説明

NOD2における変異は、クローン病を有する患者における線維性狭窄疾患に関連する

【課題】NOD2/CARD15遺伝子に連鎖された変異およびクローン病の臨床サブタイプを診断するための遺伝学的方法を提供する。
【解決手段】線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測する方法であって、個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程によるものであり、ここで、線維性狭窄素因対立遺伝子の存在が、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの診断またはそれに対する感受性の予測となる、方法。当該クローン病の臨床サブタイプは、例えば、小腸罹患とは独立した線維性狭窄疾患である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(承認)
本研究は、グラントDK46763およびグラントDK54967(NIDDKにより与えられる)によって支持される。米国政府は、本発明に対し特定の権利を有する。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、一般に、遺伝学および自己免疫疾患の分野に関し、より具体的には、NOD2/CARD15遺伝子に連鎖された変異およびクローン病の臨床サブタイプを診断するための遺伝学的方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景情報)
炎症性腸疾患(IBD)は、以下の未知の病因の2つの胃腸障害を記載するために使用される、集合名である:クローン病(CD)および潰瘍性大腸炎(UC)。IBD(これは、世界中で生じ、そして200万人もの多くの人々が罹患していると報告されている)の経過および予後は、広範に変動する。IBDの発症は、主に、青年期にあり、下痢、腹痛および発熱という3つの最も共通の代表的症状を伴う。下痢は、穏やかから重篤までの範囲にわたり得、そして貧血および体重の減少が、IBDのさらなる共通の徴候である。IBDを有する全ての患者の10%〜15%は、10年の期間にわたって診療を必要とする。さらに、IBDを有する患者は、腸の癌の発症の危険性が増加する。心理学的問題(不安および抑うつを含む)の発症の増加の報告は、おそらく、驚くべき症状ではなく、これは、しばしば、最盛期の人々を襲う消耗性の疾患である。
【0004】
クローン病は、胃腸管を罹患させ、そして類似の症状を生じる多数の異質性の疾患サブタイプを表す分類である。環境的要因および遺伝的要因の両方が、このような疾患サブタイプの病因に寄与しているようである。クローン病を有する患者は、例えば、以前に記載された診断基準に従って、線維性狭窄疾患(fibrostenosing disease)、内部穿孔疾患(internal−perforating disease)、肛門周囲瘻孔形成疾患(perianal fistulizing disease)、または潰瘍性大腸炎様疾患の存在に基づくサブタイプに分類され得る。線維性狭窄疾患サブタイプは、検査による存続腸閉塞または腸閉塞のための腸管切除によって特徴付けられる。クローン病および疾患サブタイプを診断のために、徹底的でかつしばしば長引く臨床検査が必要とされ、このことにより最適な処置が遅れることになることがあり、またこのような検査は、侵襲性の手順(例えば、内視鏡検査)を伴うこととなる。
【0005】
クローン病の臨床サブタイプと密に関連した遺伝マーカーの同定は、新規な遺伝子検査の基盤を提供し、そして疾患サブタイプを決定するのに代表的に必要とされる検査室評価、放射線医学評価、および内視鏡評価の一群に対する必要性を排除するか、または減少させる。クローン病の臨床サブタイプを診断する方法の利用性は、クローン病の治療管理の助けとなる大きな臨床上の進歩になり、さらに特定の疾患サブタイプに特異的である処置様式の設計のための土台を敷く。このような方法は、非応答性の(unresponsive)疾患サブタイプの処置に関連する費用を減少させ、そして有効でない治療を不必要に受けることの失望を排除する。特に、クローン病の線維性狭窄サブタイプについての信頼性のある遺伝子検査は、この疾患サブタイプの早期診断のための非侵襲的方法として高く評価され、また、無症状個体におけるクローン病の線維性狭窄サブタイプに対する感受性を予測するために有用であり、これにより予防的治療が可能になる。本発明は、この必要性を満たし、また関連した利点を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
本発明は、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測する方法であって、当該方法は、個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程によるものであり、ここで、線維性狭窄素因対立遺伝子の存在が、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの診断またはそれに対する感受性の予測となる、方法を提供する。本発明の方法において、当該クローン病の臨床サブタイプは、例えば、小腸罹患(small bowel involvement)とは独立
した線維性狭窄疾患によって特徴付けられ得る。
本発明はまた、個体における治療を最適化する方法であって、当該方法は、当該個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程、線維性狭窄素因対立遺伝子が存在する個体を、クローン病の線維性狭窄サブタイプを有するとして診断する工程、およびこの診断に基づいて、クローン病の線維性狭窄サブタイプを有する個体を処置する工程によるものである、方法を提供する。
本発明の好ましい実施形態では、例えば以下の方法などが提供される:
(項目1)
線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測する方法であって、該方法は、
個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程
を包含し、
ここで、該線維性狭窄素因対立遺伝子の存在が、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の該臨床サブタイプの診断またはそれに対する感受性の予測となる、
方法。
(項目2)
前記クローン病の臨床サブタイプが、小腸罹患とは独立した線維性狭窄疾患によって特徴付けられる、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記線維性狭窄素因対立遺伝子が、前記NOD2/CARD15座内に位置する、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記線維性狭窄素因対立遺伝子によってコードされたNOD2/CARD15ポリペプチドによるNF−κB活性化が、野生型NOD2/CARD15ポリペプチドによるNF−κB活性化に比較して減少される、項目3に記載の方法。
(項目5)
前記線維性狭窄素因対立遺伝子が、前記NOD2/CARD15座のコード領域中に位置する、項目3に記載の方法。
(項目6)
前記線維性狭窄素因対立遺伝子が、NOD2/CARD15の残基744〜1020をコードする領域中に位置する、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記線維性狭窄素因対立遺伝子が、SNP8、SNP12、およびSNP13から選択されるSNPでの「2」対立遺伝子である、項目5に記載の方法。
(項目8)
前記線維性狭窄素因対立遺伝子が、SNP13での「2」対立遺伝子である、項目7に記載の方法。
(項目9)
前記線維性狭窄素因対立遺伝子が、前記NOD2/CARD15座の非コード領域中に位置する、項目3に記載の方法。
(項目10)
前記線維性狭窄素因対立遺伝子が、JW1、JW15、およびJW16改変型対立遺伝子から選択される、項目9に記載の方法。
(項目11)
前記線維性狭窄素因対立遺伝子が、前記NOD2/CARD15座のプロモーター領域中に位置する、項目9に記載の方法。
(項目12)
前記線維性狭窄素因対立遺伝子が、JW17およびJW18改変型対立遺伝子から選択される対立遺伝子である、項目11に記載の方法。
(項目13)
項目1に記載の方法であって、該方法が、
前記個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された少なくとも2つの線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程
を包含し、
ここで、該線維性狭窄素因対立遺伝子の1つ以上の存在が、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの診断またはこれに対する感受性の予測となる、方法。
(項目14)
前記少なくとも2つの線維性狭窄素因対立遺伝子が、SNP8、SNP12、およびSNP13から選択されるSNPでの「2」対立遺伝子である、項目13に記載の方法。
(項目15)
項目14に記載の方法であって、該方法が、前記個体における
(i)SNP8での「2」対立遺伝子、
(ii)SNP12での「2」対立遺伝子、および
(iii)SNP13での「2」対立遺伝子
の存在または不在を決定する工程
を包含し、
ここで、該SNP8、SNP12、およびSNP13での「2」対立遺伝子の1つ以上の存在が、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの診断またはこれに対する感受性の予測となる、
方法。
(項目16)
前記線維性狭窄素因対立遺伝子が、少なくとも2のオッズ比および1より大きな下位95%信頼限界で、前記線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプに関連している、項目1に記載の方法。
(項目17)
項目1に記載の方法であって、前記個体における前記線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を示す報告を作成する工程をさらに包含する、方法。
(項目18)
項目1に記載の方法であって、前記個体における、前記線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの存在または不在を示す報告を作成する工程をさらに包含する、方法。
(項目19)
前記線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程が、前記個体からの核酸の酵素的増幅を包含する、項目1に記載の方法。
(項目20)
前記増幅がポリメラーゼ連鎖反応増幅である、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記ポリメラーゼ連鎖反応増幅が、1つ以上の蛍光標識プローブを用いて実施される、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記ポリメラーゼ連鎖反応増幅が、DNA浅溝結合剤を含む1つ以上のプローブを用いて実施される、項目20に記載の方法。
(項目23)
個体における治療を最適化する方法であって、該方法が、
(a)該個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程、
(b)前記線維性狭窄素因対立遺伝子が存在する個体を、クローン病の線維性狭窄サブタイプを有するとして診断する工程、および
(c)該診断に基づいて、クローン病の線維性狭窄サブタイプを有する該個体を処置する工程
を包含する、方法。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、SNP8、SNP12、SNP13、およびJW1ならびに他のマーカーの位置と共に、NOD2/CARD15座のイントロンおよびエキソンの構造を示す。
【図2】図2は、コホート1(「CD1」)、コホート2(「CD2」)またはコホート1およびコホート2の組み合わせ(「組み合わせCD」)における、NOD2/CARD15の3つの稀な改変型対立遺伝子(SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子)の少なくとも1つを有するNOD2改変型キャリアの頻度を示す。縞の棒線は、線維性狭窄疾患を有するクローン病患者を示し、塗りつぶしの棒線は、疾患の線維性狭窄サブタイプを有しなかったクローン病患者を示す。
【図3】図3は、SNP8、SNP12、またはSNP13でのNOD2/CARD15の稀な改変型対立遺伝子の数に対する、患者における線維性狭窄合併症の頻度を示す。SNP8、SNP12、およびSNP13での遺伝子型判定に基づいて、患者を、0、1つ、または2つの稀な改変型対立遺伝子を有するとして記載した(x軸、変異型NOD2対立遺伝子の数)。左のy軸は、塗りつぶされた丸として、線維性狭窄合併症の頻度を示す。右のy軸は、塗りつぶされた菱形として、オッズ比を示し、括弧内に95%信頼区間を示した。0の対立遺伝子と比較して、は、p値=0.008であることを示し、そして**は、p値が0.004であることを示す。
【図4】図4は、穿孔疾患と比較した、線維性狭窄疾患を有する患者におけるNOD2/CARD15改変型対立遺伝子頻度の比較を示す。患者を、線維性狭窄の形跡のない穿孔合併症を有する患者(「Perfのみ」)と比較して、穿孔合併症ありで線維性狭窄がある場合(「Fib+perf」)または穿孔合併症なしで線維性狭窄がある場合(「Fibのみ」)によって分別した。
【図5】図5は、SNP8の周囲のNOD2/CARD15のヌクレオチド配列を示す。上部の鎖を配列番号1と示し、下部の鎖を配列番号2と示す。PCR増幅のためのプライマーとして使用され得るヌクレオチド配列が示される。さらに、この図において、囲みおよび小文字によって、対立遺伝子識別アッセイにおけるプローブとして使用され得るヌクレオチド配列の位置が示される。下線を付したヌクレオチドは、多型部位の位置を示す。
【図6】図6は、SNP12の周囲のNOD2/CARD15のヌクレオチド配列を示す。上部の鎖を配列番号3と示し、下部の鎖を配列番号4と示す。PCR増幅のためのプライマーとして使用され得るヌクレオチド配列が示される。さらに、この図において、囲みおよび小文字によって、対立遺伝子識別アッセイにおけるプローブとして使用され得るヌクレオチド配列の位置が示される。下線を付したヌクレオチドは、多型部位の位置を示す。
【図7】図7は、SNP13の周囲のNOD2/CARD15のヌクレオチド配列を示す。上部の鎖を配列番号5と示し、下部の鎖を配列番号6と示す。PCR増幅のためのプライマーとして使用され得るヌクレオチド配列が示される。さらに、この図において、囲みおよび小文字によって、対立遺伝子識別アッセイにおけるプローブとして使用され得るヌクレオチド配列の位置が示される。下線を付したヌクレオチドは、多型部位の位置を示す。
【図8】図8は、SNP5の周囲のNOD2/CARD15のヌクレオチド配列を示す。上部の鎖を配列番号7と示し、下部の鎖を配列番号8と示す。PCR増幅のためのプライマーとして使用され得るヌクレオチド配列が示される。さらに、この図において、囲みおよび小文字によって、対立遺伝子識別アッセイにおけるプローブとして使用され得るヌクレオチド配列の位置が示される。下線を付したヌクレオチドは、多型部位の位置を示す。
【図9】図9は、JW1改変型配列の周囲のNOD2/CARD15のヌクレオチド配列を示す。上部の鎖を配列番号9と示し、下部の鎖を配列番号10と示す。PCR増幅のためのプライマーとして使用され得るヌクレオチド配列が示される。さらに、この図において、囲みおよび小文字によって、対立遺伝子識別アッセイにおけるプローブとして使用され得るヌクレオチド配列の位置が示される。下線を付したヌクレオチドは、多型部位の位置を示す。
【図10−1】図10は、野生型NOD2/CARD15配列(配列番号11)に比較した12の個体におけるNOD2/CARD15の5’非翻訳領域のヌクレオチド配列(配列番号12〜23)を示す。配列が同一である領域には陰を付けている。2つの多型部位であるJW18およびJW17の位置が示される。
