説明

HIVのRT阻害剤のスクリーニング法

本発明は既知の逆転写酵素阻害剤と異なる作用をもつ、特別のクラスのHIV逆転写酵素の阻害剤を識別する方法に関する。本発明は特に、ヌクレオシド三リン酸又はピロリン酸の存在下で、より高い阻害活性を有する阻害剤を識別する工程に基づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は既知の逆転写酵素阻害剤と異なって作用する特定のクラスのHIV逆転写酵素の阻害剤を識別する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HIVウイルス感染症を治療するために現在市場で販売されている又は開発中の薬剤は、逆転写酵素阻害剤(RTI)、プロテアーゼ阻害剤(PI)及びより最近の融合阻害剤のようなクラスに属する。RTIは逆転写機序に介入することによりウイルスの複製を妨げ、他方、PIはウイルスのアッセンブリーに介入する。RT阻害剤は、ウイルスの複製がブロックされるようにその機能を妨げる多数の方法でRT酵素と相互反応する。PIはウイルスのプロテアーゼ酵素の活性部位に結合し、それにより感染性ヴィロンの構造的及び酵素の成分を生成するために必要な前駆体のポリタンパク質の分解(cleavage)を妨げる。
【0003】
「ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NRTI)」は、逆転写酵素による、伸長しているウイルスDNA中への取り込みのために天然のヌクレオシド三リン酸と競合する、ヌクレオシド三リン酸に細胞内で転化されるクラスのRT阻害剤である。これらの化合物を天然のヌクレオシドから区別する化学的修飾物がDNAのチェインターミネーション事象をもたらす。現在入手できるNRTIは、ジドブジン(AZT)、ジダノシン(ddl)、ザルシタビン(ddC)、スタブジン(d4T)、ラミブジン(3TC)、アバカビル(ABC)、エムトリシタビン(FTC)及びテノフォビル及びテノフォビル・ジソプロキシルフマレート(TDF)を包含し、後者はしばしば、「ヌクレオチド逆転写酵素阻害剤(NtRTI)」と呼ばれる。
【0004】
逆転写酵素の機能はHIVのRNAをDNAに転化させることである。この過程で、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)は増殖しているDNAチェインに結合される。NRTIのようなチェインストッパーが最初に細胞キナーゼにより三リン酸(TP)に転化される。例えば、識別された最初のHIVのRT阻害剤の1つであったAZTはAZT−TPに転化され、次にHIV−1のRTがウイルスのDNAの構築における有効な代替基質としてAZT−TPを使用することができる。しかし、AZT−TPは更なるDNA伸長に必要な3’OHを欠き、それにより、取り込み後の増殖しているDNAチェインのターミネーションを誘起する。逆の過程、すなわちチェインのヌクレオチドの除去又はAZTのようなチェインターミネート残基の除去は、ピロリン酸又はヌクレオシド三リン酸により仲介され、同様にしかしずっと低い程度に起る。この逆の過程はHIV突然変異体において促進され、それが野生型RTよりずっと高い効力を伴ってチェインターミネート残基を除去する能力を増加している。この機序は例えば、非特許文献1中に記載のAZT又は他のいずれかのNRTIに対する突然変異HIVの耐性の原因と認められる(非特許文献1参照)。
【0005】
この逆過程のために、インビトロのRT試験モデルへのピロリン酸又はヌクレオシド三リン酸の添加は、特に突然変異RTが使用される時、試験されるNRTIの阻害活性の減少をもたらす。しかし、幾つかのNRTIはRT活性の最少の減少を示すのみか、又は幾つかのNRTIによるRT活性は同一レベルに留まることすらある。
【0006】
現在入手できるHIV薬剤に対するHIVウイルスの耐性は治療の失敗の主要な原因であり続ける。これが、通常、異なる活性プロファイルを有する2種以上の抗−HIV剤の組み合わせ治療の導入をもたらした。HAART治療(高度活性抗−レトロウイルス治療
