説明

NF−κB活性化阻害剤

【課題】炎症や2型糖尿病などのNF―κBに関与する疾患の予防及び治療に使用することができる安全性の高いNF−κB活性化阻害剤を安価に提供する。
【解決手段】下記化1の化学構造式(該式中、Rはヒドロキシ基を示し、Rはヒドロキシ基、メトキシ基あるいはアルコキシ基を示し、Rはトリテルペンからなるエステルおよびその塩類を表す。)で表される化合物またはその塩類を有効成分とするNF−κB活性化阻害剤。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症、2型糖尿病などの疾患の予防や治療に使用することができるNF−κB活性化阻害剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遺伝子の発現は、転写調節因子というDNA結合タンパク質がDNAの特異的配列(応答配列)に結合することによって制御されている。転写調節因子として知られるNuclear Factor kappa B (NF−κB)は、免疫グロブリンkappa鎖遺伝子のエンハンサーに結合するB細胞に特異的な因子として同定された。その後、各種炎症に関連するサイトカインや受容体のプロモーター領域に結合することでこれらの遺伝子の発現を制御し、免疫応答や炎症などをコントロールする重要な転写調節因子として重要な働きをしていることが明らかになってきた。NF−κBは、このように、免疫応答や炎症などの病態形成に重要な働きを持ち、NF−κB活性化を阻害する化合物はこれらの病態の改善および治癒に有用である。
【0003】
このため、NF−κBの活性化を阻害する薬物の探索が進められ、非ステロイド系抗炎症剤であるアスピリンやサリチル酸ナトリウムが比較的高濃度域でNF−κBの活性化を阻害する作用を有すること、プリン系化合物であるキサンチン誘導体がNF−κB活性化阻害を起こすこと、ステロイド系化合物であるデキサメタゾンがNF−κB活性化阻害を起こすこと、ウコンの成分であるクルクミンがNF−κB活性化阻害を示すこと、プロポリスの成分である桂皮酸フェネチルエステルがNF−κB活性化阻害を示すことなどが報告されている。
【0004】
また、活性化されたNF−κBは脂肪細胞の分化誘導を制御し、脂質代謝全体を制御する核受容体型転写調節因子パーオキシゾーム増殖剤活性化受容体(PPARγ)の活性を阻害することが明らかにされている。
【0005】
ところで、本発明に係るNF−κB活性化阻害剤は、下記化1に示すような化学構造式の化合物からなり、この化合物はフェニル基を有するプロピオン酸誘導体にトリテルペンアルコールがエステル結合をした基本構造をしている。
【0006】
【化1】

【0007】
以下、この化合物について化学構造の観点から従来技術について述べる。化1において、Rがヒドロキシ基、Rがメトキシ基、Rがトリテルペンである化合物は、総称としてγ−オリザノールと呼ばれ、特許3493459号において皮脂分泌作用等を有するとされているが、その作用機序についてはまったく触れられておらず、本発明で主張するNF−κB活性化阻害作用についてはなんら記載されていない。
【0008】
Akihisaらは後述する非特許文献1で、γ−オリザノールの成分がホルボールエステルを用いて起こさせたマウス耳の炎症に対して抗炎症作用を示すことを報告しているが、NF−κB活性化阻害作用についてはなんら記載されていない。
【0009】
また、 Rがヒドロキシ基、Rがメトキシ基、Rが水素である遊離フェルラ酸の誘導体については、後述する非特許文献2において抗酸化性物質として記載されているが、NF−κB活性化阻害作用についてはまったく触れられていない。
【0010】
また、本発明の化合物は広く食用植物界に分布する化合物であり、これまでの長い食経験でその安全性が確認されているものであるが、これまでNF−κB活性化阻害作用については述べられたことがない。
【特許文献1】特許第3493459号公報
【特許文献2】特表2005−501043号公報
【非特許文献1】Akihisa, T., Yamaura, K., Ukiya, M., Kimura, Y., Shimizu, N., Arai, K. Triterpene alcohol and sterol ferulates from rice bran and their anti-inflammatory effects. J. Agric. Food Chem., 48, 2313-2319 (2000)
