説明

N−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体の製造方法

【課題】N−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体を優先的に製造する新規な方法を提供する。
【解決手段】下記式(I)


(但し、Rは、炭素数1〜5のアルキル基、Rは、炭素数1〜5のアルキル基、又はフェニル基、Rは、メチル基、又はエチル基である。)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体と下記式(II)


で示される亜リン酸エステル誘導体を、ルイス酸存在下で反応させることを特徴とする、N−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体の新規な製造方法である。詳しくは、N−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体とリン酸エステル誘導体とを反応させて得られるN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2位にアシル基、5位にホスホニル基を有するピロリジン誘導体は、エンドセリン転換酵素阻害剤等の生理活性物質の前駆体として極めて重要な化合物である。通常、不斉炭素を有する有機化合物を生理活性物質の前駆体として使用する場合には、不斉炭素の絶対配置によって生理活性が異なるため、混合物としての使用は避け、単一化合物として使用するのが一般的である。
【0003】
2位にアシル基、5位にホスホニル基を有するピロリジン誘導体は、ピロリジン環の2位および5位が、不斉炭素であるため、(2S)−アシル−(5S)−ホスホニルピロリジン誘導体、(2S)−アシル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体、(2R)−アシル−(5S)−ホスホニルピロリジン誘導体、(2R)−アシル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体の四つの異性体が存在し、目的に合わせて、四つの異性体から一つが選ばれて使用される。このため、これら四つの異性体の内、一つの化合物を優先的に製造できる技術は、工業的に極めて重要な技術となる。
【0004】
これら四つの異性体の内、2位の絶対配置がSとなる二つの異性体に関しては、天然物として入手が容易なL−ピログルタミン酸を出発物質として用いれば、既に2位の絶対配置がSと決定しているため、後は5位のホスホニル基を導入する際に、5位の絶対配置を決めればよいため、合成は極めて容易となる。具体的な製造方法としては、窒素原子を保護基で保護したN−保護−L−ピログルタミン酸メチルエステル誘導体を、アルゴン雰囲気下、−78℃、リチウムトリエチルハイドロボレートで還元することでヘミアセタール体に変換した後、無水酢酸を用いて水酸基をアシル化し、次いで、ルイス酸存在下、トリアルキルリン酸を用いて5位にホスホニル基を導入する合成方法が知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ジャーナル オブ オーガニック ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)2006年、71巻、7号、2760−2778頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、かかる方法においては、生成するN−保護−2−オキシカルボニル−5−ホスホニルピロリジン誘導体は、いずれも絶対配置が(2S)、(5S)となる異性体が優先的に生成しており、(2S)、(5R)が優先的に生成する製造方法は知られていない。
【0007】
また、上記方法においては、−78℃という低温において還元反応を実施しなければならないため、工業的により有利な製造方法の開発が望まれていた。
【0008】
したがって、本発明の目的は、高選択的にN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体を製造する方法を提供することにある。さらには、工業的により有利な方法でN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる実情に鑑み、本発明者らは鋭意検討した結果、窒素原子の保護基をアシル基としたN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体を出発物質として、ルイス酸存在下、リン酸エステル誘導体を反応させることによって、絶対配置が(2S)、(5R)となる2位にオキシカルボニル基、5位にホスホニル基を有するピロリジン誘導体であるN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体をより優先的に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記式(I)
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、
は、炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、炭素数1〜5のアルキル基、又はフェニル基であり、
は、メチル基、又はエチル基である。)
で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体と下記式(II)
【0013】
【化2】

【0014】
(式中、
は、炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基である。)
で示される亜リン酸エステル誘導体を、ルイス酸存在下で反応させることを特徴とする、
下記式(III)
【0015】
【化3】

【0016】
(式中、
、およびRは、前記式(I)におけるものと同義であり、
は、前記式(II)におけるものと同義である。)
で示されるN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、N−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体から亜リン酸エステル誘導体を用いて、N−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体を優先的に製造することが出来る。さらに、比較的温和な条件でも製造が可能なため、本発明の方法は、工業的利用価値が非常に高い。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体と上記式(II)で示される亜リン酸エステル誘導体を、ルイス酸存在下で反応させ、上記式(III)で示されるN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体を製造するものである。まず、原料となるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体について説明する。
【0019】
(N−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体)
本発明において、原料となるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体は、下記式(I)
【0020】
【化4】

