説明

JCウイルス遺伝子の発現を抑制するための組成物および方法

本発明は、JCウイルス遺伝子(JCウイルスゲノム)の発現を抑制するための二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)に関し、該dsRNAは、長さが30ヌクレオチド未満、通常は長さが19〜25ヌクレオチドでJCウイルス遺伝子の少なくとも一部にほぼ相補的なヌクレオチド配列を有するアンチセンス鎖を含む。本発明はまた、該dsRNAを医薬として許容可能な担体とともに含む医薬組成物;該医薬組成物を用いてJCウイルス発現を原因とする疾患を治療する方法;ならびに細胞内におけるJCウイルス遺伝子の発現を抑制する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)、ならびに、JCウイルス遺伝子のうちの一つの発現を抑制するためのRNA干渉の仲介における該dsRNAの使用、およびJCウイルス感染により媒介されるPML等の病理学的プロセスを治療するための該dsRNAの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願
本願は、2006年4月28日に出願された米国仮特許出願第60/795,965号の利益を主張する。かかる出願の内容は、参照により全体が本願に組み込まれる。
【0003】
発明の背景
進行性多病巣性白質脳症(PML)は、人の脳の膠細胞中に存在する潜在ポリオーマウイルスJCビールス(JCV)とその生産複製物の再活性化によって生じる中枢神経系の致命的な脱髄疾患である(非特許文献1)。PMLは、かつてはリンパ増殖性および骨髄増殖性の疾患のために免疫系に障害を受けた患者で主として見られたかなり稀な疾患であったが、AIDS患者の間では主要な神経疾患の1つとなっている(非特許文献2) 。
【0004】
4〜8%のAIDS患者がPMLの徴候を示し、罹患した患者の脳脊髄液でJCVが検出されることが報告されており、これは脳でのウイルス複製が活発に起こっていることを示している((非特許文献1,3)。さらに、PMLは、インターフェロンと組み合わせて抗VLA4抗体であるTsybariによる実験的治療を受けた患者で最近観察された。PMLの組織学的特徴には、乏枝神経膠細胞に拡大された好酸球のある多病巣性脱髄病巣と、脳の束に分葉した多染色体核のある拡大された変形した星状細胞とが含まれる(非特許文献2)が、場合によっては、孤立性パターンの脱髄と灰白質の関与を含む非定型な特徴が報告されていることもある(非特許文献4)。インビトロでの細胞培養研究および臨床サンプルでのJCVのインビボ評価からの初期の知見によると、乏枝神経膠細胞と星状細胞のみがウイルス感染の生成を指示する細胞であると早い時期に仮定された(非特許文献5)。従って、分子的研究は、中枢神経系由来の細胞でのウイルス初期ゲノムの細胞種に特異的な転写の証明する証拠を提供していた(非特許文献6)。しかしながら、後の研究では、B細胞を含む非神経細胞における低いが検知できるレベルのCV遺伝子発現と、ヒトのいくつかの神経系および非神経系腫瘍細胞におけるウイルスの初期タンパク質の高レベルの生産とが示された(非特許文献5,7)。
【0005】
他のポリオーマウイルスと同様に、JCVは、そのゲノムが転写制御領域、ウイルス初期タンパク質であるT抗原の発現を担う遺伝子、およびウイルス後期タンパク質であるVP1、VP2およびVP3をコードする遺伝子、を含む3つの領域に分割可能な小さなDNAウイルスである。さらに、後期ゲノムも、補助ウィルスタンパク質であるアグノプロテインの生産を担っている。T抗原タンパク質は後期遺伝子の転写を刺激すると共にウイルスDNA複製のプロセスを引き起こすため、T−抗原の発現はウイルスの溶菌サイクルの開始にとって極めて重要である。最近の研究によると、アグノプロテインの生産の阻害がウイルス遺伝子の発現および複製を有意に現象させるため、JCVの転写および複製においてアグノプロテインが重要な役割を果たすとした(M. Safak et al.、非公表の知見
)。さらに、アグノプロテインは、いくつかのサイクリンおよびそれに関連するキナーゼの発現を変更することにより細胞周期を制御不全にする(非特許文献8)。
【0006】
これまでのところ、JCV複製を抑制し、PMLを治療するための有効な治療法は存在
しない。サイトシンアラビノサイド(AraC)がPML患者の治療のために試験されたが、いくつかの例での結果、JCVに関連する脱髄の寛解が明らかになった(非特許文献9)。しかしながら、AIDS治験研究班の組織的試験243からの報告書によるとヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)に感染したPML患者と、対照集団との生存率に差が
ないことが示された(なお、他の報告書では、このAIDS治験研究班の試験でAraCがうまくいかなかったのは静脈内径路および髄腔内径路によったのでAraCが十分に送達されなかったためである可能性があることが示唆されている(非特許文献10))。トポイソメラーゼ阻害剤がJCV DNAの複製を抑制できる能力を示すインビトロ研究に基づいて、トポイソメラーゼ阻害剤のトポテカンをAIDS−PML患者の治療に使用したが、その結果、トポテカンによる治療が病変サイズの減少と生存期間の延長と関係している可能性があることが示唆された(非特許文献11)。
【0007】
二本鎖RNA分子(dsRNA)は、高度に保存された調節機構で遺伝子発現を妨害することが示されており、これはRNA干渉(RNAi)として知られている。特許文献1は、線虫のC.elegansにおける遺伝子発現を抑制するために長さが少なくとも25ヌクレオチドのdsRNAを使用することを開示している。dsRNAは、植物(特許文献2および3)、ショウジョウバエ(非特許文献12)および哺乳動物(特許文献4および5)を含む他の生物でも標的RNAを減少させることが示された。この天然の機構は、今や遺伝子の以上なまたは望ましくない調節によって引き起こされる病気を治療するための新しいクラスの薬剤の開発のための焦点となっている。
【特許文献1】WO 99/32619
【特許文献2】WO 99/53050
【特許文献3】WO 99/61631
【特許文献4】WO 00/44895
【特許文献5】DE 101 00 586.5
【非特許文献1】Berger, J. R. (1995) J. Neurovirol. 1:5-18
【非特許文献2】Cinque, P., (2003). J. Neurovirol. 9(Suppl. 1):88-92
【非特許文献3】Clifford, D. B., (2001) J. Neurovirol. 4:279
【非特許文献4】Sweeney, B. J., (1994). J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry 57:994-997
【非特許文献5】Gordon, J. (1998) Int. J. Mol. Med. 1:647-655
【非特許文献6】Raj, G. V., (1995) Virology 10:283-291
【非特許文献7】Khalili, K., 2003. Oncogene 22:5181-5191
【非特許文献8】Darbinyan, A., (2002) Oncogene 21:5574-5581
【非特許文献9】Aksamit, A. (2001) J. Neurovirol. 7:386-390
【非特許文献10】Levy, R. M.,(2001) J. Neurovirol. 7:382-385
【非特許文献11】Royal, W., III, (2003) J. Neurovirol. 9:411-419
【非特許文献12】Yang, D., et al., Curr. Biol. (2000) 10:1191-1200
【非特許文献13】Radhakrishnan, S. (2004) J. Vir. 78:7264-7269
【非特許文献14】Orba, Y. (2004) J. Vir. 78:7270-7273
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
最近の報告書によると、インビトロでRNAiがJCウイルス複製を減少させる可能性を示された(非特許文献13および14)が、調べられたRNAi剤はすべての既知のJCウイルス株に対して設計されたわけではなく、インビボでの治療用のRNAi剤に必要な安定性や他の特性を考慮して選択されたわけではなかった。従って、RNAiの分野での著しい進歩にもかかわらず、細胞自身のRNAi機構を使用してJCウイルス中の遺伝子を選択的かつ効果的にサイレンシングする薬剤であって、高い生物活性と生体内安定性の両方を有し、JCウイルス感染によって媒介される病理過程の治療に使用されるJCウ
イルスの複製を効果的に阻害できる薬剤が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の要約
本発明は、二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)、ならびにそのようなdsRNAを使用して細胞または哺乳動物のJCウイルス遺伝子の発現を抑制するための組成物および方法を提供する。本発明はさらに、JCウイルス感染によるPML等の病的状態および疾患を治療するための、組成物および方法を提供する。本発明のdsRNAは、長さ30ヌクレオチド未満、通常は長さ19〜24ヌクレオチドでJCウイルス遺伝子のmRNA転写物の少なくとも一部にほぼ相補的な領域を有するRNA鎖(アンチセンス鎖)を含む。
【0010】
1つの実施形態では、本発明はJCウイルス遺伝子のうちの一つの発現およびウイルス複製を抑制するための二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)分子を提供する。該dsRNAは、互いに相補的な少なくとも2つの配列を有する。該dsRNAは、第1の配列を有するセンス鎖と第2の配列を有するアンチセンス鎖とを含む。アンチセンス鎖は、JCウイルスの遺伝子によりコードされたmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的なヌクレオチド配列を有し、該相補領域の長さは30ヌクレオチド未満、通常は長さ19〜24ヌクレオチドである。該dsRNAは、JCウイルスに感染した細胞と接触させると、JCウイルス遺伝子の発現を少なくとも40%抑制する。
【0011】
例えば、本発明のdsRNA分子は、表1aおよび1bのセンス配列から成る群から選択されるdsRNAの第1の配列を有するものでよく、第2の配列は表1aおよび1bのアンチセンス配列から成る群から選択される。本発明のdsRNA分子は、天然に存在するヌクレオチドからなるものでもよいし、あるいは少なくとも1つの修飾ヌクレオチド、例えば2’−O−メチル修飾ヌクレオチド、5’−ホスホロチオエート基を含むヌクレオチド、およびコレステリル誘導体に連結された末端ヌクレオチドなどを含むものでもよい。あるいは、修飾ヌクレオチドは、次の群、すなわち2’−デオキシ−2’−フルオロ修飾ヌクレオチド、2’−デオキシ修飾ヌクレオチド、ロックされたヌクレオチド、脱塩基ヌクレオチド、2’−アミノ修飾ヌクレオチド、2’−アルキル修飾ヌクレオチド、モルホリノヌクレオチド、ホスホロアミデート、および非天然の塩基を含むヌクレオチド、から選択されうる。通常、そのような修飾配列は、表1aおよび1bのセンス配列から成る群から選択されたdsRNAの第1の配列と、表1aおよび1bのアンチセンス配列から成る群から選択された第2の配列とに基づいている。
【0012】
別の実施形態では、本発明は、本発明のdsRNAのうちの1つを含む細胞を提供する。該細胞はヒト細胞のような哺乳動物細胞であることが好ましい。
別の実施形態では、本発明は、1以上の本発明のdsRNAと、薬学的に許容可能な担体とを含む、生物体におけるJCウイルスの複製を抑制するための医薬組成物を提供する。
【0013】
別の実施形態では、本発明は、細胞内のJCウイルス遺伝子の発現を抑制するための、下記工程(a)および(b)を含む方法を提供する。
(a)細胞内に、二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)を導入する工程であって、該dsRNAは、互いに相補的な少なくとも2つの配列を有する、工程。該dsRNAは、第1の配列を有するセンス鎖と、第2の配列を有するアンチセンス鎖とを含む。アンチセンス鎖は、JCウイルスによりコードされるmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的な相補領域を含み、該相補領域の長さは30ヌクレオチド未満、通常は長さ19〜24ヌクレオチドであり、dsRNAは、JCウイルスに感染した細胞と接触させると、JCウイルス遺伝子の発現を少なくとも40%抑制する。
【0014】
(b)工程(a)で生成された細胞を、JCウイルス遺伝子のmRNA転写物を分解させるのに十分な時間維持することによって、細胞でのJCウイルス遺伝子の発現を抑制する工程。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、JCウイルスにより媒介されるPML等の発病過程を治療、予防、または管理する方法であって、そのような治療、予防または管理を必要とする患者に、治療上または予防上有効な量の1または複数の本発明のdsRNAを投与することからなる方法を提供する。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、細胞でのJCウイルス遺伝子の発現を抑制するためのベクターであって、本発明のdsRNAのうち1つの少なくとも一方の鎖をコードするヌクレオチド配列に連係して作用する調節配列を有するベクターを提供する。
【0017】
別の実施形態では、本発明は、細胞でのJCウイルス遺伝子の発現を抑制するためのベクターを含む細胞を提供する。該ベクターは、本発明のdsRNAのうち1つの少なくとも一方の鎖をコードするヌクレオチド配列に連係して作用する調節配列を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)、ならびに該dsRNAを使用して細胞または哺乳動物のJCウイルス遺伝子の発現を抑制するための組成物および方法を提供する。本発明はさらに、dsRNAを使用してJCウイルス感染を原因とする哺乳動物の病的状態および疾患を治療するための組成物および方法を提供する。dsRNAは、RNA干渉(RNAi)として知られるプロセスを通じて、mRNAの配列特異的な分解を導く。
【0019】
本発明のdsRNAは、長さが30ヌクレオチド未満、通常は長さが19〜24ヌクレオチドであり、JCウイルス遺伝子のmRNA転写物の少なくとも一部にほぼ相補的な領域を有するRNA鎖(アンチセンス鎖)を含む。これらのdsRNAを使用することにより、哺乳動物の疼痛応答に関与する遺伝子のmRNAを標的とした分解が可能である。細胞アッセイおよび動物アッセイを使用して、本発明者らは、非常に低用量の上記dsRNAが特異的かつ効率的にRNAiを仲介する結果、JCウイルス遺伝子の発現を顕著に抑制することができることを実証した。したがって、これらのdsRNAを含む本発明の方法および組成物は、細胞におけるJCウイルスの複製および/または維持に関与する遺伝子を標的とすることにより、がん等のJCウイルス感染により媒介される発病過程の治療に有用である。
【0020】
以降の詳細な説明は、JCウイルス遺伝子の発現を抑制するためにdsRNAおよびdsRNA含有組成物を製造および使用する方法、ならびにPML等のJCウイルス感染を原因とする疾患および障害を治療するための組成物および方法を開示する。本発明の医薬組成物は、長さが30ヌクレオチド未満、通常は長さ19〜24でJCウイルス遺伝子のRNA転写物の少なくとも一部にほぼ相補的な相補領域を含むアンチセンス鎖を有するdsRNAを、薬学的に許容可能な担体と一緒に含む。
【0021】
従って、本発明のある態様は、本発明のdsRNAを薬学的に許容可能な担体と一緒に含む医薬組成物、JCウイルス遺伝子の発現を抑制するために該組成物を使用する方法、およびJCウイルス感染を原因とする疾患を治療するために該医薬組成物を使用する方法を提供する。
【0022】
I.定義
便宜のために、本明細書、実施例、および添付の特許請求の範囲において使用される一定の用語および語句の意味を以下に示す。本明細書の他の部分におけるある用語の使用法と、本項に示された該用語の定義との間に明白な矛盾がある場合、本項の定義が優先されるものとする。
【0023】
「G」、「C」、「A」および「U」は各々、通常、塩基としてグアニン、シトシン、アデニン、およびウラシルをそれぞれ含んでいるヌクレオチドを表わす。しかしながら、当然のことであるが、用語「リボヌクレオチド」または「ヌクレオチド」は、以下にさらに詳述するような修飾ヌクレオチド、または代用置換部分をも意味しうる。当業者には良く知られていることであるが、グアニン、シトシン、アデニンおよびウラシルを他の構成部分で置換し、そのような置換部分を有するヌクレオチドからなるオリゴヌクレオチドの塩基対形成特性を本質的に変化させないでおくことができる。例えば、限定するものではないが、塩基としてイノシンを含むヌクレオチドは、アデニン、シトシン、またはウラシルを含んでいるヌクレオチドと塩基対形成することができる。従って、ウラシル、グアニン、またはアデニンを含むヌクレオチドは、本発明のヌクレオチド配列中において例えばイノシンを含んでいるヌクレオチドで置換される場合がある。そのような置換部分を含む配列は本発明の実施形態である。
【0024】
