説明

LipidA及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質並びに該ペプチド又はタンパク質をコードするDNA、該ペプチド又はタンパク質を用いたLPS吸着体あるいはLPS毒性中和剤

本発明は、安全性が高く、かつ安価に得ることができるLipid A及びLPSに結合性を有する新規なペプチド又はタンパク質並びに該ペプチド又はタンパク質をコードするDNAを提供すると共に、上記ペプチド又はタンパク質を用いたLPS吸着体及びLPS毒性中和剤を提供する。
Lipid AあるいはLPSをターゲット物質として用い、ファージディスプレイ法によりスクリーニングを行い、Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチドのアミノ酸配及び該アミノ酸配列をコードするDNAを同定する。このようにして得られた配列番号1〜6のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列を有するペプチドは容易に化学合成可能であり、例えば、該ペプチドを担体に固定化することにより、LPS吸着体を得ることができる。また、該ペプチドを有効成分として含有させることにより、LPS毒性中和剤を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポ多糖(LPS)の活性の中心であるLipid Aに結合性を有する新規なペプチド又はタンパク質並びに該ペプチド又はタンパク質をコードするDNAに関し、更には該ペプチド又はタンパク質を用いたLPS吸着体あるいはLPS毒性中和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
グラム陰性細菌の外膜重要構成成分であるリポ多糖(以下LPSと略記する)は、強い毒性を有するLipid Aと呼ばれる脂質部分とこれに結合した糖部分とからなり、生体内に入ると過剰な免疫反応を引き起こして最終的には致死的な影響を与えることもある物質である。
【0003】
LPSは、例えば、血液凝固反応、サイトカインの放出、プロスタグランジン(Prostaglandins)、アナンダマイド(Anandamide)、2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)、スーパーオキシドアニオンラジカル(O2Radical)の産生放出、HMGP-1(High mobility group protein-1)の遊離、その他様々な経路から多臓器不全を誘発してLPSショックを引き起こすことが知られており、グラム陰性細菌に起因する敗血症で起こるショック症状もLPSが関与している。
【0004】
そのため、医薬品製造や医療現場においては、LPSの厳密な管理が求められている。また、LPSは細胞に多様な作用を引き起こすため、遺伝子操作、細胞融合、組織培養等のバイオ実験現場においてもLPSの厳密な管理が求められている。
【0005】
従来より、LPSを除去するための様々な方法が提案されており、例えば、特開2001−87649号公報には、カチオン系抗菌剤、色素、水溶性多糖類、ゼラチン及びポリメタリン酸ナトリウムにより構成され、架橋剤により架橋、不溶化されたことを特徴とするリポ多糖、核酸及び微生物の吸着体が開示されている。
【0006】
また、特開2000−189792号公報には、数平均分子量が300〜5,000,000の親水性のスペーサーアームを介して、不溶性担体に化学療法剤を固定化したことを特徴とする、高圧蒸気滅菌及びアルカリ処理に安定なリポ多糖の吸着体が開示されている。
【0007】
また、特開平10−225515号公報には、グラム陰性菌に由来する毒素と、グラム陽性菌に由来する毒素とを除去あるいは解毒することを特徴とする液体処理用カラムが開示されている。
【0008】
そして、ポリミキシンB(小路久敬,三永昌弘,酒井良忠ほか:「エンドトキシン除去カラム(PMX)の設計と開発」(人口臓器1993;22:204-211)、小路久敬:「医療用繊維の最近の進歩」(ポリファイル1993;30:775-780)、青木裕彦,谷徹,花沢一芳ほか:「ポリミキシンB固定化繊維を用いた血中エンドトキシン吸着療法による、敗血症の治療」(日本外科学会雑誌1993;94:775-780))やプロテインC等(Efficacy and safety of recombinant human activated protein C for severe sepsis. Gordon R.Bernard,Jean-Louis Vincent,Charles J.Fisher,Jr,et al. N Engl J Med 344:699-709,2001、Replacement Therapy with Protein C Concentrate in Infants and Adolescents with Meningococcal Sepsis and Purpura Fulminans. Ettingshausen CE,Veldmann A, Kreuz W et al. Seminars in Thrombosis and emostasis 25:537-541,1999.)は実際に敗血症の治療に利用されている。
【0009】
しかしながら、従来のLPSの除去方法では、LPSを吸着する物質としてポリミキシンB等の高価な抗生物質を利用するため、コストがかかってしまうという問題があった。また、これらの抗生物質は副作用があるため、敗血症の治療薬等として利用する際には問題があった。
【発明の開示】
【0010】
本発明の目的は、安全性が高く、かつ安価に得ることができるLipid A及びLPSに結合性を有する新規なペプチド又はタンパク質並びに該ペプチド又はタンパク質をコードするDNAを提供すると共に、上記ペプチド又はタンパク質を用いたLPS吸着体及びLPS毒性中和剤を提供することにある。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の一つは、配列番号1〜6のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有し、Lipid A及びLPSに結合性を有することを特徴とするペプチド又はタンパク質を提供するものである。
【0012】
上記発明においては、前記ペプチド又はタンパク質は、配列番号7〜15のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0013】
上記発明によれば、LPSの活性の中心であるLipid Aに結合性を有する新規なペプチド又はタンパク質を提供することができる。このペプチド又はタンパク質は容易に化学合成できるので、従来の抗生物質に比べて安価に得ることができるだけでなく、生体関連物質であるため、副作用のリスクも少ない。したがって、LPSを除去する際の吸着体の素材やLPSの検出試薬等として好適に利用できるだけでなく、敗血症の治療薬等への利用が期待できる。
【0014】
また、本発明のもう一つは、前記Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質をコードするDNAを提供するものである。
【0015】
上記発明においては、前記DNAは、配列番号16〜36のいずれかに示される塩基配列を有するものであることが好ましい。
【0016】
上記発明によれば、Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質をコードするDNAを提供することができるので、このDNAを適当なベクターに組み込むことにより、Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質を容易に大量生産できるだけでなく、遺伝子治療等にも用いることができる。
【0017】
更に、本発明のもう一つは、配列番号1〜6のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有し、Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質を担体に固定化したことを特徴とするLPS吸着体を提供するものである。
【0018】
上記発明においては、前記ペプチド又はタンパク質は、配列番号7〜15のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0019】
上記発明によれば、上記Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質を担体に固定化することにより、より安価なLPS吸着体を提供することができる。このLPS吸着体を用いることにより、例えば、医薬品、血液、注射液、試薬等に混入したLPSを効率よく除去することができる。
【0020】
更に、本発明のもう一つは、配列番号1〜6のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有し、Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質を有効成分として含有することを特徴とするLPS毒性中和剤を提供するものである。
【0021】
上記発明においては、前記ペプチド又はタンパク質は、配列番号7〜15のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有することが好ましい。
【0022】
