説明

P.gingivalis抗原組成物

【課題】歯周病に関連した口内細菌ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.gingivalis)感染症を診断、治療および予防するための方法の提供。
【解決手段】ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalisもしくはP.gingivalis)の組換えタンパク質であるr-RgpA44およびr-Kgp39からなる抗原組成物および抗原組成物に対して産生された少なくとも1つの抗体を含む抗体組成物。これらの組換えタンパク質および誘導体に基づいてP.gingivalisに関連する歯周病を検出、予防および治療するために用いる製薬組成物ならびに関連する作用薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病に関連した口内細菌ポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalisもしくはP.gingivalis)病原体の影響を抑制するための、組換えタンパク質および抗体に基づく経口組成物および抗原組成物を提供する。本発明はまた、歯肉下プラークサンプル中のP.gingivalisおよび血清中の特異的抗P.gingivalis抗体の存在についての診断試験も提供する。それに関連して、組換えDNA技術を利用するr-RgpA44およびr-Kgp39ならびにそれらの誘導体を調製する方法も開示する。また、組換えタンパク質を発現する能力のある、組換えベクターを用いて形質転換した宿主細胞も開示する。組換えタンパク質は、能動免疫用のワクチン製剤において免疫原として有用であるし、また受動免疫用におよび試薬として診断アッセイ用に有用なタンパク質特異的抗血清を作製するために利用することができる。
【背景技術】
【0002】
本発明は、一般的にポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas gingivalisもしくはP.gingivalis)の組換えタンパク質であるr-RgpA44およびr-Kgp39に関する。本発明はまた、これらの組換えタンパク質および誘導体に基づいてP.gingivalisに関連する歯周病を検出、予防および治療するために用いる製薬組成物ならびに関連する作用薬にも関する。
【0003】
歯周病は細菌に関連する歯の支持組織の炎症疾患であり、比較的穏やかな形態の歯肉炎である非特定的かつ可逆的な歯肉組織の炎症から、歯支持構造の破壊により特徴づけられるもっと攻撃的な形態の歯周病まである。歯周病は歯根膜の破壊に導く特定のグラム陰性菌のコンソーシアムの歯肉下感染に関連し、重要な公衆衛生問題である。大きな関心を呼んでいる1つの細菌はP.gingivalisであり、その理由は、この微生物の成人歯周病病変部からの回収は歯肉下の嫌気性培養可能なフローラの50%にまで達しうるが、P.gingivalisは健康部位からは稀にしかも少数しか回収されないからである。歯肉下プラーク中のP.gingivalisレベルは歯周病の重症度の増加に関連して比例的に増加し、この疾患が回復すると培養可能な歯肉下微生物集団からの該微生物は根絶される。P.gingivalisの歯肉下移植による、非ヒト霊長類の歯周病病変の進行が実証されている。動物およびヒトの両方に対するこれらの知見は、成人の歯周病発達におけるP.gingivalisの重要な役割を示唆する。
【0004】
さらに最近、歯周病と循環器病との連鎖、従ってP.gingivalis感染症と循環器病との間の連鎖が増加している。この連鎖に関するさらなる情報は、Beck JDら, Ann Periodontol 3:127-141, 1998およびBeck J,ら, J. Periodontol. 67:1123-37, 1996に見られる。
【0005】
P.gingivalisはその細胞表面上に、ワクチンまたは診断を開発するための候補薬となりうる一連のタンパク質を発現する。P.gingivalisにより発現される細胞表面タンパク質の主なグループは、プロテイナーゼおよび関連する付着性因子(adhesin)のグループである。Arg-gingipainと名付けられた1つのプロテイナーゼがTravisら(PCT特許番号WO 95/07286)により先に開示されている。この研究者らはまた、WO 95/07286にも開示された遺伝子rgpによりコードされるArg-gingipainの高分子量型を報じている。Arg-gingipainの高分子量型は、プロテイナーゼと複数の他タンパク質からなり、他タンパク質は付着因子(adhesin)であると提案している。Arg-およびLys-特異的プロテイナーゼならびに付着因子からなるP.gingivalisの細胞表面複合体はまた、Reynoldsら(PCT/AU96/00673)によっても開示されている。これらの開示はいずれも、組換え体としての特定付着因子の、P.gingivalis感染症の保護における効用に関する教示を提供していない。
【発明の概要】
【0006】
第1の態様においては、本発明は抗原組成物であって、該組成物は少なくとも1つの組換えタンパク質を含んでなり、該組換えタンパク質は少なくとも1つのエピトープを含んでなり、該エピトープは抗体と反応性があり、該抗体は配列番号3または配列番号5に記述した配列を有するポリペプチドと反応性がある、前記抗原組成物である。
【0007】
さらなる好ましい実施形態においては、本発明の抗原組成物は、配列番号3、配列番号3の残基1-184、配列番号3の残基1-290、配列番号3の残基65-184、配列番号3の残基65-290、配列番号3の残基65-419、配列番号3の残基192-290、配列番号3の残基192-419、配列番号3の残基147-419、配列番号5および配列番号6からなる群から選択される配列を有する組換えタンパク質を含んでなる。
【0008】
配列番号3と配列番号5を比較すると認められるように、これらのポリペプチドはそれらの配列のある実質的な部分の全てにわたって同一である。
【0009】
他の好ましい実施形態においては、本発明の抗原組成物はさらにアジュバントを含んでなる。
【0010】
さらに他の好ましい実施形態においては、本発明の組換えタンパク質はキメラまたは融合タンパク質である。組換えタンパク質がキメラまたは融合タンパク質である場合、タンパク質は配列番号3、配列番号3の残基1-184、配列番号3の残基1-290、配列番号3の残基65-184、配列番号3の残基65-290、配列番号3の残基65-419、配列番号3の残基192-290、配列番号3の残基192-419、配列番号3の残基147-419、配列番号5および配列番号6からなる群から選択される配列を含むことが好ましい。そのようなキメラまたは融合タンパク質の一例を配列番号4に記述する。
【0011】
第2の態様においては、本発明は、本発明の第1の態様の抗原組成物に対して産生される抗体を少なくとも1つ含んでなる組成物である。
【0012】
第3の態様においては、本発明は組換え原核生物または真核生物細胞であって、配列番号1、配列番号1のヌクレオチド1-1257、配列番号1のヌクレオチド1-552、配列番号1のヌクレオチド1-870、配列番号1のヌクレオチド193-552、配列番号1のヌクレオチド193-870、配列番号1のヌクレオチド193-1257、配列番号1のヌクレオチド574-870、配列番号1のヌクレオチド574-1257、配列番号1のヌクレオチド439-1257、配列番号7、配列番号8およびそれらとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からなる群から選択され少なくとも1つの調節エレメントと機能しうる形で連結されたDNA配列を含んでなる、前記組換え細胞である。
【0013】
本明細書に使用されるストリンジェントな条件は次の通りである;(1)低イオン強度および高温を洗浄に用い、例えば、0.015 M NaCl/0.0015 M クエン酸ナトリウム/0.1% NaDodSO4、50℃;(2)ハイブリダイゼーションにおいては、ホルムアミドなどの変性剤を用い、例えば0.1%ウシ血清アルブミンを含む50%(vol/vol)ホルムアミド、0.1%フィコール、0.1%ポリビニルピロリドン、750mM NaCl を含む50mMリン酸ナトリウムバッファー、pH 6.5、75mMクエン酸ナトリウム、42℃、;または(3)50%ホルムアミドを用い、5 x SSC(0.75M NaCl、0.075M クエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH 6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5 x デンハルト(Denhardt's)液、音波処理済みサケ精子DNA(50g/ml)、0.1% SDSおよび10%硫酸デキストラン、42℃、0.2 x SSC中でおよび0.1% SDS。
【0014】
さらなる態様においては、本発明は、被験者におけるP.gingivalis感染症の発生数または重症度を予防または軽減する方法であって、被験者に本発明の第1の態様の抗原組成物を投与することを含んでなる前記方法である。
【0015】
歯周病と循環器病(CVD)との連鎖が高く、従ってP.gingivalis感染症とCVDとの連鎖がありうるので、本発明の第1の態様の抗原組成物はまた、CVDの発生数または重症度を軽減する予防治療にまたはCVDを治療する補助剤としても使用しうる。
【0016】
本発明の1つの重要な形態は、r-RgpA44および/もしくはr-Kgp39タンパク質またはペプチドおよび適当なアジュバントに基づくワクチンであって、鼻スプレー、経口または注射により送達してr-RgpA44および/もしくはr-Kgp39タンパク質に対する特異的免疫応答を産生させる前記ワクチンである。ワクチンはまた、適当なベクター中に組込んだRgpA44および/もしくはKgp39遺伝子セグメントの組換え成分に基づき、ベクターを含有する適当な形質転換された宿主(例えば大腸菌(E.coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、COS細胞、CHO細胞、およびHeLa細胞)内で発現させてもよい。RgpA44および/もしくはKgp39タンパク質由来の免疫原性エピトープをもつ成分タンパク質、ペプチド、およびオリゴペプチドは、歯周病の予防における様々なワクチン製剤の免疫原として利用することができる。さらに、本発明によれば、産生したRgpA44および/もしくはKgp39タンパク質ならびに関連するペプチドまたはキメラを使用して、歯周病およびP.gingivalisが原因である感染症に対する受動免疫感作に有用なP.gingivalis抗血清を作製することができる。
【0017】
本発明の一実施形態においては、組換えDNA技術を用いて、RgpA44および/もしくはKgp39をコードする遺伝子セグメント、または免疫原性エピトープを有する1以上のペプチドもしくはキメラをコードする遺伝子断片を発現ベクター中に組込み、その組換えベクターを適当な宿主細胞中に導入し、それにより特定の宿主細胞におけるこれらの配列を発現させる。発現系は、宿主細胞中に導入された組換えベクターを含んでなり、それを用いて、(a)r-RgpA44および/もしくはr-Kgp39タンパク質、関連するペプチド、オリゴペプチドまたはキメラを産生し、精製してワクチン製剤の免疫原として利用すること;(b)RgpA44および/もしくはKgp39タンパク質、関連するペプチド、オリゴペプチドまたはキメラを産生し、診断イムノアッセイ用の抗原としてまたは治療および/もしくは診断用に価値のあるP.gingivalis特異的抗血清を作製するために利用すること;(c)またはもし組換え発現ベクターがワクシニアウイルスなどの生ウイルスであれば、ベクター自身を生もしくは不活性化ワクチン調製物として使用し、宿主細胞中に導入してRgpA44および/もしくはKgp39または免疫原性ペプチドまたはオリゴペプチドまたはキメラペプチドを発現させること;(d)生弱毒細菌細胞または遺伝子工学的に操作した共生口内細菌中へ導入し、これらを使用してRgpA44および/もしくはKgp39タンパク質、関連するペプチドまたはオリゴペプチドまたはキメラを発現させて個体をワクチン接種すること;または、(e)個体中に直接導入し、コードされかつ発現されたRgpA44タンパク質、関連するペプチドまたはオリゴペプチドまたはキメラに対して免疫感作することができる。特に、組換え細菌ワクチンはヒト口腔の、または、ワクチンが動物の歯周病予防用であれば、動物の共生生息菌に基づくものであってもよい。P.gingivalisのRgpA44および/もしくはKgp39を発現する組換え細菌ワクチンを使って口腔、歯肉上または歯肉下プラークにコロニーを形成させることができる。口内細菌を歯周病の患者から単離し、遺伝子工学的に操作してr-RgpA44および/もしくはr-Kgp39、成分、ペプチドまたはキメラを発現させてもよい。r-RgpA44および/もしくはr-Kgp39タンパク質は、粘膜に関連するリンパ組織(MALT)を刺激してP.gingivalisに対する特異的抗体を産生する。
【0018】