本明細書で使用される場合、「JCウイルス」は、参照番号NC_001699を有する潜在ポリオーマウイルスJCウイルスを指す。種々のJCウイルス配列のさらなるアクセッション番号に、AB038249.1、AB038255.1、AB048545.1、AB048582.1、AB074575.1、AB074591.1、AB077855.1、AB077879.1、AB081005.1、AB081030.1、AB081600.1、AB081618.1、AB081654.1、AB092578.1、AB092587.1、AB103387.1、AB103402.1、AB103423.1、AB104487.1、AB113118.1、AB113145.1、AB118651.1、AB118659.1、AB126981.1、AB127027.1、AB127342.1、AB127344.1、AB127346.1、AB127349.1、AB127352.1、AB127353.1、AB198940.1、AB198954.1、AB220939.1、AB220943.1、AF004349.1、AF004350.1、AF015526.1、AF015537.1、AF015684.1、AF030085.1、AF281599.1、AF281626.1、AF295731.1、AF295739.1、AF300945.1、AF300967.1、AF363830.1、AF363834.1、AF396422.1、AF396435.1、AY121907.1、AY121915.1、NC_001699.1、U61771.1、U73500.1、U73502.1.がある。
【0025】
本明細書で使用される場合、「標的配列」は、JCウイルス遺伝子の転写の際に形成されるmRNA分子のヌクレオチド配列の連続した一部分、例えば一次転写産物のRNAプロセシング生成物であるmRNAなどを指す。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「配列を有する鎖」は、標準的なヌクレオチド命名法を使用して示された配列によって記述されるヌクレオチド鎖を有するオリゴヌクレオチドを指す。
【0027】
本明細書で使用される場合、かつ別途記載のない限り、用語「相補的」は、第1のヌクレオチド配列について第2のヌクレオチド配列との関連において記述するために使用される場合、第1のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドが、第2のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドとともに、ある条件下でハイブリダイズして二重鎖構造を形成する能力を指し、このことは当業者
には当然のことである。そのような条件は、例えばストリンジェントな条件であってよく、ここでストリンジェントな条件としては:400mM NaCl、40mM PIPES(pH6.4)、1mM EDTA、50℃または70℃で12〜16時間の後に洗浄、が挙げられる。その他の条件、例えば生物体内で遭遇しうるような生理学的に関連のある条件なども当てはまる。当業者であれば、2つの配列の相補性を、ハイブリダイズしたヌクレオチドの最終的な用途に従って試験するための、最も適した条件一式を決定することができるであろう。 これは、第1のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドと、第2のヌクレオチド配列からなるオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドとの、第1および第2のヌクレオチド配列全長にわたる塩基対形成を含んでいる。このような配列は、本明細書においては互いに関して「完全に相補的」ということができる。しかしながら、本明細書において第1の配列が第2の配列に関して「ほぼ相補的」という場合は、その2つの配列は完全に相補的であってもよいし、あるいはその2つの配列が、該配列の最終的な用途に最も適した条件下でハイブリダイズする能力を保持しつつ、ハイブリダイゼーション時に1または複数、通常4つ、3つまたは2つ以下のミスマッチな塩基対を形成してもよい。ただし、2つのオリゴヌクレオチドが、ハイブリダイゼーション時に1以上の一本鎖突出部を形成するように設計されている場合、そのような突出部は相補性の測定に関してミスマッチとは見なされないものとする。例えば、一方の21ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドともう一方の23ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドとからなるdsRNAであって、長いほうのオリゴヌクレオチドが短いほうのオリゴヌクレオチドに完全に相補的な21ヌクレオチドの配列を有するものは、本発明の目的に関してはこの場合も「完全に相補的」とされうる。
【0028】
「相補的な」配列はまた、本明細書で使用される場合、該配列のハイブリダイズする能力に関して上記の必要条件が満たされる限り、非ワトソンクリック型の塩基対、または非天然ヌクレオチドおよび修飾ヌクレオチドから形成された塩基対のうち少なくともいずれか一方を含んでもよいし、あるいは完全に前記塩基対から形成されてもよい。
【0029】
本明細書中の用語「相補的」、「完全に相補的」および「ほぼ相補的」は、該用語の使用の前後関係から理解されるように、dsRNAのセンス鎖とアンチセンス鎖との間、あるいはdsRNAのアンチセンス鎖と標的配列との間の塩基の対応に関して使用されうる。
【0030】
本明細書で使用される場合、メッセンジャーRNA(mRNA)の「少なくとも一部にほぼ相補的」なポリヌクレオチドとは、対象のmRNA(例えばJCウイルスをコードするもの)の連続した一部分にほぼ相補的なポリヌクレオチドを指す。例えば、配列がJCウイルスをコードするmRNAの連続した一部分にほぼ相補的である場合、そのポリヌクレオチドはJCウイルス mRNAの少なくとも一部に相補的である。
【0031】
用語「二本鎖RNA」または「dsRNA」は、本明細書で使用される場合、リボ核酸分子の複合体であって、2つの逆平行かつ(上記定義のように)ほぼ相補的な核酸鎖からなる二重鎖構造を有するものを指す。二重鎖構造を形成する2つの鎖は、1つの大きなRNA分子の異なる部分であってもよいし、個別のRNA分子であってもよい。2つの鎖が1つの大きな分子の一部であり、したがって、2つの鎖が、一方の鎖の3’末端と、二重鎖構造を形成している対応する他方の鎖の5’末端との間の連続したヌクレオチド鎖で接続されている場合、この接続しているRNA鎖は「ヘアピンループ」と呼ばれる。2つの鎖が、一方の鎖の3’末端と、二重鎖構造を形成している対応する他方の鎖の5’末端との間の連続したヌクレオチド鎖以外の手段によって共有結合で接続されている場合、この接続構造は「リンカー」と呼ばれる。RNA鎖は同数を有してもよいし、異なる数のヌクレオチドを有してもよい。塩基対の最大数は、dsRNAのうち最短の鎖のヌクレオチド数である。二重鎖構造に加えて、dsRNAは1以上のヌクレオチド突出部を含んでもよ
い。
【0032】
本明細書で使用される場合、「ヌクレオチド突出部」とは、dsRNAの一方の鎖の3’末端が他方の鎖の5’末端を越えて伸びるか、あるいはその逆である場合に、該dsRNAの二重鎖構造から突出する非対合ヌクレオチドを指す。「平滑」または「平滑末端」とは、非対合ヌクレオチドがdsRNAの末端に存在しない、すなわちヌクレオチド突出部がないことを意味する。「平滑末端の」dsRNAとは、その全長にわたって二本鎖構造である、すなわち該分子のいずれの末端にもヌクレオチド突出部がないdsRNAである。
【0033】
用語「アンチセンス鎖」は、dsRNAの鎖であって標的配列にほぼ相補的な領域を含むものを指す。本明細書で使用される場合、用語「相補領域」は、本明細書で定義されるように、配列(例えば標的配列)にほぼ相補的な、アンチセンス鎖上の領域を指す。相補領域が標的配列に完全に相補的ではない場合、ミスマッチは末端領域において最も許容され、かつ、存在する場合は、通常は末端領域に、例えば5’または3’末端のうち少なくともいずれかから6、5、4、3、または2ヌクレオチド以内にある。
【0034】
用語「センス鎖」は、本明細書で使用される場合、dsRNAの鎖であってアンチセンス鎖のある領域にほぼ相補的な領域を含んでいるものを指す。
当業者には理解されるように、「細胞に導入する」とは、dsRNAに関する場合、細胞内への取り込みまたは吸収を促進することを意味する。dsRNAの吸収または取り込みは、支援を伴わない拡散プロセスまたは細胞の能動的プロセスを通じて為されてもよいし、あるいは補助的な薬剤またはデバイスによって為されてもよい。この用語の意味は、in vitroの細胞に限定されるものではなく;dsRNAは、生体の一部である細胞について「細胞に導入される」場合もある。そのような場合は、細胞への導入は、生体への送達を含むことになる。例えば、in vivo送達については、dsRNAが組織部位に注入されてもよいし、あるいは全身投与されてもよい。in vitroでの細胞への導入には、エレクトロポレーションおよびリポフェクションのような当分野で既知の方法が挙げられる。
【0035】
用語「サイレンシングする」および「発現を抑制する」は、該用語がJCウイルス遺伝子に関するものである限り、本明細書では、JCウイルス遺伝子の発現を少なくとも部分的に抑制することを指し、該抑制は、JCウイルス遺伝子の転写が行われる第1の細胞または細胞群であってJCウイルス遺伝子の発現が抑制されるように処理されたものから単離可能な、JCウイルス遺伝子から転写されるmRNAの量が、第2の細胞または細胞群であって第1の細胞または細胞群と本質的に同一であるが上記処理が為されていないもの(対照細胞)と比較して減少していることによって明らかにされるようなものである。抑制の程度は通常、
[(対照細胞のmRNA)−(処理細胞のmRNA)]/(対照細胞のmRNA)・100%
で表される。
【0036】
別例として、抑制の程度は、JCウイルスのゲノム転写に機能的関連を有するパラメータ、例えば、細胞によって分泌される、JCウイルス遺伝子によってコードされたタンパク質の量、あるいは一定の表現型(例えばアポトーシス)を示す細胞の数など、の減少という観点で与えられる場合もある。原則として、JCウイルスゲノムのサイレンシングは、構成的にあるいはゲノムの工学操作により標的を発現する任意の細胞において、任意の適切なアッセイによって測定可能である。しかしながら、所与のsiRNAがJCウイルス遺伝子の発現を一定の度合いで抑制するか、したがって本発明に包含されるかどうかを判断するために参照が必要な場合、以下の実施例において提供されるアッセイはそのよう
な参照として有用であろう。
【0037】
例えば、ある例では、JCウイルス遺伝子の発現は、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与によって少なくとも約20%、25%、35%または50%抑制される。いくつかの実施形態では、JCウイルス遺伝子は、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与によって少なくとも約60%、70%または80%抑制される。いくつかの実施形態では、JCウイルス遺伝子は、本発明の二本鎖オリゴヌクレオチドの投与によって少なくとも約85%、90%または95%抑制される。
【0038】
用語「治療する」、「治療」などは、JVウイルス感染により媒介される発病過程の軽減または緩和を指す。本発明の文脈において本発明が本明細書中以下に示す任意のその他の(JVウイルス感染により媒介される発病過程以外の)状態に関する限り、用語「治療する」、「治療」などは、そのような状態に関連する少なくとも1つの症状を軽減または緩和すること、またはそのような状態の進行を遅延または逆行させることを意味する。
【0039】
本明細書で使用される場合、語句「治療上有効な量」および「予防上有効な量」とは、JVウイルス感染により媒介される発病過程またはJVウイルス感染により媒介される発病過程の明白な症状の治療、予防、または管理に治療上の利点を提供する量を指す。治療上有効な具体的な量は、普通の医師により容易に決定可能であり、また当分野で周知の要因、例えばJVウイルス感染により媒介される発病過程のタイプ、患者の病歴および年齢、JVウイルス感染により媒介される発病過程の程度、ならびに他のJVウイルス感染により媒介される抗発病過程剤の投与などに依存して変化しうる。
【0040】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」は薬理学的に有効な量のdsRNAと薬学的に許容可能な担体とを含む。本明細書で使用される場合、「薬理学的に有効な量」、「治療上有効な量」、または単に「有効な量」とは、意図される薬理学的、治療上、または予防上の結果を生じるのに有効なRNAの量を指す。例えば、ある臨床治療が、疾患または障害に関連した測定可能なパラメータに少なくとも25%の低下があれば有効であると考えられる場合、その疾患または障害の治療のために治療上有効な薬の量は、そのパラメータを少なくとも25%低下させるのに必要な量である。
【0041】
用語「薬学的に許容可能な担体」は、治療薬を投与するための担体を指す。そのような担体には、限定するものではないが、生理食塩水、緩衝生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、およびこれらの組み合わせが挙げられる。該用語は細胞培養培地を明確に除外している。経口投与される薬物については、薬学的に許容可能な担体には、限定するものではないが、薬学的に許容可能な添加剤、例えば不活性の賦形剤、崩壊剤、結着剤、潤滑剤、甘味料、香料、着色剤および保存剤などが挙げられる。適切な不活性の賦形剤には、炭酸ナトリウムおよび炭酸カルシウム、リン酸ナトリウムおよびリン酸カルシウム、およびラクトースがあり、またトウモロコシデンプンおよびアルギン酸は適切な崩壊剤である。結着剤にはデンプンおよびゼラチンを挙げることができ、潤滑剤は通常、存在する場合にはステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸またはタルクであろう。所望の場合には、胃腸管への吸収を遅らせるために錠剤をモノステアリン酸グリセリンまたはジステアリン酸グリセリンのような材料でコーティングしてもよい。
【0042】
本明細書で使用される場合、「形質転換細胞」は、dsRNA分子を発現することが可能なベクターが導入された細胞である。
II.二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)
1つの実施形態では、本発明は、細胞または哺乳動物においてJCウイルス遺伝子の発現を抑制するための二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)分子を提供し、該dsRNAはJCウイルス遺伝子の発現で形成されるmRNAの少なくとも一部に相補的な相補領域を
含むアンチセンス鎖を含み、該相補領域は長さが30ヌクレオチド未満、通常は19〜24ヌクレオチドであり、前記dsRNAは、前記JCウイルス遺伝子を発現している細胞と接触すると、前記JCウイルス遺伝子の発現を少なくとも40%抑制する。該dsRNAは、ハイブリダイズして二重鎖構造を形成するのに十分相補的な2つのRNA鎖を含む。dsRNAの一方の鎖(アンチセンス鎖)は、JCウイルス遺伝子の発現の際に形成されるmRNAの配列に由来する標的配列にほぼ相補的、好ましくは完全に相補的な相補領域を含み、他方の鎖(センス鎖)は該アンチセンス鎖に相補的な領域を含み、2つの鎖が適切な条件の下で組み合わせられた時にハイブリダイズして二重鎖構造を形成するようになっている。通常、二重鎖構造は長さが15〜30、より一般的には18〜25、さらにより一般的には19〜24、最も一般的には19〜21塩基対である。同様に、標的配列に相補的な領域は、長さが15〜30、より一般的には18〜25、さらにより一般的には19〜24、最も好ましくは19〜21ヌクレオチドである。本発明のdsRNAは、1または複数の一本鎖ヌクレオチド突出部をさらに含んでもよい。
【0043】
dsRNAは、以降にさらに議論するように当分野で周知の標準的な方法によって、例えば、バイオサーチ(Biosearch)、アプライドバイオシステムズ社(Applied Biosystems, Inc.)などから市販されているような自動DNA合成装置の使用によって、合成する
ことができる。好ましい実施形態では、JCウイルス遺伝子はヒトJCウイルスゲノムである。特定の実施形態では、dsRNAのアンチセンス鎖は、表1aおよび1bのセンス配列を有し、第2の配列は、表1aおよび1bのアンチセンス配列から成る群から選択される。表1aおよび1bに与えられた標的配列を標的とする別のアンチセンス剤が、標的配列および平滑JCウイルス配列を用いれば容易に決定される。
【0044】
さらなる実施形態では、dsRNAは、表1aおよび1bに提供された配列群から選択された少なくとも1つのヌクレオチド配列を有する。他の実施形態では、dsRNAは、この群から選択された少なくとも2つの配列を有し、少なくとも2つの配列のうち一方は少なくとも2つの配列のもう一方に相補的であり、少なくとも2つの配列のうちの1つは、JCウイルス遺伝子の発現で生成されるmRNAの配列にほぼ相補的である。好ましくは、dsRNAは2つのオリゴヌクレオチドを含み、一方のオリゴヌクレオチドは表1aおよび1bに記載されているものであり、もう一方のオリゴヌクレオチドも表1aおよび1bに記載されている。
【0045】
当業者には周知のように、20〜23塩基対、特に21塩基対の二重鎖構造を含むdsRNAは、RNA干渉を引き起こすのに特に有効なものとして評価されている(Elbashir
et al., EMBO 2001, 20:6877-6888)。しかしながら、より短いdsRNAや長いdsRNAも同様に有効となりうることが他の研究者によって見出されている。上述の実施形態では、表1aおよび1bに提供されるオリゴヌクレオチド配列の性質から、本発明のdsRNAは長さが最小21ヌクレオチドの鎖を少なくとも1つ含むことができる。表1aおよび1bの配列のうちの1つであって一端または両端からわずか数個のヌクレオチドが差し引かれたものを含む短いdsRNAが、上述のdsRNAと比較して同じように有効かもしれないことを期待するのは合理的と思われる。従って、表1aおよび1bの配列のうちの1つに由来する少なくとも15、16、17、18、19、20またはそれ以上連続したヌクレオチドである部分配列を有し、かつ、本明細書中以降に記載のようなFACS分析においてJCウイルス遺伝子の発現を抑制する能力が、完全な配列を有するdsRNAと高々5、10、15、20、25、または30%(抑制)しか違わないdsRNAが、本発明によって企図されている。表1aおよび1bに与えられた標的配列内で開裂するさらなるdsRNAが、JCウイルス配列および標的配列を用いれば容易に決定される。
【0046】
