説明

OFDM信号合成用受信装置

【課題】本来受信すべき希望波を抑圧し続けることなく、希望波を受信するために干渉波を抑圧する。
【解決手段】制御部19は、同期再生部18からの同期確立状態信号に基づいて同期確立状態を判定し、D/U測定部15からのD/Uに基づいて、希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きい状態を判定し、初期化制御信号を重み係数算出部17および同期再生部18に出力して、重み係数算出部17および同期再生部18を初期化する。干渉波のみが送信されているときは同期確立状態になっており、希望波の送信が始まって希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きくなったときは、同期確立状態のままD/Uが負となる。したがって、制御部19は、干渉波のみが送信されている状態から、希望波の送信が始まって希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きくなった状態への変化を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OFDM方式を用いるデジタル放送またはデジタル伝送のOFDM信号合成用受信装置に関し、特に、デジタル放送または無線LANなどにおいて電波を受信する際に問題となるフェージングおよび干渉波の対策のために、アダプティブアレーアンテナ技術またはダイバーシティ受信技術を適用するOFDM信号合成用受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
OFDM信号用アダプティブアレーアンテナ技術として、例えば、特許文献1および2に記載のものが知られており、これらはいずれも放送波中継用の装置へ応用することを目的としている。これらの技術を用いた放送波中継用の干渉除去装置は、送信側の設備であることから、低計算量で処理を行うことよりも、高精度な干渉除去特性を得ることが求められる。しかし、この放送波中継用の干渉除去装置は、極端に劣悪な受信環境で用いられることは想定されていない。特に、SFN(Single Frequency Network)環境のサービスエリアは、レベルが高く、GI(Guard Interval)内であるが遅延時間が長いマルチパス波の影響を受ける環境であることから、十分な干渉除去特性を得ることができないことがあるという問題がある。また、最適化すべき重み係数の数がサブキャリヤ数とブランチ数との積となり、計算量が多くなるという問題もある。
【0003】
これに対し、前述のOFDM信号用アダプティブアレー技術を受信機へ応用することを想定した場合、低コスト化を実現するために、受信機には、より簡易な構成かつ少ない計算量で所要のBER(Bit Error Rate:ビット誤り率)が得られること、また、より劣悪な受信環境でも動作できることが求められる。
【0004】
放送波中継用の装置では、干渉除去後に所要のBERが得られることが最低条件であり、干渉による伝送特性の劣化をいかに抑圧するかが求められる。これに対し、サービスエリアにおける受信用の装置では、干渉除去後に所要のBERが得られればよい。このように、放送波中継用の装置とサービスエリアにおける受信用の装置とでは、OFDM信号用アダプティブアレー技術に対する要求条件が大きく異なっている。
【0005】
一方、非特許文献1および2に、時間領域で信号を合成するPre−FFT型のOFDM信号用アダプティブアレー技術が記載されている。非特許文献1の技術は、移動受信を想定したものであり、希望波以外の到来波を全て抑圧することができる。また、非特許文献2の技術は、固定受信を想定したものであり、遅延時間がGIを越えるマルチパス波のみを抑圧することができる。これらはいずれも、少ない計算量で処理を行うことができる。
【0006】
しかしながら、非特許文献1および2に記載の技術は、いずれもGIが有効シンボルの後部と同一であるというOFDM信号の特徴を利用するものである。このため、干渉波が希望波と同一方式で、GI比が同じである場合には、干渉波を抑圧できないことがあるという問題がある。例えば、希望波と干渉波のシンボル同期位置またはフレーム同期位置が一致する場合には、希望波と干渉波を区別することができず、干渉波を抑圧することができなくなる。
【0007】
一方、本出願と同一の出願人により出願された、本出願時に未公開の特願2008−232846号に記載のOFDM信号合成用受信装置が提案されている。このOFDM信号合成用受信装置は、アレー合成部が、時間領域で重み付け合成を行いアレー合成信号を生成し、チャネル等化部が、周波数領域でチャネル等化後のキャリヤシンボルを生成し、重み係数制御部が、予め定められたパイロット信号などをIFFTして得られる時間領域信号を参照信号とし、アレー合成のために用いる重み係数を、アレー合成信号と参照信号との間の誤差が最小となるように最適化によって求めるものである。これにより、低計算量で処理を行うことができ、劣悪な受信環境においても効果的に干渉波を抑圧することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3759448号公報
【特許文献2】特開2005−295506号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】堀智、菊間信良、稲垣直樹、「OFDMにおけるガード区間を利用したMMSEアダプティブアレー」、信学論、J85−B(9):1608−1615、Sep 2002
【非特許文献2】堀智、菊間信良、稲垣直樹、「ガード区間を超える到来波のみを抑圧する固定受信のためのOFDM用MMSEアダプティブアレー」、信学論、J86−B(9):1934−1940、2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、このOFDM信号合成用受信装置は、劣悪な受信環境に対する耐性を有しているが、放送が休止して干渉波のみが送信されている状態で動作しているときに、放送が開始して希望波の送信が始まると、希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きくなった場合であっても、希望波と干渉波のシンボル同期位置またはフレーム同期位置などが一致しているときには、本来受信すべき希望波を抑圧してしまい、干渉波を受信し続けてしまうことがあるという問題があった。
【0011】
図13は、干渉波のみが送信されている状態におけるOFDM信号合成用受信装置の合成指向特性の例を示す図である。この合成指向特性は、受信アンテナの素子間隔を搬送波周波数における波長の半分の長さとし、干渉波の到来角度を0度とした場合において、放送が休止して干渉波のみが送信されている状態の特性を示している。この場合、OFDM信号合成用受信装置は、干渉波のみを受信している状態で同期を確立し、同期確立状態になっているから、干渉波を希望波とみなして信号を復調してしまう。
【0012】
この状態で放送が開始し、希望波の送信が始まり、希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きくなった状態を想定する。ただし、希望波の到来角度は90度とする。このような状態では、OFDM信号合成用受信装置は、干渉波を抑圧して希望波を受信することが望ましい。
【0013】
しかしながら、希望波と干渉波のシンボル同期位置またはフレーム同期位置などが一致している場合には、同期ずれが起こらないから、OFDM信号合成用受信装置は、以前から継続して同期が確立しているものと判定し、希望波が到来しているにもかかわらず、干渉波を希望波とみなして信号を復調する。つまり、OFDM信号合成用受信装置は、放送が開始する前からの同期確立状態が継続し、干渉波を受信し続けるべく動作する。したがって、干渉波を抑圧することができず、希望波を受信することができない。これは、図13に示した合成指向特性の例が示すように、希望波の到来角度(90度)にヌルが形成されているため、希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きい場合であっても、希望波を抑圧してしまい、結果として、干渉波を受信し続けてしまうからである。
【0014】
ここで、放送が休止して干渉波のみが送信されている状態から、放送が開始して希望波の送信が始まった状態に変化した場合、OFDM信号合成用受信装置は、その状態変化を検知し、同期再生部を初期化すると共に、アレー合成を行うための重み係数を算出する重み係数算出部を初期化することができれば、すなわち、OFDM信号合成用受信装置を電源立上げ状態にすることができれば、前述の問題は解決し、本来受信すべき希望波を抑圧することなく、干渉波を抑圧して希望波を受信することが可能となる。ここで、初期化とは、OFDM信号合成用受信装置の電源立上げ時における同様の処理を行うことをいい、例えば、メモリに記憶されたデータを削除したり、算出結果を用いることなく、予め設定された初期値を用いて最初から算出したりすることをいう。
【0015】
なお、希望波と干渉波のシンボル位置などが一致していない場合には、同期ずれが起こるから、OFDM信号合成用受信装置は、同期が確立していないものと判定し、希望波が反映された新たな同期情報を生成し復調を行うことができる。この場合、希望波は抑圧されることなく、干渉波が抑圧され希望波が受信されるから、前述の問題は生じない。
