説明

N−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩を活性成分とするSCCA−1産生抑制剤

【課題】SCCA−1(Squamous Cell Carcinoma Antigen 1)産生抑制作用に基づき細胞異常増殖に起因する疾患、並びにSCCA−1産生亢進に起因する疾患を予防及び/または治療するための新規医薬の提供。
【解決手段】一般式(I)のN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸


及び/またはその塩を活性成分として含有する、SCCA−1産生抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩を活性成分として含む、扁平上皮細胞癌関連抗原−1(Squamous Cell Carcinoma Antigen 1、以下「SCCA−1と称す」)産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
扁平上皮細胞癌関連抗原(SCCA)は扁平上皮癌細胞で発見された抗原であり、子宮頚部、肺、食道、皮膚の扁平上皮細胞癌で高い血中濃度を示し、扁平上皮細胞癌の診断によく利用されている(非特許文献1:H. Kato et al. Cancer 40:1621-1628 (1977)、非特許文献2:N.Mino et al. Cancer 62: 730-734 (1988))。
【0003】
SCCAはまた、扁平上皮細胞癌のみならず、本発明者らの研究より、乾癬表皮の上層において発現の亢進が認められることでも知られる(非特許文献3:Takeda A. et al、 J. Invest. Dermatol. (2002) 118(1), 147-154)。乾癬は羅患率の高い皮膚疾患の一つであり、表皮細胞の増殖・分化異常と炎症細胞浸潤を特徴とする慢性、再発性の炎症性不全角化症である。乾癬は遺伝的素因に種々の環境因子が加わって発症すると考えられる(非特許文献4:Hopso-Havu et al. British Journal of Dermatology (1983) 109, 77-85)。
【0004】
SCCAは染色体18q21.3上にタンデムに並んでいる二つの遺伝子SCCA−1及びSCCA−2遺伝子によりコードされる。それらによりコードされるタンパク質、SCCA−1及びSCCA−2は共に分子量約45,000のタンパク質であり、非常に相同性が高いが、反応部位のアミノ酸配列が異なり、異なる機能を有していると考えられている(非特許文献5:Schick et al. J. Biol. Chem. (1997) 27213, 1849-55)。
【0005】
本発明者はSCCA−1やSCCA−2が関与する表皮の生理学的メカニズムの解明を目的とする研究を行ったところ、両SCCAはともに細胞のアポトーシスを抑制する作用を有する抗アポトーシス因子であるという知見を得ている(特許文献1:特開2005−281140)。
【0006】
また本発明者は特にSCCA−1の発現を指標とする肌の感受性評価を目的とする研究を行ったところ、コントロールと比較して、アトピー性乾燥皮膚では16倍、露光部皮膚では90倍、花粉症アレルギー性皮膚では232倍、乾癬皮膚では466倍もSCCA−1の発現が亢進しているという知見も得ている(特願2006−075024)。
【0007】
更に本発明者は、細胞増殖とSCCA、特にSCCA−1との関係について種々の検討を行ったところ、
−SCCA高発現マウスにおいて細胞増殖が活性化されていること、
−SCCA高発現マウスにおいて表皮肥厚が見られること、
−SCCA−1高発現細胞株において、細胞増殖とSCCA−1発現量に相関性があること、及び
−SCCAノックダウン細胞株において細胞増殖活性が低下すること、を見出した。
【0008】
以上より、SCCA、特にSCCA−1の産生を有効に抑制する物質があれば細胞異常増殖に起因する疾患、並びにSCCA−1産生亢進に起因する疾患の予防及び/または治療に有用であると考えられる。
【0009】
【特許文献1】特開2005−281140
【0010】
【非特許文献1】Cancer 40:1621-1628 (1977)
【非特許文献2】Cancer 62: 730-734 (1988)
【非特許文献3】J. Invest. Dermatol. 118(1), 147-154(2002)
【非特許文献4】British Journal of Dermatology 109, 77-85(1983)
【非特許文献5】J. Biol. Chem. 27213, 1849-55(1997)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、細胞増殖とSCCA−1の関係に着目して、多種多様な薬物をスクリーニングした結果、N−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩がSCCA−1の産生を有意に抑制することを見出した。従って、本発明者は、当該N−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩は、そのSCCA−1産生抑制作用に基づき細胞異常増殖に起因する疾患、並びにSCCA−1産生亢進に起因する疾患を予防及び/または治療するために極めて有用であると考え、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願は以下の発明を包含する:
[1] 一般式(I)のN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸
【化1】

及び/またはその塩を活性成分として含有する、SCCA−1産生抑制剤。
