説明

KDRに特異的なヒト抗体及びその利用

【課題】本発明は、ヒトVEGFに匹敵するか又はそれより高いアフィニティーでKDRに結合し、かつKDRの活性化を中和する抗体を提供することを目的とする。
【解決手段】本明細書において配列が決定された相補性決定領域を含む全イムノグロブリン、一価Fabs及び単鎖抗体、多価一本鎖抗体、ダイアボディ、トリアボディ、及び単一ドメイン抗体を提供することによる。本発明はさらに上記抗体をコードし、かつ発現する核酸及び宿主細胞をも提供する。本発明は、さらに、KDRの活性化を中和する方法、哺乳動物において血管形成を阻害する医薬組成物、及び哺乳動物において腫瘍増殖を阻害する医薬組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の属する技術分野
本発明は、KDRと結合し、血管内皮増殖因子受容体(VEGFR)へのKDRの結合をブロックし、KDRの活性化を中和するヒト抗体に関する。この抗体は、腫瘍性疾患及び過形成障害を治療するために用いられ、単独でも、あるいは他のVEGFR拮抗因子や表皮増殖因子受容体(EGFR)拮抗因子と組み合わせても利用できる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
血管新生は、すでに存在する血管からの毛管内皮細胞の増殖と移動、及び組織浸潤、管状構造への細胞の集合、閉回路の血管システムへの新しく形成する管状集合体の接合、及び新しく形成された毛細血管の成熟、などが関与する、新しい血管を生成するための高度に複雑なプロセスである。
【0003】
血管新生は、胚発生、胞細胞増殖、傷の治癒などの正常な生理的プロセス、並びに腫瘍の増殖などの病理的プロセス、及び血管新生緑内障などの異常血管新生に関わる非腫瘍性疾患、において重要である(Folkman, J. and Klagsbrun, M., Science, 235: 442-7, (1987))。その他の疾病としては、腫瘍性疾患、例えばそれだけに限定されないが充実性腫瘍、アテローム硬化症及びその他の炎症性疾患、例えば、慢性関節リウマチ、及び眼科疾患、例えば、糖尿病性網膜症及び年齢に関連する黄斑変性、などがあげられるが、それだけに限定されない。永続的な又は制御されない血管新生に基因する症状や疾病は、血管新生依存又は血管新生関連疾患と呼ばれる。
【0004】
このような疾患及び病理的状態をコントロールする1つの手段は、その疾患又は状態を媒介又は発生することに関わる細胞への血液供給を制限すること、例えば、腫瘍が存在する器官部分に血液を供給している血管を閉塞することによって血液供給を制限することである。このアプローチは、腫瘍部位を同定する必要があり、一般に単一の部位、又は少数の部位、の治療に限定される。血液供給を直接機械的に制限するやり方の欠点は、並行する血管が、多くの場合きわめて速やかに生じて、腫瘍への血液の供給を回復するということである。
【0005】
別のアプローチは、血管新生の調節に関与する因子を修飾することに焦点を合わせている。通常は静かにしているが、血管内皮増殖は、血管新生のときでも、強く調節されている。VEGFは、in vivoにおける血管新生を調節すると言われている因子である(Klagsbrun, M. and D’Amore, P., Annual Rev. Physiol., 53: 217-39 (1991))。
【0006】
内皮細胞特異的ミトゲンであるVEGFは、内皮細胞の増殖を特異的に促進することによって血管新生誘発因子として活動する。これは2つの23kDサブユニットから成るホモダイマーの糖タンパク質である。mRNAの別のスプライシングから得られるVEGFの4つのモノマー・アイソフォームが同定されている。それらは2つの膜結合形態(VEGF206とVEGF189)と2つの可溶形態(VEGF165とVEGF121)である。VEGF165は胎盤を除くすべてのヒト組織で最も多いアイソフォームである。
【0007】
VEGFは、胚組織(Breier et al., Development, 114: 521-32 (1992))、マクロファージ、及び傷が治癒するときの増殖している表皮ケラチノサイト(Brown et al., J. Exp. Med., 176: 1375-9 (1992))において発現され、炎症に関連した組織浮腫の原因になっている可能性がある(Ferrara et al., Endocr. Rev., 13: 18-32 (1992))。In situハイブリダイゼーション研究は、多形性膠芽腫、血管芽細胞腫、その他の中枢神経系新生物及びAIDS関連カポジ肉腫など、いくつかのヒト腫瘍系統で高レベルのVEGF発現を示した(Plate, K. et al., Nature, 359: 845-8 (1992); Plate, K. et al., Cancer Res., 53: 5822-7 (1993); Berkman, R. et al., J. Clin. Invest., 91: 153-9 (1993); Nakamura, S. et al., AIDS Weekly, 13(1) (1992))。高レベルのVEGF発現は、また、アテローム硬化症病変、プラーク、及び炎症細胞でも見出されている。
【0008】
VEGFは、高い親和性を有するVEGF受容体を通してその生物的効果を発揮する。VEGF受容体は、例えば、胚発生(Millauer, B. et al., Cell, 72: 835-46 (1993))及び腫瘍形成のさいに内皮細胞で選択的に発現され、血管新生及び腫瘍増殖を修飾するとされている。これらの受容体は、細胞増殖に関与する信号経路を開始させるチロシン・キナーゼ・シトゾル・ドメイン(cytosolic domain)を含む。
【0009】
VEGF受容体は、普通、そのアミノ末端細胞外受容体リガンド結合ドメインに、いくつかの、普通は5又は7つの、免疫グロブリン様ループを有することを特徴とするクラスIII受容体タイプ・チロシンキナーゼである(Kaipainen et al., J. Exp. Med., 178: 2077-88 (1993))。他の2つの領域は、膜貫通領域と、可変長の親水性インターキナーゼ配列の挿入によって中断されたカルボキシ末端細胞内触媒ドメイン、キナーゼ挿入ドメインと呼ばれるもの、を含む(Terman et al., Oncogene, 6: 1677-83 (1991))。VEGF受容体としては、Shibuya et al., Oncogene, 5: 519-24 (1990)によって配列が決定された、fms様チロシンキナーゼ(flt-1)又はVEGFR−1,February 20, 1992,に出願されたWO 92/14248及びTerman et al., Oncogene, 6: 1677-83 (1991), に記載され、Matthews et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88: 9026-30 (1991)で配列が決定された、キナーゼ挿入ドメインを含む受容体/胎児肝臓キナーゼ(KDR/flk-1)又はVEGFR−2、などがあるが、他の受容体もVEGFと結合する。別のチロシンキナーゼ受容体、VEGFR−3(flt-4)、はVEGF相同体VEGF−C及びVEGF−Dと結合し、リンパ管の生成で重要である。
【0010】
腫瘍マスによるVEGFの放出は隣接する内皮細胞で血管新生を刺激する。腫瘍マスがVEGFを発現すると、VEGF+腫瘍細胞に隣接する内皮細胞はVEGF受容体、例えば、VEGFR−1とVEGFR−2,の発現をアップレギュレートする。一般に、KDR/VEGFR−2が、内皮細胞の増殖、移動、分化、管形成、血管透過性の増加、及び血管の完全性の維持、を生ずる主なVEGF信号トランスジューサーであると考えられている。VEGFR−1が有するキナーゼ活性はずっと弱く、KDRよりもほぼ10倍高い親和性でVEGFと結合するけれども、VEGFによって刺激されたときにミトゲン応答を発生させることができない。VEGFR−1は、また、VEGF及び胎盤増殖因子(PIGF)で誘発される単球とマクロファージの移動及び組織因子の産生に関与していると言われている。
【0011】
高レベルのVEGFR−2が、例えば、グリオームを浸潤させる内皮細胞によって発現され(Plate, K. et al., (1992))、ヒト膠芽腫によって産生されるVEGFによって特異的にアップレギュレートされる(Plate, K. et al., (1993))。膠芽腫に関連した内皮細胞(GAEC)で高レベルのVEGFR−2が発現されるという所見は、受容体活性が腫瘍形成の際に誘発されるということを示唆する。VEGFR−2転写は正常な脳の内皮細胞でほとんど検出できず、パラ分泌(paracrine)VEGF/VEGFRループの生成を示している。このアップレギュレーションは、腫瘍のすぐ近くにある血管内皮細胞に限定される。中和する抗VEGFモノクローナル抗体(mAbs)によってVEGFの活性をブロックすると、ヌード・マウスにおけるヒト腫瘍異種移植片の増殖が阻害され(Kim, K. et al., Nature, 362: 841-4 (1993) )、腫瘍に関連した血管新生におけるVEGFの直接的な役割を示唆する。
【0012】
このため、血管侵入腫瘍やその他の血管新生疾患を治療するためにVEGFR拮抗因子が開発された。血管内皮細胞で発現されたVEGF受容体による信号伝達をブロックして、内皮−依存的なパラ分泌ループによる血管新生を阻止することによって腫瘍の増殖を減少させる中和抗体を含んでいた。例えば、U.S, Patent No. 6,365,157 (Rockwell et al.), WO 00/44777 (Zhu et al.), WO 01/54723 (Kerbel), WO 01/74296 (Witte et al.), WO 01/90192 (Zhu), WO 03/002144 (Zhu), 及びWO 03/000183 (Carmeliet et al.) を見よ。
【0013】
VEGF受容体はまた、いくつかの非内皮細胞でも、例えば、VEGFを産生する腫瘍細胞でも見出され、そこでは内皮に依存しない自己分泌(autocrine)ループが腫瘍の増殖を支えるために発生する。例えば、VEGFは、全ての確立された白血病細胞系統、及び新たに単離されたヒト白血病でほとんど常に発現される。さらに、VEGFR−2とVEGFR−1はいくつかのヒト白血病で発現される。Fielder et al., Blood 89: 1870-5 (1997); Bellamy et al., Cancer Res. 59728-33 (1999)。VEGF/ヒトVEGFR−2自己分泌ループがin vivoでの白血病細胞の生存と移動を媒介することが示されている。Dias et al., J. Clin. Invest. 106: 511-21 (2000); 及びWO 01/74296 (Witte et al.)。同様に、VEGFの産生とVEGFRの発現は、また、in vitroのいくつかの充実性腫瘍細胞ラインについて報告されている。(Sato, K. et al., Tohoku J. Exp. Med., 185: 173-84 (1998); Ishii, Y., Nippon Sanka Fujinka Gakkai Zasshi, 47: 133-40 (1995); 及びFerrer, F. A. et al., Urology, 54: 567-72 (1999), を見よ)。さらに、VEGFR−1 Mabsは、乳癌細胞におけるVEGFR/ヒトVEGFR−1自己分泌ループを阻害することが示されている。Wu, et al., “VEGFR1に対するモノクローナル抗体はflt1陽性のDU4475ヒト乳腫瘍の増殖を抗血管新生活性及び腫瘍細胞増殖阻害活性に関わる二重のメカニズムによって阻害する”、AACR NCI EORTC International Conference on Molecular Targets and Cancer Therapeutics, Oct. 29-Nov. 2, 2001, Abstract #7。
【0014】
例えば、パラ分泌及び/又は自己分泌VEGF/VEGFRループを阻害して病理的な血管新生又は腫瘍増殖を阻害することによってVEGF受容体依存疾患又は疾病を治療又は予防するために、VEGF受容体活性を阻害する物質が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0015】
発明の要約
本発明は、KDRと結合し、血管内皮増殖因子(VEGF)のKDRとの結合をブロックし、KDRの活性を中和するヒト抗体、又はその部分、を提供する。これらの抗体は、例えば、充実性及び非充実性腫瘍を含む腫瘍性疾患を治療するために用いられる。これらの抗体はまた、過形成障害の治療にも用いることができる。したがって、本発明は、KDRの活性を中和する方法、腫瘍に関連した血管新生を含めて腫瘍増殖を阻害する方法、及び血管新生に関連した他の疾患を治療する方法、を提供する。本発明は、VEGF受容体と結合するヒト抗体又は抗体断片を有するキットを提供する。
【0016】
この抗体は、単独で用いることも、又は他のVEGFR拮抗物質及び/又は血管新生阻害物質、例えば、表皮増殖因子受容体(EGFR)拮抗物質、と組み合わせて用いることもできる。本発明はまた、この抗体をコードする核酸分子を提供する。
【0017】
略語−VEGF、血管内皮増殖因子;bFGF、基本線維芽細胞増殖因子;KDR、キナーゼ挿入ドメイン含有受容体(VEGF受容体2とも呼ばれる);FLK-1、胎児肝臓キナーゼ1;scFv、単一鎖Fv;HUVEC、ヒト臍静脈内皮細胞;PBS、0.01Mリン酸緩衝生理食塩水(pH7.2);PBST、0.1%Tween−20を含むPBS;AP、アルカリ・ホスファターゼ;EGF、表皮増殖因子;VH及びVL、それぞれ、免疫グロブリンの重鎖と軽鎖の可変領域。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、ヒト抗DKR Fab断片の同定と表現を示す。図1A:4つの中和抗KDR FabのBstNI消化パタン。図1B:非還元条件下での精製されたFab断片のSDS−PAGE分析;レーン1,D1F7;レーン2,D2C6;レーン3,D1H4;レーン4,D2H2.