【0016】
そこで、本発明はかかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、本来受信すべき希望波を抑圧し続けることなく、希望波を受信するために干渉波を抑圧することが可能なOFDM信号合成用受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、複数のアレー素子で構成されるアレーアンテナによってOFDM波を受信し、ビット列を出力するOFDM信号合成用受信装置であって、受信したOFDM波の等価ベースバンド信号を、時間領域において重み付けにより合成し、アレー合成信号を生成する希望波受信用アレー合成部と、前記希望波受信用アレー合成部により生成されたアレー合成信号を復調し、ビット列を出力する復調部と、前記復調部におけるチャネル等化またはシンボル再生により得られたキャリヤシンボル、およびチャネル推定により得られた周波数特性に基づいて、時間領域の参照信号を生成し、前記アレー合成信号と前記時間領域の参照信号との間の誤差が最小となるように最適化し、前記希望波受信用アレー合成部における重み付けのために用いる、干渉波を抑圧するための希望波受信用重み係数を算出する重み係数算出部と、前記時間領域の等価ベースバンド信号に基づいて同期を再生し、同期が確立しているか否かを示す同期確立状態信号を生成する同期再生部と、前記時間領域の等価ベースバンド信号に基づいて、D/U(Desired to Undesired signal ratio)を測定するD/U測定部と、前記同期再生部により生成された同期確立状態信号に基づいて、同期が確立していることを判定し、前記D/U測定部により測定されたD/Uが負であることを判定し、前記重み係数算出部および前記同期再生部を初期化する制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載のOFDM信号合成用受信装置において、前記D/U測定部が、前記重み係数算出部により算出された希望波受信用重み係数に基づいて、希望波を抑圧するための干渉波受信用重み係数を算出する干渉波受信用重み係数算出部と、前記干渉波受信用重み係数算出部により算出された干渉波受信用重み係数を用いて、前記等価ベースバンド信号を時間領域において重み付けにより合成し、アレー合成信号を生成する干渉波受信用アレー合成部と、前記希望波受信用アレー合成部により生成されたアレー合成信号の電力を、希望波電力として算出する希望波電力算出部と、前記干渉波受信用アレー合成部により生成されたアレー合成信号の電力を、干渉波電力として算出する干渉波電力算出部と、前記希望波電力算出部により算出された希望波電力および前記干渉波電力算出部により算出された干渉波電力からD/Uを算出するD/U算出部と、を備えたことを特徴とする。
【0019】
また、請求項3の発明は、請求項1に記載のOFDM信号合成用受信装置において、前記重み係数算出部が、前記時間領域の等価ベースバンド信号における自己相関行列を算出する自己相関行列算出部と、前記自己相関行列算出部により算出された自己相関行列の逆行列を算出する逆行列算出部と、前記時間領域の等価ベースバンド信号および前記時間領域の参照信号から相互相関ベクトルを算出する相互相関ベクトル算出部と、前記逆行列算出部により算出された自己相関行列の逆行列に、前記相互相関ベクトル算出部により算出された相互相関ベクトルを乗算し、希望波受信用重み係数を求める乗算部と、を備えたことを特徴とする。
【0020】
また、請求項4の発明は、請求項2に記載のOFDM信号合成用受信装置において、前記D/U測定部の干渉波受信用重み係数算出部が、前記重み係数算出部により算出された希望波受信用重み係数と直交する直交ベクトルを算出する直交ベクトル算出部と、前記直交ベクトル算出部により算出された直交ベクトルに、前記時間領域の等価ベースバンド信号における自己相関行列の逆行列を乗算し、干渉波受信用重み係数を求める乗算部と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
また、請求項5の発明は、請求項1に記載のOFDM信号合成用受信装置において、前記同期再生部が、前記時間領域の等価ベースバンド信号に基づいてシンボル同期再生を行い、シンボル同期が確立しているか否かを示す状態信号を生成するシンボル同期部と、前記時間領域の等価ベースバンド信号に基づいてフレーム同期再生を行い、フレーム同期が確立しているか否かを示す状態信号を生成するフレーム同期部と、前記時間領域の等価ベースバンド信号に基づいてクロック同期再生を行い、クロック同期が確立しているか否かを示す状態信号を生成するクロック同期部と、前記時間領域の等価ベースバンド信号に基づいて周波数同期再生を行い、周波数同期が確立しているか否かを示す状態信号を生成する周波数同期部と、前記シンボル同期部、フレーム同期部、クロック同期部および周波数同期部により生成された全ての状態信号が、同期が確立していることを示している場合、同期が確立していることを示す同期確立状態信号を生成し、前記状態信号のうちの少なくとも1つの信号が、同期が確立していないことを示している場合、同期が確立していないことを示す同期確立状態信号を生成する同期確立状態生成部と、を備えることを特徴とする。
【0022】
また、請求項6の発明は、請求項1に記載のOFDM信号合成用受信装置において、前記復調部は、チャネル等化により得たキャリヤシンボルおよびシンボル再生により得たキャリヤシンボルに基づいてMER(Modulation Error Ratio)を算出し、前記制御部が、前記同期再生部により生成された同期確立状態信号に基づいて、同期が確立していることを判定し、かつ、前記D/U測定部により測定されたD/Uが所定期間の間負であることを判定した場合、前記同期確立状態信号に基づいて、同期が確立していないことを判定し、かつ、前記同期が確立していない状態で所定時間経過したことを判定した場合、または、前記同期確立状態信号に基づいて、同期が確立していることを判定し、かつ、前記復調部により算出されたMERに基づいて、所定期間の間、前記MERが所定値よりも小さいと判定した場合、前記重み係数算出部および前記同期再生部を初期化する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明によれば、干渉波のみが送信されている状態から、希望波の送信が始まって希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きくなった状態への変化を検出し、重み係数算出部および同期再生部を初期化するようにした。これにより、OFDM信号合成用受信装置は、電源立上げ時と同様に動作するから、重み係数算出部は、予め設定された初期値の希望波受信用重み係数を出力し、そして、受信している希望波および干渉波に応じた新たな希望波受信用重み係数を算出するようになる。また、希望波受信用アレー合成部は、新たな希望波受信用重み係数を用いて、受信している希望波に応じたアレー合成信号を生成するようになる。また、同期再生部は、同期再生処理をリセットし、受信している希望波および干渉波に応じた新たな同期再生を行うようになる。したがって、本来受信すべき希望波を抑圧することなく、希望波を受信するために干渉波を抑圧することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態によるOFDM信号合成用受信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】復調部の構成を示すブロック図である。
【図3】チャネル推定部の構成を示すブロック図である。
【図4】チャネル等化部の構成を示すブロック図である。
【図5】重み係数算出部の構成を示すブロック図である。
【図6】干渉波受信用重み係数算出部の構成を示すブロック図である。
【図7】同期再生部の構成を示すブロック図である。
【図8】シンボル同期部の構成を示すブロック図である。
【図9】シンボル同期部において生成されるインデックスの変遷を説明する図である。
【図10】制御部の処理を示すフローチャートである。
【図11】図1のOFDM信号合成用受信装置によるシミュレーション結果を説明する図である。
【図12】(1)は通常時の動作を説明する図である。(2)は希望波停波時(放送休止時)の動作を説明する図である。(3)は希望波送信開始後(放送開始後)の動作(本発明が解決すべき課題)を説明する図である。
【図13】干渉波のみが送信されている状態におけるOFDM信号合成用受信装置の合成指向特性の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態によるOFDM信号合成用受信装置の構成を示すブロック図である。このOFDM信号合成用受信装置1は、アンテナ10、周波数変換部11、A/D変換部12、直交復調部13、希望波受信用アレー合成部14、D/U(Desired to Undesired signal ratio:DU比)測定部15、復調部16、重み係数算出部17、同期再生部18および制御部19を備えている。周波数変換部11、A/D変換部12および直交復調部13は、アンテナ10のアレー素子と同じ数の構成になっている。
【0026】
