説明

IR透過性シアンインクジェットインク

本発明は、スペクトルの近赤外線領域において実質的に吸収されない(近IR透過性)シアン染料系インクジェットインクに関する。本発明は更に、この近IR透過性シアンインクを含む染料系インクジェットインクセットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペクトルの近赤外線領域において比較的透過性である(IR透過性)染料系シアンインクジェットインクに関する。本発明は更に、このIR透過性シアンインクを含む染料系インクジェットインクセット、およびその使用方法に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
本願は、2006年5月9日出願の米国仮特許出願第60/798,906号の利益を主張する。この特許出願の全体を参照により本明細書に援用する。
【背景技術】
【0003】
インクジェット印刷は、インクの小滴を紙などの基材上に沈着させて所望の画像を形成させる非衝撃印刷方法である。小滴は、マイクロプロセッサーによって発生する電気信号に応答してプリントヘッドから噴出する。インクジェットプリンタは、低コストで高品質の印刷を提供し、他のタイプのプリンタの一般的な代替品になってきた。
【0004】
人の目には実質的に見えないが、例えば、スキャンニング機器によって検出され得る分かりやすいマーキングを物品の表面上に提供することは商業的に興味深い。こうしたマーキングは、認証、仕分けおよび他の用途のために用いることが可能である。不可視マーキングと着色画像、特にインクジェット印刷によって作られた着色画像とを組み合わせることは更に望ましい。着色画像は、好ましくは、不可視マーキングの検出を妨げない。
【0005】
不可視マーキングを作るために、約400〜700nmの可視光波長領域において最少光吸収を有するとともに約700〜900nmの近赤外線波長領域において強い吸光度を有する近赤外線(IR)吸収性で赤外線蛍光性の化合物を用いることが知られている。これらの化合物は、励起の波長より長い波長を有する蛍光放射線をもたらすために附随の蛍光も有してよい。例えば、米国特許公報(特許文献1)、米国特許公報(特許文献2)および米国特許公報(特許文献3)を参照すること。赤外線吸光度または蛍光は、カメラおよびセンサなどのIR感知装置によって検出される。
【0006】
不可視赤外線インクはインクジェット印刷のために開示されてきた。例えば、米国特許公報(特許文献4)には、インクジェット印刷のために適する赤外線蛍光性化合物を有する有機溶媒系ポリエステルインク配合物が開示されている。
【0007】
フルカラー画像を達成するために、インクジェットプリンタは、典型的には、シアンインク、マゼンタインクおよびイエローインク(CMYインクセット)を用いる。これらの色は、光を着色剤に通すにつれて光が減光されるような減光−混合原色として知られている。これらの3種の着色インクを用いて色相の全範囲を印刷することが可能である。インクセットは、一般にブラックインクを更に含む(CMYKインクセット)。
【0008】
IR吸収性/蛍光性マーカーと組み合わせて用いられるとき、インクセットは、好ましくは、近赤外線領域において非吸収性(透過性)である。現行の実施において一般に用いられる多くのマゼンタ染料、イエロー染料およびブラック染料は、このスペクトル領域において十分に透過性である。顕著な例外はシアン染料である。
【0009】
シアン着色インクジェットインクは、一般に、銅フタロシアニン系発色団、例えば、ダイレクトブルー199を用いる。しかし、フタロシアニンは、赤外線において吸収することが広く知られている(例えば、(非特許文献1)を参照すること)。
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,093,147号明細書
【特許文献2】米国特許第5,423,432号明細書
【特許文献3】米国特許第5,461,136号明細書
【特許文献4】米国特許第5,990,197号明細書
【特許文献5】米国特許第6,378,976号明細書
【特許文献6】米国特許第6,149,719号明細書
【非特許文献1】「フタロシアニン(The Phthalocyanines)」、第一巻、モザー(Moser)ら、CRC Press
【非特許文献2】「カラーインデックス(Color Index)」第三版
【非特許文献3】「カラーケミストリー(Color Chemistry)」、ハインリッヒ・ゾリンゲル(Heinrich Zollinger VCN),1987
