説明

Morusalbaのエストロゲン様抽出物およびその使用

クワ科(Moraceae family)の様々な種の抽出物は、エストロゲン様特性を有する。例えば、Morus alba L.種の水溶性抽出物およびエタノール抽出物は、ERα+およびERβ+細胞の両方でエストロゲン様特性を持つ。これらのエストロゲン様効果は、腫瘍壊死因子(TNF)抑制と同様、エストロゲン応答要素(ERE)刺激を含む。更年期症状、乳房、および/または子宮癌、および骨粗鬆症の治療方法は提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
相互参照
[0001] 本出願は、2004年12月17日付出願の米国仮出願番号60/637,302の利益を主張し、その全ての内容はここに参考文献として援用されている。
【0002】
発明の分野
[0002] 本発明は、植物抽出物組成物、より具体的にはMorus alba L.種(ホワイトマルベリー)に属する植物種の抽出物を含む組成物に関する。本発明はさらに、前記植物抽出物組成物の使用方法および作製方法に関する。
【0003】
発明の背景
[0003] ホルモン補充療法(hormone replacement therapy;HRT)は、骨粗鬆症、閉経後女性の心臓血管疾患のリスク増加、一過性熱感や性欲減退およびうつ状態などの更年期症状など、様々な症状の改善に用いられている。しかしながら、エストラジオール(E2)を単独で、またはプロゲスチンと組み合わせて用いるホルモン補充療法(HPT)は望ましくない効果を引き起こすことがある。実際、予備的な結果においてホルモン補充療法(HPT)が乳癌のリスクの35%増加に関連していることを示したとき、最近のウィミンズ・ヘルス・イニシアティブ(WHI)の研究は突然中止された。
【0004】
[0004] 乳癌は、タモキシフェンなどのいわゆる選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)を使用することによって、治療または予防することが出来る。(タモキシフェンの承認前、閉経前女性の乳癌治療は、しばしばエストロゲンの癌化細胞への刺激作用を減少させるための卵巣摘出が含まれていた。)タモキシフェンは、閉経前女性の乳房組織におけるエストロゲンの癌誘発効果を選択的に阻害しているようである。別のSERMであるラロキシフェンは、エストロゲン補充に代わる手段として、骨粗鬆症治療のために承認された。また骨組織での選択的誘発エストロゲン用作用に加えて、ラロキシフェンの長期投与は、MORE(The Multiple Outcomes of Raloxifene Evaluation)試験によって乳癌率減少に関連があることが示された。
【0005】
[0005] タモキシフェンやラロキシフェンなどのSERMは、乳房組織でのエストロゲンによる癌誘発効果を選択的に減少する一方で、リスクがないわけではない。例として、タモキシフェン療法およびラロキシフェン療法はどちらも一過性熱感の発生率に関連し、タモキシフェン療法は、子宮内膜癌のリスクの増加が示されている。
【0006】
[0006] エストロゲン補充療法が骨粗鬆症、冠動脈心疾患、更年期症状の治療に成功しているにもかかわらず、およびタモキシフェンやラロキシフェンなどのSERMの使用により乳癌や骨粗鬆症の治療に成功しているにもかかわらず、エストロゲン様の特性を持つ組成物の必要性が残されている。さらに、医薬品化合物の製造コストの増加により、天然から得られる可能性のあるさらなるエストロゲン様組成物の必要性がある。
【0007】
[0007] ホワイトマルベリーの様々な栽培種は、世界中で幅広い用途のために栽培されている。一般には樹木あるいは灌木として生育する。東洋では、葉を蚕のエサとして、二次的には草食性の家畜のエサとしても使うため、何世紀にも渡って栽培されている。米国では、ホワイトマルベリー栽培は、蚕のエサとして葉を使用することを目的として用途として最初にシェーカー教徒によって試みられたが、養蚕には失敗した。現在米国でのホワイトマルベリー栽培の用途は観葉植物、畑の縁取り、およびその果実である(しかしブラックマルベリーの果実のほうがホワイトマルベリーの果実より好まれる)。米国南部のいくつかの場所では、侵略的植物としての懸念がある。それは数多くの土壌型、高度、および緯度において容易に順応して成長するためである。エストロゲン様組成物としてのMorus alba L.抽出物使用はこれまでに報告がない。
【0008】
[0008] 天然由来で容易に得られるエストロゲン様組成物の必要性がある。またこのような組成物の作製方法についての必要性もある。このようなエストロゲン様組成物を用いた方法についての必要性もある。
【0009】
発明の概要
[0009] 本発明は、Morus alba L.種の植物種の抽出液を含む植物抽出物組成物を提供する。
【0010】
[0010] 本発明はまた、被検体でのエストロゲン様効果の誘発方法を提供する。本方法は、被検体に対して、エストロゲン様Morus alba L.抽出物組成物のエストロゲン様作用の発現を促すために有効な量を投与することを含む。
【0011】
[0011] 本発明はさらに、エストロゲン応答要素(estrogen response element;ERE)の活性化の方法も提供する。本方法は、エストロゲン受容体(estrogen receptor;ER)とエストロゲン応答要素との相互作用を介した遺伝子の活性化に効果的な量の本発明のMorus alba L.抽出物組成物と、エストロゲン応答要素とエストロゲン受容体の両方の調節下で遺伝子を有する細胞を接触させることを含む。
【0012】
[0012] 本発明はさらに、腫瘍壊死因子応答要素(tumor necrosis factor response element;TNF-RE)の調節下で遺伝子を抑制する方法を提供する。本方法は、遺伝子に対して機能可能に連結した腫瘍壊死応答要素を有する細胞に対して、腫瘍壊死因子の発現を抑制することに効果的な量の本発明のMorus alba L.抽出物組成物を投与することを含む。いくつかの態様では、遺伝子は、TNF-αである。他の態様では、遺伝子はレポーター遺伝子である。
【0013】
[0013] 本発明はさらに、本発明のMorus alba L.抽出物組成物の作製方法を提供する。本方法は、Morus alba L.種の植物由来の植物材料を得ることから始まる。本方法は、Morus alba L.種の植物種由来の植物材料を、抽出液を形成するのに適した条件下で、抽出媒体と接触させることを続けて行う。本方法は、植物材料から抽出液を分離し、そして抽出液を希釈または濃縮してもよく、それにより抽出物を作製する方法を提供する。濃縮する場合、抽出液は濃縮液または固体残留物(残留物)のいずれかであってもよい。濃縮の有無によらず、抽出液、濃縮液および残留物は集合的に「抽出物」と定義する。
【0014】
参考文献による援用
[0014] 本明細書で言及された全ての刊行物と特許出願は、あたかもそれぞれの刊行物または特許出願が参考文献として援用されるために具体的におよび個別に示されたと匹敵する程度に参考文献として本明細中に援用される。
【0015】
発明の詳細な説明
[0018] 本発明は、分類学的にMorus alba L.に相当する植物種由来の抽出液を含む植物抽出物組成物を提供する。本発明はまた、本発明の組成物を用いたエストロゲン様の方法を提供する。このようなエストロゲン様の方法はin vivoでの方法およびin vitroでの方法を含む。エストロゲン様組成物は、エストラジオール(E2)およびエストロゲン受容体(ER)によるエストロゲン応答要素(ERE)での調節下で遺伝子活性化をアンタゴナイズする能力を持つ。したがって、適したin vivoでの方法には、遺伝子発現のE2誘導型活性化のアンタゴニスト作用に応答性の医学的適応症の治療および/または予防が含まれる。適したin vitroでの方法には、エストロゲン応答要素(ERE)の制御下で遺伝子を活性化する方法と、腫瘍壊死因子応答要素(TNF-RE)の制御下で遺伝子の発現を抑制する方法における使用が含まれる。本発明はさらに、本発明の抽出物の作製方法を提供する。
【0016】
[0019] 乳腺腫瘍は、女性にもっとも多く診断される癌である。2000年には、184,000人の新規の乳癌の症例が診断され、45,000人の女性が乳癌で亡くなっている。乳癌の原因はおそらく多因子であるにもかかわらず、エストロゲンが乳癌を促進していると示唆する臨床的、疫学的、および生物学的な研究が存在する:
(a)ホルモン補充療法(HRT)は、51の研究のメタ・アナリシス(meta-analysis)から、乳癌のリスクの35%増加と関連する;
(b)乳癌は、ERに結合し乳房細胞においてエストロゲンの作用をアンタゴナイズするタモキシフェンまたはラロキシフェンによって予防出来る;
(c)乳癌を有する閉経前女性の両側の卵巣摘出は、生存率を増加させる;
(d)エストロゲンへの曝露が多いほど、(早発月経または遅い閉経期での相対的リスクはそれぞれ1.3および1.5から2.0)乳癌の発生率を増加させる;
(e)エストロゲンは、ER陽性の乳癌細胞の増殖を増大する;そして
(f)エストロゲンは、サイクリンD1、c-myc、c-fosのような、増殖促進遺伝子の産生を増加する。
【0017】