)の導入により著しい進歩がもたらされ、それにより処置されるHIV患者集団における罹患率及び死亡率の著しい減少をもたらした。HAARTはNRTI、NNRTI及びPIの種々の組み合わせを伴う。抗レトロウイルス治療に対する最近の指針は、初期の処置に、このような3種組み合わせ治療計画を推奨する。しかし、これらの多剤治療はHIVを完全には排除せず、長期の処置は通常、多剤耐性をもたらす。特に、抗−HIV組み合わせ治療を受けている患者の半数は、主として、使用される1種以上の薬剤に対するウイルスの耐性のために、処置に完全には応答しない。更に、耐性ウイルスは新規感染個体に継代され、それが、これらの薬剤に新規の患者に対して極めて限定される治療選択肢をもたらすことが示された。
【0007】
その結果、HIVに対して有効な薬剤組み合わせ物中に使用のための、新タイプの有効成分の継続的需要が存在する。従って、化学構造及び活性プロファイルの異なる、新タイプの抗−HIVの有効な活性成分を提供することが、達成すべき、著しく望ましい目標である。逆転写酵素は興味深い標的であり続け、そしてこの酵素の阻害剤はHAART組み合わせ物の欠くべからざる部分である。新機序によりこの酵素の機能を阻害する物質を発見することは、近年使用されるNRTI及びNNRTIの代替物を提供することが期待される。特に後者は、このクラス全体にわたり交差耐性を引き起こす突然変異体に悩む。しかし程度は小さいが、NRTIもまた、突然変異体による耐性に直面する。NRTIが比較的弱い交差耐性を示す事実は、ポケット中に構造的変化を引き起こす突然変異がすべてのNNRTIを無効にさせる、同様な結合ポケットと明らかにすべて反応するNNRTIに比較した、RTとの、より複雑な相互反応により説明される。
【0008】
インビトロ試験モデルにピロリン酸又はヌクレオシド三リン酸を添加する時に、増加した活性を示すRT阻害剤は、新クラスの抗−HIV剤に属することが見いだされた。前記のように、これまでのところ、RT活性の減少又は同一レベルに留まることのみが認められている。その結果、このような活性増加を示す化合物は、RT酵素と異なって相互反応し、従って新クラスのRT阻害剤に属すると考えられる。従って本発明はこの新規なクラスのHIV阻害剤に属する化合物を見いだすことを目的とする。
【0009】
本発明は抗−HIV治療に使用を見いだすことができ、そして特に抗−HIV剤組み合わせ物に使用を見いだすことができる新タイプのHIVのRT阻害剤を識別する方法を目的とする。本発明は更に、新クラスのHIVのRT阻害剤に属するこれらの化合物を識別するための、化合物のスクリーニング法を提供する。
【非特許文献1】Goette et al.,Journal of Virology,2000,pp.3579−3585
【発明の開示】
【0010】
発明の要旨
本発明は、
a) HIVのRT酵素に対する少なくとも1種のテンプレート、
少なくとも1種のプライマー、
少なくとも1種の検出可能なdNTP基質、
少なくとも1種の試験化合物、
少なくとも1種のRT酵素、
を含んでなる反応ウエルを準備し、
ここで該HIVのRT酵素は検出可能なdNTP基質を取り込み、
そして
テンプレート中に取り込まれる検出可能なdNTP基質の量を測定することによりRT活性を決定し、
b) HIVのRT酵素に対する少なくとも1種のテンプレート、
少なくとも1種のプライマー、
少なくとも1種の検出可能なdNTP基質、
少なくとも1種の試験化合物、
少なくとも1種のヌクレオシドリン酸又は少なくとも1種のピロリン酸(pyrophosphate)、
少なくとも1種のRT酵素、
を含んでなるもう1つの反応ウエルを準備し、
ここで該HIVのRT酵素は検出可能なdNTP基質を取り込み、
そして
テンプレート中に取り込まれる検出可能なdNTP基質の量を測定することによりRT活性を決定し、
c)段階a)及び段階b)で得られるRT活性を比較し、
d)b)で得られるRT阻害活性がa)で得られるRT阻害活性を超える試験化合物を選択し、
ここで段階a)及びe)におけるHIVのRT阻害剤の量は同等であり、RT活性の増加は測定可能であるようなものである、
ことを含んでなる、リボヌクレオチド又はピロリン酸塩感受性のRT阻害剤の識別方法を提供する。
【0011】
本発明の方法の段階a)及びb)は引き続いて又は平行して実施することができる。引き続いて実施される時は、段階a)を最初に実施し、次にb)を実施するか、その逆も可能である。
【0012】
1つの態様において、段階a)及びb)で決定されるRT活性は特定のパーセントの「阻害濃度」である。好ましい態様において、段階a)及びb)で決定されるRT活性はIC50又はIC90値である。
