Notchシグナル伝達を高感度で検出するレポーターコンストラクト
【課題】検出感度が高く、正確なスクリーニングが可能なスクリーニング系を提供すること、および内因性のNotchシグナル伝達系を測定し得るスクリーニング系を提供すること。
【解決手段】少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子であって、該RBP−Jκ結合配列が、TGGGAAである、核酸分子。Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法であって、該方法は、(a)該核酸分子を含み、プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含み、かつ内因性のNotchタンパク質または構成的に活性なNotchタンパク質を発現する細胞と、候補物質とを接触させる工程;および(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程を包含する、方法。
【解決手段】少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子であって、該RBP−Jκ結合配列が、TGGGAAである、核酸分子。Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法であって、該方法は、(a)該核酸分子を含み、プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含み、かつ内因性のNotchタンパク質または構成的に活性なNotchタンパク質を発現する細胞と、候補物質とを接触させる工程;および(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程を包含する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子およびその利用に関する。本発明は特に、Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Notchシグナル伝達系は、発生および分化、さらには癌化および神経変性に関連する、多細胞生物にとって極めて重要な情報伝達系のひとつである。Notchシグナル伝達系の模式図を図1に示す。Notchシグナル伝達系の一翼を担うNotchタンパク質は、細胞膜を貫通するレセプターである。Notchタンパク質は、Notchタンパク質に対するリガンドであるデルタタンパク質、リガンド結合性の制御因子等により活性化され、ADAM、TACEなどによって細胞外ドメインが切断され(S2切断)、次に膜貫通ドメインのC末端側において、γ−セクレターゼ(γ−secretase)によりプロセッシングを受けて(S3切断)、細胞内ドメイン(NICD)が遊離し、核内に移行すると考えられている(図1)。そして、核内に移行した細胞内ドメインが標的遺伝子の転写活性化に寄与することにより、細胞外から細胞核へのシグナル伝達が行われるものと考えられている。Notchシグナルの異常活性化は癌化へと繋がる一方で、阻害は細胞の発生および分化に影響を与える。このように、Notchシグナル伝達系は、シグナル異常活性化による癌化(例えば、急性白血病)、アルツハイマー病治療を目的とした薬物(例えば、γ−セクレターゼ阻害薬)のシグナル阻害による副作用の懸念などに関連すると考えられている。
【0003】
Notchシグナル伝達系は、様々な点から重要である。特に、疾患との関連から重要である。第一に、Notchシグナル伝達系が異常活性化されると、急性白血病などの癌化が生じる。例えば、T細胞性急性リンパ芽球性白血病(T−ALL)患者の50%超には、NOTCH1の異所性活性化がみられる(非特許文献1、図2)。他の癌についてもシグナル異常活性化と関連があることから、Notchシグナルと癌とは密接な関係性があるといえる。
【0004】
第二に、アルツハイマー病治療を目的とした薬物による副作用の懸念をぬぐうという観点で重要である。現在、アルツハイマー病治療薬として、Aβ42の産生抑制を目的とした阻害薬が開発されている。Aβ42は、病態進行に密接に関連すると考えられているペプチドである。Aβ42はAβ40とともに、膜貫通タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)からβセクレターゼによって切断され、そして膜貫通領域でγ−セクレターゼにより切断され産生される。そのため治療薬として開発されつつあるものは、主にβ,γ−セクレターゼ阻害薬あるいはAβ42産生抑制薬となっている。しかし、この戦略には大きな問題点が内在している。γ−セクレターゼは、細胞の分化に必須のNotchも切断する。γ−セクレターゼ阻害薬によるNotchシグナル伝達の阻害の模式図を図3に示す。γ−セクレターゼを阻害すると、Notchの切断も阻害される。そのため、γ−セクレターゼ阻害薬には副作用の懸念があることが容易に考えられる。この懸念は、実際に、成熟マウスにγ−セクレターゼ阻害薬を投与するとリンパ球の分化が阻害されることからも裏付けられている(非特許文献2)。また、Aβ42産生抑制薬に関しても、間接的にNotchシグナル伝達を阻害することが懸念される。したがって、現在、これらの問題を克服したγ−セクレターゼ阻害薬あるいはAβ42産生阻害薬の開発の戦略として、Aβ産生の抑制効果は維持したままNotchシグナル伝達系を抑制しない薬剤が期待されている。
【0005】
Notchシグナル伝達系の活性化を検知するために、いくつかの実験が行われている。例えば、Notchシグナル伝達系が活性化すると、最終的に、核内でHes−1遺伝子の活性化が起きるため、Notchシグナルの活性化の指標としてHES−1プロモーター(RBP−Jκ結合配列をもつ)の活性化を利用し、Notchシグナルの活性化に従ってHES−1プロモーターの制御下でルシフェラーゼを発現させることでNotchシグナル伝達系の活性化が検知可能である(図4および非特許文献3)。
【0006】
このように、Notchシグナル伝達を測定するためには、2つのRBP−Jκ結合配列を上流に持ったルシフェラーゼレポーターが使用されてきた。しかし、それらの感度は悪く、培養細胞を用いても例えば内因性のNotchによるシグナル伝達は測定できなかった。
【0007】
例えば、特許文献1は、Notchシグナル伝達系が活性化された細胞を検知するNotchシグナル伝達系活性化検知方法を記載する。この文献の方法は、野生型Hes−1遺伝子プロモーター配列および変異Hes−1遺伝子プロモーター配列を利用する。野生型Hes−1遺伝子プロモーター配列は2つのRBP−Jκ結合配列を含む。しかし、特許文献1に記載された方法を用いても、検出感度が低く、バックグラウンドが大きいために正確なスクリーニングは困難であり、そのため、ハイスループットスクリーニングに利用することができなかった。また、特許文献1に記載の方法では、検出感度を上げるためにNotchシグナル伝達系を構成的に活性化する必要があり、そのため、内因性のNotchシグナル伝達系を測定することはできなかった。
【0008】
非特許文献4は、RBP−Jκに関連する転写因子であるRBP−Lを記載する。この文献では、RBP−Lが転写に対して及ぼす影響を調べるためにレポータープラスミドpGa981−6を使用している。このプラスミドはエプスタインバーウイルスのTP1プロモーター由来の12コピーのRBP−J/−L結合部位を含む。しかし、このプラスミドの検出感度は低く、バックグラウンドが大きく、ばらつきが大きいために正確なスクリーニングは困難であり、そのため、ハイスループットスクリーニングに利用することができなかった。また、この方法では検出感度を上げるためにNotchシグナル伝達系を構成的に活性化する必要があり、そのため、内因性のNotchシグナル伝達系を測定することはできなかった。
【0009】
このように、検出感度が高く、正確なスクリーニングが可能なスクリーニング系を提供することが望まれていた。内因性のNotchシグナル伝達系を測定し得るスクリーニング系を提供することもまた望まれていた。
【特許文献1】特開2006−109717号公報
【非特許文献1】Weng et al.,”Activating Mutations of NOTCH1 in Human T Cell Acute Lymphoblastic Leukemia”,Vol.306,2004,269−271
【非特許文献2】J.Biol.Chem.,Vol.279,Issue 13,12876−12882,March 26,2004
【非特許文献3】Sophie Jarriault et al.,"Signalling downstream of activated mammalian Notch”,Nature 377,1995,355−8
【非特許文献4】Minoguchi et al.,”RBP−L, a Transcription Factor Related to RBP−Jk”, Molecular And Cellular Biology, May 1997, p.2679−2687
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、検出感度が高く、正確なスクリーニングが可能なスクリーニング系を提供すること、および内因性のNotchシグナル伝達系を測定し得るスクリーニング系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を用いることにより、検出感度、Z’ factorおよびS/N比の顕著な改善が得られることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0012】
本発明者らは特に、既存のコンストラクトに大幅な改変を加えることにより、検出感度を数百倍、S/N比を数十倍改善させることができた。このため、培養細胞の内因性のNotchシグナル伝達を測定できるレベルの高感度を持つコンストラクトを得ることができた。
【0013】
従来、Notchシグナル伝達を測定するためには、RBP−Jκ結合配列を上流に持ったルシフェラーゼレポーターが使用されてきた。今回本発明者らは、既存のコンストラクトの「2つのRBP−Jκ結合配列を含む部分の配列の変異を訂正しかつその配列を2〜4つタンデムにつなげてルシフェラーゼレポーターの上流に配置した」コンストラクトを作成した。さらにその新規RBP−Jκ結合配列部分を発現効率の高いルシフェラーゼレポータープラスミドに挿入した。そしてその性質について検討したところ感度が数百倍、S/N比を数十倍改善していた。さらに、このコンストラクトを用いることにより、0.50以上のZ’ factorが得られることがわかった。
【0014】
本発明によれば、既存のHES−1プロモーターに大幅な改変を加えることによって従来と比べ高感度にNotchシグナル伝達系を検知することが可能となった。例えば、2つのRBP−Jκ結合配列を含む部分の配列を2〜4つタンデムにつなげてルシフェラーゼレポーターの上流に配置したコンストラクトを作成した。その結果、結合配列の増加とともにルシフェラーゼ活性の増加が認められた。
【0015】
さらにその新規RBP−Jκ結合配列部分を発現効率の高く又PEST配列を持つルシフェラーゼレポータープラスミドに挿入した。そしてその性質について検討したところ感度が数百倍、S/N比を数十倍改善していた。また、このコンストラクトを用いることによっても、0.50以上のZ’ factorが得られることがわかった。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
(項目1)
少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子であって、該RBP−Jκ結合配列が、TGGGAAである、核酸分子。
【0017】
(項目2)
前記少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列のそれぞれが、5塩基〜40塩基の塩基配列によりタンデムに連結されている、項目1に記載の核酸分子。
【0018】
(項目3)
配列番号1の配列を少なくとも2つ含む、項目1または2に記載の核酸分子。
【0019】
(項目4)
配列番号2の配列を少なくとも2つ含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0020】
(項目5)
配列番号3の配列を含む、項目1〜4のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0021】
(項目6)
配列番号4の配列を含む、項目1〜5のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0022】
(項目7)
配列番号5の配列を含む、項目1〜6のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0023】
(項目8)
配列番号6の配列を含む、項目1〜7のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0024】
(項目9)
前記少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列と作動可能に連結されたプロモーター配列をさらに含む、項目1〜8のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0025】
(項目10)
前記プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含む、項目9に記載の核酸分子。
【0026】
(項目11)
前記レポータータンパク質コード配列が、発光タンパク質または蛍光タンパク質をコードする、項目10に記載の核酸分子。
【0027】
(項目12)
前記レポータータンパク質コード配列の下流にPEST配列コード配列が連結されている、項目10または11に記載の核酸分子。
【0028】
(項目13)
直鎖状分子またはプラスミドである、項目1〜12のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0029】
(項目14)
(a)プロモーター配列と作動可能に連結された構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列を含む核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の前記レポータータンパク質の発現量と、(b)該Notchタンパク質コード配列を含まない核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の該レポータータンパク質の発現量とを比較したときの、Z’ factor値が0.5以上である、項目10〜12のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0030】
(項目15)
項目1〜14のいずれか1項に記載の核酸分子を含む、細胞。
【0031】
(項目16)
前記核酸分子が、前記プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含む、項目15に記載の細胞。
【0032】
(項目17)
内因性のNotchタンパク質または構成的に活性なNotchタンパク質を発現する、項目16に記載の細胞。
【0033】
(項目18)
Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)項目17に記載の細胞と候補物質とを接触させる工程;および
(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程
を包含する、方法。
【0034】
(項目19)
γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)項目17に記載の細胞と該候補物質とを接触させる工程;および
(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程
を包含する、方法。
【0035】
(項目20)
Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)項目17に記載の細胞中での前記レポータータンパク質の発現量を測定する工程;
(b)該細胞と候補物質とを接触させる工程;
(c)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程;および
(d)工程(c)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a)での該レポータータンパク質の発現量よりも増加したかまたは減少した場合、該候補物質をNotchシグナル伝達系を調節する物質として選択する工程
を包含する、方法。
【0036】
(項目21)
工程(c)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a)での該レポータータンパク質の発現量よりも増加し、前記候補物質をNotchシグナル伝達系の活性化剤として選択する、項目20に記載の方法。
【0037】
(項目22)
工程(c)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a)での該レポータータンパク質の発現量よりも減少し、前記候補物質をNotchシグナル伝達系の抑制剤として選択する、項目20に記載の方法。
【0038】
(項目23)
γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)項目17に記載の細胞中での前記レポータータンパク質の発現量を測定する工程;
(b)該細胞と候補物質とを接触させる工程;
(c)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程;および
(d)工程(c)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a)での該レポータータンパク質の発現量と実質的に同じである場合、該候補物質をNotchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬として選択する工程
を包含する、方法。
【0039】
(項目24)
Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法において使用するためのキットであって、
項目17に記載の細胞;および
前記レポータータンパク質の発現量を測定するための試薬
を備える、キット。
【0040】
(項目25)
γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法において使用するためのキットであって、
項目17に記載の細胞;および
前記レポータータンパク質の発現量を測定するための試薬
を備える、キット。
【0041】
(項目26)
内因性のNotchシグナルの調節を測定するための組成物であって、該組成物は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子を含み、該RBP−Jκ結合配列が、TGGGAAである、組成物。
【0042】
(項目27)
前記少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列のそれぞれが、5塩基〜40塩基の塩基配列によりタンデムに連結されている、項目26に記載の組成物。
【0043】
(項目28)
前記核酸分子が、配列番号1の配列を少なくとも2つ含む、項目26または27に記載の組成物。
【0044】
(項目29)
前記核酸分子が、配列番号2の配列を少なくとも2つ含む、項目26〜28のいずれか1項に記載の組成物。
【0045】
(項目30)
前記核酸分子が、配列番号3の配列を含む、項目26〜29のいずれか1項に記載の組成物。
【0046】
(項目31)
前記核酸分子が、配列番号4の配列を含む、項目26〜30のいずれか1項に記載の組成物。
【0047】
(項目32)
前記核酸分子が、配列番号5の配列を含む、項目26〜31のいずれか1項に記載の組成物。
【0048】
(項目33)
前記核酸分子が、配列番号6の配列を含む、項目26〜32のいずれか1項に記載の組成物。
【0049】
(項目34)
前記核酸分子が、前記少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列と作動可能に連結されたプロモーター配列をさらに含む、項目26〜33のいずれか1項に記載の組成物。
【0050】
(項目35)
前記核酸分子が、前記プロモーター配列と作動可能に連結されたレポーター遺伝子配列をさらに含む、項目34に記載の組成物。
【0051】
(項目36)
前記レポータータンパク質コード配列が、発光タンパク質または蛍光タンパク質をコードする、項目35に記載の組成物。
【0052】
(項目37)
前記レポータータンパク質コード配列の下流にPEST配列コード配列が連結されている、項目35または36に記載の組成物。
【0053】
(項目38)
前記核酸分子が、直鎖状分子またはプラスミドである、項目26〜37のいずれか1項に記載の組成物。
【0054】
(項目39)
(a)前記核酸分子を、プロモーター配列と作動可能に連結された構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列を含む核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の前記レポータータンパク質の発現量と、(b)該核酸分子を、該Notchタンパク質コード配列を含まない核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の該レポータータンパク質の発現量とを比較したときの、Z’ factor値が0.5以上である、項目35〜37のいずれか1項に記載の組成物。
【0055】
(項目40)
Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないアルツハイマー病治療薬を選択するためのスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)項目17に記載の細胞と該候補物質とを接触させる工程;および
(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程
を包含する、方法。
【発明の効果】
【0056】
高感度にNotchシグナル伝達を測定できるレポーターコンストラクトは業界で待望されていたものであり、今までその感度の低さのために多くの現象を可視化することができなかったがその点で大きな改善が認められると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書の全体にわたり、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0058】
(1.少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子)
本発明の核酸分子は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む。本明細書中では、用語「RBP−Jκ結合配列」とは、配列TGGGAAをいう。本発明の核酸分子は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含むことにより、Notchシグナル伝達系のシグナルの検出が従来よりも優れた感度で行われ得る。本発明の核酸分子に含まれるRBP−Jκ結合配列の数は、少なくとも3個であれば任意の数であり得る。本発明の核酸分子は、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、またはそれより多くのRBP−Jκ結合配列を含み得る。本発明の核酸分子に含まれるRBP−Jκ結合配列の数に特に上限はない。例えば、本発明の核酸分子に含まれるRBP−Jκ結合配列の数は、100個以下、90個以下、80個以下、70個以下、60個以下、50個以下、40個以下、30個以下、20個以下、15個以下、10個以下などであり得る。特定の実施形態では、本発明の核酸分子に含まれるRBP−Jκ結合配列の数は、偶数個であることが好ましい。
【0059】
本発明の核酸分子において、RBP−Jκ結合配列のそれぞれは、核酸分子中に広くちらばって存在することも可能であるが、好ましくは比較的狭い範囲においてタンデムに連結されている。RBP−Jκ結合配列間にはある程度の長さの配列が挿入されていることが好ましい。RBP−Jκ結合配列間の配列は任意の配列であり得る。RBP−Jκ結合配列間の配列の長さは当業者によって任意に決定され得る。RBP−Jκ結合配列間の配列の長さは好ましくは5塩基以上であり、より好ましくは6塩基以上であり、さらに好ましくは7塩基以上であり、最も好ましくは8塩基以上である。RBP−Jκ結合配列間の配列の長さは好ましくは40塩基以下であり、より好ましくは35塩基以下であり、さらに好ましくは30塩基以下であり、特に好ましくは25塩基以下であり、最も好ましくは20塩基以下である。好ましい実施形態では、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列のそれぞれが、5塩基〜40塩基の塩基配列によりタンデムに連結されている。
【0060】
本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号1の配列を少なくとも2つ含む。ここで、配列番号1の配列は、TGGGAAXnTGGGAAであり、ここで、XはA、T、GまたはCを表し、nは5〜40を表す。配列番号1の配列は、RBP−Jκ結合配列を2つ含む。nは好ましくは6以上の整数であり、さらに好ましくは7以上の整数であり、最も好ましくは8以上の整数である。nは好ましくは40塩基以下の整数であり、より好ましくは35以下の整数であり、さらに好ましくは30以下の整数であり、特に好ましくは25以下の整数であり、最も好ましくは20以下の整数である。配列番号1の配列を1単位として含むことにより、奇数個のRBP−Jκ結合配列を含む場合よりもさらに優れた結果が得られる。
【0061】
本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号2の配列を少なくとも2つ含む。配列番号2の配列は、天然のHes−1プロモーターに含まれる配列であり、2つのRBP−Jκ結合配列を含む。
【0062】
本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号3の配列を含む。配列番号3の配列は、配列番号2の配列を2つタンデムに連結した配列である。
【0063】
本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号4の配列を含む。配列番号4の配列は、配列番号2の配列を3つタンデムに連結した配列である。
【0064】
本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号5の配列を含む。配列番号5の配列は、配列番号2の配列を4つタンデムに連結した配列である。
【0065】
本明細書においては配列番号2の配列を2〜4個タンデムに連結した配列を例示として記載したが、もちろん、連結する数に制限はない。例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、40、50個などの任意の数で連結することができる。
【0066】
配列番号3〜5は、同じ配列をタンデムに連結した配列の例であり、このような配列を用いることが本発明では好ましい。しかし、RBP−Jκ結合配列の間の配列は必ずしも同じである必要はなく、それぞれ異なり得る。
【0067】
本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号6の配列を含む。配列番号6の配列は、天然のTP−1プロモーターに含まれる、2つのRBP−Jκ結合配列を含む配列を12個タンデムに連結した配列である。本明細書においては、天然のTP−1プロモーターに含まれる、2つのRBP−Jκ結合配列を含む配列を12個タンデムに連結した配列を例示として用いたが、もちろん、連結する数に制限はない。例えば、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、40、50個などの任意の数で連結することができる。
【0068】
これらの天然のプロモーターから得られた塩基配列は例示であり、これらの配列とはわずかに異なる配列を有する改変体(いわゆる、対立遺伝子改変体)が天然に存在し得ることは公知である。本発明においては、RBP−Jκ配列を含みかつこれらの配列と同等以上の効果が得られる限り、これらの例示した配列以外にも、天然に存在する改変体も本発明の核酸分子に用い得る。
【0069】
天然のRBP−Jκ配列およびその周辺の配列を含む核酸分子は、既知のRBP−Jκ配列およびその周辺の配列を参考にしてプライマーを設計し、目的の天然配列を得ようとするゲノムライブラリーを鋳型としてPCRを行うことによって得ることができる。あるいは、既知の配列情報をもとに、ゲノムライブラリー作製をへることなく、化学合成により直接、天然のRBP−Jκ配列およびその周辺の配列を含む核酸分子を作製することも可能である。
【0070】
本発明の核酸分子はまた、RBP−Jκ配列を含みかつこれらの配列と同等以上の効果が得られる限り、RBP−Jκ配列の周辺の天然配列に対して何らかの改変(例えば、1または数個の改変)が加えられた配列を含んでもよい。このような改変は、少なくとも1個のヌクレオチドの欠失、トランジションおよびトランスバージョンを含む置換、または挿入からなる群より選択され得る。この変化は対照塩基配列の5’末端もしくは3’末端の位置で生じてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で生じてもよい。塩基の変化は、1塩基ずつ点在していてもよく、数塩基連続していてもよい。改変は、当該分野で周知の方法を用いて、例えば、部位特異的変異誘発法、変異原を用いた変異誘発法(対象遺伝子を亜硝酸塩などの変異剤で処理すること、紫外線処理を行うこと)、エラープローンPCRを行うことなどによって行われ得る。目的の変異を得やすい点から、部位特異的変異誘発を用いることが好ましい。部位特異的変異誘発を用いれば、目的とする部位で目的とする改変を導入することができるからである。あるいは、目的とする配列をもつ核酸分子を直接合成してもよい。そのような化学合成の方法は、当該分野において周知である。
【0071】
本発明の核酸分子は、直鎖状分子であっても環状分子であってもよい。本明細書において、用語「核酸分子」はまた、核酸、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。核酸分子の例としては、フラグメント、コンストラクト、カセット、プラスミド、ベクター、cDNA、mRNA、ゲノムDNAなどが挙げられる。本明細書では、核酸および核酸分子は、その核酸および核酸分子がタンパク質をコードするときなどは、用語「遺伝子」の概念に含まれる。ある遺伝子配列をコードする核酸分子はまた、「スプライス変異体」および「スプライス改変体」を包含する。スプライス変異体とスプライス改変体とは同義である。同様に、核酸によりコードされる特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を包含する。その名が示唆するように「スプライス変異体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされる場合がある。スプライス変異体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。
【0072】
本発明の核酸分子は、単離された核酸分子であることが好ましい。本明細書中では「単離された」核酸分子とは、その核酸分子が、天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸分子以外の因子および目的とする核酸分子以外の核酸分子)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸分子には、標準的な精製方法によって精製された核酸分子が含まれる。したがって、単離された核酸分子は、化学的に合成した核酸分子を包含する。また、標準的な精製方法によって精製した後に、他の物質と混合した核酸分子および緩衝液中に溶解した核酸分子なども、本明細書でいう単離された核酸分子に該当する。
【0073】
