説明

N−アルキルアミン類の製造方法

【課題】 選択性よく高効率にN−アルキルアミン類を製造する。
【解決手段】 アミノ基に1以上の活性水素原子を有するアミン類と脂肪族アルコールとを脱水反応させてN−アルキルアミン類を製造するに際し、前記反応の触媒が酸化物触媒であり、該触媒が疎水化されていることを特徴とするN−アルキルアミン類の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はN−アルキルアミン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
安価な原料であるアルコールを原料としてアルキル化する例は、一官能性のアミン化合物の場合、(i)アミン化合物とアルコールとを水素ガス共存下、金属触媒を用いて還元アミノ化反応によりN−アルキル化を行う方法が、また、(ii)気相状態にて脱水反応を行うことによりアミン類のN−アルキル化が得られることは広く知られている。しかし、アルコールをアルキル化剤として用い、多官能性アミン化合物を選択的にN−アルキル化する場合は容易ではない。例えば、アミノアルコールを、アルコールをアルキル化剤としてN−アルキル化する場合は、アミノアルコールは分子内にアミノ基と水酸基を有するため、これらの方法ではアミノアルコール自身が環化あるいは縮合した化合物が副生し、目的とするN−アルキルアミノアルコールを得ることは難しい。
【0003】
アミノアルコールのような多官能性アミン化合物を選択的にN−アルキル化してN−アルキルアミノアルコールを製造する方法としては、アミノアルコールとアルデヒドを原料として用い、水素の共存下、金属触媒により液相条件で還元アミノ化反応を行う方法が広く知られている。この方法によれば、N−アルキルアミン化合物を選択率よく得ることができる。例えば、特許文献1には、モノエタノールアミンとホルムアルデヒドから選択的にN,N−ジメチルアミノエタノールを製造する方法が開示されている。しかし、原料であるホルムアルデヒドはメタノールの酸化脱水素法により製造するため、メタノールを直接メチル化剤として用いる方法に比べて安価に製造することができない。
【0004】
脂肪族アルコールを直接アルキル化剤としてアミノアルコールなどの多官能性アミン化合物を選択的にN−アルキル化してN−アルキルアミノアルコールを製造する方法としては、超臨界条件の脂肪族アルコールを反応媒体かつ反応基質として用いる方法が特許文献2に開示されている。この方法によれば、アミノアルコール自身が環化あるいは縮合するような副反応を抑え、選択的にN−アルキルアミノアルコールが製造できる。しかし、反応活性が低く、原料のアミノアルコールの転化率は低く、反応生成物は中間体のN−アルキルアルコールで停止しまうという欠点がる。
【特許文献1】ハンガリー特許第56339号
【特許文献2】特開平11−292831号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、安価な原料であるアルコールをアルキル化剤として用いアミン類を選択的にN−アルキル化することにより、環状生成物などの副生物を抑制して、選択性よく高効的にN−アルキルアミン類を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アミノ基に1以上の活性水素原子を有するアミン類と脂肪族アルコールとを脱水反応させてN−アルキルアミン類を製造するに際し、前記反応の触媒が酸化物触媒であり、該触媒が疎水化されていることを特徴とするN−アルキルアミン類の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0007】
表面をシリル化処理などにより疎水化した酸化物触媒を用いることにより、アミノ基に1以上の活性水素原子を有するアミン類と脂肪族アルコールとを脱水反応させてN−アルキルアミン類を製造するに際し、未処理触媒よりもN−アルキル化反応速度が向上し、N−アルキル化収率が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明者らは、以上の問題点に鑑み、アミノアルコール類とメタノールとの分子間脱水反応によるN−メチルアミノアルコール類の製造方法について鋭意検討した結果、メタノールの亜臨界または超臨界の条件下で疎水化されたアルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選ばれた少なくとも1種とケイ素とリンを含有する複合酸化物触媒存在下、分子間脱水反応を行なうことにより、環状生成物などの副反応が抑制され、高活性で選択的にN−メチル化が進行し、N−メチルアルカンジアミン類の収率が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
