HIF−1α活性剤
本発明は、クリオキノール(Clioquinol)及びその誘導体を有効成分として含むHIF−1α活性剤に関するもので、より詳細には、クリオキノール及びその誘導体は正常酸素状態(normoxia condition)の細胞でHIF−1α(Hypoxia−inducible factor−1α)のユビキチン化を阻害してHIF−1αを蓄積させる一方、FIH−1の活性を阻害して蓄積されたHIF−1αが転写活性を有するようにすることで、HIF−1α標的遺伝子であるVEGF(vascular endothelial growth factor)及びEPO(erythropoietin)の発現を誘導するので、虚血性疾患治療剤として有用に使用することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリオキノール(clioquinol)及びその誘導体を有効成分として含むHIF−1α活性剤に関するもので、より詳細には、クリオキノール及びその誘導体を正常酸素状態でHIF−1αのユビキチン化を阻害してHIF−1αを蓄積させる一方、FIH−1の活性を阻害して蓄積されたHIF−1αが転写活性を有するようにすることで、HIF−1αの標的遺伝子であるVEGF及びEPOの発現を誘導することにより、虚血性疾患治療に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
虚血は、身体に部分的に生じる貧血状態で、血管が詰まったり減ったりすることによって生じる現象をいう。身体の各部分が機能を正常に遂行しようとすれば、血管を通じて適切な酸素と栄養が供給されなければならない。心臓も冠状動脈という血管を通じて必要な酸素と栄養の供給を受けている。しかし、必要量の血流量供給を受けることができなければ、心臓筋肉に代謝産物が積もって低酸素症に陥るようになって機能に障害が生じる。このような場合を心筋虚血であるという。そして、心筋虚血によって起きた心臓機能の障害を虚血性心臓疾患という。心臓疾患は、大きく分けて狭心症と心筋梗塞症に分けられる。一般的に男性が女性に比較して発生頻度が高くて年齢が高いほど、危険要素が揃った人であればあるほど、発生頻度が高い。虚血が発生する場合、血管が詰まって前記の疾病が発生し得、脳の血管が詰まって虚血性脳疾患が発病する。虚血によって血液循環が円滑ではない場合、身体末端でも問題になり得、この場合、末端組職の壊死が起きて虚血性末端疾患が発病し得る。このように虚血は、多くの疾患に発展し得るため、これに対する治療剤の開発が至急な実情である。
【0003】
HIF−1(Hypoxia−inducible factor−1)は、酸素恒常性の主要調節子として、血管新生、赤血球形成、糖分解に係わる様々な遺伝子の発現を開始する転写誘導因子である(Masson and Ratcliffe,J Cell Sci,2003年,第116巻,3041−3049頁;Seagroves等,Mol Cell Biol,2001年,第21巻,3436−3444頁)。HIF−1は、HIF−1αとHIF−1βとで構成されている。HIF−1αは、正常酸素状態でユビキチン−プロテアソームシステム(ubiquitin−proteasome system)によって迅速に減少してHIF−1βのレベルは、一定に維持される(Huang等,Proc Natl Acad Sci USA,1998年,第95巻,7978−7992頁;Kallio等,J Biol Chem,1999年,第274巻,6519−6525頁)。正常に酸素が供給されている状態でHIF−1αの564番及び/または402番プロリンは、PHDs(HIF−1α−specific proly−4 hydroxylases)によって水酸化されて活性が抑制される。この過程で、酸素(O2)、2−オキソグルタル酸、ビタミンC、Fe2+を必要とする(Bruikc and McKnight,Science,2001年,第294巻,1337−1340頁;Epstein等,Cell,2001年,第107巻,43−54頁;Ivan等,Science,2001年,第292巻,464−468頁;Jaakkola等,Science,2001年,第292巻,468−472頁;Masson等,EMBO J,2001年,第20巻,5197−5206頁)。哺乳動物細胞でPHDsのファミリーは、PHD1(HPH3,EGLN2)、PHD2(HPH2,EGLN1)、PHD3(HPH1,EGLN3)と明らかにされた(Huang等,J Biol Chem,2002年,第277巻,39792−39800頁;Talyer,Gene,2001年,第275巻,125−132頁)。水酸化されたプロリン残基は、E3ユビキチン・リガーゼ構成成分であるVHL(von Hippel−Lindau)タンパク質と結合し、HIF−1αは VCB E3ユビキチン・リガーゼ複合体(VHLタンパク質,Elongin B,Elongin C,Cul2,Rbx1)と結合しながらユビキチン化される(Iwai等,Proc Natl Acad Sci USA,1999年,第96巻,12436−12441頁;Kamura等,Science,1999年,第284巻,657−661頁)。低酸素状態では、プロリン水酸化が減少しながらHIF−1αタンパク質が蓄積される。蓄積されたHIF−1αが、転写因子で活性化されるには、核に移動してHIF−1βと結合する。HIF−1α/β異形複合体は、ターゲット遺伝子のプローモーターに位置する低酸素反応構成要素、HRE(Hypoxia resposive element)というDNA配列に結合して、転写活性に必要な転写補助因子であるp300/CBPなどのタンパク質に結合することで、血管生成及び細胞内エネルギー供給に必須なタンパク質の発現を増加させる(Nathali等,Biochem Pharmacol.,2004年,第68巻,971−980頁)。
【0004】
一方、酸素分子は、HIF−1αの安定化を阻害するのみならず、HIF−1αの転写活性を阻害する。FIH−1(factor inhibiting HIF−1α)は、HIF−1αの803番目アスパラギン残基を水酸化させる。HIF−1αの転写活性ドメインのアスパラギン残基の水酸化は、HIF−1αとCBPとの結合を妨害して転写活性がないHIF−1αの蓄積を誘導する。FIH−1は、最近発見されて、その活性が知られた酵素であり、その3次構造が明かされた(Lee等,J.Biol.Chem.,2003年,第278巻,7558−7563頁;Elkins等,J.Biol.Chem.,2003年,第278巻,1802−1806頁)。FIH−1もPHDと同じくFe2+を補助因子に使用して、2−オキソグルタル酸、酸素(O2)を基質に使用してHIF−1αの803番目アスパラギン残基を水和させることが明らかにされた(Lando等,Science,2002年,第295巻,858−865頁)。前記酵素は、PHDより2−オキソグルタル酸及び酸素に対するKm値が2倍以上低く、PHDが作用することができない酸素分圧でも一部機能できることが明らかにされた(Koivunen等,J.Biol.Chem.,2004年,第279巻,9899−9904頁)。
【0005】
HIF−1αの活性化によって発現が誘導される標的遺伝子は、EPO(erythropoietin)とVEGF(vascular endothelial growth factor)であり、前記遺伝子は、低酸素状態で保護機序の主要媒介子として作用する(Grimm等,Nat Med,2002年,第8巻,178−724頁:Calvillo等,Proc Natl Acad Sci USA,2003年,第100巻,4802−4806頁:Ferriero D.M.,Epilepsia.,2005年,第46巻,45−51頁;Simons,A.,Ware,J.A.,Nat Rev Drug Discov.,2003年,第2巻,863−871頁)。EPOとその受容体は脳で発現されて、脳梗塞による損傷時の神経保護と連関していて(Digicayolioglu,M.等,Proc Natl Acad Sci USA,1995年,第92巻,3717−3720頁;Ehrenreich,H.等,Metab Brain Dis.,2004年,第19巻,195−206頁)、生体内(in vivo)で脳梗塞発生時にニューロンを保護することが報告された(Sasaki等,Proc Natl Acad Sci USA,1998年,第95巻,4635−4640頁)。VEGFは、心筋梗塞研究において臨床1期及び2期実験で安定性と治療剤としての安定性が報告された(Yoon,Y.S.等,Mol Cell Biochem.,2004年,第264巻,1494−1504頁;Shah,P.B.and Losordo,D.W.,Adv Genet,2005年,第54巻,339−361頁;Simons,M.and Ware J.A.,Nat Rev Drug Discov.,2003年,第2巻,863−871頁;Henry,T.D.等,Circulation,2003年,第107巻,1359−1365頁 )。VEGFの血管形成活性によって損傷受けたニューロンと神経グリア(neuronglia)で新しい保護活性を有する(Rosenstein,J.M.and Krum,K,Exp Neurol,2004年,第187巻,246−253頁)。VEGFのレベルが阻害されると、筋萎縮性側索硬化症が発生して、還流と神経保護機能が低下する(Storkebaum,E..Lambrechts,D.,Carmeliet,P.,Bioessays,204年,第26巻,943−954頁)。
【0006】
クリオキノール(Clioquinol:以下「CQ」と略称する)は、Zn2+、Cu2+及びCa2+のような重金属イオンを選択的にキレート化させて、酵素活性及びタンパク質形成において重金属イオンの効果を調節するのに使用される。CQのpKa値は、Cu2+,15.8;Zn2+,12.5;Ca2+,8.1;Mg2+,8.6である(Agrawal,Y.K.等,J Pharm Sci.,1986年,第75巻,190−192頁)。CQは疎水性であり、血管脳関門を通過する。CQは最近アルツハイマー疾患、パーキンソン疾患、ホンチントン疾患でメタロタンパク質の沈殿とそれによる酸化ストレスを減少させるプロトタイプメタルタンパク質希少コンパウンド(prototype metal−protein attenuating compound)として再評価されている。CQは、1900年代中盤に抗生剤として脚光を浴びたが、日本で骨髓・視覚神経病症の原因として明かされ回収された(Cherny,R.A.,Neuron,2001年,第30巻,665−676頁;Kaur,D.等,Neuron,2003年,第37巻,899−909頁;Nguyen T.等,Proc Natl Acad Sci USA,2005年,第102巻,11840−11845頁)。最近、アルツハイマー疾患動物モデルであるAPP2576形質転換マウス研究でCQは、アミロイドベータプラグとアミロイドセラム数値を副作用なしに減少させると報告された(Doraiswamy,P.M.等,Lancet Neorul,2004年,第3巻,431−434頁)。最近、2工程臨床の調査でアルツハイマー患者36人を対象にした実験で、CQは認知減退を遅延させ、有意性をもってアミロイドベータ濃度を減少させた(Ritchie C.W.等,Arch Neurol,2003年,第60巻,1685−1691頁)。
【0007】
CQはまた、多くのヒト癌細胞株で細胞死の原因になる。これは、細胞死滅過程を通じて起きる。CQを処理した癌細胞株に銅またはジンク(zinc)を添加しても、CQによる細胞死は防ぐことができず、むしろさらに細胞死を増加させた。CQ処理細胞に蛍光標識でジンク数値が増加することが観察されたが、これを通じてCQがイオン透過担体(zinc ionophore)の活性化によって細胞死を起こすことが分かる(Ding,W.O.,等,Cancer Res.,2005年,第65巻,3389−3395頁)。
【0008】
CQのような金属キレートであるTPEN(テトラキス−(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン:C26H28N6)は、Zn2+、Cu2+及びFe2+のような重金属イオンを選択的にキレート化させて、酵素活性及びタンパク質形成において重金属イオンの効果を調節するのに使用される。TPENのpKa値は、Cu2+,20.2;Zn2+,15.4;Fe3+,14.4;Ca2+,3である(Cherny R.A.等,J Biol Chem.,1999年,第274巻,23223−23228頁)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の主な目的は、虚血性疾患治療剤としてクリオキノールまたはその誘導体の新しい用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明はクリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むHIF−1α活性剤を提供する。
【0011】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むFIH−1阻害剤を提供する。
【0012】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むVEGF発現誘導剤を提供する。
【0013】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むEPO発現誘導剤を提供する。
【0014】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む虚血性疾患治療剤を提供する。
【0015】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む血管生成誘導剤を提供する。
【0016】
また、本発明は、治療的有効量のクリオキノールまたはその誘導体を虚血性疾患にかかった患者に投与する工程を含む虚血の治療方法を提供する。
【0017】
同時に、本発明は、虚血性疾患治療剤の製造において、クリオキノールまたはその誘導体の用途を提供する。
【0018】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0019】
本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むHIF−1α活性剤を提供する。
【0020】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むFIH−1阻害剤を提供する。
【0021】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むVEGF発現誘導剤を提供する。
【0022】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むEPO発現誘導剤を提供する。
【0023】
クリオキノール(以下「CQ」と略称する:化学式2)は、重金属キレーターとして、Zn2+、Cu2+及びCa2+のような重金属イオンを選択的にキレート化させて、酵素活性及びタンパク質形成において重金属イオンの効果を調節するのに使用される。CQのpKa値は、Cu2+、15.8;Zn2+、12.5;Ca2+、8.1;Mg2+、8.6である。
【0024】
CQまたはその誘導体は、下記の化学式1のような構造を有する。
【0025】
【化1】
【0026】
Rは、Hまたはアセチル基、X1及びX2は独立して、Hまたはハロゲン族。
【0027】
前記ハロゲン族は、F、Br、ClまたはIであることが好ましい。
【0028】
CQ(化学式2)の誘導体では、5−クロロキノリン−8−イル アセテート(5−chloroquinolin−8−yl acetate:化学式3)、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン(5,7−diiodo−8−hydroxyquinoline:化学式4)、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン(5,7−dibromo−8−hydroxyquinoline:化学式5)、及び8−ヒドロキシキノリン(8−hydroxyquinoline:化学式6)などがあり、その化学式を下記に示す。
【0029】
【化2】
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
【化5】
【0033】
【化6】
【0034】
TPEN(テトラキス−(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン:C26H28N6)は、Zn2+、Cu2+及びFe2+のような重金属イオンを選択的にキレート化させて、酵素活性及びタンパク質形成において重金属イオンの効果を調節するのに使用される。TPENのpKa値は、Cu2+、20.2;Zn2+、15.4;Fe3+、14.4;Ca2+、3である(Cherny R.A.等,J Biol Chem.,1999年,第274巻,23223−23228頁)。
【0035】
本発明の発明者等は、低酸素状態でHIF−1αメカニズムに関与するPHD2のようなHIF−1α調節子、ユビキチン化構成酵素、CBPタンパク質がジンクフィンガー(zinc finger)モチーブを有するので、重金属キレートであるCQがHIF−1αメカニズムに及ぼす影響を調査し、重金属キレートであるTPENを使用してその効果を比較した。
【0036】
本発明の発明者等は、ヒトHepG2肝細胞とSH−SY5Y脳細胞にCQとTPENを処理して、HIF−1αの活性化を調査した。その結果、正常酸素状態でCQとTPENはすべてHIF−1αタンパク質を安定化させてその量を増加させた(図1参照)。また、正常酸素状態のSH−SY5Y脳細胞株にCQ及び陽イオン(Zu2+、Cu2+、Fe2+)を処理した結果、Zu2+及びCu2+をCQと処理した時、CQのHIF−1α蓄積効果が減少したが、Fe2+をCQと処理した時は、CQのHIF−1α蓄積効果に影響を及ぼし得ないことを確認した(図2参照)。本発明者等は、CQ誘導体(5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン及び8−ヒドロキシキノリン)をHepG2及びSH−SY5Y細胞株に処理した時、HIF−1αの安定化を増加させることを確認した(図3参照)。以後、CQとTPENがHIF−1αの標的遺伝子であるVEGFの活性に及ぼす影響を、RT−PCRで調査した。その結果、正常酸素状態でCQがTPENより非常に多くVEGFの発現を誘導することが確認された(図4参照)。また、CQ誘導体(5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン及び8−ヒドロキシキノリン)が、HepG2及びSH−SY5Y細胞株上でVEGFの発現を増加させた(図5参照)。それで、本発明者等は、低酸素状態で反応する低酸素反応構成要素(hypoxia−response element:以下「HRE」と略称する)で、CQ及びTPENの影響を調査した。その結果、CQによって低酸素状態で反応するHRE−依存遺伝子が、正常酸素状態でも強く発現誘導されることが分かった(図6参照)。これを通じて、CQとTPENはHIF−1αを安定化させるが、標的遺伝子発現誘導のためのHIF−1αの転移活性においては差を示すので、CQは TPENと異なりHIF−1α標的遺伝子であるVEGFの発現を誘導することが分かる。
