説明

H鋼支持システム及びそれを用いた建造物の解体方法

【課題】建造物の柱であるH鋼を挟持して建造物を支持し、建造物の解体除去作業を下方から安全に効率良く行うことを可能とするH鋼支持システム及びそれを用いた建造物の解体方法を提供すること。
【解決手段】建造物の所定数のH鋼42に一対の挟持半体52を結合固定させる半体固定工程と、突起部66の外側面とフランジ46、48の内側面との隙間にクサビ部70を上から下方に打ち込むクサビ部打ち込み工程と、結合固定された一対の挟持半体52の腕部56をジャッキ装置50にて下方から支持することにより建造物全体を支持する建造物支持工程と、建造物の全ての構成要素の一対の挟持半体52による挟持高さ位置より下方部分を除去する建造物除去工程と、ジャッキ装置50を下降させ、H鋼42の下端を地上に接地させ、建造物を着地させる建造物下降工程と、を備え、上記一連の工程を繰り返し、建造物をその下側から順次除去して解体する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の構成要素である柱のH鋼を挟持して支持するH鋼支持システム及びこのH鋼挟持システムを用いて建造物を解体する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物、例えば火力発電所で使用する大型ボイラを支持している建造物(支持構造物)に関して、効率の良い新しいボイラに取替える等の理由により、ボイラとこれを支持する建造物を解体する必要が現実に存在する。
【0003】
ボイラを支持する建造物を解体する従来技術としては、例えば、特許文献1を挙げることができる。この特許文献1に開示されている技術では、ボイラ及びボイラ建屋(建造物)の解体を、主としてA工程〜E工程の5工程で行っている。すなわち、先ず、A工程で、ボイラを吊す部位である本設梁上で、ジャッキを所定状態に設置する。次に、ジャッキの伸長部であるワイヤ(吊り材)を本設梁に掛止する(B工程)。次に、本設梁の、ボイラを実際に吊っている領域をボイラ建屋から切り離す(C工程)。この状態では、ボイラは、切り離された本設梁とこれに掛止されたワイヤとを介して、ボイラ建屋の上部に残っているジャッキで吊るされた状態となる。
【0004】
そして、ジャッキの操作によりボイラを下降させつつ、ボイラを下部から除去して行く(D工程、E工程)。ボイラの解体終了後、ボイラが除去されたボイラ建屋(支持構造物)を上部から解体するものである(F工程)。
【0005】
したがって、特許文献1の方法では、まずボイラを全て除去し、この後に建造物を上部から解体することとなる。すなわち、ボイラは下部から、建造物は上部から解体するため、ボイラの解体除去とボイラを支持する建造物の解体除去とをそれぞれ時を異にして別の工程で行う必要がある。このため、ボイラと建造物とを合わせた全体の解体工程が長時間を要するものとなる。また、工程が別であることから、必要となる装置の準備や後処理がそれぞれ個別に必要となり、全体として作業が繁雑なものとなる。更に、ボイラを除去するためのジャッキの設置等の準備段階(A〜C工程)工程と、支持構造物の除去作業時(F工程)に高所作業が発生し、解体作業が危険を伴うこととなる。
【0006】
このような問題点を解決した解体方法として、特許文献2を挙げることができる。特許文献2に開示されている技術では、ボイラ及びボイラ建屋(建造物)の解体を支持工程と除去工程と下降工程を必要に応じて繰り返すことにより行っている。支持工程の前には分離工程があり、この分離工程において、建造物及びボイラと、建造物の周囲に設置された配置物との間の結合部が切り離され、ボイラ及び建造物が周囲の配置物から分離される。次に、支持工程においては、建造物を柱と横梁の所定の高さ位置でそれぞれ支持する支持高さ位置調整可能な複数の支持装置を設置することにより、ボイラ及び建造物を下方から支持する。
【0007】
除去工程においては、支持工程による支持状態を維持しつつ、ボイラ及び建造物の支持装置の支持高さ位置より下方部分を除去する。除去工程終了後、下降工程において、支持装置によるボイラ及び建造物の支持高さ位置を下降させる。そして、支持工程と除去工程と下降工程とを繰り返し、ボイラ及び建造物をその下側から順次除去して解体することを特徴とする。
【0008】
