説明

MRI−PET装置

【課題】本発明の目的は、MRI装置とPET装置のそれぞれの開発・調整・メンテナンス時の独立性を高めることにある。さらに、従来のMRI装置と比較して同程度の大きさに留め、かつMRI装置からPET装置への磁場の影響を低減させることができ、MRI画像とPET画像を同時に撮像することを可能にするような1ガントリMRI−PET装置を提供することにある。
【解決手段】トンネル型で中央部が軸方向に分離したスプリット型の磁石装置を備えたMRI装置と、半導体検出器もしくはフォトダイオードで光電子を増倍するシンチレーション検出器を備えたリング状のPET装置とを用い、MRIの磁石装置とPET装置とをそれぞれ別の容器内に封入して構成する。該MRIの磁石装置のスプリット部に、該PET装置を挿入してMRI−PET装置を構成することで、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽電子放出型CT(ポジトロン・エミッション・コンピューテッド・トモグラフィ(Positron Emission computed Tomography)、以下「PET」という。)装置と、核磁気共鳴イメージング(ニュークレア・レゾナンス・イメージング(Nuclear Imaging Resonance)、以下「MRI」という。)装置とを1台の装置に結合させ、共通の領域に撮像空間を有した1ガントリMRI−PET装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
PETは、体内の特定の細胞(例えば腫瘍組織)に集まる性質を有する物質を陽電子放出核種で標識した放射性薬剤を被験者に投与し、その放射性薬剤が体内のどの部位で多く集積あるいは消費されているかを調べる方法である。PET装置に装荷されるPETカメラは、一対のγ線を同時検出する装置である。γ線を検出するγ線検出器には、従来シンチレーション検出器が用いられてきた。シンチレーション検出器はγ線を受けるとエネルギーに比例した強度の発光を示す物質で構成される。シンチレーション検出器はγ線を受けてそのエネルギーに比例した強度の光を放出するが、このままでは、信号が微弱で電気的な信号として使えるエネルギーにはならない。そこで光電子増倍管を用いて、この光信号を増幅された電気エネルギーに変換する。光電子増倍管には、光を受けると光電効果により電子を放出する物質が用いられる。この電子(1次電子)は電極間に掛けられた電圧によって加速され、電子が衝突すると複数の2次電子を放出する第1の2次電子放出電極に衝突する。この2次電子放出電極はさらに多量の2次電子を放出し、第1の2次電子放出電極と第2の2次電子放出電極との間に掛けられた電圧によって加速され、第2の2次電子放出電極に衝突する。これを繰り返すことで、大きな電子電流、即ち電気エネルギーを作り出す。このとき、もし光電子増倍管に強磁場が印加されると、ローレンツ力によって電子の軌道が曲げられるため、目的の2次電子放出電極に到達できなくなり、動作が阻害される可能性がある。
【0003】
PETは分子生物学レベルでの機能及び代謝の検出が可能であり、被験者の体内の機能画像を提供することができる。しかし、PETにより得られる三次元画像は放射性薬剤の集積領域だけであるため、臓器全体の形を表現する形態画像としての機能には乏しい。PET診断の主たる目的に癌病巣の検出とその位置同定があるが、PETで得られる初期の癌病巣は典型的には点状であり、そのため、PET単独の画像では癌病巣が臓器のどの部分であるのかを正確に判断することが難しい。
【0004】
一方、生体の形態画像を得る手段としてはX線CT(Computed Tomography)とMRI(Magnetic Resonance Imaging)がある。
【0005】
X線CTは、人体を透過したX線の積分値を計測し、その積分値を逆投影することにより人体内の粗密分布を計算し画像化する。この画像化のためには膨大なデータを処理する必要があるが、近年のコンピュータ技術の急速な発達により、人体の断層像を高速に画像化できるようになった。
【0006】
MRIはNMR(Nuclear Magnetic Resonance、核磁気共鳴)現象を利用したイメージング法である。NMRイメージング法は、非電離電磁放射線(電波)と静磁場,傾斜磁場の組み合わせにより対象各種の存在密度を画像化するものである。
【0007】
現在、PETで得られる生体の活性部位が臓器のどの位置にあるかを捕え易くするため、X線CTとPETとを一体化したCT−PET装置が開発され、PETで得られる機能画像とX線CTによって得られる形態画像とを重ね合せて観察する技術が普及している。