【図2】図2は、ヒト抗KDR Fab断片による、KDRとの結合、KDR/VEGF相互作用のブロッキング、及びFLK-1/VEGF相互作用のブロッキングを示す。図2A:固定されたKDRとのヒト抗KDR Fabの量依存的な結合。図2B:抗KDR Fabによる、固定されたVEGFとKDRの結合の阻害。図2C:抗KDR Fabによる、固定されたVEGFとFlk-1の結合の阻害。いろいろな量のFabタンパク質が、固定された量のKDR−AP(2B)又はFlk-1(2C)と共にRTにある溶液内で1時間インキュベートされた。
【図3】図3は、抗KDR Fab断片のエピトープ・マッピングを示す。 KDR−AP、そのドメイン欠失−AP変異体、及びFlk-1−APが、96ウエル・プレートに捕捉され、ヒト抗KDR Fab断片と共にインキュベートされた。データは、全長KDRへのFab断片の結合に対する比で示されている。
【図4】図4は、VEGFによるHUVEC有糸分裂誘発のヒト抗KDR Fab断片による阻害を示す。いろいろな量の抗KDR Fab断片が重複したウエルに加えられ、37℃で1時間インキュベートされ、その後VEGFがウエルに最終濃度16ng/mlまで加えられた。細胞を収穫し、DNAに取り込まれた放射能が決定された。
【図5】図5は、ヒト白血病細胞のVEGFで刺激された移動のヒト抗KDR Fab断片による阻害を示す。図5A:VEGFはHL60及びHEL細胞の移動を量依存的な仕方で促進する。図5B:VEGF刺激されたヒト白血病細胞の移動の抗KDR Fab断片による阻害を示す。固定されたVEGFに結合したKDR−APの量は、プレートをAP基質と共にインキュベートし、A405nmの読み取りで定量化した。
【図6】図6は、ヒト抗KDR Fab断片によるKDRとの結合及びKDR/VEGF相互作用の阻害を示す。図6A:固定されたKDRとの抗KDRの量依存的な結合。いろいろな量の抗体が、RTで1時間、KDRでコーティングされた96ウエル・プレートでインキュベートされた。図6B:固定されたVEGFとKDRの結合のヒト抗KDR抗体による阻害。いろいろな量の抗体がRTにおける溶液中の固定された量のKDR−APと共に1時間インキュベートされた。
【図7】図7は、VEGFの結合の阻害及びVEGFで誘発されるHUVECの有糸分裂の阻害を示す。図7A:放射性標識されたVEGFと細胞表面KDRとの結合のヒト抗KDR抗体による阻害。いろいろな量の抗KDR抗体が2ngの125I標識されたVEGF165と混合されてHUVEC細胞の80−90%コンフルエントな単層に加えられた。細胞はRTで2時間インキュベートされ、洗浄され、結合した放射能が測定された。図7B:VEGFによって誘発されるHUVEC細胞分裂のヒト抗KDR抗体による阻害。いろいろな量の抗KDR抗体がHUVEC細胞と共に1時間インキュベートされ、続いてVEGFが加えられた。細胞が収穫され、DNAに組み込まれた放射能が決定された。
【図8】図8は、ヒト白血病細胞によるKDRとVEGFの発現を示す。図8A:いろいろなmRNAレベルがRT−PCRによって決定された。レーン1:分子量マーカー;1000,850,650500,400bp;レーン2:ネガティブ対照;レーン3:HL60細胞(前骨髄細胞);レーン4:HEL細胞(骨髄巨核球);レーン5:U937細胞(hisitocytic);レーン6:HUVEC.図8B:10%FCS又は血清を含まない培地で培養されたヒト白血病細胞によるVEGFの分泌。
【図9】図9は、VEGFに刺激されたヒト白血病細胞の移動のヒト抗KDR抗体による阻害を示す。図9A:HL60細胞。図9B:HEL細胞。図9C:U937細胞。
【図10】図10は、生存率によって決定されたin vivoでの白血病の進行の阻害を示す。致死量よりも低い照射を受けたNOD−SCIDマウスに2×107HL60細胞を接種し、いろいろな量の1C11,2C6,又はIMC−1121の腹腔内注射によって治療した。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、VEGFR−2(KDR)の細胞外ドメインに特異的に結合する抗体を提供する。これらの抗体は、ヒトVH及びVLフレームワーク領域(FWs)、並びにヒト相補性決定領域(CDRs)を含む。好ましくは、VH及びVL可変ドメイン全体はヒト配列(human sequences)であるか、又はヒト配列から導かれる。例えば、本発明の可変ドメインは、再配置された可変領域遺伝子を含む末梢血液リンパ球から得られる。あるいはまた、CDR及びFW領域などの可変ドメイン部分は異なるヒト配列から得られる。別の例では、ヒトVH可変ドメインはヒトVH遺伝子セグメントとCDR3H領域の合成配列(すなわち、合成DH−JH遺伝子セグメント)によってコードされる。同様に、ヒトVL可変ドメインはヒトVL遺伝子セグメントとCDR3L領域の合成配列(すなわち、合成JL遺伝子セグメント)によってコードされる。
【0020】
本発明の抗体はまた、結合特性が、直接突然変異、親和性(affinity)成熟の方法、ファージ・ディスプレー、又はチェーン・シャッフリング、によって改善されたものを含む。親和性及び特異性は、CDRsに突然変異を誘発して所望の特性を有する抗原結合部位に関してスクリーニングすることにより、修飾又は改善される(例えば、Yang et al., J. Mol. Biol., 254: 392-403 (1995) を見よ)。CDRsにはいろいろな仕方で突然変異が誘発される。一つの方法は、個々の残基又は残基の組み合わせをランダム化して、他の部分が同一の抗原結合部位の集団で、特定位置に20のアミノ酸が全部見出されるようにすることである。あるいはまた、ある範囲のCDR残基にエラーが生じ易いPCR法によって突然変異を誘発する(例えば、Hawkins et al., J. Mol. Biol., 226: 889-896 (1992) を見よ)。例えば、重鎖と軽鎖可変領域遺伝子を含むファージ・ディスプレー・ベクターをE.coliのミューテーター系統で増殖させる(例えば、Low et al., J. Mol. Biol., 250: 359-368 (1996)を見よ)。これらの突然変異誘発方法は、当業者に公知の多くの方法を例示しただけである。
【0021】
これらの抗体は、KDRと結合し、例えば、受容体の二量体化及び/又はVEGF結合をブロックすることによって、活性化を中和する。本発明の抗体は、VEGF受容体の細胞外ドメインと結合することによってin vitro及びin vivoでVEGFRの活性化を中和するのに用いることができる。VEGF受容体の細胞外ドメインは、例えば、受容体の細胞外部分にリガンド結合ドメインを含む。In vivoで、これらの抗体は血管新生を阻害及び/又は腫瘍増殖を減少させる。
【0022】
抗体は、特定の抗原又は物質を認識してそれと結合するタンパク質である。本発明の抗体は、KDRに、少なくとも天然のリガンドと同じ程度に強く結合する。抗体に対する抗原の解離の平衡定数(Kd)で表される親和度(affinity)は、抗原決定因子と抗体結合部位との結合強度を示す。結合力(avidity)は、抗原との抗体と結合の強度を表す。結合力は、あるエピトープと抗体上の抗原結合部位との間の親和度、及び抗体の価(valence)の両方に関係する。価とは、ある特定エピトープに対して免疫グロブリンが有する抗原結合部位の数を指す。例えば、単価の抗体は、ある特定エピトープに対して1つの結合部位を有する。抗原決定因子、すなわちエピトープ、とは、ある抗体が結合する抗原上の部位である。Kの典型的な値は、105から1011リットル/molである。104リットル/molよりも小さいKの値は、非特異的な結合を示すと見なされる。Kの逆数はKdと表される。(Kdも解離定数と呼ばれることがある。)Kdの値が小さいほど、抗原決定因子と抗体結合部位の間の結合強度は強い。
【0023】
KDRの天然のリガンドはヒトVEGFである。VEGFはKDRに約0.93nMという親和度(Kd)で結合する。VEGFとKDRの結合を妨げるためには、抗KDR抗体はKDRに少なくともVEGFと同じ程度に強く結合しなければならない。言い換えると、抗KDR抗体は、KDRとの結合に関してVEGFと競合できる必要がある。本発明の抗体は、好ましくは、KDRと約4nM以下という親和度、さらに好ましくは約3nM以下という親和度、最も好ましくは約2nM以下という親和度、そしてオプションとして約1nM以下という親和度、で結合する。二価(bivalent)の抗体の結合力(avidity)は、もちろん、この親和度よりも大きい。二価の抗体は、好ましくは、KDRに0.5nMより大きな、さらに好ましくは0.25nMより大きな、オプションとして0.1nMより大きな結合力でKDRと結合する。
【0024】
本発明の抗体はKDRを中和する。(実施例を見よ。)本明細書では、ある受容体を中和するということは、信号を導入する受容体の固有のキナーゼ活性を減少及び/又は不活性化することを意味する。KDRの中和の信頼できる測定は、受容体のリン酸化の阻害である。
【0025】
本発明は、KDR中和の特定メカニズムによって制限されない。ある抗体が従うメカニズムは別の抗体が従うメカニズムと必ずしも同じではない。可能なメカニズムとしては、KDRの細胞外結合ドメインへのVEGFリガンドの結合を妨げること、及び受容体の二量体化又はオリゴマー化を妨げること、などがある。しかし、他のメカニズムの可能性も排除できない。
【0026】
本発明の抗体は、天然に発生する抗体、(Fab´)2などの二価の断片、Fabなどの一価の断片、単一鎖抗体、単一鎖Fv(scFv)、単一ドメイン抗体、多価単一鎖抗体、などを含むがそれだけに限定されない。抗原に特異的に結合するdiabodies, triabodies, などを含むが、それだけに限定されない。
【0027】
一価の単一鎖抗体(すなわち、scFv)は、抗体の可変重鎖断片(VH)が抗体の可変軽鎖断片(VL)に、2つの断片が関連して機能的な抗原結合部位を形成できるようにペプチド・リンカーによって結ばれたものを含む(例えば、U.S, Patent No.4,946,778 (Lander et al.), WO 88/09344, (Huston et al.) を見よ)。WO 92/01047 (McCafferty et al.) は、バクテリオファージなど、可溶組み換え遺伝子ディスプレー・パッケージの表面でのscFv断片のディスプレーを記載している。リンカー(L)を有する単一鎖抗体はVL−L−VH又はVH−L−VLと表すことができる。
【0028】