上記発明によれば、上記Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質を有効成分として含有させることにより、安価で副作用のリスクの少ないLPS毒性中和剤を提供することができる。このLPS毒性中和剤は、LPSのLipid Aに強く結合してLPSの活性を阻害するので、敗血症の治療薬等としての利用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】Lip1ペプチドとLipid Aとの結合力を測定した結果を示す図である。
【0024】
【図2】Lip1ペプチドのLipid A阻害活性を調べた結果を示す図である。
【0025】
【図3】Lip1ペプチド固定化カラム及びコントロールペプチド固定化カラムにCSE溶液を流し、各カラムの通過液中に含まれるエンドトキシン(LPS)を測定した結果を示す図である。
【0026】
【図4】Li4-1ペプチドとLipid A(E.coli K12 D31 m4)との結合力を測定した結果を示す図である。
【0027】
【図5】Li4-1ペプチドとLPS(E.coli K12 D31 m4)との結合力を測定した結果を示す図である。
【0028】
【図6】Li4-1ペプチドとLPS(E.coli O111:B4)との結合力を測定した結果を示す図である。
【0029】
【図7】Li4-1ペプチドとLPS(Salmonella)との結合力を測定した結果を示す図である。
【0030】
【図8】Li4-1ペプチド固定化ビーズを用いて、バッチ法にてLPS吸着能力の測定を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明のペプチドは、Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチドであり、ペプチド中に配列番号1〜6のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有するものである。具体的には、配列番号7〜15のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有するものである。
【0032】
本発明のペプチドは、上記の部分アミノ酸配列を有するものであれば、そのアミノ酸数は特に制限されないが、通常、アミノ酸数4〜50個からなることが好ましく、アミノ酸数6〜20個からなることがより好ましい。また、本発明のペプチドは、Lipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾(例えばアセチル化、アシル化、アミド化、カルボキシル化、リン酸化、糖鎖の付加等)、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失があってもよい。なお、本発明のペプチドは、上記アミノ酸配列を複数個有していてもよい。
【0033】
本発明のペプチドは、Lipid AあるいはLPSをターゲット物質として、ファージディスプレイ法(Smith, G.P., Science, 288, 1315-1317 (1985))によって得られたものである。なお、ファージディスプレイ法は、ファージの外殻タンパク質に、ランダムなアミノ酸配列を有するペプチド(通常、アミノ酸数5〜12個程度)を融合タンパク質として呈示させたファージライブラリを用いて、ターゲット物質に結合するペプチドをスクリーニングする方法である。ファージライブラリは、例えば、Smith, G. P., Science, 288, 1315-1317 (1985)、J. K. Scott and G. P. Smith, Science, 249, 386-390 (1990)等に記載された方法にしたがって、ランダム化したDNAを化学合成し、これをファージDNAの外殻タンパク質をコードする遺伝子に挿入し、このDNAを大腸菌に導入することにより調製することができる。また、ファージライブラリは市販されており、例えば、商品名「Phage Display Peptide Library Kit」、New England Biolab社製)等を用いることもできる。
【0034】
そして、ファージディスプレイ法等により決定されたアミノ酸配列に基づいて、例えば、固相法、Fmoc法等の公知のペプチド合成法により、目的とするペプチドを簡単に合成することができる。
【0035】
例えば、配列番号1〜6に示されるアミノ酸配列は、Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチドの共通配列である。これらの共通配列は、上記のようなファージライブラリを、Lipid AあるいはLPSに接触させて選択操作(バイオパニング)を行い、Lipid AあるいはLPSに結合するペプチドを発現したファージ群のみを選択し、このファージのDNAを解析することにより、ファージ表面に呈示されたペプチドのアミノ酸配列(配列番号7〜15)を同定して比較することにより決定したものである(実施例1、5、8参照)。
【0036】
また、本発明のタンパク質は、Lipid A及びLPSに結合性を有するタンパク質であって、タンパク質中に配列番号1〜6(具体的には配列番号7〜15)のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有するものであり、その分子量等は特に制限されないが、上記アミノ酸配列を有する部分が、Lipid Aと接触・結合できるように、タンパク分子上に呈示されている必要がある。なお、本発明のタンパク質は、上記アミノ酸配列を複数個有していてもよい。
【0037】
本発明のタンパク質としては、以下のようなものが例示できる。
【0038】
(i) 上記Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチドを、HRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)、AP(アルカリフォスファターゼ)、β-D-ガラクトシダーゼ、グルコース-6-リン酸脱水素酵素等の酵素に結合したもの。
【0039】
このようなタンパク質は、例えば「超高感度酵素免疫測定法」(石川栄治著 学会出版センター)等に記載された公知の方法にしたがって、上記Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチドと上記酵素とを結合させることにより得ることができる。
【0040】
(ii) 上記Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチドを表面に呈示したファージ。
【0041】
このようなファージは、Smith, G. P., Science, 288, 1315-1317 (1985)、J. K. Scott and G. P. Smith, Science, 249, 386-390 (1990)等に記載されたファージライブラリの作製方法にしたがって得ることができる。すなわち、上記Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA(例えば、後述する配列番号16〜36のいずれかに示されるDNA)を化学合成し、このDNAをファージラブラリを作製するときと同様の方法で、ファージDNAの外殻タンパク質をコードする遺伝子に挿入し、このDNAを大腸菌に導入することにより、所望のペプチドを表面に呈示したファージを得ることができる。
【0042】
(iii) 上記Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチドを所定の抗原に連結したものと、該抗原に対する抗体とを結合させた抗体。
【0043】
このような抗体は、本出願人による特願2002-241688号(WO2004/022599号公報)に記載された方法によって得ることができる。例えば、上記Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチドと抗原となるペプチドとを連続した一つのペプチドとして合成し、前記抗原に対する抗体との抗原抗体反応により結合させればよい。
【0044】
本発明のDNAは、配列番号1〜6(具体的には配列番号7〜15)のいずれかに示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質をコードするものであり、具体的には、配列番号16〜36のいずれかに示されるDNAが例示できる。これらのDNAは、ファージディスプレイ法によってスクリーニングされたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドのアミノ酸配列に基いて決定したものである(実施例1、5、8参照)。
【0045】
このようなDNAは、例えば、細菌、酵母等を用いた合成系にてベクターに組み込んで形質転換することにより、生合成による大量合成等の用途に利用することができる。
【0046】
次に、本発明のLPS吸着体について説明する。
【0047】
本発明のLPS吸着体は、上記Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質を適当な担体に結合させることにより得ることができ、医薬品、血液、注射液、試薬等に混入したLPSの除去に用いる吸着体として好適に利用することができる。
【0048】
上記担体の素材としては、ペプチド又はタンパク質を物理的あるいは化学的に結合できる素材であればよく、例えば、カラム用担体又はセファロース、シリカ粒子等の材質からなる粒径1〜100μmのビーズや繊維状担体、上記材質からなる織布、不織布等が挙げられる。
【0049】
上記ペプチド又はタンパク質と担体との結合は、例えば、「エンドトキシン除去用ポリミキシンB固定化繊維状充填カラム(PMX)の設計.基礎と臨床」1994;28:283-294(小玉正智,谷徹,花沢一芳ほか)等に記載の公知の方法にしたがって行うことができる。
