説明

HIV−1感染の検出

【課題】HIV感染を直接、リアルタイム、及びインビボで測定することができ、偽陰性の結果をもたらすことがない方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る方法は、生体サンプルを得るステップと、所定の細胞代謝産物のレベルにおける変化に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記変化を定量化するステップと、前記定量化した変化を、標準の代謝産物レベルと比較するステップとを含み、前記所定の細胞代謝産物のレベルが前記標準の代謝産物レベルに対して変化している場合は、前記対象がウイルスに感染していると示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は、2005年6月15日に出願された米国特許出願番号第60/690,489号、及び2005年6月15日に出願された米国特許出願番号第60/690,491号の優先権を主張するものである(両方とも、参照により、本明細書に組み込まれるものとする)。
【0002】
本発明は、低費用及び大規模で行うのに実用的であり、且つHIVをインビボで画像検出するのに大きな可能性を秘めた高信頼度の特異的高感度分析に関連するものである。さらに具体的には、本発明は、HIV感染の存在及び程度を検査するために細胞の代謝産物における変化を利用する方法に関連する。
【背景技術】
【0003】
ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)は、後天性免疫不全症候群(acquired immune deficiency syndrome:AIDS)と名づけられた免疫系の変性疾患の第一要因とされてきた。HIVがCD4Tリンパ球に感染すると、この必要不可欠なリンパ球が欠失するようになり、それによって、日和見感染症、神経疾患、腫瘍の成長が発生し、患者は最終的に死に至る。
【0004】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による感染は、ウイルスが持続的に高速で増殖する慢性的なプロセスである。HIV−1感染の発病過程では、急性ウイルス血症期が発生し、無症状性の期間(期間の長さは様々ではあるが、一般的には長期)が続く。
【0005】
HIV感染を検出し、体内でのHIVの発達をモニターするために開発された分析法として、とりわけ、欠失したCD4+細胞の数を計算し、AIDSの予後を示す方法がある。血清学的スクリーニング技術もまた、世界中でHIV検出に使用されている。この技術では、HIVのp24抗原などのHIV抗原に対する抗体を検出する。
【0006】
また、感染の存在及び程度を評価するために、ELISA(酵素免疫吸着測定法)及び血清サンプル内のウイルス核酸を検出するためのポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction:PCR)などの他の検査法が現在使用されている。しかしながら、これらの分析法には、次に示す3つの主要な欠陥がある。(1)HIVに感染した全ての感染者に対してHIVを検出するほど十分な感度を有さない(その理由として、例えば、検出可能なレベルのHIV血清抗体を有さないHIV感染者がいるため)。(2)セロコンバージョンが起きるまでの期間、又は血液内を循環しているウイルスが大量増殖し、検出が可能になるまでに長い時間がかかる。また、HIVに感染しているが、血清反応が陰性の人の中には、セロコンバージョンを決して起こさない人もいる。彼らは一生感染者のままであり続ける。血清反応陰性のHIV感染者においてHIV感染を検出する方法として、「Proc. Natl. Acad. Sci. UAS, 87: 3972-3076 (1990)」(Jehuda-Cohen, T. et al.)に記載されているものもあるが、これにも同様な問題が存在する。この方法では、血液から末梢血単核球(peripheral blood mononuclear cell:PBMC)が単離され、ヤマゴボウマイトジェンなどのマイトジェに晒される。この場合、ヤマゴボウマイトジェンの存在下で単離したPBMCを培養すると、PBMCは、HIVに対して特異的な免疫グロブリンを分泌する。そして最後に、(3)従来の検出法は、主に末梢血の反応(抗体又はウイルス濃度)に依存し、一次免疫又は他の器官(通常、これらがHIVの主な感染部位である)における感染を検出又は示すことはない。
【0007】
つまり、ELISA、PCR、及び従来の他の分析法では、全てのHIV感染者に対して感染を検出することができず、HIV感染者を感染していないと診断することで、感染者を危険に晒す。それによって、薬剤療法の開始が遅れ、HIV感染者が知らずに他人にHIVを感染させる可能性が高くなる。同様に、体内の主要なHIV感染部位ではなく、末梢血におけるHIVの存在を予想する感染分析に依存すると、薬剤療法前後に体内全体のウイルス濃度に関して誤った情報を得る場合がある。例えば、選択された薬剤療法によって、血液へのウイルスの排出量が変わると、あたかも体内からウイルスが除去されたかのように見え、ウイルス感染に対する療法の効果が過大評価される又は判明しないことがある。
【0008】
したがって、人間におけるHIV−1感染の検出のために使用される従来の方法(HIV−1抗体の生成に基づく)では、HIV感染を直接、リアルタイム、及びインビボで測定することができないので、偽陰性の結果をもたらすことがあり、それによって、感染者が健全な人にHIVを感染させる可能性が増大することは明らかである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
ある実施形態では、本発明は、対象におけるウイルス感染を検出するための方法であって、前記対象から生体サンプルを得るステップと、所定の細胞代謝産物のレベルにおける変化に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記変化を定量化するステップと、前記定量化した変化を標準の代謝産物レベルと比較するステップとを含み、前記標準の代謝産物レベルに対して前記細胞代謝産物のレベルが変化している場合は、前記対象がウイルスに感染していると示す方法を提供する。
【0010】
他の実施形態では、本発明は、対象に対する抗ウイルス治療の有効性を評価する方法であって、前記対象から生体サンプルを得るステップと、所定の細胞代謝産物のレベルにおける変化に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記変化を定量化するステップと、前記定量化した変化を標準の代謝産物レベルと比較するステップと、時間、医薬の投与量、既存の病状、環境要因、医薬の種類、カクテルの構成物、副作用、又はそれらの組み合わせの関数として、前記所定の細胞代謝産物のレベルが前記標準の代謝産物レベルに戻る率をモニターするステップとを含み、前記変化した細胞代謝産物のレベルが前記標準の細胞代謝産物レベルに速く戻るほど、前記治療がより有効であると示す方法を提供する。
【0011】
ある実施形態では、本発明は、HIV−1治療のための合理的な薬剤の設計のための方法であって、候補の化合物を選択するステップと、感染した対象を前記候補の化合物に晒すステップと、前記感染した対象から生体サンプルを得るステップと、所定の細胞代謝産物のレベルにおける変化に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記変化を定量化するステップと、前記定量化した変化を標準の代謝産物レベルと比較するステップと、時間、医薬の投与量、既存の病状、環境要因、医薬の種類、カクテルの構成物、副作用、又はそれらの組み合わせの関数として、前記所定の細胞代謝産物のレベルが前記標準の代謝産物レベルに戻る率をモニターするステップとを含み、前記変化した細胞代謝産物のレベルが前記標準の代謝産物レベルに戻れば、前記薬剤がHIV−1の治療に対して有効であると示す方法を提供する。
【0012】
他の実施形態では、本発明は、感染した対象におけるウイルス感染の重症度を分類する方法であって、前記対象から生体サンプルを得るステップと、所定の細胞代謝産物レベルにおける変化に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記変化を定量化するステップと、前記定量化した変化を、標準の代謝産物レベルと比較するステップと、観察された前記細胞代謝産物のレベルと標準の代謝産物レベルとの間の差を計算するステップとを含み、前記観察されたレベルと前記標準レベルとの間の差が大きいほど、前記感染がより重症であると示す方法を提供する。
【0013】
ある実施形態では、本発明は、対象における活動性又は非活動性(active or passive)HIV感染の程度、位置、又はそれらの組み合わせをインビボで画像化する方法であって、所定の細胞代謝産物における変化を第一の評価基準として使用し、前記対象の体全体又は特定の器官の磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)又は他の同様なスキャンを得るステップと、観察された前記画像と非感染の組織又は器官から得られた標準画像との間の差を計算するステップとを含み、所定の組織又は器官の位置に関して得られた画像における前記差が大きいほど、その位置における感染がより重症であると示す方法を提供する。
【0014】
