説明

N−ハロゲン化アミノ酸処方物

本発明は、組織感染症を処置する方法であって、該感染組織を、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物の薬学的に有効な量と接触させる工程を含む方法に関する。本明細書は、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む、抗微生物活性を有する処方物も記載する。本発明の処方物は、2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンなどのN−ハロゲン化アミノ酸、および第四級アミンなどの相間移動剤を含む。本発明の処方物は優れた抗微生物活性を有し、それらの効力を増加させることによって低濃度のN−ハロゲン化アミノ酸化合物の使用を可能にする。相間移動剤には、それらに限定されないが、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)などの第四級アミン化合物、およびテトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)などのホスホニウム塩が含まれる。相間移動剤には、N−ハロゲン化アミノ酸とイオン対を形成する化合物が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、米国特許法第119条の下、2007年5月1日に出願された米国仮特許出願第60/915,291号の優先権を主張し、この米国仮特許出願の全体の内容は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(発明の技術分野)
本発明は、N−ハロゲン化アミノ酸化合物および処方物の抗微生物特性を改善する方法に関する。本発明は、改善された抗微生物特性を有する、N−ハロゲン化アミノ酸含有処方物にさらに関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
所望の効果を達成するのに必要な最少量の抗微生物化合物を用いることが、一般に望ましい。これは、より高い濃度の抗菌物質が、例えば高濃度処方物、より頻繁な投薬、またはより長い期間の処置の使用を通して送達部位で用いられる場合、望ましくない副作用の起こる可能性がより高いからである。残念なことに、より低い濃度の抗微生物化合物の使用は望ましくない作用の可能性の低下を一般に助けるが、この慣行は、化合物が必要なレベルの抗微生物効果を達成することができないリスクを増加させる。また、抗微生物化合物が十分な濃度で用いられない場合、微生物耐性が速やかに発達し得る。したがって、抗微生物化合物の抗微生物活性を向上させる発明は、送達部位で用いられるそのような化合物の濃度の低減を可能にし、望ましくない副作用および微生物耐性の発生数およびリスクを低減するので望ましい。
【0004】
N−ハロゲン化アミノ酸化合物は、抗細菌、抗感染、抗真菌および/または抗ウイルス特性を含む望ましい抗微生物特性を有することが公知である。多くのそのようなN−ハロゲン化アミノ酸化合物は、特許文献1および特許文献2に開示され、それらの全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0005】
1つのN−ハロゲン化アミノ酸、N−クロロタウリン、および塩化アンモニウムなどのアミンの組合せは、N−クロロタウリンそれ自身によるよりも高い抗微生物活性を有することが文献で示されている。非特許文献1。この効果は、ある場合にはN−クロロタウリンのトランスハロゲン化によるクロラミン化合物の形成を原因とする、任意の非置換の第一級または第二級アミンに起因するように現れる。しかし、N−クロロタウリン自体は、塩化アンモニウムとの組合せで安定ではない。また、N−クロロタウリンおよび塩化アンモニウムの組合せの増加した抗微生物活性は、N−クロロタウリン部分自体に由来するものではなく、抗微生物特性を有する追加の化学部分の形成に由来する。したがって、N−クロロタウリンおよびアンモニアまたは任意の第一級もしくは第二級アミンの組合せは、市販品に要求される必要な安定性および貯蔵寿命を有さない。
【0006】
多くの出願の1つを引用すると、抗微生物特性を有する処方物の使用が、結膜炎などの眼の感染症の処置にとって重要である。結膜炎は様々な種類の微生物によって引き起こされ得、ほとんどの症例は細菌および/またはウイルスによるものである。残念なことに、結膜炎の症状は感染性因子の病因に特異的ではなく、病原体または微生物を決定するためにかなりの試験を必要とすることがある。しばしばアデノウイルスに起因するウイルス性結膜炎は非常に伝染性であるが、症状軽減以外のものを提供する有効な処置は現在知られていない。感染によって影響を受ける敏感な組織を考慮すると、結膜炎を処置するための適当な薬剤の選択に注意を要する。前記の処置の困難なことを考慮すると、細菌、ウイルス、真菌類、その他を処置することができる広域スペクトルの抗微生物特性、毒物学上の良性のプロフィール、および/または伝染性感染因子の伝播を予防する特性を有する、結膜炎処置処方物が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0065115号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0247209号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Gottardiら、Hyg Med.、21巻:597〜605頁、1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の抗微生物処置に対する微生物耐性は、医学の専門家にとって進行中の懸念である。耐性の問題点が克服されるまでは、従来の治療の効果をより低いままにさせるか、ある場合には無効にする微生物変異の影響を弱めるために、微生物感染症を処置するための新しい処置および治療の安定した供給が必要とされる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の簡単な要旨)
本発明は、N−ハロゲン化アミノ酸化合物の抗微生物活性を増強する方法に関する。本発明者らは、相間移動剤でN−ハロゲン化アミノ酸を処方することによって、N−ハロゲン化アミノ酸化合物の抗微生物活性を高めることができることを発見した。相間移動剤には、それらに限定されないが、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)などの第四級アミン化合物、およびテトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)などのホスホニウム塩が含まれる。相間移動剤には、N−ハロゲン化アミノ酸とイオン対を形成する化合物が含まれる。
