IP立体ディスプレイ
【課題】撮影側で取得された倒立像を正立像に変換でき、かつ、表示する画像の精細度を高めると共に、視域および奥行き再現範囲を拡大できるIP立体ディスプレイを提供する。
【解決手段】IP立体ディスプレイ1は、基板2上に画像表示面であるFPD面4を構成する画素5としての光線指向型発光素子10からの光線の射出方向を規定した。具体的には、IP立体ディスプレイ1において、撮影側で要素レンズアレイを介して被写体を撮影して取得した要素画像毎に仮想的な要素レンズ6を配置したときに、FPD面4における各仮想的な要素レンズ6に相当する領域である要素画像表示領域7毎に、当該要素画像表示領域7内の各画素5が、要素画像表示領域7の中心に対して自身と点対称の位置にある画素5と仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光軸の方向と一致する方向の光線を射出するように光線指向型発光素子10を配置した。
【解決手段】IP立体ディスプレイ1は、基板2上に画像表示面であるFPD面4を構成する画素5としての光線指向型発光素子10からの光線の射出方向を規定した。具体的には、IP立体ディスプレイ1において、撮影側で要素レンズアレイを介して被写体を撮影して取得した要素画像毎に仮想的な要素レンズ6を配置したときに、FPD面4における各仮想的な要素レンズ6に相当する領域である要素画像表示領域7毎に、当該要素画像表示領域7内の各画素5が、要素画像表示領域7の中心に対して自身と点対称の位置にある画素5と仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光軸の方向と一致する方向の光線を射出するように光線指向型発光素子10を配置した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体ディスプレイに係り、空間像表示型の立体表示方式、特にインテグラル・フォトグラフィー(IP)を用いたIP立体ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
図8(a)に示す従来型のIP立体表示装置201は、表示パネル202と、要素レンズアレイ203とを備えている。表示パネル202は、例えば液晶パネルから構成され、そのスクリーン面204において水平および垂直方向に所定数のマトリクス状に所定の画素ピッチで配置された多数の画素205を備えている。要素レンズアレイ203は、要素レンズ206を所定のレンズピッチで並置して構成されている。なお、要素レンズ206は図8(a)に示すように縦横を揃えて配置する必要はなく、俵積み状態のデルタ配置であってもよい。図示は省略するが、IP立体表示装置201に対応したIP立体撮影装置が、同様の要素レンズアレイを介して被写体(例えば円柱等)を撮影しておくことが、立体を表示するための前提となる。例えば、IP立体撮影装置の要素レンズの焦点距離は、IP立体表示装置201の要素レンズ206の焦点距離と同一であり、また、要素レンズアレイ203と表示パネル202との距離は、IP立体撮影装置の要素レンズアレイと撮影パネルとの距離に等しい。これにより、IP立体表示装置201において、各要素レンズ206が、当該要素レンズ206の領域に映る画像(要素画像)を空間上に投影し、それらが集められて、被写体の表示像(立体像)として、例えば円柱901、903や立方体902が表示される。
【0003】
このIP立体表示装置201の断面構造を図8(b)に模式的に示す。なお、図8(b)では、要素レンズ206からスクリーン面204までの距離gを要素レンズの焦点距離の値とした。このIP立体表示装置201は、光学レンズを要素レンズ206として用いることによって画像表示面(スクリーン面204)に表示された映像について、表示面から周囲に射出された光線を平行光に変えて、光線の方位(方向)を制御するものである。
【0004】
さらに、非特許文献1には、IP立体ディスプレイを、7680(水平:H)×4320(垂直:V)の画素数(スーパーハイビジョン)からなる動画対応の超高精細投射型ディスプレイの表示スクリーン上に、400(H)×250(V)の個数からなる光学レンズ(以下、要素レンズとよぶ)を並置した要素レンズアレイを重ねた構造のものとして試作したことが記載されている。このIP立体ディスプレイによれば、ディスプレイの観察時に立体観測用の特殊なメガネをかけなくても、上下、左右のいずれの方位からも立体映像を観測することが可能となっている。
【0005】
このようなIP立体ディスプレイには、大要、以下の(A1)〜(A3)に示す問題がある。
【0006】
(A1)解像度の問題
例えば、非特許文献1に開示された従来のIP立体ディスプレイでは、解像度がまだ実用域のレベルになっていないため、今後、より一層、解像度を高める必要がある。IP立体ディスプレイは、立体画像の表示部分に多数の要素レンズ(光学レンズ)を並置した要素レンズアレイを重ね合わせた構造になっているため、解像度の上限がレンズピッチで規定されている。したがって、解像度を高めるためには、レンズピッチを小さくする必要がある。
【0007】
(A2)立体像の奥行き再現範囲の問題
IP立体ディスプレイでは、ディスプレイの奥行き方向の所定地点で解像度を高めることができたとしても、その所定地点の前後の解像度が低いために前後の画像がボケてしまうという問題もある。IP立体ディスプレイでは、生成される表示像の解像度(表示像の空間周波数)が、光学レンズを並置した要素レンズアレイ付近で最大であって、要素レンズアレイから離れるにしたがって低下する。よって、IP立体ディスプレイに精細度の高い立体像を表示させると、近景および遠景の表示画像の解像度が低下する。つまり、高精細な立体像の近景の画像と遠景の画像がボケてしまう。
【0008】
(A3)視域の問題
IP立体ディスプレイでは、上下左右いずれの方向においても、観察者の位置に応じた立体像を見ることができる。ただし、観察者が移動してディスプレイを視認できる範囲(視域)は、ある1つの要素画像からの光が、それに対応する1つの要素レンズにより放射される領域に限られる。IP立体ディスプレイでは、表示された立体画像の視域が例えば液晶ディスプレイ等の通常のFPD(flat panel display)に比べて狭いという問題がある。例えば非特許文献1に開示された従来のIP立体ディスプレイの視域角は設計仕様として28°、実測値として24°であり、通常のFPD(例えば50〜170°)に比べて格段に小さい。
【0009】
ここで、前記(A1)の問題として挙げたIP立体ディスプレイの解像度を改善するためには、要素レンズのレンズピッチを小さくすることが必要である。一方、前記(A3)の問題として挙げた視域を拡大するためには、レンズピッチを大きくする必要がある。つまり、解像度の改善と視域の拡大とはトレードオフの関係にある。
また、前記(A3)の問題として挙げた視域を拡大するためには、要素レンズアレイから表示素子までの距離(要素レンズの焦点距離)を小さくする必要がある。一方、前記(A2)の問題として挙げた立体画像の奥行き再現範囲を拡大するためには、要素レンズアレイから表示素子までの距離(要素レンズの焦点距離)を大きくする必要がある。つまり、視域の拡大と立体画像の奥行き再現範囲の拡大とはトレードオフの関係にある。
したがって、従来型のIP立体ディスプレイでは、前記したように要素レンズを用いることにより生じる制約があるため、前記(A1)〜(A3)の問題を改善することが困難であった。
【0010】
これに対し、例えば、要素レンズを用いることなく立体像を表示することができれば、要素レンズにまつわる制約がなくなるため、原理的には(A1)〜(A3)の問題を改善できる可能性が高い。
例えば、IP立体ディスプレイの技術の今後の発展により、画素からの光を集めるための光学レンズ(要素レンズ)を並置した要素レンズアレイを設けることなく、IP立体ディスプレイの画像表示面の画素としての表示素子を、光線指向型発光素子とし、この光線指向型発光素子から射出する光線の方向を画素毎に設定して、要素レンズを用いたときと同じ光線アレイを再現する技術が仮定される。このような架空のIP立体ディスプレイによれば、要素レンズを用いなくても立体像を表示できることが期待できる。言い換えれば、光学レンズで投影される光線の方向と同様の方向を、各画素を構成する発光素子にそれぞれ設定しておくことで、従来と同様に立体像を表示することが可能であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−21708号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】洗井淳、配野泰行、「スーパーハイビジョンを適用したインテグラル立体テレビ」、月刊ディスプレイ、2010年10月号、p.40-45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記した架空のIP立体ディスプレイには、次のような問題があった。つまり、前記した従来のIP方式では、IP立体撮影装置において、被写体を、要素レンズアレイを介して撮影すると、被写体が倒立した像(倒立像)が要素画像として記録されるが、このような倒立像をそのまま、従来のIP立体ディスプレイで表示すると、奥行きが反転した逆視像が表示される現象が生じることが分かっている(非特許文献1参照)。そして、この現象は、前記した架空のIP立体ディスプレイにおいても同様に生じうるものである。
【0014】
このような、逆視像の問題を改善する手法として、従来、次のような提案がなされている。
例えば、IP立体撮影装置で取得した情報を演算処理することによって倒立像を正立像に変換し、演算処理した後の情報をIP立体表示装置に入力して、最終的に正しい奥行きの立体像を生成するIP方式が開示されている(特許文献1参照)。
【0015】
ここで、図9を参照して、特許文献1に開示された従来のIP方式について説明する。図9(a)に示すように、従来のIP方式では、観察者O側から、IP立体撮影装置301により、被写体Hを撮影すると、要素レンズアレイ302を構成する要素レンズ3021,…,302nの数だけ、撮影パネル303に被写体Hの像(以下、「要素画像」という。)3041,…,304nが撮影される。この各要素画像をそのまま表示すると、奥行きが反転してしまうため、従来のIP方式では、IP立体撮影装置301は、反転処理手段305によって、演算処理により要素画像を点対称に変換することで、被写体Hの立体情報(複数の要素画像)を生成している。
【0016】
一方、図9(b)に示すIP立体表示装置401は、表示パネル(表示素子)403により、図9(a)の撮影パネル303で撮影された要素画像3041,…,304nを点対称に変換した要素画像4041,…,404nを表示する。そして、観察者Oが、表示パネル403と平行に配置された、同一平面状に配列された複数の要素レンズ4021,…,402nからなる要素レンズアレイ402を介して表示パネル403を観察すると、奥行きが正しい立体像を視認することが可能になる。
【0017】
また例えば、従来、IP立体撮影装置において、要素レンズに代えて屈折率分布レンズを用いることが提案されている(特許第3836550号公報参照)。この屈折率分布レンズは、中心から半径方向に離れるにしたがって屈折率が二乗特性で減少する媒体である。ここでは、IP立体撮影装置が、光の蛇行周期の3/4の長さの屈折率分布レンズを用いて各要素画像をそれぞれ点対称に反転することにより、倒立像を正立像に変換している。この方法によれば、撮影側で正立像を取得できるので、表示側で正しい奥行きの立体像を表示することが可能になる。
【0018】
しかし、従来の演算処理により倒立像を正立像に変換する方式では以下に示す問題があった。ここで、IP方式により立体像を表示する技術において、表示される立体画像の解像度は、レンズアレイを構成するレンズの数つまり要素画像の数に依存する。つまり、解像度が高く、かつ、奥行き感のある立体像を表示するためには、撮影側および表示側において要素レンズの数を増やす必要がある。例えば、対角が50インチのハイビジョン画像を表示しようとすると、撮影側および表示側において要素レンズの数が200万個以上必要となる。このように、要素レンズの数つまり要素画像の数が増えると、演算処理の処理量が膨大となり、演算処理に相当な時間と手間がかかってしまうことになる。
【0019】
また、従来の要素レンズに代えて屈折率分布レンズを用いて倒立像を正立像に変換する方式では以下に示す問題があった。
すなわち、従来のIP立体撮影装置では、要素レンズに代えて屈折率分布レンズを用いる構成としているが、屈折率分布レンズの製作には高度な技術が要求され、また、屈折率分布レンズアレイとして使用するときも、要素レンズを2次元状態に整列させて使用する構成に比較して製造が容易ではなかった。
【0020】
さらに、前記したように、IP方式において、解像度が高く、かつ、奥行き感のある立体像を表示するためには、屈折率分布レンズの数を増やす必要がある。例えば、対角が50インチのハイビジョン画像を表示しようとすると、屈折率分布レンズの数が200万個以上必要となる。そして、十分な奥行き感を得るためには、表示素子の画素のサイズがミクロンオーダーとなる。このような場合において、立体像を表示するためには、表示素子の画素のサイズに合わせて屈折率分布レンズのサイズも小さくする必要がある。しかし、屈折率分布レンズのサイズを小さくすると、所望の屈折率を得ることができるように設計することが困難、つまり、屈折率が滑らかに変化するように製造することが困難であり、その結果、屈折率を表示素子内で正しく制御することが困難であった。
【0021】
本発明は、前記した問題点に鑑み創案されたものであり、屈折率分布レンズや演算処理によらずに、撮影側で取得された倒立像を正立像に変換することができ、かつ、表示する画像の精細度を高めることができると共に、視域および奥行き再現範囲を拡大できるIP立体ディスプレイを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記した課題を解決するため、請求項1に記載のIP立体ディスプレイは、インテグラル・フォトグラフィー(IP)方式により、要素レンズを複数並置した要素レンズアレイを介して前記被写体を撮影して取得した各要素画像を表示する画像表示面の画素からの光を集めて立体像を表示するIP立体ディスプレイであって、基板上に前記画像表示面の画素としての発光素子を設け、前記要素レンズに対応する仮想的な要素レンズを、その焦点距離だけ前記基板から離間した位置に複数並置した仮想的な要素レンズアレイを配置したときに、前記画像表示面において、前記仮想的な要素レンズに相当する領域の画素群で構成される要素画像表示領域内の各前記画素が、当該要素画像表示領域の中心に対して自身と点対称の位置にある画素と前記仮想的な要素レンズの中心とを結ぶ光軸の方向と一致する方向の光線を射出するように、各前記画素としての各前記発光素子を配置したことを特徴とする。
