説明

MIS構造の抵抗変化型メモリ素子

【課題】 従来、オフ電流が大きいため、オフ動作が不安定になることが避けられなかったMIM型ReRAM素子において、電極の片方を金属からp型Si半導体に変更してMIS型にすることにより、10μA以下のオフ電流で安定して動作するReRAM素子を提供する。
【解決手段】 ReRAM素子のオフ動作が、ホットエレクトロン化によるオフ機構による場合は、電子の活性化エネルギーが必要なため、オフ電流が大きくなる問題があった。オフ機構の原理を見直し、活性化エネルギーの必要がない電圧によるpn接合部の空乏化によるオフ機構に変更することにより、極めて低消費電力のReRAM素子を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗変化型メモリ(Resistivi Random Access Memory : ReRAM)の素子構造に関するものである。
詳しくは、ReRAMは絶縁体の両側を電極で挟んだ3層構造をしており、電圧印可によって絶縁体が抵抗変化する現象を利用した不揮発性メモリである。絶縁体には各種金属酸化物が用いられ、電極にはPt、Ni、Ti、Al等の各種金属が用いられる。
本発明は、電極の一方を金属の代わりに導電性p型Si半導体を用いた金属/絶縁体/半導体のMIS構造を特徴とする。
【背景技術】
【0002】
従来のReRAMの基本構造は金属/絶縁体/金属のMIM構造であり、ReRAMの研究開発の対象は、抵抗変化する絶縁膜として機能する金属酸化膜、及び、それに適した電極金属の探索に関する多くの工夫(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)更に、絶縁膜を複合積層化することによってスイッチング特性を改善する技術(例えば、非特許文献4参照)等を対象に行われている。しかし、何れも電極にPt等の金属を用いており、MIM構造であることに関しては同じであった。
【0003】
その理由は、MIM構造の金属酸化膜と電極金属の間には、必然的にショットキー障壁が形成され、スイッチング機構に重要な機能を果たしており、金属電極を用いることが必要条件と考えられてきた。(例えば、発明者らの特許文献1参照)
【0004】
しかし、MIM構造のReRAMはオフ電流が大きいため、省電力型不揮発性メモリに要求される50μA以下で動作する条件を満たさないことに加え、抵抗変化膜(絶縁膜)を損傷する原因となり、耐久性が悪く、実用化を阻害している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-183570号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Z.Wei、T.Takagi et al. IEDM (2008)Highly Reliable TaOx ReRAM and Direct Evidence of Redox Reaction Mechanism
【非特許文献2】鶴岡徹 他、第70回応物学会(2009)8p-H-3
【非特許文献3】田中隼人 他、第72回応物学会(2011)30a-ZK-12
【非特許文献4】福田夏樹 他、第72回応用物理(2011)31p-ZK-12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決する課題は、ReRAMを省電力型にすると同時に耐久性を向上するため、オフ電流を大幅に低下することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、既にAl陽極酸化膜を用いたショットキー接合型不揮発性メモリ(特許第3897754号)を開発しているが、社会的ニーズの消費電力削減に対応するために、オフ電流を低下するための創意工夫を行ってきた。
【0009】
多くのReRAM開発者は、MIM型ReRAMのショットキー障壁を変えることによって、オン・オフ電圧の閾値を制御することを意図して、金属電極の種類を変えた膨大な試作実験を行ってきた。しかし、Ti,Pt、Ru等の希少金属を用いても、安定したオフ電流低下効果を得るに至っていない。
【0010】
発明者らは、従来のMIM構造(金属/絶縁体/金属)のReRAMにおいて、金属と絶縁体の間に形成されるショットキー障壁は、高抵抗状態から低抵抗状態に変化するオン動作時は、リーク電流をオン状態に遷移する直前まで低いレベルに保つために必要であるが、低抵抗状態から高抵抗状態に変化するオフ動作時にはショットキー障壁は不要である知見を得た。この知見に基づき、電極の一方は従来と同じく金属とし、他方の電極を逆電界で整流性のある半導体を用いた電極に変更した。つまり半導体技術であるpn接合をReRAMの基本構造に組み入れて、ReRAMの課題であったオフ電流低下を実現した。
【0011】
