説明

GranzymeBとGolgin−160との相互作用阻害剤

本発明の目的は、グランザイムB(Granzyme B)と相互作用するタンパク質を見出し、グランザイムBによる当該タンパク質の分解により引き起こされる疾患の防止手段および/または治療手段を提供することである。本発明によれば、ゴルジン−160(Golgin−160)をグランザイムBの基質として用いる方法;グランザイムBとゴルジン−160との相互作用の阻害剤および/またはグランザイムBによるゴルジン−160の分解の阻害剤をスクリーニングする方法;グランザイムBとゴルジン−160との相互作用の阻害剤および/またはグランザイムBによるゴルジン−160の分解の阻害剤を含む各種の薬剤;並びにグランザイムBとゴルジン−160との相互作用および/またはグランザイムBによるゴルジン−160の分解を阻害する工程を含む各種疾患の防止および/または治療方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ゴルジン−160(Golgin−160)をグランザイムB(Granzyme B)の基質として用いる方法、並びにGranzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤をスクリーニングする方法に関する。さらにまた本発明は、Granzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤を含む各種の薬剤、並びにGranzyme BとGolgin−160との相互作用および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解を阻害する工程を含む各種疾患の防止および/または治療方法に関する。
【背景技術】
細胞障害性Tリンパ球(cytotoxic T−lymphocyte;CTL)やナチュラルキラー(natural killer;NK)細胞等の免疫系の細胞障害性細胞は、移植片拒絶、移植片対宿主病(graft versus host disease)、各種自己免疫性疾患、各種アレルギー性疾患等の成因および/または増悪に関与していると考えられている(Michele Barry他、″cytotoxic T lymphocytes:all roads lead to death.″in Nature Reviews/Immunology,2:401−409(2002);Pere Santamaria,″Effector lymphocytes in autoimmunity.″In Current Opinion in Immunology,13:663−669(2001))。
これらの細胞の細胞障害機構は大きく2種類が知られており、その1つがグランザイム(granzymes)ファミリーと呼ばれる複数のセリンプロテイナーゼおよびパーフォリンに依存した系である。ヒトの細胞障害性細胞の細胞質内顆粒では4種類の普遍的なグランザイムが知られているが、その中でもGranzyme Bは存在量も多く、パーフォリンとの組合わせで標的細胞にアポトーシスを効率よく誘導することが示されている(Michele Barry他、″cytotoxic T lymphocytes:all roads lead to death.″in Nature Reviews/Immunology,2:401−409(2002))。また、移植片拒絶反応、移植片対宿主病や自己免疫疾患の病態形成においては、標的組織に浸潤した免疫系の細胞障害性細胞のGranzyme Bやパーフォリンの産生が高まっていることが報告されている(Jurgen Strehlau他、″Quantitative etection of immune activation transcripts as a diagnostic tool in kidney ransplantation.″in Proc.Natl.Acad.Sci.USA,94:695−700(1997)、他多数)。
標的細胞内に入ったGranzyme Bは、プロカスパーゼ−3(procaspase−3)(および幾つかの他のプロカスパーゼ)、Bid、ICAD(カスパーゼ活性化DNase阻害剤(inhibitor of caspase−activated DNase))等を切断して、カスパーゼ経路の活性化、ミトコンドリアからのチトクロムCの遊離とそれに基づくカスパーゼ活性化の増幅、CAD(カスパーゼ活性化DNase(caspase−activated DNase))の活性化によるDNAの切断等によりアポトーシスを誘導することが示されている(Michele Barry他、″cytotoxic T lymphocytes:all roads lead to death.″in Nature Reviews/Immunology,2:401−409(2002);及びPere Santamaria,″Effector lymphocytes in autoimmunity.″In Current Opinion in Immunology,13:663−669(2001))。しかしながら、Granzyme BはPPARP(ポリADP−リボースポリメラーゼ(poly ADP−ribose polymerase))、DNA−PKcs(DNA依存性プロテインキナーゼの触媒サブユニット(the catalytic subunit of DNA−dependent protein kinase))、NuMA(核有糸分裂器官タンパク質(nuclear mitotic apparatus protein) )、フィラミン(filamin)、プロテオグリカン(proteoglycan)、核ラミンズ(nuclear lamins)等をも基質とすることが見い出されているが、これらの切断、分解の生物学的意義は未だ明らかではない(Michele Barry他、″cytotoxic T lymphocytes:all roads lead to death.″in Nature Reviews/Immunology,2:401−409(2002))。