【0013】
本発明はまた、HIVのRT酵素に対するテンプレート、プライマー、検出可能なdNTP基質、HIVのRT酵素及び、例えばATP及びGTPから選択されるヌクレオシドリン酸又はピロリン酸を含んでなる、ヌクレオチド競合的RT阻害剤を識別するためのキットを提供する。
【0014】
更なる面において、本発明は、
a) HIVのRT酵素に対する少なくとも1種のテンプレート、
少なくとも1種のプライマー、
少なくとも1種の検出可能なdNTP基質、
少なくとも1種の試験化合物、
少なくとも1種のRT酵素、
を含んでなる反応ウエルを準備し、
ここで該HIVのRT酵素は検出可能なdNTP基質を取り込み、
そして
テンプレート中に取り込まれる検出可能なdNTP基質の量を測定することによりRT活性を決定し、
b) HIVのRT酵素に対する少なくとも1種のテンプレート、
少なくとも1種のプライマー、
少なくとも1種の検出可能なdNTP基質、
少なくとも1種の試験化合物、
少なくとも1種のヌクレオシドリン酸又は少なくとも1種のピロリン酸、
少なくとも1種のRT酵素、
を含んでなるもう1つの反応ウエルを準備し、
ここで該HIVのRT酵素は検出可能なdNTP基質を取り込み、
そして
テンプレート中に取り込まれる検出可能なdNTP基質の量を測定することによりRT活性を決定し、
c)段階a)及び段階b)で得られるRT活性を比較し、
d)試験化合物を反応速度論的RT酵素アッセイにかけ、
e)b)で得られたるRT阻害活性がa)で得られるRT阻害活性を超え、そして更に段階d)の反応速度論的酵素アッセイにおいて競合的である試験化合物を選択し、
ここで段階a)及びb)におけるHIVのRT阻害剤の量は同等であり、RT活性の増加は測定可能であるようなものである、
ことを含んでなるヌクレオチド競合的な、リボヌクレオチド又はピロリン酸感受性のRT阻害剤の識別方法を提供する。
【0015】
前者の方法において、段階a)、b)及びd)は平行して又は引き続いて実施することができる。
【0016】
本発明は更に、本明細書及び請求の範囲に開示されたいずれかの特徴の種々の組み合わせ及び準組み合わせに関する。
【0017】
発明の詳細な記述
本発明の方法において、ヌクレオシドリン酸は、リボヌクレオシドリン酸、リボヌクレオシド二リン酸及びリボヌクレオシド一リン酸を包含し、そして更にデオキシリボヌクレオシド三リン酸、デオキシリボヌクレオシド二リン酸及びデオキシリボヌクレオシド一リン酸並びに、リボヌクレオシドチオ又はイミノ誘導体のホスフェートのようなそれらの誘導体を包含することができる。リボヌクレオシド三リン酸はATP、GTP、UTP、CTPから選択することができ、デオキシリボヌクレオシド三リン酸はdATP、dGTP、dUTP、TTP、dCTPから選択することができる。リボヌクレオシド一又は二リン酸はAMP、ADP、GMP、GDP、UMP、UDP、CMP、CDPから選択することができる。デオキシリボヌクレオシド一又は二リン酸はdAMP、dADP、dGMP、dGDP、dUMP、dUDP、TDP、TMP、dCMP、dCDPから選択することができる。リボヌクレオシドチオ又はイミノ誘導体のホスフェートは例えば、ATPbgNH(アデノシン5’(ベータ、ガンマ、イミド)三リン酸)、ATPgS(アデノシン5’[ガンマ−チオ]三リン酸)を包含する。特に興味深いものは、ADP、AMP、ATPbgNH、ATPgS、ATP、CTP、GTP、UTPである。
【0018】
ヌクレオシドリン酸がデオキシリボヌクレオシド三リン酸である場合、検出可能なdNTP基質は好ましくは、もう1つの核酸から誘導される。本発明における使用に好ましいものはATP又はGTPであり、もっとも好ましいものはATPである。ピロリン酸又はPPiはピロリン酸アルカリ金属、特にピロリン酸ナトリウムのようなピロリン酸塩であることができる。
【0019】
本発明の方法において、段階a)及び段階b)の成分はいずれかの一定の順序で試験ウェルに添加することができる。それらは1種ずつ又は混合物中に合わせたようなグループとして添加することができる。特に、RT酵素を最初に反応ウェルに添加することができ、次に他の成分を添加するか、又は他の成分を最初に添加することができ、その後RT酵素を反応ウェルに添加する。更に1種又は複数の成分を添加し、次にRT酵素、次に残りの成分を添加することもできる。