【0011】
本発明は、改善された抗微生物特性を有する、N−ハロゲン化アミノ酸含有処方物にさらに関する。これらの処方物は、例えば2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンなどのN−ハロゲン化アミノ酸、および第四級アミンなどの相間移動剤を含む。本発明の処方物は優れた抗微生物活性を有し、それらの効力を増加させることによって低濃度のN−ハロゲン化アミノ酸化合物の使用を可能にする。
【0012】
理論によって束縛されることを望まないが、第四級アミン化合物などの一部の相間移動剤は、N−ハロゲン化アミノ酸化合物とイオン対を形成すると考えられている。単独のN−ハロゲン化アミノ酸化合物は非常に極性であり、親油性組織への浸透が乏しい。第四級アミンのようなイオンペアリング剤で形成されるイオン対は、N−ハロゲン化アミノ酸化合物の抗微生物効力を増加させると考えられている。イオンペアリングは、親油性組織を通過するN−ハロゲン化アミノ酸化合物の浸透を改善することができる。他の相間移動剤は、イオン対形成以外の機構によるN−ハロゲン化アミノ酸の見かけの透過性を改善し得、改善された抗微生物特性を同様にもたらすことができる。
【0013】
以前の観察は、おそらくN−クロロタウリンの分解から生じるクロロアミン化合物の形成のために、塩化アンモニウムがN−クロロタウリンの活性を高めることができることを記した。これらの場合、抗感染活性は、N−クロロタウリンのみに由来するのではなく、反応生成物または反応生成物の抗感染活性の寄与に由来する。対照的に、本発明のある実施形態は、相間移動剤とのイオン対の形成によってN−ハロゲン化アミノ酸化合物の活性を高め、N−ハロゲン化アミノ酸およびその塩の分解を引き起こさない。
【0014】
本発明の実施形態は、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む、抗微生物活性を有する処方物である。
【0015】
本発明の別の実施形態は、N−ハロゲン化アミノ酸を含む処方物の抗微生物活性を改善する方法である。本方法は、相間移動剤をN−ハロゲン化アミノ酸処方物に加える工程を含む。
【0016】
前記の概要は、本発明のある実施形態の特徴および技術的な利点を広く記載する。追加の特徴および技術的な利点は、以下の本発明の詳細な説明に記載される。任意の添付図に関連させて考慮するならば、本発明の特徴であると考えられる新規特徴は、本発明の詳細な説明からよりよく理解される。しかし、本明細書で提供される図は、本発明の例示を助けるか、本発明の理解を高めるのに役立てるものであり、本発明の範囲の定義を意図するものではない。
【0017】
本発明およびその利点のより完全な理解は、添付図面と一緒に以下の記載を参照することによって得られ得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)を加えた場合の、N−ハロゲン化アミノ酸、2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンの抗微生物活性の増強を示すグラフである。
【図2】TBAHの様々な濃度と組み合わせたN−ハロゲン化アミノ酸、2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンを用いた、分配実験の結果を図示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(発明の詳細な説明)
I.定義
特に定義されない場合は、本明細書で用いる技術用語および科学用語は、当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。
【0020】
本明細書で用いるように、用語「抗微生物」は、微生物(細菌、ウイルス、酵母、真菌類、胞子、原生動物、寄生生物などを含むが、これらに限定されない)を死滅させるかそれらの増殖を阻止する能力、または微生物感染症を減らすか根絶する能力を指す。
【0021】
本明細書で用いるように、用語「イオンペアリング剤」は、溶液中でN−ハロゲン化アミノ酸とイオン対を形成する任意の化合物を指す。
【0022】
本明細書で用いるように、用語「相間移動剤」は、有機溶液中でのN−ハロゲン化アミノ酸の溶解性を高める任意の化合物を指す。相間移動剤にはイオンペアリング剤が含まれるが、これに限定されない。溶液中で一緒に処方されると、相間移動剤はN−ハロゲン化アミノ酸の見かけの透過性を増加させる。
【0023】
本明細書で用いるように、用語「被験体」は、ヒトまたはヒト以外の家畜動物もしくは非家畜動物(例えば、霊長類、哺乳動物、脊椎動物、無脊椎動物など)のいずれかを指す。用語「被験体」および「患者」は、本明細書で互換的に用いることができる。
【0024】
本明細書で用いるように、用語「処置」、「処置すること」などは、所望の薬理学的および/または生理学的効果を得ることを意味する。所望の効果は、限定されずに、ある用途において疾患または感染症の予防であってもよく、および/または、疾患もしくは感染症および/または疾患もしくは感染症に起因する有害反応の部分的または完全な治癒という意味で治療的であってもよい。
【0025】
II.方法および処方物
本発明のN−ハロゲン化アミノ酸は、以下の一般式
【0026】
【化1】

を有し、式中、Xは1つまたは複数のハロゲンであり、R1およびR2は、当業者に公知である無極性の、非荷電極性の、ならびに荷電した極性のアミノ酸およびアミノ酸誘導体側鎖のいずれかである。Aは、カルボン酸、スルホン酸、リン酸、ホウ酸または当業者に公知である他の酸などの酸を表す。アミンと酸との間に1つまたは複数の炭素原子があってもよく、各炭素は1つまたは複数のR置換基を含むことができる。
【0027】
本発明の好ましいN−ハロゲン化アミノ酸は、以下の構造を有する;ハロアミノ−安定剤−リンカー−酸であって、そこにおいて(a)「ハロアミノ」は、N−ハロゲンまたはN,N−ジハロゲン(例えば、−NHClまたは−NCl)であり;(b)「安定剤」は、ハロアミノ基に隣接する炭素に結合される側鎖を含み(例えば、水素、−CH、低級アルキル、基−COOHまたはC3〜6シクロアルキル環);(3)「リンカー」は、アルキルまたはシクロアルキルであり;(d)「酸」は、以下の1つである:−COOH、−SOH、−P(=O)(OH)、−B(OH)または水素、および、それらに限定されないが、ナトリウム、カリウム、カルシウムなどの、当業者に一般に公知であるこれらの酸のすべての薬学的に許容される塩。