【0021】
(式中、
は、炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、炭素数1〜5のアルキル基、又はフェニル基であり、
は、メチル基、又はエチル基である。)
で示される化合物である。
【0022】
上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体は、得られるN−アシル−2−オキシカルボニル−5−ホスホニルピロリジン誘導体の構造を決定する上で非常に重要である。
【0023】
上記式(I)中のRは、炭素数1〜5のアルキル基である。
【0024】
ここで炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等が挙げられる。これらの基の中でも、調製が容易という点で、メチル基、エチル基が好ましい。
【0025】
上記式(I)中のRは、炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基である。ここで炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等が挙げられる。これらの基の中でも、調製が容易という点で、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基が好ましい。
【0026】
上記式(I)中のRは、メチル基又はエチル基である。
【0027】
これら基を有する上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体を具体的に例示すると、N−アセチル−α−メトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−アセチル−α−メトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−アセチル−α−メトキシ−L−プロリンn−プロピルエステル、N−アセチル−α−メトキシ−L−プロリンイソプロピルエステル、N−アセチル−α−メトキシ−L−プロリンn−ブチルエステル、N−プロピオニル−α−メトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−プロピオニル−α−メトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−プロピオニル−α−メトキシ−L−プロリンn−プロピルエステル、N−プロピオニル−α−メトキシ−L−プロリンイソプロピルエステル、N−プロピオニル−α−メトキシ−L−プロリンn−ブチルエステル、N−ブタノイル−α−メトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−ブタノイル−α−メトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−ブタノイル−α−メトキシ−L−プロリンn−プロピルエステル、N−ブタノイル−α−メトキシ−L−プロリンイソプロピルエステル、N−ブタノイル−α−メトキシ−L−プロリンn−ブチルエステル、N−ベンゾイル−α−メトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−ベンゾイル−α−メトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−ベンゾイル−α−メトキシ−L−プロリンn−プロピルエステル、N−ベンゾイル−α−メトキシ−L−プロリンイソプロピルエステル、N−ベンゾイル−α−メトキシ−L−プロリンn−ブチルエステル、N−アセチル−α−エトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−アセチル−α−エトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−アセチル−α−エトキシ−L−プロリンn−プロピルエステル、N−アセチル−α−エトキシ−L−プロリンイソプロピルエステル、N−アセチル−α−エトキシ−L−プロリンn−ブチルエステル、N−プロピオニル−α−エトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−プロピオニル−α−エトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−プロピオニル−α−エトキシ−L−プロリンn−プロピルエステル、N−プロピオニル−α−エトキシ−L−プロリンイソプロピルエステル、N−プロピオニル−α−エトキシ−L−プロリンn−ブチルエステル、N−ブタノイル−α−エトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−ブタノイル−α−エトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−ブタノイル−α−エトキシ−L−プロリンn−プロピルエステル、N−ブタノイル−α−エトキシ−L−プロリンイソプロピルエステル、N−ブタノイル−α−エトキシ−L−プロリンn−ブチルエステル、N−ベンゾイル−α−エトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−ベンゾイル−α−エトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−ベンゾイル−α−エトキシ−L−プロリンn−プロピルエステル、N−ベンゾイル−α−エトキシ−L−プロリンイソプロピルエステル、N−ベンゾイル−α−エトキシ−L−プロリンn−ブチルエステル等を挙げることができる。
【0028】
これらの中でも特に、原料として調製が容易な、N−アセチル−α−メトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−アセチル−α−メトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−プロピオニル−α−メトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−プロピオニル−α−メトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−ブタノイル−α−メトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−ブタノイル−α−メトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−ベンゾイル−α−メトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−ベンゾイル−α−メトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−アセチル−α−エトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−アセチル−α−エトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−プロピオニル−α−エトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−プロピオニル−α−エトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−ブタノイル−α−エトキシ−L−プロリンメチルエステル、 N−ブタノイル−α−エトキシ−L−プロリンエチルエステル、N−ベンゾイル−α−エトキシ−L−プロリンメチルエステル、N−ベンゾイル−α−エトキシ−L−プロリンエチルエステル等が特に好適である。
【0029】
これらN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体の幾つかは試薬として入手可能である。また、入手できない場合には、N−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体の前駆体である下記式(IV)
【0030】
【化5】