【0020】
このように、1つの態様において、アッセイは、HIVのRT酵素に対するテンプレート、プライマー、検出可能なdNTP基質及び試験化合物を含んでなる反応ウェルを提供
する。次にHIVのRT酵素を反応ウェルに添加し、そこでHIVのRT酵素が検出可能なdNTP基質をテンプレートに取り込む。試験化合物のRT阻害活性を測定する。試験化合物は、そこでHIVのRT酵素に対するテンプレート、プライマー、検出可能なdNTP基質、試験化合物及び、ATP及びGTPのようなヌクレオシドリン酸又はピロリン酸を含んでなるもう1つの反応ウェルが提供される、もう1つの試験を受ける。次に野生型HIVのRT酵素を反応ウェルに添加し、そこでHIVのRT酵素が検出可能なdNTP基質をテンプレート中に取り込む。ヌクレオシドリン酸又はピロリン酸の存在下での試験化合物のRT阻害活性を測定し、ヌクレオシドリン酸又はピロリン酸を含まない試験で得られる結果と比較する。ヌクレオシドリン酸又はピロリン酸の存在下における試験化合物のRT阻害活性が、ヌクレオシドリン酸又はピロリン酸を含まない試験で得られるRT阻害活性を超える化合物が選択される。
【0021】
本発明のもう1つの態様において、アッセイはHIVのRT酵素が反応ウェル中に存在し、そしてテンプレート、プライマー、検出可能なdNTP基質、HIVのRT阻害剤及び、アッセイの第2の部分においてはヌクレオシドリン酸又はピロリン酸がHIVのRT酵素に添加されるように実施される。
【0022】
反応速度論的RT酵素アッセイを包含する方法において、段階a)、b)及びd)は平行して又は引き続いて実施することができ、これは、平行又は連続のどんな組み合わせの実験をも実施することができることを意味する。例えば、3段階すべてを平行して実施することも又は3段階すべてをどんな与えられる順序でも連続して、例えば、a)、b)及びd)を連続的に、又はd)、b)及びa)を連続的に等で実施することができる。2段階を平行して実施することができるが、残りはこれらの段階に先行するか又は後に来る、例えば、a)及びb)を平行し、次にd)を実施する。
【0023】
本発明の方法は特定の試験化合物に対するRT酵素活性の感受性の変化に基づく。感受性は概括的にATP又はGTPのようなヌクレオシドリン酸あるいはピロリン酸の存在下及び不在下におけるRT酵素活性のIC50又はIC90値の比率として表わすことができる。他のIC百分率の比率も可能である。感受性は概括的にIC50又はIC90値の比率として表わされる。
【0024】
IC50又はIC90値はそれぞれ50%又は90%の酵素活性が阻害される試験化合物濃度である。これらの値は標準法を使用して決定される。
【0025】
例えばATP及びGTPから選択されるヌクレオシドリン酸又はピロリン酸の存在下で測定されるRT酵素活性のIC値に対する、ヌクレオシドリン酸、例えばATP及びGTP、又はピロリン酸の存在下で測定されるRT酵素活性のIC値の比率は1より大きくなければならず、好ましくは該比率は3より大きくなければならず、より好ましくはそれは5より大きくなければならない。特に、該比率はIC50又はIC90値の比率である。
【0026】
段階d)における反応速度論的RT酵素アッセイは、試験化合物が競合的RT阻害剤であるか否かを決定するために使用される。それは、HIVのRT阻害剤の阻害機序が野生型HIVのRT又は突然変異RTタンパク質を使用する反応速度論から決定される、酵素の反応速度論的アッセイである。例えば、ミカエリス定数(Michaelis constant)、Km、酵素阻害剤複合物の解離定数、Ki及び阻害の機序は、基質、RT阻害剤及び/又は他の試薬の種々の濃度におけるデータを、ミカエリス−メンテン(Michaelis−Menten)の競合阻害方程式、ミカエリス−メンテンの非競合(non−competitive)阻害方程式及びミカエリス−メンテンの反競合(un−competitive)阻害方程式に当てはめることにより決定することができる。ミカエリス−メンテンの競合阻害方程式を使用して最良の適合が得られる場合は、該阻害剤はヌクレオチド競合RT阻害剤である。考えられる適用に応じて、当該技術分野で知られた他のいずれかの反応速度論的分析を本発明の方法とともに使用することができる。
【0027】