【0008】
一方近年、X線CTの替わりにMRIとPETとを一体化したMRI−PET装置が検討され始めた。MRIは電離放射線による被曝を受けることなく形態画像を取得できるという利点を有する。
【0009】
しかしながらMRIは強力な磁場を発生するため、PET装置(特にγ線の検出信号の増幅に光電子増倍管を用いるPET装置)に重大な影響を与える可能性がある。これにより、これまで両者を近距離で結びつけた1体型の1ガントリMRI−PET装置の実現は困難と考えられてきた。
【0010】
この問題を解決するため、光電子増倍管がMRIの強力な磁場に晒されるのを避けるように、γ線検出器からの信号フォトンをグラスファイバーによって低磁場領域に設置した光電子増倍管まで輸送して増幅するものが考案された(例えば特許文献1及び非特許文献1参照)。またこの案を具体化した装置として、スプリット型のトンネル型磁石の隙間に多数本のPET装置のモジュール、即ち検出器と光増幅器とを光ファイバで連結して一体化した棒状の機器を半径方向から差込み、一体化したMRI−PET装置が開発された(非特許文献2参照)。
【0011】
しかし上記従来技術では、グラスファイバーを検出器のチャンネル毎に連結する必要があり、その数が膨大となる(例えば、小型とされている頭部用PET装置であっても数万チャンネル程度のものが必要とされる。)。従って、その製作に労力を要し、量産化や低コスト化には困難が伴う。
【0012】
また棒状の機器を半径方向から差込む場合、PET装置が機器として独立化できず、PET装置単体での調整・メンテナンスがし難いという問題がある。また装置として半径方向に大型化するため、天井の低い一般病院の検査室に設置するには困難が伴う。
【0013】
他方、γ線検出器として例えばLSOなどのシンチレータを用い、これの光信号を増幅する装置としては磁場に弱い光電子増倍管の代わりに、アバランシェ・フォト・ダイオード(APD)と呼ばれる半導体を用いた光増倍デバイスを用いて、PETリングをトンネル型のMRI磁石のボアの内側に挿入する発明が存在する(特許文献2参照)。この装置の課題としては、トンネル型のMRI磁石のボアの内側にPETリングを挿入する形態のため、PETリングの内径は小さくならざるを得ない。そのため全身用ではなく、頭部専用装置のような形態になると考えられる。全身用の装置を求めるならば、非常に大きいボア径を有するトンネル型のMRI磁石を作らざるを得ず、その場合にはMRI磁石の外形は非常に大きなものとなることが予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第4939464号
【特許文献2】特表2008−525261号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Simultaneous PET and NMR;P.K.Marsden et.al,The British Journal of Radiology,75 (2002),S53-S59
【非特許文献2】R.E.Ansorge et.al,“Novel Split Coil Imaging Magnet”,[online],University of Cambridge,[平成21年7月24日検索],インターネット<URL:http://www.wbic.cam.ac.uk/ ̄rea1/research/ENC45_poster.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、MRI装置とPET装置のそれぞれの開発・調整・メンテナンス時の独立性を高めつつ、これらを容易に組み上げて成るMRI装置とPET装置とが一体化したMRI−PET装置であって、これを従来のMRI装置と比較して同程度の大きさに留め、かつMRI装置からPET装置への磁場の影響を低減させることができ、MRI画像とPET画像を同時に撮像することを可能にするような1ガントリMRI−PET装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記した目的を達成する本願発明の特徴は、トンネル型で中央部が軸方向に分離したスプリット型の磁石装置を備えたMRI装置と、半導体検出器もしくはフォトダイオードで光電子を増倍するシンチレーション検出器を備えたリング状のPET装置とを用い、MRIの磁石装置とPET装置とはそれぞれ別の容器内に封入してこれらを独立化し、MRIの磁石装置のスプリット部に、該PET装置を挿入してMRI−PET装置を構成することにある。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、MRI装置とPET装置のそれぞれの開発・調整・メンテナンス時の独立性を高めることができる。また、従来のMRI装置と比較して同程度の大きさに留め、かつMRI装置からPET装置への磁場の影響を低減させることができ、MRI画像とPET画像を同時に撮像することできるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態である1ガントリMRI−PET装置の構成を示す側面図である。