【0028】
最も好ましいN−ハロゲン化アミノ酸は、2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリン、カルボン酸、リン酸、ホウ酸塩その他によるスルホン酸基の置換によって形成された2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンの類似体、2,2−ジアルキル−N,N−ジクロロタウリン、および2,2−R−N,N−ジクロロタウリンであり、上式で、Rは脂肪族または芳香族の側鎖である。N−ハロゲン化アミノ酸のメチル基は、アルキル、アリール、ベンジルまたは他の炭化水素環状もしくは非環状の基で置換されてもよい。
【0029】
一般に、本発明の相間移動剤は、頭部基(head group)および親油性アルキル鎖またはアリール置換基を有する基本構造を有する。これらの相間移動剤の大部分は、脂肪酸およびアルコールなどの天然の基本要素(building block)から作製される。親油性アルキルおよびアリール置換基は、ともに通常、合計約4〜8個の炭素から約30個までの炭素を含む。アルキルおよびアリール置換基の最も好ましい炭素総数は、約15個から20個の炭素である。
【0030】
本発明の好ましい相間移動剤は第四級アミン化合物であり、それらに限定されないが、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、テトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリエチルアンモニウムヒドロキシド、およびそれらの組合せが含まれる。また、当業者に公知である、第四級アミン化合物の様々な塩も含まれる。これらには、それらに限定されないが、塩化物、臭化物、硫酸塩、リン酸塩および酢酸塩が含まれる。
【0031】
本発明の実施形態で用いることができる他の相間移動剤には、塩化ベンザルコニウム(BAC)、ならびに異なる炭素鎖長のその同族体および類似体が含まれる。そのようなBAC様化合物には、それらに限定されないが、塩化ベンザルコニウム、塩化ベントニウム、塩化セタルコニウム、臭化セトリモニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ステアラルコニウム、ならびに、様々な鎖長の親油性部分を含む、これらの化合物の同族体および類似体が含まれる。4〜10個の炭素の親油性鎖を有するBAC同族体は、親油相への分配の増加した水性溶液中で、2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンとイオン対を形成することができる。これらのBAC同族体および類似体はより低い微生物学的活性を有し得、角膜および結膜組織などの生物組織への刺激はより少なくあり得るので、それらは、特に興味がある。好ましいBAC同族体および類似体は、10個の炭素の親油性鎖を有する。
【0032】
本発明の実施形態で用いることができるさらなる相間移動剤には、それらに限定されないが、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)などのリン脂質コリンが含まれる。
【0033】
ホスホニウムイオン相間移動剤には、それらに限定されないが、当業者に公知である不飽和および芳香族のアルキル置換基を含む、1個から22個の炭素の様々なアルキル鎖長のテトラアルキルホスホニウム塩が含まれる。塩には、それらに限定されないが、塩化物、臭化物、硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩および酢酸塩が含まれる。そのようなホスホニウムイオン塩の例は、テトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)およびベンジルデシルジメチルホスホニウムクロリドである。
【0034】
N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤の好ましい組合せは、以下の一般構造
【0035】
【化2】

のイオン対を形成し、式中、イオン対の負荷電部分については、
Xは、塩素、臭素および/またはヨウ素であり;
R1は、水素またはC1〜C6アルキルであり;
R2は、水素またはC1〜C6アルキルであり;
R1およびR2は、それらが結合する炭素原子と一緒にC3〜C6シクロアルキル環を形成し;
nは、ゼロまたは1〜6の整数であり;
は、水素またはアルキルであり;
は、COO、SO、POまたは他の酸であり;
は、水素またはアルキルであり;
イオン対の正荷電部分については、
Bは、窒素またはリンであり;
R1からR4は、アルキルエステル、アルコール、ヒドロキシル、ケトン、酸、含硫黄および芳香族エステル、ヒドロキシル、ケトンおよび含硫黄酸から各々選択され、R1からR4は水素であることができない。さらに、R1からR4は、正電荷を形成する窒素原子に直接連結する炭素原子を有するべきである。この正電荷は、N−ハロゲン化アミノ酸の負荷電した酸部分とイオン対を形成する。
【0036】
III.適用
本発明は、微生物による組織感染(microbial tissue infection)を有するかそのリスクがある哺乳動物およびヒトの被験体を処置することに、特に向けられる。本発明の方法に従って処置または予防することができる微生物による組織感染症は、J. P. Sanfordら、「The Sanford Guide to Antimicrobial Therapy 2007」第37版(Antimicrobial Therapy. Inc.)で参照されている。本発明の実施形態によって処置可能であり得る特定の微生物による組織感染症には、細菌、ウイルス、原生動物、真菌類、酵母、胞子および寄生生物に起因する感染症が含まれる。本発明は、眼、耳、皮膚、上部呼吸器、肺/下部呼吸器、食道および鼻/副鼻腔の感染症を処置するための抗微生物処方物および処置する方法にも特に向けられる。
【0037】
本発明のある実施形態は、眼組織の感染症を処置するのに特に有益である。本発明の処方物および方法を用いて処置することができる眼の病状の例には、結膜炎、角膜炎、眼瞼炎、涙嚢炎(dacyrocystitis)、麦粒腫および角膜潰瘍が含まれる。本発明の方法および処方物は、感染のリスクを生じる様々な眼用手術処置において、予防的に用いることもできる。
【0038】
