説明

NDフィルタ、光量調節装置、レンズ鏡筒及び撮像装置

【課題】グラデーションNDフィルタにおける低濃度領域での薄膜の均一化を図り、小絞り時の解像度の向上を図る。
【解決手段】透明基材2上に光透過率が連続的に変化するように光学濃度を連続的に変化させた光学吸収膜3を有し、光学吸収膜3における低光学濃度領域の先端側に、ニオブ膜7と誘電体膜8との積層膜9を形成してNDフィルタを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばビデオカメラ、デジタルスチルカメラに代表される撮像装置等の光量調節に使用するNDフィルタ、このNDフィルタを有する光量調節装置、レンズ鏡筒及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルビデオカメラやデジタルスチルカメラ等の撮像装置においては、その撮像光学系に入射光の透過率を変化させる減光(ND:Neutral Density)機能を備えた光学フィルタ、いわゆるNDフィルタが組み込まれている(特許文献1参照)。ここでは、透明基材上に光透過率が連続的に変化するように光学濃度を連続的に変化させた光学吸収膜を成膜してなるグラデーションNDフィルタが開示されている。このようなNDフィルタでは、光透過率の波長に対する平坦性を図るために、光学吸収膜を複数の膜による積層膜で形成し、入射光に対して膜間で互いに光学干渉させて波長に対する透過率を平坦化することが行われている。すなわち、光学吸収膜は、低屈折率の金属又は金属酸化膜(例えば、Ti、Cr、Niまたはこれ等金属の酸化物)と低屈折率の誘電体膜(例えばシリコン酸化膜)の積層膜で形成される。
【0003】
【特許文献1】特開2004ー205951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したNDフィルタでは、Ti、Cr、Niなど比較的低い融点から成る材料で形成された薄膜においては、屈折率nが高く、機械的膜厚dを薄くしなければならない。濃度を段階的に薄く変化させようとすれば、ある濃度以下では、高屈折率及び低屈折率の層で形成されていたフィルタ条件を満たすことが出来ず、色むら等が発生する不具合があった。
【0005】
色むらについて説明する。連続的に厚みを少なくした金属薄膜を形成する過程では、膜厚が薄くなるほど均一な膜厚の成膜が困難になり、場所によっては、例えば最小濃度側で設計通りの干渉が起こらず、平坦な透過率の分光特性が得られないことが起こり得る。これが色むらとなって不具合が発生する。
【0006】
また、図33に示すように、ある濃度以下の薄膜部分を大きく除去すると、除去した部分と残った薄膜部分とで濃度が異なることから、小絞り時に解像度が劣化する不具合が生じていた。
【0007】
一般に薄膜型のNDフィルタでは、誘電体膜と金属膜を合計7層から23層程度積層して構成される。このため、反射率および透過率の可視域での分光特性が大きくばらつき安く、特性の制御が難しい。Ti,CrまたはNiからなる金属膜は、いずれも10nm以下の極薄いものである上、透過率が膜厚に対して非常に敏感であるために膜厚制御が困難であった。この点でも再現性良く平坦な透過率の分光特性が得られない。特にクラデーションNDフィルタでは、最小濃度部において光学濃度0.1付近でマスキングせざるを得ず、光学濃度の段差が比較的大きくなり、指標となるMIFが劣化していた。
【0008】
図33に、この状態のグラデーションNDフィルタ201を模式的に示す。このNDフィルタ201は、透明基材202の表面に多層膜による光学吸収膜、すなわち光透過率が連続的に変化するように低濃度領域に向って合計の膜厚が漸次小となる光学吸収膜203が形成され、光学吸収膜203の最小濃度の先端部において、光学濃度0.1以下の部分がマスキングにより除去されて構成される。このようなNDフィルタ201では、最小濃度の先端部とこれに隣接する透明基材202の領域との間で光学濃度の段差が比較的大きくなり、MIFが劣化し、小絞り時の解像度が劣化する。
【0009】
本発明は、上述の点に鑑み、先端部での除去分を限りなく小さくし、色むらを発生させず、小絞り時の解像度を高める上で有利となるNDフィルタを提供するものである。
また本発明は、上記NDフィルタを有した光量調節装置、レンズ鏡筒、及び撮像装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るNDフィルタは、透明基材上に光透過率が連続的に変化するように光学濃度を連続的に変化させた光学吸収膜を有し、光学吸収膜における低光学濃度領域の先端側に、ニオブ膜と誘電体膜との積層膜が形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明のNDフィルタでは、光学吸収膜としてニオブ膜と誘電体膜の積層膜が用いられる。ニオブ膜は、従来用いられている金属膜に比べて屈折率が小さく、光学吸収膜における低濃度部位において従来金属膜より厚い成膜が可能になり、安定した薄膜が形成できる。これにより、低濃度部位の先端での除去部分小さくできる。
【0012】
本発明に係る光量調節装置は、絞り開口を形成する複数の絞り羽根とNDフィルタを有し、NDフィルタを上記のNDフィルタで構成することを特徴とする。
【0013】
本発明に係るレンズ鏡筒は、内部に少なくとも撮像レンズ系と光量調節装置を備え、光量調節装置を絞り開口を形成する複数の絞り羽根と上記のNDフィルタを有して構成することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る撮像装置は、撮像レンズ系へ入射した光量を調節するための光量調節装置を有し、光量調節装置を絞り開口を形成する複数の絞り羽根と上記のNDフィルタを有して構成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るNDフィルタによれば、光学濃度Dが比較的低い領域、例えばD=0.1以下の領域まで安定した薄膜が形成され、いわゆる低濃度部位における先端部の除去を従来に比べて少なくすることができる。従って、小絞り時の解像度を向上することができる。また、上記光学濃度Dが比較的低い領域において、均一な膜厚の薄膜形成ができるので、濃度勾配があっても、色むらが少ないNDフィルタを構成することができる。