従来から、触媒のシリル化処理などによる疎水化方法は良く知られている(WO99/43431)。しかし、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素−リン−ケイ素の複合酸化物触媒に適応した例はない。
【0010】
(アミン類)
本発明で原料として使用されるアミン類としては、N−アルキル化されるアミノ基すなわち窒素原子上に1つ以上の活性水素原子を有するアミノ基を分子内に少なくとも1個有する構造であれば、いかなる化合物でも使用することができる。また、分子内にアルキル基、アルキレン基、アリール基、アリル基、水酸基、エーテル基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル基、アミノ基、アミド基などの官能基を複数有する多官能性アミン類化合物を使用することができる。特にアミノアルコール類などの、従来の方法ではアルコールを直接アルキル化剤とするN−アルキル化が困難であった化合物を原料として使用した場合でも、高効率でN−アルキルアミン類を製造することができる。
【0011】
本発明で使用することができるアミン類の具体例としては、アンモニア、メチルアミン、ジメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、ノルマルプロピルアミン、イソプロピルアミンなどの一級、二級の脂肪族アミンや、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−プロピルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、アミノプロノール類、アミノブタノール類、3−アミノ−1,2−プロパンジオール、2−(2’−ヒドロキシエトキシ)エチルアミンなどのアミノアルコール類、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、2−(2’−アミノエトキシ)エチルアミン、N−メチルアミノエチルアミン、N、N−ジメチルエチレンジアミン、2−(2’−ヒドロキシエチル)アミノエチルアミン、ジエチレントリアミンなどのアルカンジアミン類、N−(2’−アミノエチル)アニリン、アニリンなどの芳香族アミン類などが挙げられるが、なかでも、上記アミノアルコール類を原料として用いる場合、従来の単なる気相や液相での反応と比較して本発明は著しく選択性が改善されるので適している。
【0012】
(脂肪族アルコール)
本発明でアルキル化剤および反応媒体として使用される脂肪族アルコールは、特に限定されるものではなく、アルカノール類やアルキレングリコール類、あるいは分子内にアリル基、エーテル基、アミノ基、水酸基などの他の官能基を複数有する化合物を使用することができる。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの一級、二級、三級のアルカノール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオールなどのアルキレングリコール類などを挙げることができ、なかでも炭素数1から8のアルカノールおよびアルキレングリコールが反応選択性の点で好ましい。
【0013】
(脱水反応)
本発明で製造することができるN−アルキルアミン類は、形式的には原料として使用するアミン類のアミノ基上の活性水素原子が、もう一方の原料である脂肪族アルコールの水酸基と脱水反応することによって、アミノ基の窒素原子上にアルキル基が導入されることによって得られるものである。N−アルキル化されるアミノ基の窒素原子上に2つの活性水素原子がある場合には、適当な反応条件を選ぶことによって、N−モノアルキル化物とN,N−ジアルキル化物とを選択的に製造することができる。
【0014】
本発明においては、反応を超臨界または亜臨界アルコール流体中で実施することが好ましい。本発明でいう「超臨界流体」とは、その物質の臨界温度と臨界圧力を超えた非凝縮性流体と定義され、気体と液体の中間的な性質を持ち、既存の溶媒には認められない様々な特徴を有している。また、本発明でいう「亜臨界流体」とは、臨界点近傍またはそれ以下の高圧気相あるいは高温液相状態にある流体と定義される。
【0015】
