説明

MC1RのmRNA量によるメラニン産生抑制剤の評価法

【課題】
メラニン産生抑制効果、美白効果を有する有効成分のスクリーニング方法の提供。
【解決手段】
本発明は、メラニン産生抑制成分をスクリーニングするにあたって、メラニン産生細胞に被験物質に直接接触させて、該細胞におけるMC1R遺伝子の発現量を解析することにより、産生されるメラニン量を精度良くスクリーニング出来る評価方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン産生抑制剤の評価法に関する分野に関する。より詳細には、本発明は、α-MSHの受容体であるMC1RのmRNAの発現量を抑制させて、メラニン産生を抑制させるメラニン産生抑制剤の評価法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、メラニン産生抑制剤の評価法としては、メラニン産生の鍵酵素であるチロシナーゼの酵素活性阻害を測定する方法(特許文献1)や、メラニン産生細胞を培養し、産生されたメラニン量を測定する方法(特許文献2)、および皮膚に紫外線を照射した後、黒化した皮膚に塗布して皮膚色を測定する方法などによりメラニン産生抑制剤の評価が行なわれてきた。また、その他のメラニン産生抑制剤の評価法としてピンクアイ・ダイリュート遺伝子関連物質を指標とする方法(特許文献3)が開示されている。
【0003】
しかしながら、チロシナーゼの酵素活性阻害を測定する方法では、現在までに多数の植物エキス等の酵素阻害物質が特許公開されているが、いずれも充分な効果を有するものがない。これは直接メラノサイトに作用する薬剤の場合は、ある程度有効な評価法となるが、ケラチノサイトからの情報伝達物質を遮断する物質の評価においては有効な方法とはならない。また、培養細胞を用いた評価法においては、培養条件等により産生されるメラニン量がばらつくなど再現性の面で問題があった。さらに、皮膚に紫外線を照射する方法では、均一に紫外線を照射することが困難なことや、人による皮膚の黒化具合の差が大きく、評価方法としては信頼性が低かった。そして、ピンクアイ・ダイリュート遺伝子関連物質を指標とする方法は、メラノサイト鑑別法に関するものであり、優れたメラニン産生抑制効果、美白効果を有する有効成分のスクリーニング方法としては適さない。
【特許文献1】特開平3−109319号公報
【特許文献2】特開2005−15472号公報
【特許文献3】特開平11−103864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来技術の課題などに鑑み、これを解決しようとするものであり、信頼性が高く優れたメラニン産生抑制効果、美白効果を有する有効成分のスクリーニング方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記目的を達成するため鋭意研究した結果、メラニン産生抑制成分をスクリーニングするにあたって、メラニン産生細胞に被験物質に直接接触させて、該細胞におけるMC1R 遺伝子の発現量を解析することにより、産生されるメラニン量を精度良くスクリーニング出来る評価方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
メラノサイト上にはメラニン産生に関わる受容体が発現しており、エンドセリン-3のレセプターであるエンドセリン受容体B(EDNRB)、幹細胞増殖因子(SCF)のレセプターであるKIT、メラノサイト刺激ホルモン(α-MSH)のレセプターであるメラノコルチン1受容体(MC1R)が主要なものである。このうちでもメラニン産生に大きく関わるものが、α-MSH/MC1Rである。
【0007】
メラニンはアミノ酸のチロシンがチロシナーゼ、TRP-1(チロシナーゼ関連タンパク質-1)、
TRP-2(ドーパクロムトートメラーゼ)等、チロシナーゼ関連酵素の作用を受けて合成される。メラニン合成には、上記3酵素が重要な働きをするが、上記受容体に増殖因子が作用するとMITFがリン酸化され、チロシナーゼ関連酵素の遺伝子の転写が活性化され、メラニン産生が亢進される
【0008】
そこで我々はメラニン産生細胞においてMC1R の遺伝子発現をRT-PCR法を用いて検討したところ、メラニン産生抑制剤を添加して培養した細胞のMC1RのmRNA発現は添加していない細胞と比較して明らかに減少していることを発見するに至った。すなわち、MC1R