アレー素子数分の周波数変換部11は、アンテナ10を介して受信したOFDM波の信号をIF信号に周波数変換する。アレー素子数分の周波数変換部11の出力するIF信号はそれぞれA/D変換部12へ入力される。アレー素子数分のA/D変換部12は、周波数変換部11から入力されるIF信号をデジタルIF信号にA/D変換する。アレー素子数分のA/D変換部12の出力するデジタルIF信号はそれぞれ直交復調部13に入力される。アレー素子数分の直交復調部13は、A/D変換部12から入力されるデジタルIF信号を直交復調し、等価ベースバンド信号を生成する。アレー素子数分の直交復調部13の出力する等価ベースバンド信号は4分配され、希望波受信用アレー合成部14、D/U測定部15、重み係数算出部17および同期再生部18へ入力される。
【0027】
希望波受信用アレー合成部14は、重み係数算出部17から入力される希望波受信用重み係数(干渉波成分を抑圧するための重み係数)を用いて、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号を時間領域で合成する。希望波受信用アレー合成部14の出力する希望波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号(希望波成分を含む等価ベースバンド信号、アレー合成信号)は2分配され、一方がD/U測定部15へ、他方が復調部16へ入力される。
【0028】
希望波受信用アレー合成部14は、アレー素子数分の乗算部141、加算部142および複素共役部143を備えている。複素共役部143は、重み係数算出部17から入力される希望波受信用重み係数の複素共役値を算出する。複素共役部143の出力する希望波受信用重み係数の複素共役値は、アレー素子数分の乗算部141へ入力される。アレー素子数分の乗算部141は、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号に、複素共役部143から入力される希望波受信用重み係数の複素共役値を乗算する。アレー素子数分の乗算部141が出力する、希望波受信用重み係数の複素共役値が乗算された等価ベースバンド信号は加算部142へ入力される。加算部142は、アレー素子数分の乗算部141の出力する、希望波受信用重み係数の複素共役値が乗算された等価ベースバンド信号を加算し、希望波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号を生成する。加算部142の出力する希望波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号は2分配され、一方がD/U測定部15へ、他方が復調部16へ入力される。
【0029】
D/U測定部15は、希望波受信用アレー合成部14から入力される希望波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号、重み係数算出部17から入力される希望波受信用重み係数および自己相関行列の逆行列を用いて、受信信号のD/Uを測定する。D/U測定部15の出力するD/Uは制御部19へ入力される。
【0030】
D/U測定部15は、干渉波受信用重み係数算出部151、干渉波受信用アレー合成部152、希望波電力算出部153、干渉波電力算出部154およびD/U算出部155を備えている。希望波電力算出部153は、希望波受信用アレー合成部14から入力される希望波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号の電力を算出する。希望波電力算出部153の出力する希望波電力はD/U算出部155へ入力される。
【0031】
干渉波受信用重み係数算出部151は、重み係数算出部17から入力される希望波受信用重み係数および自己相関行列の逆行列を用いて、アレー合成により希望波成分を抑圧するための干渉波受信用重み係数を算出する。干渉波受信用重み係数算出部151の出力する干渉波受信用重み係数(希望波成分を抑圧するための重み係数)は干渉波受信用アレー合成部152へ入力される。
【0032】
干渉波受信用アレー合成部152は、干渉波受信用重み係数算出部151から入力される希望波受信用重み係数を用いて、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号を時間領域で合成する。干渉波受信用アレー合成部152の出力する干渉波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号(干渉波成分を含む等価ベースバンド信号、アレー合成信号)は干渉波電力算出部154へ入力される。
【0033】
干渉波受信用アレー合成部152は、アレー素子数分の乗算部157、加算部158および複素共役部159を備えている。複素共役部159は、干渉波受信用重み係数算出部151から入力される干渉波受信用重み係数の複素共役値を算出する。複素共役部159の出力する干渉波受信用重み係数の複素共役値は、アレー素子数分の乗算部157へ入力される。アレー素子数分の乗算部157は、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号に、複素共役部159から入力される干渉波受信用重み係数の複素共役値を乗算する。アレー素子数分の乗算部157が出力する、干渉波受信用重み係数の複素共役値が乗算された等価ベースバンド信号は加算部158へ入力される。加算部158は、アレー素子数分の乗算部157の出力する、干渉波受信用重み係数の複素共役値が乗算された等価ベースバンド信号を加算し、干渉波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号を生成する。加算部158の出力する干渉波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号は干渉波電力算出部154へ入力される。
【0034】
干渉波電力算出部154は、干渉波受信用アレー合成部152から入力される干渉波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号の電力を算出する。干渉波電力算出部154の出力する干渉波電力はD/U算出部155へ入力される。
【0035】
D/U算出部155は、希望波電力算出部153から入力される希望波電力、および干渉波電力算出部154から入力される干渉波電力を用いて、受信信号のD/Uを算出する。D/U算出部155の出力するD/Uは制御部19へ入力される。
【0036】
復調部16は、同期再生部18から入力される同期情報を用いて、希望波受信用アレー合成部14から入力される希望波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号をOFDM復調し、ビット列を外部へ出力すると共に、チャネル等化後のキャリヤシンボル、周波数特性およびMER(Modulation Error Ratio:変調誤差比)を算出する。復調部16の出力するキャリヤシンボルおよび周波数特性は重み係数算出部17へ入力され、MERは制御部19へ入力される。
【0037】
重み係数算出部17は、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号を用いて、自己相関行列の逆行列を算出し、等価ベースバンド信号、復調部16から入力されるキャリヤシンボルおよび周波数特性を用いて、希望波受信用重み係数を算出する。また、重み係数算出部17は、制御部19から入力される初期化制御信号に基づいて、処理をリセットして初期化し、OFDM信号合成用受信装置1の電源立上げ時と同様に、予め設定された初期値の希望波受信用重み係数および自己相関行列の逆行列を出力する。重み係数算出部17の出力する希望波受信用重み係数は、一方が希望波受信用アレー合成部14へ入力され、他方がD/U測定部15へ入力される。また、重み係数算出部17の出力する自己相関行列の逆行列はD/U測定部15へ入力される。
【0038】
同期再生部18は、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号を用いて同期再生を行い、フレーム、シンボル、クロックのタイミングおよび周波数オフセットを示す同期情報を生成し、同期確立状態または同期非確立状態を示す同期確立状態信号を生成する。また、同期再生部18は、制御部19から入力される初期化制御信号に基づいて、処理をリセットして初期化し、OFDM信号合成用受信装置1の電源立上げ時と同様の処理を行う。同期再生部18の出力する同期確立状態信号は制御部19へ入力され、同期情報は復調部16へ入力される。
【0039】
制御部19は、同期再生部18から入力される同期確立状態信号、D/U測定部15から入力されるD/U、および復調部16から入力されるMERを用いて、予め設定された条件を満足するか否かを判定し、重み係数算出部17および同期再生部18を初期化するための初期化制御信号を生成する。制御部19の出力する初期化制御信号は、一方が重み係数算出部17へ、他方が同期再生部18へ入力される。初期化制御信号を生成するための条件については後述する。
【0040】
〔希望波受信用アレー合成部〕
次に、図1に示した希望波受信用アレー合成部14について詳細に説明する。アレー素子数分の直交復調部13の出力する等価ベースバンド信号のベクトルを以下に示す。
【数1】

