説明

N−ビニル−2−ピロリドンの保存方法

【課題】NVPの保存期間中に含有ポリマー濃度の増加が少ない極めて良好な保存安定性を有するNVPの保存方法を提供する。
【解決手段】NVP保存時等に、取扱い容器を限定することなく容器内の気相部あるいは液相部に断続的に不活性ガスを供給することで、保存期間中に含有ポリマー濃度の増加が少ない極めて良好な保存安定性を有するNVPの保存方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−ビニル−2−ピロリドンの保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N−ビニル−2−ピロリドン(以下「NVP」と略す)は、反応性希釈剤として有用であり、また、NVPの重合体は、生態適合性、安全性、親水性等の長所、利点があることから、従来、医薬品、化粧品、粘接着剤、塗料、分散剤、インキ、電子部品、フォトレジスト材料等の種々の分野で幅広く用いられている。
【0003】
しかしながら、NVPは保存時等にポリマーが経時的に増加する性質を持つことが知られており、この経時変化によりNVPは合成後速やかに使用しなければならない等取扱いに困難な面があった。そこでNVPは前記用途での有用性から、保存時等の安定性が強く求められていた。
【0004】
このため、NVPの取扱い容器について内壁表面がポリオレフィン、ステンレス、フッ素樹脂、アルミニウムの何れかを用いることが開示されている。さらに、実質的に炭酸ガスを含まないガス雰囲気中で取扱うことも開示されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−291936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では実質的に炭酸ガスを含まないガスの具体的な供給操作方法の詳細については記載されておらず、実施例1において容器内を十分窒素置換の後に密閉することが例示されているだけである。また容器の材質が限定されているため、広く汎用性があるとは言い難い。そこで本発明が解決しようとする課題は、NVP取扱い容器の仕様に限定されることなく、容器内の気相部あるいは液相部に断続的に不活性ガスを供給することによって、安定剤の添加の有無に関らず長期間保存しても含有ポリマー濃度の増加が少ない極めて良好な保存安定性を有するNVPを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、前記課題の解決には、NVP保存時等に、容器内の気相部あるいは液相部に断続的に不活性ガスを供給すれば良いことを見出した。
【発明の効果】
【0007】
NVPの保存時等に、取扱い容器の気相部あるいは液相部に断続的に不活性ガスを供給することによって、安定剤の添加の有無に関らず、長期間保存しても、重合反応性、pH、含有ポリマー濃度、色相等の品質に変化の少ない、きわめて良好な保存安定性を有するNVPの保存方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の実施の一形態について詳しく説明する。
【0009】
本発明に用いるNVPの製造方法は特に限定されることはないが、例としてN−ヒドロキシエチル−2−ピロリドンを気相脱水反応することで得られる方法あるいはレッペ法等が挙げられる。
【0010】
また、合成後のNVPには精製を施しても施さなくても良いが、蒸留工程、晶析工程、あるいはその両方を施す等の精製工程を施した場合に効果的であり、蒸留工程後晶析工程を施した場合により効果的である。
【0011】
NVPの保存タンク等では、生産や出荷に伴って常にNVP液容積が変化するため、液容積が低下した場合にはそれを補充するだけの容積分の不活性ガスを供給する必要がある。また液容積が上昇した場合には、それに見合う容積分の不活性ガスが抜けるようにしなければ、容器内が加圧状態になり危険である。
【0012】
例えば、製品タンクのような大型の保存容器では、一度供給した不活性ガスで密閉するだけでは十分な不活性ガスの効果は得られない場合がある。また、長期間保存している際にわずかな隙間から微量の空気等の出入りが十分に起こりうる。そこで、容器内の圧力変動があった場合には、それに応じて断続的に不活性ガスを導入する必要がある。
【0013】
特に本発明におけるNVPでは、ごく微量の空気が混入しただけでも、着色が起こり品質が低下することが発明者らの検討で判明した。
【0014】
このような状況から、空気等の混入を防止するために不活性ガスを断続的に供給し、容器内が常に不活性ガスで満たされている状態を維持し続けることが重要である。
【0015】
実際は微加圧で保存することが空気等の混入防止の面から好ましい。
【0016】
一方、連続的に供給する場合においては、多量の不活性ガスが必要になるだけでなく、出口からの不活性ガス中に含まれるNVPガスを処理しなければならないため、非常にコストがかかり過ぎる問題点があり好ましくない。
【0017】
本発明において、断続的に不活性ガスを供給することとは、本発明の効果が損なわれない範囲内で、少なくとも1回以上の中断があることを意味し、不活性ガスの供給時間および中断時間に制限はない。
【0018】
不活性ガスの供給量としては、1分間あたりの平均供給量が容器気相部の体積に対して1/3000以上であれば良く、好ましくは1/1500以上、より好ましくは1/800以上、最も好ましくは1/300以上である。
【0019】
