説明

HCV感染患者のクリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍のための予後マーカー

本発明は、疾患の臨床症候の発症前に、特異抗体上の交差イディオタイプエピトープの検出を使用して、その抗体を生成する細胞を検出することにより、特異抗体に関連した疾患を早期診断および処置するための方法および組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は2010年3月1日に出願された米国仮特許出願第61/309,161号明細書の優先権の利益を主張するものであり、その内容全体を参照によって本明細書に組み込むものとする。
【0002】
本発明は、一般に、C型肝炎ウイルス感染に関連した疾患の早期診断および処置のための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
C型肝炎ウイルス(HCV)感染のまれな症状は、II型クリオグロブリン血症(クリオグロブリン血症性血管炎)に関連した全身性血管炎であり、患者の5〜10%でB細胞悪性腫瘍に移行する増殖性B細胞疾患である。クリオグロブリン血症性血管炎の発症に必要なHCV感染期間については、十分な記載がないが、10年以上と思われる。感染者の大多数は、クリオグロブリン血症性血管炎(cryoblobulinemic vasculits)の症候の発現に先だって、この長期間、何ら症候を経験しないので、クリオグロブリン血症血管炎または関連B細胞悪性腫瘍の早期診断がなされることはめったにない。症候を示す前にC型肝炎患者が処置される可能性は低いので、HCV感染患者のクリオグロブリン血症性血管炎および関連B細胞悪性腫瘍の早期診断の助けとなる予後マーカーの発見が当技術分野で必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、疾患の臨床症候の発症前に、特異抗体上の交差イディオタイプエピトープの検出を使用して、その抗体を生成する細胞を検出することにより、特異抗体に関連した疾患を早期診断および処置するための方法を含む。具体的には、本発明は、C型肝炎ウイルス(HCV)感染患者が感染合併症を発症する前に、感染患者のB細胞クローン拡大(BCE)の解析を使用して、II型クリオグロブリン血症に関連したクリオグロブリン血症性血管炎またはB細胞悪性腫瘍を早期診断するための方法を提供する。さらに、検出される交差イディオタイプ抗原の抗体を使用する処置方法も本明細書に記載する。本発明は、無症候性HCV感染患者におけるWA B細胞の検出が、クリオグロブリン血症性血管炎および関連B細胞悪性腫瘍の発症マーカーになるという驚くべき発見に基づいている。
【0005】
HCVに関連したクリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍の発症リスクがある対象を同定するための方法を本明細書に記載する。最初に、HCVに感染した対象から検体を準備する。適切な検体は全血を含む体液である。WA交差イディオタイプ陽性(Xid+)B細胞を検体中に検出する場合、その対象は、HCVに関連したクリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍の発症リスクがある対象であると同定する。一態様では、対象は早期に同定される。早期に同定される対象は、初期HCV感染の後であるが、クリオグロブリン血症性血管炎またはB細胞悪性腫瘍に関連した症候の発現に先立って同定されることが好ましい。
【0006】
一態様では、WA Xid+B細胞は、クローン拡大B細胞集団から、WA Xidに関連した免疫グロブリン核酸配列を同定することにより検出する。WA Xidに関連した免疫グロブリン核酸配列は、IgH V1−69もしくはIgHV V3−7または関連生殖細胞系列遺伝子、VK325もしくはVK328、JH4もしくはJH3、Jk1、および配列番号1(コンセンサス1)もしくは配列番号2(コンセンサス2)を含むD領域コンセンサス配列を含む。
【0007】
あるいは、WA Xid+B細胞は単離した抗WA Xid抗体を用いて検出する。場合によっては、単離した抗WA Xid抗体を標識化する。一態様では、この標識はフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識またはフィコエリトリン(PE)標識である。免疫染色またはフローサイトメトリー分析によってWA Xid+B細胞を検出する。一態様では、この方法は抗CD11c抗体を用いて検体中のCD11C細胞を検出することをさらに含む。
【0008】
HCV感染に関連したクリオグロブリン血症性血管炎またはB細胞悪性腫瘍の発症リスクがある対象を同定するための方法をさらに提供する。最初に、HCV感染患者のクローン拡大B細胞から核酸検体を準備し、WA Xidに関連した免疫グロブリン核酸配列を検出する。前記配列は、IgH V1−69もしくはIgH V3−7または関連生殖細胞系列遺伝子、VK325もしくはVK328、JH4もしくはJH3、およびJk1を含む。続いて、配列番号1または配列番号2を含む配列を、検体中に検出する。WA Xidに関連したIgHおよびVKの配列を含有するHCV感染患者由来の核酸中に、配列番号1または配列番号2が存在する場合、HCV感染に関連したクリオグロブリン血症性血管炎またはHCV感染に関連したB細胞悪性腫瘍の発症が予後診断される。一態様では、患者には、クリオグロブリン血症性血管炎の臨床症候もB細胞悪性腫瘍の臨床症候もない。
【0009】
本発明はまた、対象におけるHCVに関連したクリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍の早期処置の方法を提供する。最初に、C型肝炎ウイルス(HCV)に感染した対象から検体を入手する。適切な検体は全血を含む体液である。検体がWA Xid+B細胞を含有する場合、抗WA抗体を対象に投与し、それによって、対象におけるHCVに関連したクリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍を処置する。早期処置は、初期HCV感染の後であるが、クリオグロブリン血症性血管炎またはB細胞悪性腫瘍に関連した症候の発現に先立ってなされることが好ましい。
【0010】
本発明はまた、WA B細胞から発生するもの以外のB細胞悪性腫瘍の発症リスクがある対象の早期発見および処置のための方法を提供する。最初に、HCVに感染した対象から検体を準備する。適切な検体は全血を含む体液である。非WA交差イディオタイプ陽性(非WAXid+)B細胞を検体中に検出することにより、その対象を、HCVに関連したクリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍の発症リスクがある対象と同定する。一態様では、非WA Xid+B細胞は、クローン拡大B細胞集団から、特定の非WA Xidに関連した免疫グロブリン核酸配列を同定することにより検出する。場合によっては、特定の非WA Xid+B細胞は、単離した抗非WA Xid抗体を用いて検出する。一態様では、対象は早期に同定される。早期に同定される対象は、初期HCV感染の後であるが、クリオグロブリン血症性血管炎またはB細胞悪性腫瘍に関連した症候の発現に先立って同定されることが好ましい。
