説明

MgO含有耐火物を用いた焼結鉱の製造方法

【課題】MgO源として焼結鉱強度の低下が回避できるMgO含有耐火物を用いた焼結鉱の製造において、焼結生産性を改善する。
【解決手段】MgO含有耐火物として、製鋼工程で使用済みのマグネシア煉瓦、マグカーボン煉瓦といったMgO含有耐火物を、粒度2mm以上の粒子の比率が60質量%以上となるように粗粒化して使用する。このMgO含有耐火物を他の原料の少なくとも一部とともに、焼成前に、撹拌羽根を内蔵した混合機により撹拌混合すると、焼結鉱の強度がさらに改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MgO含有耐火物を焼結原料として使用する焼結鉱の製造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉に使用されている焼結鉱は、焼結原料として主原料である粉鉄鉱石に、石灰石などの焼結用副原料を加え、さらに燃料として粉コークスを配合し、その後水分を添加して転動造粒した後、焼結機で焼成して製造される。その結果得られる焼結鉱の成分は、高炉で還元されて銑鉄に精錬されるFe34、Fe23などのFeの酸化物と、CaO、SiO2、MgO、Al23などのスラグ分(造滓成分)とに大別される。本来、高炉にとって必要な成分はFeの酸化物であるが、Feの酸化物を含む鉄鉱石自体にもともと脈石としてSiO2やAl23等のスラグ分が含まれていること、および焼結の過程で鉄鉱石同士を結合させる融体を生成させるためCaOやMgOを含む塩基質スラグ系副原料の添加が不可欠となることから、一定量のスラグの生成は不可避なものと言える。
【0003】
しかし、高炉において単位銑鉄量当たりのスラグ量(これを高炉スラグ比という)の不必要な増加は、単位銑鉄量当たりのコークス量(これを高炉コークス比という)を上昇させるため、エネルギー消費の点で好ましくなく、また発生するスラグの処理コストの点からも回避すべきである。
【0004】
一方で、焼結鉱MgO(焼結鉱中のMgO分)を低下させると、焼結鉱の高温性状の悪化による高炉炉内通気抵抗の増加、さらには高炉スラグ粘度の増加による出滓作業の支障などの問題が生じる。このため、一定量の焼結鉱MgOは必要と考えられている。
【0005】
焼結鉱のMgO源としては、蛇紋岩やドロマイトなどの天然鉱物を用いることが多い。蛇紋岩は、焼結生産性、焼結鉱強度は確保できるが、MgO・SiO2系副原料であるため、焼結鉱SiO2の上昇を防ぐために、主原料である鉄鉱石中のSiO2を抑える必要がある。しかし、SiO2の低い高品位鉄鉱石は高価であり、副原料に蛇紋岩を使用することは原料コストの高騰が避けられない。
【0006】
そこで、例えば特許文献1に示すようにMgO源としてドロマイトを使う技術が報告されている。ドロマイトを使用することで、蛇紋岩を使用する場合のような原料コストの高騰は避けることができるものの、ドロマイトはCaO・MgO系副原料であるので、焼結生産性が低下する、焼結鉱強度が低下する、等の問題が発生する。
【0007】
この課題に対して、特許文献2ではMgOを含有する耐火物を焼結原料として使用する技術が報告されている。
【0008】
【特許文献1】特開平1−152223号公報
【特許文献2】特開昭53−6215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献2に記載されたMgO含有耐火物を焼結原料として使用する技術は、特許文献1に記載されたドロマイトを使用する技術に比べて、焼結鉱強度の低下は回避できるものの、造粒性が悪いため焼成時の原料通気性が悪くなり焼結生産性が低下するという問題点が残っており、その解決が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
MgO含有耐火物の焼結原料としての使用方法について検討を重ね、MgO含有耐火物を破砕する際に微粉が発生しやすく、この微粉は非常に造粒性が悪いため、焼結生産性が低下するという知見を得た。
【0011】
焼結原料は、一般的には微粉の除去により造粒性が改善され、焼結生産性の向上に結びつく。しかし、MgO原料の場合には、粒径が大きくなると、焼結過程においてスラグへの局所的なMgOの溶出により、スラグ融点が上昇して溶け残りが発生してしまい、融体の生成が阻害されることによる悪影響が懸念される。
【0012】