【0031】
(式中、Rは、およびRは、上記式(I)におけるものと同義である。)
で示されるN−アシル−L−プロリンアルキルエステル誘導体のα位を公知の方法でアルコキシ化することで製造できる。本発明に供されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体の構造に応じて、N−アシル−L−プロリンアルキルエステル誘導体を選択し、公知の方法でアルコキシ化してやればよい。
【0032】
上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体のR、Rと上記式(IV)で示されるN−アシル−L−プロリンアルキルエステル誘導体のR、Rと同一である。そのため、本発明に供されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体の構造が決まれば、N−アシル−L−プロリンアルキルエステル誘導体の構造も一義的に決定される。
【0033】
N−アシル−L−プロリンアルキルエステル誘導体のα位をメトキシ化あるいはエトキシ化(アルコキシ化)する方法としては、種々の方法が知られているため、特に限定されるものではない。アルコキシ化する方法の一例を例示すると、メタノール、あるいはエタノール溶媒中、テトラエチルアンモニウムトリフルオロボレートのような四級アンモニウム塩存在下、陽極に炭素、陰極に白金を用いて、定電流酸化する方法等を挙げることができる。このような方法によって製造されたN−アシル−α−メトキシ−L−プロリン誘導体、およびN−アシル−α−エトキシ−L−プロリン誘導体が、亜リン酸エステル誘導体との反応に使用できる。
【0034】
次に、亜リン酸エステル誘導体について説明する。
【0035】
(亜リン酸エステル誘導体)
本発明で使用する亜リン酸エステル誘導体は、下記式(II)
【0036】
【化6】