したがって、特許文献2の方法では、ボイラの解体除去とボイラを支持する建造物の解体除去とを同時に行い得るので、全体の解体作業は短時間で済む。更に、同時に解体除去し得ることから必要となる装置の準備や後処理が繁雑なものとはならず、高所作業の危険性もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−270154号公報
【特許文献2】特許第4009309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献2の解体方法においては、支持装置により建造物を支持又は再度支持する作業時には、別の一群の支持装置又は同じ一群支持装置の内の半分の支持装置によりボイラと建造物を支持しながら、支持する高さ位置を替える必要がある。この支持は柱又は横梁で行われる。支持装置による建造物の支持は、建造物の柱を切断したその切断端部又は横梁の所定の箇所の何れか一方又は双方であり、建造物の重量が解体作業中、支持装置に印加され続けている。特に、下降工程において建造物が地面に着地させられることがないため、建造物の重量が支持装置に印加された状態で、別の一群の支持装置又は同じ一群支持装置の内の半分の支持装置による再支持作業は、建造物をバランス良く支持しながら行う必要がある。したがって、支持装置による建造物の支持は、バランスに気を使うことから解体作業が遅延し、全体の作業効率が低下する場合があった。
【0011】
本発明は、これらの課題を解決するために為されたものであり、その目的は、建造物の柱であるH鋼を挟持して建造物を支持し、建造物の解体除去作業を下方から安全に効率良く行うことを可能とするH鋼支持システム及びそれを用いた建造物の解体方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載のH鋼支持システムは、
H鋼を挟持して支持するためのH鋼支持システムにおいて、直角を為す2つの面を有する挟持部及び該挟持部の両側端から外方へ面一又は平行に延出した固定用面を有する2つの腕部を有し、前記挟持部の一の面は、前記H鋼のフランジの幅より小さい幅を有し、前記挟持部の他の面は、前記H鋼の2つのフランジの外側面間の距離より小さい幅を有し、かつ前記挟持部の他の面には、前記2つのフランジの内側面間の距離より短い幅を有する突起部の設けられた一対の挟持半体と、 該一対の挟持半体相互を前記腕部の固定用面を対向させた状態で結合固定する固定手段と、前記一対の挟持半体による前記H鋼の挟持状態にて、前記突起部の外側面と前記フランジの内側面との隙間に上から下方へ打ち込まれるクサビ部と、前記一対の挟持半体による前記H鋼の挟持状態にて、前記一対の挟持部の腕部を下方から昇降可能に支持する支持装置と、を有することを特徴とする。
【0013】
この構成により、H鋼の支持動作を、建造物の柱であるH鋼の切断端面又は横梁ではなく、H鋼の側方からの挟持により行うことができる。これにより、H鋼の切断した下端を地面に接地させ、建造物を着地させることが可能となる。また、一対の挟持半体はH鋼を挟持した状態で、腕部の対向する固定用面間に隙間を形成したまま固定手段により堅固に結合固定される。そして、突起部とH鋼の間にはクサビ部が打ち込まれるので、H鋼の支持を確実に行うことができる。更に、一対の挟持半体の腕部の下方に支持装置が設置されるが、腕部は平面視で、一対の挟持半体の挟持部が形成する直方形の対角線上に延在するか、又は挟持したH鋼のウエブ面と所定の角度を為して延在する。したがって、支持装置の設置は横梁の干渉を受けずに行うことができるので、H鋼を支持する作業を安全で効率的に行うことが可能である。
【0014】
請求項2に記載のH鋼支持システムは、請求項1に記載のH鋼支持システムにおいて、
前記挟持部の他の面の突起部は、上から下方に向かって幅が広くなるようにテーパ状に形成されたことを特徴とする。したがって、上から下方向へ狭くなっている隙間に、テーパ状のクサビ部が打ち込まれるので、H鋼をより確実に支持することが可能となる。
【0015】
請求項3に記載のH鋼支持システムは、請求項1又は2の何れか1項に記載のH鋼支持システムにおいて、
前記支持装置は、所定範囲で略鉛直方向に伸縮可能な伸縮部を有するジャッキ装置であることを特徴とする。したがって、支持装置による一対の挟持半体の支持が、ジャッキ装置の伸縮部を伸長させるという容易な操作で可能となる。また、ジャッキ装置の伸縮部を収縮させることにより、建造物を下降させて切断端部を地面に着地させることができる。このように、伸縮部が上下に動くだけで、建造物の支持状態の形成と、下降工程を行なうことができ、敷地内での作業が容易なものとなる。
