HER2に対する結合親和性を有するポリペプチド
HER2に対する結合親和性を有し、ブドウ球菌プロテインA(SPA)のドメインに関連するポリペプチドであって、該ポリペプチドの配列は1〜約20の置換変異を有するSPAドメインの配列に相当する、ポリペプチドが提供される。ポリペプチドをコードする核酸、ならびに発現ベクターおよび核酸を発現するための宿主細胞も提供される。そのようなポリペプチドの薬剤としての使用、及びHER2を過剰発現する細胞へ該ポリペプチドに結合させた物質を誘導するためのターゲッティング剤としての使用が提供される。該ポリペプチドとHER2との結合を利用する方法および当該方法を実施するためのキットも提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト上皮細胞成長因子受容体2(以後、HER2と呼ぶ)と結合する新規のポリペプチドに関する。該ポリペプチドは、ブドウ球菌のプロテインA(SPA)のドメインに関連するものであって、該ポリペプチドの配列は少なくとも1つの置換変異を有するSPAドメインの配列に相当する。本発明は、このようなHER2結合ポリペプチドの薬剤としての使用に関し、より具体的には、HER2の過剰発現により特徴付けられる種類の癌の治療用薬剤を調製するための該ポリペプチドの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
Affibody(登録商標)分子
ブドウ球菌のプロテインA(SPA)のドメインBに由来するプロテインZに関連した分子(Nilsson B et al (1987) Protein Engineering 1, 107-133)が、このような分子の無作為化されたライブラリーから、種々の相互作用標的を用いて選択されている(例えばWO95/19374;WO00/63243;Nord K et al (1995) Prot Eng 8: 601-608; Nord K et al (1997) Nature Biotechnology 15, 772-777参照)。種々の標的分子を用いて、例えばNord K et al (1997、上述)に記載されているようなプロテインZ誘導体を選択する。この参考文献に記載された実験は、特定の治療またはバイオテクノロジーへの応用に用いるための十分に高い親和性を有する分子を得るという明確な目的をもった研究というよりはむしろ、所定の標的に対するプロテインZ誘導体を選択するという一般的な技法の原理の概要を記したものである。
【0003】
HER2および癌疾患におけるその役割
HER2癌原遺伝子は、HER2タンパク質または受容体として既知である185kD細胞表面受容体タンパク質の産生をコードする(Hynes NE et al (1994) Biochim Biophys Acta 1198: 165-184)。この遺伝子は、時として、neu、HER2/neuまたはc−erbB−2とも呼ばれる.neuは、エチルニトロソ尿素で処理され、この遺伝子の突然変異を示すラットで最初に発見されたものである(Shih C et al (1981) Nature 290: 261-264)。突然変異型のneuは、構成的な活性型受容体の産生を引き起こし、低コピー数で細胞を形質転換し得る強力な癌遺伝子を構成する(Hynes NE et al、上記を参照)。
【0004】
正常細胞は、組織特異的パターンで、その形質膜上に少量のHER2タンパク質を発現する。HER2に対する既知のリガンドは明らかにされていない。しかしながら、HER2は、HER1(上皮細胞成長因子受容体(EGFR))、HER3およびHER4とともに、これらの受容体に対するリガンドと複合してヘテロ二量体を形成することが示されている。このようなヘテロ二量体の形成は、細胞の外側から核に成長シグナルを伝達し、それにより正常細胞の成長および分裂の局面を制御する活性化HER2受容体をもたらす(Sundaresan S et al (1999) Curr Oncol Rep 1: 16-22)。
【0005】
腫瘍細胞では、DNA複製システムの誤りが単一染色体上の遺伝子の多重コピーの存在を生じ得るが、これは遺伝子増幅として既知の現象である。HER2遺伝子の増幅は、この遺伝子の転写増大をもたらす。これはHER2のmRNAレベルを上昇させ、同時にHER2タンパク質の合成を増大させ、これらの腫瘍細胞の表面におけるHER2タンパク質の過剰発現を引き起こす。この過剰発現は、隣接の正常細胞中に見出されるものと比べて10〜100倍高いHER2タンパク質レベルを生じ得る。これは次に、細胞分裂増大及びそれに付随した高速度の細胞成長を生じる。HER2遺伝子の増幅は、正常細胞の癌表現型への形質転換に関連づけられる(Hynes NE et al、上記を参照; Sundaresan S et
al、上記を参照)。
【0006】
HER2タンパク質の過剰発現はHER2のホモ二量体の形成を引き起こし、次いでこれは構成的に活性な受容体を生じると考えられている(Sliwkowski MX et al (1999) Semin Oncol 26 (4 Suppl 12): 60-70)。これらの条件下で、成長促進シグナルは、リガンドの存在なしに、細胞中に継続的に伝達され得る。その結果として、多数の細胞内シグナル伝達経路が活性化されるようになり、無秩序な細胞成長を生じ、そして場合によっては、発癌性の形質転換を生じる(Hynes NE et al、上記を参照)。したがって成長因子受容体により媒介されるシグナル伝達メカニズムは、細胞複製および腫瘍増殖を抑制するための重要な標的である。
【0007】
乳癌は、米国における女性の間で最も一般的な悪性疾患であり、192,200例の新規の症例が2001年に生じたと見積もられている(Greenlee R et al (2001) CA Cancer J Clin 51: 15-36)。全乳癌患者の約25%において、HER2遺伝子の、増幅に起因する過剰発現が認められる(Slamon DJ et al (1989) Science 244: 707-712)。このHER2タンパク質の過剰発現は、いくつかの否定的な予後変数、例えばエストロゲン受容体の陰性状態、高いS相画分、陽性の結節状態、変異型p53および核異型度と相関する(Sjogren S et al (1998) J Clin Oncol 16(2): 462-469)。Slamon等(上記参照)によれば、HER2遺伝子の増幅は、無病生存率の短縮、及び結節が陽性の患者の全生存率(overall survival)の短縮と強く相関することが見出された。
【0008】
これらの理由により、乳癌の病因および治療におけるHER2の役割をさらに研究することがこれまでの重要な目標であったし、依然としてそうである。HER2と相互作用する分子の同定は、この努力の一部を形成する。
【0009】
前臨床in vitro試験によって、HER2活性の抑制が腫瘍細胞の増殖に影響を及ぼし得るか否かを検査した。HER2タンパク質を過剰発現するSK−BR−3乳癌細胞を、いくつかあるネズミ抗HER2モノクローナル抗体のうちの1つである4D5を用で処理すると、対照のモノクローナル抗体での処理と比較して、腫瘍細胞の増殖が実際に抑制された。HER2を過剰発現するヒト乳癌および卵巣癌を保有する(異種移植片)マウスへの4D5の投与は、それらマウスの無腫瘍生存時間を延長した。同様の試験により、マウスにおけるヒト胃癌異種移植片の抗HER2モノクローナル抗体による増殖抑制が実証された(Pietras RJ et al (1994) Oncogene 9: 1829-1838)。
【0010】
抗体を用いて腫瘍細胞の表面上に豊富に存在するHER2タンパク質を抑制するためのアプローチの中で、一療法が近年市販されるようになってきた。したがってモノクローナル抗体4D5すなわちトラスツズマブが、ハーセプチン(Herceptin)(登録商標)の商品名でF Hoffman-La Roche および Genentechによりこの目的のために市場に出されている。
【0011】
HER2タンパク質の過剰発現により特徴付けられる癌に対する抗体療法により示される明らかな利点にもかかわらず、種々の因子が抗体効力を低減する潜在力を有するという事実が依然として存在する(例えばReilly RM et al (1995) Clin Pharmacokinet 28: 126-142参照)。これらの例としては以下のものが挙げられる。(1)大型の固形腫瘍中への又は脳のような生命維持領域中への抗体の浸透制限(2)血管透過性の低下による、標的部位への抗体の血管外浸出の減少(3)ターゲッティング作用を低下させる、抗体の正常組織との交差反応性および非特異的結合(4)腫瘍による不均一な取込みによる、処理されない帯域の発生(5)治療効果を低下させる注入された抗体の代謝の増大、ならびに(6)治療用抗体を不活性化する、HAMAおよびヒト抗ヒト抗体の急速な生成である。
【0012】
さらに、毒性作用が、癌に関する治療用抗体の開発における大きな障害であった(Carter P (2001)Nat Rev Cancer 1: 118-129; Goldenberg DM (2002) J Nucl Med 43: 693-713; Reichert JM (2002) Curr Opin Mol Ther 4: 110-118)。健常組織との交差反応性は、非結合(裸の)抗体に対する実質的な副作用を引き起こし得るが、この副作用は該抗体が毒素または放射性同位体と結合した際に増強されることがある。免疫介在性の合併症としては、肺への毒性作用による呼吸困難、偶発的な中枢および末梢神経系合併症、ならびに肝機能および腎機能の低下が挙げられる。時には、予期せぬ中毒性合併症、例えばHER−2ターゲッティング抗体トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))に関連した心毒性作用が観察され得る(Schneider JW et al (2002) Semin Oncol 29(3 suppl 11): 22-28)。放射性同位体を結合した抗体を用いた放射免疫療法も骨髄抑制を引き起こし得る。
【0013】
したがって、一般的に用いられる抗癌抗体の、近年の臨床的および商業的成功にもかかわらず、この治療戦略の将来に関する相当数の重大な疑問が依然として存在する。その結果、HER2に対して同程度の親和性を有する薬剤を継続して提供することは、疾患の治療においてこのような分子の利用法を提供することと同様に、依然として当該技術分野内での多大な関心事である。
【発明の開示】
【0014】
HER2との特異的な結合を特徴とするポリペプチドの提供によってこの関心を満足させることが、本発明の一目的である。
【0015】
本発明に関連する目的物は、非特異的結合をほとんどまたは全く示さないHER2結合ポリペプチドである。
【0016】
本発明の別の目的は、融合ポリペプチド中の一部として容易に用いられ得るHER2結合ポリペプチドを提供することである。
【0017】
別の目的は、既存の抗体試薬に関連して経験される既知の問題のうちの1または複数を解決する、HER2結合ポリペプチドの提供である。
【0018】
本発明のさらなる目的は、治療的用途に用い易いHER2結合ポリペプチドを提供することである。
【0019】
関連する目的は、HER2タンパク質の過剰発現により特徴付けられる癌疾患の臨床設定における、治療、抑制および/またはターゲッティングのための新規の方法を見出すことである。
【0020】
低濃度でHER2の検出用試薬として用いることができる分子を提供することも一目的である。
【0021】
これらのおよびその他の目的は、添付の特許請求の範囲で主張されているような本発明の様々な態様により達成される。したがって第一の態様において、本発明は、HER2に対する結合親和性を有し、かつブドウ球菌のプロテインA(SPA)のドメインに関連したポリペプチドであって、該ポリペプチドの配列は1〜約20の置換変異を有するSPAドメインの配列に相当する、ポリペプチドを提供する。
【0022】
本発明のこの態様によるポリペプチドの実施の一形態では、HER2に対するその親和性は、相互作用のKD値が最大でも1×10-6Mであるようなものである。別の実施形態では、HER2に対するポリペプチドの親和性は、相互作用のKD値が最大でも1×10-
7Mであるようなものである。
【0023】
別の実施の形態では、本発明のポリペプチドは、HER2タンパク質の細胞外ドメインであるECDと特異的に結合する。
【0024】
本明細書に記すように、本発明者らは、SPAからのドメインの置換変異によって高親和性HER2結合ポリペプチドが得られるということ、そしてそのようなポリペプチドがHER2と相互作用し得るということを見出した。本発明のポリペプチドは、多様な用途においてHER2に対する抗体の代替物として利用できる。限定的でない例として、該ポリペプチドは、HER2の過剰発現により特徴付けられる癌の治療に、細胞表面上のHER2との結合による細胞シグナル伝達の抑制に、in vivoおよびin vitroの両方における癌の診断に、HER2を過剰発現する細胞に対する薬剤のターゲッティングに、HER2を検出するための組織化学的方法に、分離の方法およびその他の用途に有用である。本発明のポリペプチドは、HER2に対する試薬の親和性を利用するあらゆる方法に有用であることが判明するかもしれない。したがって該ポリペプチドは、そのような方法における検出試薬、捕捉試薬または分離試薬としてだけではなく、それ自体で治療薬として、またはHER2タンパク質に対して他の治療薬をターゲッティングするための一手段として用いられ得る。in vitroで本発明のポリペプチドを用いる方法は、種々の形式で、例えば微量滴定プレート中で、タンパク質アレイで、バイオセンサー表面上で、組織切片上等において実施され得る。本発明のポリペプチドの種々の修飾および/または該ポリペプチドへの付加は、本発明の範囲を逸脱しない限り、特定の所望の用途に該ポリペプチドを適合させるために実施してもよい。そのような修飾および付加は以下でさらに詳細に記載され、そして同一ポリペプチド鎖中に含まれる付加的アミノ酸、あるいは標識および/または化学的にあるいは別の方法により本発明のポリペプチドに結合される治療薬を包含し得る。さらに本発明は、HER2に結合する能力を有するポリペプチドの断片も包含する。
【0025】
「HER2に対する結合親和性」とは、例えば表面プラズモン共鳴技法の使用により、例えばビアコア(登録商標)機器で試験され得るポリペプチドの特性を指す。HER2結合親和性は、HER2を計器のセンサーチップ上に固定し、試験されるポリペプチドを含有する試料を該チップ上に流す実験によって試験することができる。あるいは、試験されるポリペプチドは計器のセンサーチップ上に固定され、HER2を含有する試料は該チップ上を通過させられる。次いで、当業者であれば、得られたセンサグラムを読み取って、HER2に対するポリペプチドの結合親和性の少なくとも定性的な測定を確立することができる。例えば相互作用に関する信頼できるKD値を確証するための目的で、定量的測定が求められる場合、表面プラズモン共鳴法もまた用いることができる。結合値は、例えばビアコア(登録商標)2000機器(Biacore AB)によって決定できる。HER2は計器のセンサーチップ上に固定され、そして親和性が決定されるポリペプチドの試料が連続希釈により調製され、順不同で注入される。次に、その結果から、KD値が、例えば計器メーカーにより提供されるBIAevaluation3.2ソフトウエアの1:1ラングミュア結合モデルを用いて算定され得る。
【0026】
上記のように、本発明のポリペプチドの配列は、上記SPAドメインの1〜約20のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基で置換されたSPAドメイン配列に関連する。しかしながら、導入される置換変異は、ポリペプチドの基本構造に影響を及ぼすべきではない。即ち、本発明のポリペプチドのCα主鎖の全体的な折り畳みは、関連するSPAドメインのものと本質的に同一であり、例えば、二次構造の同一要素を同一順序で有するなどである。したがって、ポリペプチドは、基本的な構造特性、例えば類似のCDスペクトルを生じる特性が共有される場合、SPAと同一の折り畳みを有するという定義に分類されることになる。関係のある他のパラメーターを、当業者は承知している。SPAドメインの基本構
造を本質的に保存するというこの要件により、その突然変異時に置換を受け得るドメインの位置は制限される。例えばZタンパク質の既知の構造から出発する場合、Zタンパク質の表面上に位置するアミノ酸残基が置換される一方、Zタンパク質のコア内に埋め込まれたアミノ酸残基「3ヘリックス束」は分子の構造特性を保存するために不変のまま維持されるべきである、というのが好ましい。同一の推論が、他のSPAドメインおよびその断片に当てはまる。
【0027】
本発明は、上記のHER2結合ポリペプチドが、いずれかの末端に付加的なアミノ酸残基が付加されたHER2結合ドメインとして存在するポリペプチドも包含する。これらの付加的なアミノ酸残基は、該ポリペプチドによるHER2の結合に一役を演じ得るが、しかし、例えばポリペプチドの生産、精製、安定化、カップリングまたは検出のうちの1又は複数に関連したその他の目的にも同様に十分に役立ち得る。このような付加的なアミノ酸残基は、化学的カップリングの目的のために付加された1又は複数のアミノ酸残基を含んでも良い。この一例は、ポリペプチド鎖中の一番初めのまたは後ろの位置での、即ちNまたはC末端でのシステイン残基の付加である。このような付加的なアミノ酸残基は、ポリペプチドの精製または検出のための「タグ」、例えばヘキサヒスチジル(His6)タグ、あるいはタグに特異的な抗体との相互作用のための「myc」タグまたは「Flag」タグも含み得る。その他の選択肢についても、当業者は承知している。
【0028】
上述の「付加的なアミノ酸残基」は、任意の所望の機能、例えば最初のHER2結合ドメインと同一の結合機能、または別の結合機能、あるいは酵素的機能、または蛍光的機能、あるいはそれらを複合した機能、を有する1又は複数のポリペプチドドメイン(単数または複数)を構成してもよい。
【0029】
したがって本発明は、HER2に対する親和性を有するポリペプチドの多量体を包含する。例えば癌の治療のために又はHER2の精製方法において本発明のポリペプチドを用いる場合には、本発明のポリペプチドを1つ用いて可能であるよりもさらに強力なHER2の結合を獲得することは興味深い。この場合、ポリペプチドの多量体、例えば二量体、三量体または四量体の提供は、必要とする親和性作用を提供し得る。多量体は、適切な数の本発明のポリペプチドで構成できる。これらの本発明のポリペプチドドメインは、単量体によりそのような多量体が形成されており、それらの全てが同一のアミノ酸配列を有していてもよいが、しかし、それらが異なるアミノ酸配列を有することも同様に可能である。本発明の多量体中の連結されたポリペプチド「単位」は、既知の有機化学的方法を用いて共有結合により結合され得るし、あるいはポリペプチドの組換え発現のための系において1又は複数の融合ポリペプチドとして発現され、あるいは任意のその他の方式で、直接的に又はリンカー(例えばアミノ酸リンカー)を介して、連結され得る。
【0030】
さらに、HER2結合ポリペプチドが第一のドメインまたは第一の部分、ならびにHER2を結合する以外の他の機能を有する第二のおよびさらなる部分を構成する「異質性の(heterogenic)」融合ポリペプチドも意図され、それは本発明の範囲内である。融合ポリペプチドの第二のおよびさらなる部分(単数または複数)は、HER2以外の別の標的分子に対する親和性を有する結合ドメインを含んでも良い。そのような結合ドメインも、SPAドメインの1〜約20個の位置における置換変異を通じてSPAドメインに良好に関連し得る。結果的には、少なくとも1つのHER2結合ドメイン、及び上記のその他の標的分子に対する親和性を有する少なくとも1つのドメインを有する融合ポリペプチドであって、両ドメインがSPAドメインに関連する、融合ポリペプチドが得られる。これは、治療薬として、あるいは捕捉、検出または分離試薬として用いられるようないくつかのバイオテクノロジー用途に用いられ得る多特異的な試薬の作製を可能にする。少なくとも1つのポリペプチドドメインがHER2に対する親和性を有する、このようなSPAドメイン関連ポリペプチドの多特異的多量体の調製は、複数のHER2結合「単位(unit)」
からなる多量体に対しても、上述のように適用し得る。その他の選択肢では、第二の又はさらなる部分(単数または複数)は、ある標的に対する結合親和性を有する、関連性のない天然または組換えタンパク質(あるいは天然または組換えタンパク質の結合能力を維持するその断片)を含み得る。ヒト血清アルブミンに対する親和性を有し、かつ本発明のHER2結合SPAドメイン誘導体の融合相手として用いられ得るこのような結合タンパク質の一例は、連鎖球菌のプロテインG(SPG)のアルブミン結合ドメインである(Nygren P-A et al (1988) Mol Recogn 1: 69-74)。HER2結合SPAドメイン関連ポリペプチドとSPGのアルブミン結合ドメインとの融合ポリペプチドは、したがって、本発明の範囲内に入る。本発明のポリペプチドを、治療薬として、またはターゲッティング剤としてヒト被験体に投与する場合に、該ペプチドを、血清アルブミンを結合する部分と融合させることが有益かもしれないが、それは、このような融合タンパク質のin vivoでの半減期が、単離型のSPAドメイン関連HER2結合部分の半減期と比較した場合、おそらく延長されるだろうと考えられるためである(この原理は、例えばWO91/01743に記載されている)。
【0031】
融合ポリペプチドの作製のためのその他の可能性も意図される。したがって本発明の第一の態様によるHER2結合SPAドメイン関連ポリペプチドは、目的物との結合に加えて、あるいはその代わりに、他の機能を示す第二の又はさらなる単数または複数の部分と共有結合され得る。一例は、1又は複数のHER2結合ポリペプチドと、レポーターまたはエフェクター部分として働く酵素活性を有するポリペプチドとの間の融合である。HER2結合ポリペプチドと結合して融合タンパク質を生成し得るレポーター酵素の例は当業者に既知であり、例としては、β−ガラクトシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、カルボキシペプチダーゼのような酵素が挙げられる。本発明の融合ポリペプチドの第二の及びさらなる単数または複数の部分に関するその他の選択肢としては、蛍光ポリペプチド、例えば緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼおよびそれらの変異体が挙げられる。
【0032】
本発明の融合ポリペプチドの第二の及びさらなる単数または複数の部分に関するその他の選択肢としては、治療的用途のための単数または複数の部分が挙げられる。治療的用途では、その他の分子もまた、その他の手段により、本発明のポリペプチドと共有的にまたは非共有的に結合され得る。非限定的な例としては、エフェクター酵素(例えばカルボキシペプチダーゼ)を送達するために本願のポリペプチドを利用する、「ADEPT」(抗体酵素プロドラッグ療法(antibody-directed enzyme prodrug therapy))用途のための酵素、エフェクター細胞および免疫系のその他の構成成分を動員するためのタンパク質、サイトカイン(例えばIL−2、IL−12、TNFα、IP−10)、凝血原因子(例えば組織因子、フォン・ウィルブラント因子)、毒素(例えばリシンA、シュードモナス外毒素、カルケアマイシン(calcheamicin)、マイタンシノイド(maytansinoid))、有毒な小分子(例えばアウリスタチン(auristatin)類似体、ドキソルビシン)が挙げられる。さらに、診断用(例えば68Ga、76Br、111In、99Tc、124I、125I)または治療用(例えば90Y、131I、211At)の放射性核種を容易に組入れるために、放射性同位体のためのキレート剤をポリペプチド配列にカップリングすることを目的として、上記で言及した付加的アミノ酸(特にヘキサヒスチジンタグ、システイン)が意図される。
【0033】
本発明は、ポリペプチドであって、該ポリペプチド中で上記のHER2結合ポリペプチドが、例えば該ポリペプチドの検出を目的として標識基(例えば少なくとも1つの蛍光体、ビオチンまたは放射性同位体)を備えていることを特徴とするポリペプチドを包含する。
【0034】
本発明のHER2結合ポリペプチドを組入れた融合タンパク質についての上記の説明に関しては、第一、第二及びさらなる部分の呼称は、一方のHER2結合部分(単数または
複数)と、他方の他の機能を示す部分とを明白に区別する目的でなされる、ということに留意すべきである。これらの呼称は、融合タンパク質のポリペプチド鎖中における異なるドメインの実際の順序を指すものではない。したがって例えば上記の第一の部分は、制限なしに、融合タンパク質のN末端、中間、またはC末端に出現し得る。
【0035】
本発明のポリペプチドを作製する出発点として用いるためのSPAドメインの一例は、ブドウ球菌のプロテインAのドメインBに由来するプロテインZである。「背景技術」の節で指摘したように、このタンパク質は、従来、種々の標的と結合し得るAffibody(登録商標)分子と命名された分子の作製のための足場構造として用いられてきた。非修飾プロテインZ(Zwtと示す)の58のアミノ酸配列は配列番号1で示され、図1に例示されている。
【0036】
本発明のポリペプチドの一実施形態では、ポリペプチドはSPAの一ドメインに関連するものであって、該ポリペプチドの配列は4〜約20の置換変異を有するSPAドメインの配列に相当する。その他の実施形態は、1〜約13の置換変異、あるいは4〜約13の置換変異を有し得る。
【0037】
本発明のポリペプチドのさらに具体的な実施形態では、ポリペプチドの配列は、配列番号1に示される配列において1〜約20の置換変異、例えば4〜約20、1〜約13または4〜約13の置換変異を有する配列に相当する。
【0038】
いくつかの実施形態では、本発明のポリペプチドは、その配列が、配列番号1に示される配列において、第13位、第14位、第28位、第32位および第35位のうちの単数または複数の位置における置換変異を含む配列に相当し得る。さらに本発明のポリペプチドの配列は、第9位、第10位、第11位、第17位、第18位、第24位、第25位および第27位のうちの単数または複数の位置における置換変異を含み得る。
【0039】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第13位でのフェニルアラニンからチロシンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0040】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第14位でのチロシンからトリプトファンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0041】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第28位での、アスパラギンから、アルギニン及びヒスチジンから選択されるアミノ酸残基への、より好ましくはアルギニンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0042】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第32位でのグルタミンからアルギニンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0043】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第35位でのリジンからチロシンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0044】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第10位でのグルタミンからアルギニンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0045】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第11位でのアスパラギンからスレオニンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0046】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第17位
でのロイシンからバリンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0047】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第27位での、アルギニンから、リジンおよびセリンから選択されるアミノ酸残基への置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0048】
本発明の好ましいポリペプチドは、そのアミノ酸配列が、配列番号1の配列において少なくとも以下の突然変異、F13Y、Y14W、N28R、Q32RおよびK35Y、を含む配列に相当する。
【0049】
本発明のポリペプチドの種々の実施形態の具体的な配列の例(各々が上記の1又は複数の特定の突然変異を含む)は配列番号2〜79に記載され、かつ図1に例示されている。これらのポリペプチドのHER2結合特性は、ここでの全般的な本発明の説明の後の実施例に開示される。
【0050】
非修飾SPAドメインの使用に代わるものとして、SPAドメインは、アルカリ性条件下での安定性を増大させるために、突然変異誘発も施され得る。このような安定化は、非修飾配列中に出現する任意のアスパラギン残基を、アルカリ条件に対してより感受性の低いアミノ酸残基に置換する、部位特異的置換を包含する。アフィニティークロマトグラフィーにおけるアフィニティーリガンドとして本発明のポリペプチドを用いる場合、このアルカリに対する低感受性という特性は、以下の利点をもたらす。アフィニティークロマトグラフィーカラムは分離操作の合間に定置洗浄(CIP)を目的とした厳しいアルカリ処理をしばしば施されるが、このような処理に耐える能力がアフィニティークロマトグラフィーマトリックスの耐用寿命を延長する。一例として、出発点としてプロテインZを使用する場合、本発明のポリペプチドは、HER2結合を付与する置換変異の他に、N3、N6、N11、N21、N23、N28、N43およびN52から選択される少なくとも1つのアスパラギン残基が、アルカリ処理に対して低感受性であるアミノ酸残基で置換されているという修飾を有し得る。このようなポリペプチドの非限定的な例は、以下の組の突然変異(Zwtの配列に関して)を有するものである。N3A。N6D。N3A、N6DおよびN23T。N3A、N6D、N23TかつN28A。N23T。N23TかつN43E。N28A。N6A。N11S。N11SかつN23T。N6AかつN23T。したがってこれらのSPAドメイン、ならびに安定性の理由のためにアスパラギン突然変異を施されたその他のSPAドメインは全て、本発明のHER2結合ポリペプチドを得るために、アミノ酸残基のさらなる置換変異に付すことができる。あるいは、アスパラギン残基を含む本発明のHER2結合ポリペプチドは、アスパラギン残基を置き換えるためにさらなる突然変異に付してもよい。この後者の選択肢は、そのような分子のHER2結合能力が維持される程度においてのみ可能であることは明らかである。
【0051】
本発明は、上記ポリペプチドの断片の生成を通じて任意の上記ポリペプチドから得られたポリペプチドも包含するが、ここで該ポリペプチド断片はHER2親和性を維持している。該ポリペプチド断片は、その安定性が維持され、かつHER2を結合する特異性を保持するものである。免疫グロブリンGに対する結合特異性を維持した野生型SPAドメインの断片を作製する可能性は、Braisted AC and Wells JA et al in Proc Natl Acad Sci
USA 93: 5688-5692 (1996)により示されている。構造ベースの設計およびファージディスプレイ法を用いることにより、59残基からなる3ヘリックス束の結合ドメインは、結果的に33残基からなる2ヘリックス誘導体へと縮小された。これは、異なる領域からの無作為な突然変異の段階的な選択により達成され、それによって、安定性および結合親和性が繰り返し改善された。本発明の第一の態様によるポリペプチドに対すると同一の推論により、当業者は、「親」HER2ポリペプチドと同一の結合特性を有する「最小化」HER2結合ポリペプチドを得ることができよう。それゆえ、本発明の上記の態様によるポ
リペプチドの断片を構成するポリペプチドであって、該断片がHER2に対する結合親和性を保有するポリペプチドは、本発明のさらなる態様である。
【0052】
本発明の別の態様は、本発明のポリペプチドをコードする配列を含む核酸分子に関する。
【0053】
本発明のさらなる態様は、前の態様の核酸分子、ならびに核酸分子の発現により本発明のポリペプチドの産生を可能にするその他の核酸要素を含む発現ベクターに関する。
【0054】
本発明のさらに別の態様は、前の態様の発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0055】
後半3つの本発明の態様は、本発明のポリペプチドの産生のための手段であり、発現されるべきポリペプチドに関する本明細書中の情報が与えられれば、そしてタンパク質の組換え発現についての当業者の一般的レベルを考えれば、過度の負担をかけることなく、当業者はそれらを生成し得るし、それらを実際に使用し得る。一例として、非修飾プロテインZの発現のためのプラスミド(例えばNilsson B et al (1987)、上記参照)が、出発物質として用いられ得る。所望の置換変異は、既知の技法を用いてこのプラスミド中に導入されて、本発明にのっとった発現ベクターを生成し得る。
【0056】
しかしながら、本発明のポリペプチドは、その他の既知の手段、例えば化学合成、あるいは種々の原核生物または真核生物宿主、例えば植物およびトランスジェニック動物中での発現によっても生成され得る。化学的なポリペプチドの合成を利用する場合、上記のようなポリペプチド中の天然アミノ酸残基のいずれかを、ポリペプチドのHER2結合能力が実質的に弱められることがない限り、任意の対応する非天然アミノ酸残基またはその誘導体によって置換しても良い。少なくとも結合能力は保持されるべきであるが、しかしながら、対応する非天然アミノ酸残基またはその誘導体による置換も、実際には、ポリペプチドのHER2結合能力を改善するのに役立つ可能性がある。さらに、非天然アミノ酸の組入れは、分子(例えば標識、エフェクター、キレート剤等)の、HER2結合ポリペプチドへの、既存のものに代わる結合部位を提供するために実施され得る。非古典的なアミノ酸または合成アミノ酸類似体としては、普通のアミノ酸のD−異性体、α−アミノイソ酪酸、4−アミノ酪酸、2−アミノ酪酸、6−アミノヘキサン酸、2−アミノイソ酪酸、3−アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、システイン酸、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β−アラニン、フルオロアミノ酸、デザイナーアミノ酸(designer amino acids)(例えばβ−メチルアミノ酸、Cα−メチルアミノ酸、Nα−メチルアミノ酸)、ならびにアミノ酸類似体全般が挙げられるが、これらに限定されない。さらにアミノ酸残基は、DまたはL形態で存在し得る。
