説明

PC鋼材

【課題】円弧状に曲げられて施工されても、シース2の破損が起らないPC鋼材10とする。
【解決手段】PC鋼線1と、そのPC鋼線1の周りにグリース3を介在して被せたポリエチレン製シース2とから成るアンボンドPC鋼材である。シース2は、引張強さ:29MPa以上の高強度のものとする。この高弾性のシース2であると、曲げて施工されても破れることがない。このため、グリース3の漏洩もない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート部材にあらかじめ圧縮力を与える「プレストレストコンクリート工法」の一種であるアンボンド工法に使用されるプレストレストコンクリート(PC)鋼材、特に、弧状に曲げられて使用されるPC鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンボンド工法は、スラブコンクリートが固まったあとでPC鋼線に引張力を与えるポストテンション方式によって施工されるため、スラブ内部を通るPC鋼材は、例えば、本願に係る発明の一実施形態を示す図1を参照して説明すると、PC鋼線1と、そのPC鋼線1の周りにグリース3を介在して被せた樹脂シース2とから成る。
このアンボンド工法は、小梁がない大床構造にも使用が可能のため、LPG等の液化ガスの貯蔵タンクの屋根スラブや原子炉における蒸気発生器の屋根スラブ等の構築に採用されている(特許文献1図7 特許文献2図1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−4111号公報
【特許文献2】特開平07−174302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の貯蔵タンクの屋根スラブや原子炉における蒸気発生器の屋根スラブ等は、通常、ドーム状をしているため、PC鋼材も円弧状に曲げられて施工されることとなる。このPC鋼材を円弧状に曲げるには、そのPC鋼材の軸線方向に沿ってガイドを設けることとなり、当然なこととして、そのガイドにPC鋼材が圧接されることとなる。
このとき、その圧接によって、シース2が破れると、グリース3が漏れ出てPC鋼線1が錆易くなり、その錆によってPC鋼線1の強度が低下して、スラブコンクリートに対する引張力が低下する恐れがある。
【0005】
この発明は、上記のPC鋼材が円弧状に曲げられて施工されても、シース2の破損が起らないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、この発明は、樹脂シースにおいては、高強度のものは圧縮力に対して高い耐力を有していることに着目し、そのシースを、曲げによる圧縮力が作用した場合、その圧縮力では破断されない高強度を有するものとしたのである。
具体的な構成としては、PC鋼線と、そのPC鋼線の周りにグリースを介在して被せた樹脂シースとから成るアンボンドPC鋼材であって、曲げられて使用され、その曲げによって樹脂シースに圧縮力が作用した場合、その圧縮力ではその樹脂シースは破断されない高強度を有する構成を採用したものである。
【0007】
この構成において、上記樹脂シースには、従来からポリエチレンが使用されていることから、そのポリエチレンを使用し、その引張強さ:29MPa以上のものとして、曲げによる圧縮力では破断されない高強度を有するものとするとよい。
【発明の効果】
【0008】
この発明は、以上のように構成したPC鋼材としたので、曲げて施工されても樹脂シースが破れることがない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明に係るPC鋼材の一実施形態の断面図
【図2】同実施形態の圧縮作用説明図
【図3】同実施形態の圧縮試験説明図
【発明を実施するための形態】
【0010】
この実施形態のPC鋼材(径:18.6mm)10は、従来と同様に、図1に示すように、鋼素線(径:5.1mm)1aを撚ったPC鋼線1と、そのPC鋼線1の周りにグリース3を介在して被せた樹脂シース(厚み:1.3mm)2とから成る。鋼素線1aの撚り本数は、図示の7本に限らず、19本等と任意である。
このPC鋼材10は、ドーム状スラブにおいては、円弧状に曲げて施工される。このため、上述のように、そのPC鋼材10の軸線方向に沿ってガイドを設けることとなり、図2に示すように、ガイドをなす治具12によってその態様を模型化し、その治具12の案内面の半径:R、緊張荷重:N(kN)、曲げ治具12頂点G付近のシース2に加わる荷重:A(kN/mm)とすると、次式の近似式が成立する。
N=2×2R×π/4×∫A(cos2θ)dθ θ:0→π/2・・(1)
ここで、R=700mm、N=210kNとすると、
上記式(1)は、210=2×2×700×π/4×∫A(cos2θ)dθとなり、
θ:0→π/2から、A=0.12kN/mmとなる。
【0011】
つぎに、シース2として、ノバテックHD(日本ポリエチレン株式会社製:登録商標)、ハイゼックス(株式会社プライムポリマー製(三井化学株式会社:登録商標))、メタロセンHD(株式会社プライムポリマー製)から成るもの(試験例1〜9)を採用し、それらのダンベル試験片(厚み:1mm)からJIS K6251−3号に基づき、線速:50mm/分で引張強さ(引張降伏応力):MPaを求め、さらに、図3に示すように、定盤21上に、シース2に相当する前記各樹脂のシート2’、その上に鋼線1aを載せ、その上から、押圧板22でもって押圧し、その時の「圧縮量(mm)」、「圧縮割合(%)」を計測した結果を表1に示す。なお、鋼線1aの長さ:20mmとしたので、押圧力(シース2に加わる荷重):A=0.12kN/mm×20mm=2.4kNとした。
また、この試験例1〜9の樹脂で図1のPC鋼材10のシース2を形成し、その各試料を図2に示す試験を行い、その結果を表1に示す。その図2の試験において、R:700mm、N:210kNで、1分、引張荷重Nを負荷した。表中、「×」はグリース3が漏れ出た場合、「○」はグリ−スが漏れ出なかった場合を示す。
【0012】
【表1】

【0013】
この試験結果から、各樹脂をなすポリエチレンの引張強さが大きい程、圧縮量(圧縮割合)が小さいことが理解できる。これにより、引張強さが大きい程、シート2’の破損の恐れが少ないことが理解できる。また、圧縮割合が90%以下の試験例5〜9では、全てグリースが漏れ出ず、それ以上の試験例1〜4ではグリースの漏れが生じたことから、シース2がポリエチレンの場合、引張強さが29.0MPa以上あれば、グリース3が漏れ出ず、曲げに耐え得ることが理解できる。
【0014】
なお、PC鋼線1には棒材を採用し得る、シース2にはポリエチレンでなくても、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等を採用し得る等、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0015】
1 PC鋼線
1a 鋼線
2 シース
3 グリース
10 PC鋼材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PC鋼線(1)と、そのPC鋼線(1)の周りにグリース(3)を介在して被せた樹脂シース(2)とから成るアンボンドPC鋼材(10)であって、曲げられて使用され、その曲げによって前記樹脂シース(2)に圧縮力が作用した場合、その圧縮力ではその樹脂シース(2)は破断されない高強度を有するものであることを特徴とするPC鋼材。
【請求項2】
上記樹脂シース(2)を引張強さ:29MPa以上のポリエチレンとしたことを特徴とする請求項1に記載のPC鋼材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−97449(P2012−97449A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−245412(P2010−245412)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【Fターム(参考)】