HER2細胞受容体を標的とするためのイムノリポソーム組成物
HER2のような増殖因子受容体を発現する細胞を標的とするリガンドを持つリポソームを含んでなるイムノリポソーム組成物。イムノリポソームのHER2発現細胞への結合は、封入された薬剤を細胞質へ送達するためにイムノリポソームのインターナリゼーションを生じる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本主題は、リポソーム組成物に関する。より詳細には本主題はリポソームに封入された薬剤を細胞に送達するための特異的な細胞受容体を標的とするリポソームに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
リポソームは、水性相をカプセル化する同心的に並べられた脂質二重層を含んでなる球形小胞である。リポソームは水性相もしくは脂質二重層に含まれる治療薬用の送達媒体として役立つ。リポソームに封入された形態での薬剤の送達は、薬剤に依存して例えば低下した薬剤毒性、改変された薬物動態学または改善された薬剤の溶解性を初めとする様々な利点を提供することができる。疎水性ポリマー鎖、いわゆるStealth(商標)の表面コーティングを含むように製剤された時のリポソーム、または長期循環リポソームは、一部は単核食細胞系によるリポソームの除去の減少により、長期の血液循環寿命といったさらなる利点をさらに提供する。リポソームはそれらの所望する標的領域に、または注入部位から細胞に到達するために、しばしば延長された寿命が必要である。
【0003】
標的化リポソームは、リポソームの表面に結合した標的化リガンドもしくは親和性部分を有する。標的化リガンドは抗体もしくはそのフラグメントでよく、この場合、リポソームはイムノリポソームと呼ばれる。全身的に投与される場合、標的化リポソームは封入された治療薬を標的組織、領域または細胞に送達する。標的化リポソームは特異的領域または細胞に向けられているので、健康な組織は治療薬に暴露されない。そのような標的化リガンドは、標的化リガンドをリポソーム脂質成分の極性ヘッド残基に共有結合することによりリポソームの表面に直接結合させることができる(例えば特許文献1を参照にされたい)。しかしこの取り組みは、ポリマー鎖が標的化リガンドとその意図する標的との間の相互作用を妨害するので、主に表面に結合したポリマー鎖が無いリポソームに適している(非特許文献1;非特許文献2)。
【0004】
あるいは標的化リガンドはポリマー鎖の遊離末端に結合されて、リポソーム上に表面コートを形成することができる(非特許文献3;非特許文献4)。この取り組みでは、標的化リガンドは露出し、そして意図する標的と直ちに相互反応することが可能である。
【0005】
HER2(c−erbB2、neu)原がん遺伝子およびp185HER2(これは増殖因子受容体−チロシンキナーゼをコードする)は、多くのヒトのガンの病因に役割を果たしているようである。p185HER2の過剰発現は、乳癌の20〜30%で起こり、そしてこれらの患者の良くない予後を予測する(非特許文献5)。
【0006】
p185HER2受容体が存在する場合、p185HER2の過剰発現は一般に原発性の乳癌腫で均一に起こり、特定の正常上皮細胞では低レベルでしか発現しないので、p185HER2受容体は抗体に基づく治療に魅力的な標的となる。マウス抗p185HER2モノクローナル抗体、muAb4D5およびこの抗体のヒト化変更体が開発された(非特許文献6;特許文献2)。またp185HER2に結合する様々な抗体も記載された(特許文献3)。
【0007】
HER2受容体に特異的な抗体を持つリポソームが報告された(非特許文献5;非特許文献7;非特許文献8;特許文献4)。細胞性の結合の程度についてリポソームあたりの抗体の数、すなわち抗体密度と、取り込みとの間の明らかな関係が開示されている(非特許文献8)。その実験結果は、リポソーム表面上の抗体密度を0から30に変動させることに対応して細胞性の取り込みが上昇し、これはリポソームあたり30の抗体で最大に達することを示す。抗HER2抗体の数をリポソームあたり30から100に上げることは、リポソームの細胞性の取り込みを増加させなかった。
【0008】
ガン処置の効力は、健康な細胞にできるかぎり影響を及ぼさずに、ガン細胞を標的とし、そして殺す処置の能力に直接的に関連する。薬剤を腫瘍細胞に特異的に標的化する概念は広く検討されてきたが、特定のガン細胞に高度に選択的であり、そしてそのような特定のガン細胞への最適なインビボ結合が設計された製剤の必要性が存在する。
【0009】
関連技術の前記例およびそれに関連する限定は、具体的説明であり、そして排除しないことを意図する。関連する技術の他の限定は、明細書を読み、そして図面の論考から当業者には明らかとなるだろう。
【参考文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,013,556号明細書
【特許文献2】米国特許第5,677,171号明細書
【特許文献3】国際公開第99/55367号パンフレット
【特許文献4】米国特許第6,214,388号明細書
【非特許文献1】Klibanov,A.L.,et al.,Biochim.Biophys.Acta,1062:142−148,1991
【非特許文献2】Hansen,C.B.et al.,Biochim.Biophys.Acta,1239:133−144,1995
【非特許文献3】Allen.T.M.et al.,Biochim.Biophys.Acta,1237:99−108,1995
【非特許文献4】Blume,G.et al.,Biochim.Biophys.Acta,1149:180−184,1993
【非特許文献5】Park,J.W.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92:1327,1995
【非特許文献6】Carter,P.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4285,1992
【非特許文献7】Park,J.W.et al.,J.Controlled Release,74:95,2001
【非特許文献8】Nielsen,U.B.et al.,Biochim.Biophys.Acta,1591:109,2002
【発明の開示】
【0011】
簡単な要約
1つの観点では、組成物が記載され、該組成物は(i)小胞形成脂質;(ii)リポポリマー;(iii)疎水性部分親水性ポリマーを含んでなる抗HER2受容体抗体コンジュゲート;ならびに(iv)封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる組成物が記載される。コンジュゲートの量はリポソームあたり平均して約2より多い抗体、そして平均してリポソームあたり約25未満の抗体を提供するために有効な量で存在する。
【0012】
1つの態様では、抗体は5,000〜50,000ダルトンの間、より好ましくは10,000〜50,000ダルトンの間、さらに一層好ましくは10,000〜30,000の間の分子量を有する。別の態様では、抗体は100,000ダルトン未満、より好ましくは約35,000ダルトン未満、そしてさらにより一層好ましくは30,000ダルトン未満の分子量を有する。
【0013】
別の態様では、抗体は配列番号2と少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0014】
別の態様では、親水性ポリマーが750〜5000ダルトンの間の分子量を有するポリエチレングリコールである。
【0015】
別の態様では、封入された薬剤が細胞傷害性薬剤である。さらに別の態様では、封入された薬剤は抗腫瘍薬である。封入される薬剤の例は、ドキソルビシンのようなアントラサイクリンである。
【0016】
別の態様では、コンジュゲートの量がインビボ投与から48時間後に平均してリポソームあたり約20未満の抗体を提供する。
【0017】
別の観点では、イムノリポソーム製剤が提供され、この製剤は(i)少なくとも1つの硬質な小胞形成脂質;(ii)疎水性部分およびポリエチレングリコールを含んでなるリポポリマー;(iii)疎水性部分、ポリエチレングリコールおよび配列番号2に少なくとも80%の同一性を有する抗Her2受容体の単鎖抗体を含んでなるコンジュゲート;ならびに(iv)抗腫瘍活性を有する封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる。リポソームはインビボ投与から96時間後に、リポソームあたり約2より多く、そして約15未満の抗体を提供するために有効な量のコンジュゲートにより特徴づけられる。
【0018】
1つの態様では、硬質な小胞形成脂質が水素化ダイズホスファチジルコリンである。
【0019】
別の態様では、リポソームがさらにコレステロールを含んでなる。
【0020】
さらに別の観点ではイムノリポソーム製剤が記載され、この製剤は(i)少なくとも1つの硬質な小胞形成脂質;(ii)疎水性部分およびポリエチレングリコールを含んでなるリポポリマー;(iii)疎水性部分、ポリエチレングリコールおよび配列番号2の同一性を有する抗Her2受容体単鎖抗体を含んでなるコンジュゲート;ならびに(iv)抗腫瘍活性を有する封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる。このイムノリポソーム製剤はインビボで投与された時、類似の成分を含んでなるが抗体を含まないリポソームの曲線下の面積よりも25%を越えて、またはせいぜい25%低い曲線下の面積を提供する。
【0021】
1つの態様では、コンジュゲートの量が、インビボ投与から48時間後に、平均してリポソームあたり約20未満の抗体を提供する。別の態様では、コンジュゲートの量がインビボ投与から96時間後に、平均してリポソームあたり約15未満の抗体を提供する。
【0022】
さらに別の態様では、コンジュゲートの量が、インビボ投与から48時間後に、平均してリポソームあたり約2より多くの抗体を、そしてインビボ投与から48時間後に、平均してリポソームあたり約20未満の抗体を提供する。
【0023】
さらに別の観点では、イムノリポソーム製剤が記載され、ここで製剤は(i)少なくとも1つの硬質な小胞形成脂質;(ii)場合により、疎水性部分およびポリエチレングリコールを含んでなるリポポリマー;(iii)疎水性部分、ポリエチレングリコールおよび配列番号2に少なくとも80%の同一性を有する抗Her2受容体の単鎖抗体を含んでなるコンジュゲート;ならびに(iv)抗腫瘍活性を有する封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる。組成物はイムノリポソームの投与から96時間後に、30〜60%の間の抗体が各リポソームから解離して組成物を提供し、インビボ投与から96時間後、それはリポソームあたり約25未満の抗体を有することを特徴とする。
【0024】
さらに別の観点では、特定の工程に従い調製されるリポソーム組成物が記載され、この工程は、(a)場合により親水性ポリマー鎖の外側コーティングおよび/または封入された薬剤を有するリポソームを準備し;(b)該リポソームを、疎水性部分、ポリエチレングリコールおよび配列番号2に少なくとも80%の同一性を有する抗Her2受容体の単鎖抗体を含んでなるある量のコンジュゲートとインキュベーションすることを含んでなり;そしてコンジュゲートの該量が(i)インビボ投与から96時間後に平均してリポソームあたり2より多い抗体;(ii)平均してリポソームあたり150未満の抗体;および/または(iii)インビボ投与から96時間後に平均してリポソームあたり約15未満の抗体を提供するように選択されることを含んでなる。
【0025】
1つの態様では、該コンジュゲートの量が平均してリポソームあたり12以下、あるいは10以下、あるいは8以下の抗体を提供する。
【0026】
別の観点では組成物が記載され、組成物は上記のようなリポソームを含んでなるが、インビボ投与前のリポソームはリポソームあたり25未満の抗体を有し、そしてインビボ投与後、リポソームは抗体の約20〜50%の間を失う場合、それでも細胞傷害性に十分なHer−2受容体に対する結合を保持する。
【0027】
さらに別の観点では、イムノリポソーム組成物を調製する方法が提供される。この方法は(i)小胞形成脂質;(ii)場合によりリポポリマー;(iii)疎水性部分、親水性ポリマー、およびHer2受容体の細胞外ドメインのような標的に結合親和性を有する抗体を含んでなるコンジュゲート;ならびに(iv)封入された薬剤を含んでなるイムノリポソームを提供することを含んでなる。該コンジュゲートはリポソームあたり第1の選択された数の抗体を提供するために十分な第1の量で組成物に含まれる。リポソームはインビトロもしくはインビボで血液と接触させるように導入され、そしてリポソームと血液とを接触させた1以上の時点で、リポソームあたりの抗体の数を、例えばクロマトグラフィーのような適切な分析技術により測定する。血液と接触した後の第1の選択した時点での抗体数の測定に基づき、血液と接触した後のそのような時点でのリポソームあたり少なくとも2つの抗体を提供するために、リポソームあたり第2のより多い数の抗体を提供するために十分なコンジュゲートの第2の量が選択される。
【0028】
1つの態様では、この方法にはリポソームあたり50未満の抗体を提供するために有効なコンジュゲートの第2の量を選択することを含む。別の態様では、リポソームあたり30以下の抗体を提供するために有効なコンジュゲートの第2の量が選択される。
【0029】
別の態様では、この方法はリポソームあたり150未満の抗体、より好ましくはリポソームあたり100以下の抗体、そしてさらに一層好ましくはリポソームあたり75以下の抗体を提供するコンジュゲートの第1の量を有するリポソームを提供することを含む。
【0030】
上に記載する例示的観点および態様に加えて、さらなる観点および態様が図面および以下の説明を論考することにより明白となるだろう。
【0031】
配列の簡単な説明
配列番号1は、本明細書においてHER2受容体およびp185HER2受容体とも呼ぶc−drb−B2受容体の細胞外ドメインに結合親和性を有する抗体のヌクレオチド配列である。
【0032】
配列番号2は、HER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する能力を有するF5と命名された単鎖抗体(scFv)のアミノ酸配列である。
【0033】
詳細な説明
I.定義
他に記載しない限り、用語「小胞形成脂質」は、安定なミセルまたはリポソーム組成物の一部を形成することができ、そして典型的には1もしくは2の疎水性炭化水素鎖またはステロイド基を含むことができる任意の脂質を指し、そしてアミン、酸、エステル、アルデヒドもしくはアルコールのような化学的に反応性の基をその極性ヘッド基に含むことができる。
【0034】
本明細書で使用する用語「抗体」には、全抗体およびその任意の抗原結合フラグメントもしくは単鎖を含む。すなわち抗体には限定するわけではないが、重もしくは軽鎖の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)またはそのリガンド結合部分、重鎖もしくは軽鎖可変領域、重鎖もしくは軽鎖定常領域、フレイムワーク(FR)領域、またはその任意の部分、あるいは結合タンパク質の少なくとも1つの部分のような免疫グロブリン分子の少なくとも一部を含んでなる分子を含有する任意のタンパク質またはペプチドを含む。
【0035】
さらに用語「抗体」は、抗体ミメティックスを含むか、あるいは単鎖抗体およびそのフラグメントを含む抗体もしくは特異的フラグメントもしくはその部分の構造および/または機能り模する抗体のドメインを含んでなる抗体消化フラグメント、その特異的部分およびバリアントを包含することを意図する。機能的フラグメントには、増殖因子受容体である哺乳動物のHER2タンパク質に結合する抗原結合フラグメントを含む。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合フラグメントの例には、(i)Fabフラグメント、VL、VH、CLおよびCHドメインからなる単価フラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド結合により連結された2つのFabフラグメントを含んでなる二価のフラグメント;(iii)VHおよびCHドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単腕のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al.,Nature,341:544−546(1989));および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)を含む。さらにFvフラグメントの2つのドメイン、VLおよびVHは別個の遺伝子によりコードされるが、それらは組換え法を使用して、それらをVLおよびVH領域が対合して単価の分子を形成する1つのタンパク質鎖とすることができる合成リンカーにより連結することができる(単鎖Fv(scFv)として知られている;例えばBird et al.Science,242:423−426(1988)、Huston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:5879−5883(1988)を参照にされたい)。そのような単鎖抗体も、用語抗体の中に包含されることを意図する。これらの抗体は当業者に知られている通常の技法を使用して得られ、そしてフラグメントは完全な抗体と同じ様式で使用のためにスクリーニングされる。
【0036】
そのようなフラグメントは、当該技術分野で知られ、かつ/または本明細書に記載する酵素的分解、合成または組換え技法により生産することができる。また抗体は、1もしくは複数の終止コドンが自然な終止コドンの上流に導入された抗体遺伝子を使用して種々の短縮化形態で生産することもできる。例えば、F(ab’)2重鎖部分をコードする組み合わせ遺伝子は、重鎖のCH1ドメインおよび/またはヒンジ領域をコードするDNA配列を含むように設計することができる。抗体の種々の部分が通例の技術により化学的に一緒に連結されることができ、あるいは遺伝子工学的技術を使用して連続するタンパク質として調製することができる。
【0037】
「HER2受容体」および「p185HER2」は、HER2またはERRB2遺伝子(v−erb−b2、赤芽球白血病ウイルスガン遺伝子ホモログ2)によりコードされるタンパク質を意味し、そしてまたニューロ/グリア芽腫由来ガン遺伝子ホモログとも呼ばれる:鳥類赤芽球白血病ウイルス(v−erb−b2)ガン遺伝子ホモログ2;v−erb−b2鳥類赤芽球白血病ウイルスガン遺伝子ホモログ2(ニューロ/グリア芽腫由来ガン遺伝子ホモログ)によりコードされるタンパク質とも呼ばれる。HER2/ERRB2遺伝子は、受容体チロシンキナーゼの上皮増殖因子(EGF)受容体ファミリーのメンバーをコードする。HER2のコード配列は、翻訳産物がNP 004439により与えられる参照配列NM 004448により与えられる。HER2受容体は、それ自体のリガンド結合ドメインを持たず、したがって増殖因子に結合することができない。しかしHER2受容体は他のリガンド結合EGF受容体ファミリーのメンバーと強固に結合して、ヘテロ二量体を形成し、リガンド結合を安定化し、そしてマイトジェン活性化タンパク質キナーゼおよびホスファチジルイノシトール−3キナーゼが関与するもののようなキナーゼが媒介する下流のシグナリング経路の活性化を強化する。アミノ酸654位および655位の対立遺伝子バリアントのアイソフォームa(624位および625位のアイソフォームb)が報告され、最も多い対立遺伝子はIle654/Ile655であった。選択的スプライシングは、さらに数種の転写バリアントをもたらし、幾つかは異なるアイソフォームをコードする。すべての対立遺伝子およびスプライスバリアントは、「HER2受容体」の意味に含まれる。
【0038】
「インターナライズ(internalizing)される抗体」とは、受容体または細胞表面上の他のリガンドに結合した時、細胞、例えばリゾチームもしくは他のオルガネラもしくは細胞質に輸送される抗体である。
【0039】
用語「単離された」とは、自然な状態で見いだされた時、通常それに付随する成分を実質的に、または本質的に含まない物質を指す。
【0040】
2以上の核酸またはポリペプチド配列の内容において、用語「同一」または「同一性」のパーセントまたは「相同性」のパーセントとは、2以上の配列もしくは部分配列(subsequence)が、最大に対応するように比較そして並べられた時に、視覚による調査により、またはコンピューターアルゴリズムを使用して測定されるような同じであるか、あるいは同じであるアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの具体的割合を有する2以上の配列もしくは部分配列を指す。
【0041】
本明細書で使用するように、抗体の「親和性」という用語は、予め定めた抗原に関する抗体の解離定数、KDを指す。高い親和性抗体は、予め定めた抗原に対して10−8M以下、より好ましくは10−9M以下、そしてさらに一層好ましくは10−10M以下のKDを有する。本明細書で使用する用語「Kdis」または「KD」または「Kd」は、特定の抗体−抗原相互作用の解離速度を指すものとする。「KD」は、解離速度(k1)すなわち「オン−レイト(kon)」に対する解離速度(k2)(「オフ−レイト(koff)」とも呼ばれる)の比である。このようにKDはk2/k1またはkoff/konに等しく、そしてモル濃度(M)で表される。これはKDが小さいほど、強い結合となる。したがって10−6M(または1μM)のKDは、10−9M(または1nM)に比べて弱い結合を示す。
【0042】
「抗原を認識する抗体」および「抗原に特異的な抗体」は、本明細書では「抗原に特異的に結合する抗体」という用語と互換的に使用される。本明細書で使用する「特異的結合」および「特異的に結合する」とは、他の抗原またはタンパク質よりも大きい親和性で予め定めた抗原に結合する抗体を指す。典型的には、抗体は10−6M以下の解離定数(KD)で結合し、そして予め定めた抗原以外の非特異的抗原(例えばBSA、カゼインまたは任意の他の特定したポリペプチド)に結合するKDよりも少なくとも2倍低いKDで、予め定めた抗原と結合する。「抗原を認識する抗体」および「抗原に特異的な抗体」という句は、本明細書では「抗原に特異的に結合する抗体」という用語と互換的に使用される。
【0043】
本明細書に開示し、そして特許請求するように、配列番号2に説明する配列には「保存的配列の修飾」、すなわちヌクレオチド配列によりコードされる、またはアミノ酸配列を含む抗体の結合特性に有意に影響を及ぼさず、または改変しないヌクレオチドおよびアミノ酸配列の修飾を含む。そのような保存的配列の修飾には、ヌクレオチドおよびアミノ酸置換、付加および欠失がある。修飾は、位置指定突然変異誘発法およびPCR媒介型の突然変異誘発法のような当該技術分野で知られている標準的技法により、配列番号2に導入することができる。保存的アミノ酸置換には、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置き換えられたものを含む。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を持つアミノ酸(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ分枝側鎖(例えばトレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。
【0044】
II.リポソーム組成物
1つの観点では、本発明は標的化リガンドとして増殖因子受容体HER2に結合特異性を有する抗体を含むリポソームを含んでなるリポソーム組成物に関する。HER2標的化リガンドは、本明細書では脂質−ポリマー−リガンドコンジュゲートとも呼ぶ脂質−ポリマー抗体コンジュゲートの状態でリポソームに包含される。以下に記載するように、抗体はHER2受容体の外部ドメインに特異的親和性を有し、そしてHER2受容体を発現する細胞にリポソームを標的化する。以下の章ではリポソームの脂質および治療薬を含むリポソーム成分、HER2標的化リガンドを持つリポソームの調製、および障害の処置のためのリポソーム組成物の使用法を記載する。
【0045】
A.リポソーム脂質成分
本発明の組成物の使用に適するリポソームには、主に小胞形成脂質を含んでなるものを含む。そのような小胞形成脂質は、内部の二重層膜の疎水性領域と接触する疎水性部分、および外部の膜の極性表面に向かうヘッド基部分を持つリン脂質に例示されるような自然に水中で二重層小胞を形成することができるものである。コレステロールおよびその種々の類似体のような脂質二重層に安定に包含され得る脂質も、リポソームに使用することができる。
【0046】
小胞形成脂質は、2つの炭化水素鎖、典型的にはアシル鎖、および極性または非極性のいずれかのヘッド基を有する脂質が好ましい。2つの炭化水素鎖が典型的には約14〜22個の間の炭素原子長であり、そして異なる程度の不飽和度(unsaturation)を有する、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびスフィンゴミエリンのような、様々な合成の小胞形成脂質およびリン脂質を含む自然に存在する小胞形成脂質がある。炭素鎖が異なる程度の飽和度を有する上記脂質およびリン脂質は市販されているか、または公開されている方法にしたがい調製することができる。他の適切な脂質には糖脂質、セレブロシドおよびコレステロールのようなステロールを含む。
【0047】
またカチオン性脂質も本発明のリポソームに使用するために適しており、ここでカチオン性脂質は脂質成分の微量成分として、または主要な、もしくは唯一の成分として含まれることができる。そのようなカチオン性脂質は典型的には、ステロールのような親油性部分、アシルもしくはジアシル鎖を有し、そしてそこに脂質は全体的に正味の正電荷を有する。好ましくは脂質のヘッド基は正の荷電を持つ。例示的なカチオン性脂質には、1,2−ジオレイルオキシ−3−(トリメチルアミノ)プロパン(DOTAP);N−[1−(2,3−ジテトラデシルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE);N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE);N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA);3[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol);およびジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)がある。カチオン性の小胞形成脂質は、ポリリシンもしくは他のポリアミン脂質のようなカチオン性脂質で誘導化されたジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)のような中性脂質、またはリン脂質のような両親媒性脂質でもよい。例えば中性脂質(DOPE)は、ポリリシンで誘導化されてカチオン性脂質を形成することができる。
【0048】
小胞形成脂質は、特異的な程度の流動性または剛性を達成するために選択されて、記載するように血清中のリポソームの安定性を制御し、標的化コンジュゲートの挿入に効果的な条件を制御し、かつ/またはリポソームに封入された作用物質の放出速度を制御することができる。より硬質な脂質二重層、または液体結晶(liquid crystalline)二重層を有するリポソームは、比較的堅い脂質、例えば最高60℃の比較的高い相転移温度を有するような脂質を包含することにより達成される。剛性、すなわち飽和化された脂質は、脂質二重層においてより大きな膜の剛性に貢献する。コレステロールのような他の脂質成分も脂質二重層構造の膜の剛性に貢献することが知られている。
【0049】
その一方、脂質流動性は比較的流動性の脂質、典型的には例えば室温以下の比較的低い液体から液体−結晶相転移温度を持つ脂質相を有するものを包含することにより達成される。
【0050】
またリポソームは、本明細書で「リポポリマー」とも呼ばれる親水性ポリマーに共有結合した小胞形成脂質を含む。例えば米国特許第5,013,556号明細書に記載されているように、リポソーム組成物にそのようなポリマー誘導化脂質を含むことは、リポソームの回りに親水性ポリマー鎖の表面コーティングを形成する。親水性ポリマー鎖の表面コーティングは、そのようなコーティングが無いリポソームと比べた時、リポソームのインビボ血液循環寿命を上げるために効果的である。
【0051】
親水性ポリマーでの誘導化に適する小胞形成脂質には、上に挙げた任意の脂質、そして特にジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)のようなリン脂質を含む。
【0052】
小胞形成脂質での誘導化に適する親水性ポリマーには、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメチルアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアスパルタミドおよび親水性ペプチド配列がある。ポリマーはポモポリマーとして、またはブロックもしくはランダムコポリマーとして使用することができる。
【0053】
好適な親水性ポリマー鎖は、ポリエチレングリコール(PEG)、好ましくはPEG鎖として500〜10,000ダルトンの間の、より好ましくは750〜10,000ダルトンの間の、さらにより好ましくは750〜5000ダルトンの間の分子量を有するポリエチレングリコールである。PEGのメトキシもしくはエトキシ−キャップ化類似体も好適な親水性ポリマーであり、例えば120〜20,000ダルトンの様々なポリマーサイズで市販されている。
親水性ポリマーで誘導化された小胞形成脂質の調製は、例えば米国特許第5,395,619号明細書に記載された。そのような誘導化脂質を含むリポソームの調製も記載され、典型的には1〜20モルパーセントの間のそのような誘導化脂質がリポソーム製剤に含まれる(例えば米国特許第5,013,556号明細書を参照にされたい)。
【0054】
B.標的化抗体
またリポソーム組成物は、脂質粒子を細胞に標的化する抗体を含む。1つの態様では、抗体は腫瘍由来細胞の表面上のHER2受容体に特異的に結合する。別の態様では、抗体は腫瘍由来細胞の表面上のHER2受容体に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメインを含んでなる。別の態様では、抗体は腫瘍由来細胞の表面上のHER2受容体に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメインを含んでなる単鎖抗体である。
【0055】
好適な態様では、本明細書に記載するリポソーム組成物中に使用する抗体は、腫瘍由来細胞の表面上のHER2受容体に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメインを含んでなる単鎖抗体であり、そして配列番号2に同定される配列を有する。この抗体の調製は国際公開第99/55367号明細書に記載され、そして抗体はF5と命名される。抗体はHER2/neuガン遺伝子のc−erb−B2タンパク質産物の細胞外ドメインに特異的に結合する単鎖抗体フラグメント(scFv)であり、そして本明細書では抗−HER2抗体とも呼び、すなわちHER2受容体に結合親和性を有する抗体である。F5抗体はリンカー分子により連結されたヒト抗体の可変ドメインを含んでなり、そして末端システインを含む251個のアミノ酸を含み(分子量27.6kD)、そして中程度のHER2結合親和性を有する(Kd=150〜300nMまたは1.5〜3×10−7M)。本発明の抗−HER2抗体は、それらの膜表面上にHER2受容体を発現する細胞に迅速にインターナライズされる。
【0056】
1つの態様では、抗−HER2抗体は配列番号2に対して保存的置換を表す配列を有する。
【0057】
C.脂質−ポリマー−抗体コンジュゲートの調製
上記のように、抗−HER2抗体は小胞形成脂質の近位末端に結合した親水性ポリマー鎖の遊離遠位末端に共有結合されている。選択した親水性ポリマーを選択した脂質に結合させ、そして選択したリガンドとの反応にポリマーの遊離非結合末端の活性化するための広範な技術が存在し、そして特に親水性ポリマーポリエチレングリコール(PEG)が広く記載されてきた(Allen,T.M.,et al.,Biochemicia et Biophysica Acta,1237:99−108(1995);Zalipsky,S.Bioconjugate Chem.,4(4):296−299(1993);Zalipsky,S.,et al.,FEBS Lett.,353:71−74(1994);Zalipsky,S.,et al.,Bioconjugate Chemistry,6(6):705−708(1995);Zalipsky,S.,in STEALTH LIPOSOME(D.Lasic and F.Martin編集)、第9章、CRC出版、ボカラトン、フロリダ州(1995))。