【0057】
本発明は、上記のHER2結合ポリペプチドの使用態様、ならびに該ポリペプチドがその結合特性によって有用なものになっている、治療、診断および検出のための種々の方法にも関する。これらの使用および方法に関する以下の説明において「HER2結合ポリペプチド」に言及する場合、この用語はHER2結合ポリペプチドのみを包含することを意図するものではなく、例えばその断片を構成し、および/または融合タンパク質中の一部分としてHER2結合ポリペプチドを組入れるか、および/または標識または治療薬に結合されるか、および/またはタグとしてまたはその他の目的のために付加的アミノ酸残基を備える、このポリペプチドを基礎にした上述の分子もまた全て包含される。上記で説明したように、このような融合タンパク質、誘導体、断片等は、本発明の一部を形成する。
【0058】
したがってこのような一態様では、本発明は、本明細書中に記載されたような薬剤としてのHER2結合ポリペプチドの使用を提供する。
【0059】
さらなる態様において、本発明は、HER2の過剰発現により特徴付けられる癌の少なくとも一形態の治療を目的とした薬剤の調製における、本明細書中に記載されたようなHER2結合ポリペプチドの用途を提供する。HER2の過剰発現により特徴付けられる癌の特定の一形態は、乳癌である。「背景技術」の節に記載されたように、全ての乳癌患者の約25%が、HER2の過剰発現を示す(Slamon DJ et al、上記を参照)。
【0060】
この説に縛られることは望まないが、本明細書中に記載されたポリペプチドは、以下のメカニズムのうちの少なくとも1つを基礎にした治療薬として有用であると考えられる。(i)化学療法(細胞傷害性)の増強作用。ここで、ポリペプチドの投与は、現存の及び将来的な化学療法およびホルモン療法と相乗的に機能する。細胞表面のHER2タンパク質の遮断は、DNA傷害薬が作用した後のDNA修復を阻止することが示されている(Pietras RJ et al (1994) Oncogene 9: 1829-1838)。(ii)腫瘍細胞の増殖の抑制(細胞分裂抑制)。この論証は、分子(抗体)が細胞表面上のHER2タンパク質に結合するといくつかの受容体の細胞内取り込みが生じ、細胞がさらに増殖するためのシグナルを制限する、という観察に基づいている(Baselga J et al (1998) Cancer Res 58: 2825-2831; Sliwkowski MX et al、上記を参照)。
【0061】
本発明の関連態様は、HER2の過剰発現により特徴付けられる癌のうちの少なくとも1つの形態を治療するための方法であって、活性物質として本明細書中に上述されたようなHER2結合ポリペプチドを含む治療的に有効な量の組成物を、このような治療を必要とする被験体に投与することを包含する方法の提供である。
【0062】
本発明のポリペプチドのHER2結合特性は、融合タンパク質および/または標識結合分子の作製に対する該ポリペプチドの適性に加えて、HER2を過剰発現する細胞を含む腫瘍の部位に対して他の活性物質を標的化するためにも該ポリペプチドが有用であり得る、ということを意味する。したがって本発明の別の態様は、抗癌活性を有する物質と結合された本明細書中に記載されるHER2結合ポリペプチドの用途であって、HER2を過剰発現する細胞への上記物質の送達を目的とした用途を提供することである。結合される物質は、被験体の内因性免疫系の応答を引き出すよう機能するものであっても良い。ナチュラルキラー(NK)細胞または免疫系のその他のエフェクターは、そのようなエフェクターを動員する機能を担う融合部分の提示を通じて、細胞表面上のHER2とHER2結合ポリペプチドとの複合体に引き付けられ得る。細胞が異常であることを検出したNK細胞またはその他のエフェクターは、HER2結合融合タンパク質に結合する。その結果、癌細胞は、NK細胞により食べ尽くされる(Sliwkowski MX et al、上記を参照;Pegram MD et al (1997) Proc Am Assoc Cancer Res 38: 602, Abstract 4044)。
【0063】
このような活性物質は、融合により、または化学的連結により、HER2結合ポリペプチドに結合されるタンパク質、例えば「ADEPT」(抗体酵素プロドラッグ療法)用途のためにエフェクター酵素の中から選択されるタンパク質;免疫系のエフェクター細胞およびその他の構成成分の動員のためのタンパク質;サイトカイン、例えばIL−2、IL−12、TNFα、IP−10;凝血原因子(procoagulant factors)、例えば組織因子、フォン・ウィルブラント因子;毒素、例えばリシンA、シュードモナス内毒素、カルケアマイシン、マイタンシノイドであり得る。あるいは、該活性物質は、細胞傷害剤、例えばアウリスタチン類似体またはドキソルビシン、あるいは放射性同位体(例えば90Y、131I、211At)であり、この同位体は、HER2結合ポリペプチドと直接結合してもよく、あるいはキレート剤、例えば周知のキレート剤であるDOTAまたはDTPAを介して結合しても良い。
【0064】
関連する態様において、本発明は、抗癌活性を有する物質をin vivoでHER2
を過剰発現する細胞に対して送達する方法であって、上記活性物質と本明細書中に記載されるHER2結合ポリペプチドとの結合体を患者に投与することを包含する方法も提供する。該結合体は、上記段落に記載されたように適切に調製される。
【0065】
本発明の別の態様は、試料中のHER2の検出を目的とした、本明細書中に記載されているようなHER2結合ポリペプチドの使用である。例えばこのような検出は、HER2の過剰発現により特徴付けられる疾患状態を診断するという目的で実施され得る。試料中のHER2の存在の検出は、in vitroまたはin vivoで実施され得る。in vivo診断のための好ましい選択肢は、陽電子放射断層撮影(PET)の使用である。当該試料は、例えば生体液試料または組織試料であり得る。本発明のHER2結合ポリペプチドに対して用いるに適した、HER2に対して作られた抗体に対して今日用いられている一般的な方法は、新鮮な、凍結された、またはホルマリン固定、パラフィン包埋された組織試料中のHER2タンパク質の過剰発現を検証するために用いられる、HER2の存在の組織化学的検出である。HER2検出のために、本発明のポリペプチドは融合タンパク質の一部としても用いられ得るが、ここで、他のドメインはレポーター酵素または蛍光酵素である。あるいは、ポリペプチドは、状況によってはキレート剤を介して、1又は複数の蛍光剤(単数または複数)および/または放射性同位体(単数または複数)で標識され得る。適切な放射性同位体としては、68Ga、76Br、111In、99Tc、124Iおよび125Iが挙げられる。
【0066】
本発明のさらに別の態様は、生体液試料中のHER2の検出方法における、本明細書中に記載されたようなHER2結合ポリペプチドの使用により構成される。この方法は、(i)試験されるべき患者からの生体液試料を準備する工程、(ii)本明細書中に記載されるようなHER2結合ポリペプチドを、該試料中に存在する任意のHER2と該ポリペプチドとの結合が可能になるような条件下で、該試料に添加する工程、(iii)結合していないポリペプチドを除去する工程、および(iv)結合したポリペプチドを検出する工程、を包含する。検出される結合したポリペプチドの量は、試料中に存在するHER2の量と相関する。工程(ii)において、試料へのHER2結合ポリペプチドの添加は、任意の適切な形式で実施され、例えば試料が接触する固体支持体上にHER2結合ポリペプチドが固定される状況、ならびにHER2結合ポリペプチドが溶液中に存在する設定を包含する。
【0067】
本発明の別の関連する態様は、試料中のHER2の検出方法であって、(i)HER2を含有する疑いのある組織試料、例えば組織のクリオスタット切片またはパラフィン包埋切片を準備する工程、(ii)試料中に存在する任意のHER2とのポリペプチドの結合を実行し得る条件下で、上記試料に本発明のHER2結合ポリペプチドを添加する工程、(iii)結合していないポリペプチドを除去する工程、および(iv)結合したポリペプチドを検出する工程、を包含する方法である。検出される結合したポリペプチドの量は、試料中に存在するHER2の量と相関する。
【0068】
組織試料におけるHER2の過剰発現を診断するためのキットであって、レポーター酵素(例えばアルカリ性ホスファターゼまたはホースラディッシュペルオキシダーゼ)と融合した本発明のHER2結合ポリペプチド、酵素活性の検出のための試薬、ならびに陽性および陰性対照組織スライドを包含するキットも、本発明により提供される。
【0069】
組織試料におけるHER2過剰発現の診断のためのキットであって、抗体による検出のためのタグ(例えばFlagタグまたはmycタグ)と融合した本発明のHER2結合ポリペプチド、タグに特異的な一次抗体、一次抗体に特異的で、かつレポーター酵素を結合した二次抗体、酵素活性の検出のための試薬、ならびに陽性および陰性対照組織スライドを包含するキットも、本発明により提供される。
【0070】
診断用途における一領域は、癌細胞またはその集合体のin vivoでの検出である。本発明は、このような診断を実施するためのキットであって、キレート剤で標識された本発明のHER2結合ポリペプチド、診断用放射性同位体(非限定的な例は、68Ga、76Br、111In、99Tc、124Iおよび125Iである)、ならびに取り込み効率の分析のための試薬を包含するキットを提供する。
【0071】
上記のように、本発明は、HER2を過剰発現する細胞、例えばある種の癌細胞に活性物質をターゲッティングすることを目的とした、本発明のHER2結合ポリペプチドの使用を包含する。本発明は、この目的のためのキットであって、キレート剤で標識された本発明のHER2結合ポリペプチド、治療用放射性同位体(非限定的な例は90Y、131I、211Atである)、および取り込み効率の分析のための試薬を包含するキットも提供する。
【0072】
本発明に従って実行される実験についての非限定的な詳述により、ここで本発明をさらに例示する。
【実施例1】
【0073】
HER2結合ポリペプチドの選択および試験
これらの実験では、多数の異なるSPAドメイン関連ポリペプチドのライブラリーから本発明のいくつかのHER2結合ポリペプチドを選択し、その後、特性を明らかにした。
【0074】
ライブラリーのパニング及びクローンの選択
Nord K et al (1995、上記参照)に記載されたのと本質的に同様に、コンビナトリアル・ファージディスプレイライブラリーを調製した。本試験に用いたこのライブラリーのプールは、第9位、10位、11位、13位、14位、17位、18位、24位、25位、27位、28位、32位および35位に無作為なアミノ酸残基を有するプロテインZ(Affibody(登録商標)分子)の8.7×108の変異体を含む。標的としてビオチニル化ヒトHER2細胞外ドメイン(HER2−ECD)を用いて、4回のパニングで、抗原結合Affibody(登録商標)分子を選択した(組換えヒト細胞外ドメイン、アミノ酸238〜2109、Fox Chase Cancer Center, Philadelphia, USAにより提供)。4回の選択サイクルの結果、91個のクローンをファージELISA用に選択し、それらのHER2結合活性の分析を実施した。
【0075】
HER2結合の分析用のファージELISA
4回の選択後に得られたクローンからのファージを96ウエルプレート中で生成させ、HER2結合Affibody(登録商標)分子を発現するファージをスクリーニングするために、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を用いた。シングルコロニーを、深穴96ウエルプレート中で2%グルコースおよび100μg/mlのアンピシリンを補充した250μlのTSB培地(30.0gのトリプシンダイズブロス(Merck)、水で最終容積を1lとする。オートクレーブ処理)に接種し、37℃で一晩、振盪器上で増殖させた。5μlの一晩培養物を、新プレート中で、0.1%グルコースおよび100μg/mlのアンピシリンを補充した500μlのTSB+YE培地(30.0gのトリプシンダイズブロス(Merck)、5.0gの酵母抽出物、水で最終容積を1lとする。オートクレーブ処理)に添加した。37℃で3時間増殖後、0.5μlの5×1012pfu/ml(2.5×109pfu)のヘルパーファージM13K07(New England Biolabs, #NO315S)および100μlのTSB+YE培地を各ウエルに添加し、37℃で30分間、振盪せずにプレートをインキュベートした。IPTG、カナマイシンおよびアンピシリンを補充した300μlのTSB+YEを各ウエルに添加して、最終濃度を1mMのIPTG、25μg/mlのカナマイシンおよび100μg/mlのアンピシリンとして、プレートを30℃で一晩、振盪器上でインキュベートした。2,500gで15分間の遠心分離に
より細胞をペレット化し、Affibody(登録商標)分子を発現するファージを含有する上清をELISAに用いた。PBS(2.68mMのKCl、137mMのNaCl、1.47mMのKH2PO4、8.1mMのNa2HPO4、pH7.4)中の4μg/mlのHER2の100μlを、微量滴定プレート(Nunc #446612)に添加し、4℃で1ヶ月間インキュベートした。PBS中の2%粉末スキムミルク(ブロッキング緩衝液)で、室温で1時間、ウエルをブロッキング処理し、200μlのファージ含有上清および50μlの10%ブロッキング緩衝液を添加した。プレートを、室温で2時間インキュベートした。ポリクローナル抗体(ウサギ抗M13、Abcam #ab6188)を2%ブロッキング緩衝液中で1:1,000に希釈し、150μlを各ウエルに添加した。プレートを、室温で1時間インキュベートした。アルカリ性ホスファターゼと結合したヤギ抗ウサギIgG抗体(Sigma #A-3687)を2%ブロッキング緩衝液中で1:10,000に希釈し、その後150μlを各ウエルに添加し、室温で1時間インキュベートした。1Mのジエタノールアミン、5mMのMgCl2(pH9.8)と水の1:1混合物中にSigma−104基質(Sigma #104-105)を溶解することにより(1錠/5mlの1:1混合物)、展開溶液を調製した。その後、180μlの展開溶液を各ウエルに添加した。ウエルをPBS−T(PBS+0.1%Tween−20)で2回、PBSで1回洗浄した後、各々の新試薬を添加した。基質を添加してから25分後、ELISA分光光度計(Basic Sunrise, Tecan)を用い、A405で、プレートを読取った。
【0076】
ELISA値の閾値判定基準(A405が0.5より高い)を用いて、HER2結合物質をコードするファージを同定した。48のクローンがこの値より高いELISAシグナルを生じ、無作為で選択された、ELISA結果が利用可能でない5クローンとともに、DNA配列分析用に選択された。
【0077】
DNA配列分析
上記の手法に従って単離されたクローンからのDNAのシーケンシングを、メーカーの推奨によりABIプリズム(登録商標)、ビッグダイ(商標)ターミネーターv2.0レディリアクションサイクルシーケンシングキット(Applied Biosystems)を用いて実施した。プラスミドを調製し、オリゴヌクレオチドRIT−27(5’−GCTTCCGGCTCGTATGTTGTGTG−3’)およびビオチン化NOKA−2(5’−ビオチン−CGGAACCAGAGCCACCACCGG−3’)を用いて、Affibody(登録商標)分子をコードするDNAをシーケンシングした。ABIプリズム(登録商標)3700遺伝子分析装置(Applied Biosystems)で、配列を分析した。予め選択された53のクローンから、いくつかのクローンが同一アミノ酸配列をコードすることが判明した。これらの縮重を考慮に入れて、ELISA結合検定で選択されたクローンにより発現されるAffibody(登録商標)分子の4つの配列を図1に示し(ZHER2 A-D)、かつ配列番号2〜5として配列表中で同定した。
【0078】
クローニングおよびタンパク質産生
図2で概略的に示されている構築物をコードする発現ベクターを用いて、大腸菌細胞中でZHER2ポリペプチドを発現させた。これにより、該ポリペプチドは、N末端ヘキサヒスチジルタグとの融合体として産生された。融合ポリペプチドHis6−ZHER2 AおよびHis6−ZHER2 Bを固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)カラムで精製し、SDS−PAGEで分析した。SDS−PAGE実験の結果を、図3に示す。
【0079】
融合ポリペプチドのバイオセンサー分析
前節により産生されたHisタグ化ZHER2変異体とHER2との間の相互作用を、ビアコア(登録商標)2000システム(Biacore AB, Uppsala, Sweden)により表面プラズモン共鳴を利用して分析した。ヒトHER2、HIV−1gp120(Protein Sciences
Corporation、#2003-MN)およびBB(連鎖球菌プロテインG由来のアルブミン結合タンパク質)(後者2つは対照として用いる)を、メーカーの推奨に従って、CM−5チップの表面のカルボキシル化デキストラン層上へのアミンカップリングにより、異なるフローセル中に固定した。ヒトHER2、HIV−1gp120およびBBの固定化は、それぞれ1900、6290および1000共鳴単位(RU)を生じた。第四フローセル表面を活性化し、注入を行う間のブランクとして用いるために非活性化した。His6−ZHER2 AおよびHis6−ZHER2 Bタンパク質をHBS(5mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%界面活性剤P−20(pH7.4))で希釈して最終濃度を10μMとし、30μl/分の一定流量で、二つ組として、順不同に注入した。精製タンパク質His6−ZHER2 A及びHis6−ZHER2 BのHER2と相互作用する能力を、それぞれ図4および5のセンサグラム(sensorgram)に例示したように確認した。
【0080】
さらにHis6−ZHER2 AおよびHis6−ZHER2 Bに関して、動態試験を実施した。チップに固定された1900RUのヒトHER2を有するCM−5チップを用いた。His6−ZHER2 AおよびHis6−ZHER2 Bの各々に関して、一連の6つの異なる濃度(1μM〜40μM)のHER2結合ポリペプチドをHBS中に調製し、30μl/分の流量で、二つ組として、順不同に注入した。総注入時間は50秒(会合)で、その後、6分間洗浄した(解離)。表面を、20mMのHClで10秒間再生した。参照細胞中で測定された応答(活性化/非活性化表面)を、固定化HER2を有する細胞中で測定された応答から差し引いた。BIAevaluation3.0.2ソフトウエア(Biacore AB)の1:1ラングミュア結合モデルを用いて、結合曲線(センサグラム)を分析した。図6(His6−ZHER2 A)および7(His6−ZHER2 B)に示された結合曲線から明らかなように、His6−ZHER2 Aに関しては10〜100nMの、His6−ZHER2 Bに関しては200〜400nMの表示されたKDを有する会合及び解離曲線により立証されるように、His6−ZHER2 AおよびHis6−ZHER2 Bはともに、HER2と明瞭に結合する。さらに、試験したHER2結合ポリペプチドのいずれもBB対照抗原およびgp120対照抗原とは結合しないことから(図4および図5)、該結合は選択的である。
【0081】
第二の動態実験では、His6−ZHER2 AおよびHis6−ZHER2 B変異体を再び、30μl/分の流量で、異なる濃度(0〜5μM、最小濃度:His6−ZHER2 Aに関しては0.0098μM、His6−ZHER2 Bに関しては0.0196μM;HBSで希釈)でHER2表面上に注入した。動態分析前に、アミノ酸分析によりタンパク質濃度を確定した。BIAevaluation3.2ソフトウエア(Biacore)を用いて、解離平衡定数(KD)、会合速度定数(ka)および解離速度定数(kd)を算定し、1対1結合であると推定した。最初の2つのビアコア(登録商標)分析に関しては、試料は、25℃で、順不同に2度流し、各回の注入の後には、10mMのHClの注入によりフローセルを再生した。結合曲線(図8A〜8B)の評価時に、解離平衡定数(KD)を、His6−ZHER2 Aに関しては約50nM、His6−ZHER2 Bに関しては約140nMであると確定した。KDの違いの理由は、おそらく、図4のグラフAを図5のグラフAと比較することにより分かるように、解離速度の顕著な差のためである。His6−ZHER2 Aに関しては、会合速度定数(ka)は、約1.8×105 M-1s-1および解離速度定数(kd)は約9.9×10-3 s-1であると算定され、一方、His6−ZHER2 Bに関しては、高速な会合および解離動態のため、kaおよびkdは見積もるのが難しかった。したがって、その標的とのより強力な結合を示すHis6−ZHER2 AAffibody変異体を、さらなる特徴付けのために選択した。
【実施例2】
【0082】
HER2を発現する細胞とのZHER2 Aの結合
細胞培養
約2×106HER2分子/細胞を発現することが知られているヒト乳癌細胞株SKBR−3を、ATCCから購入した(ATCC#HTB−30)。10%ウシ胎仔血清、2mMのL−グルタミンおよびPEST(100 IU/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン)(すべてBiochrom KG, Berlin, Germanyから)を補充したRPMI 1640培地中で細胞を培養した。細胞を、37℃で、5%CO2を含有する湿潤空気中で培養し、実験の3日前に3cmペトリ皿中に植え付けた。
【0083】
放射性標識
Orlova et al in Nucl Med Biol 27: 827-835 (2000)に従って、標識前駆体N−スクシンイミジルp−(トリメチル−スタンニル)ベンゾエート(SPMB)を調製し、5μgのSPMBを5%酢酸溶液中の5MBqの125Iに添加した。反応を開始するために、水溶液中の40μgのクロラミン−T(Sigma, St. Louis, MO)を添加した。反応混合物を5分間撹拌し、水溶液中の80μgのナトリウム−メタ−ビスルフェート(Aldrich, Steinheim, Germany)を添加して、反応を停止した。0.07Mのホウ酸緩衝液(pH9.2)中の40μgのHis6−ZHER2 AまたはHis6−ZHER2 Bに、該放射性標識前駆体を添加した。連続的に撹拌しながら、室温で45分間、カップリング反応を実施した。PBSで平衡化したNAP(商標)−5サイズ排除カラム(Amersham Biosciences)を用いて、標識ZHER2変異体を低分子量生成物から分離した。次に放射性標識ZHER2変異体をビアコア(登録商標)技法を用いて分析して、標識処理がHER2−ECDに対する結合親和性に影響を及ぼさなかったことを確認した。両ZHER2変異体は親和性保持を示した(データは示されていない)。
【0084】
細胞試験
約100,000個のSKBR−3細胞を有する各培養皿に、14ngの標識His6−ZHER2 AまたはHis6−ZHER2 Bを含む1mlの培地を添加した。この量は、理論的なリガンド:受容体比である5:1に相当する。細胞に由来しない非特異的結合を測定するために、細胞を含有しない3つの培養皿を同一方法で処理した。この値を、全ての他の値から差し引いた。細胞結合の特異性を分析するために、3つの培養皿を、標識されたZHER2変異体だけでなく、500倍過剰量の標識されていないZHER2変異体でも処理した。37℃で3時間のインキュベーション後、放射性培地を除去し、培養皿を氷冷無血清培地で3回、迅速に洗浄した。0.5mlのトリプシン/EDTA溶液(PBS中0.25%/0.02%;Biochrom KG, Berlin, Germany)を用いて、37℃で15分間、細胞をトリプシン処理した。次に細胞を1mlの培地中に再懸濁し、0.5mlの細胞懸濁液を細胞計数のために用い、残り1mlを自動ガンマーカウンターでの放射能測定のために用いた。
【0085】
図9に示したように、His6−ZHER2 Aは、2×106のHER2受容体/細胞を発現することが知られているSKBR−3細胞との特異的な結合を示した(「遮断なし」バー)。放射性標識His6−ZHER2 Aの結合は、過剰量の非標識His6−ZHER2 Aの添加により完全に遮断することができた(「遮断あり」バー)。しかしながら、SKBR−3細胞とのHis6−ZHER2 Bの結合は、おそらくはこのZHER2変異体に関するより迅速な解離速度の結果(上記参照)として、検出限界より低かった(データは示されていない)。
【実施例3】
【0086】
HER2結合ポリペプチド二量体の発現および特徴付け
DNA構築およびタンパク質産生
HER2受容体に対する親和性を有する新規のAffibodyリガンド(His6−ZHER2 Aと名づけられている)の選抜を、上に記した。ZHER2 Aポリペプチドをコードする遺伝子断片をHis6−ZHER2 Aのための発現ベクター中にサブクローニングすることにより、二量体ZHER2変異体を構築した。DNAシーケンサーABIプリズム(登録商標
)3700アナライザー(Applied Biosystems, Foster City, CA)によるDNAシーケンシングにより、ZHER2 A断片の導入を確認した。大腸菌RRIΔM15菌株(Ruther, Nucleic Acids Res 10: 5765-5772 (1982))を、クローニングを行う間、細菌宿主として用いた。その結果得られたベクターは、T7プロモーターの制御下で(Studier et al, Methods Enzymol 185: 60-89 (1990))、N末端ヘキサヒスチジン(His6)タグと融合した二量体ZHER2変異体(ZHER2 A)2をコードし、これにより固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)による精製が可能になる。
【0087】
二量体ZHER2変異体を、大腸菌BL21(DE3)菌株中でHis6−タグ化融合タンパク質として発現させて、実施例1において単量体ポリペプチドに関して記載されたように、変性条件下で、タロン(Talon)金属アフィニティー樹脂(8901−2、BD Biosciences, CA)カラムによるIMAC精製により回収した。メーカーのプロトコル(Amersham Biosciences)に従って、PBS(10mMのリン酸塩、154mMのNaCl(pH7.1))で平衡化したPD−10カラムを用い、ゲル濾過により、精製His6−(ZHER2 A)2融合タンパク質の再生を実施した。適切な吸光係数(30440M-1cm-1)を用いて、280nmでの吸光度測定値からタンパク質濃度を算定し、アミノ酸分析(Aminosyraanalyscentralen, Uppsala, Sweden)によっても確認した。Novexシステム(Novex, CA, USA)を用いて、トリス−グリシン16%均質ゲル上でのSDS−PAGEにより、精製タンパク質をさらに分析した。クマシーブリリアントブルー染色により、タンパク質帯域を可視化した。SDS−PAGE分析により、該タンパク質は、予測分子量(15.6kD)の明確な帯域として観察された(図10、挿入図のレーン2)。280nmでの吸光度測定値からの概算により、培養細胞lリットルあたり約200mgの発現レベルが実証された。
【0088】
バイオセンサー分析
リアルタイム生体特異的相互作用分析(BIA)のために、ビアコア(登録商標)2000機器(Biacore AB)を用いた。10mMのNaAc(pH4.5)で希釈したHER2の組換え細胞外ドメイン(HER2−ECD)を、メーカーの使用説明書に従って、アミンカップリングによりCM5センサーチップ(研究等級)(BR−1000−14、Biacore AB)の一方のフローセル表面のカルボキシル化デキストラン層上に固定した(約2200RU)。他方のフローセル表面を活性化及び非活性化して、参照用の表面として供した。ZHER2試料に関しては、メーカーのプロトコル(Amersham Biosciences)に従って、NAP(商標)−10カラムを用いて、ゲル濾過により、緩衝液をHBS(5mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%界面活性剤P20(pH7.4))へと変更し、その後試料を濾過した(0.45μm;Millipore, Billerica, MA)。結合分析を25℃で実施し、HBSをランニングバッファーとして用いた。全てのビアコア(登録商標)分析に関して;試料は順不同に2度繰り返して流し、各回の注入の後に、10mMのHClの注入により、フローセルを復元させた。
【0089】
第一の実験では、HER2−ECDとの結合における、単量体と二量体ZHER2タンパク質(実施例1のHis6−ZHER2 A及びHis6−(ZHER2 A)2)との差を、5μl/分の流量でのHER2−ECD表面上への5μMの各タンパク質の注入により検定した。図10から分かるように、His6−(ZHER2 A)2に関してより遅い解離速度(off-rate)が観察されたが、これは、HER−ECDとHis6−(ZHER2 A)2との結合が、His6−ZHER2 Aと比較してより強力であることを示す。
【0090】
第二の実験では、His6−(ZHER2 A)2を動態分析に付したが、ここでは、30μl/分の流量で、異なる濃度(0〜5μM、最小濃度として0.0049μM;HBS中に希釈)でHER2−ECD表面上にタンパク質を注入した。動態分析前に、アミノ酸分析によりタンパク質濃度を確定した。BIAevaluation3.2ソフトウエア(Biacore AB)を
用いて、解離平衡定数(KD)、会合速度定数(ka)および解離速度定数(kd)を算定し、1対1結合であると推定した。結合曲線の評価時に、解離平衡定数(KD)を、約3nMであると確定し、会合速度定数(ka)を、約2.5×105 M-1s-1及び解離速度定数(kd)を約7.6×10-4 s-1であると算定した。これらの値を、実施例1の単量体His6−ZHER2 Aに関して得られた動態定数と比較して、二量体His6−(ZHER2
A)2のより強力な結合を確認することができる。二量体構築物に関する親和性作用による、このような向上した明白な高親和性は、他のAffibody(登録商標)分子に関してはより早期に既に実証されている(Gunneriusson E et al, Protein Eng 12: 873-878 (1999))。
【実施例4】
【0091】
SKOV−3異種移植片を有するヌードマウスにおける、(ZHER2 A)2の生体内分布および腫瘍へのターゲッティング
本実施例を構成する実験では、実施例3のHis6タグ化二量体(ZHER2 A)2ポリペプチドを125Iで放射性標識し、HER2の過剰発現により特徴付けられる移植された腫瘍を保有するマウスに注入した。標識されたポリペプチドの局在化を調べるため、ペプチドを注入されたマウスの画像処理と同様に、該ポリペプチドの生体内分布の検査も実施した。Taq DNAポリメラーゼに対する結合親和性を有する標識されたZドメイン誘導体を、HER2に対する特異性を有さない対照として用いた(ZTaq;Gunneriusson E et al(上記参照)に記載され、その中ではZTaq S1-1として言及されている)。
【0092】
材料および方法
(ZHER2 A)2の間接的放射性ヨウ素標識
2.3μlの容量の125I(10MBqに相当する)(Na[125I]、Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)を、シリコン処理した微量遠心分離管に加えた。10μlの酢酸(水に0.1%)、5μlのN−スクシンイミジルp−トリメチル−スタンニル−ベンゾエート(の5%酢酸メタノール中で1mg/ml)(Koziorowski J et al, Appl Radiat Isot 49: 955-959 (1998)に従って調製)、ならびに10μlのクロラミン−T(4mg/ml水溶液)(CH3C6H4SO2N(Cl)Na・H2O、Sigma, St Louis, MO, USA)を添加した。多少混合しながら、5分間反応させた。次に、10μlのメタ亜硫酸水素ナトリウム(8mg/ml水溶液)(Na2S2O5、Sigma, St Louis, MO, USA)で、反応を終わらせた。40μlの容量の(ZHER2 A)2二量体(0.07Mのホウ酸緩衝液(pH9.2)(ホウ酸ナトリウム(Na2B4H7・10H2O)Sigma, St Louis, MO,
USAおよび塩酸(HCl)Merck, Darmstadt, Germany)中、0.25mg/ml)を、反応試験管に添加した。別の40μlのホウ酸緩衝液を、pHを約9に上げるために、各試験管に添加した。連続振盪しながら45分間反応させた後、メーカーのプロトコルに従って、PBSで平衡化したNAP−5サイズ排除カラム(Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)上で、反応成分を分離した。反応試験管、素通り画分、高MW画分、低MW画分およびカラムを、標識収率を算定するために、小型γ検出器(Mini-instruments Ltd, Essex, UK)を用いて60cm(125I)で測定した。後日使用するまで、20℃で、シリコン処理微量遠心分離管中に高分子量画分を貯蔵した。得られた収率は、25〜30%であった。
【0093】
ZTaqの間接的放射性ヨウ素標識
[125I]−NaIのストック溶液を、0.1%酢酸水溶液10μl、5μlのN−スクシンイミジルp−トリメチル−スタンニル−ベンゾエート溶液(5%酢酸メタノール中で1mg/ml)、および10μlのクロラミン−Tの水溶液(4mg/ml)と混合した。反応混合物を激しく撹拌し、振盪しながら室温で5分間、インキュベートした。10μlのメタ亜硫酸水素ナトリウムの水溶液(8mg/ml)で、反応を終了させた。PBS中のZTaq(2.4mg/ml)の溶液21μlを粗反応混合物に添加した。ホウ酸緩
衝液(0.1M、pH9.15)の添加により、反応混合物のpHを約9に調整した。振盪しながら30分間、室温で反応混合物をインキュベートし、溶離液としてPBSを用いて、PBS中の5%アルブミン(ウシ、分画V、Sigma, St Louis, MO, USA)で予備平衡化したNAP−5カラムを用い、高分子量画分(標識ZTaq)および低分子量画分に分離した。得られた放射性物質の収率は、75%〜80%であった。具体的な放射能は、100kBq/μgであった。
