説明

PCB分析方法

【課題】不特定かつ複数の組成物からなる被測定物質、特に、複数の同族体及び異性体の混合物からなるPCBを、再現性良く高精度に定量可能な分析方法を提供する。
【解決手段】n種の組成物からなる被測定物質を含む試料から、
前記被測定物質を分離する工程と、
前記被測定物質をクロマトグラフィーにより解析し、クロマトグラムを得る工程と、
得られた前記被測定物質のクロマトグラムのm個のピークを抽出し、該m個のピークに基づくピーク要素からなるピークパターンPを特定し、該ピークパターンPと近似するように、前記n種の各組成物が示すn種のピークパターンP、P、…Pの組合せを特定するピークパターン解析工程と、
前記ピークパターンP、P、…Pの組合せから、前記n種の各組成物の含有比率を求めて前記被測定物質の組成を解析する組成解析工程と、
を含む被測定物質分析方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCB分析方法に関し、特に、クロマトグラムから組成を解析するPCB分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、安定性や絶縁性の高さから、変圧器及びコンデンサー等の電気絶縁材、並びに熱媒体などとして広く使用されてきたが、人体や環境への有害性が確認されたことから製造や使用が禁止された。PCBは、難分解性で環境中に残留し、食物連鎖を通じて生物に蓄積され、人の健康や生態系に影響を及ぼす性質を有する残留性有機汚染物質の代表的な化学物質として規制されており、PCBを含む廃棄物は、適正に処理されるまで、生活環境の保全上支障のないように保管することが義務づけられている。
【0003】
しかし、適正処理が行われずに保管されていたPCB廃棄物は、保管の長期化により、紛失や漏洩の発生が問題視され、平成13年に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(PCB特措法)が施行された。このPCB特措法により、15年以内に全てのPCB廃棄物の適正処理が義務付けられた。
【0004】
例えば、絶縁油の場合、保管されている絶縁油以外にも、過去においてPCBを絶縁油として使用していた変圧器において置換された代替絶縁油も、前記変圧器内に微量に残留したPCBに汚染されていることが知られており、このような変圧器中代替絶縁油も含め、大量の廃棄物中のPCB濃度を検査し、迅速に処理の必要性の有無を明確にする必要がある。また、処理済みのPCB廃棄物に対し、処理後のPCB残留濃度、環境中のPCB濃度を検査することも極めて重要である。
【0005】
従来のPCB分析方法としては、例えば、公定法として、高分解能ガスクロマトグラフ−高分解能質量分析(以下、「HRGC−HRMS法」という)や、電子捕獲型検出器付きガスクロマトグラフ法(以下、「GC‐ECD法」という)が用いられている(非特許文献1参照)。これらの方法は、分析に要する時間が長く、分析の妨害となる夾雑成分を除去する試料の操作が煩雑であり、コスト負担が大きいという問題がある。また、一般に、複数の同族体や異性体が混合してなるPCBの濃度を、高い精度で、かつ再現性よく定量分析することは困難であった。特に、絶縁油中のPCBは、各同族体及び異性体の含有比率が一定していないため、これを補正する有効な手段がなく、正確な定量値を得ることが困難であるという問題がある。
【0006】
これに対し、短時間で簡便かつ安価な定量方法として、絶縁油を燃焼させ、燃焼により発生した塩化水素量からPCB量を算出する定量分析方法(例えば、特許文献1参照)や、予め求めてあるPCBの分解生成物濃度とPCB濃度との相関関係から、PCB濃度を演算する方法(例えば、特許文献2参照)等が提案されている。
しかしながら、前記特許文献1及び2の方法では、絶縁油中に含まれている有機塩素化合物もPCBとして定量されてしまうこと、塩素量を基にしたPCB濃度と実際のPCB濃度とが一致しにくいことなどの問題がある。
【0007】
このように、従来公知、公用の分析方法に基づく分析結果を利用可能であり、汎用性が高い分析方法であって、不特定かつ複数の同族体及び異性体の混合物からなるPCBを、再現性良く高精度に定量可能な分析方法は、未だ満足なものが提供されておらず、更なる改良が求められているのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開2005−24416号公報
【特許文献2】特開2002−267645号公報
