌の両方の、微生物病原体からのタンパク質、糖タンパク質及び炭水化物、及び腫瘍である。さらなる他の標的は、米国特許第4,366,241号に述べられている。
【0052】
ここで論じる免疫Fc受容体は、FcγRI、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIa、FcγRIIIb及びFcRn(新生児受容体)を含み得る。FcγRIという用語は、異なる規定がない限りいかなるFcγRIサブタイプも表わし得る。FcγRIIという用語は、異なる規定がない限りいかなるFcγRII受容体も表わし得る。FcγRIIIという用語は、異なる規定がない限りあらゆるFcγRIIIサブタイプを指す。
【0053】
「誘導体」はその用語の範囲内に、種間キメラ及びヒト化抗体;抗体融合物;ヘテロマー抗体複合体及び抗体融合物、例えば二重特異性抗体(ダイアボディ)(bispecific antibodies)、一本鎖二重特異性抗体及び細胞内発現抗体(イントラボディ)を含む、配列が修飾されているが、依然として標的分子に特異結合することができる抗体(又はそのフラグメント)を含む(例えばIntracellular Antibodies: Research and Disease Applications, (Marasco, ed., Springer-Verlag New York, Inc., 1998)参照)。
【0054】
「非ペプチド類似体」という用語は、基準ポリペプチドのものに類似した性質を有する化合物を指す。非ペプチド化合物はまた、「ペプチドミメティック」(peptide mimetic、peptidomimetic)と称されることもある。例えば参照してここに組み込まれる、Jones, Amino Acid and Peptide Synthesis, Oxford University Press (1992); Jung, Combinatorial Peptide and Nonpeptide Libraries: A Handbook, John Wiley (1997); Bodanszky et al., Peptide Chemistry-A Practical Textbook, Springer Verlag (1993); Synthetic Peptides: A Users Guide, (Grant, ed., W. H. Freeman and Co., 1992); Evans et al., J. Med. Chem. 30:1229 (1987); Fauchere, J. Adv. Drug Res. 15:29 (1986); Veber and Freidinger, Trends Neurosci, 8:392-396 (1985);及び上記の各々で引用される参考文献参照。そのような化合物はしばしばコンピュータ分子モデリングを用いて開発される。本発明の有用なペプチドに構造的に類似するペプチドミメティックは、等しい作用を生じさせるために使用でき、それ故本発明の一部と考えられる。
【0055】
アミノ酸置換は、(1)タンパク質分解に対する感受性を低下させる、(2)酸化に対する感受性を低下させる、(3)タンパク質複合体を形成するための結合親和性を変化させる、(4)結合親和性又は酵素活性を変化させる、及び(5)そのような類似体の他の物理化学的又は機能的性質を付与する又は修飾する、アミノ酸置換を含み得る。
【0056】
ここで使用する、20個の従来のアミノ酸及びそれらの略記は従来の使用法に従う。参照してここに組み込まれる、Immunology - A Synthesis (Golub and Gren eds., Sinauer Associates, Sunderland, Mass., 2nd ed. 1991)参照。20個の従来のアミノ酸の立体異性体(例えばD−アミノ酸)、非天然アミノ酸、例えばα−アミノ酸、α−二置換アミノ酸、N−アルキルアミノ酸、及び他の非慣例的アミノ酸も、本発明のポリペプチドのための適切な成分であり得る。非慣例的アミノ酸の例は、4−ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタメート、ε−N,N,N−トリメチルリシン、ε−N−アセチルリシン、O−ホスホセリン、N−アセチルセリン、N−ホルミルメチオニン、3−メチルヒスチジン、5−ヒドロキシリシン、N−メチルアルギニン、及び他の類似アミノ酸及びイミノ酸(例えば4−ヒドロキシプロリン)を含む。ここで使用するポリペプチド表記では、標準使用法及び慣例に従って、左側末端はアミノ末端に対応し、右側末端はカルボキシ末端に対応する。
【0057】
タンパク質は、そのタンパク質をコードする核酸配列が第二のタンパク質をコードする核酸配列と類似の配列を有する場合、第二タンパク質に「相同性」を有する又は「相同」である。あるいは、2個のタンパク質が「類似」アミノ酸配列を有する場合、タンパク質は第二タンパク質に相同性を有する。(それ故、「相同タンパク質」という用語は、2個のタンパク質が類似アミノ酸配列を有することを意味すると定義される。)好ましい実施形態では、相同タンパク質は、野生型タンパク質に少なくとも65%の配列相同性を示すものであり、少なくとも70%の配列相同性がより好ましい。野生型タンパク質に少なくとも75%、80%、85%又は90%の配列相同性を示す相同タンパク質がさらに一層好ましい。さらなるより好ましい実施形態では、相同タンパク質は少なくとも95%、98%、99%又は99.9%の配列同一性を示す。ここで使用する、アミノ酸配列の2つの領域の間の相同性(特に予測上の構造類似性に関して)は、機能における類似性を意味すると解釈される。
【0058】
タンパク質又はペプチドに関して「相同な」を使用するときは、同一でない残基位置がしばしば保存的アミノ酸置換によって異なると認識される。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似の化学的性質(例えば電荷又は疎水性)を備えた側鎖(R基)を有するもう1つ別のアミノ酸残基によって置換されているものである。一般に、保存的アミノ酸置換はタンパク質の機能特性を実質的に変化させない。2又はそれ以上のアミノ酸配列が保存的置換によって互いに異なる場合、配列同一性パーセント又は相同性の程度は、置換の保存的性質を補正するように上方調整し得る。この調整を行うための手段は当業者に周知である。例えばPearson, 1994, Methods Mol. Biol. 24:307-31 and 25:365-89参照(参照してここに組み込まれる)。
【0059】
以下の6つの群は各々、互いに保存的置換であるアミノ酸を含む:1)セリン(S)、トレオニン(T);2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);4)アルギニン(R)、リシン(K);5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、アラニン(A)、バリン(V)、及び6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)。
【0060】
配列同一性パーセントとも称される、ポリペプチドについての配列相同性は、典型的には配列解析ソフトウエアを用いて測定される。例えばthe Genetics Computer Group(GCG)、University of Wisconsin Biotechnology Center,910 University Avenue,Madison,Wisconsin 53705の配列解析ソフトウエアパッケージ参照。タンパク質解析ソフトウエアは、様々な置換、欠失、及び保存的アミノ酸置換を含む他の修飾に割り当てられた相同性の測定を用いて類似配列を対合させる。例えばGCGは、密接に関連するポリペプチド、例えば生物の異なる種からの相同ポリペプチドの間、又は野生型タンパク質とそのムテインとの間の配列相同性又は配列同一性を決定するためのデフォルトパラメータと共に使用できるプログラム、例えば「Gap」及び「Bestfit」を含む。例えばGCGバージョン6.1参照。
【0061】
特定ポリペプチド配列を、種々の生物からの数多くの配列を含むデータベースと比較するときの好ましいアルゴリズムは、コンピュータプログラムBLAST(Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990); Gish and States, Nature Genet. 3:266-272 (1993); Madden et al., Meth. Enzymol. 266: 131-141 (1996); Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25:3389-3402 (1997); Zhang and Madden, Genome Res. 7:649-656 (1997))、特にblastp又はtblastn(Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25:3389-3402 (1997))である。
【0062】
BLASTpのための好ましいパラメータは、期待値:10(デフォルト);フィルター:seg(デフォルト);ギャップを開くためのコスト:11(デフォルト);ギャップを伸長するためのコスト:1(デフォルト);最大整列:100(デフォルト);ワードサイズ:11(デフォルト);記述数:100(デフォルト);ペナルティーマトリックス:BLOWSUM62である。
【0063】
相同性に関して比較するポリペプチド配列の長さは、一般に少なくとも約16アミノ酸残基、通常は少なくとも約20残基、より通常は少なくとも約24残基、典型的には少なくとも約28残基、好ましくは約35残基以上である。数多くの異なる生物からの配列を含むデータベースを検索するときは、アミノ酸配列を比較することが好ましい。アミノ酸配列を用いるデータベース検索は、当技術分野で公知のblastp以外のアルゴリズムによって測定できる。例えばポリペプチド配列は、GCGバージョン6.1の中のプログラム、FASTAを用いて比較することができる。FASTAは、問い合わせ配列と検索配列の間の最良重複の領域のアラインメントと配列同一性パーセントを提供する。Pearson, Methods Enzymol. 183:63-98 (1990)(参照してここに組み込まれる)。例えばアミノ酸配列間の配列同一性パーセントは、参照してここに組み込まれるGCGバージョン6.1において提供されるように、FASTAをそのデフォルトパラメータ(ワードサイズ2及びPAM250スコアリングマトリックス)と共に使用して決定できる。
【0064】
「特異的結合」は、2個の分子が環境において他の分子への結合よりも選択的に互いに結合する能力を指す。典型的には、「特異的結合」は、反応における偶発的結合と少なくとも2倍、より典型的には少なくとも10倍、しばしば少なくとも100倍の差がある。典型的には、特異的結合反応の親和性又はアビディティーは、解離定数によって数量化したとき、約10-7M又はそれ以上強力(例えば約10-8M、10-9M又はさらに強力)である。
【0065】
ここで使用する「領域」という用語は、生体分子の一次構造の物理的に隣接する部分を指す。タンパク質の場合、領域は、そのタンパク質のアミノ酸配列の隣接部分によって規定される。
【0066】
ここで使用する「ドメイン」という用語は、生体分子の公知の又は考えられる機能に寄与する生体分子の構造を指す。ドメインはその領域又は部分と同一の広がりを有し得る;ドメインはまた、生体分子の別個の非隣接領域を含み得る。
【0067】
ここで使用する、「分子」という用語は、低分子、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、糖、ヌクレオチド、核酸、脂質等を含むが、これらに限定されない、いかなる化合物も意味し、そのような化合物は天然又は合成であり得る。