の活性低下を防ぐことは、メラニン産生の抑制に結びつくことを発見するに至った。そこで我々は評価法として確立するために詳細な検討を行った。以下にその検討結果について示す。
【0009】
本発明は、メラニン産生細胞中のMC1R蛋白質をコードするmRNA量を測定することを特徴とするメラニン産生抑制剤の評価方法に関するものであり、メラニン産生細胞中のMC1R蛋白質をコードするmRNAを含むRNA画分を得る工程、MC1R蛋白質をコードするmRNAを鋳型にしたcDNAを作成する工程、そのcDNAをMC1R蛋白質をコードするmRNAの一部と同一または相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて増幅する工程、および増幅されたcDNAの量を測定する工程からなることを特徴とするメラニン産生抑制剤の評価方法を提供する。
【0010】
本発明はまた、MC1R蛋白質をコードするmRNAの一部と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであって、(センス鎖)塩基配列(I)5'-GCCTGGAGGTGTCCATCTCTGACG-3' またはこの配列に対して4個以下の塩基が、除去、付加及び/または置換期より修飾されている塩基配列、あるいは(アンチセンス鎖)塩基配列(II)5’-CAGCATAGCCAGGAAGAAGACCACG-3’ またはこの配列に対して4個以下の塩基が、除去、付加及び/または置換期より修飾されている塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを提供する。好ましくは、上記オリゴヌクレオチドは、(センス鎖)塩基配列(I’)5'- GCCTGGAGGTGTCCATCTCTGACG-3' 、あるいは(アンチセンス鎖)塩基配列(II’)5’- CAGCATAGCCAGGAAGAAGACCACG-3’を有する。
【0011】
本発明はまた、前記の塩基配列(I)または(I')を有するオリゴヌクレオチドと、塩基配列(II)または(II')を有するオリゴヌクレオチドとを一対として含むPCR増幅用プライマーを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、産生されるメラニン量を精度良くスクリーニング出来きる評価方法の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の構成について詳説する。本発明で記載するところのメラニン産生細胞とは、ヒト由来の細胞を指し、正常メラノサイト、ガン組織由来の株細胞が使用される。
【0014】
本発明において用いられるRNAは、メラニン産生細胞を培養して調製した試料より抽出して得られる。本発明に用いられるRNAの調製方法としては、フェノール法やチオシアン酸グアニジン法など通常RNAの調製に用いられている方法や、市販の抽出キットによる方法が挙げられる。RNA中のMC1R-mRNAの検出法としては、逆転写酵素によってcDNA断片を合成し、MC1R蛋白質をコードするmRNAの一部と同一のまたはそれに対して相補的な配列を含む2種のオリゴヌクレオチドをプライマーとし用いるポリメラーゼ連鎖反応(以下PCR)により目的のcDNA断片を増幅してその産物量を定量する方法が挙げられる。
【0015】
本発明に用いられるMC1R蛋白質をコードするmRNAを含む画分を調製する方法としては、市販の正常ヒトメラノサイトや、株化されたヒトメラノーマを培養して得た試料を、グアニジンイソシアネート溶液で抽出後、クロロホルム/フェノールで粗RNA画分を抽出し、必要に応じて担体などを用いてさらにmRNAに精製する方法が挙げられる。
【0016】
本発明に用いられるcDNAの合成方法としては、正常ヒトメラノサイトまたは株化されたヒトメラノーマを培養し、これより抽出して得たRNAを鋳型にして逆転写酵素を用いてcDNAを合成する方法が挙げられる。逆転写酵素は、例えばRNA腫瘍ウイルス由来の酵素が挙げられる。プライマーとしては、市販のオリゴdTプライマーを用いて合成する方法が挙げられる。
【0017】
本発明に用いられるMC1RのcDNAフラグメントのPCRによる増幅の方法としては、MC1R蛋白質の塩基配列を基に合成したオリゴヌクレオチドをプライマーとして、DNAポリメラーゼを用いて行うことができる。プライマーとして、例えば、上流プライマーとして増幅しようとする配列の5′末端のおよそ10〜40塩基、好ましくはおよそ20塩基程度のセンスプライマー、下流プライマーとして増幅しようとする配列の3′末端の前記の塩基数のアンチセンスプライマーを用いればよい。