さらに、表1aおよび1bに与えられたRNAi剤は、RNAiに基づく開裂を受けやすいJCウイルスmRNAの部位を同定する。すなわち、本発明は本発明の薬剤の一つに
よって標的とされる配列の中を標的とするRNAi剤を含む。本明細書で使用する場合、第2のRNAi剤は、第2のRNAi剤が第1のRNAi剤のアンチセンス鎖に相補的なmRNA内のメッセージを開裂させる場合には、第1のRNAi剤の配列内を標的とすることとなる。そのような第2の薬剤は、JCウイルス遺伝子内の選択配列と連続する領域から得た追加のヌクレオチド配列に結合された表1aおよび1bに与えられた標的配列の一つに由来する少なくとも15の連続するヌクレオチドからなる。例えば、標的JPウイルスゲノム由来の次の6個のヌクレオチドと結合された配列番号1の最後の15個のヌクレオチドは、表1aおよび1bに与えられた配列の一つに基づく21ヌクレオチドの一本鎖薬剤を提供する。
【0047】
本発明のdsRNAは、標的配列に対して1または複数のミスマッチを含んでもよい。好ましい実施形態では、本発明のdsRNAが含むミスマッチは3つ以下である。dsRNAのアンチセンス鎖が標的配列に対するミスマッチを含んでいる場合、ミスマッチ部分が相補領域の中央に位置しないことが好ましい。dsRNAのアンチセンス鎖が標的配列に対するミスマッチを含んでいる場合、該ミスマッチはいずれかの末端から5ヌクレオチド、例えば相補領域の5’または3’末端のいずれかから5、4、3、2、または1ヌクレオチドに限られることが好ましい。例えば、JCウイルス遺伝子のある領域に相補的な23ヌクレオチドのdsRNA鎖については、該dsRNAは、中央の13ヌクレオチドの範囲内には通常ミスマッチを全く含まない。標的配列に対するミスマッチを含んでいるdsRNAがJCウイルス遺伝子の発現を抑制するのに有効かどうか判断するために、本発明に記載の方法を使用することができる。特にJCウイルス遺伝子中の特定の相補領域が、集団内で配列多型の変異を有することが知られている場合、ミスマッチを備えたdsRNAの、JCウイルス遺伝子の発現抑制における有効性を考慮することは重要である。
【0048】
1つの実施形態では、dsRNAの少なくとも一方の末端には、1〜4ヌクレオチド、一般的には1〜2ヌクレオチドの一本鎖ヌクレオチド突出部がある。少なくとも1つのヌクレオチド突出部を有するdsRNAは、予想外なことに、対応する平滑末端のdsRNAよりも優れた抑制特性を有する。さらに、本発明者らは、わずか1つのヌクレオチド突出部の存在が、dsRNAの全体的な安定性に影響することなくdsRNAの干渉活性を強化することを発見した。突出部を1つだけ有するdsRNAは、in vivoにおいて、ならびに様々な細胞、細胞培養培地、血液および血清において特に安定かつ有効であることが分かった。通常、一本鎖突出部はアンチセンス鎖の3’末端に位置し、あるいは別例としてセンス鎖の3’末端に位置する。dsRNAは、平滑末端を有していてもよく、該平滑末端は通常アンチセンス鎖の5’末端に位置する。そのようなdsRNAは安定性および抑制活性が改善されており、よって、低用量(すなわち1日につき被投与者の体重1kgあたり5mg未満)での投与が可能になる。一般に、dsRNAのアンチセンス鎖は3’末端にヌクレオチド突出部を有し、5’末端が平滑末端である。別の実施形態では、突出部中の1または複数のヌクレオチドがヌクレオシドチオホスフェートで置換されている。
【0049】
さらに別の実施形態では、dsRNAは安定性増強のために化学修飾される。本発明の核酸は、参照により本願に組み込まれる"Current protocols in nucleic acid chemistry", Beaucage, S.L. et al. (Edrs.), John Wiley and Sons, Inc., placeCityNew placeCityYork, StateNY, USAに記載のような当分野で確立された方法によって合成かつ/また
は修飾されうる。本発明に有用な好ましいdRNA化合物の特定の例には、修飾バックボーンを含むか非天然のヌクレオシド間結合を有するdsRNAが含まれる。本明細書で定義されるように、修飾バックボーンを有するdsRNAには、バックボーンにリン原子を有するものと、バックボーンにリン原子を有しないものとが含まれる。本発明に関しては、糖の間のバックボーンにリン原子のない修飾オリゴヌクレオチドも、オリゴヌクレオシドであると考えることができる。
【0050】
好ましい修飾dsRNAバックボーンには、例えば、ホスホロチオエート、キラルのホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、メチルおよびその他のアルキルホスホネート、例えば3’−アルキレンホスホネートおよびキラルのホスホネート、ホスフィネート、ホスホロアミデート、例えば3’−アミノホスホロアミデートおよびアミノアルキルホスホロアミデート、チオノホスホロアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、ならびに、正常な3’−5’結合を有するボラノホスフェート、その2’−5’結合アナログ、および隣接するヌクレオシドユニット対が3’−5’→5’−3’または2’−5’→5’−2’に連結されている逆方向のもの、が挙げられる。様々な塩、混合塩および遊離酸の形のものも含まれる。
【0051】
上記のリン原子を含む結合の調製に関連する代表的な米国特許文献には、限定するものではないが、米国特許第3,687,808号;同第4,469,863号;同第4,476,301号;同第5,023,243号;同第5,177,196号;同第5,188,897号;同第5,264,423号;同第5,276,019号;同第5,278,302号;同第5,286,717号;同第5,321,131号;同第5,399,676号;同第5,405,939号;同第5,453,496号;同第5,455,233号;同第5,466,677号;同第5,476,925号;同第5,519,126号;同第5,536,821号;同第5,541,306号;同第5,550,111号;同第5,563,253号;同第5,571,799号;同第5,587,361号;および同第5,625,050号があり、これらは各々参照によって本願に組込まれる。
【0052】
好ましい修飾型のdNAバックボーンであってその中にリン原子を含んでいないものには、短鎖アルキルまたはシクロアルキルの糖間結合、ヘテロ原子およびアルキルまたはシクロアルキルの糖間結合の混合したもの、あるいは1以上の短鎖ヘテロ原子またはヘテロ環式の糖間結合により形成されるバックボーンが含まれる。これらには、モルホリノ結合(一部はヌクレオシドの糖部分から形成される)を有するもの;シロキサンのバックボーン;スルフィド、スルホキシドおよびスルホンのバックボーン;ホルムアセチルおよびチオホルムアセチルのバックボーン;メチレンホルムアセチルおよびメチレンチオホルムアセチルのバックボーン;アルケンを含んでいるバックボーン;スルファメートのバックボーン;メチレンイミノおよびメチレンヒドラジノのバックボーン;スルホネートおよびスルホンアミドのバックボーン;アミドのバックボーン;ならびに構成部分N、O、SおよびCHが混在するその他のもの、が挙げられる。
【0053】
上記のオリゴヌクレオシドの調製に関連する代表的な米国特許文献には、限定するものではないが、米国特許第5,034,506号;同第5,166,315号;同第5,185,444号;同第5,214,134号;同第5,216,141号;同第5,235,033号;同第5,264,562号;同第5,264,564号;同第5,405,938号;同第5,434,257号;同第5,466,677号;同第5,470,967号;同第5,489,677号;同第5,541,307号;同第5,561,225号;同第5,596,086号;同第5,602,240号;同第5,610,289号;同第5,602,240号;同第5,608,046号;同第5,610,289号;同第5,618,704号;同第5,623,070号;同第5,663,312号;同第5,633,360号;同第5,677,437号;および同第5,677,439号があり、これらは各々参照によって本願に組込まれる。
【0054】
他の好ましいdsRNAミメティックでは、ヌクレオシドユニットの糖およびヌクレオシド間結合(つまりバックボーン)の両方が、新しい基で置換される。核酸塩基ユニット
は、適切な核酸標的化合物とのハイブリダイゼーションのために維持される。そのようなオリゴマー化合物であって、優れたハイブリダイゼーション特性を有するdRNAミメティックは、ペプチド核酸(PNA)と呼ばれる。PNA化合物では、オリゴヌクレオチドの糖バックボーンは、アミドを含むバックボーン、特にアミノエチルグリシンバックボーンで置換される。核酸塩基は保持され、バックボーンのアミド部分のアザ窒素原子に直接または間接的に結合されている。PNA化合物の調製について教示する代表的な米国特許文献には、限定するものではないが、米国特許第5,539,082号;同第5,714,331号;および同第5,719,262号があり、これらは各々参照によって本願に組込まれる。PNA化合物についてのさらなる教示は、Nielsen et al., Science, 1991,
254, 1497-1500に見られる。
【0055】
本発明のいくつかの好ましい実施形態は、ホスホロチオエートバックボーンを備えたdsRNAおよびヘテロ原子バックボーンを備えたオリゴヌクレオシド、特に、上記に引用された米国特許第5,489,677号の‐CH‐NH‐CH‐、‐CH‐N(CH)‐O‐CH‐[メチレン(メチルイミノ)またはMMIバックボーンとして知られる]、‐CH‐O‐N(CH)‐CH‐、‐CH‐N(CH)‐N(CH)‐CH‐、および‐N(CH)‐CH‐CH‐[天然のホスホジエステルのバックボーンは、‐O‐P‐O‐CH‐として表される]、および上記に引用された米国特許第5,602,240号のアミドバックボーンを使用する。さらに好ましいのは、上記に引用された米国特許第5,034,506号のモルホリノバックボーン構造を有するオリゴヌクレオチドである。
【0056】
修飾dsRNAは1または複数の置換型糖部分を含んでもよい。好ましいdsRNAは、2’位に、以下のもの、すなわち:OH;F;O−、S−、またはN−アルキル、O−、S−、またはN−アルケニル、あるいはO−、S−、またはN−アルキニル;=−アルキル−O−アルキル、(該アルキル、アルケニルおよびアルキニルは置換または非置換のC〜C10アルキルまたはC〜C10アルケニルおよびアルキニル)のうちの1つを含む。特に好ましいのは、O[(CHO]CH、O(CHOCH、O(CHNH、O(CHCH、O(CHONH、およびO(CHON[(CHCH)]であり、式中、nおよびmは1から約10までである。その他の好ましいオリゴヌクレオチドは、2’位に、以下のもの、すなわち:C〜C10低級アルキル、置換された低級アルキル、アルカリル、アラルキル、O−アルカリルまたはO−アラルキル、SH、SCH、OCN、Cl、Br、CN、CF、OCF、SOCH、SOCH、ONO、NO、N、NH、ヘテロシクロアルキル、ヘテロシクロアルカリル、アミノアルキルアミノ、ポリアルキルアミノ、置換シリル、RNA開裂基、レポーター基、インターカレータ、オリゴヌクレオチドの薬物動態学的特性を改善するための基、またはオリゴヌクレオチドの薬力学的特性を改善するための基、ならびに同様の特性を有するその他の置換基、のうちの1つを含む。好ましい修飾には、2’−メトキシエトキシ[2’−O−CHCHOCH、さらに2’−O−(2−メトキシエチル)もしくは2’−MOEとしても知られている](Martin et al, Helv. Chim. Acta, 1995, 78, 486)、つまりアルコキシアルコキシ基が挙げられる。さらな
る好ましい修飾には、以下の実施例で記載される2’−ジメチルアミノオキシエトキシ、すなわちO(CHON(CH基(2’−DMAOEとしても知られている)および以下の実施例で記載される2’−ジメチルアミノエトキシエトキシ、すなわち2’−O−CH−O−CH−N(CH(2’−ジメチルアミノエトキシエチルまたは2’−DMAEOEとしても知られている)がある。
【0057】
他の好ましい修飾には、2’−メトキシ(2’−O−CH)、2’−アミノプロポキシ(2’−OCHCHCHNH)および2’−フルオロ(2’−F)がある。同様の修飾が、オリゴヌクレオチド上の他の部位に、特に3’末端のヌクレオチド上または
2’−5’結合したdsRNA中の糖の3’位および5’末端ヌクレオチドの5’位になされてもよい。dsRNAは、糖ミメティック、例えばシクロブチル部分をペントフラノシル糖の代わりに有していてもよい。そのような修飾糖の調製に関連した代表的な米国特許文献には、限定するものではないが、米国特許第4,981,957号;同第5,118,800号;同第5,319,080号;同第5,359,044号;同第5,393,878号;同第5,446,137号;同第5,466,786号;同第5,514,785号;同第5,519,134号;同第5,567,811号;同第5,576,427号;同第5,591,722号;同第5,597,909号;同第5,610,300号;同第5,627、0531号;同第5,639,873号;同第5,646,265号;同第5,658,873号;同第5,670,633号および同第5,700,920号があり、これらはいずれも参照によって本願に組込まれる。
【0058】
dsRNAは、核酸塩基(当該技術分野では単に「塩基」と呼ばれることが多い)の修飾または置換を含む場合がある。本明細書中で使用されるように、「未修飾の」または「天然の」核酸塩基には、プリン塩基のアデニン(A)およびグアニン(G)、ならびにピリミジン塩基のチミン(T)、シトシン(C)およびウラシル(U)が含まれる。修飾核酸塩基には、その他の合成および天然の核酸塩基、例えば5−メチルシトシン(5−me−C)、5−ヒドロキシメチルシトシン、キサンチン、ヒポキサンチン、2−アミノアデニン、アデニンおよびグアニンの6−メチルおよび他のアルキルの誘導体、アデニンおよびグアニンの2−プロピルおよび他のアルキルの誘導体、2−チオウラシル、2−チオチミンおよび2−チオシトシン、5−ハロウラシルおよび5−ハロシトシン、5−プロピニルウラシルおよび5−プロピニルシトシン、6−アゾウラシル、6−アゾシトシンおよび6−アゾチミン、5−ウラシル(プソイドウラシル)、4−チオウラシル、8−ハロ、8−アミノ、8−チオール、8−チオアルキル、8−ヒドロキシルおよびその他の8−置換型のアデニンおよびグアニン、5−ハロ、特に5−ブロモ、5−トリフルオロメチルおよびその他の5−置換型のウラシルおよびシトシン、7−メチルグアニンおよび7−メチルアデニン、8−アザグアニンおよび8−アザアデニン、7−デアザグアニンおよび7−デアザアデニン、ならびに3−デアザグアニンおよび3−デアザアデニン、が含まれる。
【0059】
さらなる核酸塩基には、米国特許第3,687,808号に開示されているもの、Co ncise Encyclopedia Of Polymer Science And Engineering, pages 858-859, Kroschwitz,
J. L, ed. John Wiley and Sons, 1990に開示されているもの、Englisch et al., Angewandte Chemie, International Edition, 1991, 30, 613に開示されているもの、およびSanghvi, Y. S., Chapter 15, Antisense Research and Applications, pages 289-302, Crooke, S. T. and Lebleu, B., ed., CRC Press, 1993に開示されているものが挙げられる。これらの核酸塩基のうちあるものは、本発明のオリゴヌクレオチドの結合親和性を増大させるのに特に有用である。それらには、5−置換ピリミジン、6−アザピリミジン、およびN−2、N−6およびO−6置換プリン、例えば2−アミノプロピルアデニン、5−プロピニルウラシルおよび5−プロピニルシトシンが挙げられる。5−メチルシトシン置換は核酸二重鎖の安定性を0.6〜1.2℃上昇させることが示されており、(Sanghvi,
Y.S., Croke, S.T. and Lebleu, B., Edsl, DsRNA Research and Applications, CRC Press, placeCityBoca Raton, 1993, 276−278ページ)、また現時点で好ましい塩基置換であり、2’−メトキシエチル糖修飾と併用した場合はさらに一層好ましい。
【0060】
上記の修飾核酸塩基ならびにその他の修飾核酸塩基のうち一部の調製に関連する代表的な米国特許文献には、限定するものではないが、上述の米国特許第3,687,808号、ならびに米国特許第4,845,205号;同第5,130,302号;同第5,134,066号;同第5,175,273号;同第5,367,066号;同第5,432,272号;同第5,457,187号;同第5,459,255号;同第5,484,908号;同第5,502,177号;同第5,525,711号;同第5,552,5
40号;同第5,587,469号;同第5,594,121号、同第5,596,091号;同第5,614,617号;および同第5,681,941号があり、これらはいずれも参照によって本願に組込まれ、同第5,750,602も参照によって本願に組込まれる。
【0061】
本発明のdsRNAの別の修飾は、dsRNAの活性、細胞内分布または細胞への取り込みを増強する1または複数の追加の部分すなわちコンジュゲートを、オリゴヌクレオチドに化学結合させることに関する。そのような部分としては、限定するものではないが、脂質部分、例えばコレステロール部分(Letsinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1989, 86, 6553-6556)、コール酸(Manoharan et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. , 1994, 4, 1053-1060)、チオエーテル、例えばヘキシル−S−トリチルチオール(Manoharan et al., Ann. NY. Acad. Sci., 1992, 660, 306-309; Manoharan et al., Bioorg.