【図2】本発明の一実施形態である1ガントリMRI−PET装置の構成を示す正面図である。
【図3】本発明の一実施形態である1ガントリMRI−PET装置の組み立て方法を示す側面図である。
【図4】本発明の一実施形態である1ガントリMRI−PET装置の組み立て方法を示す正面図である。
【図5】本発明の一実施形態である1ガントリMRI−PET装置の組み立て方法を示す正面図である。
【図6】本発明の一実施形態である1ガントリMRI−PET装置に用いられるz傾斜磁場コイルの構成を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態である1ガントリMRI−PET装置に用いられるx傾斜磁場コイル又はy傾斜磁場コイルの構成を示す断面図である。
【図8】本発明の一実施形態である1ガントリMRI−PET装置に用いられるx傾斜磁場コイル又はy傾斜磁場コイルの構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のMRI−PET装置は、トンネル型で中央部が軸方向に分離したスプリット型の磁石装置を備えたMRI装置と、半導体検出器もしくはフォトダイオードで光電子を増倍するシンチレーション検出器を備えたリング状のPET装置とを用い、MRIの磁石装置とPET装置とをそれぞれ別の容器内に封入して構成する。このMRI−PET装置は、該MRIの磁石装置のスプリット部に、該PET装置を挿入して構成される。
【実施例1】
【0021】
以下、本発明の一実施形態であるMRI−PET装置について、図1乃至図6を用いて説明する。
【0022】
本実施例は、PET装置のボアに十分な空間を有しながらMRI装置及びPET装置を一体化するとともに、PET装置のガントリをMRI磁石の低磁場領域に配置し、MRI装置からの磁場の影響を低減させるものである。また装置全体の大きさを通常のMRI装置並みに留め、PET装置とMRI装置の分離・独立性を高めてメンテナンス性等を向上させるものである。
【0023】
上記を解決するために本発明において用いた手段を要約すると、下記の3点になる。
(1)トンネル型で中央部が軸方向に分離したスプリット型の磁石装置のスプリット部に、同軸状にPET装置を挿入して1ガントリ型のMRI−PET装置を構成する。
(2)PET装置のγ線の検出器には、磁場に強い半導体検出器あるいはフォトダイオードで光電子を増倍するシンチレーション検出器を使用する。
(3)PET装置を一体のリング状容器に収容して、スプリット型の磁石装置の間隙の連結柱間の幅内に収納する構造とする。
【0024】
本実施例のMRI−PET装置の構成を、図1と図2を用いて説明する。
【0025】
図1は、本実施例におけるMRI−PET装置の内部構成を示す側面図である。図1に示すように、本実施例におけるMRI−PET装置は、トンネル型(円柱の半径方向中心部に略円筒形状の穴を設けた略円筒形状)の磁石装置を軸中心部で分割したスプリット型磁石装置1a,1bを用いる。
【0026】
図2は、図1のMRI−PET装置を軸方向から見た図である。スプリット型磁石装置は、図1の左側(撮像空間3に挿入されるベッド装置の進行方向において上流側)のリング状の第1の磁石装置1aと、右側(ベッド装置の進行方向において下流側)のリング状の第2の磁石装置1bの2つの磁石装置を、図2に示す連結柱2a,2bで連結し、一体の磁石装置として形成したものである。つまり、第1の磁石装置1a,第2の磁石装置1b及び傾斜磁場コイルによって一つのMRI装置を構成する。傾斜磁場コイルのセット11が、第1の磁石装置1a及び第2の磁石装置1bの径方向内側であって、真空容器101a,101bの外部に配置される。被検診者をのせたベッド装置(図示せず)は、磁石装置1a,1bの径方向中心部に形成された空隙に挿入され、撮像空間3を通過する。
【0027】
