説明

MEMS測定装置

【課題】振動させたMEMSの多数の箇所に同時にレーザ光を照射して、MEMSの多数の測定点における所定時点の振動状態を同様に測定でき、確実にMEMS各部の振動の特徴を把握できるMEMS測定装置を提供する。
【解決手段】それぞれ周波数の異なる多数のレーザ光を、振動しているMEMS80の多数箇所に対し同時に照射し、MEMS80の各照射位置からの反射光を干渉光とした状態で光検出部50で検出し、得られた検出信号より取出せる情報から、MEMS80の各照射位置での振動状態を求められることから、MEMSにおける複数箇所の同じ時点での振動状態を検出でき、MEMS80の所定時点における各部の振動変位を測定して、そのMEMS80の構造に基づいてあらわれる振動の特徴を確実に把握できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の振動状態を測定するMEMS測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造プロセスを用いて、電子回路と共に著しく小型化された機械要素部分を基板上に設けたデバイスであるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)は、加速度センサや圧力センサ等への応用にとどまらず、さらなる多方面での利用を目指して研究開発が進められている。
【0003】
こうしたMEMSにおいては、成膜、リソグラフィ、エッチングを繰り返すことによって、カンチレバー、ダイヤフラムなどの複雑な三次元構造が形成されるため、電子回路のみの半導体デバイスと比べて、製造に際しての歩留りが低いという問題がある。そのため、製造工程の早期において正確に不良品を判別し、排除できなければ、多数の不良品がダイシング後の実装工程まで進むこととなり、コストの増大を招く結果となる。このように、的確な性能評価の実現が、製造コスト低減の鍵となっている。
【0004】
しかしながら、MEMSは上記のように複雑な三次元構造を有しているため、一般的なウエハの外観検査装置による検査だけでは、真に良品であるかどうかを正確に判定することは困難であった。
【0005】
そのため、MEMSのカンチレバー、ダイヤフラムなどの可動部分が適切に形成されているか否かを評価するため、可動部分の振動状態を測定する手法が提案されている。例えば、レーザドップラ振動計を用いて光学的手段により測定する検査技術として、特開2009−68841号公報(特許文献1)、また、プローバーを用いた電気的手段による検査技術として、特開2009−139172号公報(特許文献2)が開示されている。
また、レーザドップラ振動計の例としては、特開平10−221159号公報(特許文献3)や、特開平2−132395号公報(特許文献4)に開示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−68841号公報
【特許文献2】特開2009−139172号公報
【特許文献3】特開平10−221159号公報
【特許文献4】特開平2−132395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、レーザドップラ振動計による検査では、測定対象物の測定対象位置にレーザ光を照射し、その反射光のドップラシフトから、照射部位の振動状態を測定していた。また、一点ではなく、所定の範囲における振動を測定する場合には、走査のため照射機構を動作させ、順次、各位置にレーザ光を照射して測定する必要があった。しかしながら、一度に測定できるのは一点であるだけでなく、照射機構を機械的に動作させる時間も必要であるため、走査の起点位置から終点位置に至るまでには相当の時間が経過することとなり、同一時点における各位置の振動状態を測定することはできないものであった。また、特定箇所における測定頻度は、走査周期による制約を受けるため、高頻度測定による正確な測定を行うことも困難であった。
【0008】
このように、レーザ光の走査による多点測定は、測定の同時性、正確性の問題を有しているため、例えば前記特許文献3に開示されているように、レーザ光走査とは異なる構成による測定も提案されている。
【0009】
また、前記特許文献4には、レーザドップラ速度計による多次元の同時測定のため、レーザ光を2つのビームに分割した後に、超音波周波数シフタにより周波数をシフトさせる技術が開示されている。しかし、多数の周波数シフトされたビームを、この手法を用いて生成する場合には、比較的煩雑な構成を要することとなる。