【0016】
請求項4に記載のH鋼支持システムは、請求項1から3の何れか1項に記載のH鋼支持システムにおいて、
前記一対の挟持半体が前記H鋼を挟持したとき、前記腕部の固定用面と前記H鋼のウエブ面との為す劣角が略45度であることを特徴とする。H鋼の幅と高さが異なり、高さが幅よりも長いH鋼を支持する場合、腕部の固定用面が挟持部の両側端から外方へ面一に延出している場合に、腕部の長さが短いと支持装置が横梁と干渉する場合がある。これに対して、腕部の固定用面とH鋼のウエブ面との為す劣角を略45度とすることで、H鋼の幅と高さに拘らず支持装置を横梁の干渉を受けない場所に設置することが可能である。
【0017】
上記の目的を達成するため、請求項5に記載の建造物解体方法は、
複数のH鋼による柱を構成要素とする建造物を請求項1から4の何れか1項に記載のH鋼支持システムを用いて支持しながら解体する建造物解体方法において、前記建造物の所定数のH鋼の所定の高さ位置に前記一対の挟持半体を、該一対の挟持半体のそれぞれの突起部を前記H鋼の2つのフランジ間にそれぞれ位置させた状態で対向配置し、前記腕部の固定用面相互を対向させ、前記固定手段により結合固定する半体固定工程と、該半体固定工程の後、前記突起部の外側面と前記フランジの内側面との隙間にクサビ部を上から下方に打ち込むクサビ部打ち込み工程と、該クサビ部打ち込み工程の後、前記結合固定された一対の挟持半体の腕部を前記支持装置にて下方から支持することにより前記建造物全体を支持する建造物支持工程と、該建造物支持工程の後、前記建造物の全ての構成要素の前記一対の挟持半体による挟持高さ位置より下方部分を除去する建造物除去工程と、該建造物除去工程の後、前記支持装置を下降させ、前記H鋼の下端を地上に接地させ、前記建造物を着地させる建造物下降工程と、を備え、前記一連の工程を繰り返し、前記建造物をその下側から順次除去して解体することを特徴とする。
【0018】
この方法により、建造物全体を下方から安全に効率良く除去解体することが可能である。特に、下降工程において支持構造物の切断端部が地面に着地させられるため、H鋼支持システムによる再支持工程は、支持構造物の重量のバランスを気にしなくて行うことができることから、解体作業の全体の作業効率を向上することができる。更に、一対の挟持半体の腕部の下方に支持装置が設置されるが、支持装置の設置は横梁の干渉を受けずに行うことができるので、H鋼の支持及び再支持作業を安全で効率的に行うことが可能であり、建造物の解体作業の高効率化が図られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のH鋼支持システム及びそれを用いた建造物解体方法によれば、建造物の支持動作をH鋼の側方からの挟持により行うことができ、支持装置は横梁の干渉を受けずに設置することが可能である。そして、下降工程では建造物が地面に着地させられる。したがって、建造物の全体の解体作業をより安全性の高い効率的なものとすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明のH鋼支持システムによりH鋼を挟持し支持している状況を示す概略斜視図である。
【図2】図1のH鋼支持システムの一対の挟持半体の分解斜視図である。
【図3】図1のH鋼支持システムに用いる一のクサビ部に係り、クサビ部の概略斜視図(a)とH鋼を一対の挟持半体が挟持し支持した場合の突起部とクサビ部の概略縦断面図(b)である。
【図4】図2の一対の挟持半体によりH鋼を挟持し、突起部とH鋼のフランジの内側にクサビ部を打ち込んだ様子を示す概略斜視図である。
【図5】図1のH鋼支持システムに用いる他のクサビ部に係り、クサビ部の概略斜視図(a)とH鋼を一対の挟持半体が挟持し支持した場合の突起部とクサビ部の概略縦断面図(b)である。
【図6】一対の挟持半体がH鋼を挟持し、腕部の下方からジャッキ装置が建造物を支持している様子を示す概略側面図である。
【図7】一対の挟持半体の腕部の固定用面が、挟持部の両側端から外方へ面一又は平行に延出している場合のジャッキ装置の設置場所について説明した概略横断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る建造物解体方法を説明した図であり、最初の支持工程より建造物を支持している様子を示す説明図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る建造物解体方法を説明した図であり、最初の下降工程を行なった直後の説明図である。
