説明

L−アスコルビン酸の安定化方法、調製液体抽出物、固体状抽出物、半流動体抽出物

【課題】L−アスコルビン酸を含有する植物由来の抽出物において、植物等に天然に存在する成分を用い、当該抽出物中に存在する天然のL−アスコルビン酸の長期保存性を高めるとともに、同時に熱分解が起こらないように耐熱性の向上も可能なL−アスコルビン酸の安定化方法を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するため、果実や野菜を含む全ての植物からの液体抽出物が含有するL−アスコルビン酸を安定化させる方法であって、当該液体抽出物と、ルチン及び/又はその誘導体を含む安定化溶液とを混合することにより、当該液体抽出物が含有するL−アスコルビン酸の酸化分解を抑制した調製液体抽出物とすることを特徴とするL−アスコルビン酸の安定化方法を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物からの液体抽出物に含まれるL−アスコルビン酸(ビタミンC)を長期間安定化させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、L−アスコルビン酸(通称:ビタミンC)は、壊血病を治すことが広く知られている。その他、L−アスコルビン酸は、コラーゲンの合成、抗酸化、鉄の腸内吸収、アミノ酸の代謝等の数多くの生物学的な種々の過程に寄与することが知られている。ところが、このL−アスコルビン酸は、人間の体内では合成できないものであるため、外部から摂取する必要があるものである。従って、現代では、食品、飲料、化粧品等の分野において、商品にL−アスコルビン酸を添加して、健康維持、美容促進等を図ることの出来る商品としての付加価値を高めている。
【0003】
このL−アスコルビン酸は、合成して製造可能となっているが、多くの植物が含有する天然化合物でもあり、特に果物類に多く含まれる傾向がある。近年では、健康志向の高まりにより、食品、飲料、化粧品等の分野で使用する添加物としてのL−アスコルビン酸は、合成したL−アスコルビン酸ではなく、自然物である植物由来のL−アスコルビン酸の使用が望まれている。そこで、果物や野菜等の植物から果汁、エキス、果肉等を抽出して、これらを液体、半流動体、粉末等の固体等に加工した抽出物を食品、飲料、化粧品等のL−アスコルビン酸添加剤として用いている。
【0004】
【特許文献1】特開2008−179629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記抽出物の含有するL−アスコルビン酸は、空気による酸化、熱による分解を受けやすく、抽出直後から経時的にL−アスコルビン酸含有量が減少する。そのため、L−アスコルビン酸添加物としては、長期保存性を確保することが問題となってきた。また、常温においても、L−アスコルビン酸を含有する水溶液は、僅かな温度変化等の環境変化があると酸化・分解を起こしやすく、当該水溶液中でL−アスコルビン酸が安定して存在することが困難になる。このため、L−アスコルビン酸添加剤は、添加剤として保存する際の環境管理も必須となり、食品や化粧品等への添加加工時の温度が高い場合にはL−アスコルビン酸の酸化・分解が起こりやすいため、酸化・分解の量を考慮して、必要以上に過剰の添加剤を使用する必要が生じ、添加剤としての使用効率が悪いため、添加剤コストの削減が不可能という問題があった。
【0006】
以上のことから、以下のことが容易に考えられる。即ち、果物、野菜、その他の植物から抽出した果汁、エキス、果肉等から得られる天然のL−アスコルビン酸添加剤を用いる場合には、人工物では無いために、純粋なL−アスコルビン酸含有量には一定の限界がある。従って、天然のL−アスコルビン酸添加剤の場合には、当該天然のL−アスコルビン酸添加剤が含有するL−アスコルビン酸自体の酸化・分解を出来る限り防止する方法が求められる。特に、産業である食品分野、化粧品分野に使用することを考えると、商品の製造過程には一定の時間を要し、市場を流通した商品が消費者の手元に届き消費が行われるまでの期間、当該商品中に含有させた天然のL−アスコルビン酸が可能な限り酸化・分解しないことが求められる。即ち、天然のL−アスコルビン酸添加剤として、ある一定の期間、当該L−アスコルビン酸が酸化・分解しないように保存することのできる方法、保管方法等が望まれてきた。
【0007】
よって、本発明は、天然のL−アスコルビン酸を含有する植物由来の抽出物において、植物等に天然に存在する成分を用い、当該抽出物中に存在するL−アスコルビン酸の長期保存性を高めるとともに、同時に熱分解が起こらないように耐熱性の向上も可能なL−アスコルビン酸の安定化方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本件発明者は、鋭意研究の結果、以下に述べる方法をもって、上記目的を達成できることに想到した。