本明細書において「精製された」核酸分子とは、その核酸分子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された核酸分子におけるその核酸分子の純度は、その核酸分子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0074】
他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが意図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1もしくは数個、またはより多数の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
【0075】
本明細書において、ポリペプチド配列または塩基配列の「置換、欠失または付加」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、取り除かれることまたは付け加わることをいう。このような置換、欠失または付加の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、欠失または付加は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、欠失または付加を有する改変体において目的とする機能(例えば、RBP−Jκ結合活性、プロモーター活性、レポータータンパク質配列の場合、所望のレポータータンパク質活性など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。本発明で用いられるプロモーター配列は、プロモーター活性を保持する限り、任意の長さであり得る。このような配列は、例えば、もとのプロモーター配列の塩基配列を5’側または3’側から少しずつ欠失させ、プロモーター活性を保持しているかを確認することにより、容易に決定され得る。このようなプロモーター配列を短縮させる方法は、当業者に周知であり、容易に実施され得る。
【0076】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体、グリコシル化改変体、脂質化改変体、複合分子による改変体などが挙げられる。好ましくは、改変体は、改変のもととなる物質(例えば、酵素)の特性(例えば、生物学的特性)を少なくとも1つ、より好ましくは複数保持している。などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。そのような対立遺伝子変異体は、通常その対応する対立遺伝子と同一または非常に類似性の高い配列を有し、通常はほぼ同一の生物学的活性を有するが、まれに異なる生物学的活性を有することもある。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、当該分野で周知である。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトおよびマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが、ヒトのαヘモグロビン遺伝子およびβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。また、システインプロテアーゼインヒビターである、ヒトのシスタチンAと、イネのオリザシスタチンとを比較すると、標的となるプロテアーゼとの相互作用に重要と考えられる3箇所の短いアミノ酸モチーフが保存されているだけで、他の部分のアミノ酸の共通性は非常に低い。しかし、両者はともにシスタチン遺伝子スーパーファミリーに属し、共通祖先遺伝子を持つとされていることから、単に全体的なアミノ酸の相同性に限らず、局所的に高い相同性を持つアミノ酸配列が共通して存在する場合も、オルソログたり得る。このように、オルソログは、通常別の種においてもとの種と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、上記に列挙した、天然のRBP−Jκ結合配列を含む周辺配列(配列番号2および6)のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0077】
本発明の核酸分子は、直鎖状分子またはプラスミドであることが好ましい。本明細書において用語「プラスミド」とは、染色体に組み込まれず、染色体と異なる機構で複製および維持される環状核酸分子をいう。本発明の核酸分子は、ベクターであってもよい。
【0078】
本明細書において核酸分子について言及する場合、用語「ベクター」とは、目的の塩基配列を目的の細胞へと移入させることができる核酸分子をいう。そのようなベクターとしては、目的の細胞において自律複製が可能であるか、または目的の細胞の染色体中への組込みが可能で、かつ改変された塩基配列の転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。
【0079】
全長ヌクレオチドから一部のヌクレオチドが欠失したヌクレオチドおよび全長ポリペプチドから一部のアミノ酸が欠失したポリペプチドは、フラグメントとも呼ばれる。本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここに具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
【0080】
本明細書において用語「発現ベクター」とは、目的のタンパク質コード配列を目的の細胞中で発現し得るベクターをいう。発現ベクターは、目的のタンパク質コード配列に加えて、その発現を調節するプロモーターのような種々の調節エレメント、および必要に応じて、目的の細胞中での複製および組換え体の選択に必要な因子(例えば、複製起点(ori)、および薬剤耐性遺伝子のような選択マーカー)を含む。発現ベクター中では、目的のタンパク質コード配列は、転写および翻訳されるように作動可能に連結されている。調節エレメントとしては、プロモーター、ターミネーターおよびエンハンサーが挙げられる。また、発現されたタンパク質を細胞外へ分泌させることが意図される場合は、分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が、目的のタンパク質コード配列の上流に正しいリーディングフレームで結合される。特定の生物(例えば、細菌)に導入するために使用される発現ベクターのタイプ、その発現ベクター中で使用される調節エレメントおよび他の因子の種類が、目的の細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0081】
本明細書においてベクターの例としては、スクリーニングに用いる細胞において複製可能なベクター、および遺伝子実験に用いられる一般的な細菌(代表的なものとして大腸菌K12株由来の大腸菌株)で複製可能かつ単離精製可能なベクターが挙げられる。これは、目的の生物細胞(例えば、動物細胞)に導入する目的の核酸分子を構築するために必要である。具体的には、例えば、pGEM−T Vector(Promega社)、pGEM−T Easy(Promega社)、pGL4.18(luc2P/Neo)ベクター(Promega社)、pGL4.21(luc2P/Puro)ベクター(Promega社)、pGBT9(Clontech)、大腸菌のpBR322プラスミド、pUC18、pUC19、pBluescriptといった市販の構築プラスミドがある。エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法といった方法により直接的に遺伝子断片を細胞に導入して形質転換する場合には、このような市販されている一般的なプラスミドを用いて、導入する遺伝子の構築を行えばよい。
【0082】
発現ベクターは、発現カセットの中に、選択マーカーを含み得る。「発現カセット」とは、ある発現すべき塩基配列(例えば、構造遺伝子)と、その発現を調節するプロモーター配列、mRNA転写を終結させるターミネーター配列および必要に応じて他の種々の調節エレメントとを、目的の細胞中でその発現すべき塩基配列が作動し得る状態で連結してある、人工構築遺伝子の1単位を示す。発現カセットの代表例としては、目的の細胞のうちの形質転換された細胞のみを選択するための選択マーカー(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)の発現カセット、および宿主細胞内に発現させたい有用タンパク質コード配列の発現カセットが挙げられる。準備するべき発現カセットの種類、構造および数については、生物、宿主細胞および目的に応じて使い分けられるべきであり、その組み合わせは当業者には周知である。
【0083】
「発現ベクター」は、上記の「発現カセット」を1つ以上含み得る「ベクター」としても定義され得る。目的の細胞に導入をすべき発現カセットごとに別々のベクター上に配置してもよいし、1つのベクター上に全ての発現カセットを連結してもよい。例えば、本発明において、選択マーカーがさらに用いられる場合、少なくとも3つのRBP−Jκ配列、プロモーター配列およびそのプロモーター配列に作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列を含む発現カセットと、選択マーカーを含む発現カセットとは、同じ発現ベクター上に存在しても別の発現ベクター上に存在してもよい。同じ発現ベクター上に存在することが好ましい。より好ましくは、少なくとも3つのRBP−Jκ配列、プロモーター配列およびそのプロモーター配列に作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列を含む発現カセットと、選択マーカーを含む発現カセットとは、同じ発現カセット中に含まれる。
【0084】
本発明の核酸分子は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列と作動可能に連結されたプロモーター配列をさらに含み得る。
【0085】
本明細書において使用される用語「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、また転写頻度を直接的に調節する、核酸分子上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーター領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
【0086】
本明細書において使用される用語「プロモーター配列」とは、プロモーター活性を有する配列を意味する。プロモーター活性とは、DNAからRNAを転写させる活性をいう。したがって、「プロモーター配列」とは、その下流(3’側)にDNAを連結して細胞に導入した場合にそのDNAに対応するRNAを合成できる配列をいう。
【0087】
本発明で用いられるプロモーター配列の長さは、通常約10ヌクレオチド以上であるが、好ましくは約20ヌクレオチド以上であり、より好ましくは約30ヌクレオチド以上であり、さらに好ましくは約40ヌクレオチド以上であり、特に好ましくは約50ヌクレオチド以上である。プロモーター配列の長さはまた、約60ヌクレオチド以上、約70ヌクレオチド以上、約80ヌクレオチド以上、約90ヌクレオチド以上、約100ヌクレオチド以上、約150ヌクレオチド以上、約200ヌクレオチド以上、または約300ヌクレオチド以上などの長さであり得る。プロモーター配列の長さに上限はなく、例えば、約500ヌクレオチド以下、約400ヌクレオチド以下、約300ヌクレオチド以下、約200ヌクレオチド以下、約150ヌクレオチド以下、約100ヌクレオチド以下、約90ヌクレオチド以下、約80ヌクレオチド以下、約70ヌクレオチド以下、約60ヌクレオチド以下、約50ヌクレオチド以下などであり得る。
【0088】
本発明で用いられるプロモーター配列は、従来のプロモーター配列(例えば、ミニマムプロモーター)で有り得る。プロモーター配列は、構成的プロモーター配列であってもよく、組織特異的プロモーター配列であってもよく、時期特異的プロモーター配列であってもよい。プロモーター配列は、本発明の核酸分子の使用目的に応じて適切に選択され得る。本発明で用いられるプロモーターの好ましい例としては、Hes−1プロモーター、ウサギβ−グロビン最少プロモーターが挙げられる。
【0089】
本明細書において、あるプロモーターの発現が「構成的」であるとは、そのプロモーターと作動可能に連結されたコード配列の発現が、生物のすべての組織において、その生物の生長の幼若期または成熟期のいずれにあってもほぼ一定の量で発現される性質をいう。具体的には、そのコード配列の発現を分析したとき、例えば、任意の時点で(例えば、2点以上)の同一または対応する部位のいずれにおいても発現がみられるとき、本発明の定義上、発現が構成的であるという。構成的プロモーターは、通常の生育環境にある生物の恒常性維持に役割を果たしていると考えられる。
【0090】
本明細書において、プロモーターの発現が「組織特異的」であるとは、そのプロモーターと作動可能に連結されたコード配列の発現が、生物の特定の組織においてのみ見られる性質をいう。具体的には、そのコード配列の発現を分析したとき、例えば、T細胞では発現が見られるが他の細胞では発現が見られないならば、T細胞特異的に発現されているといえる。
【0091】
本明細書において、プロモーターの発現が「時期特異的」であるとは、そのプロモーターと作動可能に連結されたコード配列の発現が、発生の特定の時期においてのみ見られる性質をいう。具体的には、そのコード配列の発現を分析したとき、例えば、細胞分裂中には発現が確認されるが他の時期には発現が見られないならば、細胞分裂特異的に発現されているといえる。
【0092】
本明細書において使用される「ターミネーター」は、タンパク質コード領域の下流に位置し、塩基配列がmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターは、任意の生物由来のターミネーターであり得るが、好ましくは、選択マーカーが導入されるべき生物由来のターミネーターである。本発明では、目的の生物においてターミネーターの活性を示すものであれば、どのような塩基配列でも使用することができる。
【0093】
本明細書において使用される「エンハンサー」は、目的のタンパク質の発現効率を高めるために用いられ得る。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが、1個用いられてもよいし、用いなくともよい。エンハンサーは、任意の生物由来のエンハンサーであり得るが、好ましくは、選択マーカーが導入されるべき生物由来のエンハンサーである。本発明では、目的の生物においてエンハンサーの活性を示すものであれば、どのような塩基配列でも使用することができる。
【0094】
本明細書中では、「イントロン」とは、任意の2つのエキソンの間に存在する塩基配列であって、RNAに転写されるが、成熟後のRNAには見られない塩基配列をいう。イントロンは、存在することによって、ポリペプチドの発現量を増大させる作用を有する場合がある。イントロンは、任意の生物由来のイントロンであり得るが、好ましくは、選択マーカーが導入されるべき生物由来のイントロンである。本発明では、目的の生物においてイントロンの活性を示すものであれば、どのような塩基配列でも使用することができる。
【0095】
本明細書中では、「エキソン」とは、RNAに転写され、かつポリペプチドへと翻訳される塩基配列をいう。
【0096】
本明細書において使用される「作動可能に連結された(る)」とは、所望の塩基配列が、発現(すなわち、作動)をもたらす転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列(例えば、イントロン、スプライスドナー、スプライスアクセプターなど)の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0097】
少なくとも3つのRBP-Jκ配列とプロモーター配列とを作動可能に連結するため、またはプロモーター配列とレポータータンパク質コード配列とを作動可能に連結するために、これらのいずれかの核酸配列を加工すべき場合がある。例えば、プロモーターとレポータータンパク質コード配列との間が長すぎて転写効率の低下が予想される場合、またはリボゾーム結合部位と翻訳開始コドンとの間隔が適切でない場合などである。加工の手段としては、制限酵素による消化、Bal31、ExoIIIなどのエキソヌクレアーゼによる消化、あるいはM13などの一本鎖DNAまたはPCRを使用した部位特異的変異誘発の導入が挙げられる。
【0098】
本発明の核酸分子は、プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含み得る。「レポータータンパク質」とは、その発現を確認することが容易であるタンパク質をいう。レポータータンパク質は、そのレポータータンパク質を発現する細胞に対して悪影響を及ぼさないことが好ましい。レポータータンパク質は、細胞を破壊せずに発現を確認できることが好ましい。レポータータンパク質コード配列は、一般に、プロモーター活性を確認したいプロモーターの下流に連結される。種々のレポータータンパク質が当該分野で公知であり、当業者は目的にあった適切なレポータータンパク質を容易に選択し得る。レポータータンパク質の例としては、発光タンパク質(すなわち、ルシフェラーゼ)、蛍光タンパク質、β−グルクロニダーゼ、レポータータンパク質コード配列は、発光タンパク質または蛍光タンパク質をコードすることが好ましい。レポータータンパク質は、天然のものであってもよく、天然のものが改変されることにより得られたものであってもよい。天然のレポータータンパク質の性質が改良された種々のレポータータンパク質が公知である。
【0099】
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。
【0100】
レポータータンパク質は、レポーターとしての機能を発揮し得るのであれば、任意の長さのアミノ酸ポリマーであり得る。例えば、3、4、5、6、7、8、9、10残基長などの短いポリマーであってもよい。
【0101】
一般に、特定のタンパク質のアミノ酸配列のうちのあるアミノ酸は、そのタンパク質が有する生物学的活性の明らかな低下または消失なしに、他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的活性を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がそのタンパク質のアミノ酸配列において、またはそのタンパク質をコードする塩基配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的活性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたタンパク質またはこのタンパク質をコードする塩基配列を有するヌクレオチドにおいて行われ得る。
【0102】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、タンパク質または核酸分子)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。例えば、ある因子がアンチセンス分子である場合、その生物学的活性は、対象となる核酸分子への結合、それによる発現抑制などを包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。ある因子がプロモーターである場合、その生物学的活性は、標的となる遺伝子の転写がそのプロモーターに特異的な刺激によって変動(好ましくは上昇)することを確認することができる。そのような確認は、当該分野において周知の分子生物学的手法を用いて行うことができる。
【0103】
本明細書中では一般に、レポータータンパク質に対して、アミノ酸の置換、付加、欠失または修飾を行うことができる。
【0104】
アミノ酸の置換とは、1つのアミノ酸を別の1つのアミノ酸に置き換えることをいう。得られるレポータータンパク質が、天然のレポータータンパク質の活性と実質的に同等以上のレポータータンパク質活性を有する限り、アミノ酸の置換は、任意の箇所で任意の個数行われ得る。例えば、置換は、好ましくは1〜30個行われ得、より好ましくは1〜20個行われ得、さらに好ましくは1〜10個行われ得、特に好ましくは1〜5個行われ得、最も好ましくは1〜3個行われ得る。アミノ酸の置換は、1残基ずつ点在していてもよく、2残基以上連続していてもよい。特に、置換がN末端またはC末端で行われる場合、他の箇所に比較して活性への影響が少ないので、他の箇所への置換より多くのアミノ酸残基を置換してもよい。
【0105】
アミノ酸の付加とは、もとのアミノ酸配列中のどこかの位置に、1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を挿入することをいう。1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸を挿入することをいう。アミノ酸の付加もまた、1残基ずつ点在していてもよく、2残基以上連続していてもよい。アミノ酸の付加はまた、特に、N末端またはC末端で行われる場合、他の箇所に比較して活性への影響が少ないので、他の箇所への付加より多くのアミノ酸残基を付加してもよい。例えば1〜100個、より好ましくは1〜50個、さらにより好ましくは1〜30個、特に好ましくは5〜30個、最も好ましくは5〜10個のアミノ酸残基を付加してもよい。
【0106】
アミノ酸の欠失とは、もとのアミノ酸配列から1つ以上、例えば、1〜30個、より好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸を除去することをいう。アミノ酸の欠失もまた、1残基ずつ点在していてもよく、2残基以上連続していてもよい。特に、欠失がN末端またはC末端で行われる場合、他の箇所に比較して活性への影響が少ないので、他の箇所への欠失より多くのアミノ酸残基を欠失してもよい。
【0107】
アミノ酸修飾の例としては、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などが挙げられるが、これらに限定されない。置換または付加されるアミノ酸は、通常、天然のアミノ酸である。
【0108】
用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体である。
【0109】
このような発現されるレポータータンパク質は、天然のレポータータンパク質のアミノ酸配列に対して、好ましくは約40%、より好ましくは約45%、より好ましくは約50%、より好ましくは約55%、より好ましくは約60%、より好ましくは約65%、より好ましくは約70%、より好ましくは約75%、より好ましくは約80%、より好ましくは約85%、より好ましくは約90%、より好ましくは約95%、そして最も好ましくは約99%の同一性を有する。
【0110】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
【0111】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として実質的に同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において実質的に等価なタンパク質)を生じさせ得ることは、当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0112】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換が挙げられるがこれらに限定されない:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン。
【0113】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
【0114】
本発明の核酸分子においては、レポータータンパク質コード配列の下流にPEST配列コード配列が連結されていることが好ましい。本明細書において用語「PEST配列」とは、プロリン−グルタミン酸−セリン−トレオニンに富むアミノ酸配列をいう。PEST配列は、配列自体およびその長さに特異性はない。PEST配列は、その配列が融合されたタンパク質の細胞内での半減期を短縮させる機能を有する。PEST配列をレポータータンパク質と融合させると、レポータータンパク質の細胞内での過度の蓄積を防ぐことができ、その結果、レポータータンパク質のリアルタイムの測定を行うことができる。
【0115】
PEST配列コード配列の下流またはPEST配列コード配列を含まない場合にはレポータータンパク質コード配列の下流に、選択マーカーの配列がさらに連結され得る。本明細書において用語「選択マーカーの配列」とは、選択遺伝子と同義であり、その選択マーカーがコードする産物の発現によって、選択マーカーが存在する細胞と存在しない細胞とを識別することができる、ヌクレオチドをいう。
【0116】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、タンパク質などの「発現」とは、その遺伝子などがインビトロまたはインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、タンパク質をコードする配列などが、転写および翻訳されて、タンパク質の形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一形態であり得る。より好ましくは、そのようなタンパク質の形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0117】
従って、本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」の「減少」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に減少することをいう。好ましくは、発現の減少は、ポリペプチドの発現量の減少を含む。本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、タンパク質などの「発現」の「増加」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に増加することをいう。好ましくは、発現の増加は、タンパク質の発現量の増加を含む。
【0118】
(2.Notchシグナル伝達系の検出をさらに容易にするための配列)
本発明においては、Notchシグナル伝達系の検出をさらに容易にするための配列をさらに用いてもよい。この配列は、例えば、構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列であり得る。「構成的に活性なNotchタンパク質」とは、活性化を受けなくとも常に活性であって、下流にシグナルを伝えるNotchタンパク質をいう。Notchタンパク質は通常、デルタタンパク質の存在下で活性型になるが、構成的に活性なNotchタンパク質は、デルタタンパク質が存在する必要がない。構成的に活性なNotchタンパク質は、活性型Notch、活性型Notchタンパク質、恒常的に活性なNotchなどともいわれる。
【0119】
構成的に活性なNotchタンパク質の例としては、CC>SS、細胞外ドメイン欠損NOTCH、F−NEXT、NotchΔE、T−ALL変異含有Notchなどが挙げられるがこれらに限定されない。CC>SSは、LNRmNotch1のヘテロダイマー形成部分である1675位のシステインをセリンに、1682位のシステインをセリンに置換したもの(すなわち、C1675S,C1682Sにしたもの)である。CC>SSは、Mumm JS,Schroeter EH,Saxena MT,Griesemer A,Tian X,Pan DJ,Ray WJ,Kopan R.,”A ligand−induced extracellular cleavage regulates gamma−secretase−like proteolytic activation of Notch1.”Mol Cell.2000 Feb;5(2):197−206およびKopan R,Schroeter EH,Weintraub H,Nye JS.,”Signal transduction by activated mNotch:importance of proteolytic processing and its regulation by the extracellular domain.”Proc Natl Acad Sci U S A.1996 Feb 20;93(4):1683−8に記載される。細胞外ドメイン欠損NOTCHは、Notchの細胞外ドメイン部分を欠損したものであり、ΔNS1ともいう。細胞外ドメイン欠損NOTCHの核酸配列を配列番号7に示し、そのアミノ酸配列を配列番号8および図5に示す。細胞外ドメイン欠損NOTCHは、シグナルシークエンス+S1+S2+S3+S4サイトをもつ。F−NEXTはOkochi et al., Presenilins mediate a dual intramembranous gamma−secretase cleavage of Notch−1. EMBO J. 2002 Oct 15;21(20):5408−16.に記載される。NotchΔEはKopan et al., Signal transduction by activated mNotch: importance of proteolytic processing and its regulation by the extracellular domain. Proc Natl Acad Sci U S A. 1996 Feb 20;93(4):1683−8.に記載される。T−ALL変異含有NotchはWeng et al., Activating mutations of NOTCH1 in human T cell acute lymphoblastic leukemia. Science. 2004 Oct 8;306(5694):269−71.に記載される。
【0120】
構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列は、プロモーター配列と作動可能に連結されることが好ましい。プロモーター配列については上記に説明したのと同様である。構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列に連結されるプロモーター配列は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列に連結されるプロモーター配列と同じ配列を有してもよく、異なる配列を有してもよく、同じ配列であっても異なる配列であってもよい。。
【0121】
構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列には、必要に応じて、ターミネーター、エンハンサーなどの他の発現調節エレメントが連結され得る。
【0122】
構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列を含む核酸分子は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子と別の分子であってもよく、同じ分子であってもよい。別の分子であることが好ましい。
【0123】
本発明の核酸分子は、好ましくは、プロモーター配列と作動可能に連結された構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列を含む核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の前記レポータータンパク質の発現量と、該Notchタンパク質コード配列を含まない核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の該レポータータンパク質の発現量とを比較したときの、Z’ factor値が0.5以上である。
【0124】
Z’factor値は、アッセイ精度に関する指標である。Z’factor値については、Ji−Hu Zhang et al.,J.Biomol.Screen.5,67−73,1999に詳細に説明されている。Z’factor値(Z’)は、以下の式に従って求められる。
【0125】
【数1】