【0094】
動物の準備
M & Bからの雌非近交系nu/nu balbマウス(到着時に10〜12週齢)を、C181/1承認下で用いた。異種移植片を該マウスに移植する前の1週間、ルドベック研究所(Uppsala, Sweden)の動物施設で、標準的な食餌、寝床および環境を用い、マウスを順応させた。マウスは食餌および飲料水を自由に摂取した。
【0095】
第一の実験の2ヶ月前に、5×106個のSKOV−3ヒト卵巣癌細胞(ATCC#HTB−77)を33匹のマウスの右後足に皮下注射した。このグループを「A組」と名づけた。
【0096】
第二の実験の3週間前に、107個のSKOV−3細胞を32匹のマウスの両後足に皮下注射した。このグループを「B組」と名づけた。
【0097】
画像処理試験のために、大型の腫瘍を有する2匹のマウス(下記参照)をA組から取り出し、そして他の全てをB組から取り出した。
【0098】
実験時までに、腫瘍は全マウスにおいて定着していたが、サイズおよび状態はかなり小さく且つ異なった(被包性および侵潤、血管新生の段階)。使用時に、全マウスの体重は22〜27gであった。
【0099】
生体内分布実験I
A組からのマウス20匹を、各グループ4匹で5つのグループ(I〜V)に無作為に分けた。大型腫瘍を有するA組からの2匹は、画像処理試験に用いるために除外した。グループ、注射および屠殺の時間は、スキーム1に従った。
【0100】
PBS50μl中の125I(100kBq/マウス)で間接標識した(ZHER2 A)2 0.5μgをマウスの尾部に静脈注射した。IIグループ(「遮断グループ」)のマウスに対しては、PBS200μl中の0.05mgの非標識(ZHER2 A)2を皮下に予備注射した45分後に、標識(ZHER2 A)2を注射した。いかなる視覚的問題もないことから、全注射が良好に耐容されたと判断した。
【0101】
【表1】
【0102】
屠殺の5分前に、致死用量のケタラール/ロンプン溶液(20μl/体重1g、ケタラ
ール10mg/ml(Pfizer, New York, USA)、ロンプン1mg/ml(Bayer, Leverkusen, Germany))をマウスに腹腔内注射した。希釈ヘパリン(5000 IE/ml、Leo Pharma, Copenhagen, Denmark)で洗浄した1ml注射器を用いて、心臓穿刺により、屠殺時に血液を採取した。血液と、尿、筋肉、骨、大腸、小腸、心臓、膀胱、肺、肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、胃、唾液腺および甲状腺、脳、腫瘍および尾の試料を解剖し、重さを測った20mlプラスチックボトル中に回収した。B組からの数匹のマウスにおける複数の腫瘍の場合、全ての腫瘍を別個のボトル中に回収した。器官および組織の試料を計量し、それらの放射能をγ計数器(3インチNaI(T1)検出器を伴う自動γ計数器である1480 WallacWIZARD(Wallac OY, Turku, Finland))で測定した。
【0103】
生体内分布実験II
B組からのマウス24匹を、各グループ4匹で6つのグループに無作為に分けた。大型腫瘍を有するB組からの8匹は、画像処理試験に用いるために選択した。グループ、注射および屠殺の時間は、スキーム2に従った。
【0104】
PBS50μl中の125I(100kBq/マウス)で間接標識した(ZHER2 A)2 0.5μgを、IおよびグループIV〜VIのマウスの尾部に静脈注射した。グループIIのマウスを、同量の放射性ヨウ素標識(ZHER2 A)2を用いて、今回は尾の皮下に注射した。グループIIIのマウスの尾に、PBS50μl中の125I(100kBq/マウス)で間接標識したZTaq1.07μgを静脈注射した。いかなる視覚的問題もないことから、全注射が良好に耐容されたと判断した。
【0105】
【表2】
【0106】
生体内分布実験Iに関して上記したのと同様に、屠殺および試料の採取を実施した。この第二の実験では、胴体(carcass)も回収し、その放射能含量を測定した。器官および組織の試料を計量し、それらの放射能をγ計数器で測定した。
【0107】
放射能の測定
125Iの測定に関する標準プロトコルを用いた。バックグラウンドレベルを用いて補正した計数/分を、評価のために用いた。%ID/g(組織1gあたりの、注射された線量に対する百分率)として表される組織取込み値を、以下のように算出した。
%ID/g=[(組織の放射能/注射された放射能)/組織重量]×100
ここで、静脈注射に関しては、
注射された放射能=対照の注射器の平均放射能−使用した注射器の放射能−尾の放射能であり、皮下注射に関しては:
注射された放射能=対照の注射器の平均放射能−使用した注射器の放射能
である。
【0108】
画像処理試験
画像処理のために、全てのグループがA組からの大型腫瘍を有する1匹のマウスを含むということを考慮に入れつつ、各グループ5匹で2つのグループにマウスを分けた。B組からのマウスを無作為に抽出した。2グループのマウスに、PBS90μl中の125I(2.9MBq/マウス)で間接標識した(ZHER2 A)2 2.3μgを、それぞれ画像処理の6時間または8時間前に注射した。いかなる視覚的問題もないことから、全ての注射が良好に耐容されたと判断した。
【0109】
放射性複合体(radioconjugate)の注射後(pi)6時間および8時間目に、マウスの全身画像処理を実施した。マウスを強制排尿させて、致死量のケタラール/ロンプンの腹腔内注射により麻酔して、頚椎脱臼により殺害した。マウス(各グループ5匹)をe.CAMγカメラ(Siemens, Germany)中に置いて、各時点において10分間の画像を得た。大型腫瘍を有する2匹のマウス(各グループから1匹)を、露出時間を20分とした、同一カメラでの特別な画像を撮るために選択した。99%ウインドウサイズ、35keVエネルギーウインドウで、低エネルギー、高分解能絞りを用いて、256×256ビットマトリックスで画像を得た。Nuclear Diagnostics(Kent, UK)からのHermesソフトウエアを用いて、画像を評価した。
【0110】
結果
遮断実験
腫瘍中への(ZHER2 A)2の取込みが特異的で且つ受容体調節性であるか否かをはっきりさせるために、生体内分布実験Iにおける遮断実験を実施した。放射性ヨウ素標識二量体の主要静脈注射の前に、スキーム1のグループIIのマウスに、0.05mgの非標識(ZHER2 A)2を皮下注射した。グループIおよびグループIIにおける注射後1時間での放射能の取込みを比較した。マウスの2つのグループに関する腫瘍対血液比は、0.72(グループI平均)および0.25(グループII平均)であった(図11)。しかしながら、取込みの差は有意でなかった(p=0.16)。腫瘍を除く全ての器官において、放射能取込みは遮断ありおよび遮断なし、の動物の両方に関して同一であった。
【0111】
遮断なしマウスの場合における比較的低い腫瘍対血液比は、この実験では早い時点(注射後1時間)が選択されたことにより説明できる。
【0112】
取込みの特異性
生体内分布実験IIにおいて、グループIIIのマウスに、他のグループのマウスに注射した(ZHER2 A)2の量に相当する量のZTaqを注射した。(ZHER2 A)2に関すると同一の間接的な方法を用いて、放射性ヨウ素でZTaqを標識しておいた。ZTaqは、HER2受容体に対して非特異的である。グループIおよびグループIIIにおける注射後4時間での放射能の取込みを比較した。この実験の結果(図12)は、非特異的ZTaq分子が特異的(ZHER2 A)2分子より低い腫瘍取り込みを有する、ということを示した。この実験における腫瘍対血液比は、1.43(グループI、特異的(ZHER2 A)2)および0.15(グループIII、非特異的ZTaq)であった。統計学的分析により、差が有意である(p=0.009)ことが示された。他の器官すべてにおいて、放射能取込みは、両Z分子に関して同一レベルであった。
【0113】
遮断実験と比較した場合、(ZHER2 A)2に対する高い腫瘍対血液比が、この実験で観察された。これは、実験の時点がより遅い(注射後4時間)ためであると考えられた。
【0114】
生体内分布
標識された(ZHER2 A)2を静脈注射しておいた生体内分布実験IおよびIIにおけるマウスのグループからの結果を、腫瘍を保持するマウスの器官および組織中の放射性ヨウ素の生体内分布の分析と併せた。結果を図13〜図16に示す。
【0115】
図13および図14を参照すると、腫瘍中の125Iの濃度はほとんどの正常器官中の濃度より高く、このことは、(ZHER2 A)2ポリペプチドがHER2を保有する腫瘍細胞を標的とすることができることを示す。正常器官および組織中の放射能濃度は、腎臓(全時点)、甲状腺(全時点)および肝臓(早期時点)を除いて、腫瘍中よりも低いことが判明した。実験は、血液および正常器官からの放射性ヨウ素の迅速なクリアランスを示した。正常器官からのクリアランスは、放射性ヨウ素の蓄積が見出された甲状腺を除いて、主に血中クリアランスに次ぐものであった。遊離ヨウ素の甲状腺取込み増大は、間接的標識法に関してさえ既知であり、ある程度まで、「非アイソトープ」すなわち非放射性ヨウ素で防止され得る(Larsen RH et al, Nucl Med Biol 25: 351-357 (1998))。高濃度の放射性ヨウ素はマウスの腎臓においても見出されたが、これも腎臓がこのような小タンパク質および異化代謝産物のための主要排泄経路であるためと予測された。
【0116】
図15Aおよび図15Bは、血中および腫瘍中の放射性ヨウ素濃度の長時間にわたる経過を示す。注射後4時間から始めると、腫瘍放射能は、血液放射能より高かった。図15Aに示したような実験データを用いて、血液および腫瘍中の放射性ヨウ素の半減期を、GraphPadPrismcv3.0(GraphPad Software (San Diego, USA)社製)を用いて算定した。2相の指数関数的な崩壊に関する非線形回帰をモデルとして用い、得られたグラフを図15Bに示す。腫瘍に対するT1/2α(0.36時間)は、血液に対するもの(0.76時間)より短かったが、T1/2βは長かった(腫瘍では87.5時間に対し、血液では4.3時間)が、これは得られた結果と良好に一致する。比較のために、腫瘍を保有しない正常なマウスからの生体内分布データを用いて同一モデルで算定された標識二量体に対する血液中のT1/2αは、0.3時間であった(データは示されていない)。
【0117】
放射能濃度の腫瘍対血液比(図16)は、注射後少なくとも12時間の間、時間に伴って増大した。この比は、放射能画像処理における主バックグラウンドが血液中の放射能からのものであるため、画像のコントラストを見積もるのに好都合な因子である。腫瘍対血液比および腫瘍の放射能濃度を考慮に入れると、注射後6時間及び8時間が画像化のための最適時点であり得る、と結論づけられた。良好なコントラストを有する画像に対しては、腫瘍対非腫瘍の放射能濃度比は、2未満であるべきである。
【0118】
ガンマ画像
画像処理のために選択された各々5匹から成る2グループの各々から、ガンマ画像を撮影した(それぞれ注射後6時間および8時間)。両時点での全てのマウスにおいて、鮮明な構造を有する腎臓を同定することができた。いくつかのさらなる構造(おそらくは肝臓)が、注射後6時間のマウスの画像に、腎臓に重なって、全身血液プールからのバックグラウンド増大に加えて、認められる。いくつかの動物はそれらの膀胱中に多少の尿を有したが、これも直接観察される。注射後8時間のマウスに関する画像では、頚部領域のさらなる構造が同定され得るが、これはおそらく甲状腺である。
【0119】
各画像セッションにおける5匹の動物から、1つの大型侵潤腫瘍(SKOV−3注射の第一バッチから)が視覚化された。他の腫瘍の局在化は明白ではなかった。2匹の当該動物を付加的な画像処理セッションのために選択した。結果を図17に示す。
【0120】
要約
SKOV−3(卵巣癌細胞株)腫瘍を保有するマウスにおける、ベンゾエート基を介して放射性ヨウ素(125I)で間接的に標識された二量体ポリペプチド(ZHER2 A)2の生体内分布は、正常マウスにおける該二量体ポリペプチドの正常な生体内分布と良好な一致を示した。125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2として注射される放射性ヨウ素の腫瘍への取込みが達成された。腫瘍への取込みは、高濃度の非標識(ZHER2 A)2分子の予備注射
を用いた遮断実験により、且つ非特異的な、標識されたZ変異体ZTaqの注射により示されるように、受容体介在性かつ特異的であった。得られたデータの分析により、腫瘍中の放射能濃度が注射後4時間の血中の放射能濃度より高く、且つ腎臓および甲状腺を除いて、注射後6時間における大多数の正常器官および組織中より高い、ということが示された。SKOV−3異種移植腫瘍を保有するマウスのガンマ画像を、注射後6および8時間で得た。良好な分解能が達成された。両時点で、大きい侵潤腫瘍を明瞭に同定できた。
【実施例5】
【0121】
SKOV−3異種移植片を保有するヌードマウスにおけるHis6−ZHER2 A単量体の生体内分布および腫瘍へのターゲッティング
本実施例を構成する実験では、実施例1および2の単量体ZHER2 Aポリペプチドを125Iで放射性標識し、HER2の過剰発現により特徴付けられる移植された腫瘍を保有するマウスに注入した。該ポリペプチドの生体内分布の検査を、その局在化を調べるために実施した。
【0122】
材料および方法
ZHER2 Aの間接的放射性ヨウ素標識
125Iで標識するために、40μlの単量体His6−ZHER2 Aを、実施例4における二量体ポリペプチド構築物と同様の処理に付した。
【0123】
動物の準備
M & Bからの雌の非近交系nu/nu balbマウス(到着時、10〜12週齢)を、C66/4承認下で用いた。異種移植片をマウス中に移植する前の1週間、ルドベック研究所(Uppsala, Sweden)の動物施設で、標準的な食餌、寝床および環境を用い、マウスを順応させた。マウスは食餌および飲料水を自由に摂取した。実験の3週間前に、5×107個のSKOV−3ヒト卵巣癌細胞(ATCC#HTB−77)を16匹のマウスの右後足に皮下注射した。実験時までに、腫瘍は全てのマウスにおいて定着しており、全てのマウスの体重は22〜27gであった。
【0124】
放射能の測定
実施例4に記載されたように125I測定を実施し、%ID/gを算出した。
【0125】
生体内分布実験
マウス16匹を、各グループ4匹で4つのグループ(I〜IV)に無作為に分けた。グループ、注射および屠殺の時間は、スキーム3に従った。PBS50μl中の125I(100kBq/マウス)で間接標識したZHER2 A0.5μgをマウスの尾部に静脈注射した。いかなる視覚的問題もないことから、全注射が良好に耐容されたと判断した。
【0126】
【表3】
【0127】
実施例4の第一の生体内分布試験に記載したように、マウスを屠殺し、試料を採取した。器官および組織の試料を計量し、それらの放射能をγ計数器(3インチNaI(T1)検出器を伴う自動γ計数器である1480WallacWIZARD(Wallac OY, Turku,
Finland))で測定した。
【0128】
結果
標識されたZHER2 Aを皮下注射しておいたマウスのグループからの結果を、マウスの器官および組織中の放射性ヨウ素の分布を確証するために分析した。結果を図18〜図20に示す。図18および図19を参照すると、腫瘍中の125Iの濃度は、4時間および24時間で大多数の正常器官中での濃度より高く、このことはZHER2 AポリペプチドがHER2を保有する腫瘍細胞を標的にすることができる、ということを示す。正常な器官および組織中の放射能濃度は、腎臓(全時点)および甲状腺(全時点)を除いて、腫瘍中よりも低いことが判明した。実験は、血液および正常器官からの放射性ヨウ素の迅速なクリアランスを示した。正常器官からのクリアランスは、放射性ヨウ素の蓄積が見出された甲状腺を除いて、大抵の場合は血中クリアランスに次ぐものであった。高濃度の放射性ヨウ素はマウスの腎臓においても見出された。図20は、血中および腫瘍中の放射性ヨウ素濃度の長時間にわたる経過を示す。注射後4時間から始めると、腫瘍の放射能は、血液の放射能より6倍高かった。放射能濃度の腫瘍対血液比(図21)は、注射後少なくとも8時間の間(この時点での該比の値は10対1であった)、時間に伴って増大した。
【0129】
要約
SKOV−3(卵巣癌細胞株)腫瘍を保有するマウスにおける、ベンゾエート基を介して放射性ヨウ素(125I)で間接的に標識された単量体ポリペプチドZHER2 Aの生体内分布は、正常マウスにおける該ポリペプチドの正常な生体内分布と良好な一致を示した。125I−ベンゾエート−ZHER2 Aとして注射される放射性ヨウ素の腫瘍取込みが達成された。得られたデータの分析により、腫瘍中の放射能濃度が注射後4時間の血中の放射能濃度より高く、二量体の形態(ZHER2 A)2と比較した場合、腎臓および甲状腺を除いて、注射後4時間においてすでに大多数の正常器官および組織中より高い、ということが示された。
【実施例6】
【0130】
SKOV−3異種移植片を保有するヌードマウスにおけるABD(ZHER2 A)2の生体内分布および腫瘍へのターゲッティング
本実施例を構成する実験では、ABD(ZHER2 A)2と名づけられたポリペプチドを生成するために、実施例3の二量体(ZHER2 A)2ポリペプチドを、そのN末端で、連鎖球菌プロテインG由来の「アルブミン結合ドメイン」(ABD)と遺伝子操作によって融合した(図22)。ABDは、ヒトおよびマウス血清アルブミンに高い親和性で結合する(M Johansson et al, J Biol Chem 277: 8114-8120 (2002))。アルブミンは、緩徐な血漿クリアランスを有する血中に豊富なタンパク質である。アルブミンとの高親和性の結合は、アルブミンタンパク質それ自体と同様に、該結合剤に緩徐な動態を付与する。動物における腫瘍ターゲッティングリガンドの循環時間が延長されると、理論上、腫瘍に送達される用量は増加する。これを試験するために、ABD(ZHER2 A)2ポリペプチドを125Iで放射性標識し、HER2過剰発現により特徴付けられる移植された腫瘍を保有するマウスに注入した。ポリペプチドの生体内分布の検査を、その局在化を調べるために実行した。
【0131】
材料および方法
DNA構築およびタンパク質産生
His6−ZHER2 Aと名づけた、HER2受容体に対する親和性を有する新規のAffibodyリガンドの選択は、実施例1および2に記されている。ZHER2 Aポリペプチドをコードする遺伝子断片をHis6−ZHER2 A用の発現ベクター中にサブクローニングすることにより構築される二量体ZHER2変異体は、実施例3に記載された。ABDポリペプチドをコードする遺伝子断片をHis6−ZHER2 A用の発現ベクター中にサブクローニングし、ヘキサヒスチジンタグをABDポリペプチドで置換することにより、この二量体Z
HER2 A変異体のABD融合タンパク質を構築した。さらに、エクステンションPCRを利用して、C末端システイン残基を融合タンパク質に付加した。DNAシーケンサーABIプリズム(登録商標)3700アナライザー(Applied Biosystems, Foster City, CA)でのDNAシーケンシングにより、導入されたABD断片を確認した。大腸菌RRIΔM15菌株(Ruther, Nucleic Acids Res 10: 5765-5772 (1982))を、クローニングの間、細菌宿主として用いた。得られたベクターは、T7プロモーターの制御下で(Studier et
al, Meth Enzymol 185: 60-89 (1990))、ABDと融合した二量体ZHER2変異体(ABD(ZHER2 A)2)をコードしており、これはC末端がシステイン残基と融合されていることにより部位特異的な化学的修飾が可能である(図22)。二量体ZHER2変異体を、大腸菌BL21(DE3)菌株中でABDとの融合体として発現させて、メーカーのプロトコル(Amersham Biosciences)に従って調製されたアルブミンセファロースアフィニティーカラム上でのアフィニティークロマトグラフィー精製により、回収した。適切な吸光係数を用いて、280nmでの吸光度測定値からタンパク質濃度を算定した。Novexシステム(Novex, CA, USA)を用いて、トリス−グリシン16%均質ゲル上でのSDS−PAGEにより、精製タンパク質をさらに分析した。クマシーブリリアントブルー染色により、タンパク質帯域を可視化した。SDS−PAGE分析により、該タンパク質は、予測された分子量の明確な帯域として観察された。
【0132】
ABD(ZHER2 A)2の間接的放射性ヨウ素標識
125Iで標識するために、40μlのABD(ZHER2 A)2を、実施例4における二量体ポリペプチド構築物と同一の処理に付した。
【0133】
動物の準備
M & Bからの雌非近交系nu/nu balbマウス(到着時、10〜12週齢)を、C66/4承認下で用いた。異種移植片を該マウスに移植する前の1週間、ルドベック研究所(Uppsala, Sweden)の動物施設で、標準的な食餌、寝床および環境を用い、マウスを順応させた。マウスは食餌および飲料水を自由に摂取した。実験の3週間前に、5×107個のSKOV−3ヒト卵巣癌細胞(ATCC#HTB−77)を16匹のマウスの右後足に皮下注射した。実験時までに、腫瘍は全マウスにおいて定着しており、全マウスの体重は22〜27gであった。
【0134】
放射能の測定
実施例4に記載されたように、125I測定を実施し、%ID/gを算定した。
【0135】
生体分布実験
マウス16匹を、各グループ4匹の4つのグループ(I〜IV)に無作為に分けた。グループ、注射および屠殺の時間は、スキーム4に従った。50μlのPBS中の125I(100kBq/マウス)で間接標識した0.5μgのABD(ZHER2 A)2をマウスの尾部に静脈注射した。いかなる視覚的問題もないことから、全注射が良好に耐容されたと判断した。
【0136】
【表4】
【0137】
実施例4の第一の生体内分布試験に記載したように、マウスを屠殺し、試料を採取した。器官および組織の試料を計量し、それらの放射能をγ計数器(3インチNaI(T1)検出器を伴う自動γ計数器である1480WallacWIZARD(Wallac OY, Turku,
Finland))で測定した。
【0138】
結果
結果を図23〜図24に示す。図23を参照すると、腫瘍中の125Iの濃度は、12時間(腫瘍 2.4%ID/g)および24時間(腫瘍 2.2%ID/g)では、ほとんどの正常器官中の濃度より高く、このことは、ABD(ZHER2 A)2ポリペプチドがHER2を保有する腫瘍細胞を標的にし得る、ということを示す。正常な器官および組織中の放射能濃度は、腎臓(全時点、24時間で3.5%ID/g)、甲状腺(全時点、24時間で5.2%ID/g)および血液(全時点、24時間で3.9%ID/g)を除いて、腫瘍中よりも低いことが判明した。肺での値は、腫瘍での値とほとんど等価であるが、これは、肺中の血液含量が高いためかもしれない。実験は、血液からの放射性ヨウ素の非常に遅いクリアランスを示した。これは、ABD(ZHER2 A)2のABD部分が、緩徐な動態を有する血中に豊富なタンパク質である血清アルブミンと高親和性で結合するため、予測できることである。正常器官からのクリアランスは、放射性ヨウ素の蓄積が見出された甲状腺を除いて、血中クリアランスより迅速であった。高濃度の放射性ヨウ素はマウスの腎臓においても見出された。図24は、実施例4および5におけるZHER2 Aの単量体および二量体構築物に関して作成された結果と比較した場合の、腫瘍中のABD(ZHER2 A)2に関連した放射性ヨウ素濃度の長時間にわたる経過を示す。注射後24時間で、ABD(ZHER2 A)2を用いた際の腫瘍の放射活性は、単量体または二量体の場合より13倍高かったが、これは、標的部分の体内での残留時間の延長が実際に腫瘍上での線量を増大するために利用され得る、ということを示す。このデータにより(ZHER2 A)2部分をアルブミン結合ドメインに機能的に結合できる、ということも裏付けられる。
【0139】
要約
SKOV−3(卵巣癌細胞株)腫瘍を保有するマウスにおける、ベンゾエート基を介して放射性ヨウ素(125I)で間接的に標識された融合ポリペプチドABD(ZHER2 A)2の生体内分布は、予測されたアルブミン結合ポリペプチドの特性と良好な一致を示した。125I−ABD(ZHER2 A)2として注射された放射性ヨウ素の腫瘍への取込みが達成され、腫瘍での線量はZHER2 Aポリペプチドの二量体または単量体バージョンでのものより高かった。得られたデータの分析により、肺、腎臓、甲状腺および血液中の放射能は依然として高かったものの、腫瘍中の放射能濃度は注射後12時間でのほとんどの他の器官中の放射能濃度よりは高いことが示された。
【実施例7】
【0140】
テクネチウム標識二量体99mTc−(ZHER2 A)2の生体内分布
本実施例を構成する実験では、実施例3による二量体His6−(ZHER2 A)2ポリペプチドを、診断用画像処理核種99m−テクネチウムで標識し、正常マウス及びHER2過剰発現により特徴付けられる移植された腫瘍を保有するマウス中に注射した。99mテクネチウム(99mTc)は、in vivo診断のための理想に近い特性を有する放射性核種である。さらにこれは安価で且つ容易に入手可能であり、このことが99mテクネチウムを、病院における医学的画像処理のための望ましい候補にしている。該ポリペプチドの生体内分布の試験を実行して、その局在化を調べた。
【0141】
材料および方法
His6−(ZHER2 A)2のテクネチウム標識
His6−(ZHER2 A)2タンパク質上のヘキサヒスチジンタグへ99mTc核種を送達する市販のIsoLink(商標)キット(Mallinckrodt, Netherlands)を用いて、メーカーの使
用説明書に従って、His6−(ZHER2 A)2ポリペプチドを標識した。IsoLink(商標)キット試薬はテクネチウム陽イオン[99mTc(CO)3(H2O)3]+を生じ、これは次に、ヘキサヒスチジンタグにより安定的に配位結合されて、His6−(ZHER2 A)2ポリペプチドのHis6タグを特異的に標識するための手段を提供する。
【0142】
簡単に述べると、ウプサラ大学病院で発生器から溶離された99mTcストック溶液0.5〜0.6mlを、水浴中で、100℃で20分間、IsoLink(商標)カルボニル標識剤(DRN4335、Mallinckrodt)の内容物とともにインキュベートした。このようにして得られたテクネチウム陽イオン[99mTc(CO)3(H2O)3]+40μlを、PBS中のHis6−(ZHER2 A)2(1.2mg/ml)40μlと混合し、50℃で1時間インキュベートした。5kDの排除分子量を有するNAP−5サイズ排除カラム(Pharmacia, Uppsala)上での分離により、生成物を精製した。生成物の純度は、薄層クロマトグラフィーをすぐに行って確認したところ、97%であった。
【0143】
動物の準備
M & Bからの雌非近交系nu/nu balbマウス(到着時、10〜12週齢)を、C66/4承認下で用いた。異種移植片をマウス中に移植する前の1週間、標準的な食餌、寝床および環境を用い、ルドベック研究所(Uppsala, Sweden)の動物施設でマウスを順応させた。マウスは食餌および飲料水を自由に摂取した。実験の3週間前に、5×107個のSKOV−3ヒト卵巣癌細胞(ATCC#HTB−77)を4匹のマウスの右後足に皮下注射した。実験時までに、腫瘍は全マウスにおいて定着しており、全マウスの体重は22〜27gであった。
【0144】
放射能の測定
実施例4において125Iに関して記載したと同様に、99mTcの測定を実施し、%ID/gを算出した。
【0145】
生体内分布実験
4匹のマウスを有する1つのグループを実験に用いた。注射および屠殺の時間は、スキーム5に従った。50μlのPBS中の99mTc(100kBq/マウス)で標識した0.5μgのHis6−(ZHER2 A)2をマウスの尾部に静脈注射した。いかなる視覚的問題もないことから、全注射が良好に耐容されたと判断した。
【0146】
【表5】
【0147】
実施例4の第一の生体内分布試験に記載したように、マウスを屠殺し、試料を採取した。器官および組織の試料を計量し、それらの放射能をγ計数器(3インチNaI(T1)検出器を有する自動γ計数器。1480WallacWIZARD、Wallac OY(Turku, Finland)で測定した。
【0148】
結果
結合体99mTc−His6−(ZHER2 A)2は、in vitroで高い安定性を有した(PBS、血漿、システインおよび過剰量の遊離ヒスチジンで攻撃)。99mTc−His6−(ZHER2 A)2のin vivoでの生体内分布実験からの結果を、図25〜図27に示す。図25を参照すると、総腫瘍線量は、125I標識された単量体構築物である125I−
ベンゾエート−ZHER2 A(注射後8時間で1.1%ID/g)または二量体構築物である125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2(注射後8時間で1.06%ID/g)と比較した場合、99mTc−His6−(ZHER2 A)2(注射後8時間で、3.3%ID/g)を用いた場合は3倍高かった。99mTcは、125Iより良好な残留性物質であるということが既知であり、これは、99mTcでは送達された用量が残存する一方、ヨウ素では用量は代謝され、腫瘍細胞から放出されることを意味する。図26を参照すると、腫瘍中の99mTcの濃度は、注射後8時間においてはほとんどの正常器官より高かった(腫瘍 3.3%ID/g)が、これは、99mTc−His6−(ZHER2 A)2ポリペプチドがHER2を保有する腫瘍細胞を標的にし得る、ということを示す。正常器官および組織中の放射能濃度は、腎臓(8時間で27%ID/g、腫瘍線量の36倍)および肝臓(8時間で11.4%ID/g、腫瘍線量の3倍)を除いて、腫瘍中よりも低いことが判明した(図27)。99mTc−His6−(ZHER2 A)2は腎臓を介して除去されるため、腎臓での高い値が予測された。腎臓中の高レベルのトレーサーは毒性の問題を示さないが、これは、注射された総線量は診断目的であって非常に低いからである。甲状腺中の放射能の量は、予測どおり、125Iを用いた場合(実施例4)ほど高いことは全くなかった(8時間で1%ID/g)。正常器官からのクリアランスは、1時間をピークとする99mテクネチウムの蓄積が観察された腎臓を除き、主として血中クリアランスに次ぐものであった。レベルはその後低下し、1時間の間(注射後2時間まで)に急速排除期、その後、緩徐排除期が続き、24時間後においても腎臓中には依然としてかなりの線量(70%ID/g)が認められた。
【0149】
注射後8時間での該テクネチウム結合体に関する腫瘍対血液比は4であり、総腫瘍線量は3.3%ID/gであった。これは、99mテクネチウムがin vivo診断用途に用いられ得る、ということを示した。比較としては、同じ時点で、125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2および125I−ベンゾエート−ZHER2 Aの腫瘍線量は約1%であったが、腫瘍対血液比は約11であった。
【0150】
要約
SKOV−3(卵巣癌細胞株)腫瘍を保有するマウスにおける、99mTc標識ポリペプチド99mTc−His6−(ZHER2 A)2の生体内分布は、医療用画像処理目的にとって相対的に良好な分布特性を示した。99mTc−His6−(ZHER2 A)2として注射されたテクネチウムの腫瘍への取込みが達成され、腫瘍での線量は、ZHER2 Aポリペプチドの125I標識二量体または単量体バージョンに対するものより高かった。得られたデータの分析により、腫瘍中の放射能濃度は、実質的に腫瘍より高い取込みが肝臓および腎臓で認められるものの、注射後8時間ではほとんどの他の器官および血液中の放射能濃度よりは高いことが示された。
【実施例8】
【0151】
211Atを用いたin vitro標識および特徴付け
本実施例を構成する実験においては、実施例3による二量体His6−(ZHER2 A)2ポリペプチドを、125Iを用いた標識に関して上記したと同様の化学的手法を用いて、治療用放射性核種である211アスタチン(211At)で標識した。放射性核種の腫瘍へのターゲッティングの一目的は、放射線療法である。これは、標的細胞を根絶することができる高エネルギー粒子、例えばα粒子および高エネルギーβ粒子を放射する核種を要する。α放出放射性ハロゲン211At(T1/2=7.2時間)は、ごく少数の細胞の直径程度の飛程(range)を有しており、これは、細胞の根絶が高精度で起こり得ることを意味する。211At標識ポリペプチドのin vitroでの殺細胞能力の試験を実行した。
【0152】
材料および方法
2日前に、HER2過剰発現により特徴付けられる100,000個のSKBR−3細胞を、3cm培養皿に植え付けた。60μgのHis6−(ZHER2 A)2ポリペプチドを、
コペンハーゲン大学病院のScanditronixMC32サイクロトロン中で生成した211Atで標識して、Jorgen Carlsson(ウプサラ大学(Uppsala, Sweden))の研究室で精製した。約1:1および5:1モル比の211At−(ZHER2 A)2分子/細胞受容体を、3つの培養皿の各々に添加した。さらに3つの別の培養皿には、5:1濃度の211At−(ZHER2 A)2に加えて、結合部位を遮断することにより非特異的な放射の影響を概算することを目的として、500倍過剰量の非標識His6−(ZHER2 A)2を供給した。細胞を、37℃で24時間、211At−(ZHER2 A)2とともにインキュベートした。24時間のインキュベーション後、全細胞を洗浄し、新しい新鮮な培地を補給した。次に、約2ヶ月間、週に1回、それらの増殖をモニタリングした。
【0153】
並行して、上記の細胞殺滅検定に用いたのと同一方法で調製した一組の培養皿に、同じ211At−(ZHER2 A)2溶液を供給した。培養皿中の全グループに関する取込み曲線を確立するために、これらの細胞を異なる時点で採取し、細胞数を計数し、放射能含量を測定した。これらの曲線を用いて、細胞殺滅実験で用いた24時間に亘る、細胞当たりの崩壊量を算出した。
【0154】
結果
HER−2を過剰発現するヒト乳癌細胞株SKBR−3からの細胞を、2つの異なる用量の211At−(ZHER2 A)2に24時間曝露した。第一の用量では、添加した211At−(ZHER2 A)2分子は、細胞上のHER2標的受容体の数と等しかった。第二の用量では、211At−標識分子を5倍過剰量で添加した。24時間のインキュベーション後、週に1回、2ヶ月にわたって細胞をモニタリング、計数し、生存画分を確定した。図28で観察されるように、応答は、投与された用量に関連した。等モル量の211At−(ZHER2 A)2を投与された細胞は、放射能がターゲッティング剤を伴わずに添加される対照と比較して、いかなる特異的な増殖の遅延も示さなかった。非特異的な放射線傷害により短期間の増殖遅延が認められたが、しかし細胞は増殖を停止しなかった。これに対比して、211At−(ZHER2 A)2を5倍過剰量で添加した場合、細胞増殖の抑制は目覚ましいものであった。実験終了時、高用量投与グループは未だ正常な状態に回復していなかったが、一方、低用量および対照グループは106倍に増殖していた。生存細胞が実験前とほぼ同一の増殖率を照射後にも維持していると考えると、5:1グループ中の全細胞が根絶されたことになる。取込み曲線は、遮断処理された5:1グループも、おそらくは遮断が不十分であったために、細胞に対してかなりの量の照射を受けていた、ということを明示した。細胞あたりの崩壊数(DPC)を、統合した取込み曲線から概算した。増殖曲線から、指数増殖曲線の勾配として倍加時間を算出し、かつ、遅延した増殖の曝露時間への外挿により、生存画分を算定した。第1表に結果を示す。