【非特許文献4】「色技術の原理(Principles of Color Technology)」、ビルマイヤー(Billmeyer)およびサルツマン(Saltzman)、第三版、ロイ・バーンズ(Roy Berns)編、ジョン・ウィリー&サンズ(John Wiley & Sons,Inc.)(2000年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
近IR波長領域において実質的に透過性であるシアンインクジェットインクおよびCMYインクジェットインクセットが当該技術分野で必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様において、本発明は、水性ビヒクルと、前記水性ビヒクルに可溶性の染料着色剤とを含むシアンインクジェットインクであって、前記染料着色剤がアシッドブルー9と、アシッドブルー260、アシッドブルー158、リアクティブブルー264、リアクティブブルー176およびそれらの混合物からなる群から選択される第2の染料とを含むシアンインクジェットインクに関する。
【0013】
これらの着色剤を組み合わせて、近IR領域において比較的低い吸光度を有する満足なシアンインクを提供し、それによって、商用インクジェットインク中で用いられる典型的なシアン染料に附随するIR吸光度の問題を回避することができることが見出された。
【0014】
別の態様において、本発明は、少なくとも3種の着色可視インクを含むインクジェットインクセットであって、前記少なくとも3種の着色可視インクが、色において第1のインクシアンと、色において第2のインクマゼンタと、色において第3のインクイエローとを含み、第1のインク、第2のインクおよび第3のインクの各々が、個々に、水性ビヒクルと可溶性着色剤とを含み、第1のインク中の着色剤が上述したシアン着色剤を含み、前記インクセットの前記着色可視インクが近赤外線領域(700〜900nm)において透過性であるインクジェットインクセットに関する。
【0015】
「可視」とは通常の人の目(肉眼)に見えることを意味する。
【0016】
インクセットは、例えば、ブラックインク、ブルーインク、グリーンインクおよび/またはレッドインクなどの、近IR透過性の、着色された更なる1つまたは複数の可視インクを含んでもよい。好ましい実施形態において、インクセットはブラックインクを更に含む。
【0017】
本発明のインクセットは、実質的に不可視の近赤外吸収性マーキングまたは蛍光性マーキングと組み合わせて用いるために特に有利である。着色インクを通してIR感知装置によって不可視マーキングをまだ検出できるからである。
【0018】
不可視マーキングを適する任意の手段によって被着させることが可能である。例えば、不可視IR検出可能マーキングを従来のアナログ印刷法によって基材に被着させることが可能であり、可視画像を本発明のインクセットによるインクジェット印刷によって被着させることが可能である。
【0019】
好ましい実施形態において、本発明のインクセットは、IR検出可能マーカーと共に実質的に無色のインク(不可視インク)を更に含み、不可視マーキングは、本発明のインクセットによるインクジェット印刷プロセスの一部としてディジタルで被着させる。
【0020】
本発明は、基材上にインクジェット印刷する方法であって、
(a)ディジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを提供する工程と、
(b)印刷される基材を前記プリンタに装填する工程と、
(c)上述したインクジェットインクセットを前記プリンタに装填する工程と、
(d)前記ディジタルデータ信号に応答して前記インクジェットインクセットを用いて前記基材上に印刷する工程と
を任意の実行可能な順序で含む方法を更に含む。
【0021】
本発明の方法により印刷される基材は不可視マーキングを含有し、前記不可視マーキングは近赤外線領域において吸収するか、または蛍光を発するものであり、前記不可視マーキングは、インクセットの着色インクにより下刷りおよび/または重ね刷りされたときに検出可能なままである。
【0022】