【非特許文献1】「絶縁油中のポリ塩素化ビフェニル(PCB)の分析方法規定」(電気技術基準調査委員会編集、社団法人日本電気協会発行、平成3年9月30日発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、不特定かつ複数の組成物からなる被測定物質、特に、複数の同族体及び異性体の混合物からなるPCBを、再現性良く高精度に定量可能な分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> n種(ただし、nは2以上の自然数)の組成物からなる被測定物質を含む試料から、
前記被測定物質を分離する工程と、
前記被測定物質をクロマトグラフィーにより解析し、クロマトグラムを得る工程と、
得られた前記被測定物質のクロマトグラムのm個(ただし、mは2以上の自然数)のピークを抽出し、該m個のピークに基づくピーク要素からなるピークパターンPを特定し、該ピークパターンPと近似するように、予め求めた前記n種の各組成物が示すn種のピークパターンP、P、…Pを組合せて合成するピークパターン解析工程と、
前記ピークパターンP、P、…Pの組合せから、前記n種の各組成物の含有比率を求めて前記被測定物質の組成を解析する組成解析工程と、
を含むことを特徴とする被測定物質分析方法である。
<2> ピーク要素が、クロマトグラムから求めたピーク面積及びピーク高さのいずれかである前記<1>に記載の比測定物質分析方法である。
<3> n種の各組成物の含有比率から、被測定物質の総濃度を求める工程を含む前記<1>から<2>のいずれかに記載の被測定物質分析方法である。
【0011】
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の被測定物質分析方法により、
n種の同族体及び異性体の混合物からなるPCBを含む試料から、
前記PCBを分離し、
前記PCBをクロマトグラフィーにより解析し、クロマトグラムを得て、
得られた前記PCBのクロマトグラムの26個のピークを抽出し、該26個のピークに基づくピーク要素からなるピークパターンPを特定し、該ピークパターンPと近似するように、予め求めた前記n種の同族体及び異性体の混合物が示すn種のピークパターンP、P、…Pを組合せて合成し、
前記ピークパターンP、P、…Pの組合せから、前記n種のn種の同族体及び異性体の混合物の含有比率を求めて前記PCBの組成を解析することを含むことを特徴とするPCB分析方法である。
<5> n種の同族体及び異性体の混合物の含有比率から、試料中のPCBの総濃度を求める前記<4>に記載のPCB分析方法である。
<6> ピークパターンPを構成する少なくとも1つのピーク要素p(a)に対し、
n種の同族体及び異性体X、X、…XのピークパターンP、P、…Pの前記p(a)に相当するn種のピーク要素p(a)、p(a)、…p(a)によって、下記式(1)を満たす組合せとなるn種の係数x、x、…xを求め、
該係数x、x、…xを、前記n種の同族体及び異性体X、X、…Xの含有比率(質量%)として、前記PCBの組成を解析する前記<4>から<5>のいずれかに記載のPCB分析方法である。
【数2】

ただし、前記式(1)中、aは、1〜26の自然数を表し、nは、2以上の自然数をあらわす。
<7> n種の同族体及び異性体の混合物が、一塩素化物、二塩素化物、三塩素化物、四塩素化物、五塩素化物、六塩素化物、七塩素化物、八塩素化物、九塩素化物、及び十塩素化物から選択される1〜10種類のポリ塩化ビフェニル同族体からなる組成物である前記<4>から<6>のいずれかに記載のPCB分析方法である。
<8> クロマトグラフィーが、電子捕獲型ガスクロマトグラフィー(GC−ECD法)である前記<4>から<7>のいずれかに記載のPCB分析方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、不特定かつ複数の組成物からなる被測定物質、特に、複数の同族体及び異性体の混合物からなるPCBを、再現性良く高精度に定量可能な分析方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(被測定物質分析方法)
本発明の被測定物質分析方法は、n種(ただし、nは2以上の自然数)の組成物からなる被測定物質を含む試料中の前記被測定物質を分析する方法であって、(1)被測定物質分離工程と、(2)クロマトグラム取得工程と、(3)ピークパターン解析工程と、(4)組成解析工程と、を含み、必要に応じて適宜選択したその他の工程を含む。
【0014】
前記被測定物質分離工程(1)は、前記試料から、前記被測定物質を分離する工程である。
前記分離の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、固相カラム処理、バッチ処理、液液抽出、電気泳動、各種カラム処理(イオン交換、疎水、アフィニティー、サイズ除去、分配、吸着、塩析、逆相、超臨界)等が挙げられる。