【0050】
なお、上記ペプチド又はタンパク質を担体に結合させる際に、ペプチドの末端やタンパク質の適当な部分等に担体との結合に利用可能な適当なスペーサーを挿入してもよい。スペーサーとしては、例えば、アミノ酸、ペプチド(好ましくは、グリシンやセリンが数個(通常2〜10個)ペプチド結合したペプチド等のフレキシブルリンカー等)、炭素数2〜18の主鎖(主鎖中にエステル結合やエーテル結合を有していてもよい。)を有し、好ましくは水酸基等の親水性の官能基を有するもの(例えば、両末端に活性基を有するポリビニルアルコール、好ましくはビニルアルコール分子が2〜10程度重合したもの)、2〜10糖からなる糖鎖等が例示できる。例えば、スペーサーがアミノ酸やペプチドである場合は、スペーサーを挿入したペプチドを連続した一つのペプチドとして合成することができるので好ましい。
【0051】
このようなスペーサーを挿入することにより、担体との結合を行いやすくなる。また、スペーサーの長さを調整することにより、上記ペプチド又はタンパク質とLipid A(LPS)との立体的な結合阻害を回避して、上記ペプチド又はタンパク質とLipid A(LPS)との接触をより容易にすることができるので、吸着能力の向上を図ることも可能となる。
【0052】
次に、本発明のLPS毒性中和剤について説明する。
【0053】
本発明のLPS毒性中和剤は、上記Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質を有効成分として含有するものであり、LPSのLipid Aに強く結合してLPSの活性を阻害するので、安価で、かつ安全性の高い敗血症や敗血症性ショックの治療薬等としての利用が期待できる。例えば、上記(iii)の抗体を用いることによって、Lipid A及びLPS結合ペプチドの効果を上げ、敗血症の治療薬等の医薬品として利用できる可能性がある。
【0054】
本発明のLPS毒性中和剤の有効投与量は、成人1日当たり、上記ペプチド又はタンパク質換算で0.1〜15mg/体重kgである。
【0055】
本発明のLPS毒性中和剤の製剤形態は特に限定されないが、例えば、敗血症の治療薬等として利用する場合は、血管内に投与する必要があるため、注射液や点滴液等の製剤形態、あるいは注射液や点滴液に容易に溶解できる製剤形態が好ましい。
【0056】
また、本発明のペプチド又はタンパク質は、上述したLPS吸着体やLPS毒性中和剤として以外にも、蛍光物質等の標識物質を結合させることにより、LPSの検出試薬等として利用することができる(なお、上記(i)〜(iii)に例示したタンパク質はそのままでもLPSの検出試薬等として利用することができる。)。
【0057】
上記標識物質としては、上記(i)に例示した酵素以外に、FITC(フルオレセイン)、Cy3、Cy5、Alexa、ローダミン、Tet、テキサスレッド等が例示できる。
【0058】
また、上記ペプチド又はタンパク質と標識物質、例えば、蛍光物質との結合は、「超高感度酵素免疫測定法」(石川栄治著 学会研究センター)等に記載の公知の方法により行うことができる。
【0059】
なお、上記ペプチド又はタンパク質と標識物質を結合させる場合には、上述したようにペプチドの末端やタンパク質の適当な部分等に標識物質との結合に利用可能な適当なスペーサーを挿入してもよい。スペーサーを挿入することにより、標識物質の結合を行いやすくなると共に、スペーサーの長さを調整することにより、上記ペプチド又はタンパク質とLipid A(LPS)との立体的な結合阻害を回避して、上記ペプチド又はタンパク質とLipid A(LPS)との接触をより容易にすることができるので、検出感度の向上を図ることも可能となる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
実施例1
ターゲット物質として、Lipid A, E.coli K12,D31m4<Primarily diphosporyl>(フナコシ社製)を用い、ファージディスプレイ法により、Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチドのスクリーニングを以下の(1)〜(7)のように行った。
【0062】
なお、ファージディスプレイ法では、M13ファージの表面のマイナータンパクpIIIにペプチドがランダムに呈示されるライブラリ(呈示されるランダムアミノ酸数が7個、12個のペプチドライブラリ)を、Smith,G.P.,Science,288,1315-1317(1985)、J.K.Scott and G.P.Smith,Science,249,386-390(1990)等の記載に基づいて作製し、この2種類のライブラリを用いた。
【0063】
(1)Lipid A固定化
ターゲットとなるLipid A(LBL/フナコシ社製、Lipid A,E.coli K12,D31m4<Primarily diphosporyl>、以下同じ)を100μg/mlとなるように炭酸バッファ(100mM NaHCO3、pH8.0)に溶解した溶液を調製し、この溶液を100μlずつ、商品名「96WELL中結合プレート」(コーニング社製)の2ウェルに入れ、4℃で一晩インキュベートして、Lipid Aの固定化を行った。
【0064】
(2)パニング
Lipid Aを固定化したプレートにTBS(100mM Tris-HCl、140mM NaCl pH7.4)−2%スキムミルク(以下ブロッキングバッファという)を100μlずつ加え、軽く撹拌しながら室温で30分インキュベートした後、その上澄みを捨て、ブロッキングバッファを1ウェル当り300μlずつ加え1時間インキュベートした。
【0065】
その間に、180μlのブロッキングバッファに各20μl(7アミノ酸、12アミノ酸ライブラリ共、1012pfu以上/10μl)のファージ溶液を加えて溶解し、非特異的吸着低減処理を行い、ファージ(ペプチドライブラリ)溶液を調製した。
【0066】
プレートの上澄みを捨て、TBSで5回洗浄した後、上記ファージ溶液を各ウェルに加えて軽く撹拌しながら、室温で1時間インキュベートした。そして、上澄みを捨て、TBSで5回洗浄後、0.1mg/ml Lipid A(TBS)を100μl加え、軽く撹拌しながら、1時間室温でインキュベートした。その後、この溶液を別のマイクロチューブに移し変えた(これをファージ溶出液という)。
【0067】
(3)ファージ増幅・精製
上記で得られたファージ溶出液を、三角フラスコ中25mlの大腸菌(F+)(LB培地でOD600=0.6になるまで培養したもの)に加えて感染させ、4時間半、37℃で激しく撹拌し、ファージを増幅させた。
【0068】
増幅後、上記培地を50ml遠沈管に移し変え、遠心(10,000rpm・10分・4℃)して上澄みを別の遠沈管に移し、50mlのPEG/NaCl溶液(20%PEG、2.5M NaCl)を加えて、4℃で一晩インキュベートした。その後、遠心(10,000rpm・15分・4℃)して上澄みを捨て、1mlのTBSを加え、沈殿(ファージ)を溶解した。この溶解液を1.5mlのエッペンチューブに移し、遠心(10,000rpm・5分・4℃)して余分な大腸菌を沈殿させて、上澄みを別のエッペンチューブに移し、200μlのPEG/NaClを加えて混ぜ氷中に1時間インキュベートした後、遠心(10,000rpm・10分・4℃)して上澄みを捨て、200μlのTBSで沈殿(ファージ)を溶解した。更に、遠心(10,000rpm・2分・4℃)して、上澄みを0.5mlのエッペンチューブに移してファージ精製溶液とした。このファージ精製溶液を用いて、再びパニング・増幅・精製の操作を同様にして3回繰り返して行い、4回目はパニング工程においてファージを溶出するところまで行い、ファージ溶出液を得た。
【0069】
(4)タイター測定(プラークの形成)
4回目のファージ溶出液をTBSで希釈して102〜105倍希釈液を調製した。
【0070】
一方で、IPTGとX-Galを加えたLBプレート培地(プラスチックシャーレに作製)を37℃で温め、アガローストップをオートクレーブで溶解し、45℃で固まらないように暖めておく。
【0071】
LB培地でOD600=0.6になるまで培養した大腸菌(F+)200μlに、希釈したファージ溶液を10μl加え撹拌して2分間インキュベートした後、45℃で保存しておいたアガローストップに加えて撹拌してからIPTGとX-Galを加えたLBプレート培地に流し込み、約5分間インキュベートした。アガローストップが固まり、余分な水気が飛んだら、フタをしてパラフィルムを巻き、37℃で一晩インキュベートした(ファージが存在すれば、青色のプラークが出現する)。
【0072】
(5)プラークからファージの増幅
プラークの数が100以下のプレートを選び、出現したプラークを楊枝でつつき、ピッキングした。ピッキングした楊枝はLB培地でOD600=0.6になるまで培養した大腸菌(F+)5ml(試験管)に入れ、4時間半激しく振とう培養した。培養後は、上記(3)と同様の操作を行ってシングルファージの精製を行い、12個のファージを得た。
【0073】
(6)ELISAによる得られたペプチドのLipid Aに対する結合性の確認
上記(1)と同様にしてターゲットとなるLipid Aを中結合プレート(コーニング社製)に固定化した。なお、Lipid Aの固定化は、プレートの1列(12ウエル)にのみ行い、もう1列はコントロール用としてLipid Aの固定化を行わなかった。
【0074】
一晩インキュベートしたプレートに100μlの2%(w/v)スキムミルク・PBS溶液を加え、軽く撹拌しながら30分室温にインキュベートした後、各ウェルの溶液を捨て、300μlのブロッキングバッファをLipid A固定化ウェル(12ウェル)及びコントロール用ウェル(12ウエル)に加えて、軽く撹拌しながら2時間室温でインキュベートした。