耳および鼻/副鼻腔組織の感染症も、本発明の実施形態によって処置することができる。本発明の処方物および方法で処置することができる耳の病状の例には、鼓膜が破裂するか、鼓膜切開管が移植されている状況を含む、外耳炎および中耳炎を含む。本発明の処方物および方法で処置することができる鼻/副鼻腔病状の例には、鼻炎、副鼻腔炎、鼻腔での保菌、および、鼻または副鼻腔の組織が手術の影響を受ける状況が含まれる。呼吸器感染症および感染性因子の例には、肺炎、インフルエンザ、気管支炎、呼吸器系合胞体ウイルスなどが含まれる。
【0039】
本発明の実施形態は、特にヘルスケア関係の構造物、例えば病院、獣医クリニック、歯科および医科診察室での表面消毒のために、ならびに、メス、電子機器などの手術機器の滅菌などの用途のために用いることができる。手術の前に滅菌コーティングを提供するために、手術機器を本発明のある処方物でコーティングすることができる。本発明のある実施形態は、学校、公共輸送設備、レストラン、ホテルおよびクリーニング店などの公衆区域の消毒のために、ならびに、トイレ、洗面器および台所領域などの家庭の表面の消毒のために用いることができる。
【0040】
本明細書に記載されるある処方物は、当業者に公知であり、参照により本明細書にその全体が組み込まれる「N−HALOGENATED AMINO ACID FORMULATIONS AND METHODS FOR CLEANING AND DISINFECTION」という題の同時係属の米国特許仮出願第60/970,634号でさらに詳細に記載されている工程に従って、コンタクトレンズを消毒および/または洗浄するのに用いることができる。より具体的には、コンタクトレンズを患者の眼から取り出し、次に、レンズを消毒するのに十分な時間、そのような処方物に浸す。消毒および/または洗浄は、約4から6時間処方物中にレンズを浸すことを一般的に必要とする。
【0041】
本発明の他の実施形態は、被験体の皮膚および体組織表面の消毒溶液または処置溶液で用い、細菌、真菌類、ウイルス、原生動物などに対する抗微生物活性を提供することもできる。そのような処置は予防的であってもよく、または、1種または複数種の感染性因子が存在する感染した体組織または傷口を処置するために用いてもよい。これらの実施形態は、細菌、真菌類、ウイルス、原生動物などに起因する皮膚疾患を処置するために用いてもよい。そのような実施形態は、局所使用に適する媒体(vehicle)中に1つまたは複数のN−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を有する処方物を含むことができる。皮膚のための消毒溶液は、特にヘルスケアおよび非衛生的な状況で、手を消毒するために特に有用である。消毒は、手術状況下においてヘルスケア提供者のために、および手術被験体に清潔な場を提供するためにも有用であり得る。
【0042】
本発明のある実施形態は、爪真菌症を処置するために用いることができる。爪真菌症は、真菌による爪板の侵入を指す。本感染症は、皮膚糸状菌、酵母または非皮膚糸状菌によるものである場合がある。「爪白癬」という用語は、侵襲性の皮膚糸状菌による爪真菌症を記載するために特異的に用いられる。関連する皮膚糸状菌には、それらに限定されないが、Epidermophyton floccosum、Microsporum audouinii、Microsporum canis、Microsporum gypseum、Trichophyton mentagrophytes、Trichophyton rubrum、Trichophyton schoenleinii、Trichophyton tonsuransが含まれる。爪真菌症の原因となることがある追加の真菌類には、それらに限定されないが、Acremonium spp.、Aspergillus spp.、Candida spp.、Fusarium oxysporum、Scopulariopsis brevicaulis、Onychocola canadensisおよびScytalidium dimidiatumが含まれる。
【0043】
本発明の実施形態は、感染性因子による組織の感染を防止するために、予防的に用いることもできる。そのような実施形態では、感染リスクのある組織を、本発明の処方物と接触させる。
【0044】
IV.薬剤学および処方物
A.投薬量
句「薬学的に有効な量」は当技術分野で認められた用語であり、本発明の医薬処方物に組み込まれた場合に、任意の医療処置に適用できる妥当な利益/リスク比でいくらかの所望の効果を生成する作用物質の量を指す。有効な量は、処置する疾患もしくは感染因子、投与する特定の処方物、または疾患もしくは感染因子の重症度のような要素によって異なり得る。
【0045】
句「薬学的に許容される」は当技術分野で認められ、過度の毒性、刺激、アレルギー応答または他の問題もしくは合併症なしで、被験体の組織と接触させて用いるのに適し、当業者によって決定される妥当な利益/リスク比に相応する処方物、重合体および他の物質ならびに/または剤形を指す。
【0046】
特定の実施形態では、処方物は1日に1回投与される。しかし、本発明の処方物は、週に1回、5日ごとに1回、3日ごとに1回、2日ごとに1回、1日に2回、1日に3回、1日に4回、1日に5回、1日に6回、1日に8回、1時間ごと、または任意のより高い頻度を含む、任意の投与頻度での投与のために処方することもできる。そのような投薬頻度は、治療計画によって様々な期間維持されもする。特定の治療計画の期間は、1回投薬から数ヶ月または数年にわたる投薬計画まで様々であり得る。当業者は、特定の適応のための治療計画を決定することに精通している。この決定に関与する因子には、処置する疾患、被験体の特定の特徴、および特定の抗微生物処方物が含まれる。
【0047】
B.処方物
N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤に加えて、本発明の処方物は、1つまたは複数の賦形剤を任意選択で含む。医薬処方物で通常用いられる賦形剤には、それらに限定されないが、張性剤、防腐剤、キレート化剤、緩衝剤、界面活性剤および抗酸化剤が含まれる。他の賦形剤には、可溶化剤、安定化剤、快適性増進剤(comfort−enhancing agent)、重合体、緩和剤、pH調節剤および/または滑沢剤が含まれる。本発明の処方物では、水、水およびC1〜C7−アルカノールなどの水溶性溶媒の混合物、0.5から5%の無毒性水溶性高分子を含む植物油または鉱油、アルギン酸塩、ペクチン、トラガカントゴム、カラヤゴム、キサンタンガム、カラゲニン、寒天およびアカシアなどの天然生成物、酢酸デンプンおよびヒドロキシプロピルデンプンなどのデンプン誘導体、さらに、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレンオキシド、好ましくは架橋ポリアクリル酸およびこれらの生成物の混合物などの他の合成生成物を含む様々な賦形剤のいずれかを用いることができる。賦形剤の濃度は、一般的に、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤の濃度の1倍から100,000倍である。好ましい実施形態では、賦形剤は、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤に対するそれらの不活性に基づいて選択される。