本発明者らが本技術を見出した経緯は、この技術を理解する上で有効と考えられるため、以下に記載する。本発明者らは、第一原理計算結果から導いたオン・オフ状態における電子状態を熱刺激電流測定によって検証した。その結果、絶縁膜中にトラップされた電子は伝導帯から0.17〜0.41eV下のレベルにあり、このように深いレベルの電子をホットエレクトロン化して伝導帯に励起する活性化エネルギーは大きいことが分かった。従来のMIM型の電流―電圧(I-V)特性を示す図1を用いて、ReRAM素子の動作を説明する。まず、電流制限ダイオードによって35μAに電流制限した状態で電圧を印可し、閾値(2.5V)に達すると高抵抗状態から低抵抗状態に変化してON状態になる。次に、ON状態で電流制限を外し、電圧を印加すると1Vに達する直前で最大のOFF電流(18mA)が流れてオフ動作する。
【0012】
電子を励起してホットエレクトロン化するための活性化エネルギーが、オフ電流を大きくしている原因であり、この問題を解決するためには、ホットエレクトロン化を必要としない電子放出、つまり、電界によって電極にダイレクトに電子を抽出する方法が有効であることが分かる。電界によって電子を効率的に抽出するためには、電流が流れない状態で電子に電界が作用するpn接合が有効と考えられる。これらの知見に基づき、MIM構造の金属電極の一方を導電性のp型Si半導体に変更した金属/絶縁体/半導体のMIS構造の素子を作製し、ON電圧に対して逆方向の電圧を印可してOFF動作させるバイポーラ動作によって、図2に示すように、桁違いに小さいOFF電流(10μA)でOFF動作するI-V特性を得た。
【0013】
図2に示すI-V特性が得られたReRAM素子の断面イメージを図3に示す。
因みに、p型Siの代わりにn型Siを用いた試作実験では、理論的に予想される通り、オフ電流低下効果はなかった。
抵抗変化層になる絶縁膜にAl陽極酸化以外の酸素空孔(Vo)を含む金属酸化膜を用いた場合であっても、MIS構造によるオフ電流低下効果は同じである。その理由は、この効果はMIS構造のpn接合による整流効果に起因する原理的なものと考えられる。そのことを従来のMIM型と本発明のMIS型を対比した図4を用いて説明する。
【0014】
第一原理計算から導いたVoバンドモデルによれば、オン機構に関しては、図4中央列(off→on)に示すように、MIM型とMIS型のどちらも、金属と金属酸化膜の間に形成されたショットキー障壁を電界強化型トンネルした電子がVoサイトに捕捉され、そのVo電子が空間的に重なることによってバンドを形成して金属伝導(オン状態)になる。
【0015】
一方、オフ機構に関しては、図4右列(on→off)に示すように、MIM型とMIS型で大きく異なる。MIM型では、大きな電流が流れることによって伝導電子の一部がホットエレクトロンになり、増大した電子の運動エネルギーによって一部の電子が上の伝導帯に励起されると、その部分で電子の波動関数の重なりが一瞬切れ、その下流側の電子は電界によって電極に抽出される。励起された電子の一部は、エネルギーを失って、再びVoに捕捉されるが、系全体としてはVoに捕捉された電子が減少して局在化し、バンドが消滅してバンド絶縁体(オフ状態)に戻る。
【0016】
これに対し、MIS型のオフ機構は、逆電圧によってpn接合部が空乏化し、pn接合部の下流側の電子が電界によって電極に抽出される。MIM型のようにホットエレクトロン化をトリガーとした電子の抽出ではなく、pn接合の整流効果によって、ダイレクトに電子が電界抽出される。このオフ機構の基本的な違い、つまり、ホットエレクトロン化に必要な活性化エネルギーが不要になることによって、オフ電流が大幅に低下すると考えられる。
【0017】
この技術は、第一原理計算結果に基づき、ReRAMの動作原理を解明することによって得られた成果であり、Al陽極酸化膜に限らず、Voを含むスパッタ成膜によるAl酸化膜、更には、Voを含む遷移金属酸化膜を用いたReRAMにも適応できる汎用技術である。
【0018】
本発明の第1は、MIS構造にすることによって、オフ電流を低下することを特徴とするReRAMを提供する。
【0019】
本発明の第2は、MIS構造に用いる導電性の半導体材料として、p型Siを用いることによって効果が得られる。また、本発明の第3,4は、MIS構造に用いる金属酸化物絶縁体としてAl陽極酸化膜及び、酸素欠損Al酸化膜を使用して効果が得られる。
【0020】
電極として用いるp型Siの抵抗値は、10Ω以下、好ましくは、1〜0.1Ωであることが望ましい。その理由は、メモリ読出し時の抵抗比(オン状態とオフ状態の抵抗値の比率)が大きくなり、低い読出し電圧でも電流増幅が不要となり、省電力とデバイス回路の単純化による大きなメリットが得られる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に拠るMIS構造のReRAMは、従来のMIM構造のReRAMに比較し、3桁以上少ないオフ電流で動作し、画期的な省電力型不揮発性メモリの技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】典型的なMIM型ReRAMのI-V特性。
【図2】典型的なMIS型ReRAMのI-V特性。
【図3】MIS型ReRAMの基本構造。
【図4】(1)MIM型と(2)MIS型のオン・オフメカニズム比較。
【図5】酸素欠損型スパッタAl酸化膜を用いたMIS型ReRAMのI-V特性。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0023】
<実施例1>