【0058】
一般にPEG鎖は、広い様々なリガンド中に存在する例えばスルフヒドリル、アミノ基、およびアルデヒドまたはケトン(典型的には抗体の炭化水素部分の弱い酸化から誘導される)とのカップリングに適した反応性基を含むように官能化される。そのようなPEG−末端反応性基の例には、マレイミド(スルフヒドリル基との反応に)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)またはNHS−炭酸エステル(一級アミンとの反応に)、ヒドラジドもしくはヒドラジン(アルデヒドもしくはケトンとの反応に)、ヨードアセチル(好ましくはスルフヒドリル基との反応に)およびジチオピリジン(チオール−反応性)がある。PEGをそのような基で活性化するための合成反応スキームは、米国特許第5,631,018号、同第5,527,528号、同第5,395,619号明細書に説明され、そして合成反応手順を記載する関連する章は、引用により本明細書に編入する。
【0059】
例示的合成反応スキームは、図1A〜1Bに示される。反応の詳細は米国特許第6,326,353号明細書に与えられている。簡単に説明すると、ポリエチレングリコール(PEG)ビス(アミン)(化合物I)を、2−ニトロベンゼンスルホニルクロライドと反応させて、モノ保護生成物(化合物II)を生成する。化合物IIをカルボニルジイミダゾールトリエチルアミン(TEA)と反応させて、モノ2−ニトロベンゼンスルホンアミド(化合物III)のイミダゾールカルバメートを形成する。化合物IIIをDSPE(TEA中)と反応させて、1つの末端が2−ニトロベンジルスルホニルクロライドで保護された誘導化PE脂質が形成する。保護基は酸による処理で除去して、PEG鎖上に末端アミンを有するDSPE−PEG生成物(化合物IX)を得る。無水マレイン酸との反応で対応するマレアミド酸(maleamic)生成物を得(化合物V)、これは無水酢酸との反応で所望するPE−PEG−マレイミド生成物(化合物VI)を与える。この化合物は、チオエーテル結合を介して本明細書に記載する抗−インテグリン抗体をカップリングするためのスルフヒドリル基と反応性である(化合物VII)。
【0060】
上に挙げた任意の親水性ポリマーは、上に挙げた任意の小胞形成脂質と組み合わせて、脂質−ポリマー−リガンド標的化コンジュゲートを調製するための修飾剤として使用することができ、そして選択したポリマーに関する適切な反応順序が当業者により決定され得ると思われる。
【0061】
D.リポソーム調製
様々な取り組みが、リポソーム結合ポリマー鎖の遠位末端に結合した標的化リガンドを有するリポソームを調製するために記載されてきた。1つの取り組みには末端官能化脂質−ポリマー誘導体:すなわち遊離のポリマー末端が反応性であるか、または「活性化」されている脂質−ポリマーコンジュゲートを含む脂質小胞の調製が関与する(例えば米国特許第6,326,353号および同第6,132,763号明細書を参照にされたい)。そのような活性化コンジュゲートはリポソーム組成物に包含され、そして活性化ポリマー末端をリポソーム形成後に標的化リガンドと反応させる。別の取り組みでは、脂質−ポリマー−リガンドコンジュゲートは、リポソーム形成時に脂質組成物に含まれる(例えば米国特許第6,224,903号、同第5,620,689号明細書を参照にされたい)。さらに別の取り組みでは、脂質−ポリマー−リガンドコンジュゲートのミセル溶液をリポソームの懸濁液とインキュベーションし、そして脂質−ポリマー−リガンドコンジュゲートが前形成リポソームに挿入される(例えば米国特許第6,056,973号、同第6,316,024号明細書を参照にされたい)。
【0062】
封入された作用物質を運び、そして表面に結合した標的化リガンドを持つリポソーム、すなわち標的化された治療用リポソームは、これらの任意の取り組みにより調製される。好適な調製法は挿入法であり、ここで前形成されたリポソームは、標的化コンジュゲートとインキュベーションされて、標的化コンジュゲートのリポソーム二重層への挿入を達成する。この取り組みでは、リポソームは、Szoka,F.,Jr et al.,Ann.Rev.Biophys.Bioeng.,9:467(1980)に詳述されているような様々な技法により調製され、そして本発明の支持で調製されたリポソームの具体例を以下に記載する。典型的にはリポソームは多重層小胞(MLV)であり、これは単純な脂質−フィルム水和法により形成することができる。この手順では、適切な有機溶媒に溶解された上に詳述した種類のリポソーム形成脂質の混合物が容器の中で蒸発して薄いフィルムを形成し、これは次いで水性媒質により覆われる。脂質フィルムは水和してMLVが典型的には約0.1〜10ミクロンの間のサイズで形成する。
【0063】
リポソームは、リポソームの表面上に親水性ポリマー鎖の表面コーティングを形成するために、親水性ポリマーで誘導化された小胞形成脂質を含むことができる。以下に記載する挿入工程後、リポソームは脂質−ポリマー−標的化リガンドを含むので、脂質ポリマーコンジュゲートの添加は任意である。リポソーム形成時に、そして脂質−ポリマーコンジュゲートの状態で脂質混合物に加えられるさらなるポリマー鎖は、リポソームの脂質二重層の内面および外面の両方から伸びるポリマー鎖を生じる。リポソーム形成時の脂質−ポリマーコンジュゲートの添加は、典型的には1〜20モルパーセントの間のポリマー誘導化脂質を含むことにより達成され、リポソーム形成成分、例えば小胞形成脂質を残す。ポリマー−誘導化脂質の調製法およびポリマー−被覆リポソームの形成法は、米国特許第5,013,556号、同第5,631,018号および同第5,395,619号明細書に記載され、これらは引用により本明細書に編入する。親水性ポリマーは脂質と安定にカップリングされるか、または不安定な連結を介してカップリングされ、これによりコーティングされたリポソームは、それらが血流の循環中に、または刺激に応答してポリマー鎖のコーティングを脱げるようになると認識するだろう。
【0064】
またリポソームは治療薬または診断薬も含み、そして例示的作用物質を以下に提供する。選択した作用物質は、(i)脂質フィルムを作用物質の水溶液で水和することにより水溶性化合物の受動的封入、(ii)作用物質を含有する脂質フィルムを水和することによる親油性化合物の受動的封入、および(iii)内側/外側リポソームpH勾配に対してイオン化可能な薬剤の装填、を含む標準法によりリポソームに包含される。逆相蒸発のような他の方法も適切である。
【0065】
リポソーム形成後、リポソームは実質的に均一なサイズ範囲、典型的には約0.01〜0.5ミクロンの間、より好ましくは約0.03〜0.40ミクロンの間を有するリポソーム集団を得るためにサイズで分けることができる。REVおよびMLVのための1つの効果的な分類法には、リポソームの水性懸濁液を、0.03〜0.2ミクロン、典型的には0.05、0.08、0.1または0.2ミクロンの範囲の選択した均一な孔サイズを有する一連のポリカーボネート膜を通して押し出すことが関与する。膜の孔サイズはその膜を通して押し出すことにより生成されるリポソームの最大サイズにほぼ対応し、特に調製物が同じ膜を通して2回以上押し出される場合はそうである。均一化法もリポソームのサイズを100nm以下のサイズに下げるために有用である(Martin,F.J.,特殊化された薬剤送達系−製造および生産技術(SPECIALIZED DRUG DELIVERY SYSTEMS−MANUFACTURING AND PRODUCTION TECHNOLOGY)で、P.Tyle編集、マルセルデッカー、ニューヨーク、第267−316頁(1990))。
【0066】
リポソームの形成後、標的化リガンドは細胞を標的とする治療用リポソームを達成するために包含される。標的化リガンドは、前形成したリポソームを上記のように調製した脂質−ポリマー−リガンドコンジュゲートとインキュベーションすることにより包含される。前形成したリポソームおよびコンジュゲートは、コンジュゲートとリポソームの会合に効果的な条件下でインキュベーションされ、これはコンジュゲートとリポソーム二重層の外側との相互作用、あるいはコンジュゲートのリポソーム二重層への挿入を含み得る。より具体的には、2つの成分を一緒にコンジュゲートのリポソームへの会合がなされる条件下で、標的化リガンドがリポソーム表面から外側に向かうように、したがってリガンドがそのコグネイト受容体と相互作用できるようにインキュベーションされる。これはそのような会合または挿入を達成するために効果的な条件は、所望する挿入の速度を含め、幾つかの変数に基づき定められると考えられ、ここでより高いインキュベーション温度がより早い挿入速度を達成でき、リガンドの活性に影響を及ぼすことなく、そして脂質および脂質組成物の相転移温度に及ぼす影響の度合いが少なく、リガンドが安全に加熱できる温度である。また挿入は、ポリエチレングリコールおよびエタノールを含む両親媒性溶媒のような溶媒、または界面活性剤の存在により変動することができると考えられる。
【0067】
脂質−ポリマー−リガンドコンジュゲートの形態の標的化コンジュゲートは、典型的にはコンジュゲートが水性溶媒と混合される時にミセルの溶液を形成する。コンジュゲートのミセル溶液は、インキュベーション、そしてコンジュゲートとリポソームとの会合またはコンジュゲートのリポソーム脂質二重層への挿入のために、前形成リポソームの懸濁液と混合される。インキュベーションは、イムノリポソームを形成するために、脂質−ポリマー−抗体コンジュゲートとリポソームの外側二重層リーフレットとの会合または挿入を行うために効果的である。
【0068】
調製後、イムノリポソームは例えば30゜または90゜での力学的光散乱により測定した時、好ましくは約150nm未満、好ましくは約85〜120nmの間、そしてより好ましくは90〜110nmの間のサイズを有する。
【0069】
E.例示的イムノリポソーム
本発明を支持するために行った実験では、抗HER2scFv抗体を有するイムノリポソームを、実施例1に記載するように調製した。簡単に説明すると、リポソームは脂質HSPC、コレステロールおよびmPEG−DSPEから調製した。治療薬ドキソルビシンは、アンモニウムイオン勾配(Doxil(商標))に対して遠隔装填することによりリポソームに装填した。本明細書で配列番号2と同定される配列を有する抗HER2抗体を用いて、実施例1に記載するように調製された脂質−ポリマー−抗体標的化コンジュゲートは、複数のコンジュゲートを含有するミセル溶液と前形成リポソームのインキュベーションにより、前形成リポソームに挿入された。リポソームあたり平均2、5、7.5、15、30、45、75、100、150および300の抗体を有するイムノリポソームは、本明細書では2:1、5:1、7.5:1、15:1、30:1、45:1、75:1、100:1、150:1および300:1の製剤と呼ぶが、これらは実施例1に詳述されるように反応物濃度を調整することにより調製した。
【0070】
7.5、15、30および45の抗体を持つイムノリポソームのHER2−発現細胞(SK−BR03)への、および非HER2発現細胞(MCF−7)へのインビトロ取り込みは、実施例2に記載するように測定した。結果を表1にまとめる。
【0071】
【表1】
【0072】
表1のデータは、HER−2陽性SK−BR−3細胞における抗−HER2イムノリポソームの陽性細胞結合/取り込みを示し、15:1および30:1製剤のそれぞれについて、細胞あたり2.58pg、および細胞あたり1.75pgのドキソルビシンレベルを示す。低いHER2発現レベルを有するMCF−7細胞における抗−HER2イムノリポソームの結合/取り込みは、有意ではなかった。両細胞株における抗−HER2抗体を持たないリポソームの結合/取り込みも有意ではなかった。
【0073】
実施例3に記載する別の実験では、SK−BR−3ヒト胸部癌腫細胞において、リポソームあたり2、5、7.5および15の抗体を持つ抗−HER2イムノリポソームの細胞傷害性を評価した。遊離ドキソルビシンおよびペグ化(PEGylated)されたドキソルビシンを装填したリポソームを、それぞれ陽性および陰性対照として用いた。SK−BR−3細胞を抗−HER2イムノリポソームに10分間暴露し、次いで細胞の生育能を評価した。結果を図2Aに表す。
【0074】
図2Aは、遊離薬剤として(三角)、リポソームに封入されて(丸)、あるいはリポソームあたり2(丸)、5(四角)、7.5(菱形)または15(三角)の抗体を含むイムノリポソームに封入されて投与された時、未処理対照細胞のパーセントとして細胞の生育能をドキソルビシン濃度の関数としてμg/mLで表す。リポソーム組成物の細胞傷害性における差異は、約0.5μg/mLのドキソルビシン濃度で明らかとなり、ここでリポソームあたり5(四角)または7.5(菱形)の抗体で修飾されたイムノリポソームは、遊離薬剤(三角)とほぼ同じインビトロ細胞傷害性を提供した。しかしリポソームあたり15の抗体を含むイムノリポソーム(三角)は、同じ濃度の遊離薬剤よりも細胞傷害性であり、約4μg/mLのドキソルビシンで50%の細胞生育能であった。リポソームあたり2の抗体を含むイムノリポソームは、非標的化ペグ化リポソームのドキソルビシンよりも細胞傷害性が低かった。
【0075】
Her2標的化イムノリポソームの細胞致死効果は、リポソームあたりの抗体密度に関連する。10分間暴露した後の5、7.5および15のscFv/リポソーム比の抗−Her2イムノリポソーム製剤に関するIC50値は、それぞれ約30、16および3.9μg/mLであった。2のscFv/リポソーム比を有する抗−Her2イムノリポソーム製剤の細胞傷害性は、10分の薬剤暴露後に細胞傷害性がほとんどないか、または無かった。遊離ドキソルビシンのIC50は、約9.5μg/mLであった。PEG−被覆リポソーム中に封入されたドキソルビシンについて記録された細胞傷害性はほとんどないか、または無かった。15のscFv/リポソーム比を有する抗−Her2イムノリポソームは、遊離ドキソルビシンよりも高い細胞傷害性を有し、迅速な結合にインターナリゼーションが続く標的化製剤の利点を示す。
【0076】
このように1つの態様では、リポソームあたり2より多くの抗体を提供する、そして特に以下にさらに検討するように、24、48もしくは96時間以上、インビボの血液中でイムノリポソームの循環後に、リポソームあたり平均して2より多くの抗体を提供する脂質−ポリマー−抗体コンジュゲートの量を含むイムノリポソーム製剤が企図される。
【0077】
インビトロ細胞傷害性を測定する別の方法が行われ、ここではリポソームおよびイムノリポソーム製剤が細胞と4時間インキュベーションされた。次いで細胞を洗浄し、そして37℃で3日間インキュベーションした。3日の終わりに細胞数がクリスタルバイオレット染色により予想された。この結果を図2Bに示す。図2Bはドキソルビシン濃度の関数として、未処理対照細胞のパーセントとして細胞の生育能をμg/mLで示す。種々のイムノリポソームからの種々の濃度のドキソルビシンに対して4時間の暴露は、製剤のインビトロの細胞傷害性に差異があることを具体的に説明する。リポソームあたり7.5および45の抗体を持つイムノリポソームは、細胞傷害性が遊離のドキソルビシン(菱形)よりもわずかに低いか、またはそれと同様の細胞傷害性であった。15および30の抗体を含むイムノリポソームは、遊離ドキソルビシンよりも細胞傷害性であった。図2Bも、15および30の抗体を含むイムノリポソームが遊離ドキソルビシンよりも細胞の細胞傷害性が強いことを示す。
【0078】
実施例4に記載する別の実験では、血中のHER2−標的化リポソームの安定性が評価された。125I−標識scFv抗体を持つイムノリポソームは、7.5、15、30、45および90のscFv抗体/リポソーム比で調製された。イムノリポソームはヒト血漿中でインキュベーションされ、そして分析用にアリコートが選択された時間に取り出された。ヒト血漿中のリポソーム物質の2連のアリコートをインキュベーションから取り出し、そしてSepharoseCL−4Bカラムに各時点で乗せた。
【0079】
図3A〜3Hは、ヒト血漿中でイムノリポソームのインキュベーション中に取り出したアリコートから、リポソームあたり15のscFv抗体を有するイムノリポソームからの
125I標識脂質−PEG−scFvコンジュゲートの溶出プロファイルを示し、アリコートは0時間(図3A)、1時間(図3B)、4時間(図3C)、8時間(図3D)、24時間(図3E)、48時間(図3F)、72時間(図3G)および96時間(図3E)で取り出した。リポソーム画分の放射活性は、2〜3の画分内の非常に狭い範囲の画分内で回収され、そして典型的には集めた全溶出液の6〜9mL以内であった。血漿画分は、血漿タンパク質の広いサイズ範囲により、SepharoseCL−4Bカラムから少なくとも12画分にわたり溶出した。すべての時点にわたり、リポソームおよび血漿画分は互いに識別可能であった。解離した(そして対応して会合した)125I−標識脂質−PEG−scFvコンジュゲートのパーセントを算出するために、リポソームおよび血漿画分からの放射活性を合わせて、125I−標識の総量を提供した。その総量をSepharoseCL−4Bカラムに乗せたサンプル中の全放射活性の比として評価した。
【0080】
図4Aは、7.5:1(菱形)、15:1(四角)、30:1(丸)、45:1(三角)および90:1(★)のscFv抗体/リポソーム比を有するイムノリポソーム製剤から125I−標識scFv抗体の解離を、ヒト血漿中で時間でのインキュベーション時間の関数として示す。図4Bは同じ製剤についてイムノリポソーム中に残る125I標識のパーセントとしてデータをプロットする。製剤から抗体の解離の速度および程度は(ドキソルビシンの量に関して)、リポソームあたりの抗体の初期密度にかかわらず本質的に同じである。
【0081】
別の実験では、リポソームあたり15の抗体を有するイムノリポソーム製剤を調製し、そしてインビトロでヒトの血漿中でインキュベーション中に製剤から標識の解離を測定した。結果を図5A〜5Bに示す。
【0082】
図5Aは、インキュベーション時間(時間で)の関数として、2つの実験(菱形、四角)に関するイムノリポソーム製剤から解離した放射標識抗体のパーセントを示す。2つの実験間の結果は一致し、そして24時間のインキュベーションがイムノリポソームからの抗体の約30%解離をもたらすことを示す。ヒト血漿中96時間のインキュベーション後、抗体の50%はもはやイムノリポソームと会合しない。
【0083】
図5Bはヒト血漿中のインキュベーション時間の関数として、イムノリポソームに残る放射性標識抗体のパーセントとして(菱形)、およびイムノリポソームから解離した放射性標識抗体のパーセントとして(四角)、15:1のイムノリポソーム製剤を使用した実験の1つからのデータをプロットし、ここで血漿が誘導した解離は、血漿画分中に回収された放射活性として記載される。図5Bはリポソーム画分の放射標識scFvの減少を示し、対応して全scFv物質のパーセントとして表される血漿画分中で増加する。放出されたscFv抗体の量における初期の減少は、約48時間までに定常状態に達することが観察された。ゼロ時点で、85%の放射活性がリポソーム画分で回収され、残りは血漿画分にあった。放射活性に付随するリポソームの減少は24時間以内でより顕著であり、>30%のscFv抗体が解離し、そして血漿画分から回収された。96時間のインキュベーション時間にわたり、約50%の解離まで、リポソーム画分における初期のscFv抗体が減少すると、血漿画分中の放射活性の量が対応して増加することを示す(リポソーム画分では対応して減少する)。
【0084】
したがって1つの態様では、インビボ投与後24時間、より好ましくは投与後48時間、そしてより一層好ましくは投与後96時間、リポソームあたり平均して2より多くの抗体、そしてリポソームあたり平均して150未満の抗体を有するイムノリポソーム組成物が提供される。別の態様では、イムノリポソーム組成物は平均してリポソームあたりある初期量の抗体を有し、そして30〜60%の間の抗体がインビボに投与されたイムノリポソーム用量から解離して、インビボ投与後48もしくは96時間に、平均してイムノリポソームあたり約50未満の抗体、より好ましくは平均してイムノリポソームあたり約30未満の抗体、そしてさらに一層好ましくは平均してイムノリポソームあたり約15未満の抗体を有する組成物を提供する。1つの好適な態様では、イムノリポソームは平均してイムノリポソームあたり2から15の間(両端を含む)の抗体を含む。インビボでリポソームあたりの抗体の数は、イムノリポソームがヒト血漿中、37℃で24、48または96時間のような選択した時間インキュベーションされ、そしてリポソームからの抗体(または脂質−ポリマー−抗体構築物)の解離に関して適切な分析技術を使用して分析されるインビトロアッセイを使用して近似させることができると思われる。
【0085】
ラットに単回、静脈内投与した後のイムノリポソーム中の抗体の安定性を評価するために、インビボ実験を行った。実施例5に記載するように、ラットは125I−標識イムノリポソーム(15:1製剤)または125I−標識scFv抗体−PEG−DSPEコンジュゲートのいずれかを静脈内に処置した。血液サンプルは投与から5分、そして1、3、8、24および48時間後に集めた。全血および血漿サンプルは、125Iについてカウントし、そして注射した用量のパーセント(%)で表した。イムノリポソームでの処置群からの血漿サンプルもドキソルビシン濃度についてアッセイした。さらに各時点での血漿サンプルの一部をサイズ排除カラムに通して、遊離のコンジュゲートをリポソームに結合したコンジュゲートから分離して、放射活性がリポソーム画分に会合しているかどうかを決定した。
【0086】
図6Aは、血漿サンプルのリポソーム画分中で回収された放射標識scFv抗体−PEG−DSPEコンジュゲートの割合を示す。すべての時点にわたり、>85%の放射活性がリポソーム画分にのみ見いだされた。これは任意の遊離抗体または遊離コンジュゲート(すなわちリポソームに会合していない)が、循環から迅速に回収されることを示す。
【0087】
図6Bは、SepharoseCL−4Bカラムで分離した後の血漿のリポソーム画分における遊離放射標識scFv抗体の濃度を示す。この画分の遊離scFv抗体の量は、わずかな量(100ng/mL以下)が回収されただけなので、無視できる。実験期間にわたり、遊離scFv抗体の回収は全回収の15%未満であった。
【0088】
ラットに15:1のイムノリポソーム製剤を投与した後に、リポソーム画分と会合していない放射標識scFV抗体(すなわち「遊離抗体」もしくは「遊離コンジュゲート」)の濃度を図6Cに示す。第1の時点(5分)で、初期の放射標識scFv抗体濃度は予想された注射用量の20%まで低下した。放射標識scFv抗体排除の初期速度は、投与後、最初の10時間くらいの間迅速であった。投与後、最初の48時間にわたり、放射標識scFv抗体濃度は最初の時点での放射標識scFv抗体濃度の90%まで減少した。比較して40%のドキソルビシンが循環に留まる(図7A)。
【0089】
また実施例5に記載するように、イムノリポソームおよびドキソルビシンの薬物動態学的パラメーターを決定した。表2に薬物動態学的パラメーターをまとめ、そして図7A−7Bは時間の関数としての濃度を示す。
【0090】
【表2】
【0091】
図7Aは、15:1のイムノリポソーム製剤をラットに投与した後、時間(時間で)の関数として血漿(菱形)および血液(黒四角)中に残る125I−標識scFv抗体のパーセント;血漿(三角)中のドキソルビシンのパーセントを示す。また遊離コンジュゲートとして投与した後に、時間(時間で)の関数として血漿(白丸)および血液(白四角)中の125I−標識scFv抗体のパーセントも示す。血液および血漿中の放射活性は、イムノリポソームを投与した動物および125I−標識scFv抗体−PEG−DSPEコンジュゲートを投与した動物の両方で、投与から5分後にピークに達した。イムノリポソームで処置した動物では、血液および血漿中の125Iレベルは、5分でそれぞれ78.4±4.1および77.2±3.7%、そして96時間で4.4±0.9および4.1±0.8%であった。血漿中のドキソルビシン含量は、5分で127±19.7%または69.4±10.8μg/mL、そして96時間で11.8±3.9%または6.4±2.2μg/mLであった。サイズ排除カラムから溶出した125Iのプロファイルは単一ピークを示し、これはカラム溶出液のリポソーム画分に対応した。注射した125I用量の血液および血漿中のパーセントに基づき、イムノリポソームの排除半減期は、それぞれ25.6時間および25.0時間であった。血漿中のドキソルビシン濃度に基づき、イムノリポソームの排除半減期は31.6時間であった。
【0092】
125I−scFv抗体−PEG−DSPEコンジュゲートで処置した動物において、血液および血漿中の125Iレベルは、それぞれ5分で41.8±6.0および40.8±3.1%、そして8時間で2.9±0.6および2.7±1.1%であった。放射活性は24または48時間の時点で検出されなかった。血液および血漿中のコンジュゲートの排除半減期は、それぞれ2.1および2.0時間であった。
【0093】
図7Bは、ラットに15:1のイムノリポソーム製剤を投与した後、時間(時間で)の関数としてドキソルビシンの血漿濃度をμg/mLで示す。見れば分かるように、ドキソルビシンは投与から96時間後の血中に残る。
【0094】
図8は、ラットに15:1のイムノリポソーム製剤を投与した後、時間(時間で)の関数としてng/μgでの血中のドキソルビシンに対する125I−標識scFv抗体比のプロットである。成分の比は投与後、最初の24時間中に減少し、次いで投与から約50時間後にプラトーに達する。この減少比は、scFv抗体が循環からのリポソームのクリアランスよりも、またはリポソームからのドキソルビシンの損失よりも早い速度でリポソームから失われることを示す。
【0095】
まとめると、ラットを対象としたインビボ実験では、イムノリポソームが単回の静脈内投与後96時間にわたり、循環に留まることを示した。抗体−PEG−DSPEコンジュゲートはサイズ排除クロマトグラフィーにより示されるようにリポソームにしっかりと会合していた。125I−標識イムノリポソームの投与後の血液/血漿中の125Iの半減期は約25時間であり、そして血漿中のドキソルビシンの半減期は31.6時間であった。遊離形で投与された時、抗体−PEG−DSPEコンジュゲートは、単回の静脈内投与後、約8時間にわたり、循環に留まった。遊離コンジュゲートの循環半減期は約2時間であった。血清中のイムノリポソームの安定性を調査するインビボデータは、すべての時点にわたり、>85%の放射活性がリポソーム画分に残り、解離した抗体または遊離の抗体コンジュゲートが血清画分から迅速に排除されることを示す。イムノリポソームは血清および血液の両方で約25時間の測定された半減期を有したが、遊離抗体または抗体コンジュゲートの半減期は血液および血漿の両方で約2時間であった(表2)。
【0096】
実施例6は別のインビボ実験を行って、リポソームあたり15、75、150および300のscFv抗体を有するイムノリポソーム製剤の薬物動態学を評価した。簡単に説明すると、は1つのイムノリポソーム製剤の単回の静脈内ボーラスで処置された。対照マウスはペグ化リポソームのドキソルビシンが投与された。血漿は投与後約5分、そして4、8、24、48、72および96時間に集め、そして全ドキソルビシンについてアッセイした。結果を表9に示す。
【0097】
同様なドキソルビシン濃度 対 時間のプロファイルが、対照製剤(菱形)および15:1(黒四角)および75:1(三角)のイムノリポソーム製剤で処置した動物で観察された。リポソームあたり150(X記号)および300(★記号)の抗体を有するイムノリポソームで処置した動物について、より早いクリアランスおよびより高い分布容量に付随するかなり低い値のCmax、AUCおよび半減期が観察された。
【0098】
図9のデータから定めた薬物動態学的パラメーターを表3に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
血漿中のドキソルビシン濃度は、最初のサンプリング時点、すなわち注射から5分後に、ピークに達した。ペグ化リポソーム対照製剤、15:1イムノリポソーム製剤および75:1イムノリポソーム製剤を投与したマウスのCmax値は、それぞれ39.0±0.27、39.9±5.49および43.3±1.30μg/mLであった。対応する薬剤レベルは投与から24時間でそれぞれ10.1±1.82、9.05±0.69および13.6±5.0μg/mLに、そして96時間後でそれぞれ0.32±0.19、0.56±0.41そして0.28±0.12μg/mLに減少した。大変似ている薬物動態学的プロファイルがこれら3つの処置群で観察された。150:1のイムノリポソーム製剤および300:1のイムノリポソーム製剤を投与されたマウスでのCmax値は、75:1以下のリポソーム製剤で処置したマウスよりも顕著に低く、すなわちそれぞれ20.6±3.88および10.5±6.13μg/mLであった。対応する薬剤レベルは、24時間でそれぞれ4.56±0.52および0.58±0.19μg/mLに減少した。96時間の終わりに、150:1および300:1のイムノリポソーム製剤で処置した群の動物の半分は、血漿で検出可能な薬剤レベルではなかった。
【0101】
ペグ化リポソーム対照製剤、15:1のイムノリポソーム製剤および75:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスのAUClast値は、それぞれ751.5、763.1および898.3μg・h/mLであった。150:1および300:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスのAUClast値は、それぞれ287.7および81.5μg・h/mLであった。
【0102】
ペグ化リポソーム対照製剤、15:1のイムノリポソーム製剤および75:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスの血漿半減期は、それぞれ14.8、17.0および12.8時間であった。150:1および300:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスの半減期は、それぞれ3.30および3.91時間であった。
【0103】
ペグ化リポソーム対照製剤、15:1のイムノリポソーム製剤および75:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスのドキソルビシンの血漿クリアランスは、それぞれ0.070、0.068および0.059mL/時間であった。150:1および300:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスのドキソルビシンの血漿クリアランスは、それぞれ0.183および0.645mL/時間であった。
【0104】
リポソーム対照製剤、15:1のイムノリポソーム製剤および75:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスの分布容量は、それぞれ1.49、1.50および1.23mLであった。150:1および300:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスの分布容量は、それぞれ3.57および12.0mLであった。
【0105】
実施例6の知見は、類似の薬物動態学的プロファイルが0、15または75のscFv/リポソーム比を含むイムノリポソームの単回のボーラス投与後に、マウスで観察されたことを示す。150または300のscFv/リポソーム比を含むイムノリポソームで処置した動物について、Cmax、AUCおよび半減期に関しては、より早いクリアランスおよびより高い分布の容量を伴う、より低い値が観察され、ここでパラメーターはリガンド密度に逆比例した。したがって1つの態様では、標的化抗体が無い類似のリポソーム製剤に関するAUC、Cmaxおよび/または半減期よりも30%(i)を越えて、または(ii)せいぜい30%、好ましくはせいぜい25%、さらに一層好ましくはせいぜい20%低いAUC、Cmaxおよび/または半減期を有するイムノリポソーム製剤が提供される。例えば抗体を欠く対照ペグ化リポソーム製剤のAUCは、751μg・h/mLであった。15:1および75:1のイムノリポソーム製剤のAUCは、それぞれ763μg・h/mLおよび898μg・h/mLであった。15:1のイムノリポソーム製剤は、抗体が存在しないことを除いて同一の組成物である対応するリポソーム製剤のAUCよりも1.6%低かった(すなわちせいぜい25%低い)。75:1のイムノリポソーム製剤は、対応するリポソーム製剤のAUCよりも高いAUC値を有した。対照的に、150:1および300:1のイムノリポソーム製剤のAUC値は、リポソーム製剤のAUCよりも30%をかなり越えて低かった。同様に、75:1および15:1のイムノリポソーム製剤のCmaxおよび半減期の薬物動態学的パラメーターは、リポソームの非抗体標的化リポソーム製剤よりもせいぜい25%低かった。
