説明

KDGアルドラーゼ活性を有するポリペプチド及びそれを用いたアルドール縮合物又はその脱水化物の製造方法

【課題】アルデヒドとピルビン酸からアルドール縮合物を得るアルドール縮合反応において、従来の有機化学反応による方法よりも温和な条件で反応を行う方法を提供する。
【解決手段】耐熱性古細菌であるSulfolobus tokodaii由来の、2−ケト−3−デオキシグルコン酸アルドラーゼ活性を有するポリペプチド、および該ペプチドをコードするDNA、さらに該ポリペプチドを用いたアルドール縮合反応によるアルドール縮合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルデヒドとピルビン酸からアルドール縮合物又はその脱水化物を効率的に製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
α位に水素原子を持つカルボニル化合物と他のカルボニル化合物とが反応し、β−ヒドロキシカルボニル化合物を生成する反応のことを、アルドール縮合(aldol addition)という。アルドール縮合は、有用な化合物を得るために利用されている。例えば、クロロアセトアルデヒドとアセトアルデヒドを原料としてアルドール縮合により6−クロロ−2、4、6、−トリデオキシ−エリスロ−ヘキソースを得る反応が知られている。
【0003】
従来、有機化学反応によってアルドール縮合を行ってアルドール縮合物を得ることが広く行われてきたが、一般に非常に高い温度及び圧力や強アルカリなどの条件を必要とし、環境への負荷が懸念される。さらに反応工程が煩雑であるため反応効率が低いという問題もあった。
【0004】
一方、酵素反応によってアルドール縮合を行ってアルドール縮合物を得る試みも行われてきた。しかしながら、従来の酵素反応を利用したアルドール縮合では、利用できる原料が限られていた。例えば、サーモトガ・マリティマ(Thermotoga maritima)由来及びパイロバキュラム・アエロフィラム(Pyrobaculam aerophilum)由来(特許文献1)、並びにEscherichia Coli由来(特許文献2)のデオキシリボースアルドラーゼ(DERA)を用いてアセトアルデヒドとアルデヒドからアルドール縮合物を得る方法が報告されている。このようにアルデヒド同士でアルドール縮合を行おうとすると、反応が連鎖的に引き起こされる傾向があり、反応の制御が困難であった。また、ベンゼン環、フラン環、イミダゾール骨格等の複素環を有するアルデヒドと、ピルビン酸との間ではアルドール縮合を行うことができないことが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再表2005−098012
【特許文献2】特表2006−525323
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J S Griffiths et al. Bioorganic &Medical Chemistry(2002) 545-550
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の課題を解決することを課題とする。より詳細には、本発明は、アルデヒドとピルビン酸からアルドール縮合物を得るアルドール縮合反応を、従来の有機化学反応による方法よりも温和な条件で行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、耐熱性古細菌であるSul
folobus tokodaiiから本発明者らが初めて見出した2−ケト−3−デオキシグルコン酸アルドラーゼ(KDGアルドラーゼ)を利用することによって、アルデヒドとピルビン酸からアルドール縮合生成物又はその脱水化物を温和な条件で合成できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる発明を提供するものである。
項1.以下の(A)又は(B)のポリペプチド:
(A)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(B)配列番号1に示すアミノ酸配列の1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ2−ケト−3−デオキシグルコン酸アルドラーゼ(KDGアルドラーゼ)活性を有するポリペプチド。
項2.項1記載のポリペプチドをコードするDNA。
項3.以下の(a)又は(b)のDNA:
(a)配列番号2に示す塩基配列からなるDNA;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKDGアルドラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
項4.項2又は3に記載のDNAを含有する組換えベクター。
項5.項4に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
項6.アルデヒドとピルビン酸をアルドール縮合させることによりアルドール縮合物を得る工程を含む、アルドール縮合物の製造方法であって、項1記載のポリペプチドを用いてアルドール縮合を触媒することを特徴とする方法。
項7.前記アルデヒドがベンズアルデヒドであり、前記アルドール縮合物が4−ヒドロキシ−4−フェニル−2−オキソ酪酸である、項6記載の方法。
項8.(1)アルデヒドとピルビン酸をアルドール縮合させることによりアルドール縮合物を得る工程;及び
(2)工程(1)で得られたアルドール縮合物を脱水反応させることによりアルドール縮合物の脱水化物を得る工程
を含む、アルドール縮合物の脱水化物の製造方法であって、項1記載のポリペプチドを用いてアルドール縮合を触媒することを特徴とする方法。
項9.前記アルデヒドがベンズアルデヒドであり、前記アルドール縮合物の脱水化物が2−オキソ−4−フェニル−3−ブテン酸である、項8記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリペプチドをアルドール縮合反応の触媒酵素として利用することにより、アルデヒドとピルビン酸からアルドール縮合物又はその脱水化物を比較的温和な条件で得ることが可能となる。
【0011】
本発明のポリペプチドを利用することで、医薬中間体をはじめ有用なアルドール縮合物又はその脱水化物を簡便かつ効率的に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のポリペプチドが触媒するアルドール縮合の例を示した図面である。
【図2】実施例2で得られた反応生成物を薄層クロマトグラフィーにより解析した結果を示した、図面に代わる写真である。1のレーンは標品(2−オキソ−4−フェニル−3−ブテン酸)であり、2のレーンは得られた反応生成物である。
【図3】実施例2のアルドール縮合反応、及び次いで行われる脱水反応を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
1.ポリペプチド
本発明のポリペプチドは、(A)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;又は(B)配列番号1に示すアミノ酸配列の1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ2−ケト−3−デオキシグルコン酸アルドラーゼ(KDGアルドラーゼ)活性を有するポリペプチドである。
KDGアルドラーゼとは、グリセルアルデヒドとピルビン酸を出発物質として2−ケト−3−デオキシグルコン酸を得る反応を触媒する酵素である。
【0015】
本発明において、KDGアルドラーゼ活性は、以下の方法によって測定する。
[KDGアルドラーゼ活性の測定方法]
50 mM リン酸緩衝液(pH6.0)、50 mM ピルビン酸、及び20 mM グリセルアルデヒドからな
る基質溶液に酵素を混合し0.25 mlとし、適当な温度でインキュベートする。反応溶液を0.1ml採取し、0.01 mlの12%トリクロロ酢酸溶液と混合することにより反応を停止する。
遠心分離により不溶物を沈殿させ、上清0.05 mlに、0.125 mlの25 mM過ヨウ素酸/0.25 M
硫酸混液を添加した後、20分間インキュベートすることにより反応生成物を酸化する。これに、0.25 mlの2%亜ヒ酸ナトリウム(0.5 M 塩酸に溶解)を加え、さらに1mlの0.3
%チオバルビツール酸を添加し、100℃で10分間インキュベートする。等量のジメチルスルホキシドと混合し、chromophoreに由来する549 nmにおける吸光度を測定する。Chromophoreの分子吸光係数は67.8 x 103 M-1・cm-1として、酵素活性を算出する。
【0016】
配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドは、耐熱性古細菌であるSulfolobus tokodaiiから本発明者らが初めて見出したKDGアルドラーゼである。
【0017】
