HBHAを使用した結核の検出およびMycobacteriumtuberculosisによる感染の検出
【課題】本発明は、哺乳類におけるMycobacterium tuberculosis感染のin vitro検出のための方法を提供することが目的である。
【解決手段】本発明は、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する方法、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定する方法であって、a)前記哺乳類から生物学的サンプルを得ること;b)独立した方法で、前記生物学的サンプルを、天然型HBHAおよびESAT-6と接触させること;c)HBHAに特異的なIFN-γ分泌およびESAT-6に特異的なIFN-γ分泌を測定すること;ならびに、d)HBHAに特異的なIFN-γ分泌とESAT-6に特異的なIFN-γ分泌との比率を計算することを含み、潜在性の結核を示す哺乳類で得られた比率が、活動性の結核を示す哺乳類で得られた比率、またはM. tuberculosisに感染していない哺乳類で得られた比率よりも高い方法に関する。
【解決手段】本発明は、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する方法、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定する方法であって、a)前記哺乳類から生物学的サンプルを得ること;b)独立した方法で、前記生物学的サンプルを、天然型HBHAおよびESAT-6と接触させること;c)HBHAに特異的なIFN-γ分泌およびESAT-6に特異的なIFN-γ分泌を測定すること;ならびに、d)HBHAに特異的なIFN-γ分泌とESAT-6に特異的なIFN-γ分泌との比率を計算することを含み、潜在性の結核を示す哺乳類で得られた比率が、活動性の結核を示す哺乳類で得られた比率、またはM. tuberculosisに感染していない哺乳類で得られた比率よりも高い方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類におけるMycobacterium tuberculosisの感染のin vitroで検出のための方法、その症状を示すMycobacterium tuberculosisに感染した哺乳類(活動性)と、感染しているが結核について無症状である哺乳類(潜在性)とをin vitroで区別する方法、および、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とをinn vitroで区別する方法に関する。本発明は、また、結核の症状を示す感染した哺乳類と、症状は発症していないが感染した哺乳類とを検出して区別するためのキット、および、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とを区別するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
結核は、最初に肺に影響を及ぼす細菌性の病気である(肺結核);リンパ節、胸膜(胸膜腔)関節、骨、尿生殖管、髄膜、腹膜、消化管、中枢神経系、副腎または心膜などの身体の他の部分も影響を受ける可能性がある(肺外結核)。
【0003】
結核は、病気の哺乳類から、唾液および痰に存在する病原菌への曝露によって(例えば、咳やくしゃみをした場合)、または傷口の接触により、空気を介して伝播する。結核の症状は、熱、寝汗、倦怠感、体重減少、食欲減退および持続的な咳である。
【0004】
世界中で一年間当たり二百万の死亡をもたらしており、世界の人口の三分の一が、原因因子であるMycobacterium tuberculosis(コッホ桿菌またはKBとして通常知られている)に感染していることから、2004年において、結核は、未だに主要な健康問題である。それゆえ、結核は、感染症による死亡原因の二番目に位置する(ヒト免疫不全ウイルスによる感染に続く)(1)。この理由のために、世界保健機関および欧州共同体は、この分野の研究を、優先度の高いものの1つとしている。以下の3つの目的が定められた。
a)現在のワクチンであるBCG(カルメットとゲランの桿菌)よりも有効な予防をもたらすワクチンの開発による予防;
b)結核の迅速な診断手法の改良;および
c)管理を容易にして多剤耐性細菌種の発生を避ける迅速な治療法の発見。
【0005】
結核の新たな発症の不十分な検出が、結核の発症数の世界的な増加の主要な理由であることが判明している(2)。痰の顕微鏡による観察および培養が、肺結核を診断する2つの有効な方法であるとして認識されている。しかしながら、細菌培養の結果は、6から8週間後にしか求めることができず、発展途上国は、この手法に必要な設備を常に有しているとは限らない。このことにより、一次治癒の診断試験として培養を利用することが大いに制限されている(3)。それゆえ、痰中の酸耐性桿菌の測定が、肺結核の迅速な診断の最も有用な試験となっているが、痰μl当たり5000から10000の桿菌が、陽性となるために必要であるということが原因の1つとなり、本方法による同定は、不幸なことに、肺結核の50%から60%の場合でしか陽性とならない(3)。肺結核を診断することは、子供ではより更に困難である。若いときは、痰をほとんど吐かず、通常は胃吸引によって痰を回収するからである。しかしながら、このようなサンプルは、証明された結核の子供の20%未満で陽性になり、これは、大人で得られる結果よりも著しく低い(4)。最後に、大人よりも子供でより頻度が高い肺外結核の診断は、未だに行なうのが困難である。肺外結核の診断は、最初は、生検体の解剖-病理学試験にたびたび基づく。結核の一般的な組織的外観は、乾酪壊死を伴う肉芽腫の存在である。肉芽腫は、組織球、上皮細胞および/またはランゲルハンス巨細胞によって構成される。しかしながら、リンパ節と肺サンプルの両方について、いくらかの異なる診断が、感染症(非結核マイコバクテリア、真菌症等)または非感染症(サルコイドーシス、ウェグナー症等)として解釈されている(5)。結核の診断が有効であると確認するためには、Mycobacterium tuberculosisのアルコール-酸耐性特性を利用するZiehl-Nielsen染色などの、特定の染色について実施することによって、組織学的観察を完全に行なわなければならない。しかしながら、1mlの組織当たり106という量の有機組織体が、陽性のZiehl-Nielsen染色を得る必要がある(6)。
最終的には、診断は、未だに、臨床またはX線学的データに、そして、ツベルクリンに対する遅延型過敏性のための皮膚試験の結果にしばしば基づく。しかしながら、この皮膚試験は、M. tuberculosisに感染した個体と、BCGでワクチン接種した個体との区別が容易に行なうことができず、周囲に存在するマイコバクテリアとの交差反応により、その特異性は乏しい。細胞性免疫応答の測定に基づくその試験は、また、免疫不全の個体には感度が低い。最後に、ワクチン接種を行なっていない個体集団の中から、M. tuberclosisに感染したヒトを同定することができるが、不幸なことに、遅延型結核を示す個体(症状が現れない)と、活動性疾患の患者とを区別することができない。実際に、M. tuberculosisに感染した5%から10%の個体は、病気を発症するのに対して、残りは感染していても、病気から保護される(7)。したがって、この試験の実際的な使用は、非常に制限される。
より最近は、M. tuberculosisの存在をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を使用して測定する分子生物学的手法が開発された。このような手法は感度が高いが(95%)、特に、直接的な試験が陽性になる痰サンプルに当てはまる。対照的に、その特異性は優れており(98%)、M. tuberculosisを他のマイコバクテリアから区別することが可能である。しかしながら、この手法は高価であり、その適用は制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】FR-A-01/14953
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Menzozzi et al, J ExpMed 184; 993-1001(1996)
【非特許文献2】Pethe et al, Natur 412: 190-194(2001)
【非特許文献3】Pethe et al, 2000, Journal of Biological Chemistry 275 (19): 14273-14280
【非特許文献4】Temmerman(Nat. Med. 2004 Sep, 10(9): 935-941)
【非特許文献5】Masungi et al. J. Inf. Dis. 2002;185:513-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ、結核を迅速に診断するための新規の手段を開発することは、緊急事項であるように思われる。1つの可能性ある方法は、病気であるか無いかに依存する、非感染の対象と感染した個体とに存在するであろう免疫応答性の差異を探し出すことからなる。マイコバクテリア抗原による循環リンパ球のIFN-γの誘導分泌の研究に基づく、異なる試験が、文献に報告されている(8)。しかしながら、ツベルクリン(マイコバクテリア抗原の複合的な混合物)によって誘導されるIFN-γ分泌の分析は、皮膚試験の使用と同様の制限を有する。実際に、病気であろうと無かろうと全ての感作された個体が、そして、ある変種のマイコバクテリアに存在する抗原または単純にBCGで感作されたヒトが、反応してしまう。皮膚試験を超えるこの試験の利点は、リンパ球応答の分析により、陽性コントロール(フィトヘマグルチニン)と並行させて、重篤な免疫不全性が原因でPPDに応答しない患者でも検出することができることである。M. tuberculosisiに対する特異的な抗原を単離し、in vitroでのIFN-γ分泌試験に使用したところ、前記試験の特異性を明確にはるかに優れていた。原則的には、抗原ESAT-6およびCFP10を使用することができるが、これらの抗原によって得られる、病気の感染対象または健康な感染対象間の区別については、未だ完成には程遠い。
【0009】
「ヘパリン結合ヘマグルチニン」(HBHA)に関するヒトでの免疫応答の研究が、病気の感染対象または健康な感染対象間の優れた区別をもたらすことを示す。HBHAは、付着を担い、Mycobacterium complexの部分を形成する細菌の表面には発現しており、M. smegmatisなどの非病原性細菌の表面には発現していない(10)。このタンパク質は、M. tuberculosisによって分泌され、感染の蔓延の原因となっている(11)。HBHAは、メチル化C末端領域を有し、表面で発現し、非メチル化のN末端部分は、マイコバクテリア壁で接着部分を固定している(12)。メチル化は、ヒトでの免疫応答だけでなく、マウスでの防御免疫応答を誘導するのにも重要である(13)。in vitroでのHBHA刺激による循環リンパ球におけるIFN-γの誘導分泌は、M. tuberculosisで感染したヒトが病気であるか無いかに依存して、異なることが示されている(14)。IFN-γは、HBHAに応答して、大部分の健康な患者で末梢リンパ球によって分泌されるが、少数の結核患者のみが、IFN-γを分泌することによって抗原に応答する。しかしながら、これら予備的な結果に基づく、これらのグループ個体間の区別は、診断試験を実施するには不十分であった。
【0010】
本発明は、哺乳類におけるMycobacterium tuberculosis感染のin vitro検出のための方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、また、その症状を示すMycobacterium tuberculosisに感染した哺乳類と、感染しているが結核について無症状である哺乳類とをin vitroで区別する方法、健康な集団の中から潜在性の結核患者をin vitroで同定する方法、および、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とをin vitroで区別する方法を提供することを目的とする。
【0012】
最後に、本発明は、また、Mycobacterium tuberculosis感染を検出するために必要な全てのエレメントを含み、感染した無症状の患者(潜在性の結核)から、感染した症状を示す患者(活動性の結核)を区別することができるキット、および、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とを区別するキットを提供することを目的とする。
【0013】
本発明は、また、Mycobacterium tuberculosisによる感染を検出するための、および、潜在性の結核を示す患者と結核の全ての症状を示し病気である患者とを区別するための、天然型または組換え型のHBHAの使用に関連する。本明細書の記載および好ましい実施だけでなく特許請求の範囲によっても明示されているように、これらの目的および他の目的は、本発明において具現化される。
【0014】
本発明は、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する方法であって、a)前記哺乳類から生物学的サンプルを得ること;b)前記生物学的サンプル中に含まれている、2つの異なる形態のHBHAタンパク質に対する抗体(IgG)の量を測定すること;およびc) 2つの形態のHBHAタンパク質について得られた抗体のタイターを比較することを含み、潜在性の結核を示す哺乳類における2つの異なる形態について得られた抗体タイターの比較が、活動性の結核を示す哺乳類において得られた抗体タイターとは異なる方法を開示する。
【0015】
本発明の範囲には、また、潜在性の結核を示す患者と活動性の結核を示す哺乳類とを検出し区別するキットであって、a)天然型HBHAおよび組換え型HBHA、またはb)rHBHAΔC断片およびHBHAメチル化C末端断片からなる群から選択される2つの異なるHBHA、前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに含まれる抗体と異なる形態のHBHAとの免疫反応を行うための媒体を構成するのに必要な試薬、ならびに、前記免疫反応の間に形成される免疫複合体の検出を可能とする試薬を含むキットも包含される。
【0016】
本発明は、また、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する方法、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定する方法であって、a)前記哺乳類から生物学的サンプルを得ること;b)独立した方法で、前記生物学的サンプルを、天然型HBHAおよびESAT-6と接触させること;c)HBHAに特異的なIFN-γ分泌およびESAT-6に特異的なIFN-γ分泌を測定すること;ならびに、d)HBHAに特異的なIFN-γ分泌とESAT-6に特異的なIFN-γ分泌との比率を計算することを含み、潜在性の結核を示す哺乳類で得られた比率が、活動性の結核を示す哺乳類で得られた比率、またはM. tuberculosisに感染していない哺乳類で得られた比率よりも高い方法に関する。
【0017】
本発明は、また、活動性の結核を示す哺乳類から潜在性の結核を示す患者を検出し区別するキット、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定するキットであって、天然型HBHAおよびESAT-6、独立した方法で、前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに存在する細胞と、天然型HBHAおよびESAT-6との接触を行うための媒体を構成するのに必要な試薬、ならびに、接触後のIFN-γ分泌を検出するための試薬を含むキットに関連する。
【0018】
本発明は、また、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する方法であって、a)前記哺乳類の局所的な感染部位から生物学的サンプルを得ること;b)前記サンプルを、天然型HBHAまたは組換え型HBHAと接触させること;ならびに、c)HBHAに特異的なIFN-γに対する前記接触の効果を測定することを含み、HBHAに特異的なIFN-γの効果が、活動性の結核を示す哺乳類では、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類よりも高い方法に関連する。
【0019】
本発明は、また、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類から、活動性の結核を示す哺乳類を検出し区別するキットであって、天然型HBHAまたは組み換え型HBHA、前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに存在する細胞と、HBHAとの接触を行うのに適した媒体を構成するのに必要な試薬、および、接触後のIFN-γの検出を可能とする試薬を含むキットを明示する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、結核患者(TB)および潜在性の結核(PI)を示す対象における、HBHAに特異的なIgGのタイターに関する。長方形は、25%および75%を示す。垂直な線は、最大値を示す。 これら2つの集団において、有意差は見られなかった(p>0.05)。
【図2A】図2は、結核患者(TB)および潜在性の結核を示す対象(PI)における、nHBHAに特異的なIgGとrHBHAに特異的なIgGとのタイターを比較する。図2Aは、潜在性の結核を示す対象においては、IgGは、組換え型のHBHA(rHBHA)よりもメチル化された天然型のHBHAを良く認識することを示す(p=0.0015)のに対して、結核患者においては(図2B)、その差異は顕著ではない(p>0.05)。
【図2B】図2は、結核患者(TB)および潜在性の結核を示す対象(PI)における、nHBHAに特異的なIgGとrHBHAに特異的なIgGとのタイターを比較する。図2Aは、潜在性の結核を示す対象においては、IgGは、組換え型のHBHA(rHBHA)よりもメチル化された天然型のHBHAを良く認識することを示す(p=0.0015)のに対して、結核患者においては(図2B)、その差異は顕著ではない(p>0.05)。
【図3A】図3は、結核患者(TB)および潜在性の結核を示す対象(PI)における、rHBHAΔCに特異的なIgGとHBHAのC末端断片(C-ペプチド)に特異的なIgGとのタイターを比較する。図3Aは、結核患者が、切断された組換え型(rHBHAΔC)を優先的に認識するのに対して、潜在性の結核を示す対象のIgGが、この型をほとんど認識しないことを示す。対して、図3Bにおいては、結核患者に由来するIgGは、潜在性の結核を示す対象と対照的に、C-ペプチド断片を認識にしない。
【図3B】図3は、結核患者(TB)および潜在性の結核を示す対象(PI)における、rHBHAΔCに特異的なIgGとHBHAのC末端断片(C-ペプチド)に特異的なIgGとのタイターを比較する。図3Aは、結核患者が、切断された組換え型(rHBHAΔC)を優先的に認識するのに対して、潜在性の結核を示す対象のIgGが、この型をほとんど認識しないことを示す。対して、図3Bにおいては、結核患者に由来するIgGは、潜在性の結核を示す対象と対照的に、C-ペプチド断片を認識にしない。
【図4】図4は、コントロール対象(ctrl;n=12)、最近感染した潜在性結核を示す対象(<5年)(PI;n=38)および結核患者(TB;n=46)における、nHBHAに応答するIFN-γ分泌を示す。中央値は、それぞれ、10pg/ml、2040pg/mlおよび16pg/mlである。**p<0.001。
【図5】図5は、潜在性結核の対象(PI)および結核患者(TB)における、ESAT-6に応答するIFN-γの分泌を示す。 潜在性結核を示す対象においては、ESAT-6により特異的に誘導されたIFN-γ分泌は、結核患者において誘導されたIFN-γ分泌よりも顕著に低い。その中央値は、PI患者におけるESAT-6によるIFN-γで42.50pg/mlであり、Tb患者におけるIFN-γで4072pg/mlである(p=0.02)。
【図6】図6は、結核患者および潜在性結核を示す対象における、nHBHA/ESAT-6比率を示す。中央値は、それぞれ、0.1pg/mlおよび146.2pg/mlである。この比率は、潜在性結核を示す対象では実質的に高くなり(p=0.001)、症状を示す感染した患者と、症状を示さない感染した患者(兆候が出ていない)とを良好に区別する。
【図7】図7は、結核患者における、末梢血単核細胞(PBMC)によるnHBHAに応答したIFN-γ分泌に対する、抗-形質転換成長因子β1、2、3(抗-TGFβ)ブロッキング抗体の効果を示す。IFN-γは、培養上清でアッセイした。対試験(Wilcoxon - p =0.0161;n=15対)。
【図8】図8は、nHBHAに応答する、またはPPDに応答する、結核を原因とする、または他を原因とする胸膜滲出の患者から取り出した胸膜液単核細胞によるIFN-γ分泌との比較を示す。IFN-γは、培養液上清でアッセイした。平行な線は、中央値を示す。