[2] [1]に記載のN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩を有効成分として含有する、細胞増殖異常に起因する疾患を予防及び/または治療するための医薬組成物。
[3] [1]に記載のN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩を有効成分として含有する、表皮肥厚を予防及び/または治療するための医薬組成物。
[4] [1]に記載のN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩を有効成分として含有する、基底細胞癌(basal cell carcinoma : BCC)、有棘細胞癌(squamous cell carcinoma : SCC)、Bowen病(Bowen’s disease)、毛母腫(石灰化上皮腫、pilomatricoma)、脂漏性角化症(sebarrheic keratosis)、光線角化症(日光角化症、actinic keratosis, solar keratosis)など悪性腫瘍(carcinoma)および前癌状態、扁平苔癬様角化症(lichen planus-like keratosis)、良性苔癬様角化症(benign lichenoid keratosis)、軟線腺腫(acrochordon, cutaneous tag)、膿疱性乾癬(pustular psoriasis)、尋常性乾癬(psoriasis vulgaris)など乾癬(psoriasis)、色素性乾皮症(xeroderma pigmentatosum : XP)、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus : SLE)、円形状全身性エリテマトーデス(discoid lupus erythematosus : DLE)などエリテマトーデス(erythematosus)、汗孔角化症(porokeratosis)、炎症性線上疣贄表皮母斑(inflammatory linear verrucous epidermal naevus : ILVEN)などの母斑や疣贄、肥厚(hyperplasia)を伴う良性角化症から成る群から選定される疾患を治療するための医薬組成物。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩は、SCCA−1の産生を抑制するのに極めて有用である。具体的には、N−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸をヒトケラチノサイトの培養中に培地に添加すると、有意にSCCA1産生量が抑制されることを見出した。表皮細胞の増殖異常をきたし、且つSCCA1発現が顕著に亢進している3次元皮膚モデルをN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸含有培地で培養することで表皮肥厚を予防、改善できることも確認された。さらに、1−ピペリジンプロピオン酸をヒト皮膚に連用塗布することで、塗布部におけるSCCA1量が有意に低下することも確認された。
【0014】
更に本発明に係るN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩のヒト皮膚への効果を検討したところ、ヒト皮膚の表皮の肥厚亢進を抑制するのに有用であることが確認された。
【0015】
従って、本発明に係るN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩は、SCCA−1の産生を抑制することによって細胞の異常増殖に起因する疾患、例えば、基底細胞癌、有棘細胞癌、Bowen病、毛母腫(石灰化上皮腫)、脂漏性角化症、光線角化症(日光角化症)などの悪性腫瘍および前癌状態、扁平苔癬様角化症、良性苔癬様角化症、軟線腺腫、膿疱性乾癬、尋常性乾癬などの乾癬、色素性乾皮症、アトピー性皮膚炎、全身性エリテマトーデス、円形状全身性エリテマトーデスなどのエリテマトーデス、汗孔角化症、炎症性線上疣贄表皮母斑などの母斑や疣贄、肥厚を伴う良性角化症などを予防及び/または治療するために有用である。
【0016】
本発明に係るN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸は以下の一般式(I)の化合物である。
【化2】

【0017】
本発明に係る一般式(I)で示されるN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸は公知の物質であり、公知の方法により容易に合成することができ、または市販品を容易に購入することができる。
【0018】
また、本発明に係る一般式(I)で示されるN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸は公知の方法により無機塩又は有機塩とすることができる。本発明において用いられる塩としては、特に限定されないが、例えば、無機塩としては、塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩等が挙げられる。有機塩としては、酢酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、アミノ酸塩等が挙げられる。
【0019】