一方、Golgin−160はゴルジ体の膜に局在するタンパク質で、その役割は未解明であるが、N末側の数十アミノ酸部分が切断、遊離されることによってアポトーシスにおけるゴルジ体の分解が進むことが報告されている(Marie Mancini他、″Caspase−2 is localized at the Golgi complex and cleaves golgin−160 during apoptosis.″Int J Cell biol.149:603−612(2000))。
【発明の開示】
本発明は、Granzyme Bと相互作用するタンパク質を見出し、Granzyme Bによる当該タンパク質の分解により引き起こされる疾患の防止手段および/または治療手段を提供することを解決すべき課題とした。
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討し、先ず、Granzyme Bと相互作用する蛋白質の候補の一つとして、Golgin−160をインシリコ(in silico)解析により予測した。続いて、本発明者らは、インビトロ(in vitro)実験により、Granzyme BとGolgin−160が相互作用することを確認した。すなわち、該相互作用の結果としてGranzyme BによってGolgin−160が分解されることを実証した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明によれば、ゴルジン−160(Golgin−160)をグランザイムB(Granzyme B)の基質として用いる方法が提供される。
さらに本発明によれば、グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)とを接触させる工程を含む、ゴルジン−160(Golgin−160)を分解する方法が提供される。
また本発明によれば、被験物質の存在下においてグランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)とを接触させる工程を含む、グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用の阻害剤および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解の阻害剤をスクリーニングする方法が提供される。
さらに本発明によれば、グランザイムB(Granzyme B)および/またはそれをコードする遺伝子とゴルジン−160(Golgin−160)および/またはそれをコードする遺伝子を含む、試薬キットが提供される。
また本発明によれば、上記した本発明によるスクリーニングする方法により得られるグランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用の阻害剤および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解の阻害剤が提供される。
さらに本発明によれば、グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用の阻害剤および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解の阻害剤を含む、アポトーシス阻害剤が提供される。
また本発明によれば、グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用の阻害剤および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解の阻害剤を含む、移植片拒絶反応阻害剤が提供される。
さらに本発明によれば、グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用の阻害剤および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解の阻害剤を含む、ゴルジン−160(Golgin−160)の分解に起因する疾患の防止および/または治療のための医薬が提供される。
上記医薬において好ましくは、ゴルジン−160(Golgin−160)の分解に起因する疾患が、移植片対宿主病、自己免疫疾患またはアレルギー疾患である。
また本発明によれば、グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解を阻害する工程を含む、アポトーシスを阻害する方法が提供される。
さらに本発明によれば、グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解を阻害する工程を含む、移植片拒絶反応を阻害する方法が提供される。
また本発明によれば、グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解を阻害する工程を含む、ゴルジン−160(Golgin−160)の分解に起因する疾患を防止および/または治療する方法が提供される。
上記方法において、好ましくは、ゴルジン−160(Golgin−160)の分解に起因する疾患が、移植片対宿主病、自己免疫疾患またはアレルギー疾患である。
【図面の簡単な説明】
図1は、Granzyme B(図1ではGZMBと記す)とGolgin−160(図1ではGOLGA3と記す)とのローカルアライメントの結果を示す。なお、図1に記載のアミノ酸配列は、配列表の配列番号2〜7に示す。
図2は、インビトロプロテアーゼアッセイの結果を示す。
AはTRX−golin−160、Bはprocaspase−3、そしてCはTRX−LAG3を示す。