【0023】
かかる構成によれば、IP立体ディスプレイは、原理的に高精細化が難しい光学レンズ(要素レンズ)を使用するのではなく、画素としての光線指向型発光素子を設け、画素毎に、発光素子からの光線の射出方向を規定し、この射出方向に光線を射出するように光線指向型発光素子を配置することとした。
従来は、表示パネルに表示された各要素画像を対応する要素レンズでそれぞれ投影して、これらを集めて、立体像を表示していた。
これに対して、本発明のIP立体ディスプレイは、要素画像を構成する画素毎に、当該画素を構成する発光素子が射出する光線の方向が設定されているので、発光素子自体が、発光の方向に指向性を持っている。
そのため、光学レンズで投影される光線の方向と同様の方向を、要素画像を構成する各画素を構成する各発光素子にそれぞれ設定しておくことで、原理的に、従来と同様に立体像を表示できる。なお、「要素画像」とは、撮影側で、要素レンズを介して被写体を撮影することにより取得された画像をいうものである。
さらに、本発明のIP立体ディスプレイは、画面表示面において、仮想的な要素レンズに相当する領域の画素群で構成される要素画像表示領域内の各画素が、当該要素画像表示領域の中心に対して自身と点対称の位置にある画素と仮想的な要素レンズの中心とを結ぶ光軸の方向と一致する方向の光線を射出するように、各画素としての各発光素子を配置したことで、屈折率分布レンズや演算処理によらずに、撮影側で取得された倒立像を正立像に変換することが可能となる。これにより、最終的に奥行きの正しい立体像を表示できる。
【0024】
つまり、本発明のIP立体ディスプレイは、従来のIP立体表示装置の光学レンズに対応する仮想的な要素レンズを配置したことにより、画像表示面から射出される光線は、あたかもレンズで投影されたかのように集まって、立体像を表示できる。このようにして、光学レンズを用いることなく、従来のIP立体表示装置と同様の立体像が再生可能となった。
さらに、本発明のIP立体ディスプレイは、要素画像表示領域内の各画素が、要素画像表示領域の中心に対して自身と点対称の位置にある画素を仮想的な要素レンズによって投影したときの光線の方向を再現するように、各画素を構成する各発光素子からの光線の射出方向を設定した。これにより、屈折率分布レンズや演算処理によらずに、倒立像を正立像に変換して表示できる。
【0025】
また、請求項2に記載のIP立体ディスプレイは、請求項1に記載のIP立体ディスプレイにおいて、前記発光素子は、少なくとも一部が柱状に形成されて柱頭の射出面から光線を射出するLED素子であることを特徴とする。
【0026】
かかる構成によれば、発光素子としてLED素子を備え、このLED素子の少なくとも一部が柱状に形成されているので、発光素子で形成する画素を微小化し、画素ピッチを小さくすることができる。また、半導体の微細化プロセスによって半導体結晶を成長させることで、LED素子の柱状の部分を形成し、太さや高さを制御した柱の柱頭を射出面にすることができる。
【0027】
また、請求項1または請求項2に記載のIP立体ディスプレイにおいて、前記画素は、RGBの3つの発光素子で構成されていてもよい。
【0028】
かかる構成によれば、IP立体ディスプレイにおいて、画素は、RGBの3つの発光素子で構成されているので、従来のIP立体表示装置と同様に、被写体の立体像をカラー表示できる。
【発明の効果】
【0029】
請求項1に記載の発明によれば、IP立体ディスプレイは、光学レンズを備えずに立体像を表示できる。したがって、IP立体ディスプレイは、従来よりも、表示する画像の精細度を高めることができると共に、視域および奥行き再現範囲を拡大できる。
また、IP立体ディスプレイは、屈折率分布レンズや演算処理によらずに、撮影側で取得された倒立像を正立像に変換できるので、最終的に奥行きの正しい立体像を表示できる。
請求項2に記載の発明によれば、IP立体ディスプレイは、画素として、指向性の高い柱状部を有するLED素子を備え、画素ピッチを小さくすることができるので、解像度を高め、高精細な立体像を再生することができる。
請求項3に記載の発明によれば、IP立体ディスプレイは、従来のIP立体表示装置と同様に、被写体の立体像をカラー表示できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイの構成を模式的に示す概念図であり、(a)は、全体構成図、(b)は、断面構造を示す。
【図2】架空のIP立体ディスプレイの画像表示面における要素画像表示領域を模式的に示す概念図である。
【図3】架空のIP立体ディスプレイにおいて画素としての光線指向型発光素子から射出される光線が仮想的な要素レンズに投影される様子を模式的に示す概念図であって、(a)は、要素画像表示領域における画素の配置を示し、(b)は、(a)で示した画素と仮想的な要素レンズの中心とを繋ぐ光軸を示す。
【図4】本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイにおいて画素としての光線指向型発光素子から射出される光線の方向を模式的に示す概念図であって、(a)は、要素画像表示領域における画素の配置を示し、(b)は、(a)で示した画素としての光線指向型発光素子から射出される光線の方向を示す。
【図5】本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイの構成を模式的に示す概念図である。
【図6】本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイに用いる光線指向型発光素子の構造の一例とその配置例を模式的に示す概念図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るIP立体ディスプレイにおいて画素としての光線指向型発光素子から射出される光線の方向を模式的に示す概念図であって、(a)は、要素画像表示領域における画素の配置を示し、(b)は、(a)で示した画素としての光線指向型発光素子から射出される光線の方向を示す。
【図8】従来のIP立体表示装置の構成を模式的に示す概念図であり、(a)は、全体構成図、(b)は、断面構造を示す。
【図9】従来のIP方式の概念を説明するための説明図であって、(a)は撮影時、(b)は表示時の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[IP立体ディスプレイの概要]
まず、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイについて、従来の典型的なIP立体ディスプレイである図8に示したIP立体表示装置201と対比させながら図1を参照して説明する。
【0032】
前記したように、図8(a)に示す従来型のIP立体表示装置201は、光学レンズを要素レンズ206として用いることによって、画像表示面(スクリーン面204)に表示された映像について、図8(b)に示すように、表示面から周囲に射出された光線を平行光に変えて、光線の方位(方向)を制御していた。
【0033】
これに対して、図1(a)に示すIP立体ディスプレイ1は、従来型のIP立体表示装置201とは異なり、要素レンズ206を備えずに、IP方式により、要素画像から立体像を表示する方式のIP立体ディスプレイである。
また、IP立体ディスプレイ1は、屈折率分布レンズや演算処理によらずに、撮影側で取得された倒立像を正立像に変換して、奥行きの正しい立体像を表示する方式のIP立体ディスプレイである。
【0034】
次に、IP立体ディスプレイ1の詳細な構造について図1(b)および図4を参照(適宜図1(a)を参照)して説明する。以下のIP立体ディスプレイ1の説明において、屈折率分布レンズや演算処理によらずに撮影側で取得された倒立像を正立像に変換する構造について、図2、4に示す前記従来技術で説明した架空のIP立体ディスプレイとの対比説明を行い、光学レンズを用いずに立体像を表示する構造について、図8に示す従来型のIP立体表示装置201との対比説明を行う。
【0035】
[IP立体ディスプレイの構造]
図1(b)に示すように、IP立体ディスプレイ1は、基板2上に画像表示面(FPD面4)の画素5としての光線指向型発光素子10を備えて構成されている。IP立体ディスプレイ1は、FPD面4において水平および垂直方向に所定数のマトリクス状に配置された画素5を備えており、各画素5は、図示しない行ドライバおよび列ドライバにより、図示しない走査ラインおよびデータラインを介して駆動される。
【0036】
このIP立体ディスプレイ1は、光線指向型発光素子10から射出する光線の方向が画素5毎に設定されている。つまり、画素5毎に光線を射出する方向を設定し、その方向に光線を射出するように画素5としての光線指向型発光素子10が配置されている。図示は省略するが、従来のIP立体表示装置201に対応したIP立体撮影装置が、要素レンズアレイ203と同様のレンズアレイを介して被写体(例えば円柱等)を撮影しておくことが、IP立体ディスプレイ1にて立体を表示(表示)するための前提となる。
このIP立体ディスプレイ1において、FPD面4に設けられた各光線指向型発光素子10から射出する光線はあたかもレンズで投影されたかのように集まって、例えば円柱901、903や立方体902の表示像(立体像)が表示される。このように、IP立体ディスプレイ1は、光線指向型発光素子10からの発光の射出方向を限定することで、光学レンズを不要としたものである。
【0037】
光線指向型発光素子10は、発散光ではなく、指向性の高い光を発光する素子であり、特定の方向に光線を出射する。この光線指向型発光素子10としては、例えば、少なくとも一部が柱状に形成されて柱頭の発光面から光線を射出するLED素子を用いることができる。LED素子の材料は、例えば、GaN、AlN、GaAlN、ZnO、GaAs、GaP、GaAlAs、GaAlAsPからなるアレイから選択された1つであることが好ましい。光線指向型発光素子10の構造の詳細については後記する。本発明の実施形態では、光線指向型発光素子10は、後記する式(2)および式(3)において規定する特定の角度の方向(α1,θ1)には光線を射出するが、その他の方向には射出しないような指向性を有することとした。
【0038】
この光線指向型発光素子10は、通常のIP立体ディスプレイにおいて要素画像を構成する画素数に相当する個数(縦横とも数百〜数千程度の個数)設けられている。一方、この画素の単位集団を要素画素アレイとして定義した場合、通常のIP立体ディスプレイの要素レンズに相当する領域に要素画素アレイ(1つの単位構造)が並置される構造となる。この要素画素アレイを、前記要素レンズの個数分、タイル状に並置すると、光線指向型発光素子10によってなるIP立体ディスプレイ1が作製できる。
ここで、「要素画像」とは、通常のIP立体撮影装置において、要素レンズを介して被写体を撮影することにより取得された画像をいうものである。
【0039】
次に、発光素子10からの光線の射出方向について従来技術と対比させつつ、数式を用いて適宜図1を参照しながら説明する。ここでは、まず、数式を用いるためにいくつかの前提を述べる。
【0040】
発光素子の発光面を例えばxy平面として、xy平面の原点に置かれた発光素子と、xy平面を底面とする半球の3次元空間を仮定する。また、発光面に対して垂直な例えばzx平面において、発光面に対する法線方向である+z軸から発光面への回転角度をθ(−90°≦θ≦90°)で表す。この場合、+z軸がθ=0°を示し、+x軸の方向がθ=90°、−x軸の方向がθ=−90°となる。
また、発光面(xy平面)からの仰角をθ’とすると、θ’=90°−θの関係が成り立つ。また、z軸の周りの回転角(方位角)をα(−180°<α≦180°)で表すと、角度θおよび方位角αを用いて半球面上の位置を特定できる。
【0041】
従来の典型的なIP立体ディスプレイ(IP立体表示装置201)において、表示パネル202の表示素子(例えば発光素子)から放射される光線は、画素205の周囲に等方的なランバーシアン(Lambertian)分布の状態を示す。具体的には、発光面に対する法線方向(θ=0)の光強度をI0として、方位角をαとした場合、ランベルトの余弦則を示すランバーシアンの光強度分布I(α,θ)は、次の式(1)により表すことができる。
【0042】
I(α,θ)=I0×cosθ … 式(1)
【0043】
すなわち、通常の発光素子から放出される発光の強度は、一般的に方位角αには依存せず、発光面に対する法線方向からの角度θ(あるいは仰角θ’)のみに依存しており、しかも等方的である。
【0044】
一方、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1では、ある特定の方向のみに限定して発光を射出する画素5として、光線指向型発光素子10を備える。すなわち、光線指向型発光素子10は、次の式(2)に示すように、方位角αの値がα1であって、かつ、発光面に対する法線方向からの角度θの値がθ1をとるとき(あるいは仰角θ’の値θ1′が90°−θ1をとるとき)に光を射出する。式(2)では、このときの光強度の値をImaxとした。また、光線指向型発光素子10は、次の式(3)に示すように、方位角αの値がα1であっても角度θの値がθ1以外のときには光を射出しないこととした。
【0045】
I(α1,θ1)=Imax … 式(2)
I(α,θ)=0 (α=α1,θ≠θ1)) … 式(3)
【0046】
次に、式(2)および式(3)において規定した特定の方向(α1,θ1)について、前記従来技術で説明した架空のIP立体ディスプレイと、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1と、を対比しながら説明する。なお、架空のIP立体ディスプレイと、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1と、は、式(2)および式(3)において規定した特定の方向(α1,θ1)のみが異なるものであり、その他の構成は共通するものである。つまり、架空のIP立体ディスプレイは、図1に示した本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1と同様の構成を備えるものである。ただし、以下の説明においては、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1と区別するため、便宜上、架空のIP立体ディスプレイにおいて、IP立体ディスプレイ1に対応する構成に「’」をつけて表記することとする。
【0047】