【図10】図5の最初の支持工程により建造物を支持している様子の拡大説明図(a)と図6の下降工程を行った直後の拡大説明図(b)であり、再度の半体固定作業の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明のH鋼支持システムにより建造物の柱であるH鋼を支持している様子を示す概略斜視図である。まず、建造物の柱を為すH鋼42は、板状のウエブ44と、ウエブ44の両端で対向して配置された一対のフランジ46、48とを有する。H鋼支持システム40は、H鋼42の長手方向の一部を側面から挟持してH鋼42を鉛直方向に支持するものであり、一対の挟持半体52−1、52−2と支持装置であるジャッキ装置50を有する。その他に、固定手段であるボルトとナット80とクサビ部70を有する。なお、H鋼42は、高さと幅が等しいものを例示している。H鋼42の幅は、フランジ46、48の幅であり、H鋼42の高さは2つのフランジ46、48の外側面間の距離である。
【0022】
図2は、図1のH鋼支持システム40の一対の挟持半体52−1、52−2の分解斜視図である。一対の挟持半体52−1、52−2は分離可能に構成されている。1つの挟持半体52−1について説明すると、挟持半体52−1は、上下(鉛直)方向に所定の幅を有している。中央部には、直角を為す2つの面を有する挟持部54がある。すなわち、一の面54a及び他の面54bを有しており、一の面54と他の面54bは直角を為して面の端部で接合されている。一の面54aと他の面54bの長さは等しく、それぞれH鋼42のフランジ46、48の幅とH鋼42の高さよりも小さい長さとなっている。一の面54aと他の面54bを有する挟持部54の両側端から、外側へ面一に固定用面56a−1、56a−2を有する腕部56−1、56−2が延出している。一の面54aと他の面54bの長さが同一であるから、一対の挟持半体52−1、52−2がH鋼42を挟持したとき、腕部56−1、56−2とH鋼42のウエブ44の面とは略45度の角度(劣角)を為す。また、一対の挟持半体52−1、52−2がH鋼42を挟持したとき、腕部56−1の固定用面56a1−1と対向する腕部56−2の固定用面56a―2との間には隙間が形成される。
【0023】
挟持部54の一の面54aは、腕部56−1、56−2と鉛直方向に略同一の幅を有し、H鋼42のフランジ46又はフランジ48の外側面に全面的に当接するように構成されている。更に、挟持部54の他の面54bは、腕部56−1、56−2及び一の面54aと鉛直方向に略同一の幅を有し、フランジ46、48の側端面に当接し、かつ、当接した状態で他の面54bから垂直方向にH鋼42のウエブ44面に到達する突起部66−1を有している。すなわち、この突起部66−1は、一対の挟持半体52−1、52−2がH鋼42を挟持した場合に、ウエブ44の面とフランジ46、48の内側とで形成される凹部空間に位置するように構成されている。
【0024】
挟持半体52−2は、上述の挟持半体52−1と同形である。一対の挟持半体52−1、52−2にてH鋼42を挟持する場合には、H鋼42の所定の高さ位置にて一対の挟持半体52−1、52−2の突起部66−1、66−2をH鋼42の2つのフランジ46、48とウエブ44で形成されるそれぞれの凹部空間に位置させ、かつ腕部56−1、56−2の固定用面56a−1、56a−2を当接させた状態で、固定手段を用いて結合固定する。図1においては、固定手段は複数組のボルトとナット80を用いた。なお、ボルトとナット80の数量は、支持構造物の重量、挟持するH鋼42に印加される荷重等を考慮して、適宜決定される。
【0025】
挟持半体52−1、52−2は、建造物の重量等を考慮して、複数枚の所定の厚さの鋼板等により構成されている。そして、一対の挟持部材52−1、52−2がH鋼42を挟持し、ボルトとナット80により結合固定された状態で、挟持半体52−1、52−2の突起部66−1、66−2の外側面とフランジ46、48の内側面との隙間に、クサビ部70が上から下方向に打ち込まれる。クサビ部70が打ち込まれた後、それらの腕部56−1、56−2を支持装置であるジャッキ装置50により下方から支持することで、建造物全体がH鋼支持システム40により支持される。
【0026】
