説明

IgE抑制剤

【課題】アレルギー疾患の治療又は予防に有用なIgE抑制剤を提供する。
【解決手段】前記のIgE抑制剤は、マツタケ若しくはその抽出物を有効成分として含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、IgE(免疫グロブリンE;Immunoglobulin E)抑制剤に関する。本発明のIgE抑制剤は、医薬品として投与することができるだけでなく、種々の形態、例えば、健康食品(好ましくは機能性食品)又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。なお、前記食品には飲料が含まれる。更には、オーラル衛生用組成物、例えば、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤の形で与えることも、あるいは、鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。
【背景技術】
【0002】
近年、日本を始めとする先進工業国において、生活環境等の変化により、アレルギー疾患の罹患率は急増している(非特許文献1)。日本人の場合、3人に1人は何らかのアレルギー症状を持っているといわれており、いわゆる「国民病」の一つとして、社会的問題になっている。アレルギーの多くは、アレルギー性鼻炎や気管支喘息、蕁麻疹、消化管アレルギー、アレルギー性結膜炎であり、そのタイプは、アレルギー類型I〜V型(非特許文献2)のうちI型に属する。I型はマスト細胞上に結合しているIgE抗体と抗原との反応により、マスト細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどのメディエーターが放出されておこる組織傷害である。
【0003】
このアレルギー反応に由来する愁訴は、患者のQOLに重大な影響を及ぼすだけではなく、愁訴を解決するために、医療経済的にも負担がかかる。アレルギーを予防するためには、抗原との接触を避けることが基本であり、更に、低アレルゲン加工食品摂取や抗原物質注射による減感作療法も行われる。発症した場合の治療薬として、症状が軽症の時は抗ヒスタミン剤、重症の時はステロイド剤の使用が一般的である。また、ビタミン類や脂肪酸、抗酸化物質、細菌製剤の投与も試みられている。しかし、これらの効果は不充分なことが多く、有効な治療又は予防法の開発が求められている。
【0004】
一方、マツタケ[Tricholoma matsutake (S. Ito & Imai) Sing.]には種々の生理活性物質が含まれていることが知られており、例えば、特許文献1及び特許文献2には、マツタケに含有される各種の抗腫瘍性物質が開示されている。前記特許文献1には、マツタケ菌糸体の液体培養物を熱水又は希アルカリ溶液で抽出して得られる抽出液から分離精製されたエミタニン−5−A、エミタニン−5−B、エミタニン−5−C、及びエミタニン−5−Dに、サルコーマ180細胞の増殖阻止作用があることが開示されている。また、前記特許文献2には、マツタケ子実体の水抽出物から分離精製された分子量20〜21万のタンパク質(サブユニットの分子量=10〜11万)が抗腫瘍活性を有することが開示されている。
【0005】
また、本発明者(及びその共同研究者)は、マツタケ又はその抽出物が、種々の生理活性、例えば、免疫増強活性(特許文献3)、ストレス負荷回復促進活性(特許文献4)、癌予防効果(特許文献5)、並びに病原性微生物に対する感染予防及び治療効果(特許文献6)を有することを既に見出している。
【0006】
【非特許文献1】「厚生省大臣官房統計部;II.結果の概要、平成3年保健福祉動向調査(日常生活とアレルギー様症状)」、厚生省大臣官房統計部編・発行、東京、平成4年9月、p.20−42
【非特許文献2】宮本昭正監修、牧野荘平他編集、「臨床アレルギー学」、改訂第2版、南光堂、東京、1998年、p.92−97
【特許文献1】特公昭57−1230号公報
【特許文献2】特許第2767521号明細書
【特許文献3】国際公開第01/49308号パンフレット
【特許文献4】国際公開第02/30440号パンフレット
【特許文献5】特開2004−210695号公報
【特許文献6】特開2004−210694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者は、II型アレルギー反応において重要な役割を担うIgE抗体に着目し、その産生を調節する方法を鋭意検討した。すなわち、IgE産生は個体リンパ球のTh1・Th2バランスや免疫グロブリンのクラススイッチなどにより影響されるという知見をもとに、Th1細胞の機能に及ぼすキノコ由来成分の活性を評価した結果、マツタケ菌糸体が優れた抑制活性を有することを見出した。