【0048】
適する張性調節剤には、マンニトール、塩化ナトリウム、グリセリン、ソルビトールなどが含まれるが、これらに限定されない。適する緩衝剤には、リン酸塩、ホウ酸塩、酢酸塩などが含まれるが、これらに限定されない。適する界面活性剤には、それらに限定されないが、イオン性および非イオン性界面活性剤が含まれるが、RLM 100、Procol(登録商標)CS20などのPOE 20セチルステアリルエーテル、およびPluronic(登録商標)F68などのポロキサマーなど、非イオン性界面活性剤が好まれる。適する抗酸化剤には、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)およびブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)が含まれるが、これらに限定されない。
【0049】
本明細書で示される処方物は、1つまたは複数の防腐剤を含むことができる。そのような防腐剤の例には、p−ヒドロキシ安息香酸エステル、チオメルサール、硝酸フェニル水銀、酢酸フェニル水銀、ホウ酸フェニル水銀などのチオサリチル酸のアルキル水銀塩、過ホウ酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、メチルパラベンもしくはプロピルパラベンなどのパラベン、クロロブタノール、ベンジルアルコールもしくはフェニルエタノールなどのアルコール、ポリヘキサメチレンビグアナイドなどのグアニジン誘導体、過ホウ酸ナトリウムまたはソルビン酸が含まれる。ある実施形態では、処方物は自己保存性であり得、保存剤を必要としない。
【0050】
副鼻腔および呼吸器感染症への適用で使用するために、ネブライザーまたは当業者に周知である他のそのような装置を用いることによるエアゾール形成に適する処方物を用いることができる。
【0051】
本発明の一部の処方物は、被験体の眼への適用に関し、眼用に適するものである。眼への投与のために、処方物は溶液、懸濁液、ゲルまたは軟膏でもよい。好ましい態様では、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物は、点滴剤の形の水性溶液で眼への局所投与のために処方される。一般的に、用語「水性」は、賦形剤が水の>50重量%、より好ましくは>75重量%、特に>90重量%である水性処方物を表す。これらの点滴剤は、好ましくは無菌であり、したがって処方物の静菌成分を不要にすることができる単一用量アンプルから送達することができる。あるいは、点滴剤は、送達時に処方物から任意の防腐剤を抽出する装置を好ましくは含むことができる、複数用量ビンから送達することができ、そのような装置は当技術分野で公知である。
【0052】
他の態様では、本発明の成分は、濃縮されたゲルもしくは類似の媒体として、または、まぶたの下に置かれる溶解性挿入体として眼に送達することができる。さらに他の態様では、本発明の成分は、軟膏、油中水型および水中油型乳剤として眼に送達することができる。
【0053】
眼への局所処方物のために、蒸発および/または疾患に起因する涙の任意の高張性と闘うために、処方物は好ましくは等張性であるか、わずかに低張性である。これは、処方物のモル浸透圧を1キログラムあたり210〜320ミリオスモル(mOsm/kg)のレベルかまたはその近傍のレベルにするために、張性剤を必要としてよい。溶液のpHは、3.0〜8.0の眼の許容範囲にあってよい。本発明の処方物は、一般に220〜320mOsm/kgの範囲のモル浸透圧を有し、好ましくは235〜300mOsm/kgの範囲のモル浸透圧を有する。眼用処方物は、一般に無菌水性溶液として処方される。
【0054】
ある実施形態では、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤は、1つまたは複数の涙代用品を含む処方物で処方される。様々な涙代用品が当技術分野で公知であり、それらに限定されないが、グリセロール、プロピレングリコールおよびエチレングリコールなどの単量体ポリオール;ポリエチレングリコールなどの重合体ポリオール;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムおよびヒドロキシプロピルセルロースなどのセルロースエステル;デキストラン70などのデキストラン;ポリビニルアルコールなどのビニル重合体;ならびに、カルボマー934P、カルボマー941、カルボマー940およびカルボマー974Pなどのカルボマーが含まれる。本発明のそのような処方物は、コンタクトレンズまたは他の眼用製品で用いることができる。
【0055】
一部の実施形態では、本明細書で示す処方物は、0.5〜100cps、好ましくは0.5〜50cps、最も好ましくは1〜20cpsの粘度を有する。この比較的低い粘度は、その製品が快適であり、くもりを引き起こさず、製造、移動および充填操作の間、容易に処理されることを保証する。
【0056】
本明細書で記載されるN−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤は、抗微生物活性に加えて活性を有する各種の処方物型に含ませることができる。そのような処方物の例には、眼の医薬処方物(例えば眼の潤滑製品および人工涙)、収斂剤、局所消毒剤(単独使用または他の抗微生物剤、例えばベタジンなどと併用)その他が含まれる。
【0057】
