説明

Nb3Al多芯超電導線材

【課題】高いJc特性を維持しつつ、しかも伸線加工時の断線を抑制でき長尺化が図れるNbAl超電導多芯線材を提供する。
【解決手段】NbシートとAlシートとを合わせ巻きして作製されるNb/Al積層線材の外周面に、Nb、Ta、Nb合金、またはTa合金からなるバリア層6が設けられて作製されるNb/Al前駆体シングル線21〜25を、金属管内にその中心部に配置される中心ダミー材13と共に複数本組み込まれたNb/Al複合マルチ線材が、縮径加工、熱処理されて作製されるNbAl多芯超電導線材において、Nb/Al複合マルチ線材の横断面内に配置される各Nb/Al前駆体シングル線21〜25のバリア層6の厚みが、Nb/Al複合マルチ線材の横断面内で一定ではなく、Nb/Al複合マルチ線材の中心部の中心ダミー材13の外周部に位置するNb/Al前駆体シングル線21のバリア層6の厚みが厚くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いJc(輸送臨界電流密度)を維持しつつ、長尺化が可能なNbAl多芯超電導線材に関するものであり、本発明のNbAl多芯超電導線材は、例えば、送電ケーブル、核磁気共鳴分析装置、医療用磁気共鳴診断装置、磁気分離装置、磁場中単結晶引き上げ装置、超電導発電機、核融合炉用マグネット、高エネルギー粒子加速器用マグネット等の機器・装置に適用される。
【背景技術】
【0002】
NbAl化合物系超電導線材は、NbTi合金系超電導線材と比べ、特に高磁界におけるJc特性が優れていることから、12〜25T(テスラ)程度の中磁界から高磁界下で運転する超電導マグネット用材料などへの応用が期待されている。具体的には、高エネルギー粒子加速器などに利用され、その場合には、高いJc特性を得ることに加えて、長尺化するための伸縮加工技術が要請される。
【0003】
このような要請に応えるため、従来、NbAl化合物超電導線材の製造方法として、NbシートおよびAlシートを合わせ巻きし、それを渦巻状に巻付けてNb/Alフィラメントとするジェリーロール法が提案されている。この方法によれば、シー卜状のNbとAlとの拡散距離が短くできるため、熱処理時に両者間の拡散反応が促進され、高いJc特性を得ることができる。さらに、ジェリーロール法によって製造された超電導線材を多芯組みして伸線工程を経ることで歪に強く、かつ磁気的にも安定な長尺のNbAl多芯超電導線材が製造されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
多芯化された超電導線材では、各Nb/Alフィラメントの外周にNbまたはTaからなるバリア層を配置し、各Nb/Alフィラメント間の結合を防止する方法がとられている。また、バリア層は、交流応用として適用したときの損失を低減するため、および磁気的不安定性を抑制するために設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−132116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにバリア層を配置してNb/Alフィラメントの結合を防止した線材を作製する際に、単純にバリア層の厚みを増やせば結合は防止できるが、NbAl多芯超電導線材内部での超電導体占積率が減少する。一方で、超電導体占積率を増大することを目的にバリア層の厚みを薄くすると、Nb/Alフィラメント間が結合し、実用線材にはなり得ない。また、バリア層が薄いと伸線加工性が悪くなることから、断線の発生につながる。
そこで、線材設計では、予めバリア層が伸線加工途中に破損しないような厚みを確保していた。このため、NbAl超電導多芯線材において、超電導体占積率を増大させて高いJc特性を得ることと、Nb/Alフィラメント間の結合および伸線加工時の断線を防止することとを両立できなかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、高いJc特性を維持しつつ、しかも伸線加工時の断線を抑制でき、長尺化が図れるNbAl超電導多芯線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は次のように構成されている。