【0011】
本発明はまた、IgH V1−69もしくはVIgH V3−7または関連生殖細胞系列遺伝子、VK325もしくはVK328、JH4もしくはJH3、Jk1、および配列番号1もしくは配列番号2を含む、WA Xidに関連した免疫グロブリン核酸配列の検出に基づいて、HCV感染に関連したクリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍を予後診断するための第1プライマーおよび第2プライマーのセットならびに説明書を含むキットを提供する。第1プライマーおよび第2プライマーのセットは、Igをコードする転写物中の、相補性決定領域3(CDR3)配列を挟む第1プライマーおよび第2プライマー、VH−D−JH配列を挟む第1プライマーおよび第2プライマー、ならびにVK−JK配列を挟む第1プライマーおよび第2プライマーを含む。
【0012】
本発明の他の特徴および利点は、好ましい実施形態の以下の説明および特許請求の範囲から明らかになる。他に定義されていない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する分野の当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似または等価な方法および材料も、本発明の実施または試験に使用することができるが、以下では適切な方法および材料を記載する。本明細書に記載の刊行物、特許出願、特許、Genbank/NCBI受託番号およびその他の参考文献はすべて、その内容全体を参照によって組み込むものとする。矛盾がある場合は、本明細書が、定義を含めて、優先するものとする。さらに、材料、方法および実施例は、例示のみを目的とし、限定することを意図するものではない。
【0013】
本発明の他の特徴および利点が、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、B細胞クローン拡大分析ゲルのケミルミグラフ(chemilumigraph)を示す図である。患者のリボ核酸(RNA)を増幅した。患者番号を各レーンの上部に示す。患者27、45、71、72、80、84および88は陽性(白矢印がBCEを示す)、患者17、50、83、85、86および87は陰性と考えられた。これらの分類はゲル像の濃度スキャンにより確認した。
【図2】図2は、患者127に関する追加検査の結果を示す図である。図2Aは、絨毛リンパ球を示す末梢血ライト染色の顕微鏡写真である。図2Bは、CD11c+、WA+B細胞集団を示すフローサイトメトリーヒストグラムである。図2Cおよび図2Dは、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識抗WA Xid(C)およびフィコエリトリン(PE)標識抗CD11c(D)を用いて二重染色したCD11C単離細胞を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
米国には約400万人のC型肝炎ウイルス(HCV)感染患者がおり、世界中では1億7000万人を超える感染患者がいる。C型肝炎ウイルスは、フラビウイルス科に属する、小さく(50〜65nmのサイズ)、エンベロープのある陽性センス一本鎖リボ核酸(RNA)ウイルスである。C型肝炎ウイルス粒子は、タンパク質の二十面体保護シェルに取り囲まれ、さらに細胞由来の脂質(脂肪)エンベロープに被覆されている遺伝物質(RNA)のコアからなる。2つのウイルスエンベロープ糖タンパク質であるE1およびE2が脂質エンベロープの中に埋め込まれている。C型肝炎ウイルスには6つの主要な遺伝子型があり、例えば遺伝子型1、遺伝子型2など数字で示される。
【0016】
HCVは、血液間接触、例えば注射薬使用(注射針共有)、汚染血液製剤および性感染を介して伝染し、肝臓を冒す感染症であるC型肝炎としてヒトに発現する。大部分の人々は、初期感染後に、たとえあるにしても、わずかな症候しか示さないが、ウイルスは、感染者の約85%で肝臓に残存する。いったん成立すると、慢性感染症は、肝瘢痕化(繊維症)および高度な瘢痕化(肝硬変)に進行する恐れがあり、これは一般には長年月を経て明らかになる。ある場合には、肝硬変の患者は、肝不全、または肝癌を含む肝硬変の他の合併症を発症する。肝硬変または肝癌を発症する患者は肝移植が必要になることがあるが、C型肝炎ウイルスは、移植後に例外なく再発する。
【0017】
急性C型肝炎はHCV感染後の最初の6か月を指す。HCV感染者の60%〜70%では、急性期は無症候性である。急性期症候を経験する少数派の患者では、症候は一般に軽度で非特定的であり、C型肝炎の特定診断が下されることはめったにない。急性C型肝炎感染の症候には、食欲減退、疲労、腹痛、黄疸、そう痒およびインフルエンザ様症候が含まれる。
【0018】
C型肝炎ウイルスは、通常、感染後1〜3週以内の血液中に、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって検出することができ、ウイルスに対する抗体は、一般に、感染の3〜15週間以内に検出することができる。肝酵素(アラニントランスアミナーゼ(ALT)およびアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST))における正規化および血漿HCV−RNAクリアランス(自然なウイルスクリアランスとして知られる)によって示されるように、自然なウイルスクリアランス率は極めて変動しやすく、HCV感染個体の10〜60%(Caruntu FA and Benea L,2006 J Gastrointestin Liver Dis,15(3):249−256)が、急性期にその体内からウイルスを排除する。しかしながら、持続感染が一般的であり、大部分の患者は慢性C型肝炎、すなわち6か月を超えて持続する感染を発症する(Villano,et al.1999 Hepatology,29(3):908−914)。
【0019】
慢性C型肝炎は、多くの場合、無症候性(症候なし)であり、大抵偶然に発見される。慢性C型肝炎の自然経過は、個体ごとに相当変動する。ほとんどすべてのHCV感染者は、肝生検で炎症の証拠を示すが、肝瘢痕化(繊維症)の進行速度は、個体間で顕著に変動する。HCV疾患の進行速度に影響を及ぼすと報告されている要因としては、年齢(疾患進行速度の増加に関連する)、性別(男性は女性よりの迅速な疾患進行を示す)、アルコール消費(疾患進行速度の増加に関連する)、HIV同時感染(疾患進行速度の顕著な増加に関連する)および脂肪肝(肝細胞における脂肪の存在は、疾患進行速度の増加に関連する)が挙げられる。