【0155】
【表6】
【0156】
要約
211At−(ZHER2 A)2は、in vitroでHER2過剰発現SKBR−3細胞との特異的な結合を示した。誘導された細胞死は、蓄積された線量と良好に相関した。100未満の崩壊数/細胞は、単一の細胞を殺傷して完全に細胞を根絶するのに十分であることを示した。
【実施例9】
【0157】
付加的なHER2結合ポリペプチドの同定および特徴付け
実施例1に記載した選択から得られるHER2結合Z変異体の親和性を増大させるために、第二のライブラリーの構築(Gunneriusson et al, Protein Eng 12: 873-878 (1999); Nord et al, Eur J Biochem 268: 4269-77 (2001))と、その後のHER2に対する再選択とを包含する親和性の成熟戦略を適用した。第一世代のポリペプチド変異体ZHER2 A、B、CおよびDのアラインメントは、第13位、14位、28位、32位および35位での同一性とは別に、ZHER2 AおよびZHER2 B間に、第10位におけるRおよびKへの、そして第11位におけるQおよびTへの集中(convergence)が認められる、ということを示した。したがって第二世代のライブラリーは、5つの固定された位置、すなわち第13位、14位、28位、32位および35位、ならびに2つの部分的に固定された位置、すなわち第10位(縮重コドンとしてcgc/aaa)および第11位(縮重コドンとしてcaa/acc)を含有する一方、残りの第9位、17位、18位、24位、25位および27位は、NNG/T縮重コドンを用いて再び無作為化された。形質転換後、3×108クローンのライブラリーを得た。標的としてヒトHER2(HER2−ECD)のビオチニル化細胞外ドメイン(組換えヒトHER2細胞外ドメイン、アミノ酸238〜2109、Fox Chase Cancer Center, Philadelphia, USAによる提供)を用い、その濃度を低下させながら、抗原結合分子に対して5回の選択を施した。
【0158】
それぞれ4回および5回目に得られた80および260コロニーのクローンを、それらのHER2結合活性の分析を実施するために選別した。
【0159】
HER2結合の分析のためのABAS ELISA
4回および5回の選択から無作為に選択されるクローンを、96ウエルプレート(Nunc)中で生成させた。ABAS ELISAと呼ばれるELISAスクリーニング手法を用いて、高親和性HER2結合Z変異体を同定した。単一コロニーを、深穴96ウエルプレート中で1mMのIPTGおよび100μg/mlのアンピシリンを補充した1mlのTSB−YE培地(30.0gのトリプシンダイズブロス(Merck)および5.0gの酵母抽出物(Merck)、水で最終容積を1lとする)に接種し、37℃で一晩、振盪器上で増殖させた。3,000gで10分間の遠心分離により細胞をペレット化した。ペレットを300μlのPBS−T中に再懸濁し、−80℃で少なくとも30分間凍結させた。プレートをぬるま湯中で解凍し、3,500gで20分間遠心分離した。100μlの上清を微量滴定ウエル(#9018 Costar(登録商標))に入れて、これを4℃で一晩、15mMのNa2CO3および35mMのNaHCO3(pH9.6)中の6μg/mlのヒト血清アルブミン(HSA)と共にインキュベートし、室温で1時間、PBS−T中の2%粉末スキムミルクでブロッキングしておいた。プレートを4回洗浄した後、1μg/mlのビオチニル化HER2/ウエル100μlを添加し、1.5時間インキュベートした。ウエルを4回洗浄した後、ストレプトアビジン−HRP(1:5,000)(#P0397 Dako)を添加し、1時間インキュベートした。ウエルを4回洗浄し、最終洗浄後、100μlの展開溶液(ImmunoPure)TMB(#34021 Pierce)を各ウエルに添加した。20〜30分後、100μlの停止溶液(2MのH2SO4)を、各ウエルに添加した。450nmでの吸光度をELISA読取器(Tecan)で測定した。ABAS ELISAからの結果を図29に示す。図29Aおよび図29BのグラフのX軸は、該96ウエルプレートのウエルの番号に対応する。したがって図29Aは第一の96ウエルプレートに関するELISA結果を示し、一方、図29Bは第二のプレートに関する結果を示す。
【0160】
DNA配列分析
ABAS−ELISAで分析したZHER2変異体をコードするDNAのシーケンシングを
、ビオチニル化オリゴヌクレオチドAFFI−72(5’−ビオチン−CGGAACCAGAGCCACCACCGG)を用いて、製造者の推奨に従って、ABIプリズム(登録商標)、dGTP、ビッグダイ(商標)ターミネーターv3.0レディリアクションサイクルシーケンシングキット(Applied Biosystems)を用いて実施した。ABIプリズム(登録商標)3100遺伝子分析器(Applied Biosystems)で、配列を分析した。配列分析は、130の独特の配列を生じた。ネガティブ対照の値より少なくとも2倍高い吸光度値により立証されるような、ABAS ELISA実験で結合を示したZHER2変異体かに由来する配列は図1に示されており、配列番号6〜76として配列表で同定される。これらのHER2結合Z変異体の命名法は、以下の通りである。ELISA実験の第一のプレートから単離された変異体(図29A)は、ZHER2:1NNと呼ばれ、この場合、NNはその特定のポリペプチド変異体が分析された第一のプレート中のウエルの番号に対応する。ELISA実験の第二のプレートから単離された変異体(図29B)は、ZHER2:2NNと呼ばれ、この場合、NNはその特定のポリペプチド変異体が分析された第二のプレート中のウエルの番号に対応する。
【0161】
クローニングおよびタンパク質産生
図30で模式的に示されている構築物をコードする発現ベクターを用いて、大腸菌細胞中で、選定したHER2結合ポリペプチドを発現させた。N末端ヘキサヒスチジルタグとの融合体として、該ポリペプチドを生成させた。His6−タグ化ポリペプチドZHER2:101、ZHER2:107、ZHER2:149、ZHER2:202、ZHER2:205、ZHER2:207、ZHER2:209、ZHER2:222、ZHER2:225およびZHER2:229、ならびにZHER2 Aを、変性条件下で、BioRobot3000(Qiagen)およびNI−NTA Superflow96BioRobot手法を用いて精製した。精製されたHis6−タグ化タンパク質を、PBS(2.68mMのKCl、137mMのNaCl、1.47mMのKH2PO4、8.1mMのNa2HPO4、pH7.4)中で透析した。試料のタンパク質濃度を、280nmでの測定吸光度値およびそれぞれのタンパク質の理論的吸光係数から算出した。
【0162】
His6−タグ化ZHER2変異体のバイオセンサー分析
前節により産生されたHisタグ化ZHER2変異体とHER2との間の相互作用を、ビアコア(登録商標)2000システム(Biacore AB, Uppsala, Sweden)での表面プラズモン共鳴を用いて分析した。ヒトHER2およびIgG(免疫グロブリンG)を、製造者の推奨に従って、CM−5チップの表面のカルボキシル化デキストラン層上へのアミンカップリングにより、別個のフローセル中に固定した。ヒトHER2およびIgGの固定化は、それぞれ4,600および5,100共鳴単位(RU)を生じた。第三のフローセル表面を活性化し、及び注入の間のブランクとして用いるために不活性化した。融合ポリペプチドZHER2:101、ZHER2:107、ZHER2:149、ZHER2:202、ZHER2:205、ZHER2:207、ZHER2:209、ZHER2:222、ZHER2:225およびZHER2:229を、1×HBS−EP(5mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%界面活性剤P−20、pH7.4)により希釈して、最終濃度を50nMとし、10μl/分の一定流量で注入した。総注入時間は2分(会合)で、その後3分間洗浄した(解離)。表面を、25mMのHClの2回の注入により再生した(30秒/注入)。参照細胞中で測定された応答(活性化/不活性化表面)を、固定化されたHER2を有する細胞中で測定された応答から差し引いた。HER2と相互作用する精製タンパク質の能力を、図31のセンサグラムにより例示されるように、確認した。
【実施例10】
【0163】
付加的なHER2結合ポリペプチドの同定および特徴付け
実施例1に記載した選択の3回目および4回目に得られるクローンの包括的な配列分析を実施した。製造者の推奨に従って、ABIプリズム(登録商標)、dGTP、ビッグダイ(商標)ターミネーターv3.0レディリアクションサイクルシーケンシングキット(
Applied Biosystems)を、そしてABIプリズム(登録商標)3100遺伝子分析器(Applied Biosystems)を用いて、DNAをシーケンシングした。ビオチニル化オリゴヌクレオチドAFFI−72(5’−ビオチン−CGGAACCAGAGCCACCACCGG)を、プライマーとして用いた。配列分析は、11の新規のポリペプチド配列、即ち実施例1に記載した試験において見出されなかったクローンを明示した。
【0164】
図30に模式的に例示される構築物をコードする発現ベクターを用いて、大腸菌細胞中でこれらのZ変異体を発現させることを決定した。その結果、N末端ヘキサヒスチジルタグとの融合体として、ポリペプチドが生成された。変性条件下で、BioRobot 3000(Qiagen)およびNI−NTA Superflow96BioRobot手法を用いて、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)により、該ポリペプチドを精製した。溶離したタンパク質を、SDS−PAGE上で分析した。精製His6−タグ化タンパク質の緩衝液を、製造者の推奨に従って、PD−10カラム(Amersham Biosciences)を用いて、5mMのNH4Acに交換した。その後、タンパク質を凍結乾燥し、HBS−EP(5mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%界面活性剤P−20、pH7.4)中に溶解した。試料のタンパク質濃度を、280nmでの測定吸光度値、ならびにそれぞれのタンパク質の理論的吸光係数から算定した。
【0165】
His6−タグ化ZHER2変異体のバイオセンサー分析
His6タグ化ZHER2変異体とHER2との間の結合活性を、ビアコア(登録商標)2000(Biacore AB, Uppsala, Sweden)を用いて分析した。ヒトHER2およびHIV−1gp120(Protein Sciences Corporation、#2003−MN)を、製造者の推奨に従って、CM−5チップの表面のカルボキシル化デキストラン層上へのアミンカップリングにより、別個のフローセル中に固定した。ヒトHER2およびHIV−1gp120の固定化は、それぞれ2631および3138共鳴単位(RU)を生じた。第三のフローセル表面を活性化し、及び注入を行う間のブランクとして用いるために不活性化した。ZHER2変異体を、1×HBS−EP(5mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%界面活性剤P−20、pH7.4)中に希釈して、最終濃度を1μMとし、10μl/分の一定流量で注入した。総注入時間は1分(会合)で、その後3分間洗浄した(解離)。表面を、10mMのHClの30秒間の注入により再生した。参照細胞中で測定された応答(活性化/不活性化表面)を、固定化HER2を有する細胞中で測定された応答から差し引いた。3つの精製タンパク質ZHER2:3035、ZHER2:0434およびZHER2:0024*は、図32のセンサグラムにより例示されるように、HER2と特異的に結合した。これらのZHER2変異体の配列は図1に示されており、配列番号77〜79として配列表で同定される。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1−1】配列表に示された配列のアラインメントを示す。本発明のポリペプチドZHER2(配列番号2〜79で表す)中の修飾を施されたアミノ酸の位置は、太字で示される。
【図1−2】配列表に示された配列のアラインメントを示す。本発明のポリペプチドZHER2(配列番号2〜79で表す)中の修飾を施されたアミノ酸の位置は、太字で示される。
【図1−3】配列表に示された配列のアラインメントを示す。本発明のポリペプチドZHER2(配列番号2〜79で表す)中の修飾を施されたアミノ酸の位置は、太字で示される。
【図2】実施例1で産生される融合ポリペプチドのアミノ酸配列の模式図である。ZHER2は、配列番号2〜3から選択される配列を有するHER2結合ドメインを表し、His6はヘキサヒスチジルタグを表す。
【図3】精製された融合タンパク質のゲル電気泳動の結果を示す。レーン1:His6−ZHER2 A(8.7kDa);レーン2:His6−ZHER2 B(8.7kDa);M:分子量マーカー(LMW−SDSマーカーキット、Amersham Biosciences #17−0446−01)。
【図4】His6−ZHER2 A融合タンパク質10μMを、A:HER2、B:HIV−1gp120、およびC:BB、が固定されたセンサーチップ表面に対して注入した後に得られた、ビアコア(登録商標)センサグラムを示す。
【図5】His6−ZHER2 B融合タンパク質10μMを、A:HER2、B:HIV−1gp120、およびC:BB、が固定されたセンサーチップ表面に対して注入した後に得られた、ビアコア(登録商標)センサグラムを示す。
【図6】HER2が固定されたセンサーチップ表面に対し、His6−ZHER2 A融合タンパク質を、A:1μM;B:2μM;C:5μM;D:10μM;E:20μM;F:40μM、注入した後に得られたビアコア(登録商標)センサグラムを示す。
【図7】HER2が固定されたセンサーチップ表面に対し、His6−ZHER2 B融合タンパク質を、A:1μM;B:2μM;C:5μM;D:10μM;E:20μM;F:40μM、注入した後に得られたビアコア(登録商標)センサグラムを示す。
【図8A】His6−ZHER2 Aを、以下の選定した濃度:312.5nM(黒菱形)、156.3nM(黒丸)、78.2nM(黒三角)、39.1nM(白四角)、19.6nM(白菱形)および9.8nM(白丸)で、HER2−ECDフローセル表面に対して注入した後に得られたビアコア(登録商標)センサグラムを示す。
【図8B】His6−ZHER2 Bを、以下の選定した濃度:625nM(黒四角)、312.5nM(黒菱形)、156.3nM(黒丸)、78.2nM(黒三角)、39.1nM(白四角)および19.6nM(白菱形)で、HER2−ECDフローセル表面に対して注入した後に得られたビアコア(登録商標)センサグラムを示す。
【図9】His6−ZHER2 Aの、SKBR−3細胞への結合特異性を示す。125I標識His6−ZHER2 AはSKBR−3細胞と、理論的には5:1のリガンド:HER2受容体比で結合できると見積もられた。値は3つの測定値の平均である。誤差バーは標準偏差を表す。
【図10】アミン結合HER2−ECDを含有するセンサーチップフローセル表面に対し、精製His6−ZHER2 A(中白四角)およびHis6−(ZHER2 A)2(中黒四角)を注入した後に得られたビアコア(登録商標)センサグラムを示す。曲線のy値を、0〜100の共鳴単位間に標準化した。挿入されているSDS−PAGEゲル(トリス−グリシン16%均質ゲル、還元条件)像は、発現させてIMACで精製したHis6−ZHER2 A(レーン1)およびHis6−(ZHER2 A)2(レーン2)を示す。レーンM:分子量(キロダルトン)を有するマーカータンパク質。
【図11】125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2注射1時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布の比較を示す。遮断あり:非標識(ZHER2 A)2を予備注射されたマウスに関するデータ。遮断なし:予備注射なしのマウスに関するデータ。
【図12】125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2(Z4二量体)または125I−ベンゾエート−ZTaq(Z Taq4:5)注射4時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布の比較を示す。
【図13】125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2注射後の種々の時間での腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布を示す。2つの生体内分布実験からのデータを組合せて示す。注射後4時間に関するデータは、両実験からの平均である。
【図14】125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2注射8時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布を示す。
【図15】血液および腫瘍中の放射能濃度の比較を示す。2つの生体内分布実験からのデータを組合せて示す。A:実験データ。B:2相指数関数的崩壊モデルによる非線形回帰を用いてフィッティングした曲線。
【図16】放射能濃度の腫瘍対血液比を示す。2つの生体内分布実験からのデータを組合せて示す。
【図17】125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2結合体の尾部静脈注射後6時間(左マウス)および8時間(右マウス)における、腫瘍保有マウス(SKOV−3)の全身γカメラ画像である。
【図18】125I−ベンゾエート−ZHER2 A注射4時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布を示す。
【図19】125I−ベンゾエート−ZHER2 A注射24時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布を示す。
【図20】125I−ベンゾエート−ZHER2 A注射後の種々の時間における腫瘍保有ヌードマウスの腫瘍および血液中の放射性ヨウ素の動態を示す。
【図21】125I−ベンゾエート−ZHER2 A注射後の放射能の腫瘍対血液比を示す。
【図22】実施例6で産生される融合ポリペプチドのアミノ酸配列の模式図である。ZHER2 Aは、配列番号2で示される配列を有するHER2結合ドメインを表し、ABDは連鎖球菌プロテインGに由来するアルブミン結合ドメインを表す。
【図23】125I−ベンゾエート−ABD(ZHER2 A)2の注射後12時間(灰色)および24時間(白色)の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布を示す。
【図24】(A):125I−ABD(ZHER2 A)2、(B):125I−(ZHER2 A)2、および(C):125I−ZHER2 A、注射後の種々の時点での腫瘍保有ヌードマウスの腫瘍中の放射性ヨウ素の動態を示す。
【図25】125I−ベンゾエート−ZHER2 A、125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2、および99mTc−(ZHER2 A)2の送達された用量の比較を示す。
【図26】99mTc−(ZHER2 A)2注射8時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布を示す。
【図27】99mTc−(ZHER2 A)2注射8時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける選択した器官中の放射能の比較を示す。
【図28】211At−(ZHER2 A)2に24時間曝露した後のSKBR−3細胞の増殖を示すグラフである。曲線Aの黒丸は、曝露なしの細胞を示し、曲線Bの白四角は、中程度に曝露された細胞を示し、曲線Dの灰色四角は、高レベルの211At−(ZHER2 A)2に曝露された細胞を示す。曲線Cの灰色三角は、500倍過剰量の非標識His6−(ZHER2 A)2と組合せて高レベルの211At−(ZHER2 A)2に曝露された細胞を示す。値は3つの実験の平均であり、誤差バーは標準偏差を表す。
【図29】A及びBは、4回目および5回目の親和性の成熟の選択から採取したクローンの結合活性を確定するための、ABAS ELISAからの結果を示す。
【図30】実施例9および10で産生される融合ポリペプチドのアミノ酸配列の模式図である。ZHER2は、本発明の第一の態様のHER2結合ポリペプチドを表し、His6はヘキサヒスチジルタグを表す。
【図31】概算で50nMの濃度でHER2被覆表面に注入した場合の、本発明の10の親和性の成熟したHER2結合ポリペプチドから得られたセンサグラムのオーバーレイしたプロットである。A:ZHER2:205;B:ZHER2:149;C:ZHER2:202;D:ZHER2 A;E:ZHER2:222;F:ZHER2:225;G:ZHER2:209;H:ZHER2:229;I:ZHER2:207;J:ZHER2:107;K:ZHER2:101。ここで留意すべきは、第一世代ライブラリーを用いた選択から単離されたZHER2 Aを試験に付加した、ということである。
【図32】特異的なHER2結合活性を有するZHER2変異体の結合分析結果を示す。図中に示されているHER2またはHIV−1gp120を含有するセンサーチップ表面に対し、(A)ZHER2:3053(B)ZHER2:0434(C)ZHER2:0024*を注入することにより得られたオーバーレイ・センサグラムである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト上皮細胞成長因子受容体2(以後、HER2と呼ぶ)と結合する新規のポリペプチドに関する。該ポリペプチドは、ブドウ球菌のプロテインA(SPA)のドメインに関連するものであって、該ポリペプチドの配列は少なくとも1つの置換変異を有するSPAドメインの配列に相当する。本発明は、このようなHER2結合ポリペプチドの薬剤としての使用に関し、より具体的には、HER2の過剰発現により特徴付けられる種類の癌の治療用薬剤を調製するための該ポリペプチドの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
Affibody(登録商標)分子
ブドウ球菌のプロテインA(SPA)のドメインBに由来するプロテインZに関連した分子(Nilsson B et al (1987) Protein Engineering 1, 107-133)が、このような分子の無作為化されたライブラリーから、種々の相互作用標的を用いて選択されている(例えばWO95/19374;WO00/63243;Nord K et al (1995) Prot Eng 8: 601-608; Nord K et al (1997) Nature Biotechnology 15, 772-777参照)。種々の標的分子を用いて、例えばNord K et al (1997、上述)に記載されているようなプロテインZ誘導体を選択する。この参考文献に記載された実験は、特定の治療またはバイオテクノロジーへの応用に用いるための十分に高い親和性を有する分子を得るという明確な目的をもった研究というよりはむしろ、所定の標的に対するプロテインZ誘導体を選択するという一般的な技法の原理の概要を記したものである。
【0003】
HER2および癌疾患におけるその役割
HER2癌原遺伝子は、HER2タンパク質または受容体として既知である185kD細胞表面受容体タンパク質の産生をコードする(Hynes NE et al (1994) Biochim Biophys Acta 1198: 165-184)。この遺伝子は、時として、neu、HER2/neuまたはc−erbB−2とも呼ばれる.neuは、エチルニトロソ尿素で処理され、この遺伝子の突然変異を示すラットで最初に発見されたものである(Shih C et al (1981) Nature 290: 261-264)。突然変異型のneuは、構成的な活性型受容体の産生を引き起こし、低コピー数で細胞を形質転換し得る強力な癌遺伝子を構成する(Hynes NE et al、上記を参照)。
【0004】
正常細胞は、組織特異的パターンで、その形質膜上に少量のHER2タンパク質を発現する。HER2に対する既知のリガンドは明らかにされていない。しかしながら、HER2は、HER1(上皮細胞成長因子受容体(EGFR))、HER3およびHER4とともに、これらの受容体に対するリガンドと複合してヘテロ二量体を形成することが示されている。このようなヘテロ二量体の形成は、細胞の外側から核に成長シグナルを伝達し、それにより正常細胞の成長および分裂の局面を制御する活性化HER2受容体をもたらす(Sundaresan S et al (1999) Curr Oncol Rep 1: 16-22)。
【0005】
腫瘍細胞では、DNA複製システムの誤りが単一染色体上の遺伝子の多重コピーの存在を生じ得るが、これは遺伝子増幅として既知の現象である。HER2遺伝子の増幅は、この遺伝子の転写増大をもたらす。これはHER2のmRNAレベルを上昇させ、同時にHER2タンパク質の合成を増大させ、これらの腫瘍細胞の表面におけるHER2タンパク質の過剰発現を引き起こす。この過剰発現は、隣接の正常細胞中に見出されるものと比べて10〜100倍高いHER2タンパク質レベルを生じ得る。これは次に、細胞分裂増大及びそれに付随した高速度の細胞成長を生じる。HER2遺伝子の増幅は、正常細胞の癌表現型への形質転換に関連づけられる(Hynes NE et al、上記を参照; Sundaresan S et
al、上記を参照)。
【0006】
HER2タンパク質の過剰発現はHER2のホモ二量体の形成を引き起こし、次いでこれは構成的に活性な受容体を生じると考えられている(Sliwkowski MX et al (1999) Semin Oncol 26 (4 Suppl 12): 60-70)。これらの条件下で、成長促進シグナルは、リガンドの存在なしに、細胞中に継続的に伝達され得る。その結果として、多数の細胞内シグナル伝達経路が活性化されるようになり、無秩序な細胞成長を生じ、そして場合によっては、発癌性の形質転換を生じる(Hynes NE et al、上記を参照)。したがって成長因子受容体により媒介されるシグナル伝達メカニズムは、細胞複製および腫瘍増殖を抑制するための重要な標的である。
【0007】
乳癌は、米国における女性の間で最も一般的な悪性疾患であり、192,200例の新規の症例が2001年に生じたと見積もられている(Greenlee R et al (2001) CA Cancer J Clin 51: 15-36)。全乳癌患者の約25%において、HER2遺伝子の、増幅に起因する過剰発現が認められる(Slamon DJ et al (1989) Science 244: 707-712)。このHER2タンパク質の過剰発現は、いくつかの否定的な予後変数、例えばエストロゲン受容体の陰性状態、高いS相画分、陽性の結節状態、変異型p53および核異型度と相関する(Sjogren S et al (1998) J Clin Oncol 16(2): 462-469)。Slamon等(上記参照)によれば、HER2遺伝子の増幅は、無病生存率の短縮、及び結節が陽性の患者の全生存率(overall survival)の短縮と強く相関することが見出された。
【0008】
これらの理由により、乳癌の病因および治療におけるHER2の役割をさらに研究することがこれまでの重要な目標であったし、依然としてそうである。HER2と相互作用する分子の同定は、この努力の一部を形成する。
【0009】
前臨床in vitro試験によって、HER2活性の抑制が腫瘍細胞の増殖に影響を及ぼし得るか否かを検査した。HER2タンパク質を過剰発現するSK−BR−3乳癌細胞を、いくつかあるネズミ抗HER2モノクローナル抗体のうちの1つである4D5を用で処理すると、対照のモノクローナル抗体での処理と比較して、腫瘍細胞の増殖が実際に抑制された。HER2を過剰発現するヒト乳癌および卵巣癌を保有する(異種移植片)マウスへの4D5の投与は、それらマウスの無腫瘍生存時間を延長した。同様の試験により、マウスにおけるヒト胃癌異種移植片の抗HER2モノクローナル抗体による増殖抑制が実証された(Pietras RJ et al (1994) Oncogene 9: 1829-1838)。
【0010】
抗体を用いて腫瘍細胞の表面上に豊富に存在するHER2タンパク質を抑制するためのアプローチの中で、一療法が近年市販されるようになってきた。したがってモノクローナル抗体4D5すなわちトラスツズマブが、ハーセプチン(Herceptin)(登録商標)の商品名でF Hoffman-La Roche および Genentechによりこの目的のために市場に出されている。
【0011】
HER2タンパク質の過剰発現により特徴付けられる癌に対する抗体療法により示される明らかな利点にもかかわらず、種々の因子が抗体効力を低減する潜在力を有するという事実が依然として存在する(例えばReilly RM et al (1995) Clin Pharmacokinet 28: 126-142参照)。これらの例としては以下のものが挙げられる。(1)大型の固形腫瘍中への又は脳のような生命維持領域中への抗体の浸透制限(2)血管透過性の低下による、標的部位への抗体の血管外浸出の減少(3)ターゲッティング作用を低下させる、抗体の正常組織との交差反応性および非特異的結合(4)腫瘍による不均一な取込みによる、処理されない帯域の発生(5)治療効果を低下させる注入された抗体の代謝の増大、ならびに(6)治療用抗体を不活性化する、HAMAおよびヒト抗ヒト抗体の急速な生成である。
【0012】
さらに、毒性作用が、癌に関する治療用抗体の開発における大きな障害であった(Carter P (2001)Nat Rev Cancer 1: 118-129; Goldenberg DM (2002) J Nucl Med 43: 693-713; Reichert JM (2002) Curr Opin Mol Ther 4: 110-118)。健常組織との交差反応性は、非結合(裸の)抗体に対する実質的な副作用を引き起こし得るが、この副作用は該抗体が毒素または放射性同位体と結合した際に増強されることがある。免疫介在性の合併症としては、肺への毒性作用による呼吸困難、偶発的な中枢および末梢神経系合併症、ならびに肝機能および腎機能の低下が挙げられる。時には、予期せぬ中毒性合併症、例えばHER−2ターゲッティング抗体トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))に関連した心毒性作用が観察され得る(Schneider JW et al (2002) Semin Oncol 29(3 suppl 11): 22-28)。放射性同位体を結合した抗体を用いた放射免疫療法も骨髄抑制を引き起こし得る。
【0013】
したがって、一般的に用いられる抗癌抗体の、近年の臨床的および商業的成功にもかかわらず、この治療戦略の将来に関する相当数の重大な疑問が依然として存在する。その結果、HER2に対して同程度の親和性を有する薬剤を継続して提供することは、疾患の治療においてこのような分子の利用法を提供することと同様に、依然として当該技術分野内での多大な関心事である。
【発明の開示】
【0014】
HER2との特異的な結合を特徴とするポリペプチドの提供によってこの関心を満足させることが、本発明の一目的である。
【0015】
本発明に関連する目的物は、非特異的結合をほとんどまたは全く示さないHER2結合ポリペプチドである。
【0016】
本発明の別の目的は、融合ポリペプチド中の一部として容易に用いられ得るHER2結合ポリペプチドを提供することである。
【0017】
別の目的は、既存の抗体試薬に関連して経験される既知の問題のうちの1または複数を解決する、HER2結合ポリペプチドの提供である。
【0018】
本発明のさらなる目的は、治療的用途に用い易いHER2結合ポリペプチドを提供することである。
【0019】
関連する目的は、HER2タンパク質の過剰発現により特徴付けられる癌疾患の臨床設定における、治療、抑制および/またはターゲッティングのための新規の方法を見出すことである。
【0020】
低濃度でHER2の検出用試薬として用いることができる分子を提供することも一目的である。
【0021】
これらのおよびその他の目的は、添付の特許請求の範囲で主張されているような本発明の様々な態様により達成される。したがって第一の態様において、本発明は、HER2に対する結合親和性を有し、かつブドウ球菌のプロテインA(SPA)のドメインに関連したポリペプチドであって、該ポリペプチドの配列は1〜約20の置換変異を有するSPAドメインの配列に相当する、ポリペプチドを提供する。
【0022】
本発明のこの態様によるポリペプチドの実施の一形態では、HER2に対するその親和性は、相互作用のKD値が最大でも1×10-6Mであるようなものである。別の実施形態では、HER2に対するポリペプチドの親和性は、相互作用のKD値が最大でも1×10-
7Mであるようなものである。
【0023】
別の実施の形態では、本発明のポリペプチドは、HER2タンパク質の細胞外ドメインであるECDと特異的に結合する。
【0024】