【0037】
(式中、
は、炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基である。)で示される化合物である。
【0038】
上記式(II)において、Rは、炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基である。ここで炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等が挙げられる。これらの基の中でも、反応性を考慮すると、Rは、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基であることが好ましい。さらに、より高い選択性を発揮するという点でメチル基、エチル基、イソプロピル基、n−ブチル基、フェニル基であることが好ましい。
【0039】
上記亜リン酸エステル誘導体は、三価の亜リン酸エステル誘導体であれば試薬として入手できるものを特に制限なく使用できる。具体的な亜リン酸エステル誘導体を例示すると、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリイソプロピル、亜リン酸トリn−ブチル、亜リン酸トリフェニル、亜リン酸トリベンジル等を挙げることができる。これらのリン酸エステル誘導体の中でも特に、上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体と反応して高い選択性を示す、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリイソプロピル、亜リン酸トリn−ブチル、亜リン酸トリフェニル、等が好適に使用される。
【0040】
本発明において、亜リン酸エステル誘導体の使用量は、特に制限はないが、上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体とは量論反応であるため、理論的には該N−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体と等モル量使用することが好ましい。ただし、工業的な生産を考慮すると、亜リン酸エステル誘導体の使用量は、N−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体1モルに対して、1〜5モルとすることが好ましく、さらに、1〜3モルとすることが好ましい。
【0041】
次に、ルイス酸について説明する。
【0042】
(ルイス酸)
本発明に使用するルイス酸としては、通常試薬として入手可能なルイス酸が何ら制限なく使用できる。これら塩基類を具体的に例示すると、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、トリフルオロメタンスルホン酸アルミニウム、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、トリフルオロメタンスルホン酸鉄、塩化錫、臭化錫、ヨウ化錫、トリフルオロメタンスルホン酸錫、塩化チタン(IV)、臭化チタン(IV)、ヨウ化チタン(IV)、フッ化アンチモン(III)、フッ化アンチモン(V)、塩化アンチモン(III)、塩化アンチモン(V)、臭化アンチモン(III)、臭化アンチモン(V)、トリフルオロメタンスルホン酸セリウム、トリフルオロメタンスルホン酸ハフニウム、トリフルオロメタンスルホン酸ランタニウム、トリフルオロメタンスルホン酸ネオジウム、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム、トリフルオロメタンスルホン酸イットリウム、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホネート等を挙げることができる。これらの中でも、高い選択性と収率を与えるという理由から、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、塩化アルミニウム、塩化鉄、塩化錫、等を使用するのが特に好適である。
【0043】
本発明で使用するルイス酸の量は、特に制限されるものではないが、あまり量が多いと後処理工程が煩雑となる上に、生成物の分解反応に寄与する可能性が高くなり、あまり量が少ないと反応の転化率が低くなるため、通常、上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体1モルに対して0.5〜5モル、特に0.8〜4モルの範囲から選択するのが好適である。
【0044】
次に、上記N−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体と上記亜リン酸エステル誘導体とを反応させて、該N−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体をリン酸エステル化する反応条件、および得られた生成物、該生成物の同定方法、および精製方法について説明する。
【0045】
(リン酸エステル化の反応、生成物、および精製方法)
本発明は、ルイス酸存在下、上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体と上記式(II)で示される亜リン酸エステル誘導体を反応させるが、この反応(以下、この反応を単に、リン酸エステル化反応とする場合もある)は、有機溶媒中で行うことが好ましい。
【0046】
本発明において、リン酸エステル化反応に使用する有機溶媒は、上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体、及びルイス酸に対して不活性な溶媒であれば、何等制限なく使用できる。これらの有機溶媒を具体的に例示すれば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルカーボネート等のカーボネート類、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル類、へキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類等を挙げることができる。
【0047】
これらの有機溶媒の中でも特に、高い収率と反応速度が期待できるという理由から、塩化メチレン、クロロホルムのハロゲン化炭化水素類等、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類を使用するのが特に好適である。
【0048】
本発明で使用する有機溶媒の量は、特に制限されるものではないが、あまり量が少ないとバッチあたりの収量が減少する傾向にあり、経済的ではなく、あまり量が多いと攪拌等に支障をきたす。そのため、通常、上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体濃度が0.1〜70重量%、さらには1〜60重量%となるような量を使用するのが好ましい。
【0049】
本発明において、リン酸エステル化反応は、上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体、ルイス酸、および亜リン酸エステル誘導体を混合することにより実施できる。この際、反応系に原料(N−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体、および亜リン酸エステル誘導体)、ルイス酸を添加する順序は、特に制限されるものではない。一般的には、有機溶媒中で、上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体と亜リン酸エステルを混合攪拌した後に、ルイス酸を添加することが好ましい。
【0050】
このとき、反応温度としては、使用する、上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体、ルイス酸、及び亜リン酸エステル誘導体の種類によって異なるため、一義的に限定できないが、あまり温度が低いと反応速度が著しく遅くなり、あまり温度が高いと副反応を助長するおそれがある。そのため、本発明の方法においては、−50℃未満の温度下でも実施することは可能であるが、通常、−50〜60℃、好ましくは、−30〜30℃の範囲であることが好ましい。中でも、本発明によれば、比較的温和な条件でも反応を実施することができる。そのため、0〜30℃の範囲でも副反応を抑制することができる。また、反応時間としては、収率に応じて適宜決定すればよいが、通常、0.1〜40時間もあれば十分である。
【0051】
本発明において、カルボニル化反応は、常圧、減圧、加圧のいずれの状態でも実施可能である。また、該反応は、空気中で実施してもよいし、或は窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性気体雰囲気下で実施してもよい。
【0052】
上記リン酸エステル化反応によって、下記式(III)
【0053】
【化7】