本発明は新しいクラスに属するHIVのRT阻害剤を検出するためのインビトロの、迅速なそして安価な方法を提供する。
【0028】
1つの態様において、ヌクレオシド三リン酸である化合物は廃棄される。これらは天然のヌクレオシドの三リン酸又は、NRTI三リン酸のようなそれらの誘導体のいずれかを含んでなり、特にこれらは逆転写酵素による、伸長しているウイルスDNA中への取り込みのための天然のヌクレオシド三リン酸と競合するいずれかの三リン酸を含んでなる。特定の態様において、天然のヌクレオシド又は、一、二又は三リン酸を包含するそれらの誘導体、のいずれかのヌクレオシドリン酸(ヌクレオチド)は排除される。
【0029】
本発明の方法は特に、高い処理量の試験又は評価装置に適用できる。しかし、各反応物が相互から隔離されたままで留まるようなサンプルラック又は多数の反応ウェルから形成された固形支持体を作製することは本発明の実施の範疇内にある。次に、反応ウェルへの1種又は複数の試薬の同時の移動は高い処理量の分析技術分野で使用される多数の技術の1つにより実施することができる。
【0030】
各反応ウェルの、1種又は複数の内容物は変更することができる。例えば、1つの態様において、各反応ウェルはHIVのRT阻害剤のためのテンプレート、プライマー、検出可能なdNTP基質及び、野生型RT酵素又は突然変異体RT酵素であることができるHIVのRT酵素を含有する。例えば、ATP又はGTPから選択されるヌクレオシドリン酸又はピロリン酸は各反応ウェルに添加されるか又は添加されない。反応ウェルはアレーを形成しても、又は各コンパートメントを識別又は処理するもう1つの手段を使用してもよい。次に各反応ウェルのRT活性を各反応ウェルのテンプレート中に取り込まれる検出可能なdNTP基質の量から自動的に決定し、記録することができる。他の態様は、それらに限定はされないが、1種又は複数の成分の濃度、RT酵素を変更すること、及びヌクレオシドリン酸又はピロリン酸を変更することを包含する。
【0031】
高い処理量を処理する、すなわち比較的短期間に多数のサンプルを分析する多数の方法が存在する。利用できるあらゆる高処理量のいずれの分析法をも本発明の方法に適用することができる。例は、それらに限定はされないが、「官能ピペットサンプルを有する分析装置」と題するSakazume等の米国特許第5,985,215号明細書、「微量規模の流動装置中の高処理スクリーニングアッセイシステム」と題するParce等の米国特許第6,046,056号明細書、「検体の迅速なスクリーニングの方法」と題するPauwels等の国際公開第00/14540号パンフレット、「連続フォーマット高処理スクリーニング」と題するBeutel等の国際公開第99/30154号パンフレット及び「細胞に基づくスクリーニングアッセイを実施するための高処理法、システム及び装置」と題するWada等の国際公開第99/67639号パンフレットを包含する。
【0032】
本発明の実施において、HIVのRT酵素に対して有効なテンプレートとして役立つと考えられるいずれのテンプレートをも使用することができる。テンプレートは反応ウェルに結合してもしなくてもよいが、好ましい態様においては、反応ウェルに結合される。更なる好ましい態様において、テンプレートはポリ−rA又はヘテロポリマーRNA又はDNAから選択される。選択されるテンプレートに相補的ないずれのプライマーをも使用することができる。1つの態様において、プライマーはオリゴ−dT又は、ヘテロポリマーテンプレートに相補的なプライマーから選択される。
【0033】
本発明の実施に有用な検出可能なdNTP基質は任意のdNTP基質、そして好ましい
態様においてはテンプレート中への取り込み前そして/又はその後に検出可能な、任意のdTTP基質(デオキシチミジン三リン酸)を包含する。検出可能なdNTP基質は、それらに限定はされないが、放射性標識dTTP又は任意の放射性標識dNTP及び、蛍光、発光又は吸収分光分析により検出可能なdNTP基質を包含する。検出可能なdNTP基質はそれ自体で検出可能であるか又は、次に検出することができるトレーサーに結合させることができる。トレーサーは蛍光、発光又は吸収分光分析により検出することができるトレーサーのような光学的トレーサーであるか、あるいはトレーサーが放射性標識トレーサーであることができる。1つの態様において、検出可能なdNTP基質はブロモ−デオキシウリジン−三リン酸であり、そして光学的トレーサーはdNTP基質に結合するアルカリホスファターゼに共役結合された抗体、又はモノクローナル抗−BrdU抗体のようなモノクローナル抗体である。