【0010】
本発明は、前記課題を解消するためになされたもので、振動させたMEMSの多数の箇所に同時にレーザ光を照射して、MEMSの多数の測定点における所定時点の振動状態を同様に測定でき、確実にMEMS各部の振動の特徴を把握できるMEMS測定装置を提供することを目的とする。
【0011】
すなわち、本発明のMEMS測定装置を用いて測定を行うことにより、従来技術における測定の同時性、正確性の課題が解決され、MEMSの製造コストの顕著な改善が実現される。測定装置の構成の概要は、例えば光周波数コム(光コム)技術を用いて多数の周波数シフトされたレーザ光を生成した後、周波数ごとに各レーザ光の進行方向を変化させることにより、それらのレーザ光をMEMSの多数の箇所に照射するものである。この構成により、比較的簡素な構成によって、振動させたMEMSの多数の箇所に同時にレーザ光を照射して、多数の測定点における振動状態を同時に測定することができるため、正確に各部の振動の特徴を把握することが可能となる。その結果、製造工程の早期において可動部分の構造の良否を的確に判定することが可能となり、後工程に入る前に不良品を製造ラインから排除できるため、本発明のMEMS測定装置を用いることによって、製造コストの顕著な改善を実現することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るMEMS測定装置は、光の周波数がそれぞれ異なる多数のレーザ光を同時に発生させる光源部と、当該光源部からのレーザ光から、光の周波数を所定周波数だけシフトさせた参照光を得る周波数シフト部と、前記光源部から一様に入射した各レーザ光を周波数ごとに進行方向を変化させ、周波数ごとに異なる照射位置としてMEMSへ向わせると共に、前記MEMSから反射された反射光を入射側へ透過させる分光部と、前記光源部と分光部の間で、分光部に向うレーザ光を透過させる一方、MEMSから反射されて分光部を透過した反射光を所定方向に反射するビームスプリッタと、当該ビームスプリッタで反射された前記MEMSからの反射光と前記参照光とを組合わせて干渉させた干渉光を検出し、干渉光に応じた検出信号を出力する光検出部と、前記検出信号を各レーザ光の周波数成分ごとに分析し、検出信号より抽出される各レーザ光の反射前後におけるドップラシフトに基づく周波数変化から、MEMSにおける各レーザ光の照射位置での振動状態を求める信号処理部とを備えるものである。
【0013】
このように本発明においては、それぞれ周波数の異なる多数のレーザ光を振動しているMEMSの多数箇所に対し同時に照射し、MEMSの各照射位置からの反射光を干渉光とした状態で光検出部で検出し、得られた検出信号より取出せるドップラーシフトに基づく光の周波数変化の情報から、MEMSの各照射位置について、その振動状態を求められることにより、MEMSにおける複数箇所の同じ時点での振動状態を検出できることとなり、MEMSの所定時点における各部の振動状態を測定して、そのMEMSの構造に基づいてあらわれる振動の特徴を確実に把握でき、同じ種類のMEMS同士の比較で構造の差異を検出可能となり、例えばMEMSを同じ種類の良品と比較した場合には、効率よく良品との差異を検出でき、良品であるか否かの判別、評価が適切且つ短時間で行える。
【0014】
また、本発明に係るMEMS測定装置は必要に応じて、前記光源部が、所定周波数のレーザ光を発生させるレーザ光源と、当該レーザ光源で生じたレーザ光から、当該レーザ光の周波数を中心に等周波数間隔で多数のサイドバンドとしての周波数の異なるレーザ光を発生させる光コム発生器とを有するものである。
【0015】
このように本発明においては、光源部としてレーザ光源と光コム発生器を用いて、一つのレーザ光から光コム、すなわち基本周波数のレーザ光のサイドバンドとして周波数の異なる多数のレーザ光を得て、そのまま各レーザ光をMEMSに照射できることにより、MEMSの多数箇所に対し効率よく周波数の異なるレーザ光を同時照射して測定が行え、光の周波数の異なる多数のレーザ光源を用いる必要はなく、光源部の構成を簡略化できると共に、各レーザ光が基本周波数のレーザ光と既知の関係を有することで、検出信号における各レーザ光の周波数成分を識別しやすく、確実にMEMSの照射位置ごとの振動状態を求められる。
また、本発明に係るMEMS測定装置は必要に応じて、前記MEMSに振動を加える起振部を備えるものである。
