説明

NC自動旋盤の主軸軸受構造

【課題】 NC自動旋盤の主軸軸受のクリープ現象やフレッチング現象を防ぐ。
【解決手段】 主軸101を主軸台130上に装着する前に、予め、主軸101の所定位置に、複列式アンギュラ軸受である前側軸受110と、入れ子ハウジング121に収め、且つ予圧が付与された複列式アンギュラ軸受である後側軸受120の両方が組込まれて、更に、主軸台130に装着する際、前側軸受110の右アンギュラ玉軸受110Rの外輪が軸方向の荷重が掛からない状態で先ず固定され、その後、前側軸受110の左アンギュラ玉軸受110Lの外輪が、フランジ137に螺合するスラスト調整ネジ139により波ワッシャ135を介して押圧されながら主軸台130に固定されている。前側軸受110の外輪の連れ回りが無くなり、クリープ現象やフレッチング現象が防げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、NC自動旋盤の主軸軸受構造に関する。
【背景技術】
【0002】
NC自動旋盤を含む多くの工作機械では、通常、主軸を軸支する軸受を主軸の前側と後側の2ヶ所に設ける。軸受には滑り軸受と転がり軸受の二種類があるが、本発明では転がり軸受を用いる。
【0003】
以下、背景技術を、図4および図5を用いて説明する。図4は、背景技術で、旋盤等の工作機械において、主軸を前後2箇所で軸支した主軸軸受構造の断面図、図5は、背景技術で、NC自動旋盤の主軸の前後2箇所を、複列式アンギュラ軸受を用いて軸支した主軸軸受構造の断面図である。
【0004】
旋盤等の汎用工作機械における主軸軸受構造に関しては、下記の特許文献1で開示された技術がある。
【0005】
【特許文献1】実用新案出願公開 昭57−145633号公報
【0006】
以下、図4を用いながら、特許文献1に開示された主軸軸受構造を背景技術1として説明する。図4に示した主軸軸受構造10では、主軸1の前部であるテーパー部1aを、テーパー穴付円筒コロ軸受2を用いて主軸台3に支承している。このための構造として、主軸1の前端部の膨径部1bとテーパー穴付円筒コロ軸受2の内輪との間に主軸1に設けた雄ネジと螺合する間座4を配し、また、テーパー穴付円筒コロ軸受2の後方には、スラスト玉軸受5と間隔筒6とナット7を順に配し、またナット7は主軸1の雄ネジと螺合している。また、テーパー穴付円筒コロ軸受2の外輪とスラスト玉軸受5の外輪とは、主軸台3に取付けたベアリング抑え8により、主軸台3に設けた前側(図では左側)の円筒穴内に固定され、また、主軸1の後部は、後部軸受手段9により主軸台3に設けた後側(図では右側)の円筒穴内に支承されている。そして、主軸1の雄ネジと螺合したナット7は、そのネジ回転により、間隔筒6とスラスト玉軸受5と共にテーパー穴付円筒コロ軸受2の内外輪を左側に押す事が可能である一方、主軸1の雄ネジと螺合する間座4は、そのネジ回転により、テーパー穴付円筒コロ軸受2の左側と接触してテーパー穴付円筒コロ軸受2を右側に押すことが出来るので、主軸1上でナット7と間座4の位置関係を適宜調整することにより、主軸1はテーパー部1aでラジアル方向に適宜隙間を有しながら工作機械の主軸台3に支承される。
【0007】
テーパー穴付円筒コロ軸受2の組付後のラジアル隙間量は、テーパー穴付円筒コロ軸受2の温度上昇および、剛性を左右するので、適用する工作機械の特性により、適正に調整設定する必要がある。テーパー穴付円筒コロ軸受2のラジアル隙間の適正値は−2μm〜+3μmという微小範囲である。このため、特許文献1では、外部から間座4を回動させることでテーパー穴付円筒コロ軸受2の最終的なラジアル隙間を適正値に調整している。
【0008】
背景技術1の主軸軸受構造の場合、主軸上で間座の位置を調整することで、テーパー穴付円筒コロ軸受の発熱量を極力押える様なセットが可能になる。(しかし、運転しながら、微妙な温度変化に対応して調整することはできない)また、一般的に、工作機械の主軸や軸受や更には軸受を支える主軸台は、軸受からの発熱による温度上昇の他に、ワーク加工時の切削熱によっても温度上昇し、熱膨張する。特許文献1では特に記されてないが、特許文献1の場合も含め、工作機械では、切削熱は冷却液により冷却される。しかし、この冷却も昇温量を出来るだけ押えるに過ぎず、昇温を完全に避けることは不可能である。そのため、主軸を含む軸受部分の熱膨張による悪影響を完全に避けることはできない。