MRI装置の磁石装置1aは、MRI装置の撮像空間3に主磁場4を生成するリング状の主コイル群5a,漏れ磁場を低減させるためのリング状のシールドコイル群6a及びリング状の真空容器101aを備える。主コイル群5a及びシールドコイル群6aは、真空容器101aに覆われるように、その内部に収容される。磁石装置1bは、MRI装置の撮像空間3に主磁場4を生成するリング状の主コイル群5b,漏れ磁場を低減させるためのリング状のシールドコイル群6b及びリング状の真空容器101bを備える。主コイル群5b及びシールドコイル群6bは、真空容器101bに覆われるように、その内部に収容される。磁石装置1a及び磁石装置1bは、磁石中心の撮像領域3に均一な軸方向の主磁場4を提供するように、内部の主コイル群5a,5b,シールドコイル群6a,6bの大きさ,起磁力,配置を調整する。
【0028】
このとき左側の磁石装置1aと右側の磁石装置1bの間の間隙部では、左側の磁石装置1aが生成する磁場の磁力線7aと、右側の磁石装置1bが生成する磁場の磁力線7bとが重畳される。図1のように、間隙部の中心軸より離れた領域では、磁力線7aと磁力線7bは半径方向成分が互いに反対向きになり、磁束の多くが相殺され、磁束密度が著しく低減されることになる。
【0029】
このスプリット型の磁石装置の間隙部に、リング型のPET装置102を挿入する。その際、MRI装置の中心軸とPETガントリ8の中心軸とが、ほぼ重なるように設置する。このように構成することで、前記の機能をもってして成るMRI装置の撮像空間3と、以下に説明する機能をもってして成るPET装置の撮像可能領域とがほぼ重なり、同じ空間にある対象物についてMRI装置とPET装置によるそれぞれの撮像を同時に行えるようになる。
【0030】
PET装置102は、複数のγ線検出器9,γ線検出器9に接続された信号処理装置10及びPETガントリ8を備える。PETガントリ8は、γ線検出器9及び信号処理装置10を覆うように内部に収容する。ベッド装置にのせられた被検診者から放出されるγ線を検出するため、複数のγ線検出器9がPETガントリ8の内部に環状に配置される。この複数のγ線検出器9は、ベッド装置が挿入される位置を取り囲むように配置される。PETガントリ8の径方向の内側にγ線検出器9が配置され、径方向の外側に信号処理装置10が配置される。信号処理装置10は、γ線検出器9から出力された検出信号を処理する。
【0031】
PET装置102のγ線検出器9には磁場に強いカドミウムテルル半導体(CdTe)等で構成される半導体検出器を用いる。半導体検出器では、半導体のPN接合を構成し、これに逆バイアスをかける。PN接合の接合面ではキャリアの電子と正孔が電極側に集められ、キャリアの存在しない空乏層ができる。これはコンデンサと電気的には同じで、高い電場がつくられる。放射線がここに入ると電子と正孔の対をつくるが、これらのキャリアはバンド構造の伝導帯を運動するのであまり原子に散乱されることなく電極に収集することができる。半導体検出器では放射線が入って信号パルスが生じたときに電流が流れ、一時的に電気容量が変化したようになる。この信号を図示しない電荷有感型のプリアンプで増幅する。
【0032】
このように半導体検出器では、検出部のキャリアはバンド構造の伝導帯を運動するため、磁場の影響を比較的受け難い。また増幅部においても磁場の影響を受け易い光電子増倍管を不要とすることができる。したがって従来のシンチレーション検出器と光電子増倍管を用いるPET装置に較べ、耐磁場性を格段に向上できるのである。半導体検出器の検出部はガリウムヒ素(GaAs)やカドミウムテルル亜鉛(CZT)等で構成される。信号処理装置10は、小型化のためASICを用いる。ASIC(Application Specific Integrated Circuit)とは、特定用途向け集積回路のことである。信号処理装置10が実装される、間隙部の中心軸より半径方向に離れた領域では、上記に述べた原理により磁束密度が著しく低減される。該信号処理装置10を、間隙部の中心軸より半径方向に離れた位置で、かつ連結柱2aと2bのある位置より半径方向内側に設置する。このように設置することで、信号処理装置10は磁場による悪影響をほとんど受けることがなくなるのである。これが、MRI磁石の間隙部にPET装置を配置する構成を採ることによる本発明の第2の効果である。予備的な磁場計算によると、装置中心面において、最大主コイル外半径の81%位置における磁場強度は、中心磁場強度の50%に低減、同94%位置における磁場強度は同20%に低減できることがわかっている。
【0033】
γ線検出器9としては、シンチレーション検出器に光電子増倍ダイオードを組み合わせた装置を用いても良い。
【0034】
半導体のγ線検出器9やシンチレーション検出器に光電子増倍ダイオードを組み合わせたγ線検出器9は耐磁場性が高く、比較的磁場の高い間隙部の中心軸よりの位置でも、機能させることができる。
【0035】