Z’factor値の計算式およびその概念図を図6(a)に示す。Z’factor値を説明するために模式的なデータの例を、図6(b)および図6(c)に示す。図6(b)は、S/B=10でかつZ’=0.4の場合のデータ例であり、図6(c)は、S/B=2でかつZ’=0.8の場合のデータ例である。それぞれ、縦軸はカウント数を示し、横軸はサンプル番号を示す。図6(b)および図6(c)からわかるように、S/Bが比較的大きくてもZ’が小さいとデータはばらつき、S/Bが比較的小さくてもZ’が大きければデータのばらつきは小さい。Z’factor値は好ましくは0.50以上であり、より好ましくは0.55以上であり、さらに好ましくは0.60以上であり、特に好ましくは0.65以上であり、ことさら好ましくは0.70以上であり、さらになお好ましくは0.8以上である。Z’factor値の上限は1である。Z’factor値が高いほどアッセイ精度が高い。ハイスループットスクリーニングを行うためには、Z’factor値が0.50以上であることが好ましい。
【0126】
(3.本発明の核酸分子を含む細胞)
本発明の細胞は、本発明の核酸分子を含む。本発明の細胞は、好ましくは、Notchシグナル伝達が容易に活性化される細胞を含む。本発明の細胞は、任意の生物の細胞であり得る。本発明の細胞は、好ましくは動物細胞であり、より好ましくは哺乳動物細胞であり、さらに好ましくは霊長類の細胞であり、最も好ましくはヒト細胞である。本発明の細胞は好ましくは単離された細胞である。本発明の細胞として用いるのに好ましい細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、CHO細胞などが挙げられる。HEK293細胞は、ヒト胎児腎細胞をアデノウィルスのE1遺伝子により形質転換することにより樹立された細胞株である。あるいは、細胞は、Notchシグナル伝達系についての調査が望ましい細胞であり得る。例えば、患者由来の細胞であり得る。本発明の細胞は、これまでに樹立された細胞株から作製されてもよく、あるいは患者、被験者などから採取された細胞から作製されてもよい。
【0127】
Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニングにおいて本発明の細胞を用いることが意図される場合、この細胞において、少なくとも3つのRBP−Jκ配列を含む核酸分子は、プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含むことが好ましい。このような場合、本発明の細胞は、内因性のNotchタンパク質を発現する細胞であってもよく、または構成的に活性なNotchタンパク質を発現する細胞であってもよい。特定の実施形態では、内因性のNotchタンパク質を発現する細胞であることが好ましい。内因性のNotchタンパク質を発現する細胞であれば、Notchシグナル伝達系の調節活性をさらにより正確に調べることができる。別の実施形態では、構成的に活性なNotchタンパク質を発現する細胞であることが好ましい。構成的に活性なNotchタンパク質を発現する細胞であれば、レポータータンパク質の発現量が非常に多くなるという利点を有する。
【0128】
本発明の細胞は、本発明の核酸分子を目的の細胞に導入することによって得られ得る。
【0129】
本発明の核酸分子を導入する細胞(宿主ともいう)の例としては、原核生物および真核生物が挙げられる。核酸分子を導入する細胞は、内因性のNotchタンパク質を発現するか否か、レポータータンパク質の発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。
【0130】
本発明の方法において、本発明の核酸分子を細胞に導入する技術は、当該分野で公知の任意の技術であり得る。また、個々の細胞に対してではなく、組織、器官に対して導入してもよい。このような技術の例としては、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。例えば、リポフェクトアミンを用いるリポフェクションによって行われてもよい。核酸分子の生物細胞への導入は、一過的(トランジェント)であっても恒常的であってもよい。一過性または恒常性の遺伝子導入の技術はそれぞれ当該分野において周知である。本発明において用いられる細胞を分化させる技術もまた当該分野において周知である。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0131】
「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生物体の全部または一部をいう。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
【0132】
本発明の細胞において、本発明の核酸分子(すなわち、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子)は、細胞の染色体に導入されていても、導入されていなくてもよい。
【0133】
形質転換処理をする際には、必要により、選択マーカーの配列が使用される。選択マーカーとその選択マーカーに適切な選択因子(例えば、抗生物質、色素など)とを組合せて用いることにより、形質転換処理が施された細胞の中から、本発明の核酸分子が導入された細胞をより効率よく選択することができる。しかし、この工程は、本発明において必ずしも必須というわけではない。このような選択方法は、導入された核酸分子が有する選択マーカーの特性によって変動し、例えば、抗生物質(例えば、ネオマイシン(Neomycin)、ピューロマイシン(Puromycin)など)に対する耐性遺伝子が選択マーカーとして導入された場合は、その特定の抗生物質を用いて目的の細胞を選択することができる。あるいは、選択マーカーとして標識遺伝子(例えば、グリーン蛍光遺伝子など)を用いれば、そのような標識を目安に目的の細胞を選択することができる。ただし、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列に連結するレポータータンパク質と選択マーカーとは異なるものであることが好ましい。あるいは、外来遺伝子そのものが表現型に識別可能な差異を生じさせる場合は、そのような差異を目安に遺伝子導入細胞を選択してもよい。そのような識別可能な差異としては、例えば、色素の発現の有無などがあるがそれに限定されない。
【0134】
本発明の細胞は、組織を形成していない、単なる細胞として用いられてもよく、あるいは、組織、器官および生物体へと分化したものであってもよい。
【0135】
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、器官の一部であり得る。器官内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。通常「組織」は、同じ起源を有するが、異なる起源を持つ細胞集団であっても、同一の機能および/または形態を有するのであれば、組織と呼ばれ得る。通常、組織は、器官の一部を構成する。
【0136】
本明細書において、「器官」とは、1つ独立した形態をもち、1種以上の組織が組み合わさって特定の機能を営む構造体を形成したものをいう。本発明が対象とする器官はどのような器官でもよく、また本発明が対象とする組織または細胞は、生物のどの器官に由来するものでもよい。一般に多細胞生物(例えば、動物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。本発明の器官は、当該分野で周知の形質転換方法に従って作出された細胞を用いて、当該分野で公知の方法に従って組織分化させ、そして器官を形成させることによって入手され得る。
【0137】
本明細書において「生物体」とは、当該分野における最も広義に用いられ、生命現象を営むものをいい、代表的には、細胞構造、増殖(自己再生産)、成長、調節性、物質代謝、修復能力など種々の特性を有し、通常、核酸のつかさどる遺伝と、タンパク質のつかさどる代謝の関与する増殖を基本的な属性として有する。生物には、原核生物、真核生物(植物、動物など)などが包含される。好ましくは、本発明では、生物は、動物であり得る。本発明の生物体は、当該分野で周知の形質転換方法に従って作出された細胞を用いて、当該分野で公知の方法に従って再分化させることによって入手され得る。あるいは、本発明の生物体は、当該分野で周知の形質転換方法に従って作出された細胞を再分化させ、形質転換個体を得て、その個体を交配することによって得た子孫から得られる生物体であり得る。
【0138】
(4.Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法)
本発明によれば、Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法が提供される。この方法は、(a)本発明の細胞と候補物質とを接触させる工程;および(b)この細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程を包含する。
【0139】
このスクリーニング方法において、候補物質は任意の物質であり得る。候補物質は例えば、化学的に合成された化合物であってもよく、天然から抽出された物質であってもよく、天然から抽出された物質を修飾することにより得られる物質であってもよい。候補物質は、種々の化合物ライブラリーであってもよい。
【0140】
候補物質は直接細胞に添加されてもよいが、利便性の面から、候補物質は例えば、溶液中に溶解され、この溶液を細胞に添加することによって、本発明の細胞と接触し得る。
【0141】
スクリーニングは、任意のフォーマットで行われ得る。例えば、96ウェルプレートのような多穴プレートの各ウェルに細胞を入れ、この細胞に、候補物質を含む溶液を添加することによって、本発明の細胞と候補物質とを接触させ得る。次いで、これらの各ウェル中でのレポータータンパク質の発現量が測定され得る。本発明のスクリーニングはインビトロまたはインビボのいずれで行ってもよいが、好ましくはインビトロで行われる。
【0142】
より好ましい実施形態では、本発明の、Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法は、(a’)本発明の細胞中での前記レポータータンパク質の発現量を測定する工程;(b’)該細胞と候補物質とを接触させる工程;(c’)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(d’)工程(c’)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a’)での該レポータータンパク質の発現量よりも増加したかまたは減少した場合、該候補物質をNotchシグナル伝達系を調節する物質として選択する工程を包含する。
【0143】
工程(a’)で発現量を測定する代わりに、細胞と、候補物質を含まないコントロール溶液とを接触させた場合のレポータータンパク質の発現量を測定してもよい。この場合の本発明のスクリーニング方法は、(a”)候補物質の存在下での本発明の細胞中でのレポータータンパク質の発現量を測定する工程;(b”)候補物質の非存在下での本発明の細胞中でのレポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(c”)工程(a”)での発現量と工程(b”)での発現量とを比較する工程を包含する。
【0144】
このようにして、候補物質の存在下と非存在下とでレポータータンパク質の発現量が変化(すなわち、増加または減少)した場合、その候補物質は、Notchシグナル伝達系を調節する物質である。
【0145】
本発明のスクリーニング方法を用いて、Notchシグナル伝達系を調節する物質を選択するだけでなく、Notchシグナル伝達系に実質的に影響を与えない物質を選択することもできる。本明細書において「Notchシグナル伝達系に実質的に影響を与えない物質」とは、その物質の存在下と非存在下とでのレポータータンパク質の発現量が実質的に同じである物質をいう。「発現量が実質的に同じである」とは、その物質の非存在下での発現量を100%としたときの10μMのその物質の存在下での発現量が、80%より高く120%以下であることをいう。
【0146】
レポータータンパク質が発光タンパク質である場合、その発現量は、特定の波長の光を測定することにより測定され得る。特定の発光タンパク質についての特徴的な波長は当業者に公知であり、その測定方法もまた当業者に公知である。
【0147】
レポータータンパク質が蛍光タンパク質である場合、その発現量は、適切な波長の光を細胞に当てて蛍光タンパク質を励起し、特定の波長の発光を測定することにより測定され得る。特定の蛍光タンパク質についての特徴的な波長は当業者に公知であり、その測定方法もまた当業者に公知である。
【0148】
レポータータンパク質が他の特性を有するタンパク質である場合もそのレポータータンパク質についての発現量の測定法は当業者に公知であり、適切に選択され得る。
【0149】
特に好ましい実施形態では、本発明の方法において工程(c’)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a’)での該レポータータンパク質の発現量よりも増加した場合、あるいは、工程(a”)での該レポータータンパク質の発現量が工程(b”)での該レポータータンパク質の発現量よりも増加した場合、この候補物質をNotchシグナル伝達系の活性化剤として選択する。好ましくは、Notchシグナル伝達系の活性化剤は、その物質の非存在下での発現量を100%としたときの10μMのその物質の存在下での発現量が、120%以上である物質であり、より好ましくは約150%以上である物質であり、さらに好ましくは約200%以上である物質であり、特に好ましくは約300%以上である物質である。Notchシグナル伝達系の活性化剤は例えば、その物質の非存在下での発現量を100%としたときの10μMのその物質の存在下での発現量が、約500%以下である物質であり、より好ましくは約400%以下である物質であり、さらに好ましくは約300%以下である物質であり、特に好ましくは約200%以下である物質である。Notchシグナル伝達系の活性化剤は、例えば、Notchシグナル伝達が抑制された状態を改善するための薬剤として有用である。
【0150】
特に好ましい実施形態では、本発明の方法において工程(c’)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a’)での該レポータータンパク質の発現量よりも減少した場合、あるいは、工程(a”)での該レポータータンパク質の発現量が工程(b”)での該レポータータンパク質の発現量よりも減少した場合、この候補物質をNotchシグナル伝達系の抑制剤として選択する。好ましくは、Notchシグナル伝達系の抑制剤は、その物質の非存在下での発現量を100%としたときの10μMのその物質の存在下での発現量が、80%以下である物質であり、より好ましくは約70%以下である物質であり、さらに好ましくは約60%以下である物質であり、特に好ましくは約50%以下である物質である。Notchシグナル伝達系の抑制剤は例えば、その物質の非存在下での発現量を100%としたときの10μMのその物質の存在下での発現量が、約10%以上である物質であり、より好ましくは約20%以上である物質であり、さらに好ましくは約30%以上である物質であり、特に好ましくは約40%以上である物質である。Notchシグナル伝達系の抑制剤は、例えば、癌などのNotchシグナル伝達が異常に活性化された状態を改善するための薬剤(すなわち、例えば、抗癌剤)として有用である。
【0151】
(5.γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法)
本発明によれば、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法が提供される。
【0152】
γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法は、(a)本発明の細胞と該候補物質とを接触させる工程;および(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程を包含する。
【0153】
このスクリーニング方法において、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質は任意の物質であり得る。γ−セクレターゼ阻害薬候補物質は例えば、化学的に合成された化合物であってもよく、天然から抽出された物質であってもよく、天然から抽出された物質を修飾することにより得られる物質であってもよい。候補物質は、種々の化合物ライブラリーであってもよい。
【0154】
γ−セクレターゼ阻害薬候補物質は直接細胞に添加されてもよいが、利便性の面から、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質は例えば、溶液中に溶解され、この溶液を細胞に添加することによって、本発明の細胞と接触し得る。
【0155】
スクリーニングは、任意のフォーマットで行われ得る。例えば、96ウェルプレートのような多穴プレートの各ウェルに細胞を入れ、この細胞に、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質を含む溶液を添加することによって、本発明の細胞とγ−セクレターゼ阻害薬候補物質とを接触させ得る。次いで、これらの各ウェル中でのレポータータンパク質の発現量が測定され得る。本発明のスクリーニングはインビトロまたはインビボのいずれで行ってもよいが、好ましくはインビトロで行われる。
【0156】
より好ましい実施形態では、本発明の、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法は、(a’)本発明の細胞中での前記レポータータンパク質の発現量を測定する工程;(b’)該細胞と候補物質とを接触させる工程;(c’)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(d’)工程(c’)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a’)での該レポータータンパク質の発現量と実質的に同じである場合、該候補物質をNotchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬として選択する工程を包含する。
【0157】
工程(a’)で発現量を測定する代わりに、細胞と、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質を含まないコントロール溶液とを接触させた場合のレポータータンパク質の発現量を測定してもよい。この場合の本発明のスクリーニング方法は、(a”)候補物質の存在下での本発明の細胞中でのレポータータンパク質の発現量を測定する工程;(b”)候補物質の非存在下での本発明の細胞中でのレポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(c”)工程(a”)での発現量と工程(b”)での発現量とを比較する工程を包含する。
【0158】
このようにして、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質の存在下と非存在下とでレポータータンパク質の発現量が減少した場合、その候補物質は、Notchシグナル伝達系を抑制する物質であり、レポータータンパク質の発現量が変化しないかまたは増加した場合、その候補物質は、Notchシグナル伝達系を抑制しない物質である。
【0159】
好ましくは、γ−セクレターゼ阻害薬は、Notchシグナル伝達系を実質的に抑制しない物質である。「Notchシグナル伝達系を実質的に抑制しない物質」とは、その物質の存在下でのレポータータンパク質の発現量が、その物質の非存在下でのレポータータンパク質の発現量と実質的に同じであるかまたは多い物質をいう。さらに好ましくは、γ−セクレターゼ阻害薬は、Notchシグナル伝達系に実質的に影響を与えない物質である。好ましくは、γ−セクレターゼ阻害薬は、この物質の非存在下での発現量を100%としたときのこの物質の存在下での発現量が、80%〜約120%である物質であり、より好ましくは約90%〜約110%である物質である。
【0160】
本発明のスクリーニング方法を用いることにより、アルツハイマー病治療薬候補であるγ−セクレターゼ阻害薬の副作用の検討を行うことができる。本発明のスクリーニング方法によれば、このような検討を、特に、ハイスループットスクリーニング(high through−put screening)によって行うことができるという顕著な効果を有する。
【0161】
本発明のスクリーニング方法を用いることにより、Notchシグナル伝達阻害型抗がん剤の主作用の検討を行うことができる。本発明のスクローニング方法によれば、このような検討を、特に、ハイスループットスクリーニングによって行うことができるという顕著な効果を有する。
【0162】
(6.Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないアルツハイマー病治療薬を選択するためのスクリーニング方法)
本発明によれば、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないアルツハイマー病治療薬を選択するためのスクリーニング方法が提供される。
【0163】
Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないアルツハイマー病治療薬を選択するためのスクリーニング方法は、(a)本発明の細胞と該候補物質とを接触させる工程;および(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程を包含する。
【0164】
このスクリーニング方法において、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質は、Aβ42の産生を抑制する任意の物質であり得る。Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質は例えば、化学的に合成された化合物であってもよく、天然から抽出された物質であってもよく、天然から抽出された物質を修飾することにより得られる物質であってもよい。候補物質は、種々の化合物ライブラリーであってもよい。
【0165】
Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質は直接細胞に添加されてもよいが、利便性の面から、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質は例えば、溶液中に溶解され、この溶液を細胞に添加することによって、本発明の細胞と接触し得る。
【0166】
スクリーニングは、任意のフォーマットで行われ得る。例えば、96ウェルプレートのような多穴プレートの各ウェルに細胞を入れ、この細胞に、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質を含む溶液を添加することによって、本発明の細胞とAβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質とを接触させ得る。次いで、これらの各ウェル中でのレポータータンパク質の発現量が測定され得る。本発明のスクリーニングはインビトロまたはインビボのいずれで行ってもよいが、好ましくはインビトロで行われる。
【0167】
より好ましい実施形態では、本発明の、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないアルツハイマー病治療薬を選択するためのスクリーニング方法は、(a’)本発明の細胞中での前記レポータータンパク質の発現量を測定する工程;(b’)該細胞と候補物質とを接触させる工程;(c’)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(d’)工程(c’)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a’)での該レポータータンパク質の発現量と実質的に同じである場合、該候補物質をNotchシグナル伝達系を抑制しないAβ42産生阻害薬として選択する工程を包含する。
【0168】
工程(a’)で発現量を測定する代わりに、細胞と、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質を含まないコントロール溶液とを接触させた場合のレポータータンパク質の発現量を測定してもよい。この場合の本発明のスクリーニング方法は、(a”)候補物質の存在下での本発明の細胞中でのレポータータンパク質の発現量を測定する工程;(b”)候補物質の非存在下での本発明の細胞中でのレポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(c”)工程(a”)での発現量と工程(b”)での発現量とを比較する工程を包含する。
【0169】
このようにして、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質の存在下と非存在下とでレポータータンパク質の発現量が減少した場合、その候補物質は、Notchシグナル伝達系を抑制する物質であり、レポータータンパク質の発現量が変化しないかまたは増加した場合、その候補物質は、Notchシグナル伝達系を抑制しない物質である。
【0170】
好ましくは、この候補物質は、Notchシグナル伝達系を実質的に抑制しない物質である。「Notchシグナル伝達系を実質的に抑制しない物質」とは、その物質の存在下でのレポータータンパク質の発現量が、その物質の非存在下でのレポータータンパク質の発現量と実質的に同じであるかまたは多い物質をいう。さらに好ましくは、アルツハイマー病治療薬は、Notchシグナル伝達系に実質的に影響を与えない物質である。好ましくは、アルツハイマー病治療薬は、この物質の非存在下での発現量を100%としたときのこの物質の存在下での発現量が、約80%〜約120%である物質であり、より好ましくは約90%〜約110%である物質である。
【0171】
本発明のスクリーニング方法を用いることにより、アルツハイマー病治療薬候補であるAβ42産生抑制薬の副作用の検討を行うことができる。本発明のスクリーニング方法によれば、このような検討を、特に、ハイスループットスクリーニング(high through−put screening)によって行うことができるという顕著な効果を有する。本発明のスクリーニング方法を用いることにより、Aβ42の産生を抑制しながらも、Notchシグナル伝達に実質的に影響を与えないアルツハイマー病治療薬を得ることができる。
【0172】
本発明のスクリーニング方法を用いることにより、Notchシグナル伝達阻害型抗がん剤の主作用の検討を行うことができる。本発明のスクローニング方法によれば、このような検討を、特に、ハイスループットスクリーニングによって行うことができるという顕著な効果を有する。
【0173】
(7.キット)
本発明によれば、Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法において使用するためのキットが提供される。このキットは、本発明の細胞およびレポータータンパク質の発現量を測定するための試薬を備える。
【0174】
本発明によれば、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質あるいはAβ42産生抑制薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬あるいはAβ42産生抑制薬を選択するためのスクリーニング方法において使用するためのキットもまた提供される。このキットは、本発明の細胞;レポータータンパク質の発現量を測定するための試薬を備える。このキットはまた、使用説明書、ポジティブコントロール(例えば、DAPT、L−685458)、ネガティブコントロール(例えば、スリンダクスルフィド、インドメタシン、イブプロフェン,R−フルビプロフェン)などを備え得る。
【0175】
DAPTは、N−[N−(3,5−ジフルオロフェナセチル−L−アラニル)]−S−フェニルグリシン t−ブチルエステル(N−[N−(3,5−Difluorophenacetyl−L−alanyl)]−S−phenylglycine t−Butyl Ester)であり、Notchシグナル伝達系も阻害するγ−セクレターゼ阻害剤として公知である(Dovey et al. (2001) Functional gamma−secretase inhibitors reduce beta−amyloid peptide levels in brain. J. Neurochem. 76, 173-181.)。
【0176】
L−685458は、{1S−Benzyl−4R−[1−(1S−carbamoyl−2−phenylethylcarbamoyl)−1S−3−methylbutylcarbamoyl]−2R−hydroxy−5−phenylpentyl}carbamic acid tert−butyl esterであり、Notchシグナル伝達系も阻害するγ−セクレターゼ阻害剤として公知である(Shearman et al., L−685,458, an aspartyl protease transition state mimic, is a potent inhibitor of amyloid beta−protein precursor gamma−secretase activity. Biochemistry. 2000 Aug 1;39(30):8698−704.)。
【0177】
スリンダクスルフィドは、(Z)−5−フルオロ−2−メチル−1−[p−(メチルチオ)ベンジリデン]インデン−3−酢酸((Z)−5−Fluoro−2−methyl−1−[p−(methylthio)benzylidene]indene−3−acetic Acid)であり、Aβ42産生抑制活性があるが、Notchシグナル伝達系に何の影響も与えないことが公知である(Weggen S et al., Evidence that nonsteroidal anti−inflammatory drugs decrease amyloid beta 42 production by direct modulation of gamma−secretase activity. J Biol Chem. 2003 Aug 22,278(34):31831−7;Weggen et al., Abeta42−lowering nonsteroidal anti−inflammatory drugs preserve intramembrane cleavage of the amyloid precursor protein (APP) and ErbB−4 receptor and signaling through the APP intracellular domain. J Biol Chem. 2003 Aug 15,278(33):30748−54;Takahashi et al., Sulindac sulfide is a noncompetitive gamma−secretase inhibitor that preferentially reduces Abeta 42 generation. J Biol Chem. 2003 May 16,278(20):18664−70;Weggen et al., A subset of NSAIDs lower amyloidogenic Abeta42 independently of cyclooxygenase activity. Nature. 2001 Nov 8,414(6860):212−6)。
【0178】
(8.組成物)
本発明の組成物は、内因性のNotchシグナルの調節を測定するための組成物である。本発明の組成物は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子を含み、該RBP−Jκ結合配列が、TGGGAAである。
【0179】
本発明の組成物に含まれる核酸分子については、上記(1.少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子)の項目に記載したとおりである。
【0180】
本発明の組成物は、液体であっても固体であってもよい。
【実施例】
【0181】
(実施例1.各種プラスミドの作製)
(実施例1−1:Hes1−luc x2、Hes1−luc x3、およびHes1−luc x4の作製)