【0020】
肝臓の実質的な瘢痕化が起こるまで、典型的には、肝疾患を具体的に示唆する症候はない。しかしながら、C型肝炎は全身性疾患であり、患者は、高度な肝疾患の発症に先立って、無症候から多くの症候がある病気に及ぶ広範な臨床症状を経験し得る。慢性C型肝炎に関連した一般的な徴候および症候としては、疲労、インフルエンザ様症候、関節痛、そう痒、睡眠障害、食欲変化、悪心およびうつ病が挙げられる。
【0021】
いったん慢性C型肝炎が肝硬変に進行すると、肝機能低下または肝循環の圧上昇すなわち門脈圧亢進症として知られる症状のいずれかに一般に起因する徴候および症候が出現することがある。肝硬変の起こり得る徴候および症候としては、腹水(腹部における体液の蓄積)、挫傷および出血の傾向、静脈瘤(特に胃および食道における拡張静脈)、黄疸、および健常肝臓により通常排除されるアンモニアおよび他の物質が蓄積することによる、肝性脳症として知られる認知障害症候群が挙げられる。
【0022】
持続性HCV感染は、医薬品、例えばペグインターフェロン、リバビリンを用いて処置することができる。感染者の大多数は、その疾患の急性期にまったく症候を経験しないので、「C型肝炎」の診断が急性期に下されることはめったにない。急性期症候を経験する人が、医学的配慮を求めるほど病的であることはめったにない。慢性期C型肝炎の診断も、高度な肝疾患(初期感染から数十年後まで起こることがない)が発症するまで症候特異性がない故に、挑戦しがいのある課題である。HCVワクチンは現在開発中であるが、HCVに対するワクチンはまだ存在しない。
【0023】
C型肝炎の診断は、HCVに対する抗体を検出するために使用する血清学的血液検査から始まる。抗HCV抗体は、曝露後15週以内に患者の約80%に、曝露後5か月以内に患者の90%超に、そして曝露後6か月以内に患者の97%超に検出することができる。全体として、HCV抗体検査はC型肝炎ウイルスへの曝露に対して高い陽性的中率を示すが、まだ抗体発現(セロコンバージョン)していない患者、または信頼性のある検出には不十分な抗体レベルしかない患者を見逃す可能性がある。
【0024】
HCV感染のまれな症状は、II型クリオグロブリン血症に関連した全身性血管炎(クリオグロブリン血症性血管炎)である。クリオグロブリン血症は、クリオグロブリンと呼ばれる血液中の異常タンパク質を原因とする血液疾患であり、クリオグロブリンは、血液が冷却されると沈殿または凝集し、再度加温されると溶解する。これらのタンパク質は、小血管および中血管の中で沈着することがあり、関節、筋肉および器官への血流が制限されることがある。クリオグロブリン血症は、その原因が完全に理解されているわけではないが、自己免疫疾患(器官に沈着し、炎症を引き起こす複合体を形成する抗体を生成する体内免疫系が原因となる)であると考えられている。原因が不明であったので、本態性混合型クリオグロブリン血症と以前呼ばれたクリオグロブリン血症の大多数は、現在C型肝炎感染が原因であると知られている。
【0025】
免疫グロブリンから構成されるクリオグロブリン血症(cryglobulinemia)は3タイプ(I型、II型およびII型)ある。I型は単一クローン性免疫グロブリンからなる。II型およびIII型は、多クローン性免疫グロブリンG(IgG)および免疫グロブリンM(IgM)からなるので、「混合型クリオグロブリン」と名付けられている。II型では、IgMは単一クローン性であり、III型では、IgMは多クローン性である。両型において、IgMには通常リウマチ因子活性がある。リウマチ因子は、慢性関節リウマチ(関節の炎症を特徴とする慢性自己免疫性疾患)罹患者の血液中に見出される抗体である。クリオグロブリン血症に関連した最も一般的な症候および疾患としては、血管炎、腎(renal)(腎(kidney))疾患、関節痛および関節炎、そう痒、疲労、疼痛、リンパ節腫脹、末梢神経障害、胃痛および/または出血性疾患が挙げられる。
【0026】
クリオグロブリン型、基礎疾患および症候重症度に処置は依存する。自己免疫性疾患または本態性クリオグロブリン血症に関連したより広範な血管炎は、プレドニゾン、シクロホスファミドまたはその両方に応答する可能性がある。C型肝炎に関連したクリオグロブリン血症の最も有効な処置はまだ決定されていないが、プレドニゾンの短期使用後にインターフェロンαを6か月使用すると、臨床的改善および肝機能検査改善がもたらされる。しかし、インターフェロンα処置が終了すると、多くの場合、肝疾患および血管炎が再燃する。
【0027】
II型クリオグロブリン血症は、多クローン性免疫グロブリンG(IgG)および単一クローン性IgMリウマチ因子(mRF)からなり、これらは、抗体のFc部分に結合して、疾患進行に寄与する免疫複合体を形成する。II型クリオグロブリン血症(クリオグロブリン血症性血管炎)に関連した全身性血管炎は、患者の5〜10%でB細胞悪性腫瘍に移行する増殖性B細胞疾患である。mRF(Casato M,et al.1997 Blood,90:3865−3873)は、生殖細胞遺伝子にコードされているので(Kunkel HG,et al.1973 J Exp Med,37:331−42)、その80パーセントがユニークであり、HCV感染患者に限定される、「WA」と名付けられた抗体結合部位交差イディオタイプ(Xid)(Agnello V and Barnes JL,1986 J Exp Med,164:1809−14)を有する。免疫グロブリン可変領域は「イディオタイプ」と名付けられた抗原決定基を含有し、これは血清学的手法(Mackworth−Young,et al.1987 J Clin Invest,79:572−581)により認識することができる。ヒト単一クローン性リウマチ因子(mRF)の中の主要な交差イディオタイプであるWA交差イディオタイプ(Xid)は、抗原結合部位に位置する、H鎖およびL鎖の両方を含む立体的抗原決定基である(Kunkel HG,et al.1973 J Exp Med,137:331;Agnello V and JL Barnes,1986 J Exp Med,164:1809)。
【0028】
WA交差イディオタイプ(Xid)を有する単一クローン性リウマチ因子が、HCV感染患者における大部分のクリオグロブリン血症性血管炎の原因である。HCVは、II型クリオグロブリンにおいて濃縮され(Agnello V,et al.1992 N Engl J Med,327:1490−1495)、抗ウイルス治療が、ウイルス血症の減退に加えて、クリオグロブリン血症の減退およびWA mRFを生成するWA B細胞を誘導するので、WA mRFの生成はウイルスにより促進される(Mazzaro C,et al.1996 Cancer,77:2604−13;Casato M.,et al.2002 Blood,99:2259−61;Hermine,et al.2002 N Engl J Med,347:89−94)。