【0016】
このように本発明においては、起振部でMEMSに振動を加えつつレーザ光を照射してMEMSの振動状態の測定を行うことにより、MEMSが振動を発生させる機構を有しない構造であるものについても、MEMSが振動している状況でこのMEMS各部の振動状態の測定が行え、各部の振動状態からMEMSの構造における特徴を解析し把握できる。
【0017】
また、本発明に係るMEMS測定装置は必要に応じて、前記分光部が、回折格子であり、入射した各レーザ光をMEMSに対しレーザ光照射位置が一直線状に並ぶ状態で進行させるものである。
【0018】
このように本発明においては、分光部として回折格子を用いて各レーザ光の進行方向を制御し、MEMSにおけるレーザ光の照射位置を一直線状に並んだ状態として測定を行い、MEMSの所定の線上における振動状態を求めることにより、MEMSの前記所定の線上における振動波形や前記所定の線に沿った向きへの振動の伝わり等を取得でき、振動状態からのMEMSの構造の特徴把握がより正確に行え、MEMS間の差異も明確化できる。
【0019】
また、本発明に係るMEMS測定装置は必要に応じて、前記各レーザ光が、MEMSに対し各レーザ光の照射位置が一直線状に並んだ方向と直交する向きへの走査を伴いつつ照射されるものである。
【0020】
このように本発明においては、各レーザ光の照射位置の並んだ方向と直交する向きにレーザ光の走査を行いながら測定し、MEMS上の測定範囲を拡張することにより、MEMSの振動状態を線状のみでなく面状に広く把握でき、MEMSの構造における特徴をより詳細に解析でき、他のMEMSとの比較評価がより適切に行える。
【0021】
また、本発明に係るMEMS測定装置は必要に応じて、MEMSの前記振動状態を、当該MEMSと同種類の良品における既知の振動状態と比較し、振動状態が同じ場合は良品と、また振動状態が異なる場合は不良品とそれぞれ判定する判定手段を備えるものである。
【0022】
このように本発明においては、MEMSの各照射位置についてその振動状態を求め、これを同じ種類の良品のものと比較してMEMSの良否判定を行うことにより、MEMSの構造に基づいてあらわれる振動の特徴を利用して、MEMSを同じ種類の良品の既知の振動状態との比較結果から効率よく良品との構造の差異を検出可能となり、MEMSが良品であるか否かを精度よく且つ短時間で評価できる。
【0023】
また、本発明に係るMEMS測定装置は必要に応じて、前記判定手段が、MEMSの振動状態と、当該MEMSと同種類の良品における既知の振動状態との比較を、多数の各レーザ光の照射位置のうち代表として抽出した所定の数箇所における振動状態についてのみそれぞれ実行し、前記数箇所の振動状態がそれぞれ同じ場合は良品と、また振動状態が異なる場合は不良品とそれぞれ判定するものである。
【0024】
このように本発明においては、MEMSとこれと同種の良品との振動状態比較に際し、測定点である多数のレーザ光照射位置の中から代表点を数箇所抽出し、その代表点における振動状態をそれぞれ比較する一方、それ以外の測定点については振動状態の比較を省略し、数箇所の振動状態の比較に基づいて良否を判定することにより、MEMSの構造や動作等の特徴に応じて比較対象の代表点を適切な数及び配置で設定すれば、判定・評価の精度を確保しつつ処理を大幅に簡略化でき、MEMSの良否評価をより短時間で行える。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施形態に係るMEMS測定装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るMEMS測定装置のMEMSへのレーザ光照射状態説明図である。
【図3】本発明の実施例におけるMEMS測定装置で測定した不良品のMEMSにおける要部の振動変位の時間的変化を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例におけるMEMS測定装置で測定した良品のMEMSにおける要部の振動変位の時間的変化を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例におけるMEMS測定装置で測定した不良品のMEMSの各経過時間ごとの変位の状態を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例におけるMEMS測定装置で測定した良品のMEMSの各経過時間ごとの変位の状態を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態に係るMEMS測定装置を前記図1及び図2に基づいて説明する。