【図9】図9は、nHBHAに応答する細胞質内IFN-γを含む胸膜CD3+CD4+Tリンパ球(胸膜リンパ球 nHBHA)と比較した、nHBHAに応答する細胞質内IFN-γを含むPBMCに由来するCD3+CD4+Tリンパ球(PBMC nHBHA)の割合を示す。この値は、結核患者における、HBHAによる刺激を行わなかった場合のIFN-γを産生する細胞の割合を差し引いた、16時間のHBHA刺激後にIFN-γを発現する細胞の割合として表す(n=7)。中央値は、それぞれ、0.04%および1.23%である(p=0.0156;Wilcoxon)。
【図10】図10は、胸膜結核の場合(n=7;中央値=1.23%)の、および、結核が原因では無い胸膜滲出の場合(n=2;中央値=0.18%)のnHBHAに応答する細胞質内IFN-γを含む胸膜CD3+CD4+Tリンパ球の割合を示す。
【図11A】図11は、nHBHAによる刺激に応答するIFN-γを含むCD3+CD4+CD3+CD4+Tリンパ球(図11A)およびCD3+CD8+Tリンパ球(図11B)の割合を示す。 この図は、肺胞洗浄液に由来する肺胞リンパ球細胞(肺胞)または末梢血単核細胞(血液)を示す。 肺胞洗浄液は、肺結核を示す患者から、または結核を原因としない肺の病変を示すコントロール対象から得た。
【図11B】図11は、nHBHAによる刺激に応答するIFN-γを含むCD3+CD4+CD3+CD4+Tリンパ球(図11A)およびCD3+CD8+Tリンパ球(図11B)の割合を示す。 この図は、肺胞洗浄液に由来する肺胞リンパ球細胞(肺胞)または末梢血単核細胞(血液)を示す。 肺胞洗浄液は、肺結核を示す患者から、または結核を原因としない肺の病変を示すコントロール対象から得た。
【図12】図12は、nHBHAに特異的なIFN-γ分泌からの、潜在性結核の患者とコントロール個体との区別を可能とするROC曲線(A)、nHBHAに特異的なIFN-γ分泌からの、潜在性結核の患者と活動性結核の患者との区別を可能とするROC曲線(B)、およびPPDに特異的なIFN-γ分泌からの、潜在性結核の患者と活動性結核の患者との区別を可能とするROC曲線(C)、を示す。 これらの図については、NSは、差が顕著では無いことを示し、*は、差が0.01<p<0.05で顕著であることを示し、**は、差が、p<0.01で非常に顕著であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の文脈においては、用語「哺乳類」は、子供に乳を与え、生きた子供を生む、体毛または毛皮に覆われた任意の温血動物を指す。用語「哺乳類」には、これらに限定されないが、ヒト、ゾウ、ブタ、イヌ、ネコ、ウシ、シカ、サル等が含まれる。
Mycobacterium tuberculosisは、原則的には、ヒト宿主に感染するが、他の哺乳類もまた、この細菌性疾患によって影響を受けうる。この場合、ヒト以外の哺乳類における結核の感染は、「逆転動物原性感染症(inverse zoonosis)」として知られている。なぜならば、Mycobacterium tuberculosisは、ヒトから動物へと伝染するからである。
【0022】
略語「HBHA」は、「ヘパリン結合ヘマグルチニン アドヘシン(heparin binding haemagglutinin adhesin)を意味し、上皮細胞への付着に関与する表面タンパク質である(Genbank accession numbers AF07390 and AAC26052.1)。天然型のHBHAタンパク質の同定については、Menzozzi et alによって記載されている(J ExpMed 184; 993-1001(1996))。HBHAは、199のアミノ酸からなるタンパク質であり、そのC末端部分は豊富なリジン反復を有し、ヘパリン結合部位を含む。このタンパク質は、Mycobacterium tuberculosisの肺外播種に必要である(Pethe et al, Natur 412: 190-194(2001))。
【0023】
組み換えHBHA(rHBHA)は、仏国特許出願FR-A-01/14953に開示されており、この特許出願においては、野生型HBHAタンパク質(nHBHA)とは対照的に、組み換えHBHAタンパク質は、C末端部分のリジン残基がメチル化されていない。
【0024】
rHBHAΔC断片は、Pethe et al(2000, Journal of Biological Chemistry 275 (19): 14273-14280)に開示されている。この断片は、アミノ酸161-199が欠失した組み換えHBHAに由来する。
【0025】
メチル化されたC末端断片には、以下の配列:
KKAAPAKKAAPAKKAAPAKKAAAKKAPAKKAAAKKVTQK(配列番号1)
を有するアミノ酸161-199が含まれる。
【0026】
前記で引用した全ての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
本発明の文脈においては、略語「PBMC」は、「末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cells)を意味する。本明細書に開示されるPBMCは、文献に開示された任意の方法で得ることができる。本発明の1つの実施形態においては、PBMCは、約9.1%(w/v)のsodium diatriazoate溶液と約5.7%の多糖類溶液とを使用して、静脈血サンプルから密度勾配遠心分離によって得られる。この溶液は、約1.077±0.001g/mlの密度を有し、280±15mOsmの重量オスモル濃度を有する。この溶液は、商標名Lymphoprepを有する。
【0028】
用語「潜在性の結核」または「潜在性のMycobavterium tuberculosis」は、本明細書では相互変換可能に使用され、哺乳類がMycobacterium tuberculosis群の細菌に感染したが、無症状である、すなわち結核の症状を発症しないことを意味する。更に、感染した哺乳類は、他の哺乳類に伝播しない。なぜならば、如何なる結核の病原菌も痰の中に存在しないからである。言い換えれば、哺乳類は感染するが、病気を発症していない。
【0029】
結核の様々な形態が以下のように分類されている:
TB0:結核因子に曝露していない;感染なし:
TB1:Mycobacterium tuberculosisに曝露、感染の程度は不明:
TB2:結核因子に感染、症状は発症していない(ツベルクリン皮膚試験では陽性反応:陽性PPD):
TB3:活動性の結核、完全な診断:
TB4:臨床的には不活動性の結核、適切に治療または寛解期:
TB5:結核の可能性あり、診断中(結核を「除外」)。
【0030】
本発明の文脈における表現「健康な集団」は、感染状態が何であれ(すなわち、感染せず(TB0)または感染しているが健康である(潜在性の結核;TB2))結核症状を発症していない個人を指す。
【0031】
本発明の文脈に記載された方法およびキットは、前記で分類したTB2型からTB3型を、TB0型からTB2型を、そしてTB0型からTB3型を区別することができる。
【0032】
略語「PPD」は、「ツベルクリンタンパク質精製誘導体(tuberculin protein-purified derivative)」を意味する。結核は、通常、PPDへの皮内曝露を含む試験によって診断される。この試験は、PPDに曝露した部位での皮膚反応が特定の大きさ(例えば10mm以上)を超えた場合に、結核に対して陽性であると判断される。
【0033】
本明細書において定義される用語「生物学的サンプル」には、呼吸器官サンプルおよび非呼吸器官サンプルが含まれる。「呼吸器官サンプル」には、気管支吸引物、肺胞洗浄液(BAL)、胃洗浄液および痰が含まれる。本発明の方法において使用することができる非呼吸器官サンプルの例には、胸膜液、腹腔液および関節液、脳脊髄液、頭部液体(cephalorachidian fluid)、髄液、腹水、心膜液ならびに他の身体の液体などの滲出液、リンパ節、経気管支生検、胸膜生検および肝臓生検、延髄穿刺および腰椎穿刺、尿または血液サンプル(PBMCすなわち末梢血単核細胞)、膿吸引物等が含まれる。
【0034】
用語「感染部位から」には、結核感染部位から取り出した任意の生物学的サンプルが含まれ、前記した任意の生物学的サンプルおよび他のものが含まれる。
【0035】
本発明の方法は、一方で、感染した哺乳類において、前記した病原因子による感染の兆候である、Mycobacterium tuberculosisのHBHAタンパク質に対する免疫応答をin vitroで検出することができ、そして、他方で、場合によっては従来の診断方法を補って、活動性の結核と潜在性の結核とを(言い換えれば、感染形態と非感染形態とを)in vitroで区別することができる。
【0036】
本発明は、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する方法であって、前記方法が、
a)前記哺乳類から生物学的サンプルを得ること;
b) 2つの異なる形態のHBHAタンパク質に対する抗体(IgG)であって、前記生物学的サンプル中に含まれている抗体の量を、抗体-HBHA相互作用の形成に適した条件下で測定すること;および
c) 2つの形態のHBHAタンパク質について得られた抗体のタイターを比較すること、
を含み、潜在性の結核を示す哺乳類における2つの異なる形態について得られた抗体タイターの比較が、活動性の結核を示す哺乳類において得られた抗体タイターとは異なる方法に関する。
【0037】
哺乳類に由来する生物学的サンプルから開始し、異なる型(活動性 対 潜在性)の結核に特異的であるMycobacterium tuberculosisのHBHAタンパク質に対する免疫応答の特徴を使用することによって、本方法は、発症した感染哺乳類と発症していない感染哺乳類とを区別することができる。それ故、潜在性の結核を示す哺乳類と、活動性の結核を示す哺乳類とは、HBHAタンパク質について異なる免疫応答、特に液性免疫を有する。
【0038】
潜在性の結核を示す哺乳類や活動性の結核を示す哺乳類に由来するイムノグロブリンG(IgG)のような抗体は、HBHAタンパク質の異なる部分を認識する。それ故、HBHAタンパク質の構造を調節して、異なる形態のHBHAを得て、異なる型の結核を区別することが可能となる。用語「異なる形態のHBHA」は、そのアミノ酸残基数(欠失もしくは付加)、および/または、そのアミノ酸残基の特徴(異なるもしくは同じ大きさの、電荷の、立体障害のアミノ酸の置換)に関する、ならびに/または、アセチル化、アミド化、ビオチン化、カルボキシル化、ヒドロキシル化、メチル化、リン酸化もしくは硫酸化などの翻訳後修飾、または、脂質の付加(イソプレニル化、パルミトイル化およびミリストイル化)、糖の付加(グリコシル化)またはポリペプチドの付加(ユビキチン化)による翻訳後修飾に関する、HBHAタンパク質の構造への任意の改変を意味する。本発明の文脈においては、2つの形態のHBHAが、潜在性の結核を示す哺乳類に由来する抗体と活動性の結核を示す哺乳類に由来する抗体とによって、異なる方法で認識される場合、その2つの形態は、異なると称される。
【0039】
タイター測定、すなわちそれぞれの形態のHBHAを認識する抗体の量の測定(血清学的アッセイ)は、生物学的サンプルに含まれる抗体を異なる形態のHBHAと接触させる、直接もしくは間接ELISA(enzyme linked immunosolvent assay)などの当業者に知られた任意の手法を使用して、またはラジオイムノアッセイ(RIA)によって、独立した方法で実施される。「独立した方法で」は、サンプルの一部を、1つの形態のHBHAタンパク質と接触させ、サンプルの他の部分を、第2の形態のHBHAタンパク質と接触させることを意味する。相互作用および前記相互作用の検出を可能とする、サンプルに存在する抗体とそれら形態のHBHAとの接触は、当業者に知られた適切な条件下で実施される。それ故、例として、以下の方法を改変することができる:支持体へ抗原(HBHA)をカップリングする方法、生物学的サンプルの希釈、異なる形態のHBHAの濃度、温度および接触時間、そして必要であれば二次抗体の特性および濃度だけでなく、相互作用の検出を可能とするパラメーター(例えば、バックグラウンドノイズの低減、標識の選択(放射能、蛍光)、または検出シグナル収集時間)。
【0040】
ELISA方法の例としては、異なる形態のHBHAを、適切なバッファー(コーティングバッファー)で、1から10μg/mlの範囲の濃度に希釈し、(50から200μlを)マイクロプレートのウェル内で、室温(RT)で1から6時間、または4℃で一晩インキュベートする。一般に使用されるバッファー溶液は、50mM炭酸ナトリウム, pH6.9;20mM Tris-HCl, pH8.5または10mM PBS, pH7.2-7.4である。その後、プレートを、(終濃度0.01%から0.05%の)TritonまたはTween20などの界面活性剤とともに0.1M PBSまたはTBS, pH7.4を含む(200から300μlの)洗浄溶液で洗浄する。その後、脱脂乳粉末、カゼインまたはゼラチンを含むPBSなどの(200から300μlの)飽和溶液を、非特異的相互作用をブロックするために、37℃または室温で30から60分間添加し、その後、残った液を何回かの洗浄で除去する。(1/10から1/1000倍に)希釈した生物学的サンプル(100から200μl)を、37℃もしくは室温で30分から2時間、または4℃で一晩インキュベートし、その後、何回か洗浄する。その後、飽和溶液で希釈した(約100μlの)二次抗体を、室温または37℃で30分から2時間添加する。残った液を何回かの洗浄で除去する。必要であれば、(100μlの)基質を、暗黒下で、室温で1から5分間加え、その後、停止溶液を加えた。
【0041】
タイター結果によって、同じ哺乳類で比較すべき2つの異なる形態について得られた2つの値が求められる。潜在性の結核を示す1つまたは複数の哺乳類、および、活動性の結核を示す1つまたは複数の哺乳類において同時に実施するような比較により、感染哺乳類に生じる特異的な免疫応答が原因で、非常に異なった結果が得られる。
【0042】
天然型HBHAタンパク質(nHBHA)は、C末端部分でリジン残基がメチル化されていることは、仏国特許出願(FR-A-01/14953)において、以前から示されていた。対照的に、組換え型HBHAタンパク質(rHBHA)は、このような翻訳後修飾を受けないので、異なるメチル化の程度を有する。
【0043】
それ故、天然型および組換え型の使用により、活動性の結核を有する哺乳類に由来する生物学的サンプルは、天然型および組換え型に対する抗体を同等な量で含むことが示され、それ故、これらの哺乳類においては、タンパク質の同じ部分(N末端)が認識されることが示された。対照的に、潜在性の結核を示す哺乳類に由来する生物学的サンプルは、天然型に対する抗体のタイターが、組換え型に対する抗体のタイターよりも高いことが示され、このことにより、これらの哺乳類においては、メチル化された天然型が優先的に認識されることが示された。それ故、これらの結果により、潜在性の結核と活動性の結核が、野生型HBHAに対する抗体のタイターと組換え型HBHAに対する抗体のタイターとを比較することによって、区別することが可能となった。
【0044】
本発明の文脈において使用される2つの異なる形態のHBHAとは、タンパク質のN末端部分(アミノ酸1から160)であるrHBHAΔC断片、およびメチル化C末端である。生物学的サンプルに由来する抗体タイターの比較により、潜在性の結核を示す哺乳類においては、メチル化C末端断片を認識する抗体が多数を占めることが観察された一方、活動性の結核を示す哺乳類においては、rHBHAΔC断片を認識する抗体が多数を占めることが観察された。
【0045】
抗体のタイター測定を含むこのような方法は、IgGを含む任意の生物学的サンプルで実施することができる。本発明の更なる態様においては、前記方法は血液サンプルで実施する。
【0046】
本発明は、また、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とを検出し区別するキットであって、
・前記した2つの異なる形態のHBHA(1つは、天然型HBHAと組換え型HBHA、他方は、rHBHAΔC断片とHBHAのメチル化C末端断片);
・前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに含まれる抗体と異なる形態のHBHAとの免疫反応を行うための媒体を構成するのに必要な試薬(本試薬には、抗体と異なる形態のHBHAとの相互作用に必要な全ての化合物だけでなく、前記相互作用を増加または改善することができる任意の化合物または前記相互作用をより特異的にする任意の化合物が含まれる);
・前記免疫反応の間に形成される免疫複合体の検出を可能とする試薬(本試薬には、前記した抗体と異なる形態のHBHAとの反応を示すことができる、または検出することができる任意の化合物が含まれる。本試薬には、場合によっては放射線で標識された、または蛍光色素とカップリングした二次抗体だけでなく、検出シグナルを増強できる、または調節することができる任意の分子が含まれる)、
を含むキットを提供する。
【0047】
キットには、場合によっては、陰性コントロール(TB0段階の非感染の哺乳類に由来するサンプル)として、または陽性コントロール(TB2および/もしくはTB3段階)として使用することができる1つまたは複数のリファレンス組織または生物学的サンプルが含まれる。
【0048】
HBHAに特異的なIFN-γ分泌に基づく一般的な方法は、現在のところ、図12のROC曲線に示されるように、健康なコントロール群における潜在性の結核患者を同定するには十分であるだけでなく、潜在的な結核患者と活動性の結核患者とを区別するのにも十分なようである。しかしながら、これらの方法は、ESAT-6に特異的なIFN-γ分泌を考慮に入れることによって、大いに改良することができた。それ故、本発明は、HBHA-特異的およびESAT6特異的IFN-γ分泌の両方に基づく、これら一般的な方法の代替的な方法を開示する。
【0049】
本発明は、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する第2の方法、または健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類をin vitroで同定する第2の方法であって、前記方法が、
a)前記哺乳類から生物学的サンプルを得ること;
b)独立した方法で、前記生物学的サンプルを、IFN-γの分泌をもたらす条件下で、天然型HBHAおよびESAT-6と接触させること;
c)HBHAに特異的なIFN-γ分泌およびESAT-6に特異的なIFN-γ分泌を測定すること;ならびに
d)HBHAに特異的なIFN-γ分泌とESAT-6に特異的なIFN-γ分泌との比率を計算すること、
を含み、潜在性の結核を示す哺乳類で得られた比率が、活動性の結核を示す哺乳類で得られた比率、またはM. tuberculosisに感染していない哺乳類で得られた比率よりも高い方法に関する。
【0050】
工程a)においては、生物学的サンプルは、健康な集団、すなわち結核の症状を示していない個体から、またはM. tuberculosisに感染した集団のいずれかから得る。健康な集団を用いた方法の目的は、結核の症状を有さない個体の中から、M. tuberculosisに感染しているが症状を示さない個体(潜在性の結核)を同定することである。対照的に、感染した患者の集団を用いた方法の目的は、活動性の結核を示す患者と潜在性の結核を示す患者とを区別することである。
【0051】
本方法は、生物学的サンプルを、天然型のHBHAと接触させること、および、独立してESAT-6(early secreted antigen target 6)と接触させることを含む。表現「独立した方法で」は、サンプルを、HBHAと接触させ、そして、空間的に別々にESAT-6と接触させることを意味する。これら2つの分子を生物学的サンプルに添加することによって、前記サンプルに存在する細胞が刺激を受け、IFN-γなどのサイトカインの分泌を引き起こす。
【0052】
サンプルとHBHAおよびEAST-6との接触は、IFN-γの分泌がもたらされる条件下で実施する。ここで、培地、接触のための培地のpHおよび温度、接触時間、生物学的サンプルの希釈、HBHAタンパク質の濃度の選択は、サンプルの特徴の機能として、当業者によって変更することができる。
【0053】
IFN-γは、サンプルとHBHAとの接触後に(HBHAに特異的なIFN-γと称する)、および、サンプルとESAT-6との接触後に(ESAT-6に特異的なIFN-γと称する)、ELISA、ELISPOT、フローサイトメトリー(FACS)、定量RT-PCRなどの当業者に知られた任意の手法を使用して測定する。抗体、その標識および相互作用条件などのIFN-γ分泌を可能とするパラメーターに関して、当業者は改変を行なうことができる。ELISA条件は、前記したものと同じであり、異なる形態のHBHAタンパク質の代わりに抗-IFN-γ抗体を含むバッファー溶液を使用する。IFN-γに対する二次抗体も使用する。
【0054】