本発明の第1の態様は、NbシートとAlシートとを合わせ巻きして作製されるNb/Al積層線材の外周面に、Nb、Ta、Nb合金、またはTa合金からなるバリア層が設けられて作製されるNb/Al前駆体シングル線を、金属管内にその中心部に配置される中心ダミー材と共に複数本組み込まれたNb/Al複合マルチ線材が、縮径加工、熱処理されて作製されるNbAl多芯超電導線材において、前記Nb/Al複合マルチ線材の横断面内に配置される前記各Nb/Al前駆体シングル線の前記バリア層の厚みが、前記Nb/Al複合マルチ線材の横断面内で一定ではなく、前記Nb/Al複合マルチ線材の中心部の前記中心ダミー材の外周部に位置する前記Nb/Al前駆体シングル線の前記バリア層の厚みが厚くなっていることを特徴とするNbAl多芯超電導線材である。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様のNbAl多芯超電導線材において、前記バリア層の厚みが、前記Nb/Al複合マルチ線材の横断面における中心部から外周部側に向かって次第に薄くなっている。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様のNbAl多芯超電導線材において、前記中心ダミー材と接する前記Nb/Al前駆体シングル線の前記バリア層の厚みが、それら以外の前記中心ダミー材と接していない前記Nb/Al前駆体シングル線のバリア層の厚みよりも少なくとも2倍以上の厚みを有する。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の態様のいずれかのNbAl多芯超電導線材おいて、前記中心ダミー材と接する前記Nb/Al前駆体シングル線のバリア層は、前記縮径加工後の最終的な厚みが2μm以上である。
【0012】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の態様のいずれかのNbAl多芯超電導線材において、前記中心ダミー材の外周面にも、Nb、Ta、Nb合金、またはTa合金からなるバリア層が設けられている。
【0013】
本発明の第6の態様は、第1〜第5の態様のいずれかのNbAl多芯超電導線材において、前記NbAl多芯超電導線材の横断面において、超電導線体が占める断面積に対する、Nb、Ta、Nb合金、及びTa合金が占める断面積の比率であるマトリックス比が0.85以上である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高いJc特性を維持しつつ、伸線加工時の断線を抑制して長尺化が可能なNbAl多芯超電導線材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るNbAl超電導多芯線材の製造工程を示す流れ図である。
【図2】図1の製造工程の一部を示す説明図である。
【図3】図2の製造工程に続く工程であって、図1の製造工程の一部を示す説明図である。
【図4】図2の前駆体シングル線を拡大して示す横断面図である。
【図5】図2の丸形状の前駆体シングル線を、六角形状あるいは八角形状の断面に加工した状態を示す横断面図である。
【図6】本発明の一実施例に係る前駆体シングル線を示す横断面図である。
【図7】図6の前駆体シングル線を用いて作製した本発明の一実施例に係るNb/Al複合マルチ線材を示す横断面図である。
【図8】比較例に係るNb/Al複合マルチ線材を示す横断面図である。
【図9】本発明の他の実施例に係るNb/Al複合マルチ線材を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係るNbAl多芯超電導線材の一実施形態を説明する。
【0017】
NbAl多芯超電導線材の代表的な製造方法は、上述したジェリーロール法である。本発明のNbAl多芯超電導線材の作製においても、従来のジェリーロール法による線材作製がベースとなるが、NbAl多芯超電導線材を形成するためのNb/Al複合マルチ線材内に配置される各Nb/Al前駆体シングル線の外周部のバリア層の厚みが、Nb/Al複合マルチ線材内で一定ではなく、Nb/Al複合マルチ線材の中心部側で厚くしたことを特徴とする。
【0018】
本発明の一実施形態に係るNbAl多芯超電導線材を、その製造方法に従って説明する。図1は、本実施形態に係るNbAl超電導多芯線材の製造工程を示す流れ図である。図2、図3は、図1の製造工程の一部を図示化した説明図である。
【0019】
図1、図2および図3を用いて、次に代表的な製造工程を説明する。