【0068】
ここで使用する、「含む(comprise)」という用語又はその三人称単数形(comprises)又は「含むこと(comprising)」のような変形は、言明される整数又は整数の群の包含を意味するが、他の何らかの整数又は整数の群の排除を意味しないことが了解される。
【0069】
ここで使用する、「本質的に〜から成る」という用語は、言明される整数又は整数の群の包含を意味し、言明される整数に実質的に影響を及ぼす又は変化させる修飾又は他の整数を排除することが了解される。N−グリカンの種に関して、「本質的に言明されるN−グリカンから成る」という用語は、N−グリカンが糖タンパク質のアスパラギン残基に直接結合しているN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)でフコシル化されているか否かに関わりなくN−グリカンを含むことが了解される。
【0070】
ここで使用する、「支配的に」という用語又は「支配的な」又は「支配的である」のような変形は、糖タンパク質をPNGアーゼで処理し、放出されたグリカンを質量分析、例えばMALDI−TOF MSによって分析した後、総N−グリカンの最高モルパーセント(%)を有するグリカン種を意味することが了解される。言い換えると、「支配的に」という語句は、個別実体、例えば特定グリコフォームが、他のいかなる個別実体よりも高いモルパーセントで存在すると定義される。例えば組成物が40モルパーセントのA種、35モルパーセントのB種及び25モルパーセントのC種から成る場合、組成物はA種を支配的に含み、B種はその次に最も支配的な種である。
【0071】
ここで使用するとき、特定糖残基、例えばフコース又はガラクトース等を「本質的に含まない」という用語は、糖タンパク質組成物が、そのような残基を含むN−グリカンを実質的に欠くことを指示するために使用される。純度に関して表わされる、実質的に含まないということは、そのような糖残基を含むN−グリカン構造の量が10%を超えない、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満、最も好ましくは0.5%未満であることを意味し、前記パーセンテージは重量又はモルパーセントである。それ故、本発明に従った糖タンパク質組成物中の実質的に全てのN−グリカン構造は、フコース又はガラクトース又はその両方を含まない。
【0072】
ここで使用するとき、糖タンパク質組成物は、特定糖残基、例えばフコース又はガラクトースの検出可能な量がいかなる時点でもN−グリカン構造上に存在しないとき、そのような糖残基を「欠く」又は「欠如している」。例えば本発明の好ましい実施形態では、糖タンパク質組成物は、酵母[例えばピキア属(Pichia sp.);サッカロミセス属(Saccharomyces sp);クルイヴェロミセス属(Kluyveromyces sp.);アスペルギルス属(Aspergillus sp.)]を含む、上記で定義したような下等真核生物によって生産され、これらの生物の細胞はフコシル化N−グリカン構造を生成するために必要な酵素を持たないので、「フコースを欠く」。それ故、「本質的にフコースを含まない」という用語は、「フコースを欠く」という用語を包含する。しかし、組成物がかつてフコシル化N−グリカン構造を含んだ場合又は上述したように限られているが検出可能な量のフコシル化N−グリカン構造を含む場合でも、組成物は「本質的にフコースを含まない」と考えられる。
【0073】
ここで使用する、「高い結合活性」という語句は、受容体又はさもなければ指示される分子とIgG分子の結合の上昇を表わす「高い結合親和性」と交換可能に使用される。
【0074】
ここで使用する、「低い結合活性」という語句は、受容体又はさもなければ指示される分子とIgG分子の結合の低下を表わす「低い結合親和性」と交換可能に使用される。
【0075】
ここで使用する、「食作用」という語句は、免疫複合体の清掃であると定義される。食作用は、マクロファージ及び好中球を含むがこれらに限定されない、免疫細胞の免疫学的作用である。
【0076】
抗体及び抗体−抗原複合体と免疫系の細胞の相互作用及び様々な応答、例えば抗体依存性細胞傷害(ADCC)及び補体依存性細胞傷害(CDC)、免疫複合体の清掃(食作用)、B細胞による抗体産生及びIgG血清半減期は、それぞれ以下において定義される:Daeron et al, 1997, Annu. Rev. Immunol. 15: 203-234; Ward and Ghetie, 1995, Therapeutic Immunol. 2:77-94; Cox and Greenberg, 2001, Semin. Immunol. 13: 339-345; Heyman, 2003, Immunol. Lett. 88:157-161; and Ravetch, 1997, Curr. Opin. Immunol. 9: 121-125。
【0077】
異なる定義がない限り、ここで使用する全ての技術的及び学術的用語は、本発明が関係する技術分野の当業者によって一般的に理解されているのと同じ意味を有する。例示的な方法及び材料を以下で述べるが、ここで述べるものと類似又は等価の方法及び材料も本発明の実施において使用することができ、当業者には明白である。ここで言及する全ての刊行物及び他の参考文献は、それらの全体が参照してここに組み込まれる。係争の場合は、定義を含む本明細書に準拠する。材料、方法及び実施例は単なる例示であり、限定を意図しない。
【0078】
組換えIg−GlcNAcMan5GlcNAc2分子
本発明は、支配的なGlcNAcMan5GlcNAc2 N結合グリコフォームを有するグリコシル化Igの個体群を含む組成物を提供する。本発明はまた、抗体エフェクター機能、例えば受容体結合を媒介する支配的なGlcNAcMan5GlcNAc2 N結合グリコフォームを有するIg及びIg組成物を提供する。好ましくは、本発明のIgとFcγRIII受容体の間の相互作用は、直接結合活性の上昇を提供する。及び、好ましくは、本発明のIgとFcγRIIb受容体の間の相互作用は、直接結合活性の低下(又は欠如)を提供する。もう1つの実施形態では、本発明のIg又はIg組成物は、1つのグリコフォーム構造の富化/支配性によって与えられる高い結合活性を示す。本発明の顕著な特徴は、抗体エフェクター機能、例えばADCC活性の上昇又はB細胞による抗体産生の上昇を媒介する、支配的な特定グリコフォームを有するIg及びIg組成物を提供することである。もう1つの実施形態では、本発明のIg又はIg組成物は、1つのグリコフォームの富化/支配性によって与えられる高いADCC活性又はB細胞による抗体産生を示す。さらに、支配的グリコフォームを有するIg組成物を生産することの1つの利点は、望ましくないグリコフォームを有するIgの産生及び/又は望ましくない作用を誘導し得る及び/又はより有効なIgグリコフォームの濃度を希釈し得るIgの不均一混合物の産生を回避することであることは、当業者には容易に明らかである。それ故、支配的にGlcNAcMan5GlcNAc2グリコフォームを有するIgを含む医薬組成物は、FcγRIIbへの結合低下及びFcγRIIIa及びFcγRIIIbへの結合上昇を含むがこれらに限定されない、有益な特徴を有し、それ故おそらくより低用量で有効であると考えられ、従ってより高い効果/効力を有し得る。
【0079】
1つの実施形態では、本発明のIg分子は、Ig分子における抗体エフェクター機能を媒介するFc領域上の重鎖のCH2ドメインのAsn−297に少なくとも1つのGlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造を含む。好ましくは、GlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造は、二量体化Ig内の各々のCH2ドメインの各々のAsn−297上に存在する(図1)。もう1つの実施形態では、本発明は、Asn−297において本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造から成るN−グリカンで支配的にグリコシル化されているIgを含む組成物を提供する(図1)。あるいは、Ig分子上に認められる1又はそれ以上の炭水化物部分が欠失されて及び/又は分子に付加されて、それによってIg上のグリコシル化部位の数が追加又は欠失されていてもよい。さらに、Ig分子のCH2領域内のN結合グリコシル化部位の位置は、分子内の様々な位置にアスパラギン(Asn)又はN−グリコシル化部位を導入することによって変化し得る。Asn−297は、典型的にはマウス及びヒトIgG分子において認められるN−グリコシル化部位であるが(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 1991)、この部位は想定し得る唯一の部位ではなく、またこの部位は必ずしも機能のために維持される必要はない。突然変異誘発のための公知の方法を用いて、当業者は、Asn−297のN−グリコシル化部位が欠失されるように本発明のIgをコードするDNA分子を変化させることができ、さらに1又はそれ以上のN−グリコシル化部位をIg分子内の他の位置に創造するようにDNA分子を変化させることができる。N−グリコシル化部位は、Ig分子のCH2領域内に創造されることが好ましい。しかし、IgのFab領域のグリコシル化が血清抗体の30%で記述されており−一般にAsn−75で認められる(Rademacher et al., 1986, Biochem. Soc. Symp., 51: 131-148)。Ig分子のFab領域におけるグリコシル化は、Fc領域内のN−グリコシル化と組み合わせ得るか又は単独の追加部位である。
【0080】
1つの実施形態では、本発明は、支配的なGlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカン構造を有する組換えIg組成物を提供し、前記GlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造は、組換えIg組成物のその次に支配的なグリカン構造よりも少なくとも約5モルパーセント多いレベルで存在する。好ましい実施形態では、本発明は、支配的なGlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造を有する組換えIg組成物を提供し、前記GlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造は、組換えIg組成物のその次に支配的なグリカン構造よりも少なくとも約10モルパーセントから約25モルパーセント多いレベルで存在する。より好ましい実施形態では、本発明は、支配的なGlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造を有する組換えIg組成物を提供し、前記GlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造は、組換えIg組成物のその次に支配的なグリカン構造よりも少なくとも約25モルパーセントから約50モルパーセント多いレベルで存在する。好ましい実施形態では、本発明は、支配的なGlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造を有する組換えIg組成物を提供し、前記GlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造は、組換えIg組成物のその次に支配的なグリカン構造よりも約50モルパーセント以上多いレベルで存在する。もう1つの好ましい実施形態では、本発明は、支配的なGlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造を有する組換えIg組成物を提供し、前記GlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造は、組換えIg組成物のその次に支配的なグリカン構造よりも約75モルパーセント以上多いレベルで存在する。さらにもう1つの実施形態では、本発明は、支配的なGlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造を有する組換えIg組成物を提供し、前記GlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造は、組換えIg組成物のその次に支配的なグリカン構造よりも約90モルパーセント以上多いレベルで存在する。支配的なGlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカン(55.8%)を有するJC−IgGのN−グリカンのMALDI−TOF分析を図4Aに示す。支配的なGlcNAcMan5GlcNAc2(60%)を有するDX−IgGのN−グリカンのMALDI−TOF分析を図4Bに示す。