【非特許文献2】Rice-Evans, C.A., Miller, N.J, Paganga, G. Structure-anitioxidant activity relationships of flavonoids and phenolic acids. Free Radical Biology & Medicine, 20, 933-956 (1996).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、炎症、2型糖尿病などの疾患の予防や治療に使用することができる安全性の高いNF−κB活性化阻害剤を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るNF−κB活性化阻害剤は、下記の化1で表される化合物またはその塩類を有効成分とするものである。
【0013】
【化1】

【0014】
ここで、化1の化学構造式中、Rはヒドロキシ基を示し、Rはヒドロキシ基、メトキシ基あるいはアルコキシ基を示し、Rはステロールなどのトリテルペン骨格を示す。
【0015】
化1の代表的な化合物としてはヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルを挙げることができ、好ましい例としては、シクロアルテニルフェルレート、βシトステリルフェルレート、スティグマステリルフェルレート、24−メチレンシクロアルテニルフェルレートもしくはカンペステリルフェルレートまたはそれらの塩類を挙げることができる。塩類とは、医薬として許容される塩類であればよく、たとえばアンモニウム塩などを挙げることができる。
【0016】
なお、本発明に係るNF−κB活性化阻害剤の投与は、例えば、非経口又は経口等の公知の用法で行うことができる。投与形態としては、非経口剤として用いる場合、その形態は限定されず、例えば、静脈内注射剤(点滴を含む)、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤、皮下注射剤、点鼻薬、坐剤、軟膏、クリーム及び塗布液等のいずれであってもよい。さらに、経口剤として用いる場合、その形態は限定されず、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、トローチ剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等のいずれであってもよいし、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。
【0017】
これら各種用法に用いる製剤(経口剤や非経口剤等)は、薬剤製造上一般に用いられる賦形材、充填材、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等を適宜選択して使用し、常法により調製することができる。また、用途として、化粧料、食料、飲料、家畜飼料、ペットフードへの応用が考えられる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る化合物は、NF−κBの活性化を阻害する作用を有し、NF−κB活性化が関与する幅広い炎症性疾患(潰瘍性大腸炎とクローン病を含む腸炎等)や、アディポネクチンが関与する疾患(例えばインスリン耐性を伴う2型糖尿病)などの予防及び治療に使用することができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
NF−κBの活性化を阻害することによって炎症、2型糖尿病などの疾患を予防したり治療するという目的を、長い食経験でその安全性が確認されている穀物(米糠)に含まれている成分を用いることによって実現した。
【0020】
以下、本発明の実施例を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0021】
[ヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルの抽出例] クロロホルムメタノール混液を用いて米糠より全脂質を抽出した。得られた抽出液の溶媒を、アセトニトリル(国産化学)、酢酸(国産化学)、蒸留水(国産化学)94:2:6(v/v)混合溶液に置換し、0.50μmミクロフィルター(PTFE、ADVANTEC TOYO)でろ過した。
【0022】
移動相をアセトニトリル(国産化学)、酢酸(国産化学)、蒸留水(国産化学)94:2:6(v/v)混合溶液とし、固定相を逆相HPLCカラムであるMightysil RP-18 GP250-4.6 3μm(関東化学)、流速を1ml/minとした高速液体クロマトグラフィーシステムで分離し、RF-10A(島津製作所)にて励起波長330nm、蛍光波長390nmの蛍光強度で検出したところ、図1に示す通りの結果が得られた。
【0023】
図1に示す結果から、ヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルの一種であるシクロアルテニルフェルレート、24−メチレンシクロアルテニルフェルレート、カンペステリルフェルレート、β−シトステリルフェルレートが米糠中から抽出できたことがわかる。