【0034】
本発明の方法に使用のための試験化合物は任意の天然の、天然に誘導された又は人工の物質であることができる。本範疇内に使用される用語「試験化合物」は、単一の化合物又は化合物の混合物を表わす。
【0035】
本発明の方法に使用のための反応ウェルは、例えばATP及びGTPから選択される少なくとも1種のヌクレオシドリン酸又は少なくとも1種のピロリン酸を含有してもしなくてもよい。リボヌクレオチド又はピロリン酸の濃度は考慮される適用に応じて変動することができる。例えば、インビボのピロリン酸(ATPと一緒の)の影響は明らかに細胞内濃度に左右される。好ましい態様において、ATPに対しては3.2±1.5mM、GTPに対しては0.5±0.2mM、そしてピロリン酸に対しては130μMにおいて、十分に確立されている細胞内濃度が使用される。
【0036】
本発明の方法は野生型RT酵素又は突然変異体RT酵素を使用して実施することができる。テンプレート中に検出可能なdNTP基質を取り込むことができるいずれのRT酵素又は突然変異体RT酵素も本発明の実施に有用であることができる。
【0037】
本発明はまた、キットを提供する。キットは本明細書に記載のいずれかの方法に使用することができ、キットは特に、ヌクレオチド競合RT阻害剤を選択するために使用することができる。本発明のキットはHIVのRT酵素に対するテンプレート、プライマー、検出可能なdNTP基質及び、例えば、ATP及びGTPから選択されるリボヌクレオシド三リン酸又はピロリン酸を含んでなることができる。キットは更に突然変異体RT酵素及び/又は野生型RT酵素を含んでなることができる。
【0038】
本発明に従う方法は、新クラスに属するRT阻害剤、すなわちヌクレオシドリン酸又はピロリン酸の存在下で増加したRT阻害活性を示すRT阻害剤である化合物の検出を許す。この新クラスのRT阻害剤は既存のRT阻害剤と異なる、すなわちこのクラスの化合物はNRTIのクラスにもNNRTIにも属さない。後者は、通常は、RT酵素中のいわゆるNNRTI「ポケット」と相互反応する化合物を含んでなることを意味する、「非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤」として当該技術分野で表わされる化合物のクラスである。以下の説に限定されることは望まないが、ヌクレオシドリン酸(ATPのような)又はピロリン酸はまた、酵素の機能が阻害されるようにRT酵素に結合するが、本発明の方法により検出される化合物は、NRTIと同様なRT酵素中の位置で相互反応することが推定される。これが酵素の二重のブロックをもたらすので、本発明の方法により検出される化合物はHIVのRT酵素の非常に有効なブロッカーであると考えられる。ヌクレオシドリン酸又はピロリン酸の同時投与を伴わない場合ですら、ATPのようなヌクレオシドリン酸は細胞血漿(cell plasma)中に存在するので、この効果は役割を果たすことができる。
【0039】
NRTIの当該技術分野で知られたクラスに属する化合物もNNRTIのいずれも、本発明の方法を使用して識別することができる新しいクラスのRT阻害剤におけるようにRT阻害活性の増加を示さない。従って、本発明の方法により検出される化合物は独特な作用機序によりRT酵素と相互反応して、NRTI又はNNRTIの単独又は組み合わせ治療を逃れるHIV突然変異体に対して活性であろう。従ってこのような化合物はNRTI及び/又はNNRTI又は組み合わせ治療で前処置されていた患者の処置に使用することができる。
【0040】
特定の態様において、本発明に従う方法はまた、ヌクレオシドリン酸又はピロリン酸の存在下で増加したRT阻害活性を示すRT阻害剤であり、そして更に天然のヌクレオシド三リン酸と競合する化合物の検出を許す。このような方法はNRTI様動態を有すが化学的に異なる化合物の発見を許し、それは交差耐性に感受性の低い、そして異なる変異体を選択する薬剤をもたらすことが期待される。このような化合物は薬剤カクテル中のNNRTI及び/又はNRTIの代用物として使用できるかも知れない。新しいクラスに属する、RT阻害剤であるこの種の化合物は「ヌクレオチド競合的RT阻害剤(NCRTI)」と呼ぶことができる。