従って、本発明の課題は、アレルギー疾患の治療又は予防に有用な、新規のIgE抑制剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、本発明による、マツタケ又はその抽出物を有効成分として含有する、IgE抑制剤により解決することができる。
また、本発明は、マツタケ又はその抽出物を有効成分として含有する、IgE抑制用食品に関する。
【0009】
本発明のIgE抑制剤又はIgE抑制用食品の好ましい態様によれば、前記マツタケがマツタケFERM BP−7304株である。
本発明のIgE抑制剤又はIgE抑制用食品の別の好ましい態様によれば、前記マツタケが菌糸体、培養物、又は子実体である。
本発明のIgE抑制剤又はIgE抑制用食品の更に別の好ましい態様によれば、前記マツタケ抽出物が、マツタケの熱水抽出液若しくはその乾燥体、マツタケのアルカリ溶液抽出液若しくはその乾燥体、又はマツタケの熱水抽出液及び/若しくはアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のIgE抑制剤によれば、各種アレルギー疾患、特にはI型アレルギーの治療又は予防が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のIgE抑制剤は、有効成分として、マツタケ[例えば、マツタケの菌糸体、培養物(Broth)、又は子実体]又はその抽出物を含有する。本発明において有効成分として用いることのできる各種成分について以下に詳述するが、本発明のIgE抑制剤は、これらの各種有効成分を単独で、あるいは、適宜組み合わせて含有することができる。
【0012】
本発明における有効成分である前記マツタケとしては、あるいは、前記マツタケ抽出物を調製するのに用いるマツタケとしては、例えば、天然のマツタケの子実体若しくは菌糸体、又は培養により得られるマツタケの菌糸体(すなわち、培養菌糸体)、培養物(Broth)、若しくは子実体を挙げることができる。IgE抑制効果を強く示す活性成分を含む点で、マツタケFERM BP−7304株[Tricholoma matsutake (S. Ito & Imai) Sing. CM6271]を用いることが好ましい。
【0013】
マツタケFERM BP−7304株(国際公開第02/30440号パンフレット)は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター[(旧)工業技術院生命工学工業技術研究所(あて名:〒305−8566 日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)]に平成12年9月14日より寄託しているものである。このマツタケFERM BP−7304株は、京都府亀岡市で採取したマツタケCM6271株から子実体組織を切り出し、試験管内で培養することにより、菌糸体継代株を得たものであり、呉羽化学工業株式会社生物医学研究所で維持している。
【0014】
本発明のIgE抑制剤における有効成分として用いることのできるマツタケの菌糸体としては、培養により得られる菌糸体を使用する場合には、例えば、培養により得られる菌糸体(すなわち、培養菌糸体)と培地との混合物から適当な除去手段(例えば、濾過)により培地を除去しただけの状態で使用することもできるし、あるいは、培地を除去した後の菌糸体から適当な手段(例えば、凍結乾燥)で水分を除去した菌糸体乾燥物の状態で使用することもできるし、更には、前記菌糸体乾燥物を粉砕した菌糸体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。また、天然の菌糸体を使用する場合には、例えば、天然の菌糸体をそのまま使用することもできるし、あるいは、天然の菌糸体から適当な手段(例えば、凍結乾燥)で水分を除去した菌糸体乾燥物の状態で使用することもできるし、更には、前記菌糸体乾燥物を粉砕した菌糸体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0015】
本発明のIgE抑制剤における有効成分として用いることのできるマツタケの培養物(Broth)としては、例えば、培養により得られる菌糸体(すなわち、培養菌糸体)と培地との混合物の状態でそのまま使用することもできるし、あるいは、前記混合物から適当な手段(例えば、凍結乾燥)で水分を除去した培養物(Broth)乾燥物の状態で使用することもできるし、更には、前記培養物(Broth)乾燥物を粉砕した培養物(Broth)乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0016】