【0054】
(式中、
、およびRは、前記式(I)におけるものと同義であり、
は、前記式(II)におけるものと同義である。)
で示されるN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体を優先的に製造することができる。
【0055】
本発明において、上記式(III)で示されるN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体の構造は、使用する上記式(I)で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体と上記式(II)で示される亜リン酸エステル誘導体の構造によって決定される。
【0056】
なお、本発明の方法によれば、N−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体を優先的に製造できるが、その異性体であるN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5S)−ホスホニルピロリジン誘導体も、反応物に含まれる。以下、N−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体、およびその異性体であるN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5S)−ホスホニルピロリジン誘導体をまとめて、N−アシル−(2S)−オキシカルボニル−5−ホスホニルピロリジン誘導体とする場合がある。このようなN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−5−ホスホニルピロリジン誘導体は、新規物質であると考えられる。
【0057】
このN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−5−ホスホニルピロリジン誘導体の構造は、下記(i)〜(iii)のいずれか二つ以上の方法により確認することができる。
【0058】
(i)H−核磁気共鳴スペクトルを測定することにより、化合物中に存在する水素原子の結合様式を知ることができる。例えば、7.0〜8.0ppm付近にベンゼン環の水素のスペクトルを示し、4.4〜5.0ppm付近に窒素原子のα位の水素のスペクトルを示す。
【0059】
(ii)赤外吸収スペクトルを測定することにより、化合物の官能基に由来する特性吸収を観察することができる。例えば、1750cm−1付近および1650cm−1付近にC=Oの吸収スペクトルを示す。
【0060】
(iii)MSスペクトルを測定し、上記式(III)で示されるN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−5−ホスホニルピロリジン誘導体の分子量を決定することができる。
【0061】
次に、本発明において、上記リン酸エステル化反応によって得られた反応物から目的とするN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−5−ホスホニルピロリジン誘導体を分離精製する方法について説明する。目的物を分離精製する方法は、反応物(混合物)を公知の単離精製方法、例えば、溶媒抽出、再結晶、カラム分離(シリカゲルクロマトグラフィー)、およびこれらの方法を組み合わせた方法等により精製してやればよい。中でも、得られた反応物を水洗し、非水溶性溶媒、例えば、上記ハロゲン化炭化水素類溶媒、または上記芳香族炭化水素類により抽出を行った後、目的物であるN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−5−ホスホニルピロリジン誘導体を単離精製することが好ましい。より具体的な単離精製方法を例示すれば以下の方法を挙げることができる。先ず、反応終了後の反応液を水に投入する。次いで、塩化メチレンで抽出し、得られた有機溶媒を硫酸マグネシウム等の乾燥剤で乾燥した後、溶媒を留去し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィーによって分離してやればよい。こうすることにより、N−アシル−(2S)−オキシカルボニル−5−ホスホニルピロリジン誘導体を分離精製することができる。
【0062】
本発明によれば、このように分離精製したN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−5−ホスホニルピロリジン誘導体は、上記式(III)で示されるN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5S)−ホスホニルピロリジン誘導体の生成比が非常に高いものとなる。具体的には、光学異性体分用カラム(例えば、ダイセル化学工業製キラルパックOD等)を装着した液体クロマトグラフィーを用いて、その生成比を確認することができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例を掲げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等制限されるものではない。
【0064】
実施例1
10mlの茄子型フラスコに、N−ベンゾイル−α−メトキシ−L−プロリンメチルエステル291mg(1mmol)、亜リン酸トリメチル332mg(2mmol)、塩化メチレン2mlを加え攪拌した。その後、この混合液に、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体246mg(2mmol)を加え、室温下で12時間反応させた後、反応液を10mlの水に投入し、塩化メチレンで抽出(20ml×3)を行った。抽出液を硫酸マグネシウムで乾燥させた後、溶媒を留去、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(展開液 n−ヘキサン:酢酸エチル=1:1)を用いて分離精製したところ、無色透明の液体を177mg取得した。
【0065】
得られた無色液体の赤外吸収スペクトルを測定した結果、1743cm−1と1655cm−1にカルボニル基に基づく吸収を得た。さらに核磁気共鳴スペクトル(σ:ppm:テトラメチルシラン基準:重クロロホルム溶媒)を測定した結果は次の通りである。
【0066】
【化8】