したがって、PETガントリ8を上記のように構成すれば、図2に示すように全体としてPETガントリ8のリングの直径は、スプリット型磁石装置の連結柱2aと連結柱2bの間の幅よりも小さくし得る。そのためPETガントリ8はリング状の一体のまま、連結柱内に収めることができ、また連結柱2aと2bを結ぶ直線に直交する半径方向の1方向に引き抜くことが可能となる。これにより、スプリット型磁石装置とMRI−PET装置の分離・独立性を高めてメンテナンス性等を向上させることができる上、装置全体が小型化できる。
【0036】
ここで、γ線検出器9にシンチレータを用い、光ファイバを連結して光電子増倍管(フォトマルチプライヤー)で信号を増幅しようとするならば、低磁場でもその動作に影響を受ける光電子増倍管(フォトマルチプライヤー)を十分に低磁場の領域に設置しなければならない。その場合、シンチレータ・光ファイバ・光電子増倍管(フォトマルチプライヤー)を一体のモジュールにしようとすれば、それらを周方向に配置したリングの最外径は、少なくとも連結柱2aと2bの間の幅より大きく為らざるを得ず、本発明のようにPETガントリ8をリング状の一体のまま、連結柱内に収めることができないのである。またPETガントリのリング直径が大きくなることから、装置全体の外径が大きくならざるを得ない。
【0037】
一方、MRI装置においては、画像化のための位置情報を与えるために、場所により強さの異なる磁場、即ち傾斜磁場を作る必要がある。これを作るのが傾斜磁場コイルである。通常、傾斜磁場コイルは軸方向に磁場の傾斜を与えるz傾斜磁場コイル、軸に直交するその他2方向に磁場の傾斜を与えるx傾斜磁場コイルとy傾斜磁場コイルとがある。またこれらの傾斜磁場コイルの磁場が磁石側に漏れないようにシールドするシールド傾斜磁場コイルが、それぞれ3方向の傾斜分布を与える傾斜磁場コイルと、対を成して構成される。トンネル型のMRI装置では、これらのコイル群を厚みのある円筒状の形状に一体成形して傾斜磁場コイルのセット11を作り、磁石のボア内に同軸状に挿入する。本実施例においては、トンネル型のMRI装置に用いる傾斜磁場コイルと同様のものを利用する。図1に示す傾斜磁場コイルのセット11は、円筒状の形状に一体成形したものを、磁石のボア内に同軸状に設置した状態を示している。
【0038】
ここで、これらの構成機器を一体のMRI−PET装置として組み上げる方法を、図3と図4を用いて説明する。
【0039】
まず、図3に示すように、スプリット型磁石の間隙部に、リング型のPETガントリ8を上部から挿入する。図4はこの状況を軸方向(正面)から見たものである。磁石装置1a,1bを連結する連結柱2a,2bの間隔は、リング型のPETガントリ8の外径より大きいので干渉しない。次に、図3に示すように、傾斜磁場コイルのセット11をスプリット型磁石装置のボア内に、軸方向から挿入する。このようにして、図1に示すMRI−PET装置が組み上がる。
【0040】
装置のメンテナンス時には、この逆の過程で装置を分離することができる。またこれらの構成機器は、単独で動作し得るので、開発時の試験や製品の調整試験等が行い易いという利点がある。
【0041】
本実施例によれば、半導体検出器もしくはフォトダイオードで光電子を増倍するシンチレーション検出器を備えたPET装置を用いることで、磁場中においても検出器を動作させることができる。これによりMRI装置の中央部にPET装置を設置して一体化することができる。また、PET装置を設置するMRI装置のスプリット部においては、左右に設置されたコイルが作る半径方向の磁束密度成分の符号は互いに逆になり、重畳される磁束密度は弱められ、PET装置の演算処理装置へ与える磁場の影響を低減させることができる。これらによりMRI装置が発生する磁場によるPET装置の誤動作等の防止が可能な1ガントリ方式のMRI−PET装置を提供することができる。この1ガントリ方式では、MRI装置とPET装置のそれぞれの撮像領域を、それぞれの装置の中央部に設定できる。結果、それぞれの装置の撮像領域は互いに重なり、MRIとPETの撮像が同位置,同時で可能となる。このことにより、トータルの撮像時間を短縮できるだけでなく、MRI画像とPET画像において同じ時刻に現われるそれぞれの事象を重ね合わせることで、それぞれの画像で捉えられる特徴的な生理的活性状態の時間変化を対応づけることが可能になるのである。またMRIの磁石装置とPET装置とをそれぞれ別の容器内に保持する構成を採ることにより、これらは独立かつ並列に開発・製造・調整することが可能となり、開発・製造・調整における効率を向上できる。従来、医療現場ではX線CT装置とPET装置を組み合わせた1ガントリCT−PETを用いて、X線CT装置で得られる形態画像とPET装置で得られる機能画像とを合成し、またそれらを関連付けて観察してきた。本発明の1ガントリ方式のMRI−PET装置を用いれば、CT−PET装置に較べて1回の撮像の被曝量を低減できるため、例えば腫瘍の手術前後の経過観察などでは、一人の患者について多数回の撮像ができるようになり、治療効果の観察がより精度良くできるようになる。