[0020] 乳腺腫瘍のおよそ60から70%は、エストロゲン受容体を含有している。この数十年間、乳腺腫瘍はERの存在について分析されてきた。ER+(エストロゲン受容体陽性)腫瘍のおよそ70%は、抗エストロゲン療法に応答性がある。この観察結果は、ER+腫瘍が、ER陰性腫瘍に比べて予後が良好であるという見解を導くものである。しかしながら、ERβの発見がこれらの解釈を複雑にし、またいくつかの重要な臨床的質問を引き起こしている。ERαおよびERβの役割を理解することは最も重要性のあることで、これは腫瘍がER+であるかどうかを決定する現在の方法がERαのみを検出する抗体を使用しているためである。そのため、臨床結果に対する乳腺腫瘍におけるERの効果を調べるほとんどの研究は、ERαの状態のみを反映している。しかしながら、最近のいくつかの研究では、ヒト乳腺腫瘍中のERβ mRNAの存在を検出している。ほとんどの研究では、ERβの測定をRT-PCRに頼っているが、これはERβに対する特異的で感度の高い抗体が得られていないためである。Dotzlawらは、RT-PCRによって乳腺腫瘍バイオプシー中のERβを最初に検出した。彼らは乳腺腫瘍の70%がERβを発現し、90%がERαを発現していることを見出した。さらに、彼らはいくつかのER陰性細胞株もまた、ERβのmRNAを発現していることを示した。これらの知見は、ERβが乳腺腫瘍で高発現しており、多くの腫瘍ではERαおよびERβのどちらもしばしば共発現していること、また実際にいくつかのER-腫瘍においてもERβが含まれていたことを示唆した。Dotzlawらはまた、ERβmRNAが、ER+/PR-(PRはプロゲスチン受容体である)の腫瘍においては、ER+/PR+の腫瘍と比較して顕著に低いことを示した。この著者らは、ER+/PR+の腫瘍はタモキシフェンに対してより応答性があるらしいことから、この観察結果は、ERβ発現が予後不良と関連があることを示していると示唆した。他の研究は、ERβの存在が予後不良に関与していると示唆している。Speirsらは、ほとんどの乳腺腫瘍ではERβmRNAが単独で発現するか、またはERαmRNAとともに発現していることを見出した。ERαおよびERβ双方のmRNAを発現しているこれらの腫瘍は陽性リンパ節と関連し、より高いグレードの腫瘍として特徴付けられる傾向にあった。さらに、化学発癌物質で処理したMCF-10F細胞中でERβ発現の増加が引き起こされたことから、ERβの発現が、乳癌の開始および進行に寄与している可能性を示唆している。近年、Jensenらは、免疫組織化学(IHC)により、29の浸潤性乳腺腫瘍中でのERβ発現を分析した。彼らは、ERβ発現が細胞増殖の特異的マーカーであるKi67およびサイクリンAの上昇と関連していることを見出した。さらに、これらの増殖マーカーのもっとも高い発現は、ERα+/ERβ+の腫瘍で存在した。ERα-/ERβ+という症例数は極めて少数(n=7)であったが、筆者らは、ERβが乳腺腫瘍における細胞増殖を仲介していることを示唆した。Speirsらはまた、タモキシフェン耐性の腫瘍ではタモキシフェン感受性腫瘍と比較して、ERβmRNAが有意に上昇していることを報告した。
【0018】
[0021] 対照的に、他の研究はERβの存在が良好な予後を与えることを示唆している。Iwaoらは前浸潤腫瘍から浸潤性腫瘍へと進行する乳腺腫瘍において、ERαのmRNAは発現が上昇し、ERβのmRNAは発現が低下することを実証した。凍結腫瘍切片のIHCを用い、JarvinenらはERβ発現が腋窩リンパ節転移陰性、低いグレード、および低いS期分画と関連していることを見出した。Omotoらの研究はまた、ERβを含む腫瘍では無病生存率が高かったことから、ERβ陽性腫瘍はERβ陰性腫瘍に比べて予後が良好であることと相関することを見出した。ERβ発現はまた、プロゲステロン受容体の存在と高分化型の乳腺腫瘍と強い関連性を示した。またERβのレベルは、正常な乳腺組織で最も高く、前癌性病変から癌性病変への腫瘍の進行に応じて減少することが報告されている。これらの研究は、ERβが腫瘍抑制因子として機能している可能性を示しており、またERβの喪失が、乳癌の発症を促進することを示している。Mannらの研究により、10%以上の癌細胞でのERβの発現は、タモキシフェンで治療された女性の生存率向上に関連していることが示された。これらの研究結果を総合すると、ERβの存在が、良好な予後を与えることを示している。RT-PCRおよびIHCのデータの一致は、ERβのアデノウィルス媒介性の発現が、ER陰性細胞株、MDA-MB-231の増殖のリガンド非依存的阻害という結果となることを示していることの報告である。
【0019】
[0022] これらの結果は、乳癌の病変形成および予後におけるERβの役割が不明であることを示す。いくつかの理由によりこれらの研究の中での明らかな矛盾について説明出来る。第一に、ERβmRNAおよびERβタンパク質の間での希薄な相関関係という可能性である。この知見はリガンド結合アッセイでERが検出されないいくつかのER陰性細胞株で、ERβmRNAが存在していたことと一致している。第二に、IHCによる研究では、特異性や感受性について特徴づけがほとんどなされていない市販ERβ抗体を用いたことである。第三に、結論のほとんどは、数例の乳癌症例に基づいていることである。明確に、より多くの研究が乳癌におけるERαおよびERβの役割を明らかにするために必要とされる。
【0020】
[0023] 乳癌のアジュバント療法(adjuvant therapy)としてのSERMおよび化学的予防の役割:エストロゲンが乳癌細胞の増殖を促進するため、いくつかの治療法が乳腺腫瘍に対するエストロゲンのこの効果をブロックするように実行されている。卵巣切除、抗エストロゲン剤、性腺刺激ホルモン放出ホルモンアナログ(gonadotropin releasing hormone analog;GnRHアナログ)またはアロマターゼ阻害剤を含むこれらの戦略が、エストロゲン産生の減少またはエストロゲン作用のブロックのいずれかによって機能する。これらの戦略全ては、ERαおよびERβの両方の作用を非選択的にブロックする。臨床的に乳腺腫瘍の予防と治療のための最も一般的な方法は、選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)、タモキシフェン、およびラロキシフェンである。
【0021】
[0024] タモキシフェンは、乳房などのいくつかの組織ではアンタゴニスト作用を示すため、SERMのプロトタイプである非ステロイド性トリフェニルエチレン誘導体であるが、子宮内膜や骨などの他の組織においてはアゴニスト作用がある。タモキシフェンは、エストロゲン受容体陽性乳癌女性における乳腺腫瘍の再発を減少させるためのアジュバント療法として、その臨床的有効性が広範に研究されている。5年間のタモキシフェン治療は、再発のリスクを42%、乳癌による死亡率を22%、および第二次対側性原発乳腺腫瘍を減少させる。およそ2/3のER陽性乳腺腫瘍はタモキシフェンに応答するのに反し、ER陰性腫瘍の女性患者でのタモキシフェン補助による利点があることを示す証拠は極めて少数である。ごく最近、米国乳癌予防トライアル(Breast Cancer Prevention Trial:BCPT)は、乳癌に高いリスクとなると考えられてきた女性において、浸潤性の原発性乳癌のリスクをタモキシフェンが49%減少することを実証した。これらの研究はタモキシフェンが乳癌経歴を持つ女性に第一に選択する効果的なアジュバント療法であり、乳癌発症について高リスクである女性への効果的な化学的予防薬であることを実証している。
【0022】
[0025] ラロキシフェンは、近年骨粗鬆症の予防および治療のために承認された、SERMのベンゾチオフェン類の一つである。ラロキシフェンは、乳癌女性のアジュバント療法としての有効性は評価されていない。しかしながら、MORE(The Multiple Outcomes of Raloxifene Evaluation)試験は、乳癌予防に対するラロキシフェンの効果を評価した。MORE試験は、骨粗鬆症の7705人の閉経後女性を対象に行われた3年間のランダム化プラセボ対照試験であった。MORE試験では40ヶ月間の中央値追跡調査をしたところ、プラセボを受け取った2576人の女性中27件(RR=0.24)であったのに対し、ラロキシフェン投与群の5129人の女性の中から13件の乳癌が見出された。タモキシフェンと同様、ラロキシフェンはエストロゲン受容体陰性腫瘍の減少には効果的ではないが、エストロゲン受容体陽性腫瘍の発生率の減少に効果的である。乳癌の促進におけるエストロゲンの役割の付加的証拠は、ラロキシフェンは検出可能レベルの血清エストラジオールを有する閉経後女性の乳癌のみを予防することを示す最近の研究に由来する。
【0023】
[0026] エストロゲン受容体の構造:SERMがER陽性腫瘍に対してのみ働くという事実は、乳房に対するその保護効果を発揮するために、SERMがエストロゲン受容体と相互作用することが必要であることを示唆している。これまでに知られている2つのエストロゲン受容体、ERαおよびERβは、核内ステロイド受容体スーパーファミリーに属している。ERαは1986年に最初にクローン化され、驚くべきことに約10年後に第二のERが発見され、ERβと命名された。ERαは595アミノ酸残基を含み、一方ERβは530アミノ酸残基を含む。どちらの受容体も3つの異なるドメインから形成されたモジュールタンパク質である。アミノ末端側ドメイン(A/Bドメイン)は保存領域が少なく、ERαおよびERβ間で15%の相同性を示す。このドメインはエストラジオール非存在下でも遺伝子の転写活性を活性化できる活性化機能(activation function:AF-1)を有する。ERの中央領域には、2つのジンクフィンガー(zinc finger)モチーフがあり、このモチーフが標的遺伝子のプロモーター上に位置する3塩基で仕切られた反転したパリンドローム反復配列に結合する。ERαおよびERβ中のDNA結合ドメイン(DBD)は実質的に同一であり、95%の相同性を示した。