【0075】
一方、上記(5)で得られた各ファージ溶液(1011pfu/μl)50μlを、それぞれブロッキングバッファ200μlに溶解し、非特異的吸着低減処理を行った。
【0076】
各ウェルのブロッキングバッファを捨て、PBS−Tween(0.1%Tween in PBS)で5回洗浄した後、上記の各ファージ溶液をLipid A固定化ウェル及びコントロール用ウェルに80μlずつ加え、更にPBSを120μlずつ加えて1時間軽く撹拌しながら室温でインキュベートした。そして、各ウェルの中の溶液を捨て、200μlのPBS-Tweenで5回洗浄した後、各ウェルに、発色用の抗体を含む溶液を200μlずつ加え、軽く撹拌しながら1時間インキュベートした。なお、発色用の抗体を含む溶液は、ブロッキングバッファ20mlに、商品名「anti M13 antibody HRP monoclonalconjugate」(Amersham Biosceiences社製)を4μl加えて調製した。
【0077】
そして、ウェルの中の溶液を捨て、PBS-Tweenで6回洗浄した後、ABTS発色溶液(ABTS(和光純薬製)を0.22mg/mlとなるようにクエン酸バッファ(50mM クエン酸、ph4.0)に溶解して作製し、使用直前に、1.8μl/mlとなるように30%過酸化水素水(和光純薬製)を加えたもの)を200μlずつ、各ウェルに加えて発色させて、吸光度(405nm)をプレートリーダー(商品名「ARVO.SX」:ワラック社製)で測定した。その結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
表1から、ファージ1、3、6の吸光度比(B/A)の値が大きく、Lipid Aに対する親和性の強いことが示された。
【0080】
(7)ペプチド配列確認
今回行ったファージディスプレイ法では、ペプチドはファージのpIIIタンパクのN末端に呈示されているため、ファージpIIIgene(シグナル配列部を除く)の5’上流を読めば、ペプチドのアミノ酸配列を決定することができる。
【0081】
シークエンス用のCy5蛍光標識プライマーとして配列番号37に示すプライマーを用いて、商品名「Thrme Sequenase Labelled Primer Cycle Sequencing kit with 7-deaza-dGTP」(Amersham Biosciences社製)でシークエンス反応を行い、商品名「ALFexpressII」(Amersham Bio sciences社製)で配列決定を行った。その結果、ファージ1、3、6から、それぞれ配列番号7〜9に示す3種類のペプチドのアミノ酸配列を同定した。そして、これらの配列から、配列番号1(配列番号7、8に示すアミノ酸配列の共通配列)と、配列番号2(配列番号9)に示す配列が示唆された。また、配列番号7に示されるペプチドをコードするDNAとして配列番号16、17に示されるDNA、配列番号8に示されるペプチドをコードするDNAとして配列番号18、19に示されるDNA、配列番号9に示されるペプチドをコードするDNAとして配列番号20、21に示されるDNAをそれぞれ決定した。
【0082】
実施例2
配列番号7に示すペプチドのC末端にチオール基を導入するためシステインを付加したペプチド(以下Lip1ペプチドという)を合成(合成はシグマジェノシス社に依頼)し、Lipid Aとの結合力を商品名「BIACORE2000」(BIACORE社製)を用いて測定した。
【0083】
具体的には、Lip1ペプチドを商品名「BIACOREセンサーチップCM5」(BIACORE社製)にチオールカップリングにて固定化した(1レーン目をコントロールとし、2レーン目にLip1ペプチドを固定化した)。
【0084】
そのセンサーチップに、濃度が(a)0.48μg/ml、(b)0.12μg/ml、(c)0.06μg/mlのLipid A溶液(緩衝用バッファTBS(10mMTris-HCl、0.1MNaCl、pH7.0))をアナライトとして流して測定した。その結果、各Lipid A濃度における解離定数平均値(KD)は2.78e-8であり、Lip1ペプチドがLipid Aに強く結合することが分かった(図1参照)。
【0085】
実施例3
実施例2で用いたLip1ペプチドと、市販のエンドトキシン検出用試薬(商品名「リムレスカラーKYシングルテストワコーKit」、和光純薬工業社製)を用いて、Lip1ペプチドのLipid A阻害活性を調べた。なお、上記エンドトキシン検出用試薬は、エンドトキシンを認識すると、LAL中に含まれるセリンプロテアーゼ前駆体が順次活性化され、最後に黄色発色合成基質が水解されて発色基が遊離して黄色の発色が生じるので、その発色の程度を測定することによりエンドトキシンを検出するものである。
【0086】
Control Standard Endotoxin(CSE)を1000EU/ml濃度になるようにMilli-Q水で溶解し、更にこれを5000倍希釈した(以下CSE希釈溶液という)。
【0087】
次に、A:コントロール(Milli-Q水)、B:Lip1ペプチド(2mg/ml)、C:Lip1ペプチド(0.2mg/ml)、D:対照(Lipid Aに結合しないペプチド:2mg/ml)を用意し、各100μlずつ取り、上記CSE希釈溶液100μlに加えて混ぜた後、約10分間インキュベートして反応させた(最終的には、A:0.1EU/ml CSE+コントロール、B:0.1EU/ml CSE+Lip1ペプチド(1mg/ml)、C:0.1EU/ml CSE+Lip1ペプチド(0.1mg/ml)、D:0.1EU/ml CSE+Lipid Aに結合しないペプチド(1mg/ml)を作製した)。これらを順番にリムスルカラー試薬に加え混ぜた後、速やかにプレートに移し変え、マイクロプレートリーダーで405nmにおける吸光度を5分毎に測定し、30分以降からは15分毎に測定した。その結果を図2に示す。
【0088】
図2から、Lip1ペプチド(B、C)は、濃度依存的に発色反応を抑制しており、LipdAの活性を阻害していることが分かった。この結果から、Lip1ペプチドはLPS毒性中和剤として利用可能であることが示唆された。
【0089】
実施例4
実施例2で用いたLip1ペプチドを、市販のジスルフィド(S-S)結合で固定化できるカラム担体(商品名「Thiopropyl Sepharose 6B」、アマシャム ファルマシア社製)に固定化してエンドトキシン(LPS)吸着体カラムを作製した。
【0090】
更に、実施例3で用いた市販のエンドトキシン検出用試薬(商品名「リムルスKYシングルテストワコーKit」、和光純薬工業社製)を用いて、作製したエンドトキシン吸着体カラムにLPSが吸着されていることを確認した。
【0091】
(1)カラム担体の洗浄
カラムゲル担体(商品名「Thiopropyl Sepharose 6B」、アマシャム ファルマシア社製)を0.5g量り取って50ml遠沈管に移し、5mlのMilli-Q水を加えた。ゲル担体がMilli-Q水を含み膨潤したら、ゲル担体をカラムに充填し、カラム上部から100mlのMilli-Q水を静かに流し込み、カラム担体を良く洗浄した。
【0092】
(2)TBS平衡化
20mlのTBS(10mMTris-HCl、0.5M NaCl、pH7.5)をカラム上部から静かに流し込み、ゲルを平衡化した。
【0093】
(3)サンプルの調製
Lip1ペプチドを3.5mg/mlとなるようにTBSに溶解した溶液(Lip1ペプチド溶液)と、Lipid Aに結合しないペプチド(コントロールペプチド)を3.5mg/mlとなるようにTBSに溶解した溶液(コントロールペプチド溶液)を調製した。
【0094】
(4)サンプルの固定化
次に、ゲル担体に、Lip1ペプチド又はコントロールペプチドを固定化する作業を行った。
【0095】
先程TBSで平衡化したゲル担体をカラムから、50ml遠沈管に移し変え、上澄みを綺麗に取り除き、上記(3)で調製したLip1ペプチド溶液1mlを加え、更に5mlまでTBSでメスアップした後、穏やかに撹拌しながら約7時間室温でインキュベートし、ゲル担体にLip1ペプチドの固定化を行った。
【0096】
次に、ゲル担体を50ml遠沈管からカラムに戻して充填し、カラム上部から50mlのTBSを静かに流し込み、ゲル担体を平衡化し、Lip1ペプチド固定化カラムを作製した。この時、最後のTBSはゲル面と同じ位置で留めて置いた。
【0097】
また、上記と同様の方法で、ゲル担体にコントロールペプチドの固定化を行い、コントロールペプチド固定化カラムを作製した。
【0098】
(5)Control Standard Endotoxin(CSE)溶液の調整
25mlのTBSに200μlのエンドトキシン検出用試薬のCSE溶液(1000EU/vial)を加えて混ぜ、CSE溶液(10EU/ml)を調製した。
【0099】
(6)エンドトキシン(LPS)吸着の確認及び測定
上記(4)で作製したLip1ペプチド固定化カラム、及びコントロールペプチド固定化カラムの下に1.5mlチューブを用意しておき、各カラムの上部からCSE溶液10mlを静かに流し込み、各カラムの通過液を500μlずつ採取した(各500μl×18本ずつ)。
【0100】
Lip1ペプチド固定化カラム、及びコントロールペプチド固定化カラムについて、リテンションボリュームが0.5ml、1.5ml、2.5ml、3.5ml、4.5ml、5.5mlの位置で採取した通過液を、順番にリムルスカラー試薬に加え混ぜた後、速やかにプレートに移し変え、マイクロプレートリーダー(商品名「ARVO.SX」:ワラックス社製)で405nmにおける吸光度を測定した。その結果を図3に示す。
【0101】