本発明の抗体の各ドメインは、完全な抗体重鎖又は軽鎖可変ドメインであることも、天然に見られるドメインの機能的等価物、又は突然変異体、又は誘導体であることも、又は、例えば、WO 93/11236 (Griffiths et al.) に記載されているような方法によってin vitroで構成された合成ドメインであることもある。例えば、少なくとも1つのアミノ酸を欠失している抗体可変ドメインに対応するドメインを接合することもできる。重要な特徴は、各ドメインが相補的なドメインと結びついて抗原結合部位を形成できることである。したがって、“可変重/軽鎖断片”という用語は、本発明が働く仕方に実質的な効果を有しない変異体(variant)を排除していると解釈してはならない。
【0029】
本発明の機能的等価物は、KDR抗体全長の可変又は超可変領域のアミノ酸配列と実質的に同じアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。“実質的に同じ”アミノ酸配列とは、本明細書では、Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85, 2444-8 (1988) によるFASTA探索法で測定して、別のアミノ酸配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも約80%、さらに好ましくは少なくとも約90%、の相同性を有する配列と定義される。
【0030】
単一ドメイン抗体は、効率的に抗原と結合する単一可変ドメインを有する。結合の親和度と特異性に、主として可変領域の一方又は他方が寄与している抗体の例は当業者には公知である。例えば、Jeffrey, P. D. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 10310-4 (1993) を見よ。これは、ジゴキシンに主として抗体の重鎖によって結合する抗ジゴキシン抗体を開示している。したがって、VEGF受容体に良く結合する単一抗体ドメインを同定することができる。このような抗体ドメインは、例えば、天然に生ずる抗体、又はFab又はscFvファージ・ディスプレー・ライブラリー、から得られる。VH及びVLドメインを含む抗体から単一ドメイン抗体を作るには、CDR領域の外側でいくつかのアミノ酸置換が、結合、発現、又は溶解度を高めるために望ましいことがあることは理解されるであろう。例えば、VH−VL界面に埋められそうなアミノ酸残基を変更することが望ましいかもしれない。
【0031】
最近では、重鎖のホモダイマーである抗体がラクダ類(ラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ)で発見された。これらの重鎖抗体は、軽鎖及び第一定常領域を欠いている。(例えば、Muyldermans, S., 2001, J. Biotechnol. 74: 277-302 を見よ)小さなサイズの抗原結合断片はバクテリアで良く発現され、抗原と高い親和度で結合し、非常に安定である。単一ドメイン抗体(すなわち、軽鎖又は重鎖可変ドメインである単一可変ドメインを有する抗体)のファージ・ディスプレー・ライブラリーを作成し、scFv及びFabライブラリーと同様の仕方でスクリーニングすることがいる。でこのような単一ドメイン抗体の骨組は修飾されたマウス又はヒト可変ドメインであってよい。単一抗体ドメインは抗原にいろいろな抗原結合モードで結合できることに注意したい。すなわち、一次的な抗体−抗原相互作用は抗体を含むVH−VLのCDRsに対応するアミノ残基に限定されず、このような抗体の結合特性を最適化するときにCDR残基の外側の結合相互作用を考慮することができる。
【0032】
単一鎖抗体は、それが導出された抗体全体の定常ドメインの一部又は全部を欠いている。したがって、単一鎖抗体は、抗体全体を使用することに関連した問題のいくつかを解決できる可能性がある。例えば、単一鎖抗体は、重鎖定常領域と他の生物分子との間の望ましくない相互作用から自由になるだろう。さらに、単一鎖抗体は、抗体全体よりもかなり小さく、抗体全体よりも透過性が大きく、したがって、標的の抗原結合部位に効率的に局在し結合することが可能になる。また、単一鎖抗体は、原核細胞で比較的大規模に生成することができ、生産が容易になる。さらに、単一鎖抗体のサイズが比較的小さいため、抗体全体に比べて、レシピエントに望まれない免疫応答を誘発する可能性が小さくなる。
【0033】
単一鎖抗体を生成するために用いられるペプチド・リンカーは、フレキシブルなペプチドであって、VHとVLドメインがリンクされたときにそれらの三次元的な折れ曲がりが適切に生じて、抗KDR抗体の全長が有する標的分子との結合特異性が維持されるように選ばれる。一般に、VL又はVH配列のカルボキシル末端がこのようなペプチド・リンカーによって相補的なVH又はVL配列のアミノ酸末端に共有結合で連結される。リンカーは、一般に、10乃至50アミノ酸残基から成る。好ましくは、リンカーは10乃至30アミノ酸残基から成る。さらに好ましくは、リンカーは12乃至30アミノ酸残基から成る。最も好ましくは、リンカーは15乃至25アミノ酸残基から成る。このようなリンカー・ペプチドの例としては、(Gly−Gly−Gly−Gly−Ser)3があげられる。
【0034】
それぞれが第一のペプチド・リンカーによって共有結合でリンクされた1つのVHと1つのVLドメインを有する複数の単一鎖抗体を、少なくとももう1つのペプチド・リンカーによって共有結合でリンクして多価の単一鎖抗体を形成することができる。多価の単一鎖抗体は抗体全体の特異性と結合力を有し、全長抗体の定常領域を欠いている抗体断片の構築を可能にする。
【0035】
多価抗体は、単一特異的又は多重特異的である。特異性という用語は、ある特定抗体が結合できる、異なるタイプの抗原決定因子の数を指す。抗体が1つのタイプの抗原決定因子としか結合しない場合、その抗体は単一特異的である。抗体がいろいろなタイプの抗原決定因子と結合する場合、その抗体は多重特異的である。
【0036】
例えば、二重特異的な多価単一鎖抗体は、2つの異なるタイプのエピトープの認識を可能にする。エピトープは、両方ともKDR上にあってもよい。あるいはまた、一方のエピトープはKDR上にあり、他方のエピトープは別の抗原にあってもよい。
【0037】
多価単一鎖抗体の各鎖は可変軽鎖断片と可変重鎖断片を含み、ペプチド・リンカーによって少なくとも1つの他の鎖と連結されている。ペプチド・リンカーは少なくとも15のアミノ酸残基から成る。ある好ましい実施形態では、VL及びVHドメインの数は等しい。好ましくは、VLドメインとVHドメインを結合して1つの鎖を形成するペプチド・リンカー(L1)と2つ以上の鎖を結合して多価scFvを形成するペプチド・リンカー(L2)は、実質的に同じアミノ酸配列を有する。
【0038】
例えば、二価単一鎖抗体は次のように表される:VL―L1―VH―L2―VL―L1―VH;又はVL―L1―VH―L2―VH―L1―VH;又はVH―L1―VL−L2―VH―L1―VL;又はVH―L1―VL−L2―VL―L1―VH
【0039】
三価以上の多価単一鎖抗体は、1つ以上の抗体断片が別のペプチド・リンカーによって二価単一鎖抗体に結合される。三価単一鎖抗体の一例は次のようなものである:VL―L1―VH―L2―VL―L1―VH―L2―VL―L1―VH
【0040】
2つの単一鎖抗体を結合して、二価ダイマーとも呼ばれるdiabodyを形成することができる。Diabodiesは2つの鎖と2つの結合部位を有し、単一特異的又は二重特異的である。Diabodyの各鎖はVHドメインとVLドメインが結合されたものを含む。これらのドメインは、同じ鎖のドメイン間でのペア形成を妨げるのに十分短いリンカーで結合され、異なる鎖の相補ドメイン間で2つの抗原結合部位を生ずるペア形成が促進される。すなわち、二重特異的なdiabodyの一方の鎖は第一の特異性のVHと第二の特異性のVLを含み、第二の鎖は第二の特異性のVHと第一の特異性のVLを含む。ペプチド・リンカーは少なくとも5つ、10を超えないアミノ酸残基を含む、例えば、(Gly−Gly−Gly−Gly−Ser)、(Gly−Gly−Gly−Gly−Ser)3.(SEQ ID NO:19.)Diabody構造は、硬く、コンパクトである。抗原結合部位は分子の反対向きの端にある。
【0041】
3つの単一鎖抗体を結合して三価トリマーとも呼ばれるtriabodiesを形成することができる。TriabodiesはVL又はVHドメインのアミノ酸末端をVL又はVHドメインのカルボキシル末端に直接融合して、すなわち、リンカー配列なしで構成される。Triabodyは3つのFvヘッドを有し、ポリペプチドがサイクリックに、頭と尾をつなぐ形で配置されている。Triabodyの1つの可能な形態は平面的で、3つの結合部位が平面内で互いに120度の角度で配置されている。Triabodiesは単一特異的、二重特異的、又は三重特異的である。
【0042】
本発明の抗体は、抗体全体の6つの相補性決定領域全部を含むことが好ましいが、これらの領域全部よりも少ない領域、例えば、3つ、4つ、又は5つのCDRsを含む抗体でも機能する。
【0043】
VEGF受容体に結合する抗体の免疫原性をできるだけ小さくするために、本発明はヒト可変及び定常ドメイン配列を含む抗体を提供する。抗体はヒトの源に由来し、KDRの細胞外ドメインと結合してこの受容体の活性化を中和する。ヒト抗体をコードするDNAは、ヒト定常領域をコードするDNAとヒトに由来する可変領域をコードするDNAを組み換えて調製される。例えば、本発明の抗体は、ヒト軽鎖及び重鎖可変ドメインの組み合わせから成るライブラリーをスクリーニングすることによって得られる。抗体が発現される核酸は、体細胞突然変異した配列、又はナイーブB細胞から導かれる生殖細胞系の配列が可能である。
【0044】
ヒト抗体をコードするDNAは、実質的に又は全て、対応するヒト抗体領域から得られる、CDRs以外のヒト定常及び可変領域をコードするDNA、及びヒトから得られるCDRsをコードするDNAを組み換えることによって調製できる。
【0045】
抗体の断片をコードするDNAsの適当な源としては、全長の抗体を発現する細胞、例えばハイブリドーマや脾臓細胞など、があげられる。別の源は、当業者に公知のファージ・ディスプレー・ライブラリーから生成される単一鎖抗体である。
【0046】
本発明の抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、又はIgEなどの免疫グロブリンのクラス、及びそのサブクラス、のメンバーであっても、その組み合わせであってもよい。
【0047】
VEGFREと結合する本発明の抗体を同定するために用いられるタンパク質は通常KDRであり、普通、KDRの細胞外ドメインに限定される。KDR細胞外ドメインは、自由であっても別の分子と接合していてもよい。
【0048】