本発明のIgE抑制剤における有効成分として用いることのできるマツタケの子実体としては、例えば、天然の子実体又は培養により得られる子実体をそのままで、あるいは、前記子実体を破砕した状態で使用することもできるし、あるいは、前記子実体から適当な手段(例えば、凍結乾燥)で水分を除去した子実体乾燥物の状態で使用することもできるし、更には、前記子実体乾燥物を粉砕した子実体乾燥物粉末の状態で使用することもできる。
【0017】
本発明のIgE抑制剤における有効成分として用いることのできるマツタケの抽出物としては、例えば、マツタケの熱水抽出液若しくはその乾燥体、マツタケのアルカリ溶液抽出液若しくはその乾燥体、又はマツタケの熱水抽出液及び/若しくはアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分を挙げることができる。
【0018】
マツタケの熱水抽出液は、例えば、天然のマツタケの子実体若しくは菌糸体、又は培養により得られるマツタケの菌糸体(すなわち、培養菌糸体)、培養物(Broth)、若しくは子実体を、熱水で抽出することにより得ることができる。
熱水抽出に用いる熱水の温度は、マツタケに含有されるストレス負荷回復促進作用を示す成分が、熱水抽出液中に充分に抽出されることのできる温度である限り、特に限定されるものではないが、60〜100℃であることが好ましく、80〜98℃であることがより好ましい。
【0019】
菌糸体又は子実体を熱水抽出に用いる場合には、抽出効率が向上するように、破砕物又は粉体の状態に加工することが好ましい。
また、抽出の際には、抽出効率が向上するように、撹拌又は振盪しながら実施することが好ましい。抽出時間は、例えば、マツタケの状態(すなわち、子実体、菌糸体、又は培養物のいずれの状態であるか、あるいは、破砕物又は粉体の状態に加工した場合にはその加工状態)、熱水の温度、又は撹拌若しくは振盪の有無若しくは条件に応じて、適宜決定することができるが、通常、1〜6時間であり、2〜3時間であることが好ましい。
【0020】
得られた熱水抽出液は、不溶物が混在する状態で、そのまま、本発明のIgE抑制剤の有効成分として用いることもできるし、あるいは、不溶物を除去してから、あるいは、不溶物を除去し、更に、抽出液中の低分子画分を除去してから、本発明のIgE抑制剤の有効成分として用いることもできる。例えば、不溶物が混在する熱水抽出液を遠心分離することにより不溶物を除去し、得られる上清のみを、本発明のIgE抑制剤の有効成分として用いることができる。あるいは、不溶物が混在する熱水抽出液を遠心分離して得られる前記上清を透析し、低分子画分(好ましくは分子量3500以下の画分)を除去してから、本発明のIgE抑制剤の有効成分として用いることができる。更には、熱水抽出液(例えば、不純物が混在する熱水抽出液、前記熱水抽出液を遠心分離して得られる上清、あるいは、前記上清の透析物などを含む)から、適当な手段(例えば、凍結乾燥)で水分を除去した乾燥体の状態で、本発明のIgE抑制剤の有効成分として用いることができる。
【0021】
本発明のIgE抑制剤における有効成分である、マツタケのアルカリ溶液抽出液又はその乾燥体の製法は、例えば、先に説明した、マツタケの熱水抽出液の製造方法に準じた方法により実施することができる。すなわち、熱水の代わりにアルカリ溶液を用いること以外は、マツタケの熱水抽出液の前記製造方法と同様の方法により、調製することができる。例えば、天然のマツタケの子実体若しくは菌糸体、又は培養により得られるマツタケの菌糸体(すなわち、培養菌糸体)、培養物(Broth)、若しくは子実体を、アルカリ溶液で抽出することにより得ることができる。
【0022】
アルカリ溶液抽出に用いるアルカリ溶液としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウム)の水酸化物、特には水酸化ナトリウムの水溶液を用いることができる。前記アルカリ溶液のpHは、8〜13であることが好ましく、9〜12であることがより好ましい。アルカリ溶液抽出は、0〜30℃で実施することが好ましく、0〜25℃で実施することがより好ましい。得られたアルカリ溶液抽出液は、中和処理を実施してから、本発明のIgE抑制剤の有効成分として用いることもできるし、あるいは、中和処理を実施することなく、そのまま、本発明のIgE抑制剤の有効成分として用いることもできる。