本発明における反応温度および反応圧力は、使用するアルコールの種類によって定まる超臨界または亜臨界条件の範囲から選択することができるが、反応温度が高すぎると、副反応や原料または生成物のアミン類の分解反応が進行する割合が多くなって選択率が低下し、低すぎると反応速度の低下や液相に近い条件での物質移動過程の影響が大きくなるので好ましくない。また、反応圧力が高すぎると高圧設備が必要になるため設備コストが高くなり、低すぎると気相反応に近くなって選択率の低下や触媒劣化が顕著になる場合があり、工業的に不利となるおそれがある。
【0016】
このため通常、反応温度が使用するアルコールの臨界点のケルビン温度の0.85倍以上の温度であり、反応圧力が臨界圧力の0.5倍以上の亜臨界条件下、あるいは使用するアルコールの超臨界条件下で実施されるのが好ましい。より好ましくは温度が臨界点のケルビン温度の0.9〜1.4倍の範囲であり、圧力が臨界圧の0.6〜3倍の範囲の超臨界または亜臨界条件下で実施される。一例としてメタノール(臨界点は512K(239℃)、8.1MPa)を使用する場合には、反応温度が435K(162℃)以上、圧力が4.1MPa以上の超臨界または亜臨界条件下で、より好ましくは温度が461K(188℃)〜717K(444℃)、圧力が4.9〜24.3MPaの範囲の超臨界または亜臨界条件下で実施されるのが好ましい。
【0017】
本発明における反応系内には、原料であるアミン類とアルキル化剤及び反応媒体として機能する脂肪族アルコールが存在するほか、N−アルキル化活性を有する酸化物触媒、生成物であるN−アルキルアミン類と生成水、環状生成物などの副生成物が様々な割合で共存するが、酸化物触媒を除いてその一部あるいは全量が反応条件下で反応媒体である超臨界または亜臨界アルコール中に溶解していることが好ましい。このため、供給される原料中のアルコール濃度は通常40〜98質量%、好ましくは50〜95質量%となるように調製される。過剰に使用したアルコールは、反応器出口にて分離回収し、反応原料として分離、回収し、再び、反応器入口へリサイクルすることが望ましい。この場合、必要以上にアルコール濃度を高くした場合には、分離、回収に要する費用が高くなり、工業的に不利になる恐れがあり、逆に、必要以上にアルコール濃度を下げた場合には、原料であるアミン化合物が亜臨界あるいは超臨界アルコール相と均一相を形成できず、選択性の低下や触媒劣化が顕著になる場合があり、やはり工業的に不利となる恐れがある。
【0018】
本発明における副生成物としては、例えば、水酸基を有するアミン類を原料とした場合にはアミン原料が自己縮合した環状生成物やアミン原料の持つ水酸基同士が縮合したエーテル化合物が、また、アルキル化剤であるアルコールとアミン原料の持つ水酸基が縮合したエーテル化合物などがあるが、反応器出口にて回収後、蒸留操作などにより容易に分離することができる。
【0019】
反応器出口のガスはアルコールの臨界温度以下まで冷却して凝縮させた後、適当な圧力または常圧まで減圧後、アルコール溶液として回収される。凝縮液中には、溶媒かつアルキル化剤であるアルコールの他に生成したN−アルキルアミン類と水、場合によっては未反応原料のアミン類およびエーテル化合物などの他数種類の副生成物が含まれており、蒸留などの一般的な分離精製方法によってこれらを分離し、目的とするN−アルキルアミン類化合物を得ることができる。生成したN−アルキルアミン類の溶解度が低い場合には凝縮液は二相に分離するが、このような場合でも通常の液−液分離や蒸留操作などによって容易に分離精製することができる。
【0020】
(触媒)
疎水化処理を行い、N−アルキル化反応において性能を向上できる触媒としては、N−アルキル化活性を有する酸化物触媒を疎水化処理し、処理した触媒の存在下で実施することが収率、選択性の向上の観点から好ましい。前記被疎水化触媒として用いられる酸化物の形態は、特に制限されるものではなく、酸素以外は一種類のみの構成元素からなる金属または非金属酸化物や二種以上の構成元素からなる複合酸化物、あるいは適当な担体に担持された上記酸化物などを使用することができるが、反応条件下で安定に存在することが望ましく、一般にアルコールの臨界温度は高温度のため、耐熱性の高い固体酸化物を用いることが好ましい。必要とされる耐熱性は反応条件により異なり、融点が反応温度より高い酸化物を使用することができるが、一般には330℃以上の融点を持つ固体の酸化物である。
【0021】