【0041】
本明細書に引用されるすべての参考文献、特許及び特許出願はそれら全体を引用することにより取り込まれている。
【0042】
[実施例]
以下の実施例は具体的表示により提供され、本発明を限定することを意図するものではない。
【実施例1】
【0043】
ATPの存在下及び不在下におけるHIV逆転写酵素のインビトロの阻害
僅かな修飾を伴い、製造業者の指示に従いキット TRK 1022TM(Amersham Life Sciences)を使用してアッセイを実施した。試験化合物を100%DMSO中に1/4に次第に希釈し、次に培地A(RPMI 1640+10%コウシ胎仔血清、20mg/mlのゲンタマイシン)中に1/50に希釈した。
【0044】
各実験において、3種の条件を試験した:25μlの前記の化合物溶液を満たしたウェル、25μlの培地A中2%DMSOで満たしたウェル(R0)及び培地A中100μlの停止溶液及び25μlのDMSOを満たしたウェル(R1)。各ウェルに25.5μLのマスターミックッス(5μLのプライマー/テンプレートビード、10μlのアッセイバッファー、0.5μlのトレーサー(50μM[3H]−dTTP)、5μLのHIVのRT酵素溶液(15mU/μl)、5μl培地A)を添加した。プレートをシールし、37℃で4時間インキュベートした。次に100μlの停止溶液を各ウェル(R1を除く)に添加した。放射能をTopCountTM中で計測した。
【0045】
ATPの存在下における試験化合物阻害に対し、前記と同様なプロトコールを使用したがマスターミックス中の培地Aを320mMのATPを含有する培地Aと置き換えた。
【0046】
前記のアッセイを使用してATP不在下の化合物1のIC50は0.3μMであり、他方ATP存在下の化合物1のIC50は0.016μMである。
【0047】
化合物1は国際公開第04/046143号パンフレットに記載され、構造
【0048】
【化1】

を有する化合物である。
【実施例2】
【0049】
実施例1の方法を繰り返したが、ATPを多数の他のヌクレオシドリン酸により変更した。以下の表は試験されたヌクレオシドリン酸及び関与したヌクレオシドリン酸の存在下で得られた化合物1のμMのIC50値を示す。
【0050】
ATPgSはアデノシン5’[ガンマ−チオ]三リン酸[CAS 93839−89−5]であり、そしてATPbgNHはアデノシン5’[ベータ、ガンマ、イミド]三リン酸[CAS 72957−42−7]である。
【0051】
【表1】

【実施例3】
【0052】
酵素の反応速度論的研究
酵素の反応速度論的研究を、40〜3μMの範囲のdTTP及び2〜0μMの範囲の化合物1に対する、種々の基質及び阻害剤濃度の4×5のマトリックスを伴うプロトコールを使用して実施した。
【0053】
反応混合物(50μl)は更に50mMのTris.HCl(pH7.8)、5mMのジジチオスレイトール、300mMのグルタチオン、500μMのEDTA、150mMのKCl、5mMのMgCl、0.15mMのテンプレート/プライマー・ポリ(rA)オリゴ(dT)及び0.06%のTriton X−100を含有した。反応混合物を37℃で15分間インキュベートし、その時点で100μlのコウシ胸腺DNA(150pg/ml)、2mlのNa(1MのHCl中0.1M)及び2mlのトリクロロ酢酸(10%v/v)を添加した。溶液を氷上で30分間維持し、その後、酸不溶性物質を洗浄し、放射能を分析した。反応速度の逆数(1/v)を異なる濃度の化合物1の存在下で基質濃度の逆数(1/[dTTP])に対してプロットすると、グラフ(図1参照)を得た。
【0054】
すべての線がY−軸との交点で交差するので、本化合物がHIVのRT阻害の競合モードを有することは明白である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、反応速度の逆数(1/v)を異なる濃度の化合物1の存在下で基質濃度の逆数(1/[dTTP])に対してプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) HIVのRT酵素に対する少なくとも1種のテンプレート、
少なくとも1種のプライマー、
少なくとも1種の検出可能なdNTP基質、
少なくとも1種の試験化合物、
少なくとも1種のRT酵素、
を含んでなる反応ウエルを準備し、