ここで、使用する支持装置は、例えば、径の異なる複数の筒状体で構成された伸長部50aを有するジャッキ装置50である(図1参照)。伸長部50aは、通常は、各筒状体が互いに重なりあって収納された収縮状態となっている。そして、油圧等により径の小さい筒状体が径の大きい筒状体の上に伸長し、全体として伸長部50aが略鉛直方向に伸長可能(本実施の形態では数メートル程度)な構成になっている。
【0027】
図3は、クサビ部の実施形態を示したものであって、クサビ部の概略斜視図(a)とH鋼支持システムがH鋼を支持したときの挟持半体の突起部とクサビ部の概略縦断面(b)を示す。クサビ部70は、厚さが縦方向に下部に向かって薄くなるテーパ状に変化しており、H鋼42のフランジ46、48と接触する面には滑り止めの為に鋸歯状の凹凸70aが形成されている。このクサビ部70を有効に使用するため、挟持半体52の突起部66の断面形状は上部から下部に向かって幅が厚くなる略台形状に形成されている。
【0028】
図3(b)に示すように、H鋼支持システムによりH鋼が支持され、建造物の荷重がH鋼支持システムに印加されると、クサビ部70が突起部66とH鋼のフランジ46との間、及び突起部66とH鋼のフランジ48との間に食い込む構成になっているので、H鋼を確実に支持することが可能である。
【0029】
図4は、一対の挟持半体52−1、52−2によりH鋼42を挟持し、突起部66−1、66−2とH鋼42のフランジ46、48の内側にクサビ部70を打ち込んだ様子を示す概略斜視図である。クサビ部70の下端は、突起部66と同じ高さに合わせ、上端を図示したように突起部66から突出させている。
【0030】
図5は、クサビ部のその他の実施形態を示したものであって、クサビ部の概略斜視図(a)と、H鋼支持システムがH鋼を支持したときの挟持半体の突起部とクサビ部の概略縦断面(b)を示す。挟持半体52−1、52−2の突起部66−1、66−2が上述のように断面形状を略台形状に形成することが難しい場合に適用される。挟持半体52の突起部66の断面形状が長方形の場合には、言い換えれば上下方向に亘って突起部66の幅が等しい場合には、クサビ部76は2種類必要となる。すなわち、一のクサビ部72は、厚さが縦方向に下部に向かって薄くなるテーパ状に変化しており、H鋼42のフランジと接触する面には滑り止めの為に鋸歯状の凹凸72aが形成されている。他のクサビ部74は、厚さが縦方向に下部に向かって厚くなる逆テーパ状に変化しており、上端部及び下端部には突起部66に係止するための係止突起74a、74bが形成されている。
【0031】
図5(b)に示すように、H鋼挟持システムによりH鋼が支持され、建造物の荷重がH鋼支持システムに印加されると、クサビ部72がクサビ部74とH鋼のフランジ46との間、及びクサビ部74とH鋼のフランジ48との間に食い込む構成になっているので、H鋼を確実に支持することが可能である。
【0032】
図6は、一対の挟持半体52−1、52−2がH鋼42を挟持し、腕部56−1、56−2の下側からジャッキ装置50が建造物を支持している様子を示す概略側面図である。ジャッキ装置50の伸縮部50aの先端部50bは、図示したように略球面状に形成されており、腕部56−1、56−2の下端面と略点接触するように構成されている。また、伸縮部50aの先端部50bが腕部56−1、56−2の下端面から外れないように、外れ防止冶具60が腕部56−1、56−2の下端面に形成されている。このように構成することで、ジャック装置50に鉛直方向以外の荷重が加わることによるジャッキ装置50の破損を防止している。
【0033】
図7は、腕部の固定用面が、挟持部の両側端から外方へ面一又は平行に延出している場合のジャッキ装置の設置場所について説明した概略横断面図である。図7(a)は、固定用面が挟持部の両端から平行に延出し、腕部の固定用面とH鋼のウエブ面との為す角度(劣角)が略45度である場合について示す。図7(b)は、固定用面が挟持部の両端から面一に延出している場合について示す。H鋼42の幅と高さが異なり、高さが幅よりも長いH鋼42を支持する場合、腕部56−1、56−2の固定用面56a−1、56a−2が挟持部54の両側端から外方へ面一に延出している場合は、図7(b)に示すように、腕部56−1、56−2の長さを長くして、ジャッキ装置50が横梁62と干渉しないように設置する必要がある。一方、腕部56−1、56−2の固定用面56a−1、56a−2とH鋼42のウエブ44面との為す角度を略45度とすることで、図7(a)に示すように、腕部56−1、56−2の長さが短くてもジャッキ50装置を横梁62の干渉を受けずに設置することが可能である。基本的に、本発明のH鋼支持システム40は、腕部56−1、56−2の固定用面56a−1、56a−2が、挟持部54の両側端から外方へ面一又は平行に延出している場合の何れであっても、ジャッキ装置50を横梁62と干渉しないように設置することが可能である。