【0009】
また、図4の特許文献1では、軸受として、前側には、転がり軸受の一種であるテーパー穴付円筒コロ軸受とスラスト玉軸受を、後側には後部軸受手段の一部としてテーパー穴付円筒コロ軸受を用いている。テーパー穴を持つ軸受は、主軸との組付けや取外しが容易で、熱膨張による悪影響も緩和する。また、テーパー穴付円筒コロ軸受の転動体を成す円筒コロは重負荷にも耐える。しかし、市販の転がり軸受は、内径が円筒穴のものが多く、テーパー穴のものは少ないし、転動体も玉のものが多く、コロのものは少ない。その為、テーパー穴付円筒コロ軸受は一般的に高価である。また、スラスト荷重を受けるスラスト玉軸受と組み合せる必要がある。
【0010】
これらの問題を、工作機械の一種であるNC自動旋盤に特化して解決した背景技術を、図5を用いながら背景技術2として説明する。図5は、背景技術におけるNC自動旋盤で、主軸の前後2箇所を、複列式アンギュラ軸受を用いながら軸支した主軸軸受構造の断面図である。尚、NC自動旋盤とは、数値制御された旋盤を主体に、材料のローデング、加工、及び加工済み製品のアンロードを連続的、自動的に行う旋盤加工システムの中の旋盤部分を指す。
【0011】
図5に示したNC自動旋盤の主軸軸受構造20では、複列式アンギュラ軸受である前側軸受23と後側軸受33を用いて主軸22を2ヶ所で軸支している。複列式アンギュラ玉軸受とは、2個の単列アンギュラ玉軸受(即ち、前側軸受23においては、左アンギュラ玉軸受23Lと右アンギュラ玉軸受23Rの夫々を指す。また後側軸受33においては、左アンギュラ玉軸受33Lと右アンギュラ玉軸受33Rの夫々を指す)の間に間座(即ち、前側軸受23においては、外輪間座23GKと内輪間座23NKを、後側軸受33では、外輪間座33GKと内輪間座33NKを指す)を挟んで1セットにして用いる軸受を指す。この場合、2つの単列アンギュラ玉軸受に予めスラスト荷重が常に加わっているようにする(即ち、予圧を掛ける)と、軸受すきまが殺されてガタがなくなり、軸受部分の剛性が高まるので、前側軸受23と後側軸受33のそれぞれの外輪間座と内輪間座(即ち、前側軸受23においては、外輪間座23GKと内輪間座23NKを、後側軸受33では、外輪間座33GKと内輪間座33NKを指す)を寸法調整して2個のアンギュラ玉軸受の間に入れながら締付ける。尚、「複列式アンギュラ玉軸受」やその使用に際して掛ける「予圧」に関しては、後述の「発明を実施するための最良の形態」の中で、詳細に説明する。
【0012】
背景技術2の主軸軸受構造20では、先ず、主軸台21にセットする前の主軸22に、前側軸受23を取付ける。その為には、主軸22の右端から、前側軸受23の左アンギュラ玉軸受23L、内輪間座23NK、外輪間座23GK、右アンギュラ玉軸受23R、ラジアル調整ネジ24の順に主軸22に貫通させ、これらを、左アンギュラ玉軸受23Lの内輪が主軸前肩22MKに当接する位置迄左側に押込み、ラジアル調整ネジ24を主軸前雄ネジ22MOと螺合させて締付ける。
【0013】
次に、前側軸受23を装着した主軸22を主軸台21に取付ける。即ち、主軸台21の前側軸受ハウジング25と後側軸受ハウジング35とは同一軸線上に存在し、それぞれのハウジング底部に貫通穴25K、貫通穴35Kを有するので、前側軸受23を装着した主軸22の右端を、左側(前側軸受ハウジング25側)から挿入し、その後、前側軸受23の外輪取付板27を、数本のネジを用いて主軸台21の前側軸受ハウジング25の開口部に固定する。尚、前側軸受ハウジング25の軸受格納穴深さ(D)は、前側軸受23に予圧を掛けた時の外輪の幅寸法(W)より少し大きくしておいて、軸受構造20の相対的な軸方向の熱膨張に備えている。
【0014】