(Al陽極酸化膜を用いたMIS型ReRAM素子)
0.1〜1Ωの低抵抗p-Si基板表面に真空蒸着によって成膜した50nm厚のAl膜を用い、20℃の定温に保持した0.3Mのシュウ酸液中で、電圧40Vを印可して12sec間、陽極酸化してp-Si基板表面にAl陽極酸化膜を作製した。純水洗浄し、減圧乾燥したAl陽極酸化膜表面に真空蒸着によってAlを80nm厚成膜して0.2mmΦの上部電極とし、p-Si基板を下部電極としたMIS型ReRAM素子を作製した。
【0024】
作製した素子のI-V特性を図2に示す。2Vで高抵抗状態から低抵抗状態になり、−0.7Vで低抵抗状態から高抵抗状態に戻るバイポール動作した。オフ電流は10μAに低下した。オン電流は電流制限ダイオードによって28μAに制御している。MIS型にすることによって、駆動電流を実用化の条件とされる50μA以下に低下することができた。
【0025】
<実施例2>
(酸素欠損型Al酸化膜を用いたMIS型ReRAM素子)
0.1〜1Ωの低抵抗p-Si基板表面に10−3paの低真空状態で抵抗加熱によって酸素欠損を多く含む50nm厚のAl酸化膜を成膜し、その表面に高真空蒸着によってAlを80nm厚成膜して0.2mmΦの上部電極とし、p-Si基板を下部電極としたMIS型ReRAM素子を作製した。作製した素子の4サイクルのI-V特性を図5に示す。実施例1と同様、バイポーラ動作させると、オフ電流がオン電流に比べて2桁以上小さくなり、グラフを見易くするため、図5の縦軸のオフ電流を絶対値に変換し、対数で表示した。
【0026】
オン電流は、実施例1と同じく、電流制限ダイオードによって28μAに制限した。
オフ電流は、実施例1より更に低下して0.2μA以下になり、従来のMIM型ReRAMのオフ電流に比べると5桁以上低下した。実施例2によって、本発明技術は、オフ電流を大幅低下させ、画期的な省電力型不揮発性メモリの基本技術であることが明らかになった。
【0027】
<比較例1>
(Al陽極酸化膜を用いたMIM型ReRAM素子)
0.3mm厚のAl圧延材を用いて、実施例1と同様に20℃の定温に保持した0.3Mのシュウ酸液中で電圧40Vを印可し、64sec間、陽極酸化したAl陽極酸化膜を純水洗浄後、減圧乾燥し、表面に高真空蒸着によってAlを80nm厚成膜して0.2mmΦの上部電極とし、Al地金を下部電極としたMIM型ReRAM素子を作製した。
【0028】
作製した素子のI-V特性を図1に示す。35μAの電流制限ダイオードを用いた状態で、2.5Vで高抵抗状態から低抵抗状態になり、電流制限ダイオードをバイパスした状態で1Vに達する直前に最大オフ電流18mAに達したあと、低抵抗状態から高抵抗状態に戻るユニポール動作をした。この比較例1のオフ電流(18mA)は、実施例1に比べて3桁、実施例2に比べて5桁、大きな値であり、MIS型ReRAM素子の省電力に関する優位性が明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のMIS型ReRAM素子を使用すれば、革新的な省電力型不揮発性メモリが可能となり、究極の省電力を可能にするノーマリーオフコンピュータの実現に寄与できる。
【符号の説明】
【0030】
1 制限オン電流(35μA)
2 オフ電流(18mA)
3 制限オン電流(28μA)
4 オフ電流(10μA)
5 p-Si半導体(下部電極)
6 Al陽極酸化膜
7 Al(上部電極)
8 酸素欠損型Al酸化膜
9 Al地金(下部電極)
10 オフ電流(0.2μA)






















【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗変化型メモリ(ReRAM)素子であって、その構造が金属/絶縁体/導電性p型半導体の
3層よりなることを特徴とするReRAM素子。
【請求項2】
請求項1に記載のReRAM素子において、電気抵抗が10Ω以下のp型Siを導電性p型半導体に用いることを特徴とするReRAM素子。
【請求項3】
請求項1に記載のReRAM素子において、電気抵抗が0.1〜1Ωのp型Siを導電性p型半導体に用いることを特徴とするReRAM素子。
【請求項4】
請求項1に記載のReRAM素子の金属酸化物絶縁体が、シュウ酸液中で陽極酸化したAl陽極酸化膜であることを特徴とするReRAM素子。
【請求項5】
請求項1に記載のReRAM素子の金属酸化物絶縁体が、低真空中で抵抗加熱処理により生成させた酸素欠損Al酸化膜であることを特徴とするReRAM素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−55209(P2013−55209A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192222(P2011−192222)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年8月16日 公益社団法人応用物理学会発行の「2011年秋季 第72回応用物理学会学術講演会「講演予稿集」(DVD−ROM)」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】