使用される酸化物触媒の具体例としては、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、チタニア、ジルコニア、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化クロム、モリブデン酸、タングステン酸、酸化マンガン、酸化レニウム、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化スズなどの金属酸化物や、ホウ素酸化物、リン酸化物、砒素酸化物などの非金属酸化物、シリカアルミナ、チタニアシリカ、チタニアジルコニア、ジルコニアシリカ、マグネシアシリカ、燐酸アルミニウム、燐酸ジルコニウム、燐酸鉄、ハイドロタルサイト、粘度鉱物などの複合酸化物、またいわゆるゼオライト構造を有するモルデナイト型アルミノシリケート、ZSM−5型アルミノシリケート、ZSM−5型チタノシリケート、β型アルミノシリケート、β型チタノシリケート、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライト、L型ゼオライトなどの結晶性メタロシリケートや結晶性メタロアルミノホスフェートなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。これらの酸化物はアルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類、貴金属、カルコゲン元素、ホウ素、リンなどの元素あるいはその化合物を数種類含んでいてもよい。前記触媒は、触媒表面の酸塩基性を触媒の調製条件や焼成温度などによって制御することにより各々の反応基質に適した触媒性能を持たせることは本発明を実施する上で有効であり、特に酸化物に一種以上の成分を添加することによって触媒性能を大きく変えることができる。
【0022】
本発明の製造方法では、固体酸性を示す酸化物(複合酸化物も含む)を触媒として用いることが反応活性の点で好ましい。固体酸性を示す酸化物とは、例えば、H関数で+4.0より強い酸性を有する固体酸化物をいい、触媒表面の強酸点は必ずしも必要ではなく、極めて弱い固体酸性しか示さない触媒でもよい。例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化バナジウム、酸化ニオブ、酸化クロム、モリブデン酸、タングステン酸、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化スズ、ホウ素酸化物、燐酸化物、シリカアルミナ、チタニアシリカ、チタニアジルコニア、ジルコニアシリカ、マグネシアシリカ、燐酸アルミニウム、燐酸ジルコニウム、燐酸鉄、ハイドロタルサイト、粘度鉱物などが挙げられる。
【0023】
また、本発明の製造方法には、触媒として、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素とリンを含む酸化物触媒を用いることも好ましい製造法の一つである。
【0024】
使用することのできるアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられ、特にアルカリ金属またはアルカリ土類金属を1としたときのリンの原子比が0.1〜10の範囲にある触媒が、反応原料にアミノアルコール類やアルカンジアミン類などのその他の官能性アミン化合物を使用する場合に効果的である。なお、対応する生成物はアミノアルコール類を原料とした場合はN−アルキル化アミノアルコール、ジアルキル化アミノアルコールであり、アルカンジアミン類を原料とした場合は、N−アルキルアルカンジアミン、N,N−ジアルキルアルカンジアミン、N,N’−ジアルキルアルカンジアミン、N,N,N’−トリアルキルアルカンジアミンやN,N,N’,N’−テトラアルキルアルカンジアミンである。
【0025】
アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素とリンを含む酸化物触媒を用いる際には、先に示した酸化物触媒と組み合わせて用いることも好ましい。これら酸化物のうち、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニアと組み合わせることが好ましく、これらの酸化物の一種類のみを用いても、二種類以上を用いても、あるいは複合化して用いてもよい。このなかで、特にシリカを用いることがより好ましい。すなわち、本発明の好ましい実施形態の一つは、シリカ、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素とリンからなる複合酸化物を疎水化処理した触媒を用いることである。使用するシリカ量としては、特に制限はないが、アルカリ金属またはアルカリ土類金属1に対し、ケイ素1〜20、より好ましくは2〜10の範囲である。
【0026】