【0023】
マツタケのアルカリ溶液による抽出は、熱水抽出を実施した後のマツタケ残渣(例えば、菌糸体残渣、培養物残渣、又は子実体残渣、好ましくは菌糸体残渣又は子実体残渣)を用いて実施することもできる。従って、本明細書における「マツタケのアルカリ溶液抽出液」には、熱水抽出を実施した後のマツタケ残渣のアルカリ溶液抽出液も含まれる。
また、マツタケの熱水抽出は、アルカリ溶液抽出を実施した後のマツタケ残渣(例えば、菌糸体残渣、培養物残渣、又は子実体残渣、好ましくは菌糸体残渣又は子実体残渣)を用いて実施することもできる。従って、本明細書における「マツタケの熱水抽出液」には、アルカリ溶液抽出を実施した後のマツタケ残渣の熱水抽出液も含まれる。
【0024】
本発明のIgE抑制剤における有効成分である、マツタケの熱水抽出液及び/又はアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分は、マツタケの熱水抽出液若しくはアルカリ溶液抽出液、又はマツタケの熱水抽出液とアルカリ溶液抽出液との混合抽出液を陰イオン交換樹脂に吸着させた後(以下、陰イオン交換樹脂吸着工程と称する)、適当な溶離液により吸着画分を溶出する(以下、溶出工程と称する)ことにより、得ることができる。また、マツタケの熱水抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分と、マツタケのアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分とを混合することによっても得ることができる。
【0025】
陰イオン交換樹脂吸着工程に用いることのできる陰イオン交換樹脂としては、公知の陰イオン交換樹脂を用いることができ、例えば、ジエチルアミノエチル(DEAE)セルロース又はトリエチルアンモニオエチル(TEAE)セルロースを挙げることができる。
溶出工程に用いる溶離液は、陰イオン交換樹脂吸着工程に用いる陰イオン交換樹脂の種類に応じて適宜決定することができ、例えば、塩化ナトリウム水溶液などを挙げることができる。
溶出工程により溶出される画分は、そのまま、本発明のIgE抑制剤の有効成分として用いることができるが、通常、溶離液に由来する塩を含有するので、それを除去するために、更に透析を実施することが好ましい。
【0026】
本発明のIgE抑制剤における有効成分である、マツタケ又はその抽出物は、IgE産生抑制作用を示し、IgE抑制により治療又は予防が可能な各種疾患の治療又は予防作用を示す。
従って、本発明における有効成分である、マツタケ又はその抽出物は、それ単独で、あるいは、好ましくは薬剤学的又は獣医学的に許容することのできる通常の担体又は希釈剤と共に、IgE抑制が必要な対象に有効量で投与することができる。
また、本発明における有効成分である、マツタケ又はその抽出物は、IgE抑制剤、IgE抑制用医薬組成物、IgE抑制用機能性食品、あるいは、IgE抑制用オーラル衛生用組成物を製造するために使用することができる。
【0027】
本発明のIgE抑制剤による治療又は予防の対象となる疾患、すなわち、IgE抑制により治療又は予防が可能な疾患としては、例えば、I型アレルギー(例えば、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、蕁麻疹、消化管アレルギー、アレルギー性結膜炎)を挙げることができる。
【0028】
本発明のIgE抑制剤の投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。
【0029】
これらの経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。
【0030】
非経口投与方法としては、注射(皮下、静脈内等)、又は直腸投与等が例示される。これらのなかで、注射剤が最も好適に用いられる。
例えば、注射剤の調製においては、有効成分の他に、例えば、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。
また、本発明のIgE抑制剤は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明のIgE抑制剤をエチレンビニル酢酸ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療又は予防すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0031】