【0106】
このように図9のデータは、図2Aおよび図5Bのデータを用いて考察する場合、イムノリポソーム製剤、および1つの態様では約20,000〜50,000ダルトンの間、より好ましくは25,000〜35,000ダルトンの分子量を有する抗体を持つイムノリポソームが、好ましくはインビボ投与前に、リポソームあたり平均して約4〜30の間(両端を含む)の抗体、そしてより好ましくはリポソームあたり約5〜25の間(両端を含む)の抗体、そしてさらに一層好ましくはリポソームあたり約6〜20の間(両端を含む)の抗体を有する。インビボ投与前にリポソームあたり抗体数の好適な他の範囲は、約5〜30の間、約6〜25の間、そして約4〜15の間、そして約7〜15の間である。
【0107】
別の態様では、イムノリポソーム製剤は、インビボ投与から約96時間後に、平均してリポソームあたり約2より多くの抗体、そして約16未満の抗体を有し、より好ましくはインビボ投与から約96時間後にリポソームあたり約2より多くの抗体、そして約12未満の抗体を有し、そしてさらに一層好ましくはインビボ投与から約96時間後にリポソームあたり約2より多くの抗体、そして約10未満の抗体を有し、そしてなお一層好ましくはインビボ投与から約96時間後にリポソームあたり約2より多くの抗体、そして約8未満の抗体を有する。あるいはイムノリポソーム組成物は、血中でインビトロ循環の約48時間後に、平均してリポソームあたり2より多くの抗体を有し、そしてインビボ静脈内投与から約48時間後に平均してリポソームあたり約20未満の抗体を有する。
【0108】
別の態様では、本発明は標的化抗体を欠く類似のリポソーム製剤のAUCの30%以内、好ましくは25%以内、より好ましくは20%以内のAUCを有するイムノリポソーム製剤を提供する。別の態様では、本発明は標的化抗体を欠く類似のリポソーム製剤の用量標準化AUCの30%以内、好ましくは25%以内、より好ましくは20%以内の用量標準化AUCを有するイムノリポソーム製剤を提供する。
【0109】
イムノリポソーム組成物の抗腫瘍効力を評価するために別の実験を行った。実施例7に記載するように、BT−474ヒト乳癌腫外植片を持つマウス(これは細胞の表面上にHER2受容体を表すことが知られている)を、標準化抗体を持たない(対照)、またはリポソームあたり7.5、15、30もしくは45の抗体を有するイムノリポソーム製剤で処置した。結果を図10A〜10Bに示す。
【0110】
図10Aは塩水(白丸)、ドキソルビシンを含有するペグ化リポソーム(白四角)、またはリポソームあたり7.5(菱形)、15(三角)、30(黒四角)もしくは45(黒丸)のscFv抗体を含むイムノリポソームを投与した後のマウスにおける相対的な腫瘍容積をパーセントで示す。塩水対照群(白丸)の腫瘍は、平均して23.9±7.5日でサイズが4倍になった。45:1、30:1、15:1および7.5:1の抗体:リポソーム比を有するイムノリポソーム製剤で処置した動物は、それぞれ35.1±2.9、32.9±4.4、36.1±1.9および38.0±0日より長い腫瘍容積の4倍化時間を有した。対照リポソーム製剤(Doxil(商標)白四角)で処置した動物の腫瘍は、29.2±6.0日以上でサイズが4倍の腫瘍を有した。38日の実験の終わりに、45:1、15:1および7.5:1の抗体:リポソーム比を有するイムノリポソームを投与した各処置群から1匹の動物は、腫瘍が存在しないか、または小節サイズ<10mm3のいずれかであった。
【0111】
塩水対照と比較した時、リポソームもしくはイムノリポソームのドキソルビシンで処置したすべての動物に明らかな腫瘍の増殖の遅れがあった。HER2−標的化イムノリポソーム製剤で処置した動物は、非標準化リポソームのドキソルビシン(Doxil(商標))で処置した動物よりも腫瘍の増殖にわずかに長い遅れがあった。
【0112】
図10Bは処置期間中、試験動物の体重における変化のパーセントを示す。
【0113】
まとめると、実験はこのBT−474ヒト乳癌外植片モデルで、ドキソルビシンを封入したリポソーム、またはドキソルビシンを封入したイムノリポソームを用いた処置が対照動物と比較した時に抗腫瘍活性を生じることを示す。7.5〜45にイムノリポソーム製剤中の抗体:リポソーム比を変動させることにより、抗腫瘍効力に差異はなかった。
【0114】
15:1のイムノリポソーム製剤を、腫瘍を持つマウスにおけるインビボ用量範囲の評価に選択した。実施例8に記載するように、マウスはペグ化リポソームに封入されるか、もしくはイムノリポソームに封入された種々の投薬用量(2、3、4mg/kg)のドキソルビシンで処置された。すべてのマウスは3週間、毎週、適切な製剤の静脈内投与を受けた。腫瘍サイズは1週間に2回測定して腫瘍の容積を算出し、そして結果を図11に示す。
【0115】
図11は、胸部腫瘍移植片を持ち、そして塩水(白丸)で、2mg/kg(白四角)および3mg/kg(白菱形)の投薬用量でドキソルビシンを含有するペグ化リポソームで、または15:1のイムノリポソーム製剤を2mg/kg(黒四角)、3mg/kg(黒菱形)もしくは4mg/kg(黒三角)の投薬用量で処置したマウスにおいて、時間(日で)の関数として初期腫瘍容積のパーセントとして取った相対的な腫瘍容積のプロットである。未処置対照動物(白丸)の腫瘍は、平均11.1±1.9日の腫瘍容積3倍化時間(TVTT)を有した。2、3および4mg/kg(それぞれ白四角、菱形、三角)のリポソームのドキソルビシンで処置した動物は、それぞれ16.7±4.8日、26.0±3.9日および>34.2±9.0日の腫瘍容積3倍化時間(TVTT)を有した。15:1のイムノリポソーム製剤で処置した動物は、2、3、および4mg/kgの用量レベルでそれぞれ34.2±6.6、29.5±8.6および49.0より長いTVTT。
【0116】
腫瘍増殖の遅延は、未処置対照群と比較してすべての薬剤処置群で観察された。ペグ化リポソーム処置群について、明らかな用量応答関係があったが、イムノリポソーム処置群にはなかった。しかし4mg/kgの15:1のイムノリポソームでの処置は、腫瘍の増殖においてすべての他の処置群よりも長い遅れを生じたが、イムノリポソーム処置群に関する関係は明らかでなかった。2および4mg/kgの15:1のイムノリポソームを用いた処置は、4mg/kgでマウスのペグ化リポソーム処置群に関する平均TVTTよりも大きい平均TVTTを提供した。さらに各用量で、15:1のイムノリポソームに関する平均TVTTは、マウスのペグ化リポソーム処置群よりも大きかった。
【0117】
実施例9に記載する別の実験では、封入されたドキソルビシンを含有し、そしてイムノリポソームあたり平均して15のscFv抗体を持つイムノリポソーム製剤を、単回の静脈内注射を介して動物に3回の投薬用量で投与した。イムノリポソーム、ドキソルビシンおよび抗体の薬物動態学を決定し、そして結果の図12〜14に示す。
【0118】
図12は、10mg/mLのドキソルビシン投薬用量で15:1のイムノリポソーム製剤(丸)およびペグ化リポソーム(四角)のサルへの静脈内投与後に、時間(時間で)の関数としての血漿ドキソルビシン濃度を示す。イムノリポソームの血液循環寿命は、本質的にscFv抗体を欠くペグ化リポソームに等しい。
【0119】
図13A〜13Bは、1mg/kg(丸)、5mg/kg(四角)および10mg/kg(三角)のドキソルビシン投薬用量で15:1のイムノリポソームの静脈内投与後に、時間(時間で)の関数として、血漿ドキソルビシン濃度(図13A)および血漿抗体濃度(図13B)を示す。血漿中の全(遊離および封入)ドキソルビシン濃度は、投与後に時間の関数として減少する(図13A)。全(遊離およびイムノリポソームに会合)抗体濃度は、投与から4時間に大きな初期の減少を現し、続いてその後にゆっくりとした下降を現す。
【0120】
ドキソルビシン濃度に対する抗体の比は、図13A〜13Bに提示するデータから決定し、そして図14A〜14Bに示す。図14Aでは、血漿中のscFv抗体/ドキソルビシンの濃度の比(ng/μgで)を図14Bに示し、この比を初期の抗体/ドキソルビシン比に対して標準化し、そしてパーセントとして表す。両図において、1mg/kg、5mg/kgおよび10mg/kgのドキソルビシン投薬用量で投与されたイムノリポソームが、それぞれ菱形、四角および三角で確認される。両方のデータの表示は、投与から最初の4時間での抗体の損失を具体的に説明し、約40%の抗体がリポソームから解離し、そして投与後8時間以内に血流から排除された。このデータは抗体の損失を具体的に説明し、これはイムノリポソームからの抗体の損失またはイムノリポソームから脂質−ポリマー−抗体構築物の損失であり得る。
【0121】
このように、イムノリポソームは約24時間または48時間の時間に、インビボ循環中に会合している抗体の20〜50%を失い、それでもイムノリポソームは細胞傷害性に十分なHER2受容体への結合を保持するイムノリポソーム製剤が企図される。上で説明したように、非標的化リポソームのドキソルビシンに比べて、インビトロの細胞傷害性には約2より多い抗体が必要とされる。
【0122】
したがって、インビボ投与用のイムノリポソーム製剤の調製法が提供され、ここで疎水性部分−親水性ポリマー−抗体構築物は、イムノリポソームあたり第1の選択した抗体数を提供するために十分な第1の量で含まれる。イムノリポソームはインビトロもしくはインビボで血液と接触するようにされ、そしてリポソームと血液とが接触する1もしくは複数の時点でイムノリポソームあたりの抗体数が決定される。例えばインビトロの容器から血液のアリコートを取るか、または動物から血液サンプルが引き抜かれる。血液はラジオイムノアッセイ、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動等のような多数の適切な分析技術を使用して抗体の量について分析される。1より多くの時点での抗体数が決定されれば、血中での時間の関数として抗体の損失を示すプロットを構築することができる。この情報を使用して、血液と接触した後の選択した時点で抗体数が決定され、そして血液と接触した後にそのような時点でリポソームあたり少なくとも2の抗体を提供するために、第2の、リポソームあたりより高い数の抗体数を提供するために十分な疎水性部分−親水性ポリマー−抗体構築物の第2の量が選択される。次いでイムノリポソームは第2の量の構築物を使用することにより調製される。例えば投与から96時間後、イムノリポソームあたり5の抗体を有することが望まれ、そして血液インキュベーションデータは約50%の抗体がイムノリポソームから解離するか、またはそうではなく標的化受容体との相互作用に利用できなならば、イムノリポソームは最初に、インビボ投与前に少なくとも10の抗体を含むべきである。一般に第2の量のコンジュゲート、すなわち投与前の初期の抗体数を提供するために選択されるコンジュゲートの量は、リポソームあたり50未満の抗体、より好ましくはリポソームあたり30以下の抗体を生じるように選択される。
【0123】
別の態様では、そして一部は上記の薬物動態学的データに基づき、この方法はリポソームあたり150未満の抗体、より好ましくはリポソームあたり100以下の抗体、そしてさらにより一層好ましくはリポソームあたり75以下の抗体を提供する第1の量のコンジュゲートを有するリポソームを提供することを含む。
【0124】
III.使用法
リポソームは封入された形態で治療薬または診断薬を含む。封入は、リポソームの水性の芯および水性の空間の中への作用物質のカプセル化、ならびにリポソームの脂質二重層(1もしくは複数)への作用物質の封入を含むことを意図している。本発明の組成物に使用することを意図する作用物質は広く変動でき、そして治療および診断の応用に適する作用物質の例を以下に与える。
【0125】
投与される用量は、特定の作用物質の薬物動態学的特性、およびその投与様式および経路;受容体の年齢、健康および体重;症状の性質および程度、同時処置の種類、処置頻度および所望する効果といった既知の因子に依存して変動することができる。投薬用量は1回に、あるいは時間、日または週の選択した間隔で与える周期的用量となることができる。
【0126】
任意の投与経路が適切であるが、静脈内および他の非経口様式が好適である。
【0127】
別の観点では併用処置計画が意図され、ここで上記のイムノリポソーム組成物は第2の作用物質と組み合わせて投与される。第2の作用物質は、他の薬剤化合物ならびにペプチド、抗体等のような生物製剤を含め、任意の治療薬であることができる。第2の作用物質は、同じかまたは異なる投与経路により、イムノリポソームの投与と同時に、または順次に投与することができる。特に好適な組み合わせには、限定するわけではないが、シクロホスファミド、タキサン、ビノレルビン(vinorelbine)、Herceptin(商標)およびAvastin(商標)を含む。Her2−標的化リポソームは、DOXIL(商標)のような非標的化リポソームで投与される同じ薬剤の均等な用量に比べて、より完全な腫瘍の後退を提供する。したがってHer2−標的化イムノリポソームに封入された第1の細胞傷害性剤の用量および第2の治療薬を含んでなる処置計画が企図され、ここで1もしくは双方の作用物質は、予想される腫瘍の後退よりも大きいような改善された臨床的成果を達成するために、単独で投与される作用物質に必要とされる用量よりも少ない用量で投与される。またHer2−標的化イムノリポソームは、2以上の作用物質と組み合わせて投与することもできると考えられる。特定の患者に適切な作用物質は、熟練した医療従事者により同定され得る。リポソームに封入された化学療法剤および2以上のさらなる作用物質を含有するHer2−標的化イムノリポソーム組成物を含んでなる処置計画が企図され、ここで改善された臨床的成果を達成するために、少なくとも1つ、そして好ましくは1より多くの作用物質が、単独で与えた時の作用物質の推薦される用量よりも少ない用量で投与される。
【0128】
本明細書に記載する処置法は、1つの態様において、細胞あたり105より多くのHER2受容体、そして好ましくは細胞あたり106より多くのHER2受容体を発現している患者群に投与するために企図されている。細胞受容体の密度は免疫組織化学を使用して測定することができ、そしてそのような測定のためのHercepTest(商標)のようなキットを購入することができる。細胞あたり105より多く、好ましくは106より多くのHER2受容体を発現している個体は、本明細書に記載する抗体が細胞によりインターナライズされ、細胞内に送達される薬剤が増えるので、本明細書に記載するHER2−標的化イムノリポソーム組成物に特に良く応答する。生検または適切な生物学的サンプルが患者から得られる方法では、サンプルをアッセイして腫瘍細胞あたりのHER2受容体の数を測定し、そして受容体の数が細胞あたり106HER2受容体よりも多いならば、患者を本明細書に記載するイムノリポソーム組成物で処置する。1つの好適な態様では、患者は細胞あたり3+(2,000,000)の受容体のIHCスコアを有する。
【実施例】
【0129】
IV.実施例
以下の実施例は本明細書に記載する本発明をさらに具体的に説明し、そして本発明の範囲をどのようにも限定するものではない。
材料:水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)はリポイド(lipoid)K.G.(ルードヴィヒスハーフェン、ドイツ)から購入した。コレステロールはクロダ(Croda)社(ニューヨーク、ニューヨーク州)から受け、そしてN−(カルボニル−メトキシポリエチレングリコール2000)−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルエタノールアミン、ナトリウム塩(mPEG−DSPE)は、シンゲナ(Syngena)社(リースタール、スイス)から受けた。塩酸ドキソルビシンは明治製菓株式会社(Meiji Seika Kaisha Ltd.)(東京、日本)から受けた。放射標識コンジュゲート(scFv−PEG−DSPE)は、0.0983mCi/mLの特異的活性でヘルメスバイオサイエンス(Hermes Bioscience)(サンフランシスコ、カリフォルニア州)から受けた。ヒト血漿はバイオレクラメーション(Bioreclamation)(イーストメドウ、ニューヨーク州)から受けた。カラム成分−SepharoseCL−4Bはアマシャム ファルマシア(Amersham Pharmacia)(ウプサラ、スウェーデン)から受け、溶出バッファー−塩化ナトリウム溶液(0.9%NaCl)はバクスター(Baxter)(デアフィールド、イリノイ州)からであり、そして0.4%アジ化ナトリウム(シグマ(Sigma)、セントルイス、ミズーリ州)を含んだ。
【0130】
実施例1
HER2−標的化イムノリポソームの調製
封入されたドキソルビシンを含有するリポソームは、カリフォルニア州、マウンテンビューのアルザコーポレーションから得た(DOXIL(商標))。リポソームは水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC、56.4モル%)、コレステロール(38.3モル%)、およびメトキシポリエチレングリコール−ジ−ステアロイル−ホスファチジルエタノールアミン(mPEG−DSPE、5.3モル%、mPEGMW2000Da)からなった。最終調製物中のドキソルビシンの濃度は100μg/mM脂質であった。調製に使用した内部バッファーは10%シュクロースであり、そして外部バッファーは10%シュクロースおよび10mMヒスチジンであった。最終製剤におけるリポソームの平均直径は93nmであった。
【0131】
抗−HER2受容体scFv抗体(配列番号2)は、上で簡単に検討し、そして図1A〜1Bに具体的に説明するように、当該技術分野で周知な手順に従い脂質−PEG−scFvコンジュゲートを形成した。
【0132】
次いで脂質−PEG−抗−HER2抗体構築物は、リポソームと脂質−ポリマー−抗体構築物のミセル懸濁液をインキュベーションすることによりドキソルビシンを装填したリポソームのリポソーム二重層と会合する。平均2、5、7.5、15、30、45、75、100、150および300の抗体を持つイムノリポソームは、1モルのリン脂質あたり加えた抗体の量を調整することにより表Aにまとめるように調製した。
【0133】
【表4】
【0134】
イムノリポソームあたりの理論的平均抗体数は、タンパク質およびリン脂質濃度を測定し、そして100nmのリポソームあたり平均80,000のリン脂質および28.714kDaの抗体分子量に基づき算出することにより確認した。イムノリポソーム中の抗体の数は、抗体の分子量、リポソームのサイズおよびリポソームの組成を測定することにより決定することができる。例えば15:1のイムノリポソーム製剤に関して、15モルのscFv抗体/80,000モルのリン脂質×28.714kDa=5.4g/モル。インキュベーション中、90%のコンジュゲートがリポソームに挿入もしくは会合すると仮定すると:5.4/90%=6μgのscFv抗体を1μmoleのリン脂質あたり加える。すなわち本明細書に報告されるイムノリポソームあたりの抗体数は、リポソーム集団における抗体の平均分布を反映し、報告する数は集団におけるリポソームあたりの抗体の平均数である。
【0135】
脂質−ポリマー−抗体コンジュゲートとリポソームとの会合後、ドキソルビシン濃度は86〜92μg/mM脂質であり、そして後のイムノリポソームの平均直径は93〜117nmであった。
【0136】
実施例2
イムノリポソームのインビトロ取り込み
SK−BR−3およびMCF7細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC、マナッサス、バージニア州)から購入した。SK−BR−3細胞は、10%ウシ胎児血清を補充したマッコイの5A(McCoy’s 5A)改良培地中のインビトロカルチャー中で維持した。MCF細胞は、10%ウシ胎児活性を含むダルベッコの改良イーグル培地で維持した。
【0137】
ウェルあたり1.5×105細胞/0.5mLの成長培地で、SK−BR−3またはMCF−7細胞を24ウェルプレートに加えた。付着および順化のために一晩インキュベーションした後、細胞をイムノリポソーム(7:5:1、15:1、30:1および45:1の抗−HER2抗体:リポソーム)で、または0.5mL成長培地/ウェル中、0.015mg/mLのリポソームで2連で処理した。次いで24ウェルプレートをインキュベーターの内側の回転台上に置き、40〜60rpmで37℃、5%CO2および100%の湿度で4時間回転させた。インキュベーション後、細胞培地を吸引し、そして細胞をハンクスバランス塩溶液(HBSS)で4回洗浄した。この後、細胞は0.1mLの1%TritonX−100を各ウェルに加えることにより溶解した。プレートは旋回させて混合し、そして回転台に室温で15分間置いた。この工程中、細胞をプレートの底から脱着させ、そして細胞核は可視の凝集塊を形成した。酸性イソプロパノール(1.0mL)を、TritonX−100溶液を含有するウェルに加え、そして旋回もしくはピペットで上下させることにより可視凝集塊が消えるまで混合した。
【0138】
細胞溶解物中のドキソルビシン含量は、470nmの励起波長および590nmの発光波長を使用することにより分光光度計により測定した。分光光度計の設定は以下の通りであった:スリット幅2nm、積分時間1秒、光電子倍増管電圧950V、および1回の波長獲得様式。バックグラウンドの細胞溶解物の蛍光を差し引き、そして細胞溶解物中のドキソルビシンの量は二次多項式回帰を使用して標準曲線に合わせた同時に測定した標準(サンプルあたり10、25、50、100、250、500、1000および2500ng)から決定した。ドキソルビシンの細胞の取り込みは、標準曲線の内挿により決定した。データは播種した細胞あたりのドキソルビシンをpgで表し、そして表1に示す。検出未満の値は有意ではない(NS)とした。
【0139】
実施例3
HER2−標的化リポソームのインビトロ細胞傷害性
SK−BR−3ヒト乳癌腫細胞株を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC、マナッサス、バージニア州)から購入した。細胞は、10%ウシ胎児血清を補充したマッコイの5A(McCoy’s 5A)改良培地中のインビトロ培養中で維持し、そして加湿化インキュベーター中、37℃で維持した。
【0140】
細胞を10分間、遊離形態のドキソルビシン(1.8mg/mL)、ペグ化リポソームに封入されたドキソルビシン(2.06mg/mL)、またはリポソームあたり2の抗体(1.86mg/mL)、リポソームあたり5の抗体(2.12mg/mL)、リポソームあたり7.5の抗体(1.99mg/mL)もしくはリポソームあたり15の抗体(2mg/mL)を有するイムノリポソーム製剤に暴露した。
【0141】
対数期SK−BR−3乳癌細胞はVersene(1:5000)を使用して回収し、成長培地に5×104細胞/mLの濃度で再懸濁した。0.1mL(5×103細胞)のアリコートを96ウェルプレートの適切なウェルに加えた。付着させるために一晩インキュベーションした後、培地を取り出し、そして試験物質と入れ替えた。成長培地で0.0137、0.0412、0.1235、0.37、1.11、3.33、10および30μg/mLに希釈した0.1mLのドキソルビシン、S−DOXまたはSTEALTH49製剤バリアントのアリコートを、各ウェルに3連で加えた。試験物質を含まない培地を対照ウェルに加えた。細胞を試験品に37℃で10分間暴露した。インキュベーションの終わりに、薬剤を含む培地を吸引し、そして細胞を0.2mLの成長培地で洗浄した。洗浄後、細胞を0.2mLの新しい培地中で成長条件下にてさらに72時間インキュベーションした。インキュベーションの終わりに、可視細胞の量をPromega CellTiter96(商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(増殖中の可視細胞の数を測定するためのテトラゾリウムに基づく比色法、マジソン、ウィスコンシン州)を使用して測定した。簡単に説明すると、ウェルから培地を吸引し、そして0.1mLの新しい培地および0.02mLのプロメガ(Lot No.186817)に変えた。次いでプレートを3〜4時間インキュベーションし、その後、吸収はマイクロプレートリーダーを用いて490nmで記録した。細胞の生育能は式:
%生育能=(A−A0)/(A100−A0)×100%
式中、Aは測定された吸収であり、A0はブランクの吸収であり、そしてA100は未処理細胞を含むウェルの吸収である、
を使用して未処理対照の%として算出した。細胞の生育能のパーセントは、薬剤濃度の関数としてプロットし、そしてIC50(50%の細胞成長阻止を生じる濃度)を内挿により決定した。
【0142】
イムノリポソーム製剤に関して、対照の割合としての細胞の生育能は、図2Aにまとめる。
【0143】
実施例4
血漿中のリポソームからHer2−標的化部分のインビトロ解離
実施例1に記載するように調製したドキソルビシンを含有するペグ化リポソームは、実施例1に記載のように調製した十分な125I−標識脂質−PEG−scFvコンジュゲートと合わせて、リポソームあたり7.5、15、30、45および90のscFv抗体を有するイムノリポソームを生成した。リポソームおよびコンジュゲートを60℃で1時間インキュベーションして、コンジュゲートのリポソームの外側二重層への挿入を可能にした。インキュベーションの終わりに、溶液を冷却し、そして続いて2〜8℃で保存した。各リポソーム製剤を10%シュクロース/10mMヒスチジンに透析し、そしてドキソルビシン含量を測定した。各製剤中のリポソームは、サイズ、ドキソルビシンのカプセル化、脂質−PEG−抗体コンジュゲートの挿入パーセント、およびscFv抗体濃度について特性を決定し、これを表Bにまとめる。15のscFv抗体を含む製剤の最終的な特異的活性は、28.4μCi/mLであった。
【0144】
【表5】
【0145】
リポソームからの125I標識の解離は、抗体、コンジュゲートもしくは両方の解離を示し、以下のように測定した。ヒト血漿を125I−標識HER2−標的化イムノリポソームと混合し、そして37℃で96時間にわたりインキュベーションした。各時点(0、1、4、8、72、96時間)で血漿のアリコートを取り出し、そして32mLのベット容量の28×1.2cmの調製したSepharoseCL−4Bカラムに乗せた。このSepharoseCL−4Bカラムは、1mLの100mMプラセボリポソームおよび1mLのラット血漿で前調整された。カラムは0.4%アジ化ナトリウムを含有する0.9%塩水で溶出した。各画分(1mL)は、125I放射活性についてガンマカウンターを使用してカウントした。
【0146】
また各アリコートに関する全活性も測定し、そしてSepharoseCL−4Bカラムからの回収は添加した各サンプルについて〜90%以上であった。すべての時点にわたり、添加したアリコートから回収された全画分に対して、カラムから少なくても90%の放射活性の回収であった。結果を以下の表に示し、そして15:1のイムノリポソーム製剤に関する溶出プロファイルは、図3A〜3Hに示す。図4Aは時間の関数としてイムノリポソーム製剤からの125Iの解離を示す。図4Bは時間の関数としてリポソームに残る125I標識のパーセントを示す。図5Aは、2つの異なる実験においてリポソームあたり15の抗体を有するイムノリポソーム製剤から125I標識の解離速度を表す。図5Bはリポソームあたり15の抗体を有するイムノリポソーム製剤から血漿で誘導された125I標識の放出を示す。
【0147】
【表6】
【0148】
実施例5
血漿中のリポソームからHer2−標的化部分のインビトロ解離
125I−標識scFv抗体は、既知の技術を使用してヨウ素−ビーズを使用して調製した。簡単に説明すると、scFv抗体(配列番号2)、Na[125I]、およびヨソ素−ビーズを合わせ、そして反応を室温で20分間続けた。反応はチオ硫酸でクエンチした。過剰なNa[125I]を除去するために、反応した溶液をDG−10脱塩カラムを使用して分離した。最高量の放射活性を含む最初のピーク中の物質をプールし、そしてタンパク質濃度を評価し、これをA280を使用して測定した。ヨウ素化scFv抗体は最後に滅菌のために0.2μmのフィルターを通し、そして4℃に保存した。物質は1カ月以内に使用した。
【0149】
リポソームあたり15の抗体を有するイムノリポソームは、形成されたリポソームを125I標識scFv抗体−PEG−脂質コンジュゲートと60℃で1時間インキュベーションすることにより上記のように調製した。インキュベーションの終わりに、溶液を冷却し、続いて2〜8℃で保存した。次いでイムノリポソームを10%シュクロース/10mMヒスチジンに透析し、そしてドキソルビシン含量を測定した。最終的なドキソルビシン含量は2.1mg/mLであった。製剤のサンプルは、サイズ=96nm、pH=6.5、%ドキソルビシン=99%、抗体挿入のパーセント=89%、および抗体濃度=49μg/mLと特性決定された。イムノリポソームの最終的な特異的活性は0.018mCi/mLであった。
【0150】
遊離の125I−scFv抗体−PEG−脂質は、10%シュクロース/10mMヒスチジンで49μg/mLの最終濃度に希釈した。十分な放射標識コンジュゲートを提供するために、冷却scFv抗体−PEG−脂質コンジュゲートを溶液に加えて、0.5μCi/mLの最終的な特異的活性を生じた。
【0151】
約11週齢および体重358〜376gの9匹のオスCD−1ラット(チャールズリバーラボラトリー:Charles River Laboratories)をこの実験に使用した。動物は少なくとも1週間、研究室の条件に慣らした。
【0152】
0日に、投与前、すべての動物は齧歯類のホットボックス(hotbox)中で暖めた。動物は手で拘束し、そして125I標識イムノリポソームまたは遊離125I−F5コンジュゲートのいずれかを外側の尾の静脈を介して単回の静脈内ボーラスを投与した。ラットあたり投与した用量は、約2mg/kgのドキソルビシンおよび49mg/kgの抗体−PEG−脂質コンジュゲートであった。
【0153】
体重および臨床的所見は、投与の日(0日)に記録した。カゴの中での所見は4日間、
毎日行った。血液サンプルは後眼窩洞を介して吸入麻酔(イソフルオラン/O2)下でヘパリン処理したミクロ遠心管に集めた。6匹のラットにイムノリポソームを投与し、そして血液サンプル(〜1.2mL)は投与から約5分、そして1、3、8、24、48、72および96時間後に集めた(1回の時点あたり3匹の動物)。3匹のラットに抗体−PEG−脂質−コンジュゲートを投与し、そして血液サンプル(〜0.6mL)は投与から約5分、そして1、3、8、24および48時間後に集めた。
【0154】
各動物からの100μLの全血サンプルのアリコートは、ガンマカウンターを使用して125Iについてカウントした。残りの血液サンプルは4〜8℃で2500RPM(〜750×g)で20分間遠心して血漿を集めた。血漿サンプルのアリコート(50もしくは100μL)を確保し、そして125Iについてカウントした。イムノリポソームを投与したラットについて、別の組の血漿サンプルを−40℃で保存し、そして分光光度計を使用してドキソルビシン濃度について後でアッセイした。血漿の残りはサイズ排除カラムを通して溶出し、そして遊離物をリポソーム結合抗体−PEG−DSPEコンジュゲートから分けた。カラムは約22mLのSepharoseCL−4Bビーズを含んだ。カラムのバッファー溶液(0.9%塩水および0.02%NaN3)は、約0.5mL/分の流速で重力により送った。
【0155】
すべてのサンプルについて、リポソーム画分に付随するscFv抗体に対応する1つの主要ピークが10〜15画分付近で観察された。リポソーム画分を越えた画分から回収された放射活性は、「遊離scFv抗体」と考えられた。すなわち血漿タンパク質に会合したか、または包含されたかもしれないミセルもしくは単量体のscFv抗体−PEG−DSPEコンジュゲート。各1mLの約40画分が集められ、そして125Iについてカウントされた。
【0156】
表Cはリポソーム画分および遊離解離画分に付随する抗体の回収濃度を示す。結果を図6A〜6Cに示す。
【0157】
【表7】
【0158】
薬物動態学的パラメーター
全血および血漿サンプルは、パッカード(Packard)のCobra5010ガンマカウンター(シリアル#401611)中で125Iの放射活性(CPM、1分あたりのカウント)についてカウントした。CPMは以下の式
% Inj.=[(観察されたCPM/mL)/((CPM/mL Inj.