【0037】
本発明者等は、CQがPHD2の変化に影響を与えるかどうか調査したが、VHL(von Hippel−Lindau)とHIF−1αの結合が402/564番目プロリンの水酸化に依存するので、ヒトHIF−1αタンパク質のODDドメイン(401−603アミノ酸)による[35S]−標識VHL捕捉を測定して調査した。その結果、TPENはCQと異なりPHD2の活性を増加させた(図7参照)。これを通じて、亜鉛キレートであるTPENとCQがPHD2の活性にお互いに異なって作用することが分かった。
【0038】
正常酸素状態でHIF−1αは、ユビキチン化によって分解される。それで本発明者等は、CQとTPENがHIF−1αのユビキチン化に及ぼす影響を調査した。その結果、CQとTPENは、正常酸素状態でHIF−1αのユビキチン化を阻害した(図8及び図9参照)。HIF−1αのユビキチン化は、pVHL、エロンジン(elongin)B、エロンジンC、Cul2、RbxからなるVCB E3リガーゼ複合体によって成り立つ(Iwai等,Proc Natl Acad Sci USA,1999年,第96巻,12436−12441頁;Kamura等,Science, 1999年,第284巻,657−661頁)。Rbx1は、ユビキチンリガーゼ活性度に重要な役割をするRING−H2−タイプジンクフィンガードメインを有していて(Kamura等,Science,1999年、第284巻,657−661頁)、CQがこのような活性を阻害するものと考えられる(Webster等,J Biol Chem,2003年,第278巻,38238−38246頁)。これを通じて、CQとTPENがHIF−1αのユビキチン化阻害を通じて、正常酸素状態でHIF−1αタンパク質の量を増加させることが分かる。
【0039】
HIF−1α転写活性は、803番アスパラギン残基の水酸化によって阻害され、これはFIH−1によって成り立つ(Dann等,Proc Natl Acad Sci USA,2002年,第99巻,15351−15356頁;Lando等,Science,2002年,第295巻,858−861頁)。HIF−1αの803番アスパラギン残基の水酸化は、HIF−1αと活性化補助因子であるCBPとの結合を阻害して、転写活性がない(non−function)HIF−1αの蓄積を誘導するので、HIF−1αはFIH−1の活性度が減少する時、転写活性が増加するようになる(Freeman等,Proc Natl Acad Sci USA,2002年,第99巻,5367−5372頁)。このような事実を基に本発明者等は、FIH−1の活性度に及ぼすCQとTPENの影響を調査した。放射線が標識されたHIF−1αを単独でレジンにローディングした場合、レジン中に充填されたCBPと結合した(図10Aのレーン1及び図10Bのレーン1参照)。放射線標識されたHIF−1αとFIH−1を反応させた時には、FIH−1によってHIF−1αの803番アスパラギン残基が水酸化されて、HIF−1αとCBPとの結合を妨害した(図10Aのレーン4参照)。放射線標識されたHIF−1α、FIH−1、TPENを一緒に反応させた時 、FIH−1によって水和されたHIF−1αは、CBPと結合することができなかったが、それを通じてTPENがHIF−1αに及ぼすFIH−1の活性に影響を及ぼすことができないことが分かる(図10Bのレーン6参照)。放射線標識されたHIF−1αとCQを反応させた時、HIF−1αはCBPと結合して(図10Aのレーン2、3及び図10Bのレーン2参照)、放射線標識されたHIF−1αとFIH、CQを一緒に反応させた時、CQの濃度が高くなれば、HIF−1αに対するFIH−1の活性を減少させることが分かる(図10Aのレーン5、6及び図10Bのレーン5参照)。
【0040】
また、Zn(II)またはCu(II)が、CQのFIH−1活性阻害に及ぼす影響を調査した。その結果、Zn(II)またはCu(II)は、CQがFIH−1の活性を阻害させるのに影響を及ぼすことができないことを確認した(図11のレーン4、5、6参照)。これを通じて、CQはZn(II)またはCu(II)の有無とは無関係に、FIH−1の活性を阻害することを確認した。以後、HIF−1αの803番目アスパラギン残基をアラニンに入れ替えたHIF−1α−C(N803A)突然変異体を製作して実験した。その結果、FIH−1とHIF−1α−C(N803A)を一緒に反応させた後、CBPとの結合を調査した。CQの有無やFIH−1の有無は、CBPとHIF−1α−C(N803A)との結合を変化させなかった。すなわち、CQの効果は、FIH−1がHIF−1αの803番目アスパラギン残基を水酸化する過程を抑制するからであることを間接的に提示している(図12参照)。
【0041】
本発明者等は、MALDI−TOF分析方法を使用して、CQ処理時のFIH−1の活性を調査した。その結果、CQがHIF−1αの803番目アスパラギン残基の水酸化を阻害させることを確認した(図13参照)
前記結果から分かるようにCQは、直接的にHIF−1αに対するFIH−1活性を減少させることが分かる。FIH−1は、HIF−1αの803番目アスパラギン残基を水酸化してCBPとHIF−1αの転写活性ドメインとの結合を妨害する。ゆえに、CQは FIH−1によるHIF−1αの803番アスパラギン残基の水酸化を妨害して、それを通じて転写機能を完全に有する(function)HIF−1αを蓄積させる。TPENは、 FIH−1の活性化を阻害することができないので、転写機能がない(non−function)HIF−1αを増加させる。これを通じてCQは、PHD2の活性は阻害しないで、ユビキチンによるタンパク質分解は抑制するので、プロリン残基が水酸化されたHIF−1αの蓄積を招来し、またFIH−1の活性を抑制することで蓄積されたHIF−1αの803番のアスパラギン残基は、水酸化されなくなる。
【0042】
本発明者等は、HIF−1αによる低酸素誘導転写活性(hypoxia−induced transactivation)に対する、CQとTPENの影響を調査した。これを調査するために共−免疫沈降法、リポーター遺伝子分析システム、ジンク存在下のHIF−1αとCBPとの結合を調査した。共―免疫沈降法を使用した調査で、803番のアスパラギンが水酸化されないHIF−1αは、活性化補助因子であるCBPと結合することが可能になる(図14Aレーン2参照)。一方、タンパク質分解抑制剤であるMG132 あるいはTPENの処理は、HIF−1αタンパク質の蓄積を引き起こすが、FIH−1の活性を抑制することができないので、蓄積されたHIF−1αは活性化補助因子であるCBPとの結合をすることができない(図14Aレーン1、図14Bレーン1、3参照)。イーストタンパク質であるGAL4のDNA結合部位とHIF−1αを融合したタンパク質(GAL4−HIF−1α)をGAL4結合部位を有するリポーターと一緒にトランスフェクションした後、GAL4−HIF−1αによるリポーター遺伝子の発現を調査することで、HIF−1αの転写活性のみを調査した。CQは、正常酸素状態にもかかわらずHIF−1αの転写活性を増加させた。それとは対照的に、TPENは正常酸素状態でHIF−1αの転移活性を増加させなかった(図15参照)。CBP自体がジンクフィンガードメインCH1を有していて、このCH1ドメインがHIF−1αと結合する部分であるので、ジンクキレーターであるCQとTPENがCH1 ドメイン構造を変化させることで、CBPとHIF−1αの結合を阻害する可能性を調査した。ジンク存在下のHIF−1αとCBPとの結合の調査結果、CQとTPENがHIF−1αとCBPとの結合に何らの影響を与えないことが分かった(図16参照)。このような結果を通じて、CQはFIH−1を抑制することでHIF−1αの転写活性を増大させて、正常酸素状態でHIF−1αとCBPの結合を増加させる。
【0043】
本発明の発明者等は、ノーザンブロット方法を通じてCQによるHIF−1α標的遺伝子VEGF及びEPOの発現を調査した。その結果、CQは正常酸素状態でVEGF及びEPOの発現を誘導した(図17参照)。
【0044】
本発明者等は、CQ及びその誘導体が血管生成に及ぼす影響を調査した結果、VEGFと同様に効果的な血管形成能力を有することを確認した(図18参照)。
【0045】
本発明は、CQ及びその誘導体を有効成分として含む虚血性疾患治療剤を提供する。前記虚血性疾患治療剤は、虚血性心臓疾患、虚血性脳疾患、虚血性末端疾患を対象にする。
【0046】
本発明の発明者等は、CQがVEGF及びEPOの発現を誘導して、CQ誘導体がVEGFの発現を誘導することを確認した。最近研究では、組換えVEGFタンパク質を使用して虚血性疾患及び心血管疾患を有した患者に適用したし(Yoon Y.S.等,Mol Cell Biochem,2004年,第264巻,63−74頁;Henry T.D.等,Circulation,2003年,第107巻,1359−1365頁 )、VEGF発現ベクターを虚血性心臓疾患患者に適用して安全性を確認した(Hedman M.等,Circulation,2003年,第107巻,2677−2683頁)。また、VEGFの発現調節を通じて虚血性脳疾患で神経細胞保護効果が現われることが報告された(Storkebaum E.,Lambrechts D.,Carmeliet P.,Bioessays,2004年,第26巻,943−954頁;Jin K.L.,Mao X.O.,Greenberg D.A.,Proc Natl Acad Sci USA,2000年,第97巻,10242−10247頁;Sun Y.等,J Clin Invest,2003年,第111巻,1843−1851頁;Zhu W.等,Neurosurgery,2005年,第57巻,325−333頁)。EPOの場合、組換えEPOタンパク質は、心筋梗塞及び脳梗塞疾患で細胞保護効果を示すことが多数の論文で報告された(Cai Z.等,Circulation,2003年,第108巻,79−85頁;Ehrenreich H.等,Metab Brain Dis,2004年,第19巻,195−206頁;Sakanaka M.等,Proc Natl Acad Sci USA,1998年,第95巻,4635−4640頁;Ehrenreich H.等,Mol Med,2000年,第8巻,495−505頁)。したがって、CQ及びその誘導体は、VEGF及びEPO発現増加を通じて虚血性疾患の治療に使用することができる。
【0047】
本発明のCQ及びその誘導体はそのまま、または薬学的に許容可能な塩の形態で使用することができる。本発明で使用可能な塩では、薬剤学的に許容可能な無毒性塩なら特別に限定されない。例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、ブロム化水素酸、ギ酸、酢酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、メタルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホ酸、ナフタリンスルホン酸などの塩形態で使用することができる。
【0048】
本発明の虚血性疾患治療剤は、虚血性疾患の予防及び治療のために単独で、または手術、ホルモン治療、化学治療及び生物学的反応調節剤を使用する方法と併用して使用することができる。
【0049】
本発明の虚血性疾患治療剤は、前記CQ及びその誘導体に追加で同一または類似の機能を示す有効成分を1種以上含むことができる。薬剤学的に許容可能な担体は、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液,グリセロール、エチルアルコール及びこれら成分の中で1成分以上を混合して使用することができ、必要によって抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など他の通常の添加剤を添加することができる。本発明の組成物は、実際臨床投与時に経口及び非経口のさまざまな剤形で投与され得る。製剤化する場合には、普通使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調剤される。さらに、当分野の適正な方法で、またはRemington’s Pharmaceutical Science(最近版)、Mack Publishing Company,Easton PAに開示されている方法を使用して、各疾患によってまたは成分によって好ましく製剤化することができる。
【0050】
本発明の組成物は、目的とする方法によって経口投与したり非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)でき、投与量は患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度などによってその範囲が多様である。 投薬単位は、例えば個別投薬量の1、2、3または4倍で、または1/2、1/3または1/4倍を含むことができる。個別投薬量は、好ましくは有効薬物が1回に投与される量を含み、これは通常1日投与量の全部、1/2、1/3または1/4倍に当たる。
【0051】
有効用量は、0.5〜6mg/kgで、好ましくは3mg/kgであり、一日に1〜3回投与することができる。用量は必ずこれに限定されるものではなく、患者の状態及び疾患の発病程度によって変わり得る。
【0052】
本発明は、CQ及びその誘導体を有効成分として含む血管新生誘導剤を提供する。
【0053】
CQ及びその誘導体は、VEGFと同様に効果的に血管生成能力を有することで(図18参照)、血管生成誘導剤として有用に使用することができる。
【0054】
本発明は、治療的有効量のCQを虚血性疾患にかかった患者に投与する工程を含む虚血性疾患の治療方法を提供する。
【0055】
前記虚血性疾患では、虚血性心臓疾患、虚血性脳疾患、虚血性末端疾患が含まれる。CQは、好ましくは経口または注射液(静脈内または皮下)で投与され、対象に投与される正確な量は、担当医療者の責任下にある。しかし、ここに使用される治療的有効量は、対象の年及び性別、治療が行われる正確な疾病、及び疾病の重症度を含んだ多数の因子に影響を受ける。また、投与経路は、患者の状態及びその重症度によって変化することができる。
【0056】
本発明は、虚血性疾患治療剤の製造において、CQ及びその誘導体の用途を提供する。
【0057】
本発明者等は、CQ及びその誘導体がHIF−1αの転写活性を有するようにして、HIF−1α標的遺伝子であるVEGF及びEPOの発現を誘導することを証明することにより、虚血性疾患治療剤の製造に使用され得るCQ及びその誘導体の新しい用途を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明する。
【0059】
但し、下記実施例は本発明を例示するだけであって、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
実施例1:HIF−1α安定化に対するクリオキノール、その誘導体とTPENの影響調査
実施例1−1:HepG2細胞でHIF−1α安定化に対するCQとTPENの影響調査
ヒトHepG2肝細胞(hepatoma cell:ATCC HB−8065)を正常酸素状態と低酸素状態で培養した。HepG2細胞は、非必須アミノ酸が含まれているMEM(Invitrogen,米国)に10%FBS(fetal bovine serum:Biowhittaker,米国)が入っている培地で培養した。細胞を低酸素状態で培養するために嫌気性培養器(anaerobic incubator:Model 1029,Forma Scientific.Inc)で5%CO2、10%H2、85%N2で37℃で培養した。薬物と低酸素を一緒に処理した場合、薬物は1時間前に処理して、追加で低酸素処理をして、RNA分離をする時は低酸素状態で16時間培養した。タンパク質分離のためには、6時間低酸素状態で培養した。前記培養した正常酸素状態ヒトHepG2肝細胞には、CQ(Calbiochem,米国)(10,100,500μM)とTPEN(Calbiochem,米国)(5μM)を、低酸素状態のヒトHepG2肝細胞には、CQ(10,100μM)とTPEN(5μM)を6時間処理した。その後、ウエスタンブロット方法でHIF−1αの発現を調査した。それぞれの群から取った試料を8%SDS−PAGEに電気泳動を遂行してニトロセルロース膜(Schleicher&Schuell Bioscience,米国)に移動させた。以後、1次抗体で抗−ヒトHIF−1α抗体(BD Pharmingen,米国)(1:800に希釈)を使用し、2次抗体ではマウス−Ig複合ホースラディシュペルオキシダーゼ(mouse Ig conjugated horseradish peroxidase)(1:3,000に希釈)を使用した。対照群のために抗β―チュブリン(tubulin)抗体(BD,Pharmingen,米国)を使用した。
【0060】
本実験の結果、ヒト肝細胞で正常酸素状態の時、TPENはHIF−1αタンパク質の量を増加させ、CQもHIF−1αを大きく増加させた。低酸素状態では、対照群と比較した時、TPEN及びCQの両方でHIF−1αの蓄積が起きた(図1A)。
実施例1−2:SH−SY5Y細胞でHIF−1α安定化に対するCQとTPENの影響の調査
ヒトSH−SY5Y脳細胞(neuroblastoma cell:ATCC CRL−2266)を正常酸素状態と低酸素状態で培養した。SH−SY5Y細胞は、非必須アミノ酸が含まれているMEM(Invitrogen,米国)に10%FBS(fetal bovine serum:Biowhittaker,米国)が入っている培地で培養した。細胞を低酸素状態で培養するために嫌気性培養器(anaerobic incubator:Model 1029,Forma Scientific.Inc)で5% CO2、10%H2、85%N2で37℃で培養した。薬物と低酸素を一緒に処理した場合、薬物は1時間前に処理して、追加で低酸素処理をし、RNA分離をする時は低酸素状態で16時間培養した。タンパク質分離のためには、6時間低酸素状態で培養した。前記培養した正常酸素状態のヒトSH−SY5Y脳細胞には、TPEN(5μM)とCQ(10,100μM)を、低酸素状態のヒトSH−SY5Y脳細胞には、CQ(100μM)を6時間処理した。その後、ウエスタンブロット方法でHIF−1αの発現を調査した。それぞれの群から取った試料を8%SDS−PAGEに電気泳動を遂行してニトロセルロース膜(Sigma,米国)に移動させた。以後、1次抗体で抗−ヒトHIF−1α抗体(BD,Pharmingen,米国)(1:800に希釈)を使用し,2次抗体ではマウス−Ig複合ホースラディシュペルオキシダーゼ(mouse Ig conjugated horseradish peroxidase)(1:3,000に希釈)を使用した。対照群のために抗β―チュブリン抗体(BD,Pharmingen,米国)を使用した。
【0061】
本実験の結果、ヒト神経細胞でTPENは、HIF−1αタンパク質量を増加させ、CQもHIF−1αを多く蓄積させた。低酸素状態では対照群、TPEN、及びCQすべてでHIF−1αタンパク質量の蓄積が起きた(図1B)。