Hes1p−luciferase(Jarriault et al.Nature 377,355−358,1995)にQuikchange II site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)およびプライマー1:CGTGTCTCTTCCTCCCGCTAGCTGAAAGTTACTG(配列番号9);プライマー2:CAGTAACTTTCAGCTAGCGGGAGGAAGAGACACG(配列番号10)を用いて95℃ 30秒、55℃ 1分、68℃ 6分を16回繰り返す条件でPCRを行うことにより、NheI 制限酵素部位を導入し、Hes1−luc−NheIを作製した。このプラスミドのRBP−Jκ結合部位を下記のプライマーを用い、94℃ 30秒、60℃ 30秒、72℃ 30秒を20回繰り返すの条件でPCRで増幅した:
プライマー3:CGCTAGCTGAAAGTTACTGGTGG(配列番号11);および
プライマー4:GTCTAGAGGCTCGTGTGAAACTTCC(配列番号12)。増幅した断片をpGEM−T Vector(Promega社)に挿入して連結してプラスミドを得た。このプラスミドを制限酵素NheIおよびXbaIで処理することにより、RBP−Jκ配列を2つ含むNheI−XbaI断片を作製した。この作成した断片を、Hes1−luc−NheIのNheI部位にそれぞれ1〜3個挿入することにより、Hes1−luc x2、Hes1−luc x3、およびHes1−luc x4(Hes−Yとも記載する)を作製した。これらのプラスミドの構造の模式図を図7aおよび図13(a)に示す。Hes1−luc x4(Hes−Y)のNheI部位の26塩基上流の部位からHindIII部位までの配列を図13(b)に示す。Hes1−luc x2は、4つのRBP−Jκ結合配列を含む。Hes1−luc x3は、6つのRBP−Jκ結合配列を含む。Hes1−luc x4は、8つのRBP−Jκ結合配列を含む。
【0182】
(実施例1−2:Hes−YP NeoおよびHes−YP Puroの作製)
Hes−YをNheIおよびHindIIIで処理することにより、8つのRBP−Jκ配列を含むNheI−HindIII断片を得た。このNheI−HindIII断片をpGL4.18(luc2P/Neo)ベクター(Promega社)およびpGL4.21(luc2P/Puro)ベクター(Promega社)にそれぞれ導入することにより、Hes−YP NeoおよびHes−YP Puroを作製した。これらのプラスミドの構造の模式図を図8aに示す。pGL4.18およびpGL4.21にはもともとルシフェラーゼコード配列の下流にPEST配列が含まれているため、得られたHes−YP NeoおよびHes−YP Puroにも、PEST配列コード配列が含まれている。
【0183】
(実施例1−3:TP−Yの作製)
pGA981−6(Minoguchi et al.,Mol Cell Biol.17(5),2679−87,1997)のRBP−Jκ結合部位を下記のプライマーを用い、94℃ 30秒、60℃ 30秒、72℃ 1分を20回繰り返す条件を用いてPCRで増幅した:
プライマー5:CATGCCTGCAGGTCGACTCTAG(配列番号13)および
プライマー6:AGATCTCCAAGATGCATACAGTGGATC(配列番号14)。
【0184】
増幅した断片をpGEM−T Vector(Promega社)に挿入し、制限酵素BamHI−BglIIで処理することにより作成した断片を、pGA981−6のBamHI部位に挿入し、TP−Yを作製した。TP−Yは、24個のRBP−Jκ配列を含む。TP−Yの構造の模式図を図7aに示す。TP−Yの24個のRBP−Jκ配列を含む領域とpUC18ベクター、ウサギβ−グロビン最小プロモーターおよびルシフェラーゼ遺伝子との連結部の配列を図9に示す。
【0185】
(実施例2.Notchシグナル伝達系活性化に対する各プロモーターの反応)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes1−luc x2、Hes1−luc x3、Hes−YおよびTP−YのNotchシグナル伝達系活性化に対する反応を調べた。比較のために、プラスミドHes1−lucおよびpGA981−6を用いた。
【0186】
10%FCS(ウシ胎仔血清)を含有するDMEM(Virology,8,396(1959))を用い、5%CO2、37℃の条件下でHeLa細胞を培養した。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes1−luc、Hes1−luc x2、Hes1−luc x3、Hes−Y、pGA981−6またはTP−Yと、Notchシグナル伝達系を活性化するための活性型NotchコンストラクトであるCC>SS(Mumm et al.,Mol.Cell 5,197−206,2000)と内部コントロールレポーターとしてウミシイタケルシフェラーゼを発現するベクターであるpRL−Tkベクターを導入した。この工程を、本明細書中ではリポフェクション(lipofection)という。
【0187】
ネガティブコントロールとして、CC>SSを導入せず、pcDNA3.1 Hygro(+)ベクター(Invitrogen社)を導入する実験も行った。
【0188】
リポフェクションを行ってから24時間後、それぞれの細胞を溶解し、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega社)を用いて、蛍光強度を測った。結果を図7(b)に示す。この図においては、Hes1−lucをCC>SSとともに共発現したときの蛍光活性(図中ではLuciferase活性と示す)を1として他のコンストラクトを用いたときの蛍光活性の相対値を示した。
【0189】
この結果、RBP−Jκ結合配列の増加とともにルシフェラーゼ活性の増加が認められた。しかも、原理はわからないが、RBP−Jκ結合配列を複数連結することにより、ネガティブコントロールを用いた場合の蛍光強度(すなわち、バックグラウンド)が顕著に低下した。これは驚くべき結果であった。これらの各コンストラクトを用いたときのS/N比は、Hes1−lucの場合が1.54であるのに対して、Hes1−luc x2の場合に8.67、Hes1−luc x3の場合に13.90、Hes−Yの場合に18.64であった。また、pGA981−6の場合が5.98であるのに対して、TP−Yのい場合が27.12であった。S/N比は、CC>SSプラスミドと共発現した場合の蛍光強度をpcDNA3.1 Hygro(+)ベクターと共発現下場合の蛍光強度で除算することにより得られる。このように、RBP−Jκ結合配列を複数連結することにより、SN比が飛躍的に向上した。
【0190】
(実施例3.Notchシグナル伝達系活性化に対する各プロモーターの反応)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes1−luc、Hes−Y、Hes−YP NeoおよびHes−YP PuroのNotchシグナル伝達系活性化に対する反応を調べた。
【0191】
10%FCSを含有するDMEMを用い、5%CO2、37℃の条件下でHeLa細胞を培養した。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes1−luc、Hes−Y、Hes−YP NeoまたはHes−YP Puroと、Notchシグナル伝達系を活性化するための活性型NotchコンストラクトのCC>SS(Mumm et al.,Mol.Cell 5,197−206,2000)と内部コントロールレポーターとしてウミシイタケルシフェラーゼを発現するベクターであるpGL4.74[hRluc/TK]ベクターをを導入した。
【0192】
ネガティブコントロールとして、CC>SSを導入せず、pcDNA3.1 Hygro(+)ベクター(Invitrogen社)を導入する実験も行った。
【0193】
リポフェクションを行ってから24時間後、それぞれの細胞を溶解し、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega社)を用いて、蛍光強度を測った。結果を図8(b)に示す。図8(b)は、これらのNotchレポーターアッセイ用コンストラクトと、活性型Notchとを共発現した時のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。図8(c)は、これらのNotchレポーターアッセイ用コンストラクトと、活性型Notchとを共発現した時のルシフェラーゼ活性を、活性型Notchを用いた場合のそれぞれの活性を1として示すグラフである。
【0194】
Hes1−lucを用いた場合と比較して、Hes−Y、Hes−YP NeoまたはHes−YP Puroを用いた場合は、蛍光強度(図8(b)中ではLuciferase活性と記載する)が著しく改善し、特に、Hes−YP NeoまたはHes−YP Puroを用いた場合の蛍光強度は非常に高かった。このことから、pGL2ベクターからpGL4ベクターに入れ替えることによって蛍光強度の顕著な増強が得られることがわかった。
【0195】
しかも、原理はわからないが、図8(c)からわかるように、Hes−Y、Hes−YP NeoまたはHes−YP Puroを用いた場合には、ネガティブコントロールを用いた場合の蛍光強度(すなわち、バックグラウンド)が顕著に低下した。これは驚くべき結果であった。このように、RBP−Jκ結合配列を複数連結し、PEST配列をもつルシフェラーゼレポータープラスミドに挿入した結果、感度が著しく上昇した。
【0196】
(実施例4.内因性Notchシグナル伝達の阻害の測定)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes−YおよびHes−YP Neoが内因性のNotchシグナル伝達の阻害を測定できるかどうか調べた。
【0197】
10%FCSを含有するDMEMを用い、5%CO2、37℃の条件下でHeLa細胞を培養した。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes−YまたはHes−YP Neoと、Notchシグナル伝達系を活性化するための活性型NotchコンストラクトのCC>SS(Mumm et al.,Mol.Cell 5,197−206,2000)とを導入した。
【0198】
ネガティブコントロールとして、CC>SSを導入せず、pcDNA3.1 Hygro(+)ベクター(Invitrogen社)を導入する実験も行った。
【0199】
リポフェクションを行ってから24時間後、γ−セクレターゼ阻害剤であるDAPTを10μM含むDMEM培地を250μl添加し、37℃にてインキュベートしながら0時間から24時間後の蛍光強度を測定して、DAPTのNotchシグナル伝達系への影響を調べた。これらの実験を96ウェルプレートを用いて行った。Hes−YおよびHes−YP neoを用いた場合の結果を図10に示す。
【0200】
この結果、活性型Notch1を共発現させた場合も共発現させなかった場合も、添加後の蛍光強度(図中ではLuciferase活性と示す)の低下が見られた。このことは、DAPTによってNotchシグナルの伝達が阻害されたことを示す。従って、活性型Notch1を共発現させなくても、DAPTによる内因性のNotchシグナルの阻害を測定できることがわかった。また、Hes−YおよびHes−YP Neoのいずれを用いた場合も、内因性のNotchシグナルの阻害を測定できることがわかった。それゆえ、これらのプラスミドを用いれば、内因性のNotchシグナル伝達系に影響を与える物質をスクリーニングすることができる。
【0201】
(実施例5.薬剤によるHEK293細胞の内因性Notchシグナルの影響)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes−YP neoを用いて、薬剤による内因性のNotchシグナル伝達系への影響を調べた。
【0202】
10%FCSを含有するDMEMを用い、5%CO2、37℃の条件下でHEK293細胞を培養した。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes−YP neoを導入した。
【0203】
リポフェクションを行ってから24時間後、Aβ42の産生もNotchシグナル伝達系も抑制するγ−セクレターゼ阻害薬であるDAPT(0.001μM、0.003μM,0.01μM、0.03μM、 0.1 μM、0.3μM、1μM、3μMまたは10μM)またはL−685458(0.003μM,0.01μM、0.03μM、 0.1 μM、0.3μM、1μM、3μM、10μM、または30μM)、あるいはAβ42の産生を抑制するがNotchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬であるスリンダクスルフィド(Sulindac sulfide)(0.80μM、1.57μM、3.13μM、6.25μM、12.5μM、25μM、50μMまたは100μM)を各種濃度で添加して37℃にて24時間インキュベートした。
【0204】
添加から24時間後の蛍光強度を測定して、各種薬剤のNotchシグナル伝達系への影響を調べた。また、コントロールとして、各種薬剤を添加せず、DMSO(ジメチルスルホキシド)を添加した場合の蛍光強度も測定した。DAPTを10μM添加した場合およびコントロールの結果を図11(a)に示す。図11(a)からわかるように、活性型Notchを共発現させなくても蛍光強度の測定ができ、しかも、γ−セクレターゼ阻害薬による蛍光強度の減少を測定できる。このように、この系を用いれば、各種薬物が内因性のNotchシグナルに対して与える影響を確認することができる。
【0205】
Hes−YP neoコンストラクトを用い、各薬剤を添加した場合のルシフェラーゼ活性の蛍光強度を、図11(b)に示す。図11(b)においては、コントロールの蛍光強度を100%としたときの相対強度を示す。この結果、γ−セクレターゼ阻害薬(DAPTまたはL−685458)の添加により、内因性のNotchシグナルが阻害され、阻害薬でなく修飾薬(スリンダクスルフィド)を用いた場合には内因性のNotchシグナルは影響を受けないことが確認された。このことから、本発明により、各種薬物が内因性のNotchシグナルに対して与える影響を正しく確認することができる。従って、本発明の方法を、Notchシグナル伝達系に影響を与えない物質のスクリーニングに用いることができること、特に、Aβ42産生を阻害するがNotchシグナル伝達系に影響を与えない物質のスクリーニングに用いることができることがわかった。既存技術ではNotchコンストラクトを人工的に共発現させて初めてシグナルの検知が可能であった。しかし本発明によればNotchコンストラクトを発現させることなく内因性シグナルの検知が可能となった。また上記のように、本発明によれば、薬剤による内因性シグナルへの影響も検知することが可能である。
【0206】
(実施例6:各プロモーターでのNotchシグナルアッセイ系パラメーターの挙動)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes1−luc x2、Hes1−luc x3、Hes−YおよびHes−YP NeoのNotchシグナルアッセイ系パラメーターであるS/BおよびZ’ factor(Ji−Hu Zhang et al.,J.Biomol.Screen.5,67−73,1999)について調べた。比較のために、プラスミドHse1−lucを用いた。
【0207】
10%FCSを含有するDMEMを用い、5%CO2、37℃の条件下でHeLa細胞を培養した。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes1−luc、Hes1−luc x2、Hes1−luc x3、Hes−YまたはHes−YP Neoと、Notchシグナル伝達系を活性化するための活性型NotchコンストラクトのCC>SS(Mumm et al.,Mol.Cell 5,197−206,2000)とを導入した。
【0208】
リポフェクションを行ってから24時間後、、DAPT濃度10μMのDMEM培養液(DMSO濃度0.1%)および無添加のDMEM培養液(DMSO濃度0.1%)を37℃にて24時間インキュベートした後、細胞を溶解し、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega社)を用いて、蛍光強度を測った。シグナルとしてDMSOのみ添加したもの、またバックグラウンドとしてNotchシグナル伝達系を阻害するのに十分量のDAPT(10μM)を添加したものの蛍光強度を測った。本系においては96ウェルプレートを用いた。得られた結果を図12(a)〜図12(e)に示す。Hes−1コンストラクトを用い、DAPTを10μM添加した場合およびコントロールの結果を図12(a)に示す。Hes−YP neoコンストラクトを用い、DAPTを10μM添加した場合およびコントロールの結果を図12(b)に示す。Hes1−lucx2コンストラクトを用い、DAPTを10μM添加した場合およびコントロールの結果を図12(c)に示す。Hes−1−lucx3コンストラクトを用い、DAPTを10μM添加した場合およびコントロールの結果を図12(d)に示す。Hes−Yコンストラクトを用い、DAPTを10μM添加した場合およびコントロールの結果を図12(e)に示す。
【0209】
この結果、RBP−Jκ結合配列の数が増加するにつれ、S/BおよびZ’ factorも増加した。またRBP−J結合配列の数が増加するにつれ、Z’ factorが理想値である1に近づいた。RBP−Jκ結合配列の増加とともにルシフェラーゼ活性の増加が認められる。複数連結することにより、予想以上にバックグラウンドが下がりZ’factorが飛躍的に向上した。既存技術では十分なS/B比および少ないばらつきが確保できず、Z’ factorが0.5には程遠く、そのため、HTS(high through−put screening;ハイスループットスクリーニング)を行うことができなかった。しかし本発明によって十分なS/B比および少ないばらつきが確保でき、Z’ factorが0.5以上になったことにより、HTSへの使用が可能である。これに伴い、本発明を薬剤がNotchシグナルに及ぼす影響を正確に検討することができる。また、本発明では、HTSを構築する際にミニチュア化した場合においても、より精度の高いアッセイ系を構築することが可能である。
【0210】
また、Hes−YP neoコンストラクトでの形質転換細胞については、各種薬剤の濃度の影響についても試験した。リポフェクションを行ってから24時間後、γ−セクレターゼ阻害剤であるDAPT(0.001μM、0.003μM,0.01μM、0.03μM、 0.1 μM、0.3μM、1μM、3μMまたは10μM)またはL−685458(0.003μM,0.01μM、0.03μM、0.1μM、0.3μM、1μM、3μM、10μM、または30μM)、あるいはγ−セクレターゼ修飾薬であるスリンダクスルフィド(Sulindac sulfide)(0.80μM、1.57μM、3.13μM、6.25μM、12.5μM、25μM、50μMまたは100μM)を各種濃度で添加し、添加から24時間後の蛍光強度を測定して、各種薬剤のNotchシグナル伝達系への影響を調べた。また、コントロールとして、各種薬剤を添加しない場合の蛍光強度も測定した。Hes−YP neoコンストラクトを用い、各薬剤を添加した場合の結果を図12(f)に示す。図12(f)においては、コントロールの蛍光強度を100%としたときの相対強度を示す。
【0211】
この結果、本発明のコンストラクトを用いることにより、γ−セクレターゼ阻害剤の添加により、内因性のNotchシグナルが阻害され、阻害剤でない薬剤を用いた場合には内因性のNotchシグナルは影響を受けないことが確認された。本発明のコンストラクトを用いれば、高感度に高い精度でNotchシグナル伝達系に対する物質の影響を確認することができる。
【0212】
(実施例7:Notchシグナル伝達系に実質的に影響を与えない物質のスクリーニング)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes−YP neoまたはHes−YP puroを用いて、Notchシグナル伝達系に実質的に影響を与えない物質をスクリーニングする。
【0213】
10%FCSを含有するDMEMを用い、5%CO2、37℃の条件下でHeLa細胞を培養する。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes−YP neoまたはHes−YP puroと、Notchシグナル伝達系を活性化するために、活性型NotchコンストラクトのCC>SS(Mumm et al.,Mol.Cell 5,197−206,2000)とを導入する。
【0214】
リポフェクションを行ってから24時間後、候補物質またはγ−セクレターゼ阻害剤であるDAPT(コントロール)を含むDMSO溶液を添加するか、あるいはDMSOを添加する。添加の24時間後に細胞を溶解し、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega社)を用いて、蛍光強度を測定して、DAPTのNotchシグナル伝達系への影響を調べる。Hes−YP neoまたはHes−YP puroとCC>SSとを共発現する細胞に水を添加した場合の蛍光強度を100%として、Hes−YP neoまたはHes−YP puroとCC>SSとを共発現する細胞に候補物質を添加した場合の蛍光強度が90〜110%となる候補物質を選択する。このようにして、蛍光強度が実質的に変化しない候補物質が選択される。
【0215】
(実施例8:Aβ42産生を抑制するγ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes−YP neoまたはHes−YP puroを用いて、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬をスクリーニングする。
【0216】
10%FCSを含有するDMEMを用い、5%CO2、37℃の条件下でHeLa細胞を培養する。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes−YP neoまたはHes−YP puroと、Notchシグナル伝達系を活性化するために、活性型NotchコンストラクトのCC>SS(Mumm et al.,Mol.Cell 5,197−206,2000)とを導入する。
【0217】
リポフェクションを行ってから24時間後、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質またはγ−セクレターゼ阻害薬であるDAPT(コントロール)を含むDMSO溶液を添加するか、あるいはDMSOを添加する。24時間後に細胞を溶解し、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega社)を用いて、蛍光強度を測定して、DAPTのNotchシグナル伝達系への影響を調べる。候補物質としてγ−セクレターゼ阻害薬候補物質を使用する。これらの候補物質は基質APP(アミロイド前駆体タンパク質)を安定発現させたHEK細胞においてAβ42の産生を抑制する化合物群である。
【0218】
Hes−YP neoまたはHes−YP puroとCC>SSとを共発現する細胞にDMSOを添加した場合の蛍光強度を100%として、Hes−YP neoまたはHes−YP puroとCC>SSとを共発現する細胞に候補物質を添加した場合の蛍光強度が90〜110%となる候補物質を選択する。このようにして、Notchシグナル伝達系を抑制しない候補物質が選択される。
【0219】
このようにして、Aβ42産生を抑制するγ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Aβ42産生を抑制し、かつNotchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬が選択される。
【0220】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0221】
本発明の核酸分子およびスクリーニング方法は、種々の用途に応用できる。例えば、アルツハイマー病治療薬候補であるγ−セクレターゼ阻害修飾薬の副作用の検討(例えば、ハイスループットスクリーニング時)、およびNotchシグナル伝達阻害型抗がん剤の主作用の検討(ハイスループットスクリーニング時)に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0222】
【図1】図1は、Notchシグナル伝達系の模式図を示す。
【図2】図2は、ヒトNOTCH1の模式図を示す。
【図3】図3は、γ−セクレターゼ阻害薬によるNotchシグナル伝達の阻害の模式図を示す。
【図4】図4は、Notchシグナル伝達系の活性化を検知するための既存の技術の模式図を示す。
【図5】図5は、ΔSN1のアミノ酸配列におけるシグナル配列、S1、S2、S3、S4サイトの位置を示す図である。
【図6】図6(a)は、Z’factorの計算式およびその概念図を示す。図6(b)は、S/B=10でかつZ’=0.4の場合のデータ例を示す。図6(c)は、S/B=2でかつZ’=0.8の場合のデータ例を示す。
【図7】図7(a)は、今回作製したNotchレポーターアッセイ用のコンストラクトおよび従来公知のコンストラクトの模式図である。図7(b)は、これらのNotchレポーターアッセイ用コンストラクトと、活性型NotchまたはネガティブコントロールであるpcDNA3.1 Hygro(+)ベクターとを共発現した時のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。
【図8】図8(a)は、Hes−YおよびHes−YにさらにPEST配列を導入したNotchレポーターアッセイ用のコンストラクトの模式図である。図8(b)は、これらのNotchレポーターアッセイ用コンストラクトと、活性型Notchとを共発現した時のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。図8(c)は、これらのNotchレポーターアッセイ用コンストラクトと、活性型Notchとを共発現した時のルシフェラーゼ活性を、活性型Notchを用いた場合のそれぞれの活性を1として示すグラフである。図8(b)および図8(c)において、CC>SSは、活性型Notchを示す。pcDNAは、コントロールである空のプラスミドを示す。
【図9】図9は、TP−Yの24個のRBP−Jκ配列を含む領域とpUC18ベクター、ウサギβ−グロビン最小プロモーターおよびルシフェラーゼ遺伝子との連結部の配列を示す。
【図10】図10は、本発明のNotchレポーターアッセイ用コンストラクトを、活性型Notchとともに共発現させた場合またはコントロールのpcDNAとともに共発現させた場合のルシフェラーゼ活性を添加から0〜24時間にわたって示すグラフである。Hes−YとpcDNAとを共発現させ、DAPTを添加時のルシフェラーゼ活性を1として示すグラフである。
【図11】図11(a)は、コントロール(control)またはDAPT 10μMでのルシフェラーゼ活性を示す棒グラフである。図11(b)は、薬剤によるHEK293細胞の内因性Notchシグナルの影響を示すグラフである。
【図12】図12(a)は、Hes−1コンストラクトを、DAPTを添加したかまたは添加しなかった(DMSOのみ)場合のルシフェラーゼ活性を示す棒グラフである。このときのS/B比は1.39であり、Z’factorは0.33である。図12(b)は、Hes−YP neoコンストラクトを、DAPTを添加したかまたは添加しなかった(DMSOのみ)場合のルシフェラーゼ活性を示す棒グラフである。このときのS/B比は9.98であり、Z’factorは0.72である。図12(c)は、Hes−Yコンストラクトを、DAPTを添加したかまたは添加しなかった(DMSOのみ)場合のルシフェラーゼ活性を示す棒グラフである。このときのS/B比は8.46であり、Z’factorは0.60である。図12(d)は、Hes1−lucx2コンストラクトを、DAPTを添加したかまたは添加しなかった(DMSOのみ)場合のルシフェラーゼ活性を示す棒グラフである。このときのS/B比は3.71であり、Z’factorは0.50である。図12(e)は、Hes1−lucx3コンストラクトを、DAPTを添加したかまたは添加しなかった(DMSOのみ)場合のルシフェラーゼ活性を示す棒グラフである。このときのS/B比は7.22であり、Z’factorは0.54である。図12(f)は、各薬剤(DAPT、L−685458またはスリンダクスルフィド)による活性型Notchを共発現したときのNotchシグナルの阻害曲線を示すグラフである。
【図13】図13(a)は、Hes−Y、Hes−YP NeoおよびHes−YP Puroのコンストラクトの模式図を示す。図13(b)は、Hes−YP,Hes−YP NeoおよびHes−YP Puroにおいて用いた、8個のRBP−Jκ配列を含む領域とベクターおよびプロモーターとの連結部の配列を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子およびその利用に関する。本発明は特に、Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Notchシグナル伝達系は、発生および分化、さらには癌化および神経変性に関連する、多細胞生物にとって極めて重要な情報伝達系のひとつである。Notchシグナル伝達系の模式図を図1に示す。Notchシグナル伝達系の一翼を担うNotchタンパク質は、細胞膜を貫通するレセプターである。Notchタンパク質は、Notchタンパク質に対するリガンドであるデルタタンパク質、リガンド結合性の制御因子等により活性化され、ADAM、TACEなどによって細胞外ドメインが切断され(S2切断)、次に膜貫通ドメインのC末端側において、γ−セクレターゼ(γ−secretase)によりプロセッシングを受けて(S3切断)、細胞内ドメイン(NICD)が遊離し、核内に移行すると考えられている(図1)。そして、核内に移行した細胞内ドメインが標的遺伝子の転写活性化に寄与することにより、細胞外から細胞核へのシグナル伝達が行われるものと考えられている。Notchシグナルの異常活性化は癌化へと繋がる一方で、阻害は細胞の発生および分化に影響を与える。このように、Notchシグナル伝達系は、シグナル異常活性化による癌化(例えば、急性白血病)、アルツハイマー病治療を目的とした薬物(例えば、γ−セクレターゼ阻害薬)のシグナル阻害による副作用の懸念などに関連すると考えられている。
【0003】
Notchシグナル伝達系は、様々な点から重要である。特に、疾患との関連から重要である。第一に、Notchシグナル伝達系が異常活性化されると、急性白血病などの癌化が生じる。例えば、T細胞性急性リンパ芽球性白血病(T−ALL)患者の50%超には、NOTCH1の異所性活性化がみられる(非特許文献1、図2)。他の癌についてもシグナル異常活性化と関連があることから、Notchシグナルと癌とは密接な関係性があるといえる。
【0004】
第二に、アルツハイマー病治療を目的とした薬物による副作用の懸念をぬぐうという観点で重要である。現在、アルツハイマー病治療薬として、Aβ42の産生抑制を目的とした阻害薬が開発されている。Aβ42は、病態進行に密接に関連すると考えられているペプチドである。Aβ42はAβ40とともに、膜貫通タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質(APP)からβセクレターゼによって切断され、そして膜貫通領域でγ−セクレターゼにより切断され産生される。そのため治療薬として開発されつつあるものは、主にβ,γ−セクレターゼ阻害薬あるいはAβ42産生抑制薬となっている。しかし、この戦略には大きな問題点が内在している。γ−セクレターゼは、細胞の分化に必須のNotchも切断する。γ−セクレターゼ阻害薬によるNotchシグナル伝達の阻害の模式図を図3に示す。γ−セクレターゼを阻害すると、Notchの切断も阻害される。そのため、γ−セクレターゼ阻害薬には副作用の懸念があることが容易に考えられる。この懸念は、実際に、成熟マウスにγ−セクレターゼ阻害薬を投与するとリンパ球の分化が阻害されることからも裏付けられている(非特許文献2)。また、Aβ42産生抑制薬に関しても、間接的にNotchシグナル伝達を阻害することが懸念される。したがって、現在、これらの問題を克服したγ−セクレターゼ阻害薬あるいはAβ42産生阻害薬の開発の戦略として、Aβ産生の抑制効果は維持したままNotchシグナル伝達系を抑制しない薬剤が期待されている。
【0005】