【実施例2】
【0024】
[ヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルの合成] 前述した非特許文献1の方法に従い、ヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルの合成を行った。まず、5gのtransフェルラ酸および5gの無水プロピオン酸(Aldrich)を15mlのピリジン(Aldrich)に溶解させ、窒素雰囲気下で48時間撹拌した。得られた1.2gの4-プロピオニルフェルラ酸および400mgのコレステロール(SIGMA)を100mlのジクロロメタンに溶解し、900mgの2-chloro-1,3-dimethylimidazolinium(DMC; Aldrich)を加えた。
【0025】
次いで、十分に冷却しながら200mgのピリジンをゆっくりと加え、4時間室温で撹拌した。その後、1000mlの蒸留水を加え、ジクロロメタン層を1000mlの希塩酸次いで飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。下層を採取して、無水硫酸ナトリウムで脱水後、エバポレーターにて溶媒を除去した。得られた乾固物をクロロホルムに溶解させた後、Slica60プレートに着点し、クロロホルムを展開溶媒とする薄層クロマトグラフィーにて分離した。
【0026】
365nmの紫外光で蛍光を発するとともに50%硫酸検出で赤色を呈するスポットを掻き取り、シリカをクロロホルム:メタノール(1:1,v/v)溶媒で溶出した。得られたコレステロール4-プロピオニルフェルラ酸エステルに0.1Mの水酸化カリウムメタノール溶液を加え、50℃で20分間加水分解を行い、コレステロールフェルラ酸エステルを得た。
【0027】
また、コレステロールに変えて他のトリテルペンアルコールを用いることにより、その他のヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルを得た。
【実施例3】
【0028】
[RAW264.7マウスマクロファージ細胞株におけるLPS刺激によるNF−κB活性の測定] マウスマクロファージRAW264.7細胞を10%牛胎児血清を含むDMEMで維持し、1μM cycloartenyl ferulate (CAFを含むDMEMにて22時間処理した。次いで、1μg/mlリポポリサッカライド (LPS)で2時間刺激した。
【0029】
RAW 264.7細胞の核タンパク質を、Transfactor Extraction kit (BD Biosciences, USA)を用いて抽出し、100mM HEPES (pH 7.6),5mM EDTA,50mM Ammonium Sulfate,5mM DTT,150mM KCl,1% (v/v) Tween 20,0.0001% poly (dI-dC) (Amersham Biosciences, USA)からなる反応溶液中で下記に示すNF−κBのビオチン化応答コンセンサス配列と60分間結合させた。
【0030】
NF−κBのコンセンサス配列:5'-AGTTGAGGGGACTTTCCCAGGC-3’
【0031】
これらの実験群以外に、対照として90倍の非標識コンセンサス配列と反応させたコールド群と、anti-p50ポリクローナル抗体 (Abcam, USA) およびanti-p65 ポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, INC.,USA)を用いたスーパーシフト群を設けた。
【0032】
結合反応物を1.0 % Tris/borate/EDTA 緩衝液を含む6.0% ポリアクリルアミドゲルにて電気泳動し、続いてナイロンメンブレン(Presoak Pall Biodyne B, Whatman, USA)に転写した。転写後のメンブレンを85℃で30分間加熱してDNAを架橋してStreptavidin標識ペルオキシダーゼ (SIGMA, USA)と15分間反応させた。
【0033】
そして、ペルオキシダーゼ活性をImmobilon Western Chemiluminescent HRP substrate (Millipore, USA)を用いて検出し、発光強度をImage J (National Institutes of Health, USA)を用いて数値化したところ、図2に示す通りとなった。
【0034】
また、この実施例において、ヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルのひとつであるシクロアルテニルフェルレート(1 μM: CAF)と、生体内でのその代謝産物と考えられるフェルラ酸(1μM:FA)の存在下でNF−κB活性を調べたところ、図2に示す通りとなった。