【0029】
クリオグロブリン血症性血管炎の有病率は、南ヨーロッパおよび米国において、それぞれHCV感染患者の2〜5%および1%未満と見積もられている(Casato M and Agnello V,2002 Mixed cryoglobulinemia syndrome secondary to hepatitis C virus infection.In:NORD Guide to Rare Disorders.3rd ed National Organization for Rare Disorders,editor;Lippincott Williams & Wilkins:Philadelphia,PA:5)。II型クリオグロブリン血症患者がB細胞悪性腫瘍を発症するリスクは、HCV感染集団全体に比べてはるかに高くなる。クリオグロブリン血症性血管炎(cryoglobulimemic vasculitis)患者は、その5〜10パーセントがB細胞悪性腫瘍を発症するが(Invernizzi F,et al.1983 Acta haematol,70:73−82)、一方HCV感染集団全体は、その0.2〜0.8パーセント(Ohsawa M,et al.1999 J Cancer,80:237−239;Giordano TP,et al.2007 JAMA,297:2011−17)がB細胞悪性腫瘍を発症する。さらに、B細胞非ホジキンリンパ腫の約50%が、WA B細胞から発生すると考えられる(Knight G and Agnello V,2001 Blood,97:3319−21;Knight GB.Gao L,Grangnani L,Elfahal M,De rosa FG,Gordon FD,Agnello V.Detectection of WA B cells in HCV infection:A potential prognostic marker for cryoglobulinemic vasculitits and B cell malignancies.Arth Rheum 2010;62:2152)。
【0030】
HCV感染患者の80パーセントは症候性疾患を発症しない。そのため、これらの患者のわずかなパーセントのみが抗ウイルス治療で処置される。クリオグロブリン血症性血管炎の発症に必要なHCV感染期間については、十分な記載がないが、少なくとも10年と思われる(Monti G,et al.1995 QJM,88:115−16)。したがって、予後マーカーが発見されない限り、これらの患者が、症候性になる前に処置される可能性は低い。以下に詳細に説明されるように、WA B細胞はII型クリオグロブリン血症および/またはB細胞リンパ腫のマーカーになり、早期診断を可能にする。クリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍の罹患率および死亡率の増加を防止することに加えて、これらの患者が血管炎の発現に際して治療に対し大きな抵抗を示すので(Agnello V,2000 J Rheumatol,27:2065−7)、症候発現前の患者の早期発見および処置が有益となり得る。
【0031】
以下に詳細に説明するように、WA B細胞はB細胞クローン拡大(BCE)の分子分析によって無症候性HCV感染患者に検出された。B細胞増殖の早期検出は、血液中の正常なB細胞レパートリーを構成するIg遺伝子再編成を検出するための逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によって確定される。このようにして、例えばII型クリオグロブリン血症またはB細胞悪性腫瘍におけるB細胞クローンの過剰発現などのB細胞クローンの拡大が検出される。WA B細胞クローン拡大(BCE)は、WA mRFをコードするIg遺伝子に対して確立された広範な基準を利用するBCEの配列分析によって同定される(Knight GB,et al.1993 J Exp Med,178:1903−11)。
【実施例】
【0032】
実施例1 無症候性HCV感染患者のWA B細胞は、クリオグロブリン血症性血管炎および関連B細胞悪性腫瘍の発症マーカーである
手短に言えば、無症候性HCV感染患者、HCV陰性患者、ならびにWA mRFが陰性および陽性のクリオグロブリン血症性血管炎の対照患者を検査した。BCEを単離して配列決定し、WA BCEを同定した。以下に詳細に説明するように、BCEは、クリオグロブリン血症性血管炎の陽性対照患者すべてに検出されたが、HCV感染患者のみがWA BCEを有していた。33人の対照HCV陰性患者の中でBCEを有する者はいなかった。WA BCEは、無症候性HCV患者55人中4人(7.4%)に検出され、HCV感染患者のうち、III型クリオグロブリン血症および血清RFを有する患者においてそれぞれ14人中0人および37人中5人に検出された。WA BCEを有する1人の患者は、絨毛リンパ球を有する無症候性脾リンパ腫に罹患していたが、そのリンパ球はWA B細胞であった。
【0033】
無症候性HCV感染患者、HCV陰性患者、ならびにWA mRFが陰性および陽性のクリオグロブリン血症性血管炎の対照患者を検査した。B細胞クローン分析用の血液サンプルを、Lahey Clinic(Burlington,MA)の消化器病クリニックの6か月間にわたる研究に同意した、HCV感染およびHCV非感染の無症候性治療継続患者から入手した。HCV感染患者は抗ウイルス処置も化学療法も受けていなかった。クリオグロブリン血症性血管炎またはIII型クリオグロブリン血症の患者を、Lahey Clinicの様々な部門から募集した。RFを有するがクリオグロブリン血症ではない無症候性HCV感染患者の血液検体を、Veterans Affairs Medical Center(VAMC;Bedford,MA)のHepatitis Clinicで実施した2年間の経過観察研究で入手した。患者の個体群統計学的特徴、クリオグロブリン血症性血管炎または他の肝外疾患症状の存在および肝硬変の存在を判定するために、医療記録を調査した。
【0034】
クリオグロブリン血症性血管炎の診断には、触知可能紫斑病、末梢神経障害、腎疾患、または生検により証明される中血管炎のうちの1つが存在する必要があった。腎疾患基準には、500mg/die超のタンパク尿、ネフローゼ症候群、糸球体腎炎、急性または慢性腎不全、1.5mg/dl超の血清クレアチニンのうちの1つが存在することが含まれる。他の疾患(例えば真性糖尿病または全身性エリテマトーデス)による腎疾患は除外した。末梢神経障害は、電気生理学的パラメーターにより確認して、または確認することなく神経学者が診断した。真性糖尿病またはアルコール中毒症などの他の疾患に付随する末梢神経障害は除外した。HCV抗体、HCVRNAの検出および定量、ならびにクリオグロブリンの単離、定量および分類は、以前の記載(De Rosa FG and Agnello V,2009 J Rheumatol,36:1953)のように実施した。病因が不明のHCV陰性クリオグロブリン血症性血管炎の患者については、血清およびクリオグロブリンのHCV抗体およびHCV RNAを繰り返し検査し、HCV感染がないことを確認した。アラニンアミノトランスフェラーゼ(Alt、正常範囲、7〜40IU/ml)およびリウマチ因子(RF、正常範囲、20IU/ml未満)の検査は、臨床検査室で実施した。末梢血単核細胞(PBMC)は、日常的なフィコール密度勾配遠心分離によりヘパリン添加血から単離した。