他の実施形態では、本発明は、HIV−1治療のための薬剤の合理的な設計の方法であって、候補の化合物を選択するステップと、感染した器官又は組織を、前記候補の化合物に晒すステップと、所定の細胞代謝産物における変化を第一の評価基準として使用し、対象の体全体又は特定の器官の磁気共鳴画像(MRI)又は他の同様なスキャンを得るステップと、観察された前記画像と非感染の組織又は器官から得られた標準画像との間の差を計算するステップと、時間、医薬の投与量、既存の病状、環境要因、医薬の種類、カクテルの構成物、副作用、又はそれらの組み合わせの関数として、前記得られた画像が前記非感染の組織又は器官から得られた標準画像に戻る率をモニターするステップとを含み、前記得られた画像が前記非感染の組織又は器官から得られた標準画像に戻れば、薬剤がHIV−1の治療に対して有効である示す方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
ある実施形態では、HIV−1などのウイルスの感染を動的に画像化できることは、リンパ器官、骨髄、中枢神経経(central nervous system:CNS)、心臓及び腎臓の組織及び器官など(これらを、リアルタイム及びインビボの条件下で評価及び制御するのは、不可能ではないが非常に困難である)のウイルス・リザーバーを理解する及びターゲットにする上で重要な進歩である。
【0016】
ある実施形態では、ウイルス・リザーバーは、ウイルスが潜伏感染した静止CD4T細胞のプールである。他の実施形態では、ウイルス・リザーバーは、ウイルス学的に静止しており、複数のスプライスされたRNA又はウイルス粒子を生成できない。他の実施形態では、低レベルのウイルスが複製を継続し、その結果、ウイルスの半減期が延長する。これらのウイルスには、幾つかの実施形態では、持続的に増殖するウイルス(replication-competent virus)、組み込まれていないプロウイルスDNA(unintegrated proviral DNA)(線形又は円形)、及び細胞内RNA(cell-associated RNA)が含まれる。
【0017】
ウイルス感染の検出のために使用されている従来の方法は、幾つかの実施形態では、ウイルスに特異的な抗体、又はウイルスの核酸若しくは遺伝子産物の生成に基づくものである。しかしながら、これらの方法を使用しても、感染の位置及び程度をリアルタイム及びインビボで評価することができない。ある実施形態では、HIV−1が通常、細胞に感染することを考慮して、本明細書では、ウイルス感染の存在及び重症度を検出するために、ウイルスの感染及び増殖の影響に関連する細胞代謝の変化の利用について説明する。
【0018】
したがって、本発明のこの態様及びある実施形態では、本発明は、対象におけるウイルス感染を検出するための方法であって、前記対象から生体サンプルを得るステップと、ホスホジエステル(phosphodiester:PDE)及びホスホモノエステル(phosphomonoester:PME)の濃度に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記濃度から、ホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の観察比を計算するステップと、前記観察比を標準の比と比較するステップとを含み、前記PDE/PMEの比の減少が前記対象におけるウイルス感染を示す方法を提供する。
【0019】
他の実施形態では、本発明は、対象におけるHIV感染を検出するための方法であって、前記対象から生体サンプルを得るステップと、ホスホジエステル(PDE)及びホスホモノエステル(PME)の濃度に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記濃度から、ホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の観察比を計算するステップと、前記観察比を標準の比と比較するステップとを含む方法を提供する。
【0020】
ある実施形態では、本明細書に記載されている方法によって検出されるウイルス感染は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、ヒトC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)感染、ポリオウイルス感染、西ナイルウイルス感染、口蹄疫ウイルス感染、又はそれらの組み合わせである。
【0021】
ある実施形態では、RNAウイルスは、デノボ合成でRNA合成を開始する。この機構には、ポリメラーゼの活性部位、ヌクレオチジル転移(nucleotidyl transfer)のために3´ヒドロキシルを第2のヌクレオシド三リン酸(nucleoside triphosphate:NTP)に提供する開始ヌクレオチド(NTPi)、及び鋳型開始部位が関わる。NTPiは、ポリメラーゼのi部位に結合し、T1と塩基対合する。第2のNTPは、i+1部位に結合し、T2と塩基対合する。第一のホスホジエステル結合形成の後には、ポリメラーゼ又は鋳型が位置を変え、次のヌクレオチドを組み込むためにi+1部位が使用される。新生RNAには、5´キャップ付加などの他の機構が行われる。デノボ合成は、様々なRNAウイルス(ある実施形態ではプラス鎖RNA、マイナス鎖RNA、及びアンビセンス鎖RNAのゲノムを有するウイルスなど)に利用されている。これらのウイルスには、ある実施形態では、二重鎖RNAウイルス、マイナス鎖RNAウイルス、プラス鎖アルファ様ウイルス、又はそれらの組み合わせが含まれる。ある実施形態では、デノボ合成を開始するウイルスが感染すると、ホスホジエステルの合成が発生し、それによって、PDEとPMEとの間の比が増加し、本明細書に記載されている方法によって検出されるようになる。
【0022】
他の実施形態では、HIVに感染した細胞の過塩素酸抽出液におけるホスホジエステル(PDE)の濃度のホスホモノエステル(PME)の濃度に対する比は、31P−NMR分光法又は他の実施形態で他の任意の分析法で測定すると(PDE/PME=0.39)、感染していない細胞(PDE/PME=0.95)よりも41%低い(図3A及びB)。PDE/PMEの濃度における差の測定は比較的簡単であり、ある実施形態では、HIV感染の存在及び程度を説明する分析基準として使用するのに有意義である。本明細書に記載されている実施形態に開示されている方法は、低費用及び大規模で行うのに実用的であり、且つHIVをインビボで画像検出するのに大きな可能性を秘めた高信頼度の特異的高感度分析法を提供する。
【0023】
ある実施形態では、本明細書に記載されている様々な細胞代謝産物及び標識物の濃度は、100万分の1(parts-per-million:ppm)で測定されている。このppmは、細胞標識物又は代謝産物の濃度を測定するのに使用される分光学的な方法で得られる曲線下面積(area under the curve:AUC)を計算することで求めることができる。曲線下面積は、所定の代謝産物の実変数に関する連続及び正の実数関数fの左の端点a(測定されたピークとその左側のピークとの間の変曲点と定義される)と端点b(測定されたピークとその右側のピークとの間の変曲点と定義される)との間の積分値である。この積分値は、x=a、x=b、x軸、及びfのグラフの曲線で囲まれた面積を表す。
【0024】
本明細書に記載されている方法に使用される生体サンプルにおけるPDE/PMEの比は、非感染の生体サンプルのものよりも他の実施形態では約20〜95%、他の実施形態では約25〜75%、他の実施形態では約35〜65%、他の実施形態では約40〜55%、又は他の実施形態では約40〜45%低い。
【0025】
ある実施形態では、感染した生体サンプルにおけるPDE/PMEの比は、使用される検出方法、検出しようとする感染を引き起こしたウイルスの種類、及び感染の程度に依存する。当業者は、感染した生体サンプルのPDE/PMEの比と非感染対照のPDE/PMEの比との間の差がウイルス感染の存在及び重症度を決定するものであると分かるであろう。したがって、感染した生体サンプルのPDE/PMEの比は、ある実施形態では約0.7〜0.3の間、他の実施形態では約0.7〜0.2の間、他の実施形態では約0.6〜0.3の間、他の実施形態では約0.5〜0.4の間、又は他の実施形態では約0.4〜0.3の間である。
【0026】
NMR分光法は、ある実施形態では虚血、他の実施形態では認知症、他の実施形態では脳障害、他の実施形態ではてんかん、他の実施形態では脳以外の部位に位置する悪性疾患、他の実施形態では多発性硬化症、他の実施形態では心筋虚血、他の実施形態ではパーキンソン病、他の実施形態では精神疾患、又は他の実施形態では炎症に激しく影響されている哺乳類細胞(他の実施形態では心筋細胞、又は他の実施形態では腎臓上皮細胞など)における機能変化を評価するために使用される。ある実施形態では、31P−NMRにより、細胞内代謝産物の濃度における変化の相互関係、又は他の実施形態では、哺乳類細胞の機能のかぎとなる生体エネルギーのパラメータの相互関係相互関係が判明する。これらには、ある実施形態ではクレアチンリン酸(phosphocreatine:PCr)、他の実施形態ではアデノシン三リン酸(adenosinetriphosphate:ATP)、又は他の実施形態では無機リン酸(Pi)が含まれる。ある実施形態では、31P−NMR分光法は非侵襲性であるが、この技術の感度は比較的低く、これは、他の実施形態では、大きな不都合となる。感度の低さの一因となる要因は、幾つか存在する。それらの例として、ある実施形態では原子核の極性形成、他の実施形態では濃度、他の実施形態では二重層膜における原子の限られた回転、他の実施形態では常磁性イオンとの相互作用、他の実施形態では観察チャンバ内における細胞の限られた生存性、又は他の実施形態ではこれらの要因の組み合わせがある。
【0027】