本発明のIgE抑制剤は、これに限定されるものではないが、マツタケ又はその抽出物を、0.01〜99重量%、好ましくは0.1〜80重量%の量で含有することができる。
【0032】
本発明のIgE抑制剤を用いる場合の投与量は、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などに応じて適宜決定することができ、経口的に又は非経口的に投与することが可能である。
【0033】
また、投与形態も医薬品に限定されるものではなく、種々の形態、例えば、機能性食品や健康食品(飲料を含む)、又は飼料として飲食物の形で与えることも可能である。
食品には、(1)栄養素としての働き(第一次機能)、(2)人間の五感に訴える働き(第2次機能)の他に、(3)人間の健康、身体能力、又は心理状態に好ましい影響を与える働き(第3次機能)、例えば、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、又は神経系などの生理系統を調節して、健康の維持や健康の回復に好ましい効果を及ぼす働きがあることが知られている。本明細書において「健康食品」とは、健康に何らかの効果を与えるか、あるいは、効果を期待することができる食品を意味し、「機能性食品」とは、前記「健康食品」の中でも、前記の種々の生体調節機能(すなわち、消化器系、循環器系、内分泌系、免疫系、又は神経系などの生理系統の調節機能)を充分に発現することができるように設計及び加工された食品を意味する。
【0034】
更には、オーラル衛生用組成物、例えば、口中に一時的に含むものの、そのほとんどを口中より吐き出す形態、例えば、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤の形で与えることも、あるいは、鼻から吸引させる吸入剤の形で与えることも可能である。例えば、マツタケ又はその抽出物を、添加剤(例えば、食品添加剤)として、所望の食品(飲料を含む)、飼料、歯磨剤、洗口剤、チューインガム、又はうがい剤等に添加することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
《実施例1:マツタケFERM BP−7304株の菌糸体乾燥物の調製》
本実施例は、特開2004-210695号公報の実施例1に記載の方法に従って、菌糸体乾燥物を調製した。具体的には、マツタケFERM BP−7304株菌糸体を、滅菌処理した培地(3%グルコース、0.3%酵母エキス、pH6.0)3.5tの入った7t容培養タンクに接種し、25℃で攪拌しながら4週間培養を行った。得られた培養物を濾布濾過し、菌糸体を分離した後、蒸留水で充分に洗浄した。得られた菌糸体の一部(約1kg)を−60℃に凍結した後、凍結乾燥機(MINIFAST MOD. DO. 5; Edwards社)を用いて凍結乾燥することにより、乾燥菌糸体110gを得た。得られた菌糸体を、ホモブレンダー(Wonder Blender社)を用いて粉砕することにより、乾燥物粉末100gを得た。得られた菌糸体乾燥物粉末を、以下の実施例における被検物質として使用した。
【0037】
《実施例2:マツタケ子実体乾燥物の評価》
(1)IgE亢進マウスの作製と被検物質の投与
IgE亢進モデルの作製は、N.Oyamaらの方法に準拠した(Journal Clinical Allergy Immunology, 107巻, 153-159頁, 2001年)。すなわち、実験動物として、3週齢の雄性BALB/cマウス(日本チャールズリバー社)を購入し、予備飼育の後、カナマイシンを投与し、実験に用いた。詳細な条件は下記のとおりである。
【0038】
生後3週齢から、硫酸カナマイシン(シグマ・アルドリッチ、東京;600μg/匹)又は注射用蒸留水0.2mLを、それぞれ、BALB/cマウス各16匹に7日間連日経口投与した。投与終了後、それぞれの処置マウスを対照群8匹と被検物質(実施例1で調製した菌糸体乾燥物粉末)投与群8匹とに分け、対照群にはCE2飼料(オリエンタル酵母;以下、普通飼料と称する)を、被検物質投与群には被検物質2%を混合したCE2飼料(以下、被検物質混合飼料)を、実験終了まで与えた。なお、飼育条件は、温度25±2℃、湿度55±10%、個別換気システム(luminary air flow)、午前8時〜午後8時まで5ルクスの光サイクルであり、飼料と滅菌水道水を自由に与えて飼育した。
【0039】
実験群は以下の4群であり、各群8匹からなる:
(1)蒸留水処置・普通飼料摂取群[生後3週齢時に蒸留水(0.2mL/回)を7日間連日経口投与。普通飼料を摂取];