【0035】
患者127からの検体について追加分析を実施した。血液検査およびリンパ球免疫表現型検査を臨床検査室で実施した。CD11cリンパ球(絨毛リンパ球に対する表現型マーカー(Liu X,et al.2003 J Huazhong Univ Sci Technolog Med Sci,23:236−8)を以下のように単離した。PBMCをマウス抗CD11c(Beckman Coulter;Fullerton,CA)と共に4℃で30分間インキュベートして洗浄し、Dynabeadsヤギ抗マウスIg磁気ビーズ(Invitrogen Corp;Carlsbad,CA)と共に4℃で30分間インキュベートした。CD11c細胞を磁石により捕捉して洗浄し、37℃で一晩培養して付着磁気ビーズを解離させた。インキュベーション後に、磁石を用いて細胞からビーズを除去した。単離した細胞を、フルオレセイン(fluourocein)イソチオシアネート(FITC)標識抗WA mRFおよびフィコエリトリン(PE)標識抗CD11cを用いて染色し、蛍光顕微鏡およびフローサイトメトリーにより検査した。
【0036】
BCEの検出および分析
免疫グロブリン重鎖遺伝子座はB細胞分化の間に再編成されて、重鎖可変部の第3相補性決定領域(CDR3)を構成するV、DおよびJ領域が並置される。再編成過程の間に、ヌクレオチドの付加および欠失が、V−D(N)およびD−J(P)の結合部で起こる。CDR3領域重鎖遺伝子の多様性は、この領域を挟むプライマーを使用するRT−PCRを実施して、mRNAで評価した。得られた生成物はシークエンスゲル上で分離され、正常なレパートリーでは、CDR3の平均長のまわりで、3ヌクレオチドすなわち1コドンずつ異なる断片長の正規分布を示す。特定のB細胞クローンの単一クローン拡大の場合には、II型クリオグロブリン血症において起こり得るように、シークエンスゲル上のあるバンドが、過剰発現しているように見える可能性がある。観察されたクローン拡大バンドを、シークエンスゲルから切り取り、直接サイクルシークエンシングに供した。配列をGenBank中の既知のIg配列と比較した。
【0037】
WA mRFは、主に、IGKV3−20(Kv325)軽鎖遺伝子およびIGHV1−69を含むV1遺伝子および関連生殖細胞遺伝子の生成物であるが、V3遺伝子(IGHV3−7)が使用されることもある(Knight GB,et al.1993 J Exp Med,178:1903−11)。D領域配列の特徴は2タイプある。コンセンサス1(配列番号1)は、グルタミン酸で始まりプロリンで終わる、IGHV1−69遺伝子と通常はJ4とに関連した9〜11個のアミノ酸領域であるが、IGHD4−17遺伝子に由来すると考えられる(Knight GB,et al.1993 J Exp Med,178:1903−11)。コンセンサス2(配列番号2)は、最初は、WA RFを含有するVH3−7、M7中に見出され(Pinheiro G,et al.1993 Genbank受託番号,UO3400およびUO3401)、その後、J3およびIGKV3−15(kv328)と結合した他のV3−7 RFに関連して見出された(Borretzen M,et al.1995 J Immunol,155:3630−7)。
【0038】
全細胞RNAは、TRIzol(登録商標)(Life Technologies)またはRneasy RNA抽出キット(QIAGEN)を用いる抽出により末梢血単核球細胞(PBMC)から単離した。RT−PCRは、以前の記載どおりに実施した(Knight GB,et al.1993 J Exp Med,178:1903−1911)。CDR3多様性を検討するための最初のフィンガープリントスクリーニングは、FW3の保存領域およびμ−定常領域由来のプライマーを使用して実施した。VH−D−JHのPCR生成物は、定常領域プライマーを用い、VHリーダーから上流のオリゴヌクレオチドおよびFW1領域を使用して得た。VK−JK断片は、VKリーダーから上流のオリゴヌクレオチドおよびK定常領域から下流のプライマーを使用して増幅した。各RT−PCRにおける一方のプライマーを、アンプリコンの単離用にビオチンで標識するか、またはABI377自動DNAシークエンサーおよびGeneScan(登録商標)ソフトウェアを使用する、オリゴクローナルバンドの迅速スクリーニング用に6−FAMで標識した。PCR生成物を、6%シークエンスゲル上で電気泳動的に分離して、毛管転写(capillary transfer)によりTropilon−plus膜(Tropix)に転写し、化学発光により検出した。ケミルミグラフ上で観察されたクローン拡大バンドをシークエンスゲルから切り取り精製した。単一クローン拡大Igの遺伝子は、Big Dyeターミネーターまたはビオチン化学発光(Phototope−star,New England Biolabs)を用い、ABI377自動DNAシークエンサーを使用する直接サイクルシークエンシングに供した。得られたIg遺伝子の推定アミノ酸配列およびGenBankデータベース中のIg配列を、NCBIのBLASTサーバを使用して比較分析した。
【0039】
統計分析
個体群統計学的特徴および臨床的特徴を各群について要約し、度数(性別)ならびに平均および標準偏差(連続変数)として提示した。BCEおよびWA BCEを有する患者数も表にし、各拡大型の保有率を、フィッシャー直接検定を使用して、目的のキー群間で比較した。0.05以下のp値を、群間の保有率の差が有意であると結論するための閾値として使用した。
【0040】
個体群統計学的データおよび検査データを、下記の表1に要約する。BCEの方法論を、クリオグロブリン血症性血管炎患者10人に由来する陽性および陰性の対照検体を使用して試験した。陽性および陰性の対照群は、6人のHCV感染患者(HCV+、II型)および4人のHCV陰性患者(HCV−、II型)からそれぞれなっていた(表2)。BCEは、クリオグロブリン血症性血管炎患者について予想されるように、両群のすべての患者で見出された。WA BCEは、検出したBCEの配列分析により同定した(図1、表3)。HCV+、II型群の6人の患者のうちの4人がWA BCEを有していた。この発見は、クリオグロブリン血症性血管炎を罹患したHCV感染患者におけるWA mRFの以前に報告された保有率と一致していた(Casato M,et al.1997 Blood,90:3865−3873)。HCV−、II型群の中にはWA BCEを有する者はおらず、WA mRFがHCV感染患者に限定されることが確認された。