まず、所定の厚さを有するAlシート1とNbシート2とを重ねたものを巻芯3に合わせ巻きすることにより、巻芯3の回りにAlとNbのジェリーロール部4を有するNb/Al積層線材(Nb/Alフィラメント)5を作製する(図2(a))。巻芯3には、例えば、Ta、Nbなどからなる丸棒が用いられる。次に、Nb/Al積層線材5の外周面に、バリア層を形成するバリアシート材6を巻付け、シングル材7を得る(図2(b))。バリアシート材6は、Nb、Ta、Nb合金、またはTa合金からなる。本実施形態においては、このバリアシート材6の巻付け長さを種々に変更して、バリア層の厚みが異なる複数種類のシングル材7を作製する。
【0020】
次に、シングル材7をCuパイプ8に充填してシングルビレットを得る(図2(c))。このときCuパイプ7ではなく、別の材料を用いても構わないが、加工性に優れ、かつ内部に充填された材料を傷めないことが重要である。シングル材7にCuパイプ8を被覆する理由は、シングル材7が表面に露出した状態では、次の縮径加工でダイスの焼き付き等が生じ、加工性が著しく低下するためである。
【0021】
次に、静水圧押出とダイス伸線により、シングル材7がCuパイプ8に充填されたシングルビレットを、所望の線径まで縮径加工して、前駆体シングル線(Nb/Al前駆体シングル線)9を作製する(図2(d))。必要に応じて、焼鈍処理なども行う。焼鈍の際、加工性の低下を引き起こすNbとAlとの金属間化合物は生成させない温度で処理することが重要である。具体的には、およそ350℃程度の温度で熱処理する。
縮径加工後の前駆体シングル線9は、図4に示すような断面構造を有する。すなわち、中心の巻芯3の外周に、AlとNbのジェリーロール層(ジェリーロール部)4と、バリア層(バリアシート材)6と、Cu層(Cuパイプ)8とが同心配置に設けられている。
【0022】
本実施形態では、前駆体シングル線9の表面にはCuが被覆されている。Cuは、その後に実施する加熱冷却処理の際には、不要な金属であることから、硝酸を主成分とする液体に数時間浸してCuを完全に除去する。Cuを除去した前駆体シングル線10をCuNiパイプ12に複数本充填すると共に(図3(e))、CuNiパイプ12の中心部に中心ダミー材13を充填することにより、複合マルチビレット(Nb/Al複合マルチ線材)14を得る(図3(f))。
【0023】
CuNiパイプ12に前駆体シングル線10を充填する際には、図5に示すように、丸形状の前駆体シングル線10(図5(a))を、六角形状や八角形状の前駆体シングル線10(図5(b))に断面形状を加工したものを充填するのが好ましい。最密充填(線材を束ねる際に隙間を最も小さくできる)という観点では、六角形状のものを組込むことが望ましい。前駆体シングル線10の表面には、バリアシート11を数ターン巻付ける。このバリアシート11は、上記のバリアシート材6とは異なるものであり、本実施形態における加工性改善には顕著な効果はないことから、前駆体シングル線10に対して、2%以上の比率となるように配置すれば十分である。バリアシート11には、NbやTaのシートを用いる。
【0024】
複合マルチビレット14内に配置される各前駆体シングル線10のバリア層の厚さを全て同じ厚さとする場合、超電導体占積率を増大すべくバリア層の厚みを薄くすると、複合マルチビレット14の伸線工程で断線が発生してしまった。断線箇所を調べたところ、中心ダミー材13と中心ダミー材13に接する前駆体シングル線10との界面近傍が断線の起点となっていることが判った。
この知見に基づき、本実施形態では、複合マルチビレット14内に配置される各前駆体シングル線10の外周部のバリア層6の厚みを、複合マルチビレット14内で一定とせず、複合マルチビレット14の中心部の中心ダミー材13の外周部に位置する前駆体シングル線10のバリア層6の厚みを厚くしている。このように、一律に前駆体シングル線10のバリア層6の厚みを厚くするのではなく、中心ダミー材13の外周部に位置する前駆体シングル線10のバリア層6の厚みだけを厚くしているので、複合マルチビレット14の伸線による断線を防止できると共に、高い超電導体占積率を維持できる。
【0025】
たとえば、複合マルチビレット14内に配置される各前駆体シングル線10のバリア層6の厚みを、複合マルチビレット14の横断面における中心部から外周部側に向かって次第に薄くする(後述の実施例の図7参照)。
あるいは、中心ダミー材13と接する第一層目の前駆体シングル線10のバリア層6の厚みを、第二層目から最外層の前駆体シングル線10のバリア層6の厚み(一定の厚み)よりも厚くする(後述の実施例の図9参照)。