【0024】
[0027] カルボキシ末端側ドメインは、いくつかの必須機能を実行するリガンド結合ドメイン(LBD)を含む。LBDは、ER二量体形成に関わる複数の領域および、エストロゲン様化合物が結合する大きな疎水性ポケットの形成をする領域を含む。LBDはまた、共調節タンパク質(coregulatory protein)と相互作用する二番目の活性化機能(AF-2)を含む。AF-2はエストロゲン活性化と遺伝子転写の抑制の両方に必要である。ERαとERβのLBDは、約55%の相同性しかない。ERαとERβ中のLBDのアミノ酸組成の著しい違いは、異なる転写の役割を持つERを作るために進化した可能性がある。このことはERαおよびERβが異なる遺伝子の活性を調節し、また異なる生理的効果を誘発することを可能にするであろう。この知見は、ERαおよびERβノックアウトマウスによる研究により支持される。例えば、ERβノックアウトマウスは正常な乳腺および子宮を発生したのに反し、ERαノックアウトマウスは乳房および子宮の発生が未熟であった。これらの観察結果は、ERαのみがこれらの組織の発生に必要であることを示す。その上、ERαは遺伝子の活性化についてERβに比べてより効果的である一方、ERβは遺伝子転写抑制についてERαに比べてより効果的である。
【0025】
[0028] エストロゲン作用のメカニズム:エストロゲンは、遺伝子転写を活性化または抑制化することが出来る。遺伝子の転写活性化には、古典的なエストロゲン応答要素(estrogen response element; ERE)経路およびAP-1経路の、2つの特徴づけられた経路がある。エストロゲンが遺伝子の転写を調節するために必要な少なくとも3つの必須成分、ER(ERαおよび/またはERβ)、標的遺伝子のプロモーター要素、および共調節タンパク質である。エストラジオールのERへの結合は、立体構造変化を引き起こす転写経路を開始するいくつかの重要段階を結果としてもたらす。最初に、E2のERとの相互作用は、シャペロンタンパク質の解離を引き起こす;このことは形成されたER二量体の表面およびDNA結合ドメインを露出する。シャペロンタンパク質の喪失により、ERは二量体化することができるとともに、標的遺伝子のプロモーター領域中のEREに結合することができる。
【0026】
[0029] 第二に、E2の結合はERのAF-2機能を構築する表面を作成するために、ERのLBDのヘリックス12を動かす。AF-2は、ERのヘリックス3、5、および12からなる保存された疎水性ポケットから構成され、SRC-1(steroid receptor coactivator-1;ステロイド受容体活性化補助因子1)またはGRIP 1(glucocorticoid receptor interacting protein 1;グルココルチコイド受容体相互作用タンパク質1)などのコアクチベーター(coactivator;活性化補助因子)タンパク質のpi60ファミリーのために結合表面を協同して形成する。コアクチベーター(コレギュレーター(coregulator)としても知られる)はAF-2のヘリックスによって囲まれた疎水性のクレフト(cleft)へと突き出る、LXXLLからなるいくつかの反復アミノ酸モチーフを含む。このコアクチベーターは、ヒストンアセチラーゼ活性を持つ。ERおよびコアクチベータータンパク質がERE上で複合体を形成してDNAに結合するヒストンタンパク質のアセチル化が引き起こされた後、遺伝子活性化が起こると考えられる。ヒストンのアセチル化が、クロマチン構造を変化させ、それによりER/コレギュレーター複合体が、遺伝子転写を開始するために標的遺伝子のTATAボックス領域を構築する、EREと基本的な転写調節タンパク質間に架橋を形成できる。
【0027】
[0030] ERE経路におけるSERMの効果:エストロゲンとは異なり、SERMはERE経路を活性化しない。その代わりに、SERMはEREにおけるエストロゲンの効果を競合的にブロックする。エストロゲンのように、SERMはERαおよびERβと高い親和性で結合し、シャペロンタンパク質の解離、ERの二量体形成およびEREへのERの結合を引き起こす。したがって、SERMのアンタゴニスト作用は、プロモーター領域へのERの結合に対して遠位の段階で起こる。SERMのアンタゴニスト作用の分子的メカニズムは、ERαおよびERβのリガンド結合ドメイン(LBD)の結晶解析によって明らかになっている。E2、タモキシフェン、ラロキシフェンが同じ結合ポケットに結合することは、ERのLBDの構造から明らかである。しかしながらタモキシフェンおよびラロキシフェンは、E2では欠失している巨大な側鎖を含んでいる。ERのX線構造解析はSERMの巨大な側鎖が、機能的なAF-2表面形成を防ぐ、LBDの移動を妨げることを明らかにした。意外にも、SERMがERαと結合するとき、LXXLLモチーフに似たヘリックス12の配列(LXXML)は、コアクチベーター認識部位を塞ぐためにAF-2表面の疎水性クレフトと相互作用する。したがって、エストロゲンと異なり、SERMは機能的なAF-2表面を作製しない;このことはコアクチベーターの結合を防ぐ。コアクチベータータンパク質はSERM存在下ではAF-2表面と結合しないため、活性化経路は急激に停止される。補充されるコアクチベーターの代わりに、SERMとリガンドしたERはN-CoRなどのコリプレッサーを補充する。
【0028】
[0031] これらの研究はSERMのアンタゴニスト特性が少なくとも3つの因子によることを実証した。第一に、SERMはエストロゲンと同一の結合ポケットに結合し、エストロゲンのERへの結合を競合的にブロックする。第二に、SERMは、ERとERE経路の転写活性化に必要なコアクチベータータンパク質との相互作用を防ぐ。第三に、SERMは遺伝子の転写活性化を防ぐコリプレッサーを補充する。SERMのこれらの作用は、乳癌の発症を阻害するためにどのようにラロキシフェンやタモキシフェンが乳房細胞中でアンタゴニストとして作用するか、最もよく説明している。
【0029】
[0032] SERMはまた、AP-1要素を有する遺伝子の活性化ではE2より効果的である。実際、E2はAP-1要素のSERM媒介による活性化のアンタゴニストである。SERMがAP-1経路活性化により、骨や子宮内膜などの組織においてアゴニスト作用を示すと仮定される。興味深いことに、SERMはERβ存在下ではAP-1経路をより強力に活性化し、このことはSERMがERβを豊富に含む組織中でより効率的にAP-1経路の引き金になる可能性を示す。エストロゲンはSERMに比べてAP-1経路の活性化をする力がかなり弱いため、エストロゲンによって媒介された乳癌発症におけるAP-1経路の役割は不明瞭である。しかしながら、AP-1経路は、乳腺腫瘍におけるタモキシフェン抵抗性に関わることが提唱されている。
【0030】
[0033] 本発明の態様に従い、研究を行って、以下のことを示した:ERE-tk-Lucの活性化に、ERβはERαより弱い;TNF-RE-tk-Lucの抑制に、ERβはERαより効果的である;そして、ERβはERE-tk-LucのERαに媒介された転写活性化を阻害する。詳細な実験は後述する実施例の項で議論される。
【0031】
[0034] 本発明は、分類学的にMorus alba L.種植物由来の抽出液を含む植物抽出物組成物を提供する。「抽出物」は、抽出液を形成する、抽出媒体(溶媒)に植物材料由来の化学的組成物を一種類以上引き出すのに適した条件下で、植物材料と抽出媒体を接触させることによって調製された材料の組成物である。抽出液はその後、植物材料と分離され、そして抽出物を形成するため、希釈または濃縮してもよい。
【0032】
[0035] 本発明の抽出物は、Morus alba L.植物種の植物材料から得られた植物化学物質を含む。植物材料については後にさらに詳述する。
[0036] Morus alba L.種はまた、ホワイトマルベリー、ロシアンマルベリー、シルクワームマルベリーのように、いろいろな名前で呼ばれている。これらは樹木もしくは灌木として、世界中、一般的には温帯性から熱帯性気候で栽培される。様々な栽培種が利用出来、一般的にはNurseries社のような会社から得ることが出来る。
【0033】
[0037] 抽出媒体は、例えば、水やエタノールなどの、適切な液体溶媒である。抽出媒体はいくつかの場合では、水、エタノール、または他の比較的極性の液体溶媒である。いくつかの場合では、抽出媒体は希釈または濃縮される。抽出物が残留物(残留抽出物)を形成する場合は、抽出媒体は完全に濃縮されてもよい。そのため、抽出物は、最小で一種類または複数の植物由来化合物(植物化学物質)を含み、溶媒に溶解してもよい。濃縮された抽出物、または残留抽出物は、再構成抽出物を形成するため、例えば、水および/またはエタノールなどの適切な希釈液を添加することにより再構成されてもよい。
【0034】