RgpA44および/もしくはKgp39タンパク質、ペプチド、オリゴペプチド、キメラペプチドならびにエピトープを含有する構築物は、P.gingivalisの病原株に対する予防および/または治療ワクチンの免疫原として利用してもよく、この免疫原は化学的に合成しても、P.gingivalisから精製しても、または組替え発現ベクター系から精製してもよい。あるいは、RgpA44および/もしくはKgp39をコードする遺伝子セグメントまたはペプチドもしくはオリゴペプチドもしくはキメラペプチドをコードする1以上の遺伝子断片を細菌もしくはウイルスのワクチン中に組込み、前記ワクチンが1以上のRgpA44および/もしくはKgp39の特異的免疫原性エピトープを、または他の病原性微生物の免疫原性エピトープと一緒に産生するように遺伝子操作された組換え細菌もしくはウイルスを含有してもよい。さらに、1以上の調節エレメントと機能しうる形で連結された、RgpA44および/もしくはKgp39をコードする遺伝子またはRgpA44および/もしくはKgp39ペプチドもしくはオリゴペプチドもしくはキメラペプチドをコードする1以上の遺伝子断片を、直接ヒトに導入し、RgpA44および/もしくはKgp39に関係するタンパク質、ペプチド、オリゴペプチドもしくはキメラペプチドを発現させて保護免疫応答を誘発してもよい。ワクチンはまた、適当なベクター中に組込んだ正常または突然変異RgpA44および/もしくはKgp39の組換え成分に基づいて、そのベクターを含有する適当な形質転換宿主(例えば大腸菌(E.coli)、枯草菌(Bacillus subtilis)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、COS細胞、CHO細胞、およびHeLa細胞)に発現させてもよい。ワクチンは、P.gingivalisのRgpA44および/もしくはKgp39を発現する組換え細菌が口腔の共生生息菌であることを特徴とする、口内組換え細菌ワクチンに基づいてもよい。
【0019】
他の態様においては、本発明は、組換えタンパク質をコードするヌクレオチド配列および前記ヌクレオチド配列の機能的同一物および前記ヌクレオチド配列に対する核酸プローブを提供する。
【0020】
本発明はまた、その範囲内に上記のヌクレオチドおよびキメラ組換えポリペプチドを含む組換え産物の様々な応用および利用も包含する。特に、本発明は、本明細書においてそれぞれ抗r-RgpA44抗体および抗r-Kgp39抗体と呼ぶ、r-RgpA44またはr-Kgp39に対して産生される抗体;ならびにそのポリペプチド、オリゴペプチドおよびキメラペプチドに対する抗体を提供する。抗体はポリクローナルであってもモノクローナルであってもよい。抗体を、歯磨ペースト、口洗浄液、歯磨粉および液状歯磨剤、口洗浄液、トローチ、チューインガム、歯磨ペースト、歯肉マッサージクリーム、うがい錠、乳製品ならびに他の食料品などの経口組成物にブレンドしてもよい。組換えポリペプチド、オリゴペプチドおよびキメラポリペプチドはまた、予防および/または治療ワクチン製剤に利用することもできる。
【0021】
他の態様においては、本発明は、本明細書に定義された抗体、抗原または核酸プローブの1以上の組合せの使用により特徴づけられるP.gingivalisの存在を診断する方法を提供し、例えば、固相酵素免疫検定法(ELISA)を含む公知の技術の応用を含んでなる。
【0022】
本発明はまた、本明細書にこれまで定義した抗体、抗原および/または核酸プローブを含んでなる診断キットも提供する。
【0023】
本発明はまた、P.gingivalis感染症を患う患者を治療する方法であって、本明細書にこれまで定義したワクチンによる前記患者の能動ワクチン接種および/または本明細書にこれまで定義した抗体による前記患者の受動ワクチン接種を含んでなる前記方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は実施例1の結果を示す。
【図2】図2は、マウス膿瘍モデルにおける、全長組換え44kDタンパク質、44kDタンパク質の2断片(断片4;残基65-290および断片6;残基192-290)、対照組換えタンパク質R2およびホルマリン死滅全P.gingivalis(FK-33277)の結果を示す。
【図3】図3は、以下と反応させたP.gingivalis細胞のフローサイトメトリー分析を示す:(A)PBS/FA、(B)正常マウス血清、(C)P.gingivalis全細胞抗血清、(D)組換えPg44抗血清、(E)断片4抗血清(r-44kDa残基、65-290)、(F)断片6抗血清(r-44kDa残基、192-290)、(G)キメラr-44-Pg33タンパク質抗血清。
【図4】図4はRgpA-Kgp特異的抗血清と組換えタンパク質との結合を示す。組換えタンパク質を5μg/mlにてコートし、抗RgpA-Kgp特異的抗血清をプローブとして用いて:組換えKgp39タンパク質(-◆-)、組換えKgp39断片(-▲-)、RgpA-Kgp複合体(-●-)、および対照(-X-)。結合した抗体をヤギ抗ウサギHRPの1:4000希釈物を用いて検出し、ELISAプレートをLabsystems iEMSマイクロプレートリーダーを用いて415nmにて読み取った。
【図5】図5は組換えKgp39タンパク質と様々なマトリックスタンパク質との結合を示す。マトリックスタンパク質を5μg/mlにてコートし、組換えタンパク質をプローブとして用いて、次いで抗RgpA-Kgp複合体特異的抗血清をプローブとして用いた:コラーゲンV型(-◆-)、フィブリノーゲン(-■-)、ヘモグロビン(-▲-)、および対照(-X-)。結合した抗体をヤギ抗ウサギHRPコンジュゲートの1:4000希釈物を用いて検出し、ELISAプレートをLabsystems iEMSリーダーを用いて415nmにて読み取った。
【図6】図6は組換えKgp39タンパク質断片と様々なマトリックスタンパク質との結合を示す。マトリックスタンパク質を5μg/mlにてコートし、組換えタンパク質をプローブとして用いて、次いで抗RgpA-Kgp複合体特異的抗血清をプローブとして用いた:コラーゲンV型(-◆-)、フィブリノーゲン(-■-)、ヘモグロビン(-▲-)、および対照(-X-)。結合した抗体をヤギ抗ウサギHRPコンジュゲートの1:4000希釈物を用いて検出し、ELISAプレートをLabsystems iEMSリーダーを用いて415nmにて読み取った。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の性質がさらに明白に理解されるように、本発明の好ましい形態を、以下の実施例を参照して説明する。
【0026】
口内細菌ポルフィロモナス・ジンジバリスはその表面上に、遺伝子rgpAおよびkgpによりコードされるプロテイナーゼ付着因子複合体を含有する。このプロテイナーゼ付着因子複合体の組換え44kDa付着因子(r-RgpA44)は、マウス膿瘍モデルにおいてP.gingivalis抗原投与に対して保護するが、rgpA遺伝子由来の他の組換えタンパク質は保護しない。44kDa付着因子ドメインRgpA44またはKgp39をコードする遺伝子発現セグメントを適当な発現系中にクローニングして、組換えタンパク質r-RgpA44またはr-Kgp39を産生させることができる。次に、精製したr-RgpA44またはr-Kgp39タンパク質を使って標準技術を用いて抗体を作製することができる。抗体作製に利用する動物は、ウサギ、ヤギ、ニワトリ、ヒツジ、ウマ、ウシなどであってもよい。イムノアッセイによりr-RgpA44またはr-Kgp39タンパク質に対する高い抗体力価が検出されると、動物から採血するかまたは卵もしくは乳を採集し、標準技術を用いて血清を調製しおよび/または抗体を精製するか、または標準技術を用いて脾細胞と骨髄腫細胞とを融合することによりモノクローナル抗体を産生する。抗体(免疫グロブリン画分)は、培養物または腹水、血清、乳または卵から塩析、ゲル濾過、イオン交換および/またはアフィニティクロマトグラフィなどにより分離することができ、塩析が好ましい。塩析法では、抗血清もしくは乳を硫酸アンモニウムにより飽和して沈澱物を作り、次いで沈澱物を生理食塩水に対し透析して特異的抗r-RgpA44もしくは抗r-Kgp39抗体を含む精製免疫グロブリン画分を得られる。好ましい抗体はウマの抗血清ならびにウシの抗血清および乳から得る。本発明においては、r-RgpA44もしくはr-Kgp39のタンパク質又はペプチドを用いて動物を免疫感作することによって得た抗血清および乳に含有される抗体を経口組成物中にブレンドする。この場合、抗血清および乳、ならびに抗血清および乳から分離し精製した抗体を使用することができる。これらの物質はそれぞれ単独でまたは2以上を組み合わせて使用してもよい。r-RgpA44もしくはr-Kgp39に対する抗体を、歯磨ペーストおよび洗口液などの経口組成物に利用してもよい。抗r-RgpA44もしくは抗r-Kgp39抗体はまた、歯肉下プラークサンプル中のP.gingivalisを早期検出するため、手元の固相酵素免疫検定法(ELISA)により使用してもよい。
【0027】
経口組成物としては、投与される上記抗体の量は0.0001-50g/kg/dayであり、上記抗体の含量は組成物の0.0002-10重量%、好ましくは0.002-5重量%であることが好ましい。上記の血清または乳抗体を含有する本発明の経口組成物は、歯磨ペースト、歯磨粉および液状歯磨剤を含む歯磨剤、洗口液、トローチ、歯周ポケット洗浄デバイス、チューインガム、歯科用ペースト、歯肉マッサージクリーム、うがい錠、乳製品ならびに他の食料品などの口に入れるのに適した様々な形態に調製して使うことができる。本発明による経口組成物はさらに、特定の経口組成物のタイプと形態に応じて、追加の周知の成分を含んでもよい。
【0028】
本発明のある特定の特に好ましい形態では、経口組成物は洗口液またはリンス液のように実質的に性状が液体であってよい。このような調製物では、ビヒクルは典型的には水-アルコール混合物であり、望ましくは以下に記載の湿潤剤(humectant)を含む。一般的に、水対アルコールの重量比は約1:1〜約20:1の範囲にある。このタイプの調製物中の水-アルコール混合物の総量は典型的には調製物の約70〜約99.9重量%の範囲にある。アルコールは典型的にはエタノールまたはイソプロパノールである。エタノールが好ましい。
【0029】
本発明のこのような液および他の調製物のpHは一般的に約4.5〜約9の範囲であり、典型的には約5.5〜8である。pHは好ましくは約6〜約8.0の範囲にあり、好ましくは7.4である。pHは酸(例えば、クエン酸または安息香酸)もしくは塩基(例えば水酸化ナトリウム)を用いて調節するか、または緩衝化(クエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、もしくは重炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなど)することができる。
【0030】
本発明の他の望ましい形態である経口組成物は、歯磨粉、歯科錠または歯磨ペースト(歯科クリーム)もしくはゲル歯磨剤である歯磨剤のような実質的に固体またはペーストの性状であってもよい。このような固体またはペーストの経口調製物は一般的に歯科用に許容しうる研磨材を含有する。研磨材の例は、水不溶メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、リン酸三カルシウム、二水和リン酸カルシウム、無水リン酸二カルシウム、ピロリン酸カルシウム、オルトリン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、炭酸カルシウム、水和アルミナ、か焼アルミナ、珪酸アルミニウム、珪酸ジルコニウム、シリカ、ベントナイト、およびこれらの混合物である。他の適当な研磨材は、メラミンホルムアルデヒド、フェノールホルムアルデヒド、および尿素-ホルムアルデヒドなどの特定の熱硬化性樹脂、ならびに架橋ポリエポキシドおよびポリエステルが挙げられる。好ましい研磨材は、約5ミクロン以下の粒径、約1.1ミクロン以下の平均粒径、および約50,000cm2/g以下の表面積を有する結晶シリカ、シリカゲルもしくはコロイダルシリカ、および複合無定形アルカリ金属アルミノ珪酸塩が挙げられる。
【0031】
視覚的に透明なゲルを用いる場合、Syloid 72およびSyloid 74などの登録商標SYLOID、またはSantocel 100などの登録商標SANTOCELで販売されるコロイドシリカ、アルカリ金属アルミノ珪酸塩複合体の研磨剤は、通常の歯磨剤に使われるゲル化剤-液系(水および/または湿潤剤を含む)の屈折率に近い屈折率を有するので、特に有用である。
【0032】
いわゆる「水不溶」研磨材の多くは性状が陰イオン性であり、小量の可溶物質も含む。そして、不溶メタリン酸ナトリウムは「ソープ(Thorpe)の応用化学辞書(Thorpe's Dictionary of Applied Chemistry)」, [Volume 9, 4th Edition, pp.510-511]に説明されたいずれかの適当な方法で作ることができる。マドレル(Madrell)の塩およびクロール(Kurrol)の塩として知られる不溶メタリン酸ナトリウムの形態は適当な材料のさらなる例である。これらのメタリン酸塩は水中で僅かな溶解度しか示さず、従って通常不溶メタリン酸塩(IMP)と呼ばれている。これらには小量の可溶リン酸塩材料が不純物として通常4重量%以下の数パーセントで存在する。不溶メタリン酸塩の場合には、可溶性三メタリン酸ナトリウムを含有すると考えられる可溶性リン酸塩材料の量は、もし所望であれば水洗により低減または消去することができる。不溶アルカリ金属メタリン酸塩は、典型的には、37ミクロンより大きい材料が1%を越えない粒子サイズの粉末形状で使用される。
【0033】
研磨材は一般的に固体またはペースト状組成物中に約10%〜約99%の重量濃度で存在する。好ましくは、研磨材は歯磨ペースト中には約10%〜約75%、そして歯磨粉中には約70%〜約99%の量で存在する。歯磨ペーストでは、研磨材が珪酸質であれば、一般的に約10-30重量%で存在する。他の研磨材は典型的には約30-75重量%で存在する。
【0034】