【0009】
本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法: 本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法は、果実や野菜を含む全ての植物から得られる液体抽出物が含有するL−アスコルビン酸を安定化させる方法であって、当該液体抽出物と、ルチン及び/又はその誘導体を含む安定化溶液とを混合することにより、当該液体抽出物が含有するL−アスコルビン酸の酸化分解を抑制した調製液体抽出物とすることを特徴とするものである。
【0010】
本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法において、前記安定化溶液は、ルチン及び/又はその誘導体を0.5%w/v〜10%w/v含有するものを用いることが好ましい。
【0011】
本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法において、前記安定化溶液は、アルカリ溶液又はエタノールと、ルチン及び/又はその誘導体とを混合させた混合溶液を用いることが好ましい。
【0012】
本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法において、前記安定化溶液の構成成分として、アルカリ溶液を用いる場合、アルカリ成分として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを含有するアルカリ水溶液を用いることが好ましい。
【0013】
本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法において、前記アルカリ水溶液は、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを0.2%w/v〜0.8%w/vの濃度で含有するものを用いることが好ましい。
【0014】
本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法において、前記安定化溶液は、ルチンを含有する植物から、水性アルコールによりルチンを抽出して得られる水性アルコール抽出物を用いることも好ましい。
【0015】
本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法において、前記調製液体抽出物は、ルチン及び/又はその誘導体が0.01%w/v〜1%w/v濃度となるように含有させることが好ましい。
【0016】
本件発明に係る調製液体抽出物: 本件発明に係る調製液体抽出物は、上述のL−アスコルビン酸の安定化方法を用いて得られることを特徴とするものである。
【0017】
本件発明に係る固体状抽出物: 本件発明に係る固体状抽出物は、前記液体抽出物を固体状に加工して得られる固体状抽出物であって、当該液体抽出物を本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法を用いてL−アスコルビン酸の安定化処理を施した調製液体抽出物とし、これを固体状に加工して得られたことを特徴とするものである。
【0018】
本件発明に係る半流動体抽出物: 本件発明に係る半流動体抽出物は、前記液体抽出物を半流動体状に加工して得られる半流動体抽出物であって、当該液体抽出物を本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法を用いてL−アスコルビン酸の安定化処理を施した調製液体抽出物とし、これを半流動体状に加工して得られたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法は、植物から得られるL−アスコルビン酸を含有した液体抽出物に対し、ルチン及び/又はその誘導体を含む安定化溶液を添加することにより、当該L−アスコルビン酸の酸化分解を抑制し、当該液体抽出物中のL−アスコルビン酸の含有量を長期間維持することを可能にする。従って、この安定化方法を採用することで、天然のL−アスコルビン酸を含有する植物からの液体抽出物を長期間保存しても、含有した天然のL−アスコルビン酸の酸化分解を最小限に抑制できるため、植物の含有する天然のL−アスコルビン酸の食品産業、化粧品産業での使用が容易となる。
【0020】