他の実施形態では、PDE/PMEの比は、H又は13Cの磁気共鳴分光法(magnetic resonance spectroscopy:MRS)を使用することで測定される。他の実施形態では、PDE/PMEの比は、31P、H、又は13Cアイソトープの何れか又は全てを使用することで測定され、それによって、本明細書に記載されている方法の感度が上昇する。
【0028】
磁気共鳴映像法(magnetic resonance imaging:MRI)は、ある実施形態では、無線周波数電磁界と体内の特定の原子核との間の相互作用に基づく多断面画像化(multiplanar imaging)法を意味する。ある実施形態では、異なる分子が磁気刺激を受けると、それらの分子は、異なる振動数で振動するようになる。MRIでこれらの振動数を検出することができるので、したがって、測定している成分を検出することができる。他の実施形態では、磁気共鳴分光法(MRS)には、異なる化学構造体に存在する原子核が隣接する化学構造体及びこれらの様々な化学構造体の間の相互作用に応じて異なる特有の共鳴パターンを有するという原理が利用されている。MRSによって研究対象の組織の化学構成物を検出することができ、関連ソフトウェアを使用して検出された様々な化学物質に対応するピークを有する波形を表示することができる。ある実施形態では、MRSは、組織及び器官の構造の撮像並びに解剖学的な撮像とは対照的に、分子プロセスを可視化することができる。他の実施形態では、MRSにより、ウイルス感染及びその後のPDE/PMEの比における変化などの細胞プロセスに関する直接の生化学情報を得ることができる。
【0029】
31P−NMR分光法の限界を改善するために、ある実施形態では、生きた細胞の代わりに細胞の過塩素酸(perchioric acid:PCA)抽出液が分析に使用される。他の実施形態では、PCA抽出液は、細胞の細胞質構成物を保持することができる。また、PCA抽出液は同質であるので、スペクトル分解が向上し、感度が著しく増大する。ある実施形態では、この抽出液により、常磁性不純物を除去することができる。また、他の実施形態では、pHが調整された抽出液は、NMRの結果を得るまでの長い間でさえ、安定している。他の実施形態では、PCA抽出液は、HIV−1に感染した細胞のNMR分析のスターティング・ポイントとして使用される。ある実施形態では、細胞代謝産物における変化は、HIV−1感染の、信頼できる高感度の診断的標識となる。
【0030】
他の実施形態では、HIV−1に感染した細胞と非感染の細胞との間の31P−NMRスペクトルの低磁場部分には著しい違いがある。HIV−1に感染した細胞は、ある実施形態では、PDEのPMEに対する比において2〜2.5倍の減少を示す。ある実施形態では、この違いは、様々なヒト細胞系(ある実施形態ではSupT1、他の実施形態ではCEM、他の実施形態ではU87、又は他の実施形態ではMAGIである)から得られたNMRスペクトルで観察された(ある実施形態ではX4−HIV−1、又は他の実施形態ではX4/R5−トロピックHIV−1が使用された)。PBMCがHIV−1に感染したところ(インビトロでPBMCを感染させた、又はHIV−1に感染した患者からPBMCを得た)、ある実施形態では、同様であるが、より小さな変化(0.482対0.270)が見られた。
【0031】
NMRで検出できるPME及びPDEは、ある実施形態では、細胞膜の合成及び機能に関連する生化学又は生物物理学プロセスに関わる。PMEには、他の実施形態では、ホスホコリン(phosphocholine:PC)及びホスホエタノールアミン(phosphoethanolamine:PE)が含まれる。一方、他の実施形態では、PDEは、主にグリセロホスホリルコリン及びグリセロホスホリルエタノールアミンとして同定された。これらの代謝産物の存在は、ある実施形態では、リン脂質の異化作用(他の実施形態ではホスホリパーゼ、又は他の実施形態ではホスホジエステラーゼを伴う)によって制御される。ある実施形態では、PC及びPEは、それぞれホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンの前駆体である。
【0032】
ある実施形態では、ウイルス感染は、レンチウイルスの感染である。レンチウイルスの群は、「霊長類に感染するもの」と「非霊長類に感染するもの」とに分けることができる。ある実施形態では、霊長類のレンチウイルスとして、後天性免疫不全症候群(AIDS)の病原体であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びサル免疫不全ウイルス(simian immunodeficiency virus:SIV)がある。非霊長類のレンチウイルス群には、他の実施形態では、「スローウイルス」の原型であるビスナ/マエディ・ウイルス(visna/maedi virus:VMV)、並びに関連するヤギ関節炎脳炎ウイルス(caprine arthritis-encephalitis virus:CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(equine infectious anaemia virus:EIAV)、猫免疫不全ウイルス(feline immunodeficiency virus:FIV)、及びウシ免疫不全ウイルス(bovine immunodeficiency virus:BIV)が含まれる。
【0033】
レンチウイルスであるHIV−1は、ある実施形態では、脂質の二重層に包まれたRNAゲノムを有する。ある実施形態におけるHIV−1の侵入、及び他の実施形態におけるHIV−1の増殖は、ウイルスが外側の細胞膜に融合することによって起きる。増殖のときにHIV−1粒子が出芽すると、他の実施形態では、細胞膜の構成が変わる。これは、他の実施形態ではプラス鎖RNAウイルス感染の一部、他の実施形態ではヒトC型肝炎ウイルス(HCV)感染、他の実施形態ではポリオウイルス感染、他の実施形態では西ナイルウイルス感染、又は他の実施形態では口蹄疫ウイルス感染に見られる。ある実施形態では、細胞膜のトリグリセリド・プールのH−NMR信号で示される細胞マクロ分子構成における変化は、HIV−1に感染した後の初期段階(30分〜8日)のCD4+リンパ芽球様細胞で観察される。この場合、HIV−1に感染したリンパ芽球様細胞及び前単球細胞の陽子スペクトルでは、脂質シグナルの強度はより低いものであった。
【0034】
したがって、本発明のこの態様及びある実施形態では、本発明は、対象におけるHIV感染を検出するための方法であって、前記対象から生体サンプルを得るステップと、ホスホジエステル(PDE)及びホスホモノエステル(PME)の濃度に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記濃度から、ホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の観察比を計算するステップと、前記観察比を標準の比と比較するステップとを含み、前記生体サンプルは、ある実施形態では血清、他の実施形態では血漿、他の実施形態では唾液、他の実施形態では尿、他の実施形態で細胞溶解物、他の実施形態ではリンパ液、他の実施形態ではリンパ球、他の実施形態では末梢血単核球(PBMC)、他の実施形態では胸腺細胞、又は他の実施形態ではそれらの組み合わせである方法を提供する。他の実施形態では、上記の生体液は、本明細書で説明する本発明に係る方法及び実施形態に使用される。
【0035】
ある実施形態では、「溶解物」又は「血球溶解物(blood cell lysate)」という用語は、膜画分及び細胞小器官などの細胞残屑、並びに溶解(lysis)のプロセス(ある実施形態では酵素的、他の実施形態では化学的、又は他の実施形態では熱的)で生じる液体を意味する。
【0036】
他の実施形態では、「末梢血単核球」又は「PMBC」は、HIV血清反応性陰性のドナーのPBMCと患者の末梢血単核球(ある実施形態ではリンパ球、又は他の実施形態では単球である)とを共培養させたHIVの定性培養液を意味する。
【0037】
ある実施形態では、感染した生体サンプルのPDE/PMEの比は、非感染対照(他の実施形態では、ウイルス感染の分析において血清反応陰性を示す対象から得られる)と比較される。「血清反応陰性」という用語は、特定の種類の抗体を有さない血清を意味する。前記用語は、他の実施形態では特定の病原体(ある実施形態では、HIV−1ウイルスなど)に感染していなこと、他の実施形態では疾患の治療後に抗体が消失したこと、又は他の実施形態では任意の症候群(他の実施形態では、AIDSなど)で通常見られる抗体が欠失していることを意味する。ある実施形態では、「対照」という用語は、感染していない対象若しくは対象のプール、ウイルスに対して血清反応陰性である対象若しくは対象のプール、感染後に治療が成功した対象若しくは対象のプール、少なくとも1年の期間でウイルスの痕跡を示さない対象若しくは対象のプール、又は他の実施形態では、ここに記載した対象若しくは対象のプールの組み合わせを意味する。
【0038】
他の実施形態では、細胞標識の発現は、対照のものと比較される。前記細胞標識は、他の実施形態では、HIV−1感染に対して血清反応陽性の対象から得られる。ある実施形態では、血清陽性という用語は、過去に感染したことがあることを示す血清型を意味する。ある実施形態では、本発明に係る方法に使用される細胞標識は、本明細書に記載されている。
【0039】
ある実施形態では、本明細書に記載されている方法での比較のために使用される標準は、治療前の対象若しくは対象のプール、他の実施形態では治療後の対象若しくは対象のプール、又は他の実施形態では治療中の対象若しくは対象のプールから得られる。ある実施形態では、本明細書に記載されている方法で使用した細胞標識に関して得られた値と標準の値との間の差の程度を決定するための標準は、業界標準である。ある実施形態では、非感染のための業界標準は、比較のための標準対照として使用される。