実際に、ドロマイトでは、溶け残り部分が脆弱で歩留りが悪くなるために、造粒性が良くなっても、焼結生産性が低下することが知られている。そのため、MgO含有耐火物を使用する特許文献2においても、望ましい粒度として0.1〜4mm程度とされていたのである。
【0013】
しかし、本発明者らの検討により、MgO含有耐火物では、製造時に加熱処理が施されているのでその組織は強固なものであるために、粒径を大きくすることで溶け残りが生じても歩留りの低下は生じずに、造粒性の改善効果がそのまま焼結生産性につながることが判明した。すなわち、MgO含有耐火物を焼結原料として使用するに際して、粒径を大きくすることで、従来からの問題点であった焼結生産性の低下をも回避できることがわかった。
【0014】
さらに、焼結原料として使用するMgO含有耐火物の粒子が大きくなることで、焼結原料中のMgO含有耐火物の粒子が分散しにくくなり、その場合には焼結鉱強度の向上を十分に享受できない。逆に言えば、MgO含有耐火物の分散性を高めることができればよい。この点について、分散性を高めつつ更に造粒性を良くする方法として、撹拌羽根を内蔵した混合機による撹拌混合を行うことにより、焼結鉱強度が十分に向上することを見出した。撹拌羽根を内蔵した混合機による撹拌混合は、焼結原料全量でもよいが、MgO含有耐火物を含む焼結原料の一部を選択してもよい。
【0015】
また、MgO含有耐火物はさまざまな精錬業で広く利用されているが、焼結原料としてはMgO成分のみが必要とされ、耐火物としての効果は必要ないので、使用済みのもので充分である。また、多くの熱履歴を経ている使用済み耐火物は、熱割れが起こりやすい部位は既に割れてしまっているため、製造直後に比べてより強固になっており、使用前の耐火物と比較して焼結生産性の改善効果がより大きくなる。しかし、使用済みのMgO含有耐火物には、その使用環境に応じた金属やスラグ等が付着している。焼結原料としてその金属を見たときに、鉄であれば問題なく使用でき、また、同じ製鉄所内の製鋼工程で多くMgO含有耐火物を使用しているという背景より、転炉等の製鋼工程で使用されたMgO含有耐火物が適当である。
【0016】
以上より、下記の本発明に到達した。
1)MgO含有耐火物を含む焼結原料を焼成することによる焼結鉱製造方法において、MgO含有耐火物の粒度2mm以上の粒子の比率が60質量%以上であることを特徴とする焼結鉱製造方法。
【0017】
2)焼結原料中のMgO含有耐火物と他の原料の少なくとも一部を、焼成前に、撹拌羽根を内蔵した混合機により撹拌混合する、上記1)の焼結鉱製造方法。
3)MgO含有耐火物の少なくとも一部が、製鋼工程で使用済みのMgO含有耐火物である、上記1)または2)の焼結鉱製造方法。
【0018】
本発明において、粒度2mm以上の粒子の比率が60質量%以上とは、篩目2mmの篩による篩い分けでの篩上の残留比率が60質量%以上であることを意味する。
【発明の効果】
【0019】
本発明法によれば、原料コストの高騰を伴うことなく、焼結生産性・焼結鉱強度を損なわずに、被還元性の良い焼結鉱を製造することが出来る。さらに、製鋼工程で使用ずみの耐火物を好ましい焼結原料として使用できることから、資源の有効利用にもつながる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
一般に、焼結鉱の製造に使用される焼結原料は、主原料である粉鉄鉱石(工場内で発生するミルスケール、各種ダストなども含む)の他に、返鉱(焼成した焼結鉱の破砕・篩い分け段階で発生した細粒焼結鉱)、焼結用副原料(石灰石およびMgO源)、および燃料の粉コークスを含む。この焼結原料を造粒した後、焼成することにより、焼結鉱が製造される。
【0021】
本発明で使用するMgO含有耐火物を含む焼結原料とは、MgO源の全部または一部としてMgO含有耐火物を使用した焼結原料を意味する。MgO源の全部をMgO含有耐火物とすることも可能であるが、スラグ組成のSiO2含有量を調整するために、シリカ分を含有するMgO源である蛇紋岩をMgO含有耐火物と併用しても構わない。MgO源中のMgO含有耐火物の割合は特に限定されないが、それによる経済効果を顕著にするには、MgO源の少なくとも15質量%を占める量とすることが好ましい。但し、MgO源として少量のドロマイトを併用することを妨げるものではない。
【0022】