【0016】
本発明に係る光量調節装置、レンズ鏡筒及び撮像装置によれば、上述の本発明NDフィルタを使用することにより、色むらが少なく、小絞り時における解像度の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0018】
図1及び図2に、本発明に係るNDフィルタ、すなわち透明基材上に光透過率が連続的に変化する光学吸収膜を形成したグラデーションNDフィルタの第1実施の形態を示す。第1図は、本実施の形態のNDフィルタ1の全体の模式図であり、光透過性の基材、好ましくは透明基材2上に光透過率が連続的に変化するように、膜厚を連続的に変化させて光学濃度を変化させた光学吸収膜3を成膜して構成される。この光学吸収膜3は、光透過率の可視域(波長400nm〜700nm程度)での分光特性が平坦となるように、高屈折率の金属または金属酸化物の薄膜と低屈折率の誘電体薄膜との積層膜により形成される。
【0019】
本実施の形態において、光学吸収膜を連続的に形成するとは、光学吸収膜の膜厚を段階的に変化させて形成すること、光学吸収膜の膜厚を所定の勾配で漸次変化させて形成することを含む。
【0020】
そして、本実施の形態に係るNDフィルタ1は、特に、光学吸収膜3における低光学濃度領域の先端側にニオブ(Nb)膜とこれより低屈折率の誘電体膜との積層膜を形成して構成される。より詳しくは、先端部分4において最先端部を含めた領域、あるいは最先端部を除く領域がNb膜と誘電体膜の積層膜で形成される。
【0021】
すなわち、図2に示すように、透明基材2に形成された光学吸収膜3において、低濃度領域の先端部分、いわゆる低濃度部位5に接する先端部分4が第1層目のNb膜7と第2層目の誘電体膜8との2層膜9にて形成される。さらに先端部分4の最先端部に単層の誘電体膜8Aが形成される。2層膜9のそれぞれのNb膜7及び誘電体膜8の膜厚は、可視域での分光特性が平坦(可視光波長域に関して光透過率が均一)になるように、設定される。この先端部分4は、光学吸収膜の先端側での濃度差の段差を緩和する、いわゆる濃度勾配緩和部位に相当する。
【0022】
透明基材2は、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、あるいはガラス基板などを用いることができ、本例では厚さ166μmのPRTフィルムを用いている。誘電体膜8は、Nb膜7の屈折率(=1.8〜2.0)より小さい屈折率材料で形成される。この誘電体膜8としては、例えばシリコン酸化膜(SiO膜)、あるいはフッ化物膜(例えばMGF:フッ化マクネシウム、屈折率=1.38)を用いることができ、本例ではSiO膜を用いている。
【0023】
光学吸収膜3の低濃度部位5、さらには高濃度部位は、Nb膜、あるいは他のCr,Ti,Ni等の金属膜、又はこれらの金属酸化物と、低屈折率の誘電体膜との積層膜で形成される。例えば、図2において、最先端部を膜厚d1=81nm程度のSiO膜8Aで光学濃度D=0.04とし、これに隣接する先端部分を膜厚d2=3nm程度のNb膜7と膜厚d3=81nmのSiO膜8の2層膜9で光学濃度D=0.08としたとき、先端部分4に隣接する低濃度部位5を光学濃度D=0.5以下となるように、Nb膜または上記他の金属または金属酸化物と誘電体膜の積層膜で形成することができる。
【0024】
図3〜図5に低濃度部位5の積層膜の例を示す。
図3は、低濃度部位5の先端部分4に隣接する領域をNb膜7とSiO膜8との4層膜で形成した例である。すなわち、低濃度部位5の先端部分4に隣接する領域を、光学濃度D=0.3となるようなNb膜7とSiO膜8との4層膜で形成することができる。すなわち例えば、膜厚d4=1.6nmのNb膜7と、膜厚d5=81nmのSiO膜8と、膜厚d6=5.8nmのNb膜7と、膜厚d7=74nmのSiO膜8とによる4層の積層膜で形成される。
先端部分4の膜構成、光学濃度は図2で説明したと同様であるので、詳細説明を省略する。これ以降の高濃度領域においてもNb膜とSiO膜の積層膜で形成することができる。
【0025】
図4は、低濃度部位5の先端部分4に隣接する領域を、光学濃度D=0.3となるようなCr膜12と誘電体膜の例えばSiO膜8との4層膜で形成することができる。先端部分4の膜構成、光学濃度は図2で説明したと同様であるので、詳細説明を省略する。これ以降の高濃度領域においてもCr膜と誘電体膜の例えばSiO膜の積層膜で形成することができる。
【0026】
図5は、低濃度部位5の先端部分4に接する領域を、光学濃度D=0.1となるようなNb膜7とSiO膜8との積層膜で形成し、それ以降の低濃度部位の光学濃度の高い領域をCr膜と誘電体膜の例えばSiO膜の積層膜で形成することができる。先端部分4の膜構成、光学濃度は図2で説明したと同様であるので、詳細説明を省略する。これ以降の高濃度領域においてもCr膜と誘電体膜の例えばSiO膜の積層膜で形成することができる。
【0027】
なお、上例において、低濃度部位5では、光学濃度Dが0.5以下の領域内で連続的に光学濃度が変化するように膜厚、膜層数を設定することができる。
【0028】
第1実施の形態に係るNDフィルタ1によれば、光学吸収膜3において、低光学濃度領域の先端側をNb膜7と誘電体膜8との積層膜9により形成するので、光学濃度が低い例えば光学濃度D=0.1以下の低い領域でも安定した薄膜で形成され、解像劣化の少ない特性を得ることができる。すなわち、ある波長λの光において、Nb膜はその屈折率が従来用いられているCr,Ti,Ni等の他の金属膜の屈折率に比べて小さいので、同じ光学濃度の形成に当たり、物理膜厚を厚く形成することができる。従って、従来ではフィルタ条件を満たすことが出来なかったD=0.1以下の領域においても均一な膜厚の連続膜の形成が可能になり、色むらなどが発生しないNDフィルタが得られる。
【0029】