[0038] 本発明の組成物には、純粋な抽出物(水溶性抽出物またはエタノール抽出物、濃縮抽出物、残留抽出物)を含む植物抽出物、および一種類以上の添加成分とこのような抽出物との結合物が含まれる。本発明の組成物には、固体、半固体、液体、コロイド状等、様々な形状が含まれる。本発明による組成物が、医薬品用途について意図される場合、添加成分は薬剤として許容されるものである。本発明による組成物が生体に直接向けられたものではなくアッセイまたは他の用途を目的とする場合は、(1または複数の)添加成分は薬剤として許容されるものもしくは許容されないもののいずれかであってもよい。
【0035】
[0039] 適切な添加成分には、溶媒が含まれる。溶媒は、薬剤として許容されるものおよび許容されないものに細分化することができる。このような文脈においては、事前に選択されたpHおよび/またはpH範囲、例えば約2から約8、より具体的には約4.0から約7.5、およびより具体的には約4.9から約7.2にpHを調整された緩衝液化された注射用水(water for injection:WFI)を含むいくつかの薬剤として許容できる溶媒として理解される。
【0036】
[0040] 薬剤として許容できる溶媒は、さらに一種類以上の、薬剤として許容できる酸、塩基、塩、またはキャリアー(carrier)、賦形剤などの他の化合物を含んでもよい。薬剤として許容できる酸には、HCl、H2NO4、H3PO4、安息香酸などが含まれる。薬剤として許容できる塩基には、NaOH、KOH、NaCO3などが含まれる。薬剤として許容できる塩には、NaCl、NaBr、KClなどが含まれる。酸および塩基は、特定の、事前に選択されたpH、特に約2から8の範囲のpH、より具体的には約5.0から約7.2の範囲のpHの薬剤として許容できる水溶液を、緩衝液化するために適切な比率で加えることができる。
【0037】
[0041] 本発明の抽出物は、経口、静脈内、皮下、腹腔内、鼻腔内に投与されるか、吸入されるか、または例えば経鼻経管栄養チューブ(NGチューブ)を通して胃に直接投与してもよい。投与される抽出物の量は、患者の体重、年齢、体調、および要求される治療上のエンドポイント(endpoint)によって異なる。投与される抽出物の量は、抽出物を凍結乾燥または蒸発させて乾燥させるときの固体残留物の乾重量として簡便に表せる。したがって、本発明の抽出物を含む治療用溶液の同量の乾重量は、治療用溶液中に含まれる乾燥抽出物の量である。その同量の乾重量は、UV/Vis(紫外/可視)分光光度計のような当該技術分野で公知の測定方法によって測定できる。この方法は、既知量の希釈液中の既知濃度の乾燥抽出物の検量線の準備と、光学密度(O.D.)に対する濃度の検量線の準備を必要とする。一度検量線が準備されれば、次に治療用溶液中の乾燥抽出物重量の濃度は、溶液のO.D.を得ること、およびその値を検量線上の相当する濃度に相関することによって測定されることが出来る。一般的に、本発明による治療用組成物は、約0.001μg/mLから約1mg/mLの乾燥抽出物を含む。本発明の抽出物の治療に用いる一日量は、患者の徴候、年齢、および体重によって異なり、通常は患者の体重1キログラムあたり約0.1μgから100mgの範囲である。
【0038】
[0042] 本発明による植物抽出物は、エストロゲン応答要素(ERE)の調節下で遺伝子のエストロゲンの活性化を提供する。したがって、いくつかの細胞では、本発明の植物抽出物はエストロゲン様特性を持つ:すなわちEREおよびER(ERα、ERβ、またはその両方)を含む細胞と本発明の植物抽出物との接触が、EREの調節下で遺伝子の刺激を生じさせた。in vitroの細胞系において、本発明のエストロゲン様植物抽出物によるEREにより媒介された活性化は、EREに機能可能に連結した遺伝子発現を引き起こす。具体的な態様では、最小チミジンキナーゼプロモーターおよびルシフェラーゼ遺伝子を連結したEREとのERのエストロゲン的な相互作用は、ルシフェラーゼ発現の増加が生じる。したがって、本発明の植物抽出物は、ルシフェラーゼなどのレポーター遺伝子と機能的に連結したEREを含むプロモーターを有するERα+細胞株、ERβ+細胞株、および/またはERα+/ERβ+細胞株の同定に使用することが出来る。本発明の植物抽出物はまた、ER+細胞株中のエストロゲン様効果を有する化合物の同定に、標準品としても含む、アッセイ試薬として使用することも出来る。
【0039】
[0043] 一つのその様なアッセイ方法として、本発明の植物抽出物は、最初に既知活性または既知濃度として調製される。本発明の植物抽出物の定量は、容器の風袋を量り、植物抽出物の既知量を容器中で測定し、残留物を作製するために蒸発または凍結乾燥により植物抽出物を濃縮して、そして容器と植物抽出物の重量を測定することにより簡便に行える。容器と植物抽出物を加えた重量および風袋の重量の差が、植物抽出物の乾重量である。植物抽出物の量に対する植物抽出物の乾重量の比が、1ユニット量中の濃度である。植物抽出物は、その濃度を特定するために前記定量方法の結果を使用して初期形状として使用することができる。その残留物は、水または他の適した溶媒システムを添加して、既知の濃度の植物抽出液を形成することにより再構成されることが出来る。
【0040】
[0044] 一度植物抽出物の濃度が決定されると、検量線が調製できる。通常ER+細胞は植物抽出物と接触させ、そしてエストロゲン様活性に関連するシグナルが記録される。具体的には、あるER+細胞は、EREの調節下でレポーター遺伝子を有している。そのER+細胞は、加えられた植物抽出物の量に比例してレポーターシグナルを生じさせる、本発明の植物抽出物と接触させる。この段階は、同じ植物抽出物濃度で、異なる植物抽出物濃度で、またはその両方で、複数の試料を用いて行われてもよい。例として、9つの試料は以下のように試験することができる:最初の3つを第一の濃度として、次の3つは第一の濃度の3.3倍(half log)の濃度で、さらに次の3つは初期濃度の10倍(whole log)の濃度で、試験することができる。レポーターシグナルは、観察および記録され、得られるデータポイント(レポーターシグナル強度に対する植物抽出物濃度)は従来からの曲線近似法(例えば最小二乗法)によって検量線に近似される。
【0041】
[0045] 候補化合物のエストロゲン様効果を評価するため、候補化合物は、EREの調節下でレポーター遺伝子を有するER+細胞に接触させた。レポーター遺伝子シグナルは観察され、候補化合物の相対的エストロゲン様効果を定量化するため検量線と比較された。
【0042】
[0046] 前記方法に用いられたER+細胞株は、例えばヒト由来ER+乳房細胞癌細胞株のような自然にERを発現する細胞株であってもよい。いくつかの態様では、ER+組織は、例えば不死化骨髄細胞株、または乳房細胞株のような、不死化ヒト細胞株である。典型的な細胞株には、ヒト単球、骨芽細胞、悪性乳癌、不死化上皮乳房細胞株が含まれる。言及することができる特定の細胞株には、U937、U2OS、MDA-MB-435およびMCF-7細胞株が含まれる。不死化細胞株を含む他のER+細胞株もまた、使用することができる。あるいは、ER+細胞株は、ER発現ベクターによって形質転換されたバクテリア細胞のような、自然にはエストロゲン受容体を発現しない細胞株であってもよい。
【0043】
[0047] ER+細胞株は、レポーター遺伝子を制御するEREを含むプロモーターを有するベクターで形質転換される。例えば、ベクターは、ERE、最小チミジンキナーゼプロモーター(tk)、ルシフェラーゼ遺伝子(Luc)を含むウィルスベクターであってもよい。構築物は、標的細胞中に、既知の方法によってトランスフェクトされ、ERE-tk-Lucシステムの発現は、例えば既知量のE2の存在下での推定ER+細胞上で前記アッセイを行うことなどにより確認される。ER+細胞の形質転換の成功を検証する他の方法には、既知のER抗体を用いた免疫染色が含まれる。
【0044】
[0048] EREを含むプロモーターは、ERE配列およびプロモーター配列を含むDNAである。そのプロモーター配列は、最小チミジンキナーゼ(tk)プロモーター配列などの、当該技術分野において認識されるプロモーター配列である。他のEREを含むプロモーターが可能であり、そして本発明の範囲内である。EREおよびプロモーター配列は、レポーター遺伝子の発現制御に協調して操作する。本明細書に記述するように、エストロゲン様化合物(例えば、植物抽出物またはE2)はERに結合し、ERの二量体化を生じそしてAF-2表面を形成させる。ER二量体は、その後EREに結合し、プロモーターの調節下で遺伝子を活性化する。いくつかの態様では、EREはプロモーターの5'側の上流に直接的に連結される。
【0045】
[0049] レポーター遺伝子は、それが発現すると、検出可能なシグナル量を生じる遺伝子である。ルシフェラーゼ遺伝子は、単一の試薬であるルシフェリンの存在下で、検出できる光シグナルを生成するルシフェラーゼタンパク質を生じるため、適切なレポーター遺伝子である。具体的には、ルシフェラーゼ遺伝子のcDNAは、62 kDaの酵素タンパク質であるルシフェラーゼを産生するように発現される。ルシフェラーゼ酵素は、Mg2+および酸素存在下でのルシフェリンとATPとの反応を触媒して、オキシフェリン、AMPおよびピロリン酸(PPi)を形成して光を放出する。放出された光は、黄色から緑色(560 nm)で、標準的な光度計を用いて容易に検出出来る。細胞内にはATP、O2およびMg2+が元々存在していることから、検出シグナル産生のために、このレポーター遺伝子は、ルシフェリン試薬の添加のみを要求し、本発明のアッセイの使用には特に適している。言及することができる他のレポーター遺伝子として挙げられるものとしては、当技術分野で許容されているクロラムフェニコールアセチル基転移酵素(chloramphenicol transacetylase:CAT)、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neomycin phosphotransferase:neo)、およびβ-グルクロニダーゼ(beta-glucuronidase:GUS)である。