Med. Chem. Let, 1993, 3, 2765-2770)、チオコレステロール(O berhauser et al., Nucl. Acids Res., 1992, 20, 533-538)、脂肪鎖、例えばドデカンジオール残基またはウ
ンデシル残基(Saison-Behmoaras et al., EMBO J., 1991, 10, 1111-1118; Kabanov et al., FEBS Lett.,1990, 259, 327-330; Svinarchuk et al., Biochimie, 1993, 75, 49-54)、リン脂質、例えばジヘキサデシル−rac−グリセロールまたはトリエチルアンモ
ニウム1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac−グリセロ−3−H−ホスホネート(Manoharan et al., Tetrahedron Lett, 1995, 36, 3651; Shea et al., Nucl. Acids Res., 1990, 18, 3777-3783)、ポリアミン鎖またはポリエチレングリコール鎖(Manoharan et al., Nucleosides and Nucleotides, 1995, 14, 969-973)、あるいはアダマンタン酢酸(Manoharan et al., Tetrahedron Lett, 1995, 36, 3651-3654)、パルミチル部分(Mishra et al., Biochim. Biophys. Acta, 1995, 1264, 229-237)、あるいはオクタデシルア
ミンまたはヘキシルアミノ−カルボニル−オキシコレステロール部分(Crooke et al., J. Pharmacol. Exp. Ther., 1996, 277, 923-937)がある。
【0062】
そのようなdsRNAコンジュゲートの調製に関連する代表的な米国特許文献には、限定するものではないが、米国特許第4,828,979号;同第4,948,882号;同第5,218,105号;同第5,525,465号;同第5,541,313号;同第5,545,730号;同第5,552,538号;同第5,578,717号、同第5,580,731号;;同第5,591,584号;同第5,109,124号;同第5,118,802号;同第5,138,045号;同第5,414,077号;同第5,486,603号;同第5,512,439号;同第5,578,718号;同第5,608,046号;同第4,587,044号;同第4,605,735号;同第4,667,025号;同第4,762,779号;同第4,789,737号;同第4,824,941号;同第4,835,263号;同第4,876,335号;同第4,904,582号;同第4,958,013号;同第5,082,830号;同第5,112,963号;同第5,214,136号;同第5,082,830号;同第5,112,963号;同第5,214,136号;同第5,245,022号;同第5,254,469号;同第5,258,506号;同第5,262,536号;同第5,272,250号;同第5,292,873号;同第5,317,098号;同第5,371,241号、同第5,391,723号;同第5,416,203号、同第5,451,463号;同第5,510,475号;同第5,512,667号;同第5,514,785号;同第5,565,552号;同第5,567,810号;同第5,574,142号;同第5,585,481号;同第5,587,371号;同第5,595,726号;同第5,597,696号;同第5,599,923号;同第5,599,928号;および同第5,688,941号があり、これらは各々が参照によって本願に組込まれる。
【0063】
所与の化合物のすべての位置が一様に修飾されている必要はなく、実際、一つの化合物や、dsRNA内の一つのヌクレオシドに上述の2つ以上の修飾が組み込まれてもよい。
本発明は、キメラ化合物であるdsRNA化合物も包含する。「キメラ」dsRNA化合物すなわち「キメラ」とは、本発明の文脈では、dsRNA化合物、各領域が少なくとも一つのモノマーユニットで構成された(すなわちdsRNA化合物の場合ヌクレオチド)、特に2つ以上の化学的に異なる領域を含むdsRNAである。このようなdsRNAは通常、ヌクレアーゼ分解へのdsRNAの耐性の増大、細胞内取り込みの増大、および/または標的核酸への結合親和性の増大を与えるようdsRNAが修飾される、少なくとも1つの領域を有する。dsRNAの追加領域はRNA:DNAまたはRNA:RNAハイブリッドを開裂可能な酵素に対する基質として昨日し売る。例として、RNaseHはRNA:DNA二本鎖のRNA鎖を開裂させる細胞内エンドヌクレアーゼである。RNaseHの活性化は、それゆえRNA標的物の開裂を生じさせ、結果として遺伝子発現のdsRNAによる抑制効率が高められる。したがって、キメラdsRNAが使用された短いdsRNAに関しては、同じ標的領域にハイブリダイズするホスホロエチオエートデオキシdsRNAと比べて、比較結果が得られることが多い。RNA標的物の開裂はゲル電気泳動および必要な場合にはそれに伴う当該技術分野で周知の核酸ハイブリダイゼーションにより、常法で得られる。
【0064】
ある例では、dsRNAは非リガンド基によって修飾される場合がある。多くの非リガンド分子が、dsRNAの活性、細胞内分布または細胞への取り込みを増強するためにdsRNAにコンジュゲートされ、そのようにコンジュゲートするための手法は科学文献から入手可能である。そのような非リガンド部分は、脂質部分、例えばコレステロール(Letsinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1989, 86:6553)、コール酸(Manoharan
et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. , 1994, 4:1053)、チオエーテル、例えば、ヘキシル−S−トリチルチオール(Manoharan et al., Ann. NY. Acad. Sci., 1992, 660:306; Manoharan et al., Bioorg. Med. Chem. Let, 1993, 3:2765)、チオコレステロール(Oberhauser et al., Nucl. Acids Res., 1992, 20:533)、脂肪
鎖、例えばドデカンジオール残基またはウンデシル残基(Saison-Behmoaras et al., EMBO J., 1991, 10: 111; Kabanov et al., FEBS Lett., 1990, 259:327; Svinarchuk et al., Biochimie, 1993, 75:49)、リン脂質、例えば、ジヘキサデシル−rac−グリセロ
ールまたはトリエチルアンモニウム1,2−ジ−O−ヘキサデシル−rac−グリセロ−3−H−ホスホネート(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 1995, 36:3651; Shea et al., Nucl. Acids Res., 1990, 18:3777)、ポリアミン鎖またはポリエチレングリコール鎖(Manoharan et al., Nucleosides and Nucleotides, 1995, 14:969)、あるいはア
ダマンタン酢酸(Manoharan et al., Tetrahedron Lett., 1995, 36:3651)、パルミチル部分(Mishra et al., Biochim. Biophys. Acta, 1995, 1264:229)、あるいはオクタデ
シルアミンまたはヘキシルアミノ−カルボニル−オキシコレステロール部分(Crooke et al., J Pharmacol. Exp. Ther., 1996, 277:923)である。そのようなdsRNAコンジ
ュゲートの調製を教示する代表的な米国特許文献は、上記に列挙されている。dRNA実施の典型的なプロトコールは、配列の1または複数の部位にアミノリンカーを有するオリゴヌクレオチドの合成を要する。その後、該アミノ基を、適切なカップリング剤または活性化剤を使用して、コンジュゲートさせる分子と反応させる。コンジュゲート反応は、まだ固体支持体に結合しているdsRNAを用いて実施してもよいし、溶液相中でdsRNAを切断した後に実施してもよい。HPLCによりdsRNAコンジュゲートを精製すると、通常純粋なコンジュゲートが得られる。
【0065】
ベクターによりコードされたRNAi剤
本発明のdsRNAは、インビボで生体内で組換えウイルスベクターから発現させることも可能である。本発明の組換えウイルスのベクターは、本発明のdsRNAをコードする配列と、かかるdsRNA配列を発現する任意のプロモータとを含む。適切なプロモータには、例えばU6またはH1 RNA pol IIIプロモータ配列およびサイトメガロウイルスプロモータが含まれる。他の適切なプロモータの選択は当該技術分野におけ
る技術である。本発明の組換えウイルスベクターは、特定の組織内や特定の細胞内環境中でdsRNAの発現を誘導または調節可能なプロモータであり得る。インビボで本発明のdsRNAを細胞へ送達するための組換えウイルスベクターの使用については、以下により詳細に説明する。
【0066】
本発明のdsRNAは、2つの別個の相補的RNA分子として、あるいは2つの相補的領域を有する一つのRNA分子として、組換えウイルスベクターから発現させることができる。
【0067】
dsRNA分子のコード領域の発現を許容できるウイルスベクターであればいかなるベクターでも使用することが可能であるが、それには例えばアデノウイルス(AV);アデノ関連ウイルス(AAV);レトロウイルス(例えばレンチウイルス、ラブドウイルス、マウス白血病ウィルス(LV));ヘルペスウィルス等のベクターが挙げられる。適切なように、ウイルスベクターの指向性は、別のウイルスのエンベロープタンパク質または別の表面抗原でベクターを偽型にすることにより、あるいは別のウイルスのウイルスキャプシドタンパク質に置換することにより、改変することができる。
【0068】
例えば、本発明のレンチウイルスベクターは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、Mokolaウイルス等の表面タンパク質で偽型にすることができる。本発明のAAVベクターは、種々のウイルスキャプシドタンパク質の血清型2を発現するようにベクターを操作することにより、種々の細胞を標的とするようにすることができる。例えば、血清型2のゲノム上に血清型2のキャプシドを発現するAAVベクターは、AAV 2/2と呼ばれる。AAV 2/2ベクター中のこの血清型2キャプシド遺伝子は、AAV 2/5ベクターを生産するために血清型5キャプシド遺伝子と置き換えることができる。種々のキャプシドタンパク質の血清型を発現するAAVベクターを構築するための技術は当該技術分野の慣用技術である。例えば、開示全体が参照により本願に組み込まれるRabinowitz J E et al. (2002), J Virol 76:791-801を参照されたい。
【0069】
本発明で使用するのに適した組換えウイルスベクターの選択、ベクターでdsRNAを
発現させるために核酸配列を挿入する方法、および対象の細胞までウイルスベクターを運ぶ方法は、当該技術分野の慣用技術である。例えば参照によりその全体が本願に組み込まれるDornburg R (1995), Gene Therap. 2: 301-310; Eglitis M A (1988), Biotechniques 6: 608-614; Miller A D (1990), Hum Gene Therap. 1: 5-14; Anderson W F (1998), Nature 392: 25-30; およびRubinson D A et al., Nat. Genet. 33: 401-406を参照され
たい。
【0070】
好ましいウイルスのベクターはAVとAAVに由来するものである。特に好ましい実施形態では、本発明のdsRNAは、例えばU6もしくはH1 RNAプロモータまたは一本鎖RNAサイトメガロウイルス(CMV)プロモータを有する組換えAAVベクターから、2つの別個の相補的一本鎖RNA分子として発現される。
【0071】
本発明のdsRNAの発現に適したAVベクター、組換えAVベクターの構築方法、および標的細胞内へベクターを運ぶ方法は、Xia H et al. (2002), Nat. Biotech. 20: 1006-1010に記載されている。
【0072】
本発明のdsRNAの発現に適したAAVベクター、組換えAVベクターの構築方法、および標的細胞へベクターを運ぶ方法は、参照によりその全体が本願に組み込まれるSamulski R et al. (1987), J. Virol. 61: 3096-3101; Fisher K J et al. (1996), J. Virol, 70: 520-532; Samulski R et al. (1989), J. Virol. 63: 3822-3826; 米国特許第5,2
52,479号; 米国特許第5,139,941号; 国際特許出願第WO 94/13788号; および国際特許出願第WO 93/24641号に記載されている。
【0073】
III.dsRNAを含む医薬組成物
1つの実施形態では、本発明は、本明細書に記載されるdsRNAと、薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物を提供する。dsRNAを含む医薬組成物は、PML等のJCウイルス遺伝子の発現または活性および/またはウイルス感染に関連した疾患または障害を治療するのに有用である。かかる医薬組成物は送達の様式に従って調製される。一つの例は、非経口送達を介して全身投与用に調製された組成物である。
【0074】
本発明の医薬組成物はJCウイルス遺伝子の発現を抑制するのに十分な用量で投与される。本発明者らは、有効性が高められたことにより本発明のdsRNAを含む組成物を驚くほど低用量で投与することができることを見出した。1日に被投与者の体重(キログラム)あたり5mgのdsRNAを最大用量とすると、JCウイルス遺伝子の発現を抑制または完全に抑止するのに十分である。
【0075】
通常、dsRNAの適切な用量は、1日に被投与者の体重(キログラム)当たり0.01〜5.0ミリグラムの範囲、好ましくは1日に体重(キログラム)当たり1マイクログラム〜1mgの範囲になるであろう。医薬組成物は1日に1回投与されてもよいし、あるいは、dsRNAが、その日を通じて適切な間隔で2、3、4、5または6回以上の分割用量として、または徐放性製剤の持続注入または送達を使用して投与されてもよい。その場合、それぞれの分割用量に含まれるdsRNAは1日あたりの合計用量を達成するように相応に少なくなるはずである。投薬単位は、数日間にわたって送達されるように、例えば、数日間にわたりdsRNAを持続的に放出する従来の徐放性剤型を使用して、調合されてもよい。徐放性剤型は当分野においてよく知られている。この実施形態では、投薬単位は1日の用量の倍数相当を含んでいる。
【0076】
当業者には当然のことであるが、ある種の要因は対象を有効に治療するために必要な投薬量およびタイミングに影響を及ぼす可能性があり、該要因は、限定するものではないが、例えばその疾患または障害の重症度、事前の治療、対象の全体的な健康状態および/または年齢、ならびにその他の疾患の存在である。さらに、治療上有効な量の組成物を用いた対象の治療は、単回の治療であってもよいし、一連の複数の治療を含んでもよい。本明細書中に別記されるように、本発明に包含される個々のdsRNAについての有効な投薬量およびin vivoにおける半減期の評価は、従来の方法論を用いて為されてもよいし、あるいは適切な動物モデルを使用したin vivo試験に基づいて為されてもよい。
【0077】
マウス遺伝学の進歩により、JCウイルス発現により媒介される病理過程のような様々なヒト疾患に関する研究のための多くのマウスモデルが生み出されている。そのようなモデルは、dsRNAのin vivo試験、ならびに治療上有効な用量の決定に使用される。
【0078】
本発明は、本発明のdsRNA化合物を含む医薬組成物および製剤も包含する。本発明の医薬組成物は、局所治療が望まれるかまたは全身治療が望まれるか、および治療部位に従って、多くの方法で投与することが可能である。投与は、局所、肺(例えば噴霧器等による粉末やエアロゾルの吸入または吹送)、気管内、鼻腔内、上皮、経皮)、口腔内または非経口であり得る。非経口投与には、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内への注射または注入、もしくは頭蓋内、例えば髄腔内または脳室内への投与が含まれる。
【0079】
経口投与用の組成物および製剤には、散剤もしくは顆粒剤、マイクロ粒子、ナノ粒子、
水中もしくは非水性媒体中の懸濁液もしくは溶液、カプセル剤、ゲルカプセル剤、サシェ剤、錠剤または小型錠剤が含まれる。増粘剤、香料、賦形剤、乳化剤、分散助剤または結合剤が望ましい場合もある。
【0080】
非経口、髄腔内または脳室内投与のための組成物および製剤は、無菌の水溶液を含みうるものであり、該水溶液は、バッファー、希釈剤およびその他の適切な添加剤、例えば、限定するものではないが浸透促進剤、担体化合物、およびその他の薬学的に許容可能な担体もしくは賦形剤も含みうる。
【0081】
本発明の医薬組成物としては、限定するものではないが、液剤、乳剤、およびリポソーム含有製剤が挙げられる。これらの組成物は、限定するものではないが、予め形成された液剤、自己乳化型の固体および自己乳化型の半固体を含む様々な構成成分から生成可能である。
【0082】
本発明の医薬製剤(便利なように単位投与形態で提供されうる)は、医薬品産業においてよく知られた従来の技術に従って調製可能である。そのような技術は、有効成分を製薬用の担体または賦形剤とともに会合させるステップを含んでいる。一般に、製剤は、有効成分を液体担体もしくは微粉固体担体または両方とともに均一かつ念入りに会合させ、次いで必要な場合は生成物を成形することにより調製される。
リポソーム
薬物の製剤化用に研究・使用されているものには、マイクロエマルション以外にも、多くの組織化界面活性剤構造がある。そのような構造には、単分子膜、ミセル、二分子膜、およびベシクルが含まれる。例えばリポソームなどのベシクルは、薬物送達という観点から、それらが提供する特異性および作用の持続時間のために高い関心を集めている。本発明において、用語「リポソーム」とは、1つまたは複数の球状二分子膜状に配置された両親媒性脂質から構成されたベシクルを意味する。
【0083】
リポソームは、脂溶性物質と水性内部とから構成された膜を有する一枚膜または多重膜のベシクルである。水性部は、送達する組成物を含有している。カチオン性リポソームは、細胞壁に融合可能であるという利点を有している。非カチオン性リポソームは、細胞壁に効率的に融合することはできないが、in vivoでマクロファージに貪食される。
【0084】
脂質ベシクルが哺乳動物の無傷の皮膚を通過するためには、適切な経皮勾配の影響下に、それぞれ50nm未満の径を有する一連の細孔を通過しなければならない。したがって、高度に変形可能で、上記のような細孔を通過できるリポソームを使用するのが望ましい。
【0085】
リポソームのさらなる利点としては、天然のリン脂質から得たリポソームは生体適合性かつ生分解性であること、リポソームには、多岐にわたる水溶性および脂溶性薬物を組み込み得ること、リポソームはその内部コンパートメント内に封入した薬物を代謝および分解から保護できることが挙げられる〔Rosoff, in Pharmaceutical Dosage Forms, Lieberman, Rieger and Banker (Eds.), 1988, Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., volume
1, p. 245〕。リポソーム製剤の製造に際して考慮すべき重要な点は、脂質の表面電荷、ベシクルのサイズおよびリポソームの含水量である。
【0086】
リポソームは、有効成分を作用部位に移動・送達するのに有用である。リポソーム膜は、構造的に生体膜に似ているので、リポソームを組織に適用すると、リポソームは細胞膜と融合し始め、リポソームと細胞の融合が進行するにつれ、リポソームの内容物は、有効成分が作用し得る細胞内に取り込まれてゆく。
【0087】
リポソーム製剤は、多くの薬物送達様式として広範な調査の対象となっている。局所投与の場合、リポソームは他の製剤より優れたいくつかの利点を有するという証拠が増大している。そのような利点としては、投与される薬物の高体内吸収に関連する副作用が減少すること、投与薬物の所望のターゲットにおける堆積が増加すること、および親水性・疎水性を問わず多岐にわたる薬物を皮膚に投与できることが挙げられる。
【0088】
いくつかのレポートに、高分子量DNAを含めた作用剤を皮膚に送達するリポソームの能力が詳述されている。鎮痛薬、抗体、ホルモンおよび高分子量DNAを含めた化合物が皮膚に投与されている。適用のほとんどは、表皮上層をターゲットとするものであった。
【0089】
リポソームはおおざっぱに2つの種類に分類される。カチオン性リポソームは正帯電性リポソームであり、負帯電性DNA分子と相互作用して安定した複合体を形成する。正帯電性DNA/リポソーム複合体は、負帯電性細胞表面に結合して、エンドソームに取り込まれる。エンドソーム内のpHは酸性であるために、リポソームは破裂して、その内容物を細胞質中に放出する(Wa ng et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 1987, 147,
980-985)。
pH感受性または負帯電性であるリポソームは、DNAと複合体を形成するのではなくDNAを取り込む。DNAも脂質も同様に帯電しているので、複合体の形成ではなく反発作用が生じる。しかし、DNAの中には、これらのリポソームの水性内部内に取り込まれるものがある。pH感受性リポソームは、培養液中で、チミジンキナーゼ遺伝子をコードするDNAを細胞単層に送達するのに用いられている。ターゲット細胞で外来遺伝子の発現が検出された(Zhou et al., Journal of Controlled Release, 1992, 19, 269-274)。1つの主要タイプのリポソームは、天然のホスファチジルコリン以外のリン脂質を含んでいる。例えば、中性のリポソーム組成物は、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)またはジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)から形成することができる。アニオン性リポソーム組成物は、一般に、ジミリストイルホスファチジルグリセロールから形成されるが、アニオン性融合性リポソームは、主として、ジオールコイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)から形成される。別のタイプのリポソーム組成物は、ホスファチジルコリン(PC)、例えば、ダイズPCやタマゴPCなどから形成される。ほかのタイプのものは、リン脂質および/またはホスファチジルコリンおよび/またはコレステロールの混合物から形成される。
いくつかの研究では、リポソーム薬物製剤の皮膚への局所送達を評価している。インターフェロンを含有するリポソームをモルモットの皮膚に投与すると、皮膚のヘルペス痛が軽減されたが、他の手段を介した(例えば、溶液またはエマルションとしての)インターフェロンの送達は効果がなかった(Weiner et al., Journal of Drug Targeting, 1992, 2,
405-410)。さらに、もう1つの研究では、水溶液系を用いたインターフェロン投与に対してリポソーム製剤の一部として投与したインターフェロンの薬効をテストし、リポソーム製剤は水溶液投与より優れているとの結論に達した(du Plessis et al., Antiviral Research, 1992, 18, 259-265)。
また、非イオン性リポソームシステム、特に非イオン性界面活性剤およびコレステロールを含むシステムを、皮膚への薬物送達におけるそれらの実用性を測定するために調べた。マウスの皮膚の真皮にシクロスポリンAを送達するために、Novasome.TM.I(グリセリルジラウレート/コレステロール/ポリオキシエチレン−10−ステアリルエーテル)とNovasome.TM.II(グリセリルジステアレート/コレステロール/ポリオキシエチレン−10−ステアリルエーテル)を含む非イオン性リポソーム製剤を用いた。その結果によると、そのような非イオン性リポソーム系は皮膚のさまざまな層へのシクロスポリンAの堆積を促進するのに有効であった(Hu et al., S. T. P. Pharma. Sci., 1994, 4, 6, 466)。
【0090】
リポソームには、さらに、「立体的に安定化させた」(sterically stabilized)リポ
ソームが含まれるが、この用語は、本明細書においては、1または複数種の特殊な脂質を含むリポソームを指し、こうした脂質は、リポソームに組み込まれると、そのような特殊な脂質を含まないリポソームに比べて循環血中寿命が高められる。立体的に安定化させたリポソームの例は、リポソームのベシクル形成脂質部の一部が、(A)1または複数種の糖脂質、例えば、モノシアロガングリオシド G.sub.M1を含むか、または(B)1または複数種の親水性ポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)部分で誘導体化されているものである。特定の理論に拘束されることは意図しないが、当該技術分野においては、少なくとも、ガングリオシド、スフィンゴミエリン、またはPEG誘導体化脂質を含有する立体的に安定化させたリポソームの場合、これらの立体的に安定化させたリポソームの高い循環血中半減期は、細網内皮系(RES)細胞への取り込み量の低下に由来すると考えられている(Allen et al., FEBS Letters, 1987, 223, 42; Wu et al., Cancer Research, 1993, 53, 3765)。
【0091】
当該技術分野では1または複数種の糖脂質を含むさまざまなリポソームが知られている。パパハジョプーロスら(Papahadjopoulos et al.)(Ann. N. Y. Acad. Sci., 1987, 507, 64)は、リポソームの血中半減期を延ばすモノシアロガングリオシドG.sub.M1、ガラクトセレブロシド硫酸エステルおよびホスファチジルイノシトールの能力を報告した。これらの知見については、ガビゾンら(Gabizon et al.)(Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 1988, 85, 6949)が詳しく説明した。いずれもアレンら(Allen et al.)に付与された米国特許第4,837,028号およびWO88/04924号は、(1)スフィンゴミエリンと(2)ガングリオシドG.sub.M1またはガラクトセレブロシド硫酸エステルとを含むリポソームを開示している。米国特許第5,543,152号〔ウエッブら(Webb et al.)〕は、スフィンゴミエリンを含むリポソームを開示している。
1,2−sn−ジミリストイルホフファチジルコリンがWO97/13499号〔リムら(Lim et la)〕に開示されている。
【0092】
当該技術分野では、1または複数種の親水性ポリマーで誘導体化された脂質を含む多くのリポソームおよびそれらの製造法が周知である。スナモトら(Sunamoto et al.)(B ull. Chem. Soc. Jpn., 1980, 53, 2778)は、PEG部分を含有する非イオン性界面活性
剤、2C.sub.1215Gを含むリポソームを記載した。イルムら(Illum et al.)(FEBS Lett., 1984, 167, 79)は、ポリスチレン粒子をポリマーグリコールで親水性コーティングすることにより、血中半減期が著しく向上すると指摘した。ポリアルキレングリコール(例えば、PEG)のカルボン酸基を付けて修飾した合成リン脂質がシアーズ(Sears)(米国特許第4,426,330号および同第4,534,899号)により
記載されている。クリバノフら(Klibanov et al.)(FEBS Lett., 1990, 267,235)は、PEGまたはPEGステアレートで誘導体化したホスファチジルエタノールアミン(PE)を含むリポソームが循環血中半減期を著しく増大させることを実証する実験を記載した。ブリュームら(Blume et al.)(Biochimica et Biophysica Acta, 1990, 1029, 91)
は、上記のような観察結果を、他のPEG誘導体化リン脂質、例えば、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE)とPEGとの組み合わせから形成されたDSPE−PEGにも適用した。外面に共有結合PEG部分を有するリポソームが、フィッシャー(Fisher)に付与された、欧州(EP)特許第0 445 131 B1号およびWO90/04384号に記載されている。1〜20モル%のPEG誘導体化PEを含有するリポソーム組成物およびその使用法が、ウードルら(Woodle et al.)(米国特許第5
,013,556号および同第5,356,633号)ならびにマーチンら(Martin et al.)(米国特許第5,213,804号および欧州(EP)特許第0 496 813
B1号)により記載されている。多くの他の脂質・ポリマーコンジュゲートを含むリポソームが、WO91/05545号および米国特許第5,225,212号(いずれもマーチンらに付与)ならびにWO94/20073号〔ザリプスキーら(Zalipsky et al.