歯磨ペーストでは、液ビヒクルは、水および湿潤剤を典型的には調製物の約10%〜約80重量%の範囲の量で含有する。グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトールおよびポリプロピレングリコールが適当な湿潤剤/担体の例である。また、水、グリセリンおよびソルビトールの液混合物も有利である。屈折率の考慮が重要である透明ゲルにおいては、約2.5-30%w/wの水、0-約70%w/wのグリセリンおよび約20-80%w/wのソルビトールを使用するのが好ましい。
【0035】
歯磨ペースト、クリームおよびゲルは、典型的には天然または合成の増粘剤またはゲル化剤を、約0.1〜約10、好ましくは約0.5〜約5%w/wの比率で含有する。適当な増粘剤は合成ヘクトライト、すなわち合成コロイド状マグネシウムアルカリ金属珪酸塩複合体粘土であり、これは例えばラポナイト社(Laponite Industries Limited)から市販されるLaponite(例えば、CP、SP 2002、D)として入手可能である。ラポナイト Dの組成は、近似的に重量で58.00% SiO2、25.40% MgO、3.05% Na2O、0.98% Li2O、ならびに若干の水および微量金属である。その真比重は2.53であり、8%湿分にて見かけ嵩密度1.0g/mlを有する。
【0036】
他の適当な増粘剤としては、アイリッシュ・モス(Irish moss)、イオタ・カラギーナン(iota carrageenan)、トラガカントガム、デンプン、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(例えばNatrosolとして市販される)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、およびこまかく粉砕されたサイロイド(Syloid)(例えば、244)などのコロイド状珪酸が挙げられる。また可溶化剤は、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびヘキシレングリコールなどの湿潤剤ポリオール、メチルセロソルブおよびエチルセロソルブなどのセロソルブ、オリーブ油、ヒマシ油およびワセリンなどの少なくとも約12個の炭素を直鎖に含有する植物油およびワックス、ならびに酢酸アミル、酢酸エチル、安息香酸ベンジルなどのエステルを含んでもよい。
【0037】
通常そうであるように、経口調製物は適当なラベルを付した包装で販売されるかさもなくば流通されることは理解されるであろう。従って、口リンスの壜は、内容物が口リンスまたは洗口液であることを記載するラベルが付いて、その使用に関する指示書を有するであろう;そして歯磨ペースト、クリームまたはゲルは、通常、押出しチューブ、典型的にはアルミニウム、ライニングした鉛もしくはプラスチック、または他の内容物を計り出す押出器、ポンプもしくは加圧ディスペンサーに入っていて、歯磨ペースト、ゲルもしくは歯科用クリームのような物質を記載するラベルが付いている。
【0038】
有機界面活性剤を本発明の組成物に使用して、予防作用を増強し、口腔全体に活性薬の十分で完全な分散の達成を助け、本発明の組成物をさらに化粧用として(cosmetically)許容され得るものにする。有機界面活性物質は、好ましくは陰イオン性、非イオン性、または両性電解質であって本発明の抗体を変性しない性質であり、そして、界面活性剤として、抗体を変性することなく洗浄および発泡物性を組成物に付与する洗浄材料を使用することが好ましい。陰イオン性界面活性剤の適当な例は、水素化ココナッツオイル脂肪酸のモノ硫酸エステル化モノグリセライドのナトリウム塩などの高級脂肪酸モノグリセライドモノ硫酸エステルの水溶性塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどの高級アルキル硫酸塩、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩、高級アルキルスルホ酢酸エステル、1,2-ジヒドロキシプロパンスルホン酸の高級脂肪酸エステル、および低級脂肪族アミノカルボン酸化合物の実質的に飽和した高級脂肪族アシルアミド(例えば脂肪酸、アルキルもしくはアシル基に12〜16個の炭素を有する)、その他である。最後に記述したアミドの例は、N-ラウロイルサルコシン、およびN-ラウロイル、N-ミリストイル、またはN-パルミトイルサルコシンのナトリウム、カリウム、およびエタノールアミン塩であり、実質的に石鹸または同様な高級脂肪酸物質を含有しない。本発明の経口組成物におけるこれらのサルコナイト化合物の使用は、これらの物質が、炭水化物分解による口腔内の酸形成阻害に持続性の顕著な効果をあらわすのに加えて、酸性溶液中の歯エナメル質の溶解度低下に作用するので特に有利である。抗体との使用に適当な水溶性非イオン界面活性剤の例は、エチレンオキサイドと各種反応性水素を含有し長い疎水鎖(例えば、約12〜20個の炭素原子の脂肪族鎖)を有することにより反応性がある化合物との縮合生成物であって、その縮合生成物(「エトキサマー(ethoxamer)」)は、ポリ(エチレンオキサイド)と脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミド、ポリヒドリックアルコール(例えば、ソルビタンモノステアレート)およびポリプロピレンオキサイド(例えばプルロニック剤(Pluronic materials))との縮合生成物のような親水性ポリオキシエチレン部分を含有する。
【0039】
界面活性剤は、典型的には、約0.1-5重量%の量で存在する。注目すべきは、界面活性剤は本発明の抗体の溶解を助け、それにより必要な可溶化湿潤剤の量を削減できることである。
【0040】
本発明の経口調製物には、増白剤、保存剤、シリコーン、クロロフィル化合物および/または尿素、リン酸二アンモニウムのようなアンモニア化物、ならびにそれらの混合物のような様々な他の材料を混合することができる。これらのアジュバントは、存在する場合には、所望の物性および特性に実質的に悪影響をあたえない量で調製物に混合する。
【0041】
適当な風味剤または甘味剤を使用してもよい。適当な風味剤成分の例は、着香りオイル、例えば、スパーミント(spermint)、ペパーミント(peppermint)、ヒメコウジ(wintergreen)、ササフラス(sssafras)、チョウジ(clove)、セージ(sage)、ユーカリノキ(eucalyptus)、マヨラナ(marjoram)、シナモン、レモン、およびオレンジ、ならびにサリチル酸メチルのオイルである。適当な甘味剤は、ショ糖、ラクトース、マルトース、ソルビトール、キシリトール、サイクラミン酸ナトリウム、ペリラルチン(perillartine)、AMP(アスパルチルフェニルアラニン、メチルエステル)、サッカリン等が挙げられる。風味剤および甘味剤はそれぞれまたは一緒に調製物の約0.1%〜5%以上を含有するのが適当である。
【0042】
本発明の好ましい実施方法においては、本発明の組成物を含有する洗口液または歯磨剤などの本発明による経口組成物を、歯ぐきおよび歯に、例えば毎日または1日おきにまたは2日おきにまたは好ましくは毎日1〜3回のように規則的に、約4.5〜約9、一般的に約5.5〜約8、好ましくは約6〜8のpHで、少なくとも2週間から8週間またはそれ以上生涯にわたって応用するのが好ましい。
【0043】
本発明の組成物は、望ましくは通常の可塑剤または軟化剤、糖類または他の甘味剤またはグルコース、ソルビトール等と一緒に、トローチまたはチューインガムまたは他の製品に、例えば、暖かいガムベース中に攪拌するかまたはガムベースの外面をコーティングすることによって混合することができ、ガムベースの例としてはジェルトン(jelutong)、ゴムラテックス、ビニライト樹脂などが挙げられる。
【0044】
本発明の組成物としてはまた、歯周ポケット洗浄デバイス、コラーゲン、エラスチンもしくは合成スポンジ、膜または繊維などの標的を定めた送達ビヒクルが挙げられ、これらは歯周ポケット内に置かれるかまたはバリヤー膜として使われるかまたは歯根に直接塗布される。
【0045】
次の実施例は本発明の性質をさらに説明するものであるが、本発明はこれらに限定されないことは明らかである。本明細書および添付の請求の範囲において言及する全ての量および比率は、特に断りのない限り、重量による。
【実施例】
【0046】
実施例1
大腸菌(E.coli)における、P.gingivalisプロテイナーゼと付着因子ドメインRgpA45、RgpA44、RgpA27およびRgpA15のクローニングおよび発現、ならびにマウス膿瘍モデルにおける組換えタンパク質のワクチンとしての試験。
【0047】
【表1】

【0048】
遺伝子rgpAのプロテイナーゼと付着因子ドメインのそれぞれを、表1に掲げたプライマー、P.gingivalis W50ゲノムDNA、Elongase(登録商標)(Gibco BRI)DNAポリメラーゼ、およびPC-960サーマルサイクラー(Corbett Research Technologies)を用いて増幅した。PCRは、オリゴヌクレオチドプライマーを使用して、本質的にElongase指示プロトコルに記載の通り、次の条件を用いて実施した:変性(94℃、30秒)、アニーリング(50℃、45秒)、および伸長(70℃、1.5分間)の25サイクル。PCR産物は、製造業者のプロトコルに従って、PCR Spinclean(登録商標)(Progen)を使って精製し、プラスミドベクターpGEMT-easy(Promega)にライゲートし、コンピテント大腸菌JM109(Promega)を形質転換した。4種の組換え体の調製に対する全ての操作は同様であったので、RgpA44についてのみ詳細な方法を記載する。組換えプラスミドpGEMT-easy-RgpA44 DNAをNdeIおよびXhoIを用いて消化し、挿入DNAを遊離した。挿入DNAをアガロースゲル電気泳動により単離し(0.8%)、Qiafilterゲル抽出キット(Qiagen)を使って精製した。予めNdeIとXhoIを用いて消化しておき、Qiafilterで精製したプラスミド発現ベクターpET28a (Novagen)中に精製挿入DNAをライゲートし、このライゲーション産物により非発現宿主大腸菌JM109を形質転換した。次いで組換えpET28-RgpA44プラスミドにより大腸菌発現宿主HMS174(DE3)を形質転換し、50μgカナマイシンを含有するLB上で選択した。pET28aから発現されるr-RgpA44は、発現される組換えタンパク質のN末端と連結したヘキサヒスチジン・タグを含有する。IPTGを添加してr-RgpA44発現を誘導し、ニッケルアフィニティクロマトグラフィによって精製した。pET28-RgpA44の挿入断片の完全性をDNA配列分析により確認した。
【0049】
組換え大腸菌の発現
単一コロニー形質転換体を使って、50μg/mlカナマイシンを含有するルリア-ベルターニ(Luria-Bertani)ブロス10mlに吸光度(OD600)1.0まで37℃にて接種した。次いでこの種菌を用いてテリフィック(Terrific)ブロス(リン酸カリウムおよび50μg/mlカナマイシンを含有する)500mlに接種した。この培養物のOD600が2.0に達した後、0.1mM IPTGを用いて誘導した。37℃にて4.5時間の誘導期間後に、4000rpmで20分間、4℃にて遠心分離して培養物を回収し、ペレットを-70℃で貯蔵して封入体の抽出に備えた。
【0050】
封入体の単離と可溶化
細菌ペレットを氷上にて解凍し、結合バッファー(5mMイミダゾール、500nM NaCl、20mM Tris-HCl、pH7.9)に再懸濁し、次いで音波処理し、20,000 x gにて遠心分離して封入体を回収した。ペレットを結合バッファー中に再懸濁し、音波処理および遠心分離のプロセスを2回以上繰り返してタンパク質をさらに遊離させた。次いで、ペレットを6M 尿素を含有する結合バッファー中に再懸濁し、氷上で2〜3時間インキュベートし、攪拌してタンパク質を完全に溶解した。残留する不溶物質は39,000 x gで20分間遠心分離して除去した。上清を0.45μm膜を通して濾過した後、カラムで精製した。
【0051】
ニッケル-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)精製と可溶化封入物のリフォールディング
Ni-NTA金属アフィニティクロマトグラフィを使用し、H6タグを介して組換えタンパク質を精製した。簡単に説明すると、タンパク質を平衡化Ni-NTA樹脂(Qiagen)にバッチで結合させ、これを小カラム中に流し込み、そして非結合タンパク質を重力で溶出させた。次に、カラムを10容積の結合バッファー、続いて5カラム容積の洗浄バッファー(60mM イミダゾール、500mM NaCl、20mM Tris-HCl、6M 尿素、pH 7.9)を用いて洗浄した。次いで結合したタンパク質を、1M イミダゾール、500mM NaCl、20mM Tris-HCl、6M 尿素、pH 7. 9を含有するバッファーで溶出した。
【0052】
組換えタンパク質の再生
NI-NTA樹脂から溶出した画分をプールして、バッファー(0.5M Tris-HCl、50mM NaClおよび8% グリセロール)の尿素含量を6Mから3M、1.5M、0Mへと段階的に変える透析によってリフォールディングした。
【0053】
ポリアクリルアミドゲル電気泳動とウェスタンブロット
SDS-PAGEをLaemmliによる記載のように実施した。サンプルを等容積の2 x サンプル還元バッファーと混合し、10分間95℃にて煮沸し、Tris-グリシン12%ゲル(Novex)上を泳動させた。分子量標準(SeeBlueTM)もNovexから購入した。ウェスタンブロットは、タンパク質をニトロセルロース上に1時間、100ボルトで電気ブロットして調製した。膜を1%カゼイン溶液を用いてブロックした後、1/1000に希釈した一次抗体を用いてインキュベートし、洗浄し、そしてヤギ抗ウサギHRPコンジュゲート(KPL)を用いてインキュベートし、洗浄し、そしてTMB膜ペルオキシダーゼ基質(KPL)を用いて発色させた。