様々な微生物感染症を効果的に処置し、副作用を最少にするために、最少量の有効成分が用いられて処方物の抗微生物活性を最大にすべきである。本発明の抗微生物処方物の活性は、抗微生物剤自体の結果であり、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤以外の処方物成分は(ある実施形態では)、通常ほとんど影響を及ぼさない。特定の処方物中のN−ハロゲン化アミノ酸の抗微生物活性を高めるために必要とされる相間移動剤の量は、当業者によって決定することができる。許容される安全性および毒性特性を保持しながら処方物の抗微生物活性を高めるために必要とされる濃度は、本明細書で「有効量」と呼ばれる。イオン対が1対1の比で形成されるので、ほとんどの実施形態では、相間移動剤の有効量は、通常、N−ハロゲン化アミノ酸濃度と同じモル濃度である。しかし、安全性および毒物学的理由で、有効量は、1対1のモル比をなす濃度よりも高く、またはそれより低く変化させることができる。ある実施形態では、相間移動剤の有効量はN−ハロゲン化アミノ酸と比較してモルベースで計算され、その範囲は1:10から10:1までであり、好ましくは、相間移動剤対N−ハロゲン化アミノ酸の比が1:1である。
【0058】
本発明の処方物を構成する成分の濃度が、異なり得ることも意図される。好ましい実施形態では、N−ハロゲン化アミノ酸は、眼用処方物中に約0.1w/v%から0.25w/v%までの濃度で存在する。当業者は、所与の処方物中の成分の添加、置換および/または削除に依存して濃度が異なり得ることを理解する。
【0059】
好ましい処方物は、処方物を約3のpHから約8.0までのpHに維持する緩衝系を用いて調製される。局所処方物(特に上記の局所眼用処方物)は、その処方物が適用されるか注入される組織に適合する生理学的pHを有するものが好ましい。
【0060】
本発明のある実施形態では、処方物は二液性系(two−part system)で投与することができる。例えば、N−ハロゲン化アミノ酸は処方物の1つの部分に存在することができ、相間移動剤は、使用者が処方物の投与の準備ができるまで、別の容器または同じ容器の異なる部分に分けることができる。投与時、またはその前に、使用者が2つの部分を混合することができる。好ましい二液性系では、相間移動剤は溶液の形態で存在し、N−ハロゲン化アミノ酸は固体の形態で存在する。二液性系は、処方物の1つまたは複数の成分が合わせられると安定性の問題を起こす場合に有用であり得る。また、ある実施形態では、二液性系は鼻/副鼻腔噴霧注入系の一部として利用することができる。
【0061】
C.投与経路
本明細書で示される方法では、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物の薬学的に有効な量の被験体への投与は、当業者に公知である任意の方法によることができる。
【0062】
例えば、処方物は、局所に(locally)、局所的に(topically)、皮内に、病巣内に、鼻腔内に、皮下に、経口的に、吸入により、注射により、標的細胞を直接浸す限局性灌流により、カテーテルにより、または洗浄により投与することができる。
【0063】
特定の実施形態では、処方物は眼の表面に局所的に投与される。眼への投与に関して、局所、結膜下、眼周囲、眼球後部、テノン下(subtenon)、眼内、網膜下、強膜近傍後部および脈絡膜上投与を含め、眼へのすべての局所経路を用いることができることが企図される。
【0064】
様々な耳投与技術も、企図される。特定の実施形態では、処方物は、耳道に直接(例えば、局所的な耳への点滴または軟膏、耳内のまたは耳に隣接して植え込まれた徐放装置)送達することができる。局所の投与経路には、処方物のための、耳の筋肉内、鼓室内腔および蝸牛内注射経路が含まれる。本発明のある処方物は、耳内挿入体または植え込み装置で処方することができることが、さらに企図される。例えば、処方物の送達は、例えば、Tsueら、Amer. J. Otolaryngology、第16巻(3号):158〜164頁、1995;Silversteinら、Ear, Nose & Throat Journal、第76巻:674〜678頁、1997;Silversteinら、Otolaryngol Head Neck Surg.、第120巻:649〜655頁、1999に示されているように、鼓室腔内への内視鏡アシスト(鼓膜に切開を設けるためのレーザーアシスト内視鏡検査を含む)注射によって達成することができる。局所の投与は、微細な(EMG記録)針を用いる鼓膜を通しての注射により、鼓膜切開を通して置かれた留置カテーテルを用いることにより、および、小さな耳管カテーテルによるエウスターキオ管を通しての注射または注入により達成することもできる。さらに、処方物は、熟練した臨床医による十分な判断および注意により、処方物で浸漬させたゲルフォームまたは類似した吸収性および接着性の製品を、中耳/内耳の窓膜(window membrane)または隣接した構造物に対して置くことによって内耳に投与することができる。
【0065】
副鼻腔組織感染、鼻感染、上部呼吸器感染、肺/下部呼吸器感染、食道感染およびそれらの様々な組合せに対する処置のための、本明細書で記載される処方物の投与は、当業者に公知であるいくつかの方法を介することができる。下部呼吸器感染症のための好ましい投与は、ネブライザーまたは他の類似した装置の使用によるエアゾール形成を介することである。副鼻腔感染症の処置のための処方物は、液滴の形態(しばしば、耳用処方物を副鼻腔感染症の処置のために用いることができる)で、またはエアゾール形成によって投与することができる。食道感染症は、液体またはエアゾール処方物の投与によって処置することができる。
【0066】
本発明の処方物の他の投与様式は、皮膚パッチ、最適な方法で処方されたリポソームによる肺内、鼻腔内、および緩放出型デポ処方物を介したものである。罹患耳部位に処方物を送達するために、様々な装置を用いることができ、例えば、カテーテルを、または、ヒト被験体の内耳の処置および/または診断で用いるように特別に設計された多機能装置を提供する米国特許第5,476,446号で例示されているように用いることができる。また、この目的のための他の装置については、米国特許第6,653,279号を参照のこと。
【実施例】
【0067】
V.実施例
以下の実施例は、本発明の選択された実施形態をさらに例示するために提供される。
【0068】
下記実施例1〜4は、本発明の実施形態に従って調製された。
【0069】
(実施例1)
【0070】
【化3】

(実施例2)
【0071】
【化4】

(実施例3)
【0072】
【化5】

(実施例4)
【0073】
【化6】

(実施例5)