【図10−2】図10は、野生型NOD2/CARD15配列(配列番号11)に比較した12の個体におけるNOD2/CARD15の5’非翻訳領域のヌクレオチド配列(配列番号12〜23)を示す。配列が同一である領域には陰を付けている。2つの多型部位であるJW18およびJW17の位置が示される。
【図11−1】図11は、12の個体におけるNOD2/CARD15の3’非翻訳領域のヌクレオチド配列を示す。配列が同一である領域には陰を付けている。2つの多型部位であるJW15およびJW16の位置が示される。図11Aは、野生型NOD2/CARD15配列(配列番号24)に比較した12の個体におけるNOD2/CARD15の3’非翻訳領域のヌクレオチド配列(配列番号25〜36)、およびJW16の位置を示す。
【図11−2】図11は、12の個体におけるNOD2/CARD15の3’非翻訳領域のヌクレオチド配列を示す。配列が同一である領域には陰を付けている。2つの多型部位であるJW15およびJW16の位置が示される。図11Aは、野生型NOD2/CARD15配列(配列番号24)に比較した12の個体におけるNOD2/CARD15の3’非翻訳領域のヌクレオチド配列(配列番号25〜36)、およびJW16の位置を示す。
【図11−3】図11は、12の個体におけるNOD2/CARD15の3’非翻訳領域のヌクレオチド配列を示す。配列が同一である領域には陰を付けている。2つの多型部位であるJW15およびJW16の位置が示される。図11Bは、野生型NOD2/CARD15配列(配列番号55)に比較した12の個体におけるNOD2/CARD15の3’非翻訳領域のヌクレオチド配列(配列番号56〜67)、およびJW15の位置を示す。
【図11−4】図11は、12の個体におけるNOD2/CARD15の3’非翻訳領域のヌクレオチド配列を示す。配列が同一である領域には陰を付けている。2つの多型部位であるJW15およびJW16の位置が示される。図11Bは、野生型NOD2/CARD15配列(配列番号55)に比較した12の個体におけるNOD2/CARD15の3’非翻訳領域のヌクレオチド配列(配列番号56〜67)、およびJW15の位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(発明の詳細な説明)
本発明は、クローン病の線維性狭窄疾患サブタイプと密に関連した疾患素因対立遺伝子の刺激的な発見に関する。これらの線維性狭窄素因対立遺伝子は、以下にさらに記載するようにNOD2/CARD15座に連鎖しており、そしてクローン病の線維性狭窄疾患サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測するために使用され得る。
【0009】
本明細書中に開示されるように、遺伝子型判定および他の臨床的特徴づけアプローチを、疾患素因対立遺伝子とクローン病の線維性狭窄疾患サブタイプとの間の強い関連を同定するために使用した。特に、クローン病患者の2つのコホートを集め、臨床的に特徴付けた(実施例Iおよび表1を参照のこと)。これらの患者をまた、NOD2/CARD15遺伝子における3つの一ヌクレオチド多型(SNP)であるSNP8、SNP12、およびSNP13(これらは、クローン病と関連した多型マーカーである)について遺伝子型判定した。本明細書中に開示されるように、単変量解析は、コホート1において、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子が、線維性狭窄疾患と有意に関連していることを示した(p=0.049、表5を参照のこと)。さらに、このコホートにおいては、小腸罹患および発症時年齢がより若いこととは、より厳密でない有意水準での正の相関がまた見られ、そして潰瘍性大腸炎様疾患とは、負の相関が見られた。血清学的マーカーに関しては、SNP13での「2」対立遺伝子を有する患者の方が、抗Saccharomyces cerevisiae抗体(ASCA)を発現する確率が高かった(p=0.053)。
【0010】
コホート1で見られた結果を、実施例IVにおいて本明細書中で開示されるように、コホート2を用いてさらに検証した。コホート1と同様に、コホート2は、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子と線維性狭窄疾患との間の有意な関連を示した(p=0.002、表6を参照のこと)。さらに、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子と線維性狭窄疾患との間の有意性は、これら2つのコホートが一緒に解析された場合に増大した(p=0.001、図2を参照のこと)。
【0011】
実施例Vにおいて本明細書中にさらに開示されるように、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子は、ユダヤ人個体および非ユダヤ人個体の両方で線維性狭窄疾患と関連していた。線維性狭窄疾患を有さないクローン病患者では23%のみ(ユダヤ人個体21.6%対非ユダヤ人個体25%)であることと比較して、線維性狭窄疾患を有するクローン病患者ではおよそ46%(ユダヤ人個体52%対非ユダヤ人個体42%)が、これらの稀な改変型対立遺伝子の少なくとも1つを有した(オッズ比、2.8;95%信頼区間、1.56−5.18)。これら3つの稀な改変型対立遺伝子のうち、SNP13での「2」対立遺伝子(これは、「3020insC」と示されるフレームシフト変異である)が、線維性狭窄疾患と最大の相関を示した(47%対17%、p=0.006(組み合わせコホートに対して))。これらの結果は、線維性狭窄素因対立遺伝子がNOD2/CARD15座に連鎖され得ることを示す。
【0012】
実施例VIにおいてさらに開示されるように、NOD2/CARD15における2つの線維性狭窄素因対立遺伝子のキャリアである患者の方が、SNP8、SNP12、またはSNP13でのNOD2/CARD15変異のキャリアでない患者と比較して、線維性狭窄疾患を有する確率が有意に高かった(85%対43%;オッズ比7.4;95%信頼区間1.9−28.9、p=0.004)。図3を参照のこと。また、単一のNOD2/CARD15線維性狭窄素因対立遺伝子のキャリアである患者の方が、アッセイした3つのNOD2/CARD15線維性狭窄素因対立遺伝子のいずれのキャリアでもない患者と比較した場合に、線維性狭窄疾患を有する確率が有意に高かった(64%対43%;オッズ比2.37;95%信頼区間1.26−4.47;p=0.008)。これらの結果は、NOD2/CARD15座に連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子を有する患者が、クローン病の線維性狭窄サブタイプを有し得ることを確認し、そしてさらに、NOD2/CARD15に連鎖された多重線維性狭窄素因対立遺伝子(ホモ接合性変異または複合ヘテロ接合性変異)を有するクローン病患者が、単一の線維性狭窄素因対立遺伝子を有する個体に比較して、線維性狭窄疾患を有する危険度が高いことを示す。
【0013】
線維性狭窄疾患および穿孔疾患は、同じ患者において共に生じ得る。線維性狭窄疾患を有する患者は、例えば、i)線維性狭窄疾患のみを有する、またはii)線維性狭窄疾患および穿孔疾患を共に有するとして特徴付けられ得る。実施例VIIにおいて本明細書中で開示されるように、線維性狭窄疾患のみを有する患者でNOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子を有する割合は、48.3%であった。これは、線維性狭窄および穿孔の両合併症を有する患者において見られた割合と同様であった(46.0%;p=0.8)。図4において見られるように、線維性狭窄疾患を有する患者を穿孔疾患(肛門周囲または内部)のみを有するとして記載される患者と比較した場合、線維性狭窄疾患を有する患者(穿孔合併症ありまたは穿孔合併症なし)におけるNOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子の頻度は、穿孔合併症のみを有する患者で見られるよりも有意に大きかった(46.6%対18.6%;p=0.002)。
【0014】
実施例VIIIにおいて本明細書中でさらに開示されるように、多変量解析を行って、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子と臨床表現型との関連を調べた。多変量解析のために、いずれのコホートにおいても、少なくとも境界域の有意性(p<0.1)を有する全ての変数を、ロジスティック回帰を用いて、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子とのそれらの関連について同時に試験した。表7に示されるように、線維性狭窄疾患の臨床表現型は、NOD2/CARD15座でのこれらの稀な対立遺伝子と有意に関連していた(p<0.05)(オッズ比2.8;95%信頼区間、1.3−6.0)。これらの結果は、線維性狭窄疾患が、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子と独立に関連していることを確認する。
【0015】
線維性狭窄疾患が小腸罹患を有する患者において生じる確率が高いので、線維性狭窄疾患とNOD2/CARD15改変型対立遺伝子との間の関連が一次相関であるか否かを解析するために、患者を、小腸罹患に基づいて層別化した(実施例IXを参照のこと)。小腸罹患を有する患者の中で、線維性狭窄疾患を有しない患者(n=53)では26.4%が、SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子を有したのに対し、線維性狭窄疾患を有した患者(n=102)では46.1%が、SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子を有した(p=0.017)。同様の傾向が、小腸罹患を有しない患者の間で見られ(p=0.05)、そして小腸罹患に関して条件付けする複合解析は、0.009の有意水準を生じた。線維性狭窄疾患について条件付けした後、小腸罹患は、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子と関連していなかった(p=0.63)。この結果は、ロジスティック回帰解析からの結果(実施例VIIIを参照のこと)と一致し、そして線維性狭窄疾患とNOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子との間の関連が、小腸罹患とは独立していることを示す。これらの結果はさらに、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子とで観察された小腸の相関が、線維性狭窄疾患の存在に対して二次的であることを示す。
【0016】
これらの発見に基づいて、本発明は、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測する方法であって、当該方法は、個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程によるものであり、ここで、線維性狭窄素因対立遺伝子の存在が、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの診断またはそれに対する感受性の予測となる、方法を提供する。本発明の方法は、それらが非侵襲的であり、かつ例えば、個体由来の血液サンプルを用いて、便宜的に実施され得るという点で、有利であり得る。本発明の方法は、以下にさらに記載するように、迅速、簡単、および信頼性をもって、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測するために使用され得る。
【0017】
1つの実施形態では、本発明の方法は、NOD2/CARD15座内に位置する線維性狭窄素因対立遺伝子を用いて実施される。別の実施形態では、線維性狭窄素因対立遺伝子によりコードされたNOD2/CARD15ポリペプチドによるNF−κB活性化が、野生型NOD2/CARD15ポリペプチドによるNF−κB活性化に比較して減少される。別の実施形態では、本発明の方法は、NOD2/CARD15座のコード領域中に、例えば、NOD2/CARD15の残基744〜1020をコードする領域内に、存在する線維性狭窄素因対立遺伝子を用いて実施される。またさらなる実施形態では、本発明の方法は、SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子である線維性狭窄素因対立遺伝子を用いて実施される。なおさらなる実施形態では、本発明の方法は、SNP13での「2」対立遺伝子である線維性狭窄素因対立遺伝子を用いて実施される。別の実施形態では、本発明の方法は、NOD2/CARD15座の非コード領域中に位置する線維性狭窄素因対立遺伝子を用いて実施される。このような対立遺伝子は、限定されることなく、JW1、JW15、またはJW16改変型対立遺伝子であり得る。別の実施形態では、本発明の方法は、NOD2/CARD15座のプロモーター領域中に位置する線維性狭窄素因対立遺伝子を用いて実施される。NOD2/CARD15のプロモーター領域における有用な線維性狭窄素因対立遺伝子は、JW17およびJW18改変型対立遺伝子を包含するが、これらに限定されない。
【0018】
本発明は、第16染色体上のIBD1座に局在する遺伝マーカーに関する。ゲノムワイドスキャン連鎖戦略(genome wide scan linkage strategies)を用いて、IBD1座は、カフカス人集団における第16染色体の長腕の近位領域(16q12)にマッピングされた(Hugotら,Nature 379:821−823(1996))。この知見は、多くの研究において再現されており、このような研究は、複合疾患について高いマルチポイント連鎖スコア(multipoint linkage score)(MLS)を報告する国際的な共同研究を含む(MLS=5.7(16q12中のマーカーD16S411で))。以下を参照のこと:Choら,Inflamm.Bowel Dis.3:186−190(1997),Akolkarら,Am.J.Gastroenterol.96:1127−1132(2001),Ohmenら,Hum.Mol.Genet.5:1679−1683(1996),Parkesら,Lancet 348:1588(1996),Cavanaughら,Ann.Hum.Gent.(1998),Brantら,Gastroenterology 115:1056−1061(1998),Curranら,Gastroenterlology 115:1066−1071(1998),Hampeら,Am.J.Hum.Genet.64:808−816(1999)、およびAnneseら,Eur.J.Hum.Genet.7:567−573(1999)。IBD1座内のNOD2/CARD15が、ポジショナルクローニング戦略(Hugotら,Nature 411:599−603(2001))およびポジショナル候補遺伝子戦略(positional candidate gene strategy)(Oguraら,Nature 411:603−606(2001),Hampeら,Lancet 357:1925−1928(2001))によって、同時に同定された。コードされたNOD2/CARD15タンパク質は、アミノ末端カスパーゼ補充ドメイン(caspase
recruitment domains)(CARD)(これは、NF−カッパB(NF−κB)を活性化し得る)およびいくつかのカルボキシ末端ロイシンリッチ反復ドメインを含む(Oguraら,J.Biol.Chem.276:4812−4818(2001))。図1は、NOD2/CARD15座の模式図を示す。
【0019】
ヒトNOD2/CARD15遺伝子の配列は、登録番号NM_022162としてGenBankで見い出され得る(この内容は、本明細書中に参考として援用される)。さらに、ヒト第16染色体クローンRP11−327F22(これは、NOD2/CARD15を含む)の完全配列が、登録番号AC007728としてGenBankで見い出され得る(この内容は、本明細書中に参考として援用される)。さらに、他の種由来のNOD2/CARD15の配列も、GenBankデータベースにおいて見い出され得る。
【0020】