また、本発明の製造方法には、前記結晶性メタロシリケートや結晶性メタロアルミノホスフェートを酸化物触媒として使用した場合には、形状選択性が発現し、副反応の抑制や逐次反応の制御など、特定の化合物のみを選択的に製造することができる。
【0027】
本発明の方法において、反応形式は流通式によることが好ましいが特に限定されるものではない。また、触媒の形状は特に限定するものではなく、粉末のまま使用することもできるし、必要に応じて円柱状、球状、リング状などの任意の形状に成形したものを用いることができる。触媒の成形に際しては、アルミナゾル、シリカゾルなどの無機及び/又は有機バインダーを成形助剤として用い、成形したものを用いてもよい。流通式で行う場合には、固定床式、流動床式のいずれの方式でも用いることができる。この際、触媒の使用量は、調製した触媒の活性を測定することにより、通常の手法で求めることができる。
【0028】
(疎水化)
疎水化法としては触媒表面上に疎水化剤を予め吸着させることにより行う。疎水化剤としては、例えば、シリル化剤あるいは有機フッ素化剤を用いることができる。シリル化剤としては、有機シラン、有機シリルアミン、有機シラザン、その他のシリル化剤などを用いることができる。
【0029】
有機シランの具体例としては、クロロトリメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、クロロブロムジメチルシラン、ニトロトリメチルシラン、クロロトリエチルシラン、クロロジメチルフェニルシラン、ジメチルプロピルクロロシラン、ジメチルオクチルクロロシラン、トリブチルクロロシラン、ジメトキシメチルクロロシラン、メトキシトリメチルシラン、ジメトキシジメチルシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメトキシジフェニルシラン、トリメトキシフェニルシラン、エトキシトリメチルシラン、エチルトリメトキシシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、エチルトリエトキシシラン、トリメチルイソプロポキシシラン、メトキシトリプロピルシラン、ブチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、アセトキシトリメチルシランなどを挙げることができる。
【0030】
有機シリルアミンの具体例としては、ジメチルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、N−トリメチルシリルジメチルアミン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、メチルシラトラン、N−トリメチルシリルイミダゾール、N−トリメチルシリルピロリジンなどを挙げることができる。
【0031】
有機シラザンの具体例としては、ヘキサメチルジシラザン、ヘプタメチルジシラザン、1,1,3,3−テトラメチルジシラザン、1,3−ジフェニルテトラメチルジシラザンなどを挙げることができる。
【0032】
その他のシリル化剤の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリクロロシラン、2−シアノエチルトリメトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、ジメトキシ−3−メルカプトプロピルメチルシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3,3,4,4,5,5,6,6,6−ノナフルオロヘキシルトリクロロシラン、トリメチルシリルトリフルオロメタンスルホナート、N,O−ビストリメチルシリルアセトアミド、N−トリメチルシリルアセトアミド、N,N’−ビストリメチルシリル尿素などを挙げることができる。これらのシリル化剤は、一種単独または二種以上混合して用いることができる。
【0033】
また、有機フッ素化剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライドなどの含フッ素系高分子化合物、トリフルオロメチルアルコール、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメチルエチレンオキシドなどの含フッ素化合物などを例示できる。
【0034】
