説明

P型シリコンウェーハの金属不純物濃度評価方法

【課題】ウェーハ全面において高精度に評価が可能な、P型シリコンウェーハ中の金属不純物濃度を評価する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】P型シリコンウェーハの金属不純物濃度評価方法であって、
(A)P型モニター用シリコンウェーハを用いてFe以外のキャリア再結合中心密度とバルク金属不純物濃度との相関関係を決定するステップと、
(B)SPV法により評価対象のP型シリコンウェーハのFe以外のキャリア再結合中心密度を測定するステップと、
(C)前記ステップ(B)において測定したFe以外のキャリア再結合中心密度と、前記ステップ(A)において予め決定された相関関係とに基づき、前記評価対象のP型シリコンウェーハのバルク金属不純物濃度を算出するステップと
を有することを特徴とするP型シリコンウェーハの金属不純物濃度評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、P型シリコンウェーハバルク中の微量金属不純物濃度を評価するための分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面光電圧法(Surface Photo Voltage 法(以下、「SPV法」とする))によるP型シリコンウェーハの品質評価では、バルク拡散長やバルクFe濃度、Fe以外のキャリア再結合中心密度を計算により算出することができる。
【0003】
バルク拡散長は、バルクFe濃度およびFe以外のキャリア再結合中心密度に依存して変化し、さらにキャリア再結合中心密度は、シリコンウェーハ中のバルク欠陥密度(以下、「BMD密度」とする)と密接な関係があることも判っている(例えば、特許文献1等参照)。
【0004】
ここで、バルク拡散長(L0)、バルクFe濃度(NFe)、Fe以外のキャリア再結合中心密度(N)の計算式を以下に示す。
【数1】

D:少数キャリアの拡散係数、τ:ライフタイム
1/τ=1/τFe+1/τFe以外+1/τ
τFe:ライフタイムに及ぼすFeの影響
τFe以外:ライフタイムに及ぼすFe以外の影響
τ:ライフタイムに及ぼす裏面(表面)再結合の影響
【数2】


Fe=1.05E16×(1/(Laft−1/(Lbef
aft:Fe−Bペア乖離後の拡散長、Lbef:Fe−Bペア乖離前の拡散長

Nr=1.06E16×(1−P−1)/(L−NFe/P
P:CFei(乖離後電子捕獲係数)/CFeB(乖離前電子捕獲係数) (およそ11〜12)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−266258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のBMD密度は、重金属等の不純物を除去する能力の指標とされているが、金属不純物そのものを評価することにより、シリコンウェーハの品質を評価する方法も知られている。しかし、従来の方法は、破壊による測定が必要であるため一部についてのみの評価しか行えない、算出誤差が生じやすい等といった問題があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、ウェーハ全面において簡便かつ高精度に評価が可能な、P型シリコンウェーハ中の金属不純物濃度を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明では、P型シリコンウェーハの金属不純物濃度評価方法であって、
(A)P型モニター用シリコンウェーハを用いてFe以外のキャリア再結合中心密度とバルク金属不純物濃度との相関関係を決定するステップと、
(B)SPV法により評価対象のP型シリコンウェーハのFe以外のキャリア再結合中心密度を測定するステップと、
(C)前記ステップ(B)において測定したFe以外のキャリア再結合中心密度と、前記ステップ(A)において予め決定された相関関係とに基づき、前記評価対象のP型シリコンウェーハのバルク金属不純物濃度を算出するステップと
を有することを特徴とするP型シリコンウェーハの金属不純物濃度評価方法を提供する。
【0009】
このような評価方法であれば、P型シリコンウェーハのバルク金属不純物濃度評価が、簡便高速かつウェーハ面内分布を含めて非破壊で可能となり、その結果を基に高品質なP型シリコンウェーハの提供が可能となる。
【0010】
この場合、前記ステップ(A)におけるバルク金属不純物濃度の測定方法として、密閉容器内でフッ酸+硝酸の蒸気と前記P型モニター用シリコンウェーハの小片とを反応させ、該シリコンウェーハ小片を分解し、分解残渣中の金属不純物濃度を測定することができる。