)〕で開示されている。PEG修飾セラミド脂質を含むリポソームがWO96/1039
1号〔チョイら(Choi et al.)〕に記載されている。米国特許第5,540,935号
〔ミヤザキら(Miyazaki et al.)〕および米国特許第5,556,948号〔タガワら
(Tagawa et al.)〕は、さらに表面の官能基で誘導体化し得るBEG含有リポソームを
記載している。
【0093】
当該技術分野では、核酸を含むリポソームはわずかしか知られていない。ティエリーら(Tierry et al.)に付与されたWO96/40062号は、高分子量の核酸をリポソー
ムに封入する方法を開示している。タガワら(Tagawa et al.)に付与された米国特許第
5,264,221号は、タンパク質結合リポソームを開示しており、そのようなリポソームの内容物には、dsRNA、RNAが含まれると主張している。ラーマンら(Rahman
et al.)に付与された米国特許第5,665,710号は、オリゴデオキシヌクレオチ
ドをリポソームに封入するいくつかの方法を記載している。ラブら(Love et al.)に付
与されたWO97/04787号は、raf遺伝子をターゲットとするdsRNA dsRNAsを含むリポソームを開示している。
【0094】
トランスフェルソームはさらに別のタイプのリポソームであり、薬物送達ビヒクルの魅力的な候補である高変形性脂質集合体である。トランスフェルソームは脂質滴と言ってもよく、非常に変形性が高いので、脂質滴より小さい細孔を容易に貫通し得る。トランスフェルソームは使用環境に適応可能であり、例えば、自己最適化性(皮膚の細孔形状に適合可能)、自己修復性であり、高頻度で砕けずにターゲットに到達し、多くの場合、自動装填性である。トランスフェルソームを作製するために、標準リポソーム組成物に、表面エッジ活性化剤(surface edge-activator)、通常、界面活性剤を添加することができる。トランスフェルソームは、皮膚に血清アルブミンを送達するのに用いられている。トランスフェルソームを介した血清アルブミンの送達は、血清アルブミン含有溶液の皮下注射と同じくらい有効であることが証明されている。
【0095】
界面活性剤は、(マイクロエマルションを含めた)エマルションやリポソームなどの製剤に広く用いられている。天然のみならず合成の多くの異なるタイプの界面活性剤を分類し、ランク付けする最も一般的な方法は、親水性・親油性バランス(HLB)を使用する方法である。(「ヘッド」としても知られている)親水基の性質は、製剤に用いられるさまざまな界面活性剤を分類するのに最も有用な手段となる(Rieger, in Pharmaceutical Dosage Forms, Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., 1988, p.285)。
【0096】
界面活性剤分子は、イオン化されていない場合、非イオン性界面活性剤と分類される。非イオン性界面活性剤は、医薬品や化粧品に広く適用されており、広範なpH範囲にわたって使用可能である。一般に、非イオン性界面活性剤のHLB値は、それらの構造に応じて2〜約18の範囲である。非イオン性界面活性剤には、非イオン性エステル、例えば、エチレングリコールエステル、プロピレングリコールエステル、グリコールエステル、グリセリルエステル、ポリグリセリルエステル、ソルビタンエステル、スクロースエステル、およびエトキシル化エステルが含まれる。非イオン性アルカノールアミドや、例えば、脂肪アルコールエトキシレート、プロポキシル化アルコールおよびエトキシル化/プロポキシル化ブロックポリマーなどもこの分類に含まれる。ポリオキシエチレン界面活性剤は、非イオン性界面活性剤類のうちで最も良く知られているメンバーである。
【0097】
界面活性剤分子が水中に溶解または分散しているとき負に帯電している場合、この界面活性剤はアニオン性に分類される。アニオン性界面活性剤には、カルボキシレート、例えば、石けん、アシルラクチレート、アミノ酸のアシルアミド、硫酸のエステル、例えば、アルキルスルフェートおよびエトキシル化アルキルスルフェート、スルホネート、例えば、アルキルベンゼンスルホネート、アシルイセチオネート、アシルタウレートおよびスルホスクシネート、ならびにホスフェートが含まれる。アニオン性界面活性剤類のうちで最
も重要なメンバーは、アルキルスルホネートおよび石けんである。
【0098】
界面活性剤分子が水中に溶解または分散しているときに正に帯電しる場合、この界面活性剤はカチオン性に分類される。カチオン性界面活性剤には、第四級アンモニウム塩およびエトキシル化アミンが含まれる。第四級アンモニウム塩はこの分類中最も良く使用されているメンバーである。
【0099】
界面活性剤分子が正または負の電荷を担持する能力を有する場合、この界面活性剤は両性に分類される。両性界面活性剤には、アクリル酸誘導体、置換アルキルアミド、N−アルキルベタインおよびホフファチドが含まれる。
【0100】
医薬品、製剤、およびエマルションにおける界面活性剤の使用が概説されている(Rieger, in Pharmaceutical Dosage Forms, Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., 1988, p.285)。
【0101】
本発明の医薬組成物および他の組成物には、dsRNAの細胞レベルでの取り込みを強化する作用剤をさらに添加し得る。例えば、リポフェクチン(Junichi et al., U.S. Pat.No.5,705,188)などのカチオン性脂質、カチオン性グリセロール誘導体や、ポリリシン
(Lollo et al., PCT Application WO 97/30731)などのポリカチオン分子もdsRNA
の細胞取り込みを強化することが知られている。
【0102】
投与する核酸の貫通率を高めるために、エチレングリコールやプロピレングリコールなどのグリコール、2−ピロールなどのピロール、アゾン、およびリモネンやメントンなどのテルペンを含めた他の作用剤を利用し得る。
【0103】
担体
本発明のいくつかの組成物は、製剤中にさらに担体化合物を組み込む。本明細書において、「担体化合物」または「担体」は、核酸、またはそのアナログに関連し得、不活性ではあるが(すなわち、それ自体、生物活性を有していないが)、例えば、生物学的に活性な核酸を分解するか、核酸の循環血液中からの除去を促進することにより、生物活性を有する核酸のバイオアベイラビリティーを低下させる生体内プロセスによって核酸として認識される。核酸と、通常過剰量の担体化合物とを同時投与することにより、恐らく担体化合物と核酸が共通の受容体に対して競合するために、肝臓、腎臓または他の循環外貯蔵器(extracirculatory reservoirs)に回収される核酸の量を実質的に減少させ得る。例え
ば、部分的ホスホロチオアート dsRNAと、ポリイノシン酸、デキストランスルフェート、ポリシチジン酸または4−アセトアミド−4’イソチオシアノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸とを同時投与すると、肝組織における部分的ホスホロチオアート dsRNAの回収を減少させることができる(Miyao et al., DsRNA Res. Dev., 1995, 5, 115-121; Takakura et al., DsRNA & Nucl. Acid Drug Dev., 1996, 6, 177-183)。
【0104】
賦形剤
担体化合物とは違って、「医薬担体」または「賦形剤」は、1または複数種の核酸を動物に送達するための医薬上許容される溶媒、懸濁剤または任意の他の薬理学的に不活性なビヒクルである。賦形剤は、液体でも固体でもよく、考慮された計画的投与法に基づいて、核酸や所与の医薬組成物の他の成分と組み合わせたときに、所望のバルク、整合性などが得られるように選択する。典型的な医薬担体としては、結合剤(例えば、プレゼラチン化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロースなど);充填剤(例えば、ラクトースおよび他の糖類、微晶質セルロース、ペクチン、ゼラチン、硫酸カルシウム、エチルセルロース、ポリアクリレートまたはリン酸水素カルシウムなど);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、シリカ、コロイ
ド状二酸化ケイ素、ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、水素化植物油、コーンスターチ、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなど);崩壊剤(例えば、スターチ、ナトリウムスターチグリコール酸塩など);および湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウムなど)が挙げられるが、それらには限定されない。
【0105】
本発明の組成物の製剤化には、核酸と有害な反応をしない、非経口投与に適した、医薬上許容される有機または無機賦形剤を使用することもできる。適当な医薬上許容される担体としては、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、種々のパラフィン、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられるが、それらには限定されない。
【0106】
適当な医薬上許容される賦形剤としては、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、種々のパラフィン、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられるが、それらには限定されない。
【0107】
他の成分
本発明の組成物は、さらに、医薬組成物中に通常見られる他の補助成分を当該技術分野で確立された使用量(art-established usage level)で含み得る。したがって、例えば
、本発明の組成物は、追加の相溶性薬理活性物質、例えば、かゆみ止め剤、収斂剤、局所麻酔剤または抗炎症剤などを含むか、または、本発明組成物のさまざまな剤形を物理的に製剤化するのに有用な追加物質、例えば、染料、香料、保存剤、酸化防止剤、乳白剤、増粘剤および安定剤などを含み得る。しかし、そのような物質は、添加する場合、本発明の組成物成分の生物活性に必要以上に干渉するものであってはならない。本発明の製剤は、滅菌し、必要に応じて、製剤中の核酸と有害な相互作用をしない助剤、例えば、潤滑剤、保存剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧を支配する塩、緩衝剤、着色剤、矯味/香味物質などと混合することができる。
【0108】
水性懸濁液は、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトールおよび/またはデキストランを含めた、懸濁液の粘度を増大させる物質を含み得る。懸濁液はさらに安定剤を含み得る。
【0109】
本発明のいくつかの実施形態は、(a)1または複数種のアンチセンス化合物と、(b)非アンチセンス機構によって機能を果たす1または複数種の他の化学療法剤とを含む医薬組成物を提供する。そのような化学療法剤の例としては、ダウノルビシン、ダウノマイシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、エソルビシン、ブレオマイシン、マフォスファミド、イフォスファミド、シトシンアラビノシド、ビス−クロロエチルニトロソウレア、ブスルファン、ミトマイシンC、アクチノマイシンD、ミスラマイシン、プレドニソン、ヒドロキシプロゲステロン、テストステロン、タモキシフェン、ダカルバジン、プロカルバジン、ヘキサメチルメラミン、ペンタメチルメラミン、ミトキサントロン、アムサクリン、クロルアンブシル、メチルシクロヘキシルニトロソウレア、ナイトロジェンマスタード、メルファラン、シクロホスファミド、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、シタラビン、5−アザシチジン、ヒドロキシウレア、デオキシコフォルマイシン、4−ヒドロキシペロキシシクロホスホールアミド、5−フルオロウラシル(5−FU)、5−フルオロデオキシウリジン(5−FUdR)、メトトレキサート(MTX)、コルヒチン、タキソール、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド(VP−16)、トリメトレキサート、イリノテカン、トポテカン、ゲムシタビン、テニポシド、シスプラチンおよびジエチルスチルベストロール(DES)が挙げられるが、それらには限定されない。概括的には、The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 1
5th Ed. 1987, pp. 1206-1228, Berkow et al., eds., Rahway, N.J.参照。そのような化学療法剤は、本発明の化合物と共に使用する際には、個別に(例えば、5−FUとオリゴヌクレオチド)、連続的に(例えば、一定時間、5−FUとオリゴヌクレオチド、続いて、MTXとオリゴヌクレオチド)、または1または複数種の他のそのような化学療法剤と組み合わせて(例えば、5−FU、MTXとオリゴヌクレオチド、または5−FU、放射線治療とオリゴヌクレオチド)用い得る。本発明の組成物では、非ステロイド性抗炎症薬およびコルチコステロイドを含むがそれらには限定されない抗炎症薬と、リビビリン、ビダラビン、アシクロビルおよびガンシクロビルを含むがそれらには限定されない抗ウイルス薬とを組み合わせてもよい。概括的には、The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 15th Ed., Berkow et al., eds., 1987, Rahway, N.J.のそれぞれ2499-2506ページお
よび46-49ページ参照。他の非アンチセンス化学療法剤も本発明の範囲内である。2種以上の組み合わせ化合物を同時にまたは連続して用いてもよい。
【0110】
上記化合物の毒性および治療効果は、例えばLD50(集団の50%致死量)およびED50(集団の50%治療有効量)を測定するための、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順によって決定することができる。毒性と治療効果との間の用量比は治療指数であり、これは、LD50/ED50比として表すことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。
【0111】
細胞培養アッセイおよび動物実験から得たデータは、ヒトで使用するための用量範囲の策定に使用することができる。本発明の組成物の用量は、一般に、毒性をほとんどまたは全く伴わないED50を含む循環血中濃度範囲内にある。用量は、この範囲内で、使用する剤形および利用する投与経路に応じて異なり得る。本発明の方法で使用するいずれの化合物の場合も、治療有効量は、先ず、細胞培養アッセイから決定することができる。用量は、動物モデルにおいては、細胞培養で測定したIC50(つまり症状の最大抑制の50%を達成するのに必要な試験化合物の濃度)を含む化合物の循環血漿中濃度範囲、または適切な場合にはターゲット配列のポリペプチド生成物の(例えば、ポリペプチドの濃度減少を達成する)循環血漿中濃度範囲が得られるように策定可能である。そのような情報は、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。血漿中濃度は、例えば高速液体クロマトグラフィによって測定可能である。
本発明のdsRNAは、上記に説明したような個別投与または複数投与に加えて、JCウイルス発現によって媒介される病理過程の治療に有効な他の既知作用剤と併用投与することができる。いずれの場合にも、投与する医師は、当該技術分野で周知または本明細書に記載の標準的な有効性の尺度を用いて観察した結果に基づいて、dsRNA投与の量およびタイミングを調節することができる。
【0112】
JCウイルス由来遺伝子の発現によって起こる疾患を治療する方法
本発明は、特に、JCウイルス感染、例えば、PMLに関連する病的状態を治療または予防するためのdsRNAまたはdsRNAから作られた医薬組成物の使用に関する。本発明のdsRNAまたはdsRNAから作られた医薬組成物は、JCウイルス発現に対する抑制作用のために、特に、MSの治療の一部として抗VLA4抗体で治療を受けている患者の生活の質を高めることができる。
【0113】
本発明はさらに、PMLを治療するために、dsRNAまたはその医薬組成物を、他の医薬品および/または他の治療法と併用して、例えば、既知医薬品および/または既知治療法、例えば、ガンの治療および/または腫瘍転移の予防のために現在用いられているものなどと併用することに関する。放射線治療や、化学療法剤、例えば、シスプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシンまたはタモキシフェンなどと併用するのが好ましい。
【0114】
本発明はさらに、特異的RNAi剤と、従来の化学療法剤などの別の抗ガン化学療法剤とを組み合わせて実施することもできる。特異的結合剤とそのような他の作用剤とを併用することにより化学療法プロトコルの治療効果を高めることができる。本発明の方法に組み込み得るものとして多くの化学療法プロトコルが当業者の心に浮かぶであろう。アルキル化剤や、代謝拮抗剤、ホルモンおよびアンタゴニスト、放射線同位元素、ならびに天然物を含めた任意の化学療法剤を使用することができる。例えば、本発明の化合物は、ドキソルビシンおよび他のアントラサイクリンアナログなどの抗生物質、シクロホスファミドなどのナイトロジェンマスタード、5−フルオロウラシルなどのピリミジンアナログ、シスプラチン、ヒドロキシウレア、タキソールおよびその天然および合成誘導体などと併せて投与することができる。別の例として、例えば、腫瘍がゴナドトロピン依存性細胞とゴナドトロピン非依存性細胞とを含む乳腺腺癌などの混合腫瘍の場合、本発明の化合物は、ロイプロリドまたはゴセレリン(LH−RHの合成ペプチドアナログ)と併せて投与することができる。他の抗腫瘍プロトコルには、テトラサイクリン化合物と、本明細書では「付加抗腫瘍モダリティー」とも称される別の治療モダリティー、例えば、外科手術、放射線などとの併用も含まれる。したがって、本発明の方法は、そのような従来の投薬計画と併用して、副作用を軽減し、かつ効力を増強するという利点を得ることができる。
【0115】
JCウイルス由来遺伝子の発現を抑制する方法