疎水化剤は、液体または気体のいずれの状態でもよく、接触時の温度は、450℃以下とすることが好ましい。例えば、酸化物触媒と液状疎水化剤とを混合し加熱する方法、酸化物触媒を適切な温度に加熱した状態にしておいて、疎水化剤の蒸気を接触させる方法などによって行う。液状の疎水化剤は、それ自体で液体のものを用いるほか、適当な溶剤に疎水化剤を溶解したものを用いてもよい。この場合、溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、エステル類、炭化水素類などを用いることができる。具体例としては、メタノール、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレンなどを挙げることができる。溶液中の疎水化剤の濃度は、疎水化剤の種類、疎水化される触媒の種類および疎水化条件にもよるが、1〜50質量%程度とすることが好ましく、2〜40質量%とすることがより好ましい。
【0035】
疎水化処理は、回分法、半回文法、連続法のいずれによっても実施できる。疎水化処理の条件も疎水化剤の種類、疎水化される触媒の種類および疎水化条件にもよるが、温度は、−20〜450℃の範囲が好ましく、−10〜420℃の範囲がより好ましく、0〜400℃の範囲がさらに好ましい。処理温度が450℃を上回ると、触媒反応性能及び経時的な劣化性能を改善する効果が十分には発揮されないので好ましくない。反応時の触媒の安定性を考えると、疎水化処理温度は反応を実施する温度よりも2〜80℃高い温度で実施するのが好ましく、5〜50℃高い温度で実施するのがより好ましい。疎水化処理に要する時間は、使用する疎水化剤、処理温度などの条件によって一定ではないが、0〜400℃程度の処理温度では、通常、回分法の場合は、0.1秒〜2時間程度の処理時間が、連続法の場合は0.1秒〜2時間程度の接触時間が適当である。
【0036】
なお、疎水化処理の程度が少なすぎると、触媒性能の改善効果が十分ではなく、一方、過度に疎水化処理を行うと、疎水化剤によって触媒表面が覆われてしまい活性が低くなるので、使用する触媒の種類や反応条件に応じて、上記した処理条件から適度な条件を適宜選択することが必要となる。
【0037】
表面をシリル化処理などにより疎水化したアルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる分から選ばれた少なくとも1種の元素とリンを含む酸化物触媒(例えば、セシウム−リン−ケイ素複合酸化物触媒)を用いることにより、例えば、亜臨界または超臨界メタノールを反応媒体、かつ、メチル化剤として使用するアミノアルコール類の脱水N−メチル化反応において、未処理触媒よりもN−メチル化反応速度が向上し、N−メチル化収率が向上する。
【0038】
水による活性阻害を低減する目的で、触媒を何らかの方法で疎水化することは従来から行われてきた手法であるが、本発明の方法においては逐次反応を促進し、目的とするN,N−ジメチルアミノアルコールの収率が向上する加速効果を見出した。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下の実施例においては、アミノ基に1以上の活性水素原子を有するアミン化合物のうち反応基質として多官能性アミン化合物である2−アミノエタノール、N−メチルアミノエタノールおよびエチレンジアミンを反応基質に選んで実施した。それぞれの基質における転化率、収率は以下の式によって計算した。
【0040】
<反応基質として2−アミノエタノールを用いた場合>
2−アミノエタノール転化率(%)=[1−(反応管出口での未反応2−アミノエタノールモル数/供給した2−アミノエタノールモル数)]×100
N−メチルアミノエタノール収率(%)=(反応管出口のN−メチルアミノエタノール生成モル数/供給した2−アミノエタノールモル数)×100
N,N−ジメチルアミノエタノール収率(%)=(反応管出口のN,N−ジメチルアミノエタノール生成モル数/供給した2−アミノエタノールモル数)×100
<反応基質としてN−メチルアミノエタノールを用いた場合>
N−メチルアミノエタノール転化率(%)=[1−(反応管出口での未反応N−メチルアミノエタノールモル数/供給したN−メチルアミノエタノールモル数)]×100
N,N−ジメチルアミノエタノール収率(%)=(反応管出口のN,N−ジメチルアミノエタノール生成モル数/供給したN−メチルアミノエタノールモル数)×100
<反応基質としてエチレンジアミンを用いた場合>
エチレンジアミン転化率(%)=[1−(反応管出口での未反応エチレンジアミンモル数/供給したエチレンジアミンモル数)]×100
N−メチルエチレンジアミン収率(%)=(反応管出口のN−メチルエチレンジアミン生成モル数/供給したエチレンジアミンモル数)×100