本発明のこれらの特徴および利点ならびに他の特徴および利点は、以下の詳細な説明を読むことから当業者によってより容易に理解されるであろう。理解しやすいように別個の実施形態の文脈で上および下で記載されている本発明の特定の特徴を単一実施形態の組み合わせでも提供してよいことは認められるべきである。逆に、簡潔にするために単一実施形態の文脈で記載されている本発明の種々の特徴を別個でもまたは任意の下位組み合わせでも提供してよい。更に、文脈によって特に指定されていない場合、単数への言及は、複数も含んでよい(例えば、単数形(「a」および「an」)は、1つ、あるいは1つまたは複数を指してもよい)。更に、範囲で指定された値への言及は、当該範囲内の各値およびあらゆる値を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
(シアンインク)
規定されたシアンインクジェットインクは、水性ビヒクルと、水性ビヒクルに可溶性の染料着色剤とを含む。インクは、任意選択的に、特性を強化するために添加剤などの他の成分を含んでもよい。
【0024】
シアン着色剤は、アシッドブルー9と、アシッドブルー260、アシッドブルー158、リアクティブブルー264、リアクティブブルー176およびそれらの混合物からなる群から選択される第2の染料の混合物である。アシッドブルー9は、低い近IR吸光度および良好な色相を有するが、非常に劣った耐光性を有する。第2の染料の群のメンバーは、妥当な耐光性および比較的低い近IR吸光度を有するが、シアン着色剤として単独で用いるためには色相において多少「赤」すぎる(高い色相角)。しかし、組み合わせにおいて、アシッドブルー9は第2の染料を「隠し」、より好ましい色相をインクに提供する。限定された量のみのアシッドブルー9を用いることにより、耐光性の不利は合理的に小さい。
【0025】
AB9対第2の染料の比は、適する色特性および耐光性を提供する任意の所望の比であることが可能である。一実施形態において、AB9対第2の染料の重量比(累積)は1以下である。別の実施形態において、AB9対第2の染料の重量比は1:100〜1:1の間である。
【0026】
本明細書で挙げたシアン着色剤および他の染料は、英国ヨークシャー州ブラッドフォードのソサイエティ・ダイヤース・アンド・カラリスツ(Society Dyers and Colourists(Bradford Yorkshire,UK))によって、および刊行された(非特許文献2)において確立された「C.I.」呼称によって呼ばれる。
【0027】
染料は近IR領域における透過性に関して選択される。本発明の文脈における「近IR透過性」という用語は、700〜900nm範囲内の比較的低い吸収の広い領域を意味する。これは、近IR領域における着色剤の多少の吸収重なりの存在を除外しないが、吸収は、不可視IR吸光度/蛍光マーキングの検出を著しく妨げるほど多くすべきではない。
【0028】
近IR領域における着色剤の吸収は、一般に、可視におけるピークからの「肩」であり、より長い波長(すなわち、700nmにより近い)で可視吸収を有する色は、近IR領域に伸びるピークの尾による問題のより多くを有する。
【0029】
上で挙げられた染料の組み合わせは、他の着色剤を全く含まずに望ましいシアン色を達成するために適する。従って、一実施形態において、本発明は、アシッドブルー9と、アシッドブルー260、アシッドブルー158、リアクティブブルー264、リアクティブブルー176の1つまたは任意の組み合わせのみからなる着色剤を含むインクジェットインクに関する。
【0030】
規定された着色剤がそれ自体において、および単独で十分であるけれども、本発明を実質的に変えずに、本発明の利益を失わずに少量の他の着色剤を添加することは恐らく可能である。従って、別の実施形態において、本発明は、アシッドブルー9と、アシッドブルー260、アシッドブルー158、リアクティブブルー264、リアクティブブルー176の1つまたは任意の組み合わせから本質的になる着色剤を含むインクジェットインクに関する。
【0031】
(ビヒクル)
インクビヒクルは着色剤のためのキャリア(または媒体)である。「水性ビヒクル」は、水あるいは水と少なくとも1種の水溶性有機溶媒(共溶媒)または湿潤剤との混合物からなるビヒクルを意味する。適する混合物の選択は、所望の表面張力および粘度、選択された着色剤およびインクを上に印刷する基材との適合性などの特定の用途の要件に応じて異なる。
【0032】