HBHAに特異的なIFN-γとESAT-6に特異的なIFN-γとの比率を計算することによって、潜在性の結核を、活動性の結核と区別することが可能となる。ここで、潜在性の哺乳類においては、1を超える、50を超える、100を超える、200を超える、または300を超える非常に高い比率が得られる。それゆえ、100から400の範囲の比率は、潜在性の結核であることを示す。対照的に、活動性の哺乳類、またはM. tuberculosisに感染していない哺乳類においては、この比率は非常に低く、1未満、0.75未満、または0.5未満である。それ故、比率0または0.5未満の比率は、M. tuberculosisに感染した患者群(例えば、陽性のツベルクリン試験を示す)から活動性の結核の患者を確認するか、(結核の症状が生じない)健康な集団からM. tuberculosisに感染していない患者を確認する。
【0055】
この第2の方法は、一般的に結核の診断に使用されている任意の生物学的サンプル(気管支吸引物、肺胞洗浄液(BAL)、胃洗浄液、痰、胸膜液、腹腔液および関節液、脳脊髄液、頭部液体、髄液、腹水、心膜液ならびに他の身体の液体などの滲出液、リンパ節生検、経気管支生検、胸膜生検および肝臓生検、延髄穿刺および腰椎穿刺、尿または血液サンプル、膿吸引物等)で実施される。本発明の1つの実施においては、本方法は、血液サンプリングに由来する当業者によって知られた任意の方法によって抽出されたリンパ球を使用して実施される。更なる実施においては、PBMCを、末梢血から抽出する。
【0056】
更なる実施においては、生物学的サンプルを得てから前記サンプルを接触させる前に、前記方法は、生物学的サンプルを培養するという補足的な工程を含む。培養は、生物学的サンプルの特性に適合させる。
【0057】
本発明は、また、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とを検出し区別するキット、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定するキットであって、
・天然型HBHAおよびESAT-6;
・独立した方法で、前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに存在する細胞と、天然型HBHAおよびESAT-6との接触を行うための媒体を構成するのに必要な試薬(本試薬には、前記キットのための試薬が含まれる);
・接触後のIFN-γ分泌を検出するための試薬(分泌したIFN-γは、任意の既知の方法を使用して測定され、そして、場合によっては標識されているIFN-γに特異的な一次抗体、または一次抗体を認識することができる場合によっては標識されている二次抗体だけでなく、検出シグナルを増強できる、もしくは調節することができる任意の分子を、キットに含むことができる)、
を含むキットに関する。
【0058】
キットには、場合によっては、陰性コントロール(TB0段階の非感染の哺乳類に由来するサンプル)として、または陽性コントロール(TB2および/もしくはTB3段階)として使用することができる1つまたは複数の生物学的なリファレンス組織またはサンプルが含まれる。
【0059】
更なる実施においては、キットは、天然型HBHAまたはESAT-6と接触させる前にサンプルを培養するのに使用する培養用培地および任意の化合物を含む。
【0060】
本発明は、また、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する第3の方法であって、
a)前記哺乳類の局所的な感染部位から生物学的サンプルを得ること;
b)前記サンプルを、IFN-γへの効果を得るのに適した条件下で、天然型HBHAまたは組換え型HBHAと接触させること;
c)HBHAに特異的なIFN-γに対する前記接触の効果を測定すること、
を含み、HBHAに特異的なIFN-γの効果が、活動性の結核を示す哺乳類では、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類よりも高い方法に関する。
【0061】
本発明の文脈においては、表現「局所的な感染部位」は、病原菌Mycobacterium tuberculosisがもたらし、感染の原因となる任意の部位を含む。それ故、この定義には、肺、リンパ節、胸膜(胸膜腔)関節、骨、尿生殖管、髄膜、腹膜、消化管、中枢神経系、副腎または心膜が含まれる。本方法においては、PBMCを含む血液起源の全てのサンプルは除外される。
【0062】
本方法は、生物学的サンプルを、天然型または組換え型HBHAと接触させ、前記サンプルの細胞の刺激を引き起こすことを含む。この第3の方法で使用する表現「組換え型のHBHA」は、E. coli種(BL21(DE3)(pET-HBHA)から精製したHBHAなどの完全に非-メチル化型のHBHAを意味する。
【0063】
その後、前記刺激のIFN-γに対する効果を測定する。用語「IFN-γに対する効果」は、IFN-γ分解、成熟(グリコシル化など)または分泌に関して、転写レベル(mRNA)または翻訳レベル(タンパク質)の両方における、IFN-γ発現に及ぼす任意の修飾を意味する。
【0064】
局所的な感染部位に由来するサンプルを、IFN-γに対する効果を得るのに適した条件下で、HBHAと接触させる。この適した条件は、培地、pHおよび接触のための培地の温度の選択、接触時間、生物学的サンプルの希釈、ならびにHBHAタンパク質の濃度などであり、当業者によって改変することができる。
【0065】
本発明の1つの実施においては、分泌したIFN-γの量を、ELISA、ELISPOT、フローサイトメトリー(FACS)または定量RT-PCRなどの化合物の量を測定するための任意の既知の方法を使用して測定する。
【0066】
活動性の結核を示す哺乳類の生物学的サンプルからのHBHAに特異的なIFN-γ分泌の量は、1000、2000pg/ml、5000pg/mlまたは10000pg/mlを超える。それ故、5000から45000pg/mlの範囲または10000から45000pg/mlの範囲の量は、活動性の結核であることを示す。対照的に、生物学的サンプルからのHBHAに特異的なIFN-γ分泌の量が、0または100、400もしくは1000pg/ml以下であることは、M. tuberculosisに感染していない、または潜在性の結核であることを示す。
【0067】
更なる実施においては、IFN-γに関する陽性の細胞の割合は、HBHAを用いた16時間の刺激の後でのIFN-γを発現している細胞のパーセンテージと、刺激無しでの(自発的分泌)IFN-γを産生している細胞のパーセンテージとの差異によって定量する。この計算は、リンパ球、CD4+細胞、または任意の他のリンパ球亜群などの、定量プロトコールの標的となる生物学的サンプルの細胞について実施する。標識は、細胞内標識化合物のための任意の既知の方法によって実施され、サポニン(0.01から0.1%)、トリトン(0.1%)、ジギトニンなどの透過処理剤、および/または、2%のパラホルムアルデヒドなどの細胞固定化剤、または場合によっては放射線標識された、もしくは蛍光色素とカップリングした抗体を使用することができる。
【0068】
HBHAとサンプルを接触させた後、Brefeldin A(10μg/ml)をサンプルに3から5時間37℃または室温で加え、サンプルに含まれる細胞の任意の分泌をブロックする。その後、細胞を、前記したような固定化剤を用いて、15から30分間4℃で固定化し、その後、前記したような固定化処理剤を用いて、15から30分間室温暗黒下で透過処理を行なう。一次抗体および二次抗体を透過処理溶液で希釈し(10mg/ml)、15から30分間4℃でインキュベーションするために加える。細胞が感受性である固定化剤を用いる前に、または固定化に耐性である細胞のための透過処理を行なった後のいずれかで、CD4またはCD8などの表面抗原を標識する。その後、標識された細胞を、フローサイトメトリーによって分析する。
【0069】
それ故、活動性の結核を示す哺乳類に由来する生物学的サンプルから得られた細胞の割合は、0.3%を超え、0.5%を超え、0.75%を超え、または1%を超える。5%、10%および15%までの数字を得ることができる。対照的に、M. tuberculosisに感染してない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類に由来する生物学的サンプルから得られた細胞の割合は、0または0.2%から0.3%未満である。
【0070】
この方法により、哺乳類における活動性の結核を求めることができる。対照的に、前記した値のような低分泌のIFN-γまたは少量の細胞質内のIFN-γは、活動性の結核が存在しないことを示し、そして、Mycobacterium tuberculosisに感染していないか、もしくは潜在性の結核であると解釈することができる。
【0071】
場合によっては、生物学的サンプルを得る工程と、サンプルと接触させる工程との間に、前記生物学的サンプルを培養することからなる工程を加える。
【0072】
1つの実施においては、生物学的サンプルは、気管支吸引物、肺胞洗浄液(BAL)、胃洗浄液、痰、胸膜液、腹腔液および関節液、脳脊髄液、頭部液体、髄液、腹水、心膜液などの滲出液、リンパ節生検、経気管支生検、胸膜生検および肝臓生検、延髄穿刺および腰椎穿刺、尿サンプル、ならびに膿吸引物からなる群から選択される。
【0073】
本発明の更なる実施においては、前記方法で使用した細胞は、CD3+CD4+Tリンパ球などのTリンパ球である。
【0074】
本発明は、また、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とを検出し区別するキットであって、
・天然型HBHAまたは組み換え型HBHA;
・前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに存在する細胞を、天然型または組換え型HBHAと接触させるのに適した媒体を構成するための試薬(本試薬には、前記キットにおける試薬が含まれる);
・接触後のIFN-γの検出を可能とする試薬(分泌したIFN-γまたは細胞質内IFN-γは、任意の既知の方法を使用して測定され、そして、標識されていてもよいIFN-γに特異的な一次抗体、一次抗体を認識することができる標識されていてもよい二次抗体、検出シグナルを増強できる、または調節することができる任意の分子を、キットに提供することができる)、
を含むキットに関する。
【0075】
キットには、場合によっては、コントロール(非感染の哺乳類に由来するサンプル(TB0段階)、TB2段階に由来するサンプルおよび/またはTB3段階に由来するサンプル)として使用することができる1つまたは複数のリファレンス組織または生物学的サンプルが含まれる。
【0076】
1つの実施においては、キットは、HBHAと接触させる前にサンプルを培養するのに使用する培養用培地および任意の化合物を含む。
【0077】
以下の実施例は、本発明を例示するのに使用され、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0078】
(実施例1:血液サンプルの由来)
血液サンプルを、同意を得てから、結核患者および潜在性の結核患者から入手した。結核患者は、直接的な試験での陽性および/またはMycobacteriumm tuberculosisの培養での陽性に基づいて選択した。全ての患者を、治療の最初の3週間の終了前に入院させた。潜在性の結核を有する患者は、ツベルクリンに対する遅延型過敏性試験の陽性(診断時での18mmを超える硬結直径)に基づいて選択した。活動性の結核は、通常の胸部レントゲン写真に基づいて除外した。全ての患者は、HIVについて血清反応陰性であり、いずれの患者も免疫抑制治療を受けていなかった。全ての患者は、募集時にヨーロッパに在住していた。
【0079】
(実施例2:他のサンプル)
肺胞洗浄液(BAL)を、約200mlの生理水を注入後に、内視鏡によって取り出した。その後、取り出した液を遠心した(約10ml)。
【0080】
胸膜液、関節液、腹水、頭部液体および他の体液を滅菌したシリンジに回収し、研究室に到着するとすぐに遠心した。
【0081】
神経節または他の疑わしい塊のために、外科的手術を実施した。研究所へ到着してから、回収した解剖断片を分割し、組織から細胞の連続的な放出を可能とする培養用培地でインキュベートした。
【0082】
(実施例3:抗原)
他の文献(14)に記載されているように、天然型のHBHA(nHBHA)を、M. bovis BCGから、ヘパリン-セファロースクロマトグラフィーに続き、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって精製した。HPLCクロマトグラム、およびSDS-PAGE分析後のCoomassie Blueを用いた染色により、調製物はタンパク質の混入が無かったことが証明された。ガスクロマトグラフィーを使用して、糖脂質が混入していないことを確認した。リムルス試験によって、リポ多糖の濃度が10pg/ml未満であることが示された。
【0083】
メチル化されていない組換え型(rHBHA)を、E. coli種(BL21(DE3)(pET-HBHA)から精製した。天然型タンパク質と比較した、組換え型タンパク質のメチル化の程度を、仏国特許出願FR-A-01/14953に開示する。
【0084】
C末端部分を切断した組換え型(rHBHAΔC)を、E. coli種(BL21(DE3)(pET-HBHAΔC)から精製した。この切断型rHBHAΔCは、Pethe et al(2000, Journal of Biological Chemistry 275 (19): 14273-14280、参照によって本明細書に組み込む)に開示されており、アミノ酸161-199が欠失した組み換えHBHAに由来する。
【0085】
予めメチル化されたアミノ酸と組み合わせて合成された、単離されたC末端ペプチドは、HBHAタンパク質のアミノ酸161から199に対応し、以下の配列:
KKAAPAKKAAPAKKAAPAKKAAAKKAPAKKAAAKKVTQK(配列番号1)
を有する(12、13)。Pethe et al(2000, Journal of Biological Chemistry 275 (19): 14273-14280)およびTemmerman(Nat. Med. 2004 Sep, 10(9): 935-941)を、参照により本明細書に組み込む。
【0086】
(実施例4:HBHAに特異的なIgGの検出)
ELISAを、抗-nHBHA-IgG、抗-rHBHA-IgG、抗-rHBHAΔC-IgGおよび抗-Cペプチド(単離したC末端ペプチド)-IgGを検出するために使用した。詳細には、PBSで希釈した1.5μg/lの抗原溶液(nHBHA、rHBHA、rHBHAΔCまたはCペプチド)を50μl/ウェルで用いて、96穴ポリスチレンプレート(Maxisorp Nunc)を一晩4℃でインキュベートした。プレートを、PBS-Tween20(0.05%)を用いて三回洗浄し、PBSに溶かした1%のカゼイン溶液を用いて、1時間37℃で飽和させた。洗浄後、PBS-Tween20溶液(0.05%)で希釈した患者由来の血清(1:50から1:12800に希釈)を、各ウェルに30分間室温で添加し、攪拌した。PBS-Tween20(0.05%)で250倍に希釈した、ビオチンで標識したヤギ抗-ヒトIgG抗体を、二次抗体として使用し(biotinylated goat anti-human IgG - Southern Biotechnologies Associates, Birmingham, USA 2040-08)、二次抗体の検出を、1:1000(0.5%カゼイン)で希釈したペルオキシダーゼ溶液(extravidin peroxidase-conjugated E2886 - Sigma)を50μl/ウェルで添加して確認した。50μlの基質溶液(0.1Mクエン酸ナトリウム, pH5に溶かした0.1mg/mlの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンおよび1μl/mlの30%過酸化水素)を、洗浄後に、暗黒下で10から30分間添加した。反応を、25μl/ウェルの塩酸(2mMol/l)によって停止した。抗体タイターを、陰性の血清プールに対して陽性であると判断した最終的な血清希釈率で示す。
【0087】
(実施例5:nHBHA/ESAT-6に応答するPBMCによるガンマインターフェロンの分泌(ELISA))
PBMCを、末梢血サンプルの密度勾配遠心分離によって入手した(lymphoprep - Nycomed Pharma)。前記PBMCを、培養培地(40μg/mlのゲンタマイシン、50μM 2-メルカプトエタノール、1×非必須アミノ酸(Life Technologies)および10%のウシ胎児血清(FCS)を添加した完全RPMI:RPMI 1640(BioWhittaker))を用いて2×106細胞/mlで再懸濁した。細胞を、2μg/mlのnHBHAと、並行して5μg/mlのearly secreted antigen target 6(ESAT-6)(Statens Serum Institut, Denmark)とを用いて、96時間、5%のCO2の雰囲気下37℃で刺激した。幾つかの実験においては、ブロッキング抗体:抗-TGF-β 1, 2, 3(mouse IgG1, R&D System)を、5μg/mlの濃度で添加し、結果を、コントロール抗体(mouse IgG1; R&D System)の存在下で得られた結果と比較した。上清を、培養4日後に回収し、ELISA(IFN-γ Cytoset, Biosource)を使用して、分泌したIFN-γを測定した。
【0088】
(実施例6:局所的なガンマインターフェロン応答)
<実施例6a:生物学的液体および解剖学的パーツ>
分析した生物学的液体は、胸膜液、関節液および腹水であった。分析した解剖学的パーツは、神経節または様々な疑わしい塊から切除した生検であった。生物学的液体からの有核成分の単離を、最初のろ過(cellular sieve, Nylon 100μm Falcon(登録商標)352360)に続き、15分間の2300rpmの遠心によって行なった。必要であるならば、細胞残渣に存在する赤血球を溶解した。その後、細胞を、完全RPMI溶液で再懸濁した。解剖学的サンプルに由来する有核成分を、そのパーツの切除、および、完全RPMI溶液内で、37℃、5%CO2雰囲気下で一晩インキュベーションすることによって単離した。上清を回収し、そのパーツをリンスし、まだ入手可能な任意の細胞を回収した。その後、これらの回収した液体を、2300rpmで15分間遠心した。必要であるならば、細胞残渣に存在する赤血球を溶解した。細胞残渣を、完全RPMI溶液で再懸濁した。
【0089】
<実施例6b:抗原性刺激>
単離した細胞が十分である場合は(胸膜液)、それらを、PBMCと同じ方法でin vitroで刺激し、HBHAによる96時間のin vitro刺激後の培養上清における分泌したIFN-γの濃度を測定した。PBMCに関しては、肺胞洗浄液、関節液または腹水、神経節等について、これらの細胞によるIFN-γ合成の分析も、以下に記すHBHAによる短時間のin vitro刺激後に、フローサイトメトリーによって実施した。単離した細胞(2×106/ml)を、10μg/mlの濃度でHBHAによって、16から18時間in vitroで刺激した。その後、細胞からのサイトカイン分泌を、Brefeldin A(10μg/ml-Brefeldin A - Sigma)の存在下で4時間インキュベーションすることによってブロックし、細胞内でのIFN-γの存在を、細胞を標識した後で、フローサイトメトリーによって分析した。細胞を固定後、細胞を透過処理し(Fix and Perm; Cell Permeabilization Kit - Caltag Laboratories)、洗浄し、その後、暗黒下で30分間、蛍光色素とカップリングした抗体(抗-CD3 PerCP、抗-CD4 APC、抗-IFN-γ PE、全てはBecton, Dickinsonから入手)の存在下でインキュベートした。その後、陽性細胞の割合を、FACSCalibur cytometerを用いて、最初に、大きさおよび粒度に基づいて標的リンパ球を分析し、その後で、表面マーカー発現の作用として、異なるリンパ球亜群を分析した。
【0090】
(実施例7:統計学的分析)
対になっていないデータについて、Mann-Whitney non parametric U testまたはnon parametric Kruskall-Wallis testを実施し、その後、Dunn testを使用して事後試験を実施した。対になったデータを、Wilcoxon testまたはFriedman testによって分析した。
【0091】
Receiver operating characteristic(ROC)分析:曲線(図12)上のそれぞれの点は、各対の感度および特異度に対応し、表1、2または3で得られた値に従って計算したものである。完成した曲線(特に、曲線の下の領域)により、全体試験の概観が得られる。良好な曲線は、左上の角に近づくのに対して、好ましくない場合は、対角線(点線)が得られる。
【0092】
ROC曲線より下の全体領域が、診断試験の能力の指標である。なぜならば、この領域が、全ての可能なカットオフ値での試験の能力を反映しているからである。この領域は、区間[0.5-1]に該当し、より大きな領域が、試験のより良好な能力を意味する。試験の正確性は、曲線の下の領域に従って、以下のように分類分けされる:[0.9-1]:最良;[0.8-0.9]:良;[0.7-0.8]:通常;[0.6-0.7]:悪い;[0.5-0.6]:不可。