また、図6の透過率―波長特性で示すように、定性的には、PETフィルム上にSiO膜を一層付けた場合は実線Iの山形曲線となり、PETフィルム上にNb膜を一層付けた場合は破線IIの谷形曲線となり、従ってNb膜7とSiO膜8の積層膜9の場合は一点鎖線IIIの平坦な特性になる。積層する層数を増やす程、平坦化し易くなる。
本実施の形態のNDフィルタでは、小絞り時に高解像度が得られるNDフィルタを提供できる。
【0030】
図7に、本発明に係るNDフィルタの第2実施の形態を示す。本実施の形態に係るNDフィルタ15は、透明基材である例えばPETフィルム2上に光学吸収膜3の先端部分の積層膜9の形成に際して、PETフィルム2の表面に極薄の密着部材、例えばSiOx(x=0〜2)物質16を介してNb膜7を成膜し、さらにその上にSiO膜8を形成して構成される。SiOx物質16としては、Si,SiO,SiOとすることができる。また、極薄のSiOx物質としては、粒状体で散在したもの、島状の薄膜で散在したもの、さらには全体が繋がって薄膜として形成されたものとすることがでる。これらは、製造条件によって変わる。SiOx物質16の膜厚としては、2nm以下とするのが好ましい。
その他の構成は、前述の図2で説明したと同様であるので、詳細説明は省略する。
【0031】
第2実施の形態に係るNDフィルタ15によれば、密着部材16となるSiOx物質16を介してNb膜7を透明基材2上に成膜することにより、Nb膜7の透明基材2に対する接着強度が上がり、信頼性の高いNDフィルタが得られる。その他、第1実施の形態と同様の効果を奏する。
【0032】
図8に、本発明に係るNDフィルタの第3実施の形態を示す。本実施の形態に係るNDフィルタ17は、図2に示すと同様に透明基材2に形成された光学吸収膜3において、低濃度部位5に接する先端部分4を第1層目のNb膜7と第2層目の誘電体膜、例えばSiO膜8との2層膜9にて形成し、さらに先端部分4の最先端部に単層の誘電体膜、例えばSiO膜8Aを形成するも、特に、最先端のSiO膜8Aと2層膜9のSiO膜8とを一回の成膜工程により同じ膜厚で形成して構成される。
その他の構成は図2で説明したと同様であるので、詳細説明は省略する。
【0033】
図9は、図8のNDフィルタの要部の製造工程図である。
先ず、図9Aに示すように、透明基材のPETフィルム2に先端部分4を除く低濃度部位5及びそれに連続する高濃度領域を形成する。そして、先端部分4の最先端領域にマスキング剤を所要の厚さ例えば100μmに塗布してマスク21を形成する。その後、先端部分4に対応するマスク21及びPETフィルム2上にNb膜7を成膜する。
【0034】
次に、図9Bに示すように、マスク21と共にその上のNb膜7を選択的に除去する。これにより、PETフィルム2上に先端分4のNb膜7が残る。
【0035】
次に、図9Cに示すように、低濃度部位5上及び図示しないが連続する高濃度領域上にわたってマスキング剤を所要の厚さ例えば100μmに塗布してマスク22を形成する。
【0036】
次に、図9Dに示すように、最先端部に対応するPETフィルム2上と、先端部分4のNb膜7上と、及び低濃度部位5とこれに連続する高濃度領域上のマスク22上とにわたって誘電体膜の例えばSiO膜8を同一膜厚で成膜する。
【0037】
次に、図9Eに示すように、マスク22と共にその上のSiO膜8を選択的に除去する。これにより、光学吸収膜3の先端部分4において最先端部のSiO膜8AとNb膜7上のASiO膜8とが同時に同じ膜厚で形成される。このようにして目的の第3実施の形態のNDフィルタ17を得る。
【0038】
第3実施の形態に係るNDフィルタ17によれば、先端部分4のNb膜7上のSiO膜8と最先端部の単層のSiO膜8Aとを、後述のスパッタ装置のPETフィルムの移送速度を一定にして成膜できるので、成膜が容易になる。その他、図2で説明したと同様の効果を奏する。
【0039】
上述した本発明の実施の形態に係るNDフィルタのNb膜7及び誘電体膜のSiO膜8、8Aはスパッタリング装置を用いて成膜する。図10に本実施の形態に適用されるスパッタリング装置の概略を示す。このスパッタリング装置30は、真空チャンバ31と、真空チャンバ31内に配置されたキャンロール35と、キャンロール35の下方に配置されたNb膜の原材料となるNbターゲット板32aと、SiO膜の原材料となるSiターゲット板32bとを有して成る。
【0040】
キャンロール35は回転可能に配置され、対のガイロローラ41を介してキャンロール35の面上に沿って被成膜フィルム基材、例えば透明のPETフィルム2を移送するようになされている。PETフィルム2は下方のターゲット板32a,32bに対向して移送される。Nbターゲット板32a及びSiターゲット板32bは、それぞれ所要の負電圧が印加されるバッキングプレート電極33上に固着され、このバッキングプレート電極33は絶縁リング34を介して真空チャンバ31の底部に固着される。
【0041】
真空チャンバ31の外部には第1のスパッタ用電源37A,第2のスパッタ用電源37Bが配置される。これら第1及び第2のスパッタ用電源37A,37Bからバッキングプレート電極33を介してそれぞれのNbターゲット板32a、Siターゲット板32bに所要の電力、本例では負のDC電圧が供給される。真空チャンバ31は接地電位が供給される。真空チャンバ31にはガス導入ポート38及び排気口39が設けられる。
【0042】
次に、このスパッタリング装置30を用いてNDフィルタの製造方法の一実施の形態を説明する。図11に成膜フローを示す。開始後、ステップS1で、各ポンプにより排気口39を通じてチャンバ31内を真空引きして圧力10−4Pa程度の真空度にする。
次のステップS2で、ガス導入ポート38を通じて真空シャンバ31内にArガスを導入する。そして第1のスパッタ用電源37Aからバッキンプレート電極33に負のDC電圧を印加する。
【0043】
次のステップS3で、接地電位の真空チャンバ31と負電位のバッキングプレート電極33間で放電が開始し、Arガスが電離してプラズマ状態42Aが発生する。