レーン1はGranzyme Bの非存在下、レーン2はGranzyme Bの存在下における実験結果を示す。矢印は完全長の各タンパク質を示す。
図3は、Granzyme BによるGolgin−160の分解を示す。TRX−Golgin−160−FLAGをGranzyme B非存在下(レーン1)、Granzyme B存在下(レーン2)に37℃で2時間インキュベーション後、等容量の2×SDSサンプルバッファーを加え、5分間加熱してSDS−PAGEで分離し、抗FLAG M2抗体(Sigma−Aldrich)を用いたウエスタンブロットを実施した。矢印に相当するバンドを切り出し、N末端のアミノ酸配列分析に供した。
【発明を実施するための最良の形態】
1.Granzyme Bの基質としてのGolgin−160
本発明では、in silicoでGranzyme BとGolgin−160とが相互作用することを予測した。具体的には、Granzyme Bのアミノ酸配列をある長さのオリゴペプチドに分解し、各オリゴペプチドのアミノ酸配列あるいはそのアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を有する蛋白質をデータベース中で検索し、得られた蛋白質とGranzyme Bとの間でローカルアライメントを行い、ローカルアライメントのスコアの高いものをGranzyme Bと相互作用すると予測した。予測の結果、Granzyme B由来のアミノ酸残基からなるオリゴペプチドLQEVK、KAQVKおよびAVQPLRLと相同性のあるオリゴペプチドIQEAK、VAQVR、ALQSLRLが、アポトーシスの進行に関わるオルガネラであるゴルジ体膜上に存在する蛋白質であるGolgin−160のアミノ酸配列中に存在することが分かった。上記の結果より、Golgin−160は、Granzyme Bと相互作用することが予測された。本明細書において、「相互作用」とは、結合する、基質と酵素の関係にあるなど、互いに作用し、または、影響を及ぼし合うことを言う。
なお、本明細書の以下の実施例1では、上記したin silico解析を行うことにより、Granzyme Bの基質の候補の一例としてGolgin−160が同定された。しかし、上記のin silico解析によってGranzyme Bの基質の候補として予測されるものを本発明で使用することもできる。
続いて、Granzyme BとGolgin−160の相互作用の結果、Granzyme BによりGolgin−160が分解されることをin vitroの実験で確認した。なお、in vitroでの確認実験は、本明細書の実施例2に記載の方法またはこれに準ずる方法により当業者であれば適宜実施することができる。
従って、本発明によれば、Granzyme Bの基質としてGolgin−160を使用する方法が提供される。該方法の一例としては、Granzyme BとGolgin−160とを相互作用させることによってGolgin−160を分解することができる。本発明によれば、Granzyme Bの新規の基質としてGolgin−160が初めて同定された。本発明によりGolgin−160がGranzyme Bの基質となり得ることが判明したことにより、Granzyme BによるGolgin−160の分解により引き起こされる疾患の防止手段および/または治療手段を提供することが可能になる。
2.スクリーニング方法及び試薬キット
Golgin−160がGranzyme Bの基質であり、Granzyme Bの作用によりGolgin−160が分解されることが判明したことにより、被験物質の存在下においてGranzyme BとGolgin−160とを接触させることによって、Granzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤をスクリーニングすることが可能になった。
本発明において、Granzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤をスクリーニングする方法とは、Granzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤の同定方法である。これは、例えば、本明細書に記載するようなGranzyme BによるGolgin−160の分解の検出方法を用いて、酵素としてGranzyme Bを使用し、基質としてGolgin−160を使用することにより実施することが可能である。
本発明のスクリーニング方法に供される被験物質の種類は特に限定されず、任意の化合物を被験物質として使用することができる。被験物質は、個々の低分子化合物でもよいし、天然物抽出物中に存在する化合物でもよく、あるいは低分子化合物ライブラリー、ファージディスプレーライブラリーもしくはコンビナトリアルライブラリーでもよく、これらは全て本明細書で言う被験物質の範疇に属するものとする。医薬品としての用途を勘案した場合、被験物質としては、低分子化合物あるいは低分子化合物の化合物ライブラリーが好ましい。
上記した被験物質の存在下においてGranzyme BとGolgin−160とを接触させることによってGranzyme BとGolgin−160とを相互作用させ、被験物質の存在により、Granzyme BとGolgin−160との相互作用および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解が阻害されるかどうかを検出・測定することにより、目的物質をスクリーニングすることができる。