本明細書に記すように、本発明者らは、SPAからのドメインの置換変異によって高親和性HER2結合ポリペプチドが得られるということ、そしてそのようなポリペプチドがHER2と相互作用し得るということを見出した。本発明のポリペプチドは、多様な用途においてHER2に対する抗体の代替物として利用できる。限定的でない例として、該ポリペプチドは、HER2の過剰発現により特徴付けられる癌の治療に、細胞表面上のHER2との結合による細胞シグナル伝達の抑制に、in vivoおよびin vitroの両方における癌の診断に、HER2を過剰発現する細胞に対する薬剤のターゲッティングに、HER2を検出するための組織化学的方法に、分離の方法およびその他の用途に有用である。本発明のポリペプチドは、HER2に対する試薬の親和性を利用するあらゆる方法に有用であることが判明するかもしれない。したがって該ポリペプチドは、そのような方法における検出試薬、捕捉試薬または分離試薬としてだけではなく、それ自体で治療薬として、またはHER2タンパク質に対して他の治療薬をターゲッティングするための一手段として用いられ得る。in vitroで本発明のポリペプチドを用いる方法は、種々の形式で、例えば微量滴定プレート中で、タンパク質アレイで、バイオセンサー表面上で、組織切片上等において実施され得る。本発明のポリペプチドの種々の修飾および/または該ポリペプチドへの付加は、本発明の範囲を逸脱しない限り、特定の所望の用途に該ポリペプチドを適合させるために実施してもよい。そのような修飾および付加は以下でさらに詳細に記載され、そして同一ポリペプチド鎖中に含まれる付加的アミノ酸、あるいは標識および/または化学的にあるいは別の方法により本発明のポリペプチドに結合される治療薬を包含し得る。さらに本発明は、HER2に結合する能力を有するポリペプチドの断片も包含する。
【0025】
「HER2に対する結合親和性」とは、例えば表面プラズモン共鳴技法の使用により、例えばビアコア(登録商標)機器で試験され得るポリペプチドの特性を指す。HER2結合親和性は、HER2を計器のセンサーチップ上に固定し、試験されるポリペプチドを含有する試料を該チップ上に流す実験によって試験することができる。あるいは、試験されるポリペプチドは計器のセンサーチップ上に固定され、HER2を含有する試料は該チップ上を通過させられる。次いで、当業者であれば、得られたセンサグラムを読み取って、HER2に対するポリペプチドの結合親和性の少なくとも定性的な測定を確立することができる。例えば相互作用に関する信頼できるKD値を確証するための目的で、定量的測定が求められる場合、表面プラズモン共鳴法もまた用いることができる。結合値は、例えばビアコア(登録商標)2000機器(Biacore AB)によって決定できる。HER2は計器のセンサーチップ上に固定され、そして親和性が決定されるポリペプチドの試料が連続希釈により調製され、順不同で注入される。次に、その結果から、KD値が、例えば計器メーカーにより提供されるBIAevaluation3.2ソフトウエアの1:1ラングミュア結合モデルを用いて算定され得る。
【0026】
上記のように、本発明のポリペプチドの配列は、上記SPAドメインの1〜約20のアミノ酸残基が他のアミノ酸残基で置換されたSPAドメイン配列に関連する。しかしながら、導入される置換変異は、ポリペプチドの基本構造に影響を及ぼすべきではない。即ち、本発明のポリペプチドのCα主鎖の全体的な折り畳みは、関連するSPAドメインのものと本質的に同一であり、例えば、二次構造の同一要素を同一順序で有するなどである。したがって、ポリペプチドは、基本的な構造特性、例えば類似のCDスペクトルを生じる特性が共有される場合、SPAと同一の折り畳みを有するという定義に分類されることになる。関係のある他のパラメーターを、当業者は承知している。SPAドメインの基本構
造を本質的に保存するというこの要件により、その突然変異時に置換を受け得るドメインの位置は制限される。例えばZタンパク質の既知の構造から出発する場合、Zタンパク質の表面上に位置するアミノ酸残基が置換される一方、Zタンパク質のコア内に埋め込まれたアミノ酸残基「3ヘリックス束」は分子の構造特性を保存するために不変のまま維持されるべきである、というのが好ましい。同一の推論が、他のSPAドメインおよびその断片に当てはまる。
【0027】
本発明は、上記のHER2結合ポリペプチドが、いずれかの末端に付加的なアミノ酸残基が付加されたHER2結合ドメインとして存在するポリペプチドも包含する。これらの付加的なアミノ酸残基は、該ポリペプチドによるHER2の結合に一役を演じ得るが、しかし、例えばポリペプチドの生産、精製、安定化、カップリングまたは検出のうちの1又は複数に関連したその他の目的にも同様に十分に役立ち得る。このような付加的なアミノ酸残基は、化学的カップリングの目的のために付加された1又は複数のアミノ酸残基を含んでも良い。この一例は、ポリペプチド鎖中の一番初めのまたは後ろの位置での、即ちNまたはC末端でのシステイン残基の付加である。このような付加的なアミノ酸残基は、ポリペプチドの精製または検出のための「タグ」、例えばヘキサヒスチジル(His6)タグ、あるいはタグに特異的な抗体との相互作用のための「myc」タグまたは「Flag」タグも含み得る。その他の選択肢についても、当業者は承知している。
【0028】
上述の「付加的なアミノ酸残基」は、任意の所望の機能、例えば最初のHER2結合ドメインと同一の結合機能、または別の結合機能、あるいは酵素的機能、または蛍光的機能、あるいはそれらを複合した機能、を有する1又は複数のポリペプチドドメイン(単数または複数)を構成してもよい。
【0029】
したがって本発明は、HER2に対する親和性を有するポリペプチドの多量体を包含する。例えば癌の治療のために又はHER2の精製方法において本発明のポリペプチドを用いる場合には、本発明のポリペプチドを1つ用いて可能であるよりもさらに強力なHER2の結合を獲得することは興味深い。この場合、ポリペプチドの多量体、例えば二量体、三量体または四量体の提供は、必要とする親和性作用を提供し得る。多量体は、適切な数の本発明のポリペプチドで構成できる。これらの本発明のポリペプチドドメインは、単量体によりそのような多量体が形成されており、それらの全てが同一のアミノ酸配列を有していてもよいが、しかし、それらが異なるアミノ酸配列を有することも同様に可能である。本発明の多量体中の連結されたポリペプチド「単位」は、既知の有機化学的方法を用いて共有結合により結合され得るし、あるいはポリペプチドの組換え発現のための系において1又は複数の融合ポリペプチドとして発現され、あるいは任意のその他の方式で、直接的に又はリンカー(例えばアミノ酸リンカー)を介して、連結され得る。
【0030】
さらに、HER2結合ポリペプチドが第一のドメインまたは第一の部分、ならびにHER2を結合する以外の他の機能を有する第二のおよびさらなる部分を構成する「異質性の(heterogenic)」融合ポリペプチドも意図され、それは本発明の範囲内である。融合ポリペプチドの第二のおよびさらなる部分(単数または複数)は、HER2以外の別の標的分子に対する親和性を有する結合ドメインを含んでも良い。そのような結合ドメインも、SPAドメインの1〜約20個の位置における置換変異を通じてSPAドメインに良好に関連し得る。結果的には、少なくとも1つのHER2結合ドメイン、及び上記のその他の標的分子に対する親和性を有する少なくとも1つのドメインを有する融合ポリペプチドであって、両ドメインがSPAドメインに関連する、融合ポリペプチドが得られる。これは、治療薬として、あるいは捕捉、検出または分離試薬として用いられるようないくつかのバイオテクノロジー用途に用いられ得る多特異的な試薬の作製を可能にする。少なくとも1つのポリペプチドドメインがHER2に対する親和性を有する、このようなSPAドメイン関連ポリペプチドの多特異的多量体の調製は、複数のHER2結合「単位(unit)」
からなる多量体に対しても、上述のように適用し得る。その他の選択肢では、第二の又はさらなる部分(単数または複数)は、ある標的に対する結合親和性を有する、関連性のない天然または組換えタンパク質(あるいは天然または組換えタンパク質の結合能力を維持するその断片)を含み得る。ヒト血清アルブミンに対する親和性を有し、かつ本発明のHER2結合SPAドメイン誘導体の融合相手として用いられ得るこのような結合タンパク質の一例は、連鎖球菌のプロテインG(SPG)のアルブミン結合ドメインである(Nygren P-A et al (1988) Mol Recogn 1: 69-74)。HER2結合SPAドメイン関連ポリペプチドとSPGのアルブミン結合ドメインとの融合ポリペプチドは、したがって、本発明の範囲内に入る。本発明のポリペプチドを、治療薬として、またはターゲッティング剤としてヒト被験体に投与する場合に、該ペプチドを、血清アルブミンを結合する部分と融合させることが有益かもしれないが、それは、このような融合タンパク質のin vivoでの半減期が、単離型のSPAドメイン関連HER2結合部分の半減期と比較した場合、おそらく延長されるだろうと考えられるためである(この原理は、例えばWO91/01743に記載されている)。
【0031】
融合ポリペプチドの作製のためのその他の可能性も意図される。したがって本発明の第一の態様によるHER2結合SPAドメイン関連ポリペプチドは、目的物との結合に加えて、あるいはその代わりに、他の機能を示す第二の又はさらなる単数または複数の部分と共有結合され得る。一例は、1又は複数のHER2結合ポリペプチドと、レポーターまたはエフェクター部分として働く酵素活性を有するポリペプチドとの間の融合である。HER2結合ポリペプチドと結合して融合タンパク質を生成し得るレポーター酵素の例は当業者に既知であり、例としては、β−ガラクトシダーゼ、アルカリ性ホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ、カルボキシペプチダーゼのような酵素が挙げられる。本発明の融合ポリペプチドの第二の及びさらなる単数または複数の部分に関するその他の選択肢としては、蛍光ポリペプチド、例えば緑色蛍光タンパク質、赤色蛍光タンパク質、ルシフェラーゼおよびそれらの変異体が挙げられる。
【0032】
本発明の融合ポリペプチドの第二の及びさらなる単数または複数の部分に関するその他の選択肢としては、治療的用途のための単数または複数の部分が挙げられる。治療的用途では、その他の分子もまた、その他の手段により、本発明のポリペプチドと共有的にまたは非共有的に結合され得る。非限定的な例としては、エフェクター酵素(例えばカルボキシペプチダーゼ)を送達するために本願のポリペプチドを利用する、「ADEPT」(抗体酵素プロドラッグ療法(antibody-directed enzyme prodrug therapy))用途のための酵素、エフェクター細胞および免疫系のその他の構成成分を動員するためのタンパク質、サイトカイン(例えばIL−2、IL−12、TNFα、IP−10)、凝血原因子(例えば組織因子、フォン・ウィルブラント因子)、毒素(例えばリシンA、シュードモナス外毒素、カルケアマイシン(calcheamicin)、マイタンシノイド(maytansinoid))、有毒な小分子(例えばアウリスタチン(auristatin)類似体、ドキソルビシン)が挙げられる。さらに、診断用(例えば68Ga、76Br、111In、99Tc、124I、125I)または治療用(例えば90Y、131I、211At)の放射性核種を容易に組入れるために、放射性同位体のためのキレート剤をポリペプチド配列にカップリングすることを目的として、上記で言及した付加的アミノ酸(特にヘキサヒスチジンタグ、システイン)が意図される。
【0033】
本発明は、ポリペプチドであって、該ポリペプチド中で上記のHER2結合ポリペプチドが、例えば該ポリペプチドの検出を目的として標識基(例えば少なくとも1つの蛍光体、ビオチンまたは放射性同位体)を備えていることを特徴とするポリペプチドを包含する。
【0034】
本発明のHER2結合ポリペプチドを組入れた融合タンパク質についての上記の説明に関しては、第一、第二及びさらなる部分の呼称は、一方のHER2結合部分(単数または
複数)と、他方の他の機能を示す部分とを明白に区別する目的でなされる、ということに留意すべきである。これらの呼称は、融合タンパク質のポリペプチド鎖中における異なるドメインの実際の順序を指すものではない。したがって例えば上記の第一の部分は、制限なしに、融合タンパク質のN末端、中間、またはC末端に出現し得る。
【0035】
本発明のポリペプチドを作製する出発点として用いるためのSPAドメインの一例は、ブドウ球菌のプロテインAのドメインBに由来するプロテインZである。「背景技術」の節で指摘したように、このタンパク質は、従来、種々の標的と結合し得るAffibody(登録商標)分子と命名された分子の作製のための足場構造として用いられてきた。非修飾プロテインZ(Zwtと示す)の58のアミノ酸配列は配列番号1で示され、図1に例示されている。
【0036】
本発明のポリペプチドの一実施形態では、ポリペプチドはSPAの一ドメインに関連するものであって、該ポリペプチドの配列は4〜約20の置換変異を有するSPAドメインの配列に相当する。その他の実施形態は、1〜約13の置換変異、あるいは4〜約13の置換変異を有し得る。
【0037】
本発明のポリペプチドのさらに具体的な実施形態では、ポリペプチドの配列は、配列番号1に示される配列において1〜約20の置換変異、例えば4〜約20、1〜約13または4〜約13の置換変異を有する配列に相当する。
【0038】
いくつかの実施形態では、本発明のポリペプチドは、その配列が、配列番号1に示される配列において、第13位、第14位、第28位、第32位および第35位のうちの単数または複数の位置における置換変異を含む配列に相当し得る。さらに本発明のポリペプチドの配列は、第9位、第10位、第11位、第17位、第18位、第24位、第25位および第27位のうちの単数または複数の位置における置換変異を含み得る。
【0039】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第13位でのフェニルアラニンからチロシンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0040】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第14位でのチロシンからトリプトファンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0041】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第28位での、アスパラギンから、アルギニン及びヒスチジンから選択されるアミノ酸残基への、より好ましくはアルギニンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0042】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第32位でのグルタミンからアルギニンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0043】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第35位でのリジンからチロシンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0044】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第10位でのグルタミンからアルギニンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0045】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第11位でのアスパラギンからスレオニンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0046】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第17位
でのロイシンからバリンへの置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0047】
本発明の別の実施形態のポリペプチドの配列は、配列番号1の配列において、第27位での、アルギニンから、リジンおよびセリンから選択されるアミノ酸残基への置換変異を少なくとも含む配列に相当する。
【0048】
本発明の好ましいポリペプチドは、そのアミノ酸配列が、配列番号1の配列において少なくとも以下の突然変異、F13Y、Y14W、N28R、Q32RおよびK35Y、を含む配列に相当する。
【0049】
本発明のポリペプチドの種々の実施形態の具体的な配列の例(各々が上記の1又は複数の特定の突然変異を含む)は配列番号2〜79に記載され、かつ図1に例示されている。これらのポリペプチドのHER2結合特性は、ここでの全般的な本発明の説明の後の実施例に開示される。
【0050】
非修飾SPAドメインの使用に代わるものとして、SPAドメインは、アルカリ性条件下での安定性を増大させるために、突然変異誘発も施され得る。このような安定化は、非修飾配列中に出現する任意のアスパラギン残基を、アルカリ条件に対してより感受性の低いアミノ酸残基に置換する、部位特異的置換を包含する。アフィニティークロマトグラフィーにおけるアフィニティーリガンドとして本発明のポリペプチドを用いる場合、このアルカリに対する低感受性という特性は、以下の利点をもたらす。アフィニティークロマトグラフィーカラムは分離操作の合間に定置洗浄(CIP)を目的とした厳しいアルカリ処理をしばしば施されるが、このような処理に耐える能力がアフィニティークロマトグラフィーマトリックスの耐用寿命を延長する。一例として、出発点としてプロテインZを使用する場合、本発明のポリペプチドは、HER2結合を付与する置換変異の他に、N3、N6、N11、N21、N23、N28、N43およびN52から選択される少なくとも1つのアスパラギン残基が、アルカリ処理に対して低感受性であるアミノ酸残基で置換されているという修飾を有し得る。このようなポリペプチドの非限定的な例は、以下の組の突然変異(Zwtの配列に関して)を有するものである。N3A。N6D。N3A、N6DおよびN23T。N3A、N6D、N23TかつN28A。N23T。N23TかつN43E。N28A。N6A。N11S。N11SかつN23T。N6AかつN23T。したがってこれらのSPAドメイン、ならびに安定性の理由のためにアスパラギン突然変異を施されたその他のSPAドメインは全て、本発明のHER2結合ポリペプチドを得るために、アミノ酸残基のさらなる置換変異に付すことができる。あるいは、アスパラギン残基を含む本発明のHER2結合ポリペプチドは、アスパラギン残基を置き換えるためにさらなる突然変異に付してもよい。この後者の選択肢は、そのような分子のHER2結合能力が維持される程度においてのみ可能であることは明らかである。
【0051】
本発明は、上記ポリペプチドの断片の生成を通じて任意の上記ポリペプチドから得られたポリペプチドも包含するが、ここで該ポリペプチド断片はHER2親和性を維持している。該ポリペプチド断片は、その安定性が維持され、かつHER2を結合する特異性を保持するものである。免疫グロブリンGに対する結合特異性を維持した野生型SPAドメインの断片を作製する可能性は、Braisted AC and Wells JA et al in Proc Natl Acad Sci
USA 93: 5688-5692 (1996)により示されている。構造ベースの設計およびファージディスプレイ法を用いることにより、59残基からなる3ヘリックス束の結合ドメインは、結果的に33残基からなる2ヘリックス誘導体へと縮小された。これは、異なる領域からの無作為な突然変異の段階的な選択により達成され、それによって、安定性および結合親和性が繰り返し改善された。本発明の第一の態様によるポリペプチドに対すると同一の推論により、当業者は、「親」HER2ポリペプチドと同一の結合特性を有する「最小化」HER2結合ポリペプチドを得ることができよう。それゆえ、本発明の上記の態様によるポ
リペプチドの断片を構成するポリペプチドであって、該断片がHER2に対する結合親和性を保有するポリペプチドは、本発明のさらなる態様である。
【0052】
本発明の別の態様は、本発明のポリペプチドをコードする配列を含む核酸分子に関する。
【0053】
本発明のさらなる態様は、前の態様の核酸分子、ならびに核酸分子の発現により本発明のポリペプチドの産生を可能にするその他の核酸要素を含む発現ベクターに関する。
【0054】
本発明のさらに別の態様は、前の態様の発現ベクターを含む宿主細胞に関する。
【0055】
後半3つの本発明の態様は、本発明のポリペプチドの産生のための手段であり、発現されるべきポリペプチドに関する本明細書中の情報が与えられれば、そしてタンパク質の組換え発現についての当業者の一般的レベルを考えれば、過度の負担をかけることなく、当業者はそれらを生成し得るし、それらを実際に使用し得る。一例として、非修飾プロテインZの発現のためのプラスミド(例えばNilsson B et al (1987)、上記参照)が、出発物質として用いられ得る。所望の置換変異は、既知の技法を用いてこのプラスミド中に導入されて、本発明にのっとった発現ベクターを生成し得る。
【0056】
しかしながら、本発明のポリペプチドは、その他の既知の手段、例えば化学合成、あるいは種々の原核生物または真核生物宿主、例えば植物およびトランスジェニック動物中での発現によっても生成され得る。化学的なポリペプチドの合成を利用する場合、上記のようなポリペプチド中の天然アミノ酸残基のいずれかを、ポリペプチドのHER2結合能力が実質的に弱められることがない限り、任意の対応する非天然アミノ酸残基またはその誘導体によって置換しても良い。少なくとも結合能力は保持されるべきであるが、しかしながら、対応する非天然アミノ酸残基またはその誘導体による置換も、実際には、ポリペプチドのHER2結合能力を改善するのに役立つ可能性がある。さらに、非天然アミノ酸の組入れは、分子(例えば標識、エフェクター、キレート剤等)の、HER2結合ポリペプチドへの、既存のものに代わる結合部位を提供するために実施され得る。非古典的なアミノ酸または合成アミノ酸類似体としては、普通のアミノ酸のD−異性体、α−アミノイソ酪酸、4−アミノ酪酸、2−アミノ酪酸、6−アミノヘキサン酸、2−アミノイソ酪酸、3−アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、システイン酸、t−ブチルグリシン、t−ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β−アラニン、フルオロアミノ酸、デザイナーアミノ酸(designer amino acids)(例えばβ−メチルアミノ酸、Cα−メチルアミノ酸、Nα−メチルアミノ酸)、ならびにアミノ酸類似体全般が挙げられるが、これらに限定されない。さらにアミノ酸残基は、DまたはL形態で存在し得る。
【0057】
本発明は、上記のHER2結合ポリペプチドの使用態様、ならびに該ポリペプチドがその結合特性によって有用なものになっている、治療、診断および検出のための種々の方法にも関する。これらの使用および方法に関する以下の説明において「HER2結合ポリペプチド」に言及する場合、この用語はHER2結合ポリペプチドのみを包含することを意図するものではなく、例えばその断片を構成し、および/または融合タンパク質中の一部分としてHER2結合ポリペプチドを組入れるか、および/または標識または治療薬に結合されるか、および/またはタグとしてまたはその他の目的のために付加的アミノ酸残基を備える、このポリペプチドを基礎にした上述の分子もまた全て包含される。上記で説明したように、このような融合タンパク質、誘導体、断片等は、本発明の一部を形成する。
【0058】
したがってこのような一態様では、本発明は、本明細書中に記載されたような薬剤としてのHER2結合ポリペプチドの使用を提供する。
【0059】
さらなる態様において、本発明は、HER2の過剰発現により特徴付けられる癌の少なくとも一形態の治療を目的とした薬剤の調製における、本明細書中に記載されたようなHER2結合ポリペプチドの用途を提供する。HER2の過剰発現により特徴付けられる癌の特定の一形態は、乳癌である。「背景技術」の節に記載されたように、全ての乳癌患者の約25%が、HER2の過剰発現を示す(Slamon DJ et al、上記を参照)。
【0060】
この説に縛られることは望まないが、本明細書中に記載されたポリペプチドは、以下のメカニズムのうちの少なくとも1つを基礎にした治療薬として有用であると考えられる。(i)化学療法(細胞傷害性)の増強作用。ここで、ポリペプチドの投与は、現存の及び将来的な化学療法およびホルモン療法と相乗的に機能する。細胞表面のHER2タンパク質の遮断は、DNA傷害薬が作用した後のDNA修復を阻止することが示されている(Pietras RJ et al (1994) Oncogene 9: 1829-1838)。(ii)腫瘍細胞の増殖の抑制(細胞分裂抑制)。この論証は、分子(抗体)が細胞表面上のHER2タンパク質に結合するといくつかの受容体の細胞内取り込みが生じ、細胞がさらに増殖するためのシグナルを制限する、という観察に基づいている(Baselga J et al (1998) Cancer Res 58: 2825-2831; Sliwkowski MX et al、上記を参照)。
【0061】
本発明の関連態様は、HER2の過剰発現により特徴付けられる癌のうちの少なくとも1つの形態を治療するための方法であって、活性物質として本明細書中に上述されたようなHER2結合ポリペプチドを含む治療的に有効な量の組成物を、このような治療を必要とする被験体に投与することを包含する方法の提供である。
【0062】
本発明のポリペプチドのHER2結合特性は、融合タンパク質および/または標識結合分子の作製に対する該ポリペプチドの適性に加えて、HER2を過剰発現する細胞を含む腫瘍の部位に対して他の活性物質を標的化するためにも該ポリペプチドが有用であり得る、ということを意味する。したがって本発明の別の態様は、抗癌活性を有する物質と結合された本明細書中に記載されるHER2結合ポリペプチドの用途であって、HER2を過剰発現する細胞への上記物質の送達を目的とした用途を提供することである。結合される物質は、被験体の内因性免疫系の応答を引き出すよう機能するものであっても良い。ナチュラルキラー(NK)細胞または免疫系のその他のエフェクターは、そのようなエフェクターを動員する機能を担う融合部分の提示を通じて、細胞表面上のHER2とHER2結合ポリペプチドとの複合体に引き付けられ得る。細胞が異常であることを検出したNK細胞またはその他のエフェクターは、HER2結合融合タンパク質に結合する。その結果、癌細胞は、NK細胞により食べ尽くされる(Sliwkowski MX et al、上記を参照;Pegram MD et al (1997) Proc Am Assoc Cancer Res 38: 602, Abstract 4044)。
【0063】
このような活性物質は、融合により、または化学的連結により、HER2結合ポリペプチドに結合されるタンパク質、例えば「ADEPT」(抗体酵素プロドラッグ療法)用途のためにエフェクター酵素の中から選択されるタンパク質;免疫系のエフェクター細胞およびその他の構成成分の動員のためのタンパク質;サイトカイン、例えばIL−2、IL−12、TNFα、IP−10;凝血原因子(procoagulant factors)、例えば組織因子、フォン・ウィルブラント因子;毒素、例えばリシンA、シュードモナス内毒素、カルケアマイシン、マイタンシノイドであり得る。あるいは、該活性物質は、細胞傷害剤、例えばアウリスタチン類似体またはドキソルビシン、あるいは放射性同位体(例えば90Y、131I、211At)であり、この同位体は、HER2結合ポリペプチドと直接結合してもよく、あるいはキレート剤、例えば周知のキレート剤であるDOTAまたはDTPAを介して結合しても良い。
【0064】
関連する態様において、本発明は、抗癌活性を有する物質をin vivoでHER2
を過剰発現する細胞に対して送達する方法であって、上記活性物質と本明細書中に記載されるHER2結合ポリペプチドとの結合体を患者に投与することを包含する方法も提供する。該結合体は、上記段落に記載されたように適切に調製される。
【0065】
本発明の別の態様は、試料中のHER2の検出を目的とした、本明細書中に記載されているようなHER2結合ポリペプチドの使用である。例えばこのような検出は、HER2の過剰発現により特徴付けられる疾患状態を診断するという目的で実施され得る。試料中のHER2の存在の検出は、in vitroまたはin vivoで実施され得る。in vivo診断のための好ましい選択肢は、陽電子放射断層撮影(PET)の使用である。当該試料は、例えば生体液試料または組織試料であり得る。本発明のHER2結合ポリペプチドに対して用いるに適した、HER2に対して作られた抗体に対して今日用いられている一般的な方法は、新鮮な、凍結された、またはホルマリン固定、パラフィン包埋された組織試料中のHER2タンパク質の過剰発現を検証するために用いられる、HER2の存在の組織化学的検出である。HER2検出のために、本発明のポリペプチドは融合タンパク質の一部としても用いられ得るが、ここで、他のドメインはレポーター酵素または蛍光酵素である。あるいは、ポリペプチドは、状況によってはキレート剤を介して、1又は複数の蛍光剤(単数または複数)および/または放射性同位体(単数または複数)で標識され得る。適切な放射性同位体としては、68Ga、76Br、111In、99Tc、124Iおよび125Iが挙げられる。
【0066】
本発明のさらに別の態様は、生体液試料中のHER2の検出方法における、本明細書中に記載されたようなHER2結合ポリペプチドの使用により構成される。この方法は、(i)試験されるべき患者からの生体液試料を準備する工程、(ii)本明細書中に記載されるようなHER2結合ポリペプチドを、該試料中に存在する任意のHER2と該ポリペプチドとの結合が可能になるような条件下で、該試料に添加する工程、(iii)結合していないポリペプチドを除去する工程、および(iv)結合したポリペプチドを検出する工程、を包含する。検出される結合したポリペプチドの量は、試料中に存在するHER2の量と相関する。工程(ii)において、試料へのHER2結合ポリペプチドの添加は、任意の適切な形式で実施され、例えば試料が接触する固体支持体上にHER2結合ポリペプチドが固定される状況、ならびにHER2結合ポリペプチドが溶液中に存在する設定を包含する。
【0067】
本発明の別の関連する態様は、試料中のHER2の検出方法であって、(i)HER2を含有する疑いのある組織試料、例えば組織のクリオスタット切片またはパラフィン包埋切片を準備する工程、(ii)試料中に存在する任意のHER2とのポリペプチドの結合を実行し得る条件下で、上記試料に本発明のHER2結合ポリペプチドを添加する工程、(iii)結合していないポリペプチドを除去する工程、および(iv)結合したポリペプチドを検出する工程、を包含する方法である。検出される結合したポリペプチドの量は、試料中に存在するHER2の量と相関する。
【0068】
組織試料におけるHER2の過剰発現を診断するためのキットであって、レポーター酵素(例えばアルカリ性ホスファターゼまたはホースラディッシュペルオキシダーゼ)と融合した本発明のHER2結合ポリペプチド、酵素活性の検出のための試薬、ならびに陽性および陰性対照組織スライドを包含するキットも、本発明により提供される。
【0069】
組織試料におけるHER2過剰発現の診断のためのキットであって、抗体による検出のためのタグ(例えばFlagタグまたはmycタグ)と融合した本発明のHER2結合ポリペプチド、タグに特異的な一次抗体、一次抗体に特異的で、かつレポーター酵素を結合した二次抗体、酵素活性の検出のための試薬、ならびに陽性および陰性対照組織スライドを包含するキットも、本発明により提供される。
【0070】
診断用途における一領域は、癌細胞またはその集合体のin vivoでの検出である。本発明は、このような診断を実施するためのキットであって、キレート剤で標識された本発明のHER2結合ポリペプチド、診断用放射性同位体(非限定的な例は、68Ga、76Br、111In、99Tc、124Iおよび125Iである)、ならびに取り込み効率の分析のための試薬を包含するキットを提供する。
【0071】
上記のように、本発明は、HER2を過剰発現する細胞、例えばある種の癌細胞に活性物質をターゲッティングすることを目的とした、本発明のHER2結合ポリペプチドの使用を包含する。本発明は、この目的のためのキットであって、キレート剤で標識された本発明のHER2結合ポリペプチド、治療用放射性同位体(非限定的な例は90Y、131I、211Atである)、および取り込み効率の分析のための試薬を包含するキットも提供する。
【0072】
本発明に従って実行される実験についての非限定的な詳述により、ここで本発明をさらに例示する。
【実施例1】
【0073】
HER2結合ポリペプチドの選択および試験
これらの実験では、多数の異なるSPAドメイン関連ポリペプチドのライブラリーから本発明のいくつかのHER2結合ポリペプチドを選択し、その後、特性を明らかにした。
【0074】
ライブラリーのパニング及びクローンの選択
Nord K et al (1995、上記参照)に記載されたのと本質的に同様に、コンビナトリアル・ファージディスプレイライブラリーを調製した。本試験に用いたこのライブラリーのプールは、第9位、10位、11位、13位、14位、17位、18位、24位、25位、27位、28位、32位および35位に無作為なアミノ酸残基を有するプロテインZ(Affibody(登録商標)分子)の8.7×108の変異体を含む。標的としてビオチニル化ヒトHER2細胞外ドメイン(HER2−ECD)を用いて、4回のパニングで、抗原結合Affibody(登録商標)分子を選択した(組換えヒト細胞外ドメイン、アミノ酸238〜2109、Fox Chase Cancer Center, Philadelphia, USAにより提供)。4回の選択サイクルの結果、91個のクローンをファージELISA用に選択し、それらのHER2結合活性の分析を実施した。
【0075】
HER2結合の分析用のファージELISA
4回の選択後に得られたクローンからのファージを96ウエルプレート中で生成させ、HER2結合Affibody(登録商標)分子を発現するファージをスクリーニングするために、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を用いた。シングルコロニーを、深穴96ウエルプレート中で2%グルコースおよび100μg/mlのアンピシリンを補充した250μlのTSB培地(30.0gのトリプシンダイズブロス(Merck)、水で最終容積を1lとする。オートクレーブ処理)に接種し、37℃で一晩、振盪器上で増殖させた。5μlの一晩培養物を、新プレート中で、0.1%グルコースおよび100μg/mlのアンピシリンを補充した500μlのTSB+YE培地(30.0gのトリプシンダイズブロス(Merck)、5.0gの酵母抽出物、水で最終容積を1lとする。オートクレーブ処理)に添加した。37℃で3時間増殖後、0.5μlの5×1012pfu/ml(2.5×109pfu)のヘルパーファージM13K07(New England Biolabs, #NO315S)および100μlのTSB+YE培地を各ウエルに添加し、37℃で30分間、振盪せずにプレートをインキュベートした。IPTG、カナマイシンおよびアンピシリンを補充した300μlのTSB+YEを各ウエルに添加して、最終濃度を1mMのIPTG、25μg/mlのカナマイシンおよび100μg/mlのアンピシリンとして、プレートを30℃で一晩、振盪器上でインキュベートした。2,500gで15分間の遠心分離に