【0046】
[0050] 本発明のいくつかのアッセイ方法では、一種類以上のエストロゲン様化合物やSERMなどとの比較によって、標準植物抽出物をさらに特徴づけることが有用である。このようなアッセイ方法は本質的には前記のように実行され、方法の適切な部分での植物抽出物のために標準エストロゲン様化合物および/またはSERMを適切に置換させる。
【0047】
[0051] 本発明に従った植物抽出物はまた、TNF-RE媒介経路による遺伝子発現を抑制する。いくつかの場合は、本発明の植物抽出物は、特にTNF-REの調節下でレポーター遺伝子(例えばルシフェラーゼ(Luc)遺伝子)を有する細胞内で、in vitroでの遺伝子発現を抑制する。いくつかの場合は、本発明の植物抽出物は、単球およびマクロファージによって最初に産生されるサイトカインである、TNF-αの発現を抑制する。このサイトカインは、滑膜細胞および多様な組織中のマクロファージで見られ、また慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)に強く関係している。TNF-αは、他の炎症性疾患でも発現され、および細菌由来のエンドトキシンに対する応答としても発現される。TNF-REリプレッサー経路経由でのTNF発現のリプレッサーとして、本発明の植物抽出物はTNFの上昇したレベルに付随した炎症性障害の治療としても興味深い。
【0048】
[0052] 本発明のいくつかの態様では、細胞株はTNF-REの調節下でレポーター遺伝子と同様、ERαおよびERβのいずれか、または両方を発現出来る。TNF-REは一般的に、レポーター遺伝子の上流(5'側)であり、シグナル検出は本明細書で既に記載した方法により行われる。
【0049】
[0053] 前記細胞であるTNF-REを含む細胞系はさらに、1コピー以上のER遺伝子、すなわちERα、ERβ、またはその両方、を含む。前記方法に用いられるER+細胞株は、例えばヒト由来ER+乳癌細胞株のような自然にERを発現する細胞株であってもよい。いくつかの態様では、ER+組織は、例えば不死化骨髄細胞株、または乳房細胞株のような、不死化ヒト細胞株である。典型的な細胞株には、ヒト単球、骨芽細胞、悪性乳癌、不死化上皮乳房細胞株が含まれる。言及することができる特定の細胞株には、U937、U2OS、MDA-MB-435およびMCF-7細胞株が含まれる。不死化細胞株を含む他のER+細胞株もまた使用することができる。あるいは、ER+細胞株は、ER発現ベクターによって形質転換されたバクテリア細胞のような、自然にはERを発現しない細胞株であってもよい。
【0050】
[0054] あらかじめ決定された量のルシフェリン存在下、あるいは例えばE2または本発明の植物抽出物などのエストロゲン様化合物の非存在下で、この細胞系は、「コントロール強度」または「ベースライン強度」と呼ばれる強度で、黄色の光(560 nm)強度を放出する。560 nmの光放出は、光学密度ユニット(O.D.560nm)で簡便に定量化できる。例えばE2または本発明の植物抽出物の一つなどのエストロゲン様化合物の添加に際して、560 nmの光放出強度はコントロールに比べて減弱する。意外にも、タモキシフェンやラロキシフェンなどのSERMの存在下で、ルシフェラーゼ発現は増加し、560 nmの光放出強度もまた増加する。したがって、本発明の植物抽出物は、エストロゲン様TNF-RE制御された遺伝子発現の抑制を誘発することができる。
【0051】
[0055] TNF-REを含む細胞系は、本発明に従ったアッセイ方法に使用出来る。本発明のアッセイ方法では、ルシフェラーゼ活性の減弱(すなわち560 nmの光放出の減少)は、エストロゲン様活性の増加と相関し、一方ルシフェラーゼ活性の活性化(すなわち560 nmの光放出の増加)は、抗エストロゲン様活性と相関する。検量線は、本明細書中に記載したように既知量の本発明の植物抽出物を用いて調製することが出来る。このような検量線は、他の既知のエストロゲン様標準、または抗エストロゲン様の標準、例えばE2または他の公知のエストロゲン様化合物、および/またはタモキシフェンまたはラロキシフェンのような抗エストロゲン様SERMを用いてさらに拡大できる。
【0052】
[0056] 次いで、形質転換されたER+細胞株由来の細胞は、候補化合物に曝露され、ルシフェラーゼシグナル観察、および本明細書中に記載された事前に準備された検量線とシグナル比較を行う。コントロール(ベースライン)に比較してルシフェラーゼ活性の増加を引き起こす化合物は、抗エストロゲン様SERMとして特徴づけられるようになり、一方でルシフェラーゼ活性の減少を引き起こす化合物は、エストロゲン様として分類されるようになる。このエストロゲン様効果、または抗エストロゲン様効果は、ルシフェラーゼ発現の減少または増加の程度を、本発明の植物抽出物によって引き起こされた減少と比較することにより、そしてE2、タモキシフェン、および/またはラロキシフェンによって引き起こされたそれぞれのシグナルの減少または増加に対する比較によって、定量化されることが出来る。
【0053】
[0057] 本発明の植物抽出物組成物はまた、EREとのE2−ERの相互作用にアンタゴナイズする。特に、Morus alba L.の抽出物はERαおよびERβと直接的に相互作用することによりE2によるERE-tk-Lucの活性化をアンタゴナイズすることが示されている。EREによってコントロールされた遺伝子のE2−ERのアンタゴニストと同様、発明的植物抽出物組成物は、タモキシフェンと同様の効果であり、乳癌および子宮癌に対する予防的、対症的、および/または抗増殖活性を持つと考えられる。
【0054】
[0058] 本発明は、本発明の組成物を用いたin vivoでのエストロゲン様方法を提供する。通常、in vivoでの方法は、被験体のエストロゲン様作用をもたらすために充分な植物抽出物の量を被験体へ投与することを含む。in vivoでの方法は、エストロゲン様のEREの調節下で遺伝子の活性化、TNF-REの調節下で遺伝子の抑制(例えばTNF-α抑制)、またはその両方を生じる。したがって、このin vivoでの方法は、in vivoで様々な陽性の表現型効果を生じる。
【0055】
[0059] 被験体は、マウス、ラット、ウサギ、サル、チンパンジー、イヌ、ネコ、またはヒツジのようなほ乳類であってもよく、一般的にはメスである。被験体はまた、ヒト、特にヒトの女性でもよい。いくつかの態様では、被験体は、閉経後、または卵巣全摘出後の、エストロゲン治療が必要な女性である。このような場合、被験体は、一過性熱感、不眠症、膣の乾燥、性欲減退、尿失禁、および抑うつなどの更年期症状によって悩まされている場合がある。他の場合、被験体は、骨粗鬆症に感受性であり、または患っている場合がある。適したin vivoの方法には、エストロゲン補充療法に応答性の医学的症例の治療および/または予防が含まれる。
【0056】
[0060] 本発明にしたがった組成物の投与は、1つ以上の植物抽出物がそのような経路経由により標的組織に利用できる限り、一般的に使用される投与経路を介して行われるであろう。言及することができるいくつかの投与経路には、以下に挙げるものが含まれる:経口、鼻、頬部、直腸、膣および/または局所的(経皮)。あるいは、投与は正所性、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、または静脈内注射でもよい。このような組成物は、上記に記載された、薬剤として許容できる組成物として、通常は投与される。
【0057】
[0061] 疾患、障害、症候群、症状、または症候の治療(treatment)(およびその文法的な変形として例えば治療する、治療すること、治療されたなど)は、臨床医が、このような治療を受ける被検体を同定し、および被験体への本発明の組成物を投与するという段階を含む。したがって治療は疾患、症候群、症状、または症候の診断を含み、これは被験体への本発明のエストロゲン様植物抽出物の投与による寛解、緩和、改善、除去、治癒に適する。いくつかの態様では、治療は疾患、障害、症候群、症状、症候の開始を防止または遅延し(すなわち予防法)、疾患、障害、症候群、症状、症候の進行を防止または遅延し、および/あるいは疾患、障害、症候群、症状、症候の重症度を減少することを意味する。特に、腫瘍増殖の場合は、治療には、腫瘍増殖の逆転、停止、または遅延ならびに寛解を含む。またこの点で、治療には、完全および部分寛解を含む寛解が含まれる。更年期症状の場合は、治療には、多様な症状の予防および寛解を含む。
【0058】