Granzyme BとGolgin−160との相互作用および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の検出および測定は、例えば、Golgin−160を含む適当な緩衝液(例えば、50mM Hepes−KOH(pH7.4),2mM EDTA,1%NP−40,0.1M NaCl,10mM DTT)にGranzyme Bを添加し、37℃でインキュベーションした後、反応液をSDS−PAGEで分離し、染色することによりGolgin−160およびGolgin−160の分解産物を観察することができる。この反応系に被験物質を添加した場合としなかった場合で、生成したGolgin−160の分解産物の有無および/またはその量を比較することにより、Granzyme BによるGolgin−160の分解に対する被験物質の阻害活性を評価することが可能である。なお、Golgin−160の分解産物の有無および/またはその量の検出・測定は、当該分解産物に特異的な抗体などを用いる免疫学的方法により行うこともできるし、あるいはクロマトグラフィーなどの物理化学的方法により行うこともできる。
さらに本発明によれば、試薬キットが提供される。該キットは、少なくとも、Granzyme Bおよび/またはそれをコードする遺伝子とGolgin−160および/またはそれをコードする遺伝子とを含む。即ち、Granzyme BとGolgin−160はタンパク質(それぞれ酵素と基質)の形態で提供してもよいし、遺伝子の形態で提供してもよい。
Granzyme BとGolgin−160を遺伝子の形態で提供する場合、好ましくは、当該遺伝子は、適当な宿主内で発現できるような発現ベクターに組み込まれた組換え発現ベクターの形態で提供される。宿主とそれに適した発現ベクターの組み合わせは当業者に既知である。例えば、宿主としては、細菌、酵母、動物細胞または植物細胞などが挙げられ、それぞれに適した発現ベクターも各種のものが既知であり、当業者であれば適宜選択することができる。
また、Granzyme BとGolgin−160の遺伝子には、検出もしくは精製を容易にするために、または別の機能を付加するために、そのN末端側やC末端側に別の蛋白質、例えばアルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、IgG等の免疫グロブリンFc断片もしくはグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)を、あるいはFLAG−tagもしくはHis×6−tag等のペプチドを、直接またはリンカーペプチド等を介して間接的に公知の遺伝子工学的方法を用いて付加することもできる。
また、本発明で用いるGranzyme BとGolgin−160は、天然に存在する野生型のタンパク質や遺伝子のみならず、Granzyme B(酵素)によるGolgin−160(基質)の分解という酵素反応が達成される限り、変異蛋白質、相同蛋白質、変異遺伝子または相同遺伝子などを用いてもよい。このような変異蛋白質や相同蛋白質は、一般的には、野生型のタンパク質のアミノ酸配列において1個ないし数個のアミノ酸の欠失、置換、付加および/または挿入等の変異を有するアミノ酸配列、あるいは、野生型のタンパク質のアミノ酸配列と一定以上(例えば、約70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上)の相同性を有するアミノ酸配列を有している。上記した変異蛋白質や相同蛋白質をコードする遺伝子の取得方法は公知であり、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual(Sambrookら編、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク、1989年)等に記載された方法またはそれに準ずる方法により適宜実施することができる。
本発明のキットを用いることにより、Granzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤を簡便にスクリーニングすることができる。
3.Granzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤、該阻害剤を用いた各種薬剤、並びに、該阻害を利用した疾患の防止または治療方法
上記2.に記載したスクリーニングにより得られるGranzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤も本発明の範囲内に含まれる。このような阻害剤は上記した被験物質の中から所望の阻害活性を示すものとして選択された物質である。
また、Granzyme BによるGolgin−160の分解がアポトーシスの進行に関与していることから、Granzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤はアポトーシス阻害剤として使用することができる。さらに、Granzyme BによるGolgin−160の分解が移植片拒絶反応の進行に関与している可能性があることから、Granzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤は、移植片拒絶反応阻害剤として使用することができる。上記と同様に、Granzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤は、Golgin−160の分解に起因する疾患の防止および/または治療のための医薬として使用することができる。Golgin−160の分解に起因する疾患の種類は特に限定されないが、例えば、移植片対宿主病、自己免疫疾患またはアレルギー疾患などが挙げられる。上記したアポトーシス阻害剤、移植片拒絶反応阻害剤および医薬のことを総称して、本明細書中以下においては、本発明の薬剤とも称する場合がある。
本発明に関わるGranzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤は、医薬品を開発する際に通常実施される試験を経た後、医薬品として提供することが可能である。