さらに別の態様で、本発明は、哺乳動物におけるJCウイルス由来の遺伝子の発現を抑制する方法を提供する。この方法は、ターゲットJCウイルスゲノムの発現がサイレンシングされるように、哺乳動物に本発明の組成物を投与するステップを含む。本発明のdsRNAは、特異性が高いために、ターゲットJCウイルス遺伝子のRNA(第一次RNAまたはプロセシング後RNA)を特異的にターゲットとする。dsRNAを用いたこれらのJCウイルスの発現を抑制する組成物および方法は、本明細書中に別記されるようにして実施することができる。
【0116】
本発明の方法は、1つの実施形態において、治療する哺乳動物に、JCウイルス遺伝子のRNA転写物の少なくとも一部に相補的なヌクレオチド配列を有するdsRNAを含む組成物を投与するステップを含む。治療する生物がヒトなどの哺乳動物である場合、組成物は、経口または非経口経路、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、経皮、気道内(エアロゾール)、鼻腔内投与を含むが、それらには限定されない、当該技術分野では周知の任意の手段を用いて投与し得る。好ましい実施形態において、組成物は、静脈内注入または注射により投与される。
【0117】
別途定義のないかぎり、本明細書中で使用される技術用語および科学用語はすべて本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または等価である方法および材料を本発明の実施または試験に用いることも可能であるが、適切な方法および材料については下記に述べる。本明細書で記載のすべての出版物、特許出願、特許、および他の参考文献はそれらの内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。矛盾が生じる場合には、定義を含めて本明細書に従う。さらに、材料、方法および実施例は一例に過ぎず、限定することを意図したものではない。
【0118】
実施例
JCV siRNAの設計
2006年4月10日に利用可能なJCウイルスの全長ゲノム配列を得て、388個の配列からなるターゲットプールを調製した(アクセス番号:AB038239.1−AB038255.1;AB048545.1−AB048582.1;AB074575.1−AB074591.1;AB077855.1−AB077879.1;AB081005.1−AB081030.1;AB081600.1−AB081618.1;AB081654.1;AB092578.1−AB092587.1;AB103387
.1;AB103402.1−AB103423.1;AB104487.1;AB113118.1−AB113145.1;AB118651.1−AB118659.1;AB126981.1−AB127027.1;AB127342.1;AB127344.1;AB127346.1−AB127349.1;AB127352.1−AB127353.1;AB198940.1−AB198954.1;AB220939.1−AB220943.1;AF004349.1−AF004350.1;AF015526.1−AF015537.1;AF015684.1;AF030085.1;AF281599.1−AF281626.1;AF295731.1−AF295739.1;AF300945.1−AF300967.1;AF363830.1−AF363834.1;AF396422.1−AF396435.1;AY121907.1−AY121915.1;NC 001699.1;U61771.1;U73500.1−U73502.1)。NC 001699を参照配列とした。
【0119】
siRNAの選定過程は以下のように実施した:ターゲットプールから全配列のグローバルアラインメントを生成するために、ClustalWマルチプルアラインメントを用いた。次いで、IUPACコンセンサス配列を生成した。
A、T、CまたはG塩基のみを含むストレッチで表され、したがって、ターゲットプールの全配列中に存在するIUPACコンセンサス配列からのすべての保存された19merターゲット配列を選択した。JCウイルスの転写配列部分をターゲットとするsiRNAのみを選択するために、保存された19merターゲット配列のプールから候補ターゲット配列を選択した。このために、それぞれ後期および初期遺伝子用に、参照配列に関してヌクレオチド163〜259の領域をカバーする候補ターゲット配列と2527〜5115の領域をカバーする候補ターゲット配列を抽出した。さらに、初期遺伝子の配列はゲノム配列と比べて逆相補配列方向にあるので、これらの遺伝子の候補ターゲット配列を逆相補配列に移し、前者の候補ターゲット配列プールに代えた。
【0120】
候補ターゲット配列とその各siRNAをランク付けし、適切なものを選択するために、予測されるそれらの関連ターゲットとの相互作用の可能性(オフターゲットの可能性)をランク付けパラメータとみなした。オフターゲットの可能性が低いsiRNAを好ましいものと定義し、in vivoでより特異的であると推測した。
【0121】
siRNAに特有なオフターゲットの可能性を予測するために、以下の仮設をたてた:(1) 鎖の(5’−3’方向に数えて)2〜9位(シード領域)では、残りの配列(非シードおよび切断部位領域)よりオフターゲットの可能性が高くなり得る;
(2) 鎖の(5’−3’方向に数えて)10及び11位(切断部位領域)では、非シード領域よりオフターゲットの可能性が高くなり得る;
(3) オフターゲットスコアは、ヒットするたびに、siRNA配列に対する同一性およびミスマッチの位置に基づいて計算することができる;
(4)導入される内部修飾によってセンス鎖の活性が阻止され得ると仮定すれば、アンチセンス鎖のオフターゲット可能性のみが関係がある。
【0122】
潜在的オフターゲット遺伝子を同定するために、公的に入手可能なヒトmRNA配列に対して19mer入力配列を相同性検索にかけた。
この目的のために、ヒトRefSeqデータベース(2006年11月7日にftp://ftp.ncbi.nih.gov/refseqからダウンロードした入手可能なバージョン)に対して、すべての19mer候補ターゲット配列に関してfastA(バージョン3.4)検索を実施した。fastA検索は、ギャップを含まない19merの全長にわたる相同性を考慮に入れるために、パラメータ値ペア−f50/g50を用いて実行した。fastA出力ファイル中のすべての関連オフターゲットヒットを確実にリストにするために、さらにパラメータ−E30000を用いた。すべてのヌクレオチドマッ
チをスコア13と評価し、すべてのミスマッチを−7と評価する検索の実行にスコアリングマトリックスを適用した。この検索の結果、各候補siRNAに関する潜在的オフターゲットのリストを得た。
【0123】
得られた各siRNAに関する潜在的オフターゲットのリストを分類するために、fastA出力ファイルを分析して、最適なオフターゲットとそのオフターゲットスコアを識別した。各オフターゲットに関して、各19mer入力配列の以下のオフターゲット特性を抽出して、オフターゲットスコアを計算した:
非シード領域中のミスマッチ数
シード領域中のミスマッチ数
切断部位領域中のミスマッチ数。
仮説1〜3を検討するためにオフターゲットスコアを以下のように計算した:
オフターゲットスコア = シード領域ミスマッチの数 10
+ 切断部位領域ミスマッチの数 1.2
+ 非シード領域ミスマッチの数
入力された各19mer入力配列に最も関連性のあるオフターゲット遺伝子を最低のオフターゲットスコアを有する遺伝子と定義した。したがって、最低のオフターゲットスコアを対応siRNAに対する関連オフターゲットスコアと定義した。
【0124】
siRNAのランキングを作成するために、計算した関連オフターゲットスコアを結果表に書き込んだ。すべてのsiRNAを、オフターゲットスコアに従って(下降)分類した。
【0125】
オフターゲットスコア2.2をsiRNA選択に関するカットオフ値(特異性基準)と定義した。さらに、シード領域中にミスマッチが1つしかない配列はすべてスクリーニング試験から排除した。選択手順の結果、一連の93JCV特異的siRNAを得た(表1a)。
【0126】
新たに利用可能になったヒトRefSeqデータベース〔RefSeqリリースバージョン21(2007年1月12日にダウンロード)のヒトmRNA配列〕に基づいて予測特異性を再計算し、1列に3つ以下のGしか含んでおらず、アンチセンス鎖に関するオフターゲットスコアが2以上の208siRNAのみを選択して、スクリーニングの拡大を行った(表1b)。
【0127】
JCV siRNAの合成
すべてのsiRNAは、標準手順に従って、AB13900 DNA合成装置において、0.2μmole合成スケールで合成した。
【0128】
初期スクリーニングセット(93個の異なるsiRNA配列)では、4種の異なる化学修飾法を用いた:
(a)外部/内部光(EEL) − センス鎖: 2’O−メチル 全ピリミジン、(5
’末端から数えて)ヌクレオチド20と21の間のPTO、3’末端のdTdT(ヌクレオチド20と21)
− アンチセンス鎖: 5’−UA−3’および5’−CA−3’モチーフ中のピリミジンにおける2’−O−メチル、(5’末端から数えて)ヌクレオチド20と21の間のPTO、3’末端におけるdTdT(ヌクレオチド20と21)
(b)アンチセンス鎖の2位におけるEELプラス2’−O−メチル(5’末端に5’−UA−3’および5’−CA−3’がない場合のみで、そうでなければ、すでにEELでカバーされている)
(c)センス鎖の2位におけるEELプラス2’−O−メチル(2位にピリミジンがない場合のみで、そうでなければ、すでにEELでカバーされている)
(d)センス鎖およびアンチセンス鎖の2位におけるEELプラス2’−O−メチル(すでにa、bおよびcでカバーされていない場合のみ)。
【0129】
拡大スクリーニングセット(208個の異なるsiRNA配列)の場合、siRNAは、dTdTオーバーハング〔アンチセンス鎖およびセンス鎖の3’
末端(ヌクレオチド20と21)におけるdTdT〕を有する非修飾RNAオリゴヌクレ
オチドからなっていた(表1b)。
【0130】
JCV siRNAのスクリーニング
JCV転写物をコードするレポーター系の構築
初期JCV転写物(E)配列をGENEART社〔ドイツ、レーゲンスブルク(Regensburg)所在〕で合成し、GENEART標準ベクターにクローン化した。第1アプローチで後期JCV転写物の配列を、2つのフラグメント:VP1タンパク質の転写物配列を含むL1と、VP2、VP3およびアグノタンパク質の配列を含むLA23とに分割した。フラグメントLA23に係るクローニング問題のために、第2アプローチで、この配列を2つのフラグメント(LA23 1−700とLA23 701−1438)に分割した。すべての配列をGENEARTで合成し、GENEART標準ベクターにクローン化した。全フラグメント(E、L1、LA23 1−700およびLA23 701−1438)を、XhoIおよびNotI〔共に、ドイツ、フランクフルト(Frankfurt)所在の
NEB社〕を介してpsiCheck−2〔ドイツ、マンハイム(Mannheim)所在のプロメガ(Promega)社〕にサブクローン化し、ウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼの終止コドンとポリAシグナルとの間にJCV配列を有する構築物を得た。
L1
CTCGAGACTTTTAGGGTTGTACGGGACTGTAACACCTGCTCTTGAAGCATATGAAGATGGCCCCAACAAAAAGAAAAGGAGAAAGGAAGGACCCCGTGCAAGTTCCAAAACTTCTTATAAGAGGAGGAGTAGAAGTTCTAGAAGTTAAAACTGGGGTTGACTCAATTACAGAGGTAGAATGCTTTTTAACTCCAGAAATGGGTGACCCAGATGAGCATCTTAGGGGTTTTAGTAAGTCAATTTCTATATCAGATACATTTGAAAGTGACTCCCCAAATAAGGACATGCTTCCTTGTTACAGTGTGGCCAGAATTCCACTACCCAATCTAA ATGAGGATCTAACCTGTGGAAATATACTAATGTGGGAGGCTGTGACCTTAAAAACTGAGGTTCTAGGGGTGACAACTTTGATGAATGTGCACTCTAATGGTCAAGCAACTCATGACAATGGTGCAGGAAAGCCAGTGCAGGGCACCAGCTTTCATTTTTTTTCTGTTGGCGGGGAGGCTTTAGAATTACAGGGGGTGGTTTTTAATTACAGAACAAAGTACCCAGATGGAACAATTTTTCCAAAGAATGCAACAGT GCAATCTCAAGTAATGAACACAGAGCACAAGGCGTACCTAGATAAGAACAAAGCATATCCTGTTGAATGTTGGGTTCCTGATCCCACCAGAAATGAAAACACAAGATATTTTGGGACACTAACAGGAGGAGAAAATGTTCCTCCAGTTCTTCATATAACAAACACTGCCACAACAGTGCTGCTTGATGAATTTGGTGTTGGGCCACTTTGCAAAGGTGACAACTTGTATTTGTCAGCTGTTGATGTTTGTGGAATG TTTACTAACAGATCTGGTTCCCAGCAGTGGAGAGGACTGTCCAGATATTTTAAGGTTCAGCTCAGAAAAAGGAGGGTTAAAAACCCCTACCCAATTTCTTTCCTTCTTACTGATTTGATTAACAGAAGGACCCCTAGAGTTGATGGGCAACCTATGTATGGTATGGATGCTCAGGTAGAGGAGGTTAGAGTTTTTGAGGGGACAGAGGAACTTCCAGGGGACCCAGACATGATGAGATATGTTGACAGATATGGAC AGTTGCAAACAAAGATGCTGTAATCAAAATCCTTTATTGTAATATGCAGTACATTTTAATAAAGTATAACCAGCTTTACTTTACAGTTGCAGTCATGCGGCCGC (配列番号931)


CTCGAGCCGCCTCCAAGCTTACTCAGAAGTAGTAAGGGCGTGGAGGCTTTTTAGGAGGCCAGGGAAATTCCCTTGTTTTTCCCTTTTTTGCAGTAATTTTTTGCTGCAAAAAGCTAAAATGGACAAAGTGCTGAATAGGGAGGAATCCATGGAGCTTATGGATTTATTAGGCCTTGATAGGTCTGCATGGGGGAACATTCCTGTCATGAGAAAAGCTTATCTGAAAAAATGCAAAGAACTCCACCCTGATAAAGGTGGGGACGAAGACAAGATGAAGAGAATGAATTTTTTATATAAAAAAATGGAACAAGGTGTAAAAGTTGCT CATCAGCCTGATTTTGGTACATGGAATAGTTCAGAGGTTGGTTGTGATTTTCCTCCTAATTCTGATACCCTTTATTGCAAGGAATGGCCTAACTGTGCCACTAATCCTTCAGTGCATTGCCCCTGTTTAATGTGCATGCTAAAATTAAGGCATAGAAACAGAAAATTTTTAAGAAGCAGCCCACTTGTGTGGATAGATTGCTATTGCTTTGATTGCTTCAGACAATGGTTTGGG
TGTGACTTAACCCAAGAAGCTC TTCATTGCTGGGAGAAAGTTCTTGGAGACACCCCCTACAGGGATCTAAAGCTTTAAGTGCCAACCTATGGAACAGATGAATGGGAATCCTGGTGGAATACATTTAATGAGAAGTGGGATGAAGACCTGTTTTGCCATGAAGAAATGTTTGCCAGTGATGATGAAAACACAGGATCCCAACACTCTACCCCACCTAAAAAGAAAAAAAAGGTAGAAGACCCTAAAGACTTTCCTGTAGATCTGCATGCATTCCTCAG TCAAGCTGTGTTTAGTAATAGAACTGTTGCTTCTTTTGCTGTGTATACCACTAAAGAAAAAGCTCAAATTTTATATAAGAAACTTATGGAAAAATATTCTGTAACTTTTATAAGTAGACATGGTTTTGGGGGTCATAATATTTTGTTTTTCTTAACACCACATAGACATAGAGTGTCAGCAATTAATAACTACTGTCAAAAACTATGTACCTTTAGTTTTTTAATTTGTAAAGGTGTGAATAAGGAATACTTGTTT TATAGTGCCCTGTGTAGACAGCCATATGCAGTAGTGGAAGAAAGTATTCAGGGGGGCCTTAAGGAGCATGACTTTAACCCAGAAGAACCAGAAGAAACTAAGCAGGTTTCATGGAAATTAGTTACACAGTATGCCTTGGAAACCAAGTGTGAGGATGTTTTTTTGCTTATGGGCATGTACTTAGACTTTCAGGAAAACCCACAGCAATGCAAAAAATGTGAAAAAAAGGATCAGCCAAATCACTTTAACCATCATG AAAAACACTATTATAATGCCCAAATTTTTGCAGATAGCAAAAATCAAAAAAGCATTTGCCAGCAGGCTGTTGATACTGTAGCAGCCAAACAAAGGGTTGACAGCATCCACATGACCAGAGAAGAAATGTTAGTTGAAAGGTTTAATTTCTTGCTTGATAAAATGGACTTAATTTTTGGGGCACATGGCAATGCTGTTTTAGAGCAATATATGGCTGGGGTGGCCTGGATTCATTGCTTGCTGCCTCAAATGGACAC TGTTATTTATGACTTTCTAAAATGCATTGTATTAAACATTCCAAAAAAAAGGTACTGGCTATTCAAGGGGCCAATAGACAGTGGCAAAACTACTTTAGCTGCAGCTTTACTTGATCTCTGTGGGGGAAAGTCATTAAATGTTAATATGCCATTAGAAAGATTAAACTTTGAATTAGGAGTGGGTATAGATCAGTTTATGGTTGTATTTGAGGATGTAAAAGGCACTGGTGCAGAGTCAAGGGATTTACCTTCAGGG CATGGCATAAGCAACCTTGATTGCTTAAGAGATTACTTAGATGGAAGTGTAAAAGTTAATTTAGAGAGAAAACACCAAAACAAAAGAACACAGGTGTTTCCACCTGGAATTGTAACCATGAATGAATATTCAGTGCCTAGAACTTTACAGGCCAGATTTGTAAGGCAGATAGATTTTAGACCAAAGGCCTACCTGAGAAAATCACTAAGCTGCTCTGAGTATTTGCTAGAAAAAAGGATTTTGCAAAGTGGTATGA CTTTGCTTTTGCTTTTAATCTGGTTTAGGCCAGTTGCTGACTTTGCAGCTGCCATTCATGAGAGGATTGTGCAGTGGAAAGAAAGGCTGGATTTAGAAATAAGCATGTATACATTTTCTACTATGAAAGCTAATGTTGGTATGGGGAGACCCATTCTTGACTTTCCTAGAGAGGAAGATTCTGAAGCAGAAGACTCTGGACATGGATCAAGCACTGAATCACAATCACAATGCTTTTCCCAGGTCTCAGAAGCCTC TGGTGCAGACACACAGGAAAACTGCACTTTTCACATCTGTAAAGGCTTTCAATGTTTCAAAAAACCAAAGACCCCTCCCCCAAAATAACTGCAACTGTGCGGCCGC (配列番号932)