Notchシグナル伝達系の活性化を検知するために、いくつかの実験が行われている。例えば、Notchシグナル伝達系が活性化すると、最終的に、核内でHes−1遺伝子の活性化が起きるため、Notchシグナルの活性化の指標としてHES−1プロモーター(RBP−Jκ結合配列をもつ)の活性化を利用し、Notchシグナルの活性化に従ってHES−1プロモーターの制御下でルシフェラーゼを発現させることでNotchシグナル伝達系の活性化が検知可能である(図4および非特許文献3)。
【0006】
このように、Notchシグナル伝達を測定するためには、2つのRBP−Jκ結合配列を上流に持ったルシフェラーゼレポーターが使用されてきた。しかし、それらの感度は悪く、培養細胞を用いても例えば内因性のNotchによるシグナル伝達は測定できなかった。
【0007】
例えば、特許文献1は、Notchシグナル伝達系が活性化された細胞を検知するNotchシグナル伝達系活性化検知方法を記載する。この文献の方法は、野生型Hes−1遺伝子プロモーター配列および変異Hes−1遺伝子プロモーター配列を利用する。野生型Hes−1遺伝子プロモーター配列は2つのRBP−Jκ結合配列を含む。しかし、特許文献1に記載された方法を用いても、検出感度が低く、バックグラウンドが大きいために正確なスクリーニングは困難であり、そのため、ハイスループットスクリーニングに利用することができなかった。また、特許文献1に記載の方法では、検出感度を上げるためにNotchシグナル伝達系を構成的に活性化する必要があり、そのため、内因性のNotchシグナル伝達系を測定することはできなかった。
【0008】
非特許文献4は、RBP−Jκに関連する転写因子であるRBP−Lを記載する。この文献では、RBP−Lが転写に対して及ぼす影響を調べるためにレポータープラスミドpGa981−6を使用している。このプラスミドはエプスタインバーウイルスのTP1プロモーター由来の12コピーのRBP−J/−L結合部位を含む。しかし、このプラスミドの検出感度は低く、バックグラウンドが大きく、ばらつきが大きいために正確なスクリーニングは困難であり、そのため、ハイスループットスクリーニングに利用することができなかった。また、この方法では検出感度を上げるためにNotchシグナル伝達系を構成的に活性化する必要があり、そのため、内因性のNotchシグナル伝達系を測定することはできなかった。
【0009】
このように、検出感度が高く、正確なスクリーニングが可能なスクリーニング系を提供することが望まれていた。内因性のNotchシグナル伝達系を測定し得るスクリーニング系を提供することもまた望まれていた。
【特許文献1】特開2006−109717号公報
【非特許文献1】Weng et al.,”Activating Mutations of NOTCH1 in Human T Cell Acute Lymphoblastic Leukemia”,Vol.306,2004,269−271
【非特許文献2】J.Biol.Chem.,Vol.279,Issue 13,12876−12882,March 26,2004
【非特許文献3】Sophie Jarriault et al.,"Signalling downstream of activated mammalian Notch”,Nature 377,1995,355−8
【非特許文献4】Minoguchi et al.,”RBP−L, a Transcription Factor Related to RBP−Jk”, Molecular And Cellular Biology, May 1997, p.2679−2687
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、検出感度が高く、正確なスクリーニングが可能なスクリーニング系を提供すること、および内因性のNotchシグナル伝達系を測定し得るスクリーニング系を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を用いることにより、検出感度、Z’ factorおよびS/N比の顕著な改善が得られることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。
【0012】
本発明者らは特に、既存のコンストラクトに大幅な改変を加えることにより、検出感度を数百倍、S/N比を数十倍改善させることができた。このため、培養細胞の内因性のNotchシグナル伝達を測定できるレベルの高感度を持つコンストラクトを得ることができた。
【0013】
従来、Notchシグナル伝達を測定するためには、RBP−Jκ結合配列を上流に持ったルシフェラーゼレポーターが使用されてきた。今回本発明者らは、既存のコンストラクトの「2つのRBP−Jκ結合配列を含む部分の配列の変異を訂正しかつその配列を2〜4つタンデムにつなげてルシフェラーゼレポーターの上流に配置した」コンストラクトを作成した。さらにその新規RBP−Jκ結合配列部分を発現効率の高いルシフェラーゼレポータープラスミドに挿入した。そしてその性質について検討したところ感度が数百倍、S/N比を数十倍改善していた。さらに、このコンストラクトを用いることにより、0.50以上のZ’ factorが得られることがわかった。
【0014】
本発明によれば、既存のHES−1プロモーターに大幅な改変を加えることによって従来と比べ高感度にNotchシグナル伝達系を検知することが可能となった。例えば、2つのRBP−Jκ結合配列を含む部分の配列を2〜4つタンデムにつなげてルシフェラーゼレポーターの上流に配置したコンストラクトを作成した。その結果、結合配列の増加とともにルシフェラーゼ活性の増加が認められた。
【0015】
さらにその新規RBP−Jκ結合配列部分を発現効率の高く又PEST配列を持つルシフェラーゼレポータープラスミドに挿入した。そしてその性質について検討したところ感度が数百倍、S/N比を数十倍改善していた。また、このコンストラクトを用いることによっても、0.50以上のZ’ factorが得られることがわかった。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する:
(項目1)
少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子であって、該RBP−Jκ結合配列が、TGGGAAである、核酸分子。
【0017】
(項目2)
前記少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列のそれぞれが、5塩基〜40塩基の塩基配列によりタンデムに連結されている、項目1に記載の核酸分子。
【0018】
(項目3)
配列番号1の配列を少なくとも2つ含む、項目1または2に記載の核酸分子。
【0019】
(項目4)
配列番号2の配列を少なくとも2つ含む、項目1〜3のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0020】
(項目5)
配列番号3の配列を含む、項目1〜4のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0021】
(項目6)
配列番号4の配列を含む、項目1〜5のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0022】
(項目7)
配列番号5の配列を含む、項目1〜6のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0023】
(項目8)
配列番号6の配列を含む、項目1〜7のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0024】
(項目9)
前記少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列と作動可能に連結されたプロモーター配列をさらに含む、項目1〜8のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0025】
(項目10)
前記プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含む、項目9に記載の核酸分子。
【0026】
(項目11)
前記レポータータンパク質コード配列が、発光タンパク質または蛍光タンパク質をコードする、項目10に記載の核酸分子。
【0027】
(項目12)
前記レポータータンパク質コード配列の下流にPEST配列コード配列が連結されている、項目10または11に記載の核酸分子。
【0028】
(項目13)
直鎖状分子またはプラスミドである、項目1〜12のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0029】
(項目14)
(a)プロモーター配列と作動可能に連結された構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列を含む核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の前記レポータータンパク質の発現量と、(b)該Notchタンパク質コード配列を含まない核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の該レポータータンパク質の発現量とを比較したときの、Z’ factor値が0.5以上である、項目10〜12のいずれか1項に記載の核酸分子。
【0030】
(項目15)
項目1〜14のいずれか1項に記載の核酸分子を含む、細胞。
【0031】
(項目16)
前記核酸分子が、前記プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含む、項目15に記載の細胞。
【0032】
(項目17)
内因性のNotchタンパク質または構成的に活性なNotchタンパク質を発現する、項目16に記載の細胞。
【0033】
(項目18)
Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)項目17に記載の細胞と候補物質とを接触させる工程;および
(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程
を包含する、方法。
【0034】
(項目19)
γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)項目17に記載の細胞と該候補物質とを接触させる工程;および
(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程
を包含する、方法。
【0035】
(項目20)
Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)項目17に記載の細胞中での前記レポータータンパク質の発現量を測定する工程;
(b)該細胞と候補物質とを接触させる工程;
(c)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程;および
(d)工程(c)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a)での該レポータータンパク質の発現量よりも増加したかまたは減少した場合、該候補物質をNotchシグナル伝達系を調節する物質として選択する工程
を包含する、方法。
【0036】
(項目21)
工程(c)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a)での該レポータータンパク質の発現量よりも増加し、前記候補物質をNotchシグナル伝達系の活性化剤として選択する、項目20に記載の方法。
【0037】
(項目22)
工程(c)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a)での該レポータータンパク質の発現量よりも減少し、前記候補物質をNotchシグナル伝達系の抑制剤として選択する、項目20に記載の方法。
【0038】
(項目23)
γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)項目17に記載の細胞中での前記レポータータンパク質の発現量を測定する工程;
(b)該細胞と候補物質とを接触させる工程;
(c)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程;および
(d)工程(c)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a)での該レポータータンパク質の発現量と実質的に同じである場合、該候補物質をNotchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬として選択する工程
を包含する、方法。
【0039】
(項目24)
Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法において使用するためのキットであって、
項目17に記載の細胞;および
前記レポータータンパク質の発現量を測定するための試薬
を備える、キット。
【0040】
(項目25)
γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法において使用するためのキットであって、
項目17に記載の細胞;および
前記レポータータンパク質の発現量を測定するための試薬
を備える、キット。
【0041】
(項目26)
内因性のNotchシグナルの調節を測定するための組成物であって、該組成物は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子を含み、該RBP−Jκ結合配列が、TGGGAAである、組成物。
【0042】
(項目27)
前記少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列のそれぞれが、5塩基〜40塩基の塩基配列によりタンデムに連結されている、項目26に記載の組成物。
【0043】
(項目28)
前記核酸分子が、配列番号1の配列を少なくとも2つ含む、項目26または27に記載の組成物。
【0044】
(項目29)
前記核酸分子が、配列番号2の配列を少なくとも2つ含む、項目26〜28のいずれか1項に記載の組成物。
【0045】
(項目30)
前記核酸分子が、配列番号3の配列を含む、項目26〜29のいずれか1項に記載の組成物。
【0046】
(項目31)
前記核酸分子が、配列番号4の配列を含む、項目26〜30のいずれか1項に記載の組成物。
【0047】
(項目32)
前記核酸分子が、配列番号5の配列を含む、項目26〜31のいずれか1項に記載の組成物。
【0048】
(項目33)
前記核酸分子が、配列番号6の配列を含む、項目26〜32のいずれか1項に記載の組成物。
【0049】
(項目34)
前記核酸分子が、前記少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列と作動可能に連結されたプロモーター配列をさらに含む、項目26〜33のいずれか1項に記載の組成物。
【0050】
(項目35)
前記核酸分子が、前記プロモーター配列と作動可能に連結されたレポーター遺伝子配列をさらに含む、項目34に記載の組成物。
【0051】
(項目36)
前記レポータータンパク質コード配列が、発光タンパク質または蛍光タンパク質をコードする、項目35に記載の組成物。
【0052】
(項目37)
前記レポータータンパク質コード配列の下流にPEST配列コード配列が連結されている、項目35または36に記載の組成物。
【0053】
(項目38)
前記核酸分子が、直鎖状分子またはプラスミドである、項目26〜37のいずれか1項に記載の組成物。
【0054】
(項目39)
(a)前記核酸分子を、プロモーター配列と作動可能に連結された構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列を含む核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の前記レポータータンパク質の発現量と、(b)該核酸分子を、該Notchタンパク質コード配列を含まない核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の該レポータータンパク質の発現量とを比較したときの、Z’ factor値が0.5以上である、項目35〜37のいずれか1項に記載の組成物。
【0055】
(項目40)
Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないアルツハイマー病治療薬を選択するためのスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)項目17に記載の細胞と該候補物質とを接触させる工程;および
(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程
を包含する、方法。
【発明の効果】
【0056】
高感度にNotchシグナル伝達を測定できるレポーターコンストラクトは業界で待望されていたものであり、今までその感度の低さのために多くの現象を可視化することができなかったがその点で大きな改善が認められると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書の全体にわたり、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0058】
(1.少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子)
本発明の核酸分子は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む。本明細書中では、用語「RBP−Jκ結合配列」とは、配列TGGGAAをいう。本発明の核酸分子は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含むことにより、Notchシグナル伝達系のシグナルの検出が従来よりも優れた感度で行われ得る。本発明の核酸分子に含まれるRBP−Jκ結合配列の数は、少なくとも3個であれば任意の数であり得る。本発明の核酸分子は、例えば、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、またはそれより多くのRBP−Jκ結合配列を含み得る。本発明の核酸分子に含まれるRBP−Jκ結合配列の数に特に上限はない。例えば、本発明の核酸分子に含まれるRBP−Jκ結合配列の数は、100個以下、90個以下、80個以下、70個以下、60個以下、50個以下、40個以下、30個以下、20個以下、15個以下、10個以下などであり得る。特定の実施形態では、本発明の核酸分子に含まれるRBP−Jκ結合配列の数は、偶数個であることが好ましい。
【0059】
本発明の核酸分子において、RBP−Jκ結合配列のそれぞれは、核酸分子中に広くちらばって存在することも可能であるが、好ましくは比較的狭い範囲においてタンデムに連結されている。RBP−Jκ結合配列間にはある程度の長さの配列が挿入されていることが好ましい。RBP−Jκ結合配列間の配列は任意の配列であり得る。RBP−Jκ結合配列間の配列の長さは当業者によって任意に決定され得る。RBP−Jκ結合配列間の配列の長さは好ましくは5塩基以上であり、より好ましくは6塩基以上であり、さらに好ましくは7塩基以上であり、最も好ましくは8塩基以上である。RBP−Jκ結合配列間の配列の長さは好ましくは40塩基以下であり、より好ましくは35塩基以下であり、さらに好ましくは30塩基以下であり、特に好ましくは25塩基以下であり、最も好ましくは20塩基以下である。好ましい実施形態では、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列のそれぞれが、5塩基〜40塩基の塩基配列によりタンデムに連結されている。
【0060】
本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号1の配列を少なくとも2つ含む。ここで、配列番号1の配列は、TGGGAAXnTGGGAAであり、ここで、XはA、T、GまたはCを表し、nは5〜40を表す。配列番号1の配列は、RBP−Jκ結合配列を2つ含む。nは好ましくは6以上の整数であり、さらに好ましくは7以上の整数であり、最も好ましくは8以上の整数である。nは好ましくは40塩基以下の整数であり、より好ましくは35以下の整数であり、さらに好ましくは30以下の整数であり、特に好ましくは25以下の整数であり、最も好ましくは20以下の整数である。配列番号1の配列を1単位として含むことにより、奇数個のRBP−Jκ結合配列を含む場合よりもさらに優れた結果が得られる。
【0061】
本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号2の配列を少なくとも2つ含む。配列番号2の配列は、天然のHes−1プロモーターに含まれる配列であり、2つのRBP−Jκ結合配列を含む。
【0062】
本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号3の配列を含む。配列番号3の配列は、配列番号2の配列を2つタンデムに連結した配列である。
【0063】
本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号4の配列を含む。配列番号4の配列は、配列番号2の配列を3つタンデムに連結した配列である。
【0064】
本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号5の配列を含む。配列番号5の配列は、配列番号2の配列を4つタンデムに連結した配列である。
【0065】
本明細書においては配列番号2の配列を2〜4個タンデムに連結した配列を例示として記載したが、もちろん、連結する数に制限はない。例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、40、50個などの任意の数で連結することができる。
【0066】
配列番号3〜5は、同じ配列をタンデムに連結した配列の例であり、このような配列を用いることが本発明では好ましい。しかし、RBP−Jκ結合配列の間の配列は必ずしも同じである必要はなく、それぞれ異なり得る。
【0067】
本発明の核酸分子は、好ましくは、配列番号6の配列を含む。配列番号6の配列は、天然のTP−1プロモーターに含まれる、2つのRBP−Jκ結合配列を含む配列を12個タンデムに連結した配列である。本明細書においては、天然のTP−1プロモーターに含まれる、2つのRBP−Jκ結合配列を含む配列を12個タンデムに連結した配列を例示として用いたが、もちろん、連結する数に制限はない。例えば、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、40、50個などの任意の数で連結することができる。
【0068】
これらの天然のプロモーターから得られた塩基配列は例示であり、これらの配列とはわずかに異なる配列を有する改変体(いわゆる、対立遺伝子改変体)が天然に存在し得ることは公知である。本発明においては、RBP−Jκ配列を含みかつこれらの配列と同等以上の効果が得られる限り、これらの例示した配列以外にも、天然に存在する改変体も本発明の核酸分子に用い得る。
【0069】
天然のRBP−Jκ配列およびその周辺の配列を含む核酸分子は、既知のRBP−Jκ配列およびその周辺の配列を参考にしてプライマーを設計し、目的の天然配列を得ようとするゲノムライブラリーを鋳型としてPCRを行うことによって得ることができる。あるいは、既知の配列情報をもとに、ゲノムライブラリー作製をへることなく、化学合成により直接、天然のRBP−Jκ配列およびその周辺の配列を含む核酸分子を作製することも可能である。
【0070】
本発明の核酸分子はまた、RBP−Jκ配列を含みかつこれらの配列と同等以上の効果が得られる限り、RBP−Jκ配列の周辺の天然配列に対して何らかの改変(例えば、1または数個の改変)が加えられた配列を含んでもよい。このような改変は、少なくとも1個のヌクレオチドの欠失、トランジションおよびトランスバージョンを含む置換、または挿入からなる群より選択され得る。この変化は対照塩基配列の5’末端もしくは3’末端の位置で生じてもよく、またはこれら末端以外のどの位置で生じてもよい。塩基の変化は、1塩基ずつ点在していてもよく、数塩基連続していてもよい。改変は、当該分野で周知の方法を用いて、例えば、部位特異的変異誘発法、変異原を用いた変異誘発法(対象遺伝子を亜硝酸塩などの変異剤で処理すること、紫外線処理を行うこと)、エラープローンPCRを行うことなどによって行われ得る。目的の変異を得やすい点から、部位特異的変異誘発を用いることが好ましい。部位特異的変異誘発を用いれば、目的とする部位で目的とする改変を導入することができるからである。あるいは、目的とする配列をもつ核酸分子を直接合成してもよい。そのような化学合成の方法は、当該分野において周知である。
【0071】
本発明の核酸分子は、直鎖状分子であっても環状分子であってもよい。本明細書において、用語「核酸分子」はまた、核酸、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。核酸分子の例としては、フラグメント、コンストラクト、カセット、プラスミド、ベクター、cDNA、mRNA、ゲノムDNAなどが挙げられる。本明細書では、核酸および核酸分子は、その核酸および核酸分子がタンパク質をコードするときなどは、用語「遺伝子」の概念に含まれる。ある遺伝子配列をコードする核酸分子はまた、「スプライス変異体」および「スプライス改変体」を包含する。スプライス変異体とスプライス改変体とは同義である。同様に、核酸によりコードされる特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を包含する。その名が示唆するように「スプライス変異体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされる場合がある。スプライス変異体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。
【0072】
本発明の核酸分子は、単離された核酸分子であることが好ましい。本明細書中では「単離された」核酸分子とは、その核酸分子が、天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸分子以外の因子および目的とする核酸分子以外の核酸分子)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸分子には、標準的な精製方法によって精製された核酸分子が含まれる。したがって、単離された核酸分子は、化学的に合成した核酸分子を包含する。また、標準的な精製方法によって精製した後に、他の物質と混合した核酸分子および緩衝液中に溶解した核酸分子なども、本明細書でいう単離された核酸分子に該当する。
【0073】
本明細書において「精製された」核酸分子とは、その核酸分子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された核酸分子におけるその核酸分子の純度は、その核酸分子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0074】
他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが意図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1もしくは数個、またはより多数の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
【0075】
本明細書において、ポリペプチド配列または塩基配列の「置換、欠失または付加」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、取り除かれることまたは付け加わることをいう。このような置換、欠失または付加の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、欠失または付加は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、欠失または付加を有する改変体において目的とする機能(例えば、RBP−Jκ結合活性、プロモーター活性、レポータータンパク質配列の場合、所望のレポータータンパク質活性など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。本発明で用いられるプロモーター配列は、プロモーター活性を保持する限り、任意の長さであり得る。このような配列は、例えば、もとのプロモーター配列の塩基配列を5’側または3’側から少しずつ欠失させ、プロモーター活性を保持しているかを確認することにより、容易に決定され得る。このようなプロモーター配列を短縮させる方法は、当業者に周知であり、容易に実施され得る。
【0076】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体、グリコシル化改変体、脂質化改変体、複合分子による改変体などが挙げられる。好ましくは、改変体は、改変のもととなる物質(例えば、酵素)の特性(例えば、生物学的特性)を少なくとも1つ、より好ましくは複数保持している。などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。そのような対立遺伝子変異体は、通常その対応する対立遺伝子と同一または非常に類似性の高い配列を有し、通常はほぼ同一の生物学的活性を有するが、まれに異なる生物学的活性を有することもある。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、当該分野で周知である。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトおよびマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが、ヒトのαヘモグロビン遺伝子およびβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。また、システインプロテアーゼインヒビターである、ヒトのシスタチンAと、イネのオリザシスタチンとを比較すると、標的となるプロテアーゼとの相互作用に重要と考えられる3箇所の短いアミノ酸モチーフが保存されているだけで、他の部分のアミノ酸の共通性は非常に低い。しかし、両者はともにシスタチン遺伝子スーパーファミリーに属し、共通祖先遺伝子を持つとされていることから、単に全体的なアミノ酸の相同性に限らず、局所的に高い相同性を持つアミノ酸配列が共通して存在する場合も、オルソログたり得る。このように、オルソログは、通常別の種においてもとの種と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、上記に列挙した、天然のRBP−Jκ結合配列を含む周辺配列(配列番号2および6)のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0077】
本発明の核酸分子は、直鎖状分子またはプラスミドであることが好ましい。本明細書において用語「プラスミド」とは、染色体に組み込まれず、染色体と異なる機構で複製および維持される環状核酸分子をいう。本発明の核酸分子は、ベクターであってもよい。
【0078】
本明細書において核酸分子について言及する場合、用語「ベクター」とは、目的の塩基配列を目的の細胞へと移入させることができる核酸分子をいう。そのようなベクターとしては、目的の細胞において自律複製が可能であるか、または目的の細胞の染色体中への組込みが可能で、かつ改変された塩基配列の転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。
【0079】
全長ヌクレオチドから一部のヌクレオチドが欠失したヌクレオチドおよび全長ポリペプチドから一部のアミノ酸が欠失したポリペプチドは、フラグメントとも呼ばれる。本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここに具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
【0080】