MgO含有耐火物は、マグネシアクリンカーを主原料とし、単独で、または黒鉛、クロム鉄鉱、アルミナなどと混合して、焼成することにより焼結させたものであり、多方面に利用されている。本発明では、MgO含有量50%以上のMgO含有耐火物を使用することが望ましい。この耐火物は、新品でも、使用ずみのものでもよいが、前述したように、既に熱履歴を経ている使用ずみの耐火物の方が、強度が高く、かつ経済性および資源の有効利用の観点からも好ましい。
【0023】
クロム鉄鉱やアルミナを混合したMgO含有耐火物は、Cr成分が除去し難い、あるいはAl23成分の増大が高炉操業に悪影響を与えるため、好ましくない。同様に、鉄鋼以外の他の精錬業で使用された後の耐火物は、除去し難い成分や操業に悪影響のある成分が付着しているため、焼結鉱の焼結原料として好ましくない。
【0024】
逆にこれらの成分を含まない製鉄業の製鋼工程で使用したマグネシア煉瓦(マグネシアクリンカー単独)あるいはマグカーボン煉瓦(マグネシアクリンカーと黒鉛の組合せ)等が好ましい。
【0025】
本発明方法において、MgO含有耐火物について、粒度2mm以上の比率が60%以上としたのは、2mm以上の比率がこれより少ないと、焼結生産性の低下が著しくなるためである。この比率は好ましくは65%以上である。MgO含有耐火物の粒度の上限は特に限定されないが、大きすぎる粒子の混入は原料切り出し部での詰まりの原因となるので、粒度が15mm以上の粒子を実質的に含まないことが好ましい。
【0026】
撹拌羽根を内蔵した混合機とは、円筒形パン内に撹拌を目的とする羽根が設置され、パンと羽根の双方が回転運動する混合機である。このタイプの混合機は、羽根の回転数が100rpm程度以上で運転され、圧密作用がないために充分な均一混合が可能である。したがって、この混合機で撹拌混合を行えば焼結原料中におけるMgO含有耐火物の分散性が改善され、強度を向上させることができる。
【0027】
この攪拌羽根を内蔵した混合機による焼結原料の攪拌混合は、MgO含有耐火物と残りの焼結原料の一部または全部とを用いて行うことができる。従って、この混合機でMgO含有耐火物と混合するのは、残りの焼結原料の一部であってもよく、通常はその方が好ましい。例えば、この混合機でMgO含有耐火物を粉鉄鉱石および石灰石の一部とだけ混合することができる。
【0028】
上記のような撹拌羽根を内蔵した混合機でMgO含有耐火物を含む一部または全部の原料を撹拌混合した後に、更に転動型造粒機(ドラムミキサー)を用いて、適度の水分を加えてから造粒しても良い。MgO含有耐火物を残りの焼結原料の一部と攪拌混合した場合、それ以外の焼結原料も、別に転動形造粒機により造粒しておき、その造粒物をMgO含有耐火物を含む造粒物と混合して、焼結機に供給することが好ましい。転動型造粒機は、内部に適宜の混合手段を備えるものでもよい。造粒は他のタイプの造粒機で行うことも可能である。焼結機での焼成条件は従来と同様でよい。
【0029】
焼結後にクラッシャー等で焼結ケーキを破砕し、篩い分けにより微粉を除去すると、焼結鉱成品が得られる。このときの焼結鉱成品/焼結ケーキの比率を歩留りと表す。本発明では、粗粒のMgO含有耐火物をMgO源として使用する。その場合、焼結中に溶け残りが生じても、ドロマイトの場合と違って、そのような溶け残りは強度が高く、微粉化しにくいので、成品中に含まれてくる割合(歩留り)が高く、生産性が悪化しない。特に、使用済みのMgO含有耐火物を用いると、その効果が顕著である。
【実施例】
【0030】
焼結原料中のMgO源として、表1に示す蛇紋岩、ドロマイト、マグカーボン煉瓦、マグネシア煉瓦の4種類を用いて、焼結鉱の製造試験を行った。各MgO源は、焼結鉱成品の組成が、CaO:9質量%、SiO2:4.4質量%、Al23:1.7質量%、MgO:1.3質量%となるように、その組成に応じて他の原料との配合調整を行い、表2に示す組成の焼結原料を得た。
【0031】
表1に示すように、マグカーボン煉瓦に関しては、製鋼工程での使用前後のものおよび粒度の異なる3種類を用いた。マグネシア煉瓦に関しては、製鋼工程での使用後のものを粗粒化したものを用いた。表1に示した粗粒の煉瓦粒度は、篩目2mmの振動篩で篩い分けを行ったときの篩上の結果である。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
図1に実施例において使用された焼結鉱の製造装置を示す。
表1に示したMgO含有耐火物5は、表3に示すように、発明法1A、2Aおよび3では、図1に示す通りにA系統の原料槽1に装入され、それ以外の例では、図1に示したB系統の原料槽1に装入される。