NOD2/CARD15のコード領域における3つの一ヌクレオチド多型でのバリエーションが、以前に記載された。これらの3つのSNP(SNP8、SNP12、およびSNP13と称される)は、NOD2/CARD15遺伝子のカルボキシ末端領域中に位置する(Hugotら,前出、2001)。
【0021】
本発明は、一部、個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定することに依存する。本明細書中で使用される用語「線維性狭窄素因対立遺伝子」は、NOD2/CARD15座に連鎖された、かつ伝統的なメンデル遺伝学に従って予期され得るよりも高い頻度で、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプと共に遺伝する傾向のある、安定遺伝性分子バリエーションを意味する。本発明において有用な線維性狭窄素因対立遺伝子は、限定されることなく、一ヌクレオチド多型(SNP)、マイクロサテライト(ms)、縦列反復単位数が可変である(variable number tandem repeat)(VNTR)多型、または1以上のヌクレオチドの置換、挿入もしくは欠失であり得る。当業者は、線維性狭窄素因対立遺伝子はまた、異常メチル化、または野生型対立遺伝子と比較して線維性狭窄素因対立遺伝子の一次ヌクレオチド配列に差異を生じない他の改変のような分子バリエーションであり得ることも理解する。
【0022】
線維性狭窄素因対立遺伝子およびNOD2/CARD15座に関して本明細書中で使用される用語「〜に連鎖された」は、線維性狭窄素因対立遺伝子およびNOD2/CARD15座が、伝統的なメンデル遺伝学に従って予期され得るよりも高い頻度で一緒に遺伝することを意味する。対立遺伝子と遺伝子座とは、これら2つの部位の間での組換えが50%未満である場合に、連鎖されていると理解される。一般には、線維性狭窄素因対立遺伝子は、NOD2/CARD15座とは、せいぜい50センチモルガン(cM)離れている。非限定的な例として、線維性狭窄素因対立遺伝子は、NOD2/CARD15座から50センチモルガン(cM)、40cM、30cM、20cM、10cM、5cM、または1cM以内にあり得る。連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子とNOD2/CARD15座との間の距離は、例えば、50,000,000塩基対(bp)、40,000,000bp、30,000,000bp、20,000,000bp、10,000,000bp、5,000,000bp、1,000,000bp、500,000bp、100,000bp、50,000bp、10,000bp、1,000bp、または100bpであり得る。
【0023】
本発明の方法は、クローン病(限局性腸炎)(これは、胃腸管の任意の部分を罹患させ得る慢性炎症の疾患である)の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測するために有用である。通例、クローン病においては、小腸の遠位部分(回腸)および盲腸が罹患される。他の場合では、この疾患は、小腸、結腸、または肛門直腸領域に制限される。クローン病は、時折、十二指腸および胃をも罹患させ、また、より稀なことではあるが、食道および口腔をも罹患させる。
【0024】
クローン病の不定の臨床発現は、一部、この疾患の多様な解剖学的局在の結果である。クローン病の最も頻度の高い症状は、腹痛、下痢、および回帰熱である。クローン病は、腸閉塞またはフィステル(これは、例えば、腸の患部ループ間の異常な通路である)と一般に関連している。クローン病はまた、腸管外合併症(例えば、眼、関節、および皮膚の炎症;肝臓疾患;腎臓結石またはアミロイドーシス)を包含し得、そして腸癌の危険度の増大と関連している。
【0025】
いくつかの特徴がクローン病の病理に特徴的である。クローン病と関連した炎症は、経壁性炎症(transmural inflammation)として知られるが、これは、腸壁の全ての層を罹患させる。例えば、肥厚および浮腫が、代表的には、腸壁の至るところに見られ、線維症もまた、長期にわたる疾患において存在する。クローン病に特徴的である炎症はまた不連続なものであり、「跳躍病巣」として知られる炎症組織区域は、見かけ上正常な腸によって離されている。さらに、介在組織の線状潰瘍、浮腫、および炎症が、腸粘膜の「丸石(cobblestone)」の外観に至る。これは、クローン病に特有である。
【0026】
クローン病の証明は、炎症細胞の離散性の凝集(肉芽腫として知られる)の存在であり、これは、一般に、粘膜下組織で見られる。クローン病症例の約半分は、典型的な離散性の肉芽腫を示すが、他の症例は、広汎性の肉芽腫性反応または非特異的な経壁性炎症を示す。結果として、離散性の肉芽腫の存在がクローン病の指標であるが、肉芽腫が存在しないこともまた、この疾患と矛盾しない。従って、肉芽腫の存在よりもむしろ、経壁性または不連続の炎症が、クローン病の好ましい診断指標である(RubinおよびFarber,Pathology(第2版)Philadelphia:J.B.Lippincott Company(1994))。
【0027】
クローン病は、胃腸管を罹患させ、そして類似の症状を生じ得る多数の異質性の疾患サブタイプを表す分類である。非限定的な例として、クローン病を有する患者は、以前に記載の診断基準に基づいて、線維性狭窄疾患、内部穿孔疾患、肛門周囲瘻孔形成疾患、または潰瘍性大腸炎(UC)様疾患により特徴付けられたサブタイプを有するとして特徴付けられ得る(Gascheら,Inflammatory Bowel Diseases 6:8−15(2000);Vasiliauskasら,Gut 47:487−496(2000);Vasiliauskasら,Gastroenterology 110:1810−1819(1996);およびGreensteinら,Gut 29:588−592(1988))。
【0028】
十分に確立された判断基準に従って、線維性狭窄疾患は、検査による存続腸閉塞または腸閉塞のための腸管切除によって確定される。X線撮影検査、内視鏡検査、外科的検査、または組織病理学的検査が、クローン病の線維性狭窄サブタイプの診断を確証するために使用され得る。クローン病の線維性狭窄サブタイプには、他の症状(例えば、穿孔、膿瘍、またはフィステル)が伴い得る。さらに、クローン病の線維性狭窄サブタイプは、腸閉塞(intestinal blockage)の存続症状(例えば、悪心、嘔吐、腹部拡延、および固形食物の摂食不能)によって特徴付けられ得る。クローン病の線維性狭窄サブタイプを有する患者の腸内X線は、例えば、閉塞点の前の腸の拡延を示し得る。
【0029】
クローン病のさらなるサブタイプは、規定の臨床診断基準を用いて同定され得る。例えば、内部穿孔疾患は、腸−腸もしくは腸−膀胱フィステル、腹内膿瘍、または小腸穿孔の現在または以前の形跡として確定され得る。肛門周囲瘻孔形成疾患は、肛門周囲フィステルもしくは膿瘍または直腸膣フィステルのいずれかの現在または以前の形跡によって確定され得る。潰瘍性大腸炎(UC)様疾患は、以前に記載されたように、左側結腸罹患、出血もしくは尿意促迫の症状、および結腸生検における陰窩膿瘍の現在または以前の形跡によって確定され得る。疾患の位置は、1つ以上の内視鏡研究、X線研究、または病理研究に基づいて、小腸、結腸、またはその両方として分類され得る。
【0030】
クローン病の線維性狭窄サブタイプは、小腸罹患を有する疾患を有する患者において生じ得る。本明細書中に開示されるように、線維性狭窄疾患について条件付けした後、小腸罹患は、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子とは関連していなかった(p=0.63;実施例IXを参照のこと)。この結果は、実施例VIIIに開示されたロジスティック回帰解析からの結果と一致し、そして線維性狭窄疾患とNOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子との間の関連が、小腸罹患とは独立していることを示す。これらの知見に基づいて、本発明は、小腸罹患とは独立した線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測する方法であって、当該方法は、個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程によるものであり、ここで、線維性狭窄素因対立遺伝子の存在が、小腸罹患とは独立した線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの診断またはそれに対する感受性の予測となる、方法を提供する。
【0031】
本発明の診断方法は、個体において実施される。本明細書中で使用される用語「個体」は、クローン病の線維性狭窄サブタイプを有し得る動物(例えば、ヒトまたは他の哺乳動物)を意味する。個体は、クローン病の1つ以上の症状またはクローン病の線維性狭窄サブタイプを有し得るか、あるいは無症状性であり得る。本発明の方法は、例えば、1つ以上の症状を有する個体におけるクローン病の線維性狭窄サブタイプの診断のために、または無症状性個体(例えば、クローン病の線維性狭窄サブタイプを有する危険度の高い個体)におけるクローン病の線維性狭窄サブタイプに対する感受性を予測するために、有用であり得る。1つの実施形態では、本発明の方法は、クローン病を有することが知られる個体におけるクローン病の線維性狭窄サブタイプの存在または不在を決定するために使用される。
【0032】
本発明の方法は、例えば、アシュケナジユダヤ人(Ashkenazi Jewish)個体において、クローン病の線維性狭窄サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測するために、有用であり得る。クローン病は、非ユダヤ系カフカス人(non−Jewish Caucasians)におけるよりもアシュケナジユダヤ人(Ashkenazi Jews)において、有意により一般的である(2〜8倍高い)(Brantら,Gastroenterol.115:1056−1061(1998))。さらに、ユダヤ人民族系の人の間では、アメリカまたはヨーロッパのアシュケナジユダヤ人が、セファルディ(Sephardic)または東洋のユダヤ人と比較して、この炎症性腸疾患を有する危険度が2〜4倍高い(YangおよびRotter、KirschnerおよびShorter(編),Inflammatory Bowel Disease Baltimore:Williams and Wilkins,p.301−331(1995);Rozenら,Gastroenterol.76:25−30(1979))。クローン病を有する発端者の第一度近親者についてのクローン病の経験的危険度(empiric risk)は、ユダヤ人では7.8%であり、これに対し、非ユダヤ人では5.2%である(p=0.005;Yangら,Gut 34:517−524(1993))。従って、ユダヤ人集団および特にアシュケナジユダヤ人集団は、クローン病および関連した病因の自己免疫疾患に対する危険度の高い集団の代表である。
【0033】
本発明の方法は、NOD2/CARD15座に連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子に依存する。NOD2/CARD15は、アポトーシス制御因子Apaf−1/CED−4および植物疾患抵抗性遺伝子産物のクラスの両方と構造的相同性を有する(Oguraら,J.Biol.Chem,276:4812−4818(2001))。植物疾患抵抗性遺伝子産物と同様に、NOD2/CARD15は、アミノ末端エフェクタードメイン、ヌクレオチド結合ドメイン、およびロイシンリッチ反復(LRR)を有する。野生型NOD2/CARD15は核性因子NF−κBを活性化し、これを細菌リポ多糖(LPS)に対して応答性とする(Oguraら,J.Biol.Chem,276:4812−4818(2001);Inoharaら,J.Biol.Chem.276:2551−2554(2001)。NOD2/CARD15は、LPSに対する細胞間レセプターとして機能し得、そのロイシンリッチ反復は、応答性のために必要とされる。NOD2/CARD15と同様に、細胞質ゾル植物疾患抵抗性ポリペプチドは、カルボキシ末端ロイシンリッチ反復を有し、この反復は、病原体成分の認識および病原体特異的応答の誘導のために重要である(Parniskeら,Cell 91:821−832(1997);Ellisら,Plant Cell 11:495−506(1999);Dixonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:8807−8814(2000))。
【0034】
1つの実施形態では、線維性狭窄素因対立遺伝子は、NOD2/CARD15座(その模式図を図1に示す)内に位置する。NOD2/CARD15座は、NOD2/CARD15遺伝子のコード領域ならびに非コード領域(例えば、イントロン、および5’非翻訳領域および3’非翻訳領域)を含む。当業者は、NOD2/CARD15座が、例えば、プロモーター領域(遺伝子の5’側)、エンハンサー領域(遺伝子の5’もしくは3’側、またはイントロン配列中)、およびmRNA安定領域(遺伝子の3’側)を含み得ることを理解する。
【0035】
別の実施形態では、線維性狭窄素因対立遺伝子は、NOD2/CARD15座のコード領域中に、例えば、NOD2/CARD15の残基744〜1020をコードする領域内に、位置する。NOD2/CARD15ポリペプチドの残基744〜1020は、NOD2/CARD15ポリペプチドのカルボキシ末端部分中にいくつかのロイシンリッチ反復を含む。NOD2/CARD15の残基744〜1020をコードする領域中に位置する線維性狭窄素因対立遺伝子は、限定されることなく、SNP12およびSNP13を包含する。本発明において有用な線維性狭窄素因対立遺伝子はまた、野生型NOD2/CARD15ポリペプチドによるNF−κB活性化に比較してNF−κB活性化が減少したNOD2/CARD15ポリペプチドをコードする対立遺伝子であり得る。例として、SNP13での稀な改変型対立遺伝子は短縮型NOD2/CARD15ポリペプチドを生じ、このポリペプチドは、LPS刺激に応答してNF−κBを誘導する能力を低下したものである(Oguraら,Nature 411:603−606(2001))。
【0036】
本発明において有用な線維性狭窄素因対立遺伝子は、例えば、SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子であり得る。SNP8、SNP12、およびSNP13は、図1に示されるように、NOD2/CARD15のコード領域内に位置する。1つの実施形態では、本発明の方法は、SNP8「2」対立遺伝子である線維性狭窄素因対立遺伝子を用いて実施される。本明細書中で使用される用語「SNP8」は、NOD2/CARD15遺伝子におけるエキソン4内の一ヌクレオチド多型を意味し、これは、NOD2/CARD15タンパク質のアミノ酸702をコードするトリプレット内で生じる。「1」対立遺伝子(シトシン(c)がAC007728配列の138,991位に存する)は、一般のまたは「野生型」SNP8対立遺伝子であり、アミノ酸702のアルギニンをコードするトリプレット内で生じる。SNP8の「2」対立遺伝子(チミン(t)がAC007728配列の138,991位に存する)は、稀な改変型であり、これは、NOD2/CARD15タンパク質のアミノ酸702にアルギニン(R)からトリプトファン(W)への置換を生じる。従って、SNP8の稀な「2」対立遺伝子は、「R702W」または「702W」と表示され、また、Hugotら,前出、2001の先の番号付けシステムに基づいて「R675W」とも表示され得る。SNP8のNCBI SNP ID番号はrs2066844であり、これは、本明細書中に参考として援用される。本明細書中に開示され、かつ以下にさらに記載されるように、SNP8または以下に記載の別のSNPでの対立遺伝子「1」または「2」の存在は、例えば、対立遺伝子識別アッセイまたは配列分析によって便宜的に検出され得る。
【0037】