【0035】
図2に示す結果から、RAW264.7細胞は無刺激時においても比較的高いNF−κB活性が得られ、LPS刺激によりNF−κB活性は増加傾向を示すことがわかる。また、フェルラ酸はこのNF−κB活性をほとんど抑制しないが、ヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルの一つであるシクロアルテニルフェルレートはNF−κB活性を顕著に抑制することがわかる。
【実施例4】
【0036】
[RAW264.7マウスマクロファージ細胞株におけるLPS刺激によるiNOSとIL-1β mRNA発現量の半定量的RT-PCR解析] 各刺激を行ったRAW246.7細胞から全RNAをSepazol-RNA (Nacalai tesque Inc., Japan)にて抽出し、260nmの吸収強度からRNA量を定量した。得られた全RNAから、M-MLV Reverse transcriptase (Promega. USA)、Oligo (dT)12-18 primerおよびRNase inhibitorを含む反応液を用いてcDNAを得た。得られたcDNAにつき、下に示す特異的なプライマーおよびTaq DNA polymerase (TaKaRa, Japan)を用いて標的DNAを増幅した。
【0037】
なお、PCRにはホットスタート法を用い、PCR System (Bio-Rad, Japan)を使用して94℃,5min反応させたのち、94℃,1min,55℃,1.5min,72℃,1minを35サイクル繰り返した後、72℃,5min反応させた。iNOSとIL-1βおよびβ-actin プライマーはそれぞれ479,387,374および349bpのフラグメントを増幅した。得られたフラグメントを2%アガロースゲル電気泳動で分離し、臭化エチジウムで染色して、その染色強度をImageJ (National Institutes of Health, USA)にて数値化したところ、図3及び図4に示す通りとなった。
【0038】
iNOS: forward primer, 5’-GCCTCGCTCTGGAAAGA-3’;
reverse primer 5’-TCCATGCAGACAACCTT-3’;
IL-1β: forward primer, 5’-TGCAGAGTTCCCCAACTGGTACATC-3’
reverse primer 5’-GTGCTGCCTAATGTCCCCTTGAATC-3’
β-actin: forward primer, 5’-TGGAATCCTGTGGCATCCATGAAAC-3’
reverse primer 5’-TAAAACGCAGCTCAGTAACAGTCCG-3’
【0039】
また、ヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルのひとつであるシクロアルテニルフェルレート(1 μMと10 μM:CAF)の効果について検討したところ、図3及び図4に示す通りとなった。
【0040】
図3及び図4に示す結果から、RAW264.7細胞は無刺激時においても比較的高いiNOSとIL-1βのmRNA発現が認められる。これは、無刺激時での高いNF−κB活性に合致した結果と考えられる。また、RAW264.7細胞はLPS刺激により、iNOSとIL-1βのmRNA発現量がさらに増加することがわかる。これに対し、ヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルのひとつであるシクロアルテニルフェルレート(1μMと10μM:CAF)はiNOSとIL-1βのmRNA発現を顕著に抑制することがわかる。
【実施例5】
【0041】
[炎症性腸疾患モデル] デキストラン硫酸(DSS: MW36000-50000, MP Biomedicals)を3%、1%、0.5%溶液になるように蒸留水に溶解し、C57BL/6Jマウス(オス、8週齢)に自由飲水させ、3%DSS投与群は投与開始7日目で、1%ならびに0.5%DSS投与群は14日目に安楽死させ、結腸病変部を摘出した。
【0042】
また、実施例1で示したヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルの混合物であるγ−オリザノールはカルボキシメチルセルロース0.5%と0.01% Tween20を含む生理食塩水にγ−オリザノールを懸濁液として調整し、50mg/kg/dayをDSS自由飲水開始前2日から経口投与を開始した。
【0043】
Control群:溶媒のみ 6匹
3%DSS群:溶媒のみ経口投与+3%DSS自由飲水 5匹
3%DSS+γ−オリザノール群:γ−オリザノール経口投与+3% DSS自由飲水 5匹
1%DSS群:溶媒のみ経口投与+1%DSS自由飲水 6匹