以下の実施例では、KDRへのVEGFの結合をブロックする高親和度の抗KDR抗体が、ヒト重鎖及び軽鎖可変領域遺伝子から構成されたファージ・ディスプレー・ライブラリーから単離された。3ラウンドの選別後に回収されたクローンの90%以上がKDR特異的である。スクリーニングされたFabsのKDRに対する結合親和度はnM領域にあり、これはハイブリドーマ・テクノロジーを用いて生成されたいくつかの二価抗KDRモノクローナル抗体の親和度と同程度に高い。
【0049】
本発明の抗体は、別のアミノ酸残基に融合させることができる。そのような残基は、多分単離を容易にするためのペプチド・タグであるか、又は、合成されたときにポリペプチドを宿主細胞から分泌するための信号配列である。シトゾルからのポリペプチドの移動を導くためにポリペプチドのN−末端に結合されたアミノ酸である分泌リーダー・ペプチドを用いるのが適当である。
【0050】
本発明は、また、本発明によるポリペプチドをコードする配列を含む核酸、及びそのような核酸の多様なレパートリーを提供する。
【0051】
本発明の抗体はKDRの活性化を中和する。KDR中和の1つの尺度は、受容体のチロシンキナーゼ活性の阻害である。チロシンキナーゼ阻害は周知の方法を用いて決定できる。本発明の抗体は、一般に、リン酸化の発生を阻害又は調節する。したがって、本発明の文脈で有用な抗体を判定するのにリン酸化分析が有用である。チロシンキナーゼ阻害は組み換えキナーゼ受容体の自己リン酸化(autophosphorylation)レベル、及び/又は天然又は合成基質のリン酸化を測定することによって決定できる。リン酸化は、例えば、ELISA分析又はウエスタン・ブロットでホスフォチロシンに特異的な抗体を用いて検出できる。チロシンキナーゼ活性の測定法については、Panck et al., J. Pharmacol. Exp. Thera., 283: 1433-44 (1997) and Batley et al., Life Sci., 62: 143-50 (1998) に記載されている。
【0052】
その他に、タンパク質発現を検出する方法が、測定されるタンパク質がKDRチロシンキナーゼ活性によって調節される場合に利用できる。そのような方法としては、タンパク質の発現を検出するための免疫組織化学(IHC)、遺伝子増幅を検出するための蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、競合的放射性リガンド結合測定、ノーザン及びサザン・ブロットなどの固形マトリックス・ブロッティング法、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応法(RT−PCR)及びELISA、などがある。例えば、Grandis et al., Cancer, 78: 1284-92. (1996); Shimizu et al., Japan J. Cancer Res., 85: 567-71 (1994); Sauter et al., Am. J. Path. 148: 1047-53 (1996); Collins, Glia, 15: 289-96 (1995); Radinsky et al., Clin. Cancer Res. 1: 19-31 (1995); Petrides et al., Cancer Res. 50: 3934-39 (1990); Hoffmann et al., Anticancer Res. 17: 4419-26 (1997); Wikstrand et al., Cancer Res. 55: 3140-48 (1995) を見よ。
【0053】
In vivo分析も利用できる。例えば、受容体チロシンキナーゼ阻害は、阻害物質の存在下及び不在下で受容体リガンドによって刺激された細胞ラインを用いてミトゲン分析(mitogenic assay)によって観測できる。例えば、VEGFで刺激されたHUVEC細胞(ATCC)を用いてVEGFR阻害を測定できる。別の方法は、例えばマウスに注射されたヒト腫瘍細胞を用いて、VEGFを発現する腫瘍細胞の増殖阻害をテストすることである。U.S, Patent No. 6,365,157 (Rockwell et al.) を見よ。
【0054】
本発明の方法では、治療に効果的な量の本発明の抗体がそれを必要とする哺乳類に投与される。本明細書で用いられる場合、“投与” という用語は、本発明の抗体を求められている結果を達成できる何らかの方法によって哺乳類に供給することを意味する。それらは、例えば、静脈内に又は筋肉内に投与できる。本発明のヒト抗体はヒトに投与するのに特に有用であるが、他の哺乳類にも投与することができる。本明細書で用いられる場合、“哺乳類”という用語は、ヒト、実験動物、家庭ペット及び農場動物を含むモノとするが、それだけに限定されない。“治療に効果的な量”とは、哺乳類に投与したとき、キナーゼ活性を阻害するなど、所望の治療的効果を生ずるのに効果的な本発明の抗体の量である。
【0055】
特定のメカニズムに拘束されるつもりはないが、本発明の方法によって治療又は予防できる疾病や疾患は、例えば、病理的な血管新生や腫瘍増殖がVEGFRパラ分泌及び/又は自己分泌ループによって刺激されるようなものである。
【0056】
内皮細胞又は非内皮細胞、例えば腫瘍細胞、におけるVEGF受容体の活性化の中和は、in vitro又はin vivoで行うことができる。VEGF受容体を発現している細胞のサンプルでVEGF受容体のVEGF活性化を中和することは、細胞を拮抗物質、例えば本発明の抗体、と接触させることを含む。細胞は、細胞サンプルにVEGFを加える前、それと同時に、又はその後で、in vitroで拮抗物質、例えば抗体、と接触させられる。
【0057】
In vivoでは、本発明の抗体は、哺乳類、好ましくはヒト、への投与によってVEGF受容体と接触させられる。In vivo中和法は、哺乳類における腫瘍増殖、腫瘍増殖に関連した血管新生、又は血管新生に関連した他の病理状態、を防止するのに有用である。したがって、本発明の抗体は、抗血管新生、抗腫瘍免疫治療剤である。
【0058】
治療できる腫瘍は、原発腫瘍及び転移腫瘍、並びに難治性腫瘍である。難治性腫瘍は、化学療法物質だけ、抗体だけ、放射線だけ、又はそれらの組み合わせ、による治療に応答しない、すなわち、抵抗する腫瘍である。難治性腫瘍はまた、これらによる治療で抑えられたように見えるが、治療がうち切られてから5年までに、ときには10年までに、又はそれより後に再発する腫瘍である。
【0059】
本発明の抗体は、VEGF受容体、特にKDRを発現する腫瘍を治療するのに有用である。このような腫瘍は、その環境に存在するVEGFに特徴的に敏感であり、自己分泌刺激ループでさらにVEGFを産生しVEGFによって刺激される。したがって、この方法は血管化しない、又はまだ実質的に血管化していない充実性腫瘍又は非充実性腫瘍を治療するのに効果的である。このように治療できる充実性腫瘍の例としては、乳癌、肺癌、結腸直腸癌、膵臓癌、グリオーム、及びリンパ腫、があげられる。それらの癌の例としては、類上皮癌、頭や頚の癌などの扁平上皮癌、結腸直腸癌、前立腺癌、乳癌、小細胞及び非小細胞肺癌などの肺癌、膵臓癌、甲状腺癌、卵巣癌、及び肝臓癌、などがある。その他の例としては、カポジ肉腫、CNS腫瘍、神経芽細胞腫、毛細血管性血管腫、髄膜腫と大脳転移、黒色腫、胃腸及び腎の癌と肉腫、横紋筋肉腫、膠芽腫、好ましくは多形膠芽腫、及び平滑筋腫、などがある。本発明の拮抗物質が効果的である血管化皮膚癌としては、扁平上皮癌、基底細胞癌、及び悪性ケラチノサイトの増殖を抑えることで治療できる皮膚癌、例えば、ヒト悪性ケラチノサイト、などがある。
【0060】
非充実性腫瘍の例としては、白血病、多発性骨髄腫、及びリンパ腫などがあげられる。白血病の例としては、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、赤血球性白血病、及び単球白血病、があげられる。リンパ腫の例としては、ホジキン病及び非ホジキン・リンパ腫があげられる。
【0061】
以下で述べる実験結果は、本発明の抗体が、VEGFで誘発される白血病細胞におけるKDR(VEGFR−2)の刺激を特異的にブロックすることを示している。以下で述べるin vivo研究も、この抗体がヌード・マウスにおける腫瘍の増殖を顕著に抑制できることを示している。
【0062】
モノクローナル抗体などのVEGF受容体拮抗物質のカクテルは、腫瘍細胞の増殖を阻害する特に効果的な治療となる。カクテルは、非抗体のVEGFR拮抗物質も含むことができ、受容体拮抗物質が2、3、又は4種と少なくても、6、8、又は10腫と多くてもよい。
【0063】
本発明の別の様態では、抗KDR抗体が血管新生を阻害するために用いられる。血管内皮のVEGF刺激は血管新生疾患及び腫瘍の血管化に結びつく。普通、血管内皮は、他の源(例えば、腫瘍細胞)からのVEGFによってパラ分泌の形で刺激される。
【0064】
したがって、ヒト抗KDR抗体は、血管化した腫瘍又は新生物又は血管新生疾患の患者を治療するのに効果的である。そのような腫瘍及び新生物としては、例えば、悪性腫瘍又は新生物、すなわち、芽細胞腫、癌腫又は肉腫、及び高度に血管化した腫瘍及び新生物が含まれる。本発明の方法で治療できる癌としては、例えば、脳,泌尿生殖器、リンパ系、胃、腎臓、結腸、喉頭、及び肺と骨、の癌が含まれる。非限定的な例としては、さらに、類上皮腫、頭や頚の癌などの扁平上皮癌、結腸直腸癌、前立腺癌、乳癌、肺腺癌及び小細胞及び非小細胞肺癌などの肺癌、膵臓癌、甲状腺癌、卵巣癌、及び肝臓癌、などがある。この方法はまた、血管化皮膚癌、例えば、扁平上皮癌、基底細胞癌、及び悪性ケラチノサイトの増殖を抑えることで治療できる皮膚癌、例えば、ヒト悪性ケラチノサイト、などの治療にも用いられる。治療できるその他の癌としては、カポジ肉腫、CNS腫瘍、(神経芽細胞腫、毛細血管性血管腫、髄膜腫と大脳転移)、黒色腫、胃腸及び腎の癌と肉腫、横紋筋肉腫、多形膠芽腫を含む膠芽腫、及び平滑筋腫、などがある。
【0065】
本発明の別の様態は、例えば、血管化及び/又は炎症に関わる過剰な血管新生を特徴とする病理的な状態、例えば、アテローム硬化症、慢性関節リウマチ(RA)、血管新生緑内障、増殖性糖尿性網膜症などの増殖背網膜症、筋萎縮、血管腫、血管繊維増殖症、及び乾癬、などを治療又は予防する方法である。非腫瘍性血管新生疾患のその他の非限定的な例としては、未熟児網膜症、水晶体後部線維増殖症、角膜移植後拒絶反応、インシュリン依存型糖尿病、多発性硬化症、重症筋無力症、Chron病、自己免疫腎炎、原発性胆汁性肝硬変、急性膵炎、アレルギー性炎症、接触皮膚炎、遅延性過敏症、炎症性超疾患、敗血症性ショック、骨粗しょう症、骨関節炎、神経炎症で誘発される認知障害、オスラー−ウエーバー症候群、restinosis、及び菌、寄生虫、及びウイルス感染、例えば、サイトメガロウイルス感染、などがあげられる。