ポリペプチド(B)における2以上のアミノ酸の欠失、置換若しくは付加(以下、「改変」ということがある。)の程度は、これら改変がなされてなるポリペプチドがKDGアルドラーゼ活性を有している限り、特に制限されない。改変されるアミノ酸の数の上限は、例えば60個、30個、15個、10個、及び5個を例示することができる。中でも30個が好ましく、15個がより好ましく、10個がさらに好ましく、数個がよりさらに好ましい。また、改変としては、改変がなされることにより、改変がなされる前のアミノ酸配列に対して80%以上の同一性の範囲内で修飾されている程度の改変、85%以上の同一性の範囲内で修飾されている程度の改変、90%以上の同一性の範囲内で修飾されている程度の改変、95%以上の同一性の範囲内で修飾されている程度の改変、97%以上の同一性の範囲内で修飾されている程度の改変、及び99%以上の同一性の範囲内で修飾されている程度の改変等も例示することができる。特に、改変の程度としては、90%以上の同一性の範囲内で修飾されていれば好ましく、95%以上の同一性の範囲内で修飾されていればより好ましく、97%以上の同一性の範囲内で修飾されていればさらに好ましい。なお、アミノ酸同一性は、Lipman−Pearson法(Science, 227, 1435, (1985))により計算される。
【0018】
本発明のポリペプチドの作用温度は、通常10〜90℃、好ましくは30〜85℃である。
【0019】
本発明のポリペプチドの至適温度は、通常70〜90℃、好ましくは75〜85℃である。
【0020】
本発明のポリペプチドの作用pHは、通常4.0〜8.0、好ましくは5.5〜7.0
である。
【0021】
本発明のポリペプチドの至適pHは、5.5〜6.5である。
【0022】
本発明のポリペプチドは、マグネシウムイオン存在下でより効率的に作用することができる。この作用効率の観点では、マグネシウムイオンの反応溶液中における存在濃度は、0〜50mMが好ましく、0.01〜20mMがより好ましく、1〜5mMがさらに好ましい。
【0023】
本発明のポリペプチドは、従来の酵素では触媒することが難しいとされてきたアルデヒドとピルビン酸からアルドール縮合物を得るアルドール縮合反応、特に、複素環を有するアルデヒドとピルビン酸からアルドール縮合物を得るアルドール縮合反応を触媒することができる。原料である、アルデヒドとピルビン酸については後述する。
【0024】
本発明のポリペプチドは、必要に応じて適当な担体に固定化されていてもよい。担体に固定化されたポリペプチドを使用してアルドール縮合物を製造すると、製造終了後のポリペプチドの回収が容易になり、またポリペプチドの再利用が可能になるという利点がある。
【0025】
担体としては、本発明の効果を妨げないものであれば使用でき、限定されない。例えば、ナノポーラスシリカ、セラミックビーズ等を挙げることができる。
【0026】
本発明のポリペプチドは、遺伝子組換え技術を利用して本発明のポリペプチドをコードするDNAを調製し、これを適当な宿主で発現させることにより得ることもできる。
【0027】
以下、遺伝子組替え技術を利用して、本発明のポリペプチドを製造する方法について説明する。
【0028】
2.本発明のポリペプチドをコードするDNA
本発明のポリペプチドをコードしているDNAは、本発明のポリペプチドをコードしていればよく、特に限定されない。
【0029】
本発明のポリペプチドをコードしているDNAの具体例としては、(a)配列番号2に示す塩基配列からなるDNA;又は(b)配列番号2に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKDGアルドラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを挙げることができる。配列番号2に示す塩基配列からなるDNAは、配列番号1に示すSulfolobus tokodaii由来KDGアルドラーゼのアミノ酸配列をコードする遺伝子である。
【0030】
本発明のポリペプチドをコードしているDNAは、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。
【0031】
本発明のポリペプチドをコードしているDNAは、例えば、以下の方法により得ることができる。Sulfolobus tokodaiiから、通常の方法によってゲノムDNAを抽出する。得られたゲノムDNAを適当な制限酵素で切断し、同一の制限酵素又は共通の切断末端を与える制限酵素で切断したプラスミド又はファージにリガーゼ等を用いて連結することによりゲノムDNAライブラリーを作製する。次いで、例えば、配列番号1に示すKDGアルドラーゼのアミノ酸配列の部分アミノ酸配列に対応した合成DNAプローブを用いたハイブリダイゼーション法、配列番号1に示すKDGアルドラーゼのアミノ酸配列の部分アミノ酸配列に対する抗体を用いた免疫学的方法等によって、Sulfo