【0093】
以下の定義を使用する:
-感度:陽性診断の患者における、試験で陽性となった患者の確率:真陽性(TP);
-特異度:陰性診断の患者における、試験で陰性となった患者の確率:真陰性(TN);
-(1-特異度):陰性診断の患者における、試験で陽性となった患者の確率:擬陽性(FP);
-(1-感度):陽性診断の患者における、試験で陰性となった患者の確率:偽陰性(FN)。
【0094】
ROC試験によって、感度および特異度が高い最適なカットオフ値を求めることができる。
【0095】
(結果)
<1.液性応答>
nHBHAに特異的なIgGは、良好な健康(初期感染(primo-infected)対象または潜在性)である場合であろうと、罹患し結核の症状を示す(活動性)場合であろうと、Mycobacterium tuberculosisで感染した対象の約40%に由来する血清から検出された。これら2つの対象群で観察された抗体タイターは差異がなかった(図1)。
【0096】
しかしながら、メチル化されていない組換え型HBHA(rHBHA)に対する抗体のタイターと、メチル化された天然型HBHA(nHBHA)に対する抗体のタイターとの比較により、Mycobacterium tuberculosisに感染した患者が症状を示す(活動性)、または症状を示さない(潜在性)かどうかに依存して、それらの抗体が異なるという仮定が導かれた。図2に見られるように、初期感染(primo-infected)対象においては、抗-nHBHA IgGのタイターは、抗-rHBHA IgGのタイターよりも顕著に高いのに対して(p=0.0015)(図2A)、結核の患者においては、その差異は顕著ではなかった(図2B)。その後、我々は、一方で、N末端ドメインのみからなる切断した組換え型HBHA(rHBHAΔC)に対するIgGを、他方で、メチル化されたC末端ペプチドに対するIgGをアッセイした。
【0097】
図3に示されるように、これらの結果から、結核患者に由来する血清に存在する抗-HBHA IgGがrHBHAΔCを認識するのに対して(図3A)、初期感染(primo-infected)対象に由来する抗体がメチル化されたC末端を認識することが示された(図3B)。Mycobacterium tuberculosisで感染した対象に由来する血清に存在する抗体のタイプに依存して、対象を2つの群、初期感染(primo-infected)の群または症状を示す群に分けることができ、その分類分けは、IgGが、メチル化されていないHBHAのN末端部分に対するものか、メチル化されたC末端部分であるかに依存する。
【0098】
<2.循環リンパ球によるIFN-γの分泌>
a.我々は、以前に、PBMCによる天然型HBHAに応答するIFN-γの分泌が、結核患者よりも初期感染(primo-infected)対象のほうが顕著に高いことを以前に示している。しかしながら、得られる区別は、診断目的のために使用するには十分ではなかった。試験を行った対象の数が増したので、初期感染(primo-infected)対象の中から、感染の予想される日が5年以内であるという選択が可能となった。図4の結果により、2つの群間の差異は僅かに存在するが、まだ不十分であることが示された。
【0099】
b.天然型HBHAによって誘導されるIFN-γ分泌の潜在的な数値を、Mycobacterium tuberculosisによる潜在性感染を診断するのに良好に評価するために、ROC(receiver operating curves)を作成し、もたらされる問題のための最も良好な感度/特異度の組み合わせを付与するIFN-γの濃度(最適カットオフ)を求めた。
【0100】
1)健康な集団内の潜在性結核患者の診断(潜在性結核患者と非感染の個体との区別)
潜在性結核(IP)を示すヒトは、症状を示さないが、コッホ桿菌の転移源となり、試験により、健康な集団におけるそのようなヒトを同定できなければならない。それ故、コントロール対象(M. tuberculosisに感染していない - n=14)、およびツベルクリン(PPD)陽性皮内反応の結果に基づく潜在性結核を示すヒト(n=46)から、HBHAによって誘導され、PBMCによって分泌したIFN-γの濃度に基づいて、ROC曲線を作成した。これを、参考用診断基準とする(表1)。
【0101】
【表1】
【0102】
このような実験においては、「陽性」および「陰性」のヒトは、以下のように定義される:
-TP:陽性のツベルクリン皮内反応を有する患者における、陽性結果(最適カットオフより高い)を示す患者の確率;
-FP:陰性のツベルクリン皮内反応を有する患者の中で、陰性結果(最適カットオフより低い)を示す患者の確率;
-FN:陰性のツベルクリン皮内反応を有する患者の中で、陽性結果(最適カットオフより高い)を示す患者の確率;
-TN:陽性のツベルクリン皮内反応を有する患者の中で、陰性結果(最適カットオフより低い)を示す患者の確率。
【0103】
図12Aに示すROC曲線は、曲線より下の領域が0.95(95%信頼区間:0.90-1.00;P<0.0001)であるので、優れている。110pg/ml(最適カットオフ)を超えるIFN-γの濃度に関して、潜在性結核の診断のための試験の感度は、100%の特異度(CI95:76.84-100)で、89.13%(CI95:76.43-96.38)であった。
【0104】
このROC試験のコントロールが、結核のためのワクチン(BCG)を受けていないヒトであったことは注目に値する。BCGワクチンがもたらす妨害の可能性は、以前に試験され、2002年に報告されている(Masungi et al. J. Inf. Dis. 2002;185:513-20)。これらの予備的な試験によって、15人のBCGワクチン接種を受けたヒト(血液サンプリングの10年以上前にBCGワクチンを受けた)に由来する循環リンパ球は、HBHAに応答するIFN-γを分泌しないにも関わらず、PPDに応答することが示された。
【0105】
しかしながら、研究は、健康な大人の集団における結核の区別に関するものであり、大部分の国ではワクチンを子供時代に受けるので、10年以上前にワクチンを受けたヒトを試験することは適切であると思われる。これらのヒトから、5人が陽性のツベルクリン皮内反応を示し、3人が疑わしい結果を示した。更にその上、これらの健康なBCGワクチンを受けたヒトの10人に由来する循環リンパ球が、PPDに応答するIFN-γを分泌した。
【0106】
結論として、BCGワクチン接種は、in vitroでのHBHAによるIFN-γ誘導に基づく、健康な集団の中から潜在性結核患者を区別するための可能な診断上の利益を妨害しないと思われる。
【0107】
2)潜在性結核と活動性結核との間の診断上の差異
患者が結核に対応する診断履歴を有し、ツベルクリン皮内反応が陽性である場合、潜在性結核も有する患者に生じる可能性がある他の疾患から、結核を区別することは重要である。それゆえ、試験は、M. tuberculosisに感染した患者の集団の中から、潜在性結核の患者を同定しなければならない。それゆえ、一方はツベルクリン皮内反応の結果に基づいて定義された潜在性結核を示す患者(重要な診断参考である)(n=46)に由来し、他方は非治療の活動性結核を示す患者(n=50)に由来する、HBHAによって誘導され、PBMCによって分泌したIFN-γの濃度に基づいて、ROC曲線を作成した(表2)。
【0108】
【表2】
【0109】
このような実験においては、「陽性」および「陰性」のヒトは、以下のように定義される:
-TP:結核の症状を示す患者の中で、陽性結果(最適カットオフより高い)を示す患者の確率;
-FP:結核の症状を示さない患者の中で、陰性結果(最適カットオフより低い)を示す患者の確率;
-FN: 結核の症状を示さない患者の中で、陽性結果(最適カットオフより高い)を示す患者の確率;
-TN: 結核の症状を示す患者の中で、陰性結果(最適カットオフより低い)を示す患者の確率。
【0110】
得られたROC曲線(図12B)は、曲線より下の領域が0.855(IC95:0.777-0.932)であるので、良好である。480pg/ml(最適カットオフ)のIFN-γの臨界濃度に関して、潜在性結核の診断のための試験の感度は、82%の特異度(CI95:68.56-91.42)で、76.09%(CI95:61.23-87.41)であった。
【0111】
このROC曲線の結果は、PBMCにおけるPPDにより誘導されるIFN-γの濃度を考慮すれば、実質的には、よりものたりないものであることに注目すべきである。31人の潜在性結核および41人の活動性結核から得られた結果(表3)に基づいて計算した曲線(図12C)は、曲線より下の領域が0.73のみであった(CI95:0.62-0.84)。
【0112】
【表3】
【0113】
前記結果から、HBHAにより誘導されるIFN-γの分泌により、M. tuberculosisに感染していない個体および活動性結核の患者から、潜在性結核の患者を区別することが可能となることが明らかとなった。この区別は、ツベルクリン皮内試験、またはPPDもしくはESAT-6により誘導されるIFN-γの分泌のいずれかに基づく他の一般的な試験では不可能であった。この区別は、主として、患者のより良好な臨床的選択をもたらすであろう。
【0114】
c.文献では、結核患者は、初期感染(primo-infected)対象に対して、ESAT-6に応答するIFN-γを分泌することが報告されているが、図5に示すように、その差は十分ではない。
【0115】
d.我々は、nHBHAによる特異的IFN-γ分泌とESAT-6による特異的IFN-γ分泌との間の比率の計算により、症状が現れていない初期感染(primo-infected)対象と結核患者とを区別するための優れた手法をもたらすことができることを求めた(p=0.0003;n=8)(図6)。実際に、その比率は、活動性結核の患者については約0.1pg/mlであるのに対して、潜在性結核の患者については約146.2pg/mlであり、重複した値は示さなかった。
【0116】
M. tuberculosisに感染していない患者は、ESAT-6に応答するIFN-γを分泌しない、または非常に低い濃度でした分泌しないので(データは示さない)、これらの結果は、また、健康な集団からの潜在性結核の患者の同定にも適用される。
【0117】
抗-TGF-βブロッキング抗体を添加することによって、多くの場合において、HBHAによるリンパ球刺激に応答する末梢IFN-γ分泌がもたらされないことは、明確に、症状を示す患者におけるMycobarterium tuberculosisによる感染が原因であり、感染していないことが原因ではないことを求めることができる。図7に示すように、抗-TGF-βの存在により、結核患者に由来するPBMCからのIFN-γ分泌は、顕著に増加した(p=0.01)。これは、初期感染(primo-infected)患者では見られなかった。
【0118】
3.nHBHAに応答するIFN-γの局所的分泌
結核の患者において、nHBHAに応答するPBMCによるIFN-γの分泌が生じないこととは対照的に、胸膜液、関節液、肺胞液および腹腔液などの局所感染部位に由来する細胞の刺激により、nHBHAまたはrHBHAによる刺激に応答する主要なIFN-γ応答を観察することできた。これは、Mycobacterium tuberculosisに感染していないが、結核に対応する臨床的兆候およびX線の兆候を示すコントロール対象とは対照的である。局所的サンプルの量により、十分量のリンパ球の単離が可能となる場合は、これらの細胞を天然型HBHAによって刺激し、培養上清のIFN-γの量をELISAによって測定した。
【0119】
図8の結果により、HBHAによる刺激後の胸膜細胞により分泌したIFN-γの濃度は、コントロールである初期感染(primo-infected)対象または他の対象に由来する細胞によって分泌するIFN-γの濃度よりも非常に高くなることが示された。
【0120】
PPDなどの他の抗原を、in vitroで胸膜細胞を刺激するのに使用する場合に、結核患者とコントロールとの差異は、非常にとぼしいものであった(図8)。
【0121】
結核を原因とする胸膜滲出の患者の胸膜細胞によるHBHA誘導IFN-γの合成は、フローサイトメトリーを使用したリンパ球を分析することによっても求めることができる。この手法により、細胞内IFN-γを含み、そのIFN-γの合成がHBHAによるin vitro刺激によって誘導されたものであるリンパ球の割合を測定することが可能である。この手法は、非常に迅速であり、HBHA刺激期間が一晩で済むという利点を有し、それがゆえに、24時間で結果を得ることができる。図9および10の結果により、胸膜液に由来するCD4+リンパ球の大部分が、HBHA刺激後にIFN-γを含むのに対して、この結果は、結核を原因としない滲出に由来する胸膜細胞の場合(すなわち、Mycobacterium tuberculosisで感染していない個体)は見られないことが示された(図10)。リンパ球の大きさおよび粒度に基づいて選択されるリンパ球ウィンドウ(lymphocyte window)への分析を制限することによって、HBHA誘導IFN-γの分泌の研究を単純化することができる。
【0122】
肺結核の場合(胸膜への発病なし)、診断は、肺胞洗浄液に由来するリンパ球を研究することによって実施することができる。実際に、HBHAでの簡単なin vitro刺激後(一晩)に、局所的CD4+リンパ球(局所的感染部位に由来する)の大部分が、コントロール患者に由来するリンパ球とは対照的に、細胞内IFN-γを含んでいた(図11)。結核患者と非結核患者との差異は、局所的CD8+細胞よりもむしろ局所的CD4+細胞を標的とした場合に、良好であり(図11)、この分析は、また、リンパ球ウィンドウに制限することもできる。
【0123】
関節結核では、滲出液(滲出液の陽性KB培地)から単離したリンパ球の大部分は、結核を原因としない滲出を生じるコントロール個体から取り出した局所的リンパ球とは対照的に、簡単なHBHAでのin vitro刺激後に、IFN-γを合成した(表4)。
【0124】
最後に、結核を原因とする腹膜炎の場合、この液に存在するリンパ球の31%が、簡単なHBHAでのin vitro刺激後に、細胞内IFN-γを含む。結核を原因とするリンパ節肥大の場合、リンパ球の1.8%が、HBHAに応答してIFN-γを合成し、このことにより、24時間未満での、この疾患の結核由来の診断を再度可能にする(表4)。
【0125】
【表4】
【0126】
[参考文献]
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳類におけるMycobacterium tuberculosisの感染のin vitroで検出のための方法、その症状を示すMycobacterium tuberculosisに感染した哺乳類(活動性)と、感染しているが結核について無症状である哺乳類(潜在性)とをin vitroで区別する方法、および、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とをinn vitroで区別する方法に関する。本発明は、また、結核の症状を示す感染した哺乳類と、症状は発症していないが感染した哺乳類とを検出して区別するためのキット、および、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とを区別するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
結核は、最初に肺に影響を及ぼす細菌性の病気である(肺結核);リンパ節、胸膜(胸膜腔)関節、骨、尿生殖管、髄膜、腹膜、消化管、中枢神経系、副腎または心膜などの身体の他の部分も影響を受ける可能性がある(肺外結核)。
【0003】
結核は、病気の哺乳類から、唾液および痰に存在する病原菌への曝露によって(例えば、咳やくしゃみをした場合)、または傷口の接触により、空気を介して伝播する。結核の症状は、熱、寝汗、倦怠感、体重減少、食欲減退および持続的な咳である。
【0004】
世界中で一年間当たり二百万の死亡をもたらしており、世界の人口の三分の一が、原因因子であるMycobacterium tuberculosis(コッホ桿菌またはKBとして通常知られている)に感染していることから、2004年において、結核は、未だに主要な健康問題である。それゆえ、結核は、感染症による死亡原因の二番目に位置する(ヒト免疫不全ウイルスによる感染に続く)(1)。この理由のために、世界保健機関および欧州共同体は、この分野の研究を、優先度の高いものの1つとしている。以下の3つの目的が定められた。
a)現在のワクチンであるBCG(カルメットとゲランの桿菌)よりも有効な予防をもたらすワクチンの開発による予防;
b)結核の迅速な診断手法の改良;および
c)管理を容易にして多剤耐性細菌種の発生を避ける迅速な治療法の発見。
【0005】
結核の新たな発症の不十分な検出が、結核の発症数の世界的な増加の主要な理由であることが判明している(2)。痰の顕微鏡による観察および培養が、肺結核を診断する2つの有効な方法であるとして認識されている。しかしながら、細菌培養の結果は、6から8週間後にしか求めることができず、発展途上国は、この手法に必要な設備を常に有しているとは限らない。このことにより、一次治癒の診断試験として培養を利用することが大いに制限されている(3)。それゆえ、痰中の酸耐性桿菌の測定が、肺結核の迅速な診断の最も有用な試験となっているが、痰μl当たり5000から10000の桿菌が、陽性となるために必要であるということが原因の1つとなり、本方法による同定は、不幸なことに、肺結核の50%から60%の場合でしか陽性とならない(3)。肺結核を診断することは、子供ではより更に困難である。若いときは、痰をほとんど吐かず、通常は胃吸引によって痰を回収するからである。しかしながら、このようなサンプルは、証明された結核の子供の20%未満で陽性になり、これは、大人で得られる結果よりも著しく低い(4)。最後に、大人よりも子供でより頻度が高い肺外結核の診断は、未だに行なうのが困難である。肺外結核の診断は、最初は、生検体の解剖-病理学試験にたびたび基づく。結核の一般的な組織的外観は、乾酪壊死を伴う肉芽腫の存在である。肉芽腫は、組織球、上皮細胞および/またはランゲルハンス巨細胞によって構成される。しかしながら、リンパ節と肺サンプルの両方について、いくらかの異なる診断が、感染症(非結核マイコバクテリア、真菌症等)または非感染症(サルコイドーシス、ウェグナー症等)として解釈されている(5)。結核の診断が有効であると確認するためには、Mycobacterium tuberculosisのアルコール-酸耐性特性を利用するZiehl-Nielsen染色などの、特定の染色について実施することによって、組織学的観察を完全に行なわなければならない。しかしながら、1mlの組織当たり106という量の有機組織体が、陽性のZiehl-Nielsen染色を得る必要がある(6)。
最終的には、診断は、未だに、臨床またはX線学的データに、そして、ツベルクリンに対する遅延型過敏性のための皮膚試験の結果にしばしば基づく。しかしながら、この皮膚試験は、M. tuberculosisに感染した個体と、BCGでワクチン接種した個体との区別が容易に行なうことができず、周囲に存在するマイコバクテリアとの交差反応により、その特異性は乏しい。細胞性免疫応答の測定に基づくその試験は、また、免疫不全の個体には感度が低い。最後に、ワクチン接種を行なっていない個体集団の中から、M. tuberclosisに感染したヒトを同定することができるが、不幸なことに、遅延型結核を示す個体(症状が現れない)と、活動性疾患の患者とを区別することができない。実際に、M. tuberculosisに感染した5%から10%の個体は、病気を発症するのに対して、残りは感染していても、病気から保護される(7)。したがって、この試験の実際的な使用は、非常に制限される。
より最近は、M. tuberculosisの存在をPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)を使用して測定する分子生物学的手法が開発された。このような手法は感度が高いが(95%)、特に、直接的な試験が陽性になる痰サンプルに当てはまる。対照的に、その特異性は優れており(98%)、M. tuberculosisを他のマイコバクテリアから区別することが可能である。しかしながら、この手法は高価であり、その適用は制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】FR-A-01/14953
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Menzozzi et al, J ExpMed 184; 993-1001(1996)
【非特許文献2】Pethe et al, Natur 412: 190-194(2001)
【非特許文献3】Pethe et al, 2000, Journal of Biological Chemistry 275 (19): 14273-14280
【非特許文献4】Temmerman(Nat. Med. 2004 Sep, 10(9): 935-941)