【0066】
このような疾病の同定は、十分に当業者の能力と知識の範囲内にある。例えば、臨床的に顕著な腫瘍又は血管新生疾患にかかっている、又は臨床的に顕著な症状を発現する危険がある人は、本発明のVEGF受容体抗体を投与するのに適している。十分な能力を有する臨床医は、例えば臨床テストを用いて、身体的検査、及び医療/家族歴によって、ある人がこの治療の対象候補であるかどうかを容易に決定できる。
【0067】
さらに、本発明の範囲には、当業者には周知の調査又は診断方法のための本発明の抗体のin vivo及びin vitroでの利用も含まれる。
【0068】
本発明の抗KDR抗体は、腫瘍又は病理的状態を伴う血管新生に苦しむ患者に対する治療処置としてその腫瘍又は病理的状態の進行を予防、抑制、又は低減する二十分な量で投与することができる。進行とは、例えば、腫瘍又は病理的状態の増殖、侵襲、転移、及び/又は再発を含む。これを達成するのに十分な量が、治療的に効果的な用量として定義される。この利用に効果的な量は、疾病の重篤性、及び患者自身の免疫系の全般的状態による。投与スケジュールも疾病の状態と患者の状態によって異なり、1つの丸薬の投与又は連続的な注入から1日に複数回(例えば、4〜6時間毎)の投与、又は治療する医師の指示又は患者の状態によって決められるものまで、多様である。しかし、本発明は特定の投与量に限定されないということを注意しておきたい。
【0069】
本発明のある実施形態では、抗KDR抗体は、1つ以上の他の抗癌因子と組み合わせて投与することができる。組み合わせ治療の例としては、例えば、U.S, Patent No. 6,217,866 (Schlessinger et al.) (抗ガン剤と組み合わされた抗EGFR抗体);WO 99/60023 (Waksal et al.) (放射線と組み合わされた抗EGFR抗体)を見よ。任意の適当な抗癌因子、例えば、化学療法治療剤又は放射線、を用いることができる。化学療法の治療剤の例としては、シスプラチン、ドキソルビシン、パクリタクセル、イリノテカン(CPT−11)、トポテカン、又はそれらの組み合わせ、などがあげられるが、それだけに限定されない。抗癌因子が放射線である場合、放射線の源は、治療される患者の外部にあっても(外部ビーム照射治療−EBRT)、内部にあっても(近接照射療法−BT)よい。投与される抗癌因子の量は、例えば、抗癌因子のタイプ、治療される腫瘍のタイプと重篤度、及び抗癌因子の投与ルート、など多くの因子に依存する。しかし、本発明は特定の用量に限定されない。
【0070】
さらに、本発明の抗KDR抗体は、腫瘍の増殖又は血管新生に関与する他の受容体を中和する抗体と共に投与することができる。そのような受容体の一例は、VEGFR−1/Flt−1受容体である。本発明のある実施形態では、抗KDR抗体はVEGFR−1に特異的に結合する受容体拮抗物質と組み合わせて用いられる。特に好ましいのは、VEGFR−1の細胞外ドメインに結合してそのリガンド、VEGF及びPIGF、の一方又は両方の結合をブロックする、及び/又はVEGFR−1のVEGF又はPIGFで誘発される活性化を中和する抗原結合タンパク質である。例えば、mAb6.12は可溶な及び細胞表面で発現されるVEGFR−1と結合するscFvである。ScFv6.12はマウス・モノクローナル抗体mAb6.12のVL及びVHドメインを含む。mAb6.12を産生するハイブリドーマ細胞ラインが、特許手続き上微生物寄託の国際承認に関するブダペスト条約及びその下での規制(Budapest Treaty)の規定の下でATCCナンバーPTA−3344として寄託されている。
【0071】
このような受容体の別の例はEGFRである。本発明のある実施形態では、抗KDR抗体はEGFR拮抗物質と組み合わせて用いられる。EGFR拮抗物質は、EGFR又はEGFRのリガンドに結合して、EGFRとそのリガンドの結合を阻害する抗体であってもよい。EGFRのリガンドは、例えば、EGF、TGF−αアンフィレグリン、ヘパリン結合EGF(HB−EGF)及びベタレクルリン、などである。EGFとTGF−αは、EGFRで媒介される刺激を生ずる主要な内生的リガンドであると考えられているが、TGF−αの方がより強力に血管新生を促進することが示されている。EGFR拮抗物質はEGFRの細胞外部分に外部的に結合し、それはリガンドの結合を阻害することもしないこともあり、又は内部的にチロシンキナーゼ・ドメインと結合することもできる。EGFRと結合するEGFR拮抗物質の例としては、それだけに限定されないが、生体分子、例えば、EGFRに特異的な抗体(及びその機能的等価物)、及び小分子、例えば、EGFRの細胞質ドメインに直接作用する合成キナーゼ阻害物質、などがあげられる。
【0072】
腫瘍発生に関与する増殖因子受容体のその他の例は、血小板由来増殖因子の受容体(PDGFR)、インシュリン様増殖因子受容体(IGFR)、神経増殖因子受容体(NGFR)、及び繊維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)などである。
【0073】
別の実施形態では、VEGFR拮抗物質1つ以上の適当なアジュバントと組み合わせて、例えば、サイトカイン(例えば、IL−10及びIL−3)又はその他の免疫刺激物質と組み合わせて投与することができる。例えば、Larrivee et al., 前出、を見よ。しかし、1つの抗KDR抗体の投与でも、治療的に効果的な仕方で腫瘍の進行を予防、抑制、又は低減するのに十分であることは理解されるであろう。
【0074】
組み合わせ治療では、抗KDR抗体は、別の作用剤で治療を開始する前、その間、又はその後に投与される。同様に、それらの組み合わせも、抗癌剤治療を始める前及びその間に、その前及びその後に、その間及びその後に、又はその前、その間及びその後に投与される。例えば、抗KDR抗体は放射線治療を開始する1〜30日前に、好ましくは3〜20日前に、さらに好ましくは5〜12日前に、投与される。
【0075】
本発明では、本発明の抗KDR抗体を投与し、オプションとして抗癌作用剤及び/又は他の受容体の拮抗物質を投与するのに、どんな方法又はルートを用いることもできる。投与ルートとしては、例えば、経口、静脈内、腹腔内、皮下、又は筋肉内投与などがある。投与される拮抗物質の用量は多くの因子に依存する、例えば、拮抗物質のタイプ、治療されている腫瘍のタイプと重篤度、及び拮抗物質の投与ルート、などに依存する。しかし、本発明は特定の投与方法又はルートに限定されないということを強調しておきたい。
【0076】
本発明の抗KDR抗体は、受容体に特異的に結合し、リガンド−毒素の内在化の後で有毒な、致死的なペイロードを放出する接合体(conjugate)として投与することもできることが注意される。
【0077】
本発明の抗KDR抗体は、予防又は治療のために哺乳類で用いられる場合、医薬的に受容されるキャリアをさらに含む組成物の形で投与されることは言うまでもない。適当な医薬的に受容されるキャリアとしては、例えば、水、食塩水、リン酸緩衝食塩水、デキストロース、グリセリン、エタノール、など、並びにそれらの混合物、があげられる。医薬的に受容されるキャリアは、さらに少量の補助物質、例えば、湿潤剤又は乳化剤、結合するタンパク質の貯蔵寿命又は効力を増強する防腐剤又はバッファー、などを含んでもよい。注射される組成物は、当業者に周知のように、哺乳類への投与の後で活性成分を速やかに、持続的に、又は遅らせて放出するように調剤することができる。
【0078】
本発明は、また、治療に効果的な量のヒト抗KDR抗体を含む、腫瘍増殖及び/又は血管新生を抑制するためのキットを含む。このキットは、さらに、例えば、腫瘍発生又は血管新生に関与する別の増殖因子受容体(例えば、上述のように、VEGFR−1,/Flt−1、EGFR、PDGFR、IGFR、NGFR、等)の適当な拮抗物質を含むことができる。あるいはまた、又はそれに加えて、本発明のキットはさらに、抗癌剤を含むこともできる。本発明の文脈で適当な抗癌剤の例は本明細書で記載された。本発明のキットはさらにアジュバントを含むことができるが、その例も上で記載されている。
【0079】
本発明の別の様態では、本発明の抗KDR抗体は1つ以上の抗癌剤又は抗血管新生剤と化学的又は生合成的に結合することができる。
【0080】
本発明はさらに、標的又はレポーター部分(moieties)が結合されている抗KDR抗体を考えている。標的部分は結合するペアの第一の部分である。例えば、抗癌剤がこのペアの第二の部分に接合され、抗KDR抗体が結合した部位に導かれる。このような結合ペアのよく見られる例は、アジビン(adivin)とビオチンである。ある好ましい実施形態では、ビオチンが抗KDR抗体に接合されて、アビジン(avidin)又はストレプトアビジンと接合された抗癌剤又は他方の部分の標的になる。あるいはまた、ビオチン又は別のそのような部分が本発明の抗KDR抗体に結合されて、レポーターとして、例えば、検出可能な信号生成物質がアビジン又はストレプトアビジンに接合された診断システムで用いられる。
【0081】
したがって、本発明の受容体拮抗物質はこのように、in vivo 及びin vitroで、当業者には周知の調査、診断、予防、又は治療方法で利用することができる。もちろん、ここに開示された本発明の原理に対して当業者であればいろいろな変形が可能であることは言うまでもなく、また予期されることであるが、そのような変形は本発明の範囲に含まれるものとする。
【0082】
本明細書で言及された全ての参照文献はその全体がここに組み込まれる。
【実施例】
【0083】
実施例
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために示されるものであり、いかなる形でも本発明の範囲を制限する意図はなく、本発明を制限するものと解してはならない。実施例は、ベクターやプラスミドの構築、ポリペプチドをコードする遺伝子のベクターやプラスミドへの挿入、あるいは宿主細胞へのプラスミドの導入、などで用いられる従来の方法についての詳しい記述を含んでいない。それらの方法は、当業者には周知であり、Sambrook, J. and Russel, D. W. (2001) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3ed edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, など多数の文献に記載されている。
【0084】
実施例I.ヒトFabの生成
実施例I(a).タンパク質と細胞ライン.