【0081】
FcγRIII受容体へのIg−GlcNAcMan5GlcNAc2の高い結合
FcγRIIIa及びFcγRIIIbへのIg結合のエフェクター機能、例えばADCCの活性化は、Ig分子のFc領域によって媒介される。種々の機能がこの領域内の種々のドメインによって媒介される。従って本発明は、Ig分子上のFc領域が、エフェクター機能を実施することができる支配的GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを有するIg分子及び組成物を提供する。1つの実施形態では、支配的GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを有するFc領域は、FcγRIIIa(図6)及びFcγRIIIb(図5)受容体への結合上昇を与える。もう1つの実施形態では、Fcは支配的GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを有する。Fc領域を含む分子、例えばイムノアドヘシン(Chamow and Ashkenazi, 1996, Trends Biotechnol. 14: 52-60; Ashkenazi and Chamow, 1997, Curr . Opin. Immunol. 9: 195-200)、Fc融合物及び抗体様分子も本発明に包含されることは、当業者には容易に明らかである。
【0082】
Fc受容体へのIg分子の結合活性(親和性)はアッセイによって測定し得る。IgGに関するFcγRIII結合アッセイの一例を実施例6で述べる。当業者は、このアッセイが、何らかの免疫グロブリン分子についてのアッセイと組み合わせた使用のために容易に適合させ得ることを認識する。
【0083】
支配的GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを有するJC−IgG(本発明に従って作製されるIg)は、図5Aに示すようにリツキシマブ(登録商標)と比較して10倍高いFcγRIIIbへの結合活性を有し、図6に示すように10倍以上高いFcγRIIIaへの結合活性を有する。支配的GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを有するDX−IgG(本発明に従って作製されるもう1つのIg)も、図5Bに示すようにリツキシマブ(登録商標)と比較して約100倍高いFcγRIIIbへの結合活性を有する。
【0084】
最も興味深いことに、FcγRIIIa遺伝子の二型性は2つのアロタイプ:FcγRIIIa−158V及びFcγRIIIa−158Fを生じる(Dall'Ozzo et al., 2004, Cancer Res. 64: 4664-4669)。FcγRIIIa−158Vについてホモ接合の遺伝子型は、リツキシマブ(登録商標)へのより高い臨床応答に結びつく(Cartron et al., 2002, Blood, 99: 754-758)。しかし、個体群の大部分は1個のFcγRIIIa−158F対立遺伝子を担持しており、個体群の大部分にとってFcγRIIIa結合を通したADCCの誘導のためにリツキシマブ(登録商標)をあまり有効ではないものにする。しかし、フコシルトランスフェラーゼ活性を欠く宿主細胞においてリツキシマブ(登録商標)様の抗CD20抗体が発現されるとき、この抗体は、FcγRIIIa−158F及びFcγRIIIa−158Vの両方を通してADCCを増強するために等しく有効である(Niwa et al., 2004, Clin. Cane Res. 10: 6248-6255)。本発明のある好ましい実施形態の抗体は、N−グリカンにフコースを付加しない宿主細胞(例えばフコースを欠く酵母宿主、P.パストリス;実施例1及び2参照)において発現される。それ故、フコースを欠き、FcγRIIIa−158Fへの高い結合を有する本発明の抗体は、リツキシマブ(登録商標)に対して低い臨床応答を示す多くの患者を治療するために特に有用であり得ると考えられる。
【0085】
FcγRIIb受容体へのIg−GlcNAcMan5GlcNAc2の低い結合
FcγRIIbへのIg結合のエフェクター機能、例えばB細胞による抗体産生の上昇及びADCC活性の上昇は、Ig分子のFc領域によって媒介される。種々の機能がこの領域内の種々のドメインによって媒介される。従って本発明は、Ig分子上のFc領域が、エフェクター機能を実施することができる支配的GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを有するIg分子及び組成物を提供する。1つの実施形態では、支配的GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを有するFc領域は、FcγRIIb受容体への結合低下を与える。Fc領域を含む分子、例えばイムノアドヘシン(Chamow and Ashkenazi, 1996, Trends Biotechnol. 14: 52-60; Ashkenazi and Chamow, 1997, Curr . Opin. Immunol. 9: 195-200)、Fc融合物及び抗体様分子も本発明に包含されることは、当業者には容易に明らかである。
【0086】
Fc受容体へのIg分子の結合活性(親和性)はアッセイによって測定し得る。IgG1に関するFcγRIIb結合アッセイの一例を実施例6において開示する。当業者は、この開示するアッセイが、何らかの免疫グロブリン分子に関する使用のために容易に適合させ得ることを認識する。
【0087】
支配的GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを有するJC−IgG(本発明のIg)は、図7Aに示すようにリツキシマブ(登録商標)と比較して約8倍低いFcγRIIbへの結合活性を有する。支配的GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを有するDX−IgG(本発明のもう1つのIg)は、図7Bに示すようにリツキシマブ(登録商標)と比較して約2から5倍低いFcγRIIbへの結合活性を有する。
【0088】
高い抗体依存性細胞傷害
さらにもう1つの実施形態では、支配的N−グリカンとしてGlcNAcMan5GlcNAc2を有するIg分子又は組成物のFcγRIIIa又はFcγRIIIb結合の上昇は、FcγRIIIを介したADCCの上昇を与え得る。FcγRIII(CD16)受容体がADCC活性についての責任を担うことは広く確立されている(Daeron et al., 1997, Annu. Rev. Immunol. 15: 203-234)。もう1つの実施形態では、支配的N−グリカンとしてGlcNAcMan5GlcNAc2を有するIg分子又は組成物のFcγRIIb結合の低下はADCCの上昇を与える(Clynes et al., 2000, supra)。もう1つの実施形態では、本発明のIg分子又は組成物は、支配的GlcNAcMan5GlcNAc2グリカンの存在によって与えられる高いADCC活性を示す。
【0089】
B細胞減少を測定するインビトロアッセイ及び蛍光放出ADCCアッセイの一例を実施例7において開示する。当業者は、これらの開示するアッセイが、何らかのIg分子に関するアッセイと組み合わせた使用のために容易に適合させ得ることを認識する。さらに、動物モデルにおけるインビボADCCアッセイは、Borchmann et al., 2003, Blood, 102: 3737-3742, Niwa et al., 2004, Cancer Research, 64: 2127-2133及び実施例7からの特定IgGのために適合させることができる。
【0090】
B細胞による抗体産生上昇
調節FcγR経路を通しての腫瘍に対する抗体の関与が示された(Clynes et al., 2000, Nature, 6: 443-446)。特に、FcγRIIbは、免疫受容体のチロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)を含む受容体、例えばB細胞受容体(BCR)、FcγRI、FcγRIII及びFcεRIと共架橋するとき、ITAMを介したシグナルを阻害することが知られている(Vivier and Daeron, 1997, Immunol. Today, 18: 286-291)。例えばFcgRII特異的抗体の付加はFcgRIIBへのFc結合をブロックし、B細胞増殖の上昇を生じさせる (Wagle et al., 1999, J of Immunol. 162: 2732-2740)。従って1つの実施形態では、本発明のIg分子は、B細胞の活性化を生じさせ、次には形質細胞による抗体産生を触媒する、FcγRIIb受容体結合の低下を媒介することができる(Parker, D.C. 1993, Annu. Rev. Immunol. 11 : 331-360)。IgG1に関するB細胞による抗体産生を測定するアッセイの一例を実施例6で述べる。当業者は、このアッセイが、何らかの免疫グロブリン分子に関するアッセイと組み合わせた使用のために容易に適合させ得ることを認識する。
【0091】
他の免疫学的活性
好中球上のエフェクター細胞分子の変化した表面発現は、細菌感染に対する感受性を高めることが示されている(Ohsaka et al., 1997, Br. J. Haematol. 98: 108-113)。さらに、FcγRIIIaエフェクター細胞受容体へのIgG結合が腫瘍壊死因子α(TNF−α)の発現を調節することも明らかにされた (Blom et al., 2004, Arthritis Rheum., 48: 1002-1014)。さらに、FcγR誘導のTNF−αは、IgG被覆赤血球に結合してそれを貪食する好中球の能力も上昇させる(Capsoni et al, 1991, J. Clin. Lab Immunol. 34: 115-124)。それ故、FcγRIIIへの結合上昇を示す本発明のIg分子及び組成物は、TNF−αの発現上昇を与え得ると考えられる。
【0092】
FcγRIII受容体活性の上昇は、リソソームβ−グルクロニダーゼ並びに他のリソソーム酵素の分泌を上昇させることが示された(Kavai et al., 1982, Adv. Exp Med. Biol. 141: 575-582; Ward and Ghetie, 1995, Therapeutic Immunol, 2: 77-94)。さらに、リガンドによる免疫受容体の結合後の重要な工程は、それらのインターナリゼーションとリソソームへの送達である(Bonnerot et al., 1998, EMBO J, 17: 4906-4916)。それ故、FcγRIIIa及びFcγRIIIbへの結合上昇を示す本発明のIg分子及び組成物は、リソソーム酵素の分泌上昇を与え得ると考えられる。
【0093】