×Vol.Inj)/BW)×0.065]×100
式中、Inj.:注射した;BW:体重;および0.065は動物の全血容量を見積もるために使用する(すなわち6.5%BW)、
に従い、注射した用量のパーセント(%)に転換した。血漿中の注射した用量のパーセントを算出するために、血漿容量を血液容量の60%(0.6)と予想した。
【0159】
血液および血漿中の125Iの排除半減期(T1/2β)は、以下のように算出した:
T1/2β=ln(2)/Kel
ここでln(2)=0.693、そしてKel(排除定数)=(ln(C1)−ln(C2))/|T1−T2|、ここでC1およびC2はT1およびT2の時点での注射用量の平均パーセントに等しい。イムノリポソームを投与されたラットついては、T1およびT2はそれぞれ8時間および96時間であり、一方、scFv−PEG−DSPEコンジュゲートを投与したラットについては、T1およびT2はそれぞれ5分および8時間であった。
【0160】
さらに血漿ドキソルビシン濃度は、分光光度計を使用して測定された。薬物動態学的パラメーター、例えば曲線下の面積(AUC)、分布の定常状態容量(Vss)、クリアランス(CLt)および半減期は、WINNONLIN Noncompartmental Analysis Program Version4.1を使用して算出された。
【0161】
生データは表Dに示す。薬物動態学的パラメーターは表2および図7A〜7Bに示す。
【0162】
【表8】
【0163】
実施例6
マウスへのイムノリポソームのインビボ投与
PEGのコーティングを有するリポソーム、およびリポソームあたり15、75、150および300のscFv抗体を有するイムノリポソームは、実施例1に記載するように調製した。製剤は表Eにまとめる。
【0164】
【表9】
【0165】
115匹(投与群あたり21匹×5投与群に、さらに10匹を加えて115)のメスICRマウスは、チャールズリバーから得た。動物は通例のプラスチック底のケージに、12時間/12時間の明/暗の照明サイクルのスケジュール下で収容し、食料と水を自由に与えた。動物は実験を開始する前に少なくとも1週間、研究室の条件に慣らした。
【0166】
投与の日を0日と考えた。使用したすべてのマウスに、対照の単回ボーラス注射、または上記のイムノリポソーム試験製剤の1つを外側の尾の静脈を介して投与した。投与容量は各個別の動物について算出し、そして0.24〜0.33mLの範囲であった。マウスは注射前に齧歯類用のホットボックス中で暖められた。対照リポソームおよび15:1および300;1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスは、約2.0mg/kgで投与された。75:1および150:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスは、それぞれ約2.40および1.65mg/kgで投与された。
【0167】
血液サンプル(各〜1mL)は、製剤あたり各時点(5分、4、8、24、48、72および96時間)について3匹のマウスから集めた。血液サンプルは肝臓の門脈を介して吸入麻酔(酸素/イソフルラン)下でヘパリンをコートしたシリンジに集め、そして直ちにポリプロピレンエッペンドルフ管に移した。次いで血液サンプルは、約2500CPM(〜750xg)にて10分間、3〜8℃での遠心まで、ウェットアイス上で保存した。血漿サンプルを集め、そして−40℃で保管した。血漿サンプルおよび投与溶液は、LC/MS分析により全ドキソルビシンについてアッセイされた。
【0168】
平均血漿ドキソルビシン濃度は時間に対してプロットし(図9)、そして薬物動態学的パラメーターを算出するために使用した。血漿濃度はすべて個別の動物に由来するので、薬物動態学的パラメーターは、平均血漿ドキソルビシンHCl濃度を使用して算出し、したがって薬物動態学的パラメーターについて標準偏差は存在しない。薬物動態学的パラメーターは、WINNONLIN Version4.0(ファルサイト(Pahrsight)社、マウンテンビュー、カリフォルニア州)を使用して算出した。薬物動態学的パラメーターを表3に示す。
【0169】
実施例7
インビボ効力
PEGのコーティングを有するリポソーム、およびリポソームあたり15、75、150および300のscFv抗体を有するイムノリポソームを、実施例1に記載したように調製した。
【0170】
約4〜5週齢のメスのNCR.nu/nuホモ接合体マウス(チャールズリバーラボラトリー、ホリスター、カリフォルニア州)を、得るために使用した。平均体重は約25gであった。動物は隔離ケージに12時間の明および暗サイクルで維持した。食料と水は自由に与えた。
【0171】
BT−474ヒト胸部細胞はインビトロ培養(10μg/mLのウシ インスリン、300mg/mLのL−グルタミンおよび10%のウシ胎児血清を補充したのRPMI1640培地)で、37℃にて加湿した5%CO2インキュベーター中に維持した。対数期の乳癌細胞をシリプシン処理し、そして細胞培養フラスコから回収して、16×107細胞/mLの最終濃度を得た。各マウスの首領域の後ろに皮下注射を行った(0.1mL中に16×106細胞)。腫瘍形成性を上げるために、腫瘍細胞の接種2、3日前、各マウスにエストラジオールペレット(0.72mgの17βエストラジオール、イノベイティブ リサーチ オブ アメリカ(Innovative Research of America)、サラソータ、フロリダ州)も皮下に移植した。処置は、平均腫瘍容積が約80mm3に達した時、腫瘍細胞の接種から23日後に開始した。
【0172】
5匹の動物を各処置群に割り当てた。種々の抗体:リポソーム比を含むイムノリポソーム製剤を適切に希釈し、そして約0.2mLの容量で、真鍮のレストレイナー中で暖められて(40℃)拘束されているマウスの側方の尾の静脈に静脈内投与した。各注射の直前に、マウスは加熱光バルブを備えた十分に換気したアクリル製の箱の中で暖めておいた。対照リポソーム(Doxil(商標))での処置も含め、そして陽性対照とした。塩水で処置した動物は陰性対照とした。処置群に使用したドキソルビシン用量は、1週間につき(qw)約4mg/kgであり、そして処置を2週間続行した。
【0173】
動物の体重を1週間に2回測定して、薬物の毒性を評価した。動物は体重の損失>15%起こった時、または異常な事態が発生した場合、実験から除き、そして安楽死させた。臨床的所見には、行動、ケージ内での活動、脱水、および疼痛もしくは疲労の兆候を含んだ。すべての臨床的所見は、実験のフォルダーに記録された。実験期間の終わりに、すべての動物は安楽死のAVMAパネル(1993)に従い、100%の二酸化炭素の吸入により安楽死させた。
【0174】
腫瘍は、38日まで1週間に2回、3つの寸法で測定した。腫瘍容積は式:
V=1/2×D1×D2×D3;
式中、D1−3はミリメートル(mm)で測定された垂直方向の直径である、
に従い算出した。
【0175】
腫瘍がその初期容積の4倍に増殖する(4×)ために必要な時間と定められる腫瘍容積の4倍化時間(TVQT)を(処置の時点で)、実験の終点として使用した。TVQTは各処置群について決定し、そして平均±標準誤差(SE)として日で表す。
【0176】
種々の処置群間における腫瘍の増殖における遅れの統計的分析は、スチューデント検定により行った。
【0177】
結果を図10A〜10Bに示し、そして表Fにまとめる。
【0178】
【表10】
【0179】
実施例8
インビボ用量範囲実験
およそ4〜5週齢のメスの無胸腺nu/nuマウス(ハーランラボラトリー(Harlan Laboratories)、インディアナ州)をこの実験に使用した。平均体重は約20gであった。動物を隔離ケージに12時間の明−および−暗サイクルで維持した。食料と水は自由に与えた。
【0180】
BT−474ヒト胸部細胞をインビトロ培養(10μg/mLのウシ インスリン、300mg/mLのL−グルタミンおよび10%のウシ胎児血清を補充したのRPMI1640培地)で37℃にて加湿した5%CO2インキュベーター中で維持した。対数期の乳癌細胞をシリプシン処理し、そして細胞培養フラスコから回収して、15×107細胞/mLの最終濃度を得た。各マウスの首領域の後ろに皮下注射を行った(0.2mL中に30×106細胞)。腫瘍形成性を上げるために、腫瘍細胞の接種2、3日前に各マウスにエストラジオールペレット(0.72mgの17βエストラジオール、イノベイティブ リサーチ オブ アメリカも皮下に移植した。処置は、すべての処置群について平均腫瘍容積が約106〜126mm3の範囲になった時、腫瘍細胞の接種から17日後に開始した。
【0181】
処置群を表Gにまとめる。7匹の動物を各処置群に割り当てた。リポソームおよびイムノリポソーム製剤は、約0.2mLの容量で、真鍮のレストレイナー中で暖められて(40℃)拘束されているマウスの側方の尾の静脈に静脈内投与(IV)した。各注射の直前に、マウスは加熱光バルブを備えた十分に換気したアクリル製の箱の中で暖めておいた。リポソーム製剤およびイムノリポソーム製剤に使用したドキソルビシン用量は、2、3または4mg/kgであった。すべての処置は、1週間に1回、3週間続行した。
【0182】
【表11】
【0183】
腫瘍は、49日まで1週間に2回、3つの寸法を測定した。腫瘍容積は式:
V=1/2×D1×D2×D3;
式中、D1−3はミリメートル(mm)で測定された垂直方向のの直径である、
に従い算出した。
【0184】
腫瘍がその初期容積の3倍に増殖する(3×)ために必要な時間と定められる腫瘍容積の3倍化時間(TVTT)を(処置の時点で)、実験の終点と使用した。腫瘍容積の3倍化時間は各処置群について決定し、そして平均±標準誤差(SE)として日で表す。動物の体重は1週間に2回測定し、薬剤の毒性を評価した。
【0185】
種々の処置群間における腫瘍の増殖における遅れの統計的分析は、スチューデント検定により行った。結果を図11に示す。
【0186】
実施例9
インビトロ薬物動態学的および毒性試験
3〜8年齢で、体重が2.5〜4.5kgの38匹のナイーブなカニクイザル(Macaca fascicularis)を、1群に3匹のオスおよび3匹のメスを含む6つの処置群に無作為に割り当て、表Hにまとめた。
【0187】
【表12】
【0188】
平均して15の単鎖抗−HER2抗体を有するイムノリポソームを上のように調製した。1日目に、動物には単回のゆっくりした静脈内注射(〜1mL/分)を末梢静脈に与え、そして投与後28日間、監視した。臨床的所見および食料摂取の監視は、少なくとも1日1回行った。体重は1週間に2回測定した。血液は血液学および血清化学分析のために投与前および1(投与から1時間後)、4、14および28日目に集めた。血液は毒物動態学的分析のために、投与前および投与が完了してから5分、1、4、8、24、48、72および96時間後に集めた。血液サンプルは血漿のドキソルビシンおよび抗体濃度について分析した。結果を図12〜14に示す。
【0189】
実施例10
インビトロ反復投与毒性実験
3〜8年齢で、体重が2.5〜4.5kgの70匹のナイーブなカニクイザル(Macaca fascicularis)を、1群に5匹のオスおよ53匹のメスを含む7つの処置群に無作為に割り当て、表Iにまとめた。
【0190】
【表13】
【0191】
HER2細胞受容体への結合親和性を有し、平均して15の単鎖抗体を有するイムノリポソームを上のように調製した。動物には4週間毎に1回、全部で6回処置するために示した用量を静脈内に与えた。血液は血液学および血清化学分析のために投与前および選択した時点に集めた。血液サンプルは血漿のドキソルビシンについて分析し、そして結果を図15A〜15Cに示す。
【0192】
多数の例示的観点および態様をこれまで検討してきたが、当業者は特定の修飾、交換、付加およびそれらの部分的組み合わせを認識するだろう。したがって添付する特許請求の範囲および今後導入する特許請求の範囲は、そのようなすべての修飾、交換、付加および部分的組み合わせが本発明の真の精神および範囲内にあることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】1A〜1Bは、脂質−ポリマー−抗体−コンジュゲートの調製に関する合成反応スキームを示し、ここでポリエチレングリコール(PEG)ビス(アミン)のDSPEカルバメートのマレイミドが形成される。
【図2】2Aは、遊離薬剤(三角)、リポソームに封入された薬剤(丸)、またはリポソームあたり2(丸)、5(四角)、7.5(菱形)もしくは15(三角)の抗体を含むイムノリポソームに封入された薬剤として投与されたドキソルビシンに10分間暴露された後に、未処理対照細胞のパーセントとしてドキソルビシン濃度の関数としてμg/mLで表される細胞の生育能を示す。 2Bは、遊離薬剤(菱形)、リポソームに封入された薬剤(三角)、またはリポソームあたり7.5(×記号)、15(★記号)、30(丸)もしくは45(四角)の抗体を含むイムノリポソームに封入された薬剤として投与されるドキソルビシンに4時間暴露された後に、未処理対照細胞のパーセントとしてドキソルビシン濃度の関数としてμg/mLで表される細胞の生育能を示す。
【図3】3A〜3Hは、ヒト血漿中でイムノリポソームのインキュベーション中に取り出したアリコートからリポソームあたり15のscFv抗体を有するイムノリポソームから、放射標識(125I)scFvの溶出プロファイルを示し、アリコートは0時間(図3A)、1時間(図3B)、4時間(図3C)、8時間(図3D)、24時間(図3E)、48時間(図3F)、72時間(図3G)および96時間(図3E)の時点で取り出した。
【図4】4Aは、インビトロのヒト血漿中、7.5:1(菱形)、15:1(四角)、30:1(丸)、45:1(三角)および90:1(★)の抗体/リポソーム比を有するイムノリポソーム製剤から125I標識scFv抗体の解離を、インキュベーション時間(時間で)の関数として示す。 4Bは、インビトロのヒト血漿中、7.5:1(菱形)、15:1(四角)、30:1(丸)、45:1(三角)および90:1(★)の抗体/リポソーム比を有するイムノリポソーム中に留まる125I標識のパーセントを、インキュベーション時間(時間で)の関数として示す。
【図5】5Aは、2つの異なる実験で(菱形、四角)インビトロのヒト血漿中、リポソームあたり15の抗体を有するイムノリポソーム製剤から解離した放射標識抗体のパーセントを、インキュベーション時間(時間で)の関数として示す。 5Bは、ヒト血漿中、リポソームあたり15の抗体を有するイムノリポソーム製剤中に留まる(菱形)およびからイムノリポソーム製剤からイムノリポソーム製剤から解離した(四角)放射標識抗体のパーセントを、インキュベーション時間(時間で)の関数として示す。
【図6】6Aは、15:1のイムノリポソーム製剤をラットに投与した後、血漿サンプルのリポソーム画分で回収される125I−標識scFv抗体のパーセントを時間(時間で)の関数として示す。 6Bは、15:1のイムノリポソーム製剤をラットに投与した後、SepharoseCL−4Bカラムで分離した後のラット血漿のリポソーム画分で回収された125I−標識scFv抗体の濃度(ng/mLで)を時間(時間で)の関数として示す。 6Cは、15:1のイムノリポソーム製剤をラットに投与した後、SepharoseCL−4Bカラムで分離した後のラット血漿の遊離または血漿画分で回収された125I−標識scFv抗体の濃度(ng/mLで)を時間(時間で)の関数として示す。
【図7】7Aは、15:1のイムノリポソーム製剤をラットに投与した後、血漿(菱形)、血液(黒四角)に残る125I−標識scFvのパーセント、および血漿(三角)中のドキソルビシンのパーセントを、時間(時間で)の関数として示す。また遊離コンジュゲートとして2mg/kgのドキソルビシン用量でラットに投与した後に、血漿(白円)および血液(白四角)中の125I−標識scFv抗体のパーセントも時間(時間で)の関数として示す。 7Bは、15:1のイムノリポソーム製剤を2mg/kgの用量でラットに投与した後、ドキソルビシンの血漿濃度を(μg/mLで)時間(時間で)の関数として示す。
【図8】15:1のイムノリポソーム製剤をラットに投与した後、時間(時間で)の関数として血中ドキソルビシンに対する125I−標識scFv抗体比のプロットである。
【図9】ドキソルビシンを含有するペグ化リポソーム(菱形)またはリポソームあたり15(四角)、75(三角)、150(×)もしくは300(★)のscFv抗体を含有するイムノリポソームのインビボ投与後に、時間(時間で)の関数として血漿ドキソルビシン濃度(μg/mLで)のプロットである。
【図10】10A〜10Bは、初期の腫瘍サイズに対するパーセントでの腫瘍容積(図10A)、ならびに胸部腫瘍外植片を持ち、そして塩水(白丸)、ドキソルビシンを含有するペグ化リポソーム(白四角)またはリポソームあたり7.5(菱形)、15(三角)、30(黒四角)もしくは45(黒丸)のscFv抗体を含有するイムノリポソームで処置したマウスの体重の変化のパーセント(図10B)を示す。
【図11】胸部腫瘍外植片を持ち、そして塩水(白丸)、ドキソルビシンを2mg/kg(白四角)および3mg/kg(白菱形)の投薬用量で含有するペグ化リポソーム、または2mg/kg(黒四角)、3mg/kg(黒菱形)もしくは4mg/kg(黒三角)の投薬用量の15:1のイムノリポソーム製剤で処置したマウスを対象とした、初期の腫瘍容積のパーセントとして取った相対的腫瘍容積の時間(日で)の関数としてのプロットである。
【図12】リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入された(丸)、またはペグ化リポソームに封入された(四角)ドキソルビシン(10mg/mL)のサルへの静脈内投与後、時間(時間で)の関数としての血漿ドキソルビシン濃度(ng/mL)のグラフである。
【図13】13Aは、リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシンのサルへの静脈内投与後、時間(時間で)の関数としての血漿中のドキソルビシン濃度(ng/mL)のグラフであり、ドキソルビシンは1mg/kg(丸)、5mg/kg(四角)および10mg/kg(三角)の投薬用量で投与された。 13Bは、リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシンのサルへの静脈内投与後、時間(時間で)の関数としての血漿中の抗体濃度(ng/mL)のグラフであり、イムノリポソームは1mg/kg(丸)、5mg/kg(四角)および10mg/kg(三角)のドキソルビシン投薬用量で投与された。
【図14】14Aは、リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシンのサルへの投与後、時間(時間で)の関数としての血漿中の抗体/ドキソルビシン比(ng/μg)のプロットであり、イムノリポソームは1mg/kg(菱形)、5mg/kg(四角)および10mg/kg(三角)のドキソルビシン投薬用量で投与された。 14Bは、リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシンのサルへの投与後、時間(時間で)の関数として、初期の抗体/ドキソルビシン比に対して標準化された血漿中のscFv抗体/ドキソルビシン濃度の比のプロットであり、イムノリポソームは1mg/kg(菱形)、5mg/kg(四角)および10mg/kg(三角)のドキソルビシン投薬用量で投与された。
【図15】15Aは、リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシンのサルへの投与後、時間(時間で)の関数としてのドキソルビシン濃度(ng/mL)のプロットであり、イムノリポソームは0.5mg/kg(四角)、2mg/kg(三角)および4mg/kg(逆三角)のドキソルビシン投薬用量で投与された。 15Bは、リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシンのサルへの投与後、時間(時間で)の関数としてのドキソルビシン濃度(ng/mL)のプロットであり、イムノリポソームは4mg/kgのドキソルビシン投薬用量で、6カ月間にわたり6回投与され、データは第1回(逆三角)および6回目(四角)の投与に対応する。 15Cは、ペグ化リポソーム中に封入された遊離形の4mg/kgドキソルビシン(三角)(DOXIL(商標);四角)、またはリポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシン(逆三角)のサルへの投与後、時間(時間で)の関数としてのドキソルビシン濃度(ng/mL)のプロットである。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A−3H】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本主題は、リポソーム組成物に関する。より詳細には本主題はリポソームに封入された薬剤を細胞に送達するための特異的な細胞受容体を標的とするリポソームに関する。
【背景技術】
【0002】
背景
リポソームは、水性相をカプセル化する同心的に並べられた脂質二重層を含んでなる球形小胞である。リポソームは水性相もしくは脂質二重層に含まれる治療薬用の送達媒体として役立つ。リポソームに封入された形態での薬剤の送達は、薬剤に依存して例えば低下した薬剤毒性、改変された薬物動態学または改善された薬剤の溶解性を初めとする様々な利点を提供することができる。疎水性ポリマー鎖、いわゆるStealth(商標)の表面コーティングを含むように製剤された時のリポソーム、または長期循環リポソームは、一部は単核食細胞系によるリポソームの除去の減少により、長期の血液循環寿命といったさらなる利点をさらに提供する。リポソームはそれらの所望する標的領域に、または注入部位から細胞に到達するために、しばしば延長された寿命が必要である。
【0003】
標的化リポソームは、リポソームの表面に結合した標的化リガンドもしくは親和性部分を有する。標的化リガンドは抗体もしくはそのフラグメントでよく、この場合、リポソームはイムノリポソームと呼ばれる。全身的に投与される場合、標的化リポソームは封入された治療薬を標的組織、領域または細胞に送達する。標的化リポソームは特異的領域または細胞に向けられているので、健康な組織は治療薬に暴露されない。そのような標的化リガンドは、標的化リガンドをリポソーム脂質成分の極性ヘッド残基に共有結合することによりリポソームの表面に直接結合させることができる(例えば特許文献1を参照にされたい)。しかしこの取り組みは、ポリマー鎖が標的化リガンドとその意図する標的との間の相互作用を妨害するので、主に表面に結合したポリマー鎖が無いリポソームに適している(非特許文献1;非特許文献2)。
【0004】
あるいは標的化リガンドはポリマー鎖の遊離末端に結合されて、リポソーム上に表面コートを形成することができる(非特許文献3;非特許文献4)。この取り組みでは、標的化リガンドは露出し、そして意図する標的と直ちに相互反応することが可能である。
【0005】
HER2(c−erbB2、neu)原がん遺伝子およびp185HER2(これは増殖因子受容体−チロシンキナーゼをコードする)は、多くのヒトのガンの病因に役割を果たしているようである。p185HER2の過剰発現は、乳癌の20〜30%で起こり、そしてこれらの患者の良くない予後を予測する(非特許文献5)。
【0006】
p185HER2受容体が存在する場合、p185HER2の過剰発現は一般に原発性の乳癌腫で均一に起こり、特定の正常上皮細胞では低レベルでしか発現しないので、p185HER2受容体は抗体に基づく治療に魅力的な標的となる。マウス抗p185HER2モノクローナル抗体、muAb4D5およびこの抗体のヒト化変更体が開発された(非特許文献6;特許文献2)。またp185HER2に結合する様々な抗体も記載された(特許文献3)。
【0007】
HER2受容体に特異的な抗体を持つリポソームが報告された(非特許文献5;非特許文献7;非特許文献8;特許文献4)。細胞性の結合の程度についてリポソームあたりの抗体の数、すなわち抗体密度と、取り込みとの間の明らかな関係が開示されている(非特許文献8)。その実験結果は、リポソーム表面上の抗体密度を0から30に変動させることに対応して細胞性の取り込みが上昇し、これはリポソームあたり30の抗体で最大に達することを示す。抗HER2抗体の数をリポソームあたり30から100に上げることは、リポソームの細胞性の取り込みを増加させなかった。
【0008】
ガン処置の効力は、健康な細胞にできるかぎり影響を及ぼさずに、ガン細胞を標的とし、そして殺す処置の能力に直接的に関連する。薬剤を腫瘍細胞に特異的に標的化する概念は広く検討されてきたが、特定のガン細胞に高度に選択的であり、そしてそのような特定のガン細胞への最適なインビボ結合が設計された製剤の必要性が存在する。
【0009】
関連技術の前記例およびそれに関連する限定は、具体的説明であり、そして排除しないことを意図する。関連する技術の他の限定は、明細書を読み、そして図面の論考から当業者には明らかとなるだろう。
【参考文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,013,556号明細書
【特許文献2】米国特許第5,677,171号明細書
【特許文献3】国際公開第99/55367号パンフレット
【特許文献4】米国特許第6,214,388号明細書
【非特許文献1】Klibanov,A.L.,et al.,Biochim.Biophys.Acta,1062:142−148,1991
【非特許文献2】Hansen,C.B.et al.,Biochim.Biophys.Acta,1239:133−144,1995
【非特許文献3】Allen.T.M.et al.,Biochim.Biophys.Acta,1237:99−108,1995
【非特許文献4】Blume,G.et al.,Biochim.Biophys.Acta,1149:180−184,1993
【非特許文献5】Park,J.W.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92:1327,1995
【非特許文献6】Carter,P.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4285,1992
【非特許文献7】Park,J.W.et al.,J.Controlled Release,74:95,2001
【非特許文献8】Nielsen,U.B.et al.,Biochim.Biophys.Acta,1591:109,2002
【発明の開示】
【0011】
簡単な要約
1つの観点では、組成物が記載され、該組成物は(i)小胞形成脂質;(ii)リポポリマー;(iii)疎水性部分親水性ポリマーを含んでなる抗HER2受容体抗体コンジュゲート;ならびに(iv)封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる組成物が記載される。コンジュゲートの量はリポソームあたり平均して約2より多い抗体、そして平均してリポソームあたり約25未満の抗体を提供するために有効な量で存在する。
【0012】
1つの態様では、抗体は5,000〜50,000ダルトンの間、より好ましくは10,000〜50,000ダルトンの間、さらに一層好ましくは10,000〜30,000の間の分子量を有する。別の態様では、抗体は100,000ダルトン未満、より好ましくは約35,000ダルトン未満、そしてさらにより一層好ましくは30,000ダルトン未満の分子量を有する。
【0013】
別の態様では、抗体は配列番号2と少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する。
【0014】
別の態様では、親水性ポリマーが750〜5000ダルトンの間の分子量を有するポリエチレングリコールである。
【0015】
別の態様では、封入された薬剤が細胞傷害性薬剤である。さらに別の態様では、封入された薬剤は抗腫瘍薬である。封入される薬剤の例は、ドキソルビシンのようなアントラサイクリンである。
【0016】
別の態様では、コンジュゲートの量がインビボ投与から48時間後に平均してリポソームあたり約20未満の抗体を提供する。
【0017】
別の観点では、イムノリポソーム製剤が提供され、この製剤は(i)少なくとも1つの硬質な小胞形成脂質;(ii)疎水性部分およびポリエチレングリコールを含んでなるリポポリマー;(iii)疎水性部分、ポリエチレングリコールおよび配列番号2に少なくとも80%の同一性を有する抗Her2受容体の単鎖抗体を含んでなるコンジュゲート;ならびに(iv)抗腫瘍活性を有する封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる。リポソームはインビボ投与から96時間後に、リポソームあたり約2より多く、そして約15未満の抗体を提供するために有効な量のコンジュゲートにより特徴づけられる。
【0018】
1つの態様では、硬質な小胞形成脂質が水素化ダイズホスファチジルコリンである。
【0019】
別の態様では、リポソームがさらにコレステロールを含んでなる。
【0020】
さらに別の観点ではイムノリポソーム製剤が記載され、この製剤は(i)少なくとも1つの硬質な小胞形成脂質;(ii)疎水性部分およびポリエチレングリコールを含んでなるリポポリマー;(iii)疎水性部分、ポリエチレングリコールおよび配列番号2の同一性を有する抗Her2受容体単鎖抗体を含んでなるコンジュゲート;ならびに(iv)抗腫瘍活性を有する封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる。このイムノリポソーム製剤はインビボで投与された時、類似の成分を含んでなるが抗体を含まないリポソームの曲線下の面積よりも25%を越えて、またはせいぜい25%低い曲線下の面積を提供する。