初代培養HUVECを、Cornell Medical Center, New York, のDr. S. Rafiiから入手して、EBM-2培地(Clonetics, Walkersville, MD)で、37℃、5%CO2で維持した。可溶融合タンパク質、KDR−アルカリ・ホスファターゼ(AP)、その免疫グロブリン(Ig)ドメイン欠失変異体、及びFlk−1−AP、が安定に形質移入されたNIH 3T3で発現され、細胞培養の上澄みからLu et al., J. Biol. Chem. 275: 14321-30 (2000) に記載されているように、APに対する固定されたモノクローナル抗体を用いるアフィニティー・クロマトグラフィーによって精製された。VEGF165タンパク質はバクロウイルスで発現され、Zhu et al., Cancer Res. 58: 3209-14 (1998) に記載されている手順に従って精製された。白血病細胞ライン、HL60とHEL、は、10%ウシ胎児血清を含むRPMIで維持された。
【0085】
実施例I(b).ファージELISA
個々のTG1クローンを採取し、37℃で96ウエル・プレートで育成し、上述のようにM13K07ヘルパー・ファージによって救出(rescue)した。増幅されたファージ試料は、1/6体積の18%ミルク/PBSで1時間、RTでブロックされ、KDR−AP又はAP(1μg/ml×100μl)でコーティングされたMaxi-sorp 96ウエル・マイクロタイター・プレートに加えられた。RTで1時間のインキュベーションの後、プレートはPBSTで3回洗浄され、ウサギ抗M13ファージ−HRP接合体(Amersham Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)と共にインキュベートされた。プレートは5回洗浄され、TMBペルオキシダーゼ基質(KPL, Gaithersburg, MD)が加えられ、450nmでの吸収がマイクロプレート・リーダー(Molecular Devices, Sunnyvale, CA)を用いて読み取られた。
【0086】
実施例I(c).DNA BstNIパタン分析及びヌクレオチド配列決定.
各ラウンドの選抜後の抗KDR Fabクローンの多様性が、制限酵素消化パタン(すなわち、DNA指紋)によって分析された。個々のクローンのFab遺伝子インサートが、プライマー:PUC19リバース、
5′AGCGGATAACAATTTCACACAGG3′、及びfdtet配列、
5′GTCGTCTTTCCAGACGTTAGT3′、を用いてPCR増幅された。増幅された生成物はfrequent-cutting酵素、BstNI、で消化され、3%アガロース・ゲル上で分析された。各消化パタンからの代表的クローンのDNA配列が、ジデオキシヌクレオチド配列決定法によって決定された。
【0087】
実施例I(d).可溶Fab断片の発現と精製.
個々のクローンのプラスミドを用いて非サプレッサーE.coliホストHB2151を変換した。HB2151におけるFab断片の発現が、細胞を30℃で、1mMイソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトピラノシド(IPTG, Sigma)を含む2YTM培地で培養することによって誘発された。細胞のペリプラズム抽出物が、20%(w/v)スクロース、200mM NaCl、1mM EDTA及び0.1mM PMSFを含む25mM Tris(pH7.5)に細胞ペレットを再懸濁し、続いておだやかに振とうしながら4℃で1時間インキュベートすることによって調製された。15,000rpmで15分間遠心分離した後、可溶Fabタンパク質が、Protein Gカラムをメーカー(Amersham Pharmacia Biotech)の指示に従って用いるアフィニティー・クロマトグラフィーによって上澄みから精製された。
【0088】
実施例I(e).ファージ・ディスプレー・ライブラリーからのヒト抗KDR Fabの選抜
3.7×1010クローンを含む大きなヒトFabファージ・ディスプレー・ライブラリー(DeHaard et al., J. Biol. Chem. 274:18218-30(1999))が、この選抜に用いられた。このライブラリーは、PCR増幅された抗体可変軽鎖遺伝子及び可変重鎖遺伝子を、それぞれ、ヒト定常領域軽鎖遺伝子(κとλ)及びIgG1重鎖CH1ドメインをコードするDNAに融合したものから成る。重鎖及び軽鎖の構造(constructs)は、どちらもその前に信号配列−軽鎖にはpelB、重鎖には遺伝子III信号配列−が先行している。重鎖構造はさらに、ファージ・ディスプレーのための遺伝子IIIタンパク質の一部、ヘキサヒスチジン・タグ、及び11アミノ酸の長さのc−mycタグ、をコードし、アンバー・コドン(TAG)が続いている。ヘキサヒスチジン・タグ及びc−mycタグは精製又は検出に利用できる。アンバー・コドンは、サプレッサー・ホスト(例えば、TG1細胞)を用いるファージ・ディスプレー、又は非サプレッサー・ホスト(例えば、HB2151細胞)で変換されたときに、可溶な形のFab断片の生成を可能にする。
【0089】
ライブラリー・ストックはlog phaseまで育成されM13−K07ヘルパー・ファージで救出(rescue)され、2YTAK培地(100μg/mlのアンピシリンと50μg/mlのカナマイシンを含む2YT)において一晩30℃で増幅された。ファージ試料は4%PEG/0.5M NaClで沈殿され、500μg/mlのAPタンパク質を含む3%脱脂ミルク/PBSに再懸濁され、37℃で一時間インキュベートされ、抗AP Fab断片をディスプレーするファージを捕集し、その他の非特異的結合をブロックした。
【0090】
KDR−AP(PBS中で10μg/ml)がコーティングされたMaxisorp Starチューブ(Nunc, Rosklide, Denmark)が、最初に3%ミルク/PBSによって37℃で一時間ブロックされ、次にファージ試料と共にRTで1時間インキュベートされた。チューブは、PBST(0.1%Tween−20を含むPBS)で10回洗浄され、続いてPBSで10回洗浄された。結合したファージはRTで10分間1mlの新しく調製された100mMトリエチルアミン溶液(Sigma, St. Louis, MO)で溶出された。溶出されたファージは、10mlのmid-log phaseTG1細胞と共に37℃で30分間静止及び30分間振とうしてインキュベートされた。感染したTG1細胞はペレット化され、いくつかの大きな2YTAGプレートにプレーティングされ、30℃で一晩インキュベートされた。プレートに育成された全てのコロニーを3乃至5mlの2YTA培地にかき落とし、グリセリン(最終濃度10%)を混合し、小分けして−70℃で貯蔵した。次のラウンドの選抜のために、100μlのファージ・ストックが25mlの2YTAG培地に加えられ、mid-log phaseまで育成された。培養は、M13K07ヘルパー・ファージで救出され、増幅され、沈殿され、上述した手順に従って、免疫チューブに固定されたKDR−APの濃度を低くし、結合プロセス後の洗浄の回数を増やして選抜で用いられた。
【0091】
固定したKDRで、タンパク質濃度と最初の結合プロセスの後の洗浄の回数を変えて全部で3ラウンドの選抜を行った。各ラウンドの選抜の後、93のクローンをランダムに採取してファージELISAによってKDRとの結合をテストした。2回目の選抜の後で採取された93クローンのうち70クローン(75%)、そして3回目の選抜の後で回収されたクローンの90%よりも多くが、KDR結合がポジティブになり、選抜プロセスの効率が高いことが示された。全部で42の異なるパタンが観測され、単離された抗KDR Fabの優れた多様性が認められた。交差反応性検査は、42の抗体のうち19が特異的KDR結合物質であることを示したが、残りの23の抗体は、KDRにもマウスにおけるその類似体、Flk−1,にも結合した。その後の選抜は、競合的VEGF結合分析で行われ、固定されたVEGFに対する可溶KDRの結合が、抗KDR Fab断片の存在下と不在下で決定された。この分析によって、VEGFとKDRの間の結合をブロックできる4つのFabクローンが同定された。3つはKDR特異的な結合物質であり、1つはFlk−1と交差反応した。DNA指紋分析と配列決定分析から、KDR/VEGFをブロックする4つの抗体は全て異なり(図1A)、DNA及びアミノ酸配列がユニークであることが確認された。
【0092】
4つのクローンのVHとVLのCDR1,CDR2,及びCDR3のアミノ酸配列を以下の表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
HとVL鎖の完全なリストは「配列リスト」で示される。D1F7の場合、VHのヌクレオチドとアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NOS: 19と20で表され、VLのヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 21と22で表される。
【0095】
D2C6の場合、VHのヌクレオチドとアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NOS: 23と24で表され、VLのヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 25と26で表される。
【0096】
D2H2の場合、VHのヌクレオチドとアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NOS: 30と31で表され、VLのヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 32と33で表される。
【0097】
D1H4の場合、VHのヌクレオチドとアミノ酸配列は、それぞれ、SEQ ID NOS: 27と24で表され、VLのヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 28と29で表される。
【0098】
第二のライブラリーは、D2C6の単一の重鎖を,元のライブラリーから得られる軽鎖の多様な集団と組み合わせて生成される。さらに10のFabsが同定され、SA1,SA3,SB10,SB5,SC7,SD2,SD5,SF2,SF7,及び1121と名付けられた。10のFabsのVLに関するヌクレオチドとアミノ酸配列は次のように表される。SA1では、VLに関するヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 34と35で表される。SA3では、VLに関するヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 36と37で表される。SB10では、VLに関するヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 38と39で表される。SB5では、VLに関するヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 40と41で表される。SC7では、VLに関するヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 42と43で表される。SD2では、VLに関するヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 44と45で表される。SD5では、VLに関するヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 46と47で表される。SF2では、VLに関するヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 48と49で表される。SF7では、VLに関するヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 50と51で表される。1121では、VLに関するヌクレオチドとアミノ酸配列はSEQ ID NOS: 52と53で表される。
【0099】
LのCDR配列を以下の表2に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
実施例II.分析
実施例II(a).KDR結合及びKDR/VEGF相互作用ブロッキングの定量
直接結合分析では、いろいろな量の可溶Fabタンパク質が、KDRをコーティングされた96ウエルMaxi-sorpマイクロタイター・プレートに加えられ、RTで1時間インキュベートされ、その後プレートはPBSTで3回洗浄された。次に、プレートは100μlのウサギ抗ヒトFab抗体−HRP接合体(Jackson ImmunoResearch Laboratory Inc., West Grove, PA)と共にRTで1時間インキュベートされた。プレートは、ファージELISAに関して上述した手順に従って、洗浄され、現像(develop)された。競合的KDR/VEGFブロッキング分析では、いろいろな量のFabタンパク質が一定量のKDR−AP(100ng)と混合され、RTで1時間インキュベートされた。混合物は次にVEGF165(200ng/ウエル)で予めコーティングされた96ウエルのマイクロタイター・プレートに移され、RTでさらに2時間インキュベートされ、その後プレートは5回洗浄され、APの基質(p−ニトロフェニル・ホスフェート、Sigma)が加えられた。405nmでの吸収を測定して、結合したKDR−AP分子(8)を定量した。次に、IC50、すなわち、VEGFとのKDR結合の50%阻害に必要なFabタンパク質の濃度、を計算した。
【0102】
4つのVEGF−ブロッキング・クローン(D2C6,D2H2,D1H4,D1F7)が可溶Fabとして発現され、E.coliのペリプラズム抽出物からProtein Gアフィニティー・クロマトグラフィーによって精製された。これらのクローンの精製されたFab収率は60〜400μg/リットル培養という範囲にあった。精製されたFab試料のSDS−PAGE分析は、予期された分子サイズの単一タンパク質バンドを生じた(図1B)。
【0103】
図2は、直接結合ELISAによって分析された、固定された受容体との抗Fab断片の量依存的な結合を示す。クローンD2C6とD2H2がより効率的な結合物質であり、クローンD1H4とD1F7がそれに続く。4つのFabsは、また、全て固定されたVEGFとのKDR結合をブロックする(図2B)。VEGFとのKDR結合の50%阻害に必要な抗体濃度は、クローンD2C6、D2H2、及びD1H4で約2nMであり、クローンD1F7では20nMである。D1F7だけがVEGFをFlk−1との結合からブロックし(図2C)、IC50は約15nMである。
【0104】
実施例II(b).可溶scFvのBIAコア分析
可溶Fabタンパク質のKDRとの結合の反応速度(kinetics)がBIAコア・バイオセンサ(Pharmacia Biosensor)を用いて表面プラズモン共鳴によって測定された。KDR−AP融合タンパク質がセンサチップに固定され、可溶Fabタンパク質が1.5nMから100nMの範囲の濃度で注入された。各濃度でセンサーグラムが得られ、プログラム、BIA Evaluation 2.0、を用いて評価され、速度(rate)定数konとkoffが決定された。Kdは、速度定数の比koff/konから計算された。
【0105】
KDR特異的な3つのFab断片は、全て固定された受容体に2乃至4nMというKdで結合する(表3)。交差反応性のクローン、D1F7,は、Kdが45nMで、KDR特異的なクローンに比べて約10乃至15倍弱い。KDR特異的な3つのFab断片のKdは、全体としては同様であるが、これらの抗体の個々の結合反応速度、すなわちkonとkoff、は大きく異なるということに注意しておきたい。例えば、D2C6はon速度が最も速く、D1H4はoff速度が最も遅い(表3)。
【0106】
【表3】

【0107】
実施例II(c).結合エピトープ・マッピング
KDR細胞外Ig様ドメイン欠失変異体の生成については以前に記載されている(Lu et al., (2000))。エピトープ・マッピング分析では、全長のKDR−AP、2つのKDR・Igドメイン欠失変異体のAP融合物、及びFlk−1−APがまず、捕集剤としてウサギ抗AP抗体(DAKO-immunoglobulins, Glostrup, Denmark)を用いて、96ウエル・プレート(Nunc)に固定された。次に、プレートはいろいろな抗KDR Fabタンパク質と共にRTで1時間インキュベートされ、続いてウサギ抗ヒトFab抗体−HRP接合体と共にインキュベートされた。プレートは前に述べたように洗浄され、現像(develop)された。
【0108】
抗KDR Fab断片が、全長のKDR及び2つのKDR Igドメイン欠失変異体を用いてマップされた。KDR(1−3)は、最初の3つのN末端Igドメインを含むKDR変異体である。KDR(3)は、第三のIgドメインだけを含む変異体である。図3に示されるように、クローンD2C6とD1H4は、KDR、KDR(1−3)、及びKDR(3)に同じように良く結合し、したがって、それらの結合エピトープはIgドメイン3の内部にある。クローンD2H2とD1F7は、全長KDR及びKDR(1−3)にずっと効率的に結合し、したがって、KDR Igドメイン1から3までの内部のもっと広い結合エピトープを示唆する。クローンD1F7だけがFlk−1と交差反応する。
【0109】
実施例II(d).抗ミトゲン分析.