もっぱら好中球上に存在するFcγRIIIbは、免疫複合体の構築において支配的役割を果たし、その凝集は、食作用、脱顆粒、及びオプソニン化病原体の破壊を導く呼吸バーストを活性化する。好中球の活性化は、その2つの細胞外ドメインに対応する受容体のタンパク質分解切断可溶性形態の分泌を導く。可溶性FcγRIIIbは、FcγR依存性エフェクター機能の競合的阻害によって及び補体受容体CR3への結合を通して調節機能を及ぼし、炎症メディエイタの産生を導く(Sautes-Fridman et al., 2003, ASHI Quarterly, 148-151)。
【0094】
本発明は、それ故、本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成るN−グリカンを含む免疫グロブリン分子を提供し、及び、免疫グロブリン及びそれに結合した複数のN−グリカンを含み、前記複数のN−グリカン中の支配的N−グリカンが本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る組成物を提供する。いずれの実施形態においても、免疫グロブリン上の前記GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンの支配性が、好ましくは、ここで示すようにFcγRIIIa及びFcγRIIIbへの結合上昇とFcγRIIbへの結合低下に加えて所望の治療エフェクター活性を付与する。
【0095】
免疫グロブリンサブクラス
IgGサブクラスはFc受容体に対して異なる結合親和性を有することが示されている(Huizinga et al., 1989, J. of Immunol, 142: 2359-2364)。IgGサブクラスの各々は、本発明の種々の態様において特定の利点を提供し得る。それ故1つの態様では、本発明は、IgG1分子に結合した支配的N−グリカンとしてGlcNAcMan5GlcNAc2を含むIgG1組成物を提供する。もう1つの態様では、本発明は、IgG2分子に結合した支配的N−グリカンとしてGlcNAcMan5GlcNAc2を含むIgG2組成物を包含する。さらにもう1つの態様では、本発明は、IgG3分子に結合した支配的N−グリカンとしてGlcNAcMan5GlcNAc2を含むIgG3組成物を包含する。もう1つの態様では、本発明は、IgG4分子に結合した支配的N−グリカンとしてGlcNAcMan5GlcNAc2を含むIgG4組成物を包含する。
【0096】
あるいは、本発明は、免疫グロブリンの5つの主要クラス:IgA、IgD、IgE、IgM及びIgGの全てに適用することができる。本発明の好ましい免疫グロブリンはヒトIgGであり、好ましくはサブタイプIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4の1つからである。より好ましくは、本発明の免疫グロブリンはIgG1分子である。
【0097】
抗体エフェクター機能と活性を媒介する組換え免疫グロブリン(Ig)分子の生産
1つの態様では、本発明は、CH2ドメインのAsn−297に、本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造から成るN−グリカンを有する、抗体エフェクター機能と活性を媒介する組換えIg分子、及び同様に、免疫グロブリンに結合した支配的N−グリカンがGlcNAcMan5GlcNAc2である免疫グロブリン組成物を生産するための方法を提供する。1つの実施形態では、Igの重鎖及び軽鎖は重複オリゴヌクレオチドを用いて合成され、宿主細胞における発現のために発現ベクターに別々にクローニングされる(実施例1)。好ましい実施形態では、組換えIg重鎖及び軽鎖は、GlcNAcMan5GlcNAc2の付加を支配的に触媒する宿主菌株において発現される。1つの実施形態では、このグリコフォーム構造は、より詳細には、Ig上のFc領域のアミノ酸Asn−297の窒素とGlcNAcMan5GlcNAc2グリカン上のN−アセチル−β−D−グルコサミンのヒドロキシル基の間の結合を形成する[(GlcNAcβ1,2−Manα1,3)(Manα1,3 Manα1,6 Manα1,6)Manβ1,4−GlcNAcβ1,4−GlcNAc]と表わされる。さらにもう1つの実施形態では、この支配的グリカンは、Ig分子内の異なる部位(Asn−297以外)で、又はFab領域内のN−グリコシル化部位と組み合わせて、アスパラギンに付加され得る。
【0098】
下等真核生物における、支配的にGlcNAcMan5GlcNAc2を有するIgの生産
本発明の1つの態様は、支配的にGlcNAcMan5GlcNAc2グリコフォームを有する免疫グロブリン又は抗体分子を生産するために使用し得る、前記グリコフォームを天然に低い収率で生産する哺乳動物細胞において発現される糖タンパク質の組成物に比べて有利な、組換え下等真核宿主細胞を提供する。
【0099】
糖タンパク質の組成物が、容易に再現可能なあらかじめ定められたグリコシル化パターンで提供されることは、本発明のもう1つの利点である。そのような組成物の性質を評価し、所望特性のために最適化して、一方有害作用は最小限に抑え得るか又は完全に回避し得る。
【0100】
本発明はまた、本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成るN−グリカンを含むIg分子及び支配的にGlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造を有するIg組成物の生産のための1又はそれ以上の核酸を発現するように工作又は選択された組換え宿主細胞を生産するための方法を提供する。本発明のある好ましい実施形態では、組換え宿主細胞、好ましくは組換え下等真核宿主細胞が、支配的にGlcNAcMan5GlcNAc2グリカンを有する前記Ig分子及び組成物を生産するために使用される。
【0101】
他の好ましい実施形態では、本発明は、組換え宿主細胞から又は本発明の方法によって入手し得る糖タンパク質を含む。
【0102】
本発明の宿主細胞は、所望Ig領域をコードするベクターで、及びここで述べるグリコシル化関連酵素の1又はそれ以上をコードするベクターで形質転換し、その後支配的なGlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを有する組換えIg分子又は組成物の発現に関して選択し得る。本発明の組換え宿主細胞は、支配的にGlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカン構造を有するIg組成物を生産するように工作又は選択された、真核又は原核宿主細胞、例えば動物、植物、昆虫、細菌細胞等であり得る。
【0103】
好ましくは、本発明の組換え宿主細胞は、当技術分野において記述されているように遺伝子操作された下等真核宿主細胞である(国際公開公報第WO02/00879号、国際公開公報第WO03/056914号、国際公開公報第WO04/074498号、国際公開公報第WO04/074499号、Choi et al., 2003, PNAS, 100: 5022-5027; Hamilton et al., 2003, Nature, 301: 1244-1246 and Bobrowicz et al., 2004, Glycobiology, 14: 757-766)。特に、国際公開公報第WO02/00879号は、GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを有する糖タンパク質を開示し、国際公開公報第WO04/074499号は、GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを支配的に有する糖タンパク質(及び免疫グロブリンの特定開示)を開示する。
【0104】
1つの実施形態では、IgG1をコードするベクター、例えばJC−IgG1を含むAOX1/pPICZAベクター(実施例1)を酵母P.パストリスYAS385−1菌株に導入する。このYAS385−1菌株は、K3レポータータンパク質を除去したYSH44菌株に類似し(Hamilton et al., 2003, Science, 301: 1244-1246)、記述されているように(米国特許出願第11/020808号)PNO1及びMNN4b遺伝子が破壊されており、並びに記述されているように(米国特許出願第11/108088号)β−1,4ガラクトシルトランスフェラーゼI遺伝子が導入されている。Δpno1 Δmnn4bの二重破壊はマンノシルリン酸化の排除を生じさせる。URA5遺伝子によって隣接されるYSH44に関して記述されているように(Hamilton et al., 2003)導入されたマンノシダーゼII遺伝子は、菌株を5−フルオロオロト酸(5−FOA)上で増殖させることによって除去された(Guthrie and Fink, 1991, Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology, Methods in Enzymology, Vol. 169, Academic Press, San Diego)。マンノシダーゼII遺伝子の除去は、α−1,6マンノース腕及びα−1,3マンノース上のβ−1,2GlcNAcに結合した末端α−1,3及びα−1,6マンノース、及びβ−1,2GlcNAcに結合した末端β−1,4ガラクトースを有する、ペンタ−マンノースコア構造を維持する。次に、AMR2遺伝子座にURA3遺伝子を挿入したURA3ノックアウトプラスミドを用いてAMR2遺伝子を破壊し(Guthrie and Fink, 1991, supra)、それによってβ−マンノシル化を排除した(米国特許出願第11/118008号)。このYAS385−1菌株は、GalGlcNAcMan5GlcNAc2及びGlcNAcMan5GlcNAc2の両方を支配的に有する糖タンパク質を発現し、それ故GalGlcNAcMan5GlcNAc2とGlcNAcMan5GlcNAc2を支配的に有するJC−IgGを生じさせる。GalGlcNAcMan5GlcNAc2とGlcNAcMan5GlcNAc2を支配的に有するこのJC−IgGのβ−ガラクトシダーゼによる処理は(実施例3)、GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを支配的に有するJC−IgGを生じさせる(実施例4A)。
【0105】
もう1つの実施形態では、DX−IgGを含むAOX1/pPICZA内にIgG1をコードするベクター(実施例1)を、同じく酵母P.パストリスYA385−1菌株(前出)に導入し、精製して、その後β−ガラクトシダーゼで処理し(実施例3)、支配的にGlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを有するDX−IgGを生じさせる(図4B)。
【0106】
あるいは、本発明の抗体は、当技術分野で公知のいくつかの方法を用いて発現することができる(Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 79-97 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。
【0107】
グリコシルトランスフェラーゼの発現及び下等真核生物への安定な遺伝子組込み
選択マーカー、例えばURA3、URA5、HIS4、SUC2、G418、BLA又はSH BLAを用いて下等真核宿主菌株(例えばP.パストリス)に異種遺伝子を導入し、異種遺伝子の組込みを確認するための方法が記述されている。そのような方法は、発現系が下等真核細胞において生産されるとき、本発明のIgを生産するように適合させ得る。加えて、望ましくないマンノシルトランスフェラーゼ活性を排除するためにURA3マーカーの反復使用を可能にする方法が記述されている。Alani et al., 1987, Genetics, 116: 541-545及び米国特許第6,051,419号は、P.パストリスにおいてURA3遺伝子を破壊することに基づく選択系を述べている。好ましくは、ウラシルに対する栄養要求性及び5−フルオロオロト酸(5FOA)に対する耐性に基づき、陽性及び陰性選択の両方を可能にする、PpURA3−又はPpURA5−ブラスター(blaster)カセットが、URA3、URA5又はウラシル生合成経路内の何らかの遺伝子を破壊するために使用される(Boeke, et al., 1984, Mol. Gen. Genet, 197: 345-346)。当業者は、それ故、そのような系が選択及び対抗選択によって多数の異種遺伝子の挿入を可能にすることを認識する。