水溶性有機溶媒および湿潤剤の例には、チオジグリコール、スルホラン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンおよびカプロラクタムなどのアルコール、ケトン、ケトアルコール、エーテルおよびその他;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ブチレングリコールおよびへキシレングリコールなどのグリコール;ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールなどのオキシエチレンまたはオキシプロピレンの付加ポリマー;グリセロールおよび1,2,6−ヘキサントリオールなどのトリオール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどの多価アルコールのより低級のアルキルエーテル;ジエチレングリコールジメチルエーテルまたはジエチレングリコールジエチルエーテルなどの多価アルコールのより低級のジアルキルエーテル;ウレアおよび置換ウレアが挙げられる。
【0033】
水性ビヒクルは、典型的には約30%〜約95%の水を含み、残り(すなわち、約70%〜約5%)は水溶性溶媒である。インク組成物は、水性ビヒクルの全重量を基準にして典型的には約60%〜約95%の水を含有する。
【0034】
(添加剤)
他の成分、添加剤は、日常的実験によって容易に決定することができる仕上げインクの安定性および噴出をこうした他の成分が妨げない程度にインクジェットインクに配合してもよい。こうした他の成分は当該技術分野で公知の一般的意味の範囲内である。
【0035】
一般に、界面活性剤は、表面張力および湿り特性を調節するためにインクに添加される。適する界面活性剤には、エトキシル化アセチレンジオール(例えば、エアー・プロダクツ(Air Products)製の「サーフィノールズ(Surfynols)」(登録商標)シリーズ)、エトキシル化第一アルコール(例えば、トマー・プロダクツ(Tomah Products)製の「トマドール(Tomadol)」(登録商標)シリーズ)および第二アルコール(例えば、ユニオン・カーバイド(Union Carbide)製の「タージトール(Tergitol)」(登録商標)シリーズ)、スルホスクシネート(例えば、サイテック(Cytec)製の「エアロゾル(Aerosol)」(登録商標)シリーズ)、オルガノシリコーン(例えば、GEシリコーン(GE Silicons)製の「シルウェット(Silwet)」(登録商標)シリーズ)およびフルオロ界面活性剤(例えば、本願特許出願人製の「ゾニル(Zonyl)(登録商標)シリーズ)が挙げられる。界面活性剤は、インクの全重量を基準にして典型的には約0.01〜約0.5%、好ましくは約0.2〜約2%の量で用いられる。
【0036】
耐久性を改善するためにポリマーをインクに添加してもよい。ポリマーは、ビヒクルに可溶性であることが可能であるか、または分散(例えば、「エマルジョンポリマー」または「ラテックス」)させることが可能であり、そしてイオン性または非イオン性であることが可能である。ポリマーの有用な種類には、アクリリックス、スチレンアクリリックスおよびポリウレタンが挙げられる。
【0037】
微生物の成長を抑制するために殺虫剤を用いてもよい。pHを維持するために緩衝剤を用いてもよい。緩衝剤には、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(「Trizma」または「Tris」)が挙げられる。
【0038】
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、イミノ二酢酸(IDA)、エチレンジアミン−ジ(o−ヒドロキシフェニル酢酸)(EDDHA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジヒドロキシエチルグリシン(DHEG)、トランス−1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)、ジエチレントリアミン−N,N,N’,N”,N”−五酢酸(DTPA)およびグリコールエーテルジアミン−N,N,N’,N’−四酢酸(GEDTA)およびそれらの塩などの金属イオン封鎖剤(またはキレート剤)を含めるのは、例えば重金属不純物の有害な作用をなくすために有利な場合がある。
【0039】
(成分の割合)
上述した成分は、一般に上述した通り、そして当業者が一般に認める通り、所望のインク特性を得るために、種々の割合および組み合わせでインクを製造するために組み合わせることが可能である。特定の最終用途のためにインクを最適化するのに幾つかの実験は必要であり得るが、こうした最適化は一般に当業者の範囲内である。
【0040】