【0054】
抗血清
ポリクローナル抗血清は、BALB/cマウスに2 X 20μgの組換えタンパク質を含むフロイント(Freund's)不完全アジュバント(Sigma)を3週間隔てて投与することにより、精製組換えタンパク質に対して産生させた。2回目の投与後1週間にマウスから採血し、そして、産生した抗血清を使い、変性、還元条件下で泳動した全細胞P.gingivalis W50のウェスタンブロットをスクリーニングした。
【0055】
組換えタンパク質の純度を、MALDI-TOF質量分析計とN末端配列分析を使って確認した。
【0056】
マウス病変モデル
10匹の雌性BALB/cマウス(6〜8週齢)の各群に、組換えタンパク質r-RgpA45、r-RgpA44、r-RgpA27およびr-RgpAl5、ならびにホルマリン死滅P.gingivalis細胞および大腸菌(全て不完全フロイントアジュバント中に乳化した)を各々皮下注射して免疫感作した(20μg)。免疫感作は尾の基部に与え、P.gingivalisを用いて抗原投与する4週および1週前に行った。投与の2日前にマウスの球後神経叢(retrobulbar plexus)から採血した。BALB/cマウスの腹部にP.gingivalis 33277の7.5 x 109生細胞を皮下注射して投与した。投与後7日間にわたって、マウスの病変部の数とサイズを毎日試験した。マウス腹部に病変が発生し、mm2で表した最大病変サイズを図1に示した。病変サイズの有意な低下は、ホルマリン死滅全P.gingivalis細胞および組換え付着因子r-RgpA44を用いたワクチン接種についてのみ得られた。rgpA遺伝子由来の他の組換えタンパク質は病変サイズを有意に低下しなかった。
【0057】
この実施例は、P.gingivalis投与に対する保護において、r-RgpA44がRgpA由来の他の組換えタンパク質より優れることを実証する。
【0058】
実施例2
先の実施例において、組換え44kDa付着因子がマウス病変モデルにおいてP.gingivalisによる抗原投与から保護することを実証した。しかし、全長44kDa付着因子は、大腸菌で発現した場合、変性溶媒中でのみ可溶性である封入体であることがわかった。このタンパク質の溶解性を改善し、かつ組換えタンパク質の正しいフォールディングを増強する目的で、44kDa付着因子から一連の断片を作製した。44kDa付着因子組換えタンパク質の断片を構築するために使ったオリゴヌクレ
オチドプライマーを表2に示した。
【0059】
【表2】

【0060】
実施例1に記載したのと類似した方法を使い、44kDa付着因子の断片をpET24bプラスミド(Novagen)中にクローニングし、大腸菌(E.coli)BL21(DE3)株(Novagen)に発現させた。産生した可溶性r-44kDaタンパク質の発現レベルと量を様々な断片に対して評価した。この評価はIPTG誘導後に実施し、その際、組換え大腸菌(E.coli)細胞の培養物の細胞培養物1.5mlを遠心分離によりペレット化して結合バッファー150ulに再懸濁した。次いで細胞を、マイクロプローブ(Virosonicデジタル475超音波細胞破砕器(disruptor)、The Virtis Company, NY)を使い設定5にて10秒間、超音波処理した。3分間の遠心分離(10,000rpm)後に上清を回収し、可溶性画分とした。次いでペレットを洗浄し、結合バッファーに再懸濁し、これを不溶性画分とした。様々な画分の分析を、ウェスタンブロット分析とSDS-PAGEを使って実施した。これらの実験結果を表3に示す。r-44kDaタンパク質またはその断片の安定性はまた、全てまたは選択したシステイン残基のセリンもしくはアラニン残基への部位特異的突然変異誘発によってさらに増強することもできる。
【0061】
44kDa付着因子は6個のCys残基を含有し、これらの残基は酸化されるとジスルフィドを生成して不正確なフォールディングを生じ、恐らく不溶性タンパク質を生成するであろう。従って、r-44kDaタンパク質またはr-44kDaタンパク質の断片の安定性は、全てまたは選択したシステイン残基のセリンもしくはアラニン残基への部位特異的突然変異誘発によって増強することができる。
【0062】
【表3】

【0063】
図2は、実施例1に記載したマウス膿瘍モデルにおける、全長組換え44kDタンパク質、該44kDタンパク質の2つの断片(断片4;残基65〜290および断片6;残基192〜290)および対照組換えタンパク質R2の結果を示す。マウスに、実施例1のようにr-タンパク質20μgを3週間隔てて2回投与した。44kDタンパク質の全長と断片型の両方は、対照組換えタンパク質(R2)と比較して、統計的に有意な保護(p<0.05)を示した。ホルマリン死滅全ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.gingivalis)(FK-33277)はチャレンジから完全に保護した。
【0064】
実施例3
44kDa付着因子の断片を使うだけでなく、1以上の44kDa付着因子の断片を使い、他のP.gingivalisタンパク質由来の他のタンパク質またはタンパク質断片とのキメラタンパク質を構築することができる。配列番号2および4はそのようなキメラ組換えタンパク質の一例であって、44kDa付着因子の断片(断片6、残基192〜290)を、PG33(Genbank登録番号AF175715)由来の別のポルフィロモナス・ジンジバリスタンパク質断片である95残基C末端断片(残基286〜380)と連結して誘導したものである。このキメラタンパク質は、全体で全194残基を有する。
【0065】
この44kDaとPG33タンパク質由来の断片のキメラ組換え融合タンパク質は、PG33 C末端断片を実施例1に記載したようにPCRにより以下のプライマーを用いて増幅することによって生産した:
正:5' GGCCCATGGTCGACAATAGTGCAAAGATTGAT 3'
逆:5' CTATCCGGCCGCTTCCGCTGCAGTCATTACTACAA 3'
このPCR産物をpET24bのSalIとNotIの部位中にサブクローニングしてpET24b::PG33Cを作製した。次いで44kDa断片6のPCR産物(プライマーは実施例2を参照)をpET24b::PG33CプラスミドのEcoRIとSalI中にサブクローニングして44kDa/PG33の融合構築物、すなわちpET24b::PG44f6-PG33Cを作製した。このプラスミドを大腸菌(E.coli)BL21(DE3)株に形質転換して実施例1および2に概説したように発現研究を実施すると、高レベルのキメラ44kDa/PG33組換えタンパク質を得て、これを実施例2のように試験すると可溶性であった。
【0066】
実施例4
組換え44kDaもしくは組換え44kDaタンパク質断片に対して産生したマウス抗血清はパラホルムアルデヒドで固定した全ポルフィロモナス・ジンジバリス細胞と反応することで、免疫反応性エピトープが組換えタンパク質に保存されていることが示される。
【0067】
BALB/cマウスを、実施例1および2に記載した組換え全長44kDaタンパク質または組換え44kDaタンパク質断片を用いて免疫感作することによって、マウス抗血清を取得した。ポルフィロモナス・ジンジバリス(W50株)を、5μg/mlヘミンおよび1μg/mlビタミンKおよび0.5mg/mlシステインを補足した脳心注入ブロス(brain heart infusion broth)(Oxoid)中において嫌気性のもとで対数期まで増殖した。細胞を15分間、10,000rpm、4℃にて遠心分離により沈殿させ、1%(wt/vol)のパラホルムアルデヒドを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に再懸濁した。細菌を4℃にて一夜置いて、次いで洗浄し、PBS中に再懸濁してOD600で0.25(1 x 109細胞/ml)の光学密度とした。次に死滅細菌を、アリコート10μlで、0.22μmで濾過したPBS+10%のFBS+0.01%のアジド(PBS/FA)中に1:100で希釈したプールしたマウスポリクローナル血清と15分間室温にて混合した。細胞をPBS/FAを用いて洗浄し、次いで15分間、PBS/FA中に1:100で希釈したFITC標識抗マウス免疫グロブリン(Silenus)1μlとともにインキュベートした。次いで細胞を洗浄し、PBS/FA 1ml中に再懸濁した。
【0068】
染色したポルフィロモナス・ジンジバリス細胞の蛍光強度を、FACS Calibur-活性化蛍光細胞ソーター(Becton Dickinson)を使い、15mWアルゴンイオンレーザーから発生した488nm波長バンドを用いて定量化した。濾過したPBS/FAをシース液として使った。CELLQuestソフトウエア(Becton Dickinson)を使いサイズと粒状度に基づいて集められた20,000のゲーティングした(gated)事象からなるそれぞれの分析に対して、FITC発光シグナルを収集した。
【0069】
結果を図3に示す。各パネル上に示した%は正に染色した、すなわち、非抗血清もしくは正常マウス由来の血清で見られるバックグラウンドレベルを超える蛍光強度を有するポルフィロモナス・ジンジバリス細胞のパーセントを示す。全ての組換えタンパク質が大多数のポルフィロモナス・ジンジバリス細胞と反応する抗血清を産生したが、断片4に対する抗血清は他のr-44kDa抗血清と比較して低い反応性を示した。
【0070】
実施例5
大腸菌(E.coli)における、ポルフィロモナス・ジンジバリスKgp39(Kgp39)およびKgp39断片(Kgp39frag)付着因子ドメインのクローニングおよび発現ならびにELISAによる組換えタンパク質の試験
【表4】

【0071】
Kgp39およびKgp39断片付着因子ドメインを、表4に挙げたプライマーを使って増幅した。プライマーは6個のヌクレオチドバッファーとそれに続く制限酵素部位(SalIまたはXhoI)およびKgp39に特異的な配列からなる。PCRは、Taq DNAポリメラーゼ(Promega)を用いて次の条件下で実施した:変性(94℃、45秒)、アニーリング(52℃、30秒)、および伸長(72℃、60秒)の25サイクル。PCR産物をプラスミドベクターpGEMT-easy(Promega)中に連結し、コンピテント大腸菌(E.coli)JM109(Promega)に先に記載のように形質転換した。Kgp39およびKgp39断片組換え体の両方の調製に対する全ての手順は同一であって、本質的に組換えRgp44断片に対して先に記載した通りである。組換えプラスミドpGEMT-easy-Kgp39 DNAをSalIおよびXhoIを用いて消化し、精製したインサートDNAを、予めSalIおよびXhoIを用いて消化しておき、精製したプラスミド発現ベクターpET28b (Novagen)中に連結した。連結産物を非発現宿主、大腸菌(E.coli)JM109に形質転換し、次いで先に記載したように大腸菌(E.coli)発現宿主、HMS174(DE3)に形質転換した。r-Kgp39発現をIPTGを添加して誘導し、ニッケルアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。pET28b-Kgp39のインサートの完全な状態をDNA配列決定分析により確認した。
【0072】
組換え大腸菌(E.coli)の発現
組換えKgp39およびKgp39断片タンパク質を、rRgp44断片について記載したのと類似した方法論を使い、IPTGを用いた誘導により発現した。簡単に説明すると、単一コロニー形質転換体を使って50μg/mlのカナマイシンを含有するLB5mlに接種し37℃にて軌道式シェーカー上で一夜、インキュベートした。次に、この培養物を使って新しい培地100mlに接種し、中間対数増殖期(OD600=0.6〜1.0)まで増殖させ、0.5mMのIPTGを用いて6時間誘導した。次いで細胞を、6500 x gで遠心分離して回収し、封入体抽出のため、-20℃にて一夜、保存した。
【0073】
封入体の単離と可溶化
細菌ペレットを氷上で解凍し、バッファーB(20mM Na2HPO4、0.5M NaCl, 8M 尿素)10mlに再懸濁した。再溶解した細胞ペレットを、Branson Sonifier(登録商標)250細胞破砕器(Branson Ultrasonics Corporation, Danbury, CT)を使い、マイクロチップを用いて設定3で、氷上において30秒間隔の3 x 30秒間バーストで超音波処理した。不溶性細胞デブリを39000 x gで30分間、4℃で遠心分離して除去し、上清を回収した。不溶性細胞画分をバッファーB 10mlに再懸濁した。アジ化ナトリウム(0.001% v/v)を全サンプルに加えた後、4℃にて保存した。次にサンプルをSDS-PAGEにより分析した。
【0074】
ニッケル-ニトリロ三酢酸(Ni-NTA)精製および可溶化封入体のリフォールディング
タンパク質を、Pharmacia中圧タンパク質液体クロマトグラフィ(Fast Protein Liquid Chromatography;FPLC)計器に接続したPharmacia Biotech HiTrapアフィニティーカラム(1ml)(Amersham Pharmacia Biotech)を使って精製した。カラムは、5カラム体積の0.1M NiS04を用いてコーティングし、次に、10カラム体積のスタートバッファー(20mM Na2HPO4、0.5M NaCl、20mMイミダゾール、8M尿素)を用いて流速1 ml/分で平衡化した。サンプルをカラムに0.5 ml/分の流速でローディングし、次いで10体積のスタートバッファーを用いて1ml/分の速度で洗浄した。タンパク質を、10体積の溶出バッファー(20mM Na2HPO4、0.5M NaCl、200mMイミダゾール、8M尿素)の直線勾配にわたって流速1 ml/分にて溶出した。溶出画分を回収し、各画分のサンプルをSDS-PAGEゲル上で先に記載の通りに分析した。