本発明の薬剤の投与形態は特に制限されず、経口的・非経口的に投与することができる。本発明の薬剤としては、有効成分である化合物をそのまま用いてもよいが、有効成分の化合物と薬理学的及び製剤学的に許容しうる製剤用添加物とを含む医薬組成物の形態で提供されることが好ましい。
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。経口投与に適する製剤の例としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、またはシロップ剤等を挙げることができる。非経口投与に適する製剤としては、例えば、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、点眼剤、点耳剤、軟膏剤、クリーム剤、または貼付剤等を挙げることができる。
本発明の薬剤の投与量は特に限定されず、有効成分の薬効、治療または防止の目的、患者の年齢や症状、投与経路などの種々の条件に応じて適宜の投与量を選択することが可能であるが、一般的には、0.001mg〜1000mg/日/成人ヒト、である。
また、生体内または細胞内においてGranzyme BとGolgin−160との相互作用および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解を阻害することによって、アポトーシスを阻害すること、移植片拒絶反応を阻害すること、並びにGolgin−160の分解に起因する疾患を防止および/または治療することが可能であり、これらの方法も本発明の範囲内である。
Granzyme BとGolgin−160との相互作用および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解を阻害するための手段としては、本明細書中上記したGranzyme BとGolgin−160との相互作用の阻害剤および/またはGranzyme BによるGolgin−160の分解の阻害剤を投与する方法のほか、Granzyme Bのアミノ酸配列の一部を改変し、プロテアーゼ活性を有しないものの基質であるGolgin−160に対する親和性は上記Granzyme Bのそれと等しいような変異体(ドミナントネガティブ変異体)を投与する方法などが挙げられる。
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
実施例1:Granzyme Bと相互作用するタンパク質のin silicoでの探索
Granzyme B(Granzyme 2,細胞傷害性Tリンパ球関連セリンエステラーゼ1(cytotoxic T−lymphocyte−associated serine esterase 1))と相互作用する蛋白質を、国際公開第WO01/67299号公報に記載の予測方法に従って予測した。すなわち、Granzyme Bのアミノ酸配列をある長さのオリゴペプチドに分解し、各オリゴペプチドのアミノ酸配列あるいはそのアミノ酸配列と相同なアミノ酸配列を持った蛋白質をデータベース中で検索し、得られた蛋白質とGranzyme Bとの間でローカルアライメントを行い、ローカルアライメントのスコアの高いものをGranzyme Bと相互作用すると予測した。ここではローカルアライメントのスコアを、国際公開第WO01/67299号公報に記載の方法と同様に、25.0以上とした。
Granzyme BはNK細胞や細胞毒性Tリンパ球から分泌される細胞毒性顆粒の一つであるセリンプロテアーゼであり、アポトーシスに関与する分子を基質とした反応を触媒することによってアポトーシスの進行に関与することが知られている。
予測の結果、Granzyme B由来のアミノ酸残基からなるオリゴペプチドLQEVK、KAQVKおよびAVQPLRLと相同性のあるオリゴペプチドIQEAK、VAQVR、ALQSLRLが、オルガネラであるゴルジ体膜上に存在するアポトーシスの進行に関わる蛋白質Golgin−160のアミノ酸配列中に存在することが分かった。図1に、Granzyme B(図1ではGZMBと記す)とGolgin−160(図1ではGOLGA3と記す)とのローカルアライメントの結果を示す。
実施例2:Granzyme BによるGolgin−160の分解の解析
Granzyme BによりGolgin−160が分解されるかどうかについて実験的に確認するために、インビトロプロテアーゼアッセイを実施した。
<材料>
Golgin−160発現プラスミドの構築
ヒトGolgin−160cDNA(塩基配列を配列表の配列番号1に記載する)は、ヒト肺polyARNAからのRT−PCRにより取得し、PCRエラーと思われる塩基置換や挿入はQuick Change Multi Site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)を用いて修正した。これを、N末端にチオレドキシン(ThioRedoxin)(TRX)−tagを付加させる大腸菌用発現ベクター、pThioHis A vector(Invitrogen)へ組み込み、Golgin−160発現プラスミドを構築した。
TRX−Golgin−160の精製
Golgin−160は、上記Golgin−160発現プラスミドを大腸菌BL21 Star(DE3)コンピテント細胞に形質転換し、IPTG(1mM)存在下で25℃で一晩培養することにより、N末端TRX融合タンパク質(以下、TRX−Golgin−160)として発現させた。TRX−Golgin−160は、Lysis buffer(1%Triton X−100,1%NP−40,1%サルコシル,1mg/ml リゾチーム(PBS中))を用いて可溶化し、1%Triton X−100(PBS中)に対して透析後、ProBond Resin(Invitrogen)に吸着させた。次いで、イミダゾールでTRX−Golgin−160を溶出させ、PBSに対して透析した後に濃縮し、使用した。
Granzyme Bの入手