実施例1−3:SH−SY5Y細胞でのHIF−1α安定化に対するCQと陽イオンの影響の調査
ヒトSH−SY5Y脳細胞株を実施例1−2と同様に正常酸素状態と低酸素状態で培養した。ヒトSH−SY5Y脳細胞株を正常酸素状態で培養した後、CQ(50μM)を処理し、それぞれZn2+(10μM)、Cu2+(10μM)及びFe2+(10μM)を一緒に処理した後、16時間培養した。以後、実施例1−2と同じ方法でウエスタンブロットを遂行してHIF−1αの発現を調査した。
【0062】
実験結果、Zn(II)とCu(II)添加時に、CQの効果が減少した(図2A)。これを通じてHIF−1αは、Zn(II)及びCu(II)の枯渇によって安定化することが分かった。Fe(II)の添加の場合、CQ効果を減少させることができないので(図2B)、Fe(II)はCQによるHIF−1αの安定化と関連しないことが分かった。
実施例1−4:HepG2及びSH−SY5Y細胞でHIF−1α安定化に対するCQ誘導体の影響の調査
本発明者等は、CQ誘導体(5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン、8−ヒドロキシキノリン)がHepG2及びSH−SY5Y細胞上でHIF−1αの安定化に及ぼす影響を調査し、実施例1−1及び実施例1−2と同一な方法で調査した。具体的に、HepG2及びSH−SY5Y細胞を実施例1−1及び1−2の方法で細胞株を培養し、CQ及びCQ誘導体を5、10、50及び100μMの濃度で処理した。その後、実施例1−1及び実施例1−2と同じ方法でウエスタンブロットを遂行した。対照群のために抗Hsp70抗体(Stressgen,カナダ)を使用した。
【0063】
その結果、CQ誘導体(5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン、8−ヒドロキシキノリン)は、CQと同じくHIF−1αを安定化させることを確認した(図3)。
実施例1−5:HIF−1α標的遺伝子VEGF発現に対するCQとTPENの影響の調査
ヒトSH−SY5Y脳細胞株とヒトHepG2肝細胞株を実施例1−1及び1−2と同様に正常酸素状態と低酸素状態で培養した。ヒトSH−SY5Y脳細胞とヒトHepG2 肝細胞を正常酸素状態で培養した後、TPEN(5μM)、CQ(10,100μM)を処理し、低酸素状態で培養した細胞株にはTPEN(5μM)、CQ(100μM)を16時間処理した。以後、全体RNAは、RNaseスピンカラム(Qiagen,米国)を使用して分離した。分離したRNAの中で1μlを使用してAMV逆転写酵素(Promega,米国)とランダムヘキサマー(Gibco−BRL,米国)でcDNAを合成した。合成されたcDNAを鋳型にして配列番号1で記載されるVEGF正方向プライマー(5’−ccatgaactttctgctgtctt−3’)と配列番号2で記載されるVEGF逆方向プライマー(5’−atcgcatcaggggcacacag−3’)を使用してRT−PCRを遂行した。RT−PCR条件は、下記のとおりである。95℃で5分間初期変性過程を経た後、95℃で45秒間変性反応、56℃で45秒間プライマー結合反応、72℃で60秒間長さ延長反応を遂行し、前記過程を30回繰り返した。対照群に配列番号3で記載される18S正方向プライマー(5’−accgcagctaggaataatggaata−3’)と配列番号4で記載される18S逆方向プライマー(5’−ctttcgctctggtccgtctt−3’)を使用してPCRを遂行した。RT−PCR条件は下記のとおりである。95℃で5分間初期変性過程を経た後、95℃で45秒間変性反応、56℃で45秒間プライマー結合反応、72℃で60秒間長さ延長反応を遂行し、前記過程を30回繰り返した。
【0064】
本実験の結果、ヒトSH−SY5Y脳細胞株の場合、正常酸素状態でCQがTPENとは異なってVEGFの発現を増加させることを確認した。低酸素状態の場合、CQがVEGFの発現を増加させ、TPENの場合多少減少させた。ヒトHepG2肝細胞株の場合も、CQがTPENとは異なってVEGFの発現を増加させ、低酸素状態では対照群、TPEN、CQを処理するにおいて、VEGFの発現に変化がなかった(図4)。
実施例1−6:HIF−1α標的遺伝子VEGF発現に対するCQ誘導体の影響の調査
ヒトHepG2細胞及びSH−SY5Y細胞株を実施例1−1及び1−2と同じ条件で培養した。以後、細胞にCQ及びCQ誘導体(5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン、及び8−ヒドロキシキノリン)を5、10、50及び100μMで処理して実施例1−5と同じ方法でRT−PCRを遂行した。
【0065】
その結果、HepG2細胞株でCQ誘導体は、低酸素状態とCQを処理した時、SH−SY5Y細胞株でよりVEGFの発現を増加させることができなかった。CQ誘導体である5−クロロキノリン−8−イル アセテート(50μM)、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン(25μM)及び8−ヒドロキシキノリン(50μM)の場合、CQが増加させたVEGF発現増加量の40〜50%を増加させ、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン(50μM)は、CQが増加させたVEGF発現増加量の60〜70%を増加させた(図5)。
実施例1−7:HepG2肝細胞で低酸素反応構成要素(HRE:hypoxia−response element)−依存遺伝子発現に対するCQとTPENの影響の調査
ヒトHepG2肝細胞を5×104個になるように培養した後、100ngのHRE−レポータープラスミド、p(HRE)4−lucとβ−ガラクトシダーゼがクローニングされたpCHO110を形質転換させた。形質転換したヒトHepG2肝細胞を正常酸素状態と低酸素状態でそれぞれ培養した後、それぞれTPEN(5,10μM)、CQ(10,50μM)を16時間それぞれ処理し、形質転換して48時間以後、ルシフェラーゼ分析をレポーター遺伝子分析システム(Promega,米国)を使用して測定し、β−ガラクトシダーゼの活性度の値を使用してサンプルごとに差がでるトランスフェクション効率を補正した。
【0066】
本実験の結果、CQはTPENとは異なり、HIF−1αの低酸素反応構成要素の活性を誘導することを確認した(図6)。
実施例2:PHD2活性化に対するCQとTPENの影響の調査
本発明者等は、PHD2活性変化に及ぼすCQの影響を調査した。ヒトPHD−2遺伝子(AJ310543)は、pET21b His2(+)ベクターにクローニングし、ヒスチジンがタグされた融合タンパク質で大腸菌で過発現させて、Ni−吸着クロマトグラフィー方法で精製した(Choi,K.O.等,Mol.Pharmacol.,2005年,第68巻,1803−1809頁)。これを使用して、Haakkolaなどの方法で試験管内(in vitro)VHLプルダウン分析(pull down assay)を遂行した(Haakkola,P.等,Science,2001年,第292巻,468−472頁)。詳しくは、[35S]−メチオニン−標識VHLタンパク質([35S]−methionine−labeled VHL protein)を製造社の方法にしたがってpcDNA3.1/myc−hygro−VHLプラスミド(Promega,Cat# L1170,米国)を使用して試験管内転写及び翻訳によって合成した。GST−ODD(ヒトHIF−1α401−603アミノ酸)は、大腸菌で発現させてグルタチオンユニフローレジン(glutathione−uniflow resin)を使用して製造社の方法(BD Bioscience Clontech,Cat# 8912−1,米国)にしたがって精製した。レジンに結合したGST−ODD(200μgタンパク質/約80μlレジン体積)は、1.5〜3μgPHD2が含まれた200μl NETNバッファー[200mM Tris(pH8.0),100mM NaCl,1mM EDTA,0.5%Nonidet P−40,1mM PMSF]に、2mMアスコルビン酸、100μM FeCl2,5mM α−ケトグルタレート(ketoglutarate)が存在する状態で、30℃条件で90分間撹拌して反応させた。反応混合物を500×gで2分間遠心分離し、10倍体積のNETNバッファーで3回洗浄した。レジンに結合されたODDは、10μM[35S]−標識VHLが含まれた50μl EBCバッファー[120mM NaCl,50mM Tris−HCl(pH8.0)、0.5%(v/v)Nonidet P−40]と混合した。4℃で2時間撹拌した後、レジンを1ml NETNバッファーで3回洗浄し、タンパク質は3X SDSサンプルバッファーで溶出後、12%SDS−PAGEで分離して放射線撮影方法で検出した。それぞれの試料量は、クマシー染色法でGST−ODDを染色してモニターした。
【0067】
その結果、TPENはCQと異なり、PHD2の活性を増加させた(図7)。
実施例3:HIF−1αユビキチン化に対するCQとTPENの影響の調査
実施例3−1:試験管内(in vitro)ユビキチン化調査
HeLa細胞は、DMEM(Invitrogen,米国)に10%FBS(fetal bovine serum:Biowhittaker,米国)が入っている培地で培養した。100mM培養プレートに80%程度育った時、HeLa細胞を冷却した保存抽出バッファー(hypotonic extraction buffer:20mM Tris−HCl(pH 7.5),5mM KCl,1.5mM MgCl2,1mM dithiothreitol,2μg/ml aprotinin,2μg/ml leupeptin,0.2mM PMSF)で2回洗浄した。バッファー除去した後、細胞を細胞破砕機(Dounce homogenizer)を使用して破砕して10,000×gで10分間4℃で遠心分離を遂行して細胞残物と核酸を除去した。上澄み液(S−10分画)は、−70℃に保存した。ユビキチン化の調査は、30℃で270分間遂行し、2μl[35S]−ラベルヒトHIF−1α−プログラム網状赤血球、27μl S−10抽出物、4μl 10×ATP−再生システム(20mM Tris(pH 7.5)、10mM ATP、10mMマグネシウムアセテート、300mMクレアチンホスファート、0.5μg/mlクレアチンホスホキナーゼ)、5mg/mlユビキチン(Sigma,米国)の4μl、150μMユビキチンアルデヒド(Sigma,米国)0.83μlを含んで最終体積40μlになるようにして遂行した。CQを処理した試料は、CQ100μMを含んで遂行した。SDS試料バッファーを添加し、反応生産物は6%SDS−PAGEゲルに電気泳動した後、放射線写真撮影(autoradiography)で分析した(Cockman等,J Biol Chem,2000年,第275巻,25733−25741頁)。
【0068】
本実験の結果、CQはHIF−1αのユビキチン化を抑制することを確認した(図8)。
実施例3−2:生体内(in vivo)ユビキチン化調査
ヒトHepG2肝細胞株にTPEN(5μM)、CQ(100μM)、MG132(5μM)を処理して、6時間正常酸素状態で培養した。その後、ウエスタンブロット方法でHIF−1αのユビキチン化を調査した。ウエスタンブロット方法は、実施例1−2と同じ方法で遂行した。
【0069】
MG132は、特異的に26Sプロテアソーム(proteasome)を特異的に阻害して、正常酸素状態でもユビキチン接合HIF−1αの分解を阻害する。本実験結果、CQはHIF−1αのユビキチン化を妨害して正常酸素状態でHIF−1αを蓄積させて、これは実施例3−1の試験管内ユビキチン化の調査と同一な結果を得ることができた(図8)。
実施例4:FIH−1に対するCQとTPENの影響の調査
HIF−1αによる転写活性は、803番アスパラギン残基の水酸化によって阻害され、これはFIH−1によってなされる(Dann等,Proc Natl Acad Sci USA,2002年,第99巻,15351−15356,頁;Lando等,Science,2002年,第295巻,858−861頁)。HIF−1αの803番アスパラギン残基の水酸化は、HIF−1αと活性化補助因子であるCBPとの結合を阻害するので、HIF−1αはFIH−1の活性度が減少する時、活性が増加するので(Freeman等,Proc Natl Acad Sci USA,2002年,第99巻,5367−5372頁)、CQとTPENがFIH−1の活性度に及ぼす影響を調査した。また、CQとZn(II)またはCu(II)を実施例1−3と同じに処理してFIH−1の活性度に及ぼす影響を調査した。
実施例4−1:試験管内FIH−1活性化の調査
ヒトFIH−1遺伝子(AF395830)は、pET28aベクター(Novagen,米国)にクローニングし、FIH−1をヒスチジン標識融合タンパク質でE.coliで大量発現して、ニッケル−親和クロマトグラフィー(Ni−affinity chromatography)で精製した。融合タンパク質は、ゲルろ過クロマトグラフィー(gel−filtration chromatography:Hi−Load Superdex 200)で精製し、限外ろ過(ultrafiltration)で濃縮した(Choi等,Mol Pharmacol,2005年,第68巻,1803−1809頁)。
【0070】
20μl[35S]−ラベルヒトHIF−1αタンパク質を精製したFIH−1タンパク質とともに反応バッファー(200μl;20mM Tris−HCl(pH 7.5),5mM KCl,1.5mM MgCl2,1mM DTT,2mMアスコルビン酸,2mM α−ケトグルタレート,250μM FeSO4)で1時間30℃で反応するようにした。固定されたGST−CBP N−ドメイン(アミノ酸1−450)(Kamei等,Cell,1996年,第85巻,403−414頁)1μgを混合物それぞれに500μl結合バッファー(200mM Tris.HCl(pH 8.0),150mM NaCl,20μM ZnCl2,0.5mM DTT)とともに混合して、4℃で1時間放置した。グルタチオン−ユニフローレジン(glutathione−uniflow resin)に結合したタンパク質を1mlの0.1%Nonidet P−40が含まれた結合バッファーで4回洗浄し、SDS試料バッファーで加熱して溶出させてSDS−PAGEで分析した(Dann等,Proc Natl Acad Sci USA,2002年,第99巻,15351−15356)。また、本発明者等は、HIF−1αの803番残基アスパラギンをアラニンに入れ替えて、HIF−1α突然変異体[HIF−1α−C(N803A)]を製作して、前記と同じ方法で実験してFIH−1の活性に及ぼす影響を調査した。
【0071】
放射線標識されたHIF−1αを精製した組換えFIH−1と反応させ、CQまたはTPEN有無条件で遂行した。FIH−1は、HIF−1αの803番アスパラギン残基を水酸化させてHIF−1αの転写活性ドメインに結合するCBPとの結合を阻害させるだろう(Mahon,P.C.等,Genes Dev.,2001年,第15巻,2675−2686頁;Dannm C.E.R.等,Proc.Natl.Acad.Sci USA,2002年,第99巻,15351−15356頁;Lando,D.,等,Science,2002年,第295巻,858−861頁;Freedman,S.J.等,Proc.Natl.Acad.SciUSA,2002年,第99巻,5367−5372頁)。
【0072】
実験の結果、放射性標識されたHIF−1αは、ビーズに結合したGSR−CBPタンパク質と結合して、FIH−1単独処理時、HIF−1αとCBPとの結合が顕著に減少した(図10Aレーン1、4及び図10Bレーン1、4)。FIH−1は、HIF−1αの803番目アスパラギンを水酸化させることで、HIF−1αの転写活性ドメインとCBPとの結合を減少させることにより、FIH−1活性はHIF−1αとCBPとの結合を減少させた。本発明者等は、FIH−1活性に及ぼすCQの効果を確認した。CQ(10μM及び50μM)存在時、FIH−1の活性が減少することによりHIF−1αとCBPとの結合が増加した(図10Aレーン5、6、図10Bのライン5、図11Aレーン4及び図11Bレーン4)。しかし、TPENの場合、FIH−1活性を減少させることができなかった(図10Bのライン3、6)。
【0073】
Zn(II)またはCu(II)が、CQのFIH−1活性阻害に及ぼす影響を調査した。その結果、Cu(II)及びZn(II)は、CQのFIH−1活性阻害効果に影響を及ぼさなかった(図11)。
【0074】
本発明者等は、HIF−1αの803番目アスパラギンをアラニンに入れ替えたHIF−1α−C(N803A)突然変異体を製作して実験した。FIH−1とHIF−1α−C(N803A)を一緒に反応させた後、CBPとの結合を調査した。その結果、CQの有無やFIH−1の有無は、CBPとHIF−1α−C(N803A)との結合を変化させなかった。すなわち、CQの効果は、FIH−1がHIF−1αの803アスパラギン残基を水酸化する過程を抑制するからであることを間接的に提示している(図12)。
実施例4−2:MALDI−TOFを使用したFIH−1活性に対するCQ影響の調査
本発明者等は、FIH−1の活性化をF−HIF−1αペプチドのアスパラギン水酸化有無測定を通じて評価した。ペプチドの水酸化は、質量分析(Mass spectrophotometry)方法で測定した。
【0075】
詳しくは、N末端にフルオレセイン(fluorescein)とaca(アミノカプロン酸)リンカー(AnyGen,KwangJu,韓国)を含んだF−HIF−1α(788−822アミノ酸:FITC−aca−DESGLPQLTSYDCEVNAPIQGSRNLLQGEELLRAL)を、FIH−1タンパク質との反応に使用した。前記F−HIF−1αペプチドを、2.8μg組換えFIH−1が含まれた反応溶液[20mM Trisバッファー(pH7.5),5mM KCl,1.5mM MgCl2、100μM α−ケトグルタル酸及び400μMアスコルビン酸:最終体積50μl]に最終濃度が4μMになるように添加した。その後、室温で2時間撹拌しながら反応させて、ZipTipC18(Millipore,米国)を使用して塩を除去した。前記F−HIF−1αペプチドは、0.1%TFA(trifluoroacetic acid)を含むアセトニトリル/蒸留水(50:50v/v)溶液にa−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(a−cyano−4−hydroxycinnamic acid)を添加してtipで溶出した。以後、0.1%TFAを含む蒸留水で洗浄した。溶出されたペプチド溶液をMALDI試料プレートに移して、Voyagerアナライザー(Applied Biosystems,米国)を使用してMALDI−TOF測定を遂行した。
【0076】
その結果、FIH−1処理時のペプチドの分子量が16増加したMALDI−TOF ピークが観察された(図13A及び13B)。これを通じて組換えFIH−1がHIF−1αの803番目アスパラギンを水酸化させることが分かった。これとは対照的に、CQとFIH−1を一緒に処理した場合、分子量の変化を観察することができなかった(図13C及び13D)。これを通じて、CQがFIH−1のアスパラギンを水酸化させる活性を阻害することが分かった。