1%DSS+γ−オリザノール群:γ−オリザノール経口投与+1%DSS自由飲水 6匹
0.5%DSS群:溶媒のみ経口投与+0.5%DSS自由飲水 6匹
0.5%DSS+γ−オリザノール群:γ−オリザノール経口投与+0.5%DSS自由飲水 6匹
【0044】
1) Disease Activity Index (DAI): 自由飲水開始後、毎日午前中に体重測定、便硬度の触診、血便の有無(潜血判定キット使用)について解析し、下記の規定に基づきDisease Activity Index (DAI)を算出した。
(A) 体重減少:なし(0), 1-5% (1), 5-10% (2), 10-15% (3), >15% (4)
(B) 便の形状:通常 (0), 軟便 (2), 下痢便 (4)
(C) 潜血キット判定:なし(0)、 わずかな緑色(1)、 3秒以内に緑色(2)、 反応後すぐに鮮緑色(3)、 反応後すぐに暗青色(4)
{(A)+(B)+(C)}/3=DAI
【0045】
2) HE染色: 3%DSS投与群において、DSS投与7日目の結腸病変部(横行結腸〜上行結腸)を摘出し、中性ホルマリンにて固定して、HE染色による病理切片を作製した。
【0046】
3) ミエロペルオキシダーゼ活性 (MPO活性): 結腸病変部(横行結腸〜上行結腸)を摘出し、腸内容物を除去した後、腸管病変部における総タンパク量当たりのMPO酵素活性を測定し、好中球浸潤の指標とした。
【0047】
1) DAIスコアー: 体重は1%DSSならびに0.5%DSS投与群いずれにおいても対照群と比べて有意な差は認められなかった。また、γ−オリザノール投与群においてもそれぞれの対照群と差は認められなかった。
【0048】
DAIスコアー評価法において、0.5%DSS投与群は対照群と比べて差はなく、DAIスコアーは0であった。一方、1%DSS投与群は、図5に示す通り、DSS投与開始後10日目から便の軟化と軽度の潜血便が認められ、DSS投与後14日目のDAIスコアーは0.72±0.13と有意に上昇していた。γ−オリザノール投与群ではDAIスコアーは全ての個体で0となり、有意な病態改善効果が認められた。
【0049】
2) MPO活性: MPO活性は図6に示す通りであり、0.5%DSS投与群ならびに1%DSS投与群の結腸病変部において、好中球浸潤の指標となるミエロペルオキシダーゼ活性はDSSの濃度に依存して増加することがわかる。また、γ−オリザノール投与群では0.5%DSS投与の場合はほぼ完全にMPO活性を静止レベルまで低下させたが、1%DSS投与群においては抑制傾向を示すものの、有意な差は認められないことがわかる。
【0050】
3) HE染色: HE染色は図7に示す通りであり、3%DSS投与1週間目の結腸病変部は、同図(b)に示す通り、粘膜上皮が脱落し、粘膜下織への炎症性細胞の浸潤と肥厚ならびに筋層部の肥厚が認められる。一方、γ−オリザノール投与群では、同図(c)に示す通り、粘膜下織への炎症性細胞の浸潤は認められるが、明らかに粘膜下織と筋層の肥厚は軽減し、粘膜上皮の脱落もDSS投与群に比べて軽度であることがわかる。なお、同図(a)はcontrolである。
【実施例6】
【0051】
マウス3T3-L1前駆脂肪細胞(IFO50416, HSRRB)を購入し、24ウェルプレートを用いて、10%FBS(SIGMA)を含むタルベッコ変法イーグル増殖培地(DMEM)(日水製薬)で培養した。48hごとに培地を交換して細胞を増殖させ、25cm2フラスコ、75cm2フラスコへ細胞を継代した。増やした細胞を回収してBICELL(日本冷凍)にて1分約1℃で−85℃まで冷却し、−85℃で保存した。
【0052】
[脂肪細胞への分化] マウス3T3-L1前駆脂肪細胞を75cm2フラスコからトリプシン-EDTA(免疫生物研究所)を用いて50mlプラスチックチューブに回収した。1000rpm、5分間遠心し、上清を除いた。新しい培地を加え、細胞を懸濁させた。細胞液を6ウェルプレートへ分注し、コンフルエントに達するまで培養した。細胞がコンフルエントに達した後、5μg/mlインスリン(和光純薬工業)、0.5mmol/l 3-isobutyl-1-methyl-xanthine(IBMX)(SIGMA)、および1μmol/lデキサメタゾン(和光純薬工業)を加えた分化誘導培地に交換した。48時間ごとに新しい分化誘導培地に交換し、7日間培養した。その後、増殖培地に交換し、さらに2日間培養した。
【0053】
[脂肪細胞アディポネクチンへの影響] 1μMγ−オリザノール、1μM βシトステロール、1μM trans-フェルラ酸、1μM コレステロールあるいは1μM トログリタゾンを含む試験培地をそれぞれ100μlずつ加えた。ポジティブコントロールとしてトログリタゾンを、ネガティブコントロールとしてDMSOのみを含む培地を用いた。22時間処理して培地を除いた後、1μg/ml LPS、50ng/ml recombinant TNF-α、100 U/ml recombinant IFN-γを加えた培地で2時間培養し、NF−κBを活性化させた。2時間後NF−κB活性化培地を除いて、試験培地による処理開始から通算して24時間後それぞれの培地を回収した。回収した培地を SDS-PAGE sample bufferと混合し、3分間ボイルした。 SDS-PAGEおよびウエスタンブロッティングを行った。