【0040】
ある実施形態では、「細胞標識」という用語は、検出可能及び/又は測定可能な細胞の任意のソマティック標識(somatic marker)又は遺伝子標識を意味する。標識に対応して結合するプローブを使用することで、選択された細胞標識に関して細胞が陽性又は陰性と判定することがある。さらに、本発明のある実施形態では、関心のある各標識の強度を定量及び/又は測定する。生物学的又は分子的な特徴の究明は、例えば増殖活性及び感染活性を評価するために抗体の抗原(例えば、受容体、細胞内タンパク質、及び/又はペプチド)への結合活性に基づいてマクロファージの特徴を明らかにすることを伴う場合がある。他の実施形態では、本明細書に記載されている方法に使用される細胞標識は、無機リン酸塩(Pi)、ホスホコリン(PC)、ホスホエタノールアミン(PE)、グリセロホスホリルコリン(glycerophosphorylcholine:GPC)、及びグリセロホスホリルエタノールアミン(glycerophosphoryletlianolamjne:GPE)である。これらの標識の存在は、ある実施形態では、リン脂質の異化経路(ホスホリパーゼ並びにホオスホジエステラーゼを伴う)によって制御される。PC及びPEは、それぞれホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンの前駆体である。
【0041】
「リンパ球」又は「T細胞」は、細胞性免疫の機構の一部分を成す、抗体を生成しないリンパ球である。T細胞は、ある実施形態では、骨髄から胸腺へ移動する未熟なリンパ球から発生する。胸腺では、この未熟なリンパ球が成熟プロセスを経る。成熟したリンパ球は、急激に分裂し、著しく増加する。成熟したT細胞は、特定の抗原を認識及び結合する能力に基づいて免疫胆当細胞になる。抗原が免疫胆当T細胞(immunocompetent cell)の表面受容体に結合すると、このリンパ球は活性化する。
【0042】
ある実施形態では、患者の細胞がHIVを含んでいると、ウイルス粒子は、培養液に放出され、宿主細胞に感染して増殖する。他の実施形態では、培養の様々な間隔において、p24Ag(HIVのコアタンパク質)の存在を検査する。ある実施形態では、このp24Agは、ウイルス合成のピークを示す。他の実施形態では、陽性培養液の培養は、培養の任意の時点で終了させる。一方、ある実施形態では陰性培養液の培養、又は他の実施形態では未確定の培養液の培養は、28〜31日目までに終了させる。ある実施形態では、遺伝子型分析又は表現型分析の研究に陽性培養液からのウイルス分離体を使用する。他の実施形態では、プロウイルスのDNAを分析するために、培養細胞を使用する。
【0043】
末梢血単核球(PBMC)は、ある実施形態ではACDで処理した血液、他の実施形態ではEDTAで処理した血液、他の実施形態ではヘパリンで抗凝固処理した全血、又は他の実施形態ではクエン酸で抗凝固処理した全血から得られる。ある実施形態では、分子的研究(ある実施形態における血漿ウイルス量など)にEDTAを使用する。ある実施形態では、得られたPMBCは、対象によって異なる。
【0044】
ある実施形態では、本発明は、対象におけるHIV感染を検出するための方法であって、前記対象から生体サンプルを得るステップと、ホスホジエステル(PDE)及びホスホモノエステル(PME)の濃度に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記濃度から、ホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の観察比を計算するステップとを含み、前記生体サンプルにおける前記ホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の観察比は、RIA、ELISA、NMR、HPLC、GC、MS、又は他の組み合わせを使用して分析される方法を提供する。
【0045】
他の実施形態では、PDE/PMEの比を求めるために、NMRよりも感度の高い他の技術(ある実施形態では高速液体クロマトグラフィー(high-performance liquid chromatography:HPLC)、又は他の実施形態では質量分析法(mass-spectrometry:MS)など)が使用される。ある実施形態では、液体クロマトグラフィー質量分析(liquid chromatography-mass spectrometry:LC−MS)が使用される。その場合、対象からのPMBC(容量は既知である)におけるPDEが分離され、質量分析計に直接導入されることによって、PDE/PMEの比が求められる。ある実施形態では、本明細書に記載されているように生体液のサンプルを連続的に分析するために、サンプルの調製及び測定のプロセスは自動化されている。PDE及びPMEの2つの濃度の比は、他の実施形態では自己較正される、又は、他の実施形態では外部標準を必要としない、及びある実施形態では細胞感染を評価するために直接使用される。
【0046】
ある実施形態では、非侵襲性であるNMRでリン代謝産物を測定することによって、機能情報が得られる。また、他の実施形態では、リン代謝産物のNMR測定は、HIV−1が誘発する疾患を定量化するために使用される。ある実施形態では、HIV−1に感染した及び感染していない細胞の31P−NMRスペクトルの間に著しい及び再現可能な差が存在する。
【0047】
ある実施形態では、感染していないPBMCサンプルのPDE/PMEの平均比は、0.482±0.094である(図6)。他の実施形態では、インビトロで感染したPBMCのPDE/PMEの平均比は、0.203±0.076であった。ある実施形態では、感染したサンプルのPDE/PMEの比は、非感染リンパ球のPDE/PMEの平均比である0.482よりも低かった。ある実施形態では、単離された感染型のPBMCの31P−NMRスペクトルが示すPDE/PMEの平均比は0.270±0.07であり、これは0.482を大きく下回る。
【0048】
他の実施形態では、本発明は、対象におけるHIV感染を検出するための方法であって、前記対象から生体サンプルを得るステップと、ホスホジエステル(PDE)の濃度及びホスホモノエステル(PME)の濃度に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記濃度から、ホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の観察比を計算するステップと、前記観察比を標準比と比較するステップを含み、前記観察比が0.482よりも低い場合は、前記対象がHIV−1に感染していることを示し、又は他の実施形態では、前記観察比が0.482よりも高い場合は、前記対象がHIV−1に感染していないことを示す方法を提供する。
【0049】
他の実施形態では、インビトロにおいて31P−NMRで測定した非感染細胞とHIV−1感染細胞との間の差は、HIV−1のインビボ感染の信頼できる検出法としてこの測定法を利用できるほど十分に大きい。ある実施形態では、本明細書に記載されている本発明に係る方法で、単離された細胞集団における感染の程度をすぐに評価することができる。これは、NMR、又はより感度が高く、時間効率の良いHPLC若しくはMS技術(これらは、簡単に自動化できる)を使用することによって達成することができる。NMR分析が秘めている長期的な利点は、現在動的測定を行うことができない中枢神経系又は他の組織におけるHIV感染を非侵襲的にインビボで画像化する方法を開発できる点にある。HIV−1感染をこのように画像化できることは、ある実施形態ではHIVに感染した患者の診断、又は他の実施形態ではHIVに感染した患者の治療への大きな前進である。
【0050】
したがって、本発明のこの態様及びある実施形態では、本発明は、対象におけるHIV治療の効果を評価する方法であって、前記対象から生体サンプルを得るステップと、ホスホジエステル(PDE)の濃度及びホスホモノエステル(PME)の濃度に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記濃度から、ホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の観察比を計算するステップと、ある実施形態では時間、他の実施形態では医薬の投与量、他の実施形態では既存の病状、他の実施形態では環境要因、他の実施形態では医薬の種類、他の実施形態ではカクテルの構成物、他の実施形態では副作用、又は他の実施形態ではそれらの組み合わせの関数として、前記観察比の減少率をモニターするステップとを含む方法を提供する。
【0051】
他の実施形態では、本発明は、対象におけるHIV治療の効果を評価する方法であって、前記対象から生体サンプルを得るステップと、ホスホジエステル(PDE)の濃度及びホスホモノエステル(PME)の濃度に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記濃度から、ホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の観察比を計算するステップと、ある実施形態では時間、他の実施形態では医薬の投与量、他の実施形態では既存の病状、他の実施形態では環境要因、他の実施形態では医薬の種類、他の実施形態ではカクテルの構成物、他の実施形態では副作用、又は他の実施形態ではそれらの組み合わせの関数として、前記観察比の減少率をモニターするステップとを含み、有効な治療が、ある実施形態では、前記PDE/PMEの観察比を約0.482未満に減少させる治療であると示す方法を提供する。
【0052】