ここで、tは時刻、Lはアンテナ10のアレー素子数を示す。また、上付きのTは転置を示す。
【0041】
重み係数算出部17の出力する希望波受信用重み係数のベクトルを以下に示す。
【数2】

希望波受信用アレー合成部14は、以下の演算を行い、アレー合成信号として希望波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号を出力する。
【数3】

ここで、上付きのHは複素共役転置を示す。y(t)は、干渉波が抑圧され希望波成分が抽出されたアレー合成信号である。なお、前記式(3)には、図1に示した複素共役部143による処理が含まれる。
【0042】
〔干渉波受信用アレー合成部〕
次に、図1に示したD/U測定部15の干渉波受信用アレー合成部152について詳細に説明する。干渉波受信用アレー合成部152は、希望波受信用アレー合成部14と同様の処理を行う。干渉波受信用重み係数算出部151の出力する干渉波受信用重み係数のベクトルを以下に示す。
【数4】

【0043】
干渉波受信用アレー合成部152は、以下の演算を行い、アレー合成信号として干渉波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号を出力する。
【数5】

z(t)は、希望波が抑圧され干渉波成分が抽出されたアレー合成信号である。なお、前記式(5)には、図1に示した複素共役部159による処理が含まれる。
【0044】
〔復調部〕
次に、図1に示した復調部16について詳細に説明する。図2は、復調部16の構成を示すブロック図である。この復調部16は、GI除去部161、FFT部162、チャネル推定部163、チャネル等化部164、シンボル再生部169、パラレルシリアル変換部166およびMER算出部168を備えている。復調部16は、同期再生部18から入力される同期情報に基づいて、各種の処理を行う。
【0045】
GI除去部161は、希望波受信用アレー合成部14から入力される希望波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号についてGIを除去し、有効シンボル期間に相当する時間の信号を抽出する。GI除去部161の出力する、有効シンボル期間における希望波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号はFFT部162へ入力される。
【0046】
FFT部162は、GI除去部161の出力する有効シンボル期間における希望波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号を、FFTにより周波数領域の信号であるキャリヤシンボルに変換する。FFT部162の出力するキャリヤシンボルは2分配され、一方がチャネル推定部163へ、他方がチャネル等化部164へ入力される。
【0047】
チャネル推定部163は、FFT部162の出力するキャリヤシンボルから周波数特性(チャネル応答)を推定する。チャネル推定部163の出力する周波数特性は2分配され、一方がチャネル等化部164へ、他方が重み係数算出部17へ入力される。
【0048】
チャネル等化部164は、FFT部162から入力されるキャリヤシンボルを、チャネル推定部163から入力される周波数特性で除算することにより、チャネル等化を行う。チャネル等化部164の出力するチャネル等化後のキャリヤシンボルは2分配され、一方がシンボル再生部169へ、他方がMER算出部168へ入力される。
【0049】
シンボル再生部169は、デマッピング部165および再マッピング部167を備えている。デマッピング部165は、チャネル等化部164の出力するチャネル等化後のキャリヤシンボルをデマッピングし、パラレル信号に変換する。デマッピング部165の出力するパラレル信号は2分配され、一方がパラレルシリアル変換部166へ、他方が再マッピング部167へ入力される。
【0050】
再マッピング部167は、デマッピング部165から入力されるパラレル信号を再マッピングし、再生後のキャリヤシンボルを生成する。再マッピング部167の出力する再生後のキャリヤシンボルは2分配され、一方がMER算出部168へ、他方が重み係数算出部17へ入力される。
【0051】
ここで、復調部16は、再マッピング部167が再生したキャリヤシンボルを重み係数算出部17へ出力するようにしたが、チャネル等化部164がチャネル等化したキャリヤシンボルを重み係数算出部17へ出力するようにしてもよい。
【0052】
MER算出部168は、チャネル等化部164から入力されるチャネル等化後のキャリヤシンボルと、再マッピング部167から入力される再生後のキャリヤシンボルとを用いて、MERを算出する。MER算出部168の出力するMERは制御部19へ入力される。
【0053】
パラレルシリアル変換部166は、デマッピング部165から入力されるパラレル信号をシリアル信号に変換し、ビット列を外部へ出力する。
【0054】
(チャネル推定部)
次に、図2に示したチャネル推定部163について詳細に説明する。図3は、チャネル推定部163の構成を示すブロック図である。このチャネル推定部163は、パイロット抽出部201、パイロット生成部202、除算部203および補間部204を備えている。
【0055】
パイロット抽出部201は、FFT部162から入力されるキャリヤシンボルのうち、予め決められたシンボル番号およびサブキャリヤ番号のキャリヤシンボルとして伝送されたパイロット信号を抽出する。パイロット抽出部201の出力するパイロット信号は、受信パイロット信号として除算部203へ入力される。
【0056】
パイロット生成部202は、予め決められた振幅および位相を持つパイロット信号を生成する。パイロット生成部202が出力するパイロット信号は除算部203へ入力される。
【0057】
除算部203は、パイロット抽出部201から入力される受信パイロット信号を、パイロット生成部202から入力されるパイロット信号で除算し、パイロット信号が伝送されるシンボルおよびサブキャリヤにおける周波数特性を求める。除算部203が出力する周波数特性は補間部204へ入力される。
【0058】
補間部204は、除算部203から入力される、パイロット信号が伝送されるシンボルおよびサブキャリヤにおける周波数特性を、シンボル方向およびサブキャリヤ方向に補間し、OFDM信号の全サブキャリヤにおける周波数特性を算出する。
【0059】
ISDB−T方式において、パイロット信号であるSP(Scattered Pilot)に割り当てられたサブキャリヤは、シンボル番号をi、サブキャリヤ番号をkとすると、以下の式を満たす。
【数6】

ただし、modは剰余を示す。以下、前記式(6)を満足するi,kをそれぞれi,kとする。
【0060】
ここで、図3に示したパイロット抽出部201をSP抽出部とし、パイロット生成部202をSP生成部とする。SP抽出部により抽出される受信SP信号をXip,kpとし、SP生成部により生成されるSP信号、すなわち、送信側のISDB−T変調器において生成されて送信されるSP信号(送信SP信号)をSip,kpとすると、シンボル番号i、サブキャリヤ番号kにおける周波数特性Uip,kpは、以下の式で表される。
【数7】

【0061】
ここでは、ISDB−T方式で採用されているSP信号を基準信号とし、周波数特性を算出する方法を説明したが、振幅および位相が既知の信号であって、受信側において生成可能なシンボルであれば同様に、周波数特性を算出するための基準信号として利用することができる。すなわち、本発明は、周波数特性を算出するにあたり、基準信号としてSP信号を用いることに限定されるものではない。
【0062】
ところで、SP信号を用いて周波数特性を算出する場合、全てのシンボルおよびサブキャリヤにおける周波数特性を直接算出することができない。全てのシンボルおよびサブキャリヤにおける周波数特性を算出するためには、シンボルおよびサブキャリヤ方向に補間処理を行う必要がある。
【0063】
補間部204が行うシンボル方向の補間には、例えば最新値保持法または線形補間法を用いることができる。最新値保持法を用いる場合、以下の式により補間処理を行う。
【数8】

また、線形補間法を用いる場合、以下の式により補間処理を行う。
【数9】

【0064】
一方、サブキャリヤ方向の補間には、例えば線形補間法を用いることができ、以下の式により補間処理を行う。
【数10】

【0065】
(チャネル等化部)
次に、図2に示したチャネル等化部164について詳細に説明する。図4は、チャネル等化部164の構成を示すブロック図である。このチャネル等化部164は、除算部211を備えている。
【0066】
除算部211は、以下の式のように、FFT部162から入力されるキャリヤシンボルXを、チャネル推定部163から入力される周波数特性Uで除算し、チャネル等化を行う。
【数11】

ここで、Zはチャネル等化後のキャリヤシンボルを示す。
【0067】
(シンボル再生部)
次に、図2に示したシンボル再生部169のデマッピング部165および再マッピング部167について詳細に説明する。
【0068】
デマッピング部165は、チャネル等化部164から入力される、チャネル等化後のキャリヤシンボルから、送信されたキャリヤシンボルを推定し、複数ビットからなるパラレル信号を取り出す。再マッピング部167は、デマッピング部165から入力されるパラレル信号(複数ビットからなるパラレル信号)をキャリヤ変調し、キャリヤシンボルを再生する。ここで、前記式(11)は、以下の式で表すことができる。
【数12】

ただし、Tは送信キャリヤシンボル、Nは雑音成分を示す。
【0069】
したがって、雑音成分Nが十分小さい場合は、以下の式で表すことができる。
【数13】

ここで、decはマッピングおよび再マッピングを示す関数であり、具体的には、与えられたキャリヤシンボルとの間のノルムが最も小さい送信キャリヤシンボルを返す関数である。これにより、シンボル再生部169は、チャネル等化後のキャリヤシンボルをデマッピング部165にてデマッピングし、再マッピング部167にて再マッピングすることにより、送信キャリヤシンボルを得ることができる。
【0070】
(MER算出部)
次に、図2に示したMER算出部168について詳細に説明する。MER算出部168は、チャネル等化部164から入力される等化後のキャリヤシンボルZと、再マッピング部167から入力される再生後のキャリヤシンボルDとを用いて、以下の式で定義されるMERを算出する。
【数14】