N,N−ジメチルエチレンジアミン収率(%)=(反応管出口のN,N−ジメチルエチレンジアミン生成モル数/供給したエチレンジアミンモル数)×100
N,N’−ジメチルエチレンジアミン収率(%)=(反応管出口のN,N’−ジメチルエチレンジアミン生成モル数/供給したエチレンジアミンモル数)×100
また、反応活性を評価する際の触媒に対する負荷の目安となるLHSVは以下の式で算出する:
LHSV(h−1)=
(反応管入口での原料液供給速度(mL/hr)/触媒体積(mL))×60
なお、LHSVの逆数が接触時間になる。
【0041】
(触媒調製)
硝酸セシウム(27.1g)とリン酸二水素アンモニウム(12.8g)とを蒸留水(110g)に均一に溶解させた。この水溶液中に、シリカビーズ(富士シリシア化学社製キャリアクトQ−30、10−20メッシュ)41.7gを浸漬した。90℃の湯浴上でよく攪拌しながら蒸発乾固させた後、空気気流下で120℃6時間乾燥し、引き続いて500℃3時間焼成した。これを触媒Aと称する。得られた触媒AのBET比表面積は、7m
gであった。また、触媒Aの組成は原子比で、Cs:Si:P=1:5:0.8であった。得られた触媒について、処理条件を表1に要約する。
【0042】
(シリル化処理例1)
直管反応器(内径10mm、長さ135mm、SUS−316製)の下部にガラスウール2mLを充填し、その上に触媒A 8mL(5.5g)を充填した。
【0043】
シリル化剤としてジメトキシジフェニルシランの20質量%メタノール溶液を調製し、常圧で0.10mL/minの速度で反応器下部から上向きに流通させた。反応管部はGCオーブンを用いて外部から加熱し、温度を350℃に設定し、シリル化剤を供給した。1時間後、シリル化剤の供給を停止し、シリル化触媒Bを得た。得られた触媒について、処理条件を表1に要約する。
【0044】
(シリル化処理例2)
シリル化処理例1で示した直管反応器に同様に触媒Aを8ml(5.5g)充填した。
【0045】
シリル化剤としてジメトキシジフェニルシランの10質量%メタノール溶液を用いた以外は、シリル化処理例1と同様に処理した。
【0046】
得られた触媒をシリル化触媒Cとし、処理条件を表1に要約する。
【0047】
(シリル化処理例3)
シリル化処理例1で示した直管反応器に同様に触媒Aを8ml(5.5g)充填した。
【0048】
シリル化剤としてジメチルジメトキシシランの20質量%メタノール溶液を用いた以外は、シリル化処理例1と同様に処理した。
【0049】
得られた触媒をシリル化触媒Dとし、処理条件を表1に要約する。
【0050】
(シリル化処理例4)
シリル化処理例1で示した直管反応器に同様に触媒Aを5ml(3.3g)充填した。
【0051】
シリル化剤としてジメトキシジメチルシランの10質量%メタノール溶液を用いた以外は、シリル化処理例1と同様に処理した。
【0052】
得られた触媒をシリル化触媒Eとし、処理条件を表1に要約する。
【0053】
【表1】

【0054】
(実施例1)
先に調製したシリル化処理触媒Bを用いて2−アミノエタノールのN−メチル化反応を行った。触媒は直管反応器中でシリル化した触媒Bを引き続き使用した。
【0055】
反応器出口には空冷式冷却管を介してフィルターと背圧弁を取り付けて、圧力制御できるようにした。精密高圧定量ポンプを使用して2−アミノエタノールのメタノール溶液(メタノール/2−アミノエタノールモル比=10.8/1)を0.40mL/minの流量(LHSV=3.0h−1)で、反応器下部から上向きに流通させながら、背圧弁で反応管内の圧力を8.2MPaに設定した。反応管部分はGCオーブンを使用して外部から加熱し、温度を300℃に設定した。温度と圧力が安定してから1.5時間後の反応器出口の組成を分析した。その結果を表2に示す。
【0056】
(実施例2〜3)
シリル化触媒Bの代わりにシリル化触媒Cを用い、2−アミノエタノールのメタノール溶液(メタノール/2−アミノエタノールのモル比=10.8/1)を0.20mL/minの流量(LHSV=1.5h−1)とした以外は、実施例1と同様に反応を行った(実施例2)。
【0057】
シリル化触媒Bの代わりにシリル化触媒Dを用いた以外は、実施例2と同様に反応を行った(実施例3)。
【0058】
(比較例1)
シリル化処理例1で示した直管反応器に触媒A 8mL(5.5g)を充填し、シリル化処理をしなかった以外は、実施例1と同様に反応を行った。
【0059】