本明細書で記載されるある処方物の抗微生物活性は、標準の微生物学的分析によって評価した。この評価の結果を、下記の表1に要約する。評価のために、細菌および真菌の分離株を、新しい細胞源として適当な寒天培地で一晩増殖させた。これらの新しい細胞の約1×10cfu/mLの懸濁液を、生理食塩水で調製した。これらの懸濁液を、試験剤(2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンナトリウムの様々な溶液および対照溶液)に直接加えた。試験剤溶液中の細胞の初期濃度は、約1×10cfu/mLであった。試験剤への微生物の曝露は、室温で60分まで実施した。選択された時間に一定分量を抜き取って、4℃のリン酸緩衝化食塩水に希釈した。生存度は、連続希釈およびMilliflexカセットでのろ過の後に判定した。
【0074】
【表1−1】

【0075】
【表1−2】

C.albicans生存個体の割合(percentage)で測定したように、N−ハロゲン化アミノ酸2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンの抗感染性活性は、処方物がテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)およびテトラメチルアンモニウムクロリド(TMAC)などの相間移動剤を含んでいた場合、劇的に改善された。上の表1に示すように、pH4の酢酸緩衝液で処方した0.1%2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンにおけるC.albicans生存個体の割合は、15分の曝露の後89%であった。第四級アミン相間移動剤を含む試験処方物は、生存個体の割合を激減させた。15分の曝露後の、10ミリモルの濃度の第四級アミンを含むpH4の酢酸緩衝液中の0.1%2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンの生存個体の割合は、TBAHおよびTMACについてそれぞれ<1%および39%であった。上記の処方物のすべては、対照と比較して改善された抗微生物活性を示し、異なる第四級アミンの間で多少の変動が存在した。
【0076】
図1は、そのような1つの抗感染性実験を視覚的に図示する。グラフは、N−ハロゲン化アミノ酸、2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンの抗微生物活性が、10mM TBAH相間移動剤を加える場合に劇的に増加したことを明確に示す。
【0077】
(実施例6)
分配実験
実施例6は、N−ハロゲン化アミノ酸と相間移動剤との間でイオンペアリングが起こっていることの証拠、および生じた分配挙動の変化を提供する。分配実験は、組織で用いた場合の化合物の見かけの親油性、および抗微生物活性の潜在的向上を評価するために用いることができる。
【0078】
0.1%(4mM)2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンナトリウム、0mM、1mM、4mMまたは10mMのテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、5mM酢酸ナトリウム、モル浸透圧を等張に調節する塩化ナトリウム、ならびにpHを4に調節する水酸化ナトリウムおよび/または塩酸を含む水性溶液を調製した。
【0079】
これらの水性溶液を、逆相高圧液体クロマトグラフィーによって2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンについて分析した。次に、各溶液を等量のジクロロメタンと合わせ、一晩ロッカー上で混合し、水相を再分析した。水相からの2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンの損失率およびジクロロメタンに分配される2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンの理論上の割合を計算して、TBAHの濃度に対してプロットした。
【0080】
【表2】

実験から得られたデータを、表2に要約する。ジクロロメタン相中の2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンの理論上の割合は、100%から水相に残された割合を引いて計算される。図2は、上記の分配実験の結果を視覚的に例示する。水性溶液中の4mM 2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンをTBAHの様々な濃度と組み合わせた場合、水性溶液中に見出される2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンの量は減少する。TBAHを加えなかった場合、ほとんどすべての2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンは、水性分画に見出される。しかし、10mM TBAHでは、大部分の2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンは水性分画を離れ、ジクロロメタンに分配された。この実験は、2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンの見かけの親油性を高めるTBAH相間移動剤による、イオン対形成の証拠である。
【0081】
本発明、およびその実施形態を詳細に記載した。しかし、本発明の範囲は、明細書に記載されるいかなる工程、製造、組成物、化合物、手段、方法および/またはステップの特定の実施形態にも限定されることは意図しない。本発明の精神および/または必須の特性から逸脱せずに、様々な改変、置換および変更を開示されている物質に加えることができる。したがって、本明細書で記載した実施形態と実質的に同じ機能を果たすか、または実質的に同じ結果を達成する後の改変、置換および/または変更を、本発明のそのような関係のある実施形態に従って利用することができることを、当業者は本開示から容易に理解する。したがって、以下の請求項は、本明細書で開示される工程、製造、組成物、化合物、手段、方法および/またはステップに対する改変、置換および変更を、それらの範囲に包含するものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−ハロゲン化アミノ酸を含む処方物の抗微生物活性を改善する方法であって、
該処方物に相間移動剤を加える工程を含む方法。
【請求項2】
前記相間移動剤が、