図1(a)に示すように、架空のIP立体ディスプレイ1’は、基板2’上に画像表示面(FPD面4’)の画素5’としての光線指向型発光素子10’を備えて構成されている。
【0048】
この架空のIP立体ディスプレイ1’における光線指向型発光素子10’の光線の射出方向は、従来のIP立体表示装置201の要素レンズ206によって規定されていた方向と同様の方向となっている。これにより、光線指向型発光素子10による発光は、従来の要素レンズ206によって規定されていた方向にのみ射出させることができる。つまり、架空のIP立体ディスプレイ1’の光線指向型発光素子10について、前記式(2)および式(3)において規定した特定の方向(α1,θ1)を、従来の要素レンズ206によって規定されていた方向と全く同じ方向としたことを意味する。
【0049】
次に、架空のIP立体ディスプレイ1’における、画素5’としての光線指向型発光素子10’からの光線の射出方向について、図2、図3を参照して詳しく説明する。なお、図2、図3は、それぞれ、図1に示すIP立体ディスプレイ1’の一部を示している。
【0050】
架空のIP立体ディスプレイ1’は、要素画像表示領域毎に、要素画像表示領域内の各画素5’について、画素5’としての光線指向型発光素子10’からの光線の射出方向を規定している。
まず、架空のIP立体ディスプレイ1’の要素画像表示領域について説明する。要素画像表示領域とは、架空のIP立体ディスプレイ1’のFPD面4’において、通常のIP立体撮影装置で取得された要素画像アレイを構成する各要素画像を表示する領域のことである。従来のIP立体表示装置201は、通常のIP立体撮影装置が備える要素レンズアレイに相当する要素レンズアレイ203を備えるため、各要素レンズ206に相当する領域が、要素画像表示領域となる。
【0051】
一方、架空のIP立体ディスプレイ1’は、通常のIP立体撮影装置が備える要素レンズアレイに相当する要素レンズアレイを備えないため、図2に示すように、従来のIP立体表示装置201の各要素レンズ206に相当する仮想的な要素レンズ6’を複数並置した仮想的な要素レンズアレイを配置した場合を仮定した。
【0052】
この仮想的な要素レンズアレイは、図示しない通常のIP立体撮影装置の要素レンズアレイ(図示せず)に対応して設けられるものであり、仮想的な要素レンズ6’の焦点距離だけ基板2から離間した位置に、仮想的な要素レンズ6’を複数並置してなるものを想定している。この仮想的な要素レンズ6’と基板2との位置関係は、図示しない通常のIP立体撮影装置の要素レンズと、撮影板(いずれも図示せず)と、の位置関係に対応している。仮想的な要素レンズ6’の焦点距離や口径は、基本的に、基板2のサイズに応じて決められる。例えば、仮想的な要素レンズ6’と、基板2と、の距離は、図示しない通常のIP立体撮影装置の要素レンズと、撮影板(いずれも図示せず)と、の距離と同一となり、また例えば、仮想的な要素レンズ6’の口径は、図示しない通常のIP立体撮影装置の要素レンズの口径と同一となる場合もある。これは、撮影サイズと表示サイズとが同じ場合が考えられる。
【0053】
そして、FPD面4’において、この仮想的な要素レンズ6’に相当する領域の画素群(画素5’の集合)を、要素画像表示領域7’とした。
ここで、「仮想的な要素レンズ6’に相当する領域」とは、FPD面4’上に仮想的に設定される領域であり、仮想的な要素レンズ6’と同軸上に位置し、仮想的な要素レンズ6’の面積と略同等の面積を有する領域をいう。この各要素画像表示領域7’に、図示しない通常のIP立体撮影装置で取得された各要素画像が表示される。
【0054】
なお、図2では、FPD面4’において、全ての領域に画素5’を設ける場合における要素画像表示領域7’を例示している。この場合、仮想的な要素レンズ6’に相当する領域を含むように格子状に区分した各領域(図2において斜線で示した領域)の画素群(画素5’の集合)を要素画像表示領域7’としている。ただし、FPD面4’において、仮想的な要素レンズ6’に相当する領域以外の部分に、画素5’を設けない場合は、仮想的な要素レンズ6’に相当する領域のみを、要素画像表示領域7’としてもよい。また、図2には示していないが、FPD面4’において、各画素5’の駆動回路が配置されている部分は、要素画像表示領域から除くものとする。なお、図2では、9つの要素画像表示領域7’を表示しているが、前記したように、要素画像表示領域7’は、要素画像の数だけ規定されるものである。
【0055】
次に、架空のIP立体ディスプレイ1’のFPD面4’において仮定された要素画像表示領域7’毎の光線指向型発光素子10’による光線の射出方向について説明する。
図3(a)に示すように、要素画像表示領域7’には、通常のIP立体ディスプレイにおいて要素画像を構成する画素数に相当する個数(縦横とも数百〜数千程度の個数)の画素5’としての光線指向型発光素子10’が設けられている。
【0056】
ここでは、図3(b)を参照して、この画素5’のうち、図3(a)に示すAの位置にある画素5’と、Bの位置にある画素5’と、Cの位置にある画素5’と、Dの位置にある画素5’と、Eの位置にある画素5’からの光線の射出方向について例にとって説明する。なお、以下の説明では、便宜上、図3(a)に示すAの位置にある画素5’を「画素5A’」と表記し、Bの位置にある画素5’を「画素5B’」と表記し、Cの位置にある画素5’を「画素5C’」と表記し、Dの位置にある画素5’を「画素5D’」と表記し、Eの位置にある画素5’を「画素5E’」と表記する。
【0057】
前記したように、架空のIP立体ディスプレイ1’は、光線指向型発光素子10について、前記式(2)および式(3)において規定した特定の方向(α1,θ1)を、従来の要素レンズアレイ203によって規定されていた方向と全く同じ方向としている。つまり、各画素5’によって、各仮想的な要素レンズ6’の中心を通る光線が再現されることになる。
したがって、架空のIP立体ディスプレイ1’では、図3(b)に示すように、画素5A’〜5E’から射出された光線は、それぞれ仮想的な要素レンズ6’の中心を通ることにより点対称に変換される。
【0058】
このように、架空のIP立体ディスプレイ1’では、要素レンズを用いることなく、従来の要素レンズ206によって規定されていた光軸を再現できる。しかし、その一方で、従来の要素レンズ206によって規定されていた光軸を再現することで、従来のIP立体ディスプレイ1と同様に、通常のIP立体撮影装置で取得された要素画像アレイ(倒立像)をそのまま架空のIP立体ディスプレイ1’で表示すると、倒立像を正立像に変換することができず、最終的に、奥行きが反転された逆視像が表示されることになるという問題がある。
【0059】
そこで、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1では、倒立像を正立像に変換して最終的に正しい奥行きの立体像を表示できるように、光線指向型発光素子10からの光線の射出方向(α1,θ1)を規定した。そして、この射出方向(α1,θ1)に光線を射出可能なように光線指向型発光素子10を配置することとし、そのために、以下の(B1)〜(B3)を実行することとした。
【0060】
(B1)
IP立体ディスプレイ1において、撮影側で取得された要素画像毎に、従来のIP立体表示装置201の要素レンズ206に対応する仮想的な要素レンズ6を配置すると仮定し、この仮想的な要素レンズ6に相当する領域を含むように格子状に区分した各領域を要素画像表示領域7として仮定する。
例えば、この仮想的な要素レンズ6と、基板2と、の位置は、図示しない通常のIP立体撮影装置の要素レンズと、撮影板(いずれも図示せず)と、の位置に対応していてもよい。また、例えば、仮想的な要素レンズ6の口径は、図示しない通常のIP立体撮影装置の要素レンズの口径と同一であってもよい。
ここで、「仮想的な要素レンズ6に相当する領域」とは、FPD面4上に仮想的に設定される領域であり、仮想的な要素レンズ6と同軸上に位置し、仮想的な要素レンズ6の面積と略同等の面積を有する領域をいう。
(B2)
要素画像表示領域7毎に、各画素5と、仮想的な要素レンズ6の中心と、を結ぶ光軸を求める。
(B3)
要素画像表示領域7内の各画素5が、要素画像表示領域7の中心に対して自身と点対称の位置にある画素5と、仮想的な要素レンズ6の中心と、を結ぶ光軸を再現するように、光線指向型発光素子10を配置する。
この(B3)について、図4を参照して詳細に説明する。なお、図4は、図1に示すIP立体ディスプレイ1の一部を示している。
【0061】
図4(a)に示すように、要素画像表示領域7には、通常のIP立体ディスプレイにおいて要素画像を構成する画素数に相当する個数(縦横とも数百〜数千程度の個数)の画素5としての光線指向型発光素子10が設けられている。ここでは、図4(b)を参照して、この画素5のうち、図4(a)に示すAの位置にある画素5と、Bの位置にある画素5と、Cの位置にある画素5と、Dの位置にある画素5と、Eの位置にある画素5の、それぞれの光線の射出方向について例にとって説明する。なお、以下の説明では、便宜上、図4(a)に示すAの位置にある画素5を「画素5A」と表記し、Bの位置にある画素5を「画素5B」と表記し、Cの位置にある画素5を「画素5C」と表記し、Dの位置にある画素5を「画素5D」と表記し、Eの位置にある画素5を「画素5E」と表記する。
【0062】
図4(b)では、画素5A〜5Eと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線を、光線a’〜e’としてそれぞれ破線で示している。そして、画素5A〜5Eとしての光線指向型発光素子10から実際に射出される光線を光線a〜eとしてそれぞれ実線で示している。なお、画素5Aと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線a’は、理由は後記するが、画素5Aとしての光線指向型発光素子10から実際に射出される光線aと一致するため、ここでは実線で示している。
【0063】
ここで、IP立体ディスプレイ1では、前記したように、要素画像表示領域7毎に、要素画像表示領域7内の各画素5から射出される光線の方向を規定し、その方向に光線を射出するように光線指向型発光素子10を配置している。詳細には、IP立体ディスプレイ1では、要素画像表示領域7内の各画素5が、自身から見て要素画像表示領域7の中心に対して点対称となる位置にある画素5と仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光軸を再現するように、画素5としての光線指向型発光素子10を配置している。
【0064】
つまり、図4(b)に示すように、画素5Bからみて要素画像表示領域7の中心に対して点対称となる位置にある画素5Eから、画素5Bと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線b’と方向が一致する光線bが射出されるように、画素5Eとしての光線指向型発光素子10を配置している。
一方、画素5Eからみて要素画像表示領域7の中心に対して点対称となる位置にある画素5Bから、画素5Eと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線e’と方向が一致する光線eが射出されるように、画素5Bとしての光線指向型発光素子10を配置している。
【0065】
同様にして、画素5Cからみて要素画像表示領域7の中心に対して点対称となる位置にある画素5Dから、画素Cと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線c’と方向が一致する光線cが射出されるように、画素5Dとしての光線指向型発光素子10を配置している。
一方、画素5Dからみて要素画像表示領域7の中心に対して点対称となる位置にある画素5Cから、画素Dと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線d’と方向が一致する光線dが射出されるように、画素5Cとしての光線指向型発光素子10を配置している。
【0066】
なお、画素5Aは、要素画像表示領域7の中心に位置しているため、画素5Aからみて要素画像表示領域7の中心に対して点対称の位置関係にある画素は、画素5A自身となる。したがって、画素5Aについては、画素Aと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線a’と方向が一致する光線aを射出するように、画素5Aとしての光線指向型発光素子10を配置している。
【0067】
このように、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1は、実際には存在しない仮想的な要素レンズ6を設けたと仮定した場合に各画素5から射出される光線を、当該画素5と点対称の位置にある画素5によって再現することで、撮影側で取得された被写体の倒立像である各要素画像をそれぞれ点対称に変換して正立像とできる。これにより、最終的に正しい奥行きの立体像を表示できる。
【0068】
但し、前記した図3、4に示した例は、あくまでも光線指向型発光素子10’、10による光の射出方向の説明を簡単にするために示したものであるので、架空のIP立体ディスプレイ1’あるいはIP立体ディスプレイ1が表示する立体像と、IP立体表示装置201が表示する立体像の解像度が同一となる。そこで、IP立体ディスプレイ1が表示する立体像を、IP立体表示装置201が表示する立体像よりも高精細化するためには、次のようにすればよい。
すなわち、IP立体ディスプレイ1において、基板2の画素ピッチpを図8(a)に示したIP立体表示装置201の表示パネル202の画素ピッチpよりも低減する。また、IP立体ディスプレイ1において、この低減した画素ピッチpにて光線指向型発光素子10を配置することとする。また、IP立体ディスプレイ1において、低減した画素ピッチpに対応して縮小化した要素レンズを仮定し、その焦点距離に合わせて基板2から離間させて配置した要素レンズアレイを仮定する。そして、前記(B1)〜(B3)を実行すればよい。
【0069】
以上のように、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1によれば、原理的に高精細化が難しい光学レンズ(要素レンズ)を使用することなく、光線指向型発光素子10からの発光の射出方向を限定することで、立体像を表示することとした。また、要素画像表示領域7毎に、従来の典型的なIP立体ディスプレイであるIP立体表示装置201における要素レンズ206に対応する仮想的な要素レンズ6を仮定し、この仮想的な要素レンズ6の中心と各画素5とを結ぶ光軸を求めた。そして、各画素5が、要素画像表示領域7の中心に対し、自身と点対称となる位置にある画素5と仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光軸を再現する光線を射出するように、画素5としての光線指向型発光素子10による光線の射出方向を規定し、この射出方向を実現できるように光線指向型発光素子10を配置した。