引き続き、液流量を0.20mL/min(LHSV=1.5h−1)に変更し、反応器下部から上向きに流通させながら、同一条件で反応管内の圧力を8.2MPa、温度を300℃に設定し、反応を継続した。液流量を変更してから3.0時間後に反応器出口における液組成を分析した。その結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
M:N−メチルアミノエタノール、DM:N,N−ジメチルアミノエタノール
表2において、LHSVの1.5及び3.0のいずれにおいても、実施例の方が比較例よりも、転化率及びDM/Mの選択性が優れていることがわかる。
【0062】
(実施例4)
先に調製したシリル化処理触媒Eを用いてN−メチルアミノエタノールのN−メチル化反応を行った。すなわち、2−アミノエタノールのN−メチル化反応における後段反応を行った。触媒は直管反応器中でシリル化した触媒Eを引き続き使用した。
【0063】
反応器出口には空冷式冷却管を介してフィルターと背圧弁を取り付けて、圧力制御できるようにした。精密高圧定量ポンプを使用してN−メチルアミノエタノールのメタノール溶液(メタノール/N−メチルアミノエタノールモル比=10/1)を0.25mL/minの流量(LHSV=3.0h−1)で、反応器下部から上向きに流通させながら、背圧弁で反応管内に圧力を8.2MPaに設定した。反応管部分はGCオーブンを使用して外部から加熱し、温度を300℃に設定した。温度と圧力が安定してから1.5時間後の反応器出口の組成を分析した。その結果を表3に示す。
【0064】
(比較例2)
シリル化処理例1で示した直管反応器に触媒A 5mL(3.3g)を充填し、シリル化処理をしなかった以外は、実施例4と同様に反応を行った。得られた結果を表3に示す。
【0065】
【表3】

【0066】
表3において、実施例の方が比較例よりも、転化率及び収率の点で優れていることがわかる。
【0067】
(実施例5)
先に調製したシリル化処理触媒Eを用いてエチレンジアミンのN−メチル化反応を行った。触媒は直管反応器中でシリル化した触媒Eを引き続き使用した。
【0068】
反応器出口には空冷式冷却管を介してフィルターと背圧弁を取り付けて、圧力制御できるようにした。精密高圧定量ポンプを使用してエチレンジアミンのメタノール溶液(メタノール/エチレンジアミンモル比=20/1)を0.333mL/minの流量(LHSV=4.0h−1)で、反応器下部から上向きに流通させながら、背圧弁で反応管内に圧力を8.2MPaに設定した。反応管部分はGCオーブンを使用して外部から加熱し、温度を300℃に設定した。温度と圧力が安定してから1.5時間後の反応器出口の組成を分析した。その結果を表4に示す。
【0069】
(比較例3)
シリル化処理例1で示した直管反応器に触媒A 5mL(3.3g)を充填し、シリル化処理をしなかった以外は、実施例5と同様に反応を行った。得られた結果を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
M:N−メチルエチレンジアミン、DM:N,N−ジメチルエチレンジアミン、NN’:N,N’−ジメチルエチレンジアミン
表4において、実施例の方が比較例よりも、転化率、逐次反応の生成物の割合が優れることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ基に1以上の活性水素原子を有するアミン類と脂肪族アルコールとを脱水反応させてN−アルキルアミン類を製造するに際し、前記反応の触媒が酸化物触媒であり、該触媒が疎水化されていることを特徴とするN−アルキルアミン類の製造方法。
【請求項2】
前記脱水反応を超臨界または亜臨界のアルコール流体中で行うことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記酸化物触媒がアルカリ金属元素およびアルカリ土類金属元素よりなる群から選ばれた少なくとも1種とリンがシリカに担持された触媒であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化物触媒がシリル化剤によって疎水化処理されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2006−232758(P2006−232758A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−51586(P2005−51586)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「超臨界流体利用環境負荷低減技術研究開発」の委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】