【非特許文献5】Masungi et al. J. Inf. Dis. 2002;185:513-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ、結核を迅速に診断するための新規の手段を開発することは、緊急事項であるように思われる。1つの可能性ある方法は、病気であるか無いかに依存する、非感染の対象と感染した個体とに存在するであろう免疫応答性の差異を探し出すことからなる。マイコバクテリア抗原による循環リンパ球のIFN-γの誘導分泌の研究に基づく、異なる試験が、文献に報告されている(8)。しかしながら、ツベルクリン(マイコバクテリア抗原の複合的な混合物)によって誘導されるIFN-γ分泌の分析は、皮膚試験の使用と同様の制限を有する。実際に、病気であろうと無かろうと全ての感作された個体が、そして、ある変種のマイコバクテリアに存在する抗原または単純にBCGで感作されたヒトが、反応してしまう。皮膚試験を超えるこの試験の利点は、リンパ球応答の分析により、陽性コントロール(フィトヘマグルチニン)と並行させて、重篤な免疫不全性が原因でPPDに応答しない患者でも検出することができることである。M. tuberculosisiに対する特異的な抗原を単離し、in vitroでのIFN-γ分泌試験に使用したところ、前記試験の特異性を明確にはるかに優れていた。原則的には、抗原ESAT-6およびCFP10を使用することができるが、これらの抗原によって得られる、病気の感染対象または健康な感染対象間の区別については、未だ完成には程遠い。
【0009】
「ヘパリン結合ヘマグルチニン」(HBHA)に関するヒトでの免疫応答の研究が、病気の感染対象または健康な感染対象間の優れた区別をもたらすことを示す。HBHAは、付着を担い、Mycobacterium complexの部分を形成する細菌の表面には発現しており、M. smegmatisなどの非病原性細菌の表面には発現していない(10)。このタンパク質は、M. tuberculosisによって分泌され、感染の蔓延の原因となっている(11)。HBHAは、メチル化C末端領域を有し、表面で発現し、非メチル化のN末端部分は、マイコバクテリア壁で接着部分を固定している(12)。メチル化は、ヒトでの免疫応答だけでなく、マウスでの防御免疫応答を誘導するのにも重要である(13)。in vitroでのHBHA刺激による循環リンパ球におけるIFN-γの誘導分泌は、M. tuberculosisで感染したヒトが病気であるか無いかに依存して、異なることが示されている(14)。IFN-γは、HBHAに応答して、大部分の健康な患者で末梢リンパ球によって分泌されるが、少数の結核患者のみが、IFN-γを分泌することによって抗原に応答する。しかしながら、これら予備的な結果に基づく、これらのグループ個体間の区別は、診断試験を実施するには不十分であった。
【0010】
本発明は、哺乳類におけるMycobacterium tuberculosis感染のin vitro検出のための方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、また、その症状を示すMycobacterium tuberculosisに感染した哺乳類と、感染しているが結核について無症状である哺乳類とをin vitroで区別する方法、健康な集団の中から潜在性の結核患者をin vitroで同定する方法、および、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とをin vitroで区別する方法を提供することを目的とする。
【0012】
最後に、本発明は、また、Mycobacterium tuberculosis感染を検出するために必要な全てのエレメントを含み、感染した無症状の患者(潜在性の結核)から、感染した症状を示す患者(活動性の結核)を区別することができるキット、および、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とを区別するキットを提供することを目的とする。
【0013】
本発明は、また、Mycobacterium tuberculosisによる感染を検出するための、および、潜在性の結核を示す患者と結核の全ての症状を示し病気である患者とを区別するための、天然型または組換え型のHBHAの使用に関連する。本明細書の記載および好ましい実施だけでなく特許請求の範囲によっても明示されているように、これらの目的および他の目的は、本発明において具現化される。
【0014】
本発明は、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する方法であって、a)前記哺乳類から生物学的サンプルを得ること;b)前記生物学的サンプル中に含まれている、2つの異なる形態のHBHAタンパク質に対する抗体(IgG)の量を測定すること;およびc) 2つの形態のHBHAタンパク質について得られた抗体のタイターを比較することを含み、潜在性の結核を示す哺乳類における2つの異なる形態について得られた抗体タイターの比較が、活動性の結核を示す哺乳類において得られた抗体タイターとは異なる方法を開示する。
【0015】
本発明の範囲には、また、潜在性の結核を示す患者と活動性の結核を示す哺乳類とを検出し区別するキットであって、a)天然型HBHAおよび組換え型HBHA、またはb)rHBHAΔC断片およびHBHAメチル化C末端断片からなる群から選択される2つの異なるHBHA、前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに含まれる抗体と異なる形態のHBHAとの免疫反応を行うための媒体を構成するのに必要な試薬、ならびに、前記免疫反応の間に形成される免疫複合体の検出を可能とする試薬を含むキットも包含される。
【0016】
本発明は、また、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する方法、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定する方法であって、a)前記哺乳類から生物学的サンプルを得ること;b)独立した方法で、前記生物学的サンプルを、天然型HBHAおよびESAT-6と接触させること;c)HBHAに特異的なIFN-γ分泌およびESAT-6に特異的なIFN-γ分泌を測定すること;ならびに、d)HBHAに特異的なIFN-γ分泌とESAT-6に特異的なIFN-γ分泌との比率を計算することを含み、潜在性の結核を示す哺乳類で得られた比率が、活動性の結核を示す哺乳類で得られた比率、またはM. tuberculosisに感染していない哺乳類で得られた比率よりも高い方法に関する。
【0017】
本発明は、また、活動性の結核を示す哺乳類から潜在性の結核を示す患者を検出し区別するキット、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定するキットであって、天然型HBHAおよびESAT-6、独立した方法で、前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに存在する細胞と、天然型HBHAおよびESAT-6との接触を行うための媒体を構成するのに必要な試薬、ならびに、接触後のIFN-γ分泌を検出するための試薬を含むキットに関連する。
【0018】
本発明は、また、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する方法であって、a)前記哺乳類の局所的な感染部位から生物学的サンプルを得ること;b)前記サンプルを、天然型HBHAまたは組換え型HBHAと接触させること;ならびに、c)HBHAに特異的なIFN-γに対する前記接触の効果を測定することを含み、HBHAに特異的なIFN-γの効果が、活動性の結核を示す哺乳類では、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類よりも高い方法に関連する。
【0019】
本発明は、また、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類から、活動性の結核を示す哺乳類を検出し区別するキットであって、天然型HBHAまたは組み換え型HBHA、前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに存在する細胞と、HBHAとの接触を行うのに適した媒体を構成するのに必要な試薬、および、接触後のIFN-γの検出を可能とする試薬を含むキットを明示する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、結核患者(TB)および潜在性の結核(PI)を示す対象における、HBHAに特異的なIgGのタイターに関する。長方形は、25%および75%を示す。垂直な線は、最大値を示す。 これら2つの集団において、有意差は見られなかった(p>0.05)。
【図2A】図2は、結核患者(TB)および潜在性の結核を示す対象(PI)における、nHBHAに特異的なIgGとrHBHAに特異的なIgGとのタイターを比較する。図2Aは、潜在性の結核を示す対象においては、IgGは、組換え型のHBHA(rHBHA)よりもメチル化された天然型のHBHAを良く認識することを示す(p=0.0015)のに対して、結核患者においては(図2B)、その差異は顕著ではない(p>0.05)。
【図2B】図2は、結核患者(TB)および潜在性の結核を示す対象(PI)における、nHBHAに特異的なIgGとrHBHAに特異的なIgGとのタイターを比較する。図2Aは、潜在性の結核を示す対象においては、IgGは、組換え型のHBHA(rHBHA)よりもメチル化された天然型のHBHAを良く認識することを示す(p=0.0015)のに対して、結核患者においては(図2B)、その差異は顕著ではない(p>0.05)。
【図3A】図3は、結核患者(TB)および潜在性の結核を示す対象(PI)における、rHBHAΔCに特異的なIgGとHBHAのC末端断片(C-ペプチド)に特異的なIgGとのタイターを比較する。図3Aは、結核患者が、切断された組換え型(rHBHAΔC)を優先的に認識するのに対して、潜在性の結核を示す対象のIgGが、この型をほとんど認識しないことを示す。対して、図3Bにおいては、結核患者に由来するIgGは、潜在性の結核を示す対象と対照的に、C-ペプチド断片を認識にしない。
【図3B】図3は、結核患者(TB)および潜在性の結核を示す対象(PI)における、rHBHAΔCに特異的なIgGとHBHAのC末端断片(C-ペプチド)に特異的なIgGとのタイターを比較する。図3Aは、結核患者が、切断された組換え型(rHBHAΔC)を優先的に認識するのに対して、潜在性の結核を示す対象のIgGが、この型をほとんど認識しないことを示す。対して、図3Bにおいては、結核患者に由来するIgGは、潜在性の結核を示す対象と対照的に、C-ペプチド断片を認識にしない。
【図4】図4は、コントロール対象(ctrl;n=12)、最近感染した潜在性結核を示す対象(<5年)(PI;n=38)および結核患者(TB;n=46)における、nHBHAに応答するIFN-γ分泌を示す。中央値は、それぞれ、10pg/ml、2040pg/mlおよび16pg/mlである。**p<0.001。
【図5】図5は、潜在性結核の対象(PI)および結核患者(TB)における、ESAT-6に応答するIFN-γの分泌を示す。 潜在性結核を示す対象においては、ESAT-6により特異的に誘導されたIFN-γ分泌は、結核患者において誘導されたIFN-γ分泌よりも顕著に低い。その中央値は、PI患者におけるESAT-6によるIFN-γで42.50pg/mlであり、Tb患者におけるIFN-γで4072pg/mlである(p=0.02)。
【図6】図6は、結核患者および潜在性結核を示す対象における、nHBHA/ESAT-6比率を示す。中央値は、それぞれ、0.1pg/mlおよび146.2pg/mlである。この比率は、潜在性結核を示す対象では実質的に高くなり(p=0.001)、症状を示す感染した患者と、症状を示さない感染した患者(兆候が出ていない)とを良好に区別する。
【図7】図7は、結核患者における、末梢血単核細胞(PBMC)によるnHBHAに応答したIFN-γ分泌に対する、抗-形質転換成長因子β1、2、3(抗-TGFβ)ブロッキング抗体の効果を示す。IFN-γは、培養上清でアッセイした。対試験(Wilcoxon - p =0.0161;n=15対)。
【図8】図8は、nHBHAに応答する、またはPPDに応答する、結核を原因とする、または他を原因とする胸膜滲出の患者から取り出した胸膜液単核細胞によるIFN-γ分泌との比較を示す。IFN-γは、培養液上清でアッセイした。平行な線は、中央値を示す。
【図9】図9は、nHBHAに応答する細胞質内IFN-γを含む胸膜CD3+CD4+Tリンパ球(胸膜リンパ球 nHBHA)と比較した、nHBHAに応答する細胞質内IFN-γを含むPBMCに由来するCD3+CD4+Tリンパ球(PBMC nHBHA)の割合を示す。この値は、結核患者における、HBHAによる刺激を行わなかった場合のIFN-γを産生する細胞の割合を差し引いた、16時間のHBHA刺激後にIFN-γを発現する細胞の割合として表す(n=7)。中央値は、それぞれ、0.04%および1.23%である(p=0.0156;Wilcoxon)。
【図10】図10は、胸膜結核の場合(n=7;中央値=1.23%)の、および、結核が原因では無い胸膜滲出の場合(n=2;中央値=0.18%)のnHBHAに応答する細胞質内IFN-γを含む胸膜CD3+CD4+Tリンパ球の割合を示す。
【図11A】図11は、nHBHAによる刺激に応答するIFN-γを含むCD3+CD4+CD3+CD4+Tリンパ球(図11A)およびCD3+CD8+Tリンパ球(図11B)の割合を示す。 この図は、肺胞洗浄液に由来する肺胞リンパ球細胞(肺胞)または末梢血単核細胞(血液)を示す。 肺胞洗浄液は、肺結核を示す患者から、または結核を原因としない肺の病変を示すコントロール対象から得た。
【図11B】図11は、nHBHAによる刺激に応答するIFN-γを含むCD3+CD4+CD3+CD4+Tリンパ球(図11A)およびCD3+CD8+Tリンパ球(図11B)の割合を示す。 この図は、肺胞洗浄液に由来する肺胞リンパ球細胞(肺胞)または末梢血単核細胞(血液)を示す。 肺胞洗浄液は、肺結核を示す患者から、または結核を原因としない肺の病変を示すコントロール対象から得た。
【図12】図12は、nHBHAに特異的なIFN-γ分泌からの、潜在性結核の患者とコントロール個体との区別を可能とするROC曲線(A)、nHBHAに特異的なIFN-γ分泌からの、潜在性結核の患者と活動性結核の患者との区別を可能とするROC曲線(B)、およびPPDに特異的なIFN-γ分泌からの、潜在性結核の患者と活動性結核の患者との区別を可能とするROC曲線(C)、を示す。 これらの図については、NSは、差が顕著では無いことを示し、*は、差が0.01<p<0.05で顕著であることを示し、**は、差が、p<0.01で非常に顕著であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の文脈においては、用語「哺乳類」は、子供に乳を与え、生きた子供を生む、体毛または毛皮に覆われた任意の温血動物を指す。用語「哺乳類」には、これらに限定されないが、ヒト、ゾウ、ブタ、イヌ、ネコ、ウシ、シカ、サル等が含まれる。
Mycobacterium tuberculosisは、原則的には、ヒト宿主に感染するが、他の哺乳類もまた、この細菌性疾患によって影響を受けうる。この場合、ヒト以外の哺乳類における結核の感染は、「逆転動物原性感染症(inverse zoonosis)」として知られている。なぜならば、Mycobacterium tuberculosisは、ヒトから動物へと伝染するからである。
【0022】
略語「HBHA」は、「ヘパリン結合ヘマグルチニン アドヘシン(heparin binding haemagglutinin adhesin)を意味し、上皮細胞への付着に関与する表面タンパク質である(Genbank accession numbers AF07390 and AAC26052.1)。天然型のHBHAタンパク質の同定については、Menzozzi et alによって記載されている(J ExpMed 184; 993-1001(1996))。HBHAは、199のアミノ酸からなるタンパク質であり、そのC末端部分は豊富なリジン反復を有し、ヘパリン結合部位を含む。このタンパク質は、Mycobacterium tuberculosisの肺外播種に必要である(Pethe et al, Natur 412: 190-194(2001))。
【0023】
組み換えHBHA(rHBHA)は、仏国特許出願FR-A-01/14953に開示されており、この特許出願においては、野生型HBHAタンパク質(nHBHA)とは対照的に、組み換えHBHAタンパク質は、C末端部分のリジン残基がメチル化されていない。
【0024】
rHBHAΔC断片は、Pethe et al(2000, Journal of Biological Chemistry 275 (19): 14273-14280)に開示されている。この断片は、アミノ酸161-199が欠失した組み換えHBHAに由来する。
【0025】
メチル化されたC末端断片には、以下の配列:
KKAAPAKKAAPAKKAAPAKKAAAKKAPAKKAAAKKVTQK(配列番号1)
を有するアミノ酸161-199が含まれる。
【0026】
前記で引用した全ての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0027】
本発明の文脈においては、略語「PBMC」は、「末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cells)を意味する。本明細書に開示されるPBMCは、文献に開示された任意の方法で得ることができる。本発明の1つの実施形態においては、PBMCは、約9.1%(w/v)のsodium diatriazoate溶液と約5.7%の多糖類溶液とを使用して、静脈血サンプルから密度勾配遠心分離によって得られる。この溶液は、約1.077±0.001g/mlの密度を有し、280±15mOsmの重量オスモル濃度を有する。この溶液は、商標名Lymphoprepを有する。
【0028】
用語「潜在性の結核」または「潜在性のMycobavterium tuberculosis」は、本明細書では相互変換可能に使用され、哺乳類がMycobacterium tuberculosis群の細菌に感染したが、無症状である、すなわち結核の症状を発症しないことを意味する。更に、感染した哺乳類は、他の哺乳類に伝播しない。なぜならば、如何なる結核の病原菌も痰の中に存在しないからである。言い換えれば、哺乳類は感染するが、病気を発症していない。
【0029】
結核の様々な形態が以下のように分類されている:
TB0:結核因子に曝露していない;感染なし:
TB1:Mycobacterium tuberculosisに曝露、感染の程度は不明:
TB2:結核因子に感染、症状は発症していない(ツベルクリン皮膚試験では陽性反応:陽性PPD):
TB3:活動性の結核、完全な診断:
TB4:臨床的には不活動性の結核、適切に治療または寛解期:
TB5:結核の可能性あり、診断中(結核を「除外」)。
【0030】
本発明の文脈における表現「健康な集団」は、感染状態が何であれ(すなわち、感染せず(TB0)または感染しているが健康である(潜在性の結核;TB2))結核症状を発症していない個人を指す。
【0031】
本発明の文脈に記載された方法およびキットは、前記で分類したTB2型からTB3型を、TB0型からTB2型を、そしてTB0型からTB3型を区別することができる。
【0032】
略語「PPD」は、「ツベルクリンタンパク質精製誘導体(tuberculin protein-purified derivative)」を意味する。結核は、通常、PPDへの皮内曝露を含む試験によって診断される。この試験は、PPDに曝露した部位での皮膚反応が特定の大きさ(例えば10mm以上)を超えた場合に、結核に対して陽性であると判断される。
【0033】
本明細書において定義される用語「生物学的サンプル」には、呼吸器官サンプルおよび非呼吸器官サンプルが含まれる。「呼吸器官サンプル」には、気管支吸引物、肺胞洗浄液(BAL)、胃洗浄液および痰が含まれる。本発明の方法において使用することができる非呼吸器官サンプルの例には、胸膜液、腹腔液および関節液、脳脊髄液、頭部液体(cephalorachidian fluid)、髄液、腹水、心膜液ならびに他の身体の液体などの滲出液、リンパ節、経気管支生検、胸膜生検および肝臓生検、延髄穿刺および腰椎穿刺、尿または血液サンプル(PBMCすなわち末梢血単核細胞)、膿吸引物等が含まれる。
【0034】
用語「感染部位から」には、結核感染部位から取り出した任意の生物学的サンプルが含まれ、前記した任意の生物学的サンプルおよび他のものが含まれる。
【0035】
本発明の方法は、一方で、感染した哺乳類において、前記した病原因子による感染の兆候である、Mycobacterium tuberculosisのHBHAタンパク質に対する免疫応答をin vitroで検出することができ、そして、他方で、場合によっては従来の診断方法を補って、活動性の結核と潜在性の結核とを(言い換えれば、感染形態と非感染形態とを)in vitroで区別することができる。