【0018】
プライマーの塩基配列は、MC1R蛋白質のアミノ酸配列をコードする塩基配列中の対応する領域の塩基配列に対して完全に相補的であることが望ましいが、必ずしもその必要はなく、例えばプライマーの塩基数20個当り4個以下、例えば3個以下、好ましくは2個以下、例えば2個又は1個の塩基が、除去、付加、若しくは他の塩基による置換により修飾されていてもよい。
【0019】
PCR反応の具体例としては、2本鎖DNAの1本鎖DNAへの熱変性、増幅を目的とする部位の両端の配列に相当する2種類のオリゴヌクレオチドと前記熱変性DNAとのアニーリング、前記オリゴヌクレオチドをプライマーとしたDNAポリメラーゼ反応、からなる増幅サイクルを繰り返すことにより、MC1RのcDNAフラグメントを指数関数的に増幅する方法が挙げられる。本発明に用いられるDNAポリメラーゼとしては熱安定性の高いDNAポリメラーゼが望ましく、例えば、Thermus
aquaticus由来の耐熱性DNAポリメラーゼの遺伝子組換え体など、市販の酵素が利用できる。
【0020】
また、本発明におけるメラニン産生細胞中のMC1Rの発現量の定量方法としては、上述のPCR法によって迅速に測定することができる。すなわちRNAを鋳型として逆転写酵素を用いてcDNAを合成し、引き続きDNAポリメラーゼを用いたPCR反応を行って増幅産物を定量する方法が挙げられる。PCR法などの配列増幅法により、最初に存在したmRNAの量を定量する方法はすでに公知であり、一般によく実施されている。
【実施例】
【0021】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、この実施例等により本発明の技術的範囲が限定的に解釈されるべきものではない。
【0022】
〔細胞培養〕
50cm2シャーレでヒトメラノーマ細胞(HM-3KO)を培養する。細胞はシャーレ当たり5×105個を植える。培養培地は10%FBSを添加したE-MEM培地8mlをシャーレに添加し培養する。植え付け翌日に、被験物質を添加する。2日ごとに培地および被験物質を交換し、細胞がコンフルーエントになるまで培養する。細胞がコンフルーエントになったら、0.25%トリプシン-0.02%EDTA溶液で細胞を剥がして、遠心分離により1.5mlエッペンチューブに細胞を集める。
【0023】
〔RNA抽出〕
細胞からのRNA抽出は、Ambion社のRNAqueous キットにより行なった。
1.集めた細胞に350ulのLysis/Binding solutionを添加し、ヒ゜ヘ゜ッティンク゛により細胞をよく
分散溶解させる。
2.64%Ethanolを350ul入れてよくまぜる。
3.RNAqueous FilterをCollection Tubeにセットし、上記で混ぜたサンプル700ulを入れ、15,000rpmで1分間遠心分離を行なう。
4.Collection Tubeに落ちた液を捨て、RNAqueous FilterにWash solution#1を700ul
入れ、15,000rpmで1分間遠心分離を行ない、洗浄する。
5.Collection Tubeに落ちた液は捨て、RNAqueous FilterにWash solution#2/3を500ul
入れ、15,000rpmで1分間遠心分離を行ない、洗浄する。2回繰り返す。
6.新しいCollection TubeにRNAqueous Filterをセットし、Elution solution 100ulを
添加し、15,000rpmで1分間遠心分離を行ない、RNA抽出液とする。
【0024】
〔DNase処理〕
Ambion社のDNA-free試薬を用いて行なった。
1.調製したRNA抽出液100ulに10×緩衝液(100mM-Tris-HCl(PH7.5)、25mM-MgCl2
5mM-CaCl2)10ulと、DNase(2unit/μl)2ulを加えて、37℃で30分保温し、DNA
を分解させる。
2.DNase Inactivation Reagent 20ulを加えて撹拌し、遠心分離を行い、上澄みをサンプルとする。
【0025】
〔cDNAの合成〕
抽出したRNA溶液5μl(RNA濃度が1μgになるように調製)にOligo(dT)15プライマー 2.5 μl を入れ、65℃で10分加熱後、氷上で5分間急冷する。