また、植物から得られた天然のL−アスコルビン酸の酸化分解の抑制、酸化時間の遅延安定剤として、化学的に合成された人工添加物を用いる必要がない。即ち、自然界の産物として得られるルチン及び/又はその誘導体を、当該L−アスコルビン酸の酸化分解抑制剤として用いている。よって、植物から得られるL−アスコルビン酸を含有した液体抽出物が、L−アスコルビン酸の酸化分解抑制剤を含有していても、自然界の天然物で構成されているため、食品、飲料、化粧品等への添加物として用いても、人体に対する悪影響が無く、安心して使用できる添加物となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
L−アスコルビン酸の安定化方法の形態: 本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法は、果実や野菜等の植物から得られる液体抽出物が含有するL−アスコルビン酸を安定化させる方法である。ここで、「植物から得られる液体抽出物」(以下、単に「液体抽出物」と称する。)とは、果物、野菜等の全ての植物から得られたジュース、果汁、液体着色剤、シロップ、液体エキス、ペースト等の完全な液体状、液体と一部果肉の固体物と混合したセミソリッド状態の全てを含むものであり、容易に流動する状態の全てを含む概念として記載した用語であり、少なくとも天然のL−アスコルビン酸を含有しているものを意味する。
【0022】
そして、本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法は、当該液体抽出物と、ルチン及び/又はその誘導体を含む安定化溶液とを混合することにより、当該液体抽出物が含有するL−アスコルビン酸の酸化分解を抑制した調製液体抽出物とすることで、液体抽出物が含有するL−アスコルビン酸の安定化を図るのである。
【0023】
ここで、酸化分解の抑制対象物であるL−アスコルビン酸について説明する。一般的に、L−アスコルビン酸は、ラクトン構造を有することが知られている。このL−アスコルビン酸は、水溶液中で酸性を示すものであるが、L−アスコルビン酸の構造式中にあるカルボキシル基に起因する性質ではなく、二重結合のπ電子が、炭素3の位置にあるヒドロキシ基とカルボニル基との間に伝わり、ヒドロキシル基がプロトンを放出しイオン化してアニオンを形成し、共鳴構造をもつ共役塩基となり、負電荷を非局在化させて安定化した状態となるからである。このときの解離常数は、pK=4.04である。一方、炭素2の位置にあるヒドロキシル基の場合には、炭素3の位置にあるヒドロキシル基のように、共鳴構造による安定化が起こらない。従って、その解離常数がpK=11.4と高くなる。但し、一定の条件の下では、炭素2の位置にあるヒドロキシル基も解離し、ジアニオンを形成する場合もある。
【0024】
次に、L−アスコルビン酸の酸化について説明する。L−アスコルビン酸の酸化は、最初にアスコルビン酸(ascorbate)から、プロトンを2個放出して、化1に示す構造のデヒドロアスコルビン酸(dehydroascorbate)に可逆的な反応で変わる。このデヒドロアスコルビン酸は、L−アスコルビン酸に期待される機能を維持している。しかし、デヒドロアスコルビン酸のラクトン構造は、アスコルビン酸のラクトンと比べて、化学的安定性が極めて低いため、非常に容易に加水分解し、2,3−ジケトグロン酸に転換する。この2,3−ジケトグロン酸は、事後的に脱カルボキシル化反応によって、分解することがある。この2,3−ジケトグロン酸及びその分解生成物は、L−アスコルビン酸と同様の活性を示さず、L−アスコルビン酸に期待される機能を全く示さない。従って、液体抽出物中のL−アスコルビン酸の酸化分解を防止しない限り、天然のL−アスコルビン酸を食品、化粧品等に使用しても、L−アスコルビン酸の効能を得られない可能性が高くなり好ましくない。
【0025】
【化1】

【0026】
また、L−アスコルビン酸の酸化反応は、一部の植物に豊富に含まれるアスコルビン酸の酸化酵素の触媒作用を受けることがある。更に、L−アスコルビン酸は、金属成分が全く存在しなければ、酸素が存在する場合でも比較的安定しているが、環境中に鉄や銅等の触媒化作用を示す金属成分が存在すると、これらが補酵素と同様に作用し、化学的にみたL−アスコルビン酸の酸化が起こる。特に、銅は、触媒化作用が顕著で、補酵素として作用しやすく、鉄の80倍もの効率でアスコルビン酸を酸化分解する。一方、銅に対しては、キレート剤を用いてL−アスコルビン酸の酸化防止を行う方法が比較的効果があることが知られているが、このキレート化法は、鉄に対しては効果が無い。即ち、植物の液体抽出物に含まれる金属成分に応じた、L−アスコルビン酸の酸化分解抑制方法の採用が必要と考えられる。
【0027】