例えば、本発明のシアンインクおよび以後に述べる他のインク中のビヒクルの量は、インクの全重量を基準にして典型的には約70%〜約99.8%、好ましくは約80%〜約99.8%の範囲内である。着色剤(およびIRマーカー)は、全インクの一般に約0.1重量%〜約12重量%の間、より典型的には約1重量%〜約8重量%の範囲で存在する。規定されたシアン染料の低い近IR吸光度のゆえに、シアンインク中の着色剤は3%以上であることが可能であり、従って、近IR妨害なしで良好な色の濃さを提供する。
【0041】
他の成分(添加剤)が存在するとき、他の成分はインクの全重量を基準にして一般には約15重量%未満を構成する。界面活性剤を添加するとき、界面活性剤はインクの全重量を基準にして一般には約0.2〜約3重量%の範囲内である。ポリマーは必要に応じて添加することが可能であるが、インクの全重量を基準にして一般には約15重量%未満である。
【0042】
(インクの特性)
滴速度、小滴の分離長さ、滴径およびストリーム安定性は、インクの表面張力および粘度によって大幅に影響を受ける。インクジェットインクは、典型的には、25℃で約20ダイン/cm〜約70ダイン/cm(20mN.m-1〜70mN.m-1)の範囲内の表面張力を有する。粘度は、25℃で約30cP(30mPa.s)ほどに高いことが可能であるが、典型的には多少より低い。インクの物理的特性は、噴出条件およびプリントヘッド設計に対して調節される。インクジェット装置の中で著しい程度に詰まらないように、インクは長期間にわたって優れた貯蔵安定性を有するべきである。更に、インクは、インクが接触することになるインクジェット印刷装置の部品を腐食させるべきでなく、本質的に無臭で無毒であるべきである。
【0043】
特定の粘度範囲またはプリントヘッドに制約されないが、本発明によって想定される用途は、一般に、より低い粘度のインクを必要とする。従って、インクの粘度(25℃)は、約7cps(7mPa.s)未満、約5cps(5mPa.s)未満、および約3.5cps(3.5mPa.s)未満であることが可能である。
【0044】
(インクセット)
本発明のシアンインクは、インクセットのメンバーとして有利に用いられる。「インクセット」という用語はすべての個々の流体を意味し、インクジェットプリンタは噴出させるために装備される。これらの流体は、目視可能に着色されたすべてのインク、すべての不可視インクおよびすべての非着色インクを含む。非着色(無色)インクは、着色剤もIR検出可能化合物もないインクであり、着色インクの耐久性を定着または強化するか、または光沢を強化または平準化するために一般に用いられる。
【0045】
CYMインクセットは、例えば、アシッドレッド52、リアクティブレッド180(任意選択的に、予め加水分解されたもの)、アシッドレッド37、アシッドレッド249、アシッドレッド289、ディレクトレッド227およびCAS番号182061−89−8(例えば、Ilford M377)の1つまたは組み合わせから選択される着色剤を含む近IR透過性マゼンタインクならびにディレクトイエロー86、ディレクトイエロー132、アシッドイエロー23およびCAS番号187674−70−0(例えば、Ilford Y104)の1つまたは組み合わせから選択される着色剤を含む近IR透過性イエローインクと組み合わせて本発明のシアンインクを含むことが可能である。
【0046】
インクセットは、DK31、DB195、食品ブラック2、AK194およびAK172の1つまたは組み合わせから選択される着色剤を含む近IR透過性ブラックインクを更に含むことが可能である。
【0047】
インクセットは不可視インクを含むことが可能である。この文脈における「不可視」は、通常の人の目(肉眼)に実質的に見えないが、近IR領域における吸光度または蛍光によって検出可能であることを意味する。本発明の文脈における不可視インクはビヒクルとIRマーカーとを含む。
【0048】
IRマーカーは、一般に、しかし必須でなく可溶性染料である。赤外線吸収染料には、ペンタメチンシアニン、金属フタロシアニン、アントロキノン染料、ナフトキノン染料、ジチオールおよびジチエン金属錯体ならびにスクアリリウム染料(例えば、(非特許文献3))を参照すること)が挙げられる。インクジェットインク中の赤外線吸収染料の例は、米国特許公報(特許文献5)、米国特許公報(特許文献6)および米国特許公報(特許文献4)(それらの開示は、完全に記載されたかのようにすべての目的のために参照により本明細書に援用する)に見られる。
【0049】