次のステップS4で、イオン化されたAr+ 粒子が負電位のNbターゲット板32aに衝突し、ターゲット粒子、すなわちNb粒子が飛散しスパッタリングが開始される。このNb粒子はキャンロール35上を移送するPETフィルム2上で堆積し、Nb膜を成膜する。この膜厚は2〜3nmから層状に成膜され始め、光学膜として用いることができる。
【0044】
次のステップS5で、PETフィルム2がSiターゲット板32bに対向する位置に移送される。そして、第2のスパッタ用電源37BからSiターゲット板32bのバッキングプレート電極33に負のDC電圧が印加される。同時にガス導入ポート38を通じてArガスとOガスの混合ガスを導入してSiの反応性スパッタリングを開始する。すなわち、前述と同様にプラズマ42Bが発生し、イオン化されたAr+粒子が表面をOガスで酸化した負電位のSiターゲット板32b、すなわち表面がOガスで酸化されたSiターゲット板32bに衝突し、シリコン酸化物粒子が飛散してPETフィルム2上にSiOのスパッタ膜を成膜する。
【0045】
成膜時の膜厚制御としては、図12に示すように、被成膜フィルム基材2の送り速度制御によって成膜速度を制御して膜厚を制御する方法がある。すなわち、バッキングプレート電極33を介してターゲット板32〔32a,32b)の電圧を一定にしてプラズマ状態42を一定にしたとき、遅い送り速度V1であれば成膜の膜厚は厚くなり、送り速度をV2,V3と速めるに従って成膜の膜厚は薄くなる。
また、図13に示すように、被成膜フィルム基材2の送り速度を一定V2とし、ターゲット板(32a,32b)のバッキングプレート電極33を介してターゲット板32〔32a,32b〕に印加する電圧で成膜速度を制御して膜厚を制御する方法がある。すなわち、印加電圧が大きいとプラズマ状態42が大きくなり、ターゲット板からの飛散粒子が増加して膜厚は厚くなる。逆に、印加電圧が小さければプラズマ状態42が小さくなり、ターゲット板からの飛散粒子が減り膜厚は薄くなる。
【0046】
このように被成膜フィルム基材2の送り速度、印加電圧等で膜厚を制御することにより、濃度差が比較的少ないNDフィルタを作製することができる。
【0047】
図14に、本発明に係るNDフィルタの第4実施の形態を示す。ここでは、濃度D=0.5〜1.0の濃度勾配を有するNDフィルタに適用した例について説明する。本実施の形態に係るNDフィルタ18は、透明基材である例えばPETフィルム2上に膜厚が連続的に変化した第1層目のNb膜41を成膜し、このNb膜41の傾斜面上に各々の膜に関して低濃度部位から高濃度部位にわたって同じ膜厚となるように、順次第2層目の誘電体膜の例えばSiO膜42、第3層目のNb膜43及び第4層目の誘電体膜の例えばSiO 膜44を成膜して、積層膜による光学吸収膜45を形成して構成される。
【0048】
低濃度部位の最先端部での各膜の膜厚は次の通りである。第1層目Nb膜41の膜厚が5.5nm、第2層目SiO膜42の膜厚が90nm、第3層目Nb膜43の膜厚が9nm、第4層目SiO膜44の膜厚が75nmである。この最先端部の濃度Dは0.5である。
高濃度部位の最端部での各膜厚は通りである。第1層目Nb膜41の膜厚が205nm、第2層目SiO膜42の膜厚が90nm、第3層目Nb膜43の膜厚が9nm、第4層目SiO膜44の膜厚が75nmである。この高濃度部位の最端部の濃度Dは1.0である。
【0049】
濃度D=0.5の位置(低濃度部位の最先端部)での透過率−波長特性を図15に示す。また、濃度D=1.0の位置(高濃度部位の最端部)での透過率−波長特性を図16に示す。図17の表図にNbの波長に対する屈折率n、吸収特性kを示す。
図15の曲線a及び図16の曲線bに示すように、第4実施の形態のNDフィルタでは透過率の波長に対する平坦性が良好に得られている。
【0050】
図18に、本発明に係るNDフィルタの第5実施の形態を示す。ここでは、さらに低濃度部分を追加して濃度D=0.06〜1.0の濃度勾配を有するNDフィルタに適用した例を示す。本実施の形態に係るNDフィルタ19は、透明基材である例えばPETフィルム2上に膜厚が連続的に変化した第1層目のNb膜41を成膜し、この上に順次第2層目の誘電体膜の例えばSiO膜42、第3層目のNb膜43及び第4層目の誘電体膜の例えばSiO膜44を成膜する。このとき、第2及び第2層目のSiO膜42、44は各々、低濃度部位5から高濃度部位6にわたって同じ膜厚で且つ第1層目のNb膜41の低濃度部位5の最先端部を越えたPETフィルム2上まで延長して形成される。第3層目のNb膜43は、濃度勾配が付くように、且つ第1層目のNb膜41の低濃度部位5の最先端部を越えて延長して形成される。
【0051】
第1層目のNb膜41の膜厚は図14と同様に高濃度部位の最端部で20nm、低濃度部位の最先端部で5.5nmである。第2層目のSiO膜42の膜厚は図14と同様に90nm一定である。第4層目のSiO膜44の膜厚は図14と同様に75nm一定である。さらに、第3層目のNb膜43の膜厚は連続的に変化して形成され、高濃度部位6の最端部では図14と同様の9nmとしている。図18の上部に各位置での濃度Dを記載している。
【0052】
第5実施の形態に係るNDフィルタによれば、D=0.06〜1.0の濃度勾配を有するNDフィルタを構成することができ、前述の実施の形態と同様の効果を奏し、小絞り時に高解像度が得られるNDフィルタを提供できる。
【0053】
上述の各実施の形態に係るNDフィルタにおいては、光学吸収膜3の最表面にはハンドリングの際などの指紋、汚れが付かないように、酸化シリコン系有機膜、あるいはテフロン(登録商標)膜などを成膜して置くことが好ましい。
【0054】
図19〜図26に、本発明に係る好ましい膜構成を有するNDフィルタの第6実施の形態を示す。本実施の形態に係るNDフィルタ101は、図19に示すように、光透過性の基材、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム102の一方の面上に高屈折率のニオブ(Nb)薄膜と低屈折率の酸化シリコン(SiO)薄膜との積層膜による光学吸収膜、いわゆるND膜103を形成し、PETフィルム102の他方の面に反射防止膜104を形成して構成される。ND膜103は、例えば光学濃度Dが連続的に変化するように低濃度部位105から高濃度部位106に至って全体の膜厚が漸次厚く成るように形成される。本例では、光学濃度Dが0.04〜1.5まで変化したNDフィルタを構成している。