ここで、Kは全サブキャリヤ数を示す。なお、MERの詳細については、下記の非特許文献を参照されたい。
ETR 290:Measurement guidelines for DVB Systems, ETSI Technical Report, may 1997
【0071】
〔重み係数算出部〕
次に、図1に示した重み係数算出部17について詳細に説明する。図5は、重み係数算出部17の構成を示すブロック図である。この重み係数算出部17は、自己相関行列算出部171、逆行列算出部172、パイロット挿入部173、乗算部174、OFDM再変調部175、相互相関ベクトル算出部176および乗算部177を備えている。
【0072】
自己相関行列算出部171は、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号を用いて、自己相関行列を算出する。自己相関行列算出部171の出力する自己相関行列は逆行列算出部172に入力される。逆行列算出部172は、自己相関行列算出部171から入力される自己相関行列の逆行列を算出する。逆行列算出部172の出力する自己相関行列の逆行列は2分配され、一方が乗算部177へ、他方がD/U測定部15へ入力される。
【0073】
パイロット挿入部173は、復調部16から入力されるキャリヤシンボルに、既知のパイロット信号を挿入して新たなキャリヤシンボルを生成する。具体的には、キャリヤシンボルのうちパイロット信号に割り当てられたキャリヤシンボルを、既知のパイロット信号のキャリヤシンボルに置き換える。パイロット挿入部173の出力する新たなキャリヤシンボルは乗算部174へ入力される。乗算部174は、パイロット挿入部173から入力される新たなキャリヤシンボルに、復調部16から入力される周波数特性を乗算する。乗算部174の出力するキャリヤシンボルは、周波数領域の参照信号としてOFDM再変調部175へ入力される。
【0074】
乗算部174の出力する周波数領域の参照信号は、周波数特性を用いて算出した信号であるから、参照信号には周波数特性が含まれる。重み係数算出部17は、この参照信号を用いて希望波受信用重み係数を算出する。ここで、希望波のマルチパスが受信される環境においても、重み係数算出部17は、希望波受信用アレー合成部14によって干渉波を除去することが可能な希望波受信用重み係数を算出することができる。つまり、干渉波は希望波受信用アレー合成部14によって除去され、マルチパスによる周波数特性歪みは復調部16のチャネル等化部164によって等化される。これにより、OFDM信号合成用受信装置1は、OFDM信号を良好に受信することができる。
【0075】
OFDM再変調部175は、乗算部174から入力される周波数領域の参照信号をIFFTし、時間領域の参照信号にOFDM再変調する。OFDM再変調部175の出力する時間領域の参照信号は相互相関ベクトル算出部176へ入力される。
【0076】
相互相関ベクトル算出部176は、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号と、OFDM再変調部175から入力される参照信号とを用いて、相互相関ベクトルを算出する。相互相関ベクトル算出部176の出力する相互相関ベクトルは乗算部177へ入力される。
【0077】
乗算部177は、逆行列算出部172から入力される自己相関行列の逆行列に、相互相関ベクトル算出部176から入力される相互相関ベクトルを乗算し、希望波受信用重み係数を算出する。乗算部177の出力する希望波受信用重み係数は、一方が希望波受信用アレー合成部14へ入力され、他方がD/U測定部15へ入力される。
である。
【0078】
(参照信号)
次に、図5に示したOFDM再変調部175により生成される参照信号の詳細について説明する。OFDM再変調部175は、乗算部174から入力される周波数領域の参照信号を、IFFTにより時間領域の参照信号に変換する。OFDM再変調部175は、以下の式に示す処理を行う。
【数15】

ここで、R,R,・・・,RK−1は周波数領域の参照信号を示し、r(t)は時間領域の参照信号を示す。
【0079】
(自己相関行列、逆行列、相互相関ベクトル、希望波受信用重み係数)
次に、自己相関行列算出部171により算出される自己相関行列、逆行列算出部172により算出される自己相関行列の逆行列、相互相関ベクトル算出部176により算出される相互相関ベクトル、および乗算部177により算出される希望波受信用重み係数について詳細に説明する。
【0080】
アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号の入力信号ベクトルを以下の式に示す。
【数16】

また、希望波受信用にアレー合成された信号を以下の式に示す。
【数17】

【0081】
重み係数算出部17は、前記式(17)の希望波受信用にアレー合成された信号y(t)と参照信号r(t)との間の自乗誤差が最小となるように、希望波受信用重み係数を最適化する。
【0082】
自乗誤差は、以下の式により定義される。
【数18】

ここで、E[・]は期待値演算を示す。
【0083】
前記式(18)の自乗誤差を最小にする希望波受信用重み係数woptは、以下の式で表される。
【数19】

ここで、Rxxはx(t)の自己相関行列を示し、rxrはx(t)とr(t)の相互相関ベクトルを示す。
【0084】
ここで、自己相関行列および相互相関ベクトルをそれぞれ以下の式で表し、
【数20】

【数21】

希望波受信用重み係数の更新間隔を例えば1シンボル間隔として、処理を行う。ただし、上付きの*は複素共役を示す。
【0085】
すなわち、自己相関行列算出部171は、等価ベースバンド信号の入力信号ベクトルx(t)を用いて、以下の式(22)の処理を行い、自己相間行列Rxx(n)を算出する。また、相互相関ベクトル算出部176は、等価ベースバンド信号の入力信号ベクトルx(t)および参照信号r(t)を用いて、以下の式(23)の処理を行い、相互相関ベクトルrxr(n)を算出する。
【数22】

【数23】

ここで、nは、希望波受信用重み係数の更新時間を示す。また、λは、0≦λ<1を満たす適応係数を示し、忘却係数と呼ばれる。さらに、前記式(22)および(23)における右辺の第2項の期待値演算は、希望波受信用重み係数の更新間隔、例えば1シンボルのうちで有効シンボル期間に相当する期間における期待値を示す。
【0086】
逆行列算出部172は、自己相関行列算出部171により算出された自己相間行列Rxx(n)の逆行列Rxx−1(n)を算出する。乗算部177は、逆行列算出部172により算出されたその逆行列Rxx−1(n)と、相互相関ベクトル算出部176により算出された相互相関ベクトルrxr(n)とを乗算し、希望波受信用重み係数w(n)を算出する。したがって、重み係数算出部17は、希望波受信用重み係数w(n)を、以下の式により求めることができる。
【数24】

【0087】
〔干渉波受信用重み係数算出部〕
次に、図1に示したD/U測定部15の干渉波受信用重み係数算出部151について詳細に説明する。図6は、干渉波受信用重み係数算出部151の構成を示すブロック図である。この干渉波受信用重み係数算出部151は、直交ベクトル算出部221および乗算部222を備えている。
【0088】
干渉波受信用重み係数算出部151は、重み係数算出部17から入力される希望波受信用重み係数wおよび自己相関行列の逆行列Rxx−1を用いて、アレー合成により希望波成分が抑圧される干渉波受信用重み係数vを算出する。
【0089】
直交ベクトル算出部221は、重み係数算出部17から入力される希望波受信用重み係数を用いて直交ベクトルを算出する。直交ベクトル算出部221の出力する直交ベクトルは乗算部222へ入力される。乗算部222は、直交ベクトル算出部221から入力される直交ベクトルに、重み係数算出部17から入力される自己相関行列の逆行列を乗算し、干渉波受信用重み係数を求める。乗算部222の求めた干渉波受信用重み係数は干渉波受信用アレー合成部152に入力される。
【0090】
希望波受信用重み係数をwとすると、干渉波の到来方向ベクトルsは以下の式を満たす。すなわち、これらは直交の関係にある。
【数25】

前記式(25)を満たすsは、例えば以下の式により求めることができる。
【数26】

ここで、Lはアンテナ10のアレー素子数を示し、wは、干渉波受信用重み係数wの第l番目の要素を示す。
【0091】
また、e,uは、以下の式により示すものである。
【数27】

【数28】

【0092】
例えばL=2のとき、
【数29】

とすると、直交ベクトルsは、以下の式により求めることができる。
【数30】

【0093】
したがって、干渉波に対して合成指向特性のビームを向け、アレー合成により希望波成分が抑圧される干渉波受信用重み係数は、以下の式により求めることができる。
【数31】