インクセット中の他のインクのために適するビヒクル(および任意の成分)は、シアンインクに関して上述したものと同じである。
【0050】
以下の実施例は本発明を例示するが、実施例に限定されない。
【実施例】
【0051】
本明細書において、L*、a*およびb*はCIELABカラースペース用語を意味する。色相(hab)値および彩度(C*ab)値は、以下の式:hab=tan-1(b*/a*)(式中、角度は適切な四分円のために調節される)およびC*ab=(a*2+b*21/2に基づいている。測定および定義は当該技術分野で公知である。例えば、ASTM規格E308および(非特許文献4)を参照すること。
【0052】
(IR吸光度および色相角)
以下の結果は、本発明においてその一部を用いている溶液中の種々のシアン着色剤の色相および近IR透過性を示している。測定はヒューレット・パッカード(Hewlett Packard)8453UV−可視分光分析計によって行った。ピーク吸光度波長ラムダマックスの吸光度が0.2〜0.8吸光度単位の間になるまで、染料を水で希釈した。この計器のソフトウェアは、測定されたスペクトルからL***値および色相ならびに彩度を自動的に計算した。
【0053】
吸光度比は、700および750nmでの吸光度(Abs700およびAbs750)を可視における最大点での吸光度(Abs マックス400〜700)で除したものであった。可視における最大吸光度の波長は各インクにより異なった。以下でまとめた結果を%(比×100)として表している。より低い値は、より高い近IR透過性を示している。近IR領域における吸収は、可視領域における吸収ピークからの肩であり、結果として、近IRにおける最大吸光度はちょうど700nmで起き、尾はそこから下がる。従って、700nmでの低い吸光度は、近IR領域全体を通して低い吸光度を示唆している。
【0054】
染料の耐光性も付記する。尺度1〜8(8は最も耐光性、1は最も劣った耐光性)で評価する。本発明のシアンインクのために規定された「第2の染料」はAB9より良好な耐光性を有し、好ましくはDB199と少なくとも同等またはDB199より良好である。
【0055】
【表1】

【0056】
(インクジェットインクの実施例)
以下の配合物によりインクを調製した。割合はインクの全重量の重量%である。成分を一緒に混合し、濾過した。水は脱イオン水であった。「サーフィノール(Surfynol)」(登録商標)465は、エアー・プロダクツ(Air Products Corp.)(米国ペンシルバニア州アレンタウン(Allentown,PA,USA)製の界面活性剤である。「プロクセル(Proxel)」(登録商標)GXLは、アベシア(米国デラウェア州ウィルミングトン(Wilmington,DE,USA))製の殺虫剤である。トリスはトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン緩衝剤である。
【0057】
全面印刷面積で「ゼロックス(Xerox)」4024「普通」紙上にキャノン(Canon)i960プリンタによりインクを印刷した。「グレイタグ−マクベス・スペクトロリノ(Greytag−Macbeth Spectrolino)」分光分析計を用いて色値を測定した。
【0058】
【表2】

【0059】
ディレクトブルー199は、実際上シアンインクジェットインク色標準である。本発明のシアンインクは、近IRにおいて実質的に透過性なままでありつつ、DB199の色特性を模倣するものである。本発明のインクが妥当な調色を提供することが可能であり、前の実施例で付記された通り、その中の染料が比較的低いIR吸光度を有することがデータから分かる。より高い彩度のゆえに、インク1および2(AB260による)は、インク3(AB158による)より好ましい。
【0060】
インク1および2に類似したインクをAB260の代わりにRB264および/またはRB176により調製することが可能である。前に付記された色相角およびIR透過性に基づいて、それらは、適するシアンインクを提供することが予想されるであろう。しかし、反応染料の水性配合物は、一般に、貯蔵中に加水分解することが知られている。加水分解副生物は、用途によっては許容されるが、許容されない用途もある。非織物インクジェット用途に関して、加水分解副生物を避けるために、インク配合の前に反応染料を予め加水分解し、精製することが知られている。しかし、予め加水分解すると追加のプロセス工程を付加し、好ましくは、こうした工程を回避することが可能である。