(2)蒸留水処置・被検物質混合飼料摂取群[生後3週齢時に蒸留水(0.2mL/回)を7日間連日経口投与。4週齢以降は被検物質混合飼料を摂取];
(3)カナマイシン処置・普通飼料摂取群[生後3週齢時にカナマイシン(600μg/0.2mL/匹/回)を7日間連日経口投与。普通飼料を摂取];及び
(4)カナマイシン処置・被検物質混合飼料摂取群[生後3週齢時にカナマイシン(600μg/0.2mL/匹/回)を7日間連日経口投与。4週齢以降は被検物質混合飼料を摂取]。
【0040】
(2)血液のサンプリングと免疫グロブリンの分析
カナマイシン投与終了翌日を0週(摂取前)とし、摂取後10週目及び20週目に、マウスの眼窩静脈叢から、ガラス製キャピラリを用いて部分採血後、血清を分離し、−80℃に凍結保存した(n=8)。
【0041】
分析に際しては、血清を解凍した後、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で適当な濃度に希釈し、IgG、IgG2a、及びIgE含量を酵素免疫測定方法により定量した。測定は市販のキット[Mouse Serum IgG1 ELISA Kit Cat #6330 (Alpha Diagnostic Int Inc., San Antonio, TX, USA), Serum IgG2a ELISA Kit Cat #6340 (Alpha Diagnostic Int Inc.), 及びSerum IgE ELISA Kit Cat #637 (Alpha Diagnostic Int Inc.)]を使用した。
【0042】
(3)糞のサンプリングと微生物分析
新鮮糞の採取と検体の調製は、以下の手順で実施した。すなわち、カナマイシンの最終投与翌日(摂取前)、摂取後10週目及び20週目の午前9時前後に、マウス下腹部を指で軽く圧迫して肛門から出てくる糞を採取した(n=8)。個体毎に糞重量を測定の後、−80℃に凍結保存した。
【0043】
分析に際しては、糞を解凍した後、100倍容量の滅菌生理食塩水中に懸濁させ、スパチラにて出来るだけ均一になるようにした。滅菌生理食塩水を用いて、前記懸濁液の10倍希釈系列を作成した。各希釈系列液0.5mLを寒天培地に直接塗抹した。総嫌気性細菌、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する菌、及び好気性細菌である腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する菌の検出・定量のため、それぞれ、市販の培地[GAM agar (ニッスイ、東京), BL agar (ニッスイ), 及びDHL agar (ニッスイ)]を用いた。検体入り培地を、好気性培養の場合はそのまま、嫌気性培養の場合はアネロパック(登録商標)(三菱ガス化学、東京)に入れて嫌気状態にした後、37℃の恒温器内で数日間培養し、コロニー性状を確認のうえ計数して糞湿重量g当たりの菌数を算出した。なお、コロニーの同定は[弁野義己、寺田厚:腸内細菌の分類・同定法、光岡知足著、腸内細菌学、朝倉書店、東京、pp.41−76、1990]に準じた。
【0044】
(4)サイトカインの定量
抗CD3抗体で刺激した脾細胞のサイトカイン産生能を以下の手順で定量した。すなわち、実験開始後20週目のマウス(各群5匹)をと殺し、脾臓を摘出した。ピンセットとメッシュを用い、単細胞懸濁液を調製し、1×10細胞/mL培地(10%ウシ胎児血清加RPMI1640培地)0.2 mLを、抗CD3抗体を付着させた96ウエルの培養用プレート中で、37℃にて2日間培養後、遠心分離により上清を回収して−80℃で保存した。分析に際しては、上清を解凍した後、IFNγ及びIL−4含量を市販の測定キット(Genzyme社、米国)を用いて定量した。
【0045】
(5)結果
被検物質投与前(カナマイシン最終投与翌日)、摂取後10週目及び20週目の血清中の免疫グロブリン・サブセット含量を表1(IgE)、表2(IgG)、及び表3(IgG2a)に示す。また、20週目の血清中の免疫グロブリン・サブセット含量を図1(IgE)、図2(IgG)、及び図3(IgG2a)に示す。図1〜図3(並びに後述の図4〜図9)において、記号Aは蒸留水処置・(CE2)摂取群を、記号Bは蒸留水処置・(被検物質混合CE2)摂取群を、記号Cはカナマイシン処置・(CE2)摂取群を、記号Dはカナマイシン処置・(被検物質混合CE2)摂取群を、それぞれ意味する。また、表1及び図1における記号「*」は、p<0.05(vs 被検物質混合CE2摂取群)であることを意味する。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【0049】