LA23 1−700
CTCGAGCAGCTAACAGCCAGTAAACAAAGCACAAGGGGAAGTGGAAAGCAGCCAAGGGAACATGTTTTGCGAGCCAGAGCTGTTTTGGCTTGTCACCAGCTGGCCATGGTTCTTCGCCAGCTGTCACGTAAGGCTTCTGTGAAAGTTAGTAAAACCTGGAGTGGAACTAAAAAAAGAGCTCAAAGGATTTTAATTTTTTTGTTAGAATTTTTGCTGGACTTTTGCACAGGTGAAGACAGTGTAGACGGGAAAAAAAGACAGAGACACAGTGGTTTGACTGAGCAGACATACAGTGCTTTGCCTGAACCAAAAGCT ACATAGGTAAGTAATGTTTTTTTTTGTGTTTTCAGGTTCATGGGTGCCGCACTTGCACTTTTGGGGGACCTAGTTGCTACTGTTTCTGAGGCTGCTGCTGCCACAGGATTTTCAGTAGCTGAAATTGCTGCTGGAGAGGCTGCTGCTACTATAGAAGTTGAAATTGCATCCCTTGCTACTGTAGAGGGGATTACAAGTACCTCTGAGGCTATAGCTGCTATAGGCCTTACTCCTGAAACATATGCTGTAATAACTG GAGCTCCGGGGGCTGTAGCTGGGTTTGCTGCATTGGTTCAAACTGTAACTGGTGGTAGTGCTATTGCTCAGTTGGGATATAGATTTTTTGCTGACTGGGATCATAAAGTTTCAACAGTTGGGCTTTTTCGCGGCCGC (配列番号933)

LA23 701−1438
CTCGAGAGCAGCCAGCTATGGCTTTACAATTATTTAATCCAGAAGACTACTATGATATTTTATTTCCTGGAGTGAATGCCTTTGTTAACAATATTCACTATTTAGATCCTAGACATTGGGGCCCGTCCTTGTTCTCCACAATCTCCCAGGCTTTTTGGAATCTTGTTAGAGATGATTTGCCAGCCTTAACCTCTCAGGAAATTCAGAGAAGAACCCAAAAACTATTTGTTGAAAGTTTAGCAAGGTTTTTGGAAGAAACTACTTGGGCAATAGTTAATTCACCAGCTAACTTATATAATTATATTTCAGACTATTATTCTAGATTGTCTCCAGTTAGGCCCTCTATGGTAAGGCAAGTTGCCCAAAGGGAGGGAACCTATATTTCTTTTGGCCACTCATACACCCAAAGTATAGATGATGCAGACAGCATTCAAGAAGTTACCCAAAGGCTAGATTTAAAAACCCCAAATGTGCAATCTGGTGAATTTATAGAAAGAAGTATTGCACCAGGAGGTGCAAATCAAAGATCTGCTCCTCAATGGATGTTGCCTTTACTTTTAGGGTTGTACGGGACTGTAACACCTGCTCTTGAAGCATATGAAGATGGCCCCAACAAAAAGAAAAGGAGAAAGGAAGGACCCCGTGCAAGTTCCAAAACTTCTTATAAGAGGAGGAGTAGAAGTTCTAGAAGTTAAAACTGGGGTTGACTCAATTACAGAGGTAGAATGCTGCGGCCGC (配列番号934)
【0131】
トランスフェクト細胞中のJCV siRNAのスクリーニング
Cos−7細胞〔ドイツ、ブラウンシュバイク(Braunschweig)所在のDSMZ社、#ACC−60〕を、透明な底部を有する白い96ウエルプレート〔ドイツ、フリッケンハウゼン(Frickenhausen)所在のグライナー・バイオ・ワン社(Greiner Bio- One GmbH)〕の1ウエル当たり1.5×10細胞として75μl増殖培地中に播種した。細胞を播種した後直ぐ、ウエル当たり50ngの対応レポータープラスミドを、リポフェクタミン(Lipofectamine)TM2000〔ドイツ、カールスルーエ(Karlsruhe)所在のインビトロジェン社(Invitrogen GmbH)〕を用いてトランスフェクトし、このプラスミドを、ウエ
ル当たり12.5μlの最終容量となるようにOpti−MEMで希釈し、プレート全体用のマスターミックスとして調製した。
【0132】
プラスミドトランスフェクションの4時間後に、細胞から増殖培地を除去し、100μl/ウエルの新鮮培地と交換した。製造業者が記載しているように、リポフェクタミンTM2000(インビトロジェン社)を用いてsiRNAのトランスフェクションを実施した。細胞を、加湿インキュベータ〔ドイツ、ハナウ(Hanau)所在のヘラウス社(Heraeus
GmbH)〕中、37℃、5%CO下に、24時間インキュベートした。一次スクリーニ
ングでは、すべてのsiRNAを30nMの最終濃度でスクリーニングした。選択した配列を300pMのsiRNA濃度で再スクリーニングした。各siRNAを各濃度に関して4通りに試験した。
【0133】
増殖培地を除去し、培地と、デュアル−グロルシフェラーゼアッセイシステム(Dual-Glo Luciferase Assay System)(プロメガ社)由来の基質との1:1混合物150μlを加えて細胞を溶解させた。このルシフェラーゼアッセイは、デュアル−グロルシフェラーゼアッセイに関する製造業者のプロトコルに従って実施し、ビクター−ライト1420ルミネセンスカウンター(Victor-Light 1420 Luminescence Counter)〔ドイツ、ロドガウ−ユーゲスハイム(Rodgau-Jugesheim)所在のパーキンエルマー(Perkin Elmer)社〕で発光を測定した。トランスフェクション効果を補正するために、レニラルシフェラーゼで得た値をホタルルシフェラーゼで得たそれぞれの値に対して標準化した。JCV遺伝子に対するsiRNAのトランスフェクション後に得たウミシイタケ/ホタルルシフェラーゼ活性を、100%に設定した非関連コントロールsiRNAのトランスフェクション後に得たレニラ/ホタルルシフェラーゼ活性に対して標準化した。表1aおよび1bは、配列を表1aに示すsiRNAを30nMの単一用量で試験した結果を示している。非関連コントロールsiRNAと比較した抑制率±標準偏差は、「残留ルシフェラーゼ活性(コントロールの%)」の欄に示されている。いくつかの30nM JCV siRNAは、Cos−7細胞におけるターゲットmRNAの量を70%以上減少させるのに有効であった(すなわち、残留ルシフェラーゼ活性は30%未満であった)。
【0134】
単一用量スクリーニングから選択されたJCV siRNAをさらに用量応答曲線により特徴解析した。用量応答曲線を生成するためのJCV siRNAのトランスフェクションは、上記プロトコルに従って以下のsiRNA濃度で実施した:
− 3倍希釈の33nMから0.005nMまで(フラグメント1の場合)
− 4倍希釈の24nMから0.001nMまで(フラグメントEと、フラグメントLA23 1−700およびLA23 701−1438の場合)。
【0135】
プログラムXLfit〔英国、ギルドフォード(Guildford)所在のIDBS社〕を用
いたパラメータ化曲線当てはめによりIC50値を決定した。表2は、32個の選択されたJCV siRNAに関する2回の独立した実験の結果を示している。これら2回の独立実験の平均IC50が示されている。この実験パラダイムにおいて、いくつかのJCV
siRNA(AD−12622、AD−12677、AD−12709、AD−12710、AD−12722、AD−12724、AD−12728、AD−12763、A
D−12767、AD−12768、AD−12769、AD−12771、AD−12774、AD−12775、AD−12777、AD−12781、AD−12784、AD−12795、AD−12813、AD−12821、AD−12823、AD−12824、AD−12825、AD−12827、AD−12829、AD−12842)は特に効力が高く、70pM〜1nMのIC50値を示した。
【0136】
表2:IC50
デュプレックス 平均IC50
の名称 [nM]
AD-12599 2.37
AD-12622 0.57
AD-12666 3.7
AD-12677 0.49
AD-12709 0.19
AD-12710 0.47
AD-12712 2.33
AD-12722 0.12
AD-12724 0.26
AD-12728 0.8
AD-12761 1.2
AD-12763 0.95
AD-12767 0.09
AD-12768 0.19
AD-12769 0.35
AD-12771 0.35
AD-12774 0.13
AD-12775 0.18
AD-12777 0.17
AD-12778 12.65
AD-12781 0.18
AD-12784 0.44
AD-12795 0.65
AD-12813 0.2
AD-12818 1.88
AD-12821 0.07
AD-12823 0.46
AD-12824 0.25
AD-12825 0.52
AD-12827 0.15
AD-12829 0.14
AD-12842 0.44
【0137】
SVG−A細胞における生JCウイルスに対するJCV siRNAのスクリーニング
細胞およびウイルス
ブラウン大学(Brown University)のウォルター・アトウッド(Walter Atwood)から
得たSVG-A細胞(SV40T抗原で形質転換したヒト胎児グリア細胞)を、加湿イン
キュベータ〔米国ノースカロライナ州アッシュビル(Ashville)所在のサーモ・エレクトロン社(Thermo Electron Corporation)製のHeraeus HERAcell〕中、
37℃、5%CO雰囲気下に、10%ウシ胎児血清(FBS)〔米国カリフォルニア州タルザナ(Tarzana)所在のオメガ・サイエンティフィック(Omega Scientific)社〕、
ペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100μg/ml〔米国カリフォルニア州カールスバード(Carlsbad)所在のインビトロジェン社〕を加えたイーグルMEM培地(Eagle’s Minimum Essential Media)〔米国バージニア州マナサス(Manassas)所在のATCC〕中で培養した。ブラウン大学のウォルター・アトウッドから得たJCVのMad−1−SVEΔ株を全実験で用い、公開されている標準法(Liu and Atwood, Propagation and assay of the JC Virus, Methods Mol Biol. 2001; 165:9-17)に従い、SVG
−A細胞を用いてウイルス株を作製した。
【0138】
予防アッセイ
抗生物質を除いた上述の培地中でトランスフェクトする24時間前に、SVG−A細胞を6ウエルディッシュのガラスカバースリップ上に播種した。製造業者(米国カリフォルニア州カールスバード所在のインビトロジェン社)の指示に従い、リポフェクタミンTM2000を用いて、細胞に指示濃度のsiRNA(10nM、50nM、または100nM)をトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、2%FBSを含む培地で細胞を洗浄し、次いで、2%FBS培地に希釈したJCVウイルス株(Mad−1−SVEΔ株)の1:25希釈物に感染させた。カバースリップ全体に等しいウイルス結合が得られるように1時間にわたって15分毎に手で数回細胞を揺り動かし、次いで、追加の10%FBS培地を加え、72間感染を進行させた。72時間の感染後に、細胞をアセトン中で固定し、ヤギ抗マウスAlexa Fluor 488二次抗体(インビトロジェン社)を含むJCV VP1(ブラウン大学のウォルター・アトウッドから取得)を認識するハイブリドーマ上清PAB597を用いて、標準免疫蛍光法により、細胞を後期ウイルスタンパク質(VP1)染色した。蛍光顕微鏡〔米国ニュージャージー州ソーンウッド(Thornwood)所在のツァイス(Zeiss)社製、Imager:Z1〕を用いてVP1免疫反応
細胞を数えて感染細胞を採点し、データを、ルシフェラーゼsiRNAをトランスフェクトしたコントロールを播種したカバースリップについて計数した感染細胞の割合として表した。表3は、異なるsiRNA濃度での予防アッセイの結果を示している。VP1 siRNAはグループとして最も効力が高く、T抗原siRNAが続き、VP2/3siRNAは最も効力が弱かった。ウイルスを減少させるのに最も有効なVP1 siRNAは、一貫して、AD−12622、AD−12728、AD−12795、およびAD−12842であった。最も強力なT抗原siRNAはAD−12813であった。
【0139】
【表1】

【0140】

【0141】
感染後治療アッセイ
10%FBS培地中での感染の24時間前に、6ウエルディッシュのガラスカバースリップ上にSVG−A細胞を播種した。2%FBSを含有する培地で細胞を洗浄し、次いで、2%FBS培地に希釈したJCVウイルス株の1:25希釈物に感染させた。カバースリップ全体に等しいウイルス結合が得られるように1時間にわたって15分毎に手で約8〜10回揺り動かし、次いで、追加の10%FBS培地を加えた。感染24時間後および
48時間後に、抗生物質を含まない10%FBS培地で細胞を洗浄し、次いで、製造業者の指示(インビトロジェン社)に従って、リポフェクタミンTM2000を用いて細胞に50nMの指示siRNAをトランスフェクトした。感染72時間後に、細胞をアセトン中で固定し、ヤギ抗マウスAlexa Fluor 488二次抗体〔米国オレゴン州ユージーン(Eugene)所在のモレキュラー・プローブス(Molecular Probes)社〕を含むJCV VP1(ブラウン大学のウォルター・アトウッドから取得)を認識するハイブリドーマ上清PAB597を用いて、標準免疫蛍光法により、JCV 後期ウイルスタンパク質(VP1)染色した。蛍光顕微鏡(ツァイス、Imager:Z1)を用いてVP1免疫反応細
胞を数えて感染細胞を採点し、データを、ルシフェラーゼsiRNAをトランスフェクトしたコントロールカバースリップについて計数した感染細胞の割合として表した。表4は、感染後治療実験の結果を示している。治療アッセイで試験したsiRNAはいずれも、残留ウイルスがルシフェラーゼSiRNAコントロールにおけるより著しく減少したというように、JCVに対する有意な抗ウイルス活性を示した。
【0142】
【表2】

【0143】
JCV siRNAの予防投与は活性子孫JCウイルスの産生を阻害する
抗生物質を除いた上述培地中での感染の24時間前に、6ウエルディッシュにSVG−
A細胞を播種した。製造業者の指示(インビトロジェン社)に従い、リポフェクタミンTM2000を用いて、細胞に10nMの指示siRNAをトランスフェクトした。トランスフェクション24時間後に、2%FBSを含む培地で細胞を洗浄し、次いで、2%FBS培地に希釈したJCVウイルス株(Mad−1−SVEΔ株)の1:25希釈物を感染させた。カバースリップ全体に等しいウイルス結合が得られるように、1時間にわたって15分毎に細胞を手で数回揺り動かし、次いで、追加の10%FBS培地を加え、6日間感染を進行させた。感染6日後に、感染細胞からオーバーレイ培地を除去するか、細胞をこそげ取って子孫ウイルスを回収し、ウイルス作製を行った。ウイルスの作製は、細胞を残さず上清培地にこそげ入れ、激しく攪拌し、再懸濁した細胞を間に攪拌を入れて2回凍結融解し、次いで、細胞破片を沈降させて、上清を取るステップからなっていた。次に、ガラスカバースリップ上に播種した新鮮なSVG-A細胞を、初期感染の場合と同じ手順
を用いていずれかの方法で回収したウイルスに二次感染させて、さまざまなsiRNAをトランスフェクトした細胞が産生した感染性ウイルスの量を測定した。カバースリップ感染72時間後に、細胞をアセトン中で固定し、ヤギ抗マウスAlexa Fluor 488二次抗体(インビトロジェン社)を含むJCV VP1(ブラウン大学のウォルター・アトウッドから取得)を認識するハイブリドーマ上清PAB597を用いて、標準免疫蛍光法により後期ウイルスタンパク質(VP1)染色した。蛍光顕微鏡(ツァイス社製、Imager:Z1)を用いてVP1免疫反応細胞を数えて感染細胞を採点し、データを、ルシフ
ェラーゼsiRNAをトランスフェクトしたコントロールカバースリップについて計数した感染細胞の割合として表した。表5は、選択されたsiRNAの結果を示しており、この結果は、いずれかのウイルス回収法により活性子孫ウイルスの産生を阻害する予防siRNA治療の能力を証明している。VP1をターゲットとするsiRNA(AD−12622およびAD−12842)のトランスフェクションは、ウイルスを培地から回収するか、感染細胞調製物から回収するかに関係なく、活性子孫ウイルス産生の阻害に最も効果があった。抗原siRNA AD−12813は次に強力な阻害効果を有していたが、VP2/3siRNA AD−12824およびAD−12769も、活性子孫JCV産生の阻害に低いとは言え、いくらかの能力を示した。
【0144】
【表3】

【0145】
JCVをターゲットとする選択されたsiRNAの脳髄液(CSF)中での安定性
11種の選択されたJCV siRNAを、ヒトCSF中および比較のためにPBS中で、5uM、37℃で48時間、安定性について試験した。96ウエルプレート中で、30μlのヒト脳脊髄液(CSF)と、3μlの50μM 二本鎖(siRNA)溶液とを混合し、蒸発を避けるためにシールし、37℃で指示時間インキュベートした。siRNAを30ulのPBS中48時間インキュベートしたものは、非特異的分解のコントロールとしての機能を果たした。4ulのプロテイナーゼK(20mg/ml)と25ulのプロテイナーゼKバッファーを加えて反応を停止し、42℃で20分(20’)インキュベートした。次いで、サンプルを0.2μmの96ウエルフィルタープレートに3000rpmで20分間通して回転ろ過した。インキュベーションウエルを50ulのミリポア水で2回洗浄し、合わせた洗浄液も回転ろ過した。