次に後側軸受33を主軸22の所定位置に取付ける。即ち、主軸22の右端から後側軸受33の左アンギュラ玉軸受33L、内輪間座33NK、外輪間座33GK、右アンギュラ玉軸受33R、ラジアル調整ネジ34を、この順に主軸に挿入した後、これらを左側に押し込んで、後側軸受ハウジング35の円筒内に格納し、後側軸受33の左アンギュラ玉軸受33Lの内輪が主軸後肩22UKに当接する位置迄移動させた後、ラジアル調整ネジ34を主軸22の後雄ネジ22UOと螺合させ、締付けることで後側軸受33を主軸22の所定位置にしっかりと固定する。この後、後側軸受33の外輪締付板37を、主軸台21の後側軸受ハウジング35の開口部に、数本のネジを用いて固定する。これにより、後側軸受33を構成する左アンギュラ玉軸受33Lと右アンギュラ玉軸受33Rの軸方向の相対的位置関係が強制的に決まって後側軸受33内部にスラスト荷重が加わり予圧が付与される。尚、はめあいに関しては、外輪は軽圧入程度で、内輪は、しまりばめである。
【0015】
図5に示した主軸軸受構造20を有するNC自動旋盤では、モーター(図示省略)からの回転力は主軸プーリー28を介して主軸22に伝達し、主軸22の前側先端(図示省略)でチャックしたワークを回転させ、切削加工する。
【0016】
以上、図5を用いながら説明した背景技術2の主軸軸受構造を有するNC自動旋盤では背景技術1の問題は無くなる。即ち、主軸の前後2箇所で主軸台に軸支する場合でも、後側軸受のみでスラスト方向を拘束し、前側軸受は自由にしておくので、主軸はスラスト方向に熱変位が可能であり、運転を止めて調整する必要もない。また、アンギュラ玉軸受は性能の割に安価であり、また、スラスト玉軸受と組み合せる必要もない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、近年のハードディスクモータードライバー等に代表される様に、益々部品単体での精度要求は厳しさを増しており、数μm単位、中でも主要部品では1〜2μmの加工精度が強く要求されている。これらの要求を満たす為には、NC自動旋盤においても、機械精度、即ち、主軸の総合精度(回転精度、剛性、熱変位など)を確保すると共に、長期間安定した精度維持が可能なNC自動旋盤が求められてきている。
【0018】
また、汎用工作機械と同様、NC自動旋盤においても、軸と主軸台との間に熱膨張の差が生じる。(通常は、軸が伸びる。しかし冷却の仕方によっては、逆の場合もある。)従って、背景技術2の中で説明した様に、一方の軸受(これを「固定側軸受」と呼ぶ)では、軸に内輪を固定した後、軸に対する軸受(およびそれを支えるハウジングや、主軸台)のスラスト方向の相対的位置関係が変化できない様に外輪も固定し、他方の軸受(これを「自由側軸受」と呼ぶ)では、軸に内輪を固定し、外輪と主軸台は軽圧入にして、外輪が軸方向に動ける様にする方法が一般的に行われてきた。しかし、外輪と主軸台は軽圧入されているに過ぎないので、切削による負荷が軸受に掛かり、その負荷がベアリングの軌道面に伝わることで、自由側軸受の外輪が連れ回りされる現象が発生した。そして、外輪の連れ回りは、軸受のトラブル原因であるクリープ現象や、フレッチング現象を生じ、その結果、主軸の回転精度が落ちたり、主軸の回転中心が変位して、加工製品の品質悪化を引き起こしたりした。
【0019】
クリープ現象とは、軸受の嵌め合い面に生じる回転方向の相対的なズレ運動のことで、弱いしまりばめをした場合でも、ラジアル荷重で嵌め合い面が弾性変形すると荷重と反対側の嵌め合い面に隙間ができるのでクリープが発生する。クリープ現象は、原理的には転がり運動であるが、これが起きると嵌め合い面が磨耗し、軸やハウジングを破損させたり、磨耗紛が軸受の中に入り、軸受故障の原因になる。これを防ぐには、締め代を付けて取付けるのが効果的だが、使用条件によっては、締め代を設けることができない場合は、嵌め合い面を潤滑することもある。
【0020】