より細胞をペレット化し、Affibody(登録商標)分子を発現するファージを含有する上清をELISAに用いた。PBS(2.68mMのKCl、137mMのNaCl、1.47mMのKH2PO4、8.1mMのNa2HPO4、pH7.4)中の4μg/mlのHER2の100μlを、微量滴定プレート(Nunc #446612)に添加し、4℃で1ヶ月間インキュベートした。PBS中の2%粉末スキムミルク(ブロッキング緩衝液)で、室温で1時間、ウエルをブロッキング処理し、200μlのファージ含有上清および50μlの10%ブロッキング緩衝液を添加した。プレートを、室温で2時間インキュベートした。ポリクローナル抗体(ウサギ抗M13、Abcam #ab6188)を2%ブロッキング緩衝液中で1:1,000に希釈し、150μlを各ウエルに添加した。プレートを、室温で1時間インキュベートした。アルカリ性ホスファターゼと結合したヤギ抗ウサギIgG抗体(Sigma #A-3687)を2%ブロッキング緩衝液中で1:10,000に希釈し、その後150μlを各ウエルに添加し、室温で1時間インキュベートした。1Mのジエタノールアミン、5mMのMgCl2(pH9.8)と水の1:1混合物中にSigma−104基質(Sigma #104-105)を溶解することにより(1錠/5mlの1:1混合物)、展開溶液を調製した。その後、180μlの展開溶液を各ウエルに添加した。ウエルをPBS−T(PBS+0.1%Tween−20)で2回、PBSで1回洗浄した後、各々の新試薬を添加した。基質を添加してから25分後、ELISA分光光度計(Basic Sunrise, Tecan)を用い、A405で、プレートを読取った。
【0076】
ELISA値の閾値判定基準(A405が0.5より高い)を用いて、HER2結合物質をコードするファージを同定した。48のクローンがこの値より高いELISAシグナルを生じ、無作為で選択された、ELISA結果が利用可能でない5クローンとともに、DNA配列分析用に選択された。
【0077】
DNA配列分析
上記の手法に従って単離されたクローンからのDNAのシーケンシングを、メーカーの推奨によりABIプリズム(登録商標)、ビッグダイ(商標)ターミネーターv2.0レディリアクションサイクルシーケンシングキット(Applied Biosystems)を用いて実施した。プラスミドを調製し、オリゴヌクレオチドRIT−27(5’−GCTTCCGGCTCGTATGTTGTGTG−3’)およびビオチン化NOKA−2(5’−ビオチン−CGGAACCAGAGCCACCACCGG−3’)を用いて、Affibody(登録商標)分子をコードするDNAをシーケンシングした。ABIプリズム(登録商標)3700遺伝子分析装置(Applied Biosystems)で、配列を分析した。予め選択された53のクローンから、いくつかのクローンが同一アミノ酸配列をコードすることが判明した。これらの縮重を考慮に入れて、ELISA結合検定で選択されたクローンにより発現されるAffibody(登録商標)分子の4つの配列を図1に示し(ZHER2 A-D)、かつ配列番号2〜5として配列表中で同定した。
【0078】
クローニングおよびタンパク質産生
図2で概略的に示されている構築物をコードする発現ベクターを用いて、大腸菌細胞中でZHER2ポリペプチドを発現させた。これにより、該ポリペプチドは、N末端ヘキサヒスチジルタグとの融合体として産生された。融合ポリペプチドHis6−ZHER2 AおよびHis6−ZHER2 Bを固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)カラムで精製し、SDS−PAGEで分析した。SDS−PAGE実験の結果を、図3に示す。
【0079】
融合ポリペプチドのバイオセンサー分析
前節により産生されたHisタグ化ZHER2変異体とHER2との間の相互作用を、ビアコア(登録商標)2000システム(Biacore AB, Uppsala, Sweden)により表面プラズモン共鳴を利用して分析した。ヒトHER2、HIV−1gp120(Protein Sciences
Corporation、#2003-MN)およびBB(連鎖球菌プロテインG由来のアルブミン結合タンパク質)(後者2つは対照として用いる)を、メーカーの推奨に従って、CM−5チップの表面のカルボキシル化デキストラン層上へのアミンカップリングにより、異なるフローセル中に固定した。ヒトHER2、HIV−1gp120およびBBの固定化は、それぞれ1900、6290および1000共鳴単位(RU)を生じた。第四フローセル表面を活性化し、注入を行う間のブランクとして用いるために非活性化した。His6−ZHER2 AおよびHis6−ZHER2 Bタンパク質をHBS(5mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%界面活性剤P−20(pH7.4))で希釈して最終濃度を10μMとし、30μl/分の一定流量で、二つ組として、順不同に注入した。精製タンパク質His6−ZHER2 A及びHis6−ZHER2 BのHER2と相互作用する能力を、それぞれ図4および5のセンサグラム(sensorgram)に例示したように確認した。
【0080】
さらにHis6−ZHER2 AおよびHis6−ZHER2 Bに関して、動態試験を実施した。チップに固定された1900RUのヒトHER2を有するCM−5チップを用いた。His6−ZHER2 AおよびHis6−ZHER2 Bの各々に関して、一連の6つの異なる濃度(1μM〜40μM)のHER2結合ポリペプチドをHBS中に調製し、30μl/分の流量で、二つ組として、順不同に注入した。総注入時間は50秒(会合)で、その後、6分間洗浄した(解離)。表面を、20mMのHClで10秒間再生した。参照細胞中で測定された応答(活性化/非活性化表面)を、固定化HER2を有する細胞中で測定された応答から差し引いた。BIAevaluation3.0.2ソフトウエア(Biacore AB)の1:1ラングミュア結合モデルを用いて、結合曲線(センサグラム)を分析した。図6(His6−ZHER2 A)および7(His6−ZHER2 B)に示された結合曲線から明らかなように、His6−ZHER2 Aに関しては10〜100nMの、His6−ZHER2 Bに関しては200〜400nMの表示されたKDを有する会合及び解離曲線により立証されるように、His6−ZHER2 AおよびHis6−ZHER2 Bはともに、HER2と明瞭に結合する。さらに、試験したHER2結合ポリペプチドのいずれもBB対照抗原およびgp120対照抗原とは結合しないことから(図4および図5)、該結合は選択的である。
【0081】
第二の動態実験では、His6−ZHER2 AおよびHis6−ZHER2 B変異体を再び、30μl/分の流量で、異なる濃度(0〜5μM、最小濃度:His6−ZHER2 Aに関しては0.0098μM、His6−ZHER2 Bに関しては0.0196μM;HBSで希釈)でHER2表面上に注入した。動態分析前に、アミノ酸分析によりタンパク質濃度を確定した。BIAevaluation3.2ソフトウエア(Biacore)を用いて、解離平衡定数(KD)、会合速度定数(ka)および解離速度定数(kd)を算定し、1対1結合であると推定した。最初の2つのビアコア(登録商標)分析に関しては、試料は、25℃で、順不同に2度流し、各回の注入の後には、10mMのHClの注入によりフローセルを再生した。結合曲線(図8A〜8B)の評価時に、解離平衡定数(KD)を、His6−ZHER2 Aに関しては約50nM、His6−ZHER2 Bに関しては約140nMであると確定した。KDの違いの理由は、おそらく、図4のグラフAを図5のグラフAと比較することにより分かるように、解離速度の顕著な差のためである。His6−ZHER2 Aに関しては、会合速度定数(ka)は、約1.8×105 M-1s-1および解離速度定数(kd)は約9.9×10-3 s-1であると算定され、一方、His6−ZHER2 Bに関しては、高速な会合および解離動態のため、kaおよびkdは見積もるのが難しかった。したがって、その標的とのより強力な結合を示すHis6−ZHER2 AAffibody変異体を、さらなる特徴付けのために選択した。
【実施例2】
【0082】
HER2を発現する細胞とのZHER2 Aの結合
細胞培養
約2×106HER2分子/細胞を発現することが知られているヒト乳癌細胞株SKBR−3を、ATCCから購入した(ATCC#HTB−30)。10%ウシ胎仔血清、2mMのL−グルタミンおよびPEST(100 IU/mlのペニシリンおよび100μg/mlのストレプトマイシン)(すべてBiochrom KG, Berlin, Germanyから)を補充したRPMI 1640培地中で細胞を培養した。細胞を、37℃で、5%CO2を含有する湿潤空気中で培養し、実験の3日前に3cmペトリ皿中に植え付けた。
【0083】
放射性標識
Orlova et al in Nucl Med Biol 27: 827-835 (2000)に従って、標識前駆体N−スクシンイミジルp−(トリメチル−スタンニル)ベンゾエート(SPMB)を調製し、5μgのSPMBを5%酢酸溶液中の5MBqの125Iに添加した。反応を開始するために、水溶液中の40μgのクロラミン−T(Sigma, St. Louis, MO)を添加した。反応混合物を5分間撹拌し、水溶液中の80μgのナトリウム−メタ−ビスルフェート(Aldrich, Steinheim, Germany)を添加して、反応を停止した。0.07Mのホウ酸緩衝液(pH9.2)中の40μgのHis6−ZHER2 AまたはHis6−ZHER2 Bに、該放射性標識前駆体を添加した。連続的に撹拌しながら、室温で45分間、カップリング反応を実施した。PBSで平衡化したNAP(商標)−5サイズ排除カラム(Amersham Biosciences)を用いて、標識ZHER2変異体を低分子量生成物から分離した。次に放射性標識ZHER2変異体をビアコア(登録商標)技法を用いて分析して、標識処理がHER2−ECDに対する結合親和性に影響を及ぼさなかったことを確認した。両ZHER2変異体は親和性保持を示した(データは示されていない)。
【0084】
細胞試験
約100,000個のSKBR−3細胞を有する各培養皿に、14ngの標識His6−ZHER2 AまたはHis6−ZHER2 Bを含む1mlの培地を添加した。この量は、理論的なリガンド:受容体比である5:1に相当する。細胞に由来しない非特異的結合を測定するために、細胞を含有しない3つの培養皿を同一方法で処理した。この値を、全ての他の値から差し引いた。細胞結合の特異性を分析するために、3つの培養皿を、標識されたZHER2変異体だけでなく、500倍過剰量の標識されていないZHER2変異体でも処理した。37℃で3時間のインキュベーション後、放射性培地を除去し、培養皿を氷冷無血清培地で3回、迅速に洗浄した。0.5mlのトリプシン/EDTA溶液(PBS中0.25%/0.02%;Biochrom KG, Berlin, Germany)を用いて、37℃で15分間、細胞をトリプシン処理した。次に細胞を1mlの培地中に再懸濁し、0.5mlの細胞懸濁液を細胞計数のために用い、残り1mlを自動ガンマーカウンターでの放射能測定のために用いた。
【0085】
図9に示したように、His6−ZHER2 Aは、2×106のHER2受容体/細胞を発現することが知られているSKBR−3細胞との特異的な結合を示した(「遮断なし」バー)。放射性標識His6−ZHER2 Aの結合は、過剰量の非標識His6−ZHER2 Aの添加により完全に遮断することができた(「遮断あり」バー)。しかしながら、SKBR−3細胞とのHis6−ZHER2 Bの結合は、おそらくはこのZHER2変異体に関するより迅速な解離速度の結果(上記参照)として、検出限界より低かった(データは示されていない)。
【実施例3】
【0086】
HER2結合ポリペプチド二量体の発現および特徴付け
DNA構築およびタンパク質産生
HER2受容体に対する親和性を有する新規のAffibodyリガンド(His6−ZHER2 Aと名づけられている)の選抜を、上に記した。ZHER2 Aポリペプチドをコードする遺伝子断片をHis6−ZHER2 Aのための発現ベクター中にサブクローニングすることにより、二量体ZHER2変異体を構築した。DNAシーケンサーABIプリズム(登録商標
)3700アナライザー(Applied Biosystems, Foster City, CA)によるDNAシーケンシングにより、ZHER2 A断片の導入を確認した。大腸菌RRIΔM15菌株(Ruther, Nucleic Acids Res 10: 5765-5772 (1982))を、クローニングを行う間、細菌宿主として用いた。その結果得られたベクターは、T7プロモーターの制御下で(Studier et al, Methods Enzymol 185: 60-89 (1990))、N末端ヘキサヒスチジン(His6)タグと融合した二量体ZHER2変異体(ZHER2 A)2をコードし、これにより固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)による精製が可能になる。
【0087】
二量体ZHER2変異体を、大腸菌BL21(DE3)菌株中でHis6−タグ化融合タンパク質として発現させて、実施例1において単量体ポリペプチドに関して記載されたように、変性条件下で、タロン(Talon)金属アフィニティー樹脂(8901−2、BD Biosciences, CA)カラムによるIMAC精製により回収した。メーカーのプロトコル(Amersham Biosciences)に従って、PBS(10mMのリン酸塩、154mMのNaCl(pH7.1))で平衡化したPD−10カラムを用い、ゲル濾過により、精製His6−(ZHER2 A)2融合タンパク質の再生を実施した。適切な吸光係数(30440M-1cm-1)を用いて、280nmでの吸光度測定値からタンパク質濃度を算定し、アミノ酸分析(Aminosyraanalyscentralen, Uppsala, Sweden)によっても確認した。Novexシステム(Novex, CA, USA)を用いて、トリス−グリシン16%均質ゲル上でのSDS−PAGEにより、精製タンパク質をさらに分析した。クマシーブリリアントブルー染色により、タンパク質帯域を可視化した。SDS−PAGE分析により、該タンパク質は、予測分子量(15.6kD)の明確な帯域として観察された(図10、挿入図のレーン2)。280nmでの吸光度測定値からの概算により、培養細胞lリットルあたり約200mgの発現レベルが実証された。
【0088】
バイオセンサー分析
リアルタイム生体特異的相互作用分析(BIA)のために、ビアコア(登録商標)2000機器(Biacore AB)を用いた。10mMのNaAc(pH4.5)で希釈したHER2の組換え細胞外ドメイン(HER2−ECD)を、メーカーの使用説明書に従って、アミンカップリングによりCM5センサーチップ(研究等級)(BR−1000−14、Biacore AB)の一方のフローセル表面のカルボキシル化デキストラン層上に固定した(約2200RU)。他方のフローセル表面を活性化及び非活性化して、参照用の表面として供した。ZHER2試料に関しては、メーカーのプロトコル(Amersham Biosciences)に従って、NAP(商標)−10カラムを用いて、ゲル濾過により、緩衝液をHBS(5mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%界面活性剤P20(pH7.4))へと変更し、その後試料を濾過した(0.45μm;Millipore, Billerica, MA)。結合分析を25℃で実施し、HBSをランニングバッファーとして用いた。全てのビアコア(登録商標)分析に関して;試料は順不同に2度繰り返して流し、各回の注入の後に、10mMのHClの注入により、フローセルを復元させた。
【0089】
第一の実験では、HER2−ECDとの結合における、単量体と二量体ZHER2タンパク質(実施例1のHis6−ZHER2 A及びHis6−(ZHER2 A)2)との差を、5μl/分の流量でのHER2−ECD表面上への5μMの各タンパク質の注入により検定した。図10から分かるように、His6−(ZHER2 A)2に関してより遅い解離速度(off-rate)が観察されたが、これは、HER−ECDとHis6−(ZHER2 A)2との結合が、His6−ZHER2 Aと比較してより強力であることを示す。
【0090】
第二の実験では、His6−(ZHER2 A)2を動態分析に付したが、ここでは、30μl/分の流量で、異なる濃度(0〜5μM、最小濃度として0.0049μM;HBS中に希釈)でHER2−ECD表面上にタンパク質を注入した。動態分析前に、アミノ酸分析によりタンパク質濃度を確定した。BIAevaluation3.2ソフトウエア(Biacore AB)を
用いて、解離平衡定数(KD)、会合速度定数(ka)および解離速度定数(kd)を算定し、1対1結合であると推定した。結合曲線の評価時に、解離平衡定数(KD)を、約3nMであると確定し、会合速度定数(ka)を、約2.5×105 M-1s-1及び解離速度定数(kd)を約7.6×10-4 s-1であると算定した。これらの値を、実施例1の単量体His6−ZHER2 Aに関して得られた動態定数と比較して、二量体His6−(ZHER2
A)2のより強力な結合を確認することができる。二量体構築物に関する親和性作用による、このような向上した明白な高親和性は、他のAffibody(登録商標)分子に関してはより早期に既に実証されている(Gunneriusson E et al, Protein Eng 12: 873-878 (1999))。
【実施例4】
【0091】
SKOV−3異種移植片を有するヌードマウスにおける、(ZHER2 A)2の生体内分布および腫瘍へのターゲッティング
本実施例を構成する実験では、実施例3のHis6タグ化二量体(ZHER2 A)2ポリペプチドを125Iで放射性標識し、HER2の過剰発現により特徴付けられる移植された腫瘍を保有するマウスに注入した。標識されたポリペプチドの局在化を調べるため、ペプチドを注入されたマウスの画像処理と同様に、該ポリペプチドの生体内分布の検査も実施した。Taq DNAポリメラーゼに対する結合親和性を有する標識されたZドメイン誘導体を、HER2に対する特異性を有さない対照として用いた(ZTaq;Gunneriusson E et al(上記参照)に記載され、その中ではZTaq S1-1として言及されている)。
【0092】
材料および方法
(ZHER2 A)2の間接的放射性ヨウ素標識
2.3μlの容量の125I(10MBqに相当する)(Na[125I]、Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)を、シリコン処理した微量遠心分離管に加えた。10μlの酢酸(水に0.1%)、5μlのN−スクシンイミジルp−トリメチル−スタンニル−ベンゾエート(の5%酢酸メタノール中で1mg/ml)(Koziorowski J et al, Appl Radiat Isot 49: 955-959 (1998)に従って調製)、ならびに10μlのクロラミン−T(4mg/ml水溶液)(CH3C6H4SO2N(Cl)Na・H2O、Sigma, St Louis, MO, USA)を添加した。多少混合しながら、5分間反応させた。次に、10μlのメタ亜硫酸水素ナトリウム(8mg/ml水溶液)(Na2S2O5、Sigma, St Louis, MO, USA)で、反応を終わらせた。40μlの容量の(ZHER2 A)2二量体(0.07Mのホウ酸緩衝液(pH9.2)(ホウ酸ナトリウム(Na2B4H7・10H2O)Sigma, St Louis, MO,
USAおよび塩酸(HCl)Merck, Darmstadt, Germany)中、0.25mg/ml)を、反応試験管に添加した。別の40μlのホウ酸緩衝液を、pHを約9に上げるために、各試験管に添加した。連続振盪しながら45分間反応させた後、メーカーのプロトコルに従って、PBSで平衡化したNAP−5サイズ排除カラム(Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)上で、反応成分を分離した。反応試験管、素通り画分、高MW画分、低MW画分およびカラムを、標識収率を算定するために、小型γ検出器(Mini-instruments Ltd, Essex, UK)を用いて60cm(125I)で測定した。後日使用するまで、20℃で、シリコン処理微量遠心分離管中に高分子量画分を貯蔵した。得られた収率は、25〜30%であった。
【0093】
ZTaqの間接的放射性ヨウ素標識
[125I]−NaIのストック溶液を、0.1%酢酸水溶液10μl、5μlのN−スクシンイミジルp−トリメチル−スタンニル−ベンゾエート溶液(5%酢酸メタノール中で1mg/ml)、および10μlのクロラミン−Tの水溶液(4mg/ml)と混合した。反応混合物を激しく撹拌し、振盪しながら室温で5分間、インキュベートした。10μlのメタ亜硫酸水素ナトリウムの水溶液(8mg/ml)で、反応を終了させた。PBS中のZTaq(2.4mg/ml)の溶液21μlを粗反応混合物に添加した。ホウ酸緩
衝液(0.1M、pH9.15)の添加により、反応混合物のpHを約9に調整した。振盪しながら30分間、室温で反応混合物をインキュベートし、溶離液としてPBSを用いて、PBS中の5%アルブミン(ウシ、分画V、Sigma, St Louis, MO, USA)で予備平衡化したNAP−5カラムを用い、高分子量画分(標識ZTaq)および低分子量画分に分離した。得られた放射性物質の収率は、75%〜80%であった。具体的な放射能は、100kBq/μgであった。
【0094】
動物の準備
M & Bからの雌非近交系nu/nu balbマウス(到着時に10〜12週齢)を、C181/1承認下で用いた。異種移植片を該マウスに移植する前の1週間、ルドベック研究所(Uppsala, Sweden)の動物施設で、標準的な食餌、寝床および環境を用い、マウスを順応させた。マウスは食餌および飲料水を自由に摂取した。
【0095】
第一の実験の2ヶ月前に、5×106個のSKOV−3ヒト卵巣癌細胞(ATCC#HTB−77)を33匹のマウスの右後足に皮下注射した。このグループを「A組」と名づけた。
【0096】
第二の実験の3週間前に、107個のSKOV−3細胞を32匹のマウスの両後足に皮下注射した。このグループを「B組」と名づけた。
【0097】
画像処理試験のために、大型の腫瘍を有する2匹のマウス(下記参照)をA組から取り出し、そして他の全てをB組から取り出した。
【0098】
実験時までに、腫瘍は全マウスにおいて定着していたが、サイズおよび状態はかなり小さく且つ異なった(被包性および侵潤、血管新生の段階)。使用時に、全マウスの体重は22〜27gであった。
【0099】
生体内分布実験I
A組からのマウス20匹を、各グループ4匹で5つのグループ(I〜V)に無作為に分けた。大型腫瘍を有するA組からの2匹は、画像処理試験に用いるために除外した。グループ、注射および屠殺の時間は、スキーム1に従った。
【0100】
PBS50μl中の125I(100kBq/マウス)で間接標識した(ZHER2 A)2 0.5μgをマウスの尾部に静脈注射した。IIグループ(「遮断グループ」)のマウスに対しては、PBS200μl中の0.05mgの非標識(ZHER2 A)2を皮下に予備注射した45分後に、標識(ZHER2 A)2を注射した。いかなる視覚的問題もないことから、全注射が良好に耐容されたと判断した。
【0101】
【表1】
【0102】
屠殺の5分前に、致死用量のケタラール/ロンプン溶液(20μl/体重1g、ケタラ
ール10mg/ml(Pfizer, New York, USA)、ロンプン1mg/ml(Bayer, Leverkusen, Germany))をマウスに腹腔内注射した。希釈ヘパリン(5000 IE/ml、Leo Pharma, Copenhagen, Denmark)で洗浄した1ml注射器を用いて、心臓穿刺により、屠殺時に血液を採取した。血液と、尿、筋肉、骨、大腸、小腸、心臓、膀胱、肺、肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、胃、唾液腺および甲状腺、脳、腫瘍および尾の試料を解剖し、重さを測った20mlプラスチックボトル中に回収した。B組からの数匹のマウスにおける複数の腫瘍の場合、全ての腫瘍を別個のボトル中に回収した。器官および組織の試料を計量し、それらの放射能をγ計数器(3インチNaI(T1)検出器を伴う自動γ計数器である1480 WallacWIZARD(Wallac OY, Turku, Finland))で測定した。
【0103】
生体内分布実験II
B組からのマウス24匹を、各グループ4匹で6つのグループに無作為に分けた。大型腫瘍を有するB組からの8匹は、画像処理試験に用いるために選択した。グループ、注射および屠殺の時間は、スキーム2に従った。
【0104】
PBS50μl中の125I(100kBq/マウス)で間接標識した(ZHER2 A)2 0.5μgを、IおよびグループIV〜VIのマウスの尾部に静脈注射した。グループIIのマウスを、同量の放射性ヨウ素標識(ZHER2 A)2を用いて、今回は尾の皮下に注射した。グループIIIのマウスの尾に、PBS50μl中の125I(100kBq/マウス)で間接標識したZTaq1.07μgを静脈注射した。いかなる視覚的問題もないことから、全注射が良好に耐容されたと判断した。
【0105】
【表2】
【0106】
生体内分布実験Iに関して上記したのと同様に、屠殺および試料の採取を実施した。この第二の実験では、胴体(carcass)も回収し、その放射能含量を測定した。器官および組織の試料を計量し、それらの放射能をγ計数器で測定した。
【0107】
放射能の測定
125Iの測定に関する標準プロトコルを用いた。バックグラウンドレベルを用いて補正した計数/分を、評価のために用いた。%ID/g(組織1gあたりの、注射された線量に対する百分率)として表される組織取込み値を、以下のように算出した。
%ID/g=[(組織の放射能/注射された放射能)/組織重量]×100
ここで、静脈注射に関しては、
注射された放射能=対照の注射器の平均放射能−使用した注射器の放射能−尾の放射能であり、皮下注射に関しては:
注射された放射能=対照の注射器の平均放射能−使用した注射器の放射能
である。
【0108】
画像処理試験
画像処理のために、全てのグループがA組からの大型腫瘍を有する1匹のマウスを含むということを考慮に入れつつ、各グループ5匹で2つのグループにマウスを分けた。B組からのマウスを無作為に抽出した。2グループのマウスに、PBS90μl中の125I(2.9MBq/マウス)で間接標識した(ZHER2 A)2 2.3μgを、それぞれ画像処理の6時間または8時間前に注射した。いかなる視覚的問題もないことから、全ての注射が良好に耐容されたと判断した。
【0109】
放射性複合体(radioconjugate)の注射後(pi)6時間および8時間目に、マウスの全身画像処理を実施した。マウスを強制排尿させて、致死量のケタラール/ロンプンの腹腔内注射により麻酔して、頚椎脱臼により殺害した。マウス(各グループ5匹)をe.CAMγカメラ(Siemens, Germany)中に置いて、各時点において10分間の画像を得た。大型腫瘍を有する2匹のマウス(各グループから1匹)を、露出時間を20分とした、同一カメラでの特別な画像を撮るために選択した。99%ウインドウサイズ、35keVエネルギーウインドウで、低エネルギー、高分解能絞りを用いて、256×256ビットマトリックスで画像を得た。Nuclear Diagnostics(Kent, UK)からのHermesソフトウエアを用いて、画像を評価した。
【0110】
結果
遮断実験
腫瘍中への(ZHER2 A)2の取込みが特異的で且つ受容体調節性であるか否かをはっきりさせるために、生体内分布実験Iにおける遮断実験を実施した。放射性ヨウ素標識二量体の主要静脈注射の前に、スキーム1のグループIIのマウスに、0.05mgの非標識(ZHER2 A)2を皮下注射した。グループIおよびグループIIにおける注射後1時間での放射能の取込みを比較した。マウスの2つのグループに関する腫瘍対血液比は、0.72(グループI平均)および0.25(グループII平均)であった(図11)。しかしながら、取込みの差は有意でなかった(p=0.16)。腫瘍を除く全ての器官において、放射能取込みは遮断ありおよび遮断なし、の動物の両方に関して同一であった。
【0111】
遮断なしマウスの場合における比較的低い腫瘍対血液比は、この実験では早い時点(注射後1時間)が選択されたことにより説明できる。
【0112】
取込みの特異性
生体内分布実験IIにおいて、グループIIIのマウスに、他のグループのマウスに注射した(ZHER2 A)2の量に相当する量のZTaqを注射した。(ZHER2 A)2に関すると同一の間接的な方法を用いて、放射性ヨウ素でZTaqを標識しておいた。ZTaqは、HER2受容体に対して非特異的である。グループIおよびグループIIIにおける注射後4時間での放射能の取込みを比較した。この実験の結果(図12)は、非特異的ZTaq分子が特異的(ZHER2 A)2分子より低い腫瘍取り込みを有する、ということを示した。この実験における腫瘍対血液比は、1.43(グループI、特異的(ZHER2 A)2)および0.15(グループIII、非特異的ZTaq)であった。統計学的分析により、差が有意である(p=0.009)ことが示された。他の器官すべてにおいて、放射能取込みは、両Z分子に関して同一レベルであった。
【0113】
遮断実験と比較した場合、(ZHER2 A)2に対する高い腫瘍対血液比が、この実験で観察された。これは、実験の時点がより遅い(注射後4時間)ためであると考えられた。
【0114】
生体内分布
標識された(ZHER2 A)2を静脈注射しておいた生体内分布実験IおよびIIにおけるマウスのグループからの結果を、腫瘍を保持するマウスの器官および組織中の放射性ヨウ素の生体内分布の分析と併せた。結果を図13〜図16に示す。
【0115】
図13および図14を参照すると、腫瘍中の125Iの濃度はほとんどの正常器官中の濃度より高く、このことは、(ZHER2 A)2ポリペプチドがHER2を保有する腫瘍細胞を標的とすることができることを示す。正常器官および組織中の放射能濃度は、腎臓(全時点)、甲状腺(全時点)および肝臓(早期時点)を除いて、腫瘍中よりも低いことが判明した。実験は、血液および正常器官からの放射性ヨウ素の迅速なクリアランスを示した。正常器官からのクリアランスは、放射性ヨウ素の蓄積が見出された甲状腺を除いて、主に血中クリアランスに次ぐものであった。遊離ヨウ素の甲状腺取込み増大は、間接的標識法に関してさえ既知であり、ある程度まで、「非アイソトープ」すなわち非放射性ヨウ素で防止され得る(Larsen RH et al, Nucl Med Biol 25: 351-357 (1998))。高濃度の放射性ヨウ素はマウスの腎臓においても見出されたが、これも腎臓がこのような小タンパク質および異化代謝産物のための主要排泄経路であるためと予測された。
【0116】
図15Aおよび図15Bは、血中および腫瘍中の放射性ヨウ素濃度の長時間にわたる経過を示す。注射後4時間から始めると、腫瘍放射能は、血液放射能より高かった。図15Aに示したような実験データを用いて、血液および腫瘍中の放射性ヨウ素の半減期を、GraphPadPrismcv3.0(GraphPad Software (San Diego, USA)社製)を用いて算定した。2相の指数関数的な崩壊に関する非線形回帰をモデルとして用い、得られたグラフを図15Bに示す。腫瘍に対するT1/2α(0.36時間)は、血液に対するもの(0.76時間)より短かったが、T1/2βは長かった(腫瘍では87.5時間に対し、血液では4.3時間)が、これは得られた結果と良好に一致する。比較のために、腫瘍を保有しない正常なマウスからの生体内分布データを用いて同一モデルで算定された標識二量体に対する血液中のT1/2αは、0.3時間であった(データは示されていない)。
【0117】
放射能濃度の腫瘍対血液比(図16)は、注射後少なくとも12時間の間、時間に伴って増大した。この比は、放射能画像処理における主バックグラウンドが血液中の放射能からのものであるため、画像のコントラストを見積もるのに好都合な因子である。腫瘍対血液比および腫瘍の放射能濃度を考慮に入れると、注射後6時間及び8時間が画像化のための最適時点であり得る、と結論づけられた。良好なコントラストを有する画像に対しては、腫瘍対非腫瘍の放射能濃度比は、2未満であるべきである。
【0118】
ガンマ画像
画像処理のために選択された各々5匹から成る2グループの各々から、ガンマ画像を撮影した(それぞれ注射後6時間および8時間)。両時点での全てのマウスにおいて、鮮明な構造を有する腎臓を同定することができた。いくつかのさらなる構造(おそらくは肝臓)が、注射後6時間のマウスの画像に、腎臓に重なって、全身血液プールからのバックグラウンド増大に加えて、認められる。いくつかの動物はそれらの膀胱中に多少の尿を有したが、これも直接観察される。注射後8時間のマウスに関する画像では、頚部領域のさらなる構造が同定され得るが、これはおそらく甲状腺である。
【0119】
各画像セッションにおける5匹の動物から、1つの大型侵潤腫瘍(SKOV−3注射の第一バッチから)が視覚化された。他の腫瘍の局在化は明白ではなかった。2匹の当該動物を付加的な画像処理セッションのために選択した。結果を図17に示す。
【0120】
要約
SKOV−3(卵巣癌細胞株)腫瘍を保有するマウスにおける、ベンゾエート基を介して放射性ヨウ素(125I)で間接的に標識された二量体ポリペプチド(ZHER2 A)2の生体内分布は、正常マウスにおける該二量体ポリペプチドの正常な生体内分布と良好な一致を示した。125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2として注射される放射性ヨウ素の腫瘍への取込みが達成された。腫瘍への取込みは、高濃度の非標識(ZHER2 A)2分子の予備注射
を用いた遮断実験により、且つ非特異的な、標識されたZ変異体ZTaqの注射により示されるように、受容体介在性かつ特異的であった。得られたデータの分析により、腫瘍中の放射能濃度が注射後4時間の血中の放射能濃度より高く、且つ腎臓および甲状腺を除いて、注射後6時間における大多数の正常器官および組織中より高い、ということが示された。SKOV−3異種移植腫瘍を保有するマウスのガンマ画像を、注射後6および8時間で得た。良好な分解能が達成された。両時点で、大きい侵潤腫瘍を明瞭に同定できた。
【実施例5】
【0121】
SKOV−3異種移植片を保有するヌードマウスにおけるHis6−ZHER2 A単量体の生体内分布および腫瘍へのターゲッティング
本実施例を構成する実験では、実施例1および2の単量体ZHER2 Aポリペプチドを125Iで放射性標識し、HER2の過剰発現により特徴付けられる移植された腫瘍を保有するマウスに注入した。該ポリペプチドの生体内分布の検査を、その局在化を調べるために実施した。
【0122】
材料および方法
ZHER2 Aの間接的放射性ヨウ素標識