【0034】
次に、上述のH鋼支持システム40を用いた建造物の解体方法について説明する。図8は、本発明の実施の形態に係る建造物の解体方法を説明した図であり、最初の支持工程により建造物を支持している様子を示す説明図である。本実施の形態では、一例としてボイラ10と建造物12を解体するために、上述したH鋼支持システム40を使用している。
【0035】
建造物12の構造は図示の明瞭化のため形態を変更して示しており、ボイラ10等の構成も概略形状のみを示している。なお、建造物12の柱20はH鋼42で構成されており、建造物12には最下段に位置する横梁22−1から最上段に位置する横梁22−7まで7段の横梁22が設けられている。
【0036】
建造物の解体方法は、まず、建造物の所定数のH鋼42の所定の高さ位置に一対の挟持半体52−1、52−2を、一対の挟持半体52−1、52−2の突起部66−1、66−2がH鋼42の2つのフランジ46、48とウエブ44で形成されるそれぞれの凹部空間に位置する状態で、腕部56−1、56−2の固定用面56a−1、56a−2を当接させて、複数のボルトとナット80により結合固定する。この工程を半体固定工程と呼ぶ。この半体固定工程は一対の挟持半体52−1、52−2をウインチ若しくはチェーンブロックを用い、ジャッキ装置50の伸長部50aの上部に一部荷重を分担させながら行う。なお、この半体固定工程に先立ち建造物12及びボイラ10と、建造物12の図上右側に設置された配置物(図示せず)との間の結合部、すなわち煙道を、図中二点鎖線L1で示した部位で切り離している。
【0037】
半体固定工程終了後、一対の挟持半体52−1、52−2を複数のボルトとナット80により結合固定させた状態で、突起部66−1、66−2の外側面とフランジ46、48の内側面との隙間にクサビ部70を上から下方に打ち込むクサビ部打ち込み工程を実施する。このクサビ部打ち込み工程も一対の挟持半体52−1、52−2をウインチ若しくはチェーンブロックを用い、ジャッキ装置50の伸長部50aの上部に一部荷重を分担させながら行う。
【0038】
クサビ打ち込み工程終了後、一対の挟持半体52−1、52−2の腕部56−1、56−2の下方からジャッキ装置50により建造物全体を支持する建造物支持工程を実施する。図8は最初の建造物支持工程が完了した状態を示している。建造物12は、H鋼支持システム40により、第一の横梁22−1の下部付近で支持されている。すなわち、一対の挟持半体52−1、52−2は柱20であるH鋼42に第一の横梁22−1の下部付近に結合固定され、H鋼42を挟持している。
【0039】
ここで、ジャッキ装置50は、H鋼42に対して平面視で略45度の方向に配置される。図8においては、建造物12を正面から見ているので、ジャッキ装置50は横方向に並んで見えているが、実際には図7に示したようにH鋼42に対して平面視で略45度に配置されている。基本的に全ての柱20(H鋼42)に一対の挟持半体52-1、52-2を結合固定し、各H鋼42につき2台のジャッキ装置50で支持する。
【0040】
ジャッキ装置50による支持動作は、ジャッキ装置50の伸長部50aを伸長させることにより、一対の挟持半体52−1、52−2の腕部56−1、56−2を下方から押し上げることにより行われる。建造物支持工程が終了した時点では、建造物12は、ジャッキ装置50のみによって安定に支持された状態が確保されている。
【0041】
次に、建造物除去工程が実施される。なお、建造物除去工程に先立つ最初の建造物支持工程においては、建造物12はいずれのH鋼42も切断されていない状態でジャッキ装置50により、建造物12が僅かに持ち上げられて支持される。これは、その後の最初の建造物除去工程を行い易くするためである。建造物除去工程においては、一対の挟持半体52−1、52−2による挟持高さ位置より下方部分の建造物12の全ての構成要素が除去される。図8において、図内に二点鎖線L2で示した高さ位置(設置面18から1〜2mの高さ)にて、ガスバーナーを使用して、ボイラ10及び建造物12を切断することにより建造物除去工程が行われる。切断面は、この切断面が設置面18に着地させられるので平坦に均すことが必要である。また、建造物除去工程で除去した構成要素は、例えば運搬車等に載せ適宜解体作業場から運搬される。また、H鋼42の設置面18での当初の取り付け箇所も、この後の建造物下降工程で、上述の切断除去したH鋼42の切断端部が着地されるので平坦に均される必要がある。