また、フレッチング現象とは、転がり軸受に荷重を加えながら、微小角度だけ揺動させた場合に起きる現象で、丁度過大荷重によって軌道面に圧痕を付けた様な磨耗痕が残る。滑り磨耗の一種で、油膜が破断して磨耗を起し、磨耗紛が酸化して赤褐色の粉になり、更に進行すると接触面がラッピングされて光沢面になる現象である。フレッチングを防ぐ一般的な方法は油が接触面に導入され易くすることである。
【0021】
背景技術2で説明したNC自動旋盤の軸受構造では、クリープ現象やフレッチング現象による軸受の劣化や、製品品質悪化を避ける為に、頻繁なメンテナンスが必要になった。
また主軸台に設けた軸受外輪格納用のハウジングが磨耗してしまうと、軸受の交換だけでは加工製品の品質が回復されない事態迄も発生した。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は上記課題を解決するために成されたものである。解決する手段として、本発明の請求項1記載に係わる発明は、NC自動旋盤の主軸の回転を、この主軸の前後2箇所で、主軸台上にて軸支するようにした主軸軸受構造において、主軸台上に主軸を装着する前工程として、予め、主軸の所定位置に前側軸受と後側軸受の両方が組み込まれていることを特徴とするNC自動旋盤の主軸軸受構造である。
【0023】
また、本発明の請求項2記載に係わる発明は、前記後側軸受が、入れ子ハウジングに収められてユニット化されていることを特徴とするNC自動旋盤の主軸軸受構造である。
【0024】
また、本発明の請求項3記載に係わる発明は、前記入れ子ハウジング内の後側軸受には、複列式アンギュラ軸受が用いられ、且つ予圧が付与されて組み込まれていることを特徴とするNC自動旋盤の主軸軸受構造である。
【0025】
また、本発明の請求項4記載に係わる発明は、前記入れ子ハウジングが主軸台の所定位置に固定された後に、前側軸受が主軸台に取付けられることを特徴とするNC自動旋盤の主軸軸受構造である。
【0026】
また、本発明の請求項5記載に係わる発明は、前側軸受には、複列式アンギュラ軸受が用いられ、前側軸受の右アンギュラ玉軸受の外輪が軸方向の荷重が掛からない状態で先ず固定され、その後、前側軸受の左アンギュラ玉軸受の外輪が、主軸台に固定されたフランジに螺合するスラスト調整ネジにより、波ワッシャを介して押圧されながら主軸台に固定されていることを特徴とするNC自動旋盤の主軸軸受構造である。
【0027】
また、本発明の請求項6記載に係わる発明は、前記波ワッシャの押圧力は、前記スラスト調整ネジの締め付けトルク値により管理されていることを特徴とするNC自動旋盤の主軸軸受構造である。
【0028】
また、本発明の請求項7記載に係わる発明は、前記スラスト調整ネジのフランジ部に、トルク計の先端端子との係合部が設けられていることを特徴とするNC自動旋盤の主軸軸受構造である。
【0029】
また、本発明の請求項8記載に係わる発明は、前記波ワッシャは複数枚重ね合せて使用されていることを特徴とするNC自動旋盤の主軸軸受構造である。
【発明の効果】
【0030】
発明の効果として、請求項1記載に係わる本発明のNC自動旋盤の主軸軸受構造を用いると、主軸台上に主軸を装着する前工程として、予め、主軸の所定位置に前側軸受と後側軸受の両方が組み込まれているので、主軸台への主軸装着が容易になる。
【0031】
発明の効果として、請求項2記載に係わる本発明のNC自動旋盤の主軸軸受構造を用いると、後側軸受が、入れ子ハウジングに収められてユニット化されているので、後側軸受の主軸台への組付けが容易になる。
【0032】
発明の効果として、請求項3記載に係わる本発明のNC自動旋盤の主軸軸受構造を用いると、入れ子ハウジング内の後側軸受には、複列式アンギュラ軸受が用いられ、且つ予圧が付与されて組み込まれているので、予圧調整作業が容易になる。
【0033】
発明の効果として、請求項4記載に係わる本発明のNC自動旋盤の主軸軸受構造を用いると、入れ子ハウジングが主軸台の所定位置に固定された後に、後側軸受を基準にして、前側軸受が主軸台に取付けられるので、軸のスラスト方向の位置決めが容易になる。
【0034】