Granzyme Bは、Granzyme B,Human,cell culture−derived(Calbiochem,Catalog No.368042)を購入して使用した。
Procaspase−3の入手
Granzyme Bのインビトロプロテアーゼアッセイにおいて陽性対照として使用するprocaspase−3については、大腸菌で発現させたRecombinant Human procaspase−3(MBL/BioVision,Catalog No.1083P−5)を購入して使用した。
TRX−LAG3(Lymphocyte−Activation protein 3)の調製
LAG3(リンパ球活性化タンパク質3(Lymphocyte−Activation protein 3))のN末端にTRX−tagを付加したTRX−LAG3をTRX−Golgin−160と同様にして調製し、Granzyme Bのインビトロプロテアーゼアッセイにおいて陰性対照として使用した。
<方法>インビトロプロテアーゼアッセイ
TRX−Golgin−160、procaspase−3、あるいはTRX−LAG3(それぞれ、0.2μg)を含むcleavage buffer(50mM Hepes−KOH(pH7.4),2mM EDTA,1%NP−40,0.1M NaCl,10mM DTT)(Kam C.M.,Huding D他、″Granzymes(lymphocyte serine proteases):characterization with natural and synthetic substrates and inhibitors.″In Biochim.Biophys.Acta,1477:307−323(2000))10μl中にGranzyme B(0.05μg)を添加し、37℃で2時間インキュベーションした。インキュベーション後、各反応液に等量の2xSDSサンプルバッファー(125mM Tris−HCl(pH6.8),4%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム,20%(v/v)グリセロール,0.01%(w/v)ブロモフェノールブルー、20%(v/v)2−メルカプトエタノール)を加えて5分間加熱し、SDS−PAGEで分離後、クーマシーブルー染色により各タンパク質およびその分解産物を観察した。
<結果>
図2Aに示すようにGranzyme BによりTRX−Golgin−160が分解された。なお、同条件下、陽性対照のprocaspase−3はGranzyme Bにより分解され(図2B)、TRX−Golgin−160と同様のN末端TRX融合タンパク質NTRX−LAG3は分解されなかった(図2C)。
実施例3:Golgin−160のGranzyme Bによる分解位置の同定
Golgin−160のGranzyme Bによる分解位置を解析するために、in vitro protease assayを実施後の切断断片のN末端アミノ酸配列分析を実施した。
<材料>
Golgin−160発現プラスミドの構築
実施例2で作製したTRX−Golgin−160の発現プラスミドを用い、Golgin−160 cDNAのC末端にFLAG配列を挿入したThioredoxin−Golgin−160−FLAG(TRX−Golgin−160−FLAG)発現プラスミド(pTHIO−HisA/Golgin−160−FLAG)を構築した。
TRX−Golgin−160−FLAGの精製
TRX−Golgin−160−FLAGは、上記の発現プラスミドを大腸菌BL21 competent cell(Novagen)に形質転換し、LB培地で37℃で一晩培養後、IPTG(1mM)存在下に、25℃6時間の培養により発現させた。lysis buffer(1%Triton X−100,1%NP−40,1%Sarcosyl,1mg/ml lysozyme in PBS)を用いて可溶化し、1%Triton X−100 in PBSに対して透析後、ProBond Resin(Invitogen)に吸着させた。imidazoleで溶出、PBSに対して透析した後に濃縮し、使用した。
Granzyme Bの入手
Granzyme Bは、実施例2と同様に市販品を使用した。
<方法>
in vitroプロテアーゼ試験
TRX−Golgin−160−FLAG(0.6μg)を含むcleavage buffer(50mM Hepes−KOH(pH7.4),2mM EDTA,1%NP−40,0.1M NaCl,10mM DTT)(Kam C.M.,Hudig D.and Powers J.C.,″Granzymes(lymphocyte serine proteases):characterization with natural and synthetic substrates and inhibitors.″in Biochim.Biophys.Acta,1477:307−323(2000))50μl中にGranzyme B(0.15μg)を添加し、37℃で2時間インキュベーションした。インキュベーション後、反応液に等量の2×SDSサンプルバッファーを加えて5分間加熱し、SDS−PAGEで分離後、CBS染色、および図3に示すように、抗FLAG M2抗体(Sigma−Aldrich)を用いたウエスタンブロットによりTRX−Golgin−160−FLAGおよびその分解産物を特定した。
N末端アミノ酸配列解析
SDS−PAGEで分離し、PVDF膜に転写したTRX−Golgin−160−FLAGの分解産物のうち最大分子量のバンドを切り出し、50%メタノール/0.1%TFA、100%メタノールで処理後、乾燥し、N末端のアミノ酸配列分析を行った。プロテインシーケンサーはProcise cLC 492cLC型(Applied Biosystems)、PTHアナライザーは140D型(Applied Biosystems)、分析プログラムはPulsed−Liquid Prosorb cLCを使用した。