【実施例2】
【0042】
本発明の第2の実施例であるMRI−PET装置の構成を、図5を用いて説明する。以下、実施例1のMRI−PET装置と異なる構成について説明する。
【0043】
実施例1では、連結柱2a,2bをスプリット型磁石装置のボアの左右に配置したが、本実施例では連結柱2c,2dをスプリット型磁石装置のボアの上下に配置する。本実施例のMRI−PET装置は、リング型のPETガントリ8を横方向から挿入可能な構成を有している。
【0044】
本実施例によれば、PETガントリ8を横方向から挿入することができるため、天井が低く、クレーン等による吊り上げができない設置環境の場合であっても、組み立て可能となる。
【0045】
本実施例によれば、半導体検出器もしくはフォトダイオードで光電子を増倍するシンチレーション検出器を備えたPET装置を用いることで、磁場中においても検出器を動作させることができる。これによりMRI装置の中央部にPET装置を設置して一体化することができる。また、PET装置を設置するMRI装置のスプリット部においては、左右に設置されたコイルが作る半径方向の磁束密度成分の符号は互いに逆になり、重畳される磁束密度は弱められ、PET装置の演算処理装置へ与える磁場の影響を低減させることができる。これらによりMRI装置が発生する磁場によるPET装置の誤動作等の防止が可能な1ガントリ方式のMRI−PET装置を提供することができる。この1ガントリ方式では、MRI装置とPET装置のそれぞれの撮像領域を、それぞれの装置の中央部に設定できる。結果、それぞれの装置の撮像領域は互いに重なり、MRIとPETの撮像が同位置,同時で可能となる。このことにより、トータルの撮像時間を短縮できるだけでなく、MRI画像とPET画像において同じ時刻に現われるそれぞれの事象を重ね合わせることで、それぞれの画像で捉えられる特徴的な生理的活性状態の時間変化を対応づけることが可能になるのである。またMRIの磁石装置とPET装置とをそれぞれ別の容器内に保持する構成を採ることにより、これらは独立かつ並列に開発・製造・調整することが可能となり、開発・製造・調整における効率を向上できる。従来、医療現場ではX線CT装置とPET装置を組み合わせた1ガントリCT−PETを用いて、X線CT装置で得られる形態画像とPET装置で得られる機能画像とを合成し、またそれらを関連付けて観察してきた。本発明の1ガントリ方式のMRI−PET装置を用いれば、CT−PET装置に較べて1回の撮像の被曝量を低減できるため、例えば腫瘍の手術前後の経過観察などでは、一人の患者について多数回の撮像ができるようになり、治療効果の観察がより精度良くできるようになる。
【実施例3】
【0046】
本発明の第3の実施例であるMRI−PET装置の構成を、図6及び図7を用いて説明する。以下、実施例1のMRI−PET装置と異なる構成について説明する。
【0047】
実施例1で説明した傾斜磁場コイルは、従来のトンネル型MRI装置に用いられるものと同等の傾斜磁場コイルを想定した。この場合、被験者から放出されたγ線がPET装置の検出器まで到達するまでの間に、傾斜磁場コイルを透過する必要がある。傾斜磁場コイルは、数ミリの厚みを持つ平板状の導体で構成されている。各ターンの銅線は互いに隙間を有しているが、前述のように傾斜磁場コイルのセットは、x傾斜磁場コイル,y傾斜磁場コイル,z傾斜磁場コイルの3種の傾斜磁場コイルで構成されており、さらにそれぞれ主傾斜磁場コイルとシールド傾斜磁場コイルを有するため、場所によっては6層のコイルが重なることになる。このように傾斜磁場コイルの導体が多層重なる領域ではγ線の減衰が著しく、そのためPET装置の検出器に入るγ線の量が減って、検出感度が低下する恐れがある。
【0048】
そこで本実施例では、各傾斜磁場コイルを軸方向の中心で分割し、隙間を開ける。図6に本実施例のMRI−PET装置に用いられるz傾斜磁場コイルの断面を示す。本実施例のz傾斜磁場コイルでは、コイルの円筒形の支持体12a,12bを軸方向の中心で分割し、隙間13を設ける。コイルの支持体12a,12bには、それぞれ平板状のz傾斜磁場コイル導体14a,14bが周巻され、z傾斜磁場コイル電流15a,15bが流される。z傾斜磁場コイルは、このように導体14a,14bが周回方向に巻かれるため、軸方向に中心で隙間13を設けても何ら問題がない。