そこで、本発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法は、植物の液体抽出物に含まれる金属成分等に左右されることの無い方法として、果実や野菜等の植物からの液体抽出物と、ルチン及び/又はその誘導体を含む安定化溶液とを混合することにより、当該液体抽出物が含有するL−アスコルビン酸の酸化分解を抑制して、液体抽出物に含有するL−アスコルビン酸を長期間安定化させる方法を採用した。より具体的に言えば、ルチン及び/又はその誘導体の抗酸化特性を利用し、フリーラジカルの中和作用並びに酸化分解を引き起こす酵素作用を阻害し、同時に金属のキレート化メカニズムによる効果を得て、L−アスコルビン酸の安定化を行うのである。
【0028】
ここで、ルチン及びその誘導体に関して説明する。ルチン(Rutin、ルトサイド、ケルセチン−3−ルチノシド等と称される場合がある。)は、柑橘フラボノイドの一種である。このルチンの分子式は、C273016であり、クエルセチンの3位の酸素にβ−ルチノース(6−O−α−L−ラムノシル−D−β−グルコース)が結合した配糖体である。本発明では、このルチンに天然ルチンを用いる。天然ルチンは、水に対して不溶性で、アルコール等の極性溶媒には溶解可能である。そのため、天然ルチンを水溶性にするため糖化して得られるα−グリコシル−ルチン等の食品添加物として使用可能な誘導体を使用することも可能である。しかし、本発明におけるルチンの誘導体とは、天然のルチン誘導体であり、多くの野菜や果物中に天然に存在するフラボノイド類、例えば、ジオスミン、ジオスモサイド等のフラボノイドをいう。
【0029】
このルチン及びその誘導体自体は、人体においては、抗酸化作用を備えるため血液中の活性酸素除去を行う血液浄化作用、血圧や血糖値の降下作用、膵臓機能の活性化作用、毛細血管壁の強化効果、毛細血管の透過抑制効果、抗アレルギー作用等があり、脳内出血等の体内出血予防の効果があると言われている。
【0030】
そして、ルチン及びその誘導体のL−アスコルビン酸に対する抗酸化作用は、少なくとも2つのメカニズムによって発揮される。第1の作用は、ルチン及びその誘導体が、1個の電子をL−アスコルビン酸側に供与することで、L−アスコルビン酸に生じたフリーラジカルを中和して、L−アスコルビン酸からデヒドロアスコルビン酸へ転化する連鎖反応を停止させるものである。第2の作用は、当該液体抽出物にL−アスコルビン酸と同時に含まれる酸化触媒として機能するアスコルビン酸の酸化酵素の働きを阻害する効果を発揮する。更に、第3の作用として、ルチン及びその誘導体は、酸化の触媒として働く金属をキレート化して不活性化させるキレート剤としても機能する場合もある。
【0031】
次に、ルチン及び/又はその誘導体を含有した安定化溶液について説明する。本発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法では、天然のルチン及び/又はその誘導体(以下、単に「天然ルチン類」と称する。)を用いる。ところが、天然ルチン類は、水に溶けにくい性質を備える場合が多く見られる。これらを粉末状の固体のまま、植物からの液体抽出物に添加しても、L−アスコルビン酸の酸化分解を防止する効果は殆ど得られない。従って、天然ルチン類は、溶液状として当該液体抽出物に添加して、当該液体抽出物中に均一に分散拡散し、且つ、反応性を高めて当該液体抽出物に含まれるL−アスコルビン酸の酸化分解を防止する効果を迅速に得るため、ルチン及び/又はその誘導体が溶解した状態の安定化溶液を用いることが好ましい。
【0032】
そこで、安定化溶液としては、(A)アルカリ溶液又はエタノールと、ルチン及び/又はその誘導体とを混合させた混合溶液、若しくは、(B)ルチンを含有する植物から得られた水性アルコール抽出物、のいずれかを用いることが好ましい。
【0033】
前者の安定化溶液としては、アルカリ溶液、エタノールのいずれかを溶媒として用いて、これとルチン及び/又はその誘導体とを混合して得られる混合溶液を用いる。即ち、溶媒として、アルカリ溶液を単独で用いる場合、エタノールを単独で用いる場合がある。ここで、アルカリ溶液、エタノールを用いたのは、人体に対する毒性が無い成分として使用することが可能だからである。また、いずれの溶媒を用いるかは、本発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法を用いて得られる植物の液体抽出物の用途が、食品分野、清涼飲料水分野、化粧品分野等のいずれの分野であるのかを考慮して、適宜、使用可能な溶媒を選択使用すればよい。
【0034】