【0054】
なお、検出にはビオチンとアビジンの結合能を利用したABC法を用いた。すなわち、一次抗体にはBiotinylated Anti-mouse Adiponectin polyclonal antibody (R&D Systems, Inc)を反応させた。続いてhorseradish peroxidase 標識ビオチンとアビジンの複合体を含むABC溶液(和光純薬工業)を反応させた。次いでChemiluminescent HRP Substrate(MILLIPORE)を用いて化学発光法、もしくはSigma FAST DAB tabletを用いて検出した。検出されたバンドをフラットベッドデジタルスキャナで取り込み、Image-Jを用いて画像解析を行ってアディポネクチンレベルを測定したところ、図8に示す通りとなった。
【0055】
図8に示す結果から、LPS等の刺激によるNF−κB活性化状態のマウス脂肪細胞において中程度の濃度のヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステル(TTAHCE)はアディポネクチンの分泌を有意に促進することが明わかる。すなわち、ヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルはNF−κB活性化を阻害し、抗2型糖尿病因子アディポネクチン分泌促進を引き起こすことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】ヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステル類の分離例を示すグラフである。
【図2】RAW264.7マクロファージにおけるNF−κB活性に対するシクロアルテニルフェルレートの作用を示すグラフである。
【図3】RAW264.7マクロファージにおけるiNOSmRNA発現に対するシクロアルテニルフェルレート(CAF)の影響を示すグラフである。
【図4】RAW264.7マクロファージにおけるIL−1βmRNA発現に対するシクロアルテニルフェルレート(CAF)の影響を示すグラフである。
【図5】DSS腸炎におけるDAIスコアーに対するγ−オリザノールの影響を示すグラフである。
【図6】DSS腸炎におけるMPO活性に対するγ−オリザノールの影響を示すグラフである。
【図7】HE染色したマウスの結腸の顕微鏡写真である。
【図8】NF-κB活性化阻害がマウス脂肪細胞アディポネクチン分泌に及ぼす影響を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化1の化学構造式(該式中、Rはヒドロキシ基を示し、Rはヒドロキシ基、メトキシ基あるいはアルコキシ基を示し、Rはトリテルペンを示す。)で表される化合物またはその塩類を有効成分とするNF−κB活性化阻害剤。
【化1】

【請求項2】
ヒドロキシ桂皮酸誘導体トリテルペンアルコールエステルまたはそれらの塩類を有効成分とする請求項1に記載のNF−κB活性化阻害剤。
【請求項3】
シクロアルテニルフェルレートまたはそれらの塩類を有効成分とする請求項1又は2に記載のNF−κB活性化阻害剤。
【請求項4】
βシトステリルフェルレートまたはそれらの塩類を有効成分とする請求項1又は2に記載のNF−κB活性化阻害剤。
【請求項5】
スティグマステリルフェルレートまたはそれらの塩類を有効成分とする請求項1又は2に記載のNF−κB活性化阻害剤。
【請求項6】
24−メチレンシクロアルテニルフェルレートまたはそれらの塩類を有効成分とする請求項1又は2に記載のNF−κB活性化阻害剤。
【請求項7】
カンペステリルフェルレートまたはそれらの塩類を有効成分とする請求項1又は2に記載のNF−κB活性化阻害剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−332070(P2007−332070A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165308(P2006−165308)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、独立行政法人農業・生物系特定産業技術研究機構「新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】