【0015】
前記クロマトグラム取得工程(2)は、前記被測定物質をクロマトグラフィーにより解析し、クロマトグラムを得る工程である。
前記クロマトグラフィーとしては、前記クロマトグラムが得られる限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、薄相クロマトグラフィー、電気泳動、免疫クロマトグラフィー、質量分析、電子スピン、X線等が挙げられる。
【0016】
前記ピークパターン解析工程(3)は、前記クロマトグラム取得工程(2)で得たクロマトグラムのm個(ただし、mは2以上の自然数)のピークを抽出し、該m個のピークに基づくピーク要素からなるピークパターンPを特定し、該ピークパターンPと近似するように、予め求めた前記n種の各組成物が示すn種のピークパターンP、P、…Pを組合せて合成する工程である。
【0017】
前記ピーク要素としては、リテンションタイムによって規定されるピークごとに求めたピーク面積及びピーク高さの少なくともいずれかであることが好ましく、また、ピーク面積とピーク高さとの組合せであってもよい。
前記ピーク要素が、前記ピーク面積である場合、前記ピークパターンとしては、前記ピーク面積の比からなるものであれば、特に制限はなく、前記ピークの面積の比は、例えば、チャートやグラフ等で表したものであってもよく、数値や数式であってもよい。
また、前記ピーク要素が、前記ピーク高さである場合、前記ピークパターンとしては、前記ピーク高さの比からなるものであれば、特に制限はなく、前記ピークの高さの比は、例えば、チャートやグラフ等で表したものであってもよく、数値や数式であってもよい。あるいは、ピーク面積と高さの組み合わせであっても良い。
【0018】
前記組成解析工程(4)は、前記ピークパターン解析工程(3)で特定した前記ピークパターンP、P、…Pの組合せ、具体的には組合せにおける比率から、前記n種の各組成物の含有比率を求めて前記被測定物質の組成を解析する工程である。
【0019】
本発明の被測定物質分析方法は、前記組成解析工程(4)で求めたn種の各組成物の含有比率から、被測定物質の総濃度を求める工程を含むことが好ましい。
前記被測定物質の総濃度は、前記各組成物の含有比率に基づき求めた各組成物の絶対濃度の総和から求めることができる。
【0020】
前記被測定物質としては、n種の組成物からなる物質であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、PCB、ダイオキシン、重金属、ホルモン様物質、農薬、食品添加物、薬品、環境、アレルギー物質、揮発性有機化合物、アスベスト等が挙げられる。
本発明の被測定物質分析方法における前記被測定物質としては、n種の同族体及び異性体の混合物からなる物質であることが好ましく、特に、PCBが好ましい。
以下、本発明のPCB分析方法の説明を通じて、本発明の被測定物質分析方法を明らかにする。
【0021】
<PCB分析方法>
前記PCB分析方法は、前記被測定物質分析方法により、n種(ただし、nは2以上の自然数)の複数同族体混合物からなるPCBを含む試料中の該PCBを分析する方法であって、(1)PCB分離工程と、(2)クロマトグラム取得工程と、(3)ピークパターン解析工程と、(4)組成解析工程と、を含み、必要に応じて適宜選択したその他の工程からなる。
【0022】
(1)PCB分離工程
前記PCB分離工程は、前記試料からPCBを分離する工程である。
前記分離の方法としては、特に制限なく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記試料中のPCBを有機溶媒で液液抽出する方法、及び前記試料中のPCBを有機溶媒で液液抽出し、抽出された前記PCBを含む前記有機溶媒を吸着剤で固相抽出し、前記吸着剤に吸着した成分を所望の溶媒に転溶させる方法などが挙げられる。
【0023】
前記有機溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アセトン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、石油エーテル、ヘキサン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられ、これらの中でも、アセトンが好ましい。
【0024】