[0062] 疾患、障害、症候群、症状、または症候の予防(prevention)(およびその文法的な変形)には、疾患、障害、症候群、症状、または症候の発生するリスクがある被検体を同定し、およびその被験体へ前記の疾患、障害、症候群、症状、または症候の開始を除去または遅延するために適した充分量の本発明の植物抽出物を投与することが含まれる。いくつかの場合は、予防には、相当の医療水準を適用して、ホルモン補充療法の必要性があると臨床医が考える閉経後の女性を同定すること、そして、本発明の植物抽出物を女性に投与して、それにより1つ以上の更年期症状がブロックされるかあるいは遅延されることが含まれる。いくつかの態様では、骨粗鬆症の予防には、相当の医療水準を適用して、骨粗鬆症発症の危険性があると臨床医が考える閉経後の女性を同定すること、そして骨量減少の開始がブロックされるかあるいは遅延されるように本発明の植物抽出物を投与することを含む。
【0059】
[0063] 寛解には、疾患、障害、症候群、症状または症候の重症度、および出現数および/または頻度を減少することが含まれる。更年期症状の寛解には、一過性熱感、不眠症、尿失禁、抑うつなどの頻度および/または重症度を減少させることが含まれる。
【0060】
[0064] 骨粗鬆症治療には、骨量減少の危険性がある閉経後女性などのヒトの同定、および本発明の植物抽出物を投与して、それにより女性の骨量減少の重症度の減少、開始の遅延、または予防することが含まれる。いくつかの態様では、骨粗鬆症の治療は骨量の増加を含むことが出来る。
【0061】
[0065] 本発明はさらに、Morus alba L.の本発明の抽出物の作成方法を提供する。具体的には、本発明は、本発明のエストロゲン様植物抽出物の作成方法を提供する。この方法には、Morus alba L.種の植物由来の植物材料を多量に得ること、植物材料を細分してもよいこと、前記植物材料と抽出媒体とを接触させること、抽出媒体から植物材料を分離することが含まれる。
【0062】
[0066] いくつかの態様では植物種Morus alba L.の植物種はMorus alba L.の様々な栽培種である。
[0067] 植物材料はMorus alba L.種由来の少なくとも一つの植物の一部分または複数部分を意味する。植物材料には、植物全体、あるいは植物の根、樹皮、木質、花(または萼片、花弁、雄蘂、雌蘂など)、果実、種子などの一部分または複数部分および/または前記部分のいずれかの部分、または混合物が含まれる。植物材料は、新鮮な状態、乾燥状態(凍結乾燥を含む)、凍結状態などであってもよい。植物材料は、全体または小片に分離されてもよい。例えば、葉は切り刻まれ、細切りされ、またはすりつぶされてもよく;根は切り刻まれ、またはすりつぶされてもよく;果実は切り刻まれ、薄切りされ、または混合されてもよく;種子は切り刻まれ、またはすりつぶされてもよく;茎は細切りされ、切り刻まれ、またはすりつぶされてもよい。本発明の具体的な態様では、使用された植物部分は、Morus alba L.の葉である。
【0063】
[0068] 本発明の植物抽出物組成物は、少なくとも一種類のMorus alba L.の抽出物を含む。「抽出物」は、植物由来の一種類以上の構成成分を、植物材料から抽出溶媒に分配するために適した条件下で、抽出溶媒と植物部分を接触した結果の溶液、濃縮液、または残留物であり;その抽出溶媒をその後濃縮して、濃縮液または残留物を形成してもよい。
【0064】
[0069] 本発明に適した抽出溶媒には、水とエタノールが含まれる。具体的には、水を抽出溶媒とする場合、精製水が適している。精製水には、蒸留水、脱イオン水、注射用水、限外ろ過水、および他の様式によって精製された水が含まれる。本発明のいくつかの態様で使用されるエチルアルコールは、穀物エタノール、特に非変性エタノール(例えば純穀物エタノールで、例えば約10%まで加水されていてもよい)である。いくつかの態様では、抽出溶媒は水、エタノール、またはこれらの混合物である。濃縮液または残留物は、抽出液を(例えば蒸発または凍結乾燥によって)濃縮させることにより調製されてもよい。最初の抽出溶媒、濃縮液または残留物の形状にかかわらず、これらの調製物それぞれは、本発明の目的のための「抽出物」であると考えられる。
【0065】
[0070] 本発明による植物抽出物の生成方法は、植物材料の表面積対容積比増加させ、また同時に抽出プロセスの効率を上げるために、最初に植物材料を粉砕することをふくんでもよい。植物材料の粉砕方法には、すりつぶすこと、切り刻むこと、混合すること、細切りすること、微粉砕すること、ひいて粉にすることなどが含まれる。
【0066】
[0071] 抽出媒体(溶媒)はその後、植物材料から抽出媒体に一種類以上の植物化学物質、特にエストロゲン様植物化学物質を分配させるのに適した条件下で、植物材料と接触させる。このような条件には、いくつかの場合、抽出媒体の温度を室温以上に上げる加温、撹拌、接触時間などが含まれる。典型的な抽出温度は、約50℃から抽出溶媒の沸点までである。抽出溶媒が水である場合は、抽出温度は一般的に室温から約100℃であり;約50℃から約80℃が特に適しており、約75℃が特に適している。エタノールを抽出溶媒とした場合、抽出温度は一般的に室温から約78.5℃であり;約50℃から約78℃が特に適しており、約75℃が特に適している。当業者は、片や抽出効率、また片や植物化学物質化合物の安定性の間で適切なバランスを探し出せると認識される。
【0067】
[0072] 一度抽出媒体と植物材料が組み合わされると、エストロゲン様化合物が植物材料から抽出媒体へ充分に移行するように撹拌されてもよく、有用な量の植物化学物質化合物が植物材料から抽出媒体に抽出されるために十分な時間をおいて接触させておく。このような経過時間(例えば約5分から約10時間、より具体的には約10分から約5時間、とりわけ約30分から約2時間)の後、植物化学物質化合物を含む抽出媒体を植物材料から分離する。この分離は、当該技術分野において認識されている方法、例えばろ過、デカントなどによって行われる。
【0068】
[0073] 本発明による組成物には、本発明の植物抽出物または本発明の植物抽出物を含む組成物が含まれる。いくつかの態様では、本発明の組成物は一種類以上の添加成分を含んでもよい。このような添加成分は、不活性であってもまたは活性であってもよい。不活性成分には、溶媒、賦形剤、または他のキャリアーが含まれる。活性成分には、本発明の植物抽出物と組合せて、相乗的な活性を示すものを含む、活性医薬品成分(API)が含まれる。
【実施例】
【0069】
[0074] 本発明は、以下に説明される限定的ではない例の参照により、さらに完全に理解されうる。
実施例1:
[0075] ERE-tk-Lucの活性化に、ERβはERαよりも弱い:E2の転写活性化に対する作用は、ルシフェラーゼレポーターcDNAを連結した最小チミジンキナーゼ(tk)プロモーター、およびERαまたはERβの発現ベクターをトランスフェクトすることによって調査された。E2は、ヒト単球U937細胞において、ERα存在下ではERβ存在下に比べてEREの活性化を10倍高くしたが、EC50値は同程度であった。
【0070】
実施例2:
[0076] TNF-RE-tk-Lucの抑制にERβはERαよりも効果的である:E2のERαおよびERβ媒介性転写抑制に対する効果は、TNF-RE(tumor necrosis factor-response element:TNF-RE)として知られる、TNF-αプロモーター中の−125から-82の領域を用いて比較された。TNF-αは、tkプロモーターの上流にTNF-RE(−125〜−82)を有するもの(TNF-RE-tk-Luc)の3コピーを5-10倍活性化した。E2は、ERαおよびERβの存在下で、TNF-RE-tk-LucのTNF-α活性を60-80%抑制した。しかしながら、ERβはERαに比べて、抑制におよそ20倍効果的であった(それぞれの50%IC50は、ERαで241 pMであったのに対して、ERβで15 pM)。未変性の−1044〜+93のTNF-αプロモーターの抑制に、ERβはERαに比べてより効果的であることが見いだされた。したがって、ERβはERαよりも転写抑制に効果的である一方、ERαはERβよりも転写活性に非常に効果的である。E2と対照的に、抗エストロゲン剤であるタモキシフェン、ラロキシフェンおよびICI 182780は、TNF-RE-tk-Lucを2倍活性化した。さらに、これらの抗エストロゲン剤はE2によって誘発された抑制を無効にした。
【0071】
実施例3:
[0077] ERβは、ERE-tk-LucのERα媒介性転写活性化を阻害する:驚くべきことに、ERαまたはERβがU937細胞において共発現された場合、ERαにより活性化が著しく阻害された(図1)。これらのデータは、ERβがERαによるERE-tk-Lucの活性化に対して抑制的効果を有することを示す。同様の結果が乳癌細胞株、MDA-MB-435で観察された(図2)。他の研究者は異なる細胞型で、ERβのERαのトランス活性化に対する同様の抑制効果を見いだしている。これらの研究は、ERαおよびERβのERE-tk-Lucに対する異なる活性化、およびERα媒介性転写に対するERβの抑制効果が細胞型特異的ではないこと、ならびにERの内因的性質による結果であることを示唆する。二量体形成を防ぐERβのヘリックス11の変異がその抑制活性を阻害するため、ERβによるERαの抑制は、ERα/ERβヘテロ二量体の形成を必要とする(データ非掲載)。
【0072】
実施例4:
[0078] 材料および方法:試薬。フェノールレッドフリーのDulbecco改変Eagle's/F-12クーン修飾培地はSigma社から入手した。Biobreneはアプライドバイオシステムズ社から購入した。U937細胞株はAmerican Type Culture Collection(ATCC)から入手した。ヒト組換えTNF-αはR & D Systems社から入手した。
【0073】
[0079] プラスミド構築。ヒトTNF-α遺伝子由来のPstI〜AhaII断片(−1044〜+93)、pLTは、ルシフェラーゼcDNAの上流にクローン化された。5'側配列の欠損は、制限酵素部位を利用して構築し、すなわち、-125欠損についてはApaIおよび-82欠損についてはStyIを用いて構築された。-125から-82にかけてのヒトTNF-αプロモーター断片3コピー(TNF応答要素;TNF-RE)、または1コピーのカエルビテロゲニン(vitellogenin)A2遺伝子由来のERE(vitA2-ERE, 5'-TCAGGTCACAGTGACCTGA-3')(配列ID番号1)は、ルシフェラーゼに連結された単純ヘルペスチミジンキナーゼ(TK)プロモーターの-32から+45にかけての上流にライゲーションされた(それぞれ、TNF-RE-tk-Luc、ERE-tk-Luc)。ERβ変異体は、変異を含むオリゴヌクレオチドを用いて、QuikChange部位特異的変異生成キット(Stratagene社)で作成された。変異体は、変異の存在を検証するため、Sequenase kits(Amersham社)で配列決定された。
【0074】
[0080] 細胞培養、トランスフェクション、およびルシフェラーゼアッセイ − U937(ヒト単球)、U2OS(ヒト骨肉腫)、MDA-MB-435(ヒト転移性乳癌)、およびMCF-7(ヒト乳癌)細胞は、サンフランシスコ、カリフォルニア大学の細胞培養施設から入手した。U937細胞はこれまでに記載された方法によって維持され、一方U2OS、MDA-MB-435、およびMCF-7細胞は、5%のウシ胎児血清、2 mMグルタミン、50ユニット/mlペニシリン、および50μg/mlストレプトマイシンを含む、フェノールレッドフリーのDulbecco改変Eagle培地/F-12培地で維持、および継代された。実験には、細胞は回収され、キュベットに移され、3μgのレポータープラスミドおよび1μgのERαまたはERβ発現ベクターを用い、これまでに記載された方法によってBio-Rad gene pulserでエレクトロポレーションされた。エレクトロポレーションの後、細胞は培地中に再懸濁され、12穴のマルチプレート中に1 ml/ディッシュとなるようにプレーティングした。この細胞は、E2、ゲニステイン、ダイゼイン、またはビオカニンA(Sigma-Aldrich社)で3時間処理した後、5 ng/mlのTNF-α(R & D Systems社)で24時間、37℃で曝露した。細胞は200μlの1×溶解緩衝液で可溶化し、ルシフェラーゼ活性は市販のキット(プロメガ社)を用いて測定された。ルシフェラーゼ活性が50%誘導濃度(EC50)または50%阻害濃度(IC50)となるホルモン濃度はPrism曲線適合プログラム(Graph Pad Software社、version 2.0b)を用いて計算された。増殖に関する研究には、親細胞MCF-7細胞は0.1 nM E2存在下で1ウェル当たり1細胞となるようにサブクローン化され、最も早く増殖したクローンが実験用に選抜された。RT-PCRによって測定されたように、これらの細胞はERαをもっぱら発現した。これらの細胞は処理済み牛胎児血清を3%含む細胞培養培地を入れた35 mmプレートあたり、25000細胞の密度になるように2重でプレーティングされた。培養した次の日にE2またはゲニステインの濃度が増加するように処理した。培地は一日おきに交換するとともに、E2またはゲニステインは培地に添加された。8日後に細胞数はコールター細胞計数器を用いて測定された。図中にある全ての実験は、少なくとも3回行われ、データは実験間でほぼ同様の値を示した。
【0075】
[0081] Morus alba L.の調製。:Morus alba L.のサンプルは、市販の電気ハーブグラインダーを用いて微粉末にした;5グラムを秤量してa)50 mlの100%エタノール中、またはb)50 mlの蒸留水中で、75℃45分間弱火で煎じて抽出された。抽出物(aおよびb)はデカントし、そして可溶性物質のみ用いられた。
【0076】
[0082] 結果:U2OS骨細胞中の選択的エストロゲン受容体調節活性は、ルシフェラーゼアッセイによって測定された。USOS骨肉腫細胞は、最小チミジンキナーゼ(tk)プロモーターの上流に古典的ERE(ERE-tk-Luc)およびヒトERαまたはERβの発現ベクターをコトランスフェクションさせた。ERβおよびERαERβとの、ERE-tk-LucのMorus alba L.活性化は、1μl/mlのMorus alba L.では4.67倍、1μl/mlのERαでは4.03倍の活性化を生じた。これらの結果は、Morus alba L.が直接ERβと相互作用することによってERE-tk-Lucを活性化していることを示唆する。
【0077】
[0083] Morus alba L.の転写抑制効果を調査するため、TNF-αプロモーター(TNF-α-応答要素:TNF-RE)の、-125から-82の領域がTNF-α活性化およびE2抑制を媒介するため、この領域が用いられた。E2はU2OS細胞において、トランスフェクトされたERαまたはERβのいずれかと、最小tkプロモーター上流のTNF-RE(TNF-RE-tk-Luc)のTNF-α活性化を顕著に抑制した。E2はERβに対するTNF-α活性を無効に出来る(100%抑制)が、ERαに対しては出来ない(73.3%抑制)。Morus alba L.は、ERβ存在下では(109.6%)およびERα存在下では(102.8%)、TNF-REのTNF-α活性化を大部分抑制した。これらの結果は、Morus alba L.が直接ERβおよびERαと相互作用することによってTNF-RE-tk-Lucを介してTNF-α活性化を抑制することを示唆する。
【0078】
[0084] これらの実験から、エストロゲン活性に効果的なMorus alba L.抽出物の最低用量は1.2μgである。しかしながら、他の細胞系ではこの数値は変動すると予想される。
[0085] 本発明の好ましい態様が本明細書中で示されまた説明されるが、このような態様が例としてのみ提供されるものであることは、当業者には明白であろう。今や、当業者なら、本発明から逸脱することなく、多数のバリエーション、変更、および置換を思いつくであろう。ここに記載した本発明の態様の多様な代替が、本発明を実施する際に利用されうることを理解されるべきである。後述する請求項は本発明の範囲を定義し、またこれらの請求項およびそれらの均等物の範囲中にある方法および構造が、それによって保護されることが意図されている。
【0079】
[0086] 本明細書中に引用した全ての参考文献はそれら全体を本明細書中に援用する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
[0015] 本発明の新規な特徴は、本書に添付した請求の範囲に詳述される。本発明の特徴および利益のより良い理解は、後述される詳細な説明および以下の添付図面を参照することによって得られる、発明の原理が利用されている例証される態様を説明する。
【図1】[0016] 図1は、最小チミジンキナーゼ(thymidine kinase;tk)プロモーターおよびルシフェラーゼ(luciferase;Luc)をコードする配列を持つベクターに連結したエストロゲン応答要素をコードするDNA配列を用いて形質転換したU937(ヒト単球)細胞における、エストロゲン受容体α(ERα)またはエストロゲン受容体β(ERβ)の存在下で、あるいはこれら両方の存在下で、様々な濃度のエストラジオール(estradiol;E2)に応答したルシフェラーゼ発現を示したグラフである。E2存在下において、ERβは、ERαよりもはるかに低いエストロゲン応答要素への促進効果を有する。
【図2】[0017] 図2は、最小チミジンキナーゼ(thymidine kinase;tk)プロモーターおよびルシフェラーゼ(luciferase;Luc)をコードする配列と連結したエストロゲン応答要素をコードするDNA配列を用いて形質転換したMDA-MB-435(ヒト転移性乳癌)細胞における、エストロゲン受容体α(ERα)またはエストロゲン受容体β(ERβ)の存在下で、あるいはこれら両方の存在下で、様々な濃度のエストラジオール(estradiol; E2)に応答したルシフェラーゼ発現を示したグラフである。E2存在下において、ERβは、ERαよりもはるかに低いエストロゲン応答要素への促進効果を有する。意外にも、この細胞株において、ERαおよびERβを同時発現させた場合、ERβの発現はエストラジオール存在下において、ERαのERβの促進効果を大幅に減少させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分類学的にMorus alba L.種から選択される植物種の抽出物を含む、植物抽出組成物。
【請求項2】
抽出物が、水溶性抽出物またはエタノール抽出物である、請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
抽出物が、エタノール抽出物である、請求項1に記載の抽出物。
【請求項4】