被検物質投与前(カナマイシン最終投与翌日)、摂取後10週目及び20週目の新鮮糞中の細菌数を表4(嫌気性細菌数)、表5(ビフィドバクテリウム菌数)、及び表6(好気性細菌数)に示す。また、10週目の新鮮糞中の細菌数を図4(嫌気性細菌数)、図5(ビフィドバクテリウム数)、及び図6(好気性細菌数)に示す。
【0050】
【表4】

【0051】
【表5】

【0052】
【表6】

【0053】
被検物質摂取後20週目の脾細胞のサイトカイン産生能を表7及び図7(IFNγ)並びに表8及び図8(IL−4)に示す。なお、表中の記号「NT」は、測定を実施していないことを示す。また、図7における記号「*」は、p<0.05であることを意味する。
【0054】
【表7】

【0055】
【表8】

【0056】
3週齢時にカナマイシンを投与したマウスでは、血清IgEレベルは10週目及び20週目に亢進していた。糞中の嫌気性細菌数は、カナマイシン投与により著しく減少した後に回復し、カナマイシン非投与群のレベルに到達したが、ビフィドバクテリウム菌数の回復は遅れた。更に、20週後の脾細胞のIFNγ産生能は低下し、IL−4産生能は亢進傾向にあった。
【0057】
3週齢時のカナマイシン投与後、被検物質を混合した飼料を摂取したマウスでは、血清IgEレベルは抑制されており、同時に、ビフィドバクテリウム菌数も回復していた。20週後の脾細胞のIFNγ産生能は促進傾向に、IL−4産生能は抑制傾向にあった。これらの結果から、被検物質は、カナマイシン投与マウスのIgEレベルを抑制すると共に、糞中のビフィドバクテリウム菌数及び脾細胞のIFNγ産生能の回復を促進することが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のIgE抑制剤は、各種アレルギー疾患、特にはI型アレルギーの治療又は予防の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】被検物質摂取から20週目の血清中のIgEレベルを示すグラフである。
【図2】被検物質摂取から20週目の血清中のIgGレベルを示すグラフである。
【図3】被検物質摂取から20週目の血清中のIgG2aレベルを示すグラフである。
【図4】被検物質摂取から10週目の新鮮糞中の嫌気性細菌数を示すグラフである。
【図5】被検物質摂取から10週目の新鮮糞中のビフィドバクテリウム菌数を示すグラフである。
【図6】被検物質摂取から10週目の新鮮糞中の好気性細菌数を示すグラフである。
【図7】被検物質摂取から20週目の脾細胞のIFNγ産生能を示すグラフである。
【図8】被検物質摂取から20週目の脾細胞のIL−4産生能を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マツタケ又はその抽出物を有効成分として含有する、IgE抑制剤。
【請求項2】
前記マツタケが、マツタケFERM BP−7304株である、請求項1に記載のIgE抑制剤。
【請求項3】
前記マツタケが、菌糸体、培養物、又は子実体である、請求項1又は2に記載のIgE抑制剤。
【請求項4】
前記マツタケ抽出物が、マツタケの熱水抽出液若しくはその乾燥体、マツタケのアルカリ溶液抽出液若しくはその乾燥体、又はマツタケの熱水抽出液及び/若しくはアルカリ溶液抽出液の陰イオン交換樹脂吸着画分である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のIgE抑制剤。
【請求項5】
マツタケ若しくはその抽出物を有効成分として含有する、IgE抑制用食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−282635(P2006−282635A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−107790(P2005−107790)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月30日 日本補完代替医療学会主催の「第7回 日本補完代替医療学会学術集会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年10月5日 日本補完代替医療学会事務局発行の「第7回 日本補完代替医療学会学術集会 プログラム・抄録集」に発表
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】