前記試料としては、少なくともPCBを含む可能性がある物質(PCB汚染物)であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、絶縁油、絶縁油以外の油(例えば、潤滑油、植物油、動物油、合成油、鉱物油等)、工場排水、土壌、排ガス、動物の血液や体液、絶縁油の付着した部材等の廃棄物(変圧器、コンデンサー、リアクトル)などが挙げられる。これらの中でも、絶縁油が好適に挙げられる。
前記絶縁油としては、脱塩素化処理等のPCB分解処理を行った後の絶縁油も好適に挙げられる。
【0025】
(2)クロマトグラム取得工程
前記クロマトグラム取得工程は、前記試料から分離したPCBをクロマトグラフィーにより解析し、クロマトグラムを得る工程であり、前記クロマトグラフィーとしては、例えば、ガスクロマトグラフィーが好ましい。
【0026】
また、前記クロマトグラムを得るための分析装置としては、特に制限はなく、例えば、GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析装置)、GC−ECD(電子捕獲型ガスクロマトグラフィー装置)、GC/EIMS(電子衝撃イオン化型質量分析装置)、GC/CIMS(化学イオン化型質量分析装置)、GC/NCIMS(負化学イオン化型質量分析装置)、GC/MS/MS(タンデム質量分析装置)、GC/HRMS(高分解能質量分析装置)等が挙げられる。
【0027】
前記クロマトグラフは、一般的に、クロマトグラフィーにおいて用いられるカラム、キャピラリー、キャリアーガス組成、流速、温度等の条件が一定であれば、解析が再現性よく行われるため、同一の解析対象物質についてピークの出現時間やピーク幅の変化が小さいものが得られる。
【0028】
(3)ピークパターン解析工程
前記ピークパターン解析工程は、得られた前記PCBのクロマトグラムの26個のピークを抽出し、該26個のピークに基づくピーク要素からなるピークパターンPを特定し、該ピークパターンPと近似するように、予め求めた前記n種の同族体及び異性体の混合物が示すn種のピークパターンP、P、…Pを組合せて合成する工程である。
前記PCB(カネクロールKC−300、KC−400、KC−500、KC−600の等量混合物、総濃度0.5mg/Kg)をGC−ECD法により解析して得たクロマトグラムの一例を図1に示す。
【0029】
図1に示すとおり、クロマトグラム中に26個のピークがみられる。各ピークについて、例えば、バックグラウンドとしてPCBを含まない絶縁油を測定して得たクロマトグラムとを重ね、その差を積分して定量することにより、各ピークの面積を規定することができ、ピークの検出値を読み取ることにより、各ピークの高さを規定することができる。
【0030】
得られた前記ピークパターンPは、例えば、前記26個のピークごとに求めた面積比、及び高さ比の少なくともいずれかからなるものであれば、特に制限はなく、例えば、チャートやグラフ等で前記26個のピークの面積比を表したもの(例えば、図2に示すグラフ)であってもよく、数値や数式で示したもの(例えば、下記表1に示す数値)であってもよく、その他の表現方法により示されたものであってもよい。
【0031】
【表1】

【0032】
得られた前記ピークパターンPについて、該ピークパターンと近似するように、前記n種の同族体及び異性体の混合物が示すn種のピークパターンP、P、…Pの組合せを特定する。
前記n種の同族体及び異性体の混合物が示すn種のピークパターンP、P、…Pは、予め求められたものが好ましい。
【0033】
前記組合せを特定する方法としては、例えば、ピークパターンPを構成する少なくとも1つの要素p(a)に対し、
n種の同族体及び異性体の混合物X、X、…XのピークパターンP、P、…Pの前記p(a)に相当するn種のピークp(a)、p(a)、…p(a)によって、下記式(1)を満たす組合せとなるn種の係数x、x、…xを求めることにより行われる。
【0034】
【数3】

ただし、前記式(1)中、aは、1〜26の自然数を表し、nは、2以上の自然数をあらわす。
【0035】
なお、前記ピークパターンPを構成する少なくとも1つの要素p(a)と、n種のピークp(a)、p(a)、…p(a)は、例えば、ピークの出現順等に基づき抽出することができる。
また、前記ピークパターンは、複数の要素について組合せ(例えば、p(b)に相当するn種のピークp(b)、p(b)、…p(b)の組合せ、p(c)に相当するn種のピークp(c)、p(c)、…p(c)の組合せ)を求め、各要素間の誤差を最小となる係数x、x、…xを求めることが好ましい。
【0036】
前記式(1)を満たすn種の係数x、x、…xを求める方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、数値等により表されたピークパターンから演算により求める方法、グラフ等で表されたピークパターンから画像解析により求める方法、クロマトグラムに接続した計算機により演算する方法等が挙げられる。