また、中心ダミー材13と接する第一層目の前駆体シングル線10のバリア層6の厚みを、第二層目から最外層の前駆体シングル線10のバリア層6の厚みよりも、少なくとも2倍以上の厚みとするのが好ましい。あるいは、第一層目の前駆体シングル線のバリア層6は、縮径加工後の最終的な厚みが2μm以上であるのが好ましい。
【0026】
複合マルチビレット14内には、図3(f)に示すように、例えば、前駆体シングル線10を222本、中心ダミー材13を19本充填した241芯構造とする。NbAl超電導線材を適用する機器や使用環境などに応じて、前駆体シングル線10、中心ダミー材13の芯数を適宜増減させる。
また、交流応用の場合には、前駆体シングル線10にツイスト加工を施すことも重要になってくる。NbAl超電導線材の中心ダミー材13には、前駆体シングル線8と同じサイズのNbやTaなどの金属が用いられる。これにより、機械的強度の確保と伸線加工性の向上が実現できる。中心ダミー材11の材質や本数は、必要に応じて適宜変更する。複合マルチビレット14は、静水圧押出とダイス伸線によって所望の径まで縮径加工することにより、前駆体マルチ線15を得る(図3(g))。縮径加工において、必要に応じて、焼鈍処理を施すことにより断線を防止できる。
【0027】
本実施形態の前駆体マルチ線15の表面にはCuNi合金が被覆されている。CuNi合金は、その後の加熱冷却(急熱急冷)処理の際には、不要な金属であることから、硝酸を主成分とする液体数時間浸してCuNi合金を完全に除去する。
その後、CuNiを除去した前駆体マルチ線15に急熱急冷処理を施してNb−Al過
飽和固溶体を形成する。前駆体マルチ線15は、自己通電加熱により1500〜2000℃の高温で短時間に急速加熱される。急速加熱された前駆体マルチ線15は、すぐにGaバス等で急速冷却されてNb−Al過飽和固溶体が形成される。加熱冷却処理後のNb−Al過飽和固溶体は、線材を800℃で10時間程度の再加熱処理(変態熱処理)を実施することにより、NbAl化合物が生成される。
【0028】
静水圧押出後の線材の縮径加工は、ドローベンチ、スエージャー、カセットローラーダイス、或いは、溝ロールを用いて1パス当りの断面減少率が10〜30%程度の伸線加工を繰り返し行う。線材の多芯化を行う際には、丸断面形状或いは六角断面形状に伸線加工した前駆体シングル線材をパイプに組み込み、上記の装置を用いて、1パス当りの断面減少率が10〜30%程度で、所定とする線径まで伸線加工するのが一般的な加工法である。最終形状まで加工した前駆体マルチ線は、適切な温度や雰囲気で熱処理をすることによって、高いJcを持つNbAl超電導線材が得られる。高いJcを得るためには、NbまたはNb合金とAlまたはAl合金との体積比(Nb/Al)は、2.5〜3.5の範囲が望ましい。
【0029】
本発明のNbAl超電導線材は、超電導マグネットに用いることができる。本発明のNbAl超電導線材は、高靭性・高硬度性を有することから、線材自身の降伏応力、引張り強度、ヤング率などの機械的強度の面で優れている。その結果、強磁場による電磁力にも耐える超電導マグネットを製造することができる。さらに、両端抵抗を十分に抑えることで、永久電流超電導マグネットが実現できる。
また、本発明のNbAl超電導線材を、例えば、液体ヘリウム中で使用する場合には、金属系超電導体や酸化物超電導体と組み合わせた構造にすることで、より強い磁場を発生する超電導マグネット等の実用導体を実現できる。このときの金属系超電導体としては、NbTi系合金、NbSn系化合物、VGa系、MgB系、シェブレル系化合物等を用い、必要に応じて2種以上のマグネットを配置する。また、酸化物超電導体には、Y系、Bi系、Tl系、Hg系、Ag−Pb系の超電導体が望ましい。
また、本発明のNbAl超電導線材を、冷凍機伝導冷却で使用する場合には、MgB系あるいは酸化物超電導体と組合せることにより、より高性能の超電導マグネット等の実用導体を実現できる。
NbAl化合物超電導多芯線材を、例えば高エネルギー粒子加速器などの放射線環境下における超電導マグネットに利用する場合は、超電導線材が放射化して超電導特性が低下する他、被爆管理などの問題が生じる。したがって、NbAl化合物超電導多芯線材を高エネルギー粒子加速器などの放射線環境中で利用する場合には、超電導線材自身の低放射化対策として中心ダミー材には半減期が短いTaを用いるのがよい。中心ダミー材にTaを用いることで、超電導線材自身の低放射化を図ることができる。特に、低放射化に当たってTaを用いることは、TaがNbに比べて液体ヘリウム温度下における磁気的な安定性に優れていることからも好ましい。
【実施例】
【0030】