125Iで標識するために、40μlの単量体His6−ZHER2 Aを、実施例4における二量体ポリペプチド構築物と同様の処理に付した。
【0123】
動物の準備
M & Bからの雌の非近交系nu/nu balbマウス(到着時、10〜12週齢)を、C66/4承認下で用いた。異種移植片をマウス中に移植する前の1週間、ルドベック研究所(Uppsala, Sweden)の動物施設で、標準的な食餌、寝床および環境を用い、マウスを順応させた。マウスは食餌および飲料水を自由に摂取した。実験の3週間前に、5×107個のSKOV−3ヒト卵巣癌細胞(ATCC#HTB−77)を16匹のマウスの右後足に皮下注射した。実験時までに、腫瘍は全てのマウスにおいて定着しており、全てのマウスの体重は22〜27gであった。
【0124】
放射能の測定
実施例4に記載されたように125I測定を実施し、%ID/gを算出した。
【0125】
生体内分布実験
マウス16匹を、各グループ4匹で4つのグループ(I〜IV)に無作為に分けた。グループ、注射および屠殺の時間は、スキーム3に従った。PBS50μl中の125I(100kBq/マウス)で間接標識したZHER2 A0.5μgをマウスの尾部に静脈注射した。いかなる視覚的問題もないことから、全注射が良好に耐容されたと判断した。
【0126】
【表3】
【0127】
実施例4の第一の生体内分布試験に記載したように、マウスを屠殺し、試料を採取した。器官および組織の試料を計量し、それらの放射能をγ計数器(3インチNaI(T1)検出器を伴う自動γ計数器である1480WallacWIZARD(Wallac OY, Turku,
Finland))で測定した。
【0128】
結果
標識されたZHER2 Aを皮下注射しておいたマウスのグループからの結果を、マウスの器官および組織中の放射性ヨウ素の分布を確証するために分析した。結果を図18〜図20に示す。図18および図19を参照すると、腫瘍中の125Iの濃度は、4時間および24時間で大多数の正常器官中での濃度より高く、このことはZHER2 AポリペプチドがHER2を保有する腫瘍細胞を標的にすることができる、ということを示す。正常な器官および組織中の放射能濃度は、腎臓(全時点)および甲状腺(全時点)を除いて、腫瘍中よりも低いことが判明した。実験は、血液および正常器官からの放射性ヨウ素の迅速なクリアランスを示した。正常器官からのクリアランスは、放射性ヨウ素の蓄積が見出された甲状腺を除いて、大抵の場合は血中クリアランスに次ぐものであった。高濃度の放射性ヨウ素はマウスの腎臓においても見出された。図20は、血中および腫瘍中の放射性ヨウ素濃度の長時間にわたる経過を示す。注射後4時間から始めると、腫瘍の放射能は、血液の放射能より6倍高かった。放射能濃度の腫瘍対血液比(図21)は、注射後少なくとも8時間の間(この時点での該比の値は10対1であった)、時間に伴って増大した。
【0129】
要約
SKOV−3(卵巣癌細胞株)腫瘍を保有するマウスにおける、ベンゾエート基を介して放射性ヨウ素(125I)で間接的に標識された単量体ポリペプチドZHER2 Aの生体内分布は、正常マウスにおける該ポリペプチドの正常な生体内分布と良好な一致を示した。125I−ベンゾエート−ZHER2 Aとして注射される放射性ヨウ素の腫瘍取込みが達成された。得られたデータの分析により、腫瘍中の放射能濃度が注射後4時間の血中の放射能濃度より高く、二量体の形態(ZHER2 A)2と比較した場合、腎臓および甲状腺を除いて、注射後4時間においてすでに大多数の正常器官および組織中より高い、ということが示された。
【実施例6】
【0130】
SKOV−3異種移植片を保有するヌードマウスにおけるABD(ZHER2 A)2の生体内分布および腫瘍へのターゲッティング
本実施例を構成する実験では、ABD(ZHER2 A)2と名づけられたポリペプチドを生成するために、実施例3の二量体(ZHER2 A)2ポリペプチドを、そのN末端で、連鎖球菌プロテインG由来の「アルブミン結合ドメイン」(ABD)と遺伝子操作によって融合した(図22)。ABDは、ヒトおよびマウス血清アルブミンに高い親和性で結合する(M Johansson et al, J Biol Chem 277: 8114-8120 (2002))。アルブミンは、緩徐な血漿クリアランスを有する血中に豊富なタンパク質である。アルブミンとの高親和性の結合は、アルブミンタンパク質それ自体と同様に、該結合剤に緩徐な動態を付与する。動物における腫瘍ターゲッティングリガンドの循環時間が延長されると、理論上、腫瘍に送達される用量は増加する。これを試験するために、ABD(ZHER2 A)2ポリペプチドを125Iで放射性標識し、HER2過剰発現により特徴付けられる移植された腫瘍を保有するマウスに注入した。ポリペプチドの生体内分布の検査を、その局在化を調べるために実行した。
【0131】
材料および方法
DNA構築およびタンパク質産生
His6−ZHER2 Aと名づけた、HER2受容体に対する親和性を有する新規のAffibodyリガンドの選択は、実施例1および2に記されている。ZHER2 Aポリペプチドをコードする遺伝子断片をHis6−ZHER2 A用の発現ベクター中にサブクローニングすることにより構築される二量体ZHER2変異体は、実施例3に記載された。ABDポリペプチドをコードする遺伝子断片をHis6−ZHER2 A用の発現ベクター中にサブクローニングし、ヘキサヒスチジンタグをABDポリペプチドで置換することにより、この二量体Z
HER2 A変異体のABD融合タンパク質を構築した。さらに、エクステンションPCRを利用して、C末端システイン残基を融合タンパク質に付加した。DNAシーケンサーABIプリズム(登録商標)3700アナライザー(Applied Biosystems, Foster City, CA)でのDNAシーケンシングにより、導入されたABD断片を確認した。大腸菌RRIΔM15菌株(Ruther, Nucleic Acids Res 10: 5765-5772 (1982))を、クローニングの間、細菌宿主として用いた。得られたベクターは、T7プロモーターの制御下で(Studier et
al, Meth Enzymol 185: 60-89 (1990))、ABDと融合した二量体ZHER2変異体(ABD(ZHER2 A)2)をコードしており、これはC末端がシステイン残基と融合されていることにより部位特異的な化学的修飾が可能である(図22)。二量体ZHER2変異体を、大腸菌BL21(DE3)菌株中でABDとの融合体として発現させて、メーカーのプロトコル(Amersham Biosciences)に従って調製されたアルブミンセファロースアフィニティーカラム上でのアフィニティークロマトグラフィー精製により、回収した。適切な吸光係数を用いて、280nmでの吸光度測定値からタンパク質濃度を算定した。Novexシステム(Novex, CA, USA)を用いて、トリス−グリシン16%均質ゲル上でのSDS−PAGEにより、精製タンパク質をさらに分析した。クマシーブリリアントブルー染色により、タンパク質帯域を可視化した。SDS−PAGE分析により、該タンパク質は、予測された分子量の明確な帯域として観察された。
【0132】
ABD(ZHER2 A)2の間接的放射性ヨウ素標識
125Iで標識するために、40μlのABD(ZHER2 A)2を、実施例4における二量体ポリペプチド構築物と同一の処理に付した。
【0133】
動物の準備
M & Bからの雌非近交系nu/nu balbマウス(到着時、10〜12週齢)を、C66/4承認下で用いた。異種移植片を該マウスに移植する前の1週間、ルドベック研究所(Uppsala, Sweden)の動物施設で、標準的な食餌、寝床および環境を用い、マウスを順応させた。マウスは食餌および飲料水を自由に摂取した。実験の3週間前に、5×107個のSKOV−3ヒト卵巣癌細胞(ATCC#HTB−77)を16匹のマウスの右後足に皮下注射した。実験時までに、腫瘍は全マウスにおいて定着しており、全マウスの体重は22〜27gであった。
【0134】
放射能の測定
実施例4に記載されたように、125I測定を実施し、%ID/gを算定した。
【0135】
生体分布実験
マウス16匹を、各グループ4匹の4つのグループ(I〜IV)に無作為に分けた。グループ、注射および屠殺の時間は、スキーム4に従った。50μlのPBS中の125I(100kBq/マウス)で間接標識した0.5μgのABD(ZHER2 A)2をマウスの尾部に静脈注射した。いかなる視覚的問題もないことから、全注射が良好に耐容されたと判断した。
【0136】
【表4】
【0137】
実施例4の第一の生体内分布試験に記載したように、マウスを屠殺し、試料を採取した。器官および組織の試料を計量し、それらの放射能をγ計数器(3インチNaI(T1)検出器を伴う自動γ計数器である1480WallacWIZARD(Wallac OY, Turku,
Finland))で測定した。
【0138】
結果
結果を図23〜図24に示す。図23を参照すると、腫瘍中の125Iの濃度は、12時間(腫瘍 2.4%ID/g)および24時間(腫瘍 2.2%ID/g)では、ほとんどの正常器官中の濃度より高く、このことは、ABD(ZHER2 A)2ポリペプチドがHER2を保有する腫瘍細胞を標的にし得る、ということを示す。正常な器官および組織中の放射能濃度は、腎臓(全時点、24時間で3.5%ID/g)、甲状腺(全時点、24時間で5.2%ID/g)および血液(全時点、24時間で3.9%ID/g)を除いて、腫瘍中よりも低いことが判明した。肺での値は、腫瘍での値とほとんど等価であるが、これは、肺中の血液含量が高いためかもしれない。実験は、血液からの放射性ヨウ素の非常に遅いクリアランスを示した。これは、ABD(ZHER2 A)2のABD部分が、緩徐な動態を有する血中に豊富なタンパク質である血清アルブミンと高親和性で結合するため、予測できることである。正常器官からのクリアランスは、放射性ヨウ素の蓄積が見出された甲状腺を除いて、血中クリアランスより迅速であった。高濃度の放射性ヨウ素はマウスの腎臓においても見出された。図24は、実施例4および5におけるZHER2 Aの単量体および二量体構築物に関して作成された結果と比較した場合の、腫瘍中のABD(ZHER2 A)2に関連した放射性ヨウ素濃度の長時間にわたる経過を示す。注射後24時間で、ABD(ZHER2 A)2を用いた際の腫瘍の放射活性は、単量体または二量体の場合より13倍高かったが、これは、標的部分の体内での残留時間の延長が実際に腫瘍上での線量を増大するために利用され得る、ということを示す。このデータにより(ZHER2 A)2部分をアルブミン結合ドメインに機能的に結合できる、ということも裏付けられる。
【0139】
要約
SKOV−3(卵巣癌細胞株)腫瘍を保有するマウスにおける、ベンゾエート基を介して放射性ヨウ素(125I)で間接的に標識された融合ポリペプチドABD(ZHER2 A)2の生体内分布は、予測されたアルブミン結合ポリペプチドの特性と良好な一致を示した。125I−ABD(ZHER2 A)2として注射された放射性ヨウ素の腫瘍への取込みが達成され、腫瘍での線量はZHER2 Aポリペプチドの二量体または単量体バージョンでのものより高かった。得られたデータの分析により、肺、腎臓、甲状腺および血液中の放射能は依然として高かったものの、腫瘍中の放射能濃度は注射後12時間でのほとんどの他の器官中の放射能濃度よりは高いことが示された。
【実施例7】
【0140】
テクネチウム標識二量体99mTc−(ZHER2 A)2の生体内分布
本実施例を構成する実験では、実施例3による二量体His6−(ZHER2 A)2ポリペプチドを、診断用画像処理核種99m−テクネチウムで標識し、正常マウス及びHER2過剰発現により特徴付けられる移植された腫瘍を保有するマウス中に注射した。99mテクネチウム(99mTc)は、in vivo診断のための理想に近い特性を有する放射性核種である。さらにこれは安価で且つ容易に入手可能であり、このことが99mテクネチウムを、病院における医学的画像処理のための望ましい候補にしている。該ポリペプチドの生体内分布の試験を実行して、その局在化を調べた。
【0141】
材料および方法
His6−(ZHER2 A)2のテクネチウム標識
His6−(ZHER2 A)2タンパク質上のヘキサヒスチジンタグへ99mTc核種を送達する市販のIsoLink(商標)キット(Mallinckrodt, Netherlands)を用いて、メーカーの使
用説明書に従って、His6−(ZHER2 A)2ポリペプチドを標識した。IsoLink(商標)キット試薬はテクネチウム陽イオン[99mTc(CO)3(H2O)3]+を生じ、これは次に、ヘキサヒスチジンタグにより安定的に配位結合されて、His6−(ZHER2 A)2ポリペプチドのHis6タグを特異的に標識するための手段を提供する。
【0142】
簡単に述べると、ウプサラ大学病院で発生器から溶離された99mTcストック溶液0.5〜0.6mlを、水浴中で、100℃で20分間、IsoLink(商標)カルボニル標識剤(DRN4335、Mallinckrodt)の内容物とともにインキュベートした。このようにして得られたテクネチウム陽イオン[99mTc(CO)3(H2O)3]+40μlを、PBS中のHis6−(ZHER2 A)2(1.2mg/ml)40μlと混合し、50℃で1時間インキュベートした。5kDの排除分子量を有するNAP−5サイズ排除カラム(Pharmacia, Uppsala)上での分離により、生成物を精製した。生成物の純度は、薄層クロマトグラフィーをすぐに行って確認したところ、97%であった。
【0143】
動物の準備
M & Bからの雌非近交系nu/nu balbマウス(到着時、10〜12週齢)を、C66/4承認下で用いた。異種移植片をマウス中に移植する前の1週間、標準的な食餌、寝床および環境を用い、ルドベック研究所(Uppsala, Sweden)の動物施設でマウスを順応させた。マウスは食餌および飲料水を自由に摂取した。実験の3週間前に、5×107個のSKOV−3ヒト卵巣癌細胞(ATCC#HTB−77)を4匹のマウスの右後足に皮下注射した。実験時までに、腫瘍は全マウスにおいて定着しており、全マウスの体重は22〜27gであった。
【0144】
放射能の測定
実施例4において125Iに関して記載したと同様に、99mTcの測定を実施し、%ID/gを算出した。
【0145】
生体内分布実験
4匹のマウスを有する1つのグループを実験に用いた。注射および屠殺の時間は、スキーム5に従った。50μlのPBS中の99mTc(100kBq/マウス)で標識した0.5μgのHis6−(ZHER2 A)2をマウスの尾部に静脈注射した。いかなる視覚的問題もないことから、全注射が良好に耐容されたと判断した。
【0146】
【表5】
【0147】
実施例4の第一の生体内分布試験に記載したように、マウスを屠殺し、試料を採取した。器官および組織の試料を計量し、それらの放射能をγ計数器(3インチNaI(T1)検出器を有する自動γ計数器。1480WallacWIZARD、Wallac OY(Turku, Finland)で測定した。
【0148】
結果
結合体99mTc−His6−(ZHER2 A)2は、in vitroで高い安定性を有した(PBS、血漿、システインおよび過剰量の遊離ヒスチジンで攻撃)。99mTc−His6−(ZHER2 A)2のin vivoでの生体内分布実験からの結果を、図25〜図27に示す。図25を参照すると、総腫瘍線量は、125I標識された単量体構築物である125I−
ベンゾエート−ZHER2 A(注射後8時間で1.1%ID/g)または二量体構築物である125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2(注射後8時間で1.06%ID/g)と比較した場合、99mTc−His6−(ZHER2 A)2(注射後8時間で、3.3%ID/g)を用いた場合は3倍高かった。99mTcは、125Iより良好な残留性物質であるということが既知であり、これは、99mTcでは送達された用量が残存する一方、ヨウ素では用量は代謝され、腫瘍細胞から放出されることを意味する。図26を参照すると、腫瘍中の99mTcの濃度は、注射後8時間においてはほとんどの正常器官より高かった(腫瘍 3.3%ID/g)が、これは、99mTc−His6−(ZHER2 A)2ポリペプチドがHER2を保有する腫瘍細胞を標的にし得る、ということを示す。正常器官および組織中の放射能濃度は、腎臓(8時間で27%ID/g、腫瘍線量の36倍)および肝臓(8時間で11.4%ID/g、腫瘍線量の3倍)を除いて、腫瘍中よりも低いことが判明した(図27)。99mTc−His6−(ZHER2 A)2は腎臓を介して除去されるため、腎臓での高い値が予測された。腎臓中の高レベルのトレーサーは毒性の問題を示さないが、これは、注射された総線量は診断目的であって非常に低いからである。甲状腺中の放射能の量は、予測どおり、125Iを用いた場合(実施例4)ほど高いことは全くなかった(8時間で1%ID/g)。正常器官からのクリアランスは、1時間をピークとする99mテクネチウムの蓄積が観察された腎臓を除き、主として血中クリアランスに次ぐものであった。レベルはその後低下し、1時間の間(注射後2時間まで)に急速排除期、その後、緩徐排除期が続き、24時間後においても腎臓中には依然としてかなりの線量(70%ID/g)が認められた。
【0149】
注射後8時間での該テクネチウム結合体に関する腫瘍対血液比は4であり、総腫瘍線量は3.3%ID/gであった。これは、99mテクネチウムがin vivo診断用途に用いられ得る、ということを示した。比較としては、同じ時点で、125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2および125I−ベンゾエート−ZHER2 Aの腫瘍線量は約1%であったが、腫瘍対血液比は約11であった。
【0150】
要約
SKOV−3(卵巣癌細胞株)腫瘍を保有するマウスにおける、99mTc標識ポリペプチド99mTc−His6−(ZHER2 A)2の生体内分布は、医療用画像処理目的にとって相対的に良好な分布特性を示した。99mTc−His6−(ZHER2 A)2として注射されたテクネチウムの腫瘍への取込みが達成され、腫瘍での線量は、ZHER2 Aポリペプチドの125I標識二量体または単量体バージョンに対するものより高かった。得られたデータの分析により、腫瘍中の放射能濃度は、実質的に腫瘍より高い取込みが肝臓および腎臓で認められるものの、注射後8時間ではほとんどの他の器官および血液中の放射能濃度よりは高いことが示された。
【実施例8】
【0151】
211Atを用いたin vitro標識および特徴付け
本実施例を構成する実験においては、実施例3による二量体His6−(ZHER2 A)2ポリペプチドを、125Iを用いた標識に関して上記したと同様の化学的手法を用いて、治療用放射性核種である211アスタチン(211At)で標識した。放射性核種の腫瘍へのターゲッティングの一目的は、放射線療法である。これは、標的細胞を根絶することができる高エネルギー粒子、例えばα粒子および高エネルギーβ粒子を放射する核種を要する。α放出放射性ハロゲン211At(T1/2=7.2時間)は、ごく少数の細胞の直径程度の飛程(range)を有しており、これは、細胞の根絶が高精度で起こり得ることを意味する。211At標識ポリペプチドのin vitroでの殺細胞能力の試験を実行した。
【0152】
材料および方法
2日前に、HER2過剰発現により特徴付けられる100,000個のSKBR−3細胞を、3cm培養皿に植え付けた。60μgのHis6−(ZHER2 A)2ポリペプチドを、
コペンハーゲン大学病院のScanditronixMC32サイクロトロン中で生成した211Atで標識して、Jorgen Carlsson(ウプサラ大学(Uppsala, Sweden))の研究室で精製した。約1:1および5:1モル比の211At−(ZHER2 A)2分子/細胞受容体を、3つの培養皿の各々に添加した。さらに3つの別の培養皿には、5:1濃度の211At−(ZHER2 A)2に加えて、結合部位を遮断することにより非特異的な放射の影響を概算することを目的として、500倍過剰量の非標識His6−(ZHER2 A)2を供給した。細胞を、37℃で24時間、211At−(ZHER2 A)2とともにインキュベートした。24時間のインキュベーション後、全細胞を洗浄し、新しい新鮮な培地を補給した。次に、約2ヶ月間、週に1回、それらの増殖をモニタリングした。
【0153】
並行して、上記の細胞殺滅検定に用いたのと同一方法で調製した一組の培養皿に、同じ211At−(ZHER2 A)2溶液を供給した。培養皿中の全グループに関する取込み曲線を確立するために、これらの細胞を異なる時点で採取し、細胞数を計数し、放射能含量を測定した。これらの曲線を用いて、細胞殺滅実験で用いた24時間に亘る、細胞当たりの崩壊量を算出した。
【0154】
結果
HER−2を過剰発現するヒト乳癌細胞株SKBR−3からの細胞を、2つの異なる用量の211At−(ZHER2 A)2に24時間曝露した。第一の用量では、添加した211At−(ZHER2 A)2分子は、細胞上のHER2標的受容体の数と等しかった。第二の用量では、211At−標識分子を5倍過剰量で添加した。24時間のインキュベーション後、週に1回、2ヶ月にわたって細胞をモニタリング、計数し、生存画分を確定した。図28で観察されるように、応答は、投与された用量に関連した。等モル量の211At−(ZHER2 A)2を投与された細胞は、放射能がターゲッティング剤を伴わずに添加される対照と比較して、いかなる特異的な増殖の遅延も示さなかった。非特異的な放射線傷害により短期間の増殖遅延が認められたが、しかし細胞は増殖を停止しなかった。これに対比して、211At−(ZHER2 A)2を5倍過剰量で添加した場合、細胞増殖の抑制は目覚ましいものであった。実験終了時、高用量投与グループは未だ正常な状態に回復していなかったが、一方、低用量および対照グループは106倍に増殖していた。生存細胞が実験前とほぼ同一の増殖率を照射後にも維持していると考えると、5:1グループ中の全細胞が根絶されたことになる。取込み曲線は、遮断処理された5:1グループも、おそらくは遮断が不十分であったために、細胞に対してかなりの量の照射を受けていた、ということを明示した。細胞あたりの崩壊数(DPC)を、統合した取込み曲線から概算した。増殖曲線から、指数増殖曲線の勾配として倍加時間を算出し、かつ、遅延した増殖の曝露時間への外挿により、生存画分を算定した。第1表に結果を示す。
【0155】
【表6】
【0156】
要約
211At−(ZHER2 A)2は、in vitroでHER2過剰発現SKBR−3細胞との特異的な結合を示した。誘導された細胞死は、蓄積された線量と良好に相関した。100未満の崩壊数/細胞は、単一の細胞を殺傷して完全に細胞を根絶するのに十分であることを示した。
【実施例9】
【0157】
付加的なHER2結合ポリペプチドの同定および特徴付け
実施例1に記載した選択から得られるHER2結合Z変異体の親和性を増大させるために、第二のライブラリーの構築(Gunneriusson et al, Protein Eng 12: 873-878 (1999); Nord et al, Eur J Biochem 268: 4269-77 (2001))と、その後のHER2に対する再選択とを包含する親和性の成熟戦略を適用した。第一世代のポリペプチド変異体ZHER2 A、B、CおよびDのアラインメントは、第13位、14位、28位、32位および35位での同一性とは別に、ZHER2 AおよびZHER2 B間に、第10位におけるRおよびKへの、そして第11位におけるQおよびTへの集中(convergence)が認められる、ということを示した。したがって第二世代のライブラリーは、5つの固定された位置、すなわち第13位、14位、28位、32位および35位、ならびに2つの部分的に固定された位置、すなわち第10位(縮重コドンとしてcgc/aaa)および第11位(縮重コドンとしてcaa/acc)を含有する一方、残りの第9位、17位、18位、24位、25位および27位は、NNG/T縮重コドンを用いて再び無作為化された。形質転換後、3×108クローンのライブラリーを得た。標的としてヒトHER2(HER2−ECD)のビオチニル化細胞外ドメイン(組換えヒトHER2細胞外ドメイン、アミノ酸238〜2109、Fox Chase Cancer Center, Philadelphia, USAによる提供)を用い、その濃度を低下させながら、抗原結合分子に対して5回の選択を施した。
【0158】
それぞれ4回および5回目に得られた80および260コロニーのクローンを、それらのHER2結合活性の分析を実施するために選別した。
【0159】
HER2結合の分析のためのABAS ELISA
4回および5回の選択から無作為に選択されるクローンを、96ウエルプレート(Nunc)中で生成させた。ABAS ELISAと呼ばれるELISAスクリーニング手法を用いて、高親和性HER2結合Z変異体を同定した。単一コロニーを、深穴96ウエルプレート中で1mMのIPTGおよび100μg/mlのアンピシリンを補充した1mlのTSB−YE培地(30.0gのトリプシンダイズブロス(Merck)および5.0gの酵母抽出物(Merck)、水で最終容積を1lとする)に接種し、37℃で一晩、振盪器上で増殖させた。3,000gで10分間の遠心分離により細胞をペレット化した。ペレットを300μlのPBS−T中に再懸濁し、−80℃で少なくとも30分間凍結させた。プレートをぬるま湯中で解凍し、3,500gで20分間遠心分離した。100μlの上清を微量滴定ウエル(#9018 Costar(登録商標))に入れて、これを4℃で一晩、15mMのNa2CO3および35mMのNaHCO3(pH9.6)中の6μg/mlのヒト血清アルブミン(HSA)と共にインキュベートし、室温で1時間、PBS−T中の2%粉末スキムミルクでブロッキングしておいた。プレートを4回洗浄した後、1μg/mlのビオチニル化HER2/ウエル100μlを添加し、1.5時間インキュベートした。ウエルを4回洗浄した後、ストレプトアビジン−HRP(1:5,000)(#P0397 Dako)を添加し、1時間インキュベートした。ウエルを4回洗浄し、最終洗浄後、100μlの展開溶液(ImmunoPure)TMB(#34021 Pierce)を各ウエルに添加した。20〜30分後、100μlの停止溶液(2MのH2SO4)を、各ウエルに添加した。450nmでの吸光度をELISA読取器(Tecan)で測定した。ABAS ELISAからの結果を図29に示す。図29Aおよび図29BのグラフのX軸は、該96ウエルプレートのウエルの番号に対応する。したがって図29Aは第一の96ウエルプレートに関するELISA結果を示し、一方、図29Bは第二のプレートに関する結果を示す。
【0160】
DNA配列分析
ABAS−ELISAで分析したZHER2変異体をコードするDNAのシーケンシングを
、ビオチニル化オリゴヌクレオチドAFFI−72(5’−ビオチン−CGGAACCAGAGCCACCACCGG)を用いて、製造者の推奨に従って、ABIプリズム(登録商標)、dGTP、ビッグダイ(商標)ターミネーターv3.0レディリアクションサイクルシーケンシングキット(Applied Biosystems)を用いて実施した。ABIプリズム(登録商標)3100遺伝子分析器(Applied Biosystems)で、配列を分析した。配列分析は、130の独特の配列を生じた。ネガティブ対照の値より少なくとも2倍高い吸光度値により立証されるような、ABAS ELISA実験で結合を示したZHER2変異体かに由来する配列は図1に示されており、配列番号6〜76として配列表で同定される。これらのHER2結合Z変異体の命名法は、以下の通りである。ELISA実験の第一のプレートから単離された変異体(図29A)は、ZHER2:1NNと呼ばれ、この場合、NNはその特定のポリペプチド変異体が分析された第一のプレート中のウエルの番号に対応する。ELISA実験の第二のプレートから単離された変異体(図29B)は、ZHER2:2NNと呼ばれ、この場合、NNはその特定のポリペプチド変異体が分析された第二のプレート中のウエルの番号に対応する。
【0161】
クローニングおよびタンパク質産生
図30で模式的に示されている構築物をコードする発現ベクターを用いて、大腸菌細胞中で、選定したHER2結合ポリペプチドを発現させた。N末端ヘキサヒスチジルタグとの融合体として、該ポリペプチドを生成させた。His6−タグ化ポリペプチドZHER2:101、ZHER2:107、ZHER2:149、ZHER2:202、ZHER2:205、ZHER2:207、ZHER2:209、ZHER2:222、ZHER2:225およびZHER2:229、ならびにZHER2 Aを、変性条件下で、BioRobot3000(Qiagen)およびNI−NTA Superflow96BioRobot手法を用いて精製した。精製されたHis6−タグ化タンパク質を、PBS(2.68mMのKCl、137mMのNaCl、1.47mMのKH2PO4、8.1mMのNa2HPO4、pH7.4)中で透析した。試料のタンパク質濃度を、280nmでの測定吸光度値およびそれぞれのタンパク質の理論的吸光係数から算出した。
【0162】
His6−タグ化ZHER2変異体のバイオセンサー分析
前節により産生されたHisタグ化ZHER2変異体とHER2との間の相互作用を、ビアコア(登録商標)2000システム(Biacore AB, Uppsala, Sweden)での表面プラズモン共鳴を用いて分析した。ヒトHER2およびIgG(免疫グロブリンG)を、製造者の推奨に従って、CM−5チップの表面のカルボキシル化デキストラン層上へのアミンカップリングにより、別個のフローセル中に固定した。ヒトHER2およびIgGの固定化は、それぞれ4,600および5,100共鳴単位(RU)を生じた。第三のフローセル表面を活性化し、及び注入の間のブランクとして用いるために不活性化した。融合ポリペプチドZHER2:101、ZHER2:107、ZHER2:149、ZHER2:202、ZHER2:205、ZHER2:207、ZHER2:209、ZHER2:222、ZHER2:225およびZHER2:229を、1×HBS−EP(5mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%界面活性剤P−20、pH7.4)により希釈して、最終濃度を50nMとし、10μl/分の一定流量で注入した。総注入時間は2分(会合)で、その後3分間洗浄した(解離)。表面を、25mMのHClの2回の注入により再生した(30秒/注入)。参照細胞中で測定された応答(活性化/不活性化表面)を、固定化されたHER2を有する細胞中で測定された応答から差し引いた。HER2と相互作用する精製タンパク質の能力を、図31のセンサグラムにより例示されるように、確認した。
【実施例10】
【0163】
付加的なHER2結合ポリペプチドの同定および特徴付け
実施例1に記載した選択の3回目および4回目に得られるクローンの包括的な配列分析を実施した。製造者の推奨に従って、ABIプリズム(登録商標)、dGTP、ビッグダイ(商標)ターミネーターv3.0レディリアクションサイクルシーケンシングキット(
Applied Biosystems)を、そしてABIプリズム(登録商標)3100遺伝子分析器(Applied Biosystems)を用いて、DNAをシーケンシングした。ビオチニル化オリゴヌクレオチドAFFI−72(5’−ビオチン−CGGAACCAGAGCCACCACCGG)を、プライマーとして用いた。配列分析は、11の新規のポリペプチド配列、即ち実施例1に記載した試験において見出されなかったクローンを明示した。
【0164】
図30に模式的に例示される構築物をコードする発現ベクターを用いて、大腸菌細胞中でこれらのZ変異体を発現させることを決定した。その結果、N末端ヘキサヒスチジルタグとの融合体として、ポリペプチドが生成された。変性条件下で、BioRobot 3000(Qiagen)およびNI−NTA Superflow96BioRobot手法を用いて、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー(IMAC)により、該ポリペプチドを精製した。溶離したタンパク質を、SDS−PAGE上で分析した。精製His6−タグ化タンパク質の緩衝液を、製造者の推奨に従って、PD−10カラム(Amersham Biosciences)を用いて、5mMのNH4Acに交換した。その後、タンパク質を凍結乾燥し、HBS−EP(5mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%界面活性剤P−20、pH7.4)中に溶解した。試料のタンパク質濃度を、280nmでの測定吸光度値、ならびにそれぞれのタンパク質の理論的吸光係数から算定した。
【0165】
His6−タグ化ZHER2変異体のバイオセンサー分析
His6タグ化ZHER2変異体とHER2との間の結合活性を、ビアコア(登録商標)2000(Biacore AB, Uppsala, Sweden)を用いて分析した。ヒトHER2およびHIV−1gp120(Protein Sciences Corporation、#2003−MN)を、製造者の推奨に従って、CM−5チップの表面のカルボキシル化デキストラン層上へのアミンカップリングにより、別個のフローセル中に固定した。ヒトHER2およびHIV−1gp120の固定化は、それぞれ2631および3138共鳴単位(RU)を生じた。第三のフローセル表面を活性化し、及び注入を行う間のブランクとして用いるために不活性化した。ZHER2変異体を、1×HBS−EP(5mMのHEPES、150mMのNaCl、3.4mMのEDTA、0.005%界面活性剤P−20、pH7.4)中に希釈して、最終濃度を1μMとし、10μl/分の一定流量で注入した。総注入時間は1分(会合)で、その後3分間洗浄した(解離)。表面を、10mMのHClの30秒間の注入により再生した。参照細胞中で測定された応答(活性化/不活性化表面)を、固定化HER2を有する細胞中で測定された応答から差し引いた。3つの精製タンパク質ZHER2:3035、ZHER2:0434およびZHER2:0024*は、図32のセンサグラムにより例示されるように、HER2と特異的に結合した。これらのZHER2変異体の配列は図1に示されており、配列番号77〜79として配列表で同定される。
【図面の簡単な説明】
【0166】
【図1−1】配列表に示された配列のアラインメントを示す。本発明のポリペプチドZHER2(配列番号2〜79で表す)中の修飾を施されたアミノ酸の位置は、太字で示される。
【図1−2】配列表に示された配列のアラインメントを示す。本発明のポリペプチドZHER2(配列番号2〜79で表す)中の修飾を施されたアミノ酸の位置は、太字で示される。
【図1−3】配列表に示された配列のアラインメントを示す。本発明のポリペプチドZHER2(配列番号2〜79で表す)中の修飾を施されたアミノ酸の位置は、太字で示される。
【図2】実施例1で産生される融合ポリペプチドのアミノ酸配列の模式図である。ZHER2は、配列番号2〜3から選択される配列を有するHER2結合ドメインを表し、His6はヘキサヒスチジルタグを表す。