HUVEC(5×103細胞/ウエル)が96ウエル組織培養プレート(Wallach, Inc., Gaithersburg, MD)に、VEGF、基礎繊維芽細胞増殖因子(bFGF)、又は表皮細胞増殖因子(EGF)を含まないEBM−2培地200μlにプレーティングされ、37℃で72時間インキュベートされた。いろいろな量のFabタンパク質が重複したウエルに加えられ、37℃で1時間、予備インキュベートされ、その後VEGF165が最終濃度16ng/mlまで加えられた。18時間のインキュベーションの後、0.25μCiの[3H]TdR(Amersham)が各ウエルに加えられ、さらに4時間インキュベートされた。細胞はPBSで1回洗浄され、トリプシン化され、細胞ハーベスター(Harvester 96, MACH III, TOMTEC, Orange, CT)によってガラス・フィルター(Printed Filtermat A, Walach)上に収穫された。膜はH2Oで3回洗浄され、空気乾燥された。シンチレーション流体が加えられ、DNAに取り込まれた放射能がシンチレーション・カウンター(Wallach, Model 1450 Microbeta Scintillation Counter)で決定された。
【0110】
ヒト抗KDR FabがVEGFで刺激されるHUVECでのミトゲン活性をブロックする能力が図4に示されている。4つのヒトFab断片は全てHUVECにおいてVEGFで誘発されるDNA合成を量依存的な仕方で阻害した。HUVECにおけるVEGF刺激された[3H]TdR取り込みを50%阻害するFab濃度(EC50)は、クローンD2C6とD1H4では約0.5nM、クローンD2H2では0.8nM、そしてクローンD1F7では15nMである。対照は、VEGFのみ(1500cpm)及び単なる培地(60cpm)である。重複したウエルが分析された。示されたデータは少なくとも3つの別々の実験を表している。
【0111】
実施例II(c).白血病移動分析.
HL60及びHEL細胞が血清を含まない素RPMI1640媒質で3回洗浄され、この媒質に1×106/mlで懸濁された。100μlの細胞懸濁液のアリクオットが、HL60細胞に対する3μmポアのトランス・ウエル・インサート、又はHEL細胞に対する8μmポアのトランス・ウエル・インサート(Costar(商標), Corning Incorporated, Corning, NY)に加えられ、抗KDR Fabタンパク質(5μg/ml)と共に37℃で30分間インキュベートされた。次に、インサートは、0.5mlの血清を含まないRPMI1640を含み、VEGF165を含む又は含まない24ウエル・プレートのウエルに入れられた。移動は、37℃、5%CO2で、HL60細胞では16−18時間、HEL細胞では4時間行われた。移動した細胞が下方コンパートメントから集められ、Coulterカウンター(Model Z1, Coulter Electronics Ltd., Luton, England)でカウントされた。
【0112】
VEGFで誘発されるHL60及びHEL細胞の量依存的な仕方での移動、最大の刺激が200ng/mlで達成される(図5A)。全ての抗KDR Fab断片はHL60及びHEL細胞のVEGFで誘発される移動を有意に阻害した(図5B)。対照として、EGF受容体に向けられた抗体であるC225のFab断片は、この分析で有意な阻害効果を示さなかった。
【0113】
実施例III.IgGの産生
実施例III(a).IgG発現のためのベクターの構成.
IgG軽鎖及び重鎖を発現させるための別々のベクターが構成された。クローニングされたVL遺伝子が消化され、ベクターpKN100(MRC)に結紮された。ローニングされたVH遺伝子が消化され、ヒトIgG I(γ)重鎖定常ドメインを含むベクターpGID105に結紮された。pKN100とpGID105はMRCから入手できる。構成物(construct)は制限酵素による消化で調べられ、ジデオキシヌクレオチド配列決定によって検証された。どちらの場合も、発現はHCMVプロモーターのコントロールの下にあり、人工の終止配列によって終結される。
【0114】
組み立てられた重鎖及び軽鎖遺伝子は、次にLonza GS発現ベクターpEE6.1及びpEE12.1でクローニングされる。重鎖及び軽鎖ベクターは、CHO細胞及びNS0細胞の安定な形質移入のために、単一のベクターに組み合わされた。形質移入された細胞は、グルタミン・マイナス培地で培養され、抗体を1g/Lという高いレベルで発現した。
【0115】
実施例III(b).ヒト抗KDR IgGの生成と特性決定
IMC−2C6及びIMC−1121の両方が、安定に形質移入され、血清を含まない条件下で培養されたNS0細胞ラインで生成され、Protein Aアフィニティー・クロマトグラフィーを用いてバッチ細胞培養から精製された。抗体試料の純度はSDS−PAGEによって分析され、濃度はELISAによって、抗ヒトFc抗体を捕集剤(capturing agent)として用い、抗ヒトκ鎖抗体−ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)接合体を検出剤として用いて決定された。臨床グレードの抗体、IMC−C225,が校正用の標準として用いられた。各抗体試料のエンドトキシン・レベルを検査して、生成物がエンドトキシンで汚染されていないことを確認した。
【0116】
抗KDR抗体は、KDRとの結合及びVEGF結合のブロッキングに関して評価された。直接結合分析では、いろいろな量の抗体がKDRコーティングされた96ウエルMaxi-sorpマイクロタイター・プレート(Nunc, Roskilde, Denmark)に加えられ、室温(RT)で1時間インキュベートされ、その後プレートは0.1%Tween−20(商標)を含むPBSで3回洗浄された。次に、プレートは、100μlのウサギ抗ヒトIgG Fc−HRP接合体(Jackson ImmunoResearch Laboratory Inc., West Grove, PA)と共にRTで1時間インキュベートされた。プレートは、上で述べたように洗浄され、現像された。ヒト抗体IMC−2C6とIMC−1121がIMC−1C11(KDRに特異的なマウス抗体)及びIMC−C225(EGFRに特異的なキメラ抗体)と比較された。抗KDR抗体はKDRと量依存的な仕方で結合し、IMC−1121が最も強い結合物質である(図6A)。
【0117】
KDRがVEGFと結合しないように抗KDR抗体がブロックする効力が競合分析で測定された。いろいろな量の抗体が固定された量のKDR−AP(100ng)と混合され、RTで1時間インキュベートされた。次に、混合物はVEGF165が予めコーティング(200ng/ウエル)されたマイクロタイター・プレートに移され、RTでさらに2時間インキュベートされ、その後、プレートは5回洗浄され、APの基質(p−ニトロフェニル・ホスフェート、Sigma)が加えられ、405nmで吸収を測定して結合したKDR−AP分子を定量した。次に、IC50、すなわち、VEGFとのKDRの結合の50%阻害に必要な抗体濃度、が計算された。抗KDR抗体はKDRがVEGFと結合するのを、同じ様な効力(potency)で強くブロックした。IC50は3つの抗体すべてについて約0.8から1.0nMである。対照の抗体、IMC−C225(抗ヒトEGFR)、はKDRに結合せず、KDR/VEGF相互作用をブロックしない。
【0118】
抗体の親和度(affinity)又は結合力(avidity)は、上述のようにBIAコア分析で決定された。抗KDR抗体の結合反応速度、すなわち、結合速度定数(kon)と離離速度定数(koff)、が測定され、解離定数、Kd、が計算された(表4)。
【0119】
【表4】

【0120】
IMC−1C11は固定されたKDRに0.27nMという解離定数(Kd)で結合するが、これは相手方のFabに比べて約5倍高い。IMC−2C6のKdは0.2nMであり、これは一価のHu−2C6Fabに比べて約18倍高いが、それは主としてoff速度が改善されるためである。Hu−2C6Fabの親和度の成熟はKdが(3.6nMから0.11nMへ)33倍改善されたHu−1121Fabに導いた。Hu−1121Fabを二価のIgG、IMC−1121,に変換すると、全体としての結合力(binding avidity)が約2倍増加した。
【0121】
実施例III(c).細胞へのVEGFの結合及びHUVECのVEGF刺激による有糸分裂誘発
細胞ベースの放射免疫分析で、いろいろな量の抗KDR抗体が固定された量(2ng)の125I標識されたVEGF165(R&D Systems)と混合され、96ウエル・マイクロタイター・プレートで育成された80〜90%コンフルエント単層に加えられた。このプレートはRTで2時間インキュベートされ、冷たいPBSで5回洗浄され、内皮細胞に結合した放射能が測定された。図7Aに示されているように、抗KDR抗体はHUVECとの結合に関して、放射生標識されたVEGFと効率的に競合した。データは、三重複の測定に関する平均±SDを表している。
【0122】
この抗体は、また、VEGF刺激されたHUVECの有糸分裂誘発も量依存的な仕方でブロックした(図7B)。Fabsに関して上で述べたように、いろいろな量の抗KDR抗体が、まず増殖因子欠乏HUVEC(5×103細胞/ウエル)と共に37℃で1時間プレインキュベートされ、その後VEGF165が最終濃度16ng/mlまで加えられた。18時間のインキュベーションの後、各ウエルに0.25μCiの[3H]−TdR(Amersham)が加えられ、さらに4時間インキュベートされた。細胞は洗浄され、収穫され、DNAに取り込まれた放射能がシンチレーション・カウンターで測定された。親和度が最も高い抗体IMC−1121が最も効力が高い阻害物質であり、ED50,すなわち、[3H]−TdRの取り込みの50%阻害を生ずる濃度、は約0.7nMであったが、これに対してIMC−1C11とIMC−2C6のED50,は1.5nMであった。
【0123】
実施例IV.白血病細胞と白血病進行の抑制
実施例IV(a).白血病細胞によるVEGFとKDRの発現
我々は3つの骨髄性白血病細胞ライン:HL60(前骨髄球性);HEL(骨髄巨核球性);及びU937(組織球性)におけるVEGF及びKDR発現を、RT−PCRによって調べた。次のプライマーを用いて、VEGF、Flt−1,KDR、及び内部対照、α−アクチンを増幅した:VEGF順方向:5′−TCGGGCCTCCGAAACCATGA−3′(SEQ ID NO:86)、及び逆方向:5′−CCTGGTGAGAGATCTGGTTC−3′(SEQ ID NO:87);Flt−1順方向:
5′−TTTGTGATTTTGGCCTTGC−3′(SEQ ID NO:88);及び逆方向:5′−CAGGCTCATGAACTTGAAAGC−3′(SEQ ID NO:89);KDR順方向:5′−GTGACCAACATGGAGTCGTG−3′(SEQ ID NO:90);及び逆方向:5′−CCAGAGATTCCATGCCACTT−3′(SEQ ID NO:91);α−アクチン順方向:5′−TCATGTTTGAGACCTTCAA−3′(SEQ ID NO:92);及び逆方向:5′−GTCTTTGCGGATGTCCACG−3′(SEQ ID NO:93)。PCR生成物は1%アガロース・ゲルで分析された。図8Aに示されているように、3つの細胞ラインはすべてVEGF発現に関して陽性(positive)であり、HL60とHELはKDR発現に関しても陽性であるが、U937は陽性でない。3つの細胞ラインは、RT−PCTによって検出されるFlt−1発現に関しても陽性である。
【0124】
10%FCS又は血清を含まない条件の下で培養された3つの白血病細胞ラインのVEGF産生が調べられた。白血病細胞が集められ、素RPMI1640媒質で洗浄され、10%FCSを加えて又は加えずに、24ウエル・プレートに5×105/mlの密度で播種された。細胞は37℃で72時間培養され、その後細胞の総数がCoulterカウンター(Model Z1, Coulter Electronics Ltd., Luton, England)を用いてカウントされ、上澄み中のVEGF濃度がELISAキット(Biosource International, Camarillo, CA)を用いて決定された。白血病細胞は、in vitroで培養されたときにかなりの量のVEGFを分泌し(図8B)、HL60もU937細胞も血清欠乏条件の下でより多くのVEGFを産生した。