本発明における不活性ガスの供給方法は、断続的であれば供給箇所は特に限定されず、気相部あるいは液相部のどちらでも良く、同時に気相部と液相部の両方に供給することも可能である。
【0020】
本発明に用いる不活性ガスは窒素ガス、アルゴンガス等が挙げられるが、コストや使い易さの点から窒素ガスが好ましい。
【0021】
本発明における保存容器内の不活性ガスの圧力下限は0.09MPa以上であれば良く、好ましくは0.095MPa以上、より好ましくは0.10MPa以上である。
【0022】
圧力が0.09MPa未満の場合、NVPが揮発しやすくなるため好ましくない。
【0023】
一方、保存容器内の不活性ガスの圧力上限は0.15MPa以下であれば良く、好ましくは0.13MPa以下、より好ましくは0.11MPa以下である。
【0024】
圧力が0.15MPaを超える場合には、耐圧容器が必要となるため経済的に好ましくない上に汎用性にも欠ける。
【0025】
前記の範囲内に圧力を制御することにより、NVPの品質を製品として十分なものとして保存する効果が高められる。
【0026】
前記圧力範囲を制御するタイミングとしては、例えば製品タンク等の場合、前記圧力範囲の上下限値の1%範囲内に入らないように圧力制御装置を作動させ、前記圧力範囲内に収まるよう、断続的に不活性ガスを制御する。
【0027】
本発明に用いるNVPには安定剤を添加しても添加しなくても良い。添加する場合の安定剤としては、特に限定されることはないが、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、N,N−ジエチル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,6−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン等が挙げられる。安定剤の添加量は特に限定されることはないが、NVPに対して1ppm〜5%が好ましい。
【0028】
本発明における保存容器とは製造現場での製造設備における反応器や精製塔等およびクッションタンクや貯蔵タンクのみならず、製品容器としてのドラム、一斗缶、ローリー、コンテナ等を言い、さらに保存あるいは貯蔵とは静置状態や移送、輸送時においても該当する。
【0029】
本発明に用いるNVPの保存容器材質としては特に限定はされないが、少なくとも容器内壁表面の材質が、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、PFA(四フッ化エチレンパーフロロアルキルビニルエーテル共重合樹脂)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、ステンレス、アルミニウム、ガラスが好ましく、特にポリオレフィン、ステンレス、ガラスの場合に効果的である。
【0030】
本発明に用いるNVPは、単体または上記安定剤のみを添加した状態で保存することが好ましいが、水またはその他の溶剤と混合して保存しても構わない。また、上記安定剤以外のpH調節剤、緩衝剤、着色防止剤、消臭剤、着色剤等の添加剤を添加して用いることもできる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。ただし、下記実施例は本発明を限定するものではない。
実験に用いたNVPの製造例、保存安定性の試験方法および含有ポリマー濃度の測定方法については下記の通りである。
【0032】
<NVPの製造例>
実験に用いたNVPは、無水マレイン酸を原料として誘導されたN−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンを気相脱水することにより粗製NVPを得た後、蒸留、晶析精製したものを用いた。
【0033】
<保存安定性の試験方法>
内径3cm、高さ20cmのSUS304製の容器中に、上記製造例で得られたNVP100gを入れて蓋をし、30℃の温度で一定に設定したオーブン(三洋電機株式会社製)に保管した。
保存開始前および3ヶ月後の含有ポリマー濃度を下記方法で測定し、保存安定性を評価した。保存開始前のポリマー濃度は75ppmであった。
【0034】
<NVPの含有ポリマー濃度>
市販のポリビニルピロリドン(日本触媒製:K−30)を用いて検量線を作成した液体クロマトグラフィー(カラム:昭和電工製:shodex Asahipak GF−310 HQ)により該サンプルの分析を行い(溶媒:水、温度:40℃、流量:1.5ml/min)、NVP中のポリマー濃度を確認した。
実施例の表中で3ヶ月後のポリマー濃度が1000ppm未満の場合は合格、1000ppm以上の場合は不合格と記載した。
【0035】
実施例1
SUS304製の120ml入り保存容器内にNVP100g入れ、容器内を窒素置換し容器内の圧力を0.103MPaとして密閉した後、30℃で3ヶ月間保存した。この間、10日おきに10gずつサンプリングを行い、その液容積変動および圧力変動に伴って10日おきに窒素置換を繰返し、常に容器内の圧力を0.101MPa〜0.103MPaに保った。このサンプリングはNVPの残量が50gになるまでこれを繰返した。3ヶ月後、ポリマー濃度を測定した結果、ポリマー濃度は178ppmであった。また、この時のNVP液の色は無色透明であった(表1)。
【0036】
実施例2
安定剤としてN,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン0.001gを加え、常に容器内の圧力を0.101MPa〜0.105MPaに保った以外は、実施例1と同様に試験した。3ヶ月後、ポリマー濃度は175ppmであった。また、この時のNVP液の色は無色透明であった(表1)。