ここで該HIVのRT酵素は検出可能なdNTP基質を取り込み、
そして
テンプレート中に取り込まれる検出可能なdNTP基質の量を測定することによりRT活性を決定し、
b) HIVのRT酵素に対する少なくとも1種のテンプレート、
少なくとも1種のプライマー、
少なくとも1種の検出可能なdNTP基質、
少なくとも1種の試験化合物、
少なくとも1種のヌクレオシドリン酸又は少なくとも1種のピロリン酸、
少なくとも1種のRT酵素、
を含んでなるもう1つの反応ウエルを準備し、
ここで該HIVのRT酵素は検出可能なdNTP基質を取り込み、
そして
テンプレート中に取り込まれる検出可能なdNTP基質の量を測定することによりRT活性を決定し、
c)段階a)及び段階b)で得られるRT活性を比較し、
d)b)で得られるRT阻害活性がa)で得られるRT阻害活性を超える試験化合物を選択し、
ここで段階a)及びe)におけるHIVのRT阻害剤の量は同等であり、RT活性の増加は測定可能であるようなものである、
ことを含んでなるリボヌクレオチド又はピロリン酸感受性のRT阻害剤の識別方法。
【請求項2】
a) HIVのRT酵素に対する少なくとも1種のテンプレート、
少なくとも1種のプライマー、
少なくとも1種の検出可能なdNTP基質、
少なくとも1種の試験化合物、
少なくとも1種のRT酵素、
を含んでなる反応ウエルを準備し、
ここで該HIVのRT酵素は検出可能なdNTP基質を取り込み、
そして
テンプレート中に取り込まれる検出可能なdNTP基質の量を測定することによりRT活性を決定し、
b) HIVのRT酵素に対する少なくとも1種のテンプレート、
少なくとも1種のプライマー、
少なくとも1種の検出可能なdNTP基質、
少なくとも1種の試験化合物、
例えば、ATP及びGTPから選択される少なくとも1種のヌクレオシドリン酸又は少なくとも1種のピロリン酸、
少なくとも1種のRT酵素、
を含んでなるもう1つの反応ウエルを準備し、
ここで該HIVのRT酵素は検出可能なdNTP基質を取り込み、
そして
テンプレート中に取り込まれる検出可能なdNTP基質の量を測定することによりRT活性を決定し、
c)段階a)及び段階b)で得られるRT活性を比較し、
d)試験化合物を反応速度論的RT酵素アッセイにかけ、
e)b)で得られるRT阻害活性がa)で得られるRT阻害活性を超え、そして更に段階d)の反応速度論的酵素アッセイにおいて競合的である試験化合物を選択し、
ここで段階a)及びe)におけるHIVのRT阻害剤の量は同等であり、RT活性の増加は測定可能であるようなものである、
ことを含んでなる、ヌクレオチド競合的な、リボヌクレオチド又はピロリン酸感受性のRT阻害剤の識別方法。
【請求項3】
段階a)及びb)を引き続いて実施する請求項1又は2の方法。
【請求項4】
段階a)及びb)を平行して実施する請求項1又は2の方法。
【請求項5】
段階a)及びb)を引き続いて実施し、次に段階d)を実施する請求項2の方法。
【請求項6】
段階a)及びb)を平行して実施し、次に段階d)を実施する請求項2の方法。
【請求項7】
段階a)及びb)において決定されるRT活性が特定のパーセントの「阻害濃度」、特にIC50又はIC90値である請求項1〜6のいずれかの方法。
【請求項8】
ヌクレオシドリン酸がATP及びGTPから選択される請求項1〜7のいずれかの方法。
【請求項9】
HIVのRT酵素に対するテンプレート、プライマー、検出可能なdNTP基質及びヌクレオシドリン酸又はピロリン酸を含んでなる、ヌクレオチド競合的RT阻害剤を識別するためのキット。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2008−528046(P2008−528046A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−553617(P2007−553617)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/050707
【国際公開番号】WO2006/082249
【国際公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【出願人】(504347371)テイボテク・フアーマシユーチカルズ・リミテツド (94)
【Fターム(参考)】