【0011】
ステップ(A)におけるバルク金属不純物濃度をこのような測定方法により測定すれば、低コストで正確に行うことが可能であり、また、本発明をより簡便なものとすることもできる。
【0012】
また、前記金属不純物濃度として、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、及びタングステン(W)のうちの少なくとも1つの濃度を評価することが好ましい。
【0013】
例えば先端撮像素子向けエピタキシャルウェーハでは、Ti、Nb、Mo、W等の濃度と撮像素子デバイス不良の発生率に相関が見られることが判っているため、これらの濃度を評価することにより、より高品質なP型シリコンウェーハを提供することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、SPV法におけるFe以外のキャリア再結合中心密度とそれに対応するP型シリコンウェーハのバルク金属不純物濃度を求めることにより、同一製法におけるシリコンウェーハのバルク金属不純物濃度を、SPV法でFe以外のキャリア再結合中心密度を測定することにより評価することが可能となる。その結果、SPV法により間接的にP型シリコンウェーハのバルク金属不純物濃度評価が簡便高速かつウェーハ面内分布を含めて可能となり、その結果を基に、先端撮像素子向けウェーハ等の高品質なP型シリコンウェーハの提供が可能となる。
また、本発明は評価対象を破壊することなく評価を行うので、評価対象であるP型シリコンウェーハの全面において、評価を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の工程の一例を示すフロー図である。
【図2】実施例1におけるTi濃度と再結合中心密度の関係を示す相関図である。
【図3】実施例1におけるNb濃度と再結合中心密度の関係を示す相関図である。
【図4】実施例1におけるMo濃度と再結合中心密度の関係を示す相関図である。
【図5】実施例1におけるW濃度と再結合中心密度の関係を示す相関図である。
【図6】実施例2におけるTi濃度と再結合中心密度の関係を示す相関図である。
【図7】実施例2におけるNb濃度と再結合中心密度の関係を示す相関図である。
【図8】実施例2におけるMo濃度と再結合中心密度の関係を示す相関図である。
【図9】実施例2におけるW濃度と再結合中心密度の関係を示す相関図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明についてより具体的に説明する。
重金属等の不純物はシリコンウェーハの品質に大きく関わっているため、P型シリコンウェーハ中の微量金属不純物の濃度を極めて高感度に評価することは重要である。
そこで本発明者は、簡便かつ高精度にウェーハ全面の評価が可能な金属不純物濃度の評価方法を提供すべく鋭意検討を行った。その過程で、まず、金属不純物がキャリアの再結合中心として作用することを受け、金属不純物濃度とFe以外のキャリア再結合中心密度との関係性に着目した。
【0017】
その結果、Fe以外のキャリア再結合中心密度とBMD密度とに相関関係があることから、Fe以外のキャリア再結合中心密度はBMD密度に依存して変動すること、それが問題となり、実際にP型シリコンウェーハ中の金属不純物濃度とFe以外のキャリア再結合中心密度の相関関係を決定するには、Fe以外のキャリア再結合中心密度の変動要因となるBMDを低い密度で抑えた上での評価が重要となることが判った。
【0018】
このような点を考慮し、更に研究を重ねた結果、
P型シリコンウェーハの金属不純物濃度評価方法であって、
(A)P型モニター用シリコンウェーハを用いてFe以外のキャリア再結合中心密度とバルク金属不純物濃度との相関関係を決定するステップと、
(B)SPV法により評価対象のP型シリコンウェーハのFe以外のキャリア再結合中心密度を測定するステップと、
(C)前記ステップ(B)において測定したFe以外のキャリア再結合中心密度と、前記ステップ(A)において予め決定された相関関係とに基づき、前記評価対象のP型シリコンウェーハのバルク金属不純物濃度を算出するステップと
を有することを特徴とする本発明をなすに至った。
【0019】
以下、本発明について図面を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明の工程の一例を示すフロー図である。
・ステップ(A)