【0067】
7.52−7.37ppmに水素原子5個分のマルチプレットピークを観測し(f)のベンゼン環のプロトンに相当した。5.06−4.96ppmと4.78−4.72ppmに水素原子1個分のマルチプレットピークを観測し、(a)のメチン基のプロトンに相当した。4.61ppmに水素原子1個分のダブレットピークを観測し、(d)のメチン基のプロトンに相当した。3.83ppmに水素原子6個分のダブルダブレットピークを観測し、(g)のメチル基のプロトンに相当した。3.72ppm、3.39ppmに水素原子3個分のシングレットピークを観測し、(e)のメチル基のプロトンに相当した。2.78−2.04ppmに水素原子4個分のマルチプレットピークを観測し、(b)および(c)のメチレン基のプロトンに相当した。また、マススペクトル(EI−MS)を測定したところ、推定分子式C1520NOPに相当する計算値341.1028に対して、測定値341.1020となり、分子式の正当性を裏付けた。
【0068】
上記の結果から、無色液体が、N−ベンゾイルピロリジン−(2)−メトキシカルボニル−(5)−リン酸ジメチルエステルであることが明らかとなった。単離収率は、52%であった。また、この化合物の20℃の旋光度は[α]20=−102.9(C=1.90、エタノール)であった。
【0069】
また、高速液体クロマトグラフィーを用いて光学純度を測定したところ(カラム ダイセル化学工業製キラルパック、展開液 n−ヘキサン:イソプロピルアルコール=10:1 測定波長254nm)、光学純度は40%deであり、絶対配置は(2S)、(5R)であった。
【0070】
実施例2〜7
実施例1の塩化メチレンおよび三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体を表1に示した溶媒およびルイス酸に変えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。その結果得られたN−ベンゾイルピロリジン−(2S)−メトキシカルボニル−(5R)−リン酸ジメチルエステルの収率と光学純度を表1に示した。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例8
N−ベンゾイル−α−メトキシ−L−プロリンメチルエステルに代えて、N−ベンゾイル−α−エトキシ−L−プロリンメチルエステルを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、N−ベンゾイルピロリジン−(2S)−メトキシカルボニル−(5S)−リン酸ジメチルエステルの収率は、53%であり、光学純度は43%deであった。
【0073】
実施例9
実施例1の亜リン酸エステル誘導体を亜リン酸トリメチルに代えて、亜リン酸トリエチルを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、無色透明の液体を218mg取得した。
【0074】
得られた無色液体の赤外吸収スペクトルを測定した結果、1743cm−1と1655cm−1にカルボニル基に基づく吸収を得た。さらに核磁気共鳴スペクトル(σ:ppm:テトラメチルシラン基準:重クロロホルム溶媒)を測定した結果は次の通りである。
【0075】
【化9】

【0076】
7.52−7.39ppmに水素原子5個分のマルチプレットピークを観測し(f)のベンゼン環のプロトンに相当した。4.99−4.40ppmに水素原子2個分のマルチプレットピークを観測し、(a)および(d)のメチン基のプロトンに相当した。4.24−4.05ppmに水素原子4個分のマルチプレットピークを観測し、(g)のメチレン基のプロトンに相当した。3.70ppm、3.38ppmに水素原子3個分のシングレットピークを観測し、(e)のメチル基のプロトンに相当した。2.80−2.04ppmに水素原子4個分のマルチプレットピークを観測し、(b)および(c)のメチレン基のプロトンに相当した。1.35−1.32ppmに水素原子6個分のマルチプレットピークを観測し、(h)のメチル基のプロトンに相当した。また、マススペクトル(EI−MS)を測定したところ、推定分子式C1724NOPに相当する計算値369.1341に対して、測定値369.1351となり、分子式の正当性を裏付けた。
【0077】
上記の結果から、無色液体が、N−ベンゾイルピロリジン−(2)−メトキシカルボニル−(5)−リン酸ジエチルエステルであることが明らかとなった。単離収率は、59%であった。また、この化合物の20℃の旋光度は[α]20=−74.3(C=1.10、エタノール)であった。
【0078】
また、高速液体クロマトグラフィーを用いて光学純度を測定したところ(カラム ダイセル化学工業製キラルパック、展開液 n−ヘキサン:イソプロピルアルコール=10:1 測定波長254nm)、光学純度は43%deであり、絶対配置は(2S)、(5R)であった。
【0079】
実施例10
溶媒を塩化メチレンからクロロホルムに代えた以外は、実施例9と同様の操作を行った。その結果、生成物である、N−ベンゾイルピロリジン−2−メトキシカルボニル−5−リン酸ジエチルエステルを222mg(収率60%)取得した。光学純度は、40%deであり、絶対配置は(2S)、(5R)であった。
【0080】
実施例11
ルイス酸を三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体から塩化アルミニウムに代えた以外は、実施例9と同様の操作を行った。その結果、生成物である、N−ベンゾイルピロリジン−2−メトキシカルボニル−5−リン酸ジエチルエステルを229mg(収率62%)取得した。光学純度は、43%deであり、絶対配置は(2S)、(5R)であった。
【0081】
実施例12
実施例1の亜リン酸エステル誘導体を亜リン酸トリメチルに代えて、亜リン酸トリフェニルを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、無色透明の液体を79mg取得した。
【0082】
得られた無色液体の赤外吸収スペクトルを測定した結果、1746cm−1と1661cm−1にカルボニル基に基づく吸収を得た。さらに核磁気共鳴スペクトル(σ:ppm:テトラメチルシラン基準:重クロロホルム溶媒)を測定した結果は次の通りである。
【0083】
【化10】