前記各図において本実施形態に係るMEMS測定装置1は、光の周波数がそれぞれ異なる多数のレーザ光を同時発生させる光源部10と、この光源部10からのレーザ光より、光の周波数を所定周波数だけシフトさせた参照光を得る周波数シフト部20と、前記光源部10からの各レーザ光をその周波数ごとに進行方向を変化させてMEMS80に向わせる分光部30と、光源部10と分光部30の間で、分光部30に向うレーザ光を透過させる一方、MEMSから反射された反射光を所定方向に反射するビームスプリッタ40と、このビームスプリッタ40で反射されたMEMS80からの反射光と前記参照光とを組合わせて干渉させた干渉光を検出して検出信号を出力する光検出部50と、検出信号を各レーザ光の周波数成分ごとに分析し、MEMS80における各レーザ光の照射位置での変位を求める信号処理部60と、MEMS80を振動させる起振部70とを備える構成である。
【0027】
前記光源部10は、所定周波数のレーザ光を発生させるレーザ光源11と、このレーザ光源11で生じた一つのレーザ光から、このレーザ光の周波数を中心に等周波数間隔で多数のサイドバンドとしての周波数の異なるレーザ光を発生させる光コム発生器12とを有するものである。この光源部10は、光コム発生器12で得られた、光コムをなす周波数が異なる多数のレーザ光を一様に出力し、ビームスプリッタ40を介して分光部30へ向かわせることとなる。この光源部10から発したレーザ光は、そのまま分光部30へ向うものとは別に、スプリッタ等で分岐されたものが周波数シフト部20に達し、周波数を所定周波数だけシフトされて参照光となる。
【0028】
前記光コム発生器12は、基準となるレーザ光から光コムとしての多数のサイドバンドのレーザ光を発生させる公知の装置であり、詳細な説明を省略する。光コム発生器12における各サイドバンドの周波数間隔は適宜調整され、分光部30を経てMEMS80に各レーザ光が測定に適した間隔で照射されるよう設定される。この光コム発生器12を用いて、一つのレーザ光から光コム、すなわち基本周波数のレーザ光のサイドバンドとして周波数の異なる多数のレーザ光を得て、そのまま各レーザ光をMEMS80に照射できることから、MEMS80の多数箇所に対し効率よく周波数の異なるレーザ光を同時照射して測定が行え、光の周波数の異なる多数のレーザ光源を用いる必要はなく、光源部10の構成を簡略化できる。
【0029】
なお、光源部10から発したレーザ光を周波数シフト部20に到達させて、周波数をシフトした参照光を得る代りに、新たな別の光コム発生器を設け、レーザ光源11で生じたレーザ光の周波数をシフトした光をこの別の光コム発生器に入力し、この別の光コム発生器が、周波数の異なる多数のレーザ光(光コム)を参照光として発生する仕組みとすることもできる。
【0030】
前記分光部30は、回折格子を用いたものであり、光源部10からビームスプリッタ40を経て一様に入射した異なる周波数の各レーザ光をその周波数ごとにその進行方向を変化させ、周波数ごとに異なる照射位置となるようにしてMEMS80へ向わせると共に、MEMS80の各レーザ光照射位置から反射された反射光を入射側へ透過させ、再度ビームスプリッタ40に向わせるものである。
【0031】
この分光部30で周波数ごとにずらされる各レーザ光のMEMS80における照射位置は、MEMS80上で、分光部30における格子部分の設定及びレーザ光の周波数間隔に対応した所定間隔で、一直線状に並んで配置されることとなる。照射位置は、MEMSの場合、等しい100μmの間隔で配置されるのが好ましい。
【0032】
前記ビームスプリッタ40は、光源部10と分光部30との間に配設され、分光部30に向う光源部10からのレーザ光を分光部30側へ透過させる一方で、MEMS80から反射されて分光部30を透過した反射光を光検出部50のある向きに反射する公知の機構であり、詳細な説明を省略する。
【0033】
前記光検出部50は、MEMS80で反射して分光部30を透過し、さらにビームスプリッタ40で反射して進路を変えた反射光と、前記周波数シフト部20からの参照光とを組合わせて干渉させた干渉光を入射させ、この干渉光を検出して干渉光の周波数に応じた検出信号を得、この検出信号を信号処理部60に出力するものである。