本明細書において用語「発現ベクター」とは、目的のタンパク質コード配列を目的の細胞中で発現し得るベクターをいう。発現ベクターは、目的のタンパク質コード配列に加えて、その発現を調節するプロモーターのような種々の調節エレメント、および必要に応じて、目的の細胞中での複製および組換え体の選択に必要な因子(例えば、複製起点(ori)、および薬剤耐性遺伝子のような選択マーカー)を含む。発現ベクター中では、目的のタンパク質コード配列は、転写および翻訳されるように作動可能に連結されている。調節エレメントとしては、プロモーター、ターミネーターおよびエンハンサーが挙げられる。また、発現されたタンパク質を細胞外へ分泌させることが意図される場合は、分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が、目的のタンパク質コード配列の上流に正しいリーディングフレームで結合される。特定の生物(例えば、細菌)に導入するために使用される発現ベクターのタイプ、その発現ベクター中で使用される調節エレメントおよび他の因子の種類が、目的の細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0081】
本明細書においてベクターの例としては、スクリーニングに用いる細胞において複製可能なベクター、および遺伝子実験に用いられる一般的な細菌(代表的なものとして大腸菌K12株由来の大腸菌株)で複製可能かつ単離精製可能なベクターが挙げられる。これは、目的の生物細胞(例えば、動物細胞)に導入する目的の核酸分子を構築するために必要である。具体的には、例えば、pGEM−T Vector(Promega社)、pGEM−T Easy(Promega社)、pGL4.18(luc2P/Neo)ベクター(Promega社)、pGL4.21(luc2P/Puro)ベクター(Promega社)、pGBT9(Clontech)、大腸菌のpBR322プラスミド、pUC18、pUC19、pBluescriptといった市販の構築プラスミドがある。エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法といった方法により直接的に遺伝子断片を細胞に導入して形質転換する場合には、このような市販されている一般的なプラスミドを用いて、導入する遺伝子の構築を行えばよい。
【0082】
発現ベクターは、発現カセットの中に、選択マーカーを含み得る。「発現カセット」とは、ある発現すべき塩基配列(例えば、構造遺伝子)と、その発現を調節するプロモーター配列、mRNA転写を終結させるターミネーター配列および必要に応じて他の種々の調節エレメントとを、目的の細胞中でその発現すべき塩基配列が作動し得る状態で連結してある、人工構築遺伝子の1単位を示す。発現カセットの代表例としては、目的の細胞のうちの形質転換された細胞のみを選択するための選択マーカー(例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)の発現カセット、および宿主細胞内に発現させたい有用タンパク質コード配列の発現カセットが挙げられる。準備するべき発現カセットの種類、構造および数については、生物、宿主細胞および目的に応じて使い分けられるべきであり、その組み合わせは当業者には周知である。
【0083】
「発現ベクター」は、上記の「発現カセット」を1つ以上含み得る「ベクター」としても定義され得る。目的の細胞に導入をすべき発現カセットごとに別々のベクター上に配置してもよいし、1つのベクター上に全ての発現カセットを連結してもよい。例えば、本発明において、選択マーカーがさらに用いられる場合、少なくとも3つのRBP−Jκ配列、プロモーター配列およびそのプロモーター配列に作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列を含む発現カセットと、選択マーカーを含む発現カセットとは、同じ発現ベクター上に存在しても別の発現ベクター上に存在してもよい。同じ発現ベクター上に存在することが好ましい。より好ましくは、少なくとも3つのRBP−Jκ配列、プロモーター配列およびそのプロモーター配列に作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列を含む発現カセットと、選択マーカーを含む発現カセットとは、同じ発現カセット中に含まれる。
【0084】
本発明の核酸分子は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列と作動可能に連結されたプロモーター配列をさらに含み得る。
【0085】
本明細書において使用される用語「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、また転写頻度を直接的に調節する、核酸分子上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーター領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。
【0086】
本明細書において使用される用語「プロモーター配列」とは、プロモーター活性を有する配列を意味する。プロモーター活性とは、DNAからRNAを転写させる活性をいう。したがって、「プロモーター配列」とは、その下流(3’側)にDNAを連結して細胞に導入した場合にそのDNAに対応するRNAを合成できる配列をいう。
【0087】
本発明で用いられるプロモーター配列の長さは、通常約10ヌクレオチド以上であるが、好ましくは約20ヌクレオチド以上であり、より好ましくは約30ヌクレオチド以上であり、さらに好ましくは約40ヌクレオチド以上であり、特に好ましくは約50ヌクレオチド以上である。プロモーター配列の長さはまた、約60ヌクレオチド以上、約70ヌクレオチド以上、約80ヌクレオチド以上、約90ヌクレオチド以上、約100ヌクレオチド以上、約150ヌクレオチド以上、約200ヌクレオチド以上、または約300ヌクレオチド以上などの長さであり得る。プロモーター配列の長さに上限はなく、例えば、約500ヌクレオチド以下、約400ヌクレオチド以下、約300ヌクレオチド以下、約200ヌクレオチド以下、約150ヌクレオチド以下、約100ヌクレオチド以下、約90ヌクレオチド以下、約80ヌクレオチド以下、約70ヌクレオチド以下、約60ヌクレオチド以下、約50ヌクレオチド以下などであり得る。
【0088】
本発明で用いられるプロモーター配列は、従来のプロモーター配列(例えば、ミニマムプロモーター)で有り得る。プロモーター配列は、構成的プロモーター配列であってもよく、組織特異的プロモーター配列であってもよく、時期特異的プロモーター配列であってもよい。プロモーター配列は、本発明の核酸分子の使用目的に応じて適切に選択され得る。本発明で用いられるプロモーターの好ましい例としては、Hes−1プロモーター、ウサギβ−グロビン最少プロモーターが挙げられる。
【0089】
本明細書において、あるプロモーターの発現が「構成的」であるとは、そのプロモーターと作動可能に連結されたコード配列の発現が、生物のすべての組織において、その生物の生長の幼若期または成熟期のいずれにあってもほぼ一定の量で発現される性質をいう。具体的には、そのコード配列の発現を分析したとき、例えば、任意の時点で(例えば、2点以上)の同一または対応する部位のいずれにおいても発現がみられるとき、本発明の定義上、発現が構成的であるという。構成的プロモーターは、通常の生育環境にある生物の恒常性維持に役割を果たしていると考えられる。
【0090】
本明細書において、プロモーターの発現が「組織特異的」であるとは、そのプロモーターと作動可能に連結されたコード配列の発現が、生物の特定の組織においてのみ見られる性質をいう。具体的には、そのコード配列の発現を分析したとき、例えば、T細胞では発現が見られるが他の細胞では発現が見られないならば、T細胞特異的に発現されているといえる。
【0091】
本明細書において、プロモーターの発現が「時期特異的」であるとは、そのプロモーターと作動可能に連結されたコード配列の発現が、発生の特定の時期においてのみ見られる性質をいう。具体的には、そのコード配列の発現を分析したとき、例えば、細胞分裂中には発現が確認されるが他の時期には発現が見られないならば、細胞分裂特異的に発現されているといえる。
【0092】
本明細書において使用される「ターミネーター」は、タンパク質コード領域の下流に位置し、塩基配列がmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターは、任意の生物由来のターミネーターであり得るが、好ましくは、選択マーカーが導入されるべき生物由来のターミネーターである。本発明では、目的の生物においてターミネーターの活性を示すものであれば、どのような塩基配列でも使用することができる。
【0093】
本明細書において使用される「エンハンサー」は、目的のタンパク質の発現効率を高めるために用いられ得る。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが、1個用いられてもよいし、用いなくともよい。エンハンサーは、任意の生物由来のエンハンサーであり得るが、好ましくは、選択マーカーが導入されるべき生物由来のエンハンサーである。本発明では、目的の生物においてエンハンサーの活性を示すものであれば、どのような塩基配列でも使用することができる。
【0094】
本明細書中では、「イントロン」とは、任意の2つのエキソンの間に存在する塩基配列であって、RNAに転写されるが、成熟後のRNAには見られない塩基配列をいう。イントロンは、存在することによって、ポリペプチドの発現量を増大させる作用を有する場合がある。イントロンは、任意の生物由来のイントロンであり得るが、好ましくは、選択マーカーが導入されるべき生物由来のイントロンである。本発明では、目的の生物においてイントロンの活性を示すものであれば、どのような塩基配列でも使用することができる。
【0095】
本明細書中では、「エキソン」とは、RNAに転写され、かつポリペプチドへと翻訳される塩基配列をいう。
【0096】
本明細書において使用される「作動可能に連結された(る)」とは、所望の塩基配列が、発現(すなわち、作動)をもたらす転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列(例えば、イントロン、スプライスドナー、スプライスアクセプターなど)の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0097】
少なくとも3つのRBP-Jκ配列とプロモーター配列とを作動可能に連結するため、またはプロモーター配列とレポータータンパク質コード配列とを作動可能に連結するために、これらのいずれかの核酸配列を加工すべき場合がある。例えば、プロモーターとレポータータンパク質コード配列との間が長すぎて転写効率の低下が予想される場合、またはリボゾーム結合部位と翻訳開始コドンとの間隔が適切でない場合などである。加工の手段としては、制限酵素による消化、Bal31、ExoIIIなどのエキソヌクレアーゼによる消化、あるいはM13などの一本鎖DNAまたはPCRを使用した部位特異的変異誘発の導入が挙げられる。
【0098】
本発明の核酸分子は、プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含み得る。「レポータータンパク質」とは、その発現を確認することが容易であるタンパク質をいう。レポータータンパク質は、そのレポータータンパク質を発現する細胞に対して悪影響を及ぼさないことが好ましい。レポータータンパク質は、細胞を破壊せずに発現を確認できることが好ましい。レポータータンパク質コード配列は、一般に、プロモーター活性を確認したいプロモーターの下流に連結される。種々のレポータータンパク質が当該分野で公知であり、当業者は目的にあった適切なレポータータンパク質を容易に選択し得る。レポータータンパク質の例としては、発光タンパク質(すなわち、ルシフェラーゼ)、蛍光タンパク質、β−グルクロニダーゼ、レポータータンパク質コード配列は、発光タンパク質または蛍光タンパク質をコードすることが好ましい。レポータータンパク質は、天然のものであってもよく、天然のものが改変されることにより得られたものであってもよい。天然のレポータータンパク質の性質が改良された種々のレポータータンパク質が公知である。
【0099】
本明細書において使用される用語「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。
【0100】
レポータータンパク質は、レポーターとしての機能を発揮し得るのであれば、任意の長さのアミノ酸ポリマーであり得る。例えば、3、4、5、6、7、8、9、10残基長などの短いポリマーであってもよい。
【0101】
一般に、特定のタンパク質のアミノ酸配列のうちのあるアミノ酸は、そのタンパク質が有する生物学的活性の明らかな低下または消失なしに、他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的活性を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がそのタンパク質のアミノ酸配列において、またはそのタンパク質をコードする塩基配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的活性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたタンパク質またはこのタンパク質をコードする塩基配列を有するヌクレオチドにおいて行われ得る。
【0102】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、タンパク質または核酸分子)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。例えば、ある因子がアンチセンス分子である場合、その生物学的活性は、対象となる核酸分子への結合、それによる発現抑制などを包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。ある因子がプロモーターである場合、その生物学的活性は、標的となる遺伝子の転写がそのプロモーターに特異的な刺激によって変動(好ましくは上昇)することを確認することができる。そのような確認は、当該分野において周知の分子生物学的手法を用いて行うことができる。
【0103】
本明細書中では一般に、レポータータンパク質に対して、アミノ酸の置換、付加、欠失または修飾を行うことができる。
【0104】
アミノ酸の置換とは、1つのアミノ酸を別の1つのアミノ酸に置き換えることをいう。得られるレポータータンパク質が、天然のレポータータンパク質の活性と実質的に同等以上のレポータータンパク質活性を有する限り、アミノ酸の置換は、任意の箇所で任意の個数行われ得る。例えば、置換は、好ましくは1〜30個行われ得、より好ましくは1〜20個行われ得、さらに好ましくは1〜10個行われ得、特に好ましくは1〜5個行われ得、最も好ましくは1〜3個行われ得る。アミノ酸の置換は、1残基ずつ点在していてもよく、2残基以上連続していてもよい。特に、置換がN末端またはC末端で行われる場合、他の箇所に比較して活性への影響が少ないので、他の箇所への置換より多くのアミノ酸残基を置換してもよい。
【0105】
アミノ酸の付加とは、もとのアミノ酸配列中のどこかの位置に、1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を挿入することをいう。1〜30個、より好ましくは1〜20個、さらに好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸を挿入することをいう。アミノ酸の付加もまた、1残基ずつ点在していてもよく、2残基以上連続していてもよい。アミノ酸の付加はまた、特に、N末端またはC末端で行われる場合、他の箇所に比較して活性への影響が少ないので、他の箇所への付加より多くのアミノ酸残基を付加してもよい。例えば1〜100個、より好ましくは1〜50個、さらにより好ましくは1〜30個、特に好ましくは5〜30個、最も好ましくは5〜10個のアミノ酸残基を付加してもよい。
【0106】
アミノ酸の欠失とは、もとのアミノ酸配列から1つ以上、例えば、1〜30個、より好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜5個、最も好ましくは1〜3個のアミノ酸を除去することをいう。アミノ酸の欠失もまた、1残基ずつ点在していてもよく、2残基以上連続していてもよい。特に、欠失がN末端またはC末端で行われる場合、他の箇所に比較して活性への影響が少ないので、他の箇所への欠失より多くのアミノ酸残基を欠失してもよい。
【0107】
アミノ酸修飾の例としては、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などが挙げられるが、これらに限定されない。置換または付加されるアミノ酸は、通常、天然のアミノ酸である。
【0108】
用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体である。
【0109】
このような発現されるレポータータンパク質は、天然のレポータータンパク質のアミノ酸配列に対して、好ましくは約40%、より好ましくは約45%、より好ましくは約50%、より好ましくは約55%、より好ましくは約60%、より好ましくは約65%、より好ましくは約70%、より好ましくは約75%、より好ましくは約80%、より好ましくは約85%、より好ましくは約90%、より好ましくは約95%、そして最も好ましくは約99%の同一性を有する。
【0110】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
【0111】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として実質的に同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において実質的に等価なタンパク質)を生じさせ得ることは、当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0112】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換が挙げられるがこれらに限定されない:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン。
【0113】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
【0114】
本発明の核酸分子においては、レポータータンパク質コード配列の下流にPEST配列コード配列が連結されていることが好ましい。本明細書において用語「PEST配列」とは、プロリン−グルタミン酸−セリン−トレオニンに富むアミノ酸配列をいう。PEST配列は、配列自体およびその長さに特異性はない。PEST配列は、その配列が融合されたタンパク質の細胞内での半減期を短縮させる機能を有する。PEST配列をレポータータンパク質と融合させると、レポータータンパク質の細胞内での過度の蓄積を防ぐことができ、その結果、レポータータンパク質のリアルタイムの測定を行うことができる。
【0115】
PEST配列コード配列の下流またはPEST配列コード配列を含まない場合にはレポータータンパク質コード配列の下流に、選択マーカーの配列がさらに連結され得る。本明細書において用語「選択マーカーの配列」とは、選択遺伝子と同義であり、その選択マーカーがコードする産物の発現によって、選択マーカーが存在する細胞と存在しない細胞とを識別することができる、ヌクレオチドをいう。
【0116】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、タンパク質などの「発現」とは、その遺伝子などがインビトロまたはインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、タンパク質をコードする配列などが、転写および翻訳されて、タンパク質の形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一形態であり得る。より好ましくは、そのようなタンパク質の形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0117】
従って、本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」の「減少」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に減少することをいう。好ましくは、発現の減少は、ポリペプチドの発現量の減少を含む。本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、タンパク質などの「発現」の「増加」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に増加することをいう。好ましくは、発現の増加は、タンパク質の発現量の増加を含む。
【0118】
(2.Notchシグナル伝達系の検出をさらに容易にするための配列)
本発明においては、Notchシグナル伝達系の検出をさらに容易にするための配列をさらに用いてもよい。この配列は、例えば、構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列であり得る。「構成的に活性なNotchタンパク質」とは、活性化を受けなくとも常に活性であって、下流にシグナルを伝えるNotchタンパク質をいう。Notchタンパク質は通常、デルタタンパク質の存在下で活性型になるが、構成的に活性なNotchタンパク質は、デルタタンパク質が存在する必要がない。構成的に活性なNotchタンパク質は、活性型Notch、活性型Notchタンパク質、恒常的に活性なNotchなどともいわれる。
【0119】
構成的に活性なNotchタンパク質の例としては、CC>SS、細胞外ドメイン欠損NOTCH、F−NEXT、NotchΔE、T−ALL変異含有Notchなどが挙げられるがこれらに限定されない。CC>SSは、LNRmNotch1のヘテロダイマー形成部分である1675位のシステインをセリンに、1682位のシステインをセリンに置換したもの(すなわち、C1675S,C1682Sにしたもの)である。CC>SSは、Mumm JS,Schroeter EH,Saxena MT,Griesemer A,Tian X,Pan DJ,Ray WJ,Kopan R.,”A ligand−induced extracellular cleavage regulates gamma−secretase−like proteolytic activation of Notch1.”Mol Cell.2000 Feb;5(2):197−206およびKopan R,Schroeter EH,Weintraub H,Nye JS.,”Signal transduction by activated mNotch:importance of proteolytic processing and its regulation by the extracellular domain.”Proc Natl Acad Sci U S A.1996 Feb 20;93(4):1683−8に記載される。細胞外ドメイン欠損NOTCHは、Notchの細胞外ドメイン部分を欠損したものであり、ΔNS1ともいう。細胞外ドメイン欠損NOTCHの核酸配列を配列番号7に示し、そのアミノ酸配列を配列番号8および図5に示す。細胞外ドメイン欠損NOTCHは、シグナルシークエンス+S1+S2+S3+S4サイトをもつ。F−NEXTはOkochi et al., Presenilins mediate a dual intramembranous gamma−secretase cleavage of Notch−1. EMBO J. 2002 Oct 15;21(20):5408−16.に記載される。NotchΔEはKopan et al., Signal transduction by activated mNotch: importance of proteolytic processing and its regulation by the extracellular domain. Proc Natl Acad Sci U S A. 1996 Feb 20;93(4):1683−8.に記載される。T−ALL変異含有NotchはWeng et al., Activating mutations of NOTCH1 in human T cell acute lymphoblastic leukemia. Science. 2004 Oct 8;306(5694):269−71.に記載される。
【0120】
構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列は、プロモーター配列と作動可能に連結されることが好ましい。プロモーター配列については上記に説明したのと同様である。構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列に連結されるプロモーター配列は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列に連結されるプロモーター配列と同じ配列を有してもよく、異なる配列を有してもよく、同じ配列であっても異なる配列であってもよい。。
【0121】
構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列には、必要に応じて、ターミネーター、エンハンサーなどの他の発現調節エレメントが連結され得る。
【0122】
構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列を含む核酸分子は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子と別の分子であってもよく、同じ分子であってもよい。別の分子であることが好ましい。
【0123】
本発明の核酸分子は、好ましくは、プロモーター配列と作動可能に連結された構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列を含む核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の前記レポータータンパク質の発現量と、該Notchタンパク質コード配列を含まない核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の該レポータータンパク質の発現量とを比較したときの、Z’ factor値が0.5以上である。
【0124】
Z’factor値は、アッセイ精度に関する指標である。Z’factor値については、Ji−Hu Zhang et al.,J.Biomol.Screen.5,67−73,1999に詳細に説明されている。Z’factor値(Z’)は、以下の式に従って求められる。
【0125】
【数1】
Z’factor値の計算式およびその概念図を図6(a)に示す。Z’factor値を説明するために模式的なデータの例を、図6(b)および図6(c)に示す。図6(b)は、S/B=10でかつZ’=0.4の場合のデータ例であり、図6(c)は、S/B=2でかつZ’=0.8の場合のデータ例である。それぞれ、縦軸はカウント数を示し、横軸はサンプル番号を示す。図6(b)および図6(c)からわかるように、S/Bが比較的大きくてもZ’が小さいとデータはばらつき、S/Bが比較的小さくてもZ’が大きければデータのばらつきは小さい。Z’factor値は好ましくは0.50以上であり、より好ましくは0.55以上であり、さらに好ましくは0.60以上であり、特に好ましくは0.65以上であり、ことさら好ましくは0.70以上であり、さらになお好ましくは0.8以上である。Z’factor値の上限は1である。Z’factor値が高いほどアッセイ精度が高い。ハイスループットスクリーニングを行うためには、Z’factor値が0.50以上であることが好ましい。
【0126】
(3.本発明の核酸分子を含む細胞)
本発明の細胞は、本発明の核酸分子を含む。本発明の細胞は、好ましくは、Notchシグナル伝達が容易に活性化される細胞を含む。本発明の細胞は、任意の生物の細胞であり得る。本発明の細胞は、好ましくは動物細胞であり、より好ましくは哺乳動物細胞であり、さらに好ましくは霊長類の細胞であり、最も好ましくはヒト細胞である。本発明の細胞は好ましくは単離された細胞である。本発明の細胞として用いるのに好ましい細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、CHO細胞などが挙げられる。HEK293細胞は、ヒト胎児腎細胞をアデノウィルスのE1遺伝子により形質転換することにより樹立された細胞株である。あるいは、細胞は、Notchシグナル伝達系についての調査が望ましい細胞であり得る。例えば、患者由来の細胞であり得る。本発明の細胞は、これまでに樹立された細胞株から作製されてもよく、あるいは患者、被験者などから採取された細胞から作製されてもよい。
【0127】
Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニングにおいて本発明の細胞を用いることが意図される場合、この細胞において、少なくとも3つのRBP−Jκ配列を含む核酸分子は、プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含むことが好ましい。このような場合、本発明の細胞は、内因性のNotchタンパク質を発現する細胞であってもよく、または構成的に活性なNotchタンパク質を発現する細胞であってもよい。特定の実施形態では、内因性のNotchタンパク質を発現する細胞であることが好ましい。内因性のNotchタンパク質を発現する細胞であれば、Notchシグナル伝達系の調節活性をさらにより正確に調べることができる。別の実施形態では、構成的に活性なNotchタンパク質を発現する細胞であることが好ましい。構成的に活性なNotchタンパク質を発現する細胞であれば、レポータータンパク質の発現量が非常に多くなるという利点を有する。
【0128】
本発明の細胞は、本発明の核酸分子を目的の細胞に導入することによって得られ得る。
【0129】
本発明の核酸分子を導入する細胞(宿主ともいう)の例としては、原核生物および真核生物が挙げられる。核酸分子を導入する細胞は、内因性のNotchタンパク質を発現するか否か、レポータータンパク質の発現の容易さ、培養の容易さ、増殖の速さ、安全性などの種々の条件を考慮して容易に選択され得る。
【0130】
本発明の方法において、本発明の核酸分子を細胞に導入する技術は、当該分野で公知の任意の技術であり得る。また、個々の細胞に対してではなく、組織、器官に対して導入してもよい。このような技術の例としては、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。例えば、リポフェクトアミンを用いるリポフェクションによって行われてもよい。核酸分子の生物細胞への導入は、一過的(トランジェント)であっても恒常的であってもよい。一過性または恒常性の遺伝子導入の技術はそれぞれ当該分野において周知である。本発明において用いられる細胞を分化させる技術もまた当該分野において周知である。そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0131】
「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生物体の全部または一部をいう。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
【0132】
本発明の細胞において、本発明の核酸分子(すなわち、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子)は、細胞の染色体に導入されていても、導入されていなくてもよい。
【0133】
形質転換処理をする際には、必要により、選択マーカーの配列が使用される。選択マーカーとその選択マーカーに適切な選択因子(例えば、抗生物質、色素など)とを組合せて用いることにより、形質転換処理が施された細胞の中から、本発明の核酸分子が導入された細胞をより効率よく選択することができる。しかし、この工程は、本発明において必ずしも必須というわけではない。このような選択方法は、導入された核酸分子が有する選択マーカーの特性によって変動し、例えば、抗生物質(例えば、ネオマイシン(Neomycin)、ピューロマイシン(Puromycin)など)に対する耐性遺伝子が選択マーカーとして導入された場合は、その特定の抗生物質を用いて目的の細胞を選択することができる。あるいは、選択マーカーとして標識遺伝子(例えば、グリーン蛍光遺伝子など)を用いれば、そのような標識を目安に目的の細胞を選択することができる。ただし、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列に連結するレポータータンパク質と選択マーカーとは異なるものであることが好ましい。あるいは、外来遺伝子そのものが表現型に識別可能な差異を生じさせる場合は、そのような差異を目安に遺伝子導入細胞を選択してもよい。そのような識別可能な差異としては、例えば、色素の発現の有無などがあるがそれに限定されない。