【0146】
サンプルを変性条件下にイオン交換HPLCで分析した。サンプルを単一オートサンプラー用のバイアルに移した。以下の条件下にIEX−HPLC分析を行った:Dionex DNAPac PA200(4×250mmの分析用カラム)、温度 45℃(変性条件 pH=11)、流速 1ml/分、注入量 50ul、および帯域幅1nmの検出波長 260nm(参照波長 600nm)。さらに、HPLC溶出液Aの勾配条件は以下の通りであった:10%ACN中20mM のNaPO:pH=11;HPLC溶出液B:HPLC溶出液A中1MのNaBr:
【0147】
【表4】

【0148】
上記変性IEX−HPLC条件下に、二本鎖を2つの分離した一本鎖として溶出した。全クロマトグラムをDionex Chromeleon 6.60 HPLCソフトウエアで自動積分し、必要に応じて手動調整した。各鎖に関するピーク下面積を計算し、各時点に関する無傷の各全長生成物(FLP)の%値を以下の方程式で計算した:
%−FLP(s/as:t=x)=(ピーク面積(s/as);t=x/ピーク面積(s/as);t=0分100%。
すべての値をt=0分におけるFLPに対し標準化した。表6は、ヒトCSF中37℃で48時間のインキュベート後の結果を示している。10種のJCV siRNA(AD−12622、AD−12724、AD−12767、AD−12769、AD−12795、AD−12813、AD−12818、AD−12823、AD−12824、AD−12842)のアンチセンス鎖とセンス鎖両方の少なくとも75%が回収されたが、これは、これらのsiRNAがヒトCSF中37℃で極めて安定であることを証明している。AD−12821の場合、ヒトCSF中37℃48時間のインキュベーション後に、アンチセンス鎖の59%およびセンス鎖の97%が回収されたが、これは、このsiRNAがヒトCSF中37℃下に48時間を越える半減期を有することを示している。
【0149】
【表5】

【0150】
dsRNA発現ベクター
本発明の別の態様において、JCウイルスゲノムの発現活性を調節するJCウイルス特異的dsRNA分子は、DNAベクターまたはRNAベクターに挿入された転写ユニットから発現される(例えば、Couture, A, et al., TIG. (1996), 12:5-10;Skillern, A., et al., International PCT Publication No. WO 00/22113、Conrad, International PCT
Publication No. WO 00/22114、およびConrad, US Pat. No. 6,054,299参照)。これら
の導入遺伝子は、線状構築物、環状プラスミド、あるいはウイルスベクターとして導入可能であり、宿主ゲノムに組み込まれ、一体化された導入遺伝子として受け継がれ得る。また、導入遺伝子は、染色体外プラスミドとして受け継がれ得るように構築することもできる(Gassmann, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1995) 92:1292)。
dsRNAの個々の鎖は、2つの別個の発現ベクター上のプロモーターを用いて転写し、ターゲット細胞内に共トランスフェクトすることができる。あるいは、dsRNAの個々の鎖それぞれを、いずれも同じ発現プラスミド上にあるプロモーターを用いて転写してもよい。好ましい実施形態では、dsRNAは、ステム・アンド・ループ構造を有するように、リンカーポリヌクレオチド配列を介して連結された逆方向反復配列として発現させる。
【0151】
組換えdsRNA発現ベクターは、ほとんどの場合、DNAプラスミドまたはウイルスベクターである。dsRNAを発現するウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス〔概説として、Muzyczka, et al., Curr. Topics Micro. Immunol. (1992) 158:97-129参照〕;アデノウイルス〔例えば、Berkner, et al., Bio Techniques (1998) 6:616, Rosenfeld et al., (1991, Science, 252:431-434)およびRosenfeld et al., (1992), Cell 68:143-155参照〕;またはアルファウイルスや当該技術分野で公知の他のウイルスをベースとし
て構築できるが、それらのウイルスには限定されない。レトロウイルスは、in vitroおよび/またはin vivoで、上皮細胞を含めた多くの異なる細胞種にさまざまな遺伝子を導入するのに用いられている〔例えば、Eglitis, et al., Science (1985) 230:1395-1398; Danos and Mulligan, Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1998) 85:6460-6464;
Wilson et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:3014-3018; Armentano et al.,
1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6141-6145; Huber et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8039-8043; Ferry et al., 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:8377-8381; Chowdhury et al., 1991, Science 254:1802-1805; van Beusechem. et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:7640-19; Kay et al., 1992, Human Gene Therapy 3:641-647; Dai et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10892-10895; Hwu et
al., 1993, J. Immunol. 150:4104-4115; U.S. Patent No. 4,868,116; U.S. Patent No. 4,980,286; PCT Application WO 89/07136; PCT Appli cation WO 89/02468; PCT Application WO 89/05345; およびPCT Application WO 92/07573参照〕。細胞のゲノムに挿入された遺伝子を形質導入・発現し得る組換えレトロウイルスベクターは、組換えレトロウイルスゲノムを、PA317およびPsi−CRIPなどの適切なパッケージング細胞系にトランスフェクトすることにより作製することができる(Comette et al., 1991, Human Gene Therapy 2:5-10; Cone et al., 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6349)。組換えアデノウイルスベクターは、感受性宿主(例えばラット、ハムスター、イヌおよびチンパンジー)の多種多様な細胞および組織に感染させるのに使用できる(Hsu et al., 1992, J. Infectious Disease, 166:769)だけでなく、感染させるのに活発に有系分裂する細胞を必要とはしないという利点も有している。
本発明のDNAプラスミドまたはウイルスベクター中でdsRNAの発現を駆動するプロモーターは、真核生物のRNAポリメラーゼIプロモーター(例えばリボソームRNAプロモーター)、RNAポリメラーゼIIプロモーター(例えば、CMVの初期プロモーターもしくはアクチンプロモーターもしくはU1 snRNAプロモーター)またはほとんどの場合RNAポリメラーゼIIIプロモーター(例えばU6 snRNAもしくは7SK RNAプロモーター)であるか、あるいは、発現プラスミドがさらにT7プロモーターからの転写に必要なT7 RNAポリメラーゼをもコードする場合には、原核生物のプロモーター、例えばT7プロモーターであり得る。プロモーターは、導入遺伝子の発現を膵臓に方向付けることも可能である〔例えば、膵臓用のインスリン調節配列(Bucchini et al., 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:2511-2515)参照〕。
さらに、導入遺伝子の発現は、例えば、ある種の生理的調節因子、例えば循環血中グルコースレベルまたはホルモンに感受性の調節配列などの誘導可能な調節配列や発現系を用いることにより、正確に調節することができる(Docherty et al., 1994, FASEB J. 8:20-24)。細胞または哺乳動物における導入遺伝子の発現を制御するのに適した上記の誘導可
能発現系には、エクジソンによる調節、エストロゲン、プロゲステロン、テトラサイクリン、二量体化を誘導する化学物質、およびイソプロピル−β−D1−チオガラクトピラノシド(EPTG)による調節が含まれる。当業者であれば、dsRNA導入遺伝子の使用目的に基づいて適切な調節/プロモーター配列を選ぶことができるであろう。
【0152】
一般に、dsRNA分子を発現できる組換えベクターは、下記のようにターゲット細胞に送達され、そこにとどまる。あるいは、dsRNA分子を一過性に発現させるウイルスベクターを使用することもできる。そのようなベクターは、必要に応じて繰り返し投与することができる。dsRNAは、一旦発現されると、ターゲットRNAに結合して、その機能または発現を調節する。dsRNA発現ベクターの送達は、例えば、静脈内または筋肉内投与などにより全身投与するか、患者から取り出したターゲット細胞に投与した後で患者に再導入するか、または所望のターゲット細胞内への導入を可能にする任意の他の手段を用いて投与することができる。
dsRNAを発現するDNAプラスミドは、通常、カチオン性脂質担体(例えばオリゴフェクタミン)または非カチオン性の脂質ベース担体(例えばTransit−TKOTM)との複合体として、ターゲット細胞にトランスフェクトされる。本発明では、一週間またはそれ以上の期間にわたる、単一のJCウイルスゲノムまたは複数のJCウイルスゲノムの異なる領域をターゲットとするdsRNAを介したノックダウンのための多重脂質トランスフェクションも企図される。本発明のベクターが宿主細胞内に首尾よく導入されたかどうかは、さまざまな公知方法を用いてモニターすることができる。例えば、一過性ト
ランスフェクションは、緑色蛍光タンパク質(GFP)を一例とする蛍光マーカーなどのリポーターを用いて示すことができる。ex vivo細胞の安定トランスフェクションは、トランスフェクトされた細胞に、ヒグロマイシンB耐性などの特定の環境要因(例えば抗生物質および薬物)に対する耐性を付与するマーカーを使用して確認することができる。
JCウイルス特異的dsRNA分子をベクターに挿入し、ヒト患者用の遺伝子治療用ベクターとして使用することもできる。遺伝子治療用ベクターは、例えば、静脈注射、局所投与(U.S. Patent 5,328,470参照)、または定位注射(例えば、Chen et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:3054-3057を参照)によって、対象に送達することができる
。遺伝子治療用ベクター製剤は、許容される希釈剤中に遺伝子治療用ベクターを含むものであってもよいし、遺伝子導入ビヒクルが埋め込まれた遅延放出マトリックスからなるものであってもよい。あるいは、組換え細胞からそのまま完全な遺伝子導入ベクター、例えばレトロウイルスベクターが得られる場合、製剤は、この遺伝子導入系を産生する1個以上の細胞を含んでいてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内のヒトJCウイルスゲノムの発現を抑制するための二本鎖リボ核酸(dsRNA)であって、前記dsRNAは互いに相補的な少なくとも2つの配列を有し、センス鎖は第1の配列を有し、アンチセンス鎖はJCウイルスをコードするmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的な相補領域を含む第2の配列を有し、前記相補領域の長さは30ヌクレオチド未満であり、前記dsRNAは、JCウイルスを発現している細胞と接触させると、JCウイルスゲノムの発現を抑制する、dsRNA。
【請求項2】
前記第1の配列は表1aおよび1bからなる群から選択され、前記第2の配列は表1aおよび1bからなる群から選択される、請求項1に記載のdsRNA。
【請求項3】
少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項1に記載のdsRNA。
【請求項4】
少なくとも1つの修飾ヌクレオチドを含む、請求項2に記載のdsRNA。
【請求項5】
前記修飾ヌクレオチドは、2’‐O‐メチル修飾ヌクレオチド、5’‐ホスホロチオエート基を含むヌクレオチド、およびコレステリル誘導体またはドデカン酸ビスデシルアミド基に連結された末端ヌクレオチドからなる群から選択される、請求項3または4に記載のdsRNA。
【請求項6】
前記修飾ヌクレオチドは、2’‐デオキシ‐2’‐フルオロ修飾ヌクレオチド、2’‐デオキシ修飾ヌクレオチド、ロックされたヌクレオチド、脱塩基ヌクレオチド、2’‐アミノ修飾ヌクレオチド、2’‐O‐アルキル修飾ヌクレオチド、モルホリノヌクレオチド、ホスホロアミデート、および非天然の塩基を含むヌクレオチド、なる群から選択される、請求項3または4に記載のdsRNA。
【請求項7】
前記第1の配列は表1aおよび1bからなる群から選択され、前記第2の配列は表1aおよび1bからなる群から選択される、請求項3または4に記載のdsRNA。
【請求項8】
前記第1の配列は表1aおよび1bからなる群から選択され、前記第2の配列は表1aおよび1bからなる群から選択される、請求項6または7に記載のdsRNA。
【請求項9】
請求項1に記載のdsRNAを含む細胞。
【請求項10】
dsRNAと、薬学的に許容可能な担体とを含む、生物体におけるJCウイルス遺伝子の発現を抑制するための医薬組成物であって、前記dsRNAは互いに相補的な少なくとも2つの配列を有し、センス鎖は第1の配列を有し、アンチセンス鎖はJCウイルスをコードするmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的な相補領域を含む第2の配列を有し、前記相補領域の長さは30ヌクレオチド未満であり、前記dsRNAは、JCウイルスを発現している細胞と接触させると、JCウイルスゲノムの発現を抑制する、医薬組成物。
【請求項11】
前記dsRNAの前記第1の配列は表1aおよび1bからなる群から選択され、前記dsRNAの前記第2の配列は表1aおよび1bからなる群から選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記dsRNAの前記第1の配列は表1aおよび1bからなる群から選択され、前記dsRNAの前記第2の配列は表1aおよび1bからなる群から選択される、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項13】
細胞内のJCウイルス遺伝子の発現を抑制する方法であって、
(a)細胞内に、二本鎖構造のリボ核酸(dsRNA)を導入する工程であって、該dsRNAは、互いに相補的な少なくとも2つの配列を有し、センス鎖は第1の配列を有し、アンチセンス鎖はJCウイルスをコードするmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的な相補領域を含む第2の配列を有し、該相補領域の長さは30ヌクレオチド未満であり、前記dsRNAは、JCウイルスを発現している細胞と接触させると、JCウイルスゲノムの発現を抑制する工程、および
(b)工程(a)で生成された細胞を、JCウイルス遺伝子のmRNA転写物を分解させるのに十分な時間維持することによって、細胞内のJCウイルス遺伝子の発現を抑制する工程
を含む方法。
【請求項14】
JCウイルスの発現により媒介される病理過程を治療、予防、または管理する方法であって、そのような治療、予防または管理を必要とする患者に、治療上または予防上有効な量のdsRNAを投与する工程からなり、該dsRNAは、互いに相補的な少なくとも2つの配列を有し、センス鎖は第1の配列を有し、アンチセンス鎖はJCウイルスをコードするmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的な相補領域を含む第2の配列を有し、該相補領域の長さは30ヌクレオチド未満であり、前記dsRNAは、JCウイルスを発現している細胞と接触させると、JCウイルスゲノムの発現を抑制する、方法。
【請求項15】
細胞内のJCウイルス遺伝子の発現を抑制するためのベクターであって、前記ベクターは、dsRNAの1つの少なくとも一方の鎖をコードするヌクレオチド配列に連係して作用する調節配列を有し、前記dsRNAの鎖のうち一方は、JCウイルスをコードするmRNAの少なくとも一部にほぼ相補的であり、前記dsRNAの長さは30塩基対未満であり、前記dsRNAは、JCウイルスを発現している細胞と接触させると、JCウイルスゲノムの発現を抑制する、ベクター。
【請求項16】
請求項15に記載のベクターを含む細胞。

【公表番号】特表2009−535039(P2009−535039A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507985(P2009−507985)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/067628
【国際公開番号】WO2007/127919
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(505369158)アルナイラム ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (51)
【氏名又は名称原語表記】ALNYLAM PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】