【0036】
本発明は、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する方法であって、前記方法が、
a)前記哺乳類から生物学的サンプルを得ること;
b) 2つの異なる形態のHBHAタンパク質に対する抗体(IgG)であって、前記生物学的サンプル中に含まれている抗体の量を、抗体-HBHA相互作用の形成に適した条件下で測定すること;および
c) 2つの形態のHBHAタンパク質について得られた抗体のタイターを比較すること、
を含み、潜在性の結核を示す哺乳類における2つの異なる形態について得られた抗体タイターの比較が、活動性の結核を示す哺乳類において得られた抗体タイターとは異なる方法に関する。
【0037】
哺乳類に由来する生物学的サンプルから開始し、異なる型(活動性 対 潜在性)の結核に特異的であるMycobacterium tuberculosisのHBHAタンパク質に対する免疫応答の特徴を使用することによって、本方法は、発症した感染哺乳類と発症していない感染哺乳類とを区別することができる。それ故、潜在性の結核を示す哺乳類と、活動性の結核を示す哺乳類とは、HBHAタンパク質について異なる免疫応答、特に液性免疫を有する。
【0038】
潜在性の結核を示す哺乳類や活動性の結核を示す哺乳類に由来するイムノグロブリンG(IgG)のような抗体は、HBHAタンパク質の異なる部分を認識する。それ故、HBHAタンパク質の構造を調節して、異なる形態のHBHAを得て、異なる型の結核を区別することが可能となる。用語「異なる形態のHBHA」は、そのアミノ酸残基数(欠失もしくは付加)、および/または、そのアミノ酸残基の特徴(異なるもしくは同じ大きさの、電荷の、立体障害のアミノ酸の置換)に関する、ならびに/または、アセチル化、アミド化、ビオチン化、カルボキシル化、ヒドロキシル化、メチル化、リン酸化もしくは硫酸化などの翻訳後修飾、または、脂質の付加(イソプレニル化、パルミトイル化およびミリストイル化)、糖の付加(グリコシル化)またはポリペプチドの付加(ユビキチン化)による翻訳後修飾に関する、HBHAタンパク質の構造への任意の改変を意味する。本発明の文脈においては、2つの形態のHBHAが、潜在性の結核を示す哺乳類に由来する抗体と活動性の結核を示す哺乳類に由来する抗体とによって、異なる方法で認識される場合、その2つの形態は、異なると称される。
【0039】
タイター測定、すなわちそれぞれの形態のHBHAを認識する抗体の量の測定(血清学的アッセイ)は、生物学的サンプルに含まれる抗体を異なる形態のHBHAと接触させる、直接もしくは間接ELISA(enzyme linked immunosolvent assay)などの当業者に知られた任意の手法を使用して、またはラジオイムノアッセイ(RIA)によって、独立した方法で実施される。「独立した方法で」は、サンプルの一部を、1つの形態のHBHAタンパク質と接触させ、サンプルの他の部分を、第2の形態のHBHAタンパク質と接触させることを意味する。相互作用および前記相互作用の検出を可能とする、サンプルに存在する抗体とそれら形態のHBHAとの接触は、当業者に知られた適切な条件下で実施される。それ故、例として、以下の方法を改変することができる:支持体へ抗原(HBHA)をカップリングする方法、生物学的サンプルの希釈、異なる形態のHBHAの濃度、温度および接触時間、そして必要であれば二次抗体の特性および濃度だけでなく、相互作用の検出を可能とするパラメーター(例えば、バックグラウンドノイズの低減、標識の選択(放射能、蛍光)、または検出シグナル収集時間)。
【0040】
ELISA方法の例としては、異なる形態のHBHAを、適切なバッファー(コーティングバッファー)で、1から10μg/mlの範囲の濃度に希釈し、(50から200μlを)マイクロプレートのウェル内で、室温(RT)で1から6時間、または4℃で一晩インキュベートする。一般に使用されるバッファー溶液は、50mM炭酸ナトリウム, pH6.9;20mM Tris-HCl, pH8.5または10mM PBS, pH7.2-7.4である。その後、プレートを、(終濃度0.01%から0.05%の)TritonまたはTween20などの界面活性剤とともに0.1M PBSまたはTBS, pH7.4を含む(200から300μlの)洗浄溶液で洗浄する。その後、脱脂乳粉末、カゼインまたはゼラチンを含むPBSなどの(200から300μlの)飽和溶液を、非特異的相互作用をブロックするために、37℃または室温で30から60分間添加し、その後、残った液を何回かの洗浄で除去する。(1/10から1/1000倍に)希釈した生物学的サンプル(100から200μl)を、37℃もしくは室温で30分から2時間、または4℃で一晩インキュベートし、その後、何回か洗浄する。その後、飽和溶液で希釈した(約100μlの)二次抗体を、室温または37℃で30分から2時間添加する。残った液を何回かの洗浄で除去する。必要であれば、(100μlの)基質を、暗黒下で、室温で1から5分間加え、その後、停止溶液を加えた。
【0041】
タイター結果によって、同じ哺乳類で比較すべき2つの異なる形態について得られた2つの値が求められる。潜在性の結核を示す1つまたは複数の哺乳類、および、活動性の結核を示す1つまたは複数の哺乳類において同時に実施するような比較により、感染哺乳類に生じる特異的な免疫応答が原因で、非常に異なった結果が得られる。
【0042】
天然型HBHAタンパク質(nHBHA)は、C末端部分でリジン残基がメチル化されていることは、仏国特許出願(FR-A-01/14953)において、以前から示されていた。対照的に、組換え型HBHAタンパク質(rHBHA)は、このような翻訳後修飾を受けないので、異なるメチル化の程度を有する。
【0043】
それ故、天然型および組換え型の使用により、活動性の結核を有する哺乳類に由来する生物学的サンプルは、天然型および組換え型に対する抗体を同等な量で含むことが示され、それ故、これらの哺乳類においては、タンパク質の同じ部分(N末端)が認識されることが示された。対照的に、潜在性の結核を示す哺乳類に由来する生物学的サンプルは、天然型に対する抗体のタイターが、組換え型に対する抗体のタイターよりも高いことが示され、このことにより、これらの哺乳類においては、メチル化された天然型が優先的に認識されることが示された。それ故、これらの結果により、潜在性の結核と活動性の結核が、野生型HBHAに対する抗体のタイターと組換え型HBHAに対する抗体のタイターとを比較することによって、区別することが可能となった。
【0044】
本発明の文脈において使用される2つの異なる形態のHBHAとは、タンパク質のN末端部分(アミノ酸1から160)であるrHBHAΔC断片、およびメチル化C末端である。生物学的サンプルに由来する抗体タイターの比較により、潜在性の結核を示す哺乳類においては、メチル化C末端断片を認識する抗体が多数を占めることが観察された一方、活動性の結核を示す哺乳類においては、rHBHAΔC断片を認識する抗体が多数を占めることが観察された。
【0045】
抗体のタイター測定を含むこのような方法は、IgGを含む任意の生物学的サンプルで実施することができる。本発明の更なる態様においては、前記方法は血液サンプルで実施する。
【0046】
本発明は、また、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とを検出し区別するキットであって、
・前記した2つの異なる形態のHBHA(1つは、天然型HBHAと組換え型HBHA、他方は、rHBHAΔC断片とHBHAのメチル化C末端断片);
・前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに含まれる抗体と異なる形態のHBHAとの免疫反応を行うための媒体を構成するのに必要な試薬(本試薬には、抗体と異なる形態のHBHAとの相互作用に必要な全ての化合物だけでなく、前記相互作用を増加または改善することができる任意の化合物または前記相互作用をより特異的にする任意の化合物が含まれる);
・前記免疫反応の間に形成される免疫複合体の検出を可能とする試薬(本試薬には、前記した抗体と異なる形態のHBHAとの反応を示すことができる、または検出することができる任意の化合物が含まれる。本試薬には、場合によっては放射線で標識された、または蛍光色素とカップリングした二次抗体だけでなく、検出シグナルを増強できる、または調節することができる任意の分子が含まれる)、
を含むキットを提供する。
【0047】
キットには、場合によっては、陰性コントロール(TB0段階の非感染の哺乳類に由来するサンプル)として、または陽性コントロール(TB2および/もしくはTB3段階)として使用することができる1つまたは複数のリファレンス組織または生物学的サンプルが含まれる。
【0048】
HBHAに特異的なIFN-γ分泌に基づく一般的な方法は、現在のところ、図12のROC曲線に示されるように、健康なコントロール群における潜在性の結核患者を同定するには十分であるだけでなく、潜在的な結核患者と活動性の結核患者とを区別するのにも十分なようである。しかしながら、これらの方法は、ESAT-6に特異的なIFN-γ分泌を考慮に入れることによって、大いに改良することができた。それ故、本発明は、HBHA-特異的およびESAT6特異的IFN-γ分泌の両方に基づく、これら一般的な方法の代替的な方法を開示する。
【0049】
本発明は、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する第2の方法、または健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類をin vitroで同定する第2の方法であって、前記方法が、
a)前記哺乳類から生物学的サンプルを得ること;
b)独立した方法で、前記生物学的サンプルを、IFN-γの分泌をもたらす条件下で、天然型HBHAおよびESAT-6と接触させること;
c)HBHAに特異的なIFN-γ分泌およびESAT-6に特異的なIFN-γ分泌を測定すること;ならびに
d)HBHAに特異的なIFN-γ分泌とESAT-6に特異的なIFN-γ分泌との比率を計算すること、
を含み、潜在性の結核を示す哺乳類で得られた比率が、活動性の結核を示す哺乳類で得られた比率、またはM. tuberculosisに感染していない哺乳類で得られた比率よりも高い方法に関する。
【0050】
工程a)においては、生物学的サンプルは、健康な集団、すなわち結核の症状を示していない個体から、またはM. tuberculosisに感染した集団のいずれかから得る。健康な集団を用いた方法の目的は、結核の症状を有さない個体の中から、M. tuberculosisに感染しているが症状を示さない個体(潜在性の結核)を同定することである。対照的に、感染した患者の集団を用いた方法の目的は、活動性の結核を示す患者と潜在性の結核を示す患者とを区別することである。
【0051】
本方法は、生物学的サンプルを、天然型のHBHAと接触させること、および、独立してESAT-6(early secreted antigen target 6)と接触させることを含む。表現「独立した方法で」は、サンプルを、HBHAと接触させ、そして、空間的に別々にESAT-6と接触させることを意味する。これら2つの分子を生物学的サンプルに添加することによって、前記サンプルに存在する細胞が刺激を受け、IFN-γなどのサイトカインの分泌を引き起こす。
【0052】
サンプルとHBHAおよびEAST-6との接触は、IFN-γの分泌がもたらされる条件下で実施する。ここで、培地、接触のための培地のpHおよび温度、接触時間、生物学的サンプルの希釈、HBHAタンパク質の濃度の選択は、サンプルの特徴の機能として、当業者によって変更することができる。
【0053】
IFN-γは、サンプルとHBHAとの接触後に(HBHAに特異的なIFN-γと称する)、および、サンプルとESAT-6との接触後に(ESAT-6に特異的なIFN-γと称する)、ELISA、ELISPOT、フローサイトメトリー(FACS)、定量RT-PCRなどの当業者に知られた任意の手法を使用して測定する。抗体、その標識および相互作用条件などのIFN-γ分泌を可能とするパラメーターに関して、当業者は改変を行なうことができる。ELISA条件は、前記したものと同じであり、異なる形態のHBHAタンパク質の代わりに抗-IFN-γ抗体を含むバッファー溶液を使用する。IFN-γに対する二次抗体も使用する。
【0054】
HBHAに特異的なIFN-γとESAT-6に特異的なIFN-γとの比率を計算することによって、潜在性の結核を、活動性の結核と区別することが可能となる。ここで、潜在性の哺乳類においては、1を超える、50を超える、100を超える、200を超える、または300を超える非常に高い比率が得られる。それゆえ、100から400の範囲の比率は、潜在性の結核であることを示す。対照的に、活動性の哺乳類、またはM. tuberculosisに感染していない哺乳類においては、この比率は非常に低く、1未満、0.75未満、または0.5未満である。それ故、比率0または0.5未満の比率は、M. tuberculosisに感染した患者群(例えば、陽性のツベルクリン試験を示す)から活動性の結核の患者を確認するか、(結核の症状が生じない)健康な集団からM. tuberculosisに感染していない患者を確認する。
【0055】
この第2の方法は、一般的に結核の診断に使用されている任意の生物学的サンプル(気管支吸引物、肺胞洗浄液(BAL)、胃洗浄液、痰、胸膜液、腹腔液および関節液、脳脊髄液、頭部液体、髄液、腹水、心膜液ならびに他の身体の液体などの滲出液、リンパ節生検、経気管支生検、胸膜生検および肝臓生検、延髄穿刺および腰椎穿刺、尿または血液サンプル、膿吸引物等)で実施される。本発明の1つの実施においては、本方法は、血液サンプリングに由来する当業者によって知られた任意の方法によって抽出されたリンパ球を使用して実施される。更なる実施においては、PBMCを、末梢血から抽出する。
【0056】
更なる実施においては、生物学的サンプルを得てから前記サンプルを接触させる前に、前記方法は、生物学的サンプルを培養するという補足的な工程を含む。培養は、生物学的サンプルの特性に適合させる。
【0057】
本発明は、また、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とを検出し区別するキット、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定するキットであって、
・天然型HBHAおよびESAT-6;
・独立した方法で、前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに存在する細胞と、天然型HBHAおよびESAT-6との接触を行うための媒体を構成するのに必要な試薬(本試薬には、前記キットのための試薬が含まれる);
・接触後のIFN-γ分泌を検出するための試薬(分泌したIFN-γは、任意の既知の方法を使用して測定され、そして、場合によっては標識されているIFN-γに特異的な一次抗体、または一次抗体を認識することができる場合によっては標識されている二次抗体だけでなく、検出シグナルを増強できる、もしくは調節することができる任意の分子を、キットに含むことができる)、
を含むキットに関する。
【0058】
キットには、場合によっては、陰性コントロール(TB0段階の非感染の哺乳類に由来するサンプル)として、または陽性コントロール(TB2および/もしくはTB3段階)として使用することができる1つまたは複数の生物学的なリファレンス組織またはサンプルが含まれる。
【0059】
更なる実施においては、キットは、天然型HBHAまたはESAT-6と接触させる前にサンプルを培養するのに使用する培養用培地および任意の化合物を含む。
【0060】
本発明は、また、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とをin vitroで検出し区別する第3の方法であって、
a)前記哺乳類の局所的な感染部位から生物学的サンプルを得ること;
b)前記サンプルを、IFN-γへの効果を得るのに適した条件下で、天然型HBHAまたは組換え型HBHAと接触させること;
c)HBHAに特異的なIFN-γに対する前記接触の効果を測定すること、
を含み、HBHAに特異的なIFN-γの効果が、活動性の結核を示す哺乳類では、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類よりも高い方法に関する。
【0061】
本発明の文脈においては、表現「局所的な感染部位」は、病原菌Mycobacterium tuberculosisがもたらし、感染の原因となる任意の部位を含む。それ故、この定義には、肺、リンパ節、胸膜(胸膜腔)関節、骨、尿生殖管、髄膜、腹膜、消化管、中枢神経系、副腎または心膜が含まれる。本方法においては、PBMCを含む血液起源の全てのサンプルは除外される。
【0062】
本方法は、生物学的サンプルを、天然型または組換え型HBHAと接触させ、前記サンプルの細胞の刺激を引き起こすことを含む。この第3の方法で使用する表現「組換え型のHBHA」は、E. coli種(BL21(DE3)(pET-HBHA)から精製したHBHAなどの完全に非-メチル化型のHBHAを意味する。
【0063】
その後、前記刺激のIFN-γに対する効果を測定する。用語「IFN-γに対する効果」は、IFN-γ分解、成熟(グリコシル化など)または分泌に関して、転写レベル(mRNA)または翻訳レベル(タンパク質)の両方における、IFN-γ発現に及ぼす任意の修飾を意味する。
【0064】
局所的な感染部位に由来するサンプルを、IFN-γに対する効果を得るのに適した条件下で、HBHAと接触させる。この適した条件は、培地、pHおよび接触のための培地の温度の選択、接触時間、生物学的サンプルの希釈、ならびにHBHAタンパク質の濃度などであり、当業者によって改変することができる。
【0065】
本発明の1つの実施においては、分泌したIFN-γの量を、ELISA、ELISPOT、フローサイトメトリー(FACS)または定量RT-PCRなどの化合物の量を測定するための任意の既知の方法を使用して測定する。
【0066】
活動性の結核を示す哺乳類の生物学的サンプルからのHBHAに特異的なIFN-γ分泌の量は、1000、2000pg/ml、5000pg/mlまたは10000pg/mlを超える。それ故、5000から45000pg/mlの範囲または10000から45000pg/mlの範囲の量は、活動性の結核であることを示す。対照的に、生物学的サンプルからのHBHAに特異的なIFN-γ分泌の量が、0または100、400もしくは1000pg/ml以下であることは、M. tuberculosisに感染していない、または潜在性の結核であることを示す。
【0067】
更なる実施においては、IFN-γに関する陽性の細胞の割合は、HBHAを用いた16時間の刺激の後でのIFN-γを発現している細胞のパーセンテージと、刺激無しでの(自発的分泌)IFN-γを産生している細胞のパーセンテージとの差異によって定量する。この計算は、リンパ球、CD4+細胞、または任意の他のリンパ球亜群などの、定量プロトコールの標的となる生物学的サンプルの細胞について実施する。標識は、細胞内標識化合物のための任意の既知の方法によって実施され、サポニン(0.01から0.1%)、トリトン(0.1%)、ジギトニンなどの透過処理剤、および/または、2%のパラホルムアルデヒドなどの細胞固定化剤、または場合によっては放射線標識された、もしくは蛍光色素とカップリングした抗体を使用することができる。
【0068】
HBHAとサンプルを接触させた後、Brefeldin A(10μg/ml)をサンプルに3から5時間37℃または室温で加え、サンプルに含まれる細胞の任意の分泌をブロックする。その後、細胞を、前記したような固定化剤を用いて、15から30分間4℃で固定化し、その後、前記したような固定化処理剤を用いて、15から30分間室温暗黒下で透過処理を行なう。一次抗体および二次抗体を透過処理溶液で希釈し(10mg/ml)、15から30分間4℃でインキュベーションするために加える。細胞が感受性である固定化剤を用いる前に、または固定化に耐性である細胞のための透過処理を行なった後のいずれかで、CD4またはCD8などの表面抗原を標識する。その後、標識された細胞を、フローサイトメトリーによって分析する。
【0069】
それ故、活動性の結核を示す哺乳類に由来する生物学的サンプルから得られた細胞の割合は、0.3%を超え、0.5%を超え、0.75%を超え、または1%を超える。5%、10%および15%までの数字を得ることができる。対照的に、M. tuberculosisに感染してない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類に由来する生物学的サンプルから得られた細胞の割合は、0または0.2%から0.3%未満である。
【0070】
この方法により、哺乳類における活動性の結核を求めることができる。対照的に、前記した値のような低分泌のIFN-γまたは少量の細胞質内のIFN-γは、活動性の結核が存在しないことを示し、そして、Mycobacterium tuberculosisに感染していないか、もしくは潜在性の結核であると解釈することができる。
【0071】