なお、当該安定化溶液の溶媒として、アルカリ溶液を用いる場合には、水酸化カリウム水溶液又は水酸化ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。そして、このときの水酸化カリウム水溶液又は水酸化ナトリウム水溶液は、アルカリ成分としての水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを0.2%w/v〜0.8%w/vの濃度で含有する水溶液として用いることが好ましい。ここで、当該アルカリ成分濃度が0.2%w/v未満の場合には、常温〜室温の温度範囲で、ルチン及び/又はその誘導体の溶解が困難になる。一方、当該アルカリ成分が0.8%w/vを超える場合には、前記液体抽出物に対する当該安定化溶液の添加量にもよるが、液体抽出物中のアルカリ成分量が多くなるため、食品分野で使用する際に、人体に対する毒性は無いとしても、味覚に影響を与える場合があり、好ましくない。
【0035】
一方、安定化溶液として、水性アルコール抽出物を用いる場合について説明する。ここでいう水性アルコール抽出物は、ルチンを含有する植物に含まれる天然ルチンの成分を水性アルコールにより抽出して得られるものである。ルチンを含有する植物は多様に存在し、特に限定されるものではない。
【0036】
そして、これらの安定化溶液は、ルチン及び/又はその誘導体を0.5%w/v〜10%w/v含有することが好ましい。安定化溶液が含有するルチン及び/又はその誘導体の含有量が0.5%w/v未満の場合には、少量の添加でL−アスコルビン酸の安定化効果を得る事が出来なくなり、L−アスコルビン酸の安定化効果を得るためには、大量の安定化溶液の使用が必要になり、前記液体抽出物の希釈化が起こるため好ましくない。一方、安定化溶液におけるルチン及び/又はその誘導体の含有量を10%w/vを超える量としても、植物からの液体抽出物が通常含有する量を考慮すると、L−アスコルビン酸の安定化効果は飽和してしまい、より高い安定化効果が得られる訳ではなくなる。以上のことから、例えば、水酸化ナトリウム濃度0.5%w/vの水酸化ナトリウム溶液を溶媒として用い、[水酸化ナトリウム溶液]:[ルチン]=5:1(ルチン1部に対してアルカリ溶液5部を意味する。)の割合でルチンを溶かしたものを安定化溶液として用いる。
【0037】
そして、液体抽出物に対して、上記安定化溶液を添加する場合、当該液体抽出物中におけるルチン及び/又はその誘導体の含有量が、濃度0.01%w/v〜1%w/vとなる安定化溶液量を添加することが好ましい。安定化溶液を添加後の液体抽出物中におけるルチン及び/又はその誘導体の含有量が0.01%w/v未満であると、当該液体抽出物の含有する天然L−アスコルビン酸の酸化抑制効果を十分に得ることが出来ない。一方、液体抽出物におけるルチン及び/又はその誘導体の含有量が1%w/vを超えるような量で安定化溶液を添加しても、天然L−アスコルビン酸の酸化抑制効果が比例して増加するものではなく、酸化抑制効果が飽和するため、添加量として過剰となる。
【0038】
更に、安定化溶液の添加方法について説明する。安定化溶液は、L−アスコルビン酸を含有する液体抽出物を得る際の、抽出直後の段階で添加することが好ましい。即ち、L−アスコルビン酸を含有する野菜や果物を原材料として加工する最初の工程で添加するという意味である。添加方法については特段の限定はなく、必要量を一括添加し撹拌しても、抽出量に併せて漸次適当量を連続的に添加しても構わない。例えば、加工品としてジュースを得る場合は、野菜や果物の果汁を採取する際に、採取量に併せて、安定化溶液の添加量を漸次添加する等である。
【0039】
また、前記液体抽出物を得る植物としては、L−アスコルビン酸の含有量が多いことで知られるカムカム(CAMU CAMU;学名Myrciaria dubia)、アセロラ、オレンジ、レモン等が挙げられる。そして、液体抽出物は、植物からの果汁、植物を水あるいは他の溶剤を用いて抽出して得られた液体が挙げられる。また、これらの果汁や液体に、植物の果肉や皮の成分や残渣が含まれていても良い。特に、本発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法を、カムカムからの液体抽出物に適用すると、カムカムに高濃度に含有する天然のL−アスコルビン酸を安定化させることができる。その結果、カムカムに含有する高濃度の天然のL−アスコルビン酸を、効率よく、あらゆる商品に含有させることが可能となる。天然のカムカムは、L−アスコルビン酸の含有量が非常に高いことが知られており、南米のペルーを中心とする地域が、その原産地となる果実である。現在のところ、カムカムは、ペルー国外での栽培が不可能であるため、ペルー国外に流通しているカムカムは、その抽出物である加工品のみである。しかし、このカムカムの加工品が含有するL−アスコルビン酸は、通常の輸送過程、商品加工までの保存期間内に容易に酸化分解することにより、その含有量が経時的に減少する。このため、ペルー国外で流通するカムカムの加工品は、その加工品に含まれるL−アスコルビン酸含有量が減少してしまう。そのため、食品や栄養補助食品、化粧品等に効率良く添加するためには、本発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法を施した調製液体抽出物として保存、輸送等することが好適なのである。