まずステップ(A)では、P型モニター用シリコンウェーハを用いてFe以外のキャリア再結合中心密度とバルク金属不純物濃度との相関関係を決定する(図1(A))。
ここで、本発明においてのモニター用シリコンウェーハとは、評価対象とするシリコンウェーハ又はシリコンエピタキシャルウェーハと同一条件で製造されたシリコンウェーハのことを指す。
【0020】
この相関関係の決定方法としては、例えば以下のような方法がある。
まず、P型モニター用シリコンウェーハの表面酸化膜を除去後、常法に従い、SPV法によりP型モニター用シリコンウェーハ面内の任意の点(好ましくは100〜200点程度)を測定して、バルク拡散長、バルクFe濃度およびFe以外のキャリア再結合中心密度を求め、Fe以外のキャリア再結合中心密度についての面内マップを得る。
【0021】
次に得られたFe以外のキャリア再結合中心密度の面内マップの、密度の高い部位、密度の低い部位、面内平均密度に相当する部位における、金属不純物濃度を測定する。
具体的には、例えば、前記P型モニター用シリコンウェーハから、バルク金属不純物濃度測定のための試料を切り出し、その試料を密閉容器内でフッ酸+硝酸の蒸気と反応させることにより分解し、分解残渣中の金属不純物濃度を化学分析することで、P型シリコンウェーハ中の金属不純物濃度を測定する。
もちろん測定方法はこれに限定されず、バルク金属不純物濃度が測定できる方法であればよい。
【0022】
化学分析する金属不純物の濃度は、評価対象となるP型シリコンウェーハの用途に応じて適宜決めることができ、特に限定されない。例えば先端撮像素子向けエピタキシャルウェーハであれば、デバイス不良の発生に関与しているTi、Nb、Mo、W等の濃度を分析により測定すればよい。
【0023】
このようにして得られたバルク金属不純物濃度と、Fe以外のキャリア再結合中心密度との関係をグラフ化することにより、相関関係が得られる(図2〜図9参照)。
【0024】
・ステップ(B)
ステップ(B)では、SPV法により評価対象のP型シリコンウェーハの、Fe以外のキャリア再結合中心密度を測定する(図1(B))。
SPV法によるFe以外のキャリア再結合中心密度は、上述のステップ(A)と同様、常法に従って求めることができる。
SPV法であれば、評価対象のP型シリコンウェーハのFe以外のキャリア再結合中心密度を、非破壊で測定することができる。
【0025】
・ステップ(C)
ステップ(C)では、前記ステップ(B)において測定したFe以外のキャリア再結合中心密度と、前記ステップ(A)において予め決定された相関関係とに基づき、前記評価対象のP型シリコンウェーハのバルク金属不純物濃度を算出する(図1(C))。
【0026】
同一条件で製造されたP型シリコンウェーハであれば、キャリア再結合密度とバルク金属不純物濃度が上記の相関関係と同じ関係を示すため、SPV法により評価対象のP型シリコンウェーハのFe以外のキャリア再結合中心密度を測定し、予め決定された相関関係に照らし合わせるだけで、バルク金属不純物濃度を評価できる。
【0027】
このとき、デバイス歩留まりや不良とバルク金属不純物濃度との関係が明らかとなっていれば、この評価したバルク金属不純物濃度から、P型シリコンウェーハの品質を評価することができるため、その結果、顧客に高品質のウェーハを提供することが可能となる。
例えば、先端撮像素子向けエピタキシャルウェーハでは、Nbの場合、キャリア再結合中心密度が2E10atoms/cm以下であれば、撮像素子における白傷欠陥等のデバイス不良が発生しないことが判っている。従って、本発明の方法による評価で、この値をクリアしたものだけ出荷するようにすればよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1として、直径300mm、P型ポリッシュドシリコンウェーハでの評価を行った。
まず、モニター用シリコンウェーハを5%の希フッ酸に5分間浸漬し、シリコンウェーハ表面の酸化膜(自然酸化膜)を除去し、超純水にて15分間かけ流しの水洗、そして水洗後のシリコンウェーハに窒素ガスを吹き付けて残った水滴の除去およびシリコンウェーハの乾燥を行った。
【0029】
次に、乾燥後のシリコンウェーハをSPV装置にセットし、190℃で5分間、および85℃で15分間、SPV装置内のホットプレートで熱処理を行い、乾燥時に残留した水分の除去および、190℃熱処理で乖離したシリコンウェーハ内部のFe−Bペアを結合させた。
【0030】
続いてシリコンウェーハ面内をメッシュ状に分割し、SPV法により、バルク拡散長、バルクFe濃度およびFe以外のキャリア再結合中心密度について、測定可能な面内177点を測定し、面内マップを得た。