本発明のSCCA−1産生抑制剤及び医薬組成物は、N−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩、及び医薬的に許容され得る賦形剤及び/または担体を含んで成る。この医薬組成物には機能を発揮するのに有効な量のN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩が含有され、その含有量は、その医薬組成物の用途に応じて変わり得るであろうが、例えば医薬組成物全量中、0.001〜20.0質量%が好ましく、さらに好ましくは、0.01〜10.0質量%であり、特に好ましくは0.2〜10.0質量%であろう。なおN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩が混合されて用いられる場合は、それらの総含有量の上限を20.0質量%以下にすることが好ましく、さらに好ましくは10.0質量%以下にすることであろう。
【0020】
本発明のSCCA−1産生抑制剤及び医薬組成物は、その用途に応じた様々な剤型をとってよく、例えば経口、例えば錠剤、コート錠、糖衣錠、ハードもしくはソフトゼラチンカプセル、溶液または懸濁物の形態で、または経腸、例えば坐剤の形態、または非経口、例えば注射液の形態、または外用、例えばパッチ剤、軟膏、クリームまたは乳液でも投与され得る。
【0021】
本発明のSCCA−1産生抑制剤及び医薬組成物は、活性成分と共に例えば、所望により、適宜無機または有機固体または液体の医薬的に許容され得る担体を含み得る。例えば、希釈剤(ラクトース、デキストロース、サッカロース、マンニトール、ソルビトール及びセルロース等)、滑沢剤(シリカ、タルク、ステアリン酸もしくはその塩、例えばステアリン酸マグネシウムもしくはステアリン酸カルシウム等)、及び/またはポリエチレングリコール等を含み得る。また錠剤は、結合剤(ケイ酸アルミニウムマグネシウム、スターチ、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及び/またはポリビニルピロリドン等)、及び所望により崩壊剤(スターチ、寒天、アルギン酸もしくはその塩、及び/または発泡性混合物等)、吸収剤、着色剤、香味料及び/または甘味料等を含み得る。
【0022】
更に本発明のSCCA−1産生抑制剤及び医薬組成物は、保存剤、可溶化剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香味剤、浸透圧を変化させるための塩、緩衝剤、コーティング剤、または抗酸化剤も含み得る。また本発明のSCCA−1産生抑制剤及び医薬組成物は、本発明に係るN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩以外の追加の活性成分等の治療的に価値のある物質も更に含み得る。
【0023】
本発明のSCCA−1産生抑制剤及び医薬組成物の用法用量は広い範囲で変化させることができ、そしてそれは当業界において公知の方法で決定され得る。かかる用法用量は、投与経路、処置される症状、及び処置される患者を含むそれぞれに特定なケースで個々の要求に対して調整される。その投薬量は、その医薬品組成物の用途および剤形もしくは患者の体重および体表面積に応じて変わり得るであろうが、1日の投薬量0.1μg〜10000mgが好ましく、さらに好ましくは100μg〜1000 mgが好ましい。これらを単回もしくは分割して投薬を行い、投薬方法は経口や注入で投与してもよく、塗布での投与でもよい。
【実施例1】
【0024】
SCCA高発現トランスジェニックマウスを用いた検討:
SCCA1は増殖異常ヒト皮膚において、表皮上層で高発現するが、正常皮膚における発現はほとんど観察されない。インボルクリンは表皮の最終分化過程で発現する分化マーカーでもあるため、インボルクリンプロモーターを用いてSCCA1トランスジェニックマウスマウスを作成した。SCCA−1 cDNAをインボルクリンプロモーター(L.B. Taichman, State University of New York, Stony Brook, NY; Carroll et al., 1993)に融合し、そしてBDF1マウスを使用してトランスジェニックマウスを作製した。無毛表現型を得るために、当該インボルクリン−SCCA−1トランスジェニックマウスを、HR−1マウスと交配させ、そして3継代を経てSCCA−1+/+マウスを得た。トランスイルミネーターにより、200mJ/cm2/日で、2日間、UVB照射をした。その後、皮膚サンプルを採取し、トランスジェニックマウスマウスで目的通りSCCA1が表皮上層で高発現していることを確認するため、MoMapキット(Ventana Medical Systems, Inc.)を使用して、抗−SCCA−1モノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, CA, USA)で免疫染色したところ、当該トランスジェニックマウスの表皮上層でSCCA−1の強度な発現が認められたが、同様に染色した野生型マウスではかかる発現は認められなかった(図1)。更に当該トランスジェニックマウスの皮膚を採取し、PFA固定した後、ヘマトキシリン及びエオシンで染色したところ、顕著な表皮肥厚が認められたが、同様に染色した野生型マウスではかかる表皮肥厚は認められなかった(図2)。
【0025】
上記の通り作製したトランスジェニクマウスにおける細胞増殖の活性を調べるために、抗Ki−67抗体(sc−7846:Santa Cruz Biotechnology, CA, USA)および抗ケラチン14抗体で免疫染色したところ、基底細胞層のマーカーであるケラチン14及び増殖細胞マーカーであるKi−67の亢進が認められ、SCCA1トランスジェニクマウスの基底細胞層では著しくKi−67細胞が増殖することが認められたが、同様に染色した野生型マウスではかかる亢進は認められなかった(図3)。
【実施例2】
【0026】
SCCA高発現細胞を用いた検討:
乾癬のcDNAライブラリーからクローニングしたSCCA−1及びSCCA−2cDNA(Takeda et al.,2002)をpターゲットベクターにサブクローニングし、そしてLipofectamine Plus(Invitrogen)を使用して3T3/J2細胞にトランスフェクトした。500μg/mlのG418中で4週間培養した後、SCCA−1について20のコロニーを単離し、そしてSCCA発現細胞株として確立した(図4)。
【0027】
上記の通り作製したSCCA高発現細胞のSCCA発現量をTaqman PCRにより測定したところ、20のコロニーの発現量は、1〜2772倍で変化した。当該SCCA高発現細胞では、SCCA−1発現量の増加に伴い、細胞増殖活性の上昇が認められた(図5)。なお、PCR分析は下記のとおりに行った。RNAをIsogen(ニッポンジーン)を用いて調製し、そして以下のプライマー/プローブを用いて、当量の相補性DNAをABI PRISM 7900HT配列検出装置(Taqman PE)(Applied Biosystems)による定量PCR分析にかけた。
・ヒトSCCA1
フォワードプライマー 5’-GTGCTATCTGGAGTCCT-3’(配列番号1)
リバースプライマー 5’-CTGTTGTTGCCAGCAA-3’ (配列番号2)
プローブ 5’-CATCACCTACTTCAACT-3’ (配列番号3)
・ヒトSCCA2
フォワードプライマー 5’-CTCTGCTTCCTCTAGGAACACAG-3’ (配列番号4)
リバースプライマー 5’-TGTTGGCGATCTTCAGCTCA-3’ (配列番号5)
プローブ 5’-AGTTCCAGATCACATCGAGTT-3(配列番号6)
・ヒトGAPDH
フォワードプライマー 5’-GAAGGTGAAGGTCGGAGTC-3’ (配列番号7)
リバースプライマー 5’-GAAGATGGTGATGGGATTTC-3’ (配列番号8)
プローブ 5’-AGGCTGAGAACGGGAAGCTTGT-3’ (配列番号9)
GAPDHは内部コントロールとして用いた。また、半定量RT−PCR分析を以下のプライマーを用いて行った。
・マウスSCCA(Serpinb 3a)
フォワードプライマー 5’-CTATCCTTCCTGCCCACTTC-3’ (配列番号10)
リバースプライマー 5’-CTTTGCTCCATAGATACTGTTGG-3’ (配列番号11)
・マウスGAPDH
フォワードプライマー 5’-CCCATCACCATCTTCCAG−3’ (配列番号12)
リバースプライマー 5’-CCTGCTTCACCACCTTCT-3 (配列番号13)
【実施例3】
【0028】
SCCAノックダウン細胞を用いた検討:
2本鎖オリゴヌクレオチドを、発現したオリゴRNA中でヘアピン構造を形成させるヒトSCCAの共通配列(5'-AAGCCAACACCAAGTTCATGT-3':配列番号14)に対応するように設計し、pサイレンサーベクター(Ambion)中でクローン化し、そしてケラチノサイト細胞株HaCat細胞にトランスフェクトした。GFP mRNA(Ambion)に対するsiRNAをコントロールとして用いた。トランスフェクションは、Lipofectamine 2000(Invitrogen)により行い、そしてハイグロマイシンーBを培地に添加して4−6週間培養を行って、恒常的にSCCA発現がノックダウンされている細胞株を確立した(図6)。
【0029】
上記の通り作製したSCCAノックダウン細胞のSCCA発現量を上記のとおりにTaqman PCRにより測定したところ、SCCA−1及びSCCA−2の発現量が共に90%以上抑制された(図7)。当該SCCAノックダウン細胞ではコントロールと比較してケラチノサイト増殖活性の有意な低下が認められた(図8)。
【実施例4】
【0030】
細胞系におけるN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸によるSCCA−1発現抑制効果:
ヒトケラチノサイトを培養し、60〜70%コンフルエント状態で3%のN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸を添加した。24時間後にRNAを採取し、定量的PCRを用いてSCCA遺伝子発現量を測定(内部標準にはG3PDHを使用)した。その結果を図9に示す。この図に示すとおり、SCCA−1遺伝子発現量の有意な減少が認められた。
【実施例5】
【0031】
N−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸のヒト皮膚への効果:
3%のN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸含有薬剤をハーフフェイス法を用いて連用塗布した。すなわち、半顔にN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸含有薬剤を、半顔にN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸除去コントロールを塗布した。左右どちらにN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸含有薬剤を塗布するかは、被験者および測定者ともにブラインドとした(ダブルブラインド試験)。連用前、1ヶ月後後の表皮SCCA1量を測定した。
【0032】
両頬のSCCA−1発現量を以下のELISA法にて測定した。
ELISA法:
皮膚角層試料は、透明粘着テープ(セロテープ(登録商標)(NICHIBAN))を皮膚表面に貼付したのち剥離するテープストリッピングにより採取した。皮膚角層の付着したこのテープを裁断、抽出バッファー(0.1M Tris-HCl(pH8.0), 0.14M NaCl, 0.1% Tween-20, 1ml)に浸漬、超音波処理(20 sec ×4)にかけ、試料抽出液を作製した。PBSに希釈したポリクローナル抗SCCA抗体(1:1000に希釈)を100μlずつ、96穴ELISAプレートの各ウェルに分注し、一晩室温におき、プレートの固相に結合させた。その後、プレートへの非特異的な結合を阻害するために、ブロッキング溶液(ブロックエースをPBS−Tween 20で希釈した溶液、300μl/ウェル)にて1時間インキュベートした。上記試料抽出液50μlをELISAプレートの各ウェルに添加し、37℃で2時間反応させた。モノクローナル抗SCCA−1抗体(1:1000に希釈)を添加して37℃で1時間反応させた。次に、二次抗体、西洋ワサビペルオキシダ−ゼ標識抗マウスを添加して37℃で1時間反応させ、0.1% Tween-20 PBSで洗浄後、基質3',3',5',5'−テトラメチルベンジジン(TMB)を添加して、TMB Peroxidase EIA substrate kit (BIO-RAD社)を用いて発色させ、630 nmで測定を行った。N−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸を1ヶ月連用塗布することにより、コントロールである15%エタノールと比較して、表皮のSCCA−1量が有意に低下した(図10A)。また各被験者の0ヶ月データとの差(改善度)結果からも連用塗布によって、有意にSCCA−1が低下したことが明らかになった(図10B)。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】SCCA−1トランスジェニックマウスの作製方法を示す。
【図2】SCCA高発現マウスにおける細胞増殖の活性化について、野生型マウスと比較したケラチン14及びKi−67の亢進を示す。
【図3】SCCA高発現マウスにおける表皮肥厚について、老化した野生型マウスと比較した皮膚染色を示す。
【図4】SCCA−1高発現細胞の確立方法を示す。
【図5】SCCA−1発現量と細胞増殖活性の相関を示す。
【図6】RNA干渉を用いたSCCAノックダウン細胞の確立方法を示す。
【図7】SCCAノックダウン細胞株における、SCCA−1及びSCCA−2の発現量を示す。
【図8】SCCAノックダウン細胞株における細胞増殖活性の低下を示す。
【図9】細胞系における1−ピペリジンプロピオン酸によるSCCA−1発現抑制効果を示す。
【図10】ヒト頬へのN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸塗布後のSCCA−1量の改善効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)のN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸
【化1】

及び/またはその塩を活性成分として含有する、SCCA−1(Squamous Cell Carcinoma Antigen 1)産生抑制剤。
【請求項2】
請求項1に記載のN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩を有効成分として含有する、細胞増殖異常に起因する疾患を予防及び/または治療するための医薬組成物。
【請求項3】
請求項1に記載のN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩を有効成分として含有する、表皮肥厚を予防及び/または治療するための医薬組成物。
【請求項4】
請求項1に記載のN−ベンゼンスルホニル−γ−アミノ酪酸及び/またはその塩を有効成分として含有する、基底細胞癌(basal cell carcinoma : BCC)、有棘細胞癌(squamous cell carcinoma : SCC)、Bowen病(Bowen’s disease)、毛母腫(石灰化上皮腫、pilomatricoma)、脂漏性角化症(sebarrheic keratosis)、光線角化症(日光角化症、actinic keratosis, solar keratosis)など悪性腫瘍(carcinoma)および前癌状態、扁平苔癬様角化症(lichen planus-like keratosis)、良性苔癬様角化症(benign lichenoid keratosis)、軟線腺腫(acrochordon, cutaneous tag)、膿疱性乾癬(pustular psoriasis)、尋常性乾癬(psoriasis vulgaris)など乾癬(psoriasis)、色素性乾皮症(xeroderma pigmentatosum : XP)、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis)、全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus : SLE)、円形状全身性エリテマトーデス(discoid lupus erythematosus : DLE)などエリテマトーデス(erythematosus)、汗孔角化症(porokeratosis)、炎症性線上疣贄表皮母斑(inflammatory linear verrucous epidermal naevus : ILVEN)などの母斑や疣贄、肥厚(hyperplasia)を伴う良性角化症から成る群から選定される疾患を治療するための医薬組成物。

【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−242341(P2009−242341A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−93430(P2008−93430)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】