【0134】
本発明の細胞は、組織を形成していない、単なる細胞として用いられてもよく、あるいは、組織、器官および生物体へと分化したものであってもよい。
【0135】
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、器官の一部であり得る。器官内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。通常「組織」は、同じ起源を有するが、異なる起源を持つ細胞集団であっても、同一の機能および/または形態を有するのであれば、組織と呼ばれ得る。通常、組織は、器官の一部を構成する。
【0136】
本明細書において、「器官」とは、1つ独立した形態をもち、1種以上の組織が組み合わさって特定の機能を営む構造体を形成したものをいう。本発明が対象とする器官はどのような器官でもよく、また本発明が対象とする組織または細胞は、生物のどの器官に由来するものでもよい。一般に多細胞生物(例えば、動物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。本発明の器官は、当該分野で周知の形質転換方法に従って作出された細胞を用いて、当該分野で公知の方法に従って組織分化させ、そして器官を形成させることによって入手され得る。
【0137】
本明細書において「生物体」とは、当該分野における最も広義に用いられ、生命現象を営むものをいい、代表的には、細胞構造、増殖(自己再生産)、成長、調節性、物質代謝、修復能力など種々の特性を有し、通常、核酸のつかさどる遺伝と、タンパク質のつかさどる代謝の関与する増殖を基本的な属性として有する。生物には、原核生物、真核生物(植物、動物など)などが包含される。好ましくは、本発明では、生物は、動物であり得る。本発明の生物体は、当該分野で周知の形質転換方法に従って作出された細胞を用いて、当該分野で公知の方法に従って再分化させることによって入手され得る。あるいは、本発明の生物体は、当該分野で周知の形質転換方法に従って作出された細胞を再分化させ、形質転換個体を得て、その個体を交配することによって得た子孫から得られる生物体であり得る。
【0138】
(4.Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法)
本発明によれば、Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法が提供される。この方法は、(a)本発明の細胞と候補物質とを接触させる工程;および(b)この細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程を包含する。
【0139】
このスクリーニング方法において、候補物質は任意の物質であり得る。候補物質は例えば、化学的に合成された化合物であってもよく、天然から抽出された物質であってもよく、天然から抽出された物質を修飾することにより得られる物質であってもよい。候補物質は、種々の化合物ライブラリーであってもよい。
【0140】
候補物質は直接細胞に添加されてもよいが、利便性の面から、候補物質は例えば、溶液中に溶解され、この溶液を細胞に添加することによって、本発明の細胞と接触し得る。
【0141】
スクリーニングは、任意のフォーマットで行われ得る。例えば、96ウェルプレートのような多穴プレートの各ウェルに細胞を入れ、この細胞に、候補物質を含む溶液を添加することによって、本発明の細胞と候補物質とを接触させ得る。次いで、これらの各ウェル中でのレポータータンパク質の発現量が測定され得る。本発明のスクリーニングはインビトロまたはインビボのいずれで行ってもよいが、好ましくはインビトロで行われる。
【0142】
より好ましい実施形態では、本発明の、Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法は、(a’)本発明の細胞中での前記レポータータンパク質の発現量を測定する工程;(b’)該細胞と候補物質とを接触させる工程;(c’)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(d’)工程(c’)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a’)での該レポータータンパク質の発現量よりも増加したかまたは減少した場合、該候補物質をNotchシグナル伝達系を調節する物質として選択する工程を包含する。
【0143】
工程(a’)で発現量を測定する代わりに、細胞と、候補物質を含まないコントロール溶液とを接触させた場合のレポータータンパク質の発現量を測定してもよい。この場合の本発明のスクリーニング方法は、(a”)候補物質の存在下での本発明の細胞中でのレポータータンパク質の発現量を測定する工程;(b”)候補物質の非存在下での本発明の細胞中でのレポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(c”)工程(a”)での発現量と工程(b”)での発現量とを比較する工程を包含する。
【0144】
このようにして、候補物質の存在下と非存在下とでレポータータンパク質の発現量が変化(すなわち、増加または減少)した場合、その候補物質は、Notchシグナル伝達系を調節する物質である。
【0145】
本発明のスクリーニング方法を用いて、Notchシグナル伝達系を調節する物質を選択するだけでなく、Notchシグナル伝達系に実質的に影響を与えない物質を選択することもできる。本明細書において「Notchシグナル伝達系に実質的に影響を与えない物質」とは、その物質の存在下と非存在下とでのレポータータンパク質の発現量が実質的に同じである物質をいう。「発現量が実質的に同じである」とは、その物質の非存在下での発現量を100%としたときの10μMのその物質の存在下での発現量が、80%より高く120%以下であることをいう。
【0146】
レポータータンパク質が発光タンパク質である場合、その発現量は、特定の波長の光を測定することにより測定され得る。特定の発光タンパク質についての特徴的な波長は当業者に公知であり、その測定方法もまた当業者に公知である。
【0147】
レポータータンパク質が蛍光タンパク質である場合、その発現量は、適切な波長の光を細胞に当てて蛍光タンパク質を励起し、特定の波長の発光を測定することにより測定され得る。特定の蛍光タンパク質についての特徴的な波長は当業者に公知であり、その測定方法もまた当業者に公知である。
【0148】
レポータータンパク質が他の特性を有するタンパク質である場合もそのレポータータンパク質についての発現量の測定法は当業者に公知であり、適切に選択され得る。
【0149】
特に好ましい実施形態では、本発明の方法において工程(c’)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a’)での該レポータータンパク質の発現量よりも増加した場合、あるいは、工程(a”)での該レポータータンパク質の発現量が工程(b”)での該レポータータンパク質の発現量よりも増加した場合、この候補物質をNotchシグナル伝達系の活性化剤として選択する。好ましくは、Notchシグナル伝達系の活性化剤は、その物質の非存在下での発現量を100%としたときの10μMのその物質の存在下での発現量が、120%以上である物質であり、より好ましくは約150%以上である物質であり、さらに好ましくは約200%以上である物質であり、特に好ましくは約300%以上である物質である。Notchシグナル伝達系の活性化剤は例えば、その物質の非存在下での発現量を100%としたときの10μMのその物質の存在下での発現量が、約500%以下である物質であり、より好ましくは約400%以下である物質であり、さらに好ましくは約300%以下である物質であり、特に好ましくは約200%以下である物質である。Notchシグナル伝達系の活性化剤は、例えば、Notchシグナル伝達が抑制された状態を改善するための薬剤として有用である。
【0150】
特に好ましい実施形態では、本発明の方法において工程(c’)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a’)での該レポータータンパク質の発現量よりも減少した場合、あるいは、工程(a”)での該レポータータンパク質の発現量が工程(b”)での該レポータータンパク質の発現量よりも減少した場合、この候補物質をNotchシグナル伝達系の抑制剤として選択する。好ましくは、Notchシグナル伝達系の抑制剤は、その物質の非存在下での発現量を100%としたときの10μMのその物質の存在下での発現量が、80%以下である物質であり、より好ましくは約70%以下である物質であり、さらに好ましくは約60%以下である物質であり、特に好ましくは約50%以下である物質である。Notchシグナル伝達系の抑制剤は例えば、その物質の非存在下での発現量を100%としたときの10μMのその物質の存在下での発現量が、約10%以上である物質であり、より好ましくは約20%以上である物質であり、さらに好ましくは約30%以上である物質であり、特に好ましくは約40%以上である物質である。Notchシグナル伝達系の抑制剤は、例えば、癌などのNotchシグナル伝達が異常に活性化された状態を改善するための薬剤(すなわち、例えば、抗癌剤)として有用である。
【0151】
(5.γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法)
本発明によれば、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法が提供される。
【0152】
γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法は、(a)本発明の細胞と該候補物質とを接触させる工程;および(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程を包含する。
【0153】
このスクリーニング方法において、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質は任意の物質であり得る。γ−セクレターゼ阻害薬候補物質は例えば、化学的に合成された化合物であってもよく、天然から抽出された物質であってもよく、天然から抽出された物質を修飾することにより得られる物質であってもよい。候補物質は、種々の化合物ライブラリーであってもよい。
【0154】
γ−セクレターゼ阻害薬候補物質は直接細胞に添加されてもよいが、利便性の面から、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質は例えば、溶液中に溶解され、この溶液を細胞に添加することによって、本発明の細胞と接触し得る。
【0155】
スクリーニングは、任意のフォーマットで行われ得る。例えば、96ウェルプレートのような多穴プレートの各ウェルに細胞を入れ、この細胞に、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質を含む溶液を添加することによって、本発明の細胞とγ−セクレターゼ阻害薬候補物質とを接触させ得る。次いで、これらの各ウェル中でのレポータータンパク質の発現量が測定され得る。本発明のスクリーニングはインビトロまたはインビボのいずれで行ってもよいが、好ましくはインビトロで行われる。
【0156】
より好ましい実施形態では、本発明の、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法は、(a’)本発明の細胞中での前記レポータータンパク質の発現量を測定する工程;(b’)該細胞と候補物質とを接触させる工程;(c’)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(d’)工程(c’)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a’)での該レポータータンパク質の発現量と実質的に同じである場合、該候補物質をNotchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬として選択する工程を包含する。
【0157】
工程(a’)で発現量を測定する代わりに、細胞と、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質を含まないコントロール溶液とを接触させた場合のレポータータンパク質の発現量を測定してもよい。この場合の本発明のスクリーニング方法は、(a”)候補物質の存在下での本発明の細胞中でのレポータータンパク質の発現量を測定する工程;(b”)候補物質の非存在下での本発明の細胞中でのレポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(c”)工程(a”)での発現量と工程(b”)での発現量とを比較する工程を包含する。
【0158】
このようにして、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質の存在下と非存在下とでレポータータンパク質の発現量が減少した場合、その候補物質は、Notchシグナル伝達系を抑制する物質であり、レポータータンパク質の発現量が変化しないかまたは増加した場合、その候補物質は、Notchシグナル伝達系を抑制しない物質である。
【0159】
好ましくは、γ−セクレターゼ阻害薬は、Notchシグナル伝達系を実質的に抑制しない物質である。「Notchシグナル伝達系を実質的に抑制しない物質」とは、その物質の存在下でのレポータータンパク質の発現量が、その物質の非存在下でのレポータータンパク質の発現量と実質的に同じであるかまたは多い物質をいう。さらに好ましくは、γ−セクレターゼ阻害薬は、Notchシグナル伝達系に実質的に影響を与えない物質である。好ましくは、γ−セクレターゼ阻害薬は、この物質の非存在下での発現量を100%としたときのこの物質の存在下での発現量が、80%〜約120%である物質であり、より好ましくは約90%〜約110%である物質である。
【0160】
本発明のスクリーニング方法を用いることにより、アルツハイマー病治療薬候補であるγ−セクレターゼ阻害薬の副作用の検討を行うことができる。本発明のスクリーニング方法によれば、このような検討を、特に、ハイスループットスクリーニング(high through−put screening)によって行うことができるという顕著な効果を有する。
【0161】
本発明のスクリーニング方法を用いることにより、Notchシグナル伝達阻害型抗がん剤の主作用の検討を行うことができる。本発明のスクローニング方法によれば、このような検討を、特に、ハイスループットスクリーニングによって行うことができるという顕著な効果を有する。
【0162】
(6.Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないアルツハイマー病治療薬を選択するためのスクリーニング方法)
本発明によれば、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないアルツハイマー病治療薬を選択するためのスクリーニング方法が提供される。
【0163】
Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないアルツハイマー病治療薬を選択するためのスクリーニング方法は、(a)本発明の細胞と該候補物質とを接触させる工程;および(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程を包含する。
【0164】
このスクリーニング方法において、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質は、Aβ42の産生を抑制する任意の物質であり得る。Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質は例えば、化学的に合成された化合物であってもよく、天然から抽出された物質であってもよく、天然から抽出された物質を修飾することにより得られる物質であってもよい。候補物質は、種々の化合物ライブラリーであってもよい。
【0165】
Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質は直接細胞に添加されてもよいが、利便性の面から、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質は例えば、溶液中に溶解され、この溶液を細胞に添加することによって、本発明の細胞と接触し得る。
【0166】
スクリーニングは、任意のフォーマットで行われ得る。例えば、96ウェルプレートのような多穴プレートの各ウェルに細胞を入れ、この細胞に、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質を含む溶液を添加することによって、本発明の細胞とAβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質とを接触させ得る。次いで、これらの各ウェル中でのレポータータンパク質の発現量が測定され得る。本発明のスクリーニングはインビトロまたはインビボのいずれで行ってもよいが、好ましくはインビトロで行われる。
【0167】
より好ましい実施形態では、本発明の、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないアルツハイマー病治療薬を選択するためのスクリーニング方法は、(a’)本発明の細胞中での前記レポータータンパク質の発現量を測定する工程;(b’)該細胞と候補物質とを接触させる工程;(c’)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(d’)工程(c’)での該レポータータンパク質の発現量が工程(a’)での該レポータータンパク質の発現量と実質的に同じである場合、該候補物質をNotchシグナル伝達系を抑制しないAβ42産生阻害薬として選択する工程を包含する。
【0168】
工程(a’)で発現量を測定する代わりに、細胞と、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質を含まないコントロール溶液とを接触させた場合のレポータータンパク質の発現量を測定してもよい。この場合の本発明のスクリーニング方法は、(a”)候補物質の存在下での本発明の細胞中でのレポータータンパク質の発現量を測定する工程;(b”)候補物質の非存在下での本発明の細胞中でのレポータータンパク質の発現量を測定する工程;および(c”)工程(a”)での発現量と工程(b”)での発現量とを比較する工程を包含する。
【0169】
このようにして、Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質の存在下と非存在下とでレポータータンパク質の発現量が減少した場合、その候補物質は、Notchシグナル伝達系を抑制する物質であり、レポータータンパク質の発現量が変化しないかまたは増加した場合、その候補物質は、Notchシグナル伝達系を抑制しない物質である。
【0170】
好ましくは、この候補物質は、Notchシグナル伝達系を実質的に抑制しない物質である。「Notchシグナル伝達系を実質的に抑制しない物質」とは、その物質の存在下でのレポータータンパク質の発現量が、その物質の非存在下でのレポータータンパク質の発現量と実質的に同じであるかまたは多い物質をいう。さらに好ましくは、アルツハイマー病治療薬は、Notchシグナル伝達系に実質的に影響を与えない物質である。好ましくは、アルツハイマー病治療薬は、この物質の非存在下での発現量を100%としたときのこの物質の存在下での発現量が、約80%〜約120%である物質であり、より好ましくは約90%〜約110%である物質である。
【0171】
本発明のスクリーニング方法を用いることにより、アルツハイマー病治療薬候補であるAβ42産生抑制薬の副作用の検討を行うことができる。本発明のスクリーニング方法によれば、このような検討を、特に、ハイスループットスクリーニング(high through−put screening)によって行うことができるという顕著な効果を有する。本発明のスクリーニング方法を用いることにより、Aβ42の産生を抑制しながらも、Notchシグナル伝達に実質的に影響を与えないアルツハイマー病治療薬を得ることができる。
【0172】
本発明のスクリーニング方法を用いることにより、Notchシグナル伝達阻害型抗がん剤の主作用の検討を行うことができる。本発明のスクローニング方法によれば、このような検討を、特に、ハイスループットスクリーニングによって行うことができるという顕著な効果を有する。
【0173】
(7.キット)
本発明によれば、Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法において使用するためのキットが提供される。このキットは、本発明の細胞およびレポータータンパク質の発現量を測定するための試薬を備える。
【0174】
本発明によれば、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質あるいはAβ42産生抑制薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬あるいはAβ42産生抑制薬を選択するためのスクリーニング方法において使用するためのキットもまた提供される。このキットは、本発明の細胞;レポータータンパク質の発現量を測定するための試薬を備える。このキットはまた、使用説明書、ポジティブコントロール(例えば、DAPT、L−685458)、ネガティブコントロール(例えば、スリンダクスルフィド、インドメタシン、イブプロフェン,R−フルビプロフェン)などを備え得る。
【0175】
DAPTは、N−[N−(3,5−ジフルオロフェナセチル−L−アラニル)]−S−フェニルグリシン t−ブチルエステル(N−[N−(3,5−Difluorophenacetyl−L−alanyl)]−S−phenylglycine t−Butyl Ester)であり、Notchシグナル伝達系も阻害するγ−セクレターゼ阻害剤として公知である(Dovey et al. (2001) Functional gamma−secretase inhibitors reduce beta−amyloid peptide levels in brain. J. Neurochem. 76, 173-181.)。
【0176】
L−685458は、{1S−Benzyl−4R−[1−(1S−carbamoyl−2−phenylethylcarbamoyl)−1S−3−methylbutylcarbamoyl]−2R−hydroxy−5−phenylpentyl}carbamic acid tert−butyl esterであり、Notchシグナル伝達系も阻害するγ−セクレターゼ阻害剤として公知である(Shearman et al., L−685,458, an aspartyl protease transition state mimic, is a potent inhibitor of amyloid beta−protein precursor gamma−secretase activity. Biochemistry. 2000 Aug 1;39(30):8698−704.)。
【0177】
スリンダクスルフィドは、(Z)−5−フルオロ−2−メチル−1−[p−(メチルチオ)ベンジリデン]インデン−3−酢酸((Z)−5−Fluoro−2−methyl−1−[p−(methylthio)benzylidene]indene−3−acetic Acid)であり、Aβ42産生抑制活性があるが、Notchシグナル伝達系に何の影響も与えないことが公知である(Weggen S et al., Evidence that nonsteroidal anti−inflammatory drugs decrease amyloid beta 42 production by direct modulation of gamma−secretase activity. J Biol Chem. 2003 Aug 22,278(34):31831−7;Weggen et al., Abeta42−lowering nonsteroidal anti−inflammatory drugs preserve intramembrane cleavage of the amyloid precursor protein (APP) and ErbB−4 receptor and signaling through the APP intracellular domain. J Biol Chem. 2003 Aug 15,278(33):30748−54;Takahashi et al., Sulindac sulfide is a noncompetitive gamma−secretase inhibitor that preferentially reduces Abeta 42 generation. J Biol Chem. 2003 May 16,278(20):18664−70;Weggen et al., A subset of NSAIDs lower amyloidogenic Abeta42 independently of cyclooxygenase activity. Nature. 2001 Nov 8,414(6860):212−6)。
【0178】
(8.組成物)
本発明の組成物は、内因性のNotchシグナルの調節を測定するための組成物である。本発明の組成物は、少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子を含み、該RBP−Jκ結合配列が、TGGGAAである。
【0179】
本発明の組成物に含まれる核酸分子については、上記(1.少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子)の項目に記載したとおりである。
【0180】
本発明の組成物は、液体であっても固体であってもよい。
【実施例】
【0181】
(実施例1.各種プラスミドの作製)
(実施例1−1:Hes1−luc x2、Hes1−luc x3、およびHes1−luc x4の作製)
Hes1p−luciferase(Jarriault et al.Nature 377,355−358,1995)にQuikchange II site−Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)およびプライマー1:CGTGTCTCTTCCTCCCGCTAGCTGAAAGTTACTG(配列番号9);プライマー2:CAGTAACTTTCAGCTAGCGGGAGGAAGAGACACG(配列番号10)を用いて95℃ 30秒、55℃ 1分、68℃ 6分を16回繰り返す条件でPCRを行うことにより、NheI 制限酵素部位を導入し、Hes1−luc−NheIを作製した。このプラスミドのRBP−Jκ結合部位を下記のプライマーを用い、94℃ 30秒、60℃ 30秒、72℃ 30秒を20回繰り返すの条件でPCRで増幅した:
プライマー3:CGCTAGCTGAAAGTTACTGGTGG(配列番号11);および
プライマー4:GTCTAGAGGCTCGTGTGAAACTTCC(配列番号12)。増幅した断片をpGEM−T Vector(Promega社)に挿入して連結してプラスミドを得た。このプラスミドを制限酵素NheIおよびXbaIで処理することにより、RBP−Jκ配列を2つ含むNheI−XbaI断片を作製した。この作成した断片を、Hes1−luc−NheIのNheI部位にそれぞれ1〜3個挿入することにより、Hes1−luc x2、Hes1−luc x3、およびHes1−luc x4(Hes−Yとも記載する)を作製した。これらのプラスミドの構造の模式図を図7aおよび図13(a)に示す。Hes1−luc x4(Hes−Y)のNheI部位の26塩基上流の部位からHindIII部位までの配列を図13(b)に示す。Hes1−luc x2は、4つのRBP−Jκ結合配列を含む。Hes1−luc x3は、6つのRBP−Jκ結合配列を含む。Hes1−luc x4は、8つのRBP−Jκ結合配列を含む。
【0182】
(実施例1−2:Hes−YP NeoおよびHes−YP Puroの作製)
Hes−YをNheIおよびHindIIIで処理することにより、8つのRBP−Jκ配列を含むNheI−HindIII断片を得た。このNheI−HindIII断片をpGL4.18(luc2P/Neo)ベクター(Promega社)およびpGL4.21(luc2P/Puro)ベクター(Promega社)にそれぞれ導入することにより、Hes−YP NeoおよびHes−YP Puroを作製した。これらのプラスミドの構造の模式図を図8aに示す。pGL4.18およびpGL4.21にはもともとルシフェラーゼコード配列の下流にPEST配列が含まれているため、得られたHes−YP NeoおよびHes−YP Puroにも、PEST配列コード配列が含まれている。
【0183】
(実施例1−3:TP−Yの作製)
pGA981−6(Minoguchi et al.,Mol Cell Biol.17(5),2679−87,1997)のRBP−Jκ結合部位を下記のプライマーを用い、94℃ 30秒、60℃ 30秒、72℃ 1分を20回繰り返す条件を用いてPCRで増幅した:
プライマー5:CATGCCTGCAGGTCGACTCTAG(配列番号13)および
プライマー6:AGATCTCCAAGATGCATACAGTGGATC(配列番号14)。
【0184】
増幅した断片をpGEM−T Vector(Promega社)に挿入し、制限酵素BamHI−BglIIで処理することにより作成した断片を、pGA981−6のBamHI部位に挿入し、TP−Yを作製した。TP−Yは、24個のRBP−Jκ配列を含む。TP−Yの構造の模式図を図7aに示す。TP−Yの24個のRBP−Jκ配列を含む領域とpUC18ベクター、ウサギβ−グロビン最小プロモーターおよびルシフェラーゼ遺伝子との連結部の配列を図9に示す。
【0185】
(実施例2.Notchシグナル伝達系活性化に対する各プロモーターの反応)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes1−luc x2、Hes1−luc x3、Hes−YおよびTP−YのNotchシグナル伝達系活性化に対する反応を調べた。比較のために、プラスミドHes1−lucおよびpGA981−6を用いた。
【0186】
10%FCS(ウシ胎仔血清)を含有するDMEM(Virology,8,396(1959))を用い、5%CO2、37℃の条件下でHeLa細胞を培養した。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes1−luc、Hes1−luc x2、Hes1−luc x3、Hes−Y、pGA981−6またはTP−Yと、Notchシグナル伝達系を活性化するための活性型NotchコンストラクトであるCC>SS(Mumm et al.,Mol.Cell 5,197−206,2000)と内部コントロールレポーターとしてウミシイタケルシフェラーゼを発現するベクターであるpRL−Tkベクターを導入した。この工程を、本明細書中ではリポフェクション(lipofection)という。
【0187】
ネガティブコントロールとして、CC>SSを導入せず、pcDNA3.1 Hygro(+)ベクター(Invitrogen社)を導入する実験も行った。
【0188】
リポフェクションを行ってから24時間後、それぞれの細胞を溶解し、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega社)を用いて、蛍光強度を測った。結果を図7(b)に示す。この図においては、Hes1−lucをCC>SSとともに共発現したときの蛍光活性(図中ではLuciferase活性と示す)を1として他のコンストラクトを用いたときの蛍光活性の相対値を示した。
【0189】
この結果、RBP−Jκ結合配列の増加とともにルシフェラーゼ活性の増加が認められた。しかも、原理はわからないが、RBP−Jκ結合配列を複数連結することにより、ネガティブコントロールを用いた場合の蛍光強度(すなわち、バックグラウンド)が顕著に低下した。これは驚くべき結果であった。これらの各コンストラクトを用いたときのS/N比は、Hes1−lucの場合が1.54であるのに対して、Hes1−luc x2の場合に8.67、Hes1−luc x3の場合に13.90、Hes−Yの場合に18.64であった。また、pGA981−6の場合が5.98であるのに対して、TP−Yのい場合が27.12であった。S/N比は、CC>SSプラスミドと共発現した場合の蛍光強度をpcDNA3.1 Hygro(+)ベクターと共発現下場合の蛍光強度で除算することにより得られる。このように、RBP−Jκ結合配列を複数連結することにより、SN比が飛躍的に向上した。