ある実施形態では、本発明は、HIV−1治療のための薬剤の合理的な設計のための方法であって、候補の化合物を選択するステップと、感染した対象を前記候補の化合物に晒すステップと、前記感染した対象から生体サンプルを得るステップと、ホスホジエステル(PDE)の濃度及びホスホモノエステル(PME)の濃度に関して前記生体サンプルを分析するステップと、前記濃度から、ホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の観察比を計算するステップと、ある実施形態では時間、他の実施形態では医薬の投与量、他の実施形態では既存の病状、他の実施形態では環境要因、又は他の実施形態ではそれらの組み合わせの関数として、前記観察比の減少率をモニターするステップとを含む方法を提供する。
【0053】
ある実施形態では、コンピュータによる設計法によって、有用な薬剤となり得る構成物のパターンを、ランダムに化学的改変した実質的に無限数の可能なパターンからを選択するのではなく、合理的に化学的改変した有限数のパターンから選択することができる。それぞれの化学的改変には、さらなる化学ステップが必要である。この化学ステップで有限数の化合物を合成するのは無理ではないが、実際に全ての可能な改変パターンの化合物を合成する場合は困難であり得る。したがって、三次元構造解析及びコンピュータによる設計法によって、コンピュータのモニター画面にこれらの多くの化合物をすばやく表示することができ、様々な化合物を実際に合成せずにわずかな候補を決定することができる。
【0054】
有用となり得る薬剤又はアンタゴニストを一旦同定した際、ある実施形態では、大抵の化学薬品会社(Merck、Glaxo Welcome、Bristol Meyers Squib、Monsanto/Searle、Eli Lilly、Novartis、及びPharmacia UpJohnなど)が市販する化学物質のライブラリーからそれを選択することができる。又は他の実施形態では、有用となり得る薬剤をデノボ合成することがある。1つの化合物又は比較的少ない複数の化合物のデノボ合成は、合理的な薬剤設計のための無理のない実験である。
【0055】
生物活性のある物質をスクリーニングするための多くの合成化合物のコレクション及び混合物を利用可能にするハイスループット合成及びコンビナトリアル・ケミストリーが導入されたことによって、合理的薬物設計(RDD)は一変した。このような大量の化合物の混合物及びプールは、バイオアッセイ及び分析をする科学者にとって大きな課題となる。分析の課題として、混合物からの有効成分の分離及びその構造の解明の2つのものがある。LC、HPLC、及びCEなどの様々な分離方法が使用されている。しかしながら、1つ以上の標的物質の混合物から生物学的活性のある成分をコンビナトリアル・ライブラリーで分離するには、複合体(通常は、非共有結合している)を選択し、それをリガンド及び標的物質に分離する方法を使用及び開発する必要がある。ある実施形態では、化合物の結合成分を選択的に分離及び分析するために、アフィニティー・カラム法が使用されることがある。
【0056】
他の実施形態では、HIV−1がサイトカイン及びサイトカイン・コレセプターの発現、又はそれらの機能を制御する能力は、本明細書に記載されている合理的薬物設計(RDD)に利用される。ある実施形態では、RDDには、所望するタンパク質の構造を明らかにすること及び予想することだけでなく、標的タンパク質(HIV−1のEnvタンパク質など)と相互作用する薬剤物質の構造を制御及び予想することが含まれる。ある実施形態では、細胞代謝産物には、サイトカイン及びそれらのコレセプターが含まれる。
【0057】
他の実施形態では、本発明は、感染した対象におけるHIV−1感染の重症度を分類する方法であって、前記対象から生体サンプルを得るステップと、前記生体サンプルにおけるホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の観察比を分析するステップと、前記観察比と標準比との間の差を計算するステップとを含む方法を提供する。ある実施形態では、前記標準比は、0.482であり、他の実施形態では、前記観察比と前記標準比との間の差が大きいほど、HIV−1感染がより重症である。
【0058】
ある実施形態では、本発明は、HIV−1に感染した又は晒された個人におけるHIV−1感染位置を特定する方法であって、人間又は動物における活動性及び/又は非活動性HIV感染の程度をインビボで画像化するステップと、所定の細胞代謝産物における変化(例えば、ホスホジエステル(PDE)及び/又はホスホモノエステル(PME)の他の膜脂質に対する濃度)を第一の評価基準として使用し、前記対象の体全体又は特定の器官の磁気共鳴画像(MRI)又は他の同様なスキャンを獲得するステップと、ホスホジエステル(PDE)及び/又はホスホモノエステル(PME)の他の脂質に対する観察比を計算するステップと、前記観察比と非感染の組織の標準比との間の差を計算するステップとを含み、リン酸代謝における変化が大きいほど、前記感染がより重症であると示す方法を提供する。
【0059】
他の実施形態では、本発明は、HIV−1に感染した又は晒された対象におけるHIV−1感染の重症度を分類する方法であって、人間又は動物の対象における活動性及び/又は非活動性HIV感染の程度をインビボで画像化するステップと、所定の細胞代謝産物における変化(例えば、ホスホジエステル(PDE)及び/又はホスホモノエステル(PME)の他の膜脂質に対する濃度)を第一の評価基準として使用し、前記対象の体全体又は特定の器官の磁気共鳴画像(MRI)又は他の同様なスキャンを獲得するステップと、ホスホジエステル(PDE)及び/又はホスホモノエステル(PME)の他の脂質に対する観察比を計算するステップと、前記観察比と非感染の組織の標準比との間の差を計算するステップとを含み、リン酸代謝における変化が大きいほど、前記感染がより重症であると示す方法を提供する。
【0060】
他の実施形態では、本発明は、HIV−1治療のための薬剤の合理的な設計をする方法であって、候補の化合物を選択するステップと、前記候補の化合物に感染した対象を晒すステップと、所定の細胞代謝産物における変化(例えば、ホスホジエステル(PDE)及び/又はホスホモノエステル(PME)の他の膜脂質に対する濃度)を第一の評価基準として使用し、体全体若しくは特定の器官のMRI又は他の同様なスキャンによってHIVに感染した人間又は動物の対象における前記HIV治療の有効性をインビボで画像化するステップと、ホスホジエステル(PDE)及び/又はホスホモノエステル(PME)の他の脂質に対する観察比を計算するステップと、時間、医薬の投与量、既存の病状、環境要因、副作用、又はそれらの適切な組み合わせの関数として、観察された代謝変化が血清反応陰性の対象のリン脂質のレベルに戻る率をモニターするステップとを含み、HIVによって誘発されたリン脂質の代謝効果が減少した場合、治療が有効であると示す方法を提供する。
【0061】
本明細書に記載されている「治療」は、ある実施形態では、(i)感染又は再感染の防止(従来のワクチンの投与など)、又は(ii)症状を減少させること又は取り除くこと、及び(iii)問題のウイルスを実質的に又は完全に取り除くことを意味する。治療は、予防的(感染前)又は治療的(感染後)に行われ得る。
【0062】
ある実施形態では、「約」という用語は、1〜20%の範囲のずれを意味する。他の実施形態では、「約」という用語は、1〜10%の範囲のずれを意味する。他の実施形態では、「約」という用語は、1〜5%の範囲のずれを意味する。他の実施形態では、「約」という用語は、5〜10%の範囲のずれを意味する。他の実施形態では、「約」という用語は、10〜20%の範囲のずれを意味する。
【0063】
「対象」という用語は、ある実施形態では、治療を必要とする哺乳動物(ヒトなど)、又はある疾患若しくはその続発症を患う傾向のある哺乳動物(ヒトなど)を意味する。対象には、サル、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ラット、マウス、及びヒトなどが含まれ得る。「対象」という用語は、全ての点において正常な個体を除外するものではない。
【0064】
下記の実施例は、本発明の最良な実施形態をさらに説明するためのものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【実施例】
【0065】
実施例1:31P−NMR分光法を使用したHIV−1感染の検出
【0066】
≪材料及び方法≫
【0067】
<細胞単離及び組織培養>
【0068】
[細胞系]ヒトリンパ球由来の細胞系であるSupT1及びCEMは、10%の新生仔ウシ血清(bovine calf serum:BCS)(Hyclone, Logan, UT, USA)を添加したRPMI培養液(GibcoBRL, Grand Island, NY)で培養した。U87/CD4+細胞は、10%の新生仔ウシ血清(BCS)及び0.2mg/mLのジェニティシン(Gibco BRL)を添加したDMEM培地(Gibco BRL)で培養した。MAGI/CD4+細胞は、それぞれ0.1mg/mLのジェニティシン及びハイグロマイシン(RocheBMB, Indianapolis, IN, USA)含有のDMEM培地で培養した。
【0069】
[ヒトリンパ球]非感染者からヒト末梢血単核球(PBMC)を「軟膜(buffy coat)」として得た。赤血球を分離するために、細胞を6%のHES(Hespan)(B.Braun Med.Inc.lrvine, CA, USA)内で堆積させた。次に、リンパ球を、Ficollで単離し、75cmの標準フラスコに(Falcon, BD, Franklin Lakes, NJ, USA)入れ、上記の添加物を含有するRPMI培地で培養した。