発明の効果として、請求項5記載に係わる本発明のNC自動旋盤の主軸軸受構造を用いると、前側軸受の右アンギュラ玉軸受の外輪が軸方向の荷重が掛からない状態で先ず固定され、その後、前側軸受の左アンギュラ玉軸受の外輪が、主軸台に固定されたフランジに螺合するスラスト調整ネジにより、波ワッシャを介して押圧力を受けながら主軸台に固定されているので、前側軸受の左アンギュラ玉軸受の外輪および右アンギュラ玉軸受の外輪は、NC自動旋盤の使用に際して発生する主軸等の熱膨張変位時にも、常に適正な軸方向の押圧力を受けながら変位する。その為、両外輪の連れ回り現象が防止され、その結果、軸受のクリープやフレッチングが防止される。
【0035】
発明の効果として、請求項6記載に係わる本発明のNC自動旋盤の主軸軸受構造を用いると、波ワッシャの押圧力が、スラスト調整ネジの締め付けトルク値により管理されているので、波ワッシャの押圧力の正確な管理が可能になる。
【0036】
発明の効果として、請求項7記載に係わる本発明のNC自動旋盤の主軸軸受構造を用いると、スラスト調整ネジのフランジ部に、トルク計の先端端子との係合部が設けられているので、トルク計を用いたスラスト調整ネジの締付けトルク管理が容易になる。
【0037】
発明の効果として、請求項8記載に係わる本発明のNC自動旋盤の主軸軸受構造を用いると、波ワッシャを複数枚重ね合せて使用することで、押圧力の設定範囲が拡がる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
次に本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施形態」と略す)を、図1〜図3を用いて説明する。
【0039】
図1は、本発明におけるNC自動旋盤の主軸軸受構造の断面図で、図1(a)は、主軸の前後2箇所を複列式アンギュラ軸受を用いて軸支した本発明の主軸軸受構造の前部断面図、図1(b)は主軸の前後2箇所を複列式アンギュラ軸受を用いて軸支した本発明の主軸軸受構造の後部断面図である。また、図2は本発明の実施形態で用いる複列式アンギュラ軸受の予圧の掛け方を説明する為の複列式アンギュラ軸受の断面図で、図2(a)は定位置予圧法を、図2(b)は定圧予圧法を示す。また、図3は本発明の実施形態で用いるスラスト調整ネジで、図3(a)は、該スラスト調整ネジの正面図、図3(b)は該スラスト調整ネジの、図3(a)におけるA−A断面図である。尚、図1(a)と図1(b)は、一体の主軸軸受構造の前部と後部を分割して描いたものであり、図1(a)と図1(b)はA部同士、B部同士で繋がっている。
【0040】
本発明の実施形態として後述するNC自動旋盤の主軸軸受構造では、主軸を前後2箇所で複列式アンギュラ軸受を用いて軸支しているので、先ず、アンギュラ玉軸受の説明から始める。
【0041】
アンギュラ玉軸受(以下、1個のアンギュラ玉軸受を、「単列アンギュラ玉軸受」と呼ぶこともある)は、深みぞ玉軸受の内輪または外輪の一方の軌道溝の縁の片側を、溝底からの高さが僅かに残るまで削り去り、この縁の部分の弾性または外輪全体の熱膨張を利用して玉と内輪を組込んだ玉軸受であり、ラジアル荷重の他にスラスト荷重を一方向だけ支えることが可能である。高速回転にも適するし、形が簡単であるため正確な加工が可能で転がり軸受の中で最も高精度のものができる等優れた性能があるので多くの用途に用いられる。また多くの玉を持たせることができるので負荷能力も大きい特徴がある。
【0042】
アンギュラ玉軸受に限らず、全ての転がり軸受は、内部にすきま(ラジアルすきま、アキシャルすきま、角すきま)を持つように作られている。それは、はめあいによる軸受すきまの減少、取付け誤差、運転による発熱膨張を逃げる為である。しかし、すきまが大き過ぎると、振動、騒音、早期破損などを起し易くなるので、軸受の使用に際して、適当な値に調節して用いる。特に、本実施形態に用いたアンギュラ玉軸受は、必ずスラスト荷重(予圧)を加えながら使う。この予圧により、軸受内部の隙間を無くし、軸受の剛性を増す効果がある。
【0043】