【0040】
本件発明に係る調製液体抽出物の形態: 上述の本件発明に係る調製液体抽出物は、本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法を用いて得られることを特徴とするものである。調製液体抽出物とは、植物からの果汁、当該果汁を水あるいは他の溶剤と混合したジュース等が挙げられる。
【0041】
本件発明に係る固体状抽出物の形態: 本件発明に係る固体状抽出物は、前記調製液体抽出物を固体状に加工して得られる固体状抽出物である。即ち、当該液体抽出物を本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法を用いてL−アスコルビン酸の安定化処理を施した調製液体抽出物とし、これを固体状に加工して得られたことを特徴とするものである。ここで、固体状に加工するとは、脱水抽出、フリーズドライ加工、スプレードライ加工等である。
【0042】
本件発明に係る半流動体抽出物の形態: 本件発明に係る半流動体抽出物は、前記液体抽出物を半流動体状に加工して得られる半流動体抽出物である。ここで言う半流動体とは、ジャム、ゼリー、流動性に乏しい固めのペースト等である。この半流動体状抽出物も、本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法を用いてL−アスコルビン酸の安定化処理を施した調製液体抽出物とし、これを半流動体状に加工して得られたことを特徴とするものである。
【0043】
そして、調製液体抽出物は、ルチン及び/又はその誘導体の含有量が濃度0.01%w/v〜1%w/vとなるようにすることが好ましい。そして、上記固体状抽出物又は半流動体抽出物の抽出物に安定化溶液を添加する場合にも、最終的な固体状抽出物又は半流動体抽出物の中に、ルチン及び/又はその誘導体が濃度0.01%w/w〜1%w/wとなるように調製して添加することが好ましい。最終的な固体状抽出物又は半流動体抽出物の中のルチン濃度が0.01%w/w未満であると、L−アスコルビン酸の酸化抑制効果が十分に得られない。一方、当該ルチン及び/又はその誘導体濃度が1%w/wを超えても、L−アスコルビン酸の酸化抑制効果は飽和して、過剰量となるからである。以下、実施例及び比較例を示す。
【実施例】
【0044】
実施例では、液体抽出物であるカムカムジュースに、以下に示す安定化溶液を用いて、ルチンの添加量が異なる5つの試料M1〜M5を作成した。
【0045】
まず、カムカムの果実2kgを、3リットルの水とともに40℃でパーコレーションによって抽出させ、最終的に3リットルのカムカムジュースを得た。これを500mlずつに分け、試料M1〜M5に用いる液体抽出物を用意した。
【0046】
安定化溶液の調製: まず、水酸化ナトリウムを蒸留水に溶解させた0.5%水酸化ナトリウム溶液を用意した。その0.5%水酸化ナトリウム溶液に、天然ルチン5gを添加し、添加後の全液量を100mlとした。この安定化溶液は、溶液1ml中に天然ルチンが0.05g(50mg)、つまり、ルチン濃度0.5%w/vに調製した。
【0047】
調製液体抽出物の作製: 上述のカムカムジュースを500mlに対し、安定化溶液の添加量を変えて、ルチン含有量の異なる調製液体抽出物を作製した。ここで、安定化溶液の添加方法は、前記液体抽出物に安定化溶液を一括添加する方法を用いた。
【0048】
試料M1は、前記液体抽出物(カムカムジュース)500mlに対し、ルチン濃度0.5%w/vの安定化溶液を添加し、ルチン濃度が0.10g/L(0.010%w/v)となる調製液体抽出物を作製した。同様に、試料M2はルチン濃度0.25g/L(0.025%w/v)、試料M3はルチン濃度0.5g/L(0.05%w/v)、試料M4はルチン濃度0.75g/L(0.075%w/v)、試料M5はルチン濃度1g/L(0.10%w/v)の調製液体抽出物とした。各資料M1〜M5はガラスバイアル中に入れ、10℃に保持した。表1に試料M1〜M5の調製条件を示す。
【0049】
【表1】

【比較例】
【0050】