<結果>
N末端5アミノ酸の配列はGolgin−160の93番目〜97番目に相当するAla−Ser−Pro−Gly−Val(配列表の配列番号8)と同定された。したがって、Golgin−160は、92番目のAspと93番目のAlaの間でGranzyme Bによって切断されることが示された。
【産業上の利用可能性】
本発明では、Granzyme BがGolgin−160と相互作用すること、その相互作用においてGranzyme BによりGolgin−160が分解されることを初めて見出した。Granzyme Bはパーフォリン(perforin)とともにCTLやNK細胞から分泌され、標的細胞にアポトーシスを誘導し、移植片拒絶、移植片対宿主病(graft versus host disease)、各種自己免疫性疾患、各種アレルギー性疾患等の成因および/または増悪に関与していると考えられている。一方、Golgin−160はゴルジ体の膜に局在するタンパク質で、N末側の数十アミノ酸部分が切断、遊離されることによってアポトーシスに於けるゴルジ体の分解が進むことが知られている。これらから、Granzyme BとGolgin−160の相互作用を阻害することにより、例えばGranzyme BによるGolgin−160の分解を阻害することにより、Golgin−160の分解に起因してアポトーシスが促進される疾患、具体的には、移植片拒絶、移植片対宿主病(graft versus host disease)、各種自己免疫性疾患、各種アレルギー性疾患等の防止および/または治療が可能になる。
【配列表】






【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴルジン−160(Golgin−160)をグランザイムB(Granzyme B)の基質として用いる方法。
【請求項2】
グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)とを接触させる工程を含む、ゴルジン−160(Golgin−160)を分解する方法。
【請求項3】
被験物質の存在下においてグランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)とを接触させる工程を含む、グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用の阻害剤および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解の阻害剤をスクリーニングする方法。
【請求項4】
グランザイムB(Granzyme B)および/またはそれをコードする遺伝子とゴルジン−160(Golgin−160)および/またはそれをコードする遺伝子を含む、試薬キット。
【請求項5】
請求項3に記載の方法により得られるグランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用の阻害剤および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解の阻害剤。
【請求項6】
グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用の阻害剤および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解の阻害剤を含む、アポトーシス阻害剤。
【請求項7】
グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用の阻害剤および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解の阻害剤を含む、移植片拒絶反応阻害剤。
【請求項8】
グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用の阻害剤および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解の阻害剤を含む、ゴルジン−160(Golgin−160)の分解に起因する疾患の防止および/または治療のための医薬。
【請求項9】
ゴルジン−160(Golgin−160)の分解に起因する疾患が、移植片対宿主病、自己免疫疾患またはアレルギー疾患である、請求項8に記載の医薬。
【請求項10】
グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解を阻害する工程を含む、アポトーシスを阻害する方法。
【請求項11】
グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解を阻害する工程を含む、移植片拒絶反応を阻害する方法。
【請求項12】
グランザイムB(Granzyme B)とゴルジン−160(Golgin−160)との相互作用および/またはグランザイムB(Granzyme B)によるゴルジン−160(Golgin−160)の分解を阻害する工程を含む、ゴルジン−160(Golgin−160)の分解に起因する疾患を防止および/または治療する方法。
【請求項13】
ゴルジン−160(Golgin−160)の分解に起因する疾患が、移植片対宿主病、自己免疫疾患またはアレルギー疾患である、請求項12に記載の方法。

【国際公開番号】WO2004/113523
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【発行日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507265(P2005−507265)
【国際出願番号】PCT/JP2004/008781
【国際出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【Fターム(参考)】