【0084】
7.93−6.75ppmに水素原子15個分のマルチプレットピークを観測し(f)および(g)のベンゼン環のプロトンに相当した。5.88−5.29ppmに水素原子1個分のマルチプレットピークを観測し(a)のメチン基のプロトンに相当した。4.93−4.59ppmに水素原子1個分のマルチプレットピークを観測し、(d)のメチン基のプロトンに相当した。3.82−3.38ppmに水素原子3個分のマルチプレットピークを観測し、(e)のメチル基のプロトンに相当した。2.93−2.03ppmに水素原子4個分のマルチプレットピークを観測し、(b)および(c)のメチレン基のプロトンに相当した。また、マススペクトル(EI−MS)を測定したところ、推定分子式C2525NOPに相当する計算値465.1341に対して、測定値465.1339となり、分子式の正当性を裏付けた。
【0085】
上記の結果から、無色液体が、N−ベンゾイルピロリジン−(2)−メトキシカルボニル−(5)−リン酸ジフェニルエステルであることが明らかとなった。単離収率は、17%であった。また、この化合物の20℃の旋光度は[α]20=−148.2(C=0.80、エタノール)であった。
【0086】
また、高速液体クロマトグラフィーを用いて光学純度を測定したところ(カラム ダイセル化学工業製キラルパック、展開液 n−ヘキサン:イソプロピルアルコール=10:1 測定波長254nm)、光学純度は57%deであり、絶対配置は(2S)、(5R)であった。
【0087】
実施例13
溶媒を塩化メチレンからクロロホルムに代えた以外は、実施例12と同様の操作を行った。その結果、生成物である、N−ベンゾイルピロリジン−2−メトキシカルボニル−5−リン酸ジフェニルエステルを93mg(収率20%)取得した。光学純度は、56%deであり、絶対配置は(2S)、(5R)であった。
【0088】
実施例14
ルイス酸を三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体から塩化アルミニウムに代えた以外は、実施例12と同様の操作を行った。その結果、生成物である、N−ベンゾイルピロリジン−2−メトキシカルボニル−5−リン酸ジフェニルエステルを88mg(収率19%)取得した。光学純度は、60%deであり、絶対配置は(2S)、(5R)であった。
【0089】
実施例15
実施例1の亜リン酸エステル誘導体を亜リン酸トリメチルに代えて、亜リン酸トリイソプロピルを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、無色透明の液体を203mg取得した。
【0090】
得られた無色液体の赤外吸収スペクトルを測定した結果、1747cm−1と1655cm−1にカルボニル基に基づく吸収を得た。さらに核磁気共鳴スペクトル(σ:ppm:テトラメチルシラン基準:重クロロホルム溶媒)を測定した結果は次の通りである。
【0091】
【化11】