【0070】
これによれば、各要素画像表示領域7において、屈折率分布レンズや演算処理によらずに図示しないIP立体撮影装置で取得された倒立像(要素画像アレイ)を、正立像に変換できる。このため、奥行きが反転した逆視像が表示されるのを回避できる。
さらに、従来の典型的なIP立体ディスプレイであるIP立体表示装置201にまつわる前記(A1)解像度の問題、(A2)立体像の奥行き再現範囲の問題、(A3)視域の問題を、従来技術に比べて改善できる。このことについて、以下に説明する。
【0071】
(A1)解像度の問題
IP立体ディスプレイ1では、光学レンズを用いないので、従来の要素レンズアレイから表示素子までの距離(要素レンズの焦点距離)の制約を考慮する必要がない。このため、IP立体ディスプレイ1の画素ピッチp(図4(b)参照)を従来のIP立体表示装置201の画素ピッチp(図3(b)参照)よりも小さくできる。このため、解像度を従来よりも高めることができる。
【0072】
(A2)立体像の奥行き再現範囲の問題
IP立体ディスプレイ1では、光学レンズを用いないので、従来の要素レンズアレイから表示素子までの距離(要素レンズの焦点距離)の制約を考慮せずに画素数(要素画像を構成する画素の個数)を増大できるため、奥行き再現範囲を拡大することが可能となる。すなわち、高精細な立体映像信号をIP立体ディスプレイ1に入力した場合に、近景から遠景までの奥行き方向での立体再現範囲を拡大することが可能となる。
【0073】
(A3)視域の問題
IP立体ディスプレイ1では、光学レンズを用いないので、前記したように、実際には存在しない仮想的な要素レンズアレイを仮定し、この仮想的な要素レンズアレイからFPD面(表示素子)までの距離gの値として、現状の焦点距離よりも小さな距離を任意に設定できるので、視域を最大限に拡大できる。
具体的には、従来型のIP立体表示装置201は、図8(b)に示すように、視域角が、表示パネル202に表示される要素画像を構成する画素から放射されて、要素レンズアレイ203の中央に位置する要素レンズのレンズ中心を通過する2本の光軸のなす角で規定されている。
【0074】
一方、IP立体ディスプレイ1は、視域角が、FPD面4に表示される要素画像を構成する画素5から射出される交差しない2本の光線のなす角で規定されている。具体的に図4(b)に示すIP立体ディスプレイ1の視域角(画素5Bから射出される光線eと、画素5Eから射出される光線bとでなす角度)は、原理的に180°まで拡げることができる。すなわち、IP立体ディスプレイ1は、従来のIP立体表示装置201(図3(b)参照)よりも視域を拡大できるといえる。
【0075】
[IP立体ディスプレイの構造の例]
IP立体ディスプレイ1の各要素画像を構成する画素5において、特定の方向だけに発光を射出させる方法については、様々な方法が考えられるが、ここでは、全体の形状が柱状に構成されたLED等の発光素子自体を特定の方向に傾斜させることで発光の射出方向を特定する方法を用いた構造を例示する。この場合のIP立体ディスプレイの構成を図5に模式的に示す。
【0076】
図5に示したように、IP立体ディスプレイ1は、要素レンズアレイの形状をもつ多数の突起部3を有する基板2の上に、画素5としての光線指向型発光素子10を並置している。図5において領域40を拡大して示す図6にて突起部3の構造を示す。図6(a)は突起部の平面図、図6(b)は図6(a)のX−X線矢視における断面図である。ここでは、突起部3毎に一例として17個の光線指向型発光素子10(画素5)を設けた。実際には、発光素子の個数は、通常のIP立体ディスプレイにおいて要素画像を構成する画素数に相当する個数(縦横とも数百〜数千程度の個数)である。一方、この画素の単位集団を要素画素アレイとして定義した場合、通常のIP立体ディスプレイの要素レンズに相当する領域に要素画素アレイ(1つの単位構造)が並置される構造となる。この要素画像アレイを要素レンズの個数分、タイル状に並置すると、光線指向型発光素子によってなるIP立体ディスプレイ1が作製できる。
なお、図6(a)には、光線指向型発光素子10(画素5)と比較するため従来のIP立体表示装置201における画素205の配置を破線で示す。
【0077】
基板2は、従来の要素レンズアレイと同等の形状を有するガラスや石英の基板等、表面に結晶の方位等の異方性を有していないことが好ましい。すなわち、方位依存性のないアモルファス形状のガラスや石英の基板材料を用いることによって、各光線指向型発光素子10の特性ばらつきを抑えることが可能となる。従来の無機系発光素子は、結晶基板上に発光素子を成長することで、基板と結晶方位の揃った発光素子を形成していたが、この実施形態では、基板2に例えばアモルファス状態のガラス基板を用いることによって、基板の結晶方位に縛られることなく微細な発光素子を成長させることが可能となる。なお、基板2は、結晶性基板であっても構わない。
【0078】
基板2は、図5に示すように要素画像毎に並置された突起部3を有する。突起部3は、例えば図6(b)に示すような半円球形状、またはドーム形状、あるいは断面視で扇型形状に形成されている。例えば、基板2をガラス基板とした場合、このガラス基板上に突起部3を形成する方法は、例えば公知のガラスのレンズの作製法を用いることができる。
【0079】
光線指向型発光素子10は、柱状の形状であって微細な口径の半導体の自発光素子からなる表示素子である。光線指向型発光素子10は、図5に示すように円柱状に形成されている。なお、この円柱は、図示を省略するが、下からn型半導体層、半導体発光層、p型半導体層が積層された構造であり、例えば円柱の側面にp型電極、円柱の底面部にn型電極を備える。
【0080】
光線指向型発光素子10の材質については、例えばGaNやZnO等の無機系のLED素子が好適であるが、有機EL材料などの有機系発光材料の適用も可能である。なお、微細な素子を別工程で作製する際には、LED素子の場合にはLEDウエハ上に作るが、有機EL材料の場合にはガラスの上に作る。
【0081】
この光線指向型発光素子10は、図6(b)に示すように、画素毎に基板2の突起部3の表面の法線方向に立設している。つまり、個々の光線指向型発光素子10は、その発光が取り出される射出口部分を、要素画像毎に並置された突起部3の表面から外部に向けた形で並置されている。
【0082】
突起部3の外表面(凸面)に光線指向型発光素子10を形成したので、図6(a)に示すように、素子が突起部3の外周(下周縁)に近づくにつれて密度が粗になる。一方、図示を省略するが仮に凹面に素子を形成すると、素子が凹面の外周(上周縁)に近づくにつれて密度が密になり、円柱間が近接してしまうため、分離が難しくなる。つまり、突起部3の外表面(凸面)に光線指向型発光素子10を形成すると、製造し易くなるという利点がある。
【0083】
光線指向型発光素子10を製造する方法としては、公知の種々の微細加工技術を用いることができ、特に限定されない。例えば、基板2をガラス基板とした場合、このガラス基板上に半球状の突起部3を形成しておく。この突起部3上に発光素子を形成した場合には、ガラスは結晶基板と異なって方位無依存なので、ガラス面と垂直な方向に配位した電極や発光層が形成される。このような電極や発光層を、例えば集束イオンビーム(FIB)等の機械的な微細加工技術によって、形状加工できる。この場合の発光素子の方位は、半球状の表面に垂直方向に向くため、半球形状の形状が担保されていれば、所定の角度の形成が可能である。
【0084】
また、別の製造方法としては、半球状のガラス基板上に、別工程で作製した円柱の発光素子を機械的に並置することもできる。その場合、導電性のペーストなどによる化学的方法を用いて突起部3の表面に常に垂直方向になるように張り合わせる。また、ナノインプリントを使うことで、半導体発光層よりも上側の非発光の円柱部分(導波路部分)のみを各発光素子の上から形成することもできる。なお、突起部3の表面に、光線指向型発光素子10を配置していく順番は特に限定されず、ナノインプリントの場合には、一括形成が可能である。
【0085】
このように光線指向型発光素子10を基板2の突起部3上に配置していくことによって、光線指向型発光素子10について、特性ばらつきを招くことなく並置して配置することが可能となる。また、これによって、従来のIPディスプレイでは、観察者の観察できる角度範囲(視域)と立体ディスプレイで表示する再生像の空間周波数(解像度)の両立を図ることが難しかったのに対して、IP立体ディスプレイ1によれば、微細な光線指向型発光素子10の数(画素数)に比例した形で再生像の空間周波数(解像度)を増加させることができるのに加えて、視域についても突起部3の形に見合う範囲で確保することが可能となる。
【0086】
このようなIP立体ディスプレイ1は、屈折率分布レンズや演算処理によらずに、IP立体撮影装置で取得された被写体の倒立像を正立像に変換できる。このため、観察方向からみて奥行きが反転した逆視像が表示されるのを回避できる。
また、前記したように、IP立体ディスプレイ1は、原理的に高精細化が難しい光学レンズ(要素レンズ)を使用することなく、光線指向型発光素子10からの発光の射出方向を限定することで、立体像を表示することとした。これにより、IP立体ディスプレイ1では、従来の典型的なIP立体ディスプレイであるIP立体表示装置201にまつわる前記(A1)解像度の問題、(A2)立体像の奥行き再現範囲の問題、(A3)視域の問題を、従来技術に比べて改善できる。
【0087】
以上、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1について説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0088】
例えば、前記実施形態では、IP立体ディスプレイ1を単色表示型として構成したが、これに限定されるものではなく、カラー表示型として構成してもよい。以下、図7を参照してカラー表示型のIP立体ディスプレイ1Bについて説明する。なお、IP立体ディスプレイ1Bは、ここでは図示を省略しているが、画素の構成以外は、図1に示すIP立体ディスプレイ1と同様の構成を備えている。そして、図7は、図1に示すIP立体ディスプレイ1の一部を示す図4と対応するものであり、図4と同様に、IP立体ディスプレイ1Bの一部を示すものである。
【0089】
図7(a)に示すのは、カラー表示型のIP立体ディスプレイ1Bである。IP立体ディスプレイ1Bは、画素51が、R(赤)、G(緑)、B(青)の3つの光線指向型発光素子10で構成される点が、画素5が、1つの光線指向型発光素子10で構成される図4(a)に示すIP立体ディスプレイ1と相違する。つまり、IP立体ディスプレイ1Bは、1つの画素51からRGB3原色の光を出力できるようになっている。
なお、図示は省略するが、RGBの3つの撮像素子で1つの画素を構成しているIP立体撮影装置で被写体(例えば円柱等)を撮影しておくことが、IP立体ディスプレイ1Bで立体像を表示するための前提となる。
このようなIP立体ディスプレイ1Bにおいて、画素51としての光線指向型発光素子10から射出される光線の方向は、次のように設定できる。
【0090】
図7(b)に示すように、図7(a)において要素画像表示領域7B内のD−D線上にある画素51Bが、画素51Bからみて、要素画像表示領域7Bの中心に対して点対称の位置にある画素51Cと仮想的な要素レンズ6Bの中心とを繋ぐ光軸と一致する光線を再現するように、画素51Bとしての光線指向型発光素子10から射出される光線の方向を設定する。同様にして、図7(b)に示すように、画素51Cが、画素51Cからみて要素画像表示領域7Bの中心に対して点対称の位置にある画素51Bと仮想的な要素レンズ6Bの中心とを繋ぐ光軸と一致する光線を再現するように、画素51Cとしての光線指向型発光素子10から射出される光線の方向を設定する。
なお、画素51Aからみて要素画像表示領域7Bの中心に対して点対称の位置にある画素は、画素51A自身である。このため、画素51Aについては、画素51Aと仮想的な要素レンズ6Bの中心とを繋ぐ光軸と一致する光線を再現するように画素51Aとしての光線指向型発光素子10から射出される光線の方向を設定する。
【0091】
このようなIP立体ディスプレイ1Bは、屈折率分布レンズや演算処理によらずに図示しないIP立体撮影装置で取得された倒立像(要素画像アレイ)を、正立像に変換できるので、奥行きが反転した逆視像が表示されるのを回避できる。さらに、このIP立体ディスプレイ1Bによれば、従来のカラー表示型のIP立体表示装置と比較して、前記(A1)〜(A3)の問題を改善できる。詳細は前記実施形態において説明した通りである。
なお、ここでは、IP立体ディスプレイ1Bは、画素51を、R(赤)、G(緑)、B(青)の3つの光線指向型発光素子10を並列して構成することとしたが、これに限定されるものではなく、画素51を、R(赤)、G(緑)、G(緑)、B(青)の4つの光線指向型発光素子10をベイヤー配列にしたがって配置して構成することとしてもよい。
【0092】
また、本実施形態では、光線指向型発光素子10によって特定の方向だけに発光を射出させる方法について、全体の形状が柱状に構成されたLED等の発光素子を、凸形状やドーム形状の突起部3を有した基板上に成長させることで、柱状の発光素子自体を特定の方向に傾斜させることとしたが、他の方法を用いることも可能である。
例えば、発光素子に段差を設けて、段差の高低差を利用して発光の射出方向を特定する方法を用いてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1、1B IP立体ディスプレイ
2 基板
3 突起部
4、4B FPD面
5、51 画素
6、6B 仮想的な要素レンズ
7、7B 要素画像表示領域
10 光線指向型発光素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体ディスプレイに係り、空間像表示型の立体表示方式、特にインテグラル・フォトグラフィー(IP)を用いたIP立体ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