【0108】
さらなる酵素修飾
さらなる酵素欠失は、ヒトにおいて免疫作用の異常を与え得るマンノシルリン酸化又はβ−マンノシル化を含まないIgを単離するために有益又は必要であり得る。上述したように、米国特許出願第11/020808号はマンノシルリン酸化の排除のための方法を開示し、米国特許出願第11/118008号はβ−マンノシル化の排除のための方法を開示する。
【0109】
他のタンパク質発現系における、支配的にGlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造を有するIgの生産
異種タンパク質発現のために、支配的グリカン構造を有するIgを発現するように工作する必要がある又は工作する必要がないと考えられる発現宿主系(生物)が選択されることは当業者に了解される。ここで提供する実施例は、Asn−297又はもう1つ別のN−グリコシル化部位又はその両方で特定グリカンを有するIgの発現を実施するための1つの方法の例である。当業者は、本発明のこれらの詳細及び実施例をいかなるタンパク質発現宿主系(生物)にも容易に適合させることができる。
【0110】
動物、植物、昆虫、細菌細胞等を含む他のタンパク質発現宿主系は、本発明に従ったIg分子及び組成物を生産するために使用し得る。そのようなタンパク質発現宿主系は、支配的グリコフォームを発現するように工作又は選択し得るか、あるいは支配的グリカン構造を有する糖タンパク質を天然で生産し得る。支配的グリコフォームを有する糖タンパク質を生産する、工作されたタンパク質発現宿主系の例は、遺伝子ノックアウト/突然変異(Shields et al., 2002, JBC, 277: 26733-26740);遺伝子操作(Umana et al., 1999, Nature Biotech., 17: 176-180)又は両方の組合せを含む。あるいは、ある種の細胞−例えばニワトリ、ヒト及びウシ−は、支配的グリコフォームを天然に発現する(Raju et al., 2000, Glycobiology, 10: 477-486)。それ故、本発明に従った1つの特定グリカン構造を支配的に有するIg糖タンパク質又は組成物の発現は、当業者により、多くの発現宿主系の少なくとも1つを選択することによって達成され得る。糖タンパク質の生産のために当技術分野において見出されるさらなる発現宿主系は、CHO細胞:Raju国際公開公報第WO9922764A1号及びPresta国際公開公報第WO03/035835A1号;ハイブリドーマ細胞:Trebak et al., 1999, J. Immunol. Methods, 230: 59-70;昆虫細胞:Hsu et al., 1997, JBC, 272:9062-970、及び植物細胞:Gerngross et al., 国際公開公報第WO04/074499A2号を含む。
【0111】
IgGの精製
抗体の精製及び単離のための方法は公知であり、当技術分野において開示されている。例えばKohler & Milstein, (1975) Nature 256:495; Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp.51- 63, Marcel Dekker, Inc., New York, 1987); Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-104 (Academic Press, 1986); and Jakobovits et al.(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2551-255 and Jakobovits et al., (1993) Nature 362:255-258参照。さらなる実施形態では、抗体又は抗体フラグメントを、適切な抗体又は抗体フラグメントを選択するための対象抗原を使用して、McCafferty et al. (1990) Nature, 348:552-554 (1990)に述べられている手法を用いて作製される抗体ファージライブラリーから単離することができる。
【0112】
本発明の方法に従って生産される組換えIg分子は、実施例3で概説する方法に従って精製することができる。図2は、YAS385−1から精製したJC−IgGのSDS−PAGEクマシー染色ゲルを示す。図3は、YAS385−1から精製したDX−IgGのSDS−PAGEクマシー染色ゲルを示す。もう1つの実施形態では、精製Ig抗体は、支配的N−グリカンとしてGlcNAcMan5GlcNAc2を有する。何らかのIg分子に関するグリカンの分析及び分布は、HPLC、NMR、LCMS及びMALDI−TOF MSを含むがこれらに限定されない、当業者に公知のいくつかの質量分析法によって測定することができる。好ましい実施形態では、グリカンの分布は、実施例5において開示するようなMALDI−TOF MS分析によって測定される。図4Aは、YAS385−1から精製し、β−ガラクトシダーゼで処理したJC−IgGのMALDI−TOFスペクトルを示す(実施例3)。このMALDI−TOFは、総N−グリカンの約55.8モル%がGlcNAcMan5GlcNAc2であることを示す。図4Bは、YAS385−1から精製し、β−ガラクトシダーゼで処理したDX−IgGのMALDI−TOFスペクトルを示す。このMALDI−TOFは、総N−グリカンの約60モル%がGlcNAcMan5GlcNAc2であることを示す。
【0113】
医薬組成物
本発明の抗体は、活性治療物質としての抗体及び様々な他の製薬上許容される成分を含有する医薬組成物の組み込むことができる。Remington's Pharmaceutical Science (15th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pennsylvania, 1980)参照。好ましい形態は、意図する投与様式及び治療適用に依存する。組成物はまた、所望する製剤に依存して、動物又はヒトへの投与のための医薬組成物を製剤するために一般的に使用される賦形剤と定義される、製薬上許容される非毒性担体又は希釈剤を含み得る。希釈剤は、配合剤の生物活性に影響を及ぼさないように選択される。そのような希釈剤の例は、蒸留水、生理的リン酸緩衝食塩水、リンガー液、デキストロース溶液及びハンクス液である。加えて、医薬組成物又は製剤はまた、他の担体、アジュバント、又は非毒性、非治療性、非免疫原性安定剤等も含み得る。
【0114】
非経口投与用の医薬組成物は、無菌で、実質的に等張であり、発熱物質不含であって、FDA又は同様の機関のGMPに従って製造される。抗体は、滅菌液、例えば水、油、食塩水、グリセロール又はエタノールであり得る、製薬上許容される担体と共に生理的に許容される希釈剤中の物質の溶液又は懸濁液の注射用製剤として投与することができる。加えて、補助剤、例えば湿潤剤又は乳化剤、界面活性剤、pH緩衝物質等が組成物中に存在し得る。医薬組成物の他の成分は、石油、動物、植物又は合成起源の成分、例えば落花生油、ダイズ油及び鉱物油である。一般に、グリコール、例えばプロピレングリコール又はポリエチレングリコールは、特に注射用溶液のために、好ましい液体担体である。抗体は、有効成分の持続放出を可能にするように製剤できるデポー注射剤又は移植製剤の形態で投与され得る。典型的には、組成物は、液体溶液又は懸濁液のいずれかの、注射剤として製造され、注射の前に液体媒質中に溶解又は懸濁するのに適した固体形態も製造され得る。製剤はまた、上述したように、アジュバント作用を増強するためにリポソーム又は微粒子、例えばポリアクチド、ポリグリコリド、又はコポリマーに乳化又は封入することができる(Langer, Science 249, 1527 (1990) and Hanes, Advanced Drug Delivery Reviews 28, 97-119 (1997)参照)。
【0115】
診断製品
本発明の抗体はまた、様々な診断キット及び他の診断製品、例えばアレイに組み込むことができる。抗体はしばしば固相、例えばマイクロタイタープレートのウエルにあらかじめ結合して提供される。キットはまた、しばしば、抗体結合を検出するための試薬及びキットの使用のための指示を与えるラベルを含む。免疫測定法又はサンドイッチアッセイは診断キットのための好ましい形式である(米国特許第4,376,110号、同第4,486,530号、同第5,914,241号及び同第5,965,375号参照)。抗体アレイは、例えば米国特許第5,922,615号、同第5,458,852号、同第6,019,944号及び同第6,143,576号に述べられている。
【0116】
治療適用
本発明は、糖タンパク質の特定グリコフォームを支配的に含む糖タンパク質組成物を提供する。ヒトを含む哺乳動物に投与したとき、新規糖タンパク質組成物を含む医薬組成物が、好ましい実施形態では、類似一次構造を有する他の糖タンパク質組成物に比べて卓越したインビボ特性を好都合に示すことが本発明の特徴である。それ故、本発明の新規組成物は、現在糖タンパク質薬剤が使用されているいかなる場所でも使用でき、改善された特性並びに生産ロット間で及び生産ロット全体を通して高い均一性を好都合に提供し得る。本発明の製剤は、特定薬物又は薬剤及びその標的領域に依存して、溶液、単位投与形態、例えば経口投与用の錠剤及びカプセル、並びに懸濁液、軟膏等に組み込むことができる。
【0117】
特定態様では、本発明は、糖タンパク質が免疫グロブリン分子を含み、組成物が糖タンパク質物質の特定グリコフォームを支配的に含む、糖タンパク質医薬製剤、薬物又は薬剤のための新規組成物を提供する。本発明の特定態様によれば、ここで述べるGlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造のN結合オリゴ糖を支配的に有する免疫グロブリン糖タンパク質を含む組成物が提供される。好ましい態様では、糖タンパク質は抗体であり、特にモノクローナル抗体であり得る。本発明はさらに、本発明の組成物を生産するための方法及びツールを提供する。
【0118】
本発明はさらに、本発明のグリコフォーム製剤を含む医薬組成物を包含する。前記組成物は、好ましくは無菌である。組成物が水溶液である場合、好ましくは、糖タンパク質は可溶性である。組成物が凍結乾燥粉末である場合、好ましくは、粉末は適切な溶媒中に再溶解することができる。
【0119】
他の態様では、本発明は、その必要のある哺乳動物に本発明の医薬組成物の治療有効用量を投与することを含む、疾患状態の治療のための方法を含む。疾患又は障害を治療するために使用できる製品又はキットの中でグリコフォーム製剤を提供することが本発明のさらなる目的である。
【0120】
GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを支配的に有する本発明のIg分子は、適応症、例えば癌、炎症性疾患、感染、免疫疾患、特発性血小板減少性紫斑病、関節炎、全身性エリテマトーデス及び自己免疫性溶血性貧血を含む自己免疫疾患のための、多くの治療適用を有する。
【0121】
以下は、Ig糖タンパク質組成物の生産に関する本発明の組成物及び方法を説明する実施例である。これらの実施例は限定と解釈されるべきではない−実施例は説明のためにのみ含まれるものである。当業者は、最適化を含む、本開示の数多くの修正及び拡大が可能であることを認識する。そのような修正及び拡大は本発明の一部とみなされる。