【0037】
前記演算による方法としては、例えば、計算機のプログラムを用いたシミュレーションにより行う方法などが挙げられる。
【0038】
前記画像解析による方法としては、例えば、画像を数値化し、その数値に基づいて計算機のプログラムを用いたシミュレーションにより演算を行う方法などが挙げられる。画像は、形状で表されたものであってもよく、色彩や濃淡で表されたものであってもよい。
【0039】
なお、前記演算による方法及び前記画像解析による方法は、プログラムにより計算機で実行されるものであってもよく、該プログラムが記録された媒体を用いて計算機で行われるものであってもよい。
【0040】
ここで、前記n種の同族体及び異性体の混合物としては、一塩素化物、二塩素化物、三塩素化物、四塩素化物、五塩素化物、六塩素化物、七塩素化物、八塩素化物、九塩素化物、及び十塩素化物から選択される1〜10種類のポリ塩化ビフェニル同族体を混合してなる組成物であることが好ましく、例えば、カネクロール(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600、KC−1000)や、アルクロール等が挙げられる。
【0041】
前記カネクロール(KC−300、KC−400、KC−500、KC−600、KC−1000)は、それぞれ下記表2に示す比率で異なる塩素数のPCBを含有しているため、例えば、これらの含有比率の数値や、該数値をグラフ化したパターン等を組合せることにより、前記ピークパターンPを解析することができる。
【0042】
【表2】

(出典:高菅卓三ら、「各種クリーンアップ法とHRGC/HRMSを用いたポリ塩化ビフェニル(PCBs)の全異性体詳細分析方法」,環境化学,Vol.5,No.3,pp.647−675,1995)
【0043】
(4)組成解析工程
前記組成解析工程(4)は、前記ピークパターンP、P、…Pの組合せから、前記n種の同族体及び異性体の混合物の含有比率を求めて前記PCBの組成を解析する工程である。
具体的には、前記式(1)で求めた前記係数x、x、…xを、前記n種の同族体及び異性体X、X、…Xの含有比率(質量%)として、前記PCBの組成を規定することができ、該含有比率の合計から、PCB総量を求めることができる。
【0044】
前記n種の同族体及び異性体X、X、…Xが、例えば、前記カネクロールのような既知の組成及び濃度の物質である場合には、得られた係数x、x、…xから、各塩素数の同族体ごとの濃度や、異性体ごとの濃度や、カネクロールの種類ごとの濃度も算出することができる。
算出された同族体ごと、異性体ごと、カネクロールの種類ごとの濃度をそれぞれ合計することにより、試料中のPCBの総濃度を求めることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
カネクロールKC−300、KC−400、KC−500、及びKC−600をそれぞれ等濃度で混合し、総濃度として0.5mg/Kg含む試料を調製し、これをGC−ECD法により解析し、図3に示すクロマトグラムを得た。また、カネクロールKC−300、KC−400、KC−500、及びKC−600をそれぞれ0.5mg/Kgずつ含む試料を調製・測定し、予め得た各カネクロールのクロマトグラムを図4〜7に示す。
【0047】
図3のクロマトグラムから、26個のピークを抽出し、該ピークに基づくピーク要素(ピーク高さ)からなるピークパターンを規定した。該ピークパターンをグラフで示したものを図2に示す。なお、図4〜7のクロマトグラムから規定した各ピークパターンをグラフで示したものを図8〜11に示す。
【0048】
図3のクロマトグラムから抽出し、規定したピークパターンが、図4〜7の各カネクロールのピークパターンの組み合わせとなるように演算を行った。各カネクロールの濃度を計算した結果を下記表3及び表4に示す。また、各カネクロールと、それらの混合物を含む試料の実測のピークパターンと計算したピークパターンを図12〜16に示す。
【0049】
【表3】

表3中、参考例は、後述のJIS K0093(用水・排水中のポリクロロビフェニル(PCB)の試験方法)に基づいて解析した値である。
【0050】
【表4】

【0051】
(参考例)