図3から、リテンションボリュームが1.5mlの位置を見ると、コントロールペプチド固定化カラムの通過液はリムルステストで反応しており、通過液中にエンドトキシン(LPS)が含まれていることが分かる。一方、Lip1ペプチド固定化カラムの通過液はリムルステストの反応が抑えられており、Lip1ペプチドがエンドトキシン(LPS)を吸着していることが確認できた。なお、リテンションボリュームが2.5ml以降のLip1固定化カラムとコントロールペプチド固定化カラムとの差が無くなっているのは、Lip1固定化カラムがLPSで飽和されたためであると考えられる。
【0102】
実施例5
ターゲット物質として、Lipid A, E.coli K12,D31m4<Primarily diphosporyl>(フナコシ社製)と、LPS, E.coli K12,D31m4(Re)(フナコシ社製)を用い、呈示されるランダムアミノ酸数が7個、12個のペプチドライブラリを用いて、実施例1と同様にしてファージディスプレイ法により、Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチドのスクリーニングを行った。
【0103】
(1)Lipid A及びLPS固定化
ターゲットとなるLipid Aを100μg/mlとなるようにMilli−Q水に溶解した溶液(以下、Lipid A溶液という)を調製し、この溶液を、商品名「96WELLポリソーププレート」(NUNC社製)に50μl×2wellずつ入れ、プレートをラップで覆い、4℃で一晩インキュベートして、Lipid Aの固定化を行った(以下、Lipid A固定化プレートという)。
【0104】
また、LPSを100μg/mlとなるようにMilli−Q水に溶解した溶液(以下、LPS溶液という)を調製し、この溶液を、商品名「96WELLメディソーププレート」(NUNC社製)に50μl×2ウエルずつ入れ、プレートをラップで覆い、4℃で一晩インキュベートして、LPSの固定化を行った(以下、LPS固定化プレートという)。
【0105】
(2)パニング
Lipid A固定化プレート及びLPS固定化プレートのウエルの溶液を捨て、水気をよく切った後、PBS(137mM NaCl、2.7mM KCl、10.1mM Ma2HPO4、1.8mM KH2PO4、pH7.4)−1%スキムミルク(以下ブロッキングバッファという)を各ウエルに200μlずつ加え、軽く撹拌しながら室温で2時間インキュベートした。
【0106】
その間に、180μlのブロッキングバッファに各20μl(7アミノ酸、12アミノ酸ライブラリ共、1012pfu以上/10μl)のファージ溶液を加えて溶解し、非特異的吸着低減処理を行い、ファージ(ペプチドライブラリ)溶液を調製した。
【0107】
各プレートの上澄みを捨て、水気をよく切り、PBS−Tween-20(0.1%)(以下、PBS-Tという)で3回洗浄した後、上記ファージ溶液を各ウェルに50μlずつ加えて軽く撹拌しながら室温で1時間インキュベートした。
【0108】
そして、上澄みを捨て、PBS-Tで5回洗浄後、LipdA固定化プレートの各ウエルに上記Lipid A溶液を50μlずつ加え、軽く撹拌しながら、1時間室温でインキュベートした。その後、この溶液を別のマイクロチューブに移し変え、ファージ(Lipid A)溶出液(1回目)とした。
【0109】
LPS固定化プレートについても同様に洗浄を行った後、各ウエルに上記LPS溶液を50μlずつ加え、軽く撹拌しながら、1時間室温でインキュベートした。その後、この溶液を別のマイクロチューブに移し変え、ファージ(LPS)溶出液(1回目)とした。
【0110】
(3)ファージ増幅・精製
上記(2)で得られたファージ(Lipid A)溶出液(1回目)を、三角フラスコ中25mlの大腸菌(F+)(LB培地でOD600=0.6になるまで培養したもの)に加えて感染させ、4時間半、37℃で激しく撹拌し、ファージを増幅させた。
【0111】
増幅後、上記培地を50ml遠沈管に移し変え、遠心(10,000rpm・10分・4℃)して上澄みを別の遠沈管に移し、50mlのPEG/NaCl溶液(20%PEG、2.5M NaCl)を加えて、4℃で一晩インキュベートした。その後、遠心(10,000rpm・15分・4℃)して上澄みを捨て、1mlのPBSを加え、沈殿(ファージ)を溶解した。この溶解液を1.5mlのエッペンチューブに移し、遠心(10,000rpm・5分・4℃)して余分な大腸菌を沈殿させて、上澄みを別のエッペンチューブに移し、200μlのPEG/NaClを加えて混ぜ、氷中で1時間インキュベートした後、遠心(10,000rpm・10分・4℃)して上澄みを捨て、200μlのPBSで沈殿(ファージ)を溶解した。更に、遠心(10,000rpm・2分・4℃)して、上澄みを0.5mlのエッペンチューブに移してファージ精製溶液とした。このファージ精製溶液を用いて、再びパニング・増幅・精製の操作を同様にして3回繰り返して行い、4回目はパニング工程においてファージを溶出するところまで行い、ファージ(Lipid A)溶出液(4回目)を得た。
【0112】
また、上記(2)で得られたファージ(LPS)溶出液(1回目)を用いて、上記と同様の増幅・精製操作を行い、ファージ(LPS)溶出液(4回目)を得た。なお、パニング工程におけるファージ溶液投入後の洗浄は、2回目のパニング工程では7回、3回目以降のパニング工程においては10回行った。
【0113】
(4)タイター測定(プラークの形成)
上記(3)で得られたファージ(Lipid A)溶出液(4回目)をPBSで希釈して102〜105倍希釈液を調製した。
【0114】
一方で、IPTGとX-Galを加えたLBプレート培地(プラスチックシャーレに作製)を37℃で温め、アガローストップをオートクレーブで溶解し、45℃で固まらないように温めておいた。
【0115】
LB培地でOD600=0.6になるまで培養した大腸菌(F+)200μlに、希釈したファージ溶液を10μl加え撹拌して150秒間インキュベートした後、45℃で保存しておいたアガローストップに加えて撹拌し、IPTGとX-Galを加えたLBプレート培地に流し込み、約5分間インキュベートした。アガローストップが固まり、余分な水気が飛んだら、フタをしてパラフィルムを巻き、37℃で一晩インキュベートした(ファージが存在すれば、青色のプラークが出現する)。
【0116】
また、上記(3)で得られたファージ(LPS)溶出液(4回目)を用いて、上記と同様の操作を行った。
【0117】
(5)プラークからファージの増幅
ファージ(Lipid A)溶出液(4回目)をまいたプレートから、プラーク数が100以下のプレートを選び、出現したプラーク12個を楊枝でつつき、ピッキングした。ピッキングした楊枝はLB培地でOD600=0.6になるまで培養した大腸菌(F+)5ml(試験管)に入れ、37℃で4時間半激しく振とう培養した。培養後は、上記(3)と同様の増幅・精製操作を行ってシングルファージの精製を行い、12種類のファージ(Lipid A)溶液を得た。
【0118】
同様にして、ファージ(LPS)溶出液(4回目)をまいたプレートから、12種類のファージ(LPS)溶液を得た。
【0119】
(6)ELISAによる得られたペプチドのLipid A及びLPSに対する結合性の確認
上記(1)と同様にしてターゲットとなるLipid Aをプレートに固定化した。なお、Lipid Aの固定化は、プレートの1列(12ウエル)にのみ行い、もう1列はコントロール用としてLipid Aの固定化を行わなかった。
【0120】
また、上記(1)と同様にしてターゲットとなるLPSを固定化したプレートを作製した(LPSの固定化はプレートの1列のみ行い、もう1列はコントロール用としてLPSの固定化を行わなかった)。
【0121】
一晩インキュベートしたプレートの上澄みを捨て、水気をよく切った後、各ウエルに200μlのブロッキングバッファを加え、軽く撹拌しながら室温で2時間インキュベートした。
【0122】
その間に、上記(5)で得られた12種類のファージ(Lipid A)溶液(1011pfu/μl)とブロッキングバッファを1:4(容量)の割合で混ぜ合わせてそれぞれ非特異的吸着低減処理を行った。また、12種類のファージ(LPS)溶液(1011pfu/μl)についても同様の処理を行った。
【0123】
各ウェルのブロッキングバッファを捨て、PBS-Tで3回洗浄した後、上記非特異的吸着低減処理済みの12種類のファージ(Lipid A)溶液をLipid A固定化ウェル及びコントロール用ウェルに50μlずつ加え、1時間軽く撹拌しながら室温でインキュベートした。
【0124】
また、上記非特異的吸着低減処理済みの12種類のファージ(LPS)溶液をLPS固定化ウェル及びコントロール用ウェルに50μlずつ加え、1時間軽く撹拌しながら室温でインキュベートした。
【0125】
そして、各ウェルの中の溶液を捨て、PBS-Tで5回洗浄した後、各ウェルに、発色用の抗体を含む溶液を50μlずつ加え、軽く撹拌しながら1時間インキュベートした。なお、発色用の抗体を含む溶液は、ブロッキングバッファ20mlに、商品名「anti M13 antibody HRP monoclonalconjugate」(Amersham Biosceiences社製)を4μl加えて調製した。
【0126】
ウェルの中の溶液を捨て、PBS-Tで6回洗浄した後、ABTS発色溶液(ABTS(和光純薬製)を0.22mg/mlとなるようにクエン酸バッファ(50mM クエン酸、pH4.0)に溶解して作製し、使用直前に、1.8μl/mlとなるように30%過酸化水素水(和光純薬製)を加えたもの)を50μlずつ、各ウェルに加えて発色させて、コントロールウエルの吸光度(405nm)(A)、ターゲット(Lipid A又はLPS)固定化ウエルの吸光度(405nm)(B)をプレートリーダー(商品名「ARVO.SX」:ワラック社製)で測定し、吸光度比(B/A)を求めた。