【0049】
図7には、本実施例のMRI−PET装置に用いられるx傾斜磁場コイル又はy傾斜磁場コイルを示す。本実施例では、同様にコイルの円筒形の支持体12a,12bを軸方向の中心で分割し、隙間13を設ける。x傾斜磁場コイル又はy傾斜磁場コイルでは、図7のように、円筒面に沿って軸方向に周回する導体を巻くことが必要である。このとき隙間13を設けると導体16a,16bが繋がらなくなり、電流17a,17bが流れなくなるという問題がある。そこで、本実施例では、図8に示す構成によって、この問題を解決する。図8は、x傾斜磁場コイル又はy傾斜磁場コイルの軸方向の片側、かつ集方向の半分の領域の構成を示す。図8のように、x傾斜磁場コイル又はy傾斜磁場コイルの主傾斜磁場コイルの導体16bを、隙間13の部分で裏側のシールド傾斜磁場コイルの導体18bに繋げる。これにより、主傾斜磁場コイルの電流17bはシールド傾斜磁場コイルの電流19bへと受け継がれ、全体を流れることができる。
【0050】
本実施例によれば、前述のような傾斜磁場コイルを用いるため、コイルの円筒形の支持体12a,12bを軸方向の中心で分割して隙間13を設けることができ、その結果、PET装置の検出器に入るγ線の量を確保することができる。
【0051】
本実施例によれば、半導体検出器もしくはフォトダイオードで光電子を増倍するシンチレーション検出器を備えたPET装置を用いることで、磁場中においても検出器を動作させることができる。これによりMRI装置の中央部にPET装置を設置して一体化することができる。また、PET装置を設置するMRI装置のスプリット部においては、左右に設置されたコイルが作る半径方向の磁束密度成分の符号は互いに逆になり、重畳される磁束密度は弱められ、PET装置の演算処理装置へ与える磁場の影響を低減させることができる。これらによりMRI装置が発生する磁場によるPET装置の誤動作等の防止が可能な1ガントリ方式のMRI−PET装置を提供することができる。この1ガントリ方式では、MRI装置とPET装置のそれぞれの撮像領域を、それぞれの装置の中央部に設定できる。結果、それぞれの装置の撮像領域は互いに重なり、MRIとPETの撮像が同位置,同時で可能となる。このことにより、トータルの撮像時間を短縮できるだけでなく、MRI画像とPET画像において同じ時刻に現われるそれぞれの事象を重ね合わせることで、それぞれの画像で捉えられる特徴的な生理的活性状態の時間変化を対応づけることが可能になるのである。またMRIの磁石装置とPET装置とをそれぞれ別の容器内に保持する構成を採ることにより、これらは独立かつ並列に開発・製造・調整することが可能となり、開発・製造・調整における効率を向上できる。従来、医療現場ではX線CT装置とPET装置を組み合わせた1ガントリCT−PETを用いて、X線CT装置で得られる形態画像とPET装置で得られる機能画像とを合成し、またそれらを関連付けて観察してきた。本発明の1ガントリ方式のMRI−PET装置を用いれば、CT−PET装置に較べて1回の撮像の被曝量を低減できるため、例えば腫瘍の手術前後の経過観察などでは、一人の患者について多数回の撮像ができるようになり、治療効果の観察がより精度良くできるようになる。
【符号の説明】
【0052】
1a,1b,1c,1d 磁石装置
2a,2b 連結柱
3 撮像空間
4 主磁場
5a,5b 主コイル群
6a,6b シールドコイル群
7a,7b 磁力線
8 PETガントリ
9 γ線検出器
10 信号処理装置
11 傾斜磁場コイルのセット
12a,12b コイルの支持体
13 隙間
14a,14b z傾斜磁場コイルの導体
15a,15b z傾斜磁場コイルの電流
16a,16b x傾斜磁場コイル又はy傾斜磁場コイルの導体
17a,17b x傾斜磁場コイル又はy傾斜磁場コイルの電流
18b x傾斜磁場コイル又はy傾斜磁場コイルのシールドコイルの導体
19b x傾斜磁場コイル又はy傾斜磁場コイルのシールドコイルの電流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁場を生成するリング状の第1の主コイルと、
漏れ磁場を低減する第1のシールドコイルと、
前記第1の主コイル及び前記第1のシールドコイルを覆うように内部に収容するリング状の第1の真空容器とを備える第1のトンネル型磁石装置と、
磁場を生成するリング状の第2の主コイルと、
漏れ磁場を低減する第2のシールドコイルと、
前記第2の主コイル及び前記第2のシールドコイルを覆うように内部に収容するリング状の第2の真空容器とを備える第2のトンネル型磁石装置と、
γ線を検出するγ線検出器と、
前記γ線検出器が出力した検出信号を処理する信号処理装置と、