次に、本発明の実施例を説明する。
〔実施例1〕
実施例1では、上記実施形態で述べたと同様な製造方法を用いて前駆体マルチ線を作製した。まず、表1及び図6に示す5種類のバリア層の厚みの異なる前駆体シングル線21〜25を作製し、これら5種類の前駆体シングル線21〜25を用いて、図7に示す構造の前駆体マルチ線を作製した。
まず、出発素材として、厚さ0.03mmのAlシートと厚さ0.10mmのNbシートを、巻芯である直径2mmのTa棒に合わせ巻きし、Nb/Alフィラメント(Nb/Al積層線材)を作製した。その外周に厚さ0.1mmのTaシート(バリアシート材)を
バリア層として巻付け、外径13mmにした。この際、各シートを5種類の巻付け長さに
して、バリア層の厚みを調整した。
表1に5種類の線材のNb/Alフィラメントの径とTaバリアの厚さを示す。なお、Nb/AlフィラメントとTaバリアを合わせた外径は、5種類とも13mmになるように設定した。No.1の試料は最もTaバリアが厚く、No.5の試料は最もTaバリア層が薄い構造となっている。図5(a)〜(e)に、No.1〜5の試料のNb/Alフィ
ラメントからそれぞれ作製される前駆体シングル線21〜25の断面模式図を示す。図5に示すように、前駆体シングル線21〜25は六角形の断面を有し、中心の巻芯3の外周にAl/Nbのジェリーロール層4と、バリア層6とが配置されている。
【0031】
【表1】

Taバリアを備えたNb/Alフィラメントの外径を13mmにした後、外径16m
m、内径14mm、長さ150mmのCuパイプに組込んだ。本実施例では、表1のNo.1〜5の試料をいずれも各3本作製することにした。これを押出機により、線径7mm
まで押出加工した後、ドローベンチを用いて、最終的に六角対辺長を4.30mmに伸線
加工して、前駆体シングル線を得た。
次に、前駆体シングル線全体を硝酸に浸して、外側に被覆されるCuを完全に除去した。Cu除去後の六角対辺長は3.95mmである。No.1〜5のそれぞれについて、長さ300mmに切断した後、外径58.8mm、内径53.9mmのCuNiパイプに組込んだ。本実施例では144芯を組込む構造にしたが、横断面内の中心部から外周部にかけてTaバリア層の厚みを一定にせず、中央部に配置されるものほど、Taバリア層の厚みを厚くした。なお、中心ダミー材には六角対辺長が2.55mmのTa棒を7本配置した。
なお、最外周には、厚さ0.2mmのTaシートを5ターン巻付けた。
この多芯線を押出機により、線径30mmまで押出加工した。その後、ドローベンチや釜状の伸線機を用いて、伸線加工を継続した。その結果、線径1.0mmまで無断線で加
工することができた。その後、伸線加工を継続して実施したが、線径が0.7mm近傍で
断線が多発することが分かった。
図7は伸線加工後の前駆体マルチ線の断面模式図である。図7に示すように、中心部の7本の中心ダミー材13の外周に、バリア層6の厚みが前駆体マルチ線の中心部から外周部側に向かって次第に薄くなるように、前駆体シングル線21〜25が配置されている。
また、本実施例では、バリア層としてTaをNb/Alフィラメントの表面に巻付けたが、Ta合金、NbまたはNb合金、非磁性の他の金属でも同様の効果を有することを確認した。但し、急熱急冷処理で1500℃を超える温度で熱処理を行うので、融点が1500℃以上で、かつ超電導特性を低下させない材料であることが不可欠である。
なお、前駆体シングル線の芯線数については特に限定されず、芯数が異なっても同様の結果が得られた。このように、応用する機器に応じて増減させることは何ら問題ないことが分かった。
【0032】
〔比較例1〕
実施例1において、前駆体シングル線を作製する際のTaバリア層の厚みをすべて一定にした以外は、実施例1と同様の工程で線材を作製した。すなわち、Nb/Alフィラメントを11.7mm、Taバリアの厚みを0.65mm(表1のNo.4の試料)で統一し
て、前駆体シングル線24を作製し、これを多芯組込みした。
図8に組込んだ複合マルチビレットを伸線した伸線途中の断面図を示す。図8に示すように、伸線途中の前駆体マルチ線の横断面内の中央部から外周部まで、全て同一断面構成の前駆体シングル線24が配置されている。
実施例1と同様の縮径工程で複合マルチビレットから前駆体マルチ線の作製を試みたが、線径2.9mmで断線した。光学顕微鏡を用いて、断線部の破断面を観察した結果、T
a中心ダミー材13とそれに接する前駆体シングル線24の界面近傍が断線の起点になっていることが分かった。
【0033】