場合によっては、生物学的サンプルを得る工程と、サンプルと接触させる工程との間に、前記生物学的サンプルを培養することからなる工程を加える。
【0072】
1つの実施においては、生物学的サンプルは、気管支吸引物、肺胞洗浄液(BAL)、胃洗浄液、痰、胸膜液、腹腔液および関節液、脳脊髄液、頭部液体、髄液、腹水、心膜液などの滲出液、リンパ節生検、経気管支生検、胸膜生検および肝臓生検、延髄穿刺および腰椎穿刺、尿サンプル、ならびに膿吸引物からなる群から選択される。
【0073】
本発明の更なる実施においては、前記方法で使用した細胞は、CD3+CD4+Tリンパ球などのTリンパ球である。
【0074】
本発明は、また、活動性の結核を示す哺乳類と、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とを検出し区別するキットであって、
・天然型HBHAまたは組み換え型HBHA;
・前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに存在する細胞を、天然型または組換え型HBHAと接触させるのに適した媒体を構成するための試薬(本試薬には、前記キットにおける試薬が含まれる);
・接触後のIFN-γの検出を可能とする試薬(分泌したIFN-γまたは細胞質内IFN-γは、任意の既知の方法を使用して測定され、そして、標識されていてもよいIFN-γに特異的な一次抗体、一次抗体を認識することができる標識されていてもよい二次抗体、検出シグナルを増強できる、または調節することができる任意の分子を、キットに提供することができる)、
を含むキットに関する。
【0075】
キットには、場合によっては、コントロール(非感染の哺乳類に由来するサンプル(TB0段階)、TB2段階に由来するサンプルおよび/またはTB3段階に由来するサンプル)として使用することができる1つまたは複数のリファレンス組織または生物学的サンプルが含まれる。
【0076】
1つの実施においては、キットは、HBHAと接触させる前にサンプルを培養するのに使用する培養用培地および任意の化合物を含む。
【0077】
以下の実施例は、本発明を例示するのに使用され、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0078】
(実施例1:血液サンプルの由来)
血液サンプルを、同意を得てから、結核患者および潜在性の結核患者から入手した。結核患者は、直接的な試験での陽性および/またはMycobacteriumm tuberculosisの培養での陽性に基づいて選択した。全ての患者を、治療の最初の3週間の終了前に入院させた。潜在性の結核を有する患者は、ツベルクリンに対する遅延型過敏性試験の陽性(診断時での18mmを超える硬結直径)に基づいて選択した。活動性の結核は、通常の胸部レントゲン写真に基づいて除外した。全ての患者は、HIVについて血清反応陰性であり、いずれの患者も免疫抑制治療を受けていなかった。全ての患者は、募集時にヨーロッパに在住していた。
【0079】
(実施例2:他のサンプル)
肺胞洗浄液(BAL)を、約200mlの生理水を注入後に、内視鏡によって取り出した。その後、取り出した液を遠心した(約10ml)。
【0080】
胸膜液、関節液、腹水、頭部液体および他の体液を滅菌したシリンジに回収し、研究室に到着するとすぐに遠心した。
【0081】
神経節または他の疑わしい塊のために、外科的手術を実施した。研究所へ到着してから、回収した解剖断片を分割し、組織から細胞の連続的な放出を可能とする培養用培地でインキュベートした。
【0082】
(実施例3:抗原)
他の文献(14)に記載されているように、天然型のHBHA(nHBHA)を、M. bovis BCGから、ヘパリン-セファロースクロマトグラフィーに続き、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって精製した。HPLCクロマトグラム、およびSDS-PAGE分析後のCoomassie Blueを用いた染色により、調製物はタンパク質の混入が無かったことが証明された。ガスクロマトグラフィーを使用して、糖脂質が混入していないことを確認した。リムルス試験によって、リポ多糖の濃度が10pg/ml未満であることが示された。
【0083】
メチル化されていない組換え型(rHBHA)を、E. coli種(BL21(DE3)(pET-HBHA)から精製した。天然型タンパク質と比較した、組換え型タンパク質のメチル化の程度を、仏国特許出願FR-A-01/14953に開示する。
【0084】
C末端部分を切断した組換え型(rHBHAΔC)を、E. coli種(BL21(DE3)(pET-HBHAΔC)から精製した。この切断型rHBHAΔCは、Pethe et al(2000, Journal of Biological Chemistry 275 (19): 14273-14280、参照によって本明細書に組み込む)に開示されており、アミノ酸161-199が欠失した組み換えHBHAに由来する。
【0085】
予めメチル化されたアミノ酸と組み合わせて合成された、単離されたC末端ペプチドは、HBHAタンパク質のアミノ酸161から199に対応し、以下の配列:
KKAAPAKKAAPAKKAAPAKKAAAKKAPAKKAAAKKVTQK(配列番号1)
を有する(12、13)。Pethe et al(2000, Journal of Biological Chemistry 275 (19): 14273-14280)およびTemmerman(Nat. Med. 2004 Sep, 10(9): 935-941)を、参照により本明細書に組み込む。
【0086】
(実施例4:HBHAに特異的なIgGの検出)
ELISAを、抗-nHBHA-IgG、抗-rHBHA-IgG、抗-rHBHAΔC-IgGおよび抗-Cペプチド(単離したC末端ペプチド)-IgGを検出するために使用した。詳細には、PBSで希釈した1.5μg/lの抗原溶液(nHBHA、rHBHA、rHBHAΔCまたはCペプチド)を50μl/ウェルで用いて、96穴ポリスチレンプレート(Maxisorp Nunc)を一晩4℃でインキュベートした。プレートを、PBS-Tween20(0.05%)を用いて三回洗浄し、PBSに溶かした1%のカゼイン溶液を用いて、1時間37℃で飽和させた。洗浄後、PBS-Tween20溶液(0.05%)で希釈した患者由来の血清(1:50から1:12800に希釈)を、各ウェルに30分間室温で添加し、攪拌した。PBS-Tween20(0.05%)で250倍に希釈した、ビオチンで標識したヤギ抗-ヒトIgG抗体を、二次抗体として使用し(biotinylated goat anti-human IgG - Southern Biotechnologies Associates, Birmingham, USA 2040-08)、二次抗体の検出を、1:1000(0.5%カゼイン)で希釈したペルオキシダーゼ溶液(extravidin peroxidase-conjugated E2886 - Sigma)を50μl/ウェルで添加して確認した。50μlの基質溶液(0.1Mクエン酸ナトリウム, pH5に溶かした0.1mg/mlの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンおよび1μl/mlの30%過酸化水素)を、洗浄後に、暗黒下で10から30分間添加した。反応を、25μl/ウェルの塩酸(2mMol/l)によって停止した。抗体タイターを、陰性の血清プールに対して陽性であると判断した最終的な血清希釈率で示す。
【0087】
(実施例5:nHBHA/ESAT-6に応答するPBMCによるガンマインターフェロンの分泌(ELISA))
PBMCを、末梢血サンプルの密度勾配遠心分離によって入手した(lymphoprep - Nycomed Pharma)。前記PBMCを、培養培地(40μg/mlのゲンタマイシン、50μM 2-メルカプトエタノール、1×非必須アミノ酸(Life Technologies)および10%のウシ胎児血清(FCS)を添加した完全RPMI:RPMI 1640(BioWhittaker))を用いて2×106細胞/mlで再懸濁した。細胞を、2μg/mlのnHBHAと、並行して5μg/mlのearly secreted antigen target 6(ESAT-6)(Statens Serum Institut, Denmark)とを用いて、96時間、5%のCO2の雰囲気下37℃で刺激した。幾つかの実験においては、ブロッキング抗体:抗-TGF-β 1, 2, 3(mouse IgG1, R&D System)を、5μg/mlの濃度で添加し、結果を、コントロール抗体(mouse IgG1; R&D System)の存在下で得られた結果と比較した。上清を、培養4日後に回収し、ELISA(IFN-γ Cytoset, Biosource)を使用して、分泌したIFN-γを測定した。
【0088】
(実施例6:局所的なガンマインターフェロン応答)
<実施例6a:生物学的液体および解剖学的パーツ>
分析した生物学的液体は、胸膜液、関節液および腹水であった。分析した解剖学的パーツは、神経節または様々な疑わしい塊から切除した生検であった。生物学的液体からの有核成分の単離を、最初のろ過(cellular sieve, Nylon 100μm Falcon(登録商標)352360)に続き、15分間の2300rpmの遠心によって行なった。必要であるならば、細胞残渣に存在する赤血球を溶解した。その後、細胞を、完全RPMI溶液で再懸濁した。解剖学的サンプルに由来する有核成分を、そのパーツの切除、および、完全RPMI溶液内で、37℃、5%CO2雰囲気下で一晩インキュベーションすることによって単離した。上清を回収し、そのパーツをリンスし、まだ入手可能な任意の細胞を回収した。その後、これらの回収した液体を、2300rpmで15分間遠心した。必要であるならば、細胞残渣に存在する赤血球を溶解した。細胞残渣を、完全RPMI溶液で再懸濁した。
【0089】
<実施例6b:抗原性刺激>
単離した細胞が十分である場合は(胸膜液)、それらを、PBMCと同じ方法でin vitroで刺激し、HBHAによる96時間のin vitro刺激後の培養上清における分泌したIFN-γの濃度を測定した。PBMCに関しては、肺胞洗浄液、関節液または腹水、神経節等について、これらの細胞によるIFN-γ合成の分析も、以下に記すHBHAによる短時間のin vitro刺激後に、フローサイトメトリーによって実施した。単離した細胞(2×106/ml)を、10μg/mlの濃度でHBHAによって、16から18時間in vitroで刺激した。その後、細胞からのサイトカイン分泌を、Brefeldin A(10μg/ml-Brefeldin A - Sigma)の存在下で4時間インキュベーションすることによってブロックし、細胞内でのIFN-γの存在を、細胞を標識した後で、フローサイトメトリーによって分析した。細胞を固定後、細胞を透過処理し(Fix and Perm; Cell Permeabilization Kit - Caltag Laboratories)、洗浄し、その後、暗黒下で30分間、蛍光色素とカップリングした抗体(抗-CD3 PerCP、抗-CD4 APC、抗-IFN-γ PE、全てはBecton, Dickinsonから入手)の存在下でインキュベートした。その後、陽性細胞の割合を、FACSCalibur cytometerを用いて、最初に、大きさおよび粒度に基づいて標的リンパ球を分析し、その後で、表面マーカー発現の作用として、異なるリンパ球亜群を分析した。
【0090】
(実施例7:統計学的分析)
対になっていないデータについて、Mann-Whitney non parametric U testまたはnon parametric Kruskall-Wallis testを実施し、その後、Dunn testを使用して事後試験を実施した。対になったデータを、Wilcoxon testまたはFriedman testによって分析した。
【0091】
Receiver operating characteristic(ROC)分析:曲線(図12)上のそれぞれの点は、各対の感度および特異度に対応し、表1、2または3で得られた値に従って計算したものである。完成した曲線(特に、曲線の下の領域)により、全体試験の概観が得られる。良好な曲線は、左上の角に近づくのに対して、好ましくない場合は、対角線(点線)が得られる。
【0092】
ROC曲線より下の全体領域が、診断試験の能力の指標である。なぜならば、この領域が、全ての可能なカットオフ値での試験の能力を反映しているからである。この領域は、区間[0.5-1]に該当し、より大きな領域が、試験のより良好な能力を意味する。試験の正確性は、曲線の下の領域に従って、以下のように分類分けされる:[0.9-1]:最良;[0.8-0.9]:良;[0.7-0.8]:通常;[0.6-0.7]:悪い;[0.5-0.6]:不可。
【0093】
以下の定義を使用する:
-感度:陽性診断の患者における、試験で陽性となった患者の確率:真陽性(TP);
-特異度:陰性診断の患者における、試験で陰性となった患者の確率:真陰性(TN);
-(1-特異度):陰性診断の患者における、試験で陽性となった患者の確率:擬陽性(FP);
-(1-感度):陽性診断の患者における、試験で陰性となった患者の確率:偽陰性(FN)。
【0094】
ROC試験によって、感度および特異度が高い最適なカットオフ値を求めることができる。
【0095】
(結果)
<1.液性応答>
nHBHAに特異的なIgGは、良好な健康(初期感染(primo-infected)対象または潜在性)である場合であろうと、罹患し結核の症状を示す(活動性)場合であろうと、Mycobacterium tuberculosisで感染した対象の約40%に由来する血清から検出された。これら2つの対象群で観察された抗体タイターは差異がなかった(図1)。
【0096】
しかしながら、メチル化されていない組換え型HBHA(rHBHA)に対する抗体のタイターと、メチル化された天然型HBHA(nHBHA)に対する抗体のタイターとの比較により、Mycobacterium tuberculosisに感染した患者が症状を示す(活動性)、または症状を示さない(潜在性)かどうかに依存して、それらの抗体が異なるという仮定が導かれた。図2に見られるように、初期感染(primo-infected)対象においては、抗-nHBHA IgGのタイターは、抗-rHBHA IgGのタイターよりも顕著に高いのに対して(p=0.0015)(図2A)、結核の患者においては、その差異は顕著ではなかった(図2B)。その後、我々は、一方で、N末端ドメインのみからなる切断した組換え型HBHA(rHBHAΔC)に対するIgGを、他方で、メチル化されたC末端ペプチドに対するIgGをアッセイした。
【0097】
図3に示されるように、これらの結果から、結核患者に由来する血清に存在する抗-HBHA IgGがrHBHAΔCを認識するのに対して(図3A)、初期感染(primo-infected)対象に由来する抗体がメチル化されたC末端を認識することが示された(図3B)。Mycobacterium tuberculosisで感染した対象に由来する血清に存在する抗体のタイプに依存して、対象を2つの群、初期感染(primo-infected)の群または症状を示す群に分けることができ、その分類分けは、IgGが、メチル化されていないHBHAのN末端部分に対するものか、メチル化されたC末端部分であるかに依存する。
【0098】
<2.循環リンパ球によるIFN-γの分泌>
a.我々は、以前に、PBMCによる天然型HBHAに応答するIFN-γの分泌が、結核患者よりも初期感染(primo-infected)対象のほうが顕著に高いことを以前に示している。しかしながら、得られる区別は、診断目的のために使用するには十分ではなかった。試験を行った対象の数が増したので、初期感染(primo-infected)対象の中から、感染の予想される日が5年以内であるという選択が可能となった。図4の結果により、2つの群間の差異は僅かに存在するが、まだ不十分であることが示された。
【0099】
b.天然型HBHAによって誘導されるIFN-γ分泌の潜在的な数値を、Mycobacterium tuberculosisによる潜在性感染を診断するのに良好に評価するために、ROC(receiver operating curves)を作成し、もたらされる問題のための最も良好な感度/特異度の組み合わせを付与するIFN-γの濃度(最適カットオフ)を求めた。
【0100】
1)健康な集団内の潜在性結核患者の診断(潜在性結核患者と非感染の個体との区別)
潜在性結核(IP)を示すヒトは、症状を示さないが、コッホ桿菌の転移源となり、試験により、健康な集団におけるそのようなヒトを同定できなければならない。それ故、コントロール対象(M. tuberculosisに感染していない - n=14)、およびツベルクリン(PPD)陽性皮内反応の結果に基づく潜在性結核を示すヒト(n=46)から、HBHAによって誘導され、PBMCによって分泌したIFN-γの濃度に基づいて、ROC曲線を作成した。これを、参考用診断基準とする(表1)。
【0101】
【表1】
【0102】
このような実験においては、「陽性」および「陰性」のヒトは、以下のように定義される:
-TP:陽性のツベルクリン皮内反応を有する患者における、陽性結果(最適カットオフより高い)を示す患者の確率;
-FP:陰性のツベルクリン皮内反応を有する患者の中で、陰性結果(最適カットオフより低い)を示す患者の確率;
-FN:陰性のツベルクリン皮内反応を有する患者の中で、陽性結果(最適カットオフより高い)を示す患者の確率;
-TN:陽性のツベルクリン皮内反応を有する患者の中で、陰性結果(最適カットオフより低い)を示す患者の確率。
【0103】
図12Aに示すROC曲線は、曲線より下の領域が0.95(95%信頼区間:0.90-1.00;P<0.0001)であるので、優れている。110pg/ml(最適カットオフ)を超えるIFN-γの濃度に関して、潜在性結核の診断のための試験の感度は、100%の特異度(CI95:76.84-100)で、89.13%(CI95:76.43-96.38)であった。
【0104】
このROC試験のコントロールが、結核のためのワクチン(BCG)を受けていないヒトであったことは注目に値する。BCGワクチンがもたらす妨害の可能性は、以前に試験され、2002年に報告されている(Masungi et al. J. Inf. Dis. 2002;185:513-20)。これらの予備的な試験によって、15人のBCGワクチン接種を受けたヒト(血液サンプリングの10年以上前にBCGワクチンを受けた)に由来する循環リンパ球は、HBHAに応答するIFN-γを分泌しないにも関わらず、PPDに応答することが示された。
【0105】
しかしながら、研究は、健康な大人の集団における結核の区別に関するものであり、大部分の国ではワクチンを子供時代に受けるので、10年以上前にワクチンを受けたヒトを試験することは適切であると思われる。これらのヒトから、5人が陽性のツベルクリン皮内反応を示し、3人が疑わしい結果を示した。更にその上、これらの健康なBCGワクチンを受けたヒトの10人に由来する循環リンパ球が、PPDに応答するIFN-γを分泌した。
【0106】
結論として、BCGワクチン接種は、in vitroでのHBHAによるIFN-γ誘導に基づく、健康な集団の中から潜在性結核患者を区別するための可能な診断上の利益を妨害しないと思われる。
【0107】
2)潜在性結核と活動性結核との間の診断上の差異
患者が結核に対応する診断履歴を有し、ツベルクリン皮内反応が陽性である場合、潜在性結核も有する患者に生じる可能性がある他の疾患から、結核を区別することは重要である。それゆえ、試験は、M. tuberculosisに感染した患者の集団の中から、潜在性結核の患者を同定しなければならない。それゆえ、一方はツベルクリン皮内反応の結果に基づいて定義された潜在性結核を示す患者(重要な診断参考である)(n=46)に由来し、他方は非治療の活動性結核を示す患者(n=50)に由来する、HBHAによって誘導され、PBMCによって分泌したIFN-γの濃度に基づいて、ROC曲線を作成した(表2)。
【0108】
【表2】
【0109】
このような実験においては、「陽性」および「陰性」のヒトは、以下のように定義される:
-TP:結核の症状を示す患者の中で、陽性結果(最適カットオフより高い)を示す患者の確率;
-FP:結核の症状を示さない患者の中で、陰性結果(最適カットオフより低い)を示す患者の確率;
-FN: 結核の症状を示さない患者の中で、陽性結果(最適カットオフより高い)を示す患者の確率;
-TN: 結核の症状を示す患者の中で、陰性結果(最適カットオフより低い)を示す患者の確率。
【0110】
得られたROC曲線(図12B)は、曲線より下の領域が0.855(IC95:0.777-0.932)であるので、良好である。480pg/ml(最適カットオフ)のIFN-γの臨界濃度に関して、潜在性結核の診断のための試験の感度は、82%の特異度(CI95:68.56-91.42)で、76.09%(CI95:61.23-87.41)であった。
【0111】
このROC曲線の結果は、PBMCにおけるPPDにより誘導されるIFN-γの濃度を考慮すれば、実質的には、よりものたりないものであることに注目すべきである。31人の潜在性結核および41人の活動性結核から得られた結果(表3)に基づいて計算した曲線(図12C)は、曲線より下の領域が0.73のみであった(CI95:0.62-0.84)。