JIS K0093(用水・排水中のポリクロロビフェニル(PCB)の試験方法)に基づいてカネクロール混合物を検量線として、各カネクロールを定量した。具体的には、カネクロールKC−300、KC−400、KC−500、及びKC−600をそれぞれ等濃度で混合し、総濃度として0.5mg/Kg含む試料を調製し、これをGC−ECD法により解析し、クロマトグラムを得た。このクロマトグラム上のピーク1から26番に番号を付け、全ピーク高さの積算から、各ピークの割合を求めた。次にカネクロールKC−300、KC−400、KC−500、及びKC−600をそれぞれ0.5mg/Kgずつ含む試料を調製し、GC−ECD法にて測定した。この4種のクロマトグラムをもとに、検量線から定量値を求めた。具体的には、表5に例を示す。KC−600を含む試料を例にすると、まずクロマトグラム上のピーク1から26番までの高さを求めた。この後、検量線におけるピーク高さとKC−600におけるピーク高さから、カネクロール混合物としての換算値を算出した。算出方法は、それぞれのピーク番号について、KC−600におけるピークの割合=(KC−600のピーク高さ/カネクロール混合物のピーク高さ)×カネクロール混合物におけるピーク割合とした。求めたKC−600におけるピークの割合の積算値は、カネクロール混合物の存在比の積算値と同意であるので、0.5mg/kg×(KC−600の積算値/カネクロール混合物の積算値)×(希釈倍率や試料量などその他の因子)から、KC−600として実濃度0.5mg/kgの試料は、カネクロール混合物の換算値として総PCB濃度0.37mg/kgと定量された。
【0052】
【表5】

【0053】
表3及び表4、図12〜16の結果から、本発明のPCB分析方法により、未知濃度の絶縁油中のPCBを定量する際に、そのカネクロール組成を精密に分析することができ、その結果総濃度を正確に解析できることがわかった。
【0054】
(実施例2)
カネクロールKC−300、KC−400、KC−500、及びKC−600をそれぞれ0.5mg/Kgずつ含む試料を調製し、GC−ECD法にて測定した。この4種のクロマトグラムから、それぞれピーク1から26番の高さを求めた。この後、PCB濃度不明の実試料を調製し、GC−ECD法にて測定し、各ピークの高さを求めた。実試料のピーク1から26番の高さのパターンが、予め測定した前記のカネクロールKC−300、KC−400、KC−500、及びKC−600のピークパターンの組み合わせとして一致するように、上記と同様に計算機にて解析し、実試料における各カネクロールの組成比と、PCB濃度値を求めた。
同時に前記参考例と同様にしてJIS K0093法で前記試料中のPCB濃度値を算出した。このようにして本発明の方法及びJIS K0093法により得られたそれぞれのPCB濃度値と、特別管理一般廃棄物及び特定管理産業廃棄物に係る基準の検定方法別表第二(平成4年厚告192号、平成15年環告14号改正)により測定した質量分析値との相関を図17に示す。
また、図17図において、前記質量分析値と前記JIS K0093法の分析値、前記質量分析値と本発明の方法による分析値との絶対誤差を図18に示す。
【0055】
図17及び図18の結果から、本発明のPCB分析方法は、JIS法よりも高精度にPCBの濃度を分析可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のPCB分析方法は、公知の方法により得たクロマトグラムを利用した汎用性の高い分析方法であって、不特定かつ複数の同族体及び異性体の混合物からなるPCBを、再現性良く高精度に定量可能であるため、大量の廃棄物中のPCB濃度、処理済みのPCB廃棄物の残留濃度を定量分析する方法、環境中のPCB濃度を定量分析する方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、PCBのクロマトグラムの一例である。
【図2】図2は、ピークパターンの一例を示すグラフである。
【図3】図3は、KC−300、KC−400、KC−500、及びKC−600をそれぞれ等量含む試料を分析して得たクロマトグラムの一例である。
【図4】図4は、カネクロール(KC−300)のクロマトグラムの一例である。
【図5】図5は、カネクロール(KC−400)のクロマトグラムの一例である。
【図6】図6は、カネクロール(KC−500)のクロマトグラムの一例である。
【図7】図7は、カネクロール(KC−600)のクロマトグラムの一例である。
【図8】図8は、図3に基づくカネクロール(KC−300)のピークパターンの一例である。
【図9】図9は、図4に基づくカネクロール(KC−400)のピークパターンの一例である。
【図10】図10は、図5に基づくカネクロール(KC−500)のピークパターンの一例である。
【図11】図11は、図6に基づくカネクロール(KC−600)のピークパターンの一例である。
【図12】図12は、実施例1のカネクロール(KC−300)の試料実測値と計算値のピークパターンを示すグラフである。