図8(a)に示す従来型のIP立体表示装置201は、表示パネル202と、要素レンズアレイ203とを備えている。表示パネル202は、例えば液晶パネルから構成され、そのスクリーン面204において水平および垂直方向に所定数のマトリクス状に所定の画素ピッチで配置された多数の画素205を備えている。要素レンズアレイ203は、要素レンズ206を所定のレンズピッチで並置して構成されている。なお、要素レンズ206は図8(a)に示すように縦横を揃えて配置する必要はなく、俵積み状態のデルタ配置であってもよい。図示は省略するが、IP立体表示装置201に対応したIP立体撮影装置が、同様の要素レンズアレイを介して被写体(例えば円柱等)を撮影しておくことが、立体を表示するための前提となる。例えば、IP立体撮影装置の要素レンズの焦点距離は、IP立体表示装置201の要素レンズ206の焦点距離と同一であり、また、要素レンズアレイ203と表示パネル202との距離は、IP立体撮影装置の要素レンズアレイと撮影パネルとの距離に等しい。これにより、IP立体表示装置201において、各要素レンズ206が、当該要素レンズ206の領域に映る画像(要素画像)を空間上に投影し、それらが集められて、被写体の表示像(立体像)として、例えば円柱901、903や立方体902が表示される。
【0003】
このIP立体表示装置201の断面構造を図8(b)に模式的に示す。なお、図8(b)では、要素レンズ206からスクリーン面204までの距離gを要素レンズの焦点距離の値とした。このIP立体表示装置201は、光学レンズを要素レンズ206として用いることによって画像表示面(スクリーン面204)に表示された映像について、表示面から周囲に射出された光線を平行光に変えて、光線の方位(方向)を制御するものである。
【0004】
さらに、非特許文献1には、IP立体ディスプレイを、7680(水平:H)×4320(垂直:V)の画素数(スーパーハイビジョン)からなる動画対応の超高精細投射型ディスプレイの表示スクリーン上に、400(H)×250(V)の個数からなる光学レンズ(以下、要素レンズとよぶ)を並置した要素レンズアレイを重ねた構造のものとして試作したことが記載されている。このIP立体ディスプレイによれば、ディスプレイの観察時に立体観測用の特殊なメガネをかけなくても、上下、左右のいずれの方位からも立体映像を観測することが可能となっている。
【0005】
このようなIP立体ディスプレイには、大要、以下の(A1)〜(A3)に示す問題がある。
【0006】
(A1)解像度の問題
例えば、非特許文献1に開示された従来のIP立体ディスプレイでは、解像度がまだ実用域のレベルになっていないため、今後、より一層、解像度を高める必要がある。IP立体ディスプレイは、立体画像の表示部分に多数の要素レンズ(光学レンズ)を並置した要素レンズアレイを重ね合わせた構造になっているため、解像度の上限がレンズピッチで規定されている。したがって、解像度を高めるためには、レンズピッチを小さくする必要がある。
【0007】
(A2)立体像の奥行き再現範囲の問題
IP立体ディスプレイでは、ディスプレイの奥行き方向の所定地点で解像度を高めることができたとしても、その所定地点の前後の解像度が低いために前後の画像がボケてしまうという問題もある。IP立体ディスプレイでは、生成される表示像の解像度(表示像の空間周波数)が、光学レンズを並置した要素レンズアレイ付近で最大であって、要素レンズアレイから離れるにしたがって低下する。よって、IP立体ディスプレイに精細度の高い立体像を表示させると、近景および遠景の表示画像の解像度が低下する。つまり、高精細な立体像の近景の画像と遠景の画像がボケてしまう。
【0008】
(A3)視域の問題
IP立体ディスプレイでは、上下左右いずれの方向においても、観察者の位置に応じた立体像を見ることができる。ただし、観察者が移動してディスプレイを視認できる範囲(視域)は、ある1つの要素画像からの光が、それに対応する1つの要素レンズにより放射される領域に限られる。IP立体ディスプレイでは、表示された立体画像の視域が例えば液晶ディスプレイ等の通常のFPD(flat panel display)に比べて狭いという問題がある。例えば非特許文献1に開示された従来のIP立体ディスプレイの視域角は設計仕様として28°、実測値として24°であり、通常のFPD(例えば50〜170°)に比べて格段に小さい。
【0009】
ここで、前記(A1)の問題として挙げたIP立体ディスプレイの解像度を改善するためには、要素レンズのレンズピッチを小さくすることが必要である。一方、前記(A3)の問題として挙げた視域を拡大するためには、レンズピッチを大きくする必要がある。つまり、解像度の改善と視域の拡大とはトレードオフの関係にある。
また、前記(A3)の問題として挙げた視域を拡大するためには、要素レンズアレイから表示素子までの距離(要素レンズの焦点距離)を小さくする必要がある。一方、前記(A2)の問題として挙げた立体画像の奥行き再現範囲を拡大するためには、要素レンズアレイから表示素子までの距離(要素レンズの焦点距離)を大きくする必要がある。つまり、視域の拡大と立体画像の奥行き再現範囲の拡大とはトレードオフの関係にある。
したがって、従来型のIP立体ディスプレイでは、前記したように要素レンズを用いることにより生じる制約があるため、前記(A1)〜(A3)の問題を改善することが困難であった。
【0010】
これに対し、例えば、要素レンズを用いることなく立体像を表示することができれば、要素レンズにまつわる制約がなくなるため、原理的には(A1)〜(A3)の問題を改善できる可能性が高い。
例えば、IP立体ディスプレイの技術の今後の発展により、画素からの光を集めるための光学レンズ(要素レンズ)を並置した要素レンズアレイを設けることなく、IP立体ディスプレイの画像表示面の画素としての表示素子を、光線指向型発光素子とし、この光線指向型発光素子から射出する光線の方向を画素毎に設定して、要素レンズを用いたときと同じ光線アレイを再現する技術が仮定される。このような架空のIP立体ディスプレイによれば、要素レンズを用いなくても立体像を表示できることが期待できる。言い換えれば、光学レンズで投影される光線の方向と同様の方向を、各画素を構成する発光素子にそれぞれ設定しておくことで、従来と同様に立体像を表示することが可能であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−21708号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】洗井淳、配野泰行、「スーパーハイビジョンを適用したインテグラル立体テレビ」、月刊ディスプレイ、2010年10月号、p.40-45
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、前記した架空のIP立体ディスプレイには、次のような問題があった。つまり、前記した従来のIP方式では、IP立体撮影装置において、被写体を、要素レンズアレイを介して撮影すると、被写体が倒立した像(倒立像)が要素画像として記録されるが、このような倒立像をそのまま、従来のIP立体ディスプレイで表示すると、奥行きが反転した逆視像が表示される現象が生じることが分かっている(非特許文献1参照)。そして、この現象は、前記した架空のIP立体ディスプレイにおいても同様に生じうるものである。
【0014】
このような、逆視像の問題を改善する手法として、従来、次のような提案がなされている。
例えば、IP立体撮影装置で取得した情報を演算処理することによって倒立像を正立像に変換し、演算処理した後の情報をIP立体表示装置に入力して、最終的に正しい奥行きの立体像を生成するIP方式が開示されている(特許文献1参照)。
【0015】
ここで、図9を参照して、特許文献1に開示された従来のIP方式について説明する。図9(a)に示すように、従来のIP方式では、観察者O側から、IP立体撮影装置301により、被写体Hを撮影すると、要素レンズアレイ302を構成する要素レンズ3021,…,302nの数だけ、撮影パネル303に被写体Hの像(以下、「要素画像」という。)3041,…,304nが撮影される。この各要素画像をそのまま表示すると、奥行きが反転してしまうため、従来のIP方式では、IP立体撮影装置301は、反転処理手段305によって、演算処理により要素画像を点対称に変換することで、被写体Hの立体情報(複数の要素画像)を生成している。
【0016】
一方、図9(b)に示すIP立体表示装置401は、表示パネル(表示素子)403により、図9(a)の撮影パネル303で撮影された要素画像3041,…,304nを点対称に変換した要素画像4041,…,404nを表示する。そして、観察者Oが、表示パネル403と平行に配置された、同一平面状に配列された複数の要素レンズ4021,…,402nからなる要素レンズアレイ402を介して表示パネル403を観察すると、奥行きが正しい立体像を視認することが可能になる。
【0017】
また例えば、従来、IP立体撮影装置において、要素レンズに代えて屈折率分布レンズを用いることが提案されている(特許第3836550号公報参照)。この屈折率分布レンズは、中心から半径方向に離れるにしたがって屈折率が二乗特性で減少する媒体である。ここでは、IP立体撮影装置が、光の蛇行周期の3/4の長さの屈折率分布レンズを用いて各要素画像をそれぞれ点対称に反転することにより、倒立像を正立像に変換している。この方法によれば、撮影側で正立像を取得できるので、表示側で正しい奥行きの立体像を表示することが可能になる。
【0018】
しかし、従来の演算処理により倒立像を正立像に変換する方式では以下に示す問題があった。ここで、IP方式により立体像を表示する技術において、表示される立体画像の解像度は、レンズアレイを構成するレンズの数つまり要素画像の数に依存する。つまり、解像度が高く、かつ、奥行き感のある立体像を表示するためには、撮影側および表示側において要素レンズの数を増やす必要がある。例えば、対角が50インチのハイビジョン画像を表示しようとすると、撮影側および表示側において要素レンズの数が200万個以上必要となる。このように、要素レンズの数つまり要素画像の数が増えると、演算処理の処理量が膨大となり、演算処理に相当な時間と手間がかかってしまうことになる。
【0019】
また、従来の要素レンズに代えて屈折率分布レンズを用いて倒立像を正立像に変換する方式では以下に示す問題があった。
すなわち、従来のIP立体撮影装置では、要素レンズに代えて屈折率分布レンズを用いる構成としているが、屈折率分布レンズの製作には高度な技術が要求され、また、屈折率分布レンズアレイとして使用するときも、要素レンズを2次元状態に整列させて使用する構成に比較して製造が容易ではなかった。
【0020】
さらに、前記したように、IP方式において、解像度が高く、かつ、奥行き感のある立体像を表示するためには、屈折率分布レンズの数を増やす必要がある。例えば、対角が50インチのハイビジョン画像を表示しようとすると、屈折率分布レンズの数が200万個以上必要となる。そして、十分な奥行き感を得るためには、表示素子の画素のサイズがミクロンオーダーとなる。このような場合において、立体像を表示するためには、表示素子の画素のサイズに合わせて屈折率分布レンズのサイズも小さくする必要がある。しかし、屈折率分布レンズのサイズを小さくすると、所望の屈折率を得ることができるように設計することが困難、つまり、屈折率が滑らかに変化するように製造することが困難であり、その結果、屈折率を表示素子内で正しく制御することが困難であった。
【0021】
本発明は、前記した問題点に鑑み創案されたものであり、屈折率分布レンズや演算処理によらずに、撮影側で取得された倒立像を正立像に変換することができ、かつ、表示する画像の精細度を高めることができると共に、視域および奥行き再現範囲を拡大できるIP立体ディスプレイを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
前記した課題を解決するため、請求項1に記載のIP立体ディスプレイは、インテグラル・フォトグラフィー(IP)方式により、要素レンズを複数並置した要素レンズアレイを介して前記被写体を撮影して取得した各要素画像を表示する画像表示面の画素からの光を集めて立体像を表示するIP立体ディスプレイであって、基板上に前記画像表示面の画素としての発光素子を設け、前記要素レンズに対応する仮想的な要素レンズを、その焦点距離だけ前記基板から離間した位置に複数並置した仮想的な要素レンズアレイを配置したときに、前記画像表示面において、前記仮想的な要素レンズに相当する領域の画素群で構成される要素画像表示領域内の各前記画素が、当該要素画像表示領域の中心に対して自身と点対称の位置にある画素と前記仮想的な要素レンズの中心とを結ぶ光軸の方向と一致する方向の光線を射出するように、各前記画素としての各前記発光素子を配置したことを特徴とする。
【0023】
かかる構成によれば、IP立体ディスプレイは、原理的に高精細化が難しい光学レンズ(要素レンズ)を使用するのではなく、画素としての光線指向型発光素子を設け、画素毎に、発光素子からの光線の射出方向を規定し、この射出方向に光線を射出するように光線指向型発光素子を配置することとした。
従来は、表示パネルに表示された各要素画像を対応する要素レンズでそれぞれ投影して、これらを集めて、立体像を表示していた。
これに対して、本発明のIP立体ディスプレイは、要素画像を構成する画素毎に、当該画素を構成する発光素子が射出する光線の方向が設定されているので、発光素子自体が、発光の方向に指向性を持っている。
そのため、光学レンズで投影される光線の方向と同様の方向を、要素画像を構成する各画素を構成する各発光素子にそれぞれ設定しておくことで、原理的に、従来と同様に立体像を表示できる。なお、「要素画像」とは、撮影側で、要素レンズを介して被写体を撮影することにより取得された画像をいうものである。
さらに、本発明のIP立体ディスプレイは、画面表示面において、仮想的な要素レンズに相当する領域の画素群で構成される要素画像表示領域内の各画素が、当該要素画像表示領域の中心に対して自身と点対称の位置にある画素と仮想的な要素レンズの中心とを結ぶ光軸の方向と一致する方向の光線を射出するように、各画素としての各発光素子を配置したことで、屈折率分布レンズや演算処理によらずに、撮影側で取得された倒立像を正立像に変換することが可能となる。これにより、最終的に奥行きの正しい立体像を表示できる。
【0024】
つまり、本発明のIP立体ディスプレイは、従来のIP立体表示装置の光学レンズに対応する仮想的な要素レンズを配置したことにより、画像表示面から射出される光線は、あたかもレンズで投影されたかのように集まって、立体像を表示できる。このようにして、光学レンズを用いることなく、従来のIP立体表示装置と同様の立体像が再生可能となった。
さらに、本発明のIP立体ディスプレイは、要素画像表示領域内の各画素が、要素画像表示領域の中心に対して自身と点対称の位置にある画素を仮想的な要素レンズによって投影したときの光線の方向を再現するように、各画素を構成する各発光素子からの光線の射出方向を設定した。これにより、屈折率分布レンズや演算処理によらずに、倒立像を正立像に変換して表示できる。