【0041】
無症候性HCV感染患者にWA BCEを検出することができるか否かを明らかにするために、55人の無症候性HCV感染患者(HCV+)群および33人のHCV陰性患者(HCV−)群を検査した。BCEは、HCV+群において9人(14%)の患者に検出された。この群の4人(7.4%)の患者がWA BCEを有していた。クリオグロブリンもRFもこれらの患者の血清には検出されなかった。医療記録の調査により、クリオグロブリン血症性血管炎を有する患者も他の肝外症候を有する患者もいないことが確認された。非WA BCEを有する5人の患者のうち、1人の患者はクリオグロブリンもRFも有しておらず、1人の患者は、クリオグロブリン血症性血管炎に関連していないRF陰性II型クリオグロブリン血症を罹患しており(De Rosa FG and Agnello V,2009 J Rheumatol,36:1953)、3人の患者は血清RFが弱い陽性(21.7、23.7および40.9IU/ml)であった。HCV陰性群では、BCEを有する患者はいなかった。
【0042】
WA BCEを有する患者の中に症候性の者はいなかったが、1人の患者(患者127、表3)では、絨毛リンパ球が末梢血中に存在し、リンパ腫の臨床的徴候も症候もなかったが、Bリンパ球表現型が脾リンパ腫と一致していた。免疫表現型検査により、B細胞単一クローン集団がIgM+、K+、IgD−、CD19+、CD5−、CD10−、CD23−、CD11c+、WA+であることが示された。絨毛リンパ球は、末梢リンパ球の5%を構成していた。絨毛リンパ球はCD11cに関連しているので、CD11cリンパ球を患者(患者127)の末梢リンパ球から単離した。フローサイトメトリーおよび蛍光顕微鏡検査により、絨毛リンパ球と思われるWA+、CD11c+B細胞の単一クローン集団が実証された。この発見は、絨毛リンパ球の一部がWA B細胞である可能性を示唆した。
【0043】
核酸配列解析は27個のBCEのうちの22個について実施した(表3)。混入配列のために5個のBCEは分析することができなかった。22個のBCEのうちの13個はWA配列を有していた。10個はコンセンサス1のD領域配列を有し、3個はコンセンサス2配列を有していた。後者のうちの2個はIGHV3−7ではなくIGHV1−69で再結合されていた。1個のBCEはIGKV3−15軽鎖配列を有し、残りは、WA mRFで最も一般的に見出される軽鎖配列であるIGKV3−20を有していた。WA以外の配列が7個あった。7個すべてがD領域遺伝子を除いてWAに類似したIg遺伝子を有していた。既知RFのいずれにも、HCV感染において同定された唯一の他の単一クローン性タンパク質である抗HCV E2エンベロープタンパク質E2(Quinn ER,et al.2001 Blood,98:3745−49)にも相同性がなかった。4個は、GenBankの既知Ig配列と有意なD領域相同性を示さず、1個は、記憶B細胞で見出されたIg(Stein K,et al.1999 Blood,94:2800−8)と弱い相同性を示し、2個は、胎児Ig(Zemlin M,et al.2001 Blood,97:1511−13)と有意な相同性を示した。
【0044】
HCV感染期間の延長に伴い、多クローン性RFのIII型クリオグロブリン(多クローン性IgGおよび多クローン性IgM RF)がII型クリオグロブリンに移行することによりmRFが生じると仮定された(Lunel F,et al.1994 Gastroenterology,106:1291−300;Schifferli JA,et al.1995 Adv Nephrol Necker Hosp,24:107−29)。この「移行」仮説は、RFもクリオグロブリン血症もない患者と比較して、RFを有する患者およびIII型クリオグロブリン血症の患者においてWA BCEの保有率が増加することを予測する。
【0045】
WA BCEの保有率がRFを有するHCV感染患者の間で増加するか否かを明らかにするために、血液中にRFを有するが、クリオグロブリン血症(HCV+、RF)ではない37人の無症候性HCV感染患者群を検査した(表2)。この群の7人の患者(18.9%)がBCEを有し、5人(13.5%)がWA BCEを有していた。HCV+、RF群におけるBCEおよびWA BCEの保有率は、HCV+群よりも有意に高いものではなかった(BCEおよびWA BCEについて、それぞれp=0.78およびp=0.48)。
【0046】
BCEおよびWA BCEの保有率が、III型クリオグロブリン血症(HCV+、III型)に罹患したHCV感染患者の間で増加したか否かを明らかにするために、III型クリオグロブリンを有する14人の患者を検査した(表2)。1人のみがBCE(非WA BCE)を有していた。HCV+、III型群におけるBCEおよびWA BCEの保有率は、HCV+群よりも有意に高いものではなかった(BCEおよびWA B細胞について、それぞれp=0.67およびp=0.58)。
【0047】
無症候性HCV感染患者においてWA BCEが検出されたことにより、WA B細胞が、クリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍の発症マーカーになることが示される。上記のように、この主張を支持して、WA B細胞マーカーが、絨毛リンパ球を有する脾リンパ腫と一致する単一クローン性B細胞集団を有する患者(患者127)に検出された。この患者が臨床的脾リンパ腫に進行したと仮定すると、偶然にこのような患者を発見する確率は、以下の有病率、すなわち米国のHCV感染(約1%)、HCV感染におけるWA BCE保有率(7.5%)、非ホジキンズリンパ腫(NHL)の有病率(0.1%)および脾リンパ腫の有病率(NHLの15%未満)が独立している場合、約1000万分の1になる。さらに、血液中の絨毛リンパ球がWA B細胞であったので、この患者は情報価値があった。絨毛リンパ球を伴う脾リンパ腫は、II型クリオグロブリン血症(cryoblobulinemia)およびHCV感染に関連していると仮定される(Saadoun D,et al.2005 Blood,105:74−6)。上に提示した結果は、HCV感染患者における脾リンパ腫の一部にある絨毛リンパ球がWA B細胞であることを示す。
【0048】