【図3】精製された融合タンパク質のゲル電気泳動の結果を示す。レーン1:His6−ZHER2 A(8.7kDa);レーン2:His6−ZHER2 B(8.7kDa);M:分子量マーカー(LMW−SDSマーカーキット、Amersham Biosciences #17−0446−01)。
【図4】His6−ZHER2 A融合タンパク質10μMを、A:HER2、B:HIV−1gp120、およびC:BB、が固定されたセンサーチップ表面に対して注入した後に得られた、ビアコア(登録商標)センサグラムを示す。
【図5】His6−ZHER2 B融合タンパク質10μMを、A:HER2、B:HIV−1gp120、およびC:BB、が固定されたセンサーチップ表面に対して注入した後に得られた、ビアコア(登録商標)センサグラムを示す。
【図6】HER2が固定されたセンサーチップ表面に対し、His6−ZHER2 A融合タンパク質を、A:1μM;B:2μM;C:5μM;D:10μM;E:20μM;F:40μM、注入した後に得られたビアコア(登録商標)センサグラムを示す。
【図7】HER2が固定されたセンサーチップ表面に対し、His6−ZHER2 B融合タンパク質を、A:1μM;B:2μM;C:5μM;D:10μM;E:20μM;F:40μM、注入した後に得られたビアコア(登録商標)センサグラムを示す。
【図8A】His6−ZHER2 Aを、以下の選定した濃度:312.5nM(黒菱形)、156.3nM(黒丸)、78.2nM(黒三角)、39.1nM(白四角)、19.6nM(白菱形)および9.8nM(白丸)で、HER2−ECDフローセル表面に対して注入した後に得られたビアコア(登録商標)センサグラムを示す。
【図8B】His6−ZHER2 Bを、以下の選定した濃度:625nM(黒四角)、312.5nM(黒菱形)、156.3nM(黒丸)、78.2nM(黒三角)、39.1nM(白四角)および19.6nM(白菱形)で、HER2−ECDフローセル表面に対して注入した後に得られたビアコア(登録商標)センサグラムを示す。
【図9】His6−ZHER2 Aの、SKBR−3細胞への結合特異性を示す。125I標識His6−ZHER2 AはSKBR−3細胞と、理論的には5:1のリガンド:HER2受容体比で結合できると見積もられた。値は3つの測定値の平均である。誤差バーは標準偏差を表す。
【図10】アミン結合HER2−ECDを含有するセンサーチップフローセル表面に対し、精製His6−ZHER2 A(中白四角)およびHis6−(ZHER2 A)2(中黒四角)を注入した後に得られたビアコア(登録商標)センサグラムを示す。曲線のy値を、0〜100の共鳴単位間に標準化した。挿入されているSDS−PAGEゲル(トリス−グリシン16%均質ゲル、還元条件)像は、発現させてIMACで精製したHis6−ZHER2 A(レーン1)およびHis6−(ZHER2 A)2(レーン2)を示す。レーンM:分子量(キロダルトン)を有するマーカータンパク質。
【図11】125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2注射1時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布の比較を示す。遮断あり:非標識(ZHER2 A)2を予備注射されたマウスに関するデータ。遮断なし:予備注射なしのマウスに関するデータ。
【図12】125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2(Z4二量体)または125I−ベンゾエート−ZTaq(Z Taq4:5)注射4時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布の比較を示す。
【図13】125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2注射後の種々の時間での腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布を示す。2つの生体内分布実験からのデータを組合せて示す。注射後4時間に関するデータは、両実験からの平均である。
【図14】125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2注射8時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布を示す。
【図15】血液および腫瘍中の放射能濃度の比較を示す。2つの生体内分布実験からのデータを組合せて示す。A:実験データ。B:2相指数関数的崩壊モデルによる非線形回帰を用いてフィッティングした曲線。
【図16】放射能濃度の腫瘍対血液比を示す。2つの生体内分布実験からのデータを組合せて示す。
【図17】125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2結合体の尾部静脈注射後6時間(左マウス)および8時間(右マウス)における、腫瘍保有マウス(SKOV−3)の全身γカメラ画像である。
【図18】125I−ベンゾエート−ZHER2 A注射4時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布を示す。
【図19】125I−ベンゾエート−ZHER2 A注射24時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布を示す。
【図20】125I−ベンゾエート−ZHER2 A注射後の種々の時間における腫瘍保有ヌードマウスの腫瘍および血液中の放射性ヨウ素の動態を示す。
【図21】125I−ベンゾエート−ZHER2 A注射後の放射能の腫瘍対血液比を示す。
【図22】実施例6で産生される融合ポリペプチドのアミノ酸配列の模式図である。ZHER2 Aは、配列番号2で示される配列を有するHER2結合ドメインを表し、ABDは連鎖球菌プロテインGに由来するアルブミン結合ドメインを表す。
【図23】125I−ベンゾエート−ABD(ZHER2 A)2の注射後12時間(灰色)および24時間(白色)の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布を示す。
【図24】(A):125I−ABD(ZHER2 A)2、(B):125I−(ZHER2 A)2、および(C):125I−ZHER2 A、注射後の種々の時点での腫瘍保有ヌードマウスの腫瘍中の放射性ヨウ素の動態を示す。
【図25】125I−ベンゾエート−ZHER2 A、125I−ベンゾエート−(ZHER2 A)2、および99mTc−(ZHER2 A)2の送達された用量の比較を示す。
【図26】99mTc−(ZHER2 A)2注射8時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける放射能の生体内分布を示す。
【図27】99mTc−(ZHER2 A)2注射8時間後の腫瘍保有ヌードマウスにおける選択した器官中の放射能の比較を示す。
【図28】211At−(ZHER2 A)2に24時間曝露した後のSKBR−3細胞の増殖を示すグラフである。曲線Aの黒丸は、曝露なしの細胞を示し、曲線Bの白四角は、中程度に曝露された細胞を示し、曲線Dの灰色四角は、高レベルの211At−(ZHER2 A)2に曝露された細胞を示す。曲線Cの灰色三角は、500倍過剰量の非標識His6−(ZHER2 A)2と組合せて高レベルの211At−(ZHER2 A)2に曝露された細胞を示す。値は3つの実験の平均であり、誤差バーは標準偏差を表す。
【図29】A及びBは、4回目および5回目の親和性の成熟の選択から採取したクローンの結合活性を確定するための、ABAS ELISAからの結果を示す。
【図30】実施例9および10で産生される融合ポリペプチドのアミノ酸配列の模式図である。ZHER2は、本発明の第一の態様のHER2結合ポリペプチドを表し、His6はヘキサヒスチジルタグを表す。
【図31】概算で50nMの濃度でHER2被覆表面に注入した場合の、本発明の10の親和性の成熟したHER2結合ポリペプチドから得られたセンサグラムのオーバーレイしたプロットである。A:ZHER2:205;B:ZHER2:149;C:ZHER2:202;D:ZHER2 A;E:ZHER2:222;F:ZHER2:225;G:ZHER2:209;H:ZHER2:229;I:ZHER2:207;J:ZHER2:107;K:ZHER2:101。ここで留意すべきは、第一世代ライブラリーを用いた選択から単離されたZHER2 Aを試験に付加した、ということである。
【図32】特異的なHER2結合活性を有するZHER2変異体の結合分析結果を示す。図中に示されているHER2またはHIV−1gp120を含有するセンサーチップ表面に対し、(A)ZHER2:3053(B)ZHER2:0434(C)ZHER2:0024*を注入することにより得られたオーバーレイ・センサグラムである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HER2に対する結合親和性を有し、かつブドウ球菌のプロテインA(SPA)のドメインに関連するポリペプチドであって、該ポリペプチドの配列は1〜約20の置換変異を有する前記SPAドメインの配列に相当する、ポリペプチド。
【請求項2】
HER2に対する結合親和性を有し、相互作用のKD値が最大で1×10-6Mであることを特徴とする、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
HER2に対する結合親和性を有し、相互作用のKD値が最大で1×10-7Mであることを特徴とする、請求項2記載のポリペプチド。
【請求項4】
配列番号1に示されるSPAプロテインZの配列において1〜約20の置換変異を含む配列に相当する配列であることを特徴とする、請求項1〜3いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項5】
4〜約20の置換変異を含む、請求項4記載のポリペプチド。
【請求項6】
第13位、第14位、第28位、第32位および第35位のうちの1以上の位置における置換変異を含む、請求項4又は5記載のポリペプチド。
【請求項7】
第9位、第10位、第11位、第17位、第18位、第24位、第25位および第27位のうちの1以上の位置における置換変異をさらに含む、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項8】
第13位におけるフェニルアラニンからチロシンへの置換変異を含む、請求項4〜7いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項9】
第14位におけるチロシンからトリプトファンへの置換変異を含む、請求項4〜8いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項10】
第28位における、アスパラギンから、アルギニンおよびヒスチジンから選択されるアミノ酸残基への置換変異を含む、請求項4〜9いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項11】
第28位におけるアスパラギンからアルギニンへの置換変異を含む、請求項4〜10いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項12】
第32位におけるグルタミンからアルギニンへの置換変異を含む、請求項4〜11いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項13】
第35位におけるリジンからチロシンへの置換変異を含む、請求項4〜12いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項14】
第10位におけるグルタミンからアルギニンへの置換変異を含む、請求項4〜13いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項15】
第11位におけるアスパラギンからスレオニンへの置換変異を含む、請求項4〜14いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項16】
第17位におけるロイシンからバリンへの置換変異を含む、請求項4〜15いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項17】
第27位における、アルギニンから、リジンおよびセリンから選択されるアミノ酸残基への置換変異を含む、請求項4〜12いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項18】
配列番号1の配列において突然変異F13Y、Y14W、N28R、Q32RおよびK35Yを少なくとも含む配列に相当するアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項4〜17いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項19】
アミノ酸配列が、配列番号2〜79のいずれか1つに示される、請求項4〜18いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項20】
アミノ酸配列が、配列番号2又は3に示される、請求項19記載のポリペプチド。
【請求項21】
関連するブドウ球菌プロテインA(SPA)のドメイン中に存在するアスパラギン残基のうちの少なくとも1つが、別のアミノ酸残基に置換されていることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項22】
前記ブドウ球菌プロテインA(SPA)のドメインの配列が配列番号1に示されるSPAプロテインZの配列に相当し、かつ該ポリペプチドはN3、N6、N11、N21、N23、N28、N43およびN52から選択される少なくとも1つの位置での置換変異を含む、請求項21記載のポリペプチド。
【請求項23】
N3A、N6A、N6D、N11S、N23T、N28AおよびN43E、の突然変異のうち少なくとも1つを含む、請求項22記載のポリペプチド。
【請求項24】
前記請求項のいずれかに記載のポリペプチドの断片を構成し、該断片はHER2に対する結合親和性を保持していることを特徴とする、ポリペプチド。
【請求項25】
いずれかの末端に付加的なアミノ酸残基を含む、前記請求項のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項26】
前記付加的なアミノ酸残基は、N−またはC末端におけるシステイン残基を含む、請求項25記載のポリペプチド。
【請求項27】
前記付加的なアミノ酸残基は、好ましくはヘキサヒスチジニルタグ、mycタグおよびFlagタグから選択される、タグを含む、請求項25又は26記載のポリペプチド。
【請求項28】
前記付加的なアミノ酸残基が少なくとも1つの機能的なポリペプチドドメインを含み、請求項1〜24のいずれか一項記載のポリペプチドから成る第一の部分と、少なくとも1つの第二の部分及び任意のさらなる単一又は複数の部分との融合ポリペプチドである、請求項25又は26記載のポリペプチド。
【請求項29】
前記第二の部分が請求項1〜24いずれか一項記載の1又は複数のポリペプチドから構成され、請求項1〜24いずれか一項記載の配列が同一でも異なっていてもよい、HER2結合ポリペプチドの多量体である、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項30】
前記第二の部分はHER2以外の標的分子と結合し得る少なくとも1つのポリペプチドドメインを含む、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項31】
前記第二の部分はヒト血清アルブミンと結合し得る少なくとも1つのポリペプチドドメ
インを含む、請求項30記載のポリペプチド。
【請求項32】
前記ヒト血清アルブミンと結合し得る少なくとも1つのポリペプチドドメインは連鎖球菌のプロテインGのアルブミン結合ドメインである、請求項31記載のポリペプチド。
【請求項33】
前記第二の部分がブドウ球菌のプロテインA(SPA)のドメインに関連するポリペプチドを含み、該ポリペプチドの配列は1〜約20の置換変異を有する前記SPAドメインの配列に相当する、請求項30記載のポリペプチド。
【請求項34】
前記第二の部分のポリペプチドの配列が、配列番号1に示されるSPAプロテインZの配列において1〜約20の置換変異を有する配列に相当する、請求項33記載のポリペプチド。
【請求項35】
前記第二の部分が酵素作用を有する、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項36】
前記第二の部分が蛍光作用を有する、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項37】
前記第二の部分が、ファージのコートタンパク質またはその断片である、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項38】
標識基を含む、前記請求項のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項39】
前記標識基が蛍光標識、ビオチンおよび放射性標識から選択される、請求項38記載のポリペプチド。
【請求項40】
HER2を過剰発現する細胞に対して活性を有する物質と結合された、前記請求項のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項41】
HER2を過剰発現する細胞に対する活性を有する前記物質が、細胞傷害性物質、放射性物質、ADEPT法に使用される酵素、サイトカインおよび凝血原因子から選択される、請求項40記載のポリペプチド。
【請求項42】
請求項1〜37いずれか一項記載のポリペプチドをコードする配列を含む核酸分子。
【請求項43】
請求項42記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項44】
請求項43記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項45】
請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドの薬剤としての使用。
【請求項46】
HER2の過剰発現を特徴とする少なくとも一形態の癌の治療のための薬剤の調製における、請求項1〜41のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項47】
HER2の過剰発現を特徴とする少なくとも一形態の癌の治療方法であって、請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドを活性物質として含む治療的有効量の組成物を、そのような治療を必要とする患者に投与することを包含する方法。
【請求項48】
抗癌活性を有する物質と結合された請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドの、HER2を過剰発現する細胞に前記物質を送達するための使用。
【請求項49】
in vivoで、HER2を過剰発現する細胞へ抗癌活性を有する物質を送達する方法であって、前記物質と請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドとの複合体を患者に投与することを包含する方法。
【請求項50】
試料中のHER2の検出のための請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドの使用。
【請求項51】
請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドを用いることを特徴とする、試料中のHER2の検出方法。
【請求項52】
(i)試験される試料を準備する工程、(ii)前記試料に対して請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドを、該試料中に存在する任意のHER2との結合が可能な条件下で添加する工程、(iii)結合していないポリペプチドを除去する工程、および(iv)結合したポリペプチドを検出する工程を包含する、請求項51記載の方法。
【請求項53】
前記試料は生体液試料、好ましくはヒト血漿試料である、請求項52記載の方法。
【請求項54】
前記試料は組織試料、好ましくはヒト組織試料、さらに好ましくは癌に罹患しているヒトからの生検試料である、請求項52記載の方法。
【請求項55】
レポーター酵素を融合した請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチド、前記レポーター酵素の活性の検出のための試薬、ならびに陽性および陰性対照組織スライドを包含する、組織試料におけるHER2過剰発現の診断のためのキット。
【請求項56】
キレート剤で標識された請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチド、診断用放射性同位体、ならびに取り込み効率の分析のための試薬を包含する、HER2過剰発現をin vivoで診断するためのキット。
【請求項57】
キレート剤で標識された請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチド、治療用放射性同位体、ならびに取り込み効率の分析のための試薬を包含する、請求項49記載の方法を実施するためのキット。
【請求項1】
HER2に対する結合親和性を有し、かつブドウ球菌のプロテインA(SPA)のドメインに関連するポリペプチドであって、該ポリペプチドの配列は1〜約20の置換変異を有する前記SPAドメインの配列に相当する、ポリペプチド。
【請求項2】
HER2に対する結合親和性を有し、相互作用のKD値が最大で1×10-6Mであることを特徴とする、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
HER2に対する結合親和性を有し、相互作用のKD値が最大で1×10-7Mであることを特徴とする、請求項2記載のポリペプチド。
【請求項4】
配列番号1に示されるSPAプロテインZの配列において1〜約20の置換変異を含む配列に相当する配列であることを特徴とする、請求項1〜3いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項5】
4〜約20の置換変異を含む、請求項4記載のポリペプチド。
【請求項6】
第13位、第14位、第28位、第32位および第35位のうちの1以上の位置における置換変異を含む、請求項4又は5記載のポリペプチド。
【請求項7】
第9位、第10位、第11位、第17位、第18位、第24位、第25位および第27位のうちの1以上の位置における置換変異をさらに含む、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項8】
第13位におけるフェニルアラニンからチロシンへの置換変異を含む、請求項4〜7いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項9】
第14位におけるチロシンからトリプトファンへの置換変異を含む、請求項4〜8いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項10】
第28位における、アスパラギンから、アルギニンおよびヒスチジンから選択されるアミノ酸残基への置換変異を含む、請求項4〜9いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項11】
第28位におけるアスパラギンからアルギニンへの置換変異を含む、請求項4〜10いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項12】
第32位におけるグルタミンからアルギニンへの置換変異を含む、請求項4〜11いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項13】
第35位におけるリジンからチロシンへの置換変異を含む、請求項4〜12いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項14】
第10位におけるグルタミンからアルギニンへの置換変異を含む、請求項4〜13いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項15】
第11位におけるアスパラギンからスレオニンへの置換変異を含む、請求項4〜14いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項16】
第17位におけるロイシンからバリンへの置換変異を含む、請求項4〜15いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項17】
第27位における、アルギニンから、リジンおよびセリンから選択されるアミノ酸残基への置換変異を含む、請求項4〜12いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項18】
配列番号1の配列において突然変異F13Y、Y14W、N28R、Q32RおよびK35Yを少なくとも含む配列に相当するアミノ酸配列であることを特徴とする、請求項4〜17いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項19】
アミノ酸配列が、配列番号2〜79のいずれか1つに示される、請求項4〜18いずれか一項記載のポリペプチド。
【請求項20】
アミノ酸配列が、配列番号2又は3に示される、請求項19記載のポリペプチド。
【請求項21】
関連するブドウ球菌プロテインA(SPA)のドメイン中に存在するアスパラギン残基のうちの少なくとも1つが、別のアミノ酸残基に置換されていることを特徴とする、前記請求項のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項22】
前記ブドウ球菌プロテインA(SPA)のドメインの配列が配列番号1に示されるSPAプロテインZの配列に相当し、かつ該ポリペプチドはN3、N6、N11、N21、N23、N28、N43およびN52から選択される少なくとも1つの位置での置換変異を含む、請求項21記載のポリペプチド。
【請求項23】
N3A、N6A、N6D、N11S、N23T、N28AおよびN43E、の突然変異のうち少なくとも1つを含む、請求項22記載のポリペプチド。
【請求項24】
前記請求項のいずれかに記載のポリペプチドの断片を構成し、該断片はHER2に対する結合親和性を保持していることを特徴とする、ポリペプチド。
【請求項25】
いずれかの末端に付加的なアミノ酸残基を含む、前記請求項のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項26】
前記付加的なアミノ酸残基は、N−またはC末端におけるシステイン残基を含む、請求項25記載のポリペプチド。
【請求項27】
前記付加的なアミノ酸残基は、好ましくはヘキサヒスチジニルタグ、mycタグおよびFlagタグから選択される、タグを含む、請求項25又は26記載のポリペプチド。
【請求項28】
前記付加的なアミノ酸残基が少なくとも1つの機能的なポリペプチドドメインを含み、請求項1〜24のいずれか一項記載のポリペプチドから成る第一の部分と、少なくとも1つの第二の部分及び任意のさらなる単一又は複数の部分との融合ポリペプチドである、請求項25又は26記載のポリペプチド。
【請求項29】
前記第二の部分が請求項1〜24いずれか一項記載の1又は複数のポリペプチドから構成され、請求項1〜24いずれか一項記載の配列が同一でも異なっていてもよい、HER2結合ポリペプチドの多量体である、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項30】
前記第二の部分はHER2以外の標的分子と結合し得る少なくとも1つのポリペプチドドメインを含む、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項31】
前記第二の部分はヒト血清アルブミンと結合し得る少なくとも1つのポリペプチドドメ
インを含む、請求項30記載のポリペプチド。
【請求項32】
前記ヒト血清アルブミンと結合し得る少なくとも1つのポリペプチドドメインは連鎖球菌のプロテインGのアルブミン結合ドメインである、請求項31記載のポリペプチド。
【請求項33】
前記第二の部分がブドウ球菌のプロテインA(SPA)のドメインに関連するポリペプチドを含み、該ポリペプチドの配列は1〜約20の置換変異を有する前記SPAドメインの配列に相当する、請求項30記載のポリペプチド。
【請求項34】
前記第二の部分のポリペプチドの配列が、配列番号1に示されるSPAプロテインZの配列において1〜約20の置換変異を有する配列に相当する、請求項33記載のポリペプチド。
【請求項35】
前記第二の部分が酵素作用を有する、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項36】
前記第二の部分が蛍光作用を有する、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項37】
前記第二の部分が、ファージのコートタンパク質またはその断片である、請求項28記載のポリペプチド。
【請求項38】
標識基を含む、前記請求項のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項39】
前記標識基が蛍光標識、ビオチンおよび放射性標識から選択される、請求項38記載のポリペプチド。
【請求項40】
HER2を過剰発現する細胞に対して活性を有する物質と結合された、前記請求項のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項41】
HER2を過剰発現する細胞に対する活性を有する前記物質が、細胞傷害性物質、放射性物質、ADEPT法に使用される酵素、サイトカインおよび凝血原因子から選択される、請求項40記載のポリペプチド。
【請求項42】
請求項1〜37いずれか一項記載のポリペプチドをコードする配列を含む核酸分子。
【請求項43】
請求項42記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項44】
請求項43記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項45】
請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドの薬剤としての使用。
【請求項46】
HER2の過剰発現を特徴とする少なくとも一形態の癌の治療のための薬剤の調製における、請求項1〜41のいずれか一項に記載のポリペプチドの使用。
【請求項47】
HER2の過剰発現を特徴とする少なくとも一形態の癌の治療方法であって、請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドを活性物質として含む治療的有効量の組成物を、そのような治療を必要とする患者に投与することを包含する方法。
【請求項48】
抗癌活性を有する物質と結合された請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドの、HER2を過剰発現する細胞に前記物質を送達するための使用。
【請求項49】
in vivoで、HER2を過剰発現する細胞へ抗癌活性を有する物質を送達する方法であって、前記物質と請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドとの複合体を患者に投与することを包含する方法。
【請求項50】
試料中のHER2の検出のための請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドの使用。
【請求項51】
請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドを用いることを特徴とする、試料中のHER2の検出方法。
【請求項52】
(i)試験される試料を準備する工程、(ii)前記試料に対して請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチドを、該試料中に存在する任意のHER2との結合が可能な条件下で添加する工程、(iii)結合していないポリペプチドを除去する工程、および(iv)結合したポリペプチドを検出する工程を包含する、請求項51記載の方法。
【請求項53】
前記試料は生体液試料、好ましくはヒト血漿試料である、請求項52記載の方法。
【請求項54】
前記試料は組織試料、好ましくはヒト組織試料、さらに好ましくは癌に罹患しているヒトからの生検試料である、請求項52記載の方法。
【請求項55】
レポーター酵素を融合した請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチド、前記レポーター酵素の活性の検出のための試薬、ならびに陽性および陰性対照組織スライドを包含する、組織試料におけるHER2過剰発現の診断のためのキット。
【請求項56】
キレート剤で標識された請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチド、診断用放射性同位体、ならびに取り込み効率の分析のための試薬を包含する、HER2過剰発現をin vivoで診断するためのキット。
【請求項57】
キレート剤で標識された請求項1〜41いずれか一項記載のポリペプチド、治療用放射性同位体、ならびに取り込み効率の分析のための試薬を包含する、請求項49記載の方法を実施するためのキット。
【図1−1】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図1−2】
【図1−3】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公表番号】特表2007−537700(P2007−537700A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518586(P2006−518586)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001049
【国際公開番号】WO2005/003156
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(307015286)アフィボディ・アーベー (9)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001049
【国際公開番号】WO2005/003156
【国際公開日】平成17年1月13日(2005.1.13)
【出願人】(307015286)アフィボディ・アーベー (9)
【Fターム(参考)】
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