【0055】
そして、本実施の形態に係るND膜103は、光学濃度Dが0.5以上の高濃度部位106、本例では0.5から1.5までの高濃度部位106をSiO薄膜膜とNb薄膜を交互に積層した6層膜で形成し、光学濃度Dが0.08から0.5までの低濃度部位105をSiO 薄膜とNb薄膜を交互に積層した4層膜で形成し、低濃度部位105における光学濃度Dが0.08の先端部分をSiO薄膜膜とNb薄膜の2層膜で形成し、光学濃度Dが0.04の最先端部分をSiO薄膜膜の1層で形成して構成される。また、反射防止膜104は、ND膜103の構成材料を用いた積層膜、すなわちNb 薄膜とSiO 薄膜を交互に積層した4層膜で形成して構成される。
【0056】
ND膜103及び反射防止膜104の設計では、光の透過率、反射率が光の波長に対してフラット(平坦)な特性を有すること、膜の光学アドミッタンスが1.0に近い、好ましくは1.0になる(すなわち空気と同じ光学特性になる)ことが望まれる。一方、ND膜103としては、膜の層数を少なくして最適な光学特性を得ることが望まれる。NDフィルタを製作する上では膜の層数を少なくした方が製造の簡単化が図れる。しかし、実際には、上記の最適な光学特性が得られる層数、膜厚を見出すことは困難である。
【0057】
本実施の形態では、特に光学濃度Dが0.5以上の高い高濃度部位106において、ND膜103を6層構造にし、各層の膜厚を最適化することで良い特性が得られることを見出した。一方、反射防止膜も4層構造にし、各層の膜厚を最適化することで良い特性が得られることを見出した。
【0058】
ND膜103としては、図20、図23に示すように、1層目、3層目、5層目のNb薄膜111、113、115と、2層目、4層目、6層目のSiO薄膜112、114、116との積層膜で形成される。ND膜103における1層目、3層目、5層目のNb薄膜111、113、115は、光学濃度Dが高くなるに従って各層の膜厚が厚くなる。2層目、4層目、6層目のSiO薄膜112、114、116は、ND膜103の全体の光学アドミッタンスを1.0に近づけるように膜厚が設定される。反射防止膜104としては、同図に示すように、1層目、3層目のNb薄膜121、123と、2層目、4層目のSiO薄膜122、124との積層膜で形成される。反射防止膜におけるNb薄膜121、123及びSiO 薄膜122、124の各層は、反射防止膜104の全体の光学アドミッタンスを1.0に近づけるような膜厚に設定される。
【0059】
図20に、光学濃度D=0.75付近でのND膜103と反射防止膜104の最適な薄膜構成を示す。ND膜103は、膜厚75μmの光透過性の基材であるPETフィルム102の一方の面上に、膜厚8nmのNb薄膜111と、膜厚81nmのSiO薄膜112と、膜厚71nmのNb薄膜113と、膜厚71nmのSiO薄膜114と、膜厚5.9nmのNb薄膜115と、膜厚70nmのSiO薄膜116との6層をこの順に積層して構成される。
反射防止膜104は、PETフィルム102の反対の面上に、膜厚103nmのNb薄膜121と、膜厚170nmのSiO薄膜122と、膜厚1nmのNb薄膜123と、膜厚43nmのSiO薄膜124との4層をこの順に積層して構成される。
【0060】
図21に上記D=0.75の膜構成における透過率―波長特性を示し、図22に同膜構成における反射率―波長特性を示す。この膜構成によれば、透過率及び反射率のフラット性(平坦性)はいずれも良いことが認められる。また光学アドミッタンスは1.0に近い。
【0061】
図23に、光学濃度D=0.9付近でのND膜103と反射防止膜104の最適な薄膜構成を示す。ND膜103は、光透過性の基材であるPETフィルム102の一方の面上に、膜厚11nmのNb薄膜111と、膜厚79nmのSiO 薄膜112と、膜厚6.6nmのNb薄膜113と、膜厚73nmのSiO薄膜114と、膜厚6.9nmのNb薄膜115と、膜厚69nmのSiO薄膜116との6層をこの順に積層して構成される。
反射防止膜104は、PETフィルム102の反対の面上に、膜厚106nmのNb薄膜121と、膜厚169nmのSiO薄膜122と、膜厚5.1nmのNb薄膜123と、膜厚36nmのSiO薄膜124との4層をこの順に積層して構成される。
【0062】
図24に上記D=0.9の膜構成における透過率―波長特性を示し、図25に同膜構成における反射率―波長特性を示す。この膜構成によれば、透過率及び反射率のフラット性(平坦性)はいずれも良いことが認められる。また光学アドミッタンスは1.0に近い。
【0063】
ND膜103における1層目、3層目、5層目のNb薄膜111、113、115は、光学濃度Dが高くなるに従って各層の膜厚が厚くなる。2層目、4層目、6層目のSiO薄膜121、124、126は、ND膜103の光学アドミッタンスを1.0に近づけるように膜厚が設定される。光学アドミッタンスは、文献〔「光学薄膜の基礎理論」小檜山光信著 オプトロニクス社発行〕に記載の式を用いて求めることができる。
【0064】
すなわち、Nb薄膜111、113、115の膜厚を所要の透過率になるように決め、SiO薄膜112、114、116の膜厚を光学アドミッタンスが1.0になるように決める。Nb薄膜の膜厚を1.0になるように微調整する。この工程を繰り返して最終的な膜厚を決定する。反射防止膜104の各層の膜厚も同様にして決定される。
【0065】
なお、ND膜103及び反射防止膜104を構成する各膜厚は、膜材料の特性のパラメータの違いにより透過率プロファイルが変わり得るので、上記の数値には許容値(範囲)を有する。すなわち、光学アドミッタンスを求める際の、膜材料の屈折率―波長特性、光吸収率―波長特性は、例えば3点の波長で近似して得ているので、近似の取り方で上記特性に多少のずれが生じる。このため上記各膜厚には許容値を有する。
【0066】