【0037】
実施例3
窒素置換を液相部でバブリングし、常に容器内の圧力を0.09MPa〜0.130MPaに保った以外は、実施例2と同様に試験した。3ヶ月後、ポリマー濃度は176ppmであった。また、この時のNVP液の色は無色透明であった(表1)。
【0038】
実施例4
容器をガラス製に変更し、30日おきに25gずつサンプリングを行い、その液容積変動に伴って30日おきに窒素置換を繰返し、常に容器内の圧力を0.101MPa〜0.108MPaに保った以外は、実施例2と同様に試験した。3ヶ月後、ポリマー濃度は105ppmであった。また、この時のNVP液の色は無色透明であった(表1)。
【0039】
実施例5
容器をPFA製に変更し、1日おきに2gずつサンプリングを行い、その液容積変動に伴って1日おきに窒素置換を繰返し、常に容器内の圧力を0.101MPa〜0.110MPaに保った以外は、実施例2と同様に試験した。3ヶ月後、ポリマー濃度は171ppmであった。また、この時のNVP液の色は無色透明であった(表1)。
【0040】
実施例6
窒素の代わりにアルゴンガスを用い、常に容器内の圧力を0.101MPa〜0.104MPaに保った以外は、実施例2と同様に試験した。3ヶ月後、ポリマー濃度は176ppmであった。また、この時のNVP液の色は無色透明であった(表1)。
【0041】
比較例1
窒素置換を行わずに、酸素雰囲気下、0.101MPaで実施例1と同様に試験した。3ヶ月後、容器内の圧力は0.101MPa、ポリマー濃度は1124ppmであった。また、この時のNVP液の色は黄褐色であった(表1)。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例7
15mの製品タンク(SUS304製)内にNVPを13m貯蔵し、タンク内を窒素置換し、タンク内の窒素の圧力を0.103MPaとして密閉した。1ヶ月後、10mの製品出荷に伴い液容積が低下し、容器内の窒素の圧力が0.102MPa以下になると同時に圧力制御装置を作動させ、初期圧力まで戻した(従ってクレーム範囲の0.09〜0.15MPaの範囲内になるように制御)。出荷の1週間後、生産によりタンク内に8mのNVPを貯蔵したが、タンク内に受液すると同時に液容積が徐々に上昇し、容器内の窒素の圧力が0.103MPa以上になると同時に圧力制御装置を作動させた。さらに1ヵ月後、5mの出荷に伴い液容積が低下したが、同様にして圧力制御装置を作動させ、初期圧力まで戻した。3ヶ月経過後、ポリマー濃度を測定した結果、ポリマー濃度は177ppmであった。また、この時のNVP液の色は無色透明であった。
【0044】
比較例2
15mの製品タンク(SUS304製)内にNVPを13m貯蔵し、タンク内の窒素の圧力を0.103MPaとして密閉した。1ヶ月後、10mの製品出荷に伴い液容積が低下したが、窒素は追加導入せず、空気を追加導入して圧力を0.101MPaとした。出荷の1週間後、生産によりタンク内に8mのNVPを貯蔵したが、この時も窒素置換は全く実施せず、0.101MPaを維持した。さらに2週間後、6mの製品出荷に伴い液面が低下したが、窒素は追加導入せず、空気を追加導入して圧力を0.102MPaとした。3ヶ月経過後、ポリマー濃度を測定した結果、ポリマー濃度は1573ppmであった。また、この時のNVP液の色は黄褐色であった。
【0045】
実施例8
20Lのアトロンペール缶(PE内袋)にNVPを15kg入れ、缶内を窒素置換し容器内の窒素の圧力を0.102MPaとして密閉した。1ヶ月後、アトロンペール缶から5kgのNVPを取り出したことに伴い液面が低下したが、窒素を導入することにより窒素の圧力を0.102〜0.103MPaの範囲内に制御した。さらに1ヵ月後、5kgを取り出したが、同様にして窒素の圧力を同範囲に維持した。3ヶ月経過後、ポリマー濃度を測定した結果、ポリマー濃度は165ppmであった。また、この時のNVP液の色は無色透明であった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、NVP保存容器内に不活性ガスを断続的に供給することによって、容器を限定することなく、また安定剤の添加の有無に関らず、長期間保存しても含有ポリマー濃度の増加が少ない極めて良好な保存安定性を有するNVPの保存方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−ビニル−2−ピロリドンの保存方法であって、該N−ビニル−2−ピロリドンの保存容器内に断続的に不活性ガスを供給することを特徴とするN−ビニル−2−ピロリドンの保存方法。
【請求項2】
前記保存容器内の内液容積が変化する保存容器であることを特徴とする請求項1記載のN−ビニル−2−ピロリドンの保存方法。
【請求項3】
前記保存容器内の不活性ガスの圧力が0.09MPa〜0.15MPaの範囲内に収まるよう断続的に不活性ガスを供給して制御することを特徴とする請求項1〜2記載のN−ビニル−2−ピロリドンの保存方法。
【請求項4】
前記不活性ガスが窒素ガスであることを特徴とする請求項1〜3記載のN−ビニル−2−ピロリドンの保存方法。

【公開番号】特開2007−238471(P2007−238471A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−60261(P2006−60261)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】