【0031】
次に、Fe以外のキャリア再結合中心密度の面内マップから、密度の高い部位、密度の低い部位、面内平均密度に相当する部位から、10mm×20mmの大きさのシリコン片をそれぞれ1枚或いは2枚切り出した。シリコン片の切り出し時の汚染を除去するため、50〜85℃でアンモニア−過酸化水素水(SC1)洗浄を2分間行った後、シリコン片の重量を精密電子てんびんで1ミリグラムの単位まで測定した。
【0032】
次に、重量測定時の汚染を除去するため、50〜85℃でアンモニア−過酸化水素水(SC1)洗浄を2分間行い、続けて50〜85℃で塩酸−過酸化水素水−フッ酸洗浄を5分間行った。
【0033】
次に、洗浄済みのシリコン片をフッ素樹脂製の密閉容器に、50%フッ酸10mlと98%硝酸10mlと共に入れ、85℃〜100℃の恒温器内で12時間〜15時間保持し、密閉容器内で発生するフッ酸と硝酸の蒸気でシリコン片を分解した。
【0034】
次に、密閉容器からシリコン片の分解残渣を取り出し、希硝酸を0.5ml添加してシリコンバルク金属不純物濃度分析用の試料とし、分析を行った。
【0035】
バルク金属不純物濃度の分析にはICP−MSを使用した。ICP−MS測定の結果から、Fe以外のキャリア再結合中心密度の値に対応した、バルク金属不純物濃度(Ti、Nb、Mo、W)を算出し、Fe以外のキャリア再結合中心密度とバルク金属不純物濃度との相関関係を得た(図2〜図5)。
【0036】
評価対象のシリコンウェーハを準備し、SPV法によりFe以外のキャリア再結合中心密度を測定した。そして、上記得られた相関関係を基に、評価対象のP型ポリッシュドシリコンウェーハのバルク金属不純物濃度を評価することができた。
【0037】
(実施例2)
実施例2として、評価の手順は実施例1と同様にして、直径200mm、P型エピタキシャル層/P型基板ウェーハでの評価を行った。
ICP−MS測定の結果から、Fe以外のキャリア再結合中心密度の値に対応した、バルク金属不純物濃度を算出し、Fe以外のキャリア再結合中心密度とバルク金属不純物濃度(Ti、Nb、Mo、W)との相関関係を得た(図6〜図9)。
そして、この得られた相関関係を基にして、評価対象のP型エピタキシャル層/P型基板ウェーハのバルク金属不純物濃度を評価することができた。
【0038】
このように、本発明では、モニター用のP型シリコンウェーハから得られた相関関係を利用することにより、同一条件で製造されたシリコンウェーハであれば、SPV測定と化学分析により得られた結果を基に、SPV法においてFe以外のキャリア再結合中心密度を非破壊で測定することで、P型シリコンウェーハのバルク金属不純物濃度を評価・測定することが可能となる。
【0039】
尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
P型シリコンウェーハの金属不純物濃度評価方法であって、
(A)P型モニター用シリコンウェーハを用いてFe以外のキャリア再結合中心密度とバルク金属不純物濃度との相関関係を決定するステップと、
(B)SPV法により評価対象のP型シリコンウェーハのFe以外のキャリア再結合中心密度を測定するステップと、
(C)前記ステップ(B)において測定したFe以外のキャリア再結合中心密度と、前記ステップ(A)において予め決定された相関関係とに基づき、前記評価対象のP型シリコンウェーハのバルク金属不純物濃度を算出するステップと
を有することを特徴とするP型シリコンウェーハの金属不純物濃度評価方法。
【請求項2】
前記ステップ(A)におけるバルク金属不純物濃度の測定方法として、密閉容器内でフッ酸+硝酸の蒸気と前記P型モニター用シリコンウェーハの小片とを反応させ、該シリコンウェーハ小片を分解し、分解残渣中の金属不純物濃度を測定することを特徴とする請求項1に記載のP型シリコンウェーハの金属不純物濃度評価方法。
【請求項3】
前記金属不純物濃度として、チタン、ニオブ、モリブデン、及びタングステンのうちの少なくとも1つの濃度を評価することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のP型シリコンウェーハの金属不純物濃度評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−174706(P2012−174706A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31900(P2011−31900)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】