図26に、NDフィルタ101の低濃度部位105のND膜103と反射防止膜104の最適な薄膜構成を示す。光学濃度D=0.3付近において、ND膜103は、膜厚1.6nmのNb薄膜131と、膜厚81nmのSiO薄膜132と、膜厚5.8nmのNb薄膜133と、膜厚74nmのSiO薄膜134との4層をこの順に積層して構成される。光学濃度D=0.08付近において、ND膜103は、膜厚3nmのNb薄膜141と、膜厚81nmのSiO薄膜142との2層を積層して構成される。光学濃度D=0.04付近において、ND膜103は、膜厚81nmの1層のSiO薄膜151で構成される。反射防止膜104は、上述したようにNb薄膜121、123とSiO薄膜122、124の4層膜で形成され、反射防止膜104の各層の膜厚は、反射防止膜104の光学アドミッタンスが1.0に近づくように設定される。
【0067】
ND膜103及び反射防止膜104は、前記図10で説明したように、スパッタリング装置の同じ真空チャンバー内で成膜される。真空チャンバー内には、Nbターゲット板とSiターゲット板が配置され、酸素ガス(O)アルゴンガス(Ar)が選択的に導入され、Nb薄膜、SiO薄膜、Nb薄膜の成膜がなされる。膜厚制御は、移送するPETフィルタの送り速度を制御することにより可能である。ND薄膜103及び反射防止膜104は、同じ真空チャンバー内で同一工程で成膜され、光学アドミッタンスの調整が行われる。
【0068】
上述の本実施の形態に係るNDフィルタ101によれば、膜層数を少なくして最適の光学特性を有するNDフィルタを得ることができる。また、本実施の形態のNDフィルタ101は、反射防止膜を有するので、例えばCCD型、CMOS型の固体撮像装置に対して反射防止膜104を固体撮像装置側に対向するようにして本NDフィルタを配置した場合、ND膜103側から入射した光の固体撮像装置側のガラス部材と基材のPETフィルム102間での多重反射が防止される。
反射防止膜104は、ND膜103を構成する膜材料を用いてNb薄膜とSiO薄膜の積層膜で形成するので、NDフィルタの製造工程を簡素化することがでる。すなわち、Nb薄膜、SiO薄膜はスパッタリング法で成膜するが、反射防止膜のNb 薄膜は酸素雰囲気中でNbをスパッタすることによりNb薄膜の成膜が可能になる。
【0069】
なお、図20の光学濃度D=0.75の膜構成、図23の光学濃度D=0,9の膜構成は、いずれも例えば光学濃度を均一としたNDフィルタに適用することができる。すなわち、光学濃度0.75のNDフィルタ、光学濃度0.9のNDフィルタを構成することができる。
【0070】
本発明に係るNDフィルタの実施の形態においては、図27Aに示す光学吸収膜3の全域にわたり濃度勾配を有する全域グラデーションNDフィルタ構造、図27Bに示す光学吸収膜3が濃度勾配を有し途中から一定濃度を有する部分グラデーションNDフィルタ構造のいずれにも適用することができる。
【0071】
本発明の実施の形態に係るNDフィルタの製造に際しては、図28に示すように、透明基材の例えばPRTフィルムの全域に濃度勾配を有するように光学吸収膜を成膜したのち、所要領域46を例えばプレス成型などで打ち抜いてNDフィルタ素子を製造することができる。
【0072】
次に、図29〜図32を用いて、上述の本実施の形態のNDフィルタを備えた撮像装置の実施の形態について説明する。撮像装置の適用範囲はビデオカメラ、スチルカメラの他、動画撮影又は制止画像撮影の機能を有する各種の撮像装置(携帯電話に組み込まれる撮像装置などを含む)に適用することができる。
【0073】
先ず、図29を用いて撮像装置(例えばビデオカメラ)の基本構成を説明する。撮像装置51は、外筐として設けられたレンズ鏡筒52に所要の各部が配置されて成り、レンズ鏡筒52には、光学レンズ系53と、固体撮像素子等の撮像手段54と、絞り羽根55と前述のNDフィルタ56を一体にした光量調節装置57が設けられている。光量調節装置57は、一対の絞り羽根55が駆動モータにより駆動され、本例では一対の絞り羽根55が互いに反対方向に移動して絞り開口を制御して光量調節がなされるように構成される。NDフィルタ56は一方の絞り羽根55に取着される。なお、絞り羽根構造としては、2枚の絞り羽根を一方向に移動させるもの、多枚羽根で絞り開口を制御するもの(いわゆる虹彩羽根)を適用できる。なお、レンズ鏡筒としては、図21では撮像手段54を備えた構成としたが、その他、撮像手段を有しないレンズ鏡筒を構成することもできる。
【0074】
図30〜図32に、本実施の形態に係る撮像装置の具体例を示す。撮像装置58は、図30に示すように、レンズ鏡筒59と、画像処理部73、演算処理部74及び制御部75とを備えて成る。レンズ鏡筒59は、被写体側から順に、対物レンズ60、変倍レンズ61、レンズ62、光量調節装置63、駆動モータ64、フォーカスレンズ65及び固体撮像素子66が配置されている。光量調節装置63はアイリス若しくはシャッター又はこれら双方の機能を有しているが、以下には光量調節装置63はアイリスとシャッターの双方の機能を有している場合について説明する。
【0075】
レンズ鏡筒59は、例えばガラス入りポリカーボネート等の樹脂材料によって形成され、その内部に、光量調節装置63を挟んで光軸OL方向における互いに反対方向の位置に、それぞれ光軸OLに対して平行なガイドバー67、67とガイドバー68、68が配置される。
【0076】
変倍レンズ61はホルダー69に保持され、このホルダー69がガイドバー67、67に摺動自在に支持される。ホルダー67、67に保持された変倍レンズ61は、変倍レンズ用駆動部70の駆動力がホルダー69に伝達されることにより光軸OL方向へ移動される。
【0077】
フォーカスレンズ65はホルダー71に保持され、このホルダー71がガイドバー68、68に摺動自在に支持される。ホルダー71に保持されたフォーカスレンズ65は、フォーカスレンズ用駆動部72の駆動力がホルダー71に伝達されることにより光軸OL方向へ移動される。
【0078】