lobus tokodaii由来KDGアルドラーゼのアミノ酸配列をコードしている遺伝子を取得することができる。
【0032】
本発明において、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、通常のハイブリダイゼーション溶液中であれば55℃で行う条件が挙げられ、50%ホルムアミドを含むハイブリダイゼーション溶液中であれば42℃で行う条件が挙げられる。詳しくは、Molecular Cloning:A Laboratory Manual第2版第2巻に記載のサザンハイブリダイゼーションに用いられる条件が挙げられる。
【0033】
本発明のポリペプチドをコードしているDNAの他の具体例としては、(c)配列番号2に示す塩基配列において1若しくは2以上の塩基が欠失、置換若しくは付加されることにより、配列番号2に示す塩基配列に対して75%以上の相同性の範囲内で修飾された塩基配列からなり、かつKDGアルドラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNAを挙げることができる。
【0034】
塩基配列(c)における2以上の塩基の欠失、置換若しくは付加(以下、「改変」ということがある。)の程度は、これら改変がなされてなる塩基配列からなるDNAがコードするポリペプチドがKDGアルドラーゼ活性を有している限り、特に制限されない。改変される塩基の数の上限は、例えば200個、10個、50個、25個、及び10個を例示することができる。中でも100個が好ましく、50個がより好ましく、10個がさらに好ましく、数個がよりさらに好ましい。また、改変としては、改変がなされることにより、改変がなされる前の塩基配列に対して80%以上の相同性の範囲内で修飾されている程度の改変、85%以上の相同性の範囲内で修飾されている程度の改変、90%以上の相同性の範囲内で修飾されている程度の改変、95%以上の相同性の範囲内で修飾されている程度の改変、97%以上の相同性の範囲内で修飾されている程度の改変、及び99%以上の相同性の範囲内で修飾されている程度の改変等も例示することができる。特に、改変の程度としては、90%以上の相同性の範囲内で修飾されていれば好ましく、95%以上の相同性の範囲内で修飾されていればより好ましく、97%以上の相同性の範囲内で修飾されていればさらに好ましい。なお、相同性は、Basic Local Alignment Search Tool(B
LAST法)により計算される。
【0035】
3.組換えベクター
本発明のポリペプチドをコードするDNAを適当なベクターに連結することによって、該DNAを含有する組換えベクターを得ることができる。ベクターとしては、形質転換する宿主において当該ポリペプチドを発現させ得るものであれば、特に制限されない。例えば、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス等のベクターを用いることができる。具体的には、大腸菌ベクターのpBR322、pUC19、pKK233-2、pET11a等、バチルス属細菌ベクタ
ーのpUB110、pC194、pE194、pTHT15、pBD16等、酵母用ベクターYip5、Yrp17、Yep24等、
動物細胞用ベクターのpcDNA、pBAC等を例示できる。
【0036】
上記組換えベクターには、形質転換された細胞の選択を可能とするために、マーカー遺伝子が含まれていることが望ましい。当該マーカー遺伝子としては、例えば、宿主の栄養要求性を相補する遺伝子、又は薬剤に対する抵抗遺伝子等を挙げることができる。また、上記組換えベクターには、宿主で上記DNAの発現を可能にするためのプロモーターやその他の制御配列(例えば、エンハンサー配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列等)が含まれていることが好ましい。当該プロモーターとして、具体的にはSV40、CMV、ie1、T7、lac、trp、tac等のプロモーターを例示できる。
【0037】
4.形質転換体
上記組換えベクターを用いて、宿主を形質転換することによって、該組換えベクターを含
む形質転換体を得ることができる。宿主としては、本発明のポリペプチドを生産可能なものであれば、真核生物及び原核生物のいずれを用いることもできる。例えば、大腸菌等の細菌、酵母、糸状菌、動物細胞等を挙げることができる。形質転換は、宿主の種類に応じて、公知の方法に従って行うことができる。例えば、宿主として細菌を使用する場合であれば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いることができる。