【0127】
そして、吸光度比(B/A)の値が比較的高い(Lipid A又はLPSに対する親和性が高い)ファージを12個ピックアップし、上記と同様にして再度ELISAを行い、Lipid A及びLPSに対する親和性を測定した。それらの結果を表2、3に示す。
【0128】
【表2】

【0129】
【表3】

【0130】
表2、3から、ファージ1、5、6、9、10、12の吸光度比(B/A)の値が大きく、Lipid A及びLPSに対する親和性の強いことが示された。
【0131】
(7)ペプチド配列確認
シークエンス用のCy5蛍光標識プライマーとして配列番号37に示すプライマーを用いて、商品名「Thrme Sequenase Labelled Primer Cycle Sequencing kit with 7-deaza-dGTP」(Amersham Biosciences社製)でシークエンス反応を行い、商品名「ALFexpressII」(Amersham Bio sciences社製)で配列決定を行った。
【0132】
その結果、ファージ1、5、6、9、10、12から配列番号10〜14に示す5種類のペプチドのアミノ酸配列を同定した(ファージ1:配列番号14、ファージ5:配列番号10、ファージ6:配列番号11、ファージ9、10:配列番号12、ファージ12:配列番号13)。そして、これらの配列から、配列番号3(配列番号10、11に示すアミノ酸配列の共通配列)、配列番号4(配列番号11〜13に示すアミノ酸配列の共通配列)、配列番号5(配列番号14)、配列番号6(配列番号15)に示す配列が示唆された。また、配列番号10に示されるペプチドをコードするDNAとして配列番号22、23に示されるDNA、配列番号11に示されるペプチドをコードするDNAとして配列番号24、25に示されるDNA、配列番号12に示されるペプチドをコードするDNAとして配列番号26、27に示されるDNA、配列番号13に示されるペプチドをコードするDNAとして配列番号28、29に示されるDNA、配列番号14(配列番号5)に示されるペプチドをコードするDNAとして配列番号30〜32に示されるDNAをそれぞれ決定した。
【0133】
実施例6
実施例5で得られた5種類のペプチドのうち、配列番号11に示すペプチド(配列番号3、4に示される共通配列を含む)のC末端側の2アミノ酸を削り、スペーサー(4アミノ酸:GGGS)と、チオール基を導入するためのシステインを付加したペプチド(以下Li4-1ペプチドという)を合成(合成はシグマジェノシスに依頼)し、Lipid A及びLPSとの結合力を商品名「BIACORE2000」(BIACORE社製)を用いて測定した。
【0134】
具体的には、Li4-1ペプチドを商品名「BIACOREセンサーチップCM5」(BIACORE社製)にチオールカップリングにて固定化した(1レーン目をコントロールとし、2レーン目にLi4-1ペプチドを固定化した)。
【0135】
そのセンサーチップに、濃度が(a)100μg/ml、(b)50μg/ml、(c)25μg/ml、(d)12.5μg/ml、(e)6.25μg/ml、(f)3.125μg/ml、(g)1.56μg/mlのLipid A溶液又はLPS溶液(緩衝用バッファHBS-EP(0.01M HEPES、0.15M NaCl、3mM EDTA(Tween-20なし)、pH7.0))をアナライトとして流して測定した。なお、LPSとしては、LPS E.coli K12 D31 m4、LPS E.coli O111:B4、LPS Salmonellaの3種類を流した。
【0136】
その結果、各Lipid A濃度における解離定数平均値(KD)は10-6〜10-8であり、各LPS濃度における解離定数平均値(KD)は10-6〜10-8であり、Li4-1ペプチドがLipid A及びLPSに強く結合することが分かった(図4〜7参照)。
【0137】
実施例7
Li4-1ペプチドをビーズ担体に固定化し、バッチ法にてLPS吸着能力の測定を行った。
【0138】
(1)ゲルの準備
バッチ法を行うため、S-S結合でリガンドを固定化する商品名「Sulfo Link Coupling Gel」(PIERCE社製)にLi4-1ペプチドを固定化させたものと、何も固定化しないもの(Control)を作製した。
【0139】
具体的には、室温に戻した商品名「SulfoLink Coupling Gel」2ml(1mlGel)を、予めCoupling Buffer(50mM Tris、5mM EDTA-Na、pH8.5)で洗浄しておいた商品名「エコノカラム」(BIO-RAD社製)に充填した後、ゲル容量の4倍量のCoupling Bufferでゲルを平衡化した。
【0140】
また、Li4-1ペプチドをCoupling Bufferで1mg/mlとなるように溶解したもの(以下、ペプチド溶液という)を調製した。このペプチド溶液1mlを平衡化したゲルに添加して室温で45分間インキュベートした。なお、このペプチド溶液はあとでペプチドの固定化量を測定するのに用いるため、適量保存しておいた。
【0141】
その後、カラム下部からカラム内の溶液を1mlチューブに回収した後、カラム上部からゲル容量の3倍量のCoupling Bufferを流し、カラム下部から溶液を1mlずつ1mlチューブに回収した。
【0142】
Coupling Bufferに50mMとなるようにL-Cystaine(SIGMA社製)を溶解したL-Cysteine溶液を調製し、カラム内にゲル容量と等量(1ml)のL-Cysteine溶液を添加して室温で45分間インキュベートした。なお、このL-Cysteine溶液も適量保存しておいた。
【0143】
カラム下部から溶液を回収した後、6倍量のWashing Buffer(1M NaCl)を流し、反応しなかったL-Cysteine溶液を洗い流し、洗浄した。
【0144】
3倍量のStorage Buffer(PBS、pH7.4)を添加し、カラムを洗浄した。ゲルをリムルス試験管(生化学工業社製)に移しかえ、2mlのStorage Bufferを加え、使用するまで4℃で保存した。
【0145】
(2)ペプチド固定化量の定量
Li4-1ペプチド固定化後は、ペプチド(タンパク質)中のSH基の定量が可能な商品名「Ellman’s Reagent」(PIERCE社製)にて、固定化量の測定を行った。
【0146】
具体的には、96ウエルプレートに、1ウエルにつき、250μlのReaction Buffer(0.1M Na2HPO4、pH8.0)と、5μlのEllman’s Reagent Solution(4mg Ellman’s Reagent/ml Reaction Buffer)を添加した。
【0147】
SH基の定量を行いたいサンプルをそれぞれのウエルに25μlずつ添加し、15分間室温で穏やかに撹拌しながらインキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(商品名「ARVO.SX」:ワラック社製)にて、吸光度405nmで測定した。
【0148】
その結果、固定化前と固定化後のカラムから回収したペプチド溶液のそれぞれの吸光度は約9.5倍の差があり、更に検量線を作成し、吸光度値から濃度を求めたところ、添加したほぼ全てのペプチド1mgが固定化されたことが確認できた。
【0149】
(3)LPS吸着能の測定
Li4-1ペプチド固定化ゲルとControlゲルを室温に戻した後、試験管内の上澄み(Storage Buffer)をできるだけ取除いた後、エンドトキシン(Et)溶液を0.1EU/mlとなるように加えて、随時ゲルとエンドトキシン(Et)溶液が混ざるようにしながら室温でインキュベートし、時間を追ってサンプルを回収した。
【0150】
回収方法は、よく混ざっているエンドトキシン(Et)溶液をゲルごと400μlずつ回収し、素早く0.5mlマイクロテストチューブに移しかえて遠心してゲルを沈殿させ、上澄み(200μl)を回収し、リムルス用試験管(生化学工業社製)に移しかえた。
【0151】
回収したサンプル中のエンドトキシン(Et)量の測定は、LAL(Limulus ameabocyte lysate)試薬の一つである商品名「エンドスペシー ES-50Mセット」(生化学工業社製)を用いて測定した。
【0152】
目安となるように、実際に加えたエンドトキシン(Et)溶液の希釈例(0.1EU/ml、0.01EU/ml、0.001EU/ml)を調製した。更に、(エンドトキシン溶解Bufferの)PBSと、エンドトキシン・β−グルカンフリー溶液(エンドスペシー ES-50Mセット中)も用い、それらのエンドトキシン量についても同時に測定した。
【0153】
具体的には、エンドトキシン・β−グルカンフリーのポリスチレン製96ウエルマイクロプレート(商品名「トキシペットプレート LP」:生化学工業社製)に、回収したサンプルを50μlずつ添加した。それらにLAL試薬を50μlずつ添加してよく混ぜた。更に、穏やかに撹拌しながら37℃で30分間インキュベートした。その後、マイクロプレートリーダー(商品名「ARVO.SX」:ワラック社製)にて、吸光度405nmで測定した。更に検量線を作成し、吸光度値からエンドトキシン濃度を求めた。その結果を図8に示す。
【0154】
図8から、Controlはバラつきが見られるものの、エンドトキシン溶液濃度0.1EU/ml付近(そのままに近い状態)であるのに対し、Li4-1ペプチドを固定化したものは、0.01EU/ml近くまでエンドトキシン濃度が低下した。よって、この結果から、Li4-1ペプチドがLPSを認識して吸着することが示唆された。
【0155】
実施例8