〔実施例2〕
出発素材として、厚さ0.025mmのAlシートと厚さ0.08mmのNbシートを、巻芯である直径2mmのNb棒に合わせ巻きし、Nb/Alフィラメントを作製した。その外周部に厚さ0.1mmのTaシートをバリア層として巻付け、外径13mmにした。
本実施例では、中心ダミーと直接接する中心部第一層目のTaバリア層を、それ以外の層(第二層目から最外層までの層)に配置されるTaバリア層(第二層目から最外層まで全て0.5mmとした)よりも1.2〜4倍の厚みとし、伸線加工性を比較することにした。
表2に、第二層目から最外層までのTaバリアの厚さを1としたときの、第二層目から最外層までのTaバリア層の厚さに対する第一層目のTaバリア層の厚さの比率を示す。
【0034】
【表2】

表2の比率で合わせ巻きしたフィラメントとTaバリアを、外径16mm、内径14
mm、長さ150mmのCuパイプに組込んだ。これを押出機により、線径8mmまで押出加工した。その後、ドローベンチを用いて、最終的に六角対辺長を4.30mmに伸線
加工して、前駆体シングル線を得た。
次に、前駆体シングル線全体を硝酸に浸して、外側に被覆されるCuを完全に除去した。Cu除去後の六角対辺長は3.95mmである。六角形状に伸線したNo.6〜11を所定の長さに切断した後、外径59.0mm、内径53.2mmのCuNiパイプに組込んだ。図9に組込んだ後、縮径加工した前駆体マルチ線の断面模式図を示す。
本実施例では、144芯を組み込む構造にしたが、中心ダミー材13と直接接する第一層目のみTaバリア層6の厚みを増大し、第二層目から最外層のTaバリア層6の厚みは一定にしている。なお、中心ダミー材13には六角対辺長が2.55mmのNb棒を7本
配置した。
この多芯線を押出機により、線径28mmまで押出加工した。その後、ドローベンチや
釜状の伸線機を用いて、伸線加工を継続した。その結果、No.6〜8では線径1.0mmまでに5〜10回断線したが、No.9〜11では無断線で加工することができた。
その後の詳細な検討により、表3に記載の通り、中心ダミー材と直接接する中心部第一層目のバリア厚みと加工性の相関を検討し、中心部第一層目のバリア層の厚みが2μmを下回ると断線頻度が増加することが分かった。
【0035】
【表3】

以上のことから、中心ダミー材と直接接する中心部第一層目のバリア層の厚みは、最
終線経で2μm以上になるようにあらかじめ線材の断面構造の設計をしておくことが重要であることが明らかとなった。
【0036】
〔実施例3〕
実施例1と同様にして、六角対辺長が2.80mmの前駆体シングル線を得た。次に、
前駆体シングル線全体を硝酸に浸して、外側に被覆されるCuを完全に除去した。除去後の前駆体シングル線の六角対辺長は2.55mmである。これを、長さ300mmに27
6本切断した後、外径59mm、内径54mmのCuNiパイプに組込んでマルチビレットを作製した。このとき、中心には中心ダミー材として、六角対辺長が2.55mmのT
a棒を37本配置した。
比較例1では、中心ダミー材をそのまま配置したが、この実施例3では中心ダミー材のTa棒の一本一本にTaシートを厚さ0.4mm巻付け、実質的に中心部第一層目のバリ
ア層の厚みを増加させた。そして、加工性を比較検討することにした。
得られたビレットを押出機により、線径30mmまで押出加工した。その後、ドローベンチや釜状の伸縮機を用いて、伸線加工を継続した。その結果、比較例1では断線が発生した線径2.9mm以下でも無断線で加工でき、最終的には線径1.0mmまで無断線のまま加工できた。
以上のことから、多芯組込みを行う際、中心ダミー材自身に、Nb/Alフィラメントの外周に巻付けるバリア層と同等のものを配置することは断線防止に有効であることが分かった。
【0037】
〔実施例4〕
これまでに述べてきた実施例や比較例から、バリア層の厚みを厚くすることは歩留まりの向上に有効であるといえる。しかし、バリア層は線材断面内の超電導体占積率を低下させるため、超電導特性の向上という観点ではバリア層や中心ダミー材の割合をできる限り少なくすることが求められる。
本実施例では、それらの割合をマトリックス比と呼ぶが、このマトリックス比をどこまで低減可能かを検討した。その結果を表4に示す。ここで、マトリックス比とは、線材断面内に超電導体が占める面積を1とした場合の超電導体以外の材料が占める面積の比率である。また、本実施例では、最終線径を1.5mmに設定し、断線回数を調査した。
また、線径1.5mmまで伸縮加工した線材は、急熱急冷処理と変態熱処理を行うこと