実施例5:HIF−1αによる低酸素誘導転写活性(hypoxia−induced transactivation)に対するCQとTPENの影響の調査
実施例5−1:共−免疫沈降法(co−immunoprecipitation)を使用したCQとTPENの影響の調査
ヒトHepG2肝細胞は、100mmプレートに80%になるように培養して、正常条件でMG132(5μM)を6時間処理して、正常酸素状態でCQ100μMを処理した。全体細胞抽出物は、Jaakkolaなどの方法で準備した(Jaakkola等,Science,2001年,第292巻,468−472頁)。免疫沈殿のために全体細胞溶解質(lysate)試料200μgを抗マウスIgG(Santa Cruz Biotechnology,米国)1μg、0.5%ImmunoPure不活性プロテインA/Gゲル(Pierce,米国)10μlと4℃で30分間反応させた。プロテインA/Gゲルを除去した後、澄んだ反応液を抗−CBP抗体(抗−CBP抗体:Santa Cruz Biotechnology,米国)1μgと混合した。0.5%ImmunoPure不活性プロテインA/Gゲル15μlを添加した後、混合物を4℃で16時間以上放置した。免疫沈殿物を沈殿させて、PBSで4回洗浄した後、SDS試料バッファーで反応を中断させた。試料は、5分間加熱して、8%SDS−ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した後、セミドライ転写(Trans−Blot SD,Bio−Red,Hercules,米国)を使用してニトロセルロース膜に移動させた。共−免疫沈降タンパク質を抗体−ヒトHIF−1α抗体(anti−humanHIF−1αantibody)(BD,Pharmingen,米国)及び/または抗−CBP抗体で反応させて、増進された化学発光(hanced chemiluminescence)によって、抗−マウスまたは抗−ウサギIg結合ホースラディシュペルオキシダーゼ(conjugated with horseradish peroxidase:HRP)を2次抗体に使用して製作者の指示にしたがって(Amersham,米国)視覚化させた。
【0077】
本実験の結果、CQを処理した細胞と低酸素状態の細胞でHIF−1αはCBPと結合したが、MG132を処理した細胞ではHIF−1αがCBPと結合しなかった(図14A)。MG132は、26Sプロテアソームを特異的に阻害して、正常酸素状態でもユビキチン接合HIF−1αの分解を阻害する。MG132処理細胞では、FIH−1がHIF−1αの803番アスパラギン残基の水酸化が起きるのでCBPと結合しない。TPENの場合、HIF−1αとCBPと結合しない(図14)。
実施例5−2:レポーター遺伝子分析システムを使用したCQとTPENの影響の調査
ヒトHepG2肝細胞5×104個になるように培養した後、100ngのGal4−作動レポータープラスミド(Gal4結合サイト(binding site)とホタルルシフェラーゼ遺伝子(firefly leuciferase gene)融合)とpGal4/HIF−1αプラスミド(酵母Gal4タンパク質(1−147アミノ酸)のDNA結合ドメインと融合したHIF−1αを発現するプラスミド)を形質転換させた。形質転換されたヒトHepG2肝細胞を正常酸素状態と低酸素状態でそれぞれ培養した後、正常酸素状態にCQ(10,50μM)を16時間処理し、形質転換して48時間以後、ルシフェラーゼ分析をレポーター遺伝子分析システム(Promega,米国)を使用して測定し、β−ガラクトシダーゼの活性度で値を平均化した。TPENの場合、ヒトHepG2肝細胞を正常酸素状態と低酸素状態で培養した後、それぞれTPEN(5μM)を16時間処理した。
【0078】
Gal4融合タンパク質は、Gal4結合サイトに結合することができるので、リポーター遺伝子はHIF−1αが転写活性度を示す時のみ転写することができる。本実験結果、CQは正常酸素状態でHIF−1αの転移活性度を増加させる。それとは対照的に、TPENの場合、低酸素状態ではHIF−1αの活性を増加させるが、正常酸素状態ではHIF−1αの活性を増加させることができない(図15)。
実施例5−3:試験管内(in vitro)HIF−1αとCBPの結合に対するCQとTPENの影響の調査
20μl[35S]−ラベルヒトHIF−1αタンパク質と固定されたGST−CBP N−ドメイン(アミノ酸1−450)(Kawei等,Cell,1996年,第85巻,403−413頁)を、ZnCl2のない状態またはZnCl2 20μMで一緒に反応バッファー(200μl;20mM Tris−HCl(pH 7.5),5mM KCl,1.5mM MgCl2,1mM DTT)で1時間、4℃で反応するようにした。グルタチオン−ユニフローレジン(glutathione−uniflow resin)に結合したタンパク質を1mlの0.1%Nonidet P−40が含まれた結合バッファーで4回洗浄し、SDS試料バッファーで加熱して溶出させてSDS−PAGEで分析した(Dann等,Proc Natl Acad Sci USA,2002年,第99巻,15351−15356頁)。
【0079】
本実験の結果、CBPがHIF−1αと結合するためにジンクフィンガードメイン(zinc finger domain)CH1を有しているにもかかわらず、ZnCl2 存在してCQとTPEN処理時、HIF−1αとCBPとの結合には何らの影響を与えない(図16)。
実施例6:HIF−1α標的遺伝子VEGF及びEPOの発現に対するCQに対する影響の調査
ヒトHepG2肝細胞及びSH−SY5Y脳細胞をCQ(10,50μM)を処理した後、正常酸素状態と低酸素状態で16時間培養した。以後、全体RNAは、RNaseスピンカラム(Qiagen,米国)を使用して分離した。VEGFの発現は、ノーザンブロット方法を使用して調査した。ノーザンブロットハイブリダイゼーションは、32P−ラベルされたVEGF cDNAプローブ及び32P−ラベルされたEPO cDNAプローブで遂行した。ノーザンブロット方法は、当業者に知られた公知の方法を使用した(Sambrook等,Molecular cloning,1989年)。
【0080】
本実験の結果、CQは正常酸素状態でVEGF及びEPOの発現を増加させる(図17)。
実施例7:血管生成でのCQ及びCQ誘導体の影響の調査
本発明者等は、血管CQ及びCQ誘導体が血管生成に及ぼす影響を調査するために、CAM(choriallantoic membrane)分析を遂行した(Cho,H.等,Oncol Rep.,2004年,第11(1)巻,191−195頁)。具体的に本発明者等は、受精したたまごを37゜C及び55%湿潤条件の湿潤培養器に保管した。10日後に、たまごアルブミン2mlを皮下注射器を使用して除去して、CAM及び卵黄嚢が卵殻膜から分離するようにした。10.5日に卵殻(1cm2)を除去した。血管形成能を調査するために、VEGF(10ng)、CQ(10,50μM溶液10μl:30.6ng,152.8ng)、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン(10,50μM溶液10ul:39.7ng,198.5ng)、及び5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン(10,50μM溶液10ul:30.3ng,151.5ng)が含まれた滅菌循環フィルターペーパー(0.5cm,diameter,Whatmann,UK)を室温で乾燥し、Y型血管分岐点上のCAM(choriallantoic membrane)に適用した。3日以後に、10%脂肪油剤1〜2mlを繊毛尿膜に注入して顕微鏡で観察した。
【0081】
その結果、CQとその誘導体(5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン及び5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン)が、血管生成を促進することを確認した(表1及び図18)。
【0082】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0083】
前記で詳しくみたように、本発明のクリオキノール及びその誘導体は、正常酸素状態の細胞でHIF−1α(Hypoxia−inducible factor−1α)のユビキチン化を阻害してHIF−1αを蓄積させる一方、FIH−1の活性化を阻害してHIF−1αの転写活性を増加させて、HIF−1α標的遺伝子であるVEGF(vascular endothelial growth factor)及びEPO(erythropoietin)の発現を誘導するので、虚血性疾患治療剤として有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】クリオキノールとTPENによるHIF−1αの発現をウエスタンブロット方法で調査した結果を示した図である。
【0085】
N:正常酸素状態(normoxia)
H:低酸素状態(hypoxia)
【図2】CQ及び陽イオンによるHIF−1αの発現をウエスタンブロット方法で調査した結果を示した図である。
【0086】
N:正常酸素状態
H:低酸素状態
【図3】CQ及びCQ誘導体によるHIF−1αの発現をウエスタンブロット方法で調査した結果を示した図である。
【0087】
N:正常酸素状態
H:低酸素状態
A:5−クロロキノリン−8−イル アセテート
B:5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン
C:5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン
D:8−ヒドロキシキノリン
【図4】CQとTPENによるVEGFの発現をRT−PCR方法で調査した結果を示した図である。
【0088】
N:正常酸素状態
H:低酸素状態.
【図5】CQ及びCQ誘導体によるVEGF発現をRT−PCR方法で調査した結果を示した図である。
【0089】
N:正常酸素状態
H:低酸素状態
A:5−クロロキノリン−8−イル アセテート
B:5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン
C:5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン
D:8−ヒドロキシキノリン
【図6】CQとTPENによるHRE依存遺伝子発現をレポーター遺伝子システム方法で調査した結果を示した図である。
【図7】PHD2活性化に対するCQ及びTPENの影響を調査した図である。
【図8】CQによる試験管内(in vitro)HIF−1αユビキチン化の調査結果を示した図である。
【図9】CQとTPENによる生体内(in vivo)HIF−1αユビキチン化の調査結果を示した図である。
【図10】CQとTPENによるFIH−1活性変化を調査した図である。
【図11】CQと陽イオンによるFIH−1活性変化を調査した図である。
【図12】HIF−1α突然変異体を使用したCQによるFIH−1活性変化を調査した図である。
【図13】MALDI−TOF方法で分析したCQによるFIH−1活性変化を調査した図である。
【図14】CQによるHIF−1αとCBPの結合増加を共―免疫沈降法を使用した調査(in vivo)結果を示した図である。
【図15】CQとTPENによるHIF−1αによる低酸素誘導転移活性をレポーター遺伝子システム方法で調査した結果を示した図である。
【図16】CQとTPENによる試験管内(in vitro)HIF−1αとCBPとの結合に及ぼす影響の調査結果を示した面である。
【図17】CQとTPENによるVEGF及びEPO発現の調査結果を示した面である。
【図18】CQ及びCQ誘導体の血管生成能力を測定した写真である。
【配列表フリーテキスト】
【0090】
配列番号1は、VEGF正方向プライマーである。
【0091】
配列番号2は、VEGF逆方向プライマーである。
【0092】
配列番号3は、18s正方向プライマーである。
【0093】
配列番号4は、18s逆方向プライマーである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリオキノール(clioquinol)及びその誘導体を有効成分として含むHIF−1α活性剤に関するもので、より詳細には、クリオキノール及びその誘導体を正常酸素状態でHIF−1αのユビキチン化を阻害してHIF−1αを蓄積させる一方、FIH−1の活性を阻害して蓄積されたHIF−1αが転写活性を有するようにすることで、HIF−1αの標的遺伝子であるVEGF及びEPOの発現を誘導することにより、虚血性疾患治療に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
虚血は、身体に部分的に生じる貧血状態で、血管が詰まったり減ったりすることによって生じる現象をいう。身体の各部分が機能を正常に遂行しようとすれば、血管を通じて適切な酸素と栄養が供給されなければならない。心臓も冠状動脈という血管を通じて必要な酸素と栄養の供給を受けている。しかし、必要量の血流量供給を受けることができなければ、心臓筋肉に代謝産物が積もって低酸素症に陥るようになって機能に障害が生じる。このような場合を心筋虚血であるという。そして、心筋虚血によって起きた心臓機能の障害を虚血性心臓疾患という。心臓疾患は、大きく分けて狭心症と心筋梗塞症に分けられる。一般的に男性が女性に比較して発生頻度が高くて年齢が高いほど、危険要素が揃った人であればあるほど、発生頻度が高い。虚血が発生する場合、血管が詰まって前記の疾病が発生し得、脳の血管が詰まって虚血性脳疾患が発病する。虚血によって血液循環が円滑ではない場合、身体末端でも問題になり得、この場合、末端組職の壊死が起きて虚血性末端疾患が発病し得る。このように虚血は、多くの疾患に発展し得るため、これに対する治療剤の開発が至急な実情である。
【0003】
HIF−1(Hypoxia−inducible factor−1)は、酸素恒常性の主要調節子として、血管新生、赤血球形成、糖分解に係わる様々な遺伝子の発現を開始する転写誘導因子である(Masson and Ratcliffe,J Cell Sci,2003年,第116巻,3041−3049頁;Seagroves等,Mol Cell Biol,2001年,第21巻,3436−3444頁)。HIF−1は、HIF−1αとHIF−1βとで構成されている。HIF−1αは、正常酸素状態でユビキチン−プロテアソームシステム(ubiquitin−proteasome system)によって迅速に減少してHIF−1βのレベルは、一定に維持される(Huang等,Proc Natl Acad Sci USA,1998年,第95巻,7978−7992頁;Kallio等,J Biol Chem,1999年,第274巻,6519−6525頁)。正常に酸素が供給されている状態でHIF−1αの564番及び/または402番プロリンは、PHDs(HIF−1α−specific proly−4 hydroxylases)によって水酸化されて活性が抑制される。この過程で、酸素(O2)、2−オキソグルタル酸、ビタミンC、Fe2+を必要とする(Bruikc and McKnight,Science,2001年,第294巻,1337−1340頁;Epstein等,Cell,2001年,第107巻,43−54頁;Ivan等,Science,2001年,第292巻,464−468頁;Jaakkola等,Science,2001年,第292巻,468−472頁;Masson等,EMBO J,2001年,第20巻,5197−5206頁)。哺乳動物細胞でPHDsのファミリーは、PHD1(HPH3,EGLN2)、PHD2(HPH2,EGLN1)、PHD3(HPH1,EGLN3)と明らかにされた(Huang等,J Biol Chem,2002年,第277巻,39792−39800頁;Talyer,Gene,2001年,第275巻,125−132頁)。水酸化されたプロリン残基は、E3ユビキチン・リガーゼ構成成分であるVHL(von Hippel−Lindau)タンパク質と結合し、HIF−1αは VCB E3ユビキチン・リガーゼ複合体(VHLタンパク質,Elongin B,Elongin C,Cul2,Rbx1)と結合しながらユビキチン化される(Iwai等,Proc Natl Acad Sci USA,1999年,第96巻,12436−12441頁;Kamura等,Science,1999年,第284巻,657−661頁)。低酸素状態では、プロリン水酸化が減少しながらHIF−1αタンパク質が蓄積される。蓄積されたHIF−1αが、転写因子で活性化されるには、核に移動してHIF−1βと結合する。HIF−1α/β異形複合体は、ターゲット遺伝子のプローモーターに位置する低酸素反応構成要素、HRE(Hypoxia resposive element)というDNA配列に結合して、転写活性に必要な転写補助因子であるp300/CBPなどのタンパク質に結合することで、血管生成及び細胞内エネルギー供給に必須なタンパク質の発現を増加させる(Nathali等,Biochem Pharmacol.,2004年,第68巻,971−980頁)。
【0004】
一方、酸素分子は、HIF−1αの安定化を阻害するのみならず、HIF−1αの転写活性を阻害する。FIH−1(factor inhibiting HIF−1α)は、HIF−1αの803番目アスパラギン残基を水酸化させる。HIF−1αの転写活性ドメインのアスパラギン残基の水酸化は、HIF−1αとCBPとの結合を妨害して転写活性がないHIF−1αの蓄積を誘導する。FIH−1は、最近発見されて、その活性が知られた酵素であり、その3次構造が明かされた(Lee等,J.Biol.Chem.,2003年,第278巻,7558−7563頁;Elkins等,J.Biol.Chem.,2003年,第278巻,1802−1806頁)。FIH−1もPHDと同じくFe2+を補助因子に使用して、2−オキソグルタル酸、酸素(O2)を基質に使用してHIF−1αの803番目アスパラギン残基を水和させることが明らかにされた(Lando等,Science,2002年,第295巻,858−865頁)。前記酵素は、PHDより2−オキソグルタル酸及び酸素に対するKm値が2倍以上低く、PHDが作用することができない酸素分圧でも一部機能できることが明らかにされた(Koivunen等,J.Biol.Chem.,2004年,第279巻,9899−9904頁)。
【0005】