本発明の方法はまた、SNP12「2」対立遺伝子である線維性狭窄素因対立遺伝子を用いて実施され得る。本明細書中で使用される用語「SNP12」は、NOD2/CARD15遺伝子におけるエキソン8内の一ヌクレオチド多型を意味し、これは、NOD2/CARD15タンパク質のアミノ酸908をコードするトリプレット内で生じる。「1」対立遺伝子(グアニン(g)がAC007728配列の128,377位に存する)は、一般のまたは「野生型」SNP12対立遺伝子であり、アミノ酸908のグリシンをコードするトリプレット内で生じる。SNP12の「2」対立遺伝子(シトシン(c)がAC007728配列の128,377位に存する)は、稀な改変型であり、これは、NOD2/CARD15タンパク質のアミノ酸908にグリシン(G)からアルギニン(R)への置換を生じる。SNP12でのこの稀な「2」対立遺伝子は、「G908R」または「908R」と表示され、また、Hugotら,前出、2001の先の番号付けシステムに基づいて「G881R」とも表示され得る。SNP12は、NOD2/CARD15遺伝子のロイシンリッチ反復領域内に位置する。SNP12のNCBI SNP ID番号はrs2066845であり、これは、本明細書中に参考として援用される。
【0038】
本発明の方法はまた、SNP13「2」対立遺伝子である線維性狭窄素因対立遺伝子を用いて実施され得る。この対立遺伝子は、NOD2/CARD15タンパク質の10番目のロイシンリッチ反復においてフレームシフトを生じ、そして後に未熟停止コドンが続く、一ヌクレオチドの挿入である。NOD2/CARD15タンパク質の得られる短縮は、細菌リポ多糖に応答するNF−κBの活性化を妨害するようである(Oguraら,前出、2001)。本明細書中で使用される用語「SNP13」は、NOD2/CARD15遺伝子におけるエキソン11内の一ヌクレオチド多型を意味し、これは、NOD2/CARD15タンパク質のアミノ酸1007をコードするトリプレットで生じる。SNP13の「2」対立遺伝子(シトシンが、AC007728配列の121,139位で付加されている)は、アミノ酸1007にフレームシフト変異を生じる稀な改変型である。従って、SNP13での稀な「2」対立遺伝子は、「1007fs」と表示され、また、「3020insC」またはHugotら,前出、2001の先の番号付けシステムに基づいて「980fs」とも表示され得る。SNP13のNCBI SNP ID番号はrs2066847であり、これは、本明細書中に参考として援用される。
【0039】
当業者は、特定の多型対立遺伝子が、市販の参照DNAを用いて(例えば、PE Biosystems(Foster City,CA)から得られる)、例えば、Centre d’Etude du Polymorphisme Humain(CEPH)参照個体(例えば、1347−02と称される個体)(Dibら,Nature 380:152−154(1996))に比較して、便宜的に定義され得ることを認識する。さらに、SNPに関する詳細な情報は、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のdbSNPから得られ得る。
【0040】
線維性狭窄素因対立遺伝子はまた、NOD2/CARD15座の非コード領域中に位置し得る。非コード領域は、例えば、イントロン配列、および5’非翻訳領域および3’非翻訳領域を含む。NOD2/CARD15遺伝子のイントロン配列中の線維性狭窄素因対立遺伝子の例としては、JW1改変型対立遺伝子(これは以下に記載される)が挙げられるが、これらに限定されない。NOD2/CARD15遺伝子の3’非翻訳領域中に位置する線維性狭窄素因対立遺伝子の例としては、限定されることなく、JW15改変型対立遺伝子およびJW16改変型対立遺伝子(これらは以下に記載される)が挙げられる。NOD2/CARD15遺伝子の5’非翻訳領域中に位置する線維性狭窄素因対立遺伝子の例としては、限定されることなく、JW17改変型対立遺伝子およびJW18改変型対立遺伝子(これらは以下に記載される)が挙げられる。1つの実施形態では、本発明の方法は、NOD2/CARD15座の非コード領域中に位置する線維性狭窄素因対立遺伝子を用いて実施され、この対立遺伝子は、JW1、JW15、またはJW16改変型対立遺伝子である。別の実施形態では、本発明の方法は、NOD2/CARD15座のプロモーター領域中に位置する線維性狭窄素因対立遺伝子を用いて実施され、この対立遺伝子は、JW17またはJW18改変型対立遺伝子である。
【0041】
本明細書中で使用される用語「JW1改変型対立遺伝子」は、NOD2/CARD15遺伝子の介在配列8(イントロン8)のヌクレオチド158での遺伝子バリエーションを意味する。AC007728配列に関して、JW1改変型は、128,143位に位置する。イントロン8のヌクレオチド158位での遺伝子バリエーションは、一ヌクレオチド置換、多重ヌクレオチド置換、または1つ以上のヌクレオチドの欠失もしくは挿入であり得るが、これらに限定されない。イントロン8の野生型配列は、158位にシトシンを有し;非限定的な例として、JW1改変型対立遺伝子は、イントロン8のヌクレオチド158にシトシン(C)からアデニン(A)、シトシンからグアニン(G)、またはシトシンからチミン(T)の置換を有し得る。1つの実施形態では、JW1改変型対立遺伝子は、NOD2/CARD15イントロン8のヌクレオチド158でのシトシンからチミンへの変更である。
【0042】
本明細書中で使用される用語「JW15改変型対立遺伝子」は、AC007728配列のヌクレオチド118,790位でのNOD2/CARD15の3’非翻訳領域における遺伝子バリエーションを意味する。ヌクレオチド118,790での遺伝子バリエーションは、一ヌクレオチド置換、多重ヌクレオチド置換、または1つ以上のヌクレオチドの欠失もしくは挿入であり得るが、これらに限定されない。野生型配列は、118,790位にアデニン(A)を有し;非限定的な例として、JW15改変型対立遺伝子は、ヌクレオチド118,790にアデニン(A)からシトシン(C)、アデニンからグアニン(G)、またはアデニンからチミン(T)の置換を有し得る。1つの実施形態では、JW15改変型対立遺伝子は、ヌクレオチド118,790でのアデニンからシトシンへの変更である。
【0043】
本明細書中で使用される用語「JW16改変型対立遺伝子」は、AC007728配列のヌクレオチド118,031位でのNOD2/CARD15の3’非翻訳領域における遺伝子バリエーションを意味する。ヌクレオチド118,031での遺伝子バリエーションは、一ヌクレオチド置換、多重ヌクレオチド置換、または1つ以上のヌクレオチドの欠失もしくは挿入であり得るが、これらに限定されない。野生型配列は、118,031位にグアニン(G)を有し;非限定的な例として、JW16改変型対立遺伝子は、ヌクレオチド118,031にグアニン(G)からシトシン(C)、グアニンからアデニン(A)、またはグアニンからチミン(T)の置換を有し得る。1つの実施形態では、JW16改変型対立遺伝子は、ヌクレオチド118,031でのグアニンからアデニンへの変更である。
【0044】
本明細書中で使用される用語「JW17改変型対立遺伝子」は、AC007728配列のヌクレオチド154,688位でのNOD2/CARD15の5’非翻訳領域における遺伝子バリエーションを意味する。ヌクレオチド154,688での遺伝子バリエーションは、一ヌクレオチド置換、多重ヌクレオチド置換、または1つ以上のヌクレオチドの欠失もしくは挿入であり得るが、これらに限定されない。野生型配列は、154,688位にシトシン(C)を有し;非限定的な例として、JW17改変型対立遺伝子は、ヌクレオチド154,688にシトシン(C)からグアニン(G)、シトシンからアデニン(A)、またはシトシンからチミン(T)の置換を有し得る。1つの実施形態では、JW17改変型対立遺伝子は、ヌクレオチド154,688でのシトシンからチミンへの変更である。
【0045】
本明細書中で使用される用語「JW18改変型対立遺伝子」は、AC007728配列のヌクレオチド154,471位でのNOD2/CARD15の5’非翻訳領域における遺伝子バリエーションを意味する。ヌクレオチド154,471での遺伝子バリエーションは、一ヌクレオチド置換、多重ヌクレオチド置換、または1つ以上のヌクレオチドの欠失もしくは挿入であり得るが、これらに限定されない。野生型配列は、154,471位にシトシン(C)を有し;非限定的な例として、JW18改変型対立遺伝子は、ヌクレオチド154,471にシトシン(C)からグアニン(G)、シトシンからアデニン(A)、またはシトシンからチミン(T)の置換を有し得る。1つの実施形態では、JW18改変型対立遺伝子は、ヌクレオチド154,471でのシトシンからチミンへの変更である。
【0046】
本明細書中ではさらに、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測する方法であって、当該方法は、個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された少なくとも2つの線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程によるものであり、ここで、線維性狭窄素因対立遺伝子の1つ以上の存在が、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの診断またはそれに対する感受性の予測となる、方法が提供される。本発明の方法では、この少なくとも2つの線維性狭窄素因対立遺伝子は、SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子である。
【0047】
本明細書中ではさらに、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測する方法であって、当該方法は、個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された少なくとも2つの線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程によるものであり、ここで、線維性狭窄素因対立遺伝子の1つ以上の存在が、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの診断またはそれに対する感受性の予測となる、方法が提供される。1つの実施形態では、この少なくとも2つの線維性狭窄素因対立遺伝子は、SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子である。別の実施形態では、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測するための本発明の方法は、個体における、(i)SNP8での「2」対立遺伝子、(ii)SNP12での「2」対立遺伝子、および(iii)SNP13での「2」対立遺伝子の存在または不在を決定することにより実施され、ここで、SNP8、SNP12、およびSNP13での「2」対立遺伝子の1つ以上の存在が、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの診断またはそれに対する感受性の予測となる。
【0048】
線維性狭窄素因対立遺伝子とクローン病との間の関連の強さは、1より大きな下位95%信頼区間限界での特定のオッズ比(例えば、少なくとも2のオッズ比)によって、特徴づけられ得る。このようなオッズ比は、例えば、1より大きな下位95%信頼区間限界で、少なくとも3.0、4.0、5.0、6.0、7.0、または8.0以上であり得、例えば、1.9−28.9の95%信頼区間で、少なくとも7.4のオッズ比である(図3を参照のこと)。さらに、オッズ比は、例えば、1.26−4.47の下位信頼区間限界で少なくとも2.37であり得る(図3を参照のこと)。1つの実施形態では、線維性狭窄素因対立遺伝子は、少なくとも2のオッズ比および1より大きな下位95%信頼限界で、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプと関連している。オッズ比を決定するための方法は、当該分野で周知である(例えば、Schlesselmanら,Case Control Studies:Design,Conduct and Analysis Oxford University Press,New York(1982)を参照のこと)。
【0049】
1つの実施形態では、線維性狭窄素因対立遺伝子は、0.05以下のp値で、クローン病の線維性狭窄サブタイプと関連している。他の実施形態では、線維性狭窄素因対立遺伝子は、0.1以下のp値で、クローン病の線維性狭窄サブタイプと関連している。本明細書中で使用される用語「p値」は、「確率値」と同義である。当該分野で周知であるように、ランダム対立遺伝子と疾患との間の関連についての期待p値は、1.00である。p値が約0.05未満であることは、対立遺伝子と疾患とが、偶然に一緒に出現するわけではなく、正の因子によって影響を受けていることを示す。一般に、連鎖の有意性についての統計学的閾値は、20のゲノム走査で一度偽陽性が生じる対立遺伝子共有のレベルで設定されている(p=0.05)。特定の実施形態では、線維性狭窄素因対立遺伝子は、0.1、0.05、0.04、0.03、0.02、0.01、0.009、0.008、0.007、0.006、0.005、0.004、0.003、0.002もしくは0.001以下のp値で、または0.00095、0.0009、0.00085、0.0008もしくは0.0005未満のp値で、線維性狭窄により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプと関連している。いくつかの場合には、p値は、例えば、因子(例えば、サンプルサイズ(家族数)、遺伝的不均一性、臨床的不均一性、または解析アプローチ(パラメーター法または非パラメーター法))を考慮するように補正される必要があり得ることが認識される。
【0050】
種々の手段が、本発明の方法において、線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定するために使用され得る。例として、個体由来の核酸の酵素的増幅が、続く分析のための核酸を得るために、便宜的に使用され得る。また、線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在は、酵素的増幅を行わずに、個体の核酸から直接決定され得る。
【0051】
個体由来の核酸の分析(増幅されようがされまいが)は、種々の技術のいずれかを用いて実施され得る。有用な技術としては、限定されることなく、ポリメラーゼ連鎖反応ベースの分析、配列分析、および電気泳動分析が挙げられ、これらは、単独または組み合わせで使用され得る。本明細書中で使用される用語「核酸」は、ポリヌクレオチド(例えば、一本鎖または二本鎖のDNAまたはRNA分子(例えば、ゲノムDNA、cDNAおよびmRNAを含む))を意味する。用語核酸は、天然起源および合成起源の両方の核酸分子、ならびにネイティブ核酸分子のセンス鎖もしくはアンチセンス鎖、またはその両方を呈する直鎖状、環状、または分枝状配置の分子を包含する。このような核酸は、合成材料(例えば、ビーズまたはカラムマトリックス)に付着され得ることが理解される。
【0052】
線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在は、ポリメラーゼ連鎖反応による個体の核酸の増幅を包含し得る。核酸の増幅のためのポリメラーゼ連鎖反応の使用は、当該分野で周知である(例えば、Mullisら(編),The Polymerase Chain Reaction,Birkhaeuser,Boston,(1994)を参照のこと)。1つの実施形態では、ポリメラーゼ連鎖反応増幅は、1つ以上の蛍光標識プライマーを用いて実施される。別の実施形態では、ポリメラーゼ連鎖反応増幅は、DNA浅溝結合剤(DNA minor grove binder)を含む1つ以上の標識または未標識プライマーを用いて実施される。
【0053】