【0125】
実施例IV(b).白血病細胞のVEGFで誘発される移動の阻害.
実施例II(e)で述べたような白血病細胞移動分析が3つの白血病細胞ラインについて行われた。移動は、HL60細胞では16〜18時間、HELとU937細胞では4時間行われた。
【0126】
3つの白血病細胞ラインはすべてVEGFに応答して移動する(図9)。抗KDR抗体と共にインキュベートすると、VEGFで誘発されるHL60とHEL細胞の移動は量依存的な仕方で阻害されたが(図9Aと9B)、KDRを発現しないU937細胞の移動には何も影響はなかった(図9C)。しかし、VEGFで誘発されるU937細胞の移動は、抗ヒトFlt−1抗体、Mab612,によって効率的に阻害された(図9C)。予期されるように、抗EGFR抗体、IMC−C225,はVEGFで誘発されるヒト白血病細胞の移動に何も影響を示さなかった。
【0127】
実施例IV(b).In vivoでの白血病細胞増殖の阻害.
全ての実験に生後6〜8週の性別マッチした(雌)NOD−SCIDマウスが用いられた。マウスは137Csガンマ線源から約0.9Gy/分という線量率で3.5Gy照射され、2×107HL60細胞が接種された。腫瘍接種から3日後、7から9匹のマウスのグループが、週2回、いろいろな用量のIMC−1C11,IMC−2C6,又はIMC−1121抗体で腹腔内注射によって治療された。マウスは毎日、毒性の徴候が見られないか観察され、生存時間が記録された。統計的分析には、ノンパラメトリック片側Mann-Whitney Rank Sum検定法が用いられた。
【0128】
治療されなかった全てのマウスは17日以内に死んだ(図10,平均生存時間、14±3日)。この高い腫瘍負荷で、IMC−1C11による200μg/マウス/注射での治療はある程度生存時間を延ばしたが、全てのマウスが35日以内に死んだ(それぞれ、平均生存時間21±7日;生存時間中央値19日。対照グループに比べてp=0.03)。IMC−2C6は、200μg/マウス/注射という同じ用量で、マウスの生存時間を34±12日に有意に延ばした(中央値=29日。対照と比べてp<0.01,IMC−1C11治療グループに比べてp=0.01)。最も親和度が高い抗体、IMC−1121,は、特にIMC−1C11に対して、ずっと強い抗白血病効果を示した。IMC−1121で治療されたマウスは、63±12日生存した(中央値=60日。IMC−1C11及びIMC−2C6治療グループの両方に比べてp<0.001)。テストされた抗体用量がもっと低い場合(100μg/マウス/注射)、IMC−1121はやはり効力が高かった。この低い用量のIMC−1121で治療されたマウスは46±16日生存した(中央値=41日)。実験の間、抗体で治療されたマウスのいずれにおいても明白な毒性は何も認められなかった。
【0129】
本明細書の全体にわたって、いろいろな刊行物、特許、及び特許出願に言及した。それらの刊行物、特許、及び特許出願の教示と開示は、本発明が関わる技術の現状をより十分に記述するために、本明細書にその全体を援用する。
【0130】
当業者であれば本明細書に開示された発明の原理にはいろいろな変形を施すことが可能であることは言うまでもなく、かつ予期されるが、そのような変更は本発明の範囲に含まれるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
KDRに選択的に結合する単離されたヒト抗体又はその断片。
【請求項2】
該断片が単一鎖抗体、Fab、単一鎖Fv、ダイアボディ、及びトリアボディから成る群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
該抗体又はその断片がVEGFのKDRとの結合を阻害することを特徴とする、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
該抗体が、CDRL1にSEQ ID NO:1;CDRL2にSEQ ID NO:2;CDRL3にSEQ ID NO:3;CDRH1にSEQ ID NO:13;CDRH2にSEQ ID NO:14;及びCDRH3にSEQ ID NO:15によって表される相補性決定領域を含むことを特徴とする、請求項1、2、及び3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項5】
該抗体が、SEQ ID NO:26によって表される軽鎖可変ドメイン及びSEQ ID NO:24によって表される重鎖可変ドメインを含むことを特徴とする、請求項1、2、及び3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
該抗体が、CDRL1にSEQ ID NO:81;CDRL2にSEQ ID NO:82;CDRL3にSEQ ID NO:83;CDRH1にSEQ ID NO:13;CDRH2にSEQ ID NO:14;及びCDRH3にSEQ ID NO:15によって表される相補性決定領域を含むことを特徴とする、請求項1、2、及び3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項7】
該抗体が、SEQ ID NO:53によって表される軽鎖可変ドメイン及びSEQ ID NO:24によって表される重鎖可変ドメインを含むことを特徴とする、請求項1、2、及び3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項8】
該抗体が、SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:24、及びSEQ ID NO:31から成る群から選択される重鎖可変ドメインを含むことを特徴とする、請求項1、2、及び3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項9】
該抗体が、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:37、SEQ ID NO:39、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:43、SEQ ID NO:45、SEQ ID NO:47、SEQ ID NO:49、SEQ ID NO:51、及びSEQ ID NO:53から成る群から選択される軽鎖可変ドメインを含むことを特徴とする、請求項1、2、及び3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項10】
SEQ ID NO:20、SEQ ID NO:22、SEQ ID NO:24、SEQ ID NO:26、SEQ ID NO:29、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO:35、SEQ ID NO:37、SEQ ID NO:39、SEQ ID NO:41、SEQ ID NO:43、SEQ ID NO:45、SEQ ID NO:47、SEQ ID NO:49、SEQ ID NO:51、及びSEQ ID NO:53から成る群から選択されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む単離されたポリヌクレオチド。
【請求項11】
該ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:23であることを特徴とする、請求項10に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
該ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:25であることを特徴とする、請求項10に記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
該ヌクレオチド配列がSEQ ID NO:52であることを特徴とする、請求項10に記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項15】
請求項14に記載の発現ベクターを含む組み換え宿主細胞。
【請求項16】
SEQ ID NO:24を含むポリペプチド及びSEQ ID NO:26を含むポリペプチドを産生する、請求項15に記載の組み換え宿主細胞。
【請求項17】
SEQ ID NO:24を含むポリペプチド及びSEQ ID NO:53を含むポリペプチドを産生する、請求項15に記載の組み換え宿主細胞。
【請求項18】
KDRの活性化を中和する方法であって、効果的な量の請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体を投与するステップを含む方法。
【請求項19】
血管新生を阻害する方法であって、有効量の請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体を投与するステップを含む方法。
【請求項20】
腫瘍の増殖を減少させる方法であって、有効量の請求項1〜9のいずれか1項に記載の抗体を投与するステップを含む方法。
【請求項21】
該抗体がKDRを中和することを特徴とする、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
該腫瘍がKDRを過剰発現する(overexpress)ことを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
該腫瘍が結腸の腫瘍であることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
該腫瘍が乳腫瘍であることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
該腫瘍が非充実性(non-solid)腫瘍であることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
治療有効量の表皮細胞増殖因子受容体(EGFR)拮抗物質の投与をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
治療有効量のfms様チロシンキナーゼ(flt−1)VEGFR−1の投与をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項28】
化学療法治療剤の投与をさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
放射線の投与をさらに含む、請求項20に記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図10】
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【図1】
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【図5】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−105667(P2012−105667A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−36968(P2012−36968)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【分割の表示】特願2009−76394(P2009−76394)の分割
【原出願日】平成15年3月4日(2003.3.4)
【出願人】(508188662)イムクローン・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (23)
【氏名又は名称原語表記】Imclone LLC
【Fターム(参考)】