【0042】
上記高さ位置L2での建造物除去工程が終了した時点では、ボイラ10と、建造物12は、H鋼支持システム40に下方から支持された状態で、二点鎖線L2の高さより低い部分が存在しない状態となる。この状態で、建造物下降工程を行う。なお、建造物下降工程は、全てのジャッキ装置50全体を同時に同速度で下降させて行われる。すなわち、全てのジャッキ装置50の伸縮部50aを収縮させ、ボイラ10及び建造物12の平衡を保ちながら支持高さ位置を下降させる。この建造物下降工程によるボイラ10及び建造物12の下降は、建造物除去工程で除去を行った後のボイラ10と建造物12の切断端部が設置面18に接するまで行なわれる。この動作を可能にするため、ジャッキ装置50の伸縮部50aが完全に伸縮する前に切断端部が着地するように切断すべき高さ位置が適宜決定されている。
【0043】
建造物下降工程において、ボイラ10と建造物12の切断端部が設置面18に接している状態では、ジャッキ装置50にはボイラ10と建造物12の荷重は印加されていない状態となる。図9は、この建造物下降工程が終了した状況を示しており、同時にH鋼支持システム40の再度の半体固定工程の作業前の様子を示している。この時点では、建造物12の高さは、設置面18から図8で示した二点鎖線L2の高さ位置までの高さ分、すなわちhだけ減少している。
【0044】
この建造物下降工程が行われた後に、H鋼支持システム40による再度の半体固定工程、クサビ部打ち込み工程、建造物支持作業が行われる。図10は、図8の最初の建造物支持工程により建造物を支持している様子の拡大説明図(a)と図9の建造物下降工程を行った直後の拡大説明図(b)である。前述のように、最初の建造物支持工程では、H鋼支持システム40の一対の挟持半体52−1、52−2は、第一の横梁22−1の下部付近に結合固定され、二点鎖線L2で示した高さ位置にてボイラ10と建造物12が切断される。その後にジャッキ装置50の伸長部50aが収縮され、二点鎖線L2で切除した切断端部が設置面18に降ろされる。なお、ジャッキ装置50の動作は、前述したように全体を総合的に制御する制御部を設け、建造物支持工程及び建造物下降工程において、全体による同時支持及び同時下降動作を行う必要がある。
【0045】
H鋼支持システム40を用いた再度の半体固定工程、クサビ部打ち込み工程、建造物支持作業は、図10(b)に示すように、建造物下降工程の後に、H鋼支持システム40の一対の挟持半体52−1、52−2が第一の横梁の22−1の上部付近に結合固定されて行われる。このとき、ボイラ10と建造物12の切断端部は設置面18に接地されているので、ジャッキ装置50にはボイラ10と建造物12の荷重が印加されていない。したがって、特許文献2のように建造物の支持装置による支持バランスに考慮を払わなくても良いので、再度の半体固定工程、クサビ部打ち込み工程、建造物支持作業を安全かつ容易に行うことが可能である。図10(b)には次の建造物除去工程で切断される高さ位置が二点鎖線L3で示されている。
【0046】
この再度の半体固定工程、クサビ部打ち込み工程、建造物支持工程が終了した後、上述した建造物除去工程、建造物下降工程が繰り返される。このようにH鋼支持システム40を用いて一連の工程(半体固定工程、クサビ部打ち込み工程、建造物支持工程、建造物除去工程、建造物下降工程)を繰り返し行なうことで、ボイラ10及び建造物12の全体を同時進行で下方から順次除去解体して行くことができる。
【0047】
以上のように、本実施の形態によれば、H鋼支持システム40の一対の挟持半体52−1、52−2は、H鋼42の所定の高さ位置に接合固定可能であり、H鋼42に対して略45度の角度で取り付けられるので、ジャッキ装置50の設置に横梁等が干渉することがない。したがって、解体作業を効率良く行うことができる。そして、伸縮部50aを有するジャッキ装置50を使用することにより、建造物支持工程における建造物12の支持が、伸縮部50aを伸長させるという簡単な操作で行なわれる。更に、建造物下降工程では、伸縮部50aを収縮させることにより、ボイラ10と建造物12を下降させることができ、建造物除去工程で除去したH鋼42の切断端部が地面に着地させられる。したがって、建造物の重量がジャッキ装置50に印加されていないため、再度の半体固定工程、クサビ部打ち込み工程、建造物支持工程を安全に効率良く行うことができることとなる。その結果、建造物12の解体作業を安全かつ効率的に行うことが可能である。