【0038】
5.本発明のポリペプチドの製造
上記形質転換体を培養し、培養物からポリペプチドを採取することによって、上記ポリペプチドを取得することができる。
【0039】
上記形質転換体の培養は、宿主の種類に応じた通常の方法を採用すればよい。具体的には、炭素源、窒素源、その他微量栄養物を含む培地で培養を行う方法を挙げることができる。培養は、液体培養であっても、また固体培養であってもよい。
【0040】
上記培養物からのポリペプチドの採取は、培養物を、例えば硫安分画、各種のクロマトグラフィー等の工程に供して単離、精製することにより行われる。なお、ポリペプチドが菌体内又は表面に蓄積されている場合には、菌体を回収し、これを破砕又は溶菌して菌体抽出物を得、これを用いて単離、精製すればよい。
【0041】
6.アルドール縮合物又はその脱水化物の製造方法
本発明のアルドール縮合物製造方法は、アルデヒドとピルビン酸からアルドール縮合によってアルドール縮合物を製造する方法であって、上記の本発明のポリペプチドを用いてアルドール縮合反応を触媒することを特徴とする方法である。
本発明のアルドール縮合物の脱水化物の製造方法は、
(1)アルデヒドとピルビン酸をアルドール縮合させることによりアルドール縮合物を得る工程;及び
(2)工程(1)で得られたアルドール縮合物を脱水反応させることによりアルドール縮合物の脱水化物を得る工程
を含む、アルドール縮合物の脱水化物の製造方法であって、上記の本発明のポリペプチドを用いてアルドール縮合を触媒することを特徴とする方法である。
【0042】
アルデヒドの構造は、特に限定されない。例えば、クロロアセトアルデヒド、メチルグリオキサール、及びクロトンアルデヒド等を挙げることができる。
【0043】
また、アルデヒドは上記に挙げるものの他、複素環を有するアルデヒドであってもよい。
【0044】
複素環を有するアルデヒドの構造は、特に限定されない。複素環としては例えば、ベンゼン環、フラン環、イミダゾール環、ピロール環、チオフェン環、オキサゾール環、チアゾール環、ピラゾール環、イソオキサゾール環、イソチアゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、2H−ピラン環、4H−ピラン環等が挙げられる。
【0045】
複素環を有するアルデヒドの具体例としては、例えば、ベンズアルデヒド、3−クロロベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、2−ピリジンカルボキシアルデヒド、2−フランカルボキシアルデヒド、2−ピロールカルボキシアルデヒド、及び4−イミダゾールカルボキシアルデヒドを挙げることができる。
【0046】
例えば、アルデヒドとしてベンズアルデヒドを使用すると、図1の(A)に示す通り、ピルビン酸とのアルドール縮合によって4−ヒドロキシ−4−フェニル−2−オキソ酪酸
がアルドール縮合物として得られる。4−ヒドロキシ−4−フェニル−2−オキソ酪酸を原料として、脱水反応により2−オキソ−4−フェニル−3−ブテン酸を得ることができる。この2−オキソ−4−フェニル−3−ブテン酸は、降圧剤であるエナラプリル(enalapril)の中間体として利用できる。また、4−ヒドロキシ−4−フェニル−2−オキソ酪酸を原料として、アルコールデヒドロゲナーゼを用いて酸化することにより2、4−ジオキソ−4−フェニル酪酸を得ることができる。2、4−ジオキソ−4−フェニル酪酸は、C型肝炎ウィルスのRNAポリメラーゼ阻害剤として利用できる。
【0047】
例えば、アルデヒドとして3−クロロベンズアルデヒドを使用すると、図1の(B)に示す通り、ピルビン酸とのアルドール縮合によって4−(3−クロロフェニル)−4−ヒドロキシ−2−オキソ酪酸がアルドール縮合物として得られる。4−(3−クロロフェニル)−4−ヒドロキシ−2−オキソ酪酸は、B型肝炎薬(プラデホビル)の中間体として
利用できる。
【0048】
例えば、アルデヒドとしてフェニルアセトアルデヒドを使用すると、図1の(C)に示す通り、ピルビン酸とのアルドール縮合によって5−フェニル−4−ヒドロキシ−2−オキソエノン酸がアルドール縮合物として得られる。
【0049】
例えば、アルデヒドとして2−ピリジンカルボキシアルデヒドを使用すると、図1の(D)に示す通り、ピルビン酸とのアルドール縮合によって4−ピリジン−4−ヒドロキシ−2−オキソ酪酸がアルドール縮合物として得られる。
【0050】
例えば、アルデヒドとして2−フランカルボキシアルデヒドを使用すると、図1の(E)に示す通り、ピルビン酸とのアルドール縮合によって4−フリル−4−ヒドロキシ−2−オキソ酪酸がアルドール縮合物として得られる。