WA BCEは、HCV感染患者に検出されたBCEの約半分を占めた。非WA BCEの配列は同定しなかった。これらの配列は、既知RFのいずれにも有意なD領域相同性を示さなかったので、RFとは無関係であった。さらに、これらの配列は、HCV感染において同定された、WA mRF以外の唯一の単一クローン性タンパク質である抗HCVエンベロープタンパク質E2(Quinn ER,et al.2001 Blood,98:3745−49)とも無関係であった。D領域相同性はなかったが、非WA BCEにおける他のIg遺伝子はすべて、WA遺伝子に類似していた。WA mRFをコードするIg遺伝子は、自然宿主防御免疫グロブリン応答で利用される。これらの遺伝子は、胎児およびB細胞記憶Igレパートリー中にも見出され(Klein U,et al.1997 Blood,89:1288−98)、このことは、非WA BCEのうちの3個で見出されたこれらの免疫グロブリンに対する相同性を説明することができる。HCV感染におけるBCEの原因に関する最も可能性の高い説明は、この感染において、この疾患の特徴である長期間の感染に伴い、刺激され拡大する多種多様な自然免疫グロブリンが生成されることである。
【0049】
これまでの研究では、BCEを有するHCV感染患者すべての血清中にRFが存在したため、著者は、このクローンがRFを生成したと結論した(Franzin F,et al.1995 Br J Haematol,90:548−52)。この研究では、RFを有さない患者の血清中にBCEを検出したことおよびRFを有する患者においてRFに対して有意な相同性がないBCEを検出したことによって、その結論に反証する。さらに、同研究では、III型クリオグロブリンを有するHCV感染患者にBCEを検出しなかった。後者の発見は、この研究の発見と共に、II型クリオグロブリンがIII型クリオグロブリンから生じるという広く保持された考えに反する証拠を提供する。
【0050】
現在、HCV感染患者の約2%が抗ウイルス治療により処置される(Volk ML,et al.2009 Hepatol,50:1750−55)。クリオグロブリン血症性血管炎またはB細胞悪性腫瘍を発症する患者が抗ウイルス治療を受ける確率は、それぞれ500分の1未満および5000分の1未満である。自動ハイスループットシークエンサーにより、本明細書に記載の方法論の臨床応用が実行可能になる。例えば、HCVの日常的な遺伝子型決定は、コスト効率のよいハイスループット配列分析により実施される。さらに、抗WA Xid抗体を使用して、WA Xidを検出する方法(上記に患者127について記載しているように)は、より簡便で臨床適用可能な方法論を提供する。
【0051】
この研究では、HCV感染患者に検出されたBCEの56%がWA BCEであり、これは、HCV感染患者におけるWA B細胞悪性腫瘍の有病率の妥当な評価となる可能性がある。現在、WA XidのみがB細胞悪性腫瘍中に同定され、HCV感染に関連したNHLの25%がWA B細胞であった。HCV感染に関連した、全部でなければ大部分のWallenstromのマクログロブリン血症および脾リンパ腫がWA B細胞に由来する可能性は高い(Agnello V,et al.1992 N Engl J Med,327:1490−5;Casato M,et al.2002 Blood,99:2259−61)。大集団についてアウトカム研究が実施されると、上記のXid分析の方法により、B細胞悪性腫瘍に進行する他のBCEが同定される。
【0052】
本明細書に記載の方法は、BCEを有する無症候性HCV患者の同定および処置を可能にする。本明細書に記載の方法はまた、WA B細胞および他のB細胞増殖の早期検出も可能にし、この早期検出はHCV感染患者におけるクリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍の予防および処置に有用である。これらの患者のB細胞悪性腫瘍におけるXidの同定は、代替治療法も提供する。例えば単一クローン性(mAb)抗Xidは治療薬として使用され、例えば抗WA mAbは抗ウイルス治療に反応しないWA B細胞悪性腫瘍を処置するために使用される。
【0053】
他の実施形態
本発明はその詳細な説明と共に記載されているが、前述の説明は、例示することを意図するものであり、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の範囲を限定することを意図しない。他の態様、利点および修正は以下の特許請求の範囲内にある。
【0054】
本明細書に引用した特許および科学文献は、当業者に利用可能な知識を定める。本明細書に引用した米国特許および公開または未公開の米国特許出願はすべて、参照によって組み込むものとする。本明細書に引用した公開外国特許および特許出願はすべて、参照によって組み込むものとする。本明細書に引用の受託番号により示したGenbankおよびNCBIの寄託は、参照によって組み込むものとする。本明細書に引用した他の出版された参考文献、文書、論文および科学文献は、参照によって組み込むものとする。
【0055】
本発明をその好ましい実施形態に関連して具体的に示し、説明してきたが、添付の特許請求の範囲に包含される本発明の範囲から逸脱することなく、その形態および細部を様々に変更することができることを、当業者は理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C型肝炎ウイルス(HCV)に関連したクリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍の発症リスクがある対象を同定する方法であって、
HCVに感染した対象から検体を準備するステップと、
前記検体においてWA交差イディオタイプ(Xid)+B細胞を検出するステップと、
それによって、HCVに関連したクリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍の発症リスクがある対象を同定するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記WA Xid+B細胞が、クローン拡大B細胞集団に由来する免疫グロブリン核酸配列を同定することにより検出され、前記免疫グロブリン核酸配列が、WA Xidに関連していることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記WA Xid+B細胞が、単離した抗WA Xid抗体を用いて検出されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記対象が、早期に同定されることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法において、前記早期に同定される対象が、初期HCV感染の後であるが、クリオグロブリン血症性血管炎またはB細胞リンパ腫に関連した症候の発現に先立って同定されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記検体が、全血を含む体液であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項2に記載の方法において、WA