【0048】
なお、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、一対の挟持半体は、組み合わせた場合に平面視で中央に正方形が形成され、その対角線上に腕部が延在するものを例示したが、中央部の挟持部の平面視外側形状は対象とするH鋼により正方形に限られない。また、ジャッキ装置の種類は図1に示した型のものに限られず、種々の型のジャッキを使用することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 ボイラ
12 建造物(支持構造物)
18 設置面
20 柱(H鋼)
22 横梁
40 H鋼支持システム
42 H鋼
44 ウエブ
46、48 フランジ
50 ジャッキ装置
50a 伸縮部
50b 先端部
52−1、52−2 挟持半体
54 挟持部
54a 一の面
54b 他の面
56−1、56−2 腕部
60 外れ防止冶具
66−1、66−2 突起部
70、76 クサビ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
H鋼を挟持して支持するためのH鋼支持システムにおいて、
直角を為す2つの面を有する挟持部及び該挟持部の両側端から外方へ面一又は平行に延出した固定用面を有する2つの腕部を有し、前記挟持部の一の面は、前記H鋼のフランジの幅より小さい幅を有し、前記挟持部の他の面は、前記H鋼の2つのフランジの外側面間の距離より小さい幅を有し、かつ前記挟持部の他の面には、前記2つのフランジの内側面間の距離より短い幅を有する突起部の設けられた一対の挟持半体と、
該一対の挟持半体相互を前記腕部の固定用面を対向させた状態で結合固定する固定手段と、
前記一対の挟持半体による前記H鋼の挟持状態にて、前記突起部の外側面と前記フランジの内側面との隙間に上から下方へ打ち込まれるクサビ部と、
前記一対の挟持半体による前記H鋼の挟持状態にて、前記一対の挟持部の腕部を下方から昇降可能に支持する支持装置と、
を有することを特徴とするH鋼支持システム。
【請求項2】
前記挟持部の他の面の突起部は、上から下方に向かって幅が広くなるようにテーパ状に形成されたことを特徴とする請求項1に記載のH鋼支持システム。
【請求項3】
前記支持装置は、
略鉛直方向に伸縮可能な伸縮部を有するジャッキ装置であることを特徴とする請求項1又は2の何れか1項に記載のH鋼支持システム。
【請求項4】
前記一対の挟持半体が前記H鋼を挟持したとき、前記腕部の固定用面と前記H鋼のウエブ面との為す劣角が略45度であることを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載のH鋼支持システム。
【請求項5】
複数のH鋼による柱を構成要素とする建造物を請求項1から3の何れか1項に記載のH鋼支持システムを用いて支持しながら解体する建造物解体方法において、
前記建造物の所定数のH鋼の所定の高さ位置に前記一対の挟持半体を、該一対の挟持半体のそれぞれの突起部を前記H鋼の2つのフランジ間にそれぞれ位置させた状態で対向配置し、前記腕部の固定用面相互を対向させ、前記固定手段により結合固定する半体固定工程と、
該半体固定工程の後、前記突起部の外側面と前記フランジの内側面との隙間にクサビ部を上から下方に打ち込むクサビ部打ち込み工程と、
該クサビ部打ち込み工程の後、前記結合固定された一対の挟持半体の腕部を前記支持装置にて下方から支持することにより前記建造物全体を支持する建造物支持工程と、
該建造物支持工程の後、前記建造物の全ての構成要素の前記一対の挟持半体による挟持高さ位置より下方部分を除去する建造物除去工程と、
該建造物除去工程の後、前記支持装置を下降させ、前記H鋼の下端を地上に接地させ、前記建造物を着地させる建造物下降工程と、を備え、
前記一連の工程を繰り返し、前記建造物をその下側から順次除去して解体することを特徴とする建造物解体方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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