固体撮像素子66によって得られる画像出力は、画像処理部73に送出されて所定の処理が行われる。画像処理部73は、制御等に必要な情報を演算処理部74に送出したり、撮影画像をビューファインダーやモータ等に送って表示させ、あるいはユーザの操作指示に従って画像情報等を記録媒体に記録させる。尚、マイクロコンピュータ等を用いた演算処理部74は、制御部75に制御指令を送出し、この制御部75から駆動モータ64、変倍レンズ用駆動部70及びフォーカスレンズ用駆動部72等に制御信号が供給されることによって各部が制御される。
【0079】
光量調節装置63は、図31に示すように、一対の絞り羽根76及び77と、一方の絞り羽根77に一体に取着されたNDフィルタ100と、絞り羽根76及び77を駆動させる駆動モータ64を有してなり、絞り羽根76及び77を互いに反対方向(矢印参照)に移動させることにより、入射光量の調節機能及びシャッター機能を兼用している。
【0080】
絞り羽根76は、略逆U字状に形成された主部78とこの主部78から側方へ突出された突部79とが一体に形成されて成る。主部78には下方に開口された切欠78aが形成され、この切欠78aを挟んだ互いに反対側に上下に長い案内用長孔78b,78bが形成される。切欠78aは絞り開口の一半部を構成するもので、底側が略三角形をなしている。突部79には左右に長い係合長孔79aが形成される。
【0081】
絞り羽根77は、略U字状に形成された主部80とこの主部80から側方へ突出された突部81とが一体に形成されて成る。突部81は前記絞り羽根76の突部79と反対方向へ突出されている。主部80には上方に開口された切欠80aが形成され、この切欠80aを挟んだ互いに反対側に上下に長い案内用長孔80b,80bが形成される。切欠80aは絞り開口の他半部を構成するもので、底側が略三角形をなしている。突部81には左右に長い係合長孔81aが形成される。NDフィルタ100は、切欠80aの底側の略三角形の頂部から開放側へ向って光学濃度が薄くなるように取着される。
【0082】
駆動モータ64は、図32に示すように、インナーローター型である。ここでは、ローターにマグネットを設け、ステーターにコイルを設けた可動マクネットタイプ、又はローターにコイルを設け、ステーターにマグネットを設けた可動コイルタイプの何れかのタイプが用いられるが、本例では可動マグネットタイプのモータが用いられる。
【0083】
駆動モータ64のローター82は、例えば4極に着磁されたマグネット83とヨーク84と軸受85とを有している。マグネット83は光軸OL方向へ延びる円筒状に形成され、このマグネット83の内周面に鉄等の磁性材料によって円筒状に形成されたヨーク84が固定される。
【0084】
軸受85は、摩擦係数の小さい例えば樹脂材料等で形成され、円筒状に形成されたスリーブ部85aとこのスリーブ部85aの軸方向における一端縁から外方へ張り出されたフランジ部85bとが一体に形成されて成る。軸受85はスリーブ部85aの軸方向における一端部がヨーク84の内周面に固定される。
【0085】
軸受85は、レンズ鏡筒59に一体に形成された支持筒部86に外挿されて回転自在な状態で支持される。支持筒部86は、光軸OL方向に延びる円筒部87とその一端縁から外方へ張り出したフランジ部88とを有している。
【0086】
軸受85のフランジ部85bの外周寄りの位置には、光軸OL方向へ向けて互いに180°離れた係合部85c,85cが突出される。この係合部85c,85cがそれぞれ支持筒部86のフランジ部88に設けられた逃げ長孔88a,88aを挿通して、絞り羽根76、77の係合長孔79a,81aに摺動自在に係合される。また、支持筒部86のフランジ部88の内周寄りの位置には、光軸OL方向へ向けて互いに180°離れた案内ピン88b,88bが突出される。この案内ピン88b,88bがそれぞれ絞り羽根76、77案内用長孔78b,78b,80b,80bに摺動自在に係合される。
【0087】
ステーター89は、円筒状をなす周面部89aと、この周面部89aの内周面からそれぞれ中心方向へ突出され内端89cが略円弧状をなす4つのコイル巻回部89bとが磁性材料によって一体形成されて成る。この各コイル巻回部89bに直列接続されるようにステータコイル90が巻回される。
【0088】
光量調節装置63の動作を説明する。駆動モータ64のロータ82の回転に伴って係合部85c,85cが図31の反時計回り方向に回転されると、絞り羽根76、77が互いに離れる方向へ移動され、絞り羽根76、77の切欠78a,80aによって形成される絞り開口の面積が大きくなり、入射光量が増加する。逆に、係合部85c,85cが図31の時計回り方向に回転されると、絞り羽根76、77が互いに近づく方向に移動され、絞り開口の面積が小さくなり入射光量が減少する。絞り開口の面積が小さくなるにつれて、絞り開口がNDフィルタ100の高濃度部位で覆われ、強い入射光に対して減光制御される。
【0089】
本実施の形態に係る撮像装置58によれば、光量調節装置63のNDフィルタ100として、前述のNb膜を光学吸収膜としたNDフィルタを用いることにより、色むらが少なく、小絞り時においても高解像度の撮像が可能になる。
【0090】
本実施の形態では、光量調節装置63、レンズ鏡筒59の単体においても、前述のNb膜を光学吸収膜としたNDフィルタを用いることにより、色むらが少なく、小絞り時において、解像度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係るNDフィルタの第1実施の形態を示す模式図である。
【図2】第1実施の形態に係る低濃度領域側の要部の光学吸収膜の一例を示す構成図である。
【図3】第1実施の形態に係る低濃度領域側の要部の光学吸収膜の他の例を示す構成図である。
【図4】第1実施の形態に係る低濃度領域側の要部の光学吸収膜の他の例を示す構成図である。
【図5】第1実施の形態に係る低濃度領域側の要部の光学吸収膜の他の例を示す構成図である。
【図6】Nb膜の透過率−波長特性、SiO2 膜の透過率−波長特性及びNb膜とSiO2 膜の積層膜の透過率−波長特性を定性的に示すグラフである。
【図7】本発明に係るNDフィルタの第2実施の形態を示す低濃度領域側の要部を示す構成図である。
【図8】本発明に係るNDフィルタの第3実施の形態を示す低濃度領域側の要部を示す構成図である。