【0021】
1つの態様では、コンジュゲートの量が、インビボ投与から48時間後に、平均してリポソームあたり約20未満の抗体を提供する。別の態様では、コンジュゲートの量がインビボ投与から96時間後に、平均してリポソームあたり約15未満の抗体を提供する。
【0022】
さらに別の態様では、コンジュゲートの量が、インビボ投与から48時間後に、平均してリポソームあたり約2より多くの抗体を、そしてインビボ投与から48時間後に、平均してリポソームあたり約20未満の抗体を提供する。
【0023】
さらに別の観点では、イムノリポソーム製剤が記載され、ここで製剤は(i)少なくとも1つの硬質な小胞形成脂質;(ii)場合により、疎水性部分およびポリエチレングリコールを含んでなるリポポリマー;(iii)疎水性部分、ポリエチレングリコールおよび配列番号2に少なくとも80%の同一性を有する抗Her2受容体の単鎖抗体を含んでなるコンジュゲート;ならびに(iv)抗腫瘍活性を有する封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる。組成物はイムノリポソームの投与から96時間後に、30〜60%の間の抗体が各リポソームから解離して組成物を提供し、インビボ投与から96時間後、それはリポソームあたり約25未満の抗体を有することを特徴とする。
【0024】
さらに別の観点では、特定の工程に従い調製されるリポソーム組成物が記載され、この工程は、(a)場合により親水性ポリマー鎖の外側コーティングおよび/または封入された薬剤を有するリポソームを準備し;(b)該リポソームを、疎水性部分、ポリエチレングリコールおよび配列番号2に少なくとも80%の同一性を有する抗Her2受容体の単鎖抗体を含んでなるある量のコンジュゲートとインキュベーションすることを含んでなり;そしてコンジュゲートの該量が(i)インビボ投与から96時間後に平均してリポソームあたり2より多い抗体;(ii)平均してリポソームあたり150未満の抗体;および/または(iii)インビボ投与から96時間後に平均してリポソームあたり約15未満の抗体を提供するように選択されることを含んでなる。
【0025】
1つの態様では、該コンジュゲートの量が平均してリポソームあたり12以下、あるいは10以下、あるいは8以下の抗体を提供する。
【0026】
別の観点では組成物が記載され、組成物は上記のようなリポソームを含んでなるが、インビボ投与前のリポソームはリポソームあたり25未満の抗体を有し、そしてインビボ投与後、リポソームは抗体の約20〜50%の間を失う場合、それでも細胞傷害性に十分なHer−2受容体に対する結合を保持する。
【0027】
さらに別の観点では、イムノリポソーム組成物を調製する方法が提供される。この方法は(i)小胞形成脂質;(ii)場合によりリポポリマー;(iii)疎水性部分、親水性ポリマー、およびHer2受容体の細胞外ドメインのような標的に結合親和性を有する抗体を含んでなるコンジュゲート;ならびに(iv)封入された薬剤を含んでなるイムノリポソームを提供することを含んでなる。該コンジュゲートはリポソームあたり第1の選択された数の抗体を提供するために十分な第1の量で組成物に含まれる。リポソームはインビトロもしくはインビボで血液と接触させるように導入され、そしてリポソームと血液とを接触させた1以上の時点で、リポソームあたりの抗体の数を、例えばクロマトグラフィーのような適切な分析技術により測定する。血液と接触した後の第1の選択した時点での抗体数の測定に基づき、血液と接触した後のそのような時点でのリポソームあたり少なくとも2つの抗体を提供するために、リポソームあたり第2のより多い数の抗体を提供するために十分なコンジュゲートの第2の量が選択される。
【0028】
1つの態様では、この方法にはリポソームあたり50未満の抗体を提供するために有効なコンジュゲートの第2の量を選択することを含む。別の態様では、リポソームあたり30以下の抗体を提供するために有効なコンジュゲートの第2の量が選択される。
【0029】
別の態様では、この方法はリポソームあたり150未満の抗体、より好ましくはリポソームあたり100以下の抗体、そしてさらに一層好ましくはリポソームあたり75以下の抗体を提供するコンジュゲートの第1の量を有するリポソームを提供することを含む。
【0030】
上に記載する例示的観点および態様に加えて、さらなる観点および態様が図面および以下の説明を論考することにより明白となるだろう。
【0031】
配列の簡単な説明
配列番号1は、本明細書においてHER2受容体およびp185HER2受容体とも呼ぶc−drb−B2受容体の細胞外ドメインに結合親和性を有する抗体のヌクレオチド配列である。
【0032】
配列番号2は、HER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する能力を有するF5と命名された単鎖抗体(scFv)のアミノ酸配列である。
【0033】
詳細な説明
I.定義
他に記載しない限り、用語「小胞形成脂質」は、安定なミセルまたはリポソーム組成物の一部を形成することができ、そして典型的には1もしくは2の疎水性炭化水素鎖またはステロイド基を含むことができる任意の脂質を指し、そしてアミン、酸、エステル、アルデヒドもしくはアルコールのような化学的に反応性の基をその極性ヘッド基に含むことができる。
【0034】
本明細書で使用する用語「抗体」には、全抗体およびその任意の抗原結合フラグメントもしくは単鎖を含む。すなわち抗体には限定するわけではないが、重もしくは軽鎖の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)またはそのリガンド結合部分、重鎖もしくは軽鎖可変領域、重鎖もしくは軽鎖定常領域、フレイムワーク(FR)領域、またはその任意の部分、あるいは結合タンパク質の少なくとも1つの部分のような免疫グロブリン分子の少なくとも一部を含んでなる分子を含有する任意のタンパク質またはペプチドを含む。
【0035】
さらに用語「抗体」は、抗体ミメティックスを含むか、あるいは単鎖抗体およびそのフラグメントを含む抗体もしくは特異的フラグメントもしくはその部分の構造および/または機能り模する抗体のドメインを含んでなる抗体消化フラグメント、その特異的部分およびバリアントを包含することを意図する。機能的フラグメントには、増殖因子受容体である哺乳動物のHER2タンパク質に結合する抗原結合フラグメントを含む。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合フラグメントの例には、(i)Fabフラグメント、VL、VH、CLおよびCHドメインからなる単価フラグメント;(ii)F(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド結合により連結された2つのFabフラグメントを含んでなる二価のフラグメント;(iii)VHおよびCHドメインからなるFdフラグメント;(iv)抗体の単腕のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント、(v)VHドメインからなるdAbフラグメント(Ward et al.,Nature,341:544−546(1989));および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)を含む。さらにFvフラグメントの2つのドメイン、VLおよびVHは別個の遺伝子によりコードされるが、それらは組換え法を使用して、それらをVLおよびVH領域が対合して単価の分子を形成する1つのタンパク質鎖とすることができる合成リンカーにより連結することができる(単鎖Fv(scFv)として知られている;例えばBird et al.Science,242:423−426(1988)、Huston et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:5879−5883(1988)を参照にされたい)。そのような単鎖抗体も、用語抗体の中に包含されることを意図する。これらの抗体は当業者に知られている通常の技法を使用して得られ、そしてフラグメントは完全な抗体と同じ様式で使用のためにスクリーニングされる。
【0036】
そのようなフラグメントは、当該技術分野で知られ、かつ/または本明細書に記載する酵素的分解、合成または組換え技法により生産することができる。また抗体は、1もしくは複数の終止コドンが自然な終止コドンの上流に導入された抗体遺伝子を使用して種々の短縮化形態で生産することもできる。例えば、F(ab’)2重鎖部分をコードする組み合わせ遺伝子は、重鎖のCH1ドメインおよび/またはヒンジ領域をコードするDNA配列を含むように設計することができる。抗体の種々の部分が通例の技術により化学的に一緒に連結されることができ、あるいは遺伝子工学的技術を使用して連続するタンパク質として調製することができる。
【0037】
「HER2受容体」および「p185HER2」は、HER2またはERRB2遺伝子(v−erb−b2、赤芽球白血病ウイルスガン遺伝子ホモログ2)によりコードされるタンパク質を意味し、そしてまたニューロ/グリア芽腫由来ガン遺伝子ホモログとも呼ばれる:鳥類赤芽球白血病ウイルス(v−erb−b2)ガン遺伝子ホモログ2;v−erb−b2鳥類赤芽球白血病ウイルスガン遺伝子ホモログ2(ニューロ/グリア芽腫由来ガン遺伝子ホモログ)によりコードされるタンパク質とも呼ばれる。HER2/ERRB2遺伝子は、受容体チロシンキナーゼの上皮増殖因子(EGF)受容体ファミリーのメンバーをコードする。HER2のコード配列は、翻訳産物がNP 004439により与えられる参照配列NM 004448により与えられる。HER2受容体は、それ自体のリガンド結合ドメインを持たず、したがって増殖因子に結合することができない。しかしHER2受容体は他のリガンド結合EGF受容体ファミリーのメンバーと強固に結合して、ヘテロ二量体を形成し、リガンド結合を安定化し、そしてマイトジェン活性化タンパク質キナーゼおよびホスファチジルイノシトール−3キナーゼが関与するもののようなキナーゼが媒介する下流のシグナリング経路の活性化を強化する。アミノ酸654位および655位の対立遺伝子バリアントのアイソフォームa(624位および625位のアイソフォームb)が報告され、最も多い対立遺伝子はIle654/Ile655であった。選択的スプライシングは、さらに数種の転写バリアントをもたらし、幾つかは異なるアイソフォームをコードする。すべての対立遺伝子およびスプライスバリアントは、「HER2受容体」の意味に含まれる。
【0038】
「インターナライズ(internalizing)される抗体」とは、受容体または細胞表面上の他のリガンドに結合した時、細胞、例えばリゾチームもしくは他のオルガネラもしくは細胞質に輸送される抗体である。
【0039】
用語「単離された」とは、自然な状態で見いだされた時、通常それに付随する成分を実質的に、または本質的に含まない物質を指す。
【0040】
2以上の核酸またはポリペプチド配列の内容において、用語「同一」または「同一性」のパーセントまたは「相同性」のパーセントとは、2以上の配列もしくは部分配列(subsequence)が、最大に対応するように比較そして並べられた時に、視覚による調査により、またはコンピューターアルゴリズムを使用して測定されるような同じであるか、あるいは同じであるアミノ酸残基もしくはヌクレオチドの具体的割合を有する2以上の配列もしくは部分配列を指す。
【0041】
本明細書で使用するように、抗体の「親和性」という用語は、予め定めた抗原に関する抗体の解離定数、KDを指す。高い親和性抗体は、予め定めた抗原に対して10−8M以下、より好ましくは10−9M以下、そしてさらに一層好ましくは10−10M以下のKDを有する。本明細書で使用する用語「Kdis」または「KD」または「Kd」は、特定の抗体−抗原相互作用の解離速度を指すものとする。「KD」は、解離速度(k1)すなわち「オン−レイト(kon)」に対する解離速度(k2)(「オフ−レイト(koff)」とも呼ばれる)の比である。このようにKDはk2/k1またはkoff/konに等しく、そしてモル濃度(M)で表される。これはKDが小さいほど、強い結合となる。したがって10−6M(または1μM)のKDは、10−9M(または1nM)に比べて弱い結合を示す。
【0042】
「抗原を認識する抗体」および「抗原に特異的な抗体」は、本明細書では「抗原に特異的に結合する抗体」という用語と互換的に使用される。本明細書で使用する「特異的結合」および「特異的に結合する」とは、他の抗原またはタンパク質よりも大きい親和性で予め定めた抗原に結合する抗体を指す。典型的には、抗体は10−6M以下の解離定数(KD)で結合し、そして予め定めた抗原以外の非特異的抗原(例えばBSA、カゼインまたは任意の他の特定したポリペプチド)に結合するKDよりも少なくとも2倍低いKDで、予め定めた抗原と結合する。「抗原を認識する抗体」および「抗原に特異的な抗体」という句は、本明細書では「抗原に特異的に結合する抗体」という用語と互換的に使用される。
【0043】
本明細書に開示し、そして特許請求するように、配列番号2に説明する配列には「保存的配列の修飾」、すなわちヌクレオチド配列によりコードされる、またはアミノ酸配列を含む抗体の結合特性に有意に影響を及ぼさず、または改変しないヌクレオチドおよびアミノ酸配列の修飾を含む。そのような保存的配列の修飾には、ヌクレオチドおよびアミノ酸置換、付加および欠失がある。修飾は、位置指定突然変異誘発法およびPCR媒介型の突然変異誘発法のような当該技術分野で知られている標準的技法により、配列番号2に導入することができる。保存的アミノ酸置換には、アミノ酸残基が類似の側鎖を有するアミノ酸残基に置き換えられたものを含む。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当該技術分野で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を持つアミノ酸(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、ベータ分枝側鎖(例えばトレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含む。
【0044】
II.リポソーム組成物
1つの観点では、本発明は標的化リガンドとして増殖因子受容体HER2に結合特異性を有する抗体を含むリポソームを含んでなるリポソーム組成物に関する。HER2標的化リガンドは、本明細書では脂質−ポリマー−リガンドコンジュゲートとも呼ぶ脂質−ポリマー抗体コンジュゲートの状態でリポソームに包含される。以下に記載するように、抗体はHER2受容体の外部ドメインに特異的親和性を有し、そしてHER2受容体を発現する細胞にリポソームを標的化する。以下の章ではリポソームの脂質および治療薬を含むリポソーム成分、HER2標的化リガンドを持つリポソームの調製、および障害の処置のためのリポソーム組成物の使用法を記載する。
【0045】
A.リポソーム脂質成分
本発明の組成物の使用に適するリポソームには、主に小胞形成脂質を含んでなるものを含む。そのような小胞形成脂質は、内部の二重層膜の疎水性領域と接触する疎水性部分、および外部の膜の極性表面に向かうヘッド基部分を持つリン脂質に例示されるような自然に水中で二重層小胞を形成することができるものである。コレステロールおよびその種々の類似体のような脂質二重層に安定に包含され得る脂質も、リポソームに使用することができる。
【0046】
小胞形成脂質は、2つの炭化水素鎖、典型的にはアシル鎖、および極性または非極性のいずれかのヘッド基を有する脂質が好ましい。2つの炭化水素鎖が典型的には約14〜22個の間の炭素原子長であり、そして異なる程度の不飽和度(unsaturation)を有する、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトールおよびスフィンゴミエリンのような、様々な合成の小胞形成脂質およびリン脂質を含む自然に存在する小胞形成脂質がある。炭素鎖が異なる程度の飽和度を有する上記脂質およびリン脂質は市販されているか、または公開されている方法にしたがい調製することができる。他の適切な脂質には糖脂質、セレブロシドおよびコレステロールのようなステロールを含む。
【0047】
またカチオン性脂質も本発明のリポソームに使用するために適しており、ここでカチオン性脂質は脂質成分の微量成分として、または主要な、もしくは唯一の成分として含まれることができる。そのようなカチオン性脂質は典型的には、ステロールのような親油性部分、アシルもしくはジアシル鎖を有し、そしてそこに脂質は全体的に正味の正電荷を有する。好ましくは脂質のヘッド基は正の荷電を持つ。例示的なカチオン性脂質には、1,2−ジオレイルオキシ−3−(トリメチルアミノ)プロパン(DOTAP);N−[1−(2,3−ジテトラデシルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DMRIE);N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N−ジメチル−N−ヒドロキシエチルアンモニウムブロミド(DORIE);N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(DOTMA);3[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol);およびジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)がある。カチオン性の小胞形成脂質は、ポリリシンもしくは他のポリアミン脂質のようなカチオン性脂質で誘導化されたジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)のような中性脂質、またはリン脂質のような両親媒性脂質でもよい。例えば中性脂質(DOPE)は、ポリリシンで誘導化されてカチオン性脂質を形成することができる。
【0048】
小胞形成脂質は、特異的な程度の流動性または剛性を達成するために選択されて、記載するように血清中のリポソームの安定性を制御し、標的化コンジュゲートの挿入に効果的な条件を制御し、かつ/またはリポソームに封入された作用物質の放出速度を制御することができる。より硬質な脂質二重層、または液体結晶(liquid crystalline)二重層を有するリポソームは、比較的堅い脂質、例えば最高60℃の比較的高い相転移温度を有するような脂質を包含することにより達成される。剛性、すなわち飽和化された脂質は、脂質二重層においてより大きな膜の剛性に貢献する。コレステロールのような他の脂質成分も脂質二重層構造の膜の剛性に貢献することが知られている。
【0049】
その一方、脂質流動性は比較的流動性の脂質、典型的には例えば室温以下の比較的低い液体から液体−結晶相転移温度を持つ脂質相を有するものを包含することにより達成される。
【0050】
またリポソームは、本明細書で「リポポリマー」とも呼ばれる親水性ポリマーに共有結合した小胞形成脂質を含む。例えば米国特許第5,013,556号明細書に記載されているように、リポソーム組成物にそのようなポリマー誘導化脂質を含むことは、リポソームの回りに親水性ポリマー鎖の表面コーティングを形成する。親水性ポリマー鎖の表面コーティングは、そのようなコーティングが無いリポソームと比べた時、リポソームのインビボ血液循環寿命を上げるために効果的である。
【0051】
親水性ポリマーでの誘導化に適する小胞形成脂質には、上に挙げた任意の脂質、そして特にジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)のようなリン脂質を含む。
【0052】
小胞形成脂質での誘導化に適する親水性ポリマーには、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメチルアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリアスパルタミドおよび親水性ペプチド配列がある。ポリマーはポモポリマーとして、またはブロックもしくはランダムコポリマーとして使用することができる。
【0053】
好適な親水性ポリマー鎖は、ポリエチレングリコール(PEG)、好ましくはPEG鎖として500〜10,000ダルトンの間の、より好ましくは750〜10,000ダルトンの間の、さらにより好ましくは750〜5000ダルトンの間の分子量を有するポリエチレングリコールである。PEGのメトキシもしくはエトキシ−キャップ化類似体も好適な親水性ポリマーであり、例えば120〜20,000ダルトンの様々なポリマーサイズで市販されている。
親水性ポリマーで誘導化された小胞形成脂質の調製は、例えば米国特許第5,395,619号明細書に記載された。そのような誘導化脂質を含むリポソームの調製も記載され、典型的には1〜20モルパーセントの間のそのような誘導化脂質がリポソーム製剤に含まれる(例えば米国特許第5,013,556号明細書を参照にされたい)。
【0054】
B.標的化抗体
またリポソーム組成物は、脂質粒子を細胞に標的化する抗体を含む。1つの態様では、抗体は腫瘍由来細胞の表面上のHER2受容体に特異的に結合する。別の態様では、抗体は腫瘍由来細胞の表面上のHER2受容体に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメインを含んでなる。別の態様では、抗体は腫瘍由来細胞の表面上のHER2受容体に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメインを含んでなる単鎖抗体である。
【0055】
好適な態様では、本明細書に記載するリポソーム組成物中に使用する抗体は、腫瘍由来細胞の表面上のHER2受容体に特異的に結合する少なくとも1つの結合ドメインを含んでなる単鎖抗体であり、そして配列番号2に同定される配列を有する。この抗体の調製は国際公開第99/55367号明細書に記載され、そして抗体はF5と命名される。抗体はHER2/neuガン遺伝子のc−erb−B2タンパク質産物の細胞外ドメインに特異的に結合する単鎖抗体フラグメント(scFv)であり、そして本明細書では抗−HER2抗体とも呼び、すなわちHER2受容体に結合親和性を有する抗体である。F5抗体はリンカー分子により連結されたヒト抗体の可変ドメインを含んでなり、そして末端システインを含む251個のアミノ酸を含み(分子量27.6kD)、そして中程度のHER2結合親和性を有する(Kd=150〜300nMまたは1.5〜3×10−7M)。本発明の抗−HER2抗体は、それらの膜表面上にHER2受容体を発現する細胞に迅速にインターナライズされる。
【0056】
1つの態様では、抗−HER2抗体は配列番号2に対して保存的置換を表す配列を有する。
【0057】
C.脂質−ポリマー−抗体コンジュゲートの調製
上記のように、抗−HER2抗体は小胞形成脂質の近位末端に結合した親水性ポリマー鎖の遊離遠位末端に共有結合されている。選択した親水性ポリマーを選択した脂質に結合させ、そして選択したリガンドとの反応にポリマーの遊離非結合末端の活性化するための広範な技術が存在し、そして特に親水性ポリマーポリエチレングリコール(PEG)が広く記載されてきた(Allen,T.M.,et al.,Biochemicia et Biophysica Acta,1237:99−108(1995);Zalipsky,S.Bioconjugate Chem.,4(4):296−299(1993);Zalipsky,S.,et al.,FEBS Lett.,353:71−74(1994);Zalipsky,S.,et al.,Bioconjugate Chemistry,6(6):705−708(1995);Zalipsky,S.,in STEALTH LIPOSOME(D.Lasic and F.Martin編集)、第9章、CRC出版、ボカラトン、フロリダ州(1995))。
【0058】
一般にPEG鎖は、広い様々なリガンド中に存在する例えばスルフヒドリル、アミノ基、およびアルデヒドまたはケトン(典型的には抗体の炭化水素部分の弱い酸化から誘導される)とのカップリングに適した反応性基を含むように官能化される。そのようなPEG−末端反応性基の例には、マレイミド(スルフヒドリル基との反応に)、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)またはNHS−炭酸エステル(一級アミンとの反応に)、ヒドラジドもしくはヒドラジン(アルデヒドもしくはケトンとの反応に)、ヨードアセチル(好ましくはスルフヒドリル基との反応に)およびジチオピリジン(チオール−反応性)がある。PEGをそのような基で活性化するための合成反応スキームは、米国特許第5,631,018号、同第5,527,528号、同第5,395,619号明細書に説明され、そして合成反応手順を記載する関連する章は、引用により本明細書に編入する。
【0059】
例示的合成反応スキームは、図1A〜1Bに示される。反応の詳細は米国特許第6,326,353号明細書に与えられている。簡単に説明すると、ポリエチレングリコール(PEG)ビス(アミン)(化合物I)を、2−ニトロベンゼンスルホニルクロライドと反応させて、モノ保護生成物(化合物II)を生成する。化合物IIをカルボニルジイミダゾールトリエチルアミン(TEA)と反応させて、モノ2−ニトロベンゼンスルホンアミド(化合物III)のイミダゾールカルバメートを形成する。化合物IIIをDSPE(TEA中)と反応させて、1つの末端が2−ニトロベンジルスルホニルクロライドで保護された誘導化PE脂質が形成する。保護基は酸による処理で除去して、PEG鎖上に末端アミンを有するDSPE−PEG生成物(化合物IX)を得る。無水マレイン酸との反応で対応するマレアミド酸(maleamic)生成物を得(化合物V)、これは無水酢酸との反応で所望するPE−PEG−マレイミド生成物(化合物VI)を与える。この化合物は、チオエーテル結合を介して本明細書に記載する抗−インテグリン抗体をカップリングするためのスルフヒドリル基と反応性である(化合物VII)。
【0060】
上に挙げた任意の親水性ポリマーは、上に挙げた任意の小胞形成脂質と組み合わせて、脂質−ポリマー−リガンド標的化コンジュゲートを調製するための修飾剤として使用することができ、そして選択したポリマーに関する適切な反応順序が当業者により決定され得ると思われる。
【0061】
D.リポソーム調製
様々な取り組みが、リポソーム結合ポリマー鎖の遠位末端に結合した標的化リガンドを有するリポソームを調製するために記載されてきた。1つの取り組みには末端官能化脂質−ポリマー誘導体:すなわち遊離のポリマー末端が反応性であるか、または「活性化」されている脂質−ポリマーコンジュゲートを含む脂質小胞の調製が関与する(例えば米国特許第6,326,353号および同第6,132,763号明細書を参照にされたい)。そのような活性化コンジュゲートはリポソーム組成物に包含され、そして活性化ポリマー末端をリポソーム形成後に標的化リガンドと反応させる。別の取り組みでは、脂質−ポリマー−リガンドコンジュゲートは、リポソーム形成時に脂質組成物に含まれる(例えば米国特許第6,224,903号、同第5,620,689号明細書を参照にされたい)。さらに別の取り組みでは、脂質−ポリマー−リガンドコンジュゲートのミセル溶液をリポソームの懸濁液とインキュベーションし、そして脂質−ポリマー−リガンドコンジュゲートが前形成リポソームに挿入される(例えば米国特許第6,056,973号、同第6,316,024号明細書を参照にされたい)。
【0062】
封入された作用物質を運び、そして表面に結合した標的化リガンドを持つリポソーム、すなわち標的化された治療用リポソームは、これらの任意の取り組みにより調製される。好適な調製法は挿入法であり、ここで前形成されたリポソームは、標的化コンジュゲートとインキュベーションされて、標的化コンジュゲートのリポソーム二重層への挿入を達成する。この取り組みでは、リポソームは、Szoka,F.,Jr et al.,Ann.Rev.Biophys.Bioeng.,9:467(1980)に詳述されているような様々な技法により調製され、そして本発明の支持で調製されたリポソームの具体例を以下に記載する。典型的にはリポソームは多重層小胞(MLV)であり、これは単純な脂質−フィルム水和法により形成することができる。この手順では、適切な有機溶媒に溶解された上に詳述した種類のリポソーム形成脂質の混合物が容器の中で蒸発して薄いフィルムを形成し、これは次いで水性媒質により覆われる。脂質フィルムは水和してMLVが典型的には約0.1〜10ミクロンの間のサイズで形成する。
【0063】
リポソームは、リポソームの表面上に親水性ポリマー鎖の表面コーティングを形成するために、親水性ポリマーで誘導化された小胞形成脂質を含むことができる。以下に記載する挿入工程後、リポソームは脂質−ポリマー−標的化リガンドを含むので、脂質ポリマーコンジュゲートの添加は任意である。リポソーム形成時に、そして脂質−ポリマーコンジュゲートの状態で脂質混合物に加えられるさらなるポリマー鎖は、リポソームの脂質二重層の内面および外面の両方から伸びるポリマー鎖を生じる。リポソーム形成時の脂質−ポリマーコンジュゲートの添加は、典型的には1〜20モルパーセントの間のポリマー誘導化脂質を含むことにより達成され、リポソーム形成成分、例えば小胞形成脂質を残す。ポリマー−誘導化脂質の調製法およびポリマー−被覆リポソームの形成法は、米国特許第5,013,556号、同第5,631,018号および同第5,395,619号明細書に記載され、これらは引用により本明細書に編入する。親水性ポリマーは脂質と安定にカップリングされるか、または不安定な連結を介してカップリングされ、これによりコーティングされたリポソームは、それらが血流の循環中に、または刺激に応答してポリマー鎖のコーティングを脱げるようになると認識するだろう。