【0061】
本発明の組成物および方法の種々の他の修正、変更、追加または代替は本発明の趣旨および範囲を逸脱せずに当業者に明らかであろう。本発明は、本明細書に記載された例示的な実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によって定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性ビヒクルと、前記水性ビヒクルに可溶性のシアン染料着色剤とを含むシアンインクジェットインク組成物であって、前記シアン染料着色剤がアシッドブルー9と、アシッドブルー260、アシッドブルー158、リアクティブブルー264、リアクティブブルー176およびそれらの混合物からなる群から選択される第2の染料とを含むことを特徴とするシアンインクジェットインク組成物。
【請求項2】
アシッドブルー9対前記第2の染料の重量比が約1:100〜約1:1であることを特徴とする請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記第2の染料がアシッドブルー260を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のインク。
【請求項4】
前記第2の染料がアシッドブルー260またはアシッドブルー158であることを特徴とする請求項1に記載のインク。
【請求項5】
25℃で約20ダイン/cm〜約70ダイン/cmの範囲内の表面張力および25℃で約30cPより低い粘度を有することを特徴とする請求項1に記載のインク。
【請求項6】
全シアン染料着色剤濃度が全インクの3重量%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のインク。
【請求項7】
少なくとも3種の着色可視インクを含むインクジェットインクセットであって、前記少なくとも3種の着色可視インクが、色において第1のインクシアンと、色において第2のインクマゼンタと、色において第3のインクイエローとを含み、前記第1のインク、前記第2のインクおよび前記第3のインクの各々が、個々に、水性ビヒクルと可溶性着色剤とを含み、前記第1のインクが請求項1〜6のいずれか一項に記載のシアンインクであり、前記インクセットの前記可視インクが近赤外線領域において実質的に透過性であることを特徴とするインクジェットインクセット。
【請求項8】
前記可視インクの各々についての着色剤が約7.5%以下の吸光度比を有し、前記吸光度比が、%として表される
【数1】

であることを特徴とする請求項7に記載のインクセット。
【請求項9】
ビヒクルとブラック着色剤とを含む色において第4のインクブラックを更に含むことを特徴とする請求項7に記載のインクセット。
【請求項10】
ビヒクルと赤外線マーカーとを含む不可視インクを更に含むことを特徴とする請求項7に記載のインクセット。
【請求項11】
基材上にインクジェット印刷する方法であって、
(a)ディジタルデータ信号に応答するインクジェットプリンタを提供する工程と、
(b)印刷される基材を前記プリンタに装填する工程と、
(c)請求項1〜10のいずれか一項に記載のシアンインクまたはインクジェットインクセットを前記プリンタに装填する工程と、
(d)前記ディジタルデータ信号に応答して前記シアンインクまたは前記インクジェットインクセットを用いて前記基材上に印刷する工程と
を任意の実行可能な順序で含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
印刷される前記基材が不可視マーキングを含有し、前記不可視マーキングは近赤外線領域において吸収するか、または蛍光を発するものであり、前記不可視マーキングは、前記インクセットの前記可視インクで重ね刷りされたときに検出可能なままであることを特徴とする請求項11に記載の方法。

【公表番号】特表2009−536682(P2009−536682A)
【公表日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509797(P2009−509797)
【出願日】平成19年5月8日(2007.5.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/011086
【国際公開番号】WO2007/133533
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】