本発明の実施形態で用いる複列式アンギュラ玉軸受50は、図2(a)に示した様に、2個の単列アンギュラ玉軸受51、52を、間に間座(外輪間座53と内輪間座54)を挟んで1セットにして軸55に固定し、ハウジング56に取付けて用いる軸受であり、予圧には、向かい合った単列アンギュラ玉軸受51、52の軸方向の相対的位置関係を強制的に決めることによって、単列アンギュラ玉軸受51、52にスラスト荷重が加わることを利用する定位置予圧法を用いる。スラスト荷重に単列アンギュラ玉軸受51、52の弾性を利用する為、外輪間座53と、内輪間座54の寸法調整が重要になる。
【0044】
本発明の実施形態で用いる複列式アンギュラ玉軸受50は、2つの単列アンギュラ玉軸受51、52を一対にして使い、かつ、予めスラスト荷重が常に加わっているようにするので、軸受すきまが殺されてガタがなくなり、軸受部分の剛性が高まり、また、2個の単列アンギュラ玉軸受51、52を背面で組合せるので、双方向のスラスト荷重を支えることができる。
【0045】
尚、複列式アンギュラ玉軸受と機能も名称も類似する「複列アンギュラ玉軸受」は2個の単列アンギュラ玉軸受を背面で組合せにして内輪と外輪をそれぞれ一体化した構造を持つ軸受である。また、アンギュラ玉軸受を2個用いた場合の予圧の掛け方には、図2(a)に示し、本実施形態で用いる定位置予圧法の他に、図2(b)に示した定圧予圧法もある。図2(b)では、相対する単列アンギュラ玉軸受61、62の外輪間に圧縮コイルバネ63等(皿バネ等の弾性の大きな部品でもよい)を利用してスラスト荷重を加える方法である。
【0046】
尚、本実施形態では、はめあいに関しては、すきまの範囲を特に指定しない“普通すきま”の軸受として用いて、外輪はすき間ばめに、内輪はしまりばめとした。
【0047】
以下、図1(a)および図1(b)を用いながら、既述した複列式アンギュラ玉軸受を用いた本実施形態の主軸軸受構造の説明に移る。本実施形態では、先ず、図1(a)に示した主軸101の所定位置に、複列式アンギュラ玉軸受である前側軸受110を装着する。その為には、主軸101の右端から、前側軸受110の左アンギュラ玉軸受110L、内輪間座110NK、外輪間座110GK、右アンギュラ玉軸受110R、バックリング102、シールリング103、ラジアル調整ネジ104の順に主軸101に差し込む。その後、これらを左側に押込んで、左アンギュラ玉軸受110Lの内輪が主軸前肩101MKに当接する位置迄移動させた後、ラジアル調整ネジ104を主軸前雄ネジ101MOと螺合させて締付けておく。
【0048】
次に、図1(b)に示した主軸101の所定位置に、後側軸受120を装着し、かつ予圧を付与するが、本実施形態では、後側軸受120にも、複列式アンギュラ玉軸受を用いる。
【0049】
即ち、主軸101の右端から最初挿入しておいた入れ子ハウジング121の円筒内に、後側軸受120の左アンギュラ玉軸受120L、内輪間座120NK、外輪間座120GK、右アンギュラ玉軸受120R、Aリング122、Bリング123の順に主軸101を通して格納した後、これらを左側に押し込んで、後側軸受120の左アンギュラ玉軸受120Lの内輪が主軸後肩101UKに当接する迄移動させた後、Aリング調整ネジ124を主軸後雄ネジ101UOと螺合させ、締付けることで後側軸受120を主軸101の所定位置に固定する。またBリング調整ネジ125を主軸101の右端から挿入し、入れ子ハウジング121の内筒に設けた雌ネジ121MNと螺合させ、締付けることで入れ子ハウジング121に後側軸受120を固定する。これにより、後側軸受120の左アンギュラ玉軸受120Lと右アンギュラ玉軸受120Rの軸方向の相対的位置関係が強制的に決まることによって、後側軸受120に予圧が付与される。
【0050】
次に、主軸101は、この状態、即ち、前側軸受110と、入れ子ハウジング121に格納されて予圧が付与された後側軸受120とが装着された状態で、主軸台130上に取付けられる。即ち、主軸台130上には、前主軸穴131と後主軸穴132が、同じ中心線上に貫通しているので、前側軸受110と入れ子ハウジング121に格納された後軸受120とを装着した主軸101を、後主軸穴132から挿入した後、入れ子ハウジング121を主軸台130に、そのフランジ部121Fを数本のネジ133を用いてしっかりと固定する。