【0075】
組換えタンパク質の再生
組換えタンパク質からの8M尿素の除去は、Spectrum-Por(登録商標) Float-A-Lyzer(Alltech、Australia)を使って実施した。サンプル中の尿素のモル濃度は、最初の8Mから4日間にわたって0Mになるよう設定した。rKgp39タンパク質を、バッファー(20mM Na2HPO4、0.5M NaCl)中の尿素含量を8Mから7M、6M、5M、4M、3M、2M、1M、0.5M、0Mへと段階的に変えた透析によりリフォールディングした。
【0076】
固相酵素免疫検定法(ELISA)
ELISAを実施して、RgpA-Kgp特異的抗血清とrKgp39およびrKgp39断片との結合ならびにrKgp39およびrKgp39断片と歯周マトリックスおよび宿主タンパク質との結合を研究した。
【0077】
平底ポリビニルマイクロタイタープレート(Microtitre, Dynatech Laboratories, VA, USA)のウエルを、5 μg/mlのrKgp39またはrKgp39断片のいずれかを含む0.1MPBS(0.01M Na2HPO4、0.15M NaCl、1.5mM KH2PO4、3.0mM KCl、pH 7.4)を用いて一夜、室温(RT)にてコーティングした。コーティング溶液を除去し、ウエルを1%(w/v)のBSAを含む0.1M PBST(0.1%(v/v)のTween20を含有するPBS)を用いて1時間、RTにてブロッキングし、プレートを0.1M PBSTを用いて4回洗浄した。ポルフィロモナス・ジンジバリスW50 RgpA-Kgpプロテイナーゼ-付着因子複合体に対するウサギ抗血清(Bhogalら, 1997)の連続希釈物を各ウエルに加え、一夜、RTにてインキュベートし、次いで6 x PBSTを用いて洗浄した。結合した抗体を、0.5%(w/v)のBSAを含むO.1MのPBS中のマウス免疫グロブリンに対する西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ免疫グロブリン(1:4000希釈)(Sigma, NSW, Australia)とともに、1.5時間、RTでインキュベーションして検出した。次に、プレートを洗浄し(6x PBST)、そして基質(0.9mM ABTS(2,2'-アジノ-ビス(3-エチルベンズ-チアゾリン-6-)スルホン酸)、および0.005%(v/v)のH202を含むABTSバッファー(0.1M Na2HPO4、0.08M クエン酸一水和物)(lOOμl/ウエル)を加えた。415nmにおける光学密度(O.D415)を、Bio-Radマイクロプレートリーダー(model 450, Bio Rad, NSW, Australia)を使って測定した。
【0078】
結果を図4に示す。
【0079】
rKgp39およびrKgp39断片と歯周マトリックスおよび宿主タンパク質との結合
ELISAはまた、rKgp39およびrKgp39断片タンパク質と宿主マトリックスタンパク質フィブリノーゲンおよびコラーゲンV型ならびにヘモグロビンとの結合を調査するためにも実施した。マイクロタイタープレートを、10μg/mlのフィブリノーゲン、コラーゲンV型ならびにヘモグロビンのいずれかを含む0.1M PBSを用いて一夜、RTにてコーティングした。コーティング溶液を除去し、残る未コーティングプラスチックを2%(w/v)のスキムミルクを含む0.1M PBSTを用いて1時間、RTにてブロッキングした。ブロッキング溶液を除去し、5μg/mlのrKgp39またはrKgp39断片タンパク質のいずれかを含む0.1M PBSをウエルに加え、2時間、RTにてインキュベートした。ウエルを0.1M PBSTを用いて4回洗浄し、次いで、1%(w/v)のスキムミルクを含む0.1M PBST中のウサギ抗RgpA-Kgp複合体抗血清の連続希釈物を各ウエルに加え、一夜、RTにてインキュベートした。結合した抗体を、6 x PBST洗浄の後に、1%(w/v)のスキムミルクを含む0.1M PBST中のウサギ免疫グロブリンに対する西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲートヤギ免疫グロブリン(1:4000希釈)(Sigma, NSW, Australia)とともに、1時間、RTにてインキュベートして検出した。プレートを先に記載のように染色した。
【0080】
結果を図5および図6に示す。
【0081】
実施例6
本実施例は、RgpA44またはKgp39またはそれらの部分をコードするヌクレオチド配列は、ファージベクターおよびプラスミドを含む様々なベクター中に挿入して発現できることを説明する。タンパク質およびペプチドの発現を成功するには、遺伝子もしくは遺伝子断片を含むインサート、またはベクター自身が転写および翻訳に必要なエレメントを含有し、そのエレメントが発現に使われる特定の宿主系と共存可能でありかつ前記宿主系により認識されることが必要である。RgpA44もしくはKgp39またはそれらの断片をコードするDNA(例えば、実施例2)、あるいは関連するペプチドもしくはオリゴペプチドまたはキメラタンパク質は、合成または単離して本明細書で説明した方法と配列を使って配列決定分析をすることができる。様々な宿主系を利用してRgpA44もしくはKgp39またはそれらの断片、関連するペプチドもしくはオリゴペプチドまたはキメラを発現することができ、限定されるものでないが、バクテリオファージベクター、プラスミドベクター、またはコスミドDNAを用いて形質転換した細菌;酵母ベクターを含有する酵母;真菌ベクターを含有する真菌;ウイルス(例えばバキュロウイルス)を用いて感染した昆虫細胞系;ならびにプラスミドもしくはウイルス発現ベクターを用いて形質転換した、または組換えウイルス(例えば、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルスなど)を用いて感染した哺乳類動物細胞系が挙げられる。
【0082】
上記の方法を含む分子生物学の分野で公知の方法を利用して、様々なプロモーターおよびエンハンサーを、RgpA44もしくはKgp39アミノ酸配列、すなわち関連するペプチドもしくはオリゴペプチドまたはキメラをコードするベクターまたはDNA配列中に組込んで、RgpA44もしくはKgp39アミノ酸配列の発現を増加することができるが、ただしそのアミノ酸配列の発現の増加が使用する特定の宿主細胞系と共存しうる(例えば、該宿主細胞系に対して非毒性である)ことが条件となる。従って、重要なことは、本発明のDNA配列は、RgpA44もしくはKgp39またはそれらの断片をコードする遺伝子セグメント、またはタンパク質の機能的および特異的エピトープをコードするドメインの任意の他のセグメント、または組合せたセグメントから成ってもよい。さらに、本発明のDNAを、他の細菌外膜タンパク質、または他の細菌、真菌、寄生、またはウイルス抗原などの他の抗原をコードするDNAと融合して、遺伝子的に融合した(共通のペプチド主鎖を共有する)多価抗原を作製して改良されたワクチン組成物として使用してもよい。
【0083】
プロモーターの選択は、使用する発現系に依存するであろう。プロモーターは強度、すなわち、転写を促進する能力が様々である。一般的に、クローニングした遺伝子を発現するのが目的であれば、強力なプロモーターを使用して高レベルの遺伝子転写および遺伝子産物への発現を得ることが所望される。例えば、大腸菌(E.coli)を含む宿主細胞系において高レベルの転写が観察されることが当業界で公知である、細菌、ファージ、またはプラスミドプロモーターとしては、lacプロモーター、trpプロモーター、recAプロモーター、リボソームRNAプロモーター、PRおよびPLプロモーター、lacUV5、ompF、bla、lpp等が挙げられ、これらのプロモーターを使用してアミノ酸配列をコードする挿入されたDNA配列の転写を実施することができる。
【0084】
さらに、タンパク質、関連するペプチドもしくはオリゴペプチドまたはキメラが宿主細胞にとって致死性もしくは有害である場合、宿主細胞株/系統および発現ベクターを、特異的に誘導するまでプロモーターの作用を抑制するように選択することができる。例えば、ある特定のオペロンにおいては、挿入されたDNAの効率的な転写には特定のインデューサーの添加が必要である(例えば、lacオペロンはラクトースまたはイソプロピルチオ-β-D-ガラクトシドの添加によって誘導される)。trpオペロンなどの様々なオペロンは異なる制御機構のもとにある。trpオペロンは、増殖培地中にトリプトファンが不在であると誘導される。PLプロモーターは温度感受性λリプレッサーを含有する宿主細胞の温度上昇によって誘導できる。この方法で、95%を上回るプロモーターが指令する転写を、未誘導細胞において抑制することができる。従って、組換えRgpA44タンパク質、関連するペプチドもしくはオリゴペプチドまたはキメラの発現を、最初はRgpA44アミノ酸配列をコードする挿入されたDNAからの発現を制御するプロモーターを誘導しないが、細胞が増殖培地中で適当な密度に到達すると前記プロモーターを誘導して挿入されたDNAからの発現をさせることができる条件のもとで、形質転換またはトランスフェクトした細胞を培養することによって制御してもよい。
【0085】
効率的な遺伝子転写またはメッセージ翻訳のための他の制御エレメントとしては、エンハンサー、および調節シグナルが挙げられる。エンハンサー配列は、近傍遺伝子に対するそれらの位置および方向に比較的非依存的に転写効率を増加すると思われるDNAエレメントである。従って、使用する宿主細胞発現ベクター系に依って、エンハンサーは、RgpA44またはKgp39アミノ酸配列をコードする挿入DNA配列の上流または下流のいずれに配置しても、転写効率を増加することができる。本実施例において先に説明したように、RgpA44またはKgp39および関連するペプチドまたはキメラをコードする遺伝子セグメントからの発現に影響を与え得る他の特異的調節配列が同定されている。これらの調節部位または転写もしくは翻訳開始シグナルなどの他の調節部位を使用して、RgpA44もしくはKgp39をコードする遺伝子、またはそれらの遺伝子断片の発現を調節することができる。そのような調節エレメントを、本明細書に記載したDNA配列を挿入するための組換えDNA法を用いて、RgpA44またはKgp39アミノ酸配列をコードするDNA配列または近傍ベクターDNA配列中に挿入してもよい。
【0086】
従って、RgpA44もしくはKgp39、関連するペプチドもしくはオリゴペプチドまたはキメラをコードする領域を含有するポルフィロモナス・ジンジバリスヌクレオチド配列を、発現ベクターのプロモーター、制御および調節エレメントに関連した特定の部位において発現ベクターに連結し、この組換えベクターを宿主細胞中に導入すると、ポルフィロモナス・ジンジバリス特異的DNA配列を宿主細胞において発現させることができる。例えば、それ自身の調節エレメントを含有するRgpA44またはKgp39特異的DNA配列を、RgpA44もしくはKgp39または誘導体の発現を可能にするベクタープロモーターおよび制御エレメントに関連してまたは方向で、発現ベクターに連結してもよい。次いで組換えベクターを適当な宿主細胞中に導入し、宿主細胞を組換えベクターを含有する細胞について選択しかつスクリーニングする。選択とスクリーニングは当業界で公知の方法により達成することができ、その方法としては、プラスミド中に存在するマーカー遺伝子(例えば、薬剤耐性マーカー)の発現の検出、RgpA44もしくはKgp39特異的エピトープに対して産生される抗血清を使ったRgpA44もしくはKgp39特異的エピトープの産生についての免疫スクリーニング、そして本明細書に記載の1以上のオリゴヌクレオチド配列と方法を用いたRgpA44もしくはKgp39特異的ヌクレオチド配列について宿主細胞のDNAのプロービングが挙げられる。
【0087】