Xidに関連した前記免疫グロブリン核酸配列が、IgH V1−69もしくはIgHV V3−7または関連生殖細胞系列遺伝子、VK325もしくはVK328、JH4もしくはJH3、Jk1、および配列番号1(コンセンサス1)もしくは配列番号2(コンセンサス2)を含むD領域コンセンサス配列を含むことを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、前記配列番号1(コンセンサス1)が、アミノ酸配列EG−−−−−−−NPを含むことを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項7に記載の方法において、前記配列番号2(コンセンサス2)が、アミノ酸配列GDYYD−S−G−YIDAを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項3に記載の方法において、前記単離した抗WA Xid抗体が、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識およびフィコエリトリン(PE)標識からなる群から選択される標識を結合していることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項3に記載の方法において、前記WA Xid+B細胞が、フローサイトメトリー分析により検出されることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項3に記載の方法において、前記方法が、抗CD11c抗体を用いて前記検体においてCD11C細胞を検出することをさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項13】
C型肝炎ウイルス感染(HCV)に関連したクリオグロブリン血症性血管炎またはB細胞悪性腫瘍の発症リスクがある対象を同定する方法であって、
HCV感染患者のクローン拡大B細胞から核酸検体を準備するステップと、
前記検体において、WA Xidに関連した免疫グロブリン核酸配列を含む配列を検出するステップであって、前記配列が、IgH V1−69もしくはIgHV V3−7または関連生殖細胞系列遺伝子、VK325もしくはVK328、JH4もしくはJH3、Jk1、および配列番号1(コンセンサス1)もしくは配列番号2(コンセンサス2)を含むD領域コンセンサス配列を含む検出するステップと、
前記WA Xid配列および前記配列番号1(コンセンサス1)または配列番号2(コンセンサス2)が前記HCV感染患者由来の核酸中に存在する場合に、HCV感染に関連したクリオグロブリン血症性血管炎またはB細胞悪性腫瘍の発症を予後診断するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項14】
対象におけるHCVに関連したクリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍を処置する方法であって、
C型肝炎ウイルス(HCV)に感染した対象から検体を準備するステップと、
WA Xid+B細胞が前記検体において検出される場合に、前記対象に抗WA抗体を投与するステップと、
それによって、前記対象における前記クリオグロブリン血症性血管炎またはB細胞悪性腫瘍を処置するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、前記患者が、クリオグロブリン血症性血管炎の臨床症候もB細胞悪性腫瘍の臨床症候も有さないことを特徴とする方法。
【請求項16】
C型肝炎ウイルス(HCV)に関連した悪性腫瘍の発症リスクがある対象を同定する方法であって、
HCVに感染した対象から検体を準備するステップと、
前記検体において非WA交差イディオタイプ陽性(非WA Xid+)B細胞を検出するステップと、
それによって、C型肝炎ウイルス(HCV)に関連した悪性腫瘍の発症リスクがある対象を同定するステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、前記非WA Xid+B細胞が、クローン拡大B細胞集団に由来する免疫グロブリン核酸配列を同定することにより検出され、前記免疫グロブリン核酸配列が、特定の非WA Xidに関連していることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法において、前記特定の非WA Xid+B細胞が、単離した抗非WA Xid抗体を用いて検出されることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法において、前記診断が、早期診断であることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、前記早期診断が、初期HCV感染の後であるが、B細胞悪性腫瘍に関連した徴候または症候の発現に先立ってなされることを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項16に記載の方法において、前記検体が、全血を含む体液であることを特徴とする方法。
【請求項22】
IgH V1−69もしくはIgH V3−7または関連生殖細胞系列遺伝子、VK325もしくはVK328、JH4もしくはJH3、Jk1、および配列番号1(コンセンサス1)もしくは配列番号2(コンセンサス2)を含む、WA Xidに関連した免疫グロブリン核酸配列の検出に基づいて、HCV感染に関連したクリオグロブリン血症性血管炎およびB細胞悪性腫瘍を予後診断するための第1プライマーおよび第2プライマーのセットならびに説明書を含むキットであって、第1プライマーおよび第2プライマーの前記セットが、Igをコードする転写物中の、相補性決定領域3(CDR3)配列を挟む第1プライマーおよび第2プライマー、VH−D−JH配列を挟む第1プライマーおよび第2プライマー、ならびにVK−JK配列を挟む第1プライマーおよび第2プライマーを含むことを特徴とする、キット。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【公表番号】特表2013−521497(P2013−521497A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−556133(P2012−556133)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【国際出願番号】PCT/US2011/026455
【国際公開番号】WO2011/109285
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(512222161)
【氏名又は名称原語表記】AGNELLO,Vincent
【Fターム(参考)】