【0034】
レーザ光のMEMS80からの反射光は、ドップラシフト、すなわちMEMS80におけるレーザ光照射位置の振動に応じた周波数の変化を生じており、この反射光と、周波数シフト部20でレーザ光の周波数を所定周波数だけシフトされた参照光とが組合わされた干渉光に対応して出力される検出信号は、公知のレーザドップラ振動計の場合と同様、復調等の処理によりMEMS80におけるレーザ光照射位置の振動状態を取得できる所定の干渉波形を生じたものとなっており、この検出信号を解析することでMEMSの振動状態を取得できる。
【0035】
前記信号処理部60は、光検出部50からの検出信号を各レーザ光の周波数成分ごとに解析し、MEMS80における各レーザ光の照射位置ごとにその変位を求めるものである。信号処理部60における検出信号の各レーザ光に対応する周波数成分についてのそれぞれの解析処理は、公知のレーザドップラ振動計と同様に、ドップラシフトに基づく各レーザ光の反射前後における周波数変化を利用して実行されるものである。
【0036】
光検出部50から出力される検出信号における各レーザ光に対応する周波数成分は、周波数シフト部20によるレーザ光の周波数シフト分と、MEMS80の振動の速度に比例するドップラシフトとの干渉波形を有していることから、検出信号の前記周波数成分と、既知である各レーザ光の光源部10から出力された時点での周波数及び周波数シフト部20でのシフト量とを用いて、MEMS80の照射位置における振動状態を示す振動の速度情報や照射位置の変位を導くことができる。
【0037】
この信号処理部60では、検出信号における各レーザ光に対応する周波数成分を、光源部10からの各レーザ光が光コムである、すなわち所定周波数間隔で周波数を異ならせていることで、明確に判別することができ、MEMSにおける各レーザ光の照射位置についてそれぞれ適切に振動状態に係る情報を取得できる。
【0038】
前記起振部70は、MEMS80に当接させて配設され、MEMS80に所定周期の振動を与える起振機構であるが、振動を発生させる機構自体はピエゾ抵抗効果等を用いた公知のデバイスであり、詳細な説明を省略する。起振部70はMEMS80を微小振動させ、MEMS80の構造に基づく特有の振動状態を生じさせる一方、測定装置側には不要な振動を発生させないようにして測定への影響を防いでいる。
【0039】
次に、本実施形態に係るMEMS測定装置を用いた測定とMEMSの評価の各過程について説明する。前提として、光源部10の光コム発生装置12で得られる各レーザ光の周波数や、周波数シフト部20におけるレーザ光周波数のシフト量は、あらかじめ把握されているものとする。また、MEMS80に関しては、同じ種類のものであらかじめ良品と確認されているものについて、振動状態をMEMS80と同じ条件で測定し、比較基準としての振動の特性を把握されているものとする。
【0040】
まず、測定に先立ち、MEMS80を測定装置1に取付け、MEMS80に取付けた起振部70を動作させてMEMS80の測定対象箇所を振動状態とした上で、測定を開始する。測定開始に伴い、光源部10のレーザ光源11から出た一つのレーザ光に基づいて、光コム発生装置12が周波数の異なる多数のレーザ光を発生させ、このレーザ光が、分岐されて周波数シフト部20に向う一部を除いて、ビームスプリッタ40を透過して分光部30に入射する。
【0041】
分光部30では、各レーザ光がその周波数ごとに進行方向を変えられ、周波数ごとに異なる照射位置となるようにMEMS80に照射される。そして、MEMS80の各照射位置では、照射されたレーザ光が一部反射される。振動状態にあるMEMS80の各レーザ光照射位置で反射された反射光は、分光部30に戻ってこれを入射側へ透過し、再度ビームスプリッタ40に達して反射され、光検出部50に向う。
【0042】
一方、周波数シフト部20に達したレーザ光は、光の周波数を所定周波数分だけシフトされた後、ビームスプリッタ40で反射されたMEMS80からの反射光と重ね合わせられ、干渉光となった状態で光検出部50に入射することとなる。
【0043】
光検出部50から干渉光に対応して検出信号が出力されると、信号処理部60はこの検出信号を各レーザ光の周波数成分ごとに解析し、各レーザ光の照射位置ごとにMEMS80における振動状態を示す情報としての振動変位を算出する。光源部10で一つのレーザ光から光コム、すなわち基本周波数のレーザ光のサイドバンドとして周波数の異なる多数のレーザ光を得ており、照射される各レーザ光が基本周波数のレーザ光と既知の関係を有することで、信号処理部60では検出信号における各レーザ光の周波数成分を識別しやすく、確実にMEMS80の照射位置ごとの振動状態を求められる。