【0064】
またリポソームは治療薬または診断薬も含み、そして例示的作用物質を以下に提供する。選択した作用物質は、(i)脂質フィルムを作用物質の水溶液で水和することにより水溶性化合物の受動的封入、(ii)作用物質を含有する脂質フィルムを水和することによる親油性化合物の受動的封入、および(iii)内側/外側リポソームpH勾配に対してイオン化可能な薬剤の装填、を含む標準法によりリポソームに包含される。逆相蒸発のような他の方法も適切である。
【0065】
リポソーム形成後、リポソームは実質的に均一なサイズ範囲、典型的には約0.01〜0.5ミクロンの間、より好ましくは約0.03〜0.40ミクロンの間を有するリポソーム集団を得るためにサイズで分けることができる。REVおよびMLVのための1つの効果的な分類法には、リポソームの水性懸濁液を、0.03〜0.2ミクロン、典型的には0.05、0.08、0.1または0.2ミクロンの範囲の選択した均一な孔サイズを有する一連のポリカーボネート膜を通して押し出すことが関与する。膜の孔サイズはその膜を通して押し出すことにより生成されるリポソームの最大サイズにほぼ対応し、特に調製物が同じ膜を通して2回以上押し出される場合はそうである。均一化法もリポソームのサイズを100nm以下のサイズに下げるために有用である(Martin,F.J.,特殊化された薬剤送達系−製造および生産技術(SPECIALIZED DRUG DELIVERY SYSTEMS−MANUFACTURING AND PRODUCTION TECHNOLOGY)で、P.Tyle編集、マルセルデッカー、ニューヨーク、第267−316頁(1990))。
【0066】
リポソームの形成後、標的化リガンドは細胞を標的とする治療用リポソームを達成するために包含される。標的化リガンドは、前形成したリポソームを上記のように調製した脂質−ポリマー−リガンドコンジュゲートとインキュベーションすることにより包含される。前形成したリポソームおよびコンジュゲートは、コンジュゲートとリポソームの会合に効果的な条件下でインキュベーションされ、これはコンジュゲートとリポソーム二重層の外側との相互作用、あるいはコンジュゲートのリポソーム二重層への挿入を含み得る。より具体的には、2つの成分を一緒にコンジュゲートのリポソームへの会合がなされる条件下で、標的化リガンドがリポソーム表面から外側に向かうように、したがってリガンドがそのコグネイト受容体と相互作用できるようにインキュベーションされる。これはそのような会合または挿入を達成するために効果的な条件は、所望する挿入の速度を含め、幾つかの変数に基づき定められると考えられ、ここでより高いインキュベーション温度がより早い挿入速度を達成でき、リガンドの活性に影響を及ぼすことなく、そして脂質および脂質組成物の相転移温度に及ぼす影響の度合いが少なく、リガンドが安全に加熱できる温度である。また挿入は、ポリエチレングリコールおよびエタノールを含む両親媒性溶媒のような溶媒、または界面活性剤の存在により変動することができると考えられる。
【0067】
脂質−ポリマー−リガンドコンジュゲートの形態の標的化コンジュゲートは、典型的にはコンジュゲートが水性溶媒と混合される時にミセルの溶液を形成する。コンジュゲートのミセル溶液は、インキュベーション、そしてコンジュゲートとリポソームとの会合またはコンジュゲートのリポソーム脂質二重層への挿入のために、前形成リポソームの懸濁液と混合される。インキュベーションは、イムノリポソームを形成するために、脂質−ポリマー−抗体コンジュゲートとリポソームの外側二重層リーフレットとの会合または挿入を行うために効果的である。
【0068】
調製後、イムノリポソームは例えば30゜または90゜での力学的光散乱により測定した時、好ましくは約150nm未満、好ましくは約85〜120nmの間、そしてより好ましくは90〜110nmの間のサイズを有する。
【0069】
E.例示的イムノリポソーム
本発明を支持するために行った実験では、抗HER2scFv抗体を有するイムノリポソームを、実施例1に記載するように調製した。簡単に説明すると、リポソームは脂質HSPC、コレステロールおよびmPEG−DSPEから調製した。治療薬ドキソルビシンは、アンモニウムイオン勾配(Doxil(商標))に対して遠隔装填することによりリポソームに装填した。本明細書で配列番号2と同定される配列を有する抗HER2抗体を用いて、実施例1に記載するように調製された脂質−ポリマー−抗体標的化コンジュゲートは、複数のコンジュゲートを含有するミセル溶液と前形成リポソームのインキュベーションにより、前形成リポソームに挿入された。リポソームあたり平均2、5、7.5、15、30、45、75、100、150および300の抗体を有するイムノリポソームは、本明細書では2:1、5:1、7.5:1、15:1、30:1、45:1、75:1、100:1、150:1および300:1の製剤と呼ぶが、これらは実施例1に詳述されるように反応物濃度を調整することにより調製した。
【0070】
7.5、15、30および45の抗体を持つイムノリポソームのHER2−発現細胞(SK−BR03)への、および非HER2発現細胞(MCF−7)へのインビトロ取り込みは、実施例2に記載するように測定した。結果を表1にまとめる。
【0071】
【表1】
【0072】
表1のデータは、HER−2陽性SK−BR−3細胞における抗−HER2イムノリポソームの陽性細胞結合/取り込みを示し、15:1および30:1製剤のそれぞれについて、細胞あたり2.58pg、および細胞あたり1.75pgのドキソルビシンレベルを示す。低いHER2発現レベルを有するMCF−7細胞における抗−HER2イムノリポソームの結合/取り込みは、有意ではなかった。両細胞株における抗−HER2抗体を持たないリポソームの結合/取り込みも有意ではなかった。
【0073】
実施例3に記載する別の実験では、SK−BR−3ヒト胸部癌腫細胞において、リポソームあたり2、5、7.5および15の抗体を持つ抗−HER2イムノリポソームの細胞傷害性を評価した。遊離ドキソルビシンおよびペグ化(PEGylated)されたドキソルビシンを装填したリポソームを、それぞれ陽性および陰性対照として用いた。SK−BR−3細胞を抗−HER2イムノリポソームに10分間暴露し、次いで細胞の生育能を評価した。結果を図2Aに表す。
【0074】
図2Aは、遊離薬剤として(三角)、リポソームに封入されて(丸)、あるいはリポソームあたり2(丸)、5(四角)、7.5(菱形)または15(三角)の抗体を含むイムノリポソームに封入されて投与された時、未処理対照細胞のパーセントとして細胞の生育能をドキソルビシン濃度の関数としてμg/mLで表す。リポソーム組成物の細胞傷害性における差異は、約0.5μg/mLのドキソルビシン濃度で明らかとなり、ここでリポソームあたり5(四角)または7.5(菱形)の抗体で修飾されたイムノリポソームは、遊離薬剤(三角)とほぼ同じインビトロ細胞傷害性を提供した。しかしリポソームあたり15の抗体を含むイムノリポソーム(三角)は、同じ濃度の遊離薬剤よりも細胞傷害性であり、約4μg/mLのドキソルビシンで50%の細胞生育能であった。リポソームあたり2の抗体を含むイムノリポソームは、非標的化ペグ化リポソームのドキソルビシンよりも細胞傷害性が低かった。
【0075】
Her2標的化イムノリポソームの細胞致死効果は、リポソームあたりの抗体密度に関連する。10分間暴露した後の5、7.5および15のscFv/リポソーム比の抗−Her2イムノリポソーム製剤に関するIC50値は、それぞれ約30、16および3.9μg/mLであった。2のscFv/リポソーム比を有する抗−Her2イムノリポソーム製剤の細胞傷害性は、10分の薬剤暴露後に細胞傷害性がほとんどないか、または無かった。遊離ドキソルビシンのIC50は、約9.5μg/mLであった。PEG−被覆リポソーム中に封入されたドキソルビシンについて記録された細胞傷害性はほとんどないか、または無かった。15のscFv/リポソーム比を有する抗−Her2イムノリポソームは、遊離ドキソルビシンよりも高い細胞傷害性を有し、迅速な結合にインターナリゼーションが続く標的化製剤の利点を示す。
【0076】
このように1つの態様では、リポソームあたり2より多くの抗体を提供する、そして特に以下にさらに検討するように、24、48もしくは96時間以上、インビボの血液中でイムノリポソームの循環後に、リポソームあたり平均して2より多くの抗体を提供する脂質−ポリマー−抗体コンジュゲートの量を含むイムノリポソーム製剤が企図される。
【0077】
インビトロ細胞傷害性を測定する別の方法が行われ、ここではリポソームおよびイムノリポソーム製剤が細胞と4時間インキュベーションされた。次いで細胞を洗浄し、そして37℃で3日間インキュベーションした。3日の終わりに細胞数がクリスタルバイオレット染色により予想された。この結果を図2Bに示す。図2Bはドキソルビシン濃度の関数として、未処理対照細胞のパーセントとして細胞の生育能をμg/mLで示す。種々のイムノリポソームからの種々の濃度のドキソルビシンに対して4時間の暴露は、製剤のインビトロの細胞傷害性に差異があることを具体的に説明する。リポソームあたり7.5および45の抗体を持つイムノリポソームは、細胞傷害性が遊離のドキソルビシン(菱形)よりもわずかに低いか、またはそれと同様の細胞傷害性であった。15および30の抗体を含むイムノリポソームは、遊離ドキソルビシンよりも細胞傷害性であった。図2Bも、15および30の抗体を含むイムノリポソームが遊離ドキソルビシンよりも細胞の細胞傷害性が強いことを示す。
【0078】
実施例4に記載する別の実験では、血中のHER2−標的化リポソームの安定性が評価された。125I−標識scFv抗体を持つイムノリポソームは、7.5、15、30、45および90のscFv抗体/リポソーム比で調製された。イムノリポソームはヒト血漿中でインキュベーションされ、そして分析用にアリコートが選択された時間に取り出された。ヒト血漿中のリポソーム物質の2連のアリコートをインキュベーションから取り出し、そしてSepharoseCL−4Bカラムに各時点で乗せた。
【0079】
図3A〜3Hは、ヒト血漿中でイムノリポソームのインキュベーション中に取り出したアリコートから、リポソームあたり15のscFv抗体を有するイムノリポソームからの
125I標識脂質−PEG−scFvコンジュゲートの溶出プロファイルを示し、アリコートは0時間(図3A)、1時間(図3B)、4時間(図3C)、8時間(図3D)、24時間(図3E)、48時間(図3F)、72時間(図3G)および96時間(図3E)で取り出した。リポソーム画分の放射活性は、2〜3の画分内の非常に狭い範囲の画分内で回収され、そして典型的には集めた全溶出液の6〜9mL以内であった。血漿画分は、血漿タンパク質の広いサイズ範囲により、SepharoseCL−4Bカラムから少なくとも12画分にわたり溶出した。すべての時点にわたり、リポソームおよび血漿画分は互いに識別可能であった。解離した(そして対応して会合した)125I−標識脂質−PEG−scFvコンジュゲートのパーセントを算出するために、リポソームおよび血漿画分からの放射活性を合わせて、125I−標識の総量を提供した。その総量をSepharoseCL−4Bカラムに乗せたサンプル中の全放射活性の比として評価した。
【0080】
図4Aは、7.5:1(菱形)、15:1(四角)、30:1(丸)、45:1(三角)および90:1(★)のscFv抗体/リポソーム比を有するイムノリポソーム製剤から125I−標識scFv抗体の解離を、ヒト血漿中で時間でのインキュベーション時間の関数として示す。図4Bは同じ製剤についてイムノリポソーム中に残る125I標識のパーセントとしてデータをプロットする。製剤から抗体の解離の速度および程度は(ドキソルビシンの量に関して)、リポソームあたりの抗体の初期密度にかかわらず本質的に同じである。
【0081】
別の実験では、リポソームあたり15の抗体を有するイムノリポソーム製剤を調製し、そしてインビトロでヒトの血漿中でインキュベーション中に製剤から標識の解離を測定した。結果を図5A〜5Bに示す。
【0082】
図5Aは、インキュベーション時間(時間で)の関数として、2つの実験(菱形、四角)に関するイムノリポソーム製剤から解離した放射標識抗体のパーセントを示す。2つの実験間の結果は一致し、そして24時間のインキュベーションがイムノリポソームからの抗体の約30%解離をもたらすことを示す。ヒト血漿中96時間のインキュベーション後、抗体の50%はもはやイムノリポソームと会合しない。
【0083】
図5Bはヒト血漿中のインキュベーション時間の関数として、イムノリポソームに残る放射性標識抗体のパーセントとして(菱形)、およびイムノリポソームから解離した放射性標識抗体のパーセントとして(四角)、15:1のイムノリポソーム製剤を使用した実験の1つからのデータをプロットし、ここで血漿が誘導した解離は、血漿画分中に回収された放射活性として記載される。図5Bはリポソーム画分の放射標識scFvの減少を示し、対応して全scFv物質のパーセントとして表される血漿画分中で増加する。放出されたscFv抗体の量における初期の減少は、約48時間までに定常状態に達することが観察された。ゼロ時点で、85%の放射活性がリポソーム画分で回収され、残りは血漿画分にあった。放射活性に付随するリポソームの減少は24時間以内でより顕著であり、>30%のscFv抗体が解離し、そして血漿画分から回収された。96時間のインキュベーション時間にわたり、約50%の解離まで、リポソーム画分における初期のscFv抗体が減少すると、血漿画分中の放射活性の量が対応して増加することを示す(リポソーム画分では対応して減少する)。
【0084】
したがって1つの態様では、インビボ投与後24時間、より好ましくは投与後48時間、そしてより一層好ましくは投与後96時間、リポソームあたり平均して2より多くの抗体、そしてリポソームあたり平均して150未満の抗体を有するイムノリポソーム組成物が提供される。別の態様では、イムノリポソーム組成物は平均してリポソームあたりある初期量の抗体を有し、そして30〜60%の間の抗体がインビボに投与されたイムノリポソーム用量から解離して、インビボ投与後48もしくは96時間に、平均してイムノリポソームあたり約50未満の抗体、より好ましくは平均してイムノリポソームあたり約30未満の抗体、そしてさらに一層好ましくは平均してイムノリポソームあたり約15未満の抗体を有する組成物を提供する。1つの好適な態様では、イムノリポソームは平均してイムノリポソームあたり2から15の間(両端を含む)の抗体を含む。インビボでリポソームあたりの抗体の数は、イムノリポソームがヒト血漿中、37℃で24、48または96時間のような選択した時間インキュベーションされ、そしてリポソームからの抗体(または脂質−ポリマー−抗体構築物)の解離に関して適切な分析技術を使用して分析されるインビトロアッセイを使用して近似させることができると思われる。
【0085】
ラットに単回、静脈内投与した後のイムノリポソーム中の抗体の安定性を評価するために、インビボ実験を行った。実施例5に記載するように、ラットは125I−標識イムノリポソーム(15:1製剤)または125I−標識scFv抗体−PEG−DSPEコンジュゲートのいずれかを静脈内に処置した。血液サンプルは投与から5分、そして1、3、8、24および48時間後に集めた。全血および血漿サンプルは、125Iについてカウントし、そして注射した用量のパーセント(%)で表した。イムノリポソームでの処置群からの血漿サンプルもドキソルビシン濃度についてアッセイした。さらに各時点での血漿サンプルの一部をサイズ排除カラムに通して、遊離のコンジュゲートをリポソームに結合したコンジュゲートから分離して、放射活性がリポソーム画分に会合しているかどうかを決定した。
【0086】
図6Aは、血漿サンプルのリポソーム画分中で回収された放射標識scFv抗体−PEG−DSPEコンジュゲートの割合を示す。すべての時点にわたり、>85%の放射活性がリポソーム画分にのみ見いだされた。これは任意の遊離抗体または遊離コンジュゲート(すなわちリポソームに会合していない)が、循環から迅速に回収されることを示す。
【0087】
図6Bは、SepharoseCL−4Bカラムで分離した後の血漿のリポソーム画分における遊離放射標識scFv抗体の濃度を示す。この画分の遊離scFv抗体の量は、わずかな量(100ng/mL以下)が回収されただけなので、無視できる。実験期間にわたり、遊離scFv抗体の回収は全回収の15%未満であった。
【0088】
ラットに15:1のイムノリポソーム製剤を投与した後に、リポソーム画分と会合していない放射標識scFV抗体(すなわち「遊離抗体」もしくは「遊離コンジュゲート」)の濃度を図6Cに示す。第1の時点(5分)で、初期の放射標識scFv抗体濃度は予想された注射用量の20%まで低下した。放射標識scFv抗体排除の初期速度は、投与後、最初の10時間くらいの間迅速であった。投与後、最初の48時間にわたり、放射標識scFv抗体濃度は最初の時点での放射標識scFv抗体濃度の90%まで減少した。比較して40%のドキソルビシンが循環に留まる(図7A)。
【0089】
また実施例5に記載するように、イムノリポソームおよびドキソルビシンの薬物動態学的パラメーターを決定した。表2に薬物動態学的パラメーターをまとめ、そして図7A−7Bは時間の関数としての濃度を示す。
【0090】
【表2】
【0091】
図7Aは、15:1のイムノリポソーム製剤をラットに投与した後、時間(時間で)の関数として血漿(菱形)および血液(黒四角)中に残る125I−標識scFv抗体のパーセント;血漿(三角)中のドキソルビシンのパーセントを示す。また遊離コンジュゲートとして投与した後に、時間(時間で)の関数として血漿(白丸)および血液(白四角)中の125I−標識scFv抗体のパーセントも示す。血液および血漿中の放射活性は、イムノリポソームを投与した動物および125I−標識scFv抗体−PEG−DSPEコンジュゲートを投与した動物の両方で、投与から5分後にピークに達した。イムノリポソームで処置した動物では、血液および血漿中の125Iレベルは、5分でそれぞれ78.4±4.1および77.2±3.7%、そして96時間で4.4±0.9および4.1±0.8%であった。血漿中のドキソルビシン含量は、5分で127±19.7%または69.4±10.8μg/mL、そして96時間で11.8±3.9%または6.4±2.2μg/mLであった。サイズ排除カラムから溶出した125Iのプロファイルは単一ピークを示し、これはカラム溶出液のリポソーム画分に対応した。注射した125I用量の血液および血漿中のパーセントに基づき、イムノリポソームの排除半減期は、それぞれ25.6時間および25.0時間であった。血漿中のドキソルビシン濃度に基づき、イムノリポソームの排除半減期は31.6時間であった。
【0092】
125I−scFv抗体−PEG−DSPEコンジュゲートで処置した動物において、血液および血漿中の125Iレベルは、それぞれ5分で41.8±6.0および40.8±3.1%、そして8時間で2.9±0.6および2.7±1.1%であった。放射活性は24または48時間の時点で検出されなかった。血液および血漿中のコンジュゲートの排除半減期は、それぞれ2.1および2.0時間であった。
【0093】
図7Bは、ラットに15:1のイムノリポソーム製剤を投与した後、時間(時間で)の関数としてドキソルビシンの血漿濃度をμg/mLで示す。見れば分かるように、ドキソルビシンは投与から96時間後の血中に残る。
【0094】
図8は、ラットに15:1のイムノリポソーム製剤を投与した後、時間(時間で)の関数としてng/μgでの血中のドキソルビシンに対する125I−標識scFv抗体比のプロットである。成分の比は投与後、最初の24時間中に減少し、次いで投与から約50時間後にプラトーに達する。この減少比は、scFv抗体が循環からのリポソームのクリアランスよりも、またはリポソームからのドキソルビシンの損失よりも早い速度でリポソームから失われることを示す。
【0095】
まとめると、ラットを対象としたインビボ実験では、イムノリポソームが単回の静脈内投与後96時間にわたり、循環に留まることを示した。抗体−PEG−DSPEコンジュゲートはサイズ排除クロマトグラフィーにより示されるようにリポソームにしっかりと会合していた。125I−標識イムノリポソームの投与後の血液/血漿中の125Iの半減期は約25時間であり、そして血漿中のドキソルビシンの半減期は31.6時間であった。遊離形で投与された時、抗体−PEG−DSPEコンジュゲートは、単回の静脈内投与後、約8時間にわたり、循環に留まった。遊離コンジュゲートの循環半減期は約2時間であった。血清中のイムノリポソームの安定性を調査するインビボデータは、すべての時点にわたり、>85%の放射活性がリポソーム画分に残り、解離した抗体または遊離の抗体コンジュゲートが血清画分から迅速に排除されることを示す。イムノリポソームは血清および血液の両方で約25時間の測定された半減期を有したが、遊離抗体または抗体コンジュゲートの半減期は血液および血漿の両方で約2時間であった(表2)。
【0096】
実施例6は別のインビボ実験を行って、リポソームあたり15、75、150および300のscFv抗体を有するイムノリポソーム製剤の薬物動態学を評価した。簡単に説明すると、は1つのイムノリポソーム製剤の単回の静脈内ボーラスで処置された。対照マウスはペグ化リポソームのドキソルビシンが投与された。血漿は投与後約5分、そして4、8、24、48、72および96時間に集め、そして全ドキソルビシンについてアッセイした。結果を表9に示す。
【0097】
同様なドキソルビシン濃度 対 時間のプロファイルが、対照製剤(菱形)および15:1(黒四角)および75:1(三角)のイムノリポソーム製剤で処置した動物で観察された。リポソームあたり150(X記号)および300(★記号)の抗体を有するイムノリポソームで処置した動物について、より早いクリアランスおよびより高い分布容量に付随するかなり低い値のCmax、AUCおよび半減期が観察された。
【0098】
図9のデータから定めた薬物動態学的パラメーターを表3に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
血漿中のドキソルビシン濃度は、最初のサンプリング時点、すなわち注射から5分後に、ピークに達した。ペグ化リポソーム対照製剤、15:1イムノリポソーム製剤および75:1イムノリポソーム製剤を投与したマウスのCmax値は、それぞれ39.0±0.27、39.9±5.49および43.3±1.30μg/mLであった。対応する薬剤レベルは投与から24時間でそれぞれ10.1±1.82、9.05±0.69および13.6±5.0μg/mLに、そして96時間後でそれぞれ0.32±0.19、0.56±0.41そして0.28±0.12μg/mLに減少した。大変似ている薬物動態学的プロファイルがこれら3つの処置群で観察された。150:1のイムノリポソーム製剤および300:1のイムノリポソーム製剤を投与されたマウスでのCmax値は、75:1以下のリポソーム製剤で処置したマウスよりも顕著に低く、すなわちそれぞれ20.6±3.88および10.5±6.13μg/mLであった。対応する薬剤レベルは、24時間でそれぞれ4.56±0.52および0.58±0.19μg/mLに減少した。96時間の終わりに、150:1および300:1のイムノリポソーム製剤で処置した群の動物の半分は、血漿で検出可能な薬剤レベルではなかった。
【0101】
ペグ化リポソーム対照製剤、15:1のイムノリポソーム製剤および75:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスのAUClast値は、それぞれ751.5、763.1および898.3μg・h/mLであった。150:1および300:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスのAUClast値は、それぞれ287.7および81.5μg・h/mLであった。
【0102】
ペグ化リポソーム対照製剤、15:1のイムノリポソーム製剤および75:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスの血漿半減期は、それぞれ14.8、17.0および12.8時間であった。150:1および300:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスの半減期は、それぞれ3.30および3.91時間であった。
【0103】
ペグ化リポソーム対照製剤、15:1のイムノリポソーム製剤および75:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスのドキソルビシンの血漿クリアランスは、それぞれ0.070、0.068および0.059mL/時間であった。150:1および300:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスのドキソルビシンの血漿クリアランスは、それぞれ0.183および0.645mL/時間であった。
【0104】
リポソーム対照製剤、15:1のイムノリポソーム製剤および75:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスの分布容量は、それぞれ1.49、1.50および1.23mLであった。150:1および300:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスの分布容量は、それぞれ3.57および12.0mLであった。
【0105】
実施例6の知見は、類似の薬物動態学的プロファイルが0、15または75のscFv/リポソーム比を含むイムノリポソームの単回のボーラス投与後に、マウスで観察されたことを示す。150または300のscFv/リポソーム比を含むイムノリポソームで処置した動物について、Cmax、AUCおよび半減期に関しては、より早いクリアランスおよびより高い分布の容量を伴う、より低い値が観察され、ここでパラメーターはリガンド密度に逆比例した。したがって1つの態様では、標的化抗体が無い類似のリポソーム製剤に関するAUC、Cmaxおよび/または半減期よりも30%(i)を越えて、または(ii)せいぜい30%、好ましくはせいぜい25%、さらに一層好ましくはせいぜい20%低いAUC、Cmaxおよび/または半減期を有するイムノリポソーム製剤が提供される。例えば抗体を欠く対照ペグ化リポソーム製剤のAUCは、751μg・h/mLであった。15:1および75:1のイムノリポソーム製剤のAUCは、それぞれ763μg・h/mLおよび898μg・h/mLであった。15:1のイムノリポソーム製剤は、抗体が存在しないことを除いて同一の組成物である対応するリポソーム製剤のAUCよりも1.6%低かった(すなわちせいぜい25%低い)。75:1のイムノリポソーム製剤は、対応するリポソーム製剤のAUCよりも高いAUC値を有した。対照的に、150:1および300:1のイムノリポソーム製剤のAUC値は、リポソーム製剤のAUCよりも30%をかなり越えて低かった。同様に、75:1および15:1のイムノリポソーム製剤のCmaxおよび半減期の薬物動態学的パラメーターは、リポソームの非抗体標的化リポソーム製剤よりもせいぜい25%低かった。
【0106】
このように図9のデータは、図2Aおよび図5Bのデータを用いて考察する場合、イムノリポソーム製剤、および1つの態様では約20,000〜50,000ダルトンの間、より好ましくは25,000〜35,000ダルトンの分子量を有する抗体を持つイムノリポソームが、好ましくはインビボ投与前に、リポソームあたり平均して約4〜30の間(両端を含む)の抗体、そしてより好ましくはリポソームあたり約5〜25の間(両端を含む)の抗体、そしてさらに一層好ましくはリポソームあたり約6〜20の間(両端を含む)の抗体を有する。インビボ投与前にリポソームあたり抗体数の好適な他の範囲は、約5〜30の間、約6〜25の間、そして約4〜15の間、そして約7〜15の間である。
【0107】
別の態様では、イムノリポソーム製剤は、インビボ投与から約96時間後に、平均してリポソームあたり約2より多くの抗体、そして約16未満の抗体を有し、より好ましくはインビボ投与から約96時間後にリポソームあたり約2より多くの抗体、そして約12未満の抗体を有し、そしてさらに一層好ましくはインビボ投与から約96時間後にリポソームあたり約2より多くの抗体、そして約10未満の抗体を有し、そしてなお一層好ましくはインビボ投与から約96時間後にリポソームあたり約2より多くの抗体、そして約8未満の抗体を有する。あるいはイムノリポソーム組成物は、血中でインビトロ循環の約48時間後に、平均してリポソームあたり2より多くの抗体を有し、そしてインビボ静脈内投与から約48時間後に平均してリポソームあたり約20未満の抗体を有する。
【0108】
別の態様では、本発明は標的化抗体を欠く類似のリポソーム製剤のAUCの30%以内、好ましくは25%以内、より好ましくは20%以内のAUCを有するイムノリポソーム製剤を提供する。別の態様では、本発明は標的化抗体を欠く類似のリポソーム製剤の用量標準化AUCの30%以内、好ましくは25%以内、より好ましくは20%以内の用量標準化AUCを有するイムノリポソーム製剤を提供する。
【0109】
イムノリポソーム組成物の抗腫瘍効力を評価するために別の実験を行った。実施例7に記載するように、BT−474ヒト乳癌腫外植片を持つマウス(これは細胞の表面上にHER2受容体を表すことが知られている)を、標準化抗体を持たない(対照)、またはリポソームあたり7.5、15、30もしくは45の抗体を有するイムノリポソーム製剤で処置した。結果を図10A〜10Bに示す。
【0110】