また遺伝子工学技術を使用して、コードされたRgpA44もしくはKgp39組換え体またはタンパク質を特性決定し、改変および/または適応することもできる。例えば、RgpA44もしくはKgp39またはそれらの断片の1個もしくは全てのCys残基をSerもしくはAla残基に改変する部位特異的突然変異誘発は、組換えタンパク質の安定性と可溶性を増加して精製とフォールディングを容易にすることを可能にするために望まれ得る。さらに、遺伝子工学技術を使ってRgpA44もしくはKgp39のアミノ酸配列の一部、特に保護エピトープに対応する可溶性,親水性配列をコードするDNA配列を作製することができる。制限酵素選択は、得られるペプチドもしくはオリゴペプチドまたはキメラの免疫能(immunopotency)を破壊しないように実施してもよい。タンパク質の抗原部位のサイズは様々であるが、約7〜約14個のアミノ酸からなりうる。このように、RgpA44もしくはKgp39は多くの別々の抗原部位を含有しており;従って、多くの部分的遺伝子配列がRgpA44もしくはKgp39の抗原エピトープをコードし得る。これらの配列を構築し、発現系に使用して、高度に抗原性のキメラペプチドまたはオリゴペプチドまたはタンパク質を作製することができる。2以上のペプチドを組合せると免疫原性が増加し得る。抗原の組合せを使うとき、これらの抗原は関連していてもよい(すなわち、同じ遺伝子からまたは同じ生物由来の密接に関連する遺伝子から)。抗原は関連する生物(すなわち、歯肉下プラークに存在する他の口内細菌)から、またはさらに離れた関係の生物から作製してもよい。特に、RgpA44もしくはKgp39に関連する遺伝子および構築物を含有するベクターに対する宿主生物は、口腔の共生生息生物;例えば歯肉下プラーク、歯肉縁上(supragingival)プラークの生息生物または口内粘膜に関連する細菌であってもよい。共生口内菌の例としては、ストレプトコッカス(Streptococcus)種およびアクチノマイセス(Actinomyces)種、例えば、ストレプトコッカス・サリバリウス(Streptococcus salivarius)、ストレプトコッカス・サングイス(Streptococcus sanguis)、アクチノマイセス・ネスランディ(Actinomyces naeslundii)が挙げられるだろう。これらの生物を歯周炎患者から単離し、次に遺伝子工学的に操作してRgpA44もしくはKgp39または成分、ペプチドまたはキメラを発現させることができる。RgpA44もしくはKgp39、ペプチドまたはキメラをコードするDNAをこれらの共生口内細菌の細胞外タンパク質のリーダー配列をコードするDNAと連結してもよい。またRgpA44もしくはKgp39または誘導体をコードするDNAは、細胞外タンパク質をコードするDNAと連結するか挿入して分泌融合タンパク質を産生させてもよい。RgpA44もしくはKgp39、成分、ペプチドまたはキメラとの融合タンパク質を産生するために使用しうる細胞外タンパク質の例としては、グルコシルトランスフェラーゼ(GTF)またはフルクトシルトランスフェラーゼ(FTF)が挙げられるだろう。次いで組換え生物を患者口腔中に再導入し、一旦コロニーが形成されると、口内粘膜または歯は、RgpA44もしくはKgp39、成分、ペプチド、キメラまたは融合物を発現し、粘膜に関連するリンパ組織を刺激して中和抗体を産生するであろう。
【0088】
抗原をコードするDNA断片を他のDNA配列と融合して発現および/または精製手順を改善することできる(すなわち、ベクターpTrxFus中にクローニングしたDNA配列を大腸菌(E.coli)タンパク質チオレドキシンとの融合物として発現させる)。この連結は,チオレドキシンの特性を融合タンパク質に与え、通常不溶性かまたは発現が困難なタンパク質の可溶性発現を提供する。精製後、エンテロキナーゼを用いて消化して全チオレドキシンを除去すると元来のタンパク質が遊離される。さらに発現されたタンパク質またはペプチドに免疫原性がない場合に、抗原をハプテンとして使用して他の配列と融合して免疫原性を増強することができる。
【0089】
他のプラスミド発現系には、InvitrogenからのpUCから誘導されたpTrcHis発現ベクターが含まれる。このベクターは、Trcプロモーター(-35領域のTrpプロモーターと一緒に-10領域のlacプロモーターを含有する)およびrrnB抗ターミネーターエレメントの存在によってDNA配列の高レベル発現を可能にする。pTrcHisベクターはまた、lacリプレッサータンパク質をコードする1コピーのlaclq遺伝子も含有する。従って、組換えタンパク質/ペプチドの発現は、中間対数期まで増殖した大腸菌(E.coli)への1mM IPTG(脱抑制)の添加によって誘導される。DNA断片を、N末端融合タンパク質をコードする配列の下流にかつフレーム内に位置するマルチクローニングサイト中に挿入する。N末端融合ペプチドは、(5'から3'に向けて)ATG翻訳開始コドン、翻訳されたタンパク質中の金属結合部位として機能する一続きの6個のヒスチジン残基、ファージT7の遺伝子10由来の配列を安定化する転写産物、およびエンテロキナーゼ切断認識配列をコードする。組換えプラスミドを宿す細胞の細胞培養溶解物を、ProbondTM樹脂(Invitrogen)に対する高親和性結合によって精製する。ProbondTMはニッケル充填セファロース樹脂であって、ポリヒスチジン結合ドメインを含有する組換えタンパク質を精製するために使われる。結合したタンパク質は、ProbondTM樹脂から、低pHバッファーによるかまたはイミダゾールもしくはヒスチジンとの競合によって溶出させる。次に、ポリヒスチジンリーダーペプチドは、エンテロキナーゼを用いて組換え発現タンパク質を消化して除去することができる。エンテロキナーゼは、ベクター中のポリhis親和性タグとマルチクローニングサイトの間に遺伝子操作されたエンドペプチダーゼ認識配列を認識して、目的のタンパク質からポリHisテール(tail)の切断除去を可能にする。その後、精製した組換えタンパク質は、考察したように、抗体、ワクチン、および診断アッセイの製剤の作製に使用することができる。
【0090】
実施例7
RgpA44またはKgp39特異的ヌクレオチド配列を分子診断アッセイに利用してP.gingivalisを検出する方法。本発明の核酸配列は、P.gingivalisの遺伝物質を検出するための分子診断アッセイに利用することができる。特に、RgpA44またはKgp39配列特異的オリゴヌクレオチドを合成し、P.gingivalis由来の核酸を増幅するためのプライマーおよび/または増幅した核酸を検出するためのプローブとして、使用することができる。最近の分子生物学の進歩により、核酸配列を酵素的に増幅する複数の方法が提供されている。現在最も一般的に使用される方法、PCRTM(ポリメラーゼ連鎖反応、Cetus社)は、Taqポリメラーゼ、プライマーとしての既知配列、および加熱サイクルを使用して、複製デオキシリボ核酸(DNA)鎖を分離しさらに目的の遺伝子を指数関数的に増幅する。現在開発中の他の増幅法としては、DNAリガーゼおよび増幅すべきDNAの配列と相補的であるDNAセグメントの2つの片鎖から構成されるプローブを利用するLCRTM(リガーゼ連鎖反応、BioTechnica International);相補的RNAを指数関数的に生成するためのDNAテンプレートを作るのに使用される、酵素QBレプリカーゼ(Gene-Trak Systems)およびコピーすべきDNAに相補的なプローブと結合したリボ核酸(RNA)配列テンプレート;ならびに増幅すべき核酸配列としてのRNAまたはDNAについて実施しうるNASBATM(核酸配列に基づく増幅、Cangene Corporation)が挙げられる。
【0091】
特定の遺伝子配列とハイブリダイズできる核酸プローブを使って、1検体当たり103〜104生物に迫る感度レベルで生物検体中の特定の病原体を検出することに成功している[1990, 「細菌に対する遺伝子プローブ(Gene Probes for Bacteria)」,MacarioおよびdeMacario編, Academic Press]。特定の標的DNA配列の増幅を可能にする方法と組み合せて、種特異的核酸プローブは臨床検体中の生物を検出する感度レベルを大きく増加させることができる。これらのプローブを用いると、前培養および/または通常の生化学的同定技術を用いることなく、直接検出が可能になる。本発明のこの実施形態は、P.gingivalisのRgpA44またはKgp39をコードする遺伝子の種特異的配列を増幅するプライマー、およびこれらの増幅したDNA断片と特異的にハイブリダイズするプローブに適用される。本発明の核酸配列を用い、かつ本発明の方法に従うことにより、10μg/mlの無関係なDNAの存在下で、僅か1個のP.gingivalis生物を検出することができる。
【0092】
この実施形態は、歯肉縁下プラーク、痰、血液、膿瘍および他の体液などの臨床検体から抽出したDNAから、P.gingivalisのDNA配列(もし存在すれば)を増幅して、続いて増幅が起こったかどうかを判定する上で使用し得る種特異的オリゴヌクレオチドに適用される。本発明の一実施形態においては、1対のP.gingivalis特異的DNAオリゴヌクレオチドプライマーを用いて臨床検体より抽出したDNA中に存在しうるP.gingivalisゲノムDNAとハイブリダイズさせ、そして酵素合成および温度サイクリングを用い、2つのフランキングプライマー間のゲノムDNAの特定セグメントを増幅する。それぞれのプライマー対は、本発明のP.gingivalisヌクレオチド配列とのみハイブリダイズするように設計し、かつそれらがその二本鎖DNAの各鎖に対して1つずつ相補的になるように合成しておく。従って、反応はマイクログラム量の異種DNAが存在しても特異的である。この説明にあたって、DNAのポジティブ(遺伝子)鎖の配列から作製したプライマーを「ポジティブプライマー」、そしてネガティブ(相補的)鎖の配列から作製したプライマーを「ネガティブプライマー」と呼ぶことにする。
【0093】
DNAの増幅は、市販のいずれの手段によって実施してもよい。例えば、ポリメラーゼ連鎖反応を用いてDNAを増幅してもよい。いったんプライマーが標的DNAの向かい合った鎖とハイブリダイズすれば、温度を上げて、熱安定DNAポリメラーゼによる2つのプライマー間の領域にわたる特定のセグメントの複製が可能になる。次いで反応物を熱サイクリングに供すると、各サイクルで2つのプライマー間の配列に相当するDNAの量が倍増し、P.gingivalis DNA配列について、もし存在すれば、特異的増幅が起こる。P.gingivalis DNAから誘導される、増幅DNA断片のさらなる同定は、液系ハイブリダイゼーションにより実施できる。この試験は、P.gingivalis DNAの増幅セグメントと特異的にハイブリダイズするプローブとして、1以上の標識をしたオリゴヌクレオチドを利用する。配列特異的に増幅したDNAの存在の検出は、オートラジオグラフィーによるゲル遅延アッセイ(gel retardation assay)などの当業界で周知の複数の方法のいずれを利用して実施してもよい。従って、本発明のヌクレオチド配列は、P.gingivalis検出のための診断用キットに商業的に応用されるオリゴヌクレオチド合成の基礎を提供する。関連する実施形態においては、プライマーとして使用するオリゴヌクレオチドは、直接標識しても、または標識を組み込むように合成してもよい。次いで、使用する標識に基づいて、増幅産物はアフィニティマトリクス上に結合後、同位体検出または比色検出を用いて検出することができる。
【0094】
DNAは、P.gingivalisを含有しうる臨床検体から、当業界で周知の方法を用いて抽出することができる。例えば、検体に含有される細胞をTEバッファーで洗浄し、遠心分離によってペレット化する。次いで細胞を、界面活性剤とプロテイナーゼKを含有する100μlの増幅反応バッファーに再懸濁する。ポリメラーゼ連鎖反応を利用する場合、得るサンプルは、細胞を含有するlOmM Tris pH8.3、50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.01%ゼラチン、0.45% NP40TM、0.045% Tween 20TM、および60ug/mlプロテイナーゼKから構成される。サンプルを55℃水浴で1時間インキュベートする。インキュベーション後に、サンプルを95℃で10分間インキュベートしてプロテイナーゼKを熱不活性化する。次いで、サンプルを、以下に記述したポリメラーゼ連鎖反応のプロトコルに従って増幅する。
【0095】
P.gingivalis DNAは、ポリメラーゼ連鎖反応により核酸を増幅するための種々のプロトコルのいずれを用いて増幅してもよい。この実施形態の1つの様式においては、RgpA44またはKgp39をコードする遺伝子を、P.gingivalisの臨床分離株から次の条件を用いて増幅する。増幅すべきDNA(1 mgのゲノムDNA)を0.5 ml微量遠心チューブに分配し、0.2mM dNTPs(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)、ポジティブおよびネガティブオリゴヌクレオチドプライマーを各0.25ug、TaqIポリメラーゼの1ユニット、TaqI 1O×バッファー(5ul)、1mM MgCl2(最終濃度)、および全容量となるだけの量の無菌蒸留水、を含有する反応混合物を加えて容量を50ulに調整する。TaqIポリメラーゼは使用直前に反応混合物に加え、ボルテックスを行わずに穏やかに混合する。およそ2滴のミネラルオイル層を各チューブに加え、次いでチューブをサーマルサイクラー中に配置する。細菌DNAの増幅には、30〜35サイクルで一般的に十分である。1サイクルは、95℃で1分間、37℃で1分間、および72℃で1分間からなる。最初のサイクルは、完全な変性を保証するため、95℃で1.5分間のインキュベーションを含む。
【0096】
P.gingivalisのRgpA44またはKgp39をコードする遺伝子と特異的にハイブリダイズして、DNA増幅および/または検出に使われるプライマーまたはプローブとして有用なオリゴヌクレオチドは、本明細書の配列表のヌクレオチド配列から、当業界で公知の方法を利用して生化学的に合成することができる。検出の目的で、本発明のオリゴヌクレオチドは放射性同位体を用いて末端標識してもよい。遺伝子配列の増幅に用いる2つのプライマーの内部のプローブ配列は、T4ポリヌクレオチドキナーゼおよびγ32P ATPを用いて末端標識してもよい。20pMolのプローブDNAを含むキナーゼバッファー(50mM Tris、pH7.6、1OmM MgCl2、5mMジチオトレイトール、O.lmM スペルミジン-HCl、0.lmM EDTA、pH8.0)を、120 uCiのγ32P ATPと混合し、37℃にて1時間インキュベートする。標識されたプローブを組み込まれなかった標識から分離するには、Trisホウ酸EDTA(TBE)バッファー中、8%アクリルアミドゲル上で1時間にわたり200ボルトにて室温で泳動させる。標識されたプローブは、アクリルアミドゲルをx線フィルムに3分間曝露すると初めて位置が定められる。次に、得たオートラジオグラムをゲルの下に置いて、標識したプローブを含有するバンドをゲルから切り出した。このゲル切片を1ミリリットルの無菌蒸留水中で粉砕し、一夜、37℃での振とうインキュベーションによりプローブを溶出する。溶出したプローブを、クロマトグラフィプレップカラムを用いて遠心分離によりゲル断片から分離する。プローブの放射活性は、グラスファイバーフィルター上で1マイクロリットルの標識プローブを液体シンチレーションにより計測して、測定する。使用するプローブ配列は、そのプローブ配列が本発明において開示された所望のヌクレオチド配列の増幅に使う2つのプライマーの内側にあれば、本明細書に開示した配列のいずれから選んでもよい。