【0044】
また、MEMS80におけるレーザ光の照射位置を一直線状に並んだ状態として測定を行うようにしており、信号処理部60ではMEMS80の所定の線上の各点における振動状態を求められることから、このMEMS80の線上における振動波形や線に沿った向きへの振動の伝わり等を取得でき、MEMS80の構造の特徴を正確に把握できる。
【0045】
こうして得られたMEMS80の振動状態は、MEMSの構造上の特徴があらわれたものとなっており、あらかじめ測定されたMEMS80と同種の良品の振動状態との比較で、MEMS80に製造上の欠陥等、良品と異なる構造上の特徴が存在する場合には振動状態にも差異が生じることから、MEMS80の良否が判断できることとなる。すなわち、MEMS80の振動状態が良品の場合と同じであればそのMEMS80も良品であり、逆に振動状態が良品のそれと異なっていれば何らかの不具合があるとみなせる。
【0046】
具体的には、比較及び判定手段としてコンピュータ等を用い、MEMS80の振動状態を示すデータを、あらかじめ測定され格納されているMEMS80と同種の良品の振動状態を示すデータとの比較・照合を実行させ、MEMS80のデータが良品のデータと同じと見なせる範囲に収っていれば、良品であるとの判定がなされる。また、MEMS80のデータが良品のデータと同じと見なせる範囲を外れたものであれば、不良品であるとの判定がなされることとなる。なお、この判定手段を用いる際、前記信号処理部60がコンピュータで実現されている場合には、この信号処理部60をなすコンピュータが判定手段を兼ねるようにしてもかまわない。
【0047】
このように、本実施形態に係るMEMS測定装置においては、光コムであるそれぞれ周波数の異なる多数のレーザ光を、振動しているMEMS80の多数箇所に対し同時に照射し、MEMS80の各照射位置からの反射光を干渉光とした状態で光検出部50で検出し、得られた検出信号より取出せるドップラーシフトに基づく光の周波数変化の情報から、MEMS80の各照射位置について、その振動状態を求められることから、MEMS80における複数箇所の同じ時点での振動状態を検出できることとなり、MEMS80の所定時点における各部の振動状態を測定して、そのMEMS80の構造に基づいてあらわれる振動の特徴を確実に把握でき、同じ種類のMEMS同士の比較で構造の差異を検出可能となり、例えばMEMS80を同じ種類の良品と比較した場合には、効率よく良品との差異を検出でき、良品であるか否かの判別、評価が適切且つ短時間で行える。
【0048】
なお、前記実施形態に係るMEMS測定装置においては、起振部70でMEMS80に振動を加えつつレーザ光を照射して、MEMS80が振動を発生させる機構を有するか否かに関わりなく、このMEMS80各部の振動状態の測定を行える構成としているが、これに限らず、MEMSがそれ自体で振動を発生させるものの場合、起振部を用いずにMEMS自体の発生振動を利用して、MEMSの振動状態を測定する構成とすることもでき、前記実施形態同様、MEMS各部の振動状態からMEMSの構造における特徴を解析し把握できる。
【0049】
また、前記実施形態に係るMEMS測定装置において、MEMS80におけるレーザ光の照射位置は、光源部10の光コム発生器12でレーザ光の基準周波数に対する各サイドバンドのレーザ光の周波数間隔の調整や、分光部30とMEMS80との相対位置関係の調整を行わない限りは、位置固定となる構成としているが、これに限らず、各レーザ光が、MEMSに対し各レーザ光の照射位置が一直線状に並んだ方向と直交する向きへの走査を伴いつつ照射される機構を採用する構成とすることもでき、各レーザ光の走査を行って照射位置をその並び方向と直交する向きにずらしながら測定し、MEMS上の測定範囲を拡張することにより、MEMSの振動状態を線状のみでなく面状に広く把握でき、MEMSの構造における特徴をより詳細に解析でき、他のMEMSとの比較評価がより適切に行える。
【0050】