第四級アミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、テトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリエチルアンモニウムヒドロキシドおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記N−ハロゲン化アミノ酸がクロロタウリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記クロロタウリンが2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンナトリウムである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
抗微生物活性を有する処方物であって、
N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物。
【請求項6】
前記相間移動剤が、
第四級アミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、テトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリエチルアンモニウムヒドロキシドおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項5に記載の処方物。
【請求項7】
前記N−ハロゲン化アミノ酸がクロロタウリンである、請求項5に記載の処方物。
【請求項8】
前記クロロタウリンが2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンナトリウムである、請求項7に記載の処方物。
【請求項9】
組織感染を処置するための方法であって、
該感染組織を、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物の薬学的に有効な量と接触させる工程を含む方法。
【請求項10】
前記相間移動剤が、
第四級アミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、テトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリエチルアンモニウムヒドロキシドおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記N−ハロゲン化アミノ酸がクロロタウリンである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記クロロタウリンが2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンナトリウムである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記感染組織が、眼、耳、鼻、副鼻腔または真皮組織である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記処方物が二液性処方物である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
N−ハロゲン化アミノ酸処方物の見かけの親油性を改善する方法であって、
該処方物に相間移動剤を加える工程を含む方法。
【請求項16】
前記相間移動剤が、
第四級アミン、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAH)、テトラブチルホスホニウムクロリド(TBPC)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリエチルアンモニウムヒドロキシドおよびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記N−ハロゲン化アミノ酸がクロロタウリンである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記クロロタウリンが2,2−ジメチル−N,N−ジクロロタウリンナトリウムである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記組織が、眼、耳、鼻、副鼻腔または皮膚組織である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記処方物が二液性処方物である、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
表面を消毒する方法であって、
消毒する表面を、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物で処理する工程を含む方法。
【請求項22】
前記処理する表面が手術器具である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記表面は体組織である、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
呼吸器感染症を処置する方法であって、
該呼吸器の感染部位を、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物の薬学的に有効な量と接触させる工程を含む方法。
【請求項25】
前記呼吸器の感染が、
副鼻腔組織感染、鼻感染、上部呼吸器感染、肺/下部呼吸器感染、食道感染およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
コンタクトレンズを消毒および/または洗浄する方法であって、
コンタクトレンズを、レンズを消毒および/または洗浄するのに十分な時間、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物と接触させる工程を含む方法。
【請求項27】
組織感染を予防する方法であって、
感染リスクのある組織を、N−ハロゲン化アミノ酸および相間移動剤を含む処方物の薬学的に有効な量と接触させる工程を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−526082(P2010−526082A)
【公表日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506582(P2010−506582)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/061942
【国際公開番号】WO2008/134687
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】