【0035】
発明法1A、2Aおよび3の場合、A系統の原料槽1には、MgO含有耐火物以外に、
粉鉄鉱石および石灰石の一部がA系統の原料槽1に装入され、他の原料はB系統の原料槽に装入される。他の例では、全ての焼結原料がB系統の原料槽1に装入される。
【0036】
発明法1A、2Aおよび3では、A系統の原料槽1から切り出されたMgO含有耐火物を含むA系統焼結原料は、撹拌羽根を内蔵した混合機2で攪拌混合され、ついで適度の水分を加えてドラムミキサー(転動造粒機)3によりさらに混合されながら造粒される。一方、B系統の原料槽1から切り出されたB系統焼結原料は、適度の水分を加えてから二つのドラムミキサー3内で混合造粒される。そして、A系統およびB系統の2種類の焼結原料の造粒物は、ベルトコンベアおよびサージホッパーで混合されて、焼結機4に装入される。
【0037】
他の例(比較法、従来法1、1’、2、および発明法1B,2B)では、図1のB系統のみを用いて、上記のように焼結原料の混合・造粒が行われ、造粒物が焼結機4に供給される。
【0038】
焼結試験は500m2の実機焼結機で行い、焼結生産性、焼結鉱強度および焼結鉱被還元性を評価した。焼結条件は全例で同一であった。焼結生産性は比較法を100としたときの相対生産量、焼結鉱強度はJIS法タンブラー強度TI[JIS M8712](以下、TIとも略記する)、焼結鉱被還元性はJIS法RI[JIS M8713](以下、RIとも略記する)で評価を行った。いずれも数値が大きいほど良好である。試験結果を表3に併せて示す。
【0039】
【表3】

【0040】
比較法は、MgO源として蛇紋岩を使用した場合であり、焼結生産性、焼結鉱強度は良好である。上述したように、低SiO2の高品位鉄鉱石を使用する必要があるため、原料コスト高騰を招き、通常での実施は困難であるが、プロセスとしては、代替MgO源を使用する場合の基準となる方法である。
【0041】
従来法1および従来法1’は、MgO源としてドロマイトを使用した場合であり、従来法1で用いたドロマイト1は+2mmが33%であり、従来法1’で用いたドロマイト2は+2mmが78%であった。どちらも焼結生産性が低下し、焼結鉱強度も十分ではなかった。
【0042】
本発明法1Bは、使用前の新品のMgO含有耐火物を使用した場合であり、従来法1に対して焼結生産性と焼結鉱強度に関して改善が見られた。しかし、使用前の耐火物であるため熱割れが起こり、焼結生産性と焼結鉱強度に関しては、比較法には及ばなかった。
【0043】
従来法2は、MgO源としてMgO含有耐火物を使用しているが、粒度分布が+2mmが17%と発明範囲を外れている細粒のものである。焼結鉱強度は確保されているが、微粉によって造粒性が低下するため、焼結生産性が極端に低下する結果が得られた。
【0044】
発明法2Bでは、微粉を除去した粗粒のMgO含有耐火物を使用することによって、比較法(蛇紋岩)を使用したときに匹敵する生産量・強度を確保できるとともに、被還元性は比較法を上回る結果が得られた。
【0045】
発明法1Bと1A、あるいは2Bと2Aを比較すると明らかなように、発明法1Aおよび2Aでは、撹拌羽根を内蔵した混合機でMgO含有耐火物を含む焼結原料を予め撹拌混合することにより、焼結鉱強度の向上が可能となることが確認できた。
【0046】
発明法3は、A系統原料としてMgO含有耐火物として、使用ずみのマグネシア煉瓦を使用した例であるが、A系統原料として使用ずみのマグカーボン煉瓦を使用した発明法2Aと同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例で用いた焼結鉱の製造装置を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgO含有耐火物を含む焼結原料を焼成することによる焼結鉱製造方法において、MgO含有耐火物の粒度2mm以上の粒子の比率が60質量%以上であることを特徴とする焼結鉱製造方法。
【請求項2】
焼結原料中のMgO含有耐火物と他の原料の少なくとも一部を、焼成前に、撹拌羽根を内蔵した混合機により撹拌混合する、請求項1に記載の焼結鉱製造方法。
【請求項3】
MgO含有耐火物の少なくとも一部が、製鋼工程で使用済みのMgO含有耐火物である、請求項1または2に記載の焼結鉱製造方法。

【図1】
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