【0051】
例えば、アルデヒドとして2−ピロールカルボキシアルデヒドを使用すると、図1の(F)に示す通り、ピルビン酸とのアルドール縮合によって4−ピロール−4−ヒドロキシ−2−オキソ酪酸がアルドール縮合物として得られる。
【0052】
例えば、アルデヒドとしてクロロアセトアルデヒドを使用すると、図1の(G)に示す通り、ピルビン酸とのアルドール縮合によって5−クロロ−4−ヒドロキシ−2−オキソエノン酸がアルドール縮合物として得られる。
【0053】
例えば、アルデヒドとしてメチルグリオキサールを使用すると、図1の(H)に示す通り、ピルビン酸とのアルドール縮合によって4−ヒドロキシ−2、5−ジオキソ−ヘキサン酸がアルドール縮合物として得られる。
【0054】
例えば、アルデヒドとしてクロトンアルデヒドを使用すると、図1の(I)に示す通り、ピルビン酸とのアルドール縮合によって4−ヒドロキシ−2−オキソ−5−ヘプテン酸がアルドール縮合物として得られる。
【0055】
例えば、アルデヒドとして4−イミダゾールカルボキシアルデヒドを使用すると、図1の(J)に示す通り、ピルビン酸とのアルドール縮合によって4−イミダゾール−4−ヒドロキシ−2−オキソ酪酸がアルドール縮合物として得られる。
【0056】
ピルビン酸には、ピルビン酸塩も含まれる。ピルビン酸塩としては、金属塩、アンモニウム塩等が例示されるが、これらに限定されない。金属塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が例示されるが、これらに限定されない。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩が例示されるが、これらに限定されない。アルカリ土類金属塩と
しては、マグネシウム塩、カルシウム塩が例示されるが、これらに限定されない。これらのうちアルカリ金属塩が好ましく、カリウム塩が特に好ましい。本発明のピルビン酸としては、ピルビン酸カリウムが好適に用いられる。
【0057】
アルデヒド及びピルビン酸の由来については特に制限されず、酵素反応によって製造されたものであってもよいし、或いは化学合成によって製造されたものであってもよい。例えば、(1)ピルビン酸の代わりに乳酸を添加し、乳酸デヒドロゲナーゼによる酸化反応によってピルビン酸を生成させながら、上記のアルドール反応を行ったり(図3参照)、(2)アルドール縮合反応を進行させながら、生成したアルドール縮合生成物のヒドロキシル基をアルコールデヒドロゲナーゼにより酸化し、脱水されにくい安定な化合物を製造することもできる。さらに(1)及び(2)の反応をアルドール縮合反応と同時に行うこともできる。
【0058】
反応開始時のアルデヒド及びピルビン酸の濃度は、特に制限されるものではない。アルデヒド及びピルビン酸の比率としては、特に制限されないが、1:1が好ましい。アルデヒド及びピルビン酸の濃度は、0.01〜1mM、好ましくは0.05〜5mM、さらに好ましくは0.1〜0.2mMとなるように設定すればよい。
【0059】
反応開始時の本発明のポリペプチドの濃度は、特に制限されるものではない。アルドール縮合生成物の製造効率を高めるという観点から、以下の比率が例示される:アルデヒド(又はピルビン酸)1モル当たり、本発明のポリペプチドを0.01〜3g、好ましくは0.1〜2g、さらに好ましくは0.5〜1.5g。
【0060】
アルドール縮合は、適当な反応条件で行うことができる。反応条件は、アルデヒドの種類、及び使用するポリペプチドの特性等に応じて適宜設定することができる。反応温度としては、常圧下で20〜75℃、好ましくは25〜60℃、さらに好ましくは30〜40℃の条件を挙げることができる。反応pHとしては、pH4〜8、好ましくはpH5〜7、さらに好ましくは5.5〜6.5を挙げることができる。
【0061】
アルドール縮合は、適当な緩衝液を用いて行うことができる。緩衝液は特に制限されない。例えば、PIPES緩衝液、HEPES等を挙げることができる。
【0062】
先述の通り、アルドール縮合は、マグネシウムイオン存在下で行うほうが好ましい。このため、反応系がマグネシウムイオン、又はマグネシウムイオン供給源を含有していれば好ましい。マグネシウムイオン供給源としては、水溶液中でマグネシウムイオンを生じさせるようなマグネシウム塩であればよく特に限定されない。マグネシウムイオン供給源の具体例としては、塩化マグネシウム、及び硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。マグネシウムイオン又はマグネシウムイオン供給源の反応系における濃度は、アルドール縮合が行われる限り特に制限されない。マグネシウムイオン又はマグネシウムイオン供給源の反応系における濃度としては、反応溶液中におけるマグネシウムイオン濃度が0〜50mM、好ましくは0.01〜20mM、より好ましくは1〜5mMとなる濃度を挙げることができる。