【0092】
7.56−7.32ppmに水素原子5個分のマルチプレットピークを観測し(f)のベンゼン環のプロトンに相当した。5.40−5.28ppm、5.10−4.45ppmに水素原子4個分のマルチプレットピークを観測し、(a)、(d)および(g)のメチン基のプロトンに相当した。3.71ppm、3.37ppmに水素原子3個分のシングレットピークを観測し、(e)のメチル基のプロトンに相当した。2.81−2.04ppmに水素原子4個分のマルチプレットピークを観測し、(b)および(c)のメチレン基のプロトンに相当した。1.37−1.06ppmに水素原子12個分のマルチプレットピークを観測し、(h)のメチル基のプロトンに相当した。また、マススペクトル(EI−MS)を測定したところ、推定分子式C1928NOPに相当する計算値397.1654に対して、測定値397.1657となり、分子式の正当性を裏付けた。
【0093】
上記の結果から、無色液体が、N−ベンゾイルピロリジン−(2)−メトキシカルボニル−(5)−リン酸ジイソプロピルエステルであることが明らかとなった。単離収率は、51%であった。また、この化合物の20℃の旋光度は[α]20=−74.6(C=4.60、エタノール)であった。
【0094】
また、高速液体クロマトグラフィーを用いて光学純度を測定したところ(カラム ダイセル化学工業製キラルパック、展開液 n−ヘキサン:イソプロピルアルコール=10:1 測定波長254nm)、光学純度は84%deであり、絶対配置は(2S)、(5R)であった。
【0095】
実施例16
溶媒を塩化メチレンからクロロホルムに代えた以外は、実施例15と同様の操作を行った。その結果、生成物である、N−ベンゾイルピロリジン−2−メトキシカルボニル−5−リン酸ジイソプロピルエステルを199mg(収率50%)取得した。光学純度は、81%deであり、絶対配置は(2S)、(5R)であった。
【0096】
実施例17
ルイス酸を三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体から塩化アルミニウムに代えた以外は、実施例15と同様の操作を行った。その結果、生成物である、N−ベンゾイルピロリジン−2−メトキシカルボニル−5−リン酸ジイソプロピルエステルを175mg(収率44%)取得した。光学純度は、85%deであり、絶対配置は(2S)、(5R)であった。
【0097】
実施例18
N−ベンゾイル−α−メトキシ−L−プロリンメチルエステルに代えて、N−アセチル−α−メトキシ−L−プロリンメチルエステルを用い。亜リン酸トリメチルに代えて、亜リン酸トリエチルを用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。その結果、無色透明の液体を220mg取得した。
【0098】
得られた無色液体の赤外吸収スペクトルを測定した結果、1750cm−1と1717cm−1にカルボニル基に基づく吸収を得た。さらに核磁気共鳴スペクトル(σ:ppm:テトラメチルシラン基準:重クロロホルム溶媒)を測定した結果は次の通りである。
【0099】
【化12】

【0100】
4.76−4.08ppmに水素原子6個分のマルチプレットピークを観測し、(a)、(d)のメチン基および(g)のメチレン基に相当した。3.81−3.68ppmに水素原子3個分のマルチプレットピークを観測し、(e)のメチル基のプロトンに相当した。2.84−1.90ppmに水素原子7個分のマルチプレットピークを観測し、(b)および(c)のメチレン基および(f)のメチル基のプロトンに相当した。1.39−1.24ppmに水素原子6個分のマルチプレットピークを観測し、(h)のメチル基のプロトンに相当した。また、マススペクトル(EI−MS)を測定したところ、推定分子式C1222NOPに相当する計算値307.1185に対して、測定値307.1191となり、分子式の正当性を裏付けた。
【0101】
上記の結果から、無色液体が、N−アセチルピロリジン−(2)−メトキシカルボニル−(5)−リン酸ジエチルエステルであることが明らかとなった。単離収率は、60%であった。また、この化合物の20℃の旋光度は[α]20=−21.1(C=0.90、エタノール)であった。
【0102】
また、高速液体クロマトグラフィーを用いて光学純度を測定したところ(カラム ダイセル化学工業製キラルセルOD−H、展開液 n−ヘキサン:イソプロピルアルコール=10:1 測定波長254nm)、光学純度は15%deであり、絶対配置は(2S)、(5R)であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

(式中、
は、炭素数1〜5のアルキル基であり、
は、炭素数1〜5のアルキル基、又はフェニル基であり、
は、メチル基、又はエチル基である。)
で示されるN−アシル−α−アルコキシ−L−プロリン誘導体と下記式(II)
【化2】

(式中、
は、炭素数1〜5のアルキル基、フェニル基、又はベンジル基である。)
で示される亜リン酸エステル誘導体を、ルイス酸存在下で反応させることを特徴とする、
下記式(III)
【化3】

(式中、
、およびRは、前記式(I)におけるものと同義であり、
は、前記式(II)におけるものと同義である。)
で示されるN−アシル−(2S)−オキシカルボニル−(5R)−ホスホニルピロリジン誘導体の製造方法。

【公開番号】特開2011−195480(P2011−195480A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62582(P2010−62582)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】