【実施例1】
【0122】
P.パストリスにおける発現のためのDX−IgG1のクローニング
DX−IgG1(抗CD20 IgG1)の軽(L)鎖及び重(H)鎖は、マウス可変領域とヒト定常領域から成る。軽鎖を配列番号1として、及び重鎖を配列番号2として開示する。重鎖及び軽鎖配列は、Integrated DNA Technologies(IDT)より購入した重複オリゴヌクレオチドを用いて合成した。軽鎖可変領域については、15個の重複オリゴヌクレオチド(配列番号5−19)を購入し、5’ MlyI部位を有する軽鎖可変領域フラグメントを作製するためにPCR反応においてExtaq(Takada)を用いてアニーリングした。次にこの軽鎖可変フラグメントを、5’MlyIプライマーCD20L/up(配列番号20)、3’可変/5’定常プライマーLfusionRTVAAPS/up(配列番号21)、3’定常領域プライマーLfusionRTVAAPS/lp(配列番号22)及び3’CD20L/lp(配列番号23)を用いたオーバーラップPCRによって軽鎖定常領域(配列番号3)(Gene Art,Toronto,Canada)と連結した。最終的なMlyI−軽鎖フラグメント(5’AG塩基対を含んだ)をpCR2.1トポベクター(Invitrogen)に挿入してpDX343を生成した。重鎖については、マウス重鎖可変領域に対応する17個の重複オリゴヌクレオチド(配列番号24−40)をIDTより購入し、Extaqを用いてアニーリングした。次にこの重鎖可変フラグメントを、5’MlyIプライマーCD20H/up(配列番号41)、5’可変/定常プライマーHchainASTKGPS/up(配列番号42)、3’可変/定常領域プライマーHchainASTKGPS/lp(配列番号43)及び3’定常領域プライマーHFckpn1/lp(配列番号44)を用いたオーバーラップPCRによって重鎖定常領域(配列番号4)(Gene Art)と連結した。最終的なMlyI−重鎖フラグメント(5’AG塩基対を含んだ)をpCR2.1トポベクター(Invitrogen)に挿入してpDX360を生成した。完全長軽鎖及び完全長重鎖をそれぞれのトポベクターからMly1及びNot1フラグメントとして単離した。次にこれらの軽鎖及び重鎖フラグメントを、4個の重複オリゴヌクレオチド−P.BiPss/UP1−EcoRI、P.BiPss/LP1、P.BiPss/UP2及びP.BiP/LP2(それぞれ配列番号46−49)を用いてKar2(Bip)シグナル配列(配列番号45)に連結し、その後pPICZAのEcoRI−Not1部位に連結して、Kar2−軽鎖を担持するpDX344とKar2−重鎖を担持するpDX468を生成した。pDX344からのBglII−BamHIフラグメントを、次に、染色体組込みのためにAOX2プロモーター遺伝子を含むpBK85にサブクローニングして、pDX458を生成した。次に、重鎖を担持するpDX468からのBglII−BamHIフラグメントをpDX458にサブクローニングして、AOX1プロモーター下にCD20の重鎖と軽鎖の両方を含むpDX478を生成した。次にこのプラスミドをSpeIで線状化した後、AOX2遺伝子座への組込みのために形質転換し、ゼオシン耐性を用いて形質転換体を選択した(実施例2参照)。
【0123】
P.パストリスにおける発現のためのJC−IgGのクローニング
JC−IgG1の軽(L)鎖及び重(H)鎖は、マウス可変領域とヒト定常領域から成る。マウス可変軽鎖を配列番号50(Genbankアクセッション番号AF013576)として、及びマウス可変重鎖を配列番号51(Genbankアクセッション番号AF013577)として開示する。重鎖及び軽鎖配列は、Integrated DNA Technologies(IDT)より購入した重複オリゴヌクレオチドを用いて合成した。軽鎖については、12個の重複オリゴヌクレオチド(配列番号52−63)を購入し、5’ EcoRI部位及び3’Kpn1部位を有する660塩基対の軽鎖を生成するためにPCR反応においてExtaq(Takada)を用いてアニーリングした。次にこの軽鎖を、EcoRI−Kpn1フラグメントとしてpPICZaベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。重鎖については、Fabフラグメントに対応する12個の重複オリゴヌクレオチド(配列番号64−75)を購入し、660塩基対のFabフラグメントを生成するためにExtaqを用いてアニーリングした。Fcフラグメントは、12個の重複オリゴヌクレオチド(配列番号76−87)を用いて、同様のオーバーラップPCR反応でそれらをアニーリングして合成した。次に重鎖のFabとFcフラグメントの両方を、重鎖Fabフラグメントの5’末端に対応する5’EcoRIプライマー(配列番号64)及びFcフラグメントの3’末端に対応する3’Kpn1プライマー(配列番号88)を使用して、pFU Turboポリメラーゼ(Stratagene)を用いてアニーリングし、1,330塩基対の重鎖を生成した。プライマー内にコードされる5’EcoRI及び3’Kpn1部位を用いて、重鎖をpPICZaベクターにクローニングした。組込み遺伝子座として機能するAOX2プロモーター配列を最終的なpPICZaベクターにサブクローニングした。次に、AOX1プロモーターを含むBglII−BstB1フラグメント、及びヒト肝cDNAライブラリー(配列番号89)からのHSA配列、トロンビン部位(配列番号90)及びJC軽鎖を含むBstB1−BamHIフラグメントの両方を、このAOX2/pPICZaベクターのBamHI部位にサブクローニングした。次にAOX1プロモーターを含むもう1つ別のBlgII−BstBIフラグメント、及びHSA配列、トロンビン部位及びJC重鎖を含むBstIB1−BamHIフラグメントをこの同じpPICZaベクターのBamHI部位にサブクローニングした。この最終的なベクターは、AOX2組込み遺伝子座、HSA標識JC軽鎖及びHSA標識JC重鎖を含み、pJC140を生成した。この発現カセットをP.パストリス菌株のAOX2遺伝子座に組み込み、形質転換体をゼオシン耐性に関して選択した(実施例2参照)。
【0124】
リツキシマブ(登録商標)/リツキサン(登録商標)は、Biogen−IDEC/Genentech,San Francisco,CAより購入した抗CD20マウス/ヒトキメラIgGlである。
【0125】
PCR増幅。エッペンドルフマスターサイクラーを全てのPCR反応のために使用した。PCR反応は、鋳型DNA、125μM dNTP、各々0.2μMの正及び逆プライマー、Ex Taqポリメラーゼ緩衝液(Takara Bio Inc.)及びEx Taqポリメラーゼ、又はpFU Turboポリメラーゼ緩衝液(Stratagene)及びpFU Turboポリメラーゼを含んだ。DNAフラグメントを、97℃、15秒間、55℃、15秒間及び72℃、90秒間の30サイクル及び97℃、2分間の初期変性工程と72℃、7分間の最終伸長工程によって増幅した。
【0126】
PCR試料をアガロースゲル電気泳動によって分離し、DNAバンドを抽出して、Qiagenからのゲル抽出キットを用いて精製した。全てのDNA精製物は、脱イオン水中で溶出した最終PCR(3つのフラグメント全部の重複)を除き、10mM トリス、pH8.0中で溶出した。
【実施例2】
【0127】
P.パストリスYAS385−1菌株へのIgGベクターの形質転換。ベクターDNAを、酢酸ナトリウムを0.3Mの最終濃度まで添加することによって作製する。次に100%氷冷エタノールを70%の最終濃度までDNA試料に添加する。DNAを遠心分離(12000g×10分間)によってペレット化し、70%氷冷エタノールで2回洗浄する。DNAを乾燥し、10mM トリス、pH8.0 50μlに再懸濁する。形質転換するYAS385−1酵母培養(Choi et al., 2003; Hamilton et al., 2003)は、より少量の培養をBMGY培地(緩衝最小グリセロール:100mMリン酸カリウム、pH6.0;1.34%酵母窒素ベース;4×10-5%ビオチン;1%グリセロール)中で〜2−6のO.D.に増殖させることによって調製する。次に酵母細胞を、1Mソルビトール中で3回洗い、1M ソルビトール〜1−2mlに再懸濁することによってエレクトロコンピテントにする。DNA(1−2μg)をコンピテント酵母100μlと混合し、氷上で10分間インキュベートする。次に、以下のパラメータ:1.5kV、129Ω及び25μF、を用いてBTX Electrocell Manipulator 600で酵母細胞を電気穿孔する。YPDS(1%酵母抽出物、2%ペプトン、2%デキストロース、1M ソルビトール)1mlを電気穿孔細胞に添加した。その後、ゼオシンを含む選択寒天平板に形質転換酵母をプレートした。
【0128】
P.パストリスにおけるIgGlのための培養条件。pDX478又はpJC140で形質転換したYAS385−1の単一コロニーを、50mlファルコン遠心チューブ中のBMGY培地(1%酵母抽出物、2%ペプトン、100mM リン酸カリウム緩衝液(pH6.0)、1.34%酵母窒素ベース、4×10-5%ビオチン及び1%グリセロールから成る)10mlに接種した。培養を、24℃/170−190rpmで振とうしながら48時間、培養が飽和するまでインキュベートした。次にBMGY100mlを500mlバッフル付きフラスコに加えた。その後種培養を、BMGY培地100mlを含むバッフル付きフラスコに移した。この培養を、24℃/170−190rpmで振とうしながら24時間インキュベートした。フラスコの内容物を2つの50mlファルコン遠心チューブ中に傾瀉し、3000rpmで10分間遠心分離した。細胞ペレットを、グリセロールを含まないBMGY20mlで1回洗い、続いてBMMY(1%グリセロールの代わりに1%MeOHを含むBMGY)20mlで静かに再懸濁した。懸濁細胞を250mlバッフル付きフラスコに移した。培養を、24℃/170−190rpmで振とうしながら24時間インキュベートした。次にフラスコの内容物を2つの50mlファルコン遠心チューブ中に傾瀉し、3000rpmで10分間遠心分離した。タンパク質単離の前におおよその抗体力価を測定するために培養上清をELISAによって分析した(実施例3参照)。
培養上清中の抗体の定量を固相酵素免疫検定法(ELISA)によって実施した:高結合マイクロタイタープレート(Costar)を、PBS、pH7.4 10ml中のヤギ抗ヒトFab(Biocarta,Inc,San Diego,CA)24μgで被覆し、4℃で一晩インキュベートした。緩衝液を除去し、ブロッキング緩衝液(PBS中3%BSA)を添加して、その後室温で1時間インキュベートした。ブロッキング緩衝液を除去し、プレートをPBSで3回洗った。最後の洗浄後、漸増容量の抗体培養上清(0.4、0.8、1.5、3.2、6.25、12.5、25及び50μl)を添加し、室温で1時間インキュベートした。次にプレートをPBS+0.05%トゥイーン20で洗った。最後の洗浄後、抗ヒトFc−HRPを1:2000PBS溶液中に添加し、その後室温で1時間インキュベートした。次にプレートをPBS+トゥイーン20で4回洗った。TMB基質キットを製造者の指示に従って使用して(Pierce Biotechnology)プレートを分析した。
【実施例3】
【0129】
IgGlの精製
StreamlineプロテインAカラムを使用して培養上清からモノクローナル抗体を捕獲した。抗体をトリス−グリシンpH3.5中で溶出し、1M トリスpH8.0を用いて中和した。疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)を用いてさらなる精製を実施した。HICカラムの詳細な型は抗体に依存する。JC−IgG及びDX−IgGに関して、フェニルセファロースカラム(オクチルセファロースも使用できる)を20mM トリス(7.0)、1M(NH42SO4緩衝液と共に使用して、1M−0M(NH42SO4の線形勾配緩衝液で溶出した。フェニルセファロースカラムからの抗体分画をプールし、陽イオン交換(SP Sepharose Fast Flow)(GE Healthcare)カラムを通しての最終精製のために50mM NaOAc/トリスpH5.2緩衝液に交換した。50mM トリス、1M NaCl(pH7.0)を用いた線形勾配で抗体を溶出した。