【0070】
16人の対象者からHIV−1に感染したリンパ球を単離した。これらの人は、無症候性患者及びAIDS患者から成り、過去にHIV−1感染のためのいかなる療法をも受けたことがない。また、これらのリンパ球提供者は18〜50歳の人に限定され、その内、男性は50%であり、これらの男性の100%は黒人であった。上記のFicollを使用した方法でこれらの患者から細胞を単離し、10%DMSO及び90%FBSの混合液で冷凍した。トリパンブルーで細胞の生存率を測定し、PCAで細胞を抽出した。50%よりも高い生存率を示したサンプルのみを下記の研究に使用した。
【0071】
[ヒト胸腺細胞]通常の胸部手術で得られた新生児(生後1日〜6ヶ月)の胸腺組織を3〜10mmの断片に切断し、0.1%のコラーゲナーゼ(Sigma, St.Louis, MO)と10IU/mlのDNAase(Sigma)溶液とを含有するDulbeccoのリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate-Buffered Saline:PBS)(塩化カルシウム及び塩化マグネシウムを含まない)(GibcoBRL, Gaithersburg, MD)にて2時間37℃で消化した。次に、前記断片を100μmのナイロンの細胞ろ過器(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)に通し、洗浄した。Ficoll-Hypaque(Amersham Pharmacia, Uppsala, Sweden)で単核細胞を単離した。接着していない細胞(胸腺細胞)を、採取及び洗浄し、10〜20%のウシ胎仔血清(FBS)と2mMのグルタミンと100IU/mlのペニシリンと100μg/mlのストレプトマイシンと0.25μg/mlのアンホテリシンBとを含有するRPMI培地(GibcoBRL)で培養した。
【0072】
<DNA単離及びPCR>
【0073】
細胞は、抽出前に、24個のウエルのプレートで培養した(3×10細胞/ウエル)。DNAを回収するために、培養液を除去した後のウエルの底に20μlのプロテイナーゼKをピペットで注入した。次に、200μlのPBSを細胞と混合し、200μlのリシス緩衝液を加えた。この混合物を、2時間60℃で加熱不活性化した。次にサンプルを15分間沸騰させ、Qiamp DNA Blood Mini Kit(Qiagen, Valencia, CA)の血液及び体液プロトコルにしたがってDNAを精製した。精製したDNAサンプルの10μlのアリコートをPCRの鋳型として使用した。尚、PCRは、1×PCR緩衝液、1.5mMのMgCl、15mMのdNTP、1×Q試薬、6μMのLTR(末端反復配列)プラス・プライマー、及び6μMのLTRマイナス・プライマーを使用した条件下で行った。97℃で10分間変性させた後に、各サンプルに0.6μlのTaqポリメラーゼを加え、PCRを行った。尚、PCRのサイクルパラメータは、94℃が30秒間、55℃が2分間、及び72℃が1分間であった。このサイクルを42回行い、その後、伸長反応を72℃で10分間行い、430のベースペアの産物を得た。全てのPCR試薬は、Qiagen(Valencia, CA)から調達した。HIV−1のプライマー配列(LTR側)「5´−ACAAGCTAGTACGAGTTGAGCC−3´(配列認識番号1)」及びHIV−1プライマー配列「5´−CACACACTACTTGAAGCACTTCA−3´(配列認識番号2)」を調達した。反応産物の10μlを、1%のアガロース・ゲルで電気泳動させ、10μg/mlのエチジウムブロマイドで可視化した。
【0074】
<HIV−1による感染>
【0075】
ヒト神経膠腫細胞(MAGI及びU87)を、1週間培養し、その後、10ng/mlの89.6又はIIIBウイルスと共に培養した。細胞を、ウイルスと共に12時間培養した後にPBSで5回洗浄し、10%のFBSを含有するRPMI培地でさらに3〜5日間培養した。PCAで抽出する前に細胞をトリプシンで分離した。リンパ球は、50ng/mlのIIIBウイルスと共に12時間培養した。次に、ウイルスを除去するために細胞を洗浄し、14日間培養した。ウイルスの感染及び増殖を確認するために、p24をELISA法で分析した。Alliance HIV-1 p-24 ELISAキット(PerkinElmer, Boston, MA)を使用してp24に対してELISA反応を行った。簡潔に説明すると、細胞培養液の上清、血清、又は細胞懸濁液を異なった希釈率で希釈し、TritonX-100を加えたELISAプレート(96ウエル)に入れ、2時間37℃でインキュベートした。よく洗浄し、検出抗体を加えた後に、プレートをさらに1時間37℃でインキュベートした。次に、実験サンプルを、ストレプトアビジン−HRPと共に30分間室温でインキュベートし、OPD基質の溶液で処理し、Plate Reader MRX Revelation(Dynex, Chantilly, VA)を用いて492nmで吸光度を測定した。G4 MacintoshコンピュータでMicrosoft Excel 2000を使用して最終ウイルス濃度を求めた。
【0076】
<PCA抽出、生細胞NMR、NMRデータの収集及び処理>
【0077】
「NMR in Biomedicine 3: 220-226 (1990)」(Askenazy et al. Askenazy N., Kushnir N., Navon G., Kaplan 0)にしたがって、細胞のペレットを氷の上に置き、PCAで抽出した。次に、高真空ポンプに連結した標準Speedvacユニットを使用して、KHCOで中和した抽出液を凍結乾燥した。凍結乾燥物を2mlのDOに溶解した。1nのHClを使用してサンプルのpHを6.8に調整した。
【0078】
生細胞(非感染及び100%感染細胞)の31P−NMRスペクトルを得た。大きさにしたがって、10〜5×1010の細胞を使用した(各実験に)。測定された信号面積を、繰り返し時間の間の不完全な緩和に対して補正した。細胞は、4℃を超えない温度で扱った。冷却した細胞を10mmのテフロン(登録商標)NMRチューブ(Wilmad, Buena, NJ, USA)に入れ、チューブを密閉して氷上に置いた。次に、前記チューブをNMRセンターに移し、1時間分析した。各実験の前後に細胞の生存率を測定した。全てのリン・スペクトルは、4℃で得られた。
【0079】
重水素ロック及びプロトン・デカップリングと共に10mmのリンの選択プローブを使用し、Bruker AMX-500NMR分光計においてリンの共振周波数である202.46MHzで全てのスペクトルを得た。得られたスペクトルは、Brukerの標準ソフトウエア(XSATIN- NMR)で処理した。プロトン・デカップリングを行ったリンの標準1Dスペクトルは、25度の取得パルス(acquisition pulse)及び0.1秒の緩和遅延(relaxation delay)によって得られた。サンプルの温度は、298Kに安定させた。得られたFIDは、ガウス/指数関数による線幅拡大(Gaussian/exponential line broadening)(LB=−20Hz、GB=0.02Hz)で処理した。実験データにガウス/ローレンツ曲線をフィッティングさせた後に、PME及びPDEの信号の面積を測定した。Hsiechら(Hsiech, P. S. & Balaban, R. 5. (1987) J. Magn. Reson. 74, 574-579)が提供した方程式、並びにOkunieffらのPME及びPDEのスピン格子緩和時間(Okunieff, P., Vaupel, P., Sedlacek, R. & Neuringer, L. J. (1989) mt. J. Radiation Oncology Biol. Phys. 16, 1493- 1500)を使用することで、少量の信号飽和に対して値を補正した。
【0080】
<統計分析>
【0081】
算術平均、標準偏差、及びp24のELISA計算は、G4 MacintoshコンピュータでMicrosoft Excel 2000を使用して行った。データは、対応のないサンプルに関してスチューデントt検定を使用することで分析した。尚、統計的有意性は、p<0.05として定義した。
【0082】
≪結果≫
【0083】
HIV−1に感染した細胞の31P−NMRスペクトルが非感染細胞のものと異なるかどうかを調べるために、インビトロでHIV−1に感染した細胞系を分析した。多くの株化された細胞系(U87、MAGI、SupT1、及びCEM)及び初代リンパ球(PBMC及び胸腺細胞)を、HIV−1(IIIB又は89.6)と共に培養した(MOI=0.01)。12時間後に、PCR及びELISA分析でこれらの細胞の感染を確認した。図1Aにこれらの細胞のPCR産物を示した。HIV−1固有のPCR産物は、HIV−1に晒された各細胞型から474bpの配列として検出されたが、非感染の細胞からは検出されなかった。同様の細胞に行ったp24gagタンパク質の発現に関するELISA分析の結果(図1B)は、これらの細胞がHIV−1に感染したことを裏付けるものである。
【0084】
実験方法の説明で記載したように、PCAによる抽出の後に、感染細胞及び非感染細胞の31P−NMRスペクトルを分析した。感染PBMC及び非感染PBMC抽出物の全31P−NMRスペクトルを図2に示した。感染ヒト胸腺細胞及び非感染ヒト・リンパ球に関しても同様な結果が得られた(図6)。両方のPBMC群は、比較的高いレベルのホスホモノエステル(PME)関連リン脂質を示した(ホスホコリン(δ=4.89ppm)及びホスホエタノールアミン(δ=5.07ppm)など)。PMEレベルの無機リン酸レベルに対する比は、両方のサンプルにおいて3:1であった。非感染細胞及び感染細胞の間で見られた最も大きな相違は、ホスホジエステル(PDE)(主にホスホリルエタノールアミン及びホスホリルコリン)の領域(δ=3.7ppm)で見られた。感染細胞における、ホスホジエステル・レベルの無機リン酸レベルに対する比は、非感染細胞における前記比よりも約2倍低かった。