H2O 20.5μl、5×First Strand buffer(250mM Tris-HCl(PH8.3 室温.)、375mM KCl、15mM MgCl2)10.0μl、0.1M DTT 5.0μl、2.5mM dTTP 5.0μl、Ribonuclease inhibitor
1.0μl、M-MLV Reverse Transcriptase (200U/μl) 1.0μlを添加し、撹拌後、37℃で1時間放置する。その後 95℃で5分間加熱し、cDNAを合成する。
【0026】
〔RT-PCR〕
Takara Z-Taq試薬を用いRT-PCRを行なった。H2O
38.5μl、10×Z-Taq buffer 5μl、2.5mM
dNTP mixture 4μl、センスプライマー5’- GCCTGGAGGTGTCCATCTCTGACG -3’ 0.5μl、アンチセンスプライマー5’-CAGCATAGCCAGGAAGAAGACCACG-3’0.5μl、Z-Taq0.5μl、および段落番号0025で調製したcDNA 1μlを加え、全量を 50μlとする。
PCRは、98℃で 1秒、68℃ 10秒のサイクルを40回繰り返して行なった。増幅したDNAフラグメントをハイブリダイゼーションプローブの蛍光強度で評価した。
【0027】
〔評価方法〕
遺伝子発現増加率は下記計算式(1)によって求め、結果を表1に示した。
【0028】

【0029】
【表1】

【0030】
表1の結果より被験物質1、2、3に効果があり、被験物質4には効果がないと評価した。
【0031】
以上の結果から、本発明によりメラニン産生関連酵素の転写因子であるMC1RをコードするmRNAを測定することによりメラニン産生細胞中のメラニン産生量を感度良く、正確に判定でき、メラニン産生抑制効果を有する素材を開発できることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明のMC1R をコードするmRNAを測定するメラニン産生抑制の評価方法は、産生されるメラニン量を精度良くスクリーニング出来きるため、メラニン産生抑制効果をによる美白剤の評価方法として広く期待ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養されたメラニン産生細胞のMC1RのmRNA量を測定することを特徴とするメラニン産生抑制剤の評価方法。
【請求項2】
メラニン産生細胞中のMC1R蛋白質をコードするmRNAを含むRNA画分を得る工程、MC1R蛋白質をコードするmRNAを鋳型にしたcDNAを作成する工程、そのcDNAを、MC1R蛋白質をコードするmRNAの一部と同一なまたはそれに対して相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて増幅する工程、および増幅産物の量を測定する工程を含むことを特徴とする美白剤評価方法。
【請求項3】
MC1R蛋白質をコードするmRNAの一部と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであって、(センス鎖)塩基配列5'-GCCTGGAGGTGTCCATCTCTGACG-3'またはこの配列に対して4個以下の塩基が、除去、付加及び/または置換期より修飾されている塩基配列、あるいは(アンチセンス鎖)塩基配列5’-CAGCATAGCCAGGAAGAAGACCACG-3’またはこの配列に対して4個以下の塩基が、除去、付加及び/または置換期より修飾されている塩基配列を有するオリゴヌクレオチド。
【請求項4】
MC1R蛋白質をコードするmRNAの一部と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであって、塩基配列(センス鎖)5'-GCCTGGAGGTGTCCATCTCTGACG-3'、あるいは(アンチセンス鎖)塩基配列5’-CAGCATAGCCAGGAAGAAGACCACG-3’を有するオリゴヌクレオチド。
【請求項5】
請求項3または4に記載の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを一対として含むPCR増幅用プライマー。

【公開番号】特開2007−209208(P2007−209208A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29635(P2006−29635)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(591230619)株式会社ナリス化粧品 (200)
【Fターム(参考)】