【0094】
〔同期再生部〕
次に、図1に示した同期再生部18について詳細に説明する。図7は、同期再生部18の構成を示すブロック図である。この同期再生部18は、シンボル同期部181、フレーム同期部182、クロック同期部183、周波数同期部184および同期確立状態生成部185を備えている。
【0095】
シンボル同期部181は、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号を用いて、シンボルの同期再生処理を行い、シンボル同期位置を示すインデックスの同期情報を生成し、同期が確立しているときは同期が確立していることを示す状態信号を、同期が確立していないときは同期が確立していないことを示す状態信号を生成する。シンボル同期部181の出力する同期情報(シンボル同期位置のインデックス)は復調部16へ入力され、状態信号は同期確立状態生成部185へ入力される。また、シンボル同期部181は、制御部19から入力される初期化制御信号に基づいて、シンボルの同期再生処理をリセットし、OFDM信号合成用受信装置1の電源立上げ時と同様の初期化処理を行う。
【0096】
フレーム同期部182は、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号を用いて、フレームの同期再生処理を行い、フレーム同期位置を示すインデックスの同期情報を生成し、同期が確立しているときは同期が確立していることを示す状態信号を、同期が確立していないときは同期が確立していないことを示す状態信号を生成する。フレーム同期部182の出力する同期情報(フレーム同期位置のインデックス)は復調部16へ入力され、状態信号は同期確立状態生成部185へ入力される。また、フレーム同期部182は、制御部19から入力される初期化制御信号に基づいて、フレームの同期再生処理をリセットし、OFDM信号合成用受信装置1の電源立上げ時と同様の初期化処理を行う。
【0097】
クロック同期部183は、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号を用いて、クロックの同期再生処理を行い、図示しない発振器へのクロック制御情報を生成し、同期が確立しているときは同期が確立していることを示す状態信号を、同期が確立していないときは同期が確立していないことを示す状態信号を生成する。クロック同期部183の出力するクロック制御情報は図示しない発振器へ入力され、状態信号は同期確立状態生成部185へ入力される。また、クロック同期部183は、制御部19から入力される初期化制御信号に基づいて、クロックの同期再生処理をリセットし、OFDM信号合成用受信装置1の電源立上げ時と同様の初期化処理を行う。
【0098】
周波数同期部184は、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号を用いて、周波数の同期再生処理を行い、等価ベースバンド信号の周波数オフセットを生成し、同期が確立しているときは同期が確立していることを示す状態信号を、同期が確立していないときは同期が確立していないことを示す状態信号を生成する。周波数同期部184の出力する周波数オフセットは同期情報として復調部16へ入力され、状態信号は同期確立状態生成部185へ入力される。また、周波数同期部184は、制御部19から入力される初期化制御信号に基づいて、周波数の同期再生処理をリセットし、OFDM信号合成用受信装置1の電源立上げ時と同様の初期化処理を行う。
【0099】
同期確立状態生成部185は、シンボル同期部181、フレーム同期部182、クロック同期部183および周波数同期部184からそれぞれ入力される状態信号に基づいて、同期確立状態信号を生成する。具体的には、同期確立状態生成部185は、入力された全ての状態信号が、同期が確立していることを示している場合、同期確立状態であることを示す同期確立状態信号を生成する。また、入力された状態信号のうちの少なくとも1つの状態信号が、同期が確立していないことを示している場合、同期非確立状態であることを示す同期確立状態信号を生成する。同期確立状態生成部185の出力する同期確立状態信号は制御部19へ入力される。
【0100】
次に、図7に示したシンボル同期部181の詳細について説明する。図8は、シンボル同期部181の構成を示すブロック図である。このシンボル同期部181は、遅延部186、複素共役部187、乗算部188、移動平均フィルタ189、絶対値算出部190、最大値検出部191およびインデックス生成部192を備えている。
【0101】
遅延部186は、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号に対し、有効シンボル長分の遅延処理を行う。遅延部186の出力する、遅延した等価ベースバンド信号は複素共役部187へ入力される。また、遅延部186は、制御部19から入力される初期化制御信号に基づいて、遅延処理をリセットして初期化する。複素共役部187は、遅延部186から入力される、遅延した等価ベースバンド信号の複素共役値を求める。複素共役部187の出力する、有効シンボル長分遅延した等価ベースバンド信号の複素共役値は乗算部188へ入力される。
【0102】
乗算部188は、アレー素子数分の直交復調部13から入力される等価ベースバンド信号に、複素共役部187から入力される、有効シンボル長分遅延した等価ベースバンド信号の複素共役値を乗算する。乗算部188の出力する乗算結果は移動平均フィルタ189へ入力される。移動平均フィルタ189は、乗算部188から入力される乗算結果にGI長分の移動平均フィルタ処理を施し、移動平均値を算出する。また、移動平均フィルタ189は、制御部19から入力される初期化制御信号に基づいて、移動平均フィルタ処理をリセットして初期化する。移動平均フィルタ189の出力する移動平均値は絶対値算出部190へ入力される。
【0103】
絶対値算出部190は、移動平均フィルタ189から入力される移動平均値の絶対値を算出し、振幅値を求める。絶対値算出部190の出力する振幅値は最大値検出部191へ入力される。最大値検出部191は、絶対値算出部190により入力される振幅値について、時間軸上における所定の1シンボル期間のポイント数についての振幅値に対し、その最大値を検出し、その最大値の振幅を有するポイント番号をインデックスとして生成する。また、最大値検出部191は、制御部19から入力される初期化制御信号に基づいて、最大値検出処理をリセットして初期化する。最大値検出部191の出力するインデックスはインデックス生成部192へ入力される。
【0104】
インデックス生成部192は、最大値検出部191から入力される、最大値の振幅を有するインデックスを用いて、同期が確立しているか否かを判定して状態信号を生成し、インデックスの同期情報(シンボル)を生成する。また、インデックス生成部192は、制御部19から入力される初期化制御信号に基づいて、インデックス生成処理をリセットして初期化する。インデックス生成部192の生成する同期情報(シンボル)は復調部16へ入力され、状態信号は同期確立状態生成部185へ入力される。
【0105】
図9は、シンボル同期部181の最大値検出部191により生成され、インデックス生成部192へ入力されるインデックスの変遷を説明する図である。横軸が時間、縦軸がポイント番号のインデックスを示す。インデックス生成部192は、図9に示すように変遷するインデックスを入力する。インデックスi1の同期確立状態において、インデックスi1からインデックスi2,i3への変遷に対し、インデックスi2,i3は所定期間内で瞬時的に変遷したインデックスであると判定して無視し、インデックスi1の同期情報を出力し続ける。また、インデックスi1からi4への変遷に対し、インデックスi4は瞬時的に変遷したインデックスでないと判定し、同期が確立していないことを示す状態信号を生成して出力する。これにより、同期非確立状態となる。そして、インデックス生成部192は、所定期間内でインデックスi4の変化がない場合、インデックスi4の同期情報を生成して出力し、同期が確立していることを示す状態信号を生成して出力する。これにより、同期確立状態となる。このように、インデックス生成部192は、最大値検出部191から入力されるインデックスの所定期間内における変遷に基づいて、同期が確立していることを示す状態信号、または同期が確立していないことを示す状態信号を生成し、同期が確立しているときのインデックスを同期情報として出力する。
【0106】
なお、ここではシンボル同期部181の詳細についてのみ説明したが、フレーム同期部182、クロック同期部183および周波数同期部184についても、シンボル同期部181と同様の同期再生処理を行い、同期情報および状態信号を生成し、初期化制御信号に基づいて、同期再生処理をリセットして初期化する。
【0107】
〔希望波電力算出部、干渉波電力算出部、D/U算出部〕
次に、図1に示したD/U測定部15の希望波電力算出部153、干渉波電力算出部154およびD/U算出部155について詳細に説明する。希望波電力算出部153は、希望波受信用アレー合成部14から入力される希望波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号から、以下の式により希望波電力Pを算出する。
【数32】

また、干渉波電力算出部154は、干渉波受信用アレー合成部152から入力される干渉波受信用にアレー合成された等価ベースバンド信号から、以下の式により干渉波電力Pを算出する。
【数33】

ここで、E[・]は期待値演算を示す。
【0108】
したがって、D/U算出部155は、以下の式により、受信信号の希望波電力および干渉波電力の比であるD/U Γを算出する。
【数34】