いくつかの異なるプライマーが、ポリメラーゼ連鎖反応によって個体の核酸を増幅するために使用され得る。例えば、表2(配列番号37〜44)に列挙し、そして図5〜8に示したPCRプライマーが、個体の核酸のNOD2/CARD15座中の特定の領域を増幅するために使用され得る。例えば、SNP8周囲の領域は、配列番号39および40を用いて増幅され得;SNP12は、配列番号41および42を用いて増幅され得;そしてSNP13周囲の領域は、配列番号43および44を用いて増幅され得る。さらに、例えば、周囲の領域。当業者に理解されるように、PCR分析のために、さらなるプライマーが、目的の領域の側面に位置する配列に基づいて設計され得る。非限定的な例として、配列プライマーは、目的の領域の上流または下流の配列の約15〜30ヌクレオチドを含み得る。このようなプライマーは、一般に、増幅反応において安定なアニーリング工程を可能にする高い融解温度を達成するのに十分なグアニンおよびシトシン含有量を有するように設計される。いくつかのコンピュータープログラム(例えば、Primer Select)が、PCRプライマーの設計の補助のために利用可能である。
【0054】
Applied Biosystemsから入手可能なTaqman(登録商標)対立遺伝子識別アッセイが、線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定するために有用であり得る。Taqman(登録商標)対立遺伝子識別アッセイでは、各対立遺伝子について特異的な蛍光色素標識プローブが構築される。このプローブは、各対立遺伝子の増幅を区別するために、異なる蛍光レポーター色素(例えば、FAMおよびVICTM)を含む。さらに、各プローブは、一方の端部にクエンチャー色素(これは、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)により蛍光をクエンチする)を有する。PCRの間、各プローブは、個体由来の核酸中の相補配列に対して特異的にアニーリングする。Taqポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性は、対立遺伝子にハイブリダイズするプローブのみを切断するために使用される。切断は、クエンチャー色素からレポーター色素を分離し、レポーター色素による蛍光の増大を生じる。従って、PCR増幅によって生じた蛍光シグナルは、サンプル中にどの対立遺伝子が存在するかを示す。プローブと対立遺伝子との間のミスマッチは、プローブハイブリダイゼーションおよびTaqポリメラーゼによる切断の両方の効率を減少させ、蛍光シグナルをほとんど生じないものとし、また全く生じさせないこともある。対立遺伝子識別アッセイにおける特異性の改善は、例えば、Kutyavinら,Nuc.Acids Research 28:655−661(2000)に記載のように、DNA浅溝結合剤(MGB)基をDNAプローブに結合体化させることにより達成され得る。浅溝結合剤としては、ジヒドロシクロピロロインドールトリペプチド(dihydrocyclopyrroloindole tripeptide)(DPI3)のような化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
配列分析もまた、本発明の方法において線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定するために有用であり得る。線維性狭窄素因対立遺伝子は、例えば、表2(配列番号37〜44)に列挙し、そして図5〜8に示したPCRプライマーとして、本明細書中に開示されたプライマーを用いて、配列分析によって検出され得る。当業者に理解されるように、配列分析のために、さらなるプライマーが、目的の領域の側面に位置する配列に基づいて設計され得る。非限定的な例として、配列プライマーは、目的の領域の上流または下流の約40〜400塩基対の配列の約15〜30ヌクレオチドを含み得る。このようなプライマーは、一般に、配列決定反応において安定なアニーリング工程を可能にする高い融解温度を達成するのに十分なグアニンおよびシトシン含有量を有するように設計される。
【0056】
1つ以上の核酸に関して本明細書中で使用される用語「配列分析」は、核酸中のヌクレオチドの順序が決定される任意の手動または自動プロセスを意味する。例として、配列分析は、DNAのサンプルのヌクレオチド配列を決定するために使用され得る。用語配列分析は、限定されることなく、化学的方法および酵素的方法(例えば、ジデオキシ酵素的方法(例えば、マキサム・ギルバート配列決定およびサンガー配列決定ならびにそれらの変法を包含する))を包含する。用語配列分析は、さらに、キャピラリーアレイDNA配列決定(キャピラリー電気泳動およびレーザー誘導蛍光検出に依存し、MegaBACE 1000またはABI 3700のような機器を用いて実施され得る)を包含するが、これらに限定されない。さらなる非限定的な例として、用語配列分析は、熱サイクル配列決定(Searsら,Biotechniques 13:626−633(1992));固相配列決定(Zimmermanら,Methods Mol.Cell Biol.3:39−42(1992);および質量分光計(例えば、マトリックス補助レーザー脱着/イオン化飛行時間型質量分析装置MALDI−TOF MS)を用いた配列決定(Fuら,Nature Biotech.16:381−384(1998))を包含する。用語配列分析はまた、ハイブリダイゼーションによる配列決定(SBH)(これは、未知のDNA中に存在する配列のセグメントを同定するために、全ての可能性のある短オリゴヌクレオチドのアレイに依存する)(Cheeら,Science 274:610−614(1996);Drmanacら,Science 260:1649−1652(1993);およびDrmanacら,Nature Biotech.16:54−58(1998))を包含するが、なおこれらに限定されない。当業者は、これらのおよびさらなる変法が、本明細書中で規定されるように、用語配列分析によって包含されることを理解する。一般には、Ausubelら,前出、Chapter 7およびsupplement 47を参照のこと。
【0057】
本発明はまた、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測する方法であって、当該方法は、個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程によるものであり、ここで、線維性狭窄素因対立遺伝子の存在が、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの診断またはそれに対する感受性の予測となり、そしてここで当該方法が、個体からNOD2/CARD15座を含む核酸を含有する材料を得る工程を包含する、方法を提供する。本明細書中で使用される用語「材料」は、核酸が調製され得る任意の生物学的物質を意味する。非限定的な例として、用語材料は、全血、血漿、唾液、頬スワブ、または核酸を含有する他の体液または組織を包含する。1つの実施形態では、本発明の方法は、全血を用いて実施される。全血は、非侵襲的手段によって容易に得られ得、そして例えば酵素的増幅または自動配列決定のために、ゲノムDNAを調製するために使用され得る。別の実施形態では、本発明の方法は、個体から得られた組織(例えば、外科手順または生検手順の間に得られた組織)を用いて実施される。
【0058】
電気泳動分析もまた、本発明の方法において有用であり得る。1つ以上の核酸(例えば、増幅フラグメント)に関して本明細書中で使用される電気泳動分析は、装填された分子が、電場の影響下で固定培地中を移動するプロセスを意味する。電気泳動移動は、主としてそれらの電荷に基づいて核酸を分離し、電荷は、その大きさに比例し、小さな分子であるほど、より迅速に移動する。用語電気泳動分析は、限定されることなく、スラブゲル電気泳動(例えば、アガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動)、またはキャピラリー電気泳動を用いる分析を包含する。キャピラリー電気泳動分析は、一般に、高(キロボルトレベル)分離電圧の存在下で、数分の分離時間で、小直径(50〜100 m)石英キャピラリー内部で生じる。キャピラリー電気泳動分析を用いて、核酸は、UV吸収または蛍光標識によって便宜的に検出され、そして数百塩基対までのフラグメントに対して、一塩基分解能が得られ得る。このような電気泳動分析方法およびそれらの変法は、例えば、Ausubelら,Current Protocols in Molecular Biology Chapter 2(Supplement 45)John Wiley & Sons,Inc.New York(1999)に記載されるように、当該分野で周知である。
【0059】
制限フラグメント長多型(RFLP)分析もまた、本発明の方法において線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定するために有用であり得る(Jarchoら、Dracopoliら,Current Protocols in Human Genetics 2.7.1−2.7.5頁,John Wiley & Sons,New York;Innisら,(編),PCR Protocols,San Diego:Academic Press,Inc.(1990))。本明細書中で使用される制限フラグメント長多型分析は、制限酵素を用いて遺伝的多型を識別するための任意の方法であり、この制限酵素は、核酸の分解を触媒し、特異的な塩基配列(一般に、パリンドロームまたは逆方向反復)を認識するエンドヌクレアーゼである。当業者は、RFLP分析の使用が、多型部位で2つの対立遺伝子を区別し得る酵素に依存することを理解する。
【0060】
対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションもまた、線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を検出するために使用され得る。対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションは、(例えば、線維性狭窄素因対立遺伝子を包含する配列に対して)完全に相補的な配列を有する標識オリゴヌクレオチドプローブの使用に基づく。適切な条件下で、対立遺伝子特異的プローブは、線維性狭窄素因対立遺伝子を含有する核酸に対してハイブリダイズするが、1つ以上の他の対立遺伝子(これは、プローブと比較して1つ以上のヌクレオチドミスマッチを有する)にはハイブリダイズしない。所望であれば、代替の対立遺伝子にマッチする第二の対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプローブもまた用いられ得る。同様に、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチド増幅の技術が、例えば、線維性狭窄素因対立遺伝子を、線維性狭窄素因対立遺伝子のヌクレオチド配列に対して完全に相補的であるが、他の対立遺伝子に比較して1つ以上のミスマッチを有する対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーを用いることにより選択的に増幅するために、使用され得る(Mullisら,前出、1994)。当業者は、線維性狭窄素因対立遺伝子と1つ以上の他の対立遺伝子との間を識別する1つ以上のヌクレオチドミスマッチが、対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドハイブリダイゼーションにおいて使用されるべき対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーの中央部に、しばしば位置することを理解する。対して、PCR増幅において使用されるべき対立遺伝子特異的オリゴヌクレオチドプライマーは、一般に、プライマーの3’末端に、疾患関連対立遺伝子と他の対立遺伝子との間を識別する1つ以上のヌクレオチドミスマッチを含有する。
【0061】
ヘテロ二重鎖移動度アッセイ(HMA)は、本発明の方法において線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を検出するために使用され得る別の周知のアッセイである。HMAは、多型配列の存在を検出するために有用である。なぜならミスマッチを有するDNA二重鎖は、完全に塩基対合した二重鎖の移動度に比較してポリアクリルアミドゲル中の移動度が低下しているからである(Delwartら,Science 262:1257−1261(1993);Whiteら,Genomics 12:301−306(1992))。
【0062】
一本鎖コンフォメーション多型(single strand conformational polymorphism)(SSCP)の技術もまた、本発明の方法において線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を検出するために使用され得る(Hayashi,Methods Applic.1:34−38(1991)を参照のこと)。この技術は、一本鎖DNAの二次構造における差異に基づいて変異を検出するために使用され、この差異が、非変性ゲル電気泳動の際に変化した電気泳動移動度を生じる。多型フラグメントは、既知の対立遺伝子を含有する対応する標準フラグメントに対して試験フラグメントの電気泳動パターンを比較することにより検出される。
【0063】
変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(DGGE)もまた、本発明の方法において線維性狭窄素因対立遺伝子を検出するために使用され得る。DGGEでは、二本鎖DNAが、変性剤の濃度を増大させながら含有するゲル中で電気泳動される;ミスマッチ対立遺伝子で構成される二本鎖フラグメントは、より迅速に融解するセグメントを有し、このため、このようなフラグメントは、完全に相補的な配列に比較して異なる移動を示す(Sheffieldら,「Identifying DNA Polymorphisms by Denaturing Gradient Gel Electrophoresis」、Innisら,前出、1990)。
【0064】
線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定するために有用な他の分子学的方法は、当該分野で公知であり、そして本発明の方法において有用である。線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定するための他の周知のアプローチは、限定されることなく、自動配列決定技術およびRNAアーゼミスマッチ技術(Winterら,Proc.Natl.Acad.Sci.82:7575−7579(1985))を包含する。さらに、当業者は、多重対立遺伝子または線維性狭窄素因ハプロタイプの存在または不在を決定しようとする場合、個々の対立遺伝子が、分子学的方法の任意の組み合わせによって検出され得ることを理解する。一般には、Birrenら(編)Genome Analysis:A Laboratory Manual Volume 1(Analyzing DNA)New York,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1997)を参照のこと。さらに、当業者は、多重対立遺伝子が個々の反応においてまたは単一の反応において検出され得ることを理解する(「マルチプレックス(multiplex)」アッセイ)。上記を考慮して、当業者は、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測するための本発明の方法が、上記の周知のアッセイまたは当該分野で公知のアッセイのいずれかまたは任意の組み合わせを用いて実施され得ることを認識する。
【0065】
本発明は、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプを診断するか、またはそれに対する感受性を予測するための方法であって、当該方法は、個体における、線維性狭窄素因ハプロタイプの存在または不在を決定する工程によるものであり、ここで、線維性狭窄素因ハプロタイプの存在が、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの診断またはそれに対する感受性の予測となる、方法をさらに提供する。1つの実施形態では、線維性狭窄素因ハプロタイプは、少なくとも2のオッズ比および1より大きな下位95%信頼限界で、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプと関連している。別の実施形態では、線維性狭窄素因ハプロタイプは、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6のオッズ比および1より大きな下位95%信頼限界で、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプと関連している。