【図13】図13は、実施例1のカネクロール(KC−400)の試料実測値と計算値のピークパターンを示すグラフである。
【図14】図14は、実施例1のカネクロール(KC−500)の試料実測値と計算値のピークパターンを示すグラフである。
【図15】図15は、実施例1のカネクロール(KC−600)の試料実測値と計算値のピークパターンを示すグラフである。
【図16】図16は、実施例1のカネクロール混合物の試料実測値と計算値のピークパターンを示すグラフである。
【図17】図17は、実施例2の結果を示すグラフである。
【図18】図18は、実施例2で求めた濃度と、質量分析値との誤差を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
n種(ただし、nは2以上の自然数)の組成物からなる被測定物質を含む試料から、
前記被測定物質を分離する工程と、
前記被測定物質をクロマトグラフィーにより解析し、クロマトグラムを得る工程と、
得られた前記被測定物質のクロマトグラムのm個(ただし、mは2以上の自然数)のピークを抽出し、該m個のピークに基づくピーク要素からなるピークパターンPを特定し、該ピークパターンPと近似するように、予め求めた前記n種の各組成物が示すn種のピークパターンP、P、…Pを組合せて合成するピークパターン解析工程と、
前記ピークパターンP、P、…Pの組合せから、前記n種の各組成物の含有比率を求めて前記被測定物質の組成を解析する組成解析工程と、
を含むことを特徴とする被測定物質分析方法。
【請求項2】
ピーク要素が、クロマトグラムから求めたピーク面積及びピーク高さのいずれかである請求項1に記載の比測定物質分析方法。
【請求項3】
n種の各組成物の含有比率から、被測定物質の総濃度を求める工程を含む請求項1から2のいずれかに記載の被測定物質分析方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の被測定物質分析方法により、
n種の同族体及び異性体の混合物からなるPCBを含む試料から、
前記PCBを分離し、
前記PCBをクロマトグラフィーにより解析し、クロマトグラムを得て、
得られた前記PCBのクロマトグラムの26個のピークを抽出し、該26個のピークに基づくピーク要素からなるピークパターンPを特定し、該ピークパターンPと近似するように、予め求めた前記n種の同族体及び異性体の混合物が示すn種のピークパターンP、P、…Pを組合せて合成し、
前記ピークパターンP、P、…Pの組合せから、前記n種のn種の同族体及び異性体の混合物の含有比率を求めて前記PCBの組成を解析することを含むことを特徴とするPCB分析方法。
【請求項5】
n種の同族体及び異性体の混合物の含有比率から、試料中のPCBの総濃度を求める請求項4に記載のPCB分析方法。
【請求項6】
ピークパターンPを構成する少なくとも1つのピーク要素p(a)に対し、
n種の同族体及び異性体X、X、…XのピークパターンP、P、…Pの前記p(a)に相当するn種のピーク要素p(a)、p(a)、…p(a)によって、下記式(1)を満たす組合せとなるn種の係数x、x、…xを求め、
該係数x、x、…xを、前記n種の同族体及び異性体X、X、…Xの含有比率(質量%)として、前記PCBの組成を解析する請求項4から5のいずれかに記載のPCB分析方法。
【数1】

ただし、前記式(1)中、aは、1〜26の自然数を表し、nは、2以上の自然数をあらわす。
【請求項7】
n種の同族体及び異性体の混合物が、一塩素化物、二塩素化物、三塩素化物、四塩素化物、五塩素化物、六塩素化物、七塩素化物、八塩素化物、九塩素化物、及び十塩素化物から選択される1〜10種類のポリ塩化ビフェニル同族体からなる組成物である請求項4から6のいずれかに記載のPCB分析方法。
【請求項8】
クロマトグラフィーが、電子捕獲型ガスクロマトグラフィー(GC−ECD法)である請求項4から7のいずれかに記載のPCB分析方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図1】
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【図2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−183151(P2007−183151A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1202(P2006−1202)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】