で、NbAl超電導線材とし、液体ヘリウム温度で、磁場を20Tまで印加してJcを測定した。
【0038】
【表4】

マトリックス比が0.6の場合は、断線回数が著しく多く、Jcも低いことが分かった。Jc低下の要因は、バリア層が薄くなり過ぎることで一部分が欠損してしまい、本来のバリアの役目を果たさず、急熱急冷や再加熱(変態熱処理)時に超電導ではない別の反応相ができてしまったためであることが分かった。また、マトリックス比が0.75の場合
は、Jcに関しては問題ないが、断線頻度が多くなることも分かった。
したがって、超電導体の面積比を1とした場合に、マトリックス比が0.85以上であれば、超電導体の面積比を必要以上に減少させることがなく、高い超電導特性を維持することができ、それと同時に、伸線加工時の断線を抑制することが可能となる。したがって、超電導特性に寄与しないバリア層や中心ダミーを必要以上に配置することがなく有効である。さらに、歩留よくNbAl化合物超電導多芯線材の生産性を上げることが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1 Alシート
2 Nbシート
3 巻芯
4 ジェリーロール部(ジェリーロール層)
5 Nb/Al積層線材
6 バリアシート材(バリア層)
7 シングル材
8 Cuパイプ(Cu層)
9 前駆体シングル線(Nb/Al前駆体シングル線)
10 Cu被覆を除去した前駆体シングル線(Nb/Al前駆体シングル線)
11 バリアシート
12 CuNiパイプ
13 中心ダミー材
14 複合マルチビレット(Nb/Al複合マルチ線材)
15 複合マルチ線(Nb/Al複合マルチ線)
21〜25 前駆体シングル線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NbシートとAlシートとを合わせ巻きして作製されるNb/Al積層線材の外周面に、Nb、Ta、Nb合金、またはTa合金からなるバリア層が設けられて作製されるNb/Al前駆体シングル線を、金属管内にその中心部に配置される中心ダミー材と共に複数本組み込まれたNb/Al複合マルチ線材が、縮径加工、熱処理されて作製されるNbAl多芯超電導線材において、
前記Nb/Al複合マルチ線材の横断面内に配置される前記各Nb/Al前駆体シングル線の前記バリア層の厚みが、前記Nb/Al複合マルチ線材の横断面内で一定ではなく、前記Nb/Al複合マルチ線材の中心部の前記中心ダミー材の外周部に位置する前記Nb/Al前駆体シングル線の前記バリア層の厚みが厚くなっていることを特徴とするNbAl多芯超電導線材。
【請求項2】
前記バリア層の厚みが、前記Nb/Al複合マルチ線材の横断面における中心部から外周部側に向かって次第に薄くなっていることを特徴とする請求項1に記載のNbAl超電導多芯線材。
【請求項3】
前記中心ダミー材と接する前記Nb/Al前駆体シングル線の前記バリア層の厚みが、それら以外の前記中心ダミー材と接していない前記Nb/Al前駆体シングル線のバリア層の厚みよりも少なくとも2倍以上の厚みを有することを特徴とする請求項1または2に記載のNbAl超電導多芯線材。
【請求項4】
前記中心ダミー材と接する前記Nb/Al前駆体シングル線のバリア層は、前記縮径加工後の最終的な厚みが2μm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のNbAl超電導多芯線材。
【請求項5】
前記中心ダミー材の外周面にも、Nb、Ta、Nb合金、またはTa合金からなるバリア層が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のNbAl超電導多芯線材。
【請求項6】
前記NbAl多芯超電導線材の横断面において、超電導線体が占める断面積に対する、Nb、Ta、Nb合金、及びTa合金が占める断面積の比率であるマトリックス比が0.85以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のNbAl超電導多
芯線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−282930(P2010−282930A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137305(P2009−137305)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】