【0066】
本明細書中で使用される用語「線維性狭窄素因ハプロタイプ」は、伝統的なメンデル遺伝学に従って予期されるよりも高い頻度で、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプと共に遺伝する傾向のある対立遺伝子の組み合わせを意味する。本発明の方法において、クローン病の臨床サブタイプは、例えば、小腸罹患とは独立して線維性狭窄疾患により特徴づけられ得る。1つの実施形態では、線維性狭窄素因ハプロタイプは、NOD2/CARD15座に連鎖された少なくとも1つの対立遺伝子を含む。別の実施形態では、線維性狭窄素因ハプロタイプは、線維性狭窄素因対立遺伝子を含む。さらなる実施形態では、線維性狭窄素因ハプロタイプは、例えば、NOD2/CARD15座での改変型対立遺伝子を含む。別の実施形態では、線維性狭窄素因ハプロタイプは、SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子を含む。さらなる実施形態では、線維性狭窄素因ハプロタイプは、SNP13での「2」対立遺伝子を含む。なおさらなる実施形態では、線維性狭窄素因ハプロタイプは、SNP8、SNP12、およびSNP13での「2」対立遺伝子を含む。別の実施形態では、線維性狭窄素因ハプロタイプは、JW1、JW15、JW16、JW17、またはJW18改変型対立遺伝子を含む。当業者は、線維性狭窄素因ハプロタイプが、以下のような対立遺伝子を含み得ることを理解する。これら対立遺伝子は、個々には、クローン病の線維性狭窄サブタイプと有意に関連していないが、そのハプロタイプを構成する対立遺伝子の組み合わせでは、伝統的なメンデル遺伝学に従って予期されるよりも高い頻度で、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプと共に遺伝する傾向がある。
【0067】
線維性狭窄素因ハプロタイプの存在または不在は、線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定するために上記で本明細書中に記載された方法のいずれかを用いて成し遂げられ得る。例として、酵素的増幅(例えば、ポリメラーゼ連鎖反応増幅(例えば、1つ以上の蛍光標識プローブまたはDNA浅溝結合剤を含む1つ以上のプローブを用いる))は、本発明の方法において線維性狭窄素因ハプロタイプの存在または不在を決定するために有用であり得る。
【0068】
抗体ベースの方法もまた、本発明の方法において線維性狭窄素因対立遺伝子または線維性狭窄素因ハプロタイプの存在または不在を決定するために有用であり得る。例として、線維性狭窄素因対立遺伝子によりコードされたポリペプチドまたはそれらのフラグメントと特異的に反応性である抗体が、個体においてその対立遺伝子の存在または不在を検出するために使用され得る。このような抗体は、例えば、SNP13での「2」対立遺伝子により生じたNOD2/CARD15の短縮バージョンと特異的に反応し得るが、全長または野生型NOD2/CARD15とは反応性ではない。
【0069】
本発明の方法において有用な抗体は、限定されることなく、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体、単鎖抗体、キメラ抗体、二官能性抗体または二重特異的抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、および相補性決定領域(CDR)グラフト化抗体(CDRまたは抗原結合配列を含む化合物を含む)を含み、これらは、線維性狭窄素因対立遺伝子によりコードされたポリペプチドまたはフラグメントに識別的に結合するが他の非素因性対立遺伝子によるものには結合しない。抗体フラグメント(Fab、Fab’、F(ab’)、およびFvを含む)もまた、可塑性抗体(plastic antibodies)または分子インプリントポリマー(molecularly imprinted polymers)(MIP;HauptおよびMosbauch,TIBTech 16:468−475(1998))と同様に、本発明の方法において有用であり得る。抗体の識別的な結合特異性を決定するためのスクリーニングアッセイは、当該分野において周知である(Harlowら(編),Antibodies:A Laboratory Manual;Cold Spring Harbor Laboratory;Cold Spring Harbor,N.Y.(1988)を参照のこと)。
【0070】
本発明の方法において有用な抗体は、線維性狭窄素因対立遺伝子によりコードされたポリペプチドまたはそれらの免疫原性フラグメントを用いる、当該分野で周知の任意の方法を用いて生成され得る。免疫原性ポリペプチドまたはフラグメントは、天然供給源から、組換え宿主細胞から単離され得るか、または化学合成され得る。このようなペプチドを合成するための方法は、例えば、Merrifield,J.Amer.Chem.Soc.85:2149−2154(1963);Krstenanskyら,FEBS Lett.211:10(1987)に記載されるように、当該分野で公知である。
【0071】
本発明の線維性狭窄素因対立遺伝子によりコードされたポリペプチドに識別的に結合する抗体は、検出部分で標識され得、そしてそのコードされたポリペプチドの存在、不在、または量をインビボ、インビトロ、またはインサイチュで検出するために使用され得る。蛍光分子のような部分は、本発明の方法において使用される抗体に連結され得る。検出部分のような部分は、例えば、カルボジイミド結合体化を用いて、抗体に連結され得る(BaumingerおよびWilchek,Meth.Enzymol.70:151−159(1980))。
【0072】
線維性狭窄素因対立遺伝子によりコードされたポリペプチドに識別的に結合する抗体が、免疫アッセイにおいて使用され得る。免疫アッセイは、限定されることなく、放射性免疫アッセイ、酵素結合型免疫吸着アッセイ(ELISA)、および蛍光標識抗体を用いる免疫アッセイ(これらは当該分野で周知である)を含む。抗体はまた、免疫組織化学または他のインサイチュアッセイを用いて、細胞または組織における目的のポリペプチドの存在または不在を検出するために使用され得る。さらに、細胞の表面上または内部のいずれかに目的のポリペプチドを含有する細胞が、アッセイ(例えば、蛍光活性化細胞分析分離装置(FACS))を用いて、抗体によって検出され得る。当業者は、これらのアッセイおよび他の慣用のアッセイが、本発明の方法に従って、線維性狭窄素因対立遺伝子の遺伝子産物の存在または不在を決定するために有用であり得ることを理解する。
【0073】
本発明の方法は、必要に応じて、個体における、線維性狭窄素因対立遺伝子または線維性狭窄素因ハプロタイプの存在または不在を示す報告を作成する工程を包含する。本発明の方法はまた、必要に応じて、個体における、線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの存在または不在、または個体がクローン病の線維性狭窄サブタイプを有するもしくは発症する危険度を示す報告を作成する工程を包含する。
【0074】
報告は、種々の様式であり得る。例えば、報告は紙に印刷され得るか、または報告は、印刷されずに電子媒体で伝達され得る電子報告(例えば、電子メールまたはコンピューターディスク)であり得る。報告はまた、個体における、線維性狭窄素因対立遺伝子の、または線維性狭窄疾患により特徴付けられたクローン病の臨床サブタイプの存在または不在を示す口頭での報告であり得る。
【0075】
本発明はまた、個体における治療を最適化する方法であって、当該方法は、当該個体における、NOD2/CARD15座に連鎖された線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在を決定する工程、線維性狭窄素因対立遺伝子が存在する個体を、クローン病の線維性狭窄サブタイプを有するとして診断する工程、およびこの診断に基づいて、クローン病の線維性狭窄サブタイプを有する個体を処置する工程によるものである、方法を提供する。クローン病の線維性狭窄サブタイプのための処置は、現行では、例えば、腸の罹患狭窄部の外科的除去を含む。1つの実施形態では、線維性狭窄素因対立遺伝子の存在または不在は、クローン病の既知の診断を有する個体において決定される。別の実施形態では、診断は、上記のような報告の様式で記録される。
【実施例】
【0076】
以下の実施例は、本発明を例示するが限定するものでないことが意図される。
【0077】
(実施例I)
(研究被験体の選択および特徴づけ)
本実施例は、クローン病患者の2つのコホートがいかなるものであるかの臨床的特徴づけを記載する。
【0078】
(A.研究被験体の選択)
クローン病患者の2つのコホートを、炎症性腸疾患紹介センター(Cedars−Sinai Medical Center Inflammatory Bowel Disease Center)から引き続いて同定した。142人の患者の第一のコホート(1993年〜1996年の間に把握された;「CD1」と称する)は、Vasiliauskasら,Gut 47:487−496(2000))において以前に記載された。59人の患者の第二のコホート(コホート2)を、1999年〜2001年の間に集め、そして「CD2」と称した。175人の潰瘍性大腸炎患者のコホートを、炎症性腸疾患コントロール群として使用した。本研究(これは、Cedars−Sinai Institutional Review Boardにより、ヒト被験体参加について検討され、認可された)は、本研究に同意する患者からの臨床データ、血清学的データおよび遺伝学的データの収集を包含した。
【0079】
コホート患者におけるクローン病の診断は、以下のカテゴリーの少なくとも2つからの確立した特徴の組み合わせの存在によって確定した:1)臨床検査−穿孔疾患または瘻孔形成疾患、小腸の狭窄(stenosis)または狭窄(stricture)に続発的な閉塞性の症状;2)内視鏡検査−深い線状または蛇行状の潰瘍形成、正常に見える粘膜における離散性潰瘍、丸石化(cobblestoning)、または不連続もしくは非対称の炎症;3)X線検査−分節性疾患(跳躍病変)、小腸または結腸の狭窄(strictures)、狭窄(stenosis)またはフィステル;および4)組織病理検査−粘膜下または経壁性炎症、多発性肉芽腫、生検の期間内または生検間の顕著な巣状の陰窩炎(focal cryptitis)または巣状の慢性炎症浸潤、または跳躍病変(局所治療なしに直腸節約(rectal sparing)を含む)。
【0080】
NOD2/CARD15遺伝子の対立遺伝子改変型と関連した臨床的特徴および免疫学的形質を同定するために、本研究を設計して、2つの引き続き把握されたクローン病患者コホートを解析した。第一のコホートを使用して、NOD2/CARD15対立遺伝子と臨床的変数および血清学的変数のアレイとの関係を調査し、それにより仮説を立てた。次いで、第二のコホートを使用して、第一のコホートの解析から立てた特定の仮説を確認した。第一種の過誤を最小とし、そして統計的検出力を最大にするために、第一のコホートにおける関連性の有意性を、第二のコホート(p<0.05)におけるよりも厳密でなくてもよいものとした(p<0.1)。第一のコホートにおいて調べた変数の数について高度に厳密な補正を回避することにより、NOD2/CARD15対立遺伝子改変型と臨床的変数との間の特定の関連性を同定することがますますできるようになった。
【0081】
(B.研究被験体の臨床的特徴づけ)
クローン病患者を、以前に記載された診断基準(Gascheら,Inflammatory Bowel Diseases 6:8−15(2000);Vasiliauskasら,Gut 47:487−496(2000);Vasiliauskasら,Gastroenterology 110:1810−1819(1996);およびGreensteinら,Gut 29:588−592(1988))に基づいて、線維性狭窄疾患、内部穿孔疾患、肛門周囲瘻孔形成疾患、または潰瘍性大腸炎(UC)様疾患を有するとして特徴付けた。十分に確立された判断基準に従って、線維性狭窄疾患を、検査による存続腸閉塞または腸閉塞のための腸管切除によって確定した。内部穿孔疾患を、腸−腸もしくは腸−膀胱フィステル、腹内膿瘍、または小腸穿孔の現在または以前の形跡として確定した。肛門周囲瘻孔形成疾患を、肛門周囲フィステルもしくは膿瘍または直腸膣フィステルのいずれかの現在または以前の形跡によって確定した。潰瘍性大腸炎(UC)様疾患を、以前に記載されたように、左側結腸罹患、出血もしくは尿意促迫の症状、および結腸生検における陰窩膿瘍の現在または以前の形跡によって確定した。疾患の位置を、1つ以上の内視鏡研究、X線研究、または病理研究に基づいて、小腸、結腸、またはその両方として分類した。血清学的試験および遺伝学的試験の結果を知らない炎症性腸疾患医師団は、臨床データに基づく表現型に対して同意に達した。
【0082】
血清ANCA発現およびANCAサブタイプ特徴づけを、以前に記載されるように(Saxonら,J.Allergy Clin.Immunol.86:202−210(1990))、固定好中球酵素結合型免疫吸着アッセイ(ELISA)によって実施した。簡潔には、メタノールで固定したヒト末梢血好中球を、コントロール血清およびコード化(coded)した血清と1:100希釈で反応させた。アルカリホスファターゼに結合体化した抗ヒト免疫グロブリンG(IgG)(鎖特異的)抗体(Jackson Immunoresearch Labs,Inc.;West Grove,PA)を添加して好中球結合抗体を標識し、そして比色分析反応を実施した。十分に特徴付けられたpANCA+ UC患者から得たプールした血清からなる標準に対して、レベルを決定した。結果は、1ミリリットル当たりELISA単位(EU)として表した。以前に記載されるように(Saxonら,前出、1990)、間接的免疫蛍光染色によってANCA+血清をさらにサブタイプ分類して、ANCA好中球結合パターンを決定した。特徴的な核周囲のハイライトを示し、かつデオキシリボヌクレアーゼで処理した場合に特徴的な染色パターンを喪失する血清を、pANCA+と称した(Vidrichら,J.Clin.Immunol.15:293−299(1995))。本研究の目的のために、患者が、ELISAによりANCAに対して陽性であり、かつデオキシリボヌクレアーゼ処理で核周囲免疫蛍光染色を喪失した場合、その患者をpANCA+とみなした。
【0083】
血清を、固定ELISAアッセイを用いることにより、盲検様式で、ASCA発現について分析した(Vasiliauskasら,Gut 47:487−496(2000);およびVermeireら,Gastroenterology 120:827−833(2001))。第二のコホート中2人の患者は、ASCA試験を受けなかった。高結合ポリスチレンマイクロタイタープレートを、酵母S.uvarum(S.cerevisiaeの亜種)から抽出された精製ホスホペプチドマンナンでコーティングした。コード化した患者血清を希釈し、そしてウェルに添加し、続いて酵素結合型比色反応を行った。呈色は、血清中に存在するASCA抗体の濃度に比例した。標準(これは、この抗原に対する反応性を有することが見い出された、十分に特徴付けられたクローン病を有する患者の血清のプールに由来した)に対して、レベルを決定し、そしてEU/mLとして結果を表した。40EU/mLより大きなASCA IgG反応性または20EU/mLより大きなIgA反応性を示す血清を、ASCA+と称した。Cedars−Sinai
Medical Center and Prometheus Laboratories(San Diego,CA)で、実質的に同一の方法を用いて、血清学的アッセイを実施した。これら2つのクローン病コホートの臨床的特徴を、表1に示す。
【0084】
【表1】