【0109】
〔制御部〕
次に、図1に示した制御部19について詳細に説明する。図10は、制御部19の処理を示すフローチャートである。制御部19は、以下の(a)〜(c)のいずれかの場合に、初期化制御信号を生成し、重み係数算出部17および同期再生部18をリセットして初期化する。
(a)同期再生部18により生成された同期確立状態信号にて、同期が確立していない状態(非確立状態)が所定時間継続した場合
(b)同期確立状態において、D/U測定部15により測定されたD/Uが、所定期間の間、負(干渉波の受信電力が希望波の受信電力よりも大きい状態)である場合
(c)同期確立状態において、復調部16により算出されたMERが、所定期間の間、所定値未満の場合
【0110】
放送が休止して干渉波のみが送信されているときに、放送が開始して希望波の送信が始まり、希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きくなった場合、(b)の状態となる。制御部19は、(b)の状態を判定することにより、初期化制御信号を生成し、重み係数算出部17および同期再生部18をリセットして初期化する。これにより、同期再生部18は、受信している希望波および干渉波に応じて新たな同期情報を生成し、重み係数算出部17は、予め設定された初期値の希望波受信用重み係数を出力し、復調部16は、同期再生部18により生成された同期情報に基づいて、受信している希望波および干渉波に応じた新たなキャリヤシンボルおよび周波数特性を算出する。そして、重み係数算出部17は、受信している希望波および干渉波の等価ベースバンド信号、並びに新たなキャリヤシンボルおよび周波数特性に基づいて、新たな希望波受信用重み係数を算出し、希望波受信用アレー合成部14は、受信している希望波が反映されたアレー合成信号を生成する。また、干渉波受信用重み係数算出部151は、新たな干渉波受信用重み係数を算出し、干渉波受信用アレー合成部152は、受信している干渉波が反映されたアレー合成信号を生成する。つまり、本来受信すべき希望波を抑圧し続けることなく、希望波を受信するために干渉波を抑圧することが可能となる。
【0111】
制御部19は、同期再生部18から同期確立状態信号を入力し、同期確立状態信号が同期非確立状態を示しているか、または同期確立状態を示しているかを判定する(ステップS1001)。同期非確立状態を示していると判定した場合(ステップS1001:同期非確立)、非確立状態の同期確立状態信号を継続して入力したまま、所定時間経過したか否かを判定する(ステップS1002)。所定時間経過したことを判定した場合(ステップS1002:Y)、初期化制御信号を生成し、重み係数算出部17および同期再生部18に出力し(ステップS1005)、ステップS1001へ移行する。一方、所定時間経過していないと判定した場合(ステップS1002:N)、ステップS1001へ移行する。
【0112】
制御部19は、ステップS1001において、同期確立状態信号が同期確立状態を示していると判定した場合(ステップS1001:同期確立)、D/U測定部15から入力されるD/Uと0とを比較し、D/Uが所定期間の間負であるか否かを判定する(ステップS1003)。D/Uが負であると判定した場合(ステップS1003:Y)、すなわち、前記(b)のとおり、同期確立状態において干渉波の受信電力が希望波の受信電力よりも大きい場合、初期化制御信号を生成し、重み係数算出部17および同期再生部18に出力し(ステップS1005)、ステップS1001へ移行する。
【0113】
制御部19は、ステップS1003において、D/Uが負でないと判定した場合(ステップS1003:N)、復調部16から入力されるMERと予め設定された所定値とを比較し、MERが所定期間の間、所定値未満であるか否かを判定し(ステップS1004)、所定値未満であると判定した場合(ステップS1004:Y)、初期化制御信号を生成し、重み係数算出部17および同期再生部18に出力し(ステップS1005)、ステップS1001へ移行する。所定値未満でないと判定した場合(ステップS1004:N)、ステップS1001へ移行する。
【0114】
このように、制御部19は、前記(a)〜(c)を判定し、初期化制御信号を生成し、重み係数算出部17および同期再生部18をリセットして初期化する。特に、制御部19は、同期再生部18からの同期確立状態信号およびD/U測定部15からのD/Uに基づいて、同期確立状態におけるD/Uが負である状態を判定することにより、放送が休止して干渉波のみが送信されている状態から、放送が開始して希望波の送信が始まり、希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きくなったことを検知し、初期化制御信号を生成して重み係数算出部17および同期再生部18をリセットして初期化する。これにより、到来する希望波および干渉波に応じて、希望波受信用重み係数および干渉波受信用重み係数が算出され、アレー合成信号が生成される。つまり、本来受信すべき希望波を抑圧し続けることなく、希望波を受信するために干渉波を抑圧することが可能となる。
【0115】
次に、図10に示した制御部19による前記(b)の処理(同期確立状態において干渉波の受信電力が希望波の受信電力よりも大きい場合の処理、すなわち、ステップS1001:同期確立、ステップS1003:YおよびステップS1005の処理)とOFDM信号合成用受信装置1の動作との関係について詳細に説明する。図12(1)は通常時の動作を説明する図であり、図12(2)は希望波停波時(放送休止時)の動作を説明する図であり、図12(3)は希望波送信開始後(放送開始後)の動作(本発明が解決すべき課題)を説明する図である。
【0116】
図12(1)において、放送が開始している通常時には、希望波および干渉波が送信され、希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きくなっている。OFDM信号合成用受信装置1の希望波受信用アレー合成部14によりアレー合成された信号の受信電力は、干渉波が抑圧されて希望波が反映された電力となり、干渉波受信用アレー合成部152によりアレー合成された信号の受信電力は、希望波が抑圧されて干渉波が反映された電力となる。したがって、OFDM信号合成用受信装置1は、希望波の信号を復調するから、正常に動作していることになる。
【0117】
また、図12(2)において、放送が休止している希望波停波時には、干渉波のみが送信されている。OFDM信号合成用受信装置1は、OFDM信号を受信する装置であるから、希望波受信用アレー合成部14によりアレー合成された信号の受信電力は、干渉波を希望波とみなした電力となり(干渉波の電力が希望波の電力となり)、干渉波受信用アレー合成部152によりアレー合成された信号の受信電力は、0に近い値となる。
【0118】
また、図12(3)において、図12(2)の状態から放送が開始して希望波送信開始後には、図12(1)と同様に、希望波および干渉波が送信され、希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きくなっている。前述したとおり、希望波と干渉波のシンボル同期位置またはフレーム同期位置などが一致しているときには、従来のOFDM信号合成用受信装置は、以前から継続して同期が確立しているものと判定し、干渉波を希望波とみなして信号を復調する。つまり、従来のOFDM信号合成用受信装置は、放送が開始する前からの同期確立状態が継続し、本来受信すべき希望波を抑圧してしまい、干渉波を受信し続けてしまう。つまり、図1に示したOFDM信号合成用受信装置1において、重み係数算出部17および同期再生部18が初期化されない場合には(従来のOFDM信号合成用受信装置では)、希望波受信用アレー合成部14によりアレー合成された信号の受信電力は、希望波が抑圧されて干渉波が反映された電力となり、干渉波受信用アレー合成部152によりアレー合成された信号の受信電力は、干渉波が抑圧されて希望波が反映された電力となる。つまり、従来のOFDM信号合成用受信装置は、干渉波の信号を復調するから、正常に動作していないことになる。
【0119】
図1に示した本発明の実施形態によるOFDM信号合成用受信装置1は、図12(2)の状態から図12(3)の状態に変化した場合、この変化を、図10に示したステップS1001およびステップS1003の処理によって検出する。すなわち、同期確立状態において、D/U測定部15により測定されたD/Uが、所定期間の間、負である状態(干渉波の受信電力が希望波の受信電力よりも大きい状態)を検出する。そして、初期化制御信号を生成し、重み係数算出部17および同期再生部18をリセットして初期化する。これにより、OFDM信号合成用受信装置1は、図12(1)に示した通常時の動作のとおり、本来受信すべき希望波を抑圧し続けることなく、希望波を受信するために干渉波を抑圧することができる。
【0120】
〔実験結果〕
次に、計算機シミュレーションにより得られたD/Uの実験結果について説明する。図11は、到来波間のD/Uと、図1に示したOFDM信号合成用受信装置1のD/U算出部155が出力するD/U(推定D/U)との間の関係を、計算機シミュレーションにより求めた実験結果を示している。この実験結果は、希望波と干渉波がともにISDB−Tによる信号であり、GI比も同一である場合において、希望波および干渉波の2波のうち、干渉波のみが到来している状態から、放送が開始して希望波の送信が始まるという状況を想定している。また、希望波と干渉波のシンボル同期位置は厳密に一致しているものとし、アンテナ10のアレー素子間隔は、搬送波周波数における波長の半分の長さとし、干渉波が0度から到来し、希望波が90度から到来するものとする。また、OFDM信号合成用受信装置1は、希望波が送信を開始する前は、干渉波のみが到来している状態で動作をしている。すなわち、OFDM信号合成用受信装置1は、干渉波を受信しているため、図11に示す座標軸であるD/Uは、実際のD/Uの逆数(dBでは正負が逆)の状態になっている。この状態から、放送が開始して希望波の送信が始まると、図11に示す特性となる。
【0121】