【0085】
PME及びPDEのピークをさらに際立たせるために、ガウス/ローレンツ指数関数線で関心領域(3.5〜5.5ppm)を拡大した(図3)。スペクトルの全ての要素は、よく分解されており、標準Brukerソフトウエアを使用して曲線を積分することによって信号面積を容易に求めることができた。感染細胞でのPDEのPiに対する比を計算したところ、0.77であった。一方、非感染細胞における前記比は、1.50であった。
【0086】
PDEレベルをPMEレベルと直接比較した方が、膜のリン脂質の構成に対するHIV−1感染の影響がさらに判明する。細胞系におけるPDE/PMEの比の分析結果を図4に示した。非感染細胞と比較して、HIV−1に感染した細胞では、PDE/PMEの比は2.1〜2.5倍減少した。
【0087】
31P−NMRスペクトルの低磁場領域では、HIV−1に感染した細胞及び非感染細胞の間に大きな違いが見られる。NMRで可視化できるPME及びPDEは、主に、細胞膜に関連する生化学的及び生物物理学的なプロセスに関わる。これらの結果から、HIV−1感染によって膜のPDE及びPMEの比が変化する(ウイルスの侵入、組み込み、及び/又は粒子合成のプロセスの間に)ことが分かる。したがって、PDE/PMEの比によって、細胞におけるHIV−1の存在を予想することができる。図4の結果から、異なる種類の細胞間でPDE/PMEの比が多少異なることが分かる。したがって、初代リンパ球のPDE/PME比のベースライン・コントロールを確立するために、最初に複数の非感染PBMCに対してNMR分析を行った。
【0088】
図5に示されているように、13個の非感染PBMCにおけるPDE/PMEの平均比は、0.482±0.094であった。次に、この結果を、インビトロでHIV−1のIIIBに感染した13個のPBMCのPDE/PME比と比較した。インビトロで感染した13個のPBMCにおけるPDE/PMEの平均比は、0.203±0.076であり、非感染リンパ球におけPDE/PMEの平均比である0.482よりも低かった。尚、非感染PBMCの1つのサンプルのみが0.203よりも低いPDE/PME比を示した。PDE/PMEの比の減少がHIV−1血清反応陽性患者から得られたリンパ球の分析でも観察されるかを確認するために、6人の患者から単離したPBMCにおける31P−NMRスペクトルを分析した。これらの6個のサンプルにおけるPDE/PMEの平均比は、0.270±0.07であり、同様に0.482よりも低かった。
【0089】
以上、本発明の最良の実施形態を説明したが、これらの実施形態は本発明を制限するものではない。当業者ならば、添付の特許請求の範囲に規定された本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正を行うことが可能であることを理解するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】Aは、ヒトリンパ球におけるウイルス感染のPCR分析を示す図である。Bは、異なるヒト細胞におけるHIV−1の感染及び増殖を示す。
【図2】HIV−1に感染していないヒトリンパ球(A)及びインビトロでHIV−1に感染したヒトリンパ球(B)の過塩素酸(PCA)抽出液の31P−NMRを示す図である。
【図3】非感染ヒトリンパ球(A)及び感染ヒトリンパ球(B)の過塩素酸抽出液のスペクトルの拡大した無機リン酸領域(PME、PDE、及びPi)を拡大した(ガウス/ローレンツ関数で)図である。
【図4】インビトロでHIV−1に感染した/又は感染していない細胞系(CEM、SUPT1、U87、MAGI)のPDE/PMEの比を示す図である。
【図5】健康なドナーから得られたヒトリンパ球(非感染)、インビトロでHIV−1に感染したヒトリンパ球(インビトロ感染)、及びHIV−1血清反応陽性患者から得られたヒトリンパ球(血清反応陽性)におけるPDE/PMEの比を示す図である。
【図6】感染ヒトリンパ球(A)及び非感染ヒトリンパ球(B)の31P−NMRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるウイルス感染を検出する方法であって、
生体サンプルを得るステップと、
所定の細胞代謝産物における変化に関して前記生体サンプルを分析するステップと、
前記変化を定量化するステップと、
前記定量化した変化を、標準の代謝産物レベルと比較するステップとを含み、
前記所定の細胞代謝産物のレベルが前記標準の代謝産物レベルに対して変化している場合は、前記対象がウイルスに感染していると示すものとすることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、
前記所定の細胞代謝産物のレベルは、前記得られた生体サンプルの無機リン酸(Pi)の濃度、前記得られた生体サンプルのホスホジエステル(PDE)の濃度、前記得られた生体サンプルのホスホモノエステル(PME)の濃度、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、
前記定量化するステップは、前記濃度からホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の比を求めるステップと、前記比を、非感染対象におけるPDE/PMEの比と比較するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法であって、
前記生体サンプルは、血清、血漿、唾液、尿、血球細胞の溶解物、リンパ液、リンパ球、末梢血単核球(PBMC)、胸腺細胞、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法であって、
前記生体サンプルにおける前記ホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の比は、MRI、RIA、ELISA、NMR,HPLC、GC、MS、又はそれらの組み合わせによって分析されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、
前記感染を引き起こすウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ヒトC型肝炎ウイルス(HCV)、ポリオウイルス、西ナイルウイルス、又は口蹄疫ウイルスであることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項3に記載の方法であって、
前記求められたPDE/PMEの濃度の比が約0.482よりも低い場合は、前記対象がHIV−1に感染していると示すものとすることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項3に記載の方法であって、
前記求められたPDE/PMEの濃度の比が約0.482よりも高い場合は、前記対象がHIV−1に感染していないと示すものとすることを特徴とする方法。
【請求項9】
対象に対する抗ウイルス治療の有効性を評価する方法であって、
前記対象から生体サンプルを得るステップと、
所定の細胞代謝産物のレベルにおける変化に関して前記生体サンプルを分析するステップと、
前記変化を定量化するステップと、
前記定量化した変化を、標準の代謝産物レベルと比較するステップと、
前記所定の細胞代謝産物のレベルが前記標準の代謝産物レベルに戻る率をモニターするステップとを含み、
前記細胞代謝産物の変化したレベルが前記標準の代謝産物レベルに速く戻るほど、前記治療がより有効であると示すものとすることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、
前記所定の細胞代謝産物のレベルは、無機リン酸(Pi)の濃度、ホスホジエステル(PDE)の濃度、ホスホモノエステル(PME)の濃度、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、
前記定量化するステップは、前記濃度からホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の比を計算するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法であって、
前記比較するステップは、血清反応陰性の対象のPDE/PMEの濃度比と比較するステップを含み、
前記PDE/PMEの比における減少が、前記治療が有効であることを示すものとすることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項9に記載の方法であって、
前記生体サンプルは、血清、血漿、唾液、尿、血球細胞の溶解物、リンパ液、リンパ球、末梢血単核球(PBMC)、胸腺細胞、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項9に記載の方法であって、
前記抗ウイルス治療の対象となるウイルス感染は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、ヒトC型肝炎ウイルス(HCV)感染、ポリオウイルス感染、西ナイルウイルス感染、又は口蹄疫ウイルス感染であることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、