【0130】
β−ガラクトシダーゼによるIg−GalGlcNAcMan5GlcNAc2の処理
精製IgG(JC−IgG又はDX−IgG)5mgを50mM NH4Ac pH5.0に緩衝液交換した。シリコーン処理チューブにおいて、β−1,4ガラクトシダーゼ0.03U(EMD Biosciences,La Jolla,CA)を、50mM NH4Ac pH5.0中の精製IgGに添加し、37℃で16−24時間インキュベートした。この試料を蒸発乾固させ、水に再懸濁して、MALDI−TOFによって分析した。次に、上述したようなフェニルセファロース精製を用いてβ−1,4ガラクトシダーゼから抗体を精製した。
【実施例4】
【0131】
精製Igの検出
精製JC−IgG又はDX−IgGを適切な容量の試料負荷緩衝液と混合し、プレキャストゲルを製造者の指示に従って使用して(NuPAGEビス−トリス電気泳動システム;Invitrogen Corporation,Carlsbad,Calif.)ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に供した。ゲルタンパク質をクマシーブリリアントブルー染料(Bio−Rad,Hercules,CA)で染色した。図2及び3参照。
【0132】
抗体濃度
タンパク質クロマトグラフィー分画の濃度を、アルブミンを標準品として用いる(Pierce,Rockford,IL)ブラッドーフォードアッセイ(Bradford, M. 1976, Anal. Biochem. (1976) 72, 248-254)によって測定した。
【実施例5】
【0133】
IgGl炭水化物分析
マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF MS)。アスパラギン結合オリゴ糖のMALDI−TOF分析:N結合グリカンを、Papac et al., Glycobiology 8, 445-454 (1998)の修正手順を用いてJC−IgG及びDX−IgGから放出した。抗体の試料を還元し、カルボキシメチル化して、膜をブロックし、ウエルを水で3回洗った。N−グリカナーゼ(EMD Biosciences,La Jolla,CA)1mUを含む10mM NH4HCO3(pH8.3)30μlを加えてIgGタンパク質を脱グリコシル化した。37℃で16時間後、グリカンを含む溶液を遠心分離によって除去し、蒸発乾固させた。各々のウエルからの乾燥グリカンを水15μlに溶解し、0.5μlをステンレス鋼試料プレート上にスポットして、S−DHBマトリックス(1:1の水/アセトニトリル/0.1%トリフルオロ酢酸中の9mg/mlジヒドロキシ安息香酸/1mg/ml 5−メトキシ−サリチル酸)0.5μlと混合し、放置乾燥させた。4−nsパルス時間でのパルス窒素レーザー(337nm)の照射によってイオンを生成した。装置は、125−ns遅延及び20kVの加速電圧で、遅延引き出しモードで操作した。グリッド電圧は93.00%、ガイドワイヤ電圧は0.1%、内圧は<5×10-7トール(1トール=133Pa)、及び低質量ゲートは875Daであった。合計100−200レーザーパルスからスペクトルを作成し、500MHzデジタイザで獲得した。(Man)5(GlcNAc)2オリゴ糖を外部分子量標準として使用した。全てのスペクトルを陽イオンモードの装置で作成した。
【実施例6】
【0134】
抗原結合ELISAアッセイ
高結合マイクロタイタープレート(Costar)を、PBS、pH7.4中の抗原10μgで被覆し、4℃で一晩インキュベートした。緩衝液を除去し、ブロッキング緩衝液(PBS中3%BSA)を添加して、その後室温で1時間インキュベートした。ブロッキング緩衝液を除去し、プレートをPBSで3回洗った。最後の洗浄後、0.2ng−100ngの漸増量の精製抗体を添加し、室温で1時間インキュベートした。次にプレートをPBS+0.05%トゥイーン20で洗った。最後の洗浄後、抗ヒトFc−HRPを1:2000PBS溶液に添加し、その後室温で1時間インキュベートした。次にプレートをPBS+トゥイーン20で4回洗った。TMB基質キットを製造者の指示に従って使用して(Pierce Biotechnology)プレートを分析した。
【0135】
Fc受容体結合アッセイ
FcγRIIb、FcγRIIIa及びFcγRIIIbについてのFc受容体結合アッセイを、先に記述されているプロトコールに従って実施した(Shields et al., 2001, J.Biol.Chem, 276: 6591-6604)。FcγRIII結合については:PBS、pH7.4中1μg/mlのFcγRIIIb(図5)及びFcγRIIb(図7)融合タンパク質又は0.8μg/mlのFcγRIIIa−LF(図6)融合タンパク質を4℃で48時間、ELISAプレート(Nalge−Nunc,Naperville,IL)に被覆した。プレートを25℃で1時間、PBS中3%ウシ血清アルブミン(BSA)でブロックした。JC−IgG又はDX−IgG二量複合体を、2:1モル量のJC−IgG又はDX−IgGとHRP複合F(Ab’)2抗F(Ab’)2を25℃で1時間混合することにより、PBS中1%BSAにおいて作製した。次に二量複合体を1%BSA/PBS中1:2で連続希釈し、25℃で1時間プレートに被覆した。使用した基質は3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)(Vector Laboratories)である。450nmでの吸光度を製造者の指示に従って(Vector Laboratories)読み取った。
【0136】
B細胞における抗体フィードバックについてのELISPOTアッセイ
このアッセイは、Westman, et al., 1997, Scand. J. Immunol. 46: 10-15に述べられているように実施する。BSA(ウシ血清アルブミン)を最初にIgG抗体に複合し、BSA−IgG複合体を生成する。ELISPOTアッセイを用いてBSA特異的IgGを分泌するB細胞の数を測定する。注入マウスから脾臓を切除し、0.5%正常マウス血清を含むDMEM(Gibco,New York)中で細胞懸濁液を調製する。細胞懸濁液100μlをBSA被覆マイクロタイタープレートに適用し(上記ELISAプロトコール参照)、37℃、5%CO2で3.5時間インキュベートする。プレートを洗い、PBS−トゥイーン中1/100希釈のアルカリホスファターゼ複合ヒツジ抗マウスIgG50μlと共に約4℃でインキュベートする。5ブロモ−4−クロロ−3−インドイルホスフェート(Sigma−Aldrich)50μl中、室温で1時間スポットを展開し、立体顕微鏡下で計数する。
【実施例7】
【0137】
ADCCについては、Vugmeyster and Howell, 2004, Int. Immunopharm. 4: 1117-1124に述べられているように血液マトリックス試験(例えばB細胞除去)を用いて検定する。血漿及び赤血球(RBC)を除去した全血を、染色緩衝液(1%BSA及び0.1%アジ化ナトリウムを含むハンクス平衡塩溶液(HBSS))に再溶解して、染色緩衝液中の白血球懸濁液を調製する。次に全血試料を1000gで5分間遠心し、上清(血漿)を廃棄して、ペレットを塩化アンモニウム溶解(ACL)試薬で処理し、洗浄して、等容量の染色緩衝液に再懸濁する。B細胞除去アッセイについては:抗体の100μg/ml溶液又は染色緩衝液10μlをSBマトリックス90μlに添加し、37℃で1時間インキュベートする。試料を直ちに抗CD19−FITC及び抗CD45−PEによって25℃で30分間染色する。次に試料を1%ホルムアルデヒド中に固定し、3回測定する。フローサイトメトリーによってB細胞除去の定量を得る。B細胞除去のフローサイトメトリー分析:自動FACSローダー及びCell Questソフトウエアを備えるFACS Calibur(BD Biosciences)を、全ての試料の獲得と分析のために使用する。サイトメータのQCと設定は、装置の機能性と検出器の線形性を確認するためにCaliBriteビーズ及びSphero Techレインボービーズ(BD Biosciences)を検定することを含む。装置の設定を確認するために各々のアッセイに関してアイソタイプと補正対照を検定する。総リンパ球のB細胞パーセントを以下のゲーティング戦略によって得る。リンパ球個体群を前方散乱/側方散乱散布図上に示して領域1(R1)を定義する。R1における事象を用いて、CD19及びCD45マーカーに関して蛍光強度ドットプロットを示す。蛍光標識したアイソタイプ対照を使用して、CD19及びCD45陽性度に関するそれぞれのカットオフ点を決定する。CellQuestを用いて、CD19陽性、CD45陽性表現型を有するR1領域内の細胞の分画としてB%を決定する。各々の処置群について3つの試料を検定する。B細胞除去パーセントを、式平均[100*(1−対照抗体で処理したB%/平均[SBで処理したB%])を用いて算定する。蛍光染料放出ADCCアッセイ:PBMC単離:健常個人又は供血者(10−20からの末梢静脈血をヘパリン加真空採血管(Becton Dickinson Vacutainer Systems,Rutherford,NJ,USA)に収集する。2匹のマウスに移植するのに血液約5mlが必要である。OptiPrepを製造者の指示に従って使用して、末梢血単核細胞(PBMC)を遠心分離によって分離する。PBMCを、20%ウシ胎仔血清を添加した、RPMI 1640、2mM L−グルタミン、100IU/ml ペニシリン、100g/ml ストレプトマイシン(Gibco/BRL)から成る完全培地(CM)で1回洗浄し、その後1×106/ml CMの濃度で再懸濁して、単球除去のために250ml培養フラスコ(Falcon,NJ,USA)に移す。37℃、5%CO2で1時間のインキュベーション後、非接着細胞を回収し、培地で1回洗って、末梢血リンパ球(PBL)を2.5×107/ml CMの濃度に調整する。蛍光染料放出ADCC。ADCCアッセイの前提は、CD20又はCD40抗原を提示する標的細胞(それぞれRaji細胞系又はBCL1−3B3細胞)への抗体結合がエフェクター細胞上のFcγ受容体への標的細胞結合を刺激することである。これは、次に、CD20又はCD40抗原を提示する標的細胞の溶解を促進し、定量することができる内部蛍光染料を放出する。標的細胞の51Cr標識の代わりにアラマーブルー蛍光を使用する。CD20提示Raji細胞懸濁液(1×104細胞)50μlを、96穴組織培養プレートにおいて50μl量の抗DX−IgG又は抗JC−IgG mAb(様々な濃度)及び上述したように単離した50μl量のPBMCエフェクター細胞と混合し(エフェクター対標的細胞の比は100:1、50:1、25:1及び12.5:1であり得る)、Raji又はBCL1−3B3細胞の溶解を促進するために37℃、5%CO2で4時間インキュベートする。アラマーブルー50μlを添加し、染料の取り込みとその蛍光状態への代謝を可能にするためにさらに5時間インキュベーションを継続する。プレートを振とう機上で室温に冷却し、530nmの励起と590nmの放出で蛍光光度計において蛍光を読み取る。相対蛍光単位(RFU)をmAb濃度に対してプロットし、対照抗体、例えばリツキシマブ(登録商標)を用いて標準曲線から試料濃度を算定する。重症複合型免疫欠損(SCID)マウスを用いたインビボADCC(Niwa et al., 2004, Cancer Research, 64: 2127-2133)。インビボADCC活性は、ヘテロ接合(FcγRIIIa−LF/FcγRIIIa−LV)及びホモ接合(FcγRIIIa−LV/FcγRIIIa−LV及びFcγRIIIa−LF/FcγRIIIa−LF)遺伝子型を含む健常ドナーからのヒト末梢血単核細胞(PBMC)を移植したマウスモデルを用いて検定することができる。このモデル系を使用して、支配的N−グリカンを有するIgを、リツキシマブ(登録商標)又は他の何らかの対照抗体と比較してADCC活性の増強に関して検定する。このインビボADCCアッセイについての詳細で十分なプロトコールは、Niwa et al., 2004, supraに認められる。