図11によれば、D/Uは、OFDM信号合成用受信装置1のD/U算出部155により正しく推定されていることがわかる。つまり、干渉波のみが到来している状態から希望波の送信が開始し、希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きくなった場合、OFDM信号合成用受信装置1によって、希望波が抑圧されていることが検知され、重み係数算出部17および同期再生部18がリセットされ初期化されることがわかる。つまり、OFDM信号合成用受信装置1によって、図12(1)に示したように、本来受信すべき希望波が抑圧されることがなく、通常時の動作のように、干渉波が抑圧されることがわかる。
【0122】
以上のように、図1に示した本発明の実施形態によるOFDM信号合成用受信装置1によれば、制御部19は、干渉波のみが送信されている状態から、希望波の送信が始まって希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きくなった状態への変化を検出するようにした。具体的には、制御部19は、同期再生部18からの同期確立状態信号に基づいて同期確立状態を判定し、同期確立状態において、D/U測定部15からのD/Uに基づいて、希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きい状態(D/Uが負の状態)を判定し、初期化制御信号を重み係数算出部17および同期再生部18に出力し、重み係数算出部17および同期再生部18をリセットして初期化するようにした。ここで、干渉波のみが送信されているときは同期確立状態になっており、その後、希望波の送信が始まって希望波の受信電力が干渉波の受信電力よりも大きくなったときは、同期確立状態のままでD/Uが負となるから、制御部19は、前述の状態変化を検出することができる。
【0123】
これにより、重み係数算出部17および同期再生部18は初期化され、同期再生部18は、新たな同期情報を生成し、重み係数算出部17は、初期値の希望波受信用重み係数を出力し、復調部16は、同期再生部18により生成された同期情報に基づいて、受信している希望波および干渉波に応じた新たなキャリヤシンボルおよび周波数特性を算出する。そして、重み係数算出部17は、受信している希望波および干渉波の等価ベースバンド信号、並びに新たなキャリヤシンボルおよび周波数特性に基づいて、新たな希望波受信用重み係数を算出し、希望波受信用アレー合成部14は、受信している希望波が反映されたアレー合成信号を生成すると共に、干渉波受信用重み係数算出部151は、新たな干渉波受信用重み係数を算出し、干渉波受信用アレー合成部152は、受信している干渉波が反映されたアレー合成信号を生成することができる。つまり、本来受信すべき希望波を抑圧し続けることなく、希望波を受信するために干渉波を抑圧することが可能となる。
【符号の説明】
【0124】
1 OFDM信号合成用受信装置
10 アンテナ
11 周波数変換部
12 A/D変換部
13 直交復調部
14 希望波受信用アレー合成部
15 D/U測定部
16 復調部
17 重み係数算出部
18 同期再生部
19 制御部
141,157,174,177,188,222 乗算部
142,158 加算部
143,159,187 複素共役部
151 干渉波受信用重み係数算出部
152 干渉波受信用アレー合成部
153 希望波電力算出部
154 干渉波電力算出部
155 D/U算出部
161 GI除去部
162 FFT部
163 チャネル推定部
164 チャネル等化部
165 デマッピング部
166 パラレルシリアル変換部
167 再マッピング部
168 MER算出部
169 シンボル再生部
171 自己相関行列算出部
172 逆行列算出部
173 パイロット挿入部
175 OFDM再変調部
176 相互相関ベクトル算出部
181 シンボル同期部
182 フレーム同期部
183 クロック同期部
184 周波数同期部
185 同期確立状態生成部
186 遅延部
189 移動平均フィルタ
190 絶対値算出部
191 最大値検出部
192 インデックス生成部
201 パイロット抽出部
202 パイロット生成部
203,211 除算部
204 補間部
221 直交ベクトル算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアレー素子で構成されるアレーアンテナによってOFDM波を受信し、ビット列を出力するOFDM信号合成用受信装置であって、
受信したOFDM波の等価ベースバンド信号を、時間領域において重み付けにより合成し、アレー合成信号を生成する希望波受信用アレー合成部と、
前記希望波受信用アレー合成部により生成されたアレー合成信号を復調し、ビット列を出力する復調部と、
前記復調部におけるチャネル等化またはシンボル再生により得られたキャリヤシンボル、およびチャネル推定により得られた周波数特性に基づいて、時間領域の参照信号を生成し、前記アレー合成信号と前記時間領域の参照信号との間の誤差が最小となるように最適化し、前記希望波受信用アレー合成部における重み付けのために用いる、干渉波を抑圧するための希望波受信用重み係数を算出する重み係数算出部と、
前記時間領域の等価ベースバンド信号に基づいて同期を再生し、同期が確立しているか否かを示す同期確立状態信号を生成する同期再生部と、
前記時間領域の等価ベースバンド信号に基づいて、D/U(Desired to Undesired signal ratio)を測定するD/U測定部と、
前記同期再生部により生成された同期確立状態信号に基づいて、同期が確立していることを判定し、前記D/U測定部により測定されたD/Uが負であることを判定し、前記重み係数算出部および前記同期再生部を初期化する制御部と、を備えたことを特徴とするOFDM信号合成用受信装置。
【請求項2】
請求項1に記載のOFDM信号合成用受信装置において、
前記D/U測定部は、
前記重み係数算出部により算出された希望波受信用重み係数に基づいて、希望波を抑圧するための干渉波受信用重み係数を算出する干渉波受信用重み係数算出部と、
前記干渉波受信用重み係数算出部により算出された干渉波受信用重み係数を用いて、前記等価ベースバンド信号を時間領域において重み付けにより合成し、アレー合成信号を生成する干渉波受信用アレー合成部と、
前記希望波受信用アレー合成部により生成されたアレー合成信号の電力を、希望波電力として算出する希望波電力算出部と、
前記干渉波受信用アレー合成部により生成されたアレー合成信号の電力を、干渉波電力として算出する干渉波電力算出部と、
前記希望波電力算出部により算出された希望波電力および前記干渉波電力算出部により算出された干渉波電力からD/Uを算出するD/U算出部と、を備えたことを特徴とするOFDM信号合成用受信装置。
【請求項3】
請求項1に記載のOFDM信号合成用受信装置において、
前記重み係数算出部は、
前記時間領域の等価ベースバンド信号における自己相関行列を算出する自己相関行列算出部と、
前記自己相関行列算出部により算出された自己相関行列の逆行列を算出する逆行列算出部と、
前記時間領域の等価ベースバンド信号および前記時間領域の参照信号から相互相関ベクトルを算出する相互相関ベクトル算出部と、
前記逆行列算出部により算出された自己相関行列の逆行列に、前記相互相関ベクトル算出部により算出された相互相関ベクトルを乗算し、希望波受信用重み係数を求める乗算部と、を備えたことを特徴とするOFDM信号合成用受信装置。
【請求項4】
請求項2に記載のOFDM信号合成用受信装置において、
前記D/U測定部の干渉波受信用重み係数算出部は、
前記重み係数算出部により算出された希望波受信用重み係数と直交する直交ベクトルを算出する直交ベクトル算出部と、
前記直交ベクトル算出部により算出された直交ベクトルに、前記時間領域の等価ベースバンド信号における自己相関行列の逆行列を乗算し、干渉波受信用重み係数を求める乗算部と、を備えたことを特徴とするOFDM信号合成用受信装置。
【請求項5】
請求項1に記載のOFDM信号合成用受信装置において、
前記同期再生部は、
前記時間領域の等価ベースバンド信号に基づいてシンボル同期再生を行い、シンボル同期が確立しているか否かを示す状態信号を生成するシンボル同期部と、
前記時間領域の等価ベースバンド信号に基づいてフレーム同期再生を行い、フレーム同期が確立しているか否かを示す状態信号を生成するフレーム同期部と、
前記時間領域の等価ベースバンド信号に基づいてクロック同期再生を行い、クロック同期が確立しているか否かを示す状態信号を生成するクロック同期部と、
前記時間領域の等価ベースバンド信号に基づいて周波数同期再生を行い、周波数同期が確立しているか否かを示す状態信号を生成する周波数同期部と、
前記シンボル同期部、フレーム同期部、クロック同期部および周波数同期部により生成された全ての状態信号が、同期が確立していることを示している場合、同期が確立していることを示す同期確立状態信号を生成し、前記状態信号のうちの少なくとも1つの信号が、同期が確立していないことを示している場合、同期が確立していないことを示す同期確立状態信号を生成する同期確立状態生成部と、を備えることを特徴とするOFDM信号合成用受信装置。
【請求項6】
請求項1に記載のOFDM信号合成用受信装置において、
前記復調部は、チャネル等化により得たキャリヤシンボルおよびシンボル再生により得たキャリヤシンボルに基づいてMER(Modulation Error Ratio)を算出し、
前記制御部は、
前記同期再生部により生成された同期確立状態信号に基づいて、同期が確立していることを判定し、かつ、前記D/U測定部により測定されたD/Uが所定期間の間負であることを判定した場合、
前記同期確立状態信号に基づいて、同期が確立していないことを判定し、かつ、前記同期が確立していない状態で所定時間経過したことを判定した場合、または、
前記同期確立状態信号に基づいて、同期が確立していることを判定し、かつ、前記復調部により算出されたMERに基づいて、所定期間の間、前記MERが所定値よりも小さいと判定した場合、
前記重み係数算出部および前記同期再生部を初期化する、ことを特徴とするOFDM信号合成用受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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