比較例は、実施例で用いた液体抽出物に、安定化溶液を添加しない例であり、試料M6として示す。すなわち、試料M6は、液体抽出物であるカムカムジュース500mlそのものを用いた。
【0051】
L−アスコルビン酸含有量の評価: 試料M1〜M6について、L−アスコルビン酸の濃度を、添加当初(0日目)、7日目、10日目、14日目について測定した。結果を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
上記実験結果に基づき、0日目に対するL−アスコルビン酸濃度の減少率を算出した結果を以下の表3及び図1にグラフで示す。
【0054】
【表3】

【0055】
結果の対比: 表3に示したL−アスコルビン酸濃度の減少率を見ると、ルチンを含有する試料M1〜M5と、安定化溶液を添加しない試料M6とは、違いが明確に現れた。特に、14日目の結果を見ると、比較例の試料M6はL−アスコルビン酸濃度の減少率が32.74%を示したのに対して、ルチン濃度0.10g/Lの試料M1は15.67%であり、ルチン濃度の1g/Lの試料M5は4.72%であり、特に、ルチン濃度0.5g/Lの試料M3はL−アスコルビン酸濃度の減少率が2.1%であり、最も少ない結果を示した。
【0056】
続いて、試料M3を用いて、保存環境を変化させた実施例を示す。すなわち、上記実施例の試料M3と同じ、ルチン濃度0.5g/Lのカムカムジュースを用意し、滅菌処理の有無と保存温度を変えた以下の試料M31〜M34を用いて、0日目、7日目、10日目、14日目のL−アスコルビン酸含有量の変化を測定した。なお、滅菌処理は、80℃で30秒間加熱する処理を行った。測定結果を表3に示す。
【0057】
試料M31:滅菌処理し、冷蔵保持
試料M32:滅菌処理し、常温で保持
試料M33:滅菌処理せず、冷蔵保持
試料M34:滅菌処理せず、常温で保持
【0058】
【表4】

【0059】
表4から明らかな様に、ルチン濃度0.5g/Lのカムカムジュースにおいて、滅菌条件及び温度条件が異なる場合であっても、L−アスコルビン酸濃度は極めて安定し、変化が無いことが示された。この結果から、保存温度に関わらずL−アスコルビン酸濃度の経時変化が極めて少なく、L−アスコルビン酸を安定化させられることが明らかである。また、滅菌処理を行った試料M32及び試料M34においても、試料M31、試料M33と同様の結果となっている。このことから、滅菌処理時の80℃の加熱によっても、L−アスコルビン酸が分解されておらず、且つ、その含有量を保つことができることが判明した。以下、L−アスコルビン酸の含有量の測定方法を説明する。
【0060】
L−アスコルビン酸の含有量の測定方法: L−アスコルビン酸の含有量は、酸化還元滴定(Redox滴定)により測定した。具体的には、L−アスコルビン酸の試薬を用いて既知の濃度に調整した基準試料と試料M1〜試料M6とを対象としてヨウ素滴定を実施した。そして、試料M1〜試料M6が含むL−アスコルビン酸量は、基準試料に対して滴下したヨウ素標準溶液量と、試料M1〜試料M6に対して滴下したヨウ素標準溶液量とを比較して算出した。
【0061】
ヨウ素標準溶液の調製: ヨウ素標準溶液は、ヨウ素濃度を0.1Nに設定した。具体的には、ヨウ素(I)試薬1.4gとヨウ化カリウム(KI)試薬3.6gとをビーカー内で10mlの蒸留水に溶解し、濃塩酸0.15mlを加えた。その後、この水溶液を100mlになるよう更に蒸留水を加え、ヨウ素標準溶液を調製した。
指示薬の調製: 濃度5%のデンプン溶液を調製した。
L−アスコルビン酸基準液の調製: USP(United States Pharmacopeia)グレードのL−アスコルビン酸試薬(純度:99.6%)50mgを精密に秤取り、ビーカー内で10mlの蒸留水に溶解し、更に2N硫酸2.5mlを加え、L−アスコルビン酸基準液を調製した。
【0062】
L−アスコルビン酸基準液の滴定: L−アスコルビン酸基準液に指示薬0.5mlを添加し、その後、ヨウ素標準溶液を青色が発色するまで滴定し、滴定量を求めた。
試料M1〜試料M6の滴定: 各試料から5mlを正確に秤取り、ビーカー内で10mlの蒸留水に溶解し、更に2N硫酸2.5mlを加え、測定試料とした。この測定試料に指示薬0.5mlを添加した後、ヨウ素標準溶液を青色が発色するまで滴定し、滴定量を求めた。
【0063】