【0112】
【表3】
【0113】
前記結果から、HBHAにより誘導されるIFN-γの分泌により、M. tuberculosisに感染していない個体および活動性結核の患者から、潜在性結核の患者を区別することが可能となることが明らかとなった。この区別は、ツベルクリン皮内試験、またはPPDもしくはESAT-6により誘導されるIFN-γの分泌のいずれかに基づく他の一般的な試験では不可能であった。この区別は、主として、患者のより良好な臨床的選択をもたらすであろう。
【0114】
c.文献では、結核患者は、初期感染(primo-infected)対象に対して、ESAT-6に応答するIFN-γを分泌することが報告されているが、図5に示すように、その差は十分ではない。
【0115】
d.我々は、nHBHAによる特異的IFN-γ分泌とESAT-6による特異的IFN-γ分泌との間の比率の計算により、症状が現れていない初期感染(primo-infected)対象と結核患者とを区別するための優れた手法をもたらすことができることを求めた(p=0.0003;n=8)(図6)。実際に、その比率は、活動性結核の患者については約0.1pg/mlであるのに対して、潜在性結核の患者については約146.2pg/mlであり、重複した値は示さなかった。
【0116】
M. tuberculosisに感染していない患者は、ESAT-6に応答するIFN-γを分泌しない、または非常に低い濃度でした分泌しないので(データは示さない)、これらの結果は、また、健康な集団からの潜在性結核の患者の同定にも適用される。
【0117】
抗-TGF-βブロッキング抗体を添加することによって、多くの場合において、HBHAによるリンパ球刺激に応答する末梢IFN-γ分泌がもたらされないことは、明確に、症状を示す患者におけるMycobarterium tuberculosisによる感染が原因であり、感染していないことが原因ではないことを求めることができる。図7に示すように、抗-TGF-βの存在により、結核患者に由来するPBMCからのIFN-γ分泌は、顕著に増加した(p=0.01)。これは、初期感染(primo-infected)患者では見られなかった。
【0118】
3.nHBHAに応答するIFN-γの局所的分泌
結核の患者において、nHBHAに応答するPBMCによるIFN-γの分泌が生じないこととは対照的に、胸膜液、関節液、肺胞液および腹腔液などの局所感染部位に由来する細胞の刺激により、nHBHAまたはrHBHAによる刺激に応答する主要なIFN-γ応答を観察することできた。これは、Mycobacterium tuberculosisに感染していないが、結核に対応する臨床的兆候およびX線の兆候を示すコントロール対象とは対照的である。局所的サンプルの量により、十分量のリンパ球の単離が可能となる場合は、これらの細胞を天然型HBHAによって刺激し、培養上清のIFN-γの量をELISAによって測定した。
【0119】
図8の結果により、HBHAによる刺激後の胸膜細胞により分泌したIFN-γの濃度は、コントロールである初期感染(primo-infected)対象または他の対象に由来する細胞によって分泌するIFN-γの濃度よりも非常に高くなることが示された。
【0120】
PPDなどの他の抗原を、in vitroで胸膜細胞を刺激するのに使用する場合に、結核患者とコントロールとの差異は、非常にとぼしいものであった(図8)。
【0121】
結核を原因とする胸膜滲出の患者の胸膜細胞によるHBHA誘導IFN-γの合成は、フローサイトメトリーを使用したリンパ球を分析することによっても求めることができる。この手法により、細胞内IFN-γを含み、そのIFN-γの合成がHBHAによるin vitro刺激によって誘導されたものであるリンパ球の割合を測定することが可能である。この手法は、非常に迅速であり、HBHA刺激期間が一晩で済むという利点を有し、それがゆえに、24時間で結果を得ることができる。図9および10の結果により、胸膜液に由来するCD4+リンパ球の大部分が、HBHA刺激後にIFN-γを含むのに対して、この結果は、結核を原因としない滲出に由来する胸膜細胞の場合(すなわち、Mycobacterium tuberculosisで感染していない個体)は見られないことが示された(図10)。リンパ球の大きさおよび粒度に基づいて選択されるリンパ球ウィンドウ(lymphocyte window)への分析を制限することによって、HBHA誘導IFN-γの分泌の研究を単純化することができる。
【0122】
肺結核の場合(胸膜への発病なし)、診断は、肺胞洗浄液に由来するリンパ球を研究することによって実施することができる。実際に、HBHAでの簡単なin vitro刺激後(一晩)に、局所的CD4+リンパ球(局所的感染部位に由来する)の大部分が、コントロール患者に由来するリンパ球とは対照的に、細胞内IFN-γを含んでいた(図11)。結核患者と非結核患者との差異は、局所的CD8+細胞よりもむしろ局所的CD4+細胞を標的とした場合に、良好であり(図11)、この分析は、また、リンパ球ウィンドウに制限することもできる。
【0123】
関節結核では、滲出液(滲出液の陽性KB培地)から単離したリンパ球の大部分は、結核を原因としない滲出を生じるコントロール個体から取り出した局所的リンパ球とは対照的に、簡単なHBHAでのin vitro刺激後に、IFN-γを合成した(表4)。
【0124】
最後に、結核を原因とする腹膜炎の場合、この液に存在するリンパ球の31%が、簡単なHBHAでのin vitro刺激後に、細胞内IFN-γを含む。結核を原因とするリンパ節肥大の場合、リンパ球の1.8%が、HBHAに応答してIFN-γを合成し、このことにより、24時間未満での、この疾患の結核由来の診断を再度可能にする(表4)。
【0125】
【表4】
【0126】
[参考文献]
【特許請求の範囲】
【請求項1】
in vitroで、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とを検出し区別する、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定する方法であって、
a)前記哺乳類から生物学的サンプルを得ること;
b)独立した方法で、前記生物学的サンプルを、天然型HBHAおよびESAT-6と、IFN-γの分泌が可能となる条件下で接触させること;
c)HBHAに特異的なIFN-γ分泌およびESAT-6に特異的なIFN-γ分泌を測定すること;ならびに、
d)HBHAに特異的なIFN-γ分泌とESAT-6に特異的なIFN-γ分泌との比率を計算すること、
を含み、
潜在性の結核を示す哺乳類またはM. tuberculosisに感染していない哺乳類に由来するサンプルから得られた前記分泌の比率が、1より大きく、一方で、活動性の結核を示す哺乳類に由来するサンプルから得られた前記分泌の比率が、1未満である、方法。
【請求項2】
潜在性の結核を示す哺乳類またはM. tuberculosisに感染していない哺乳類に由来するサンプルから得られた前記分泌の比率が、100から400の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活動性の結核を示す哺乳類に由来するサンプルから得られた前記分泌の比率が、0.5未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生物学的サンプルが、気管支吸引物、肺胞洗浄液(BAL)、胃洗浄液、痰、胸膜液、腹腔液および関節液、脳脊髄液、頭部液体、髄液、腹水、心膜液ならびに他の身体の液体などの滲出液、リンパ節生検、経気管支生検、胸膜生検および肝臓生検、延髄穿刺および腰椎穿刺、尿または血液サンプル、ならびに膿吸引物からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程b)が、天然型HBHAおよびESAT-6を、独立した方法でPBMCと接触させることを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程b)の前に、生物学的サンプルを培養するという補足的な工程を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とを検出し区別する、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定するキットであって、
・天然型HBHAおよびESAT-6;
・独立した方法で、前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに存在する細胞と、天然型HBHAおよびESAT-6との接触を行うための媒体を構成する試薬;ならびに、
・接触後のIFN-γ分泌を検出するための試薬、
を含むキット。
【請求項8】
in vitroで、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とを検出し区別する、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定する方法であって、
a)前記哺乳類の局所的な感染部位から生物学的サンプルを得ること;
b)前記生物学的サンプルを、天然型HBHAまたは組換え型HBHAと、求めるIFN-γに対する効果が可能となる条件下で接触させること;および
c)以下のc1)の測定、c2)の計算のいずれかを実施することによって、前記哺乳類の状態を求めること;
c1)天然型HBHAまたは組換え型HBHAと細胞との接触後における、分泌したIFN-γの量の測定であって、当該測定において、1000pg/mlより多いHBHAに特異的な分泌したIFN-γの量が、活動性の結核を示す哺乳類の特徴を示し、一方で、1000pg/ml未満のHBHAに特異的な分泌したIFN-γの量が、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類の特徴を示し、または
c2)リンパ球群またはリンパ球亜群における、細胞をHBHAと接触させた後での細胞質内IFN-γを含む細胞の割合の計算であって、当該計算において、0.3%よりも大きい細胞質内IFN-γを含む細胞の割合が、活動性の結核を示す哺乳類の特徴を示し、一方で、0.3%未満の細胞質内IFN-γを含む細胞の割合が、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類の特徴を示す、
を含む、方法。
【請求項9】
活動性の結核を示す哺乳類に由来する生物学的サンプルから分泌した、HBHAに特異的なIFN-γの前記量が、5000pg/mlより多い、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類に由来する生物学的サンプルから分泌した、HBHAに特異的なIFN-γの前記量が、100pg/ml未満である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
活動性の結核を示す哺乳類に由来する生物学的サンプルから得られた細胞の前記割合が、0.5%よりも大きい、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記工程b)の前に、生物学的サンプルを培養するという補足的な工程を含む、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記生物学的サンプルが、気管支吸引物、肺胞洗浄液(BAL)、胃洗浄液、痰、胸膜液、腹腔液および関節液、脳脊髄液、頭部液体、髄液、腹水、心膜液などの滲出液、リンパ節生検、経気管支生検、胸膜生検および肝臓生検、延髄穿刺および腰椎穿刺、尿サンプル、ならびに膿吸引物からなる群から選択される、請求項8から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、CD3+CD4+Tリンパ球である、請求項8から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
活動性の結核を示す哺乳類とM. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とを検出し区別するキットであって、
・天然型HBHAまたは組み換え型HBHA;
・前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに存在する細胞と、HBHAとの接触を行うのに適した媒体を構成する試薬;
・接触後のIFN-γ分泌または細胞質内IFN-γを定量する試薬、
を含むキット。
【請求項1】
in vitroで、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とを検出し区別する、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定する方法であって、
a)前記哺乳類から生物学的サンプルを得ること;
b)独立した方法で、前記生物学的サンプルを、天然型HBHAおよびESAT-6と、IFN-γの分泌が可能となる条件下で接触させること;
c)HBHAに特異的なIFN-γ分泌およびESAT-6に特異的なIFN-γ分泌を測定すること;ならびに、
d)HBHAに特異的なIFN-γ分泌とESAT-6に特異的なIFN-γ分泌との比率を計算すること、
を含み、
潜在性の結核を示す哺乳類またはM. tuberculosisに感染していない哺乳類に由来するサンプルから得られた前記分泌の比率が、1より大きく、一方で、活動性の結核を示す哺乳類に由来するサンプルから得られた前記分泌の比率が、1未満である、方法。
【請求項2】
潜在性の結核を示す哺乳類またはM. tuberculosisに感染していない哺乳類に由来するサンプルから得られた前記分泌の比率が、100から400の範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活動性の結核を示す哺乳類に由来するサンプルから得られた前記分泌の比率が、0.5未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生物学的サンプルが、気管支吸引物、肺胞洗浄液(BAL)、胃洗浄液、痰、胸膜液、腹腔液および関節液、脳脊髄液、頭部液体、髄液、腹水、心膜液ならびに他の身体の液体などの滲出液、リンパ節生検、経気管支生検、胸膜生検および肝臓生検、延髄穿刺および腰椎穿刺、尿または血液サンプル、ならびに膿吸引物からなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程b)が、天然型HBHAおよびESAT-6を、独立した方法でPBMCと接触させることを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程b)の前に、生物学的サンプルを培養するという補足的な工程を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とを検出し区別する、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定するキットであって、
・天然型HBHAおよびESAT-6;
・独立した方法で、前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに存在する細胞と、天然型HBHAおよびESAT-6との接触を行うための媒体を構成する試薬;ならびに、
・接触後のIFN-γ分泌を検出するための試薬、
を含むキット。
【請求項8】
in vitroで、潜在性の結核を示す哺乳類と活動性の結核を示す哺乳類とを検出し区別する、または、健康な集団の中から潜在性の結核を示す哺乳類を同定する方法であって、
a)前記哺乳類の局所的な感染部位から生物学的サンプルを得ること;
b)前記生物学的サンプルを、天然型HBHAまたは組換え型HBHAと、求めるIFN-γに対する効果が可能となる条件下で接触させること;および
c)以下のc1)の測定、c2)の計算のいずれかを実施することによって、前記哺乳類の状態を求めること;
c1)天然型HBHAまたは組換え型HBHAと細胞との接触後における、分泌したIFN-γの量の測定であって、当該測定において、1000pg/mlより多いHBHAに特異的な分泌したIFN-γの量が、活動性の結核を示す哺乳類の特徴を示し、一方で、1000pg/ml未満のHBHAに特異的な分泌したIFN-γの量が、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類の特徴を示し、または
c2)リンパ球群またはリンパ球亜群における、細胞をHBHAと接触させた後での細胞質内IFN-γを含む細胞の割合の計算であって、当該計算において、0.3%よりも大きい細胞質内IFN-γを含む細胞の割合が、活動性の結核を示す哺乳類の特徴を示し、一方で、0.3%未満の細胞質内IFN-γを含む細胞の割合が、M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類の特徴を示す、
を含む、方法。
【請求項9】
活動性の結核を示す哺乳類に由来する生物学的サンプルから分泌した、HBHAに特異的なIFN-γの前記量が、5000pg/mlより多い、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
M. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類に由来する生物学的サンプルから分泌した、HBHAに特異的なIFN-γの前記量が、100pg/ml未満である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
活動性の結核を示す哺乳類に由来する生物学的サンプルから得られた細胞の前記割合が、0.5%よりも大きい、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記工程b)の前に、生物学的サンプルを培養するという補足的な工程を含む、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記生物学的サンプルが、気管支吸引物、肺胞洗浄液(BAL)、胃洗浄液、痰、胸膜液、腹腔液および関節液、脳脊髄液、頭部液体、髄液、腹水、心膜液などの滲出液、リンパ節生検、経気管支生検、胸膜生検および肝臓生検、延髄穿刺および腰椎穿刺、尿サンプル、ならびに膿吸引物からなる群から選択される、請求項8から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、CD3+CD4+Tリンパ球である、請求項8から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
活動性の結核を示す哺乳類とM. tuberculosisに感染していない哺乳類または潜在性の結核を示す哺乳類とを検出し区別するキットであって、
・天然型HBHAまたは組み換え型HBHA;
・前記哺乳類に由来する生物学的サンプルに存在する細胞と、HBHAとの接触を行うのに適した媒体を構成する試薬;
・接触後のIFN-γ分泌または細胞質内IFN-γを定量する試薬、
を含むキット。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12】
【公開番号】特開2011−95275(P2011−95275A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20605(P2011−20605)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【分割の表示】特願2007−518561(P2007−518561)の分割
【原出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(507002284)
【出願人】(507002516)アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル) (4)
【出願人】(507002321)ユニヴェルシテ・リブレ・ドゥ・ブリュッセル (2)
【出願人】(507002170)ユニヴェルシテ・デュ・ドロイ・エ・ドゥ・ラ・サンテ・ドゥ・リル・ドゥー (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【分割の表示】特願2007−518561(P2007−518561)の分割
【原出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(507002284)
【出願人】(507002516)アンセルム(アンスティチュート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・メディカル) (4)
【出願人】(507002321)ユニヴェルシテ・リブレ・ドゥ・ブリュッセル (2)
【出願人】(507002170)ユニヴェルシテ・デュ・ドロイ・エ・ドゥ・ラ・サンテ・ドゥ・リル・ドゥー (2)
【Fターム(参考)】
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