前記抗ウイルス治療の対象となるウイルス感染は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染であることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、
有効な治療が、観察された前記ホスホジエステル/ホスホモノエステルの比を0.482よりも低くする治療であることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項9に記載の方法であって、
前記モニターするステップは、時間、医薬の投与量、既存の病状、環境要因、医薬の種類、カクテルの構成、副作用、又はそれらの組み合わせを関数として行われることを特徴とする方法。
【請求項18】
HIV−1治療のための薬剤をスクリーニングする方法であって、
候補の化合物を選択するステップと、
感染した対象を、前記候補の化合物に晒すステップと、
前記感染した対象から生体サンプルを得るステップと、
所定の細胞代謝産物のレベルにおける変化に関して前記生体サンプルを分析するステップと、
前記変化を定量化するステップと、
前記定量化した変化を、標準の代謝産物レベルと比較するステップと、
前記所定の細胞代謝産物のレベルが前記標準の代謝産物レベルに戻る率をモニターするステップとを含み、
前記細胞代謝産物の変化したレベルが前記標準の代謝産物レベルに戻れば、前記薬剤がより有効であると示すものとすることを特徴とする方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、
前記所定の細胞代謝産物のレベルは、無機リン酸(Pi)の濃度、ホスホジエステル(PDE)の濃度、ホスホモノエステル(PME)の濃度、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法であって、
前記定量化するステップは、前記濃度からホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の比を計算するステップと、時間、医薬の投与量、既存の病状、環境要因、副作用、又はそれらの最適な組み合わせを関数として、観察された前記比の減少率をモニターするステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
請求項19に記載の方法であって、
前記比較するステップは、血清反応陰性の対象のPDE/PMEの濃度比と比較するステップを含み、
前記PDE/PMEの比における減少が、前記治療が有効であることを示すものとすることを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法であって、
前記生体サンプルは、血清、血漿、唾液、尿、血球細胞の溶解物、リンパ液、リンパ球、末梢血単核球(PBMC)、胸腺細胞、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項23】
HIV−1感染の治療のための構成物であって、
請求項18に記載の方法によって同定された薬剤を含むことを特徴とする構成物。
【請求項24】
感染した対象におけるウイルス感染の重症度を分類する方法であって、
前記対象から生体サンプルを得るステップと、
所定の細胞代謝産物における変化に関して前記生体サンプルを分析するステップと、
前記変化を定量化するステップと、
前記定量化した変化を、標準の代謝産物レベルと比較するステップと、
前記細胞代謝産物の変化したレベルと標準レベルとの間の差を計算するステップとを含み、
前記細胞代謝産物のレベルと標準レベルとの間の差が大きいほど、前記感染がより重症であると示すものとすることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法であって、
前記所定の細胞代謝産物のレベルは、無機リン酸(Pi)の濃度、ホスホジエステル(PDE)の濃度、ホスホモノエステル(PME)の濃度、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項25に記載の方法であって、
前記定量化するステップは、前記濃度からホスホジエステル(PDE)/ホスホモノエステル(PME)の比を計算するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項25に記載の方法であって、
前記比較するステップは、血清反応陰性の対象のPDE/PMEの濃度比と比較するステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項28】
請求項24に記載の方法であって、
前記生体サンプルは、血清、血漿、唾液、尿、血球細胞の溶解物、リンパ液、リンパ球、末梢血単核球(PBMC)、胸腺細胞、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項24に記載の方法であって、
前記重症度が分類されるウイルス感染は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、ヒトC型肝炎ウイルス(HCV)感染、ポリオウイルス感染、西ナイルウイルス感染、又は口蹄疫ウイルス感染であることを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法であって、
治療される前記ウイルス感染は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染であることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項30に記載の方法であって、
前記標準比は、約0.482であることを特徴とする方法。
【請求項32】
対象におけるHIV感染をインビボで画像化する方法であって、
所定の細胞代謝産物における変化を第一の評価基準として使用し、前記対象から電磁画像を得るステップと、
前記得られた画像と、同様の画像化方法で非感染対象から得られた標準画像との間の差を計算するステップとを含み、
前記得られた画像と前記非感染対象から得られた標準画像との間の差が大きいほど、その位置における感染はより重症であると示す方法。
【請求項33】
請求項31に記載の方法であって、
前記所定の細胞代謝産物は、無機リン酸(Pi)、ホスホジエステル(PDE)、ホスホモノエステル(PME)、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項32に記載の方法であって、
感染の程度、位置、又はそれらの組み合わせを診断するために使用されることを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項32に記載の方法であって、
前記電磁画像は、MRI、MRS、又はそれらの組み合わせを使用して得られることを特徴とする方法。
【請求項36】
請求項35に記載の方法であって、
前記得られた画像は、前記対象の体全体の画像、前記対象の組織の画像、前記器官の組織の画像、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項37】
HIV−1治療のための薬剤の合理的な設計の方法であって、
候補の化合物を選択するステップと、
感染した器官又は組織を前記候補の化合物に晒すステップと、
所定の細胞代謝産物における変化を第一の評価基準として使用し、対象から電磁画像を得るステップと、
前記得られた画像と、同様の画像化方法で非感染対象から得られた標準画像との間の差を計算するステップと、
前記得られた画像が前記非感染器官又は組織から得られた標準画像に戻る率をモニターするステップとを含み、
前記得られた画像が前記非感染器官又は組織から得られた標準画像に戻れば、前記薬剤がHIV−1治療に有効であると示すものとすることを特徴とする方法。
【請求項38】
対象に対するHIV治療のための構成物であって、
請求項37に記載の方法によって同定された薬剤を含むことを特徴とする構成物。
【請求項39】
請求項37に記載の方法であって、
前記所定の細胞代謝産物は、無機リン酸(Pi)、ホスホジエステル(PDE)、ホスホモノエステル(PME)、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする方法。
【請求項40】
請求項37に記載の方法であって、
前記モニターするステップは、時間、医薬の投与量、既存の病状、環境要因、医薬の種類、カクテルの構成、副作用、又はそれらの組み合わせを関数として行われることを特徴とする方法。
【請求項41】
請求項37に記載の方法であって、
前記電磁画像は、MRI、MRS、又はそれらの組み合わせを使用して得られることを特徴とする方法。
【請求項42】
請求項37に記載の方法であって、
前記得られた画像は、前記対象の体全体の画像、前記対象の組織の画像、前記対象の器官の画像、又はそれらの組み合わせであることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−547004(P2008−547004A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517110(P2008−517110)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際出願番号】PCT/US2006/023346
【国際公開番号】WO2006/138481
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(500429103)ザ・トラスティーズ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ペンシルバニア (102)
【Fターム(参考)】