また、前記実施形態に係るMEMS測定装置においては、MEMS80からの反射光と、周波数シフト部20からの参照光とを組合わせて干渉させた干渉光を、一つの光検出部50で受けて干渉光に対応した検出信号を出力する構成としているが、これに限らず、光検出部をなす光検出デバイスを複数配設し、それぞれの光検出デバイスで干渉光を分担して、例えば干渉光を所定の周波数帯域ごとに分けて受光するようにし、各光検出デバイスからそれぞれ検出信号を出力させる構成とすることもでき、各処理を分散することで効率よく測定を進められることとなる。
【0051】
さらに、前記実施形態に係るMEMS測定装置による測定に基づく、MEMS80の良否判断において、MEMS80の各レーザ光照射位置について、その振動状態を、MEMS80と同種の良品における同様の振動状態と比較し、MEMS80の良否を判定するようにしているが、これに限らず、MEMSにおける多数の各レーザ光の照射位置のうち代表として抽出した所定の数箇所における振動状態についてのみ、良品における同位置の振動状態との比較を実行し、この数箇所の振動状態の比較に基づいて良否判定を行うようにすることもでき、MEMSの構造や動作等の特徴に応じて比較対象の代表点を適切な数及び配置で設定すれば、判定・評価の精度を低下させることなく処理を大幅に簡略化でき、MEMSの良否評価をより短時間で行える。
【実施例】
【0052】
本発明のMEMS測定装置で、ウェハ上に複数設けられた測定対象のMEMSの振動状態を実際に測定し、MEMSが、その製品としての良否に係る構造の相違によって振動状態の差異を生じるか否かについて評価した。
【0053】
本発明のMEMS測定装置では、ウェハ上に半導体デバイスとほぼ同様の一般的な製造プロセスで製造され、電子回路や機械要素部分が製造されたものの、まだチップとして切り分けられていないウェハ上のMEMSを測定対象としている。測定の例として、別途不良品であることがあらかじめ確認されたものを測定すると共に、比較例として、別途良品であることがあらかじめ確認されたものについても測定を行った。
【0054】
測定装置では、ウェハに振動を付加する起振部にピエゾアクチュエータを用いた。このピエゾアクチュエータは、0〜100Vで6μm可変するものとなっている。
【0055】
測定に際しては、測定対象の不良品及び良品の各MEMSを含むウェハを測定装置に取付け、MEMSの下側に配設したピエゾアクチュエータに、周波数3Hzの矩形波を振幅34.5Vとして与え、アクチュエータで生じた微小振動をMEMSに加え、振動するMEMSの振動状態を測定するようにした。
【0056】
光源部から照射されるレーザ光に光コムを用いることで、MEMSには周波数の異なる50本のレーザ光が照射されることとなり、照射位置、すなわち測定点は、MEMS上の測定範囲で所定の一方向に等間隔をなして一列に並んだ50箇所となる。
【0057】
測定は不良品と良品の各場合についてそれぞれ行い、不良品の場合と、比較例の良品の場合とのそれぞれについて振動による変位を測定した結果を、50箇所の測定点のうち、代表として抽出した5点について、振動による変位の時間的変化を、横軸を時間、縦軸を振幅としてそれぞれ記した各グラフを、図3、図4に示す。また、前記5点における変位の所定時間経過後の変動を、各経過時間ごとに、横軸を測定点、縦軸を振幅としてそれぞれ記した各グラフを、図5、図6に示す。
【0058】
図3及び図4から、不良品と良品の各場合で、同じ又は極めて近い測定点にもかかわらず変位の時間的変化に差異があらわれ、MEMSにおける各測定点のうち大きな振動が生じている箇所での振動の振幅や周期が異なっていることがわかる。さらに、図5及び図6から、各経過時間ごとの測定点の位置を連ねて得られるMEMSの形状変化状態についても、大きく差異があらわれており、振動の質そのものが異なっていることがわかる。
【0059】
このように、測定結果から、不良品の場合と比較例の良品の場合とで明らかな振動状態の差異が見られ、良品と不良品との構造上の差異により、測定された振動状態も異なる結果になったといえる。こうして、MEMSが、その製品としての良否に係る構造の相違によって振動状態の差異を生じ、この差異をMEMSの良否判定に利用できる、すなわち、MEMSの多数の測定点にレーザ光を照射して各測定点における振動状態を測定すると共に、その測定結果を、あらかじめ把握されている良品の振動状態と比較すれば、MEMSが良品か不良品かを適切に判別評価できることは明らかである。
【符号の説明】
【0060】
1 測定装置
10 光源部
11 レーザ光源
12 光コム発生器
20 周波数シフト部
30 分光部
40 ビームスプリッタ
50 光検出部
60 信号処理部
70 起振部
80 MEMS