(実施例II)
(クローン病患者はNOD2/CARD15の稀な対立遺伝子改変型を増大した頻度で有する)
本実施例は、NOD2/CARD15座内のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子(NOD2/CARD15の稀な対立遺伝子改変型)と、北米人集団におけるクローン病との関連を記載する。
【0085】
コホート1および2における北米人クローン病患者集団がNOD2/CARD15の対立遺伝子改変型を発現したかどうかを決定するために、コホート1(仮説決定)およびコホート2(仮説確認)を、SNP8(R675W)、SNP12(G881R)、およびSNP13(3020insC)の稀な対立遺伝子改変型について遺伝子型判定した。潰瘍性大腸炎のコホートを比較のために使用した。
【0086】
遺伝子型判定を、5’−エキソヌクレアーゼ技術を用いる遺伝子型判定アッセイであるTaqMan MGBTMアッセイ(PE Biosystems;Foster City,CA)を用いて実施した。ソフトウェアPrimerExpress 1.5TM(PE Biosystems)およびNOD2/CARD15 SNP5、8、12、および13についてdbSNPにおいて見い出される配列情報を用いて、プライマーを設計した。MGBTM設計は、「浅溝結合剤」をTaqManTMプローブの3’末端に付加し、それによりプローブの結合温度を上昇させ、従来のTaqManTMアッセイにおけるよりも短いプローブの使用を可能にする(Kutyavinら,Nucleic Acids Res.25:3718−3723(1997))。これは、アッセイにおける対立遺伝子間の識別を増大させる効果を有する(Kutyavinら,Nucleic Acids Res.28:655−661(2000))。ABI 7900機器で製造者の推奨(PE Biosystems bulletin 4317594)に従ってアッセイを実施した。遺伝子型判定を、被験体の臨床状態に対して目隠しにして実施した。この遺伝子型判定アッセイにおいて使用したプライマーおよびプローブを表2および表3に示す。
【0087】
【表2】