ターゲット物質として、Lipid A, E.coli K12,D31m4<Primarily diphosporyl>(フナコシ社製)と、LPS, E.coli K12,D31m4(Re)(フナコシ社製)を用い、呈示されるランダムアミノ酸数が14個のペプチドライブラリ(Smith,G.P.,Science,288,1315-1317(1985)、J.K.Scott and G.P.Smith,Science,249,386-390(1990)等の記載に基づいて作製)を用いて、実施例5と同様にしてファージディスプレイ法により、Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチドのスクリーニングを行った。
【0156】
(1)Lipid A及びLPS固定化
ターゲットとなるLipid Aを100μg/mlとなるようにMilli−Q水に溶解したLipid A溶液を調製し、この溶液を、商品名「96WELLポリソーププレート」(NUNC社製)に50μl×2wellずつ入れ、プレートをラップで覆い、4℃で一晩インキュベートしてLipid Aの固定化を行い、Lipid A固定化プレートを作製した。
【0157】
また、LPSを100μg/mlとなるようにMilli−Q水に溶解したLPS溶液を調製し、この溶液を、商品名「96WELLメディソーププレート」(NUNC社製)に50μl×2ウエルずつ入れ、プレートをラップで覆い、4℃で一晩インキュベートしてLPSの固定化を行い、LPS固定化プレートを作製した。
【0158】
(2)パニング
Lipid A固定化プレート及びLPS固定化プレートのウエルの溶液を捨て、水気をよく切った後、ブロッキングバッファを各ウエルに200μlずつ加え、軽く撹拌しながら室温で2時間インキュベートした。
【0159】
その間に、180μlのブロッキングバッファに各20μl(1012pfu以上/10μl)のファージ溶液を加えて溶解し、非特異的吸着低減処理を行い、ファージ(ペプチドライブラリ)溶液を調製した。
【0160】
各プレートの上澄みを捨て、水気をよく切り、PBS-Tで3回洗浄した後、上記ファージ溶液を各ウェルに50μlずつ加えて軽く撹拌しながら室温で1時間インキュベートした。
【0161】
そして、上澄みを捨て、PBS-Tで5回洗浄後、LipdA固定化プレートの各ウエルに上記Lipid A溶液を50μlずつ加え、軽く撹拌しながら、1時間室温でインキュベートした。その後、この溶液を別のマイクロチューブに移し変え、ファージ(Lipid A)溶出液(1回目)とした。
【0162】
LPS固定化プレートについても同様に洗浄を行った後、各ウエルに上記LPS溶液を50μlずつ加え、軽く撹拌しながら、1時間室温でインキュベートした。その後、この溶液を別のマイクロチューブに移し変え、ファージ(LPS)溶出液(1回目)とした。
【0163】
(3)ファージ増幅・精製
上記(2)で得られたファージ(Lipid A)溶出液(1回目)を、三角フラスコ中25mlの大腸菌(F+)(LB培地でOD600=0.6になるまで培養したもの)に加えて感染させ、4時間半、37℃で激しく撹拌し、ファージを増幅させた。
【0164】
増幅後、上記培地を50ml遠沈管に移し変え、遠心(10,000rpm・10分・4℃)して上澄みを別の遠沈管に移し、50mlのPEG/NaCl溶液(20%PEG、2.5M NaCl)を加えて、4℃で一晩インキュベートした。その後、遠心(10,000rpm・15分・4℃)して上澄みを捨て、1mlのPBSを加え、沈殿(ファージ)を溶解した。この溶解液を1.5mlのエッペンチューブに移し、遠心(10,000rpm・5分・4℃)して余分な大腸菌を沈殿させて、上澄みを別のエッペンチューブに移し、200μlのPEG/NaClを加えて混ぜ、氷中で1時間インキュベートした後、遠心(10,000rpm・10分・4℃)して上澄みを捨て、200μlのPBSで沈殿(ファージ)を溶解した。更に、遠心(10,000rpm・2分・4℃)して、上澄みを0.5mlのエッペンチューブに移してファージ精製溶液とした。このファージ精製溶液を用いて、再びパニング・増幅・精製の操作を同様にして3回繰り返して行い、4回目はパニング工程においてファージを溶出するところまで行い、ファージ(Lipid A)溶出液(4回目)を得た。
【0165】
また、上記(2)で得られたファージ(LPS)溶出液(1回目)を用いて、上記と同様の増幅・精製操作を行い、ファージ(LPS)溶出液(4回目)を得た。なお、パニング工程におけるファージ溶液投入後の洗浄は、2回目のパニング工程では7回、3回目以降のパニング工程においては10回行った。
【0166】
(4)タイター測定(プラークの形成)
上記(3)で得られたファージ(Lipid A)溶出液(4回目)をPBSで希釈して102〜105倍希釈液を調製した。
【0167】
一方で、IPTGとX-Galを加えたLBプレート培地(プラスチックシャーレに作製)を37℃で温め、アガローストップをオートクレーブで溶解し、45℃で固まらないように温めておいた。
【0168】
LB培地でOD600=0.6になるまで培養した大腸菌(F+)200μlに、希釈したファージ溶液を10μl加え撹拌して150秒間インキュベートした後、45℃で保存しておいたアガローストップに加えて撹拌し、IPTGとX-Galを加えたLBプレート培地に流し込み、約5分間インキュベートした。アガローストップが固まり、余分な水気が飛んだら、フタをしてパラフィルムを巻き、37℃で一晩インキュベートした(ファージが存在すれば、青色のプラークが出現する)。
【0169】
また、上記(3)で得られたファージ(LPS)溶出液(4回目)を用いて、上記と同様の操作を行った。
【0170】
(5)プラークからファージの増幅
ファージ(Lipid A)溶出液(4回目)をまいたプレートから、プラーク数が100以下のプレートを選び、出現したプラーク12個を楊枝でつつき、ピッキングした。ピッキングした楊枝はLB培地でOD600=0.6になるまで培養した大腸菌(F+)5ml(試験管)に入れ、37℃で4時間半激しく振とう培養した。培養後は、上記(3)と同様の増幅・精製操作を行ってシングルファージの精製を行い、12種類のファージ(Lipid A)溶液を得た。
【0171】
同様にして、ファージ(LPS)溶出液(4回目)をまいたプレートから、12種類のファージ(LPS)溶液を得た。
【0172】
(6)ELISAによる得られたペプチドのLipid A及びLPSに対する結合性の確認
上記(1)と同様にしてターゲットとなるLipid Aをプレートに固定化した。なお、Lipid Aの固定化は、プレートの1列(12ウエル)にのみ行い、もう1列はコントロール用としてLipid Aの固定化を行わなかった。
【0173】
また、上記(1)と同様にしてターゲットとなるLPSを固定化したプレートを作製した(LPSの固定化はプレートの1列のみ行い、もう1列はコントロール用としてLPSの固定化を行わなかった)。
【0174】
一晩インキュベートしたプレートの上澄みを捨て、水気をよく切った後、各ウエルに200μlのブロッキングバッファを加え、軽く撹拌しながら室温で2時間インキュベートした。
【0175】
その間に、上記(5)で得られた12種類のファージ(Lipid A)溶液(1011pfu/μl)とブロッキングバッファを1:4(容量)の割合で混ぜ合わせてそれぞれ非特異的吸着低減処理を行った。また、12種類のファージ(LPS)溶液(1011pfu/μl)についても同様の処理を行った。
【0176】
各ウェルのブロッキングバッファを捨て、PBS-Tで3回洗浄した後、上記非特異的吸着低減処理済みの12種類のファージ(Lipid A)溶液をLipid A固定化ウェル及びコントロール用ウェルに50μlずつ加え、1時間軽く撹拌しながら室温でインキュベートした。
【0177】
また、上記非特異的吸着低減処理済みの12種類のファージ(LPS)溶液をLPS固定化ウェル及びコントロール用ウェルに50μlずつ加え、1時間軽く撹拌しながら室温でインキュベートした。
【0178】
そして、各ウェルの中の溶液を捨て、PBS-Tで5回洗浄した後、各ウェルに、発色用の抗体を含む溶液を50μlずつ加え、軽く撹拌しながら1時間インキュベートした。なお、発色用の抗体を含む溶液は、ブロッキングバッファ20mlに、商品名「anti M13 antibody HRP monoclonalconjugate」(Amersham Biosceiences社製)を4μl加えて調製した。
【0179】
ウェルの中の溶液を捨て、PBS-Tで6回洗浄した後、ABTS発色溶液(ABTS(和光純薬製)を0.22mg/mlとなるようにクエン酸バッファ(50mM クエン酸、pH4.0)に溶解して作製し、使用直前に、1.8μl/mlとなるように30%過酸化水素水(和光純薬製)を加えたもの)を50μlずつ、各ウェルに加えて発色させて、コントロールウエルの吸光度(405nm)(A)、ターゲット(Lipid A又はLPS)固定化ウエルの吸光度(405nm)(B)をプレートリーダー(商品名「ARVO.SX」:ワラック社製)で測定し、吸光度比(B/A)を求めたところ、吸光度比(B/A)の値が比較的高い(Lipid A又はLPSに対する親和性が高い)ファージが1つ得られた。その結果を表4に示す。
【0180】
【表4】

【0181】
(7)ペプチド配列確認
シークエンス用のCy5蛍光標識プライマーとして配列番号37に示すプライマーを用いて、商品名「Thrme Sequenase Labelled Primer Cycle Sequencing kit with 7-deaza-dGTP」(Amersham Biosciences社製)でシークエンス反応を行い、商品名「ALFexpressII」(Amersham Bio sciences社製)で配列決定を行った。