【0051】
この状態で、予め主軸101に挿入しておいた前側軸受110のシールリング103のテーパー部を主軸台130側に設けられたシールリング固定ネジ134で締付けて固定する。この時、シールリング103から、前側軸受110の外輪(即ち、右アンギュラ玉軸受110Rの外輪、外輪間座110GK、左アンギュラ玉軸受110Lの外輪)に力が掛かる事で、後側軸受120の予圧が影響を受けない様に、主軸101に取付けた前側軸受110全体を軽圧入レベルで主軸台130に位置決めして固定する。このシールリング103を主軸台130内で固定することによって、前側軸受110の主軸101に対する軸方向の位置が決定される。
【0052】
その後、波ワッシャ135とカラー136を主軸101の左側から挿入して、更に、フランジ137をフランジ固定ネジ138で主軸台130の前部に取付けることで波ワッシャ135が前側軸受110の左アンギュラ玉軸受110Lの外輪に接触する。その後、スラスト調整ネジ139を主軸101の左側から挿入し、フランジ137に設けた雌ネジとスラスト調整ネジ139の雄ネジとを螺合させながら、スラスト調整ネジ139で、波ワッシャ135をカラー136を介して前側軸受110の左アンギュラ玉軸受110Lの外輪に軽く押付ける。この時、波ワッシャ135が発する押圧力は、後側軸受120に既に負荷した予圧に影響を及ぼさないよう調整する。
【0053】
波ワッシャ135が発する押圧力の大きさは、前主軸穴131に前側軸受110を軽圧入で嵌合する程度が一応の目安になるが、最終的には経験値で定める。また、押圧力は、スラスト調整ネジ139のフランジ137に対するネジ込み量を加減することで調整可能だが、波ワッシャ135を複数枚重ねることで調整範囲が更に拡大する。本実施形態では、押圧力の管理に、スラスト調整ネジ139の締付けトルク値を用いている。そのため、本実施形態では、図3に示した様に、スラスト調整ネジ139のフランジ部139Fに、トルク計の先端端子との係合部139Kが4箇所設けられている。尚、本実施形態では先端端子との係合部139Kの形状をスリット状として4箇所示したが、形状は円形、非円形、角形等、トルク計先端端子を受入れ可能な穴形状であればよく、又、個数も、端子形状に合せて適宜選択され得るものである。
【0054】
本発明の実施形態の主軸軸受構造を用いると、主軸のスラスト方向については、後側軸受で確りと予圧を与えて軸支しており、前側軸受ではガタが無い程度に軸支しているので、主軸の熱変位、衝撃などに対して回転精度を確保することができ、その結果、加工製品の品質が向上する。
【0055】
更に、前側軸受の外輪は、後側軸受の外輪程は確りと固定してないが、波ワッシャの弾性によってスラスト方向に常時押されているので、外輪の連れ回りが防止され、前側軸受における外輪と主軸台との間のクリープや、フレッチング等の不具合を安定的に防止する。その為、前側軸受の寿命が延長し、主軸台のハウジング部の損傷も防止でき、加工製品の品質が向上する。
【0056】
また、後側軸受には、主軸台に組込む前のサブ組立品の段階で予圧を掛けてしまうので、組立作業場所の範囲が拡がり、また作業がやり易くなる。また、後側軸受は予め入れ子ハウジングに格納してあるので、主軸台への組付けが容易である。また後側軸受により主軸のスラスト方向の位置が確定した後、それを基準に前側軸受の位置を決めるので主軸のスラスト方向の位置決めも容易になる。
【0057】