図10Aは塩水(白丸)、ドキソルビシンを含有するペグ化リポソーム(白四角)、またはリポソームあたり7.5(菱形)、15(三角)、30(黒四角)もしくは45(黒丸)のscFv抗体を含むイムノリポソームを投与した後のマウスにおける相対的な腫瘍容積をパーセントで示す。塩水対照群(白丸)の腫瘍は、平均して23.9±7.5日でサイズが4倍になった。45:1、30:1、15:1および7.5:1の抗体:リポソーム比を有するイムノリポソーム製剤で処置した動物は、それぞれ35.1±2.9、32.9±4.4、36.1±1.9および38.0±0日より長い腫瘍容積の4倍化時間を有した。対照リポソーム製剤(Doxil(商標)白四角)で処置した動物の腫瘍は、29.2±6.0日以上でサイズが4倍の腫瘍を有した。38日の実験の終わりに、45:1、15:1および7.5:1の抗体:リポソーム比を有するイムノリポソームを投与した各処置群から1匹の動物は、腫瘍が存在しないか、または小節サイズ<10mm3のいずれかであった。
【0111】
塩水対照と比較した時、リポソームもしくはイムノリポソームのドキソルビシンで処置したすべての動物に明らかな腫瘍の増殖の遅れがあった。HER2−標的化イムノリポソーム製剤で処置した動物は、非標準化リポソームのドキソルビシン(Doxil(商標))で処置した動物よりも腫瘍の増殖にわずかに長い遅れがあった。
【0112】
図10Bは処置期間中、試験動物の体重における変化のパーセントを示す。
【0113】
まとめると、実験はこのBT−474ヒト乳癌外植片モデルで、ドキソルビシンを封入したリポソーム、またはドキソルビシンを封入したイムノリポソームを用いた処置が対照動物と比較した時に抗腫瘍活性を生じることを示す。7.5〜45にイムノリポソーム製剤中の抗体:リポソーム比を変動させることにより、抗腫瘍効力に差異はなかった。
【0114】
15:1のイムノリポソーム製剤を、腫瘍を持つマウスにおけるインビボ用量範囲の評価に選択した。実施例8に記載するように、マウスはペグ化リポソームに封入されるか、もしくはイムノリポソームに封入された種々の投薬用量(2、3、4mg/kg)のドキソルビシンで処置された。すべてのマウスは3週間、毎週、適切な製剤の静脈内投与を受けた。腫瘍サイズは1週間に2回測定して腫瘍の容積を算出し、そして結果を図11に示す。
【0115】
図11は、胸部腫瘍移植片を持ち、そして塩水(白丸)で、2mg/kg(白四角)および3mg/kg(白菱形)の投薬用量でドキソルビシンを含有するペグ化リポソームで、または15:1のイムノリポソーム製剤を2mg/kg(黒四角)、3mg/kg(黒菱形)もしくは4mg/kg(黒三角)の投薬用量で処置したマウスにおいて、時間(日で)の関数として初期腫瘍容積のパーセントとして取った相対的な腫瘍容積のプロットである。未処置対照動物(白丸)の腫瘍は、平均11.1±1.9日の腫瘍容積3倍化時間(TVTT)を有した。2、3および4mg/kg(それぞれ白四角、菱形、三角)のリポソームのドキソルビシンで処置した動物は、それぞれ16.7±4.8日、26.0±3.9日および>34.2±9.0日の腫瘍容積3倍化時間(TVTT)を有した。15:1のイムノリポソーム製剤で処置した動物は、2、3、および4mg/kgの用量レベルでそれぞれ34.2±6.6、29.5±8.6および49.0より長いTVTT。
【0116】
腫瘍増殖の遅延は、未処置対照群と比較してすべての薬剤処置群で観察された。ペグ化リポソーム処置群について、明らかな用量応答関係があったが、イムノリポソーム処置群にはなかった。しかし4mg/kgの15:1のイムノリポソームでの処置は、腫瘍の増殖においてすべての他の処置群よりも長い遅れを生じたが、イムノリポソーム処置群に関する関係は明らかでなかった。2および4mg/kgの15:1のイムノリポソームを用いた処置は、4mg/kgでマウスのペグ化リポソーム処置群に関する平均TVTTよりも大きい平均TVTTを提供した。さらに各用量で、15:1のイムノリポソームに関する平均TVTTは、マウスのペグ化リポソーム処置群よりも大きかった。
【0117】
実施例9に記載する別の実験では、封入されたドキソルビシンを含有し、そしてイムノリポソームあたり平均して15のscFv抗体を持つイムノリポソーム製剤を、単回の静脈内注射を介して動物に3回の投薬用量で投与した。イムノリポソーム、ドキソルビシンおよび抗体の薬物動態学を決定し、そして結果の図12〜14に示す。
【0118】
図12は、10mg/mLのドキソルビシン投薬用量で15:1のイムノリポソーム製剤(丸)およびペグ化リポソーム(四角)のサルへの静脈内投与後に、時間(時間で)の関数としての血漿ドキソルビシン濃度を示す。イムノリポソームの血液循環寿命は、本質的にscFv抗体を欠くペグ化リポソームに等しい。
【0119】
図13A〜13Bは、1mg/kg(丸)、5mg/kg(四角)および10mg/kg(三角)のドキソルビシン投薬用量で15:1のイムノリポソームの静脈内投与後に、時間(時間で)の関数として、血漿ドキソルビシン濃度(図13A)および血漿抗体濃度(図13B)を示す。血漿中の全(遊離および封入)ドキソルビシン濃度は、投与後に時間の関数として減少する(図13A)。全(遊離およびイムノリポソームに会合)抗体濃度は、投与から4時間に大きな初期の減少を現し、続いてその後にゆっくりとした下降を現す。
【0120】
ドキソルビシン濃度に対する抗体の比は、図13A〜13Bに提示するデータから決定し、そして図14A〜14Bに示す。図14Aでは、血漿中のscFv抗体/ドキソルビシンの濃度の比(ng/μgで)を図14Bに示し、この比を初期の抗体/ドキソルビシン比に対して標準化し、そしてパーセントとして表す。両図において、1mg/kg、5mg/kgおよび10mg/kgのドキソルビシン投薬用量で投与されたイムノリポソームが、それぞれ菱形、四角および三角で確認される。両方のデータの表示は、投与から最初の4時間での抗体の損失を具体的に説明し、約40%の抗体がリポソームから解離し、そして投与後8時間以内に血流から排除された。このデータは抗体の損失を具体的に説明し、これはイムノリポソームからの抗体の損失またはイムノリポソームから脂質−ポリマー−抗体構築物の損失であり得る。
【0121】
このように、イムノリポソームは約24時間または48時間の時間に、インビボ循環中に会合している抗体の20〜50%を失い、それでもイムノリポソームは細胞傷害性に十分なHER2受容体への結合を保持するイムノリポソーム製剤が企図される。上で説明したように、非標的化リポソームのドキソルビシンに比べて、インビトロの細胞傷害性には約2より多い抗体が必要とされる。
【0122】
したがって、インビボ投与用のイムノリポソーム製剤の調製法が提供され、ここで疎水性部分−親水性ポリマー−抗体構築物は、イムノリポソームあたり第1の選択した抗体数を提供するために十分な第1の量で含まれる。イムノリポソームはインビトロもしくはインビボで血液と接触するようにされ、そしてリポソームと血液とが接触する1もしくは複数の時点でイムノリポソームあたりの抗体数が決定される。例えばインビトロの容器から血液のアリコートを取るか、または動物から血液サンプルが引き抜かれる。血液はラジオイムノアッセイ、クロマトグラフィー、ゲル電気泳動等のような多数の適切な分析技術を使用して抗体の量について分析される。1より多くの時点での抗体数が決定されれば、血中での時間の関数として抗体の損失を示すプロットを構築することができる。この情報を使用して、血液と接触した後の選択した時点で抗体数が決定され、そして血液と接触した後にそのような時点でリポソームあたり少なくとも2の抗体を提供するために、第2の、リポソームあたりより高い数の抗体数を提供するために十分な疎水性部分−親水性ポリマー−抗体構築物の第2の量が選択される。次いでイムノリポソームは第2の量の構築物を使用することにより調製される。例えば投与から96時間後、イムノリポソームあたり5の抗体を有することが望まれ、そして血液インキュベーションデータは約50%の抗体がイムノリポソームから解離するか、またはそうではなく標的化受容体との相互作用に利用できなならば、イムノリポソームは最初に、インビボ投与前に少なくとも10の抗体を含むべきである。一般に第2の量のコンジュゲート、すなわち投与前の初期の抗体数を提供するために選択されるコンジュゲートの量は、リポソームあたり50未満の抗体、より好ましくはリポソームあたり30以下の抗体を生じるように選択される。
【0123】
別の態様では、そして一部は上記の薬物動態学的データに基づき、この方法はリポソームあたり150未満の抗体、より好ましくはリポソームあたり100以下の抗体、そしてさらにより一層好ましくはリポソームあたり75以下の抗体を提供する第1の量のコンジュゲートを有するリポソームを提供することを含む。
【0124】
III.使用法
リポソームは封入された形態で治療薬または診断薬を含む。封入は、リポソームの水性の芯および水性の空間の中への作用物質のカプセル化、ならびにリポソームの脂質二重層(1もしくは複数)への作用物質の封入を含むことを意図している。本発明の組成物に使用することを意図する作用物質は広く変動でき、そして治療および診断の応用に適する作用物質の例を以下に与える。
【0125】
投与される用量は、特定の作用物質の薬物動態学的特性、およびその投与様式および経路;受容体の年齢、健康および体重;症状の性質および程度、同時処置の種類、処置頻度および所望する効果といった既知の因子に依存して変動することができる。投薬用量は1回に、あるいは時間、日または週の選択した間隔で与える周期的用量となることができる。
【0126】
任意の投与経路が適切であるが、静脈内および他の非経口様式が好適である。
【0127】
別の観点では併用処置計画が意図され、ここで上記のイムノリポソーム組成物は第2の作用物質と組み合わせて投与される。第2の作用物質は、他の薬剤化合物ならびにペプチド、抗体等のような生物製剤を含め、任意の治療薬であることができる。第2の作用物質は、同じかまたは異なる投与経路により、イムノリポソームの投与と同時に、または順次に投与することができる。特に好適な組み合わせには、限定するわけではないが、シクロホスファミド、タキサン、ビノレルビン(vinorelbine)、Herceptin(商標)およびAvastin(商標)を含む。Her2−標的化リポソームは、DOXIL(商標)のような非標的化リポソームで投与される同じ薬剤の均等な用量に比べて、より完全な腫瘍の後退を提供する。したがってHer2−標的化イムノリポソームに封入された第1の細胞傷害性剤の用量および第2の治療薬を含んでなる処置計画が企図され、ここで1もしくは双方の作用物質は、予想される腫瘍の後退よりも大きいような改善された臨床的成果を達成するために、単独で投与される作用物質に必要とされる用量よりも少ない用量で投与される。またHer2−標的化イムノリポソームは、2以上の作用物質と組み合わせて投与することもできると考えられる。特定の患者に適切な作用物質は、熟練した医療従事者により同定され得る。リポソームに封入された化学療法剤および2以上のさらなる作用物質を含有するHer2−標的化イムノリポソーム組成物を含んでなる処置計画が企図され、ここで改善された臨床的成果を達成するために、少なくとも1つ、そして好ましくは1より多くの作用物質が、単独で与えた時の作用物質の推薦される用量よりも少ない用量で投与される。
【0128】
本明細書に記載する処置法は、1つの態様において、細胞あたり105より多くのHER2受容体、そして好ましくは細胞あたり106より多くのHER2受容体を発現している患者群に投与するために企図されている。細胞受容体の密度は免疫組織化学を使用して測定することができ、そしてそのような測定のためのHercepTest(商標)のようなキットを購入することができる。細胞あたり105より多く、好ましくは106より多くのHER2受容体を発現している個体は、本明細書に記載する抗体が細胞によりインターナライズされ、細胞内に送達される薬剤が増えるので、本明細書に記載するHER2−標的化イムノリポソーム組成物に特に良く応答する。生検または適切な生物学的サンプルが患者から得られる方法では、サンプルをアッセイして腫瘍細胞あたりのHER2受容体の数を測定し、そして受容体の数が細胞あたり106HER2受容体よりも多いならば、患者を本明細書に記載するイムノリポソーム組成物で処置する。1つの好適な態様では、患者は細胞あたり3+(2,000,000)の受容体のIHCスコアを有する。
【実施例】
【0129】
IV.実施例
以下の実施例は本明細書に記載する本発明をさらに具体的に説明し、そして本発明の範囲をどのようにも限定するものではない。
材料:水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)はリポイド(lipoid)K.G.(ルードヴィヒスハーフェン、ドイツ)から購入した。コレステロールはクロダ(Croda)社(ニューヨーク、ニューヨーク州)から受け、そしてN−(カルボニル−メトキシポリエチレングリコール2000)−1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルエタノールアミン、ナトリウム塩(mPEG−DSPE)は、シンゲナ(Syngena)社(リースタール、スイス)から受けた。塩酸ドキソルビシンは明治製菓株式会社(Meiji Seika Kaisha Ltd.)(東京、日本)から受けた。放射標識コンジュゲート(scFv−PEG−DSPE)は、0.0983mCi/mLの特異的活性でヘルメスバイオサイエンス(Hermes Bioscience)(サンフランシスコ、カリフォルニア州)から受けた。ヒト血漿はバイオレクラメーション(Bioreclamation)(イーストメドウ、ニューヨーク州)から受けた。カラム成分−SepharoseCL−4Bはアマシャム ファルマシア(Amersham Pharmacia)(ウプサラ、スウェーデン)から受け、溶出バッファー−塩化ナトリウム溶液(0.9%NaCl)はバクスター(Baxter)(デアフィールド、イリノイ州)からであり、そして0.4%アジ化ナトリウム(シグマ(Sigma)、セントルイス、ミズーリ州)を含んだ。
【0130】
実施例1
HER2−標的化イムノリポソームの調製
封入されたドキソルビシンを含有するリポソームは、カリフォルニア州、マウンテンビューのアルザコーポレーションから得た(DOXIL(商標))。リポソームは水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC、56.4モル%)、コレステロール(38.3モル%)、およびメトキシポリエチレングリコール−ジ−ステアロイル−ホスファチジルエタノールアミン(mPEG−DSPE、5.3モル%、mPEGMW2000Da)からなった。最終調製物中のドキソルビシンの濃度は100μg/mM脂質であった。調製に使用した内部バッファーは10%シュクロースであり、そして外部バッファーは10%シュクロースおよび10mMヒスチジンであった。最終製剤におけるリポソームの平均直径は93nmであった。
【0131】
抗−HER2受容体scFv抗体(配列番号2)は、上で簡単に検討し、そして図1A〜1Bに具体的に説明するように、当該技術分野で周知な手順に従い脂質−PEG−scFvコンジュゲートを形成した。
【0132】
次いで脂質−PEG−抗−HER2抗体構築物は、リポソームと脂質−ポリマー−抗体構築物のミセル懸濁液をインキュベーションすることによりドキソルビシンを装填したリポソームのリポソーム二重層と会合する。平均2、5、7.5、15、30、45、75、100、150および300の抗体を持つイムノリポソームは、1モルのリン脂質あたり加えた抗体の量を調整することにより表Aにまとめるように調製した。
【0133】
【表4】
【0134】
イムノリポソームあたりの理論的平均抗体数は、タンパク質およびリン脂質濃度を測定し、そして100nmのリポソームあたり平均80,000のリン脂質および28.714kDaの抗体分子量に基づき算出することにより確認した。イムノリポソーム中の抗体の数は、抗体の分子量、リポソームのサイズおよびリポソームの組成を測定することにより決定することができる。例えば15:1のイムノリポソーム製剤に関して、15モルのscFv抗体/80,000モルのリン脂質×28.714kDa=5.4g/モル。インキュベーション中、90%のコンジュゲートがリポソームに挿入もしくは会合すると仮定すると:5.4/90%=6μgのscFv抗体を1μmoleのリン脂質あたり加える。すなわち本明細書に報告されるイムノリポソームあたりの抗体数は、リポソーム集団における抗体の平均分布を反映し、報告する数は集団におけるリポソームあたりの抗体の平均数である。
【0135】
脂質−ポリマー−抗体コンジュゲートとリポソームとの会合後、ドキソルビシン濃度は86〜92μg/mM脂質であり、そして後のイムノリポソームの平均直径は93〜117nmであった。
【0136】
実施例2
イムノリポソームのインビトロ取り込み
SK−BR−3およびMCF7細胞は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC、マナッサス、バージニア州)から購入した。SK−BR−3細胞は、10%ウシ胎児血清を補充したマッコイの5A(McCoy’s 5A)改良培地中のインビトロカルチャー中で維持した。MCF細胞は、10%ウシ胎児活性を含むダルベッコの改良イーグル培地で維持した。
【0137】
ウェルあたり1.5×105細胞/0.5mLの成長培地で、SK−BR−3またはMCF−7細胞を24ウェルプレートに加えた。付着および順化のために一晩インキュベーションした後、細胞をイムノリポソーム(7:5:1、15:1、30:1および45:1の抗−HER2抗体:リポソーム)で、または0.5mL成長培地/ウェル中、0.015mg/mLのリポソームで2連で処理した。次いで24ウェルプレートをインキュベーターの内側の回転台上に置き、40〜60rpmで37℃、5%CO2および100%の湿度で4時間回転させた。インキュベーション後、細胞培地を吸引し、そして細胞をハンクスバランス塩溶液(HBSS)で4回洗浄した。この後、細胞は0.1mLの1%TritonX−100を各ウェルに加えることにより溶解した。プレートは旋回させて混合し、そして回転台に室温で15分間置いた。この工程中、細胞をプレートの底から脱着させ、そして細胞核は可視の凝集塊を形成した。酸性イソプロパノール(1.0mL)を、TritonX−100溶液を含有するウェルに加え、そして旋回もしくはピペットで上下させることにより可視凝集塊が消えるまで混合した。
【0138】
細胞溶解物中のドキソルビシン含量は、470nmの励起波長および590nmの発光波長を使用することにより分光光度計により測定した。分光光度計の設定は以下の通りであった:スリット幅2nm、積分時間1秒、光電子倍増管電圧950V、および1回の波長獲得様式。バックグラウンドの細胞溶解物の蛍光を差し引き、そして細胞溶解物中のドキソルビシンの量は二次多項式回帰を使用して標準曲線に合わせた同時に測定した標準(サンプルあたり10、25、50、100、250、500、1000および2500ng)から決定した。ドキソルビシンの細胞の取り込みは、標準曲線の内挿により決定した。データは播種した細胞あたりのドキソルビシンをpgで表し、そして表1に示す。検出未満の値は有意ではない(NS)とした。
【0139】
実施例3
HER2−標的化リポソームのインビトロ細胞傷害性
SK−BR−3ヒト乳癌腫細胞株を、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC、マナッサス、バージニア州)から購入した。細胞は、10%ウシ胎児血清を補充したマッコイの5A(McCoy’s 5A)改良培地中のインビトロ培養中で維持し、そして加湿化インキュベーター中、37℃で維持した。
【0140】
細胞を10分間、遊離形態のドキソルビシン(1.8mg/mL)、ペグ化リポソームに封入されたドキソルビシン(2.06mg/mL)、またはリポソームあたり2の抗体(1.86mg/mL)、リポソームあたり5の抗体(2.12mg/mL)、リポソームあたり7.5の抗体(1.99mg/mL)もしくはリポソームあたり15の抗体(2mg/mL)を有するイムノリポソーム製剤に暴露した。
【0141】
対数期SK−BR−3乳癌細胞はVersene(1:5000)を使用して回収し、成長培地に5×104細胞/mLの濃度で再懸濁した。0.1mL(5×103細胞)のアリコートを96ウェルプレートの適切なウェルに加えた。付着させるために一晩インキュベーションした後、培地を取り出し、そして試験物質と入れ替えた。成長培地で0.0137、0.0412、0.1235、0.37、1.11、3.33、10および30μg/mLに希釈した0.1mLのドキソルビシン、S−DOXまたはSTEALTH49製剤バリアントのアリコートを、各ウェルに3連で加えた。試験物質を含まない培地を対照ウェルに加えた。細胞を試験品に37℃で10分間暴露した。インキュベーションの終わりに、薬剤を含む培地を吸引し、そして細胞を0.2mLの成長培地で洗浄した。洗浄後、細胞を0.2mLの新しい培地中で成長条件下にてさらに72時間インキュベーションした。インキュベーションの終わりに、可視細胞の量をPromega CellTiter96(商標)Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay(増殖中の可視細胞の数を測定するためのテトラゾリウムに基づく比色法、マジソン、ウィスコンシン州)を使用して測定した。簡単に説明すると、ウェルから培地を吸引し、そして0.1mLの新しい培地および0.02mLのプロメガ(Lot No.186817)に変えた。次いでプレートを3〜4時間インキュベーションし、その後、吸収はマイクロプレートリーダーを用いて490nmで記録した。細胞の生育能は式:
%生育能=(A−A0)/(A100−A0)×100%
式中、Aは測定された吸収であり、A0はブランクの吸収であり、そしてA100は未処理細胞を含むウェルの吸収である、
を使用して未処理対照の%として算出した。細胞の生育能のパーセントは、薬剤濃度の関数としてプロットし、そしてIC50(50%の細胞成長阻止を生じる濃度)を内挿により決定した。
【0142】
イムノリポソーム製剤に関して、対照の割合としての細胞の生育能は、図2Aにまとめる。
【0143】
実施例4
血漿中のリポソームからHer2−標的化部分のインビトロ解離
実施例1に記載するように調製したドキソルビシンを含有するペグ化リポソームは、実施例1に記載のように調製した十分な125I−標識脂質−PEG−scFvコンジュゲートと合わせて、リポソームあたり7.5、15、30、45および90のscFv抗体を有するイムノリポソームを生成した。リポソームおよびコンジュゲートを60℃で1時間インキュベーションして、コンジュゲートのリポソームの外側二重層への挿入を可能にした。インキュベーションの終わりに、溶液を冷却し、そして続いて2〜8℃で保存した。各リポソーム製剤を10%シュクロース/10mMヒスチジンに透析し、そしてドキソルビシン含量を測定した。各製剤中のリポソームは、サイズ、ドキソルビシンのカプセル化、脂質−PEG−抗体コンジュゲートの挿入パーセント、およびscFv抗体濃度について特性を決定し、これを表Bにまとめる。15のscFv抗体を含む製剤の最終的な特異的活性は、28.4μCi/mLであった。
【0144】
【表5】
【0145】
リポソームからの125I標識の解離は、抗体、コンジュゲートもしくは両方の解離を示し、以下のように測定した。ヒト血漿を125I−標識HER2−標的化イムノリポソームと混合し、そして37℃で96時間にわたりインキュベーションした。各時点(0、1、4、8、72、96時間)で血漿のアリコートを取り出し、そして32mLのベット容量の28×1.2cmの調製したSepharoseCL−4Bカラムに乗せた。このSepharoseCL−4Bカラムは、1mLの100mMプラセボリポソームおよび1mLのラット血漿で前調整された。カラムは0.4%アジ化ナトリウムを含有する0.9%塩水で溶出した。各画分(1mL)は、125I放射活性についてガンマカウンターを使用してカウントした。
【0146】
また各アリコートに関する全活性も測定し、そしてSepharoseCL−4Bカラムからの回収は添加した各サンプルについて〜90%以上であった。すべての時点にわたり、添加したアリコートから回収された全画分に対して、カラムから少なくても90%の放射活性の回収であった。結果を以下の表に示し、そして15:1のイムノリポソーム製剤に関する溶出プロファイルは、図3A〜3Hに示す。図4Aは時間の関数としてイムノリポソーム製剤からの125Iの解離を示す。図4Bは時間の関数としてリポソームに残る125I標識のパーセントを示す。図5Aは、2つの異なる実験においてリポソームあたり15の抗体を有するイムノリポソーム製剤から125I標識の解離速度を表す。図5Bはリポソームあたり15の抗体を有するイムノリポソーム製剤から血漿で誘導された125I標識の放出を示す。
【0147】
【表6】
【0148】
実施例5
血漿中のリポソームからHer2−標的化部分のインビトロ解離
125I−標識scFv抗体は、既知の技術を使用してヨウ素−ビーズを使用して調製した。簡単に説明すると、scFv抗体(配列番号2)、Na[125I]、およびヨソ素−ビーズを合わせ、そして反応を室温で20分間続けた。反応はチオ硫酸でクエンチした。過剰なNa[125I]を除去するために、反応した溶液をDG−10脱塩カラムを使用して分離した。最高量の放射活性を含む最初のピーク中の物質をプールし、そしてタンパク質濃度を評価し、これをA280を使用して測定した。ヨウ素化scFv抗体は最後に滅菌のために0.2μmのフィルターを通し、そして4℃に保存した。物質は1カ月以内に使用した。
【0149】
リポソームあたり15の抗体を有するイムノリポソームは、形成されたリポソームを125I標識scFv抗体−PEG−脂質コンジュゲートと60℃で1時間インキュベーションすることにより上記のように調製した。インキュベーションの終わりに、溶液を冷却し、続いて2〜8℃で保存した。次いでイムノリポソームを10%シュクロース/10mMヒスチジンに透析し、そしてドキソルビシン含量を測定した。最終的なドキソルビシン含量は2.1mg/mLであった。製剤のサンプルは、サイズ=96nm、pH=6.5、%ドキソルビシン=99%、抗体挿入のパーセント=89%、および抗体濃度=49μg/mLと特性決定された。イムノリポソームの最終的な特異的活性は0.018mCi/mLであった。
【0150】
遊離の125I−scFv抗体−PEG−脂質は、10%シュクロース/10mMヒスチジンで49μg/mLの最終濃度に希釈した。十分な放射標識コンジュゲートを提供するために、冷却scFv抗体−PEG−脂質コンジュゲートを溶液に加えて、0.5μCi/mLの最終的な特異的活性を生じた。
【0151】
約11週齢および体重358〜376gの9匹のオスCD−1ラット(チャールズリバーラボラトリー:Charles River Laboratories)をこの実験に使用した。動物は少なくとも1週間、研究室の条件に慣らした。
【0152】
0日に、投与前、すべての動物は齧歯類のホットボックス(hotbox)中で暖めた。動物は手で拘束し、そして125I標識イムノリポソームまたは遊離125I−F5コンジュゲートのいずれかを外側の尾の静脈を介して単回の静脈内ボーラスを投与した。ラットあたり投与した用量は、約2mg/kgのドキソルビシンおよび49mg/kgの抗体−PEG−脂質コンジュゲートであった。
【0153】
体重および臨床的所見は、投与の日(0日)に記録した。カゴの中での所見は4日間、
毎日行った。血液サンプルは後眼窩洞を介して吸入麻酔(イソフルオラン/O2)下でヘパリン処理したミクロ遠心管に集めた。6匹のラットにイムノリポソームを投与し、そして血液サンプル(〜1.2mL)は投与から約5分、そして1、3、8、24、48、72および96時間後に集めた(1回の時点あたり3匹の動物)。3匹のラットに抗体−PEG−脂質−コンジュゲートを投与し、そして血液サンプル(〜0.6mL)は投与から約5分、そして1、3、8、24および48時間後に集めた。
【0154】
各動物からの100μLの全血サンプルのアリコートは、ガンマカウンターを使用して125Iについてカウントした。残りの血液サンプルは4〜8℃で2500RPM(〜750×g)で20分間遠心して血漿を集めた。血漿サンプルのアリコート(50もしくは100μL)を確保し、そして125Iについてカウントした。イムノリポソームを投与したラットについて、別の組の血漿サンプルを−40℃で保存し、そして分光光度計を使用してドキソルビシン濃度について後でアッセイした。血漿の残りはサイズ排除カラムを通して溶出し、そして遊離物をリポソーム結合抗体−PEG−DSPEコンジュゲートから分けた。カラムは約22mLのSepharoseCL−4Bビーズを含んだ。カラムのバッファー溶液(0.9%塩水および0.02%NaN3)は、約0.5mL/分の流速で重力により送った。
【0155】
すべてのサンプルについて、リポソーム画分に付随するscFv抗体に対応する1つの主要ピークが10〜15画分付近で観察された。リポソーム画分を越えた画分から回収された放射活性は、「遊離scFv抗体」と考えられた。すなわち血漿タンパク質に会合したか、または包含されたかもしれないミセルもしくは単量体のscFv抗体−PEG−DSPEコンジュゲート。各1mLの約40画分が集められ、そして125Iについてカウントされた。
【0156】
表Cはリポソーム画分および遊離解離画分に付随する抗体の回収濃度を示す。結果を図6A〜6Cに示す。
【0157】
【表7】
【0158】
薬物動態学的パラメーター
全血および血漿サンプルは、パッカード(Packard)のCobra5010ガンマカウンター(シリアル#401611)中で125Iの放射活性(CPM、1分あたりのカウント)についてカウントした。CPMは以下の式
% Inj.=[(観察されたCPM/mL)/((CPM/mL Inj.