前記γ線検出器及び前記信号処理装置を覆うように内部に収容するリング状のPETガントリとを備えるPET装置を備え、
前記第1のトンネル型磁石装置,前記第2のトンネル型磁石装置及び傾斜磁場コイルによって一つのMRI装置を構成し、
被検診者をのせるベッド装置の進行方向の上流側から順に、前記第1のトンネル型磁石装置,前記PET装置及び前記第2のトンネル型磁石装置を配置したことを特徴とする1ガントリ型のMRI−PET装置。
【請求項2】
前記MRI装置の分離された前記第1のトンネル型磁石装置及び前記第2のトンネル型磁石装置の空隙部に、一体型のリング状の前記PET装置を設置することを特徴とする請求項1に記載の1ガントリ型のMRI−PET装置。
【請求項3】
前記第1のトンネル型磁石装置及び前記第2のトンネル型磁石装置の間に形成される空隙部に連結部材を備え、
前記連結部材が、前記第1のトンネル型磁石装置と前記PET装置、及び前記第2のトンネル型磁石装置と前記PET装置を連結して位置決めすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のMRI−PET装置。
【請求項4】
前記連結部材は、前記MRI装置と前記PET装置のそれぞれの撮像空間が同じ空間領域に重なるように、前記MRI装置及び前記PET装置を連結することを特徴とする請求項3に記載の1ガントリ型のMRI−PET装置。
【請求項5】
前記PET装置は、前記第1のトンネル型磁石装置が生成する磁束と前記第2のトンネル型磁石装置が生成する磁束が互いに逆向きとなって弱め合う磁場の領域に設置されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の1ガントリ型のMRI−PET装置。
【請求項6】
前記γ線検出器は、半導体検出器であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のMRI−PET装置。
【請求項7】
前記γ線検出器は、フォトダイオードで光電子を増倍するシンチレーション検出器であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項のMRI−PET装置。
【請求項8】
前記信号処理装置は、前記第1のトンネル型磁石装置が生成する磁束と前記第2のトンネル型磁石装置が生成する磁束が互いに逆向きとなって弱め合う磁場の領域に設置されることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の1ガントリ型のMRI−PET装置。
【請求項9】
前記連結部材は、前記PET装置を上部から挿入するための空隙が形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の1ガントリ型のMRI−PET装置。
【請求項10】
前記連結部材は、前記PET装置を水平方向から挿入するための空隙が形成されることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の1ガントリ型のMRI−PET装置。
【請求項11】
前記傾斜磁場コイルは、前記第1のトンネル型磁石装置及び前記第2のトンネル型磁石装置の径方向内側であって、前記第1の真空容器及び前記第2の真空容器の外部に設置されることを特徴とする請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の1ガントリ型のMRI−PET装置。
【請求項12】
前記傾斜磁場コイル装置を構成する導体は、軸方向に分離して構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の1ガントリ型のMRI−PET装置。
【請求項13】
前記傾斜磁場コイル装置の主磁場を生成する主コイルを構成する導体を、軸方向の中心部で裏側に折り返し、傾斜磁場コイル装置の外側にある傾斜磁場コイル装置の主磁場とは逆の磁場を生成するシールドコイルに連結させた傾斜磁場コイル装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれか1項に記載の1ガントリ型のMRI−PET装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−30682(P2011−30682A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178584(P2009−178584)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】