試料中のL−アスコルビン酸濃度: 上述した酸化還元滴定による測定を3回繰り返し、基準試料及び各試料M1〜M6の滴定量の算術平均を求めた。そして、求められた基準試料の滴定量と各試料M1〜M6の滴定量を元に、試料中のL−アスコルビン酸濃度を算出した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本件発明に係るL−アスコルビン酸の安定化方法によれば、植物からの液体抽出物に含有するL−アスコルビン酸の変性を長時間防ぐことができ、L−アスコルビン酸の含有量の経時的な減少を抑えることができる。また、熱によるL−アスコルビン酸の分解を防ぐので、添加物として使用する場合に加工時にも損失が無く、添加効率を向上させることができる。したがって、L−アスコルビン酸を含有する液体抽出物を、食品や化粧品等の添加物として添加し加工する場合に、加熱加工時においてもL−アスコルビン酸濃度が減少しないので、加工時の制約が無く、また、加工時の量的な損失を抑えて効率的な添加物であると言える。
【0065】
特に、カムカム、アセロラ等、L−アスコルビン酸の含有量が高い植物においては、保存環境の影響を受けにくく、L−アスコルビン酸濃度を長期間保つことが可能となるので、L−アスコルビン酸の含有量を損なうことなく輸送可能となり、需要の増大が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例及び比較例におけるL−アスコルビン酸含有量の減少率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実や野菜を含む全ての植物から得られる液体抽出物が含有するL−アスコルビン酸を安定化させる方法であって、
当該液体抽出物と、ルチン及び/又はその誘導体を含む安定化溶液とを混合することにより、当該液体抽出物が含有するL−アスコルビン酸の酸化分解を抑制した調製液体抽出物とすることを特徴とするL−アスコルビン酸の安定化方法。
【請求項2】
前記安定化溶液は、ルチン及び/又はその誘導体を0.5%w/v〜10%w/v含有するものを用いる請求項1に記載のL−アスコルビン酸の安定化方法。
【請求項3】
前記安定化溶液は、アルカリ溶液又はエタノールと、ルチン及び/又はその誘導体とを混合させた混合溶液を用いる請求項1又は請求項2に記載のL−アスコルビン酸の安定化方法。
【請求項4】
前記安定化溶液の構成成分として、アルカリ溶液を用いる場合、アルカリ成分として水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを含有するアルカリ水溶液を用いるものである請求項3に記載のL−アスコルビン酸の安定化方法。
【請求項5】
前記アルカリ水溶液は、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを0.2%w/v〜0.8%w/vの濃度で含有するものを用いる請求項4に記載のL−アスコルビン酸の安定化方法。
【請求項6】
前記安定化溶液は、ルチンを含有する植物から、水性アルコールによりルチンを抽出して得られる水性アルコール抽出物である請求項1又は請求項2に記載のL−アスコルビン酸の安定化方法。
【請求項7】
前記調製液体抽出物は、ルチン及び/又はその誘導体が0.01%w/v〜1%w/v濃度となるように含有させたものである請求項1〜請求項6のいずれかに記載のL−アスコルビン酸の安定化方法。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載のL−アスコルビン酸の安定化方法を用いて得られたことを特徴とするL−アスコルビン酸の安定化処理を施した調製液体抽出物。
【請求項9】
前記液体抽出物を固体状に加工して得られる固体状抽出物であって、
当該液体抽出物を請求項1〜請求項7のいずれかに記載のL−アスコルビン酸の安定化方法を用いてL−アスコルビン酸の安定化処理を施した調製液体抽出物とし、これを固体状に加工して得られたことを特徴とするL−アスコルビン酸の安定化処理を施した固体状抽出物。
【請求項10】
前記液体抽出物を半流動体状に加工して得られる半流動体抽出物であって、
当該液体抽出物を請求項1〜請求項7のいずれかに記載のL−アスコルビン酸の安定化方法を用いてL−アスコルビン酸の安定化処理を施した調製液体抽出物とし、これを半流動体状に加工して得られたことを特徴とするL−アスコルビン酸の安定化処理を施した半流動体抽出物。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−126503(P2010−126503A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304562(P2008−304562)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(508347029)株式会社ヤマノ (2)
【出願人】(508353695)ヤマノ デル ペルー エス.エー.シー. (3)
【Fターム(参考)】