【0097】
当業界で周知の代替的方法を使って、本発明の組成物および方法により増幅された標的配列の検出を改善することができる。増幅されたDNA配列の検出の感度は、配列を液ハイブリダイゼーションにかけることによって改善することができる。当業界で公知の代替的検出方法であってかつ本発明の組成物および方法に利用しうる検出方法は、ゲル電気泳動ならびにサザンハイブリダイゼーションおよびオートラジオグラフィーとともに用いるゲル電気泳動に加えて、以下のものが挙げられる:ゲル電気泳動とともに用いる制限酵素消化;標識オリゴヌクレオチドプローブを用いるスロット-ブロットハイブリダイゼーション;放射標識オリゴヌクレオチドプローブを用いる増幅;ゲル電気泳動、サザンブロットハイブリダイゼーションおよびオートラジオグラフィーとともに用いる放射標識プライマーによる増幅;ドットブロットおよびオートラジオグラフィーとともに用いる放射標識プライマーによる増幅;アフィニティタグ(例えば、ビオチン、またはビオチンを組込んだ1つのプライマーおよびDNA結合タンパク質に特異的な配列を用いる他のプライマー)を含有するオリゴヌクレオチドによる増幅と続いてのアフィニティに基づくアッセイ(例えばELISA)における検出;および蛍光団を含有するオリゴヌクレオチドによる増幅と続く蛍光検出。
【0098】
非同位体検出の一実施形態は、ビオチンを本発明のオリゴヌクレオチドプライマー中に組込むことを含む。プライマーの5'-アミノ基をスルホ-NHS-ビオチンを用いてビオチン化してもよいし、またはビオチン標識したdNTPsの存在のもとでプライマーを合成して、ビオチンをプライマー中に直接組込んでもよい。次いで非同位体標識プライマーを、臨床検体由来のDNAを増幅するのに使用する。増幅標的配列の存在または非存在の検出は次のように実施することができる;増幅標的配列を、アビジンを結合したアフィニティマトリックスを用いて捕捉し、続いて酵素を含有するアビジンコンジュゲートとともにインキュベーションし、これを利用して基質の染色により複合体を視覚化することができる。あるいは、増幅された標的配列を、標的配列に対応するプローブであってかつマトリックス上に固定されているプローブに対し、ハイブリダイゼーションにより固定してもよい。検出は、酵素を含有するアビジンコンジュゲートを用い、これを使って続く基質染色により複合体を視覚化することができる。
【0099】
実施例8
診断用イムノアッセイにおいてRgpA44もしくはKgp39、ペプチドまたはキメラペプチドを使用する方法。
【0100】
RgpA44もしくはKgp39タンパク質、関連ペプチド、オリゴペプチドまたはキメラを精製して、ワクチン製剤の免疫原として;および診断アッセイ用抗原として使用すること、または治療用および/もしくは診断用に価値のあるP.gingivalis特異的抗血清を作製することができる。P.gingivalis由来のRgpA44もしくはKgp39またはそれらのオリゴペプチドもしくはペプチドまたはキメラ、あるいは発現ベクター系から産生された組換えタンパク質、組換えペプチド、または組換えオリゴペプチドは、当業界で周知の方法により精製することができ、その方法としては界面活性剤抽出、クロマトグラフィ(例えば、イオン交換、アフィニティ、免疫アフィニティ、または限外濾過およびサイズカラム)、分画遠心分離、示差溶解度、またはその他のタンパク質精製用の標準技術が挙げられる。
【0101】
本明細書全体にわたって使用されるRgpA44もしくはKgp39オリゴペプチドは、本明細書においては、添付の配列にそれぞれ開示されるRgpA44もしくはKgp39のアミノ酸配列の一部にそれぞれ対応する一連のペプチドとして定義され、独立してまたは化学的に連結して合成される。そのようなペプチドまたはオリゴペプチドは当業界で公知の多くのペプチド合成方法の1つを用いて合成することができるが、その方法としてはtert-ブチルオキシカルボニルアミノ酸[Mitchellら, 1978, J Org Chem 43:2845-2852]を用いるか、ポリアミド支持体上で9-フルオレニルメチルオキシカルボニルアミノ酸[Drylandら, 1986, J Chem So Perkin Trans I, 125-137]を用いるか、標準的固相ペプチド合成;ペプスカン合成[Geysenら, 1987, J Immunol Methods 03:259; 1984, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3998];標準的液相ペプチド合成;または組換え発現ベクター系を用いた合成が挙げられる。アミノ酸の欠失および置換(およびアミノ酸の伸長および付加を含む)による方法および他の方法などでのペプチドまたはオリゴペプチドの改変は、ペプチドもしくはオリゴペプチドの免疫学的性質を実質的に損わないように行う。特に、RgpA44もしくはKgp39、またはそれらのペプチドもしくはオリゴペプチドまたはキメラのアミノ酸配列を、1以上のアミノ酸を機能的に等価のアミノ酸と置換することにより改変して、タンパク質、ペプチドもしくはオリゴペプチドまたはキメラの物理化学的挙動に観察される差異に関してサイレントな改変体を得ることができる。機能的に等価なアミノ酸は、当業界において公知であり、関連および/または類似の極性もしくは電荷を有するアミノ酸である。従って、本明細書の配列表に記述したアミノ酸配列と実質的に同じであるアミノ酸配列とは、タンパク質、ペプチドもしくはオリゴペプチド、またはキメラの主要な生物学的機能を変化させることなく、機能的に等価なアミノ酸による置換を含有するアミノ酸配列を意味する。
【0102】
精製したRgpA44もしくはKgp39タンパク質、ペプチド、オリゴペプチドおよびキメラは、P.gingivalisによって引き起こされる感染症が疑われる個人の体液に存在するP.gingivalis特異的抗血清を検出するイムノアッセイにおいて抗原として使用することができる。イムノアッセイの抗原としてのRgpA44または関連ペプチドの検出は、当業界で周知のいずれのイムノアッセイでもよく、限定されるものでないが、ラジオイムノアッセイ、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、「サンドイッチ」アッセイ、沈降反応、凝集アッセイ、蛍光イムノアッセイ、および化学発光に基づくイムノアッセイが挙げられる。
【0103】
実施例9
RgpA44もしくはKgp39および関連ペプチドならびにキメラに関連するワクチン製剤用の方法と化合物
本発明のこの実施形態は、P.gingivalisが原因である感染症に対する防御または治療するための能動免疫感作用の予防および/または治療用ワクチン中の免疫原として使用する組換えRgpA44もしくはKgp39タンパク質および/またはそれらのペプチドまたはオリゴペプチドまたはキメラを提供する。ワクチンを目的とする場合、細菌タンパク質を含むP.gingivalisの抗原は、免疫原性であり、かつ無傷の細菌上の表面に露出される1以上の、P.gingivalisの株間に保存されるエピトープに対する機能的抗体を誘導しなければならない。
【0104】
ワクチンを開発するため、RgpA44またはKgp39特異的アミノ酸配列を、RgpA44もしくはKgp39または関連ペプチドまたはキメラを発現する組換えベクターを含有する宿主から精製することができる。そのような宿主は、限定されるものでないが、RgpA44またはKgp39アミノ酸配列をコードするベクターを用いて感染または形質転換した細菌形質転換体、酵母形質転換体、糸状真菌形質転換体、および培養細胞が挙げられる。ワクチン製剤には、組換えタンパク質、ペプチドもしくはオリゴペプチドまたはキメラ免疫原が、関連の免疫原性物質として免疫応答を誘導するのに治療上有効な量だけ含まれる。ヒトまたは動物にワクチン製剤を導入してワクチン接種をするための多数の方法が公知である。これらは、限定されるものでないが、皮内、筋内、腹腔内、静脈内、皮下、眼、鼻内、および経口投与が挙げられる。ワクチンはさらに、溶液、ポリマーもしくはリポソーム;およびアジュバント、またはそれらの組合せなどの生理学的担体を含有してもよい。
【0105】
様々なアジュバントがワクチン製剤と一緒に使われる。アジュバントは、免疫応答を調節しかつワクチン抗原を単独で投与する場合より少ない量のワクチン抗原または少ない投与量を用いてより持続的でかつより高いレベルの免疫を獲得することを助ける。アジュバントの例は、不完全フロイントアジュバント(IFA)、アジュバント65(ピーナッツオイル、モノオレイン酸マンナイド(mannide monooleate)およびモノステアリン酸アルミナを含有する)、乳化油、リビ(Ribi)アジュバント、プルロニックポリオール、ポリアミン、アブリジン(Avridine)、クイル(Quil)A、サポニン、MPL、QS-21、およびアルミニウム塩などの無機質ゲルが挙げられる。他の例は、SAF-1, SAF-0, MF59などの水中油滴型エマルジョン、セピック(Seppic)ISA720、およびISCOMsTMおよびISCOMマトリックスTMなどの他の微粒子アジュバントが挙げられる。広範であって徹底したものではないが他のアジュバント例の表が、CoxおよびCoulter 1992 [Wong WK(編) 「動物寄生虫コントロール利用技術(Animals parasite control utilising technonolgy)」 Bocca Raton; CRC press, 1992; 49-112に収載]に掲げられている。ワクチンは、アジュバントの他に、通常の製薬上許容される担体、賦形剤、フィラー、バッファーまたは希釈剤を適当に含有してもよい。アジュバントを含有するワクチンの1以上の用量を、予防として歯周病を防止するため、または治療として既存の歯周病を処置するために投与してもよい。
【0106】
他の好ましい組成物では、調製物を粘膜アジュバントと組合せて経口投与する。粘膜アジュバントの例は、コレラ毒素および熱易分解性大腸菌(E.coli)毒素、これらの毒素の無毒性Bサブユニット、これらの毒素の低毒性遺伝突然変異体である。RgpA44を経口で送達するために利用する他の方法は、タンパク質の生物分解性ポリマー(アクリレートまたはポリエステルなどの)粒子中へのマイクロカプセル化による組込みであって、微小球の胃腸管からの取込みを助けかつタンパク質の分解を保護する。他の可能な方法の例は、リポソーム、ISCOMsTM、ヒドロゲルであって、これらの方法はLTB、CTBもしくはレクチンなどのターゲッティング分子を組込むことによって、RgpA44タンパク質またはペプチドの粘膜免疫系への送達をさらに促進しうる。ワクチンは、ワクチンおよび粘膜アジュバントまたは送達系の他に、通常の製薬上許容される担体、賦形剤、フィラー、コーティング、分散媒体、抗細菌剤および抗真菌剤、バッファーまたは希釈剤を適当に含有してもよい。
【0107】
本発明のこの様式の他の実施形態は、ハプテン、すなわちそれ自身で免疫応答を誘発し得ない分子としての組換えRgpA44またはKgp39特異的アミノ酸配列の産生を包含する。このような場合、ハプテンを、免疫系に曝されると結合したハプテンに免疫原性を与えうる担体または他の免疫原性分子と共有結合させればよい。従って、担体分子と連結したそのようなRgpA44またはKgp39特異的ハプテンは、ワクチン製剤の免疫原でありうる。
【0108】
この実施形態の他の様式は、P.gingivalisにより引き起こされる感染症から保護するために使用する組換え生ウイルスワクチン、組換え細菌ワクチン、組換え弱毒化細菌ワクチン、または不活性化組換えウイルスワクチンを提供する。ワクシニアウイルスは、他生物由来のワクチン抗原を発現するように遺伝子操作した感染性ウイルスとしては当業界において最もよく知られる例である。弱毒化またはその他の方法でそれ自体は疾患を引き起こさないように処理した組換え生ワクシニアウイルスを用いて宿主を免疫感作する。次いで宿主内で組換えウイルスを複製することによって、組換えRgpA44またはKgp39タンパク質、関連ペプチドまたはキメラなどのワクチン抗原により免疫系の連続刺激を与え、それにより長期持続性免疫をもたらす。
【0109】