【0025】
また、請求項2に記載のIP立体ディスプレイは、請求項1に記載のIP立体ディスプレイにおいて、前記発光素子は、少なくとも一部が柱状に形成されて柱頭の射出面から光線を射出するLED素子であることを特徴とする。
【0026】
かかる構成によれば、発光素子としてLED素子を備え、このLED素子の少なくとも一部が柱状に形成されているので、発光素子で形成する画素を微小化し、画素ピッチを小さくすることができる。また、半導体の微細化プロセスによって半導体結晶を成長させることで、LED素子の柱状の部分を形成し、太さや高さを制御した柱の柱頭を射出面にすることができる。
【0027】
また、請求項1または請求項2に記載のIP立体ディスプレイにおいて、前記画素は、RGBの3つの発光素子で構成されていてもよい。
【0028】
かかる構成によれば、IP立体ディスプレイにおいて、画素は、RGBの3つの発光素子で構成されているので、従来のIP立体表示装置と同様に、被写体の立体像をカラー表示できる。
【発明の効果】
【0029】
請求項1に記載の発明によれば、IP立体ディスプレイは、光学レンズを備えずに立体像を表示できる。したがって、IP立体ディスプレイは、従来よりも、表示する画像の精細度を高めることができると共に、視域および奥行き再現範囲を拡大できる。
また、IP立体ディスプレイは、屈折率分布レンズや演算処理によらずに、撮影側で取得された倒立像を正立像に変換できるので、最終的に奥行きの正しい立体像を表示できる。
請求項2に記載の発明によれば、IP立体ディスプレイは、画素として、指向性の高い柱状部を有するLED素子を備え、画素ピッチを小さくすることができるので、解像度を高め、高精細な立体像を再生することができる。
請求項3に記載の発明によれば、IP立体ディスプレイは、従来のIP立体表示装置と同様に、被写体の立体像をカラー表示できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイの構成を模式的に示す概念図であり、(a)は、全体構成図、(b)は、断面構造を示す。
【図2】架空のIP立体ディスプレイの画像表示面における要素画像表示領域を模式的に示す概念図である。
【図3】架空のIP立体ディスプレイにおいて画素としての光線指向型発光素子から射出される光線が仮想的な要素レンズに投影される様子を模式的に示す概念図であって、(a)は、要素画像表示領域における画素の配置を示し、(b)は、(a)で示した画素と仮想的な要素レンズの中心とを繋ぐ光軸を示す。
【図4】本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイにおいて画素としての光線指向型発光素子から射出される光線の方向を模式的に示す概念図であって、(a)は、要素画像表示領域における画素の配置を示し、(b)は、(a)で示した画素としての光線指向型発光素子から射出される光線の方向を示す。
【図5】本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイの構成を模式的に示す概念図である。
【図6】本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイに用いる光線指向型発光素子の構造の一例とその配置例を模式的に示す概念図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係るIP立体ディスプレイにおいて画素としての光線指向型発光素子から射出される光線の方向を模式的に示す概念図であって、(a)は、要素画像表示領域における画素の配置を示し、(b)は、(a)で示した画素としての光線指向型発光素子から射出される光線の方向を示す。
【図8】従来のIP立体表示装置の構成を模式的に示す概念図であり、(a)は、全体構成図、(b)は、断面構造を示す。
【図9】従来のIP方式の概念を説明するための説明図であって、(a)は撮影時、(b)は表示時の状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[IP立体ディスプレイの概要]
まず、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイについて、従来の典型的なIP立体ディスプレイである図8に示したIP立体表示装置201と対比させながら図1を参照して説明する。
【0032】
前記したように、図8(a)に示す従来型のIP立体表示装置201は、光学レンズを要素レンズ206として用いることによって、画像表示面(スクリーン面204)に表示された映像について、図8(b)に示すように、表示面から周囲に射出された光線を平行光に変えて、光線の方位(方向)を制御していた。
【0033】
これに対して、図1(a)に示すIP立体ディスプレイ1は、従来型のIP立体表示装置201とは異なり、要素レンズ206を備えずに、IP方式により、要素画像から立体像を表示する方式のIP立体ディスプレイである。
また、IP立体ディスプレイ1は、屈折率分布レンズや演算処理によらずに、撮影側で取得された倒立像を正立像に変換して、奥行きの正しい立体像を表示する方式のIP立体ディスプレイである。
【0034】
次に、IP立体ディスプレイ1の詳細な構造について図1(b)および図4を参照(適宜図1(a)を参照)して説明する。以下のIP立体ディスプレイ1の説明において、屈折率分布レンズや演算処理によらずに撮影側で取得された倒立像を正立像に変換する構造について、図2、4に示す前記従来技術で説明した架空のIP立体ディスプレイとの対比説明を行い、光学レンズを用いずに立体像を表示する構造について、図8に示す従来型のIP立体表示装置201との対比説明を行う。
【0035】
[IP立体ディスプレイの構造]
図1(b)に示すように、IP立体ディスプレイ1は、基板2上に画像表示面(FPD面4)の画素5としての光線指向型発光素子10を備えて構成されている。IP立体ディスプレイ1は、FPD面4において水平および垂直方向に所定数のマトリクス状に配置された画素5を備えており、各画素5は、図示しない行ドライバおよび列ドライバにより、図示しない走査ラインおよびデータラインを介して駆動される。
【0036】
このIP立体ディスプレイ1は、光線指向型発光素子10から射出する光線の方向が画素5毎に設定されている。つまり、画素5毎に光線を射出する方向を設定し、その方向に光線を射出するように画素5としての光線指向型発光素子10が配置されている。図示は省略するが、従来のIP立体表示装置201に対応したIP立体撮影装置が、要素レンズアレイ203と同様のレンズアレイを介して被写体(例えば円柱等)を撮影しておくことが、IP立体ディスプレイ1にて立体を表示(表示)するための前提となる。
このIP立体ディスプレイ1において、FPD面4に設けられた各光線指向型発光素子10から射出する光線はあたかもレンズで投影されたかのように集まって、例えば円柱901、903や立方体902の表示像(立体像)が表示される。このように、IP立体ディスプレイ1は、光線指向型発光素子10からの発光の射出方向を限定することで、光学レンズを不要としたものである。
【0037】
光線指向型発光素子10は、発散光ではなく、指向性の高い光を発光する素子であり、特定の方向に光線を出射する。この光線指向型発光素子10としては、例えば、少なくとも一部が柱状に形成されて柱頭の発光面から光線を射出するLED素子を用いることができる。LED素子の材料は、例えば、GaN、AlN、GaAlN、ZnO、GaAs、GaP、GaAlAs、GaAlAsPからなるアレイから選択された1つであることが好ましい。光線指向型発光素子10の構造の詳細については後記する。本発明の実施形態では、光線指向型発光素子10は、後記する式(2)および式(3)において規定する特定の角度の方向(α1,θ1)には光線を射出するが、その他の方向には射出しないような指向性を有することとした。
【0038】
この光線指向型発光素子10は、通常のIP立体ディスプレイにおいて要素画像を構成する画素数に相当する個数(縦横とも数百〜数千程度の個数)設けられている。一方、この画素の単位集団を要素画素アレイとして定義した場合、通常のIP立体ディスプレイの要素レンズに相当する領域に要素画素アレイ(1つの単位構造)が並置される構造となる。この要素画素アレイを、前記要素レンズの個数分、タイル状に並置すると、光線指向型発光素子10によってなるIP立体ディスプレイ1が作製できる。
ここで、「要素画像」とは、通常のIP立体撮影装置において、要素レンズを介して被写体を撮影することにより取得された画像をいうものである。
【0039】
次に、発光素子10からの光線の射出方向について従来技術と対比させつつ、数式を用いて適宜図1を参照しながら説明する。ここでは、まず、数式を用いるためにいくつかの前提を述べる。
【0040】
発光素子の発光面を例えばxy平面として、xy平面の原点に置かれた発光素子と、xy平面を底面とする半球の3次元空間を仮定する。また、発光面に対して垂直な例えばzx平面において、発光面に対する法線方向である+z軸から発光面への回転角度をθ(−90°≦θ≦90°)で表す。この場合、+z軸がθ=0°を示し、+x軸の方向がθ=90°、−x軸の方向がθ=−90°となる。
また、発光面(xy平面)からの仰角をθ’とすると、θ’=90°−θの関係が成り立つ。また、z軸の周りの回転角(方位角)をα(−180°<α≦180°)で表すと、角度θおよび方位角αを用いて半球面上の位置を特定できる。
【0041】
従来の典型的なIP立体ディスプレイ(IP立体表示装置201)において、表示パネル202の表示素子(例えば発光素子)から放射される光線は、画素205の周囲に等方的なランバーシアン(Lambertian)分布の状態を示す。具体的には、発光面に対する法線方向(θ=0)の光強度をI0として、方位角をαとした場合、ランベルトの余弦則を示すランバーシアンの光強度分布I(α,θ)は、次の式(1)により表すことができる。
【0042】
I(α,θ)=I0×cosθ … 式(1)
【0043】
すなわち、通常の発光素子から放出される発光の強度は、一般的に方位角αには依存せず、発光面に対する法線方向からの角度θ(あるいは仰角θ’)のみに依存しており、しかも等方的である。
【0044】
一方、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1では、ある特定の方向のみに限定して発光を射出する画素5として、光線指向型発光素子10を備える。すなわち、光線指向型発光素子10は、次の式(2)に示すように、方位角αの値がα1であって、かつ、発光面に対する法線方向からの角度θの値がθ1をとるとき(あるいは仰角θ’の値θ1′が90°−θ1をとるとき)に光を射出する。式(2)では、このときの光強度の値をImaxとした。また、光線指向型発光素子10は、次の式(3)に示すように、方位角αの値がα1であっても角度θの値がθ1以外のときには光を射出しないこととした。
【0045】
I(α1,θ1)=Imax … 式(2)
I(α,θ)=0 (α=α1,θ≠θ1)) … 式(3)
【0046】
次に、式(2)および式(3)において規定した特定の方向(α1,θ1)について、前記従来技術で説明した架空のIP立体ディスプレイと、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1と、を対比しながら説明する。なお、架空のIP立体ディスプレイと、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1と、は、式(2)および式(3)において規定した特定の方向(α1,θ1)のみが異なるものであり、その他の構成は共通するものである。つまり、架空のIP立体ディスプレイは、図1に示した本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1と同様の構成を備えるものである。ただし、以下の説明においては、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1と区別するため、便宜上、架空のIP立体ディスプレイにおいて、IP立体ディスプレイ1に対応する構成に「’」をつけて表記することとする。
【0047】
図1(a)に示すように、架空のIP立体ディスプレイ1’は、基板2’上に画像表示面(FPD面4’)の画素5’としての光線指向型発光素子10’を備えて構成されている。
【0048】
この架空のIP立体ディスプレイ1’における光線指向型発光素子10’の光線の射出方向は、従来のIP立体表示装置201の要素レンズ206によって規定されていた方向と同様の方向となっている。これにより、光線指向型発光素子10による発光は、従来の要素レンズ206によって規定されていた方向にのみ射出させることができる。つまり、架空のIP立体ディスプレイ1’の光線指向型発光素子10について、前記式(2)および式(3)において規定した特定の方向(α1,θ1)を、従来の要素レンズ206によって規定されていた方向と全く同じ方向としたことを意味する。
【0049】
次に、架空のIP立体ディスプレイ1’における、画素5’としての光線指向型発光素子10’からの光線の射出方向について、図2、図3を参照して詳しく説明する。なお、図2、図3は、それぞれ、図1に示すIP立体ディスプレイ1’の一部を示している。
【0050】
架空のIP立体ディスプレイ1’は、要素画像表示領域毎に、要素画像表示領域内の各画素5’について、画素5’としての光線指向型発光素子10’からの光線の射出方向を規定している。
まず、架空のIP立体ディスプレイ1’の要素画像表示領域について説明する。要素画像表示領域とは、架空のIP立体ディスプレイ1’のFPD面4’において、通常のIP立体撮影装置で取得された要素画像アレイを構成する各要素画像を表示する領域のことである。従来のIP立体表示装置201は、通常のIP立体撮影装置が備える要素レンズアレイに相当する要素レンズアレイ203を備えるため、各要素レンズ206に相当する領域が、要素画像表示領域となる。
【0051】
一方、架空のIP立体ディスプレイ1’は、通常のIP立体撮影装置が備える要素レンズアレイに相当する要素レンズアレイを備えないため、図2に示すように、従来のIP立体表示装置201の各要素レンズ206に相当する仮想的な要素レンズ6’を複数並置した仮想的な要素レンズアレイを配置した場合を仮定した。
【0052】