被検体に対して、エストロゲン様作用の発現を促すために(estrogenically)有効な量の請求項1に記載の抽出物を投与することを含む、エストロゲン様作用を誘導する方法。
【請求項5】
抽出物が、水溶性抽出物またはエタノール抽出物のいずれかである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
抽出物が、エタノール抽出物である、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
エストロゲン様作用が:少なくとも1つの更年期症状を治療または予防すること;骨粗鬆症を治療または予防すること;子宮癌を治療または予防すること;そして心臓血管疾患を治療または予防すること;からなる群から選択される少なくとも1つの作用である、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
エストロゲン様作用が、一過性熱感、不眠症、膣の乾燥、性欲減退、尿失禁、およびうつを治療または予防することからなる群から選択される少なくとも1つの更年期症状を治療または予防することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
エストロゲン様作用が、骨粗鬆症を治療または予防することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
エストロゲン様作用が、一過性熱感を治療または予防することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
エストロゲン様作用が、子宮癌を治療または予防することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
ある遺伝子に対して機能可能に連結されたエストロゲン応答要素およびエストロゲン受容体を有する細胞に対して、その遺伝子を活性化するために十分な量の請求項1に記載の組成物を投与することを含む、エストロゲン応答要素の調節下、ある遺伝子を活性化する方法。
【請求項13】
細胞がin vitroのものである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
細胞がin vivoのものである、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
細胞が、ERα+乳房組織中のものである、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
細胞が、ERβ+乳房組織中のものである、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
細胞が、ERα+/ERβ+乳房組織中のものである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
エストロゲン応答要素が、形質転換細胞中で発現される、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
エストロゲン応答要素およびエストロゲン受容体の両方ともが、形質転換細胞中で発現される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
エストロゲン応答要素が、細胞中で異種的に発現される、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
エストロゲン応答要素およびエストロゲン受容体の両方ともが、細胞中で異種的に発現される、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
細胞が、EREにより調節される遺伝子により形質転換されたU937、U20S、MDA-MB-435、およびMCF-7細胞からなる群から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項23】
細胞が、ERαを発現する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
細胞がERβを発現する、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
EREにより調節される遺伝子が、ERE-tk-Lucである、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
TNF応答要素の調節下におけるある遺伝子およびエストロゲン受容体を含む細胞に対して、TNF-REにより調節される遺伝子を抑制するために有効な量の請求項1に記載の組成物を投与することを含む、TNF-REにより調節される遺伝子の発現を抑制する方法。
【請求項27】
TNF-REにより調節される遺伝子が、TNF-αである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
TNF-REにより調節される遺伝子が、TNF-RE-Lucである、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
細胞が、in vitroのものである、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
細胞が、in vivoのものである、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
細胞が、ER+乳房組織中のものである、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
細胞が、ERα+乳房組織中のものである、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
細胞が、ERβ+乳房組織中のものである、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
TNF応答要素が、細胞中で内在性に発現される、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
TNF応答要素とエストロゲン受容体が両方とも、細胞中で内在性に発現される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
TNF応答要素が、細胞中で異種的に発現される、請求項26に記載の方法。
【請求項37】
TNF応答要素およびエストロゲン受容体の両方ともが、細胞中で異種的に発現される、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
細胞が、エストロゲン受容体遺伝子を含有し、TNF応答要素により調節される遺伝子により形質転換されており、U937、U2OS、MDA-MB-435、およびMCF-7細胞からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項39】
エストロゲン受容体遺伝子が、ERαを発現する遺伝子である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
エストロゲン受容体遺伝子が、ERβを発現する遺伝子である、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
Morus alba L.種の植物からある量の植物材料(plant matter)を得ること、そしてその植物材料(plant matter)を水を含む抽出媒体と約25℃〜100℃の間の温度で接触させること、そして抽出媒体をその植物から分離すること、を含む、請求項1に記載の植物抽出物を作製する方法。
【請求項42】
温度が、約50℃〜80℃のあいだである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
温度が、約75℃である、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
Morus alba L.種の植物からある量の植物材料(plant matter)を得ること、そしてその植物材料(plant matter)をエタノールを含む抽出媒体と約25℃〜約78℃の間の温度で接触させること;そして抽出媒体をその植物材料(plant matter)から分離すること、を含む、請求項1に記載の植物抽出物を作製する方法。
【請求項45】
温度が、約50℃〜78℃のあいだである、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
温度が、約75℃である、請求項44に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2008−524222(P2008−524222A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−546757(P2007−546757)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【国際出願番号】PCT/US2005/044362
【国際公開番号】WO2006/065608
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(507200569)バイオノボ・インコーポレーテッド (24)
【Fターム(参考)】