【0190】
(実施例3.Notchシグナル伝達系活性化に対する各プロモーターの反応)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes1−luc、Hes−Y、Hes−YP NeoおよびHes−YP PuroのNotchシグナル伝達系活性化に対する反応を調べた。
【0191】
10%FCSを含有するDMEMを用い、5%CO2、37℃の条件下でHeLa細胞を培養した。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes1−luc、Hes−Y、Hes−YP NeoまたはHes−YP Puroと、Notchシグナル伝達系を活性化するための活性型NotchコンストラクトのCC>SS(Mumm et al.,Mol.Cell 5,197−206,2000)と内部コントロールレポーターとしてウミシイタケルシフェラーゼを発現するベクターであるpGL4.74[hRluc/TK]ベクターをを導入した。
【0192】
ネガティブコントロールとして、CC>SSを導入せず、pcDNA3.1 Hygro(+)ベクター(Invitrogen社)を導入する実験も行った。
【0193】
リポフェクションを行ってから24時間後、それぞれの細胞を溶解し、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega社)を用いて、蛍光強度を測った。結果を図8(b)に示す。図8(b)は、これらのNotchレポーターアッセイ用コンストラクトと、活性型Notchとを共発現した時のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。図8(c)は、これらのNotchレポーターアッセイ用コンストラクトと、活性型Notchとを共発現した時のルシフェラーゼ活性を、活性型Notchを用いた場合のそれぞれの活性を1として示すグラフである。
【0194】
Hes1−lucを用いた場合と比較して、Hes−Y、Hes−YP NeoまたはHes−YP Puroを用いた場合は、蛍光強度(図8(b)中ではLuciferase活性と記載する)が著しく改善し、特に、Hes−YP NeoまたはHes−YP Puroを用いた場合の蛍光強度は非常に高かった。このことから、pGL2ベクターからpGL4ベクターに入れ替えることによって蛍光強度の顕著な増強が得られることがわかった。
【0195】
しかも、原理はわからないが、図8(c)からわかるように、Hes−Y、Hes−YP NeoまたはHes−YP Puroを用いた場合には、ネガティブコントロールを用いた場合の蛍光強度(すなわち、バックグラウンド)が顕著に低下した。これは驚くべき結果であった。このように、RBP−Jκ結合配列を複数連結し、PEST配列をもつルシフェラーゼレポータープラスミドに挿入した結果、感度が著しく上昇した。
【0196】
(実施例4.内因性Notchシグナル伝達の阻害の測定)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes−YおよびHes−YP Neoが内因性のNotchシグナル伝達の阻害を測定できるかどうか調べた。
【0197】
10%FCSを含有するDMEMを用い、5%CO2、37℃の条件下でHeLa細胞を培養した。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes−YまたはHes−YP Neoと、Notchシグナル伝達系を活性化するための活性型NotchコンストラクトのCC>SS(Mumm et al.,Mol.Cell 5,197−206,2000)とを導入した。
【0198】
ネガティブコントロールとして、CC>SSを導入せず、pcDNA3.1 Hygro(+)ベクター(Invitrogen社)を導入する実験も行った。
【0199】
リポフェクションを行ってから24時間後、γ−セクレターゼ阻害剤であるDAPTを10μM含むDMEM培地を250μl添加し、37℃にてインキュベートしながら0時間から24時間後の蛍光強度を測定して、DAPTのNotchシグナル伝達系への影響を調べた。これらの実験を96ウェルプレートを用いて行った。Hes−YおよびHes−YP neoを用いた場合の結果を図10に示す。
【0200】
この結果、活性型Notch1を共発現させた場合も共発現させなかった場合も、添加後の蛍光強度(図中ではLuciferase活性と示す)の低下が見られた。このことは、DAPTによってNotchシグナルの伝達が阻害されたことを示す。従って、活性型Notch1を共発現させなくても、DAPTによる内因性のNotchシグナルの阻害を測定できることがわかった。また、Hes−YおよびHes−YP Neoのいずれを用いた場合も、内因性のNotchシグナルの阻害を測定できることがわかった。それゆえ、これらのプラスミドを用いれば、内因性のNotchシグナル伝達系に影響を与える物質をスクリーニングすることができる。
【0201】
(実施例5.薬剤によるHEK293細胞の内因性Notchシグナルの影響)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes−YP neoを用いて、薬剤による内因性のNotchシグナル伝達系への影響を調べた。
【0202】
10%FCSを含有するDMEMを用い、5%CO2、37℃の条件下でHEK293細胞を培養した。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes−YP neoを導入した。
【0203】
リポフェクションを行ってから24時間後、Aβ42の産生もNotchシグナル伝達系も抑制するγ−セクレターゼ阻害薬であるDAPT(0.001μM、0.003μM,0.01μM、0.03μM、 0.1 μM、0.3μM、1μM、3μMまたは10μM)またはL−685458(0.003μM,0.01μM、0.03μM、 0.1 μM、0.3μM、1μM、3μM、10μM、または30μM)、あるいはAβ42の産生を抑制するがNotchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬であるスリンダクスルフィド(Sulindac sulfide)(0.80μM、1.57μM、3.13μM、6.25μM、12.5μM、25μM、50μMまたは100μM)を各種濃度で添加して37℃にて24時間インキュベートした。
【0204】
添加から24時間後の蛍光強度を測定して、各種薬剤のNotchシグナル伝達系への影響を調べた。また、コントロールとして、各種薬剤を添加せず、DMSO(ジメチルスルホキシド)を添加した場合の蛍光強度も測定した。DAPTを10μM添加した場合およびコントロールの結果を図11(a)に示す。図11(a)からわかるように、活性型Notchを共発現させなくても蛍光強度の測定ができ、しかも、γ−セクレターゼ阻害薬による蛍光強度の減少を測定できる。このように、この系を用いれば、各種薬物が内因性のNotchシグナルに対して与える影響を確認することができる。
【0205】
Hes−YP neoコンストラクトを用い、各薬剤を添加した場合のルシフェラーゼ活性の蛍光強度を、図11(b)に示す。図11(b)においては、コントロールの蛍光強度を100%としたときの相対強度を示す。この結果、γ−セクレターゼ阻害薬(DAPTまたはL−685458)の添加により、内因性のNotchシグナルが阻害され、阻害薬でなく修飾薬(スリンダクスルフィド)を用いた場合には内因性のNotchシグナルは影響を受けないことが確認された。このことから、本発明により、各種薬物が内因性のNotchシグナルに対して与える影響を正しく確認することができる。従って、本発明の方法を、Notchシグナル伝達系に影響を与えない物質のスクリーニングに用いることができること、特に、Aβ42産生を阻害するがNotchシグナル伝達系に影響を与えない物質のスクリーニングに用いることができることがわかった。既存技術ではNotchコンストラクトを人工的に共発現させて初めてシグナルの検知が可能であった。しかし本発明によればNotchコンストラクトを発現させることなく内因性シグナルの検知が可能となった。また上記のように、本発明によれば、薬剤による内因性シグナルへの影響も検知することが可能である。
【0206】
(実施例6:各プロモーターでのNotchシグナルアッセイ系パラメーターの挙動)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes1−luc x2、Hes1−luc x3、Hes−YおよびHes−YP NeoのNotchシグナルアッセイ系パラメーターであるS/BおよびZ’ factor(Ji−Hu Zhang et al.,J.Biomol.Screen.5,67−73,1999)について調べた。比較のために、プラスミドHse1−lucを用いた。
【0207】
10%FCSを含有するDMEMを用い、5%CO2、37℃の条件下でHeLa細胞を培養した。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes1−luc、Hes1−luc x2、Hes1−luc x3、Hes−YまたはHes−YP Neoと、Notchシグナル伝達系を活性化するための活性型NotchコンストラクトのCC>SS(Mumm et al.,Mol.Cell 5,197−206,2000)とを導入した。
【0208】
リポフェクションを行ってから24時間後、、DAPT濃度10μMのDMEM培養液(DMSO濃度0.1%)および無添加のDMEM培養液(DMSO濃度0.1%)を37℃にて24時間インキュベートした後、細胞を溶解し、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega社)を用いて、蛍光強度を測った。シグナルとしてDMSOのみ添加したもの、またバックグラウンドとしてNotchシグナル伝達系を阻害するのに十分量のDAPT(10μM)を添加したものの蛍光強度を測った。本系においては96ウェルプレートを用いた。得られた結果を図12(a)〜図12(e)に示す。Hes−1コンストラクトを用い、DAPTを10μM添加した場合およびコントロールの結果を図12(a)に示す。Hes−YP neoコンストラクトを用い、DAPTを10μM添加した場合およびコントロールの結果を図12(b)に示す。Hes1−lucx2コンストラクトを用い、DAPTを10μM添加した場合およびコントロールの結果を図12(c)に示す。Hes−1−lucx3コンストラクトを用い、DAPTを10μM添加した場合およびコントロールの結果を図12(d)に示す。Hes−Yコンストラクトを用い、DAPTを10μM添加した場合およびコントロールの結果を図12(e)に示す。
【0209】
この結果、RBP−Jκ結合配列の数が増加するにつれ、S/BおよびZ’ factorも増加した。またRBP−J結合配列の数が増加するにつれ、Z’ factorが理想値である1に近づいた。RBP−Jκ結合配列の増加とともにルシフェラーゼ活性の増加が認められる。複数連結することにより、予想以上にバックグラウンドが下がりZ’factorが飛躍的に向上した。既存技術では十分なS/B比および少ないばらつきが確保できず、Z’ factorが0.5には程遠く、そのため、HTS(high through−put screening;ハイスループットスクリーニング)を行うことができなかった。しかし本発明によって十分なS/B比および少ないばらつきが確保でき、Z’ factorが0.5以上になったことにより、HTSへの使用が可能である。これに伴い、本発明を薬剤がNotchシグナルに及ぼす影響を正確に検討することができる。また、本発明では、HTSを構築する際にミニチュア化した場合においても、より精度の高いアッセイ系を構築することが可能である。
【0210】
また、Hes−YP neoコンストラクトでの形質転換細胞については、各種薬剤の濃度の影響についても試験した。リポフェクションを行ってから24時間後、γ−セクレターゼ阻害剤であるDAPT(0.001μM、0.003μM,0.01μM、0.03μM、 0.1 μM、0.3μM、1μM、3μMまたは10μM)またはL−685458(0.003μM,0.01μM、0.03μM、0.1μM、0.3μM、1μM、3μM、10μM、または30μM)、あるいはγ−セクレターゼ修飾薬であるスリンダクスルフィド(Sulindac sulfide)(0.80μM、1.57μM、3.13μM、6.25μM、12.5μM、25μM、50μMまたは100μM)を各種濃度で添加し、添加から24時間後の蛍光強度を測定して、各種薬剤のNotchシグナル伝達系への影響を調べた。また、コントロールとして、各種薬剤を添加しない場合の蛍光強度も測定した。Hes−YP neoコンストラクトを用い、各薬剤を添加した場合の結果を図12(f)に示す。図12(f)においては、コントロールの蛍光強度を100%としたときの相対強度を示す。
【0211】
この結果、本発明のコンストラクトを用いることにより、γ−セクレターゼ阻害剤の添加により、内因性のNotchシグナルが阻害され、阻害剤でない薬剤を用いた場合には内因性のNotchシグナルは影響を受けないことが確認された。本発明のコンストラクトを用いれば、高感度に高い精度でNotchシグナル伝達系に対する物質の影響を確認することができる。
【0212】
(実施例7:Notchシグナル伝達系に実質的に影響を与えない物質のスクリーニング)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes−YP neoまたはHes−YP puroを用いて、Notchシグナル伝達系に実質的に影響を与えない物質をスクリーニングする。
【0213】
10%FCSを含有するDMEMを用い、5%CO2、37℃の条件下でHeLa細胞を培養する。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes−YP neoまたはHes−YP puroと、Notchシグナル伝達系を活性化するために、活性型NotchコンストラクトのCC>SS(Mumm et al.,Mol.Cell 5,197−206,2000)とを導入する。
【0214】
リポフェクションを行ってから24時間後、候補物質またはγ−セクレターゼ阻害剤であるDAPT(コントロール)を含むDMSO溶液を添加するか、あるいはDMSOを添加する。添加の24時間後に細胞を溶解し、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega社)を用いて、蛍光強度を測定して、DAPTのNotchシグナル伝達系への影響を調べる。Hes−YP neoまたはHes−YP puroとCC>SSとを共発現する細胞に水を添加した場合の蛍光強度を100%として、Hes−YP neoまたはHes−YP puroとCC>SSとを共発現する細胞に候補物質を添加した場合の蛍光強度が90〜110%となる候補物質を選択する。このようにして、蛍光強度が実質的に変化しない候補物質が選択される。
【0215】
(実施例8:Aβ42産生を抑制するγ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング)
培養細胞におけるトランジェント・アッセイを用い、Hes−YP neoまたはHes−YP puroを用いて、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬をスクリーニングする。
【0216】
10%FCSを含有するDMEMを用い、5%CO2、37℃の条件下でHeLa細胞を培養する。Lipofectamine 2000(Gibco−BRL社)を用い、添付のプロトコールに従って、レポーターとしてHes−YP neoまたはHes−YP puroと、Notchシグナル伝達系を活性化するために、活性型NotchコンストラクトのCC>SS(Mumm et al.,Mol.Cell 5,197−206,2000)とを導入する。
【0217】
リポフェクションを行ってから24時間後、γ−セクレターゼ阻害薬候補物質またはγ−セクレターゼ阻害薬であるDAPT(コントロール)を含むDMSO溶液を添加するか、あるいはDMSOを添加する。24時間後に細胞を溶解し、Dual−Luciferase Reporter Assay System(Promega社)を用いて、蛍光強度を測定して、DAPTのNotchシグナル伝達系への影響を調べる。候補物質としてγ−セクレターゼ阻害薬候補物質を使用する。これらの候補物質は基質APP(アミロイド前駆体タンパク質)を安定発現させたHEK細胞においてAβ42の産生を抑制する化合物群である。
【0218】
Hes−YP neoまたはHes−YP puroとCC>SSとを共発現する細胞にDMSOを添加した場合の蛍光強度を100%として、Hes−YP neoまたはHes−YP puroとCC>SSとを共発現する細胞に候補物質を添加した場合の蛍光強度が90〜110%となる候補物質を選択する。このようにして、Notchシグナル伝達系を抑制しない候補物質が選択される。
【0219】
このようにして、Aβ42産生を抑制するγ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Aβ42産生を抑制し、かつNotchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬が選択される。
【0220】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0221】
本発明の核酸分子およびスクリーニング方法は、種々の用途に応用できる。例えば、アルツハイマー病治療薬候補であるγ−セクレターゼ阻害修飾薬の副作用の検討(例えば、ハイスループットスクリーニング時)、およびNotchシグナル伝達阻害型抗がん剤の主作用の検討(ハイスループットスクリーニング時)に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0222】
【図1】図1は、Notchシグナル伝達系の模式図を示す。
【図2】図2は、ヒトNOTCH1の模式図を示す。
【図3】図3は、γ−セクレターゼ阻害薬によるNotchシグナル伝達の阻害の模式図を示す。
【図4】図4は、Notchシグナル伝達系の活性化を検知するための既存の技術の模式図を示す。
【図5】図5は、ΔSN1のアミノ酸配列におけるシグナル配列、S1、S2、S3、S4サイトの位置を示す図である。
【図6】図6(a)は、Z’factorの計算式およびその概念図を示す。図6(b)は、S/B=10でかつZ’=0.4の場合のデータ例を示す。図6(c)は、S/B=2でかつZ’=0.8の場合のデータ例を示す。
【図7】図7(a)は、今回作製したNotchレポーターアッセイ用のコンストラクトおよび従来公知のコンストラクトの模式図である。図7(b)は、これらのNotchレポーターアッセイ用コンストラクトと、活性型NotchまたはネガティブコントロールであるpcDNA3.1 Hygro(+)ベクターとを共発現した時のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。
【図8】図8(a)は、Hes−YおよびHes−YにさらにPEST配列を導入したNotchレポーターアッセイ用のコンストラクトの模式図である。図8(b)は、これらのNotchレポーターアッセイ用コンストラクトと、活性型Notchとを共発現した時のルシフェラーゼ活性を示すグラフである。図8(c)は、これらのNotchレポーターアッセイ用コンストラクトと、活性型Notchとを共発現した時のルシフェラーゼ活性を、活性型Notchを用いた場合のそれぞれの活性を1として示すグラフである。図8(b)および図8(c)において、CC>SSは、活性型Notchを示す。pcDNAは、コントロールである空のプラスミドを示す。
【図9】図9は、TP−Yの24個のRBP−Jκ配列を含む領域とpUC18ベクター、ウサギβ−グロビン最小プロモーターおよびルシフェラーゼ遺伝子との連結部の配列を示す。
【図10】図10は、本発明のNotchレポーターアッセイ用コンストラクトを、活性型Notchとともに共発現させた場合またはコントロールのpcDNAとともに共発現させた場合のルシフェラーゼ活性を添加から0〜24時間にわたって示すグラフである。Hes−YとpcDNAとを共発現させ、DAPTを添加時のルシフェラーゼ活性を1として示すグラフである。
【図11】図11(a)は、コントロール(control)またはDAPT 10μMでのルシフェラーゼ活性を示す棒グラフである。図11(b)は、薬剤によるHEK293細胞の内因性Notchシグナルの影響を示すグラフである。
【図12】図12(a)は、Hes−1コンストラクトを、DAPTを添加したかまたは添加しなかった(DMSOのみ)場合のルシフェラーゼ活性を示す棒グラフである。このときのS/B比は1.39であり、Z’factorは0.33である。図12(b)は、Hes−YP neoコンストラクトを、DAPTを添加したかまたは添加しなかった(DMSOのみ)場合のルシフェラーゼ活性を示す棒グラフである。このときのS/B比は9.98であり、Z’factorは0.72である。図12(c)は、Hes−Yコンストラクトを、DAPTを添加したかまたは添加しなかった(DMSOのみ)場合のルシフェラーゼ活性を示す棒グラフである。このときのS/B比は8.46であり、Z’factorは0.60である。図12(d)は、Hes1−lucx2コンストラクトを、DAPTを添加したかまたは添加しなかった(DMSOのみ)場合のルシフェラーゼ活性を示す棒グラフである。このときのS/B比は3.71であり、Z’factorは0.50である。図12(e)は、Hes1−lucx3コンストラクトを、DAPTを添加したかまたは添加しなかった(DMSOのみ)場合のルシフェラーゼ活性を示す棒グラフである。このときのS/B比は7.22であり、Z’factorは0.54である。図12(f)は、各薬剤(DAPT、L−685458またはスリンダクスルフィド)による活性型Notchを共発現したときのNotchシグナルの阻害曲線を示すグラフである。
【図13】図13(a)は、Hes−Y、Hes−YP NeoおよびHes−YP Puroのコンストラクトの模式図を示す。図13(b)は、Hes−YP,Hes−YP NeoおよびHes−YP Puroにおいて用いた、8個のRBP−Jκ配列を含む領域とベクターおよびプロモーターとの連結部の配列を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子であって、該RBP−Jκ結合配列が、TGGGAAである、核酸分子。
【請求項2】
前記少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列のそれぞれが、5塩基〜40塩基の塩基配列によりタンデムに連結されている、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
配列番号1の配列を少なくとも2つ含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項4】
配列番号2の配列を少なくとも2つ含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項5】
配列番号3〜6のいずれかの配列を含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項6】
前記少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列と作動可能に連結されたプロモーター配列をさらに含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項7】
前記プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含む、請求項6に記載の核酸分子。
【請求項8】
前記レポータータンパク質コード配列が、発光タンパク質または蛍光タンパク質をコードする、請求項7に記載の核酸分子。
【請求項9】
前記レポータータンパク質コード配列の下流にPEST配列コード配列が連結されている、請求項8に記載の核酸分子。
【請求項10】
直鎖状分子またはプラスミドである、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項11】
(a)プロモーター配列と作動可能に連結された構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列を含む核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の前記レポータータンパク質の発現量と、(b)該Notchタンパク質コード配列を含まない核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の該レポータータンパク質の発現量とを比較したときの、Z’ factor値が0.5以上である、請求項8に記載の核酸分子。
【請求項12】
請求項1に記載の核酸分子を含む、細胞。
【請求項13】
前記核酸分子が、前記プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含む、請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
内因性のNotchタンパク質または構成的に活性なNotchタンパク質を発現する、請求項13に記載の細胞。
【請求項15】
Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)請求項14に記載の細胞と候補物質とを接触させる工程;および
(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程
を包含する、方法。
【請求項16】
γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)請求項14に記載の細胞と該候補物質とを接触させる工程;および
(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程
を包含する、方法。
【請求項17】
Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないアルツハイマー病治療薬を選択するためのスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)請求項14に記載の細胞と該候補物質とを接触させる工程;および
(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程
を包含する、方法。
【請求項1】
少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列を含む核酸分子であって、該RBP−Jκ結合配列が、TGGGAAである、核酸分子。
【請求項2】
前記少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列のそれぞれが、5塩基〜40塩基の塩基配列によりタンデムに連結されている、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
配列番号1の配列を少なくとも2つ含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項4】
配列番号2の配列を少なくとも2つ含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項5】
配列番号3〜6のいずれかの配列を含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項6】
前記少なくとも3つのRBP−Jκ結合配列と作動可能に連結されたプロモーター配列をさらに含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項7】
前記プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含む、請求項6に記載の核酸分子。
【請求項8】
前記レポータータンパク質コード配列が、発光タンパク質または蛍光タンパク質をコードする、請求項7に記載の核酸分子。
【請求項9】
前記レポータータンパク質コード配列の下流にPEST配列コード配列が連結されている、請求項8に記載の核酸分子。
【請求項10】
直鎖状分子またはプラスミドである、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項11】
(a)プロモーター配列と作動可能に連結された構成的に活性なNotchタンパク質をコードする配列を含む核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の前記レポータータンパク質の発現量と、(b)該Notchタンパク質コード配列を含まない核酸分子とともに細胞内に導入して発現させた場合の該レポータータンパク質の発現量とを比較したときの、Z’ factor値が0.5以上である、請求項8に記載の核酸分子。
【請求項12】
請求項1に記載の核酸分子を含む、細胞。
【請求項13】
前記核酸分子が、前記プロモーター配列と作動可能に連結されたレポータータンパク質コード配列をさらに含む、請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
内因性のNotchタンパク質または構成的に活性なNotchタンパク質を発現する、請求項13に記載の細胞。
【請求項15】
Notchシグナル伝達系を調節する物質のスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)請求項14に記載の細胞と候補物質とを接触させる工程;および
(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程
を包含する、方法。
【請求項16】
γ−セクレターゼ阻害薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないγ−セクレターゼ阻害薬を選択するためのスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)請求項14に記載の細胞と該候補物質とを接触させる工程;および
(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程
を包含する、方法。
【請求項17】
Aβ42の産生を抑制するアルツハイマー病治療薬候補物質から、Notchシグナル伝達系を抑制しないアルツハイマー病治療薬を選択するためのスクリーニング方法であって、該方法は、
(a)請求項14に記載の細胞と該候補物質とを接触させる工程;および
(b)該細胞中での該レポータータンパク質の発現量を測定する工程
を包含する、方法。
【図10】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【図11】
【図12】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図13】
【公開番号】特開2008−237068(P2008−237068A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−80269(P2007−80269)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人医薬基盤研究所委託研究「アルツハイマー病関連遺伝子解析研究に基づく診断治療法開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、独立行政法人医薬基盤研究所委託研究「アルツハイマー病関連遺伝子解析研究に基づく診断治療法開発」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000001926)塩野義製薬株式会社 (229)
【Fターム(参考)】
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