この仮想的な要素レンズアレイは、図示しない通常のIP立体撮影装置の要素レンズアレイ(図示せず)に対応して設けられるものであり、仮想的な要素レンズ6’の焦点距離だけ基板2から離間した位置に、仮想的な要素レンズ6’を複数並置してなるものを想定している。この仮想的な要素レンズ6’と基板2との位置関係は、図示しない通常のIP立体撮影装置の要素レンズと、撮影板(いずれも図示せず)と、の位置関係に対応している。仮想的な要素レンズ6’の焦点距離や口径は、基本的に、基板2のサイズに応じて決められる。例えば、仮想的な要素レンズ6’と、基板2と、の距離は、図示しない通常のIP立体撮影装置の要素レンズと、撮影板(いずれも図示せず)と、の距離と同一となり、また例えば、仮想的な要素レンズ6’の口径は、図示しない通常のIP立体撮影装置の要素レンズの口径と同一となる場合もある。これは、撮影サイズと表示サイズとが同じ場合が考えられる。
【0053】
そして、FPD面4’において、この仮想的な要素レンズ6’に相当する領域の画素群(画素5’の集合)を、要素画像表示領域7’とした。
ここで、「仮想的な要素レンズ6’に相当する領域」とは、FPD面4’上に仮想的に設定される領域であり、仮想的な要素レンズ6’と同軸上に位置し、仮想的な要素レンズ6’の面積と略同等の面積を有する領域をいう。この各要素画像表示領域7’に、図示しない通常のIP立体撮影装置で取得された各要素画像が表示される。
【0054】
なお、図2では、FPD面4’において、全ての領域に画素5’を設ける場合における要素画像表示領域7’を例示している。この場合、仮想的な要素レンズ6’に相当する領域を含むように格子状に区分した各領域(図2において斜線で示した領域)の画素群(画素5’の集合)を要素画像表示領域7’としている。ただし、FPD面4’において、仮想的な要素レンズ6’に相当する領域以外の部分に、画素5’を設けない場合は、仮想的な要素レンズ6’に相当する領域のみを、要素画像表示領域7’としてもよい。また、図2には示していないが、FPD面4’において、各画素5’の駆動回路が配置されている部分は、要素画像表示領域から除くものとする。なお、図2では、9つの要素画像表示領域7’を表示しているが、前記したように、要素画像表示領域7’は、要素画像の数だけ規定されるものである。
【0055】
次に、架空のIP立体ディスプレイ1’のFPD面4’において仮定された要素画像表示領域7’毎の光線指向型発光素子10’による光線の射出方向について説明する。
図3(a)に示すように、要素画像表示領域7’には、通常のIP立体ディスプレイにおいて要素画像を構成する画素数に相当する個数(縦横とも数百〜数千程度の個数)の画素5’としての光線指向型発光素子10’が設けられている。
【0056】
ここでは、図3(b)を参照して、この画素5’のうち、図3(a)に示すAの位置にある画素5’と、Bの位置にある画素5’と、Cの位置にある画素5’と、Dの位置にある画素5’と、Eの位置にある画素5’からの光線の射出方向について例にとって説明する。なお、以下の説明では、便宜上、図3(a)に示すAの位置にある画素5’を「画素5A’」と表記し、Bの位置にある画素5’を「画素5B’」と表記し、Cの位置にある画素5’を「画素5C’」と表記し、Dの位置にある画素5’を「画素5D’」と表記し、Eの位置にある画素5’を「画素5E’」と表記する。
【0057】
前記したように、架空のIP立体ディスプレイ1’は、光線指向型発光素子10について、前記式(2)および式(3)において規定した特定の方向(α1,θ1)を、従来の要素レンズアレイ203によって規定されていた方向と全く同じ方向としている。つまり、各画素5’によって、各仮想的な要素レンズ6’の中心を通る光線が再現されることになる。
したがって、架空のIP立体ディスプレイ1’では、図3(b)に示すように、画素5A’〜5E’から射出された光線は、それぞれ仮想的な要素レンズ6’の中心を通ることにより点対称に変換される。
【0058】
このように、架空のIP立体ディスプレイ1’では、要素レンズを用いることなく、従来の要素レンズ206によって規定されていた光軸を再現できる。しかし、その一方で、従来の要素レンズ206によって規定されていた光軸を再現することで、従来のIP立体ディスプレイ1と同様に、通常のIP立体撮影装置で取得された要素画像アレイ(倒立像)をそのまま架空のIP立体ディスプレイ1’で表示すると、倒立像を正立像に変換することができず、最終的に、奥行きが反転された逆視像が表示されることになるという問題がある。
【0059】
そこで、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1では、倒立像を正立像に変換して最終的に正しい奥行きの立体像を表示できるように、光線指向型発光素子10からの光線の射出方向(α1,θ1)を規定した。そして、この射出方向(α1,θ1)に光線を射出可能なように光線指向型発光素子10を配置することとし、そのために、以下の(B1)〜(B3)を実行することとした。
【0060】
(B1)
IP立体ディスプレイ1において、撮影側で取得された要素画像毎に、従来のIP立体表示装置201の要素レンズ206に対応する仮想的な要素レンズ6を配置すると仮定し、この仮想的な要素レンズ6に相当する領域を含むように格子状に区分した各領域を要素画像表示領域7として仮定する。
例えば、この仮想的な要素レンズ6と、基板2と、の位置は、図示しない通常のIP立体撮影装置の要素レンズと、撮影板(いずれも図示せず)と、の位置に対応していてもよい。また、例えば、仮想的な要素レンズ6の口径は、図示しない通常のIP立体撮影装置の要素レンズの口径と同一であってもよい。
ここで、「仮想的な要素レンズ6に相当する領域」とは、FPD面4上に仮想的に設定される領域であり、仮想的な要素レンズ6と同軸上に位置し、仮想的な要素レンズ6の面積と略同等の面積を有する領域をいう。
(B2)
要素画像表示領域7毎に、各画素5と、仮想的な要素レンズ6の中心と、を結ぶ光軸を求める。
(B3)
要素画像表示領域7内の各画素5が、要素画像表示領域7の中心に対して自身と点対称の位置にある画素5と、仮想的な要素レンズ6の中心と、を結ぶ光軸を再現するように、光線指向型発光素子10を配置する。
この(B3)について、図4を参照して詳細に説明する。なお、図4は、図1に示すIP立体ディスプレイ1の一部を示している。
【0061】
図4(a)に示すように、要素画像表示領域7には、通常のIP立体ディスプレイにおいて要素画像を構成する画素数に相当する個数(縦横とも数百〜数千程度の個数)の画素5としての光線指向型発光素子10が設けられている。ここでは、図4(b)を参照して、この画素5のうち、図4(a)に示すAの位置にある画素5と、Bの位置にある画素5と、Cの位置にある画素5と、Dの位置にある画素5と、Eの位置にある画素5の、それぞれの光線の射出方向について例にとって説明する。なお、以下の説明では、便宜上、図4(a)に示すAの位置にある画素5を「画素5A」と表記し、Bの位置にある画素5を「画素5B」と表記し、Cの位置にある画素5を「画素5C」と表記し、Dの位置にある画素5を「画素5D」と表記し、Eの位置にある画素5を「画素5E」と表記する。
【0062】
図4(b)では、画素5A〜5Eと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線を、光線a’〜e’としてそれぞれ破線で示している。そして、画素5A〜5Eとしての光線指向型発光素子10から実際に射出される光線を光線a〜eとしてそれぞれ実線で示している。なお、画素5Aと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線a’は、理由は後記するが、画素5Aとしての光線指向型発光素子10から実際に射出される光線aと一致するため、ここでは実線で示している。
【0063】
ここで、IP立体ディスプレイ1では、前記したように、要素画像表示領域7毎に、要素画像表示領域7内の各画素5から射出される光線の方向を規定し、その方向に光線を射出するように光線指向型発光素子10を配置している。詳細には、IP立体ディスプレイ1では、要素画像表示領域7内の各画素5が、自身から見て要素画像表示領域7の中心に対して点対称となる位置にある画素5と仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光軸を再現するように、画素5としての光線指向型発光素子10を配置している。
【0064】
つまり、図4(b)に示すように、画素5Bからみて要素画像表示領域7の中心に対して点対称となる位置にある画素5Eから、画素5Bと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線b’と方向が一致する光線bが射出されるように、画素5Eとしての光線指向型発光素子10を配置している。
一方、画素5Eからみて要素画像表示領域7の中心に対して点対称となる位置にある画素5Bから、画素5Eと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線e’と方向が一致する光線eが射出されるように、画素5Bとしての光線指向型発光素子10を配置している。
【0065】
同様にして、画素5Cからみて要素画像表示領域7の中心に対して点対称となる位置にある画素5Dから、画素Cと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線c’と方向が一致する光線cが射出されるように、画素5Dとしての光線指向型発光素子10を配置している。
一方、画素5Dからみて要素画像表示領域7の中心に対して点対称となる位置にある画素5Cから、画素Dと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線d’と方向が一致する光線dが射出されるように、画素5Cとしての光線指向型発光素子10を配置している。
【0066】
なお、画素5Aは、要素画像表示領域7の中心に位置しているため、画素5Aからみて要素画像表示領域7の中心に対して点対称の位置関係にある画素は、画素5A自身となる。したがって、画素5Aについては、画素Aと仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光線a’と方向が一致する光線aを射出するように、画素5Aとしての光線指向型発光素子10を配置している。
【0067】
このように、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1は、実際には存在しない仮想的な要素レンズ6を設けたと仮定した場合に各画素5から射出される光線を、当該画素5と点対称の位置にある画素5によって再現することで、撮影側で取得された被写体の倒立像である各要素画像をそれぞれ点対称に変換して正立像とできる。これにより、最終的に正しい奥行きの立体像を表示できる。
【0068】
但し、前記した図3、4に示した例は、あくまでも光線指向型発光素子10’、10による光の射出方向の説明を簡単にするために示したものであるので、架空のIP立体ディスプレイ1’あるいはIP立体ディスプレイ1が表示する立体像と、IP立体表示装置201が表示する立体像の解像度が同一となる。そこで、IP立体ディスプレイ1が表示する立体像を、IP立体表示装置201が表示する立体像よりも高精細化するためには、次のようにすればよい。
すなわち、IP立体ディスプレイ1において、基板2の画素ピッチpを図8(a)に示したIP立体表示装置201の表示パネル202の画素ピッチpよりも低減する。また、IP立体ディスプレイ1において、この低減した画素ピッチpにて光線指向型発光素子10を配置することとする。また、IP立体ディスプレイ1において、低減した画素ピッチpに対応して縮小化した要素レンズを仮定し、その焦点距離に合わせて基板2から離間させて配置した要素レンズアレイを仮定する。そして、前記(B1)〜(B3)を実行すればよい。
【0069】
以上のように、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1によれば、原理的に高精細化が難しい光学レンズ(要素レンズ)を使用することなく、光線指向型発光素子10からの発光の射出方向を限定することで、立体像を表示することとした。また、要素画像表示領域7毎に、従来の典型的なIP立体ディスプレイであるIP立体表示装置201における要素レンズ206に対応する仮想的な要素レンズ6を仮定し、この仮想的な要素レンズ6の中心と各画素5とを結ぶ光軸を求めた。そして、各画素5が、要素画像表示領域7の中心に対し、自身と点対称となる位置にある画素5と仮想的な要素レンズ6の中心とを結ぶ光軸を再現する光線を射出するように、画素5としての光線指向型発光素子10による光線の射出方向を規定し、この射出方向を実現できるように光線指向型発光素子10を配置した。
【0070】
これによれば、各要素画像表示領域7において、屈折率分布レンズや演算処理によらずに図示しないIP立体撮影装置で取得された倒立像(要素画像アレイ)を、正立像に変換できる。このため、奥行きが反転した逆視像が表示されるのを回避できる。
さらに、従来の典型的なIP立体ディスプレイであるIP立体表示装置201にまつわる前記(A1)解像度の問題、(A2)立体像の奥行き再現範囲の問題、(A3)視域の問題を、従来技術に比べて改善できる。このことについて、以下に説明する。
【0071】
(A1)解像度の問題
IP立体ディスプレイ1では、光学レンズを用いないので、従来の要素レンズアレイから表示素子までの距離(要素レンズの焦点距離)の制約を考慮する必要がない。このため、IP立体ディスプレイ1の画素ピッチp(図4(b)参照)を従来のIP立体表示装置201の画素ピッチp(図3(b)参照)よりも小さくできる。このため、解像度を従来よりも高めることができる。
【0072】
(A2)立体像の奥行き再現範囲の問題
IP立体ディスプレイ1では、光学レンズを用いないので、従来の要素レンズアレイから表示素子までの距離(要素レンズの焦点距離)の制約を考慮せずに画素数(要素画像を構成する画素の個数)を増大できるため、奥行き再現範囲を拡大することが可能となる。すなわち、高精細な立体映像信号をIP立体ディスプレイ1に入力した場合に、近景から遠景までの奥行き方向での立体再現範囲を拡大することが可能となる。
【0073】
(A3)視域の問題
IP立体ディスプレイ1では、光学レンズを用いないので、前記したように、実際には存在しない仮想的な要素レンズアレイを仮定し、この仮想的な要素レンズアレイからFPD面(表示素子)までの距離gの値として、現状の焦点距離よりも小さな距離を任意に設定できるので、視域を最大限に拡大できる。
具体的には、従来型のIP立体表示装置201は、図8(b)に示すように、視域角が、表示パネル202に表示される要素画像を構成する画素から放射されて、要素レンズアレイ203の中央に位置する要素レンズのレンズ中心を通過する2本の光軸のなす角で規定されている。
【0074】