【0088】
【表3】

表4に示されるように、NOD2/CARD15の3つの稀な対立遺伝子改変型の各々(SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子)は、潰瘍性大腸炎患者と比較してクローン病患者において有意に頻度が高かった。さらに、表4中で見られ得るように、NOD2/CARD15の稀な対立遺伝子改変型の各々の頻度は、クローン病患者の各コホートにおいて同様であり、このことは、これら2つのコホートの組み合わせ使用を支持した。NOD2/CARD15のこれら3つのうちいずれかの稀な対立遺伝子改変型の頻度全体では、潰瘍性大腸炎患者が11%であるのに比較して、クローン病患者は35%であった(p=0.001)。
【0089】
組み合わせたクローン病コホートの中で、SNP13での「2」対立遺伝子(3020insC)を有するホモ接合体および複合の稀な対立遺伝子へテロ接合体の頻度はそれぞれ1%と4%であったが、潰瘍性大腸炎患者のいずれもこのような遺伝子型を有しなかった。これらの結果は、NOD2/CARD15の稀な対立遺伝子改変型が、多様な地理学的および民族学的に定義された患者集団を越えて、クローン病と関連していることを実証する。
【0090】
【表4】

(実施例III)
(NOD2/CARD15座における稀な改変型対立遺伝子はコホート1においてクローン病の線維性狭窄サブタイプと関連している)
本実施例は、コホート1において、SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子が、線維性狭窄疾患と有意に関連していることを実証する。
【0091】
クローン病患者は、多様な臨床表現型を発現し、この表現型は、根底の遺伝的要因における差異に起因し得る。NOD2/CARD15座での稀な改変体対立遺伝子が、特定のクローン病関連臨床表現型または疾患関連血清免疫マーカーと関連しているかを決定するために、単変量解析を実施した。単変量解析は、SNP8、SNP12、またはSNP13でのNOD2/CARD15対立遺伝子改変型と予め規定された臨床的特徴(発症時年齢、疾患位置、および疾患表現型(線維性狭窄疾患、内部穿孔疾患、肛門周囲瘻孔形成疾患、または潰瘍性大腸炎様疾患)を含む)との間の関連を評価した。NOD2/CARD15対立遺伝子改変型と血清免疫マーカーASCAおよびpANCAの発現との間の関連もまた検証した。
【0092】
表5において示されるように、単変量解析は、コホート1において、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子が、組み合わせた3つの対立遺伝子改変型について線維性狭窄疾患と有意に関連している(p=0.049)ことを示した。このコホートにおいては、小腸罹患および発症時年齢がより若いこととは、より厳密でない有意水準での正の相関(p<0.1)がまた見られ、そしてUC様疾患とは、負の相関が見られた。血清学的マーカーに関して、SNP13での「2」対立遺伝子を有する患者の方が、ASCAを発現する確率が高かった(p=0.053)。これらの結果は、コホート1において、SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子が、線維性狭窄疾患と有意に関連していることを実証する。
【0093】
統計学的解析を、SASコンピューターソフトウェア(Version 6.10;SAS Institute,Inc.;Cary,NC)を用いて実施した。量的変数を、範囲と共に中央値として記載した。非パラメーター統計学的検定を用いて、2群間の量的変数における差異を検証した。χ二乗検定またはフィッシャーの直接確率(期待数が5未満である場合)を用いて、稀な対立遺伝子のキャリアと非キャリアとの間、または遺伝子型とカテゴリー変数(例えば、IBDのタイプ、疾患位置、疾患挙動、および抗体陽性)との間の関連を評価した。さらに、全ての遺伝子型および表現型の関連について、Mantel Haenszel層化関連検定(Mantel Haenszel stratified association test)を、民族バリエーションに起因する潜在的な交絡効果について条件付けすることにより実施した。また、この層化関連検定を使用して、小腸罹患と線維性狭窄疾患とがNOD2/CARD15改変型と独立に関連しているか否かも評価した(以下の実施例IXを参照のこと)。
【0094】
【表5】

(実施例IV)
(NOD2/CARD15座における稀な改変型対立遺伝子はコホート2においてクローン病の線維性狭窄サブタイプと関連している)
本実施例は、コホート2において、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子が、線維性狭窄疾患と有意に関連していることを実証する。
【0095】
実施例IIIにおいてコホート1で得られた結果は、NOD2/CARD15の稀な改変型対立遺伝子が線維性狭窄クローン病、小腸罹患、ASCA陽性、および発症時年齢がより若いことと正の相関があり、そしてUC様疾患と負の相関があったことを示した(表5を参照のこと)。これらの仮説を、コホート2を用いてさらに検証した。この結果を表6に示す。コホート1と同様に、コホート2は、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子と線維性狭窄疾患との間の有意な相関を示した(p=0.002、Bonferroni補正ではp=0.01;表6を参照のこと)。これらの結果は、コホート2において、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子が、線維性狭窄疾患と有意に関連していることを示す。
【0096】
【表6】

(実施例V)
(NOD2/CARD15座における稀な改変型対立遺伝子はコホート1およびコホート2を表す組み合わせコホートにおいてクローン病の線維性狭窄サブタイプと関連している)
本実施例は、コホート1およびコホート2を表す組み合わせコホートにおいて、SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子が、線維性狭窄疾患と有意に関連していることを実証する。
【0097】
図2において見られるように、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子(NOD2改変型キャリア)と線維性狭窄疾患との間の関連は、これらの2つのコホートを個々に解析した場合よりも一緒に解析した場合において、ずっとより有意であった(p=0.001)。
【0098】
NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子(NOD2改変型キャリア)と線維性狭窄疾患との間の関連は、ユダヤ人個体と非ユダヤ人個体との両方において観察された。線維性狭窄疾患を有しないクローン病患者では23%(ユダヤ人21.6%対非ユダヤ人25%)のみであることと比較して、線維性狭窄疾患を有するクローン病患者ではおよそ46%(ユダヤ人52%対非ユダヤ人42%)が、これらの稀な対立遺伝子の少なくとも1つを有した(オッズ比2.8;95%信頼区間1.56−5.18)。これら3つの稀な改変型対立遺伝子のうち、フレームシフト変異3020insC(SNP13での「2」対立遺伝子)が、線維性狭窄疾患と最大の関連を示した(47%対17%、p=0.006(組み合わせコホートに対して))。これらの結果は、コホート1およびコホート2を表す組み合わせコホートにおいて、NOD2/CARD15座における稀な改変型対立遺伝子が、クローン病の線維性狭窄サブタイプと関連していることを示す。
【0099】
(実施例VI)
(NOD2/CARD15におけるホモ接合性変異または複合ヘテロ接合性変異を有するクローン病患者)
本実施例は、NOD2/CARD15座におけるホモ接合性変異または複合ヘテロ接合性変異を有するクローン病患者における線維性狭窄疾患の危険度の増大を記載する。
【0100】
図3に示されるように、SNP8、SNP12、またはSNP13でのNOD2/CARD15変異のキャリアではない患者と比較して、NOD2/CARD15における2つの変異のキャリアである患者の方が、線維性狭窄疾患を有する確率が有意に高かった(85%対43%;オッズ比7.4;95%信頼区間1.9−28.9,p=0.004)。また、単一のNOD2/CARD15変異のキャリアである患者の方が、これらのNOD2/CARD15変異のキャリアではない患者と比較した場合に、線維性狭窄疾患を有する確率が有意に高かった(64%対43%;オッズ比2.37;95%信頼区間1.26−4.47;p=0.008)。これらの結果は、NOD2/CARD15におけるホモ接合性変異または複合ヘテロ接合性変異を有するクローン病患者が、線維性狭窄疾患についての危険度が高いことを示す。
【0101】
(実施例VII)
(線維性狭窄疾患のみと線維性狭窄疾患および穿孔疾患との比較)
本実施例は、線維性狭窄疾患および穿孔疾患を有する患者と比較した、線維性狭窄疾患を有する患者におけるNOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子の関連を記載する。
【0102】
線維性狭窄疾患および穿孔疾患は、しばしば、同じ患者において生じる。線維性狭窄疾患を有する患者は、i)線維性狭窄疾患のみを有する、またはii)線維性狭窄疾患および穿孔疾患の両方を有するとして特徴付けられ得る。これらの表現型に個々に取り組むために、これら2つのコホートの各々における患者を、穿孔合併症ありで線維性狭窄がある場合(Fib+perf)または穿孔合併症なしで線維性狭窄がある場合(Fibのみ)によって分別し、線維性狭窄の形跡のない穿孔合併症を有する患者(Perfのみ)と比較した。線維性狭窄疾患のみを有する患者でNOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子を有する割合は、48.3%であり、これは、線維性狭窄合併症および穿孔合併症の両方を有する患者において見られる割合と同様であった(46.0%;p=0.8)。図3に見られるように、線維性狭窄疾患を有する患者を穿孔疾患(肛門周囲または内部)のみを有するとして記載される患者と比較した場合、線維性狭窄疾患を有する患者(穿孔合併症ありまたは穿孔合併症なし)におけるNOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子の頻度は、穿孔合併症のみを有する患者で見られるよりも有意に大きかった(46.6%対18.6%;p=0.002)。
【0103】
(実施例VIII)
(組み合わせ患者コホートにおける多変量解析)
本実施例は、線維性狭窄疾患がNOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子と独立に関連していることを実証する。
【0104】
多変量解析のために、いずれのコホートにおいても、少なくとも境界域の有意性(p<0.1)を有する全ての変数を、ロジスティック回帰を用いることにより、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子とのそれらの関連について同時に試験した。表7に示されるように、線維性狭窄疾患の臨床表現型は、NOD2/CARD15座でのこれらの稀な対立遺伝子と有意に関連していた(p<0.05)(OR 2.8;95% CI,1.3−6.0)。これらの結果は、線維性狭窄疾患が、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子と独立に関連していることを確認する。
【0105】
【表7】

(実施例IX)
(線維性狭窄疾患および小腸罹患)
本実施例は、線維性狭窄疾患とNOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子との間の関連が、小腸罹患とは独立していることを実証する。
【0106】
線維性狭窄疾患が小腸罹患を有する患者において生じる確率が高いので、線維性狭窄疾患とNOD2/CARD15改変型対立遺伝子との間の関連が一次相関であるか否かを解析するために、患者を、小腸罹患に基づいて層別化した。小腸罹患を有する患者のうち、線維性狭窄疾患を有さない患者(n=53)では26.4%が、SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子を有したのに対し、線維性狭窄疾患を有した患者(n=102)では46.1%が、SNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子を有した(p=0.017)。同様の傾向が、小腸罹患を有さない患者の間で見られ(p=0.05)、小腸罹患について条件付けする複合解析は、0.009の有意水準を生じた。
【0107】
線維性狭窄疾患について条件付けした後、小腸罹患は、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子と関連していなかった(p=0.63)。この結果は、ロジスティック回帰解析からの結果(実施例VIIIを参照のこと)と一致し、そして線維性狭窄疾患とNOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子との間の関連が、小腸罹患とは独立していることを示す。これらの結果はさらに、NOD2/CARD15座のSNP8、SNP12、またはSNP13での「2」対立遺伝子との観察された小腸の相関が、線維性狭窄疾患の存在に対して二次的であることを示す。
【0108】
以前に述べたか否かに関わらず、括弧内またはそれ以外で上に提示した全ての定期刊行物、参考文献、および特許文献は、本明細書中に参考として援用される。
【0109】
本発明を上記実施例に関して記載してきたが、種々の改変が本発明の精神から逸脱することなくなされ得ることが理解されるべきである。従って、本発明は、以下の特許請求の範囲によってのみ制限される。
【表8−1】


【表8−2】


【表8−3】


【表8−4】


【表8−5】


【表8−6】


【表8−7】


【表8−8】


【表8−9】


【表8−10】


【表8−11】


【表8−12】


【表8−13】


【表8−14】


【表8−15】


【表8−16】


【表8−17】


【表8−18】


【表8−19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10−1】
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【図10−2】
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【図11−1】
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【図11−2】
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【図11−3】
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【図11−4】
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【公開番号】特開2011−15686(P2011−15686A)
【公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174021(P2010−174021)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【分割の表示】特願2004−532837(P2004−532837)の分割
【原出願日】平成15年7月30日(2003.7.30)
【出願人】(398062149)セダーズ−シナイ メディカル センター (34)
【Fターム(参考)】