(配列の簡単な説明)
配列番号1は、DX−IgG1軽鎖のマウス可変及びヒト定常領域のヌクレオチド配列をコードする。
配列番号2は、DX−IgG1重鎖のマウス可変及びヒト定常領域のヌクレオチド配列をコードする。
配列番号3は、IgG1軽鎖のヒト定常領域のヌクレオチド配列をコードする。
配列番号4は、IgG1重鎖のヒト定常領域のヌクレオチド配列をコードする。
配列番号5から19は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってDX−IgG1のマウス軽鎖可変領域を合成するために使用される15個の重複オリゴヌクレオチドをコードする。
配列番号20から23は、DX−IgG1マウス軽鎖可変領域をヒト軽鎖定常領域に連結するために使用される4個のオリゴヌクレオチドプライマーをコードする。
配列番号24から40は、PCRによってDX−IgG1のマウス重鎖可変領域を合成するために使用される17個の重複オリゴヌクレオチドをコードする。
配列番号41から44は、DX−IgG1マウス重鎖可変領域をヒト重鎖定常領域に連結するために使用される4個のオリゴヌクレオチドプライマーをコードする。
配列番号45は、N末端EcoRI部位と共にKar2(Bip)シグナル配列をコードするヌクレオチド配列をコードする。
配列番号46から49は、Kar2シグナル配列をDX−IgG1の軽鎖及び重鎖に連結するために使用される4個のオリゴヌクレオチドプライマーをコードする。
配列番号50は、JC−IgG1軽鎖のマウスIgG1可変領域に対応するヌクレオチド配列をコードする(Genbankアクセッション番号AF013576)。
配列番号51は、JC−IgG1重鎖のマウスIgG1可変領域に対応するヌクレオチド配列をコードする(Genbankアクセッション番号AF013577)。
配列番号52から63は、JC−IgG1のマウス軽鎖可変領域をPCR合成するために使用される12個の重複オリゴヌクレオチド配列をコードする。
配列番号64から75は、JC−IgG1のマウス重鎖FabフラグメントをPCR合成するために使用される12個の重複オリゴヌクレオチドをコードする。
配列番号76から87は、JC−IgG1のマウス重鎖FcフラグメントをPCRによって合成するために使用される12個の重複オリゴヌクレオチドをコードする。
配列番号88は、Fcフラグメントの3’末端に対応する3’Kpn1プライマーをコードする。
配列番号89は、ヒト血清アルブミン(HSA)についてのヌクレオチド配列をコードする。
配列番号90は、本発明において使用するトロンビン切断のためのヌクレオチド配列をコードする。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】GlcNAcMan5GlcNAc2グリカン構造を有するIgGの図式的表示。
【図2】プロテインAカラム(レーン1)及びフェニルセファロースカラム(レーン2)での、YAS385−1において発現され(実施例2で述べるように)、培地から精製された(実施例3で述べるように)JC−IgGのクマシーブルー染色SDS−PAGEゲル。(2.5μgタンパク質/レーン)。
【図3】プロテインAカラム(レーン1)及びフェニルセファロースカラム(レーン2)での、YAS385−1において発現され(実施例2で述べるように)、培地から精製された(実施例3で述べるように)DX−IgGのクマシーブルー染色SDS−PAGEゲル。(2.5μgタンパク質/レーン)。
【図4】図4Aは、GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを支配的に示す、β−ガラクトシダーゼで処理した、YAS385−1で発現されるJC−IgGのMALDI−TOFスペクトル。図4Bは、GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンを支配的に示す、β−ガラクトシダーゼで処理した、YAS385−1で発現されるDX−IgGのMALDI−TOFスペクトル。
【図5】図5Aは、JC−IgG及びリツキシマブ(登録商標)に関するFcγRIIIbのELISA結合アッセイ。図5Bは、DX−IgG及びリツキシマブ(登録商標)に関するFcγRIIIbのELISA結合アッセイ。(GM5=GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカン)。
【図6】JC−IgG及びリツキシマブ(登録商標)に関するFcγRIIIa−158FのELISA結合アッセイ。(GM5=GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカン)。
【図7】図7Aは、JC−IgG及びリツキシマブ(登録商標)に関するFcγRIIbのELISA結合アッセイ。図7Bは、DX−IgG及びリツキシマブ(登録商標)に関するFcγRIIbのELISA結合アッセイ。(GM5=GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカン)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の免疫グロブリンを含む組成物であって、各々の免疫グロブリンがそれに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それによって組成物が、支配的N−グリカンが本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含む、前記組成物。
【請求項2】
前記複数のN−グリカンの50モルパーセント以上が本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記複数のN−グリカンの75モルパーセント以上が本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記複数のN−グリカンの90モルパーセント以上が本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記GlcNAcMan5GlcNAc2 N−グリカンが、前記複数のN−グリカンのその次に最も支配的なN−グリカン構造よりも約5モルパーセントから約50モルパーセント多いレベルで存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記免疫グロブリンがFcγRIIb受容体に対して低い結合親和性を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記免疫グロブリンがFcγRIII受容体に対して高い結合親和性を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記FcγRIII受容体がFcγRIIIa受容体である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記FcγRIII受容体がFcγRIIIb受容体である、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
前記免疫グロブリンが高い抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を示す、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記免疫グロブリンが本質的にフコースを含まない、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記免疫グロブリンがフコースを欠く、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記免疫グロブリンが、増殖因子、FGFR、EGFR、VEGF、白血球抗原、CD20、CD33、サイトカイン、TNF−α及びTNF−βから成る群より選択される抗原に結合する、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記免疫グロブリンが、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4領域から成る群より選択されるFc領域を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
請求項1から14のいずれかに記載の組成物及び製薬上許容される担体を含有する医薬組成物。
【請求項16】
前記免疫グロブリンが本質的にフコースを含まない、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記免疫グロブリンがフコースを欠く、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記免疫グロブリンが、増殖因子、FGFR、EGFR、VEGF、白血球抗原、CD20、CD33、サイトカイン、TNF−α及びTNF−βから成る群より選択される抗原に結合する抗体を含む、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記免疫グロブリンが、IgG1、IgG2、IgG3及びIgG4領域から成る群より選択されるFc領域を含む、請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項20】
請求項1に記載の組成物を含むキット。
【請求項21】
免疫グロブリン又はそのフラグメントをコードする外来性遺伝子を含む真核宿主細胞であって、前記真核宿主細胞が前記免疫グロブリン又はそのフラグメントを発現するように工作又は選択されており、それによって複数の免疫グロブリンを含む組成物を生産し、各々の免疫グロブリンがそれに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それによって組成物が、支配的N−グリカンが本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含む、前記真核宿主細胞。
【請求項22】
宿主細胞が下等真核宿主細胞である、請求項21に記載の宿主細胞。
【請求項23】
複数の免疫グロブリンを含む組成物を真核生物宿主において生産するための方法であって、各々の免疫グロブリンがそれに結合した少なくとも1つのN−グリカンを含み、それによって組成物が、支配的N−グリカンが本質的にGlcNAcMan5GlcNAc2から成る複数のN−グリカンを含む、前記方法。
【請求項24】
宿主細胞が下等真核宿主細胞である、請求項23に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−512355(P2008−512355A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522695(P2007−522695)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2005/025730
【国際公開番号】WO2006/014725
【国際公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(503007287)グライコフィ, インコーポレイテッド (37)
【Fターム(参考)】