また、寿命等で軸受交換する場合、予圧を付与する後側軸受の寸法(軸受幅)バラツキが生じていたとしても、前側軸受の主軸台に対する固定位置を、位置決めリングと固定ネジとトルク計を用いてトルク管理したスラスト調整ネジとによって簡単に、適宜調整(後側軸受の寸法バラツキを吸収)することが出来、軸受交換後においても、交換前と全く同様の条件で主軸を軸支することが可能となり、軸受交換後も主軸の回転精度を十分確保することができる。即ち、極めて簡単な操作で軸受交換が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上、本発明を、NC自動旋盤の主軸軸受構造として説明したが、本発明は、これに限らず、主軸の前後2箇所を複列式アンギュラ軸受を用いて軸支する工作機械全般に使用することで全く同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明におけるNC自動旋盤の主軸軸受構造で、図1(a)は、該主軸軸受構造の前部断面図、図1(b)は該主軸軸受構造の後部断面図である。
【図2】本発明に用いる複列式アンギュラ軸受の予圧の掛け方を説明する為の軸受部断面図で、図2(a)は定位置予圧法、図2(b)は定圧予圧法である。
【図3】本発明におけるスラスト調整ネジで、図3(a)は、該スラスト調整ネジの正面図、図3(b)は該スラスト調整ネジの、図3(a)におけるA−A断面図である。
【図4】背景技術で、旋盤等の工作機械において、主軸を前後2箇所で軸支した主軸軸受構造の断面図である。
【図5】背景技術で、NC自動旋盤において、複列式アンギュラ軸受を用いて主軸の前後2箇所で軸支した主軸軸受構造の断面図である。
【符号の説明】
【0060】
101 主軸
110 前側軸受
110R 前側軸受の右アンギュラ玉軸受
110L 前側軸受の左アンギュラ玉軸受
120 後側軸受
121 入れ子ハウジング
130 主軸台
135 波ワッシャ
137 フランジ
139 スラスト調整ネジ
139F フランジ部
139K 係合部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
NC自動旋盤の主軸の回転を、この主軸の前後2箇所で、主軸台上にて軸支するようにした主軸軸受構造において、主軸台上に主軸を装着する前工程として、予め、主軸の所定位置に前側軸受と後側軸受の両方が組み込まれていることを特徴とするNC自動旋盤の主軸軸受構造。
【請求項2】
前記後側軸受が、入れ子ハウジングに収められてユニット化されていることを特徴とする請求項1に記載のNC自動旋盤の主軸軸受構造。
【請求項3】
前記入れ子ハウジング内の後側軸受には、複列式アンギュラ軸受が用いられ、且つ予圧が付与されて組み込まれていることを特徴とする請求項2に記載のNC自動旋盤の主軸軸受構造。
【請求項4】
前記入れ子ハウジングが主軸台の所定位置に固定された後に、前側軸受が主軸台に取付けられることを特徴とする請求項2乃至3に記載のNC自動旋盤の主軸軸受構造。
【請求項5】
前側軸受には、複列式アンギュラ軸受が用いられ、前側軸受の右アンギュラ玉軸受の外輪が軸方向の荷重が掛からない状態で先ず固定され、その後、前側軸受の左アンギュラ玉軸受の外輪が、主軸台に固定されたフランジに螺合するスラスト調整ネジにより、波ワッシャを介して押圧されながら主軸台に固定されていることを特徴とする請求項4に記載のNC自動旋盤の主軸軸受構造。
【請求項6】
前記波ワッシャの押圧力は、前記スラスト調整ネジの締め付けトルク値により管理されていることを特徴とする請求項5に記載のNC自動旋盤の主軸軸受構造。
【請求項7】
前記スラスト調整ネジのフランジ部に、トルク計の先端端子との係合部が設けられていることを特徴とする請求項5乃至6に記載のNC自動旋盤の主軸軸受構造。
【請求項8】
前記波ワッシャは複数枚重ね合せて使用されていることを特徴とする請求項5乃至6に記載のNC自動旋盤の主軸軸受構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−30132(P2008−30132A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−204052(P2006−204052)
【出願日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(000124362)シチズンセイミツ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】