他の生ワクチンベクターとしては、アデノウイルス、サイトメガロウイルス、および、好ましくはワクシニア[PaolettiおよびPanicali、米国特許第4,603,112号]および弱毒化サルモネラ株[Stockerら、米国特許第5,210,035号;第4,837,151号;および第4,735,801号;ならびにCurtissら, 1988, Vaccine 6:155-160]などのポックスウイルスが挙げられる。生ワクチンは、免疫系を連続刺激することにより実質的に長期持続性免疫をもたらすため、特に有利である。免疫応答がその後のP.gingivalis感染に対し防御的に働くときは、生ワクチン自体をP.gingivalisに対する予防ワクチンに使用してもよい。特に、生ワクチンは口腔の共生生息菌である細菌に基づくものでもよい。この細菌を組換えRgpA44またはKgp39、ペプチド、オリゴペプチドまたはキメラペプチドを担持するベクターを用いて形質転換して、次いでこれらを使って口腔、特に口内粘膜にコロニー形成させてもよい。口内粘膜にコロニーが形成されると、組換えタンパク質、ペプチドまたはキメラの発現が粘膜に関連するリンパ組織を刺激して中和抗体を産生させるであろう。さらにこの実施形態の様式を説明するため、実施例8に説明した分子生物学技術を用いて、RgpA44もしくはKgp39をコードする遺伝子または1以上のペプチドまたはキメラをコードする遺伝子断片を、ワクシニアウイルスゲノムDNA中のエピトープの発現を可能にするがワクシニアウイルスベクターの増殖または複製には悪影響を与えない部位に挿入することができる。得られる組換えウイルスをワクチン製剤の免疫原として使用することができる。同じ方法を用いて、不活性化組換えウイルスワクチン製剤を構築することができるが、その場合、組換えウイルスは、当業界で周知の化学的方法により、免疫原として使用する前に発現される免疫原の免疫原性に実質的に影響を与えないように不活性化される。様々なエピトープを発現する不活性化ウイルスの混合物を、多価不活性化ワクチンの製剤に使用してもよい。どちらの事例でも、不活性化組換えワクチンまたは不活性化ウイルスの混合物は、ワクチン抗原への免疫学的応答を増強するために適当なアジュバントを用いて製剤化することができる。
【0110】
この実施形態の他の変法においては、遺伝物質を直接、ワクチン製剤として使用する。1以上の調節エレメントと機能しうる形で連結された、RgpA44もしくはKgp39タンパク質、関連ペプチドまたはオリゴペプチドまたはキメラをコードする配列を含有する核酸(DNAまたはRNA)を直接導入して(「直接遺伝子導入」)、個体にP.gingivalisの病原株に対するワクチン接種をしてもよい。ワクチン接種個体中への直接遺伝子導入が血管内皮細胞ならびに主要器官の組織などのワクチン接種個体の細胞による遺伝物質の発現をもたらすことは、発現プラスミド:陽イオンリポソーム複合体の静脈注射によるなどの当業界の技術により実証されている[Zhuら, 1993, Science 261:209-211]。ベクターDNAを標的細胞中に送達するための他の効果的な方法が当業界で公知である。一例を挙げれば、ウイルス遺伝子を含有する精製組換えプラスミドDNAを使ってワクチン接種し(非経口、粘膜、または遺伝子銃経由の免疫感作)、防御的免疫応答が誘導された[Fynanら, 1993, Proc Natl Acad Sci USA 90:11478-11482]。他の例においては、個体から採取した細胞を、当業界で周知の標準の方法によってトランスフェクトまたはエレクトロポレーションして、標的細胞中に組換えベクターDNAを導入することができる。次に、組換えベクターDNAを含有する細胞を、ベクター中の発現される選択マーカーによるなどの当業界で周知の方法を使って選択し、次いで選択した細胞を個体に再導入してRgpA44もしくはKgp39タンパク質、関連ペプチドまたはオリゴペプチドまたはキメラを発現させることができる。
【0111】
遺伝物質を用いてワクチン接種する好ましい方法の1つは、RgpA44もしくはKgp39タンパク質、関連ペプチド、またはオリゴペプチドまたはキメラをコードする核酸配列を含有する核酸分子であって、1以上の発現に必要な調節配列と機能しうる形で連結されていることを特徴とする前記核酸分子を、個体に投与する工程を含んでなる。核酸分子は、直接に投与するか、または最初ウイルスベクター中に導入した後にベクターを用いて投与することができる。核酸分子は、製薬上許容される担体または希釈剤に含めて投与してもよいしワクチンの有効性を増強し得る化合物を含有してもよい。これらの追加の化合物は、限定されるものでないが、免疫応答を増強するアジュバント、および集合的に「免疫モジュレーター」と呼ばれ免疫応答のモジュレートに関わる化合物、例えばサイトカイン;または「核酸取込みエンハンサー」と呼ばれ細胞による核酸の取込みを増加する他の化合物が挙げられる。核酸分子を用いる免疫感作は、いずれの非経口経路(静脈、腹腔内、皮内、皮下、または筋内)を通じて、または上咽頭、気管、もしくは胃腸管の粘膜表面と接触させることにより、行うことができる。
【0112】
能動免疫感作に代わる方法として、免疫感作は受動であってもよく、すなわちRgpA44もしくはKgp39エピトープに対する抗体を含有する精製免疫グロブリンの投与を含む免疫感作であってもよい。
【0113】
実施例10
以下は、抗RgpA44または抗Kgp39抗体を含有する歯磨ペースト製剤の提示例である。
成分 %w/w
リン酸二カルシウム二水和物 50.0
グリセロール 20.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
ラウロイルサルコニサートナトリウム 0.5
香味剤 1.0
ナトリウムサッカリン 0.1
グルコン酸クロルヘキシジン 0.01
デキストラナーゼ 0.01
抗RgpA44または抗Kgp39抗体を含有するヤギ血清 0.2
水 差引残量
【0114】
実施例11
以下は、歯磨ペースト製剤の別の提示例である。
成分 %w/w
リン酸二カルシウム二水和物 50.0
ソルビトール 10.0
グリセロール 10.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0
ラウリル硫酸ナトリウム 1.5
ラウロイルサルコニサートナトリウム 0.5
香味剤 1.0
ナトリウムサッカリン 0.1
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.3
グルコン酸クロルヘキシジン 0.01
デキストラナーゼ 0.01
抗RgpA(788-1004)を含有するウシ血清 0.2
水 差引残量
【0115】
実施例12
以下は、歯磨ペースト製剤の別の提示例である。
成分 %w/w
リン酸二カルシウム二水和物 50.0
ソルビトール 10.0
グリセロール 10.0
カルボキシメチルセルロースナトリウム 1.0
ラウロイルジエタノールアミド 1.0
スクロースモノラウレート 2.0
香味剤 1.0
ナトリウムサッカリン 0.1
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.3
グルコン酸クロルヘキシジン 0.01
デキストラナーゼ 0.01
抗RgpA44抗体を含有する牛乳Ig 0.1
水 差引残量
【0116】
実施例13
以下は、歯磨ペースト製剤の別の提示例である。
成分 %w/w
ソルビトール 22.0
アイリッシュモス 1.0
水酸化ナトリウム(50%) 1.0
ガントレズ(Gantrez) 19.0
水(脱イオン) 2.69
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.76
ナトリウムサッカリン 0.3
ピロリン酸 2.0
水和アルミナ 48.0
芳香油 0.95
抗RgpA44モノクローナル抗体 0.3
ラウリル硫酸ナトリウム 2.00
【0117】
実施例14
以下は、歯磨ペースト製剤の別の提示例である。
成分 %w/w
ポリアクリル酸ナトリウム 50.0
ソルビトール 10.0
グリセロール 20.0
香味剤 1.0
ナトリウムサッカリン 0.1
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.3
グルコン酸クロルヘキシジン 0.01
エタノール 3.0
抗RgpA(788-1004)を含有するウマIg 0.2
リノール酸 0.05
水 差引残量
【0118】
実施例15
以下は口洗浄液製剤の提示例である。
成分 %w/w
エタノール 20.0
香味剤 1.0
ナトリウムサッカリン 0.1
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.3
グルコン酸クロルヘキシジン 0.01
ラウロイルジエタノールアミド 0.3
抗RgpA44抗体を含有するウサギIg 0.2
水 差引残量
【0119】
実施例16
以下は口洗浄液製剤の提示例である。
成分 %w/w
ガントレズS-97 2.5
グリセリン 10.0
芳香油 0.4
モノフルオロリン酸ナトリウム 0.05
グルコン酸クロルヘキシジン 0.01
ラウロイルジエタノールアミド 0.2
抗RgpA44マウスモノクローナル抗体 0.3
水 差引残量
【0120】
実施例17
以下はトローチ製剤の提示例である。
成分 %w/w
砂糖 75〜80
コーンシロップ 1〜20
芳香油 1〜2
NaF 0.01〜0.05
抗RgpA44マウスモノクローナル抗体 0.3
ステアリン酸Mg 1〜5
水 差引残量
【0121】
実施例18
以下は歯肉マッサージクリーム製剤の提示例である。
成分 %w/w
白色ワセリン 8.0
プロピレングリコール 4.0
ステアリルアルコール 8.0
ポリエチレングリコール4000 25.0
ポリエチレングリコール400 37.0
モノステアリン酸スクロース 0.5
グルコン酸クロルヘキシジン 0.1
抗RgpA44マウスモノクローナル抗体 0.3
水 差引残量
【0122】
実施例19
以下はチューインガム製剤の提示例である。
成分 %w/w
ガムベース 30.0
炭酸カルシウム 2.0
結晶ソルビトール 53.0
グリセリン 0.5
芳香油 0.1
抗RgpA(788-1004)ウサギモノクローナル抗体 0.3
水 差引残量
【0123】
本明細書を通じて、単語「含んでなる(comprise)」、またはその変化形である「含む(comprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」などは、記載した要素、整数もしくは工程、または要素、整数もしくは工程の群を包含することを意味するが、他の任意の要素、整数もしくは工程、または要素、整数もしくは工程の群を排除することを意味するものではないと理解される。
【0124】
当業者であれば、広範に記載した本発明の精神と範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示した本発明に対して様々な変形および/または改変が行われ得ることを認識するであろう。従って、本明細書の実施形態は、全ての点について説明するものであって限定するものではないとして考えられねばならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3、配列番号3の残基1-184、配列番号3の残基1-290、配列番号3の残基65-184、配列番号3の残基65-290、配列番号3の残基65-419、配列番号3の残基192-290、配列番号3の残基192-419、および配列番号3の残基147-419からなる群から選択される配列を有する組換えタンパク質を含む抗原組成物。
【請求項2】
1以上のポリペプチド配列と連結された、配列番号3、配列番号3の残基1-184、配列番号3の残基1-290、配列番号3の残基65-184、配列番号3の残基65-290、配列番号3の残基65-419、配列番号3の残基192-290、配列番号3の残基192-419、および配列番号3の残基147-419からなる群から選択される配列からなる組換えキメラまたは融合タンパク質を含む抗原組成物。
【請求項3】
さらにアジュバントを含む、請求項1または2に記載の抗原組成物。
【請求項4】
キメラまたは融合タンパク質が配列番号4に示される配列を有する、請求項2に記載の抗原組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の抗原組成物に対して産生された少なくとも1つの抗体を含む抗体組成物であって、該抗体が、配列番号3、配列番号3の残基1-184、配列番号3の残基1-290、配列番号3の残基65-184、配列番号3の残基65-290、配列番号3の残基65-419、配列番号3の残基192-290、配列番号3の残基192-419、および配列番号3の残基147-419からなる群から選択される配列を有するポリペプチドに特異的に結合することを特徴とする、前記抗体組成物。
【請求項6】
組換え原核生物または真核生物細胞であって、配列番号1、配列番号1のヌクレオチド1-1257、配列番号1のヌクレオチド1-552、配列番号1のヌクレオチド1-870、配列番号1のヌクレオチド193-552、配列番号1のヌクレオチド193-870、配列番号1のヌクレオチド193-1257、配列番号1のヌクレオチド574-870、配列番号1のヌクレオチド574-1257、および配列番号1のヌクレオチド439-1257、ならびにそれらとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からなる群から選択される配列と、少なくとも1つの調節エレメントとが機能しうる形で連結されたDNA配列を含む、前記組換え原核生物または真核生物細胞。
【請求項7】
被験者におけるP.gingivalis感染症の発生数または重症度を予防または軽減するための、請求項1〜4のいずれかに記載の抗原組成物。
【請求項8】
被験者におけるP.gingivalis感染症の発生数または重症度を予防または軽減するための、請求項5に記載の抗体組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−120581(P2011−120581A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−271343(P2010−271343)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【分割の表示】特願2001−549431(P2001−549431)の分割
【原出願日】平成12年12月21日(2000.12.21)
【出願人】(500021413)シーエスエル、リミテッド (28)
【出願人】(500074981)ザ ユニバーシティー オブ メルボルン (5)
【Fターム(参考)】