【図9】A〜E 図8の第3実施の形態に係るNDフィルタの製造方法の一例を示す製造工程図である。
【図10】本発明に係るNDフィルタの製造に適用されるスパッタリング装置の概略を示す構成図である。
【図11】図10のスパッタリング装置を用いてNDフィルタの光学吸収膜を形成する際の成膜工程を示すフローチャートである。
【図12】スパッタリング装置を用いて膜厚を制御する第1の制御方法の説明に供する説明図である。
【図13】スパッタリング装置を用いて膜厚を制御する第2の制御方法の説明に供する説明図である。
【図14】本発明に係るNDフィルタの第4実施の形態を示す概略構成図である。
【図15】第4実施の形態のNDフィルタにおいて、光学濃度D=0.5の位置における透過率−波長特性を示すグラフである。
【図16】第4実施の形態のNDフィルタにおいて、光学濃度D=1.0の位置における透過率−波長特性を示すグラフである。
【図17】Nb膜の波長に対する屈折率nと吸収特性kを示す表図である。
【図18】本発明に係るNDフィルタの第5実施の形態を示す概略構成図である。
【図19】本発明に係るNDフィルタの好ましい第6実施の形態を示すフィルイタ部分の構成図である。
【図20】図19のNDフィルタにおける光学濃度D=0.75付近の膜構成を示す断面図である。
【図21】図20の膜構成での透過率―波長特性図である。
【図22】図20の膜構成での反射率―波長特性図である。
【図23】図19のNDフィルタにおける光学濃度D=0.9付近の膜構成を示す断面図である。
【図24】図23の膜構成での透過率―波長特性図である。
【図25】図23の膜構成での反射率―波長特性図である。
【図26】図19のNDフィルタにおける低濃度部位の膜構成を示す断面図である。
【図27】A,B 本発明に係るNDフィルタにおいて、全域グラデーションのNDフィルタ及び部分グラデーション型に適用した実施の形態の模式図である。
【図28】NDフィルタの製造工程でのカット形状に例を示す説明図である。
【図29】本発明に係る撮像装置の概略構成を示す概略構成図である。
【図30】本発明に係る撮像装置の一実施の形態を示す構成図である。
【図31】本発明に係る撮像装置に内蔵する絞り羽根の例を示す構成図である。
【図32】本発明に係る撮像装置に内蔵する光量調節装置の構成図である。
【図33】従来のグラデーションNDフィルタの例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0092】
1、15、17、18、19・・NDフィルタ、2・・透明基材、3・・光学吸収膜、4・・先端部分、5・・低濃度部位、7・・ニオブ(Nb)膜、8、8A・・誘電体膜、16・・密着部材、41、43・・ニオブ(Nb)膜、42、4・・誘電体膜、51・・撮像装置、52・・レンズ鏡筒、53・・光学レンズ、54・・撮像手段、55・・絞り羽根、56・・NDフィルタ、63・・光量調節装置、101・・NDフィルタ本体、102・・PETフィルム、103・・ND膜、104・・反射防止膜、105・・低濃度部位、106・・高濃度部位、111,113,115・・Nb薄膜、112,114,116・・SiO薄膜、121,123・・Nb薄膜、122,124・・SiO薄膜、131,133,141・・Nb薄膜、132,134,142、151・・SiO薄膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に光透過率が連続的に変化するように光学濃度を連続的に変化させた光学吸収膜を有し、
前記光学吸収膜における低光学濃度領域の先端側に、ニオブ膜と誘電体膜との積層膜が形成されている
ことを特徴とするNDフィルタ。
【請求項2】
前記積層膜は透明基材表面に極薄のSiOx(x=0〜2)による密着部材を介して被着されている
ことを特徴とする請求項1記載のNDフィルタ。
【請求項3】
前記積層膜は、透明基材側から第1層目のニオブ膜、第2層目の誘電体膜の順に成膜された積層膜構造を有している
ことを特徴とする請求項1または2記載のNDフィルタ。
【請求項4】
前記積層膜に連続する最先端領域に単層の誘電体膜が形成されている
ことを特徴とする請求項3記載のNDフィルタ。
【請求項5】
前記積層膜の誘電体膜と前記最先端領域の誘電体膜の膜厚が同じである
ことを特徴とする請求項4記載のNDフィルタ。
【請求項6】
絞り開口を形成する複数の絞り羽根とNDフィルタを有し、
前記NDフィルタは、透明基材上に光透過率が連続的に変化するように光学濃度を連続的に変化させた光学吸収膜を有して、
前記光学吸収膜における低光学濃度領域の先端側に、ニオブ膜と誘電体膜との積層膜が形成されて成る
ことを特徴とする光量調節装置。
【請求項7】
内部に少なくとも撮像レンズ系と光量調節装置を備え、
前記光量調節装置は、絞り開口を形成する複数の絞り羽根とNDフィルタを有し、
前記NDフィルタは、透明基材上に光透過率が連続的に変化するように光学濃度を連続的に変化させた光学吸収膜を有して、
前記光学吸収膜における低光学濃度領域の先端側に、ニオブ膜と誘電体膜との積層膜が形成されて成る
ことを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項8】
撮像レンズ系へ入射した光量を調節するための光量調節装置を有し、
前記光量調節装置は、絞り開口を形成する複数の絞り羽根とNDフィルタを有し、
前記NDフィルタは、透明基材上に光透過率が連続的に変化するように光学濃度を連続的に変化させた光学吸収膜を有して、
前記光学吸収膜における低光学濃度領域の先端側に、ニオブ膜と誘電体膜との積層膜が形成されて成る
ことを特徴とする撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2008−8975(P2008−8975A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176900(P2006−176900)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】