【0182】
その結果、上記(6)で得られたファージから配列番号15(配列番号6)に示すペプチドのアミノ酸配列を同定した。そして、このアミノ酸配列をコードするDNAとして、配列番号33〜36に示されるDNAを決定した。
【0183】
「配列表フリーテキスト」
配列番号1:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドの共通配列。
【0184】
配列番号2:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド。
【0185】
配列番号3:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドの共通配列。
【0186】
配列番号4:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドの共通配列。
【0187】
配列番号5:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド。
【0188】
配列番号6:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド。
【0189】
配列番号7:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド。
【0190】
配列番号8:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド。
【0191】
配列番号9:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド。
【0192】
配列番号10:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド。
【0193】
配列番号11:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド。
【0194】
配列番号12:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド。
【0195】
配列番号13:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド。
【0196】
配列番号14:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド。
【0197】
配列番号15:ファージディスプレイ法によって得られたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド。
【0198】
配列番号16:配列番号7に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0199】
配列番号17:配列番号7に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0200】
配列番号18:配列番号8に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0201】
配列番号19:配列番号8に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0202】
配列番号20:配列番号9に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0203】
配列番号21:配列番号9に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0204】
配列番号22:配列番号10に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0205】
配列番号23:配列番号10に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0206】
配列番号24:配列番号11に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0207】
配列番号25:配列番号11に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0208】
配列番号26:配列番号12に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0209】
配列番号27:配列番号12に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0210】
配列番号28:配列番号13に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0211】
配列番号29:配列番号13に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0212】
配列番号30:配列番号5、14に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0213】
配列番号31:配列番号5、14に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0214】
配列番号32:配列番号5、14に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0215】
配列番号33:配列番号6、15に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0216】
配列番号34:配列番号6、15に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0217】
配列番号35:配列番号6、15に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0218】
配列番号36:配列番号6、15に示されるLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドをコードするDNA。
【0219】
配列番号37:ファージ上に提示されたLipid A及びLPSに結合性を有するペプチドのアミノ酸配列を決定するために用いたプライマー。
【産業上の利用可能性】
【0220】
以上説明したように、本発明のペプチド又はタンパク質は、LPSの活性中心であるLipid Aに強い結合性を有するので、LPSの除去に用いる吸着体の素材、LPS検出試薬、LPS毒性中和剤等として利用することができる。また、これらのペプチド又はタンパク質をコードするDNAは、例えば、細菌、酵母等を用いた合成系にてベクターに組み込んで形質転換することにより、生合成による大量合成等の用途に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1〜6のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有し、Lipid A及びLPSに結合性を有することを特徴とするペプチド又はタンパク質。
【請求項2】
前記ペプチド又はタンパク質は、配列番号7〜15のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有する請求項1記載のペプチド又はタンパク質。
【請求項3】
請求項1又は2記載のLipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質をコードするDNA。
【請求項4】
前記DNAは、配列番号16〜36のいずれかに示される塩基配列を有するものである請求項3記載のDNA。
【請求項5】
配列番号1〜6のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有し、Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質を担体に固定化したことを特徴とするLPS吸着体。
【請求項6】
前記ペプチド又はタンパク質は、配列番号7〜15のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有する請求項5記載のLPS吸着体。
【請求項7】
配列番号1〜6のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有し、Lipid A及びLPSに結合性を有するペプチド又はタンパク質を有効成分として含有することを特徴とするLPS毒性中和剤。
【請求項8】
前記ペプチド又はタンパク質は、配列番号7〜15のいずれかに示されるアミノ酸配列、又はそれらのアミノ酸配列においてLipid Aに対する結合性が損なわれない範囲で修飾、アミノ酸残基の置換、挿入及び/又は欠失したアミノ酸配列から選ばれたアミノ酸配列を有する請求項7記載のLPS毒性中和剤。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【国際公開番号】WO2005/047313
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515467(P2005−515467)
【国際出願番号】PCT/JP2004/016884
【国際出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(502305238)株式会社ペプタイドドア (8)
【Fターム(参考)】