HIF−1αの活性化によって発現が誘導される標的遺伝子は、EPO(erythropoietin)とVEGF(vascular endothelial growth factor)であり、前記遺伝子は、低酸素状態で保護機序の主要媒介子として作用する(Grimm等,Nat Med,2002年,第8巻,178−724頁:Calvillo等,Proc Natl Acad Sci USA,2003年,第100巻,4802−4806頁:Ferriero D.M.,Epilepsia.,2005年,第46巻,45−51頁;Simons,A.,Ware,J.A.,Nat Rev Drug Discov.,2003年,第2巻,863−871頁)。EPOとその受容体は脳で発現されて、脳梗塞による損傷時の神経保護と連関していて(Digicayolioglu,M.等,Proc Natl Acad Sci USA,1995年,第92巻,3717−3720頁;Ehrenreich,H.等,Metab Brain Dis.,2004年,第19巻,195−206頁)、生体内(in vivo)で脳梗塞発生時にニューロンを保護することが報告された(Sasaki等,Proc Natl Acad Sci USA,1998年,第95巻,4635−4640頁)。VEGFは、心筋梗塞研究において臨床1期及び2期実験で安定性と治療剤としての安定性が報告された(Yoon,Y.S.等,Mol Cell Biochem.,2004年,第264巻,1494−1504頁;Shah,P.B.and Losordo,D.W.,Adv Genet,2005年,第54巻,339−361頁;Simons,M.and Ware J.A.,Nat Rev Drug Discov.,2003年,第2巻,863−871頁;Henry,T.D.等,Circulation,2003年,第107巻,1359−1365頁 )。VEGFの血管形成活性によって損傷受けたニューロンと神経グリア(neuronglia)で新しい保護活性を有する(Rosenstein,J.M.and Krum,K,Exp Neurol,2004年,第187巻,246−253頁)。VEGFのレベルが阻害されると、筋萎縮性側索硬化症が発生して、還流と神経保護機能が低下する(Storkebaum,E..Lambrechts,D.,Carmeliet,P.,Bioessays,204年,第26巻,943−954頁)。
【0006】
クリオキノール(Clioquinol:以下「CQ」と略称する)は、Zn2+、Cu2+及びCa2+のような重金属イオンを選択的にキレート化させて、酵素活性及びタンパク質形成において重金属イオンの効果を調節するのに使用される。CQのpKa値は、Cu2+,15.8;Zn2+,12.5;Ca2+,8.1;Mg2+,8.6である(Agrawal,Y.K.等,J Pharm Sci.,1986年,第75巻,190−192頁)。CQは疎水性であり、血管脳関門を通過する。CQは最近アルツハイマー疾患、パーキンソン疾患、ホンチントン疾患でメタロタンパク質の沈殿とそれによる酸化ストレスを減少させるプロトタイプメタルタンパク質希少コンパウンド(prototype metal−protein attenuating compound)として再評価されている。CQは、1900年代中盤に抗生剤として脚光を浴びたが、日本で骨髓・視覚神経病症の原因として明かされ回収された(Cherny,R.A.,Neuron,2001年,第30巻,665−676頁;Kaur,D.等,Neuron,2003年,第37巻,899−909頁;Nguyen T.等,Proc Natl Acad Sci USA,2005年,第102巻,11840−11845頁)。最近、アルツハイマー疾患動物モデルであるAPP2576形質転換マウス研究でCQは、アミロイドベータプラグとアミロイドセラム数値を副作用なしに減少させると報告された(Doraiswamy,P.M.等,Lancet Neorul,2004年,第3巻,431−434頁)。最近、2工程臨床の調査でアルツハイマー患者36人を対象にした実験で、CQは認知減退を遅延させ、有意性をもってアミロイドベータ濃度を減少させた(Ritchie C.W.等,Arch Neurol,2003年,第60巻,1685−1691頁)。
【0007】
CQはまた、多くのヒト癌細胞株で細胞死の原因になる。これは、細胞死滅過程を通じて起きる。CQを処理した癌細胞株に銅またはジンク(zinc)を添加しても、CQによる細胞死は防ぐことができず、むしろさらに細胞死を増加させた。CQ処理細胞に蛍光標識でジンク数値が増加することが観察されたが、これを通じてCQがイオン透過担体(zinc ionophore)の活性化によって細胞死を起こすことが分かる(Ding,W.O.,等,Cancer Res.,2005年,第65巻,3389−3395頁)。
【0008】
CQのような金属キレートであるTPEN(テトラキス−(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン:C26H28N6)は、Zn2+、Cu2+及びFe2+のような重金属イオンを選択的にキレート化させて、酵素活性及びタンパク質形成において重金属イオンの効果を調節するのに使用される。TPENのpKa値は、Cu2+,20.2;Zn2+,15.4;Fe3+,14.4;Ca2+,3である(Cherny R.A.等,J Biol Chem.,1999年,第274巻,23223−23228頁)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の主な目的は、虚血性疾患治療剤としてクリオキノールまたはその誘導体の新しい用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明はクリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むHIF−1α活性剤を提供する。
【0011】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むFIH−1阻害剤を提供する。
【0012】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むVEGF発現誘導剤を提供する。
【0013】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むEPO発現誘導剤を提供する。
【0014】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む虚血性疾患治療剤を提供する。
【0015】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む血管生成誘導剤を提供する。
【0016】
また、本発明は、治療的有効量のクリオキノールまたはその誘導体を虚血性疾患にかかった患者に投与する工程を含む虚血の治療方法を提供する。
【0017】
同時に、本発明は、虚血性疾患治療剤の製造において、クリオキノールまたはその誘導体の用途を提供する。
【0018】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0019】
本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むHIF−1α活性剤を提供する。
【0020】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むFIH−1阻害剤を提供する。
【0021】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むVEGF発現誘導剤を提供する。
【0022】
また、本発明は、クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含むEPO発現誘導剤を提供する。
【0023】
クリオキノール(以下「CQ」と略称する:化学式2)は、重金属キレーターとして、Zn2+、Cu2+及びCa2+のような重金属イオンを選択的にキレート化させて、酵素活性及びタンパク質形成において重金属イオンの効果を調節するのに使用される。CQのpKa値は、Cu2+、15.8;Zn2+、12.5;Ca2+、8.1;Mg2+、8.6である。
【0024】
CQまたはその誘導体は、下記の化学式1のような構造を有する。
【0025】
【化1】
【0026】
Rは、Hまたはアセチル基、X1及びX2は独立して、Hまたはハロゲン族。
【0027】
前記ハロゲン族は、F、Br、ClまたはIであることが好ましい。
【0028】
CQ(化学式2)の誘導体では、5−クロロキノリン−8−イル アセテート(5−chloroquinolin−8−yl acetate:化学式3)、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン(5,7−diiodo−8−hydroxyquinoline:化学式4)、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン(5,7−dibromo−8−hydroxyquinoline:化学式5)、及び8−ヒドロキシキノリン(8−hydroxyquinoline:化学式6)などがあり、その化学式を下記に示す。
【0029】
【化2】
【0030】
【化3】
【0031】
【化4】
【0032】
【化5】
【0033】
【化6】
【0034】
TPEN(テトラキス−(2−ピリジルメチル)エチレンジアミン:C26H28N6)は、Zn2+、Cu2+及びFe2+のような重金属イオンを選択的にキレート化させて、酵素活性及びタンパク質形成において重金属イオンの効果を調節するのに使用される。TPENのpKa値は、Cu2+、20.2;Zn2+、15.4;Fe3+、14.4;Ca2+、3である(Cherny R.A.等,J Biol Chem.,1999年,第274巻,23223−23228頁)。
【0035】
本発明の発明者等は、低酸素状態でHIF−1αメカニズムに関与するPHD2のようなHIF−1α調節子、ユビキチン化構成酵素、CBPタンパク質がジンクフィンガー(zinc finger)モチーブを有するので、重金属キレートであるCQがHIF−1αメカニズムに及ぼす影響を調査し、重金属キレートであるTPENを使用してその効果を比較した。
【0036】
本発明の発明者等は、ヒトHepG2肝細胞とSH−SY5Y脳細胞にCQとTPENを処理して、HIF−1αの活性化を調査した。その結果、正常酸素状態でCQとTPENはすべてHIF−1αタンパク質を安定化させてその量を増加させた(図1参照)。また、正常酸素状態のSH−SY5Y脳細胞株にCQ及び陽イオン(Zu2+、Cu2+、Fe2+)を処理した結果、Zu2+及びCu2+をCQと処理した時、CQのHIF−1α蓄積効果が減少したが、Fe2+をCQと処理した時は、CQのHIF−1α蓄積効果に影響を及ぼし得ないことを確認した(図2参照)。本発明者等は、CQ誘導体(5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン及び8−ヒドロキシキノリン)をHepG2及びSH−SY5Y細胞株に処理した時、HIF−1αの安定化を増加させることを確認した(図3参照)。以後、CQとTPENがHIF−1αの標的遺伝子であるVEGFの活性に及ぼす影響を、RT−PCRで調査した。その結果、正常酸素状態でCQがTPENより非常に多くVEGFの発現を誘導することが確認された(図4参照)。また、CQ誘導体(5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン及び8−ヒドロキシキノリン)が、HepG2及びSH−SY5Y細胞株上でVEGFの発現を増加させた(図5参照)。それで、本発明者等は、低酸素状態で反応する低酸素反応構成要素(hypoxia−response element:以下「HRE」と略称する)で、CQ及びTPENの影響を調査した。その結果、CQによって低酸素状態で反応するHRE−依存遺伝子が、正常酸素状態でも強く発現誘導されることが分かった(図6参照)。これを通じて、CQとTPENはHIF−1αを安定化させるが、標的遺伝子発現誘導のためのHIF−1αの転移活性においては差を示すので、CQは TPENと異なりHIF−1α標的遺伝子であるVEGFの発現を誘導することが分かる。
【0037】
本発明者等は、CQがPHD2の変化に影響を与えるかどうか調査したが、VHL(von Hippel−Lindau)とHIF−1αの結合が402/564番目プロリンの水酸化に依存するので、ヒトHIF−1αタンパク質のODDドメイン(401−603アミノ酸)による[35S]−標識VHL捕捉を測定して調査した。その結果、TPENはCQと異なりPHD2の活性を増加させた(図7参照)。これを通じて、亜鉛キレートであるTPENとCQがPHD2の活性にお互いに異なって作用することが分かった。
【0038】
正常酸素状態でHIF−1αは、ユビキチン化によって分解される。それで本発明者等は、CQとTPENがHIF−1αのユビキチン化に及ぼす影響を調査した。その結果、CQとTPENは、正常酸素状態でHIF−1αのユビキチン化を阻害した(図8及び図9参照)。HIF−1αのユビキチン化は、pVHL、エロンジン(elongin)B、エロンジンC、Cul2、RbxからなるVCB E3リガーゼ複合体によって成り立つ(Iwai等,Proc Natl Acad Sci USA,1999年,第96巻,12436−12441頁;Kamura等,Science, 1999年,第284巻,657−661頁)。Rbx1は、ユビキチンリガーゼ活性度に重要な役割をするRING−H2−タイプジンクフィンガードメインを有していて(Kamura等,Science,1999年、第284巻,657−661頁)、CQがこのような活性を阻害するものと考えられる(Webster等,J Biol Chem,2003年,第278巻,38238−38246頁)。これを通じて、CQとTPENがHIF−1αのユビキチン化阻害を通じて、正常酸素状態でHIF−1αタンパク質の量を増加させることが分かる。
【0039】
HIF−1α転写活性は、803番アスパラギン残基の水酸化によって阻害され、これはFIH−1によって成り立つ(Dann等,Proc Natl Acad Sci USA,2002年,第99巻,15351−15356頁;Lando等,Science,2002年,第295巻,858−861頁)。HIF−1αの803番アスパラギン残基の水酸化は、HIF−1αと活性化補助因子であるCBPとの結合を阻害して、転写活性がない(non−function)HIF−1αの蓄積を誘導するので、HIF−1αはFIH−1の活性度が減少する時、転写活性が増加するようになる(Freeman等,Proc Natl Acad Sci USA,2002年,第99巻,5367−5372頁)。このような事実を基に本発明者等は、FIH−1の活性度に及ぼすCQとTPENの影響を調査した。放射線が標識されたHIF−1αを単独でレジンにローディングした場合、レジン中に充填されたCBPと結合した(図10Aのレーン1及び図10Bのレーン1参照)。放射線標識されたHIF−1αとFIH−1を反応させた時には、FIH−1によってHIF−1αの803番アスパラギン残基が水酸化されて、HIF−1αとCBPとの結合を妨害した(図10Aのレーン4参照)。放射線標識されたHIF−1α、FIH−1、TPENを一緒に反応させた時 、FIH−1によって水和されたHIF−1αは、CBPと結合することができなかったが、それを通じてTPENがHIF−1αに及ぼすFIH−1の活性に影響を及ぼすことができないことが分かる(図10Bのレーン6参照)。放射線標識されたHIF−1αとCQを反応させた時、HIF−1αはCBPと結合して(図10Aのレーン2、3及び図10Bのレーン2参照)、放射線標識されたHIF−1αとFIH、CQを一緒に反応させた時、CQの濃度が高くなれば、HIF−1αに対するFIH−1の活性を減少させることが分かる(図10Aのレーン5、6及び図10Bのレーン5参照)。
【0040】
また、Zn(II)またはCu(II)が、CQのFIH−1活性阻害に及ぼす影響を調査した。その結果、Zn(II)またはCu(II)は、CQがFIH−1の活性を阻害させるのに影響を及ぼすことができないことを確認した(図11のレーン4、5、6参照)。これを通じて、CQはZn(II)またはCu(II)の有無とは無関係に、FIH−1の活性を阻害することを確認した。以後、HIF−1αの803番目アスパラギン残基をアラニンに入れ替えたHIF−1α−C(N803A)突然変異体を製作して実験した。その結果、FIH−1とHIF−1α−C(N803A)を一緒に反応させた後、CBPとの結合を調査した。CQの有無やFIH−1の有無は、CBPとHIF−1α−C(N803A)との結合を変化させなかった。すなわち、CQの効果は、FIH−1がHIF−1αの803番目アスパラギン残基を水酸化する過程を抑制するからであることを間接的に提示している(図12参照)。
【0041】
本発明者等は、MALDI−TOF分析方法を使用して、CQ処理時のFIH−1の活性を調査した。その結果、CQがHIF−1αの803番目アスパラギン残基の水酸化を阻害させることを確認した(図13参照)
前記結果から分かるようにCQは、直接的にHIF−1αに対するFIH−1活性を減少させることが分かる。FIH−1は、HIF−1αの803番目アスパラギン残基を水酸化してCBPとHIF−1αの転写活性ドメインとの結合を妨害する。ゆえに、CQは FIH−1によるHIF−1αの803番アスパラギン残基の水酸化を妨害して、それを通じて転写機能を完全に有する(function)HIF−1αを蓄積させる。TPENは、 FIH−1の活性化を阻害することができないので、転写機能がない(non−function)HIF−1αを増加させる。これを通じてCQは、PHD2の活性は阻害しないで、ユビキチンによるタンパク質分解は抑制するので、プロリン残基が水酸化されたHIF−1αの蓄積を招来し、またFIH−1の活性を抑制することで蓄積されたHIF−1αの803番のアスパラギン残基は、水酸化されなくなる。
【0042】
本発明者等は、HIF−1αによる低酸素誘導転写活性(hypoxia−induced transactivation)に対する、CQとTPENの影響を調査した。これを調査するために共−免疫沈降法、リポーター遺伝子分析システム、ジンク存在下のHIF−1αとCBPとの結合を調査した。共―免疫沈降法を使用した調査で、803番のアスパラギンが水酸化されないHIF−1αは、活性化補助因子であるCBPと結合することが可能になる(図14Aレーン2参照)。一方、タンパク質分解抑制剤であるMG132 あるいはTPENの処理は、HIF−1αタンパク質の蓄積を引き起こすが、FIH−1の活性を抑制することができないので、蓄積されたHIF−1αは活性化補助因子であるCBPとの結合をすることができない(図14Aレーン1、図14Bレーン1、3参照)。イーストタンパク質であるGAL4のDNA結合部位とHIF−1αを融合したタンパク質(GAL4−HIF−1α)をGAL4結合部位を有するリポーターと一緒にトランスフェクションした後、GAL4−HIF−1αによるリポーター遺伝子の発現を調査することで、HIF−1αの転写活性のみを調査した。CQは、正常酸素状態にもかかわらずHIF−1αの転写活性を増加させた。それとは対照的に、TPENは正常酸素状態でHIF−1αの転移活性を増加させなかった(図15参照)。CBP自体がジンクフィンガードメインCH1を有していて、このCH1ドメインがHIF−1αと結合する部分であるので、ジンクキレーターであるCQとTPENがCH1 ドメイン構造を変化させることで、CBPとHIF−1αの結合を阻害する可能性を調査した。ジンク存在下のHIF−1αとCBPとの結合の調査結果、CQとTPENがHIF−1αとCBPとの結合に何らの影響を与えないことが分かった(図16参照)。このような結果を通じて、CQはFIH−1を抑制することでHIF−1αの転写活性を増大させて、正常酸素状態でHIF−1αとCBPの結合を増加させる。
【0043】