×Vol.Inj)/BW)×0.065]×100
式中、Inj.:注射した;BW:体重;および0.065は動物の全血容量を見積もるために使用する(すなわち6.5%BW)、
に従い、注射した用量のパーセント(%)に転換した。血漿中の注射した用量のパーセントを算出するために、血漿容量を血液容量の60%(0.6)と予想した。
【0159】
血液および血漿中の125Iの排除半減期(T1/2β)は、以下のように算出した:
T1/2β=ln(2)/Kel
ここでln(2)=0.693、そしてKel(排除定数)=(ln(C1)−ln(C2))/|T1−T2|、ここでC1およびC2はT1およびT2の時点での注射用量の平均パーセントに等しい。イムノリポソームを投与されたラットついては、T1およびT2はそれぞれ8時間および96時間であり、一方、scFv−PEG−DSPEコンジュゲートを投与したラットについては、T1およびT2はそれぞれ5分および8時間であった。
【0160】
さらに血漿ドキソルビシン濃度は、分光光度計を使用して測定された。薬物動態学的パラメーター、例えば曲線下の面積(AUC)、分布の定常状態容量(Vss)、クリアランス(CLt)および半減期は、WINNONLIN Noncompartmental Analysis Program Version4.1を使用して算出された。
【0161】
生データは表Dに示す。薬物動態学的パラメーターは表2および図7A〜7Bに示す。
【0162】
【表8】
【0163】
実施例6
マウスへのイムノリポソームのインビボ投与
PEGのコーティングを有するリポソーム、およびリポソームあたり15、75、150および300のscFv抗体を有するイムノリポソームは、実施例1に記載するように調製した。製剤は表Eにまとめる。
【0164】
【表9】
【0165】
115匹(投与群あたり21匹×5投与群に、さらに10匹を加えて115)のメスICRマウスは、チャールズリバーから得た。動物は通例のプラスチック底のケージに、12時間/12時間の明/暗の照明サイクルのスケジュール下で収容し、食料と水を自由に与えた。動物は実験を開始する前に少なくとも1週間、研究室の条件に慣らした。
【0166】
投与の日を0日と考えた。使用したすべてのマウスに、対照の単回ボーラス注射、または上記のイムノリポソーム試験製剤の1つを外側の尾の静脈を介して投与した。投与容量は各個別の動物について算出し、そして0.24〜0.33mLの範囲であった。マウスは注射前に齧歯類用のホットボックス中で暖められた。対照リポソームおよび15:1および300;1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスは、約2.0mg/kgで投与された。75:1および150:1のイムノリポソーム製剤を投与したマウスは、それぞれ約2.40および1.65mg/kgで投与された。
【0167】
血液サンプル(各〜1mL)は、製剤あたり各時点(5分、4、8、24、48、72および96時間)について3匹のマウスから集めた。血液サンプルは肝臓の門脈を介して吸入麻酔(酸素/イソフルラン)下でヘパリンをコートしたシリンジに集め、そして直ちにポリプロピレンエッペンドルフ管に移した。次いで血液サンプルは、約2500CPM(〜750xg)にて10分間、3〜8℃での遠心まで、ウェットアイス上で保存した。血漿サンプルを集め、そして−40℃で保管した。血漿サンプルおよび投与溶液は、LC/MS分析により全ドキソルビシンについてアッセイされた。
【0168】
平均血漿ドキソルビシン濃度は時間に対してプロットし(図9)、そして薬物動態学的パラメーターを算出するために使用した。血漿濃度はすべて個別の動物に由来するので、薬物動態学的パラメーターは、平均血漿ドキソルビシンHCl濃度を使用して算出し、したがって薬物動態学的パラメーターについて標準偏差は存在しない。薬物動態学的パラメーターは、WINNONLIN Version4.0(ファルサイト(Pahrsight)社、マウンテンビュー、カリフォルニア州)を使用して算出した。薬物動態学的パラメーターを表3に示す。
【0169】
実施例7
インビボ効力
PEGのコーティングを有するリポソーム、およびリポソームあたり15、75、150および300のscFv抗体を有するイムノリポソームを、実施例1に記載したように調製した。
【0170】
約4〜5週齢のメスのNCR.nu/nuホモ接合体マウス(チャールズリバーラボラトリー、ホリスター、カリフォルニア州)を、得るために使用した。平均体重は約25gであった。動物は隔離ケージに12時間の明および暗サイクルで維持した。食料と水は自由に与えた。
【0171】
BT−474ヒト胸部細胞はインビトロ培養(10μg/mLのウシ インスリン、300mg/mLのL−グルタミンおよび10%のウシ胎児血清を補充したのRPMI1640培地)で、37℃にて加湿した5%CO2インキュベーター中に維持した。対数期の乳癌細胞をシリプシン処理し、そして細胞培養フラスコから回収して、16×107細胞/mLの最終濃度を得た。各マウスの首領域の後ろに皮下注射を行った(0.1mL中に16×106細胞)。腫瘍形成性を上げるために、腫瘍細胞の接種2、3日前、各マウスにエストラジオールペレット(0.72mgの17βエストラジオール、イノベイティブ リサーチ オブ アメリカ(Innovative Research of America)、サラソータ、フロリダ州)も皮下に移植した。処置は、平均腫瘍容積が約80mm3に達した時、腫瘍細胞の接種から23日後に開始した。
【0172】
5匹の動物を各処置群に割り当てた。種々の抗体:リポソーム比を含むイムノリポソーム製剤を適切に希釈し、そして約0.2mLの容量で、真鍮のレストレイナー中で暖められて(40℃)拘束されているマウスの側方の尾の静脈に静脈内投与した。各注射の直前に、マウスは加熱光バルブを備えた十分に換気したアクリル製の箱の中で暖めておいた。対照リポソーム(Doxil(商標))での処置も含め、そして陽性対照とした。塩水で処置した動物は陰性対照とした。処置群に使用したドキソルビシン用量は、1週間につき(qw)約4mg/kgであり、そして処置を2週間続行した。
【0173】
動物の体重を1週間に2回測定して、薬物の毒性を評価した。動物は体重の損失>15%起こった時、または異常な事態が発生した場合、実験から除き、そして安楽死させた。臨床的所見には、行動、ケージ内での活動、脱水、および疼痛もしくは疲労の兆候を含んだ。すべての臨床的所見は、実験のフォルダーに記録された。実験期間の終わりに、すべての動物は安楽死のAVMAパネル(1993)に従い、100%の二酸化炭素の吸入により安楽死させた。
【0174】
腫瘍は、38日まで1週間に2回、3つの寸法で測定した。腫瘍容積は式:
V=1/2×D1×D2×D3;
式中、D1−3はミリメートル(mm)で測定された垂直方向の直径である、
に従い算出した。
【0175】
腫瘍がその初期容積の4倍に増殖する(4×)ために必要な時間と定められる腫瘍容積の4倍化時間(TVQT)を(処置の時点で)、実験の終点として使用した。TVQTは各処置群について決定し、そして平均±標準誤差(SE)として日で表す。
【0176】
種々の処置群間における腫瘍の増殖における遅れの統計的分析は、スチューデント検定により行った。
【0177】
結果を図10A〜10Bに示し、そして表Fにまとめる。
【0178】
【表10】
【0179】
実施例8
インビボ用量範囲実験
およそ4〜5週齢のメスの無胸腺nu/nuマウス(ハーランラボラトリー(Harlan Laboratories)、インディアナ州)をこの実験に使用した。平均体重は約20gであった。動物を隔離ケージに12時間の明−および−暗サイクルで維持した。食料と水は自由に与えた。
【0180】
BT−474ヒト胸部細胞をインビトロ培養(10μg/mLのウシ インスリン、300mg/mLのL−グルタミンおよび10%のウシ胎児血清を補充したのRPMI1640培地)で37℃にて加湿した5%CO2インキュベーター中で維持した。対数期の乳癌細胞をシリプシン処理し、そして細胞培養フラスコから回収して、15×107細胞/mLの最終濃度を得た。各マウスの首領域の後ろに皮下注射を行った(0.2mL中に30×106細胞)。腫瘍形成性を上げるために、腫瘍細胞の接種2、3日前に各マウスにエストラジオールペレット(0.72mgの17βエストラジオール、イノベイティブ リサーチ オブ アメリカも皮下に移植した。処置は、すべての処置群について平均腫瘍容積が約106〜126mm3の範囲になった時、腫瘍細胞の接種から17日後に開始した。
【0181】
処置群を表Gにまとめる。7匹の動物を各処置群に割り当てた。リポソームおよびイムノリポソーム製剤は、約0.2mLの容量で、真鍮のレストレイナー中で暖められて(40℃)拘束されているマウスの側方の尾の静脈に静脈内投与(IV)した。各注射の直前に、マウスは加熱光バルブを備えた十分に換気したアクリル製の箱の中で暖めておいた。リポソーム製剤およびイムノリポソーム製剤に使用したドキソルビシン用量は、2、3または4mg/kgであった。すべての処置は、1週間に1回、3週間続行した。
【0182】
【表11】
【0183】
腫瘍は、49日まで1週間に2回、3つの寸法を測定した。腫瘍容積は式:
V=1/2×D1×D2×D3;
式中、D1−3はミリメートル(mm)で測定された垂直方向のの直径である、
に従い算出した。
【0184】
腫瘍がその初期容積の3倍に増殖する(3×)ために必要な時間と定められる腫瘍容積の3倍化時間(TVTT)を(処置の時点で)、実験の終点と使用した。腫瘍容積の3倍化時間は各処置群について決定し、そして平均±標準誤差(SE)として日で表す。動物の体重は1週間に2回測定し、薬剤の毒性を評価した。
【0185】
種々の処置群間における腫瘍の増殖における遅れの統計的分析は、スチューデント検定により行った。結果を図11に示す。
【0186】
実施例9
インビトロ薬物動態学的および毒性試験
3〜8年齢で、体重が2.5〜4.5kgの38匹のナイーブなカニクイザル(Macaca fascicularis)を、1群に3匹のオスおよび3匹のメスを含む6つの処置群に無作為に割り当て、表Hにまとめた。
【0187】
【表12】
【0188】
平均して15の単鎖抗−HER2抗体を有するイムノリポソームを上のように調製した。1日目に、動物には単回のゆっくりした静脈内注射(〜1mL/分)を末梢静脈に与え、そして投与後28日間、監視した。臨床的所見および食料摂取の監視は、少なくとも1日1回行った。体重は1週間に2回測定した。血液は血液学および血清化学分析のために投与前および1(投与から1時間後)、4、14および28日目に集めた。血液は毒物動態学的分析のために、投与前および投与が完了してから5分、1、4、8、24、48、72および96時間後に集めた。血液サンプルは血漿のドキソルビシンおよび抗体濃度について分析した。結果を図12〜14に示す。
【0189】
実施例10
インビトロ反復投与毒性実験
3〜8年齢で、体重が2.5〜4.5kgの70匹のナイーブなカニクイザル(Macaca fascicularis)を、1群に5匹のオスおよ53匹のメスを含む7つの処置群に無作為に割り当て、表Iにまとめた。
【0190】
【表13】
【0191】
HER2細胞受容体への結合親和性を有し、平均して15の単鎖抗体を有するイムノリポソームを上のように調製した。動物には4週間毎に1回、全部で6回処置するために示した用量を静脈内に与えた。血液は血液学および血清化学分析のために投与前および選択した時点に集めた。血液サンプルは血漿のドキソルビシンについて分析し、そして結果を図15A〜15Cに示す。
【0192】
多数の例示的観点および態様をこれまで検討してきたが、当業者は特定の修飾、交換、付加およびそれらの部分的組み合わせを認識するだろう。したがって添付する特許請求の範囲および今後導入する特許請求の範囲は、そのようなすべての修飾、交換、付加および部分的組み合わせが本発明の真の精神および範囲内にあることを意図している。
【図面の簡単な説明】
【0193】
【図1】1A〜1Bは、脂質−ポリマー−抗体−コンジュゲートの調製に関する合成反応スキームを示し、ここでポリエチレングリコール(PEG)ビス(アミン)のDSPEカルバメートのマレイミドが形成される。
【図2】2Aは、遊離薬剤(三角)、リポソームに封入された薬剤(丸)、またはリポソームあたり2(丸)、5(四角)、7.5(菱形)もしくは15(三角)の抗体を含むイムノリポソームに封入された薬剤として投与されたドキソルビシンに10分間暴露された後に、未処理対照細胞のパーセントとしてドキソルビシン濃度の関数としてμg/mLで表される細胞の生育能を示す。 2Bは、遊離薬剤(菱形)、リポソームに封入された薬剤(三角)、またはリポソームあたり7.5(×記号)、15(★記号)、30(丸)もしくは45(四角)の抗体を含むイムノリポソームに封入された薬剤として投与されるドキソルビシンに4時間暴露された後に、未処理対照細胞のパーセントとしてドキソルビシン濃度の関数としてμg/mLで表される細胞の生育能を示す。
【図3】3A〜3Hは、ヒト血漿中でイムノリポソームのインキュベーション中に取り出したアリコートからリポソームあたり15のscFv抗体を有するイムノリポソームから、放射標識(125I)scFvの溶出プロファイルを示し、アリコートは0時間(図3A)、1時間(図3B)、4時間(図3C)、8時間(図3D)、24時間(図3E)、48時間(図3F)、72時間(図3G)および96時間(図3E)の時点で取り出した。
【図4】4Aは、インビトロのヒト血漿中、7.5:1(菱形)、15:1(四角)、30:1(丸)、45:1(三角)および90:1(★)の抗体/リポソーム比を有するイムノリポソーム製剤から125I標識scFv抗体の解離を、インキュベーション時間(時間で)の関数として示す。 4Bは、インビトロのヒト血漿中、7.5:1(菱形)、15:1(四角)、30:1(丸)、45:1(三角)および90:1(★)の抗体/リポソーム比を有するイムノリポソーム中に留まる125I標識のパーセントを、インキュベーション時間(時間で)の関数として示す。
【図5】5Aは、2つの異なる実験で(菱形、四角)インビトロのヒト血漿中、リポソームあたり15の抗体を有するイムノリポソーム製剤から解離した放射標識抗体のパーセントを、インキュベーション時間(時間で)の関数として示す。 5Bは、ヒト血漿中、リポソームあたり15の抗体を有するイムノリポソーム製剤中に留まる(菱形)およびからイムノリポソーム製剤からイムノリポソーム製剤から解離した(四角)放射標識抗体のパーセントを、インキュベーション時間(時間で)の関数として示す。
【図6】6Aは、15:1のイムノリポソーム製剤をラットに投与した後、血漿サンプルのリポソーム画分で回収される125I−標識scFv抗体のパーセントを時間(時間で)の関数として示す。 6Bは、15:1のイムノリポソーム製剤をラットに投与した後、SepharoseCL−4Bカラムで分離した後のラット血漿のリポソーム画分で回収された125I−標識scFv抗体の濃度(ng/mLで)を時間(時間で)の関数として示す。 6Cは、15:1のイムノリポソーム製剤をラットに投与した後、SepharoseCL−4Bカラムで分離した後のラット血漿の遊離または血漿画分で回収された125I−標識scFv抗体の濃度(ng/mLで)を時間(時間で)の関数として示す。
【図7】7Aは、15:1のイムノリポソーム製剤をラットに投与した後、血漿(菱形)、血液(黒四角)に残る125I−標識scFvのパーセント、および血漿(三角)中のドキソルビシンのパーセントを、時間(時間で)の関数として示す。また遊離コンジュゲートとして2mg/kgのドキソルビシン用量でラットに投与した後に、血漿(白円)および血液(白四角)中の125I−標識scFv抗体のパーセントも時間(時間で)の関数として示す。 7Bは、15:1のイムノリポソーム製剤を2mg/kgの用量でラットに投与した後、ドキソルビシンの血漿濃度を(μg/mLで)時間(時間で)の関数として示す。
【図8】15:1のイムノリポソーム製剤をラットに投与した後、時間(時間で)の関数として血中ドキソルビシンに対する125I−標識scFv抗体比のプロットである。
【図9】ドキソルビシンを含有するペグ化リポソーム(菱形)またはリポソームあたり15(四角)、75(三角)、150(×)もしくは300(★)のscFv抗体を含有するイムノリポソームのインビボ投与後に、時間(時間で)の関数として血漿ドキソルビシン濃度(μg/mLで)のプロットである。
【図10】10A〜10Bは、初期の腫瘍サイズに対するパーセントでの腫瘍容積(図10A)、ならびに胸部腫瘍外植片を持ち、そして塩水(白丸)、ドキソルビシンを含有するペグ化リポソーム(白四角)またはリポソームあたり7.5(菱形)、15(三角)、30(黒四角)もしくは45(黒丸)のscFv抗体を含有するイムノリポソームで処置したマウスの体重の変化のパーセント(図10B)を示す。
【図11】胸部腫瘍外植片を持ち、そして塩水(白丸)、ドキソルビシンを2mg/kg(白四角)および3mg/kg(白菱形)の投薬用量で含有するペグ化リポソーム、または2mg/kg(黒四角)、3mg/kg(黒菱形)もしくは4mg/kg(黒三角)の投薬用量の15:1のイムノリポソーム製剤で処置したマウスを対象とした、初期の腫瘍容積のパーセントとして取った相対的腫瘍容積の時間(日で)の関数としてのプロットである。
【図12】リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入された(丸)、またはペグ化リポソームに封入された(四角)ドキソルビシン(10mg/mL)のサルへの静脈内投与後、時間(時間で)の関数としての血漿ドキソルビシン濃度(ng/mL)のグラフである。
【図13】13Aは、リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシンのサルへの静脈内投与後、時間(時間で)の関数としての血漿中のドキソルビシン濃度(ng/mL)のグラフであり、ドキソルビシンは1mg/kg(丸)、5mg/kg(四角)および10mg/kg(三角)の投薬用量で投与された。 13Bは、リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシンのサルへの静脈内投与後、時間(時間で)の関数としての血漿中の抗体濃度(ng/mL)のグラフであり、イムノリポソームは1mg/kg(丸)、5mg/kg(四角)および10mg/kg(三角)のドキソルビシン投薬用量で投与された。
【図14】14Aは、リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシンのサルへの投与後、時間(時間で)の関数としての血漿中の抗体/ドキソルビシン比(ng/μg)のプロットであり、イムノリポソームは1mg/kg(菱形)、5mg/kg(四角)および10mg/kg(三角)のドキソルビシン投薬用量で投与された。 14Bは、リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシンのサルへの投与後、時間(時間で)の関数として、初期の抗体/ドキソルビシン比に対して標準化された血漿中のscFv抗体/ドキソルビシン濃度の比のプロットであり、イムノリポソームは1mg/kg(菱形)、5mg/kg(四角)および10mg/kg(三角)のドキソルビシン投薬用量で投与された。
【図15】15Aは、リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシンのサルへの投与後、時間(時間で)の関数としてのドキソルビシン濃度(ng/mL)のプロットであり、イムノリポソームは0.5mg/kg(四角)、2mg/kg(三角)および4mg/kg(逆三角)のドキソルビシン投薬用量で投与された。 15Bは、リポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシンのサルへの投与後、時間(時間で)の関数としてのドキソルビシン濃度(ng/mL)のプロットであり、イムノリポソームは4mg/kgのドキソルビシン投薬用量で、6カ月間にわたり6回投与され、データは第1回(逆三角)および6回目(四角)の投与に対応する。 15Cは、ペグ化リポソーム中に封入された遊離形の4mg/kgドキソルビシン(三角)(DOXIL(商標);四角)、またはリポソームあたり平均15のscFv抗体を持つイムノリポソームに封入されたドキソルビシン(逆三角)のサルへの投与後、時間(時間で)の関数としてのドキソルビシン濃度(ng/mL)のプロットである。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A−3H】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)小胞形成脂質;(ii)リポポリマー;(iii)疎水性部分、親水性ポリマー、およびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する抗体を含んでなる、コンジュゲート;ならびに(iv)封入された薬剤を含んでなる、リポソームを含んでなる組成物であって、該コンジュゲートがリポソームあたり平均して約2より多く、そして約25未満の抗体を提供するために有効な量で存在する、上記組成物。
【請求項2】
抗体が20,000〜50,000ダルトンの間の分子量を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
抗体が配列番号2と少なくとも約80%の配列同一性を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
親水性ポリマーが750から5000ダルトンの間の分子量を有するポリエチレングリコールである請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
封入された薬剤が細胞傷害性剤または抗腫瘍剤である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
封入された薬剤がアントラサイクリンである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
薬剤がドキソルビシンである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
コンジュゲートの量がインビボ投与から48時間後に、リポソームあたり平均して約20未満の抗体を提供する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
(i)少なくとも1つの硬質な小胞形成脂質;(ii)疎水性部分およびポリエチレングリコールを含んでなるリポポリマー;(iii)疎水性部分、ポリエチレングリコールおよびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する単鎖抗体を含んでなるコンジュゲート、該単鎖抗体は配列番号2の同一性を有するか、またはそれに対する保存的置換を有し;ならびに(iv)抗腫瘍活性を有する封入された薬剤を含んでなる、リポソームを含んでなるリポソーム製剤であって、
該リポソームはリポソームが37℃で96時間インキュベーションされ、そしてリポソームから単鎖抗体の解離が測定されるインビボアッセイにより示される時、インビボ投与から96時間後にリポソームあたり約2より多く、そして約15未満の抗体を提供するために有効な量のコンジュゲートを特徴とする、上記リポソーム製剤。
【請求項10】
硬質な小胞形成脂質が水素化ダイズホスファチジルコリンである請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
リポソームがさらにコレステロールを含んでなる、請求項9または10に記載の製剤。
【請求項12】
封入された薬剤がアントラサイクリンである請求項9ないし11のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項13】
封入された薬剤がドキソルビシンである請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
コンジュゲートの量がインビボ投与から48時間後に、リポソームあたり平均して約12未満の抗体を提供する、請求項9ないし11のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項15】
(i)少なくとも1つの硬質な小胞形成脂質;(ii)疎水性部分およびポリエチレングリコールを含んでなるリポポリマー;(iii)疎水性部分、ポリエチレングリコールおよびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する単鎖抗体を含んでなるコンジュゲート、該単鎖抗体は配列番号2に少なくとも80%の同一性を有し;ならびに(iv)抗腫瘍活性を有する封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる、イムノリポソーム製剤であって、
該イムノリポソーム製剤がインビボ投与された時に、類似の成分を含んでなるが該抗体を欠いているリポソームの曲線下の面積より、25%を越えて、またはせいぜい25%低い曲線下の面積を提供する、
上記イムノリポソーム製剤。
【請求項16】
硬質な小胞形成脂質が水素化ダイズホスファチジルコリンである請求項15に記載の製剤。
【請求項17】
リポソームがさらにコレステロールを含んでなる請求項15または16に記載の製剤。
【請求項18】
封入された薬剤がアントラサイクリンである請求項15ないし17のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項19】
封入された薬剤がドキソルビシンである請求項18に記載の製剤。
【請求項20】
コンジュゲートの量が、リポソームが37℃で48時間インキュベーションされ、そしてリポソームから単鎖抗体の解離が測定されるインビトロアッセイにより示される時、インビボ投与から48時間後に、リポソームあたり平均して2より多い抗体、そして約20未満の抗体を提供する請求項15ないし17のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項21】
コンジュゲートの量が、リポソームが37℃で96時間インキュベーションされ、そしてリポソームから単鎖抗体の解離が測定されるインビトロアッセイにより示される時、インビボ投与から96時間後に、リポソームあたり平均して2より多い抗体、そして約15未満の抗体を提供する請求項15ないし17のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項22】
(i)少なくとも1つの硬質な小胞形成脂質;(ii)疎水性部分およびポリエチレングリコールを含んでなるリポポリマー;(iii)疎水性部分、ポリエチレングリコールおよびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合し、そして配列番号2と同定された配列を有する単鎖抗体を含んでなるコンジュゲート;ならびに(iv)抗腫瘍活性を有する封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる、イムノリポソーム製剤であって、
リポソームが37℃で96時間インキュベーションされ、そしてリポソームから単鎖抗体の解離が測定されるインビトロアッセイにより示される時、該リポソームが、リポソームの投与から96時間後に、30〜60%の間の抗体が各リポソームから解離して組成物を提供し、インビボ投与から96時間後にリポソームあたり約25未満の抗体を有する、上記イムノリポソーム製剤。
【請求項23】
親水性ポリマー鎖の外側コーティングおよび封入された薬剤を有するリポソームを準備し;
該リポソームを、疎水性部分、ポリエチレングリコールおよびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する単鎖抗体を含んでなるある量のコンジュゲートとインキュベーションし、コンジュゲートの該量は、リポソームが37℃で96時間インキュベーションされ、そしてリポソームから単鎖抗体の解離が測定されるインビトロアッセイにより示される時、インビボ投与から96時間後に、リポソームあたり平均して約2より多く、そして約15未満の抗体を提供するように選択される、
工程に従い調製されるリポソーム組成物。
【請求項24】
抗体が配列番号2に同定される配列を有する請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
薬剤がドキソルビシンである請求項23または24に記載の組成物。
【請求項26】
コンジュゲートの上記量がリポソームあたり平均して約2〜10の間の抗体を提供する請求項23ないし25のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項27】
(i)小胞形成脂質;(ii)リポポリマー;(iii)疎水性部分、親水性ポリマー、およびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する抗体を含んでなるコンジュゲート;ならびに(iv)封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる組成物であって、該リポソームがインビボ投与前に、リポソームあたり25未満の抗体を有し、ここでインビボ投与後に、該リポソームが該抗体の20〜50%を失うが、それでも細胞傷害性に十分な該Her−2受容体への結合を保持する上記組成物。
【請求項28】
抗体が配列番号2である請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
薬剤がドキソルビシンである請求項27または28に記載の組成物。
【請求項30】
(i)小胞形成脂質;(ii)リポポリマー;(iii)疎水性部分、親水性ポリマー、およびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する抗体を含んでなるコンジュゲート、該コンジュゲートはリポソームあたり第1の選択された数の抗体を提供するために十分な第1の量で含まれ;ならびに(iv)封入された薬剤を含んでなるリポソームを提供し;
該リポソームを血液と接触させ;
該リポソームと血液とを接触させた1もしくは複数の時点で、リポソームあたりの抗体の数を測定し;
血液と接触させた後に、リポソームあたり少なくとも2の抗体を提供するために、第2の、リポソームあたりより多い数の抗体を提供するために十分な第2のコンジュゲートの量を該測定に基づき選択する、
ことを含んでなるリポソーム組成物の調製法。
【請求項31】
接触が該リポソームを血液とインビトロで接触させることを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
接触が該リポソームを血液とインビボで接触させることを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
提供が、リン脂質、ポリエチレングリコール親水性部分、および本明細書で配列番号2と同定される配列を有する単鎖抗体を含んでなるコンジュゲートを有するリポソームを提供することを含む、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
提供が、封入された薬剤としてドキソルビシンを有するリポソームを提供することを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
選択が、リポソームあたり50未満の抗体を提供するために有効なコンジュゲートの第2の量を選択することを含んでなる、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
提供が、リポソームあたり150未満の抗体を提供するコンジュゲートの第1の量を有するリポソームを提供することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
選択が、リポソームあたり30以下の抗体を提供するために有効なコンジュゲートの第2の量を選択することを含んでなる、請求項30に記載の方法。
【請求項1】
(i)小胞形成脂質;(ii)リポポリマー;(iii)疎水性部分、親水性ポリマー、およびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する抗体を含んでなる、コンジュゲート;ならびに(iv)封入された薬剤を含んでなる、リポソームを含んでなる組成物であって、該コンジュゲートがリポソームあたり平均して約2より多く、そして約25未満の抗体を提供するために有効な量で存在する、上記組成物。
【請求項2】
抗体が20,000〜50,000ダルトンの間の分子量を有する請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
抗体が配列番号2と少なくとも約80%の配列同一性を有する、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
親水性ポリマーが750から5000ダルトンの間の分子量を有するポリエチレングリコールである請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
封入された薬剤が細胞傷害性剤または抗腫瘍剤である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
封入された薬剤がアントラサイクリンである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
薬剤がドキソルビシンである請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
コンジュゲートの量がインビボ投与から48時間後に、リポソームあたり平均して約20未満の抗体を提供する請求項1ないし4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項9】
(i)少なくとも1つの硬質な小胞形成脂質;(ii)疎水性部分およびポリエチレングリコールを含んでなるリポポリマー;(iii)疎水性部分、ポリエチレングリコールおよびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する単鎖抗体を含んでなるコンジュゲート、該単鎖抗体は配列番号2の同一性を有するか、またはそれに対する保存的置換を有し;ならびに(iv)抗腫瘍活性を有する封入された薬剤を含んでなる、リポソームを含んでなるリポソーム製剤であって、
該リポソームはリポソームが37℃で96時間インキュベーションされ、そしてリポソームから単鎖抗体の解離が測定されるインビボアッセイにより示される時、インビボ投与から96時間後にリポソームあたり約2より多く、そして約15未満の抗体を提供するために有効な量のコンジュゲートを特徴とする、上記リポソーム製剤。
【請求項10】
硬質な小胞形成脂質が水素化ダイズホスファチジルコリンである請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
リポソームがさらにコレステロールを含んでなる、請求項9または10に記載の製剤。
【請求項12】
封入された薬剤がアントラサイクリンである請求項9ないし11のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項13】
封入された薬剤がドキソルビシンである請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
コンジュゲートの量がインビボ投与から48時間後に、リポソームあたり平均して約12未満の抗体を提供する、請求項9ないし11のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項15】
(i)少なくとも1つの硬質な小胞形成脂質;(ii)疎水性部分およびポリエチレングリコールを含んでなるリポポリマー;(iii)疎水性部分、ポリエチレングリコールおよびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する単鎖抗体を含んでなるコンジュゲート、該単鎖抗体は配列番号2に少なくとも80%の同一性を有し;ならびに(iv)抗腫瘍活性を有する封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる、イムノリポソーム製剤であって、
該イムノリポソーム製剤がインビボ投与された時に、類似の成分を含んでなるが該抗体を欠いているリポソームの曲線下の面積より、25%を越えて、またはせいぜい25%低い曲線下の面積を提供する、
上記イムノリポソーム製剤。
【請求項16】
硬質な小胞形成脂質が水素化ダイズホスファチジルコリンである請求項15に記載の製剤。
【請求項17】
リポソームがさらにコレステロールを含んでなる請求項15または16に記載の製剤。
【請求項18】
封入された薬剤がアントラサイクリンである請求項15ないし17のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項19】
封入された薬剤がドキソルビシンである請求項18に記載の製剤。
【請求項20】
コンジュゲートの量が、リポソームが37℃で48時間インキュベーションされ、そしてリポソームから単鎖抗体の解離が測定されるインビトロアッセイにより示される時、インビボ投与から48時間後に、リポソームあたり平均して2より多い抗体、そして約20未満の抗体を提供する請求項15ないし17のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項21】
コンジュゲートの量が、リポソームが37℃で96時間インキュベーションされ、そしてリポソームから単鎖抗体の解離が測定されるインビトロアッセイにより示される時、インビボ投与から96時間後に、リポソームあたり平均して2より多い抗体、そして約15未満の抗体を提供する請求項15ないし17のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項22】
(i)少なくとも1つの硬質な小胞形成脂質;(ii)疎水性部分およびポリエチレングリコールを含んでなるリポポリマー;(iii)疎水性部分、ポリエチレングリコールおよびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合し、そして配列番号2と同定された配列を有する単鎖抗体を含んでなるコンジュゲート;ならびに(iv)抗腫瘍活性を有する封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる、イムノリポソーム製剤であって、
リポソームが37℃で96時間インキュベーションされ、そしてリポソームから単鎖抗体の解離が測定されるインビトロアッセイにより示される時、該リポソームが、リポソームの投与から96時間後に、30〜60%の間の抗体が各リポソームから解離して組成物を提供し、インビボ投与から96時間後にリポソームあたり約25未満の抗体を有する、上記イムノリポソーム製剤。
【請求項23】
親水性ポリマー鎖の外側コーティングおよび封入された薬剤を有するリポソームを準備し;
該リポソームを、疎水性部分、ポリエチレングリコールおよびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する単鎖抗体を含んでなるある量のコンジュゲートとインキュベーションし、コンジュゲートの該量は、リポソームが37℃で96時間インキュベーションされ、そしてリポソームから単鎖抗体の解離が測定されるインビトロアッセイにより示される時、インビボ投与から96時間後に、リポソームあたり平均して約2より多く、そして約15未満の抗体を提供するように選択される、
工程に従い調製されるリポソーム組成物。
【請求項24】
抗体が配列番号2に同定される配列を有する請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
薬剤がドキソルビシンである請求項23または24に記載の組成物。
【請求項26】
コンジュゲートの上記量がリポソームあたり平均して約2〜10の間の抗体を提供する請求項23ないし25のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項27】
(i)小胞形成脂質;(ii)リポポリマー;(iii)疎水性部分、親水性ポリマー、およびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する抗体を含んでなるコンジュゲート;ならびに(iv)封入された薬剤を含んでなるリポソームを含んでなる組成物であって、該リポソームがインビボ投与前に、リポソームあたり25未満の抗体を有し、ここでインビボ投与後に、該リポソームが該抗体の20〜50%を失うが、それでも細胞傷害性に十分な該Her−2受容体への結合を保持する上記組成物。
【請求項28】
抗体が配列番号2である請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
薬剤がドキソルビシンである請求項27または28に記載の組成物。
【請求項30】
(i)小胞形成脂質;(ii)リポポリマー;(iii)疎水性部分、親水性ポリマー、およびHER2受容体の細胞外ドメインに特異的に結合する抗体を含んでなるコンジュゲート、該コンジュゲートはリポソームあたり第1の選択された数の抗体を提供するために十分な第1の量で含まれ;ならびに(iv)封入された薬剤を含んでなるリポソームを提供し;
該リポソームを血液と接触させ;
該リポソームと血液とを接触させた1もしくは複数の時点で、リポソームあたりの抗体の数を測定し;
血液と接触させた後に、リポソームあたり少なくとも2の抗体を提供するために、第2の、リポソームあたりより多い数の抗体を提供するために十分な第2のコンジュゲートの量を該測定に基づき選択する、
ことを含んでなるリポソーム組成物の調製法。
【請求項31】
接触が該リポソームを血液とインビトロで接触させることを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
接触が該リポソームを血液とインビボで接触させることを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
提供が、リン脂質、ポリエチレングリコール親水性部分、および本明細書で配列番号2と同定される配列を有する単鎖抗体を含んでなるコンジュゲートを有するリポソームを提供することを含む、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
提供が、封入された薬剤としてドキソルビシンを有するリポソームを提供することを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
選択が、リポソームあたり50未満の抗体を提供するために有効なコンジュゲートの第2の量を選択することを含んでなる、請求項30に記載の方法。
【請求項36】
提供が、リポソームあたり150未満の抗体を提供するコンジュゲートの第1の量を有するリポソームを提供することを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
選択が、リポソームあたり30以下の抗体を提供するために有効なコンジュゲートの第2の量を選択することを含んでなる、請求項30に記載の方法。
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【公表番号】特表2008−536944(P2008−536944A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507922(P2008−507922)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/015122
【国際公開番号】WO2006/116107
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/015122
【国際公開番号】WO2006/116107
【国際公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【出願人】(503073787)アルザ・コーポレーシヨン (113)
【Fターム(参考)】
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