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の周波数がそれぞれ異なる多数のレーザ光を同時に発生させる光源部と、
当該光源部からのレーザ光から、光の周波数を所定周波数だけシフトさせた参照光を得る周波数シフト部と、
前記光源部から一様に入射した各レーザ光を周波数ごとに進行方向を変化させ、周波数ごとに異なる照射位置としてMEMSへ向わせると共に、前記MEMSから反射された反射光を入射側へ透過させる分光部と、
前記光源部と分光部の間で、分光部に向うレーザ光を透過させる一方、MEMSから反射されて分光部を透過した反射光を所定方向に反射するビームスプリッタと、
当該ビームスプリッタで反射された前記MEMSからの反射光と前記参照光とを組合わせて干渉させた干渉光を検出し、干渉光に応じた検出信号を出力する光検出部と、
前記検出信号を各レーザ光の周波数成分ごとに分析し、検出信号より抽出される各レーザ光の反射前後におけるドップラシフトに基づく周波数変化から、MEMSにおける各レーザ光の照射位置での振動状態を求める信号処理部とを備えることを
特徴とするMEMS測定装置。
【請求項2】
前記請求項1に記載のMEMS測定装置において、
前記光源部が、所定周波数のレーザ光を発生させるレーザ光源と、当該レーザ光源で生じたレーザ光から、当該レーザ光の周波数を中心に等周波数間隔で多数のサイドバンドとしての周波数の異なるレーザ光を発生させる光コム発生器とを有するものであることを
特徴とするMEMS測定装置。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載のMEMS測定装置において、
前記MEMSに振動を加える起振部を備えることを
特徴とするMEMS測定装置。
【請求項4】
前記請求項1ないし3のいずれかに記載のMEMS測定装置において、
前記分光部が、回折格子であり、入射した各レーザ光をMEMSに対しレーザ光照射位置が一直線状に並ぶ状態で進行させることを
特徴とするMEMS測定装置。
【請求項5】
前記請求項4に記載のMEMS測定装置において、
前記各レーザ光が、MEMSに対し各レーザ光の照射位置が一直線状に並んだ方向と直交する向きへの走査を伴いつつ照射されることを
特徴とするMEMS測定装置。
【請求項6】
前記請求項1ないし5のいずれかに記載のMEMS測定装置において、
MEMSの前記振動状態を、当該MEMSと同種類の良品における既知の振動状態と比較し、振動状態が同じ場合は良品と、また振動状態が異なる場合は不良品とそれぞれ判定する判定手段を備えることを
特徴とするMEMS測定装置。
【請求項7】
前記請求項6に記載のMEMS測定装置において、
前記判定手段が、MEMSの振動状態と、当該MEMSと同種類の良品における既知の振動状態との比較を、多数の各レーザ光の照射位置のうち代表として抽出した所定の数箇所における振動状態についてのみそれぞれ実行し、前記数箇所の振動状態がそれぞれ同じ場合は良品と、また振動状態が異なる場合は不良品とそれぞれ判定することを
特徴とするMEMS測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−59011(P2011−59011A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210754(P2009−210754)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年5月1日 財団法人防衛技術協会発行の「防衛技術ジャーナル(2009 5月号 通巻338号)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 平成21年7月29日〜31日 財団法人マイクロマシンセンター主催の「マイクロナノ2009 第20回マイクロマシン/MEMS展」に出品
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、地域科学技術振興施策「知的クラスター創成事業(第II期)」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【出願人】(391043332)財団法人福岡県産業・科学技術振興財団 (53)
【出願人】(503249810)株式会社 光コム (28)
【出願人】(509256333)ユージ企画有限会社 (2)
【Fターム(参考)】