【0063】
アルドール縮合は、非水溶性の基質を使用する場合、両親媒性有機溶媒を含む水溶液中で実施することが好ましい。両親媒性有機溶媒の種類としては、アルドール縮合が行われる限り特に制限されない。例えば、メタノール、アセトニトリル等を挙げることができる。両親媒性有機溶媒の濃度は、0〜50%であれば好ましく、5〜25%であればより好ましく、5〜20%であればさらに好ましい。
【0064】
反応開始時における各成分の具体的な含有量の具体例としては、例えば次を挙げること
ができる:0.2 mMアルデヒド、0.2 mM ピルビン酸、2mM 塩化マグネシウム、10重量%メタノール、50 mM PIPES緩衝液(pH6.0)。
【0065】
本発明のアルドール縮合物製造方法における酵素反応の形式についても特に制限されず、原料を仕込んだ後にバッチ形式で酵素反応を実施してもよく、また本発明のポリペプチドを含む溶液中に、アルデヒド、ピルビン酸及びマグネシウム塩を流加させながら酵素反応を実施してもよい。
【0066】
脱水反応は、特に限定されないが、非酵素的に行うことができる。例えば、上記したアルドール縮合反応と同じ反応系の中で、かつ同じ反応条件の下、アルドール縮合反応に引き続いて行うことができる。
【0067】
本発明のアルドール縮合物又はアルドール縮合物の脱水化物の製造方法は、例えば、適宜反応液をサンプリングし、薄層クロマトグラフィーにより展開することにより反応の経過を確認し、反応生成物であるアルドール縮合物又はアルドール縮合物の脱水化物の増加が停止したと認められた時点で終了することができる。
【0068】
本発明のアルドール縮合物製造方法においては、最終生成物であるアルドール縮合物又はその脱水化物を、例えば、次の方法によって回収することができる。
【0069】
反応溶液に等量の酢酸エチルを加えて混合し、水槽を回収する。同じ操作を3回繰り返し、未反応のベンズアルデヒドを除去する。さらに、水槽に塩酸を加えてpHを2に低下させた後、酢酸エチル抽出を3回行い酢酸エチル層を回収する。無水硫酸ナトリウムで脱水した後、酢酸エチルを留去して生成物を回収する。必要であれば、シリカゲルカラムクロマトグラフィーやシリカゲル薄層クロマトグラフィー等で回収された生成物をさらに精製することもできる。
【実施例】
【0070】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0071】
実施例1.本発明のポリペプチドの取得
次のようにして、本発明の配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを取得した。
Sulfolobus tokodaiiのゲノムDNAをテンプレートとして、2種のオリゴヌクレオチド
(フォワードプライマー:TATTCTAACATATGTTCAAAATTTTAAGTATGG(配列番号3);リバー
スプライマー:ACCGCTCGAGTCCCGAAACAGCTCTTTCTATTTC(配列番号4))をプライマーとして、94℃30秒、50℃30秒、68℃60秒を1サイクルとして、30サイクルのPCRを行った。DNAポリメラーゼはKOD Plus(東洋紡製)を用いた。
得られたDNAを制限酵素NdeI及びXhoIにて消化し、発現ベクターpET21aの同サイトに挿入し、発現用プラスミドを調製し、内部配列を確認した。
得られたプラスミドをE. coli Rosetta(DE)に導入し発現株を得た。得られた発現株をLB
培地で37℃で培養し、0.02 mMのIPTGで20時間該蛋白質を誘導した。
菌体を超音波破砕し、75℃30分間の加熱処理の後、遠心分離(20000 x g, 20 min)
した上清を80%飽和で硫安沈澱を行った。遠心分離(20000 x g , 20 min)により沈殿を回収し、20 mM リン酸カリウム緩衝液(pH7.5)、50 mM 塩化ナトリウムを外液として透
析した。透析内液を、HisTRap HP (GEヘルスケア)を用いて、精製した。
得られたポリペプチドは、SDS−PAGEで単一バンドを示した。
【0072】
実施例2.本発明のポリペプチドを用いたアルドール縮合及び脱水反応
0.05 M PIPES緩衝液(pH6.0)に、KDGアルドラーゼ(配列番号1のアミノ酸配列から
なる酵素;Sulfolobus tokodaii由来;配列番号2に示す塩基配列の遺伝子をpET21aにク