一方、IP立体ディスプレイ1は、視域角が、FPD面4に表示される要素画像を構成する画素5から射出される交差しない2本の光線のなす角で規定されている。具体的に図4(b)に示すIP立体ディスプレイ1の視域角(画素5Bから射出される光線eと、画素5Eから射出される光線bとでなす角度)は、原理的に180°まで拡げることができる。すなわち、IP立体ディスプレイ1は、従来のIP立体表示装置201(図3(b)参照)よりも視域を拡大できるといえる。
【0075】
[IP立体ディスプレイの構造の例]
IP立体ディスプレイ1の各要素画像を構成する画素5において、特定の方向だけに発光を射出させる方法については、様々な方法が考えられるが、ここでは、全体の形状が柱状に構成されたLED等の発光素子自体を特定の方向に傾斜させることで発光の射出方向を特定する方法を用いた構造を例示する。この場合のIP立体ディスプレイの構成を図5に模式的に示す。
【0076】
図5に示したように、IP立体ディスプレイ1は、要素レンズアレイの形状をもつ多数の突起部3を有する基板2の上に、画素5としての光線指向型発光素子10を並置している。図5において領域40を拡大して示す図6にて突起部3の構造を示す。図6(a)は突起部の平面図、図6(b)は図6(a)のX−X線矢視における断面図である。ここでは、突起部3毎に一例として17個の光線指向型発光素子10(画素5)を設けた。実際には、発光素子の個数は、通常のIP立体ディスプレイにおいて要素画像を構成する画素数に相当する個数(縦横とも数百〜数千程度の個数)である。一方、この画素の単位集団を要素画素アレイとして定義した場合、通常のIP立体ディスプレイの要素レンズに相当する領域に要素画素アレイ(1つの単位構造)が並置される構造となる。この要素画像アレイを要素レンズの個数分、タイル状に並置すると、光線指向型発光素子によってなるIP立体ディスプレイ1が作製できる。
なお、図6(a)には、光線指向型発光素子10(画素5)と比較するため従来のIP立体表示装置201における画素205の配置を破線で示す。
【0077】
基板2は、従来の要素レンズアレイと同等の形状を有するガラスや石英の基板等、表面に結晶の方位等の異方性を有していないことが好ましい。すなわち、方位依存性のないアモルファス形状のガラスや石英の基板材料を用いることによって、各光線指向型発光素子10の特性ばらつきを抑えることが可能となる。従来の無機系発光素子は、結晶基板上に発光素子を成長することで、基板と結晶方位の揃った発光素子を形成していたが、この実施形態では、基板2に例えばアモルファス状態のガラス基板を用いることによって、基板の結晶方位に縛られることなく微細な発光素子を成長させることが可能となる。なお、基板2は、結晶性基板であっても構わない。
【0078】
基板2は、図5に示すように要素画像毎に並置された突起部3を有する。突起部3は、例えば図6(b)に示すような半円球形状、またはドーム形状、あるいは断面視で扇型形状に形成されている。例えば、基板2をガラス基板とした場合、このガラス基板上に突起部3を形成する方法は、例えば公知のガラスのレンズの作製法を用いることができる。
【0079】
光線指向型発光素子10は、柱状の形状であって微細な口径の半導体の自発光素子からなる表示素子である。光線指向型発光素子10は、図5に示すように円柱状に形成されている。なお、この円柱は、図示を省略するが、下からn型半導体層、半導体発光層、p型半導体層が積層された構造であり、例えば円柱の側面にp型電極、円柱の底面部にn型電極を備える。
【0080】
光線指向型発光素子10の材質については、例えばGaNやZnO等の無機系のLED素子が好適であるが、有機EL材料などの有機系発光材料の適用も可能である。なお、微細な素子を別工程で作製する際には、LED素子の場合にはLEDウエハ上に作るが、有機EL材料の場合にはガラスの上に作る。
【0081】
この光線指向型発光素子10は、図6(b)に示すように、画素毎に基板2の突起部3の表面の法線方向に立設している。つまり、個々の光線指向型発光素子10は、その発光が取り出される射出口部分を、要素画像毎に並置された突起部3の表面から外部に向けた形で並置されている。
【0082】
突起部3の外表面(凸面)に光線指向型発光素子10を形成したので、図6(a)に示すように、素子が突起部3の外周(下周縁)に近づくにつれて密度が粗になる。一方、図示を省略するが仮に凹面に素子を形成すると、素子が凹面の外周(上周縁)に近づくにつれて密度が密になり、円柱間が近接してしまうため、分離が難しくなる。つまり、突起部3の外表面(凸面)に光線指向型発光素子10を形成すると、製造し易くなるという利点がある。
【0083】
光線指向型発光素子10を製造する方法としては、公知の種々の微細加工技術を用いることができ、特に限定されない。例えば、基板2をガラス基板とした場合、このガラス基板上に半球状の突起部3を形成しておく。この突起部3上に発光素子を形成した場合には、ガラスは結晶基板と異なって方位無依存なので、ガラス面と垂直な方向に配位した電極や発光層が形成される。このような電極や発光層を、例えば集束イオンビーム(FIB)等の機械的な微細加工技術によって、形状加工できる。この場合の発光素子の方位は、半球状の表面に垂直方向に向くため、半球形状の形状が担保されていれば、所定の角度の形成が可能である。
【0084】
また、別の製造方法としては、半球状のガラス基板上に、別工程で作製した円柱の発光素子を機械的に並置することもできる。その場合、導電性のペーストなどによる化学的方法を用いて突起部3の表面に常に垂直方向になるように張り合わせる。また、ナノインプリントを使うことで、半導体発光層よりも上側の非発光の円柱部分(導波路部分)のみを各発光素子の上から形成することもできる。なお、突起部3の表面に、光線指向型発光素子10を配置していく順番は特に限定されず、ナノインプリントの場合には、一括形成が可能である。
【0085】
このように光線指向型発光素子10を基板2の突起部3上に配置していくことによって、光線指向型発光素子10について、特性ばらつきを招くことなく並置して配置することが可能となる。また、これによって、従来のIPディスプレイでは、観察者の観察できる角度範囲(視域)と立体ディスプレイで表示する再生像の空間周波数(解像度)の両立を図ることが難しかったのに対して、IP立体ディスプレイ1によれば、微細な光線指向型発光素子10の数(画素数)に比例した形で再生像の空間周波数(解像度)を増加させることができるのに加えて、視域についても突起部3の形に見合う範囲で確保することが可能となる。
【0086】
このようなIP立体ディスプレイ1は、屈折率分布レンズや演算処理によらずに、IP立体撮影装置で取得された被写体の倒立像を正立像に変換できる。このため、観察方向からみて奥行きが反転した逆視像が表示されるのを回避できる。
また、前記したように、IP立体ディスプレイ1は、原理的に高精細化が難しい光学レンズ(要素レンズ)を使用することなく、光線指向型発光素子10からの発光の射出方向を限定することで、立体像を表示することとした。これにより、IP立体ディスプレイ1では、従来の典型的なIP立体ディスプレイであるIP立体表示装置201にまつわる前記(A1)解像度の問題、(A2)立体像の奥行き再現範囲の問題、(A3)視域の問題を、従来技術に比べて改善できる。
【0087】
以上、本発明の実施形態に係るIP立体ディスプレイ1について説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0088】
例えば、前記実施形態では、IP立体ディスプレイ1を単色表示型として構成したが、これに限定されるものではなく、カラー表示型として構成してもよい。以下、図7を参照してカラー表示型のIP立体ディスプレイ1Bについて説明する。なお、IP立体ディスプレイ1Bは、ここでは図示を省略しているが、画素の構成以外は、図1に示すIP立体ディスプレイ1と同様の構成を備えている。そして、図7は、図1に示すIP立体ディスプレイ1の一部を示す図4と対応するものであり、図4と同様に、IP立体ディスプレイ1Bの一部を示すものである。
【0089】
図7(a)に示すのは、カラー表示型のIP立体ディスプレイ1Bである。IP立体ディスプレイ1Bは、画素51が、R(赤)、G(緑)、B(青)の3つの光線指向型発光素子10で構成される点が、画素5が、1つの光線指向型発光素子10で構成される図4(a)に示すIP立体ディスプレイ1と相違する。つまり、IP立体ディスプレイ1Bは、1つの画素51からRGB3原色の光を出力できるようになっている。
なお、図示は省略するが、RGBの3つの撮像素子で1つの画素を構成しているIP立体撮影装置で被写体(例えば円柱等)を撮影しておくことが、IP立体ディスプレイ1Bで立体像を表示するための前提となる。
このようなIP立体ディスプレイ1Bにおいて、画素51としての光線指向型発光素子10から射出される光線の方向は、次のように設定できる。
【0090】
図7(b)に示すように、図7(a)において要素画像表示領域7B内のD−D線上にある画素51Bが、画素51Bからみて、要素画像表示領域7Bの中心に対して点対称の位置にある画素51Cと仮想的な要素レンズ6Bの中心とを繋ぐ光軸と一致する光線を再現するように、画素51Bとしての光線指向型発光素子10から射出される光線の方向を設定する。同様にして、図7(b)に示すように、画素51Cが、画素51Cからみて要素画像表示領域7Bの中心に対して点対称の位置にある画素51Bと仮想的な要素レンズ6Bの中心とを繋ぐ光軸と一致する光線を再現するように、画素51Cとしての光線指向型発光素子10から射出される光線の方向を設定する。
なお、画素51Aからみて要素画像表示領域7Bの中心に対して点対称の位置にある画素は、画素51A自身である。このため、画素51Aについては、画素51Aと仮想的な要素レンズ6Bの中心とを繋ぐ光軸と一致する光線を再現するように画素51Aとしての光線指向型発光素子10から射出される光線の方向を設定する。
【0091】
このようなIP立体ディスプレイ1Bは、屈折率分布レンズや演算処理によらずに図示しないIP立体撮影装置で取得された倒立像(要素画像アレイ)を、正立像に変換できるので、奥行きが反転した逆視像が表示されるのを回避できる。さらに、このIP立体ディスプレイ1Bによれば、従来のカラー表示型のIP立体表示装置と比較して、前記(A1)〜(A3)の問題を改善できる。詳細は前記実施形態において説明した通りである。
なお、ここでは、IP立体ディスプレイ1Bは、画素51を、R(赤)、G(緑)、B(青)の3つの光線指向型発光素子10を並列して構成することとしたが、これに限定されるものではなく、画素51を、R(赤)、G(緑)、G(緑)、B(青)の4つの光線指向型発光素子10をベイヤー配列にしたがって配置して構成することとしてもよい。
【0092】
また、本実施形態では、光線指向型発光素子10によって特定の方向だけに発光を射出させる方法について、全体の形状が柱状に構成されたLED等の発光素子を、凸形状やドーム形状の突起部3を有した基板上に成長させることで、柱状の発光素子自体を特定の方向に傾斜させることとしたが、他の方法を用いることも可能である。
例えば、発光素子に段差を設けて、段差の高低差を利用して発光の射出方向を特定する方法を用いてもよい。
【符号の説明】
【0093】
1、1B IP立体ディスプレイ
2 基板
3 突起部
4、4B FPD面
5、51 画素
6、6B 仮想的な要素レンズ
7、7B 要素画像表示領域
10 光線指向型発光素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インテグラル・フォトグラフィー(IP)方式により、要素レンズを複数並置した要素レンズアレイを介して前記被写体を撮影して取得した各要素画像を表示する画像表示面の画素からの光を集めて立体像を表示するIP立体ディスプレイであって、
基板上に前記画像表示面の画素としての発光素子を設け、
前記要素レンズに対応する仮想的な要素レンズを、その焦点距離だけ前記基板から離間した位置に複数並置した仮想的な要素レンズアレイを配置したときに、前記画像表示面において、前記仮想的な要素レンズに相当する領域の画素群で構成される要素画像表示領域内の各前記画素が、当該要素画像表示領域の中心に対して自身と点対称の位置にある画素と前記仮想的な要素レンズの中心とを結ぶ光軸の方向と一致する方向の光線を射出するように、各前記画素としての各前記発光素子を配置した
ことを特徴とするIP立体ディスプレイ。
【請求項2】
前記発光素子は、少なくとも一部が柱状に形成されて柱頭の射出面から光線を射出するLED素子である
ことを特徴とする請求項1に記載のIP立体ディスプレイ。
【請求項3】
前記画素は、RGBの3つの発光素子で構成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のIP立体ディスプレイ。
【請求項1】
インテグラル・フォトグラフィー(IP)方式により、要素レンズを複数並置した要素レンズアレイを介して前記被写体を撮影して取得した各要素画像を表示する画像表示面の画素からの光を集めて立体像を表示するIP立体ディスプレイであって、
基板上に前記画像表示面の画素としての発光素子を設け、
前記要素レンズに対応する仮想的な要素レンズを、その焦点距離だけ前記基板から離間した位置に複数並置した仮想的な要素レンズアレイを配置したときに、前記画像表示面において、前記仮想的な要素レンズに相当する領域の画素群で構成される要素画像表示領域内の各前記画素が、当該要素画像表示領域の中心に対して自身と点対称の位置にある画素と前記仮想的な要素レンズの中心とを結ぶ光軸の方向と一致する方向の光線を射出するように、各前記画素としての各前記発光素子を配置した
ことを特徴とするIP立体ディスプレイ。
【請求項2】
前記発光素子は、少なくとも一部が柱状に形成されて柱頭の射出面から光線を射出するLED素子である
ことを特徴とする請求項1に記載のIP立体ディスプレイ。
【請求項3】
前記画素は、RGBの3つの発光素子で構成されている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のIP立体ディスプレイ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2013−46355(P2013−46355A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184814(P2011−184814)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【Fターム(参考)】
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