本発明の発明者等は、ノーザンブロット方法を通じてCQによるHIF−1α標的遺伝子VEGF及びEPOの発現を調査した。その結果、CQは正常酸素状態でVEGF及びEPOの発現を誘導した(図17参照)。
【0044】
本発明者等は、CQ及びその誘導体が血管生成に及ぼす影響を調査した結果、VEGFと同様に効果的な血管形成能力を有することを確認した(図18参照)。
【0045】
本発明は、CQ及びその誘導体を有効成分として含む虚血性疾患治療剤を提供する。前記虚血性疾患治療剤は、虚血性心臓疾患、虚血性脳疾患、虚血性末端疾患を対象にする。
【0046】
本発明の発明者等は、CQがVEGF及びEPOの発現を誘導して、CQ誘導体がVEGFの発現を誘導することを確認した。最近研究では、組換えVEGFタンパク質を使用して虚血性疾患及び心血管疾患を有した患者に適用したし(Yoon Y.S.等,Mol Cell Biochem,2004年,第264巻,63−74頁;Henry T.D.等,Circulation,2003年,第107巻,1359−1365頁 )、VEGF発現ベクターを虚血性心臓疾患患者に適用して安全性を確認した(Hedman M.等,Circulation,2003年,第107巻,2677−2683頁)。また、VEGFの発現調節を通じて虚血性脳疾患で神経細胞保護効果が現われることが報告された(Storkebaum E.,Lambrechts D.,Carmeliet P.,Bioessays,2004年,第26巻,943−954頁;Jin K.L.,Mao X.O.,Greenberg D.A.,Proc Natl Acad Sci USA,2000年,第97巻,10242−10247頁;Sun Y.等,J Clin Invest,2003年,第111巻,1843−1851頁;Zhu W.等,Neurosurgery,2005年,第57巻,325−333頁)。EPOの場合、組換えEPOタンパク質は、心筋梗塞及び脳梗塞疾患で細胞保護効果を示すことが多数の論文で報告された(Cai Z.等,Circulation,2003年,第108巻,79−85頁;Ehrenreich H.等,Metab Brain Dis,2004年,第19巻,195−206頁;Sakanaka M.等,Proc Natl Acad Sci USA,1998年,第95巻,4635−4640頁;Ehrenreich H.等,Mol Med,2000年,第8巻,495−505頁)。したがって、CQ及びその誘導体は、VEGF及びEPO発現増加を通じて虚血性疾患の治療に使用することができる。
【0047】
本発明のCQ及びその誘導体はそのまま、または薬学的に許容可能な塩の形態で使用することができる。本発明で使用可能な塩では、薬剤学的に許容可能な無毒性塩なら特別に限定されない。例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、フッ化水素酸、ブロム化水素酸、ギ酸、酢酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、メタルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホ酸、ナフタリンスルホン酸などの塩形態で使用することができる。
【0048】
本発明の虚血性疾患治療剤は、虚血性疾患の予防及び治療のために単独で、または手術、ホルモン治療、化学治療及び生物学的反応調節剤を使用する方法と併用して使用することができる。
【0049】
本発明の虚血性疾患治療剤は、前記CQ及びその誘導体に追加で同一または類似の機能を示す有効成分を1種以上含むことができる。薬剤学的に許容可能な担体は、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液,グリセロール、エチルアルコール及びこれら成分の中で1成分以上を混合して使用することができ、必要によって抗酸化剤、緩衝液、静菌剤など他の通常の添加剤を添加することができる。本発明の組成物は、実際臨床投与時に経口及び非経口のさまざまな剤形で投与され得る。製剤化する場合には、普通使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を使用して調剤される。さらに、当分野の適正な方法で、またはRemington’s Pharmaceutical Science(最近版)、Mack Publishing Company,Easton PAに開示されている方法を使用して、各疾患によってまたは成分によって好ましく製剤化することができる。
【0050】
本発明の組成物は、目的とする方法によって経口投与したり非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内または局所に適用)でき、投与量は患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の重症度などによってその範囲が多様である。 投薬単位は、例えば個別投薬量の1、2、3または4倍で、または1/2、1/3または1/4倍を含むことができる。個別投薬量は、好ましくは有効薬物が1回に投与される量を含み、これは通常1日投与量の全部、1/2、1/3または1/4倍に当たる。
【0051】
有効用量は、0.5〜6mg/kgで、好ましくは3mg/kgであり、一日に1〜3回投与することができる。用量は必ずこれに限定されるものではなく、患者の状態及び疾患の発病程度によって変わり得る。
【0052】
本発明は、CQ及びその誘導体を有効成分として含む血管新生誘導剤を提供する。
【0053】
CQ及びその誘導体は、VEGFと同様に効果的に血管生成能力を有することで(図18参照)、血管生成誘導剤として有用に使用することができる。
【0054】
本発明は、治療的有効量のCQを虚血性疾患にかかった患者に投与する工程を含む虚血性疾患の治療方法を提供する。
【0055】
前記虚血性疾患では、虚血性心臓疾患、虚血性脳疾患、虚血性末端疾患が含まれる。CQは、好ましくは経口または注射液(静脈内または皮下)で投与され、対象に投与される正確な量は、担当医療者の責任下にある。しかし、ここに使用される治療的有効量は、対象の年及び性別、治療が行われる正確な疾病、及び疾病の重症度を含んだ多数の因子に影響を受ける。また、投与経路は、患者の状態及びその重症度によって変化することができる。
【0056】
本発明は、虚血性疾患治療剤の製造において、CQ及びその誘導体の用途を提供する。
【0057】
本発明者等は、CQ及びその誘導体がHIF−1αの転写活性を有するようにして、HIF−1α標的遺伝子であるVEGF及びEPOの発現を誘導することを証明することにより、虚血性疾患治療剤の製造に使用され得るCQ及びその誘導体の新しい用途を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下、本発明を実施例によって詳しく説明する。
【0059】
但し、下記実施例は本発明を例示するだけであって、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
実施例1:HIF−1α安定化に対するクリオキノール、その誘導体とTPENの影響調査
実施例1−1:HepG2細胞でHIF−1α安定化に対するCQとTPENの影響調査
ヒトHepG2肝細胞(hepatoma cell:ATCC HB−8065)を正常酸素状態と低酸素状態で培養した。HepG2細胞は、非必須アミノ酸が含まれているMEM(Invitrogen,米国)に10%FBS(fetal bovine serum:Biowhittaker,米国)が入っている培地で培養した。細胞を低酸素状態で培養するために嫌気性培養器(anaerobic incubator:Model 1029,Forma Scientific.Inc)で5%CO2、10%H2、85%N2で37℃で培養した。薬物と低酸素を一緒に処理した場合、薬物は1時間前に処理して、追加で低酸素処理をして、RNA分離をする時は低酸素状態で16時間培養した。タンパク質分離のためには、6時間低酸素状態で培養した。前記培養した正常酸素状態ヒトHepG2肝細胞には、CQ(Calbiochem,米国)(10,100,500μM)とTPEN(Calbiochem,米国)(5μM)を、低酸素状態のヒトHepG2肝細胞には、CQ(10,100μM)とTPEN(5μM)を6時間処理した。その後、ウエスタンブロット方法でHIF−1αの発現を調査した。それぞれの群から取った試料を8%SDS−PAGEに電気泳動を遂行してニトロセルロース膜(Schleicher&Schuell Bioscience,米国)に移動させた。以後、1次抗体で抗−ヒトHIF−1α抗体(BD Pharmingen,米国)(1:800に希釈)を使用し、2次抗体ではマウス−Ig複合ホースラディシュペルオキシダーゼ(mouse Ig conjugated horseradish peroxidase)(1:3,000に希釈)を使用した。対照群のために抗β―チュブリン(tubulin)抗体(BD,Pharmingen,米国)を使用した。
【0060】
本実験の結果、ヒト肝細胞で正常酸素状態の時、TPENはHIF−1αタンパク質の量を増加させ、CQもHIF−1αを大きく増加させた。低酸素状態では、対照群と比較した時、TPEN及びCQの両方でHIF−1αの蓄積が起きた(図1A)。
実施例1−2:SH−SY5Y細胞でHIF−1α安定化に対するCQとTPENの影響の調査
ヒトSH−SY5Y脳細胞(neuroblastoma cell:ATCC CRL−2266)を正常酸素状態と低酸素状態で培養した。SH−SY5Y細胞は、非必須アミノ酸が含まれているMEM(Invitrogen,米国)に10%FBS(fetal bovine serum:Biowhittaker,米国)が入っている培地で培養した。細胞を低酸素状態で培養するために嫌気性培養器(anaerobic incubator:Model 1029,Forma Scientific.Inc)で5% CO2、10%H2、85%N2で37℃で培養した。薬物と低酸素を一緒に処理した場合、薬物は1時間前に処理して、追加で低酸素処理をし、RNA分離をする時は低酸素状態で16時間培養した。タンパク質分離のためには、6時間低酸素状態で培養した。前記培養した正常酸素状態のヒトSH−SY5Y脳細胞には、TPEN(5μM)とCQ(10,100μM)を、低酸素状態のヒトSH−SY5Y脳細胞には、CQ(100μM)を6時間処理した。その後、ウエスタンブロット方法でHIF−1αの発現を調査した。それぞれの群から取った試料を8%SDS−PAGEに電気泳動を遂行してニトロセルロース膜(Sigma,米国)に移動させた。以後、1次抗体で抗−ヒトHIF−1α抗体(BD,Pharmingen,米国)(1:800に希釈)を使用し,2次抗体ではマウス−Ig複合ホースラディシュペルオキシダーゼ(mouse Ig conjugated horseradish peroxidase)(1:3,000に希釈)を使用した。対照群のために抗β―チュブリン抗体(BD,Pharmingen,米国)を使用した。
【0061】
本実験の結果、ヒト神経細胞でTPENは、HIF−1αタンパク質量を増加させ、CQもHIF−1αを多く蓄積させた。低酸素状態では対照群、TPEN、及びCQすべてでHIF−1αタンパク質量の蓄積が起きた(図1B)。
実施例1−3:SH−SY5Y細胞でのHIF−1α安定化に対するCQと陽イオンの影響の調査
ヒトSH−SY5Y脳細胞株を実施例1−2と同様に正常酸素状態と低酸素状態で培養した。ヒトSH−SY5Y脳細胞株を正常酸素状態で培養した後、CQ(50μM)を処理し、それぞれZn2+(10μM)、Cu2+(10μM)及びFe2+(10μM)を一緒に処理した後、16時間培養した。以後、実施例1−2と同じ方法でウエスタンブロットを遂行してHIF−1αの発現を調査した。
【0062】
実験結果、Zn(II)とCu(II)添加時に、CQの効果が減少した(図2A)。これを通じてHIF−1αは、Zn(II)及びCu(II)の枯渇によって安定化することが分かった。Fe(II)の添加の場合、CQ効果を減少させることができないので(図2B)、Fe(II)はCQによるHIF−1αの安定化と関連しないことが分かった。
実施例1−4:HepG2及びSH−SY5Y細胞でHIF−1α安定化に対するCQ誘導体の影響の調査
本発明者等は、CQ誘導体(5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン、8−ヒドロキシキノリン)がHepG2及びSH−SY5Y細胞上でHIF−1αの安定化に及ぼす影響を調査し、実施例1−1及び実施例1−2と同一な方法で調査した。具体的に、HepG2及びSH−SY5Y細胞を実施例1−1及び1−2の方法で細胞株を培養し、CQ及びCQ誘導体を5、10、50及び100μMの濃度で処理した。その後、実施例1−1及び実施例1−2と同じ方法でウエスタンブロットを遂行した。対照群のために抗Hsp70抗体(Stressgen,カナダ)を使用した。
【0063】
その結果、CQ誘導体(5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン、8−ヒドロキシキノリン)は、CQと同じくHIF−1αを安定化させることを確認した(図3)。
実施例1−5:HIF−1α標的遺伝子VEGF発現に対するCQとTPENの影響の調査
ヒトSH−SY5Y脳細胞株とヒトHepG2肝細胞株を実施例1−1及び1−2と同様に正常酸素状態と低酸素状態で培養した。ヒトSH−SY5Y脳細胞とヒトHepG2 肝細胞を正常酸素状態で培養した後、TPEN(5μM)、CQ(10,100μM)を処理し、低酸素状態で培養した細胞株にはTPEN(5μM)、CQ(100μM)を16時間処理した。以後、全体RNAは、RNaseスピンカラム(Qiagen,米国)を使用して分離した。分離したRNAの中で1μlを使用してAMV逆転写酵素(Promega,米国)とランダムヘキサマー(Gibco−BRL,米国)でcDNAを合成した。合成されたcDNAを鋳型にして配列番号1で記載されるVEGF正方向プライマー(5’−ccatgaactttctgctgtctt−3’)と配列番号2で記載されるVEGF逆方向プライマー(5’−atcgcatcaggggcacacag−3’)を使用してRT−PCRを遂行した。RT−PCR条件は、下記のとおりである。95℃で5分間初期変性過程を経た後、95℃で45秒間変性反応、56℃で45秒間プライマー結合反応、72℃で60秒間長さ延長反応を遂行し、前記過程を30回繰り返した。対照群に配列番号3で記載される18S正方向プライマー(5’−accgcagctaggaataatggaata−3’)と配列番号4で記載される18S逆方向プライマー(5’−ctttcgctctggtccgtctt−3’)を使用してPCRを遂行した。RT−PCR条件は下記のとおりである。95℃で5分間初期変性過程を経た後、95℃で45秒間変性反応、56℃で45秒間プライマー結合反応、72℃で60秒間長さ延長反応を遂行し、前記過程を30回繰り返した。
【0064】
本実験の結果、ヒトSH−SY5Y脳細胞株の場合、正常酸素状態でCQがTPENとは異なってVEGFの発現を増加させることを確認した。低酸素状態の場合、CQがVEGFの発現を増加させ、TPENの場合多少減少させた。ヒトHepG2肝細胞株の場合も、CQがTPENとは異なってVEGFの発現を増加させ、低酸素状態では対照群、TPEN、CQを処理するにおいて、VEGFの発現に変化がなかった(図4)。
実施例1−6:HIF−1α標的遺伝子VEGF発現に対するCQ誘導体の影響の調査
ヒトHepG2細胞及びSH−SY5Y細胞株を実施例1−1及び1−2と同じ条件で培養した。以後、細胞にCQ及びCQ誘導体(5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン、及び8−ヒドロキシキノリン)を5、10、50及び100μMで処理して実施例1−5と同じ方法でRT−PCRを遂行した。
【0065】
その結果、HepG2細胞株でCQ誘導体は、低酸素状態とCQを処理した時、SH−SY5Y細胞株でよりVEGFの発現を増加させることができなかった。CQ誘導体である5−クロロキノリン−8−イル アセテート(50μM)、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン(25μM)及び8−ヒドロキシキノリン(50μM)の場合、CQが増加させたVEGF発現増加量の40〜50%を増加させ、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン(50μM)は、CQが増加させたVEGF発現増加量の60〜70%を増加させた(図5)。
実施例1−7:HepG2肝細胞で低酸素反応構成要素(HRE:hypoxia−response element)−依存遺伝子発現に対するCQとTPENの影響の調査
ヒトHepG2肝細胞を5×104個になるように培養した後、100ngのHRE−レポータープラスミド、p(HRE)4−lucとβ−ガラクトシダーゼがクローニングされたpCHO110を形質転換させた。形質転換したヒトHepG2肝細胞を正常酸素状態と低酸素状態でそれぞれ培養した後、それぞれTPEN(5,10μM)、CQ(10,50μM)を16時間それぞれ処理し、形質転換して48時間以後、ルシフェラーゼ分析をレポーター遺伝子分析システム(Promega,米国)を使用して測定し、β−ガラクトシダーゼの活性度の値を使用してサンプルごとに差がでるトランスフェクション効率を補正した。
【0066】
本実験の結果、CQはTPENとは異なり、HIF−1αの低酸素反応構成要素の活性を誘導することを確認した(図6)。
実施例2:PHD2活性化に対するCQとTPENの影響の調査
本発明者等は、PHD2活性変化に及ぼすCQの影響を調査した。ヒトPHD−2遺伝子(AJ310543)は、pET21b His2(+)ベクターにクローニングし、ヒスチジンがタグされた融合タンパク質で大腸菌で過発現させて、Ni−吸着クロマトグラフィー方法で精製した(Choi,K.O.等,Mol.Pharmacol.,2005年,第68巻,1803−1809頁)。これを使用して、Haakkolaなどの方法で試験管内(in vitro)VHLプルダウン分析(pull down assay)を遂行した(Haakkola,P.等,Science,2001年,第292巻,468−472頁)。詳しくは、[35S]−メチオニン−標識VHLタンパク質([35S]−methionine−labeled VHL protein)を製造社の方法にしたがってpcDNA3.1/myc−hygro−VHLプラスミド(Promega,Cat# L1170,米国)を使用して試験管内転写及び翻訳によって合成した。GST−ODD(ヒトHIF−1α401−603アミノ酸)は、大腸菌で発現させてグルタチオンユニフローレジン(glutathione−uniflow resin)を使用して製造社の方法(BD Bioscience Clontech,Cat# 8912−1,米国)にしたがって精製した。レジンに結合したGST−ODD(200μgタンパク質/約80μlレジン体積)は、1.5〜3μgPHD2が含まれた200μl NETNバッファー[200mM Tris(pH8.0),100mM NaCl,1mM EDTA,0.5%Nonidet P−40,1mM PMSF]に、2mMアスコルビン酸、100μM FeCl2,5mM α−ケトグルタレート(ketoglutarate)が存在する状態で、30℃条件で90分間撹拌して反応させた。反応混合物を500×gで2分間遠心分離し、10倍体積のNETNバッファーで3回洗浄した。レジンに結合されたODDは、10μM[35S]−標識VHLが含まれた50μl EBCバッファー[120mM NaCl,50mM Tris−HCl(pH8.0)、0.5%(v/v)Nonidet P−40]と混合した。4℃で2時間撹拌した後、レジンを1ml NETNバッファーで3回洗浄し、タンパク質は3X SDSサンプルバッファーで溶出後、12%SDS−PAGEで分離して放射線撮影方法で検出した。それぞれの試料量は、クマシー染色法でGST−ODDを染色してモニターした。
【0067】
その結果、TPENはCQと異なり、PHD2の活性を増加させた(図7)。
実施例3:HIF−1αユビキチン化に対するCQとTPENの影響の調査
実施例3−1:試験管内(in vitro)ユビキチン化調査
HeLa細胞は、DMEM(Invitrogen,米国)に10%FBS(fetal bovine serum:Biowhittaker,米国)が入っている培地で培養した。100mM培養プレートに80%程度育った時、HeLa細胞を冷却した保存抽出バッファー(hypotonic extraction buffer:20mM Tris−HCl(pH 7.5),5mM KCl,1.5mM MgCl2,1mM dithiothreitol,2μg/ml aprotinin,2μg/ml leupeptin,0.2mM PMSF)で2回洗浄した。バッファー除去した後、細胞を細胞破砕機(Dounce homogenizer)を使用して破砕して10,000×gで10分間4℃で遠心分離を遂行して細胞残物と核酸を除去した。上澄み液(S−10分画)は、−70℃に保存した。ユビキチン化の調査は、30℃で270分間遂行し、2μl[35S]−ラベルヒトHIF−1α−プログラム網状赤血球、27μl S−10抽出物、4μl 10×ATP−再生システム(20mM Tris(pH 7.5)、10mM ATP、10mMマグネシウムアセテート、300mMクレアチンホスファート、0.5μg/mlクレアチンホスホキナーゼ)、5mg/mlユビキチン(Sigma,米国)の4μl、150μMユビキチンアルデヒド(Sigma,米国)0.83μlを含んで最終体積40μlになるようにして遂行した。CQを処理した試料は、CQ100μMを含んで遂行した。SDS試料バッファーを添加し、反応生産物は6%SDS−PAGEゲルに電気泳動した後、放射線写真撮影(autoradiography)で分析した(Cockman等,J Biol Chem,2000年,第275巻,25733−25741頁)。
【0068】
本実験の結果、CQはHIF−1αのユビキチン化を抑制することを確認した(図8)。
実施例3−2:生体内(in vivo)ユビキチン化調査
ヒトHepG2肝細胞株にTPEN(5μM)、CQ(100μM)、MG132(5μM)を処理して、6時間正常酸素状態で培養した。その後、ウエスタンブロット方法でHIF−1αのユビキチン化を調査した。ウエスタンブロット方法は、実施例1−2と同じ方法で遂行した。
【0069】
MG132は、特異的に26Sプロテアソーム(proteasome)を特異的に阻害して、正常酸素状態でもユビキチン接合HIF−1αの分解を阻害する。本実験結果、CQはHIF−1αのユビキチン化を妨害して正常酸素状態でHIF−1αを蓄積させて、これは実施例3−1の試験管内ユビキチン化の調査と同一な結果を得ることができた(図8)。
実施例4:FIH−1に対するCQとTPENの影響の調査
HIF−1αによる転写活性は、803番アスパラギン残基の水酸化によって阻害され、これはFIH−1によってなされる(Dann等,Proc Natl Acad Sci USA,2002年,第99巻,15351−15356,頁;Lando等,Science,2002年,第295巻,858−861頁)。HIF−1αの803番アスパラギン残基の水酸化は、HIF−1αと活性化補助因子であるCBPとの結合を阻害するので、HIF−1αはFIH−1の活性度が減少する時、活性が増加するので(Freeman等,Proc Natl Acad Sci USA,2002年,第99巻,5367−5372頁)、CQとTPENがFIH−1の活性度に及ぼす影響を調査した。また、CQとZn(II)またはCu(II)を実施例1−3と同じに処理してFIH−1の活性度に及ぼす影響を調査した。
実施例4−1:試験管内FIH−1活性化の調査
ヒトFIH−1遺伝子(AF395830)は、pET28aベクター(Novagen,米国)にクローニングし、FIH−1をヒスチジン標識融合タンパク質でE.coliで大量発現して、ニッケル−親和クロマトグラフィー(Ni−affinity chromatography)で精製した。融合タンパク質は、ゲルろ過クロマトグラフィー(gel−filtration chromatography:Hi−Load Superdex 200)で精製し、限外ろ過(ultrafiltration)で濃縮した(Choi等,Mol Pharmacol,2005年,第68巻,1803−1809頁)。
【0070】
20μl[35S]−ラベルヒトHIF−1αタンパク質を精製したFIH−1タンパク質とともに反応バッファー(200μl;20mM Tris−HCl(pH 7.5),5mM KCl,1.5mM MgCl2,1mM DTT,2mMアスコルビン酸,2mM α−ケトグルタレート,250μM FeSO4)で1時間30℃で反応するようにした。固定されたGST−CBP N−ドメイン(アミノ酸1−450)(Kamei等,Cell,1996年,第85巻,403−414頁)1μgを混合物それぞれに500μl結合バッファー(200mM Tris.HCl(pH 8.0),150mM NaCl,20μM ZnCl2,0.5mM DTT)とともに混合して、4℃で1時間放置した。グルタチオン−ユニフローレジン(glutathione−uniflow resin)に結合したタンパク質を1mlの0.1%Nonidet P−40が含まれた結合バッファーで4回洗浄し、SDS試料バッファーで加熱して溶出させてSDS−PAGEで分析した(Dann等,Proc Natl Acad Sci USA,2002年,第99巻,15351−15356)。また、本発明者等は、HIF−1αの803番残基アスパラギンをアラニンに入れ替えて、HIF−1α突然変異体[HIF−1α−C(N803A)]を製作して、前記と同じ方法で実験してFIH−1の活性に及ぼす影響を調査した。
【0071】
放射線標識されたHIF−1αを精製した組換えFIH−1と反応させ、CQまたはTPEN有無条件で遂行した。FIH−1は、HIF−1αの803番アスパラギン残基を水酸化させてHIF−1αの転写活性ドメインに結合するCBPとの結合を阻害させるだろう(Mahon,P.C.等,Genes Dev.,2001年,第15巻,2675−2686頁;Dannm C.E.R.等,Proc.Natl.Acad.Sci USA,2002年,第99巻,15351−15356頁;Lando,D.,等,Science,2002年,第295巻,858−861頁;Freedman,S.J.等,Proc.Natl.Acad.SciUSA,2002年,第99巻,5367−5372頁)。
【0072】
実験の結果、放射性標識されたHIF−1αは、ビーズに結合したGSR−CBPタンパク質と結合して、FIH−1単独処理時、HIF−1αとCBPとの結合が顕著に減少した(図10Aレーン1、4及び図10Bレーン1、4)。FIH−1は、HIF−1αの803番目アスパラギンを水酸化させることで、HIF−1αの転写活性ドメインとCBPとの結合を減少させることにより、FIH−1活性はHIF−1αとCBPとの結合を減少させた。本発明者等は、FIH−1活性に及ぼすCQの効果を確認した。CQ(10μM及び50μM)存在時、FIH−1の活性が減少することによりHIF−1αとCBPとの結合が増加した(図10Aレーン5、6、図10Bのライン5、図11Aレーン4及び図11Bレーン4)。しかし、TPENの場合、FIH−1活性を減少させることができなかった(図10Bのライン3、6)。
【0073】
Zn(II)またはCu(II)が、CQのFIH−1活性阻害に及ぼす影響を調査した。その結果、Cu(II)及びZn(II)は、CQのFIH−1活性阻害効果に影響を及ぼさなかった(図11)。
【0074】
本発明者等は、HIF−1αの803番目アスパラギンをアラニンに入れ替えたHIF−1α−C(N803A)突然変異体を製作して実験した。FIH−1とHIF−1α−C(N803A)を一緒に反応させた後、CBPとの結合を調査した。その結果、CQの有無やFIH−1の有無は、CBPとHIF−1α−C(N803A)との結合を変化させなかった。すなわち、CQの効果は、FIH−1がHIF−1αの803アスパラギン残基を水酸化する過程を抑制するからであることを間接的に提示している(図12)。
実施例4−2:MALDI−TOFを使用したFIH−1活性に対するCQ影響の調査
本発明者等は、FIH−1の活性化をF−HIF−1αペプチドのアスパラギン水酸化有無測定を通じて評価した。ペプチドの水酸化は、質量分析(Mass spectrophotometry)方法で測定した。
【0075】
詳しくは、N末端にフルオレセイン(fluorescein)とaca(アミノカプロン酸)リンカー(AnyGen,KwangJu,韓国)を含んだF−HIF−1α(788−822アミノ酸:FITC−aca−DESGLPQLTSYDCEVNAPIQGSRNLLQGEELLRAL)を、FIH−1タンパク質との反応に使用した。前記F−HIF−1αペプチドを、2.8μg組換えFIH−1が含まれた反応溶液[20mM Trisバッファー(pH7.5),5mM KCl,1.5mM MgCl2、100μM α−ケトグルタル酸及び400μMアスコルビン酸:最終体積50μl]に最終濃度が4μMになるように添加した。その後、室温で2時間撹拌しながら反応させて、ZipTipC18(Millipore,米国)を使用して塩を除去した。前記F−HIF−1αペプチドは、0.1%TFA(trifluoroacetic acid)を含むアセトニトリル/蒸留水(50:50v/v)溶液にa−シアノ−4−ヒドロキシケイ皮酸(a−cyano−4−hydroxycinnamic acid)を添加してtipで溶出した。以後、0.1%TFAを含む蒸留水で洗浄した。溶出されたペプチド溶液をMALDI試料プレートに移して、Voyagerアナライザー(Applied Biosystems,米国)を使用してMALDI−TOF測定を遂行した。
【0076】
その結果、FIH−1処理時のペプチドの分子量が16増加したMALDI−TOF ピークが観察された(図13A及び13B)。これを通じて組換えFIH−1がHIF−1αの803番目アスパラギンを水酸化させることが分かった。これとは対照的に、CQとFIH−1を一緒に処理した場合、分子量の変化を観察することができなかった(図13C及び13D)。これを通じて、CQがFIH−1のアスパラギンを水酸化させる活性を阻害することが分かった。
実施例5:HIF−1αによる低酸素誘導転写活性(hypoxia−induced transactivation)に対するCQとTPENの影響の調査
実施例5−1:共−免疫沈降法(co−immunoprecipitation)を使用したCQとTPENの影響の調査
ヒトHepG2肝細胞は、100mmプレートに80%になるように培養して、正常条件でMG132(5μM)を6時間処理して、正常酸素状態でCQ100μMを処理した。全体細胞抽出物は、Jaakkolaなどの方法で準備した(Jaakkola等,Science,2001年,第292巻,468−472頁)。免疫沈殿のために全体細胞溶解質(lysate)試料200μgを抗マウスIgG(Santa Cruz Biotechnology,米国)1μg、0.5%ImmunoPure不活性プロテインA/Gゲル(Pierce,米国)10μlと4℃で30分間反応させた。プロテインA/Gゲルを除去した後、澄んだ反応液を抗−CBP抗体(抗−CBP抗体:Santa Cruz Biotechnology,米国)1μgと混合した。0.5%ImmunoPure不活性プロテインA/Gゲル15μlを添加した後、混合物を4℃で16時間以上放置した。免疫沈殿物を沈殿させて、PBSで4回洗浄した後、SDS試料バッファーで反応を中断させた。試料は、5分間加熱して、8%SDS−ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した後、セミドライ転写(Trans−Blot SD,Bio−Red,Hercules,米国)を使用してニトロセルロース膜に移動させた。共−免疫沈降タンパク質を抗体−ヒトHIF−1α抗体(anti−humanHIF−1αantibody)(BD,Pharmingen,米国)及び/または抗−CBP抗体で反応させて、増進された化学発光(hanced chemiluminescence)によって、抗−マウスまたは抗−ウサギIg結合ホースラディシュペルオキシダーゼ(conjugated with horseradish peroxidase:HRP)を2次抗体に使用して製作者の指示にしたがって(Amersham,米国)視覚化させた。
【0077】
本実験の結果、CQを処理した細胞と低酸素状態の細胞でHIF−1αはCBPと結合したが、MG132を処理した細胞ではHIF−1αがCBPと結合しなかった(図14A)。MG132は、26Sプロテアソームを特異的に阻害して、正常酸素状態でもユビキチン接合HIF−1αの分解を阻害する。MG132処理細胞では、FIH−1がHIF−1αの803番アスパラギン残基の水酸化が起きるのでCBPと結合しない。TPENの場合、HIF−1αとCBPと結合しない(図14)。
実施例5−2:レポーター遺伝子分析システムを使用したCQとTPENの影響の調査
ヒトHepG2肝細胞5×104個になるように培養した後、100ngのGal4−作動レポータープラスミド(Gal4結合サイト(binding site)とホタルルシフェラーゼ遺伝子(firefly leuciferase gene)融合)とpGal4/HIF−1αプラスミド(酵母Gal4タンパク質(1−147アミノ酸)のDNA結合ドメインと融合したHIF−1αを発現するプラスミド)を形質転換させた。形質転換されたヒトHepG2肝細胞を正常酸素状態と低酸素状態でそれぞれ培養した後、正常酸素状態にCQ(10,50μM)を16時間処理し、形質転換して48時間以後、ルシフェラーゼ分析をレポーター遺伝子分析システム(Promega,米国)を使用して測定し、β−ガラクトシダーゼの活性度で値を平均化した。TPENの場合、ヒトHepG2肝細胞を正常酸素状態と低酸素状態で培養した後、それぞれTPEN(5μM)を16時間処理した。
【0078】
Gal4融合タンパク質は、Gal4結合サイトに結合することができるので、リポーター遺伝子はHIF−1αが転写活性度を示す時のみ転写することができる。本実験結果、CQは正常酸素状態でHIF−1αの転移活性度を増加させる。それとは対照的に、TPENの場合、低酸素状態ではHIF−1αの活性を増加させるが、正常酸素状態ではHIF−1αの活性を増加させることができない(図15)。
実施例5−3:試験管内(in vitro)HIF−1αとCBPの結合に対するCQとTPENの影響の調査
20μl[35S]−ラベルヒトHIF−1αタンパク質と固定されたGST−CBP N−ドメイン(アミノ酸1−450)(Kawei等,Cell,1996年,第85巻,403−413頁)を、ZnCl2のない状態またはZnCl2 20μMで一緒に反応バッファー(200μl;20mM Tris−HCl(pH 7.5),5mM KCl,1.5mM MgCl2,1mM DTT)で1時間、4℃で反応するようにした。グルタチオン−ユニフローレジン(glutathione−uniflow resin)に結合したタンパク質を1mlの0.1%Nonidet P−40が含まれた結合バッファーで4回洗浄し、SDS試料バッファーで加熱して溶出させてSDS−PAGEで分析した(Dann等,Proc Natl Acad Sci USA,2002年,第99巻,15351−15356頁)。
【0079】
本実験の結果、CBPがHIF−1αと結合するためにジンクフィンガードメイン(zinc finger domain)CH1を有しているにもかかわらず、ZnCl2 存在してCQとTPEN処理時、HIF−1αとCBPとの結合には何らの影響を与えない(図16)。
実施例6:HIF−1α標的遺伝子VEGF及びEPOの発現に対するCQに対する影響の調査
ヒトHepG2肝細胞及びSH−SY5Y脳細胞をCQ(10,50μM)を処理した後、正常酸素状態と低酸素状態で16時間培養した。以後、全体RNAは、RNaseスピンカラム(Qiagen,米国)を使用して分離した。VEGFの発現は、ノーザンブロット方法を使用して調査した。ノーザンブロットハイブリダイゼーションは、32P−ラベルされたVEGF cDNAプローブ及び32P−ラベルされたEPO cDNAプローブで遂行した。ノーザンブロット方法は、当業者に知られた公知の方法を使用した(Sambrook等,Molecular cloning,1989年)。
【0080】
本実験の結果、CQは正常酸素状態でVEGF及びEPOの発現を増加させる(図17)。
実施例7:血管生成でのCQ及びCQ誘導体の影響の調査
本発明者等は、血管CQ及びCQ誘導体が血管生成に及ぼす影響を調査するために、CAM(choriallantoic membrane)分析を遂行した(Cho,H.等,Oncol Rep.,2004年,第11(1)巻,191−195頁)。具体的に本発明者等は、受精したたまごを37゜C及び55%湿潤条件の湿潤培養器に保管した。10日後に、たまごアルブミン2mlを皮下注射器を使用して除去して、CAM及び卵黄嚢が卵殻膜から分離するようにした。10.5日に卵殻(1cm2)を除去した。血管形成能を調査するために、VEGF(10ng)、CQ(10,50μM溶液10μl:30.6ng,152.8ng)、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン(10,50μM溶液10ul:39.7ng,198.5ng)、及び5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン(10,50μM溶液10ul:30.3ng,151.5ng)が含まれた滅菌循環フィルターペーパー(0.5cm,diameter,Whatmann,UK)を室温で乾燥し、Y型血管分岐点上のCAM(choriallantoic membrane)に適用した。3日以後に、10%脂肪油剤1〜2mlを繊毛尿膜に注入して顕微鏡で観察した。
【0081】
その結果、CQとその誘導体(5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン及び5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン)が、血管生成を促進することを確認した(表1及び図18)。
【0082】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0083】
前記で詳しくみたように、本発明のクリオキノール及びその誘導体は、正常酸素状態の細胞でHIF−1α(Hypoxia−inducible factor−1α)のユビキチン化を阻害してHIF−1αを蓄積させる一方、FIH−1の活性化を阻害してHIF−1αの転写活性を増加させて、HIF−1α標的遺伝子であるVEGF(vascular endothelial growth factor)及びEPO(erythropoietin)の発現を誘導するので、虚血性疾患治療剤として有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】クリオキノールとTPENによるHIF−1αの発現をウエスタンブロット方法で調査した結果を示した図である。
【0085】
N:正常酸素状態(normoxia)
H:低酸素状態(hypoxia)
【図2】CQ及び陽イオンによるHIF−1αの発現をウエスタンブロット方法で調査した結果を示した図である。
【0086】
N:正常酸素状態
H:低酸素状態
【図3】CQ及びCQ誘導体によるHIF−1αの発現をウエスタンブロット方法で調査した結果を示した図である。
【0087】
N:正常酸素状態
H:低酸素状態
A:5−クロロキノリン−8−イル アセテート
B:5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン
C:5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン
D:8−ヒドロキシキノリン
【図4】CQとTPENによるVEGFの発現をRT−PCR方法で調査した結果を示した図である。
【0088】
N:正常酸素状態
H:低酸素状態.
【図5】CQ及びCQ誘導体によるVEGF発現をRT−PCR方法で調査した結果を示した図である。
【0089】
N:正常酸素状態
H:低酸素状態
A:5−クロロキノリン−8−イル アセテート
B:5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン
C:5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリン
D:8−ヒドロキシキノリン
【図6】CQとTPENによるHRE依存遺伝子発現をレポーター遺伝子システム方法で調査した結果を示した図である。
【図7】PHD2活性化に対するCQ及びTPENの影響を調査した図である。
【図8】CQによる試験管内(in vitro)HIF−1αユビキチン化の調査結果を示した図である。
【図9】CQとTPENによる生体内(in vivo)HIF−1αユビキチン化の調査結果を示した図である。
【図10】CQとTPENによるFIH−1活性変化を調査した図である。
【図11】CQと陽イオンによるFIH−1活性変化を調査した図である。
【図12】HIF−1α突然変異体を使用したCQによるFIH−1活性変化を調査した図である。
【図13】MALDI−TOF方法で分析したCQによるFIH−1活性変化を調査した図である。
【図14】CQによるHIF−1αとCBPの結合増加を共―免疫沈降法を使用した調査(in vivo)結果を示した図である。
【図15】CQとTPENによるHIF−1αによる低酸素誘導転移活性をレポーター遺伝子システム方法で調査した結果を示した図である。
【図16】CQとTPENによる試験管内(in vitro)HIF−1αとCBPとの結合に及ぼす影響の調査結果を示した面である。
【図17】CQとTPENによるVEGF及びEPO発現の調査結果を示した面である。
【図18】CQ及びCQ誘導体の血管生成能力を測定した写真である。
【配列表フリーテキスト】
【0090】
配列番号1は、VEGF正方向プライマーである。
【0091】
配列番号2は、VEGF逆方向プライマーである。
【0092】
配列番号3は、18s正方向プライマーである。
【0093】
配列番号4は、18s逆方向プライマーである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリオキノール(clioquinol)またはその誘導体を有効成分として含む、HIF(hypoxia−inducible factor)−1α活性剤。
【請求項2】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のHIF−1α活性剤:
【化1】
式中、RはHまたはアセチル基、X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族。
【請求項3】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項2に記載のHIF−1α活性剤。
【請求項4】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであることを特徴とする、請求項1に記載のHIF−1α活性剤。
【請求項5】
クリオキノールまたはその誘導体が、HIF−1αのユビキチン化を抑制したりHIF−1α転写活性を増大させたりすることを特徴とする、請求項1に記載のHIF−1α活性剤。
【請求項6】
クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む、FIH−1(factor inhibiting hypoxia−inducible factor−1α)活性阻害剤。
【請求項7】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項6に記載のFIH−1活性阻害剤:
【化2】
式中、RはHまたはアセチル基、 X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族。
【請求項8】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項7に記載のFIH−1活性阻害剤。
【請求項9】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであることを特徴とする、請求項6に記載のFIH−1活性阻害剤。
【請求項10】
クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む、VEGF(vascular endothelial growth factor)発現誘導剤。
【請求項11】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項10に記載のVEGF発現誘導剤:
【化3】
式中、RはHまたはアセチル基、X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族。
【請求項12】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項11に記載のVEGF発現誘導剤。
【請求項13】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであることを特徴とする、請求項10に記載のVEGF発現誘導剤。
【請求項14】
クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む、EPO(erythropoietin)発現誘導剤。
【請求項15】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項14に記載のEPO発現誘導剤:
【化4】
式中、RはHまたはアセチル基、X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族
【請求項16】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項15に記載のEPO発現誘導剤。
【請求項17】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであることを特徴とする、請求項14に記載のEPO発現誘導剤。
【請求項18】
クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む、虚血性疾患治療剤。
【請求項19】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項18に記載の虚血性疾患治療剤:
【化5】
式中、RはHまたはアセチル基、X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族。
【請求項20】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項19に記載の虚血性疾患治療剤。
【請求項21】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであるのを特徴とする、請求項18に記載の虚血性疾患治療剤。
【請求項22】
虚血性疾患が、虚血性心臓疾患、虚血性脳疾患、虚血性末端疾患であることを特徴とする、請求項18に記載の虚血性疾患治療剤。
【請求項23】
クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む、血管生成誘導剤。
【請求項24】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項23に記載の血管生成誘導剤:
【化6】
式中、RはHまたはアセチル基、X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族
【請求項25】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項24に記載の血管生成誘導剤。
【請求項26】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであることを特徴とする、請求項23に記載の血管生成誘導剤。
【請求項27】
治療的有効量のクリオキノールまたはその誘導体を、虚血性疾患にかかった患者に投与する工程を含む虚血性疾患の治療方法。
【請求項28】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項27に記載の虚血性疾患の治療方法:
【化7】
式中、RはHまたはアセチル基、X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族
【請求項29】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項28に記載の虚血性疾患の治療方法。
【請求項30】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであることを特徴とする、請求項27に記載の虚血性疾患の治療方法。
【請求項31】
虚血性疾患治療剤の製造において、クリオキノールまたはその誘導体の用途。
【請求項1】
クリオキノール(clioquinol)またはその誘導体を有効成分として含む、HIF(hypoxia−inducible factor)−1α活性剤。
【請求項2】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項1に記載のHIF−1α活性剤:
【化1】
式中、RはHまたはアセチル基、X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族。
【請求項3】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項2に記載のHIF−1α活性剤。
【請求項4】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであることを特徴とする、請求項1に記載のHIF−1α活性剤。
【請求項5】
クリオキノールまたはその誘導体が、HIF−1αのユビキチン化を抑制したりHIF−1α転写活性を増大させたりすることを特徴とする、請求項1に記載のHIF−1α活性剤。
【請求項6】
クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む、FIH−1(factor inhibiting hypoxia−inducible factor−1α)活性阻害剤。
【請求項7】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項6に記載のFIH−1活性阻害剤:
【化2】
式中、RはHまたはアセチル基、 X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族。
【請求項8】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項7に記載のFIH−1活性阻害剤。
【請求項9】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであることを特徴とする、請求項6に記載のFIH−1活性阻害剤。
【請求項10】
クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む、VEGF(vascular endothelial growth factor)発現誘導剤。
【請求項11】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項10に記載のVEGF発現誘導剤:
【化3】
式中、RはHまたはアセチル基、X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族。
【請求項12】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項11に記載のVEGF発現誘導剤。
【請求項13】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであることを特徴とする、請求項10に記載のVEGF発現誘導剤。
【請求項14】
クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む、EPO(erythropoietin)発現誘導剤。
【請求項15】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項14に記載のEPO発現誘導剤:
【化4】
式中、RはHまたはアセチル基、X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族
【請求項16】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項15に記載のEPO発現誘導剤。
【請求項17】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであることを特徴とする、請求項14に記載のEPO発現誘導剤。
【請求項18】
クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む、虚血性疾患治療剤。
【請求項19】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項18に記載の虚血性疾患治療剤:
【化5】
式中、RはHまたはアセチル基、X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族。
【請求項20】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項19に記載の虚血性疾患治療剤。
【請求項21】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであるのを特徴とする、請求項18に記載の虚血性疾患治療剤。
【請求項22】
虚血性疾患が、虚血性心臓疾患、虚血性脳疾患、虚血性末端疾患であることを特徴とする、請求項18に記載の虚血性疾患治療剤。
【請求項23】
クリオキノールまたはその誘導体を有効成分として含む、血管生成誘導剤。
【請求項24】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項23に記載の血管生成誘導剤:
【化6】
式中、RはHまたはアセチル基、X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族
【請求項25】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項24に記載の血管生成誘導剤。
【請求項26】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであることを特徴とする、請求項23に記載の血管生成誘導剤。
【請求項27】
治療的有効量のクリオキノールまたはその誘導体を、虚血性疾患にかかった患者に投与する工程を含む虚血性疾患の治療方法。
【請求項28】
クリオキノールまたはその誘導体が、下記の化学式の構造を有することを特徴とする、請求項27に記載の虚血性疾患の治療方法:
【化7】
式中、RはHまたはアセチル基、X1またはX2は独立して、Hまたはハロゲン族
【請求項29】
前記ハロゲン族が、F、Br、ClまたはIであることを特徴とする、請求項28に記載の虚血性疾患の治療方法。
【請求項30】
クリオキノールの誘導体が、5−クロロキノリン−8−イル アセテート、5,7−ジイオド−8−ヒドロキシキノリン、5,7−ジブロモ−8−ヒドロキシキノリンまたは8−ヒドロキシキノリンであることを特徴とする、請求項27に記載の虚血性疾患の治療方法。
【請求項31】
虚血性疾患治療剤の製造において、クリオキノールまたはその誘導体の用途。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2009−522353(P2009−522353A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549431(P2008−549431)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【国際出願番号】PCT/KR2007/000242
【国際公開番号】WO2007/086663
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(508206324)ユニバーシティ オブ ソウル ファンデーション オブ インダストリアル アンド アカデミック コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【国際出願番号】PCT/KR2007/000242
【国際公開番号】WO2007/086663
【国際公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(508206324)ユニバーシティ オブ ソウル ファンデーション オブ インダストリアル アンド アカデミック コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】
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