ローニングし大腸菌にて発現させた)を0.3 mg/ml、塩化マグネシウムを2 mM、ベンズア
ルデヒド及びピルビン酸カリウムを0.2 Mとなるように添加し、30℃で緩やかに撹拌し
て酵素反応を行った。薄層クロマトグラフィー(シリカゲルプレート)で一定時間置きに反応の進行を確認し、アルドール縮合生成物の生成が停止するまで反応させた。
【0073】
得られた反応溶液を薄層シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒、クロロホルム:メタノール:酢酸=7:3:1)にて、別途購入した標品(2−オキソ−4−フェニル−3−ブテン酸、American Custom Chemicaks Corp. で購入することができる。品番CHM0001776)をスタンダード試料として展開した。検出は 3%硫酸を噴霧し加熱することによりスポ
ットを可視化した。
薄層クロマトグラフィーの結果を図2に示す。図2から明らかなように、2−オキソ−4−フェニル−3−ブテン酸と同じRF値を示す明瞭なスポットが検出された。ベンズアルデヒドとピルビン酸からアルドール縮合によりいったん4−ヒドロキシ−4−フェニル−2−オキソ酪酸が生成し、さらにこれが非酵素的な脱水反応を経ることにより2−オキソ−4−フェニル−3−ブテン酸が生成していると考えられる(図3)。
これまで、KDGアルドラーゼによる酵素反応では、ベンズアルデヒドとピルビン酸を基質として4−ヒドロキシ−4−フェニル−2−オキソブタン酸の生成反応は進行しないことが報告されている(非特許文献1)。しかしながら、本実施例で使用したKDGアルドラーゼは、ベンズアルデヒドとピルビン酸から4−ヒドロキシ−4−フェニル−2−オキソ酪酸を生成していることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(A)又は(B)のポリペプチド:
(A)配列番号1に示すアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(B)配列番号1に示すアミノ酸配列の1若しくは2以上のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ2−ケト−3−デオキシグルコン酸アルドラーゼ(KDGアルドラーゼ)活性を有するポリペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のポリペプチドをコードするDNA。
【請求項3】
以下の(a)又は(b)のDNA:
(a)配列番号2に示す塩基配列からなるDNA;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつKDGアルドラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のDNAを含有する組換えベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項6】
アルデヒドとピルビン酸をアルドール縮合させることによりアルドール縮合物を得る工程を含む、アルドール縮合物の製造方法であって、請求項1記載のポリペプチドを用いてアルドール縮合を触媒することを特徴とする方法。
【請求項7】
前記アルデヒドがベンズアルデヒドであり、前記アルドール縮合物が4−ヒドロキシ−4−フェニル−2−オキソ酪酸である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
(1)アルデヒドとピルビン酸をアルドール縮合させることによりアルドール縮合物を得る工程;及び
(2)工程(1)で得られたアルドール縮合物を脱水反応させることによりアルドール縮合物の脱水化物を得る工程
を含む、アルドール縮合物の脱水化物の製造方法であって、請求項1記載のポリペプチドを用いてアルドール縮合を触媒することを特徴とする方法。
【請求項9】
前記アルデヒドがベンズアルデヒドであり、前記アルドール縮合物の脱水化物が2−オキソ−4−フェニル−3−ブテン酸である、請求項8記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−115154(P2011−115154A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239772(P2010−